【文献】
CHAPMAN MICHAEL P,FIBRINOLYSIS GREATER THAN 3% IS THE CRITICAL VALUE FOR INITIATION OF ANTIFIBRINOLYTIC THERAPY,JOURNAL OF TRAUMA AND ACUTE CARE SURGERY,2013年12月,V75 N6,P1-16(P961-967),URL,http://dx.doi.org/10.1097/TA.0b013e3182aa9c9f
【文献】
David W et al.,TEG and ROTEM: Technology and clinical applications,American journal of hematology,2014年 2月,Vol.89,No.2,PP.228-232
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
血栓溶解剤はヒト一本鎖組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)、ヒト二本鎖tPA、非ヒト哺乳動物種由来のtPA、アルテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼ、アニストレプラーゼ、セロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、またはカリクレインである、請求項1に記載の方法。
血塊を強めるまたは血塊の溶解を遅らせる治療剤は、抗線維素溶解剤、全血、血漿、寒冷沈降物、第XIII因子、フィブリノゲン、および他の特異的凝固因子濃縮物からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
血塊を弱めるまたは血塊の溶解を速める治療薬は、アスピリン、ヘパリン、クロピドグレル、ワルファリン、直接トロンビン阻害剤、第Xa因子阻害剤、tPA、抗凝固剤、血栓溶解剤、抗フィブリノゲン剤、抗第XIII因子剤、糖タンパク質IIb/IIIa阻害剤、および抗血小板剤からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本特許または出願ファイルには、少なくとも1つの色で描画された図面が含まれる。カラー図面を有する本特許の写しは、請求と必要な手数料の支払いにより特許商標庁から提供される。
【0022】
添付の図面を参照して以下の詳細な説明を参照することにより、前述の実施形態の特徴がより容易に理解されるであろう。
【0023】
【
図1】
図1Aおよび
図1Bは、架橋線維素からなる線維素凝塊の形成(
図1A)および線維素溶解における凝塊の分解(
図1B)を最終的に導く凝固カスケードを示す概略図である。tPAによるプラスミノゲンの活性化は、線維素を線維素分解産物に分解するプラスミンを産生する。
【
図2】
図1Aおよび
図1Bは、架橋線維素からなる線維素凝塊の形成(
図1A)および線維素溶解における凝塊の分解(
図1B)を最終的に導く凝固カスケードを示す概略図である。tPAによるプラスミノゲンの活性化は、線維素を線維素分解産物に分解するプラスミンを産生する。
【0024】
【
図3】
図2は、外傷誘発高線維素溶解症患者(左のバー)、肢虚血患者(中央のバー)および健康な個体(右のバー)における組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)(黒色)、プラスミノゲン活性化因子阻害剤1(PAI-1)(淡灰色)、ならびにtPAおよびPAI-1の複合体(濃灰色)の濃度を示す棒グラフである。
【0025】
【
図4】
図3は、線維素溶解停止(左のバー、この図では、LY30が0.8%未満)、線維素溶解の生理学的正常レベル(中間のバー、この図では、LY30が0.9から2.9%の間)、および高線維素溶解(右のバー、この図では、LY30が3%を超える)の患者であって、損傷後28日以内の全ての原因からの死亡率を示す棒グラフである。
【0026】
【
図5】
図4は、正常な止血を有する、すなわち、線維素溶解の正常量で高線維素溶解のないサンプルからのトロンボエラストグラフィ(「TEG」)アッセイのトレースを示す概略図である。R(反応時間)は、線維素ストランドポリマーの形成時間、K(凝塊動態、分で測定)、およびMA(最大振幅、mmで測定)は、凝塊の強度である。LY30は、MA後30分の溶解率である。
【0027】
【
図6】
図5は、健康な個体からの血液サンプルのTEGトレースであり、ここで血液サンプルは、血塊を強めるまたは血塊の溶解を遅らせる治療剤、血塊を弱めるまたは血塊の溶解を速める治療剤のいずれでも処理されていない。
【0028】
【
図7】
図6Aおよび
図6Bは、2つの典型的なTEMogramトレースを示す概略図である。
図6Aおよび
図6Bにおいて、CTは凝固時間を示し、CFTは凝塊形成時間を示し、アルファはアルファ角であり、ラムダ角は溶解速度であり、MCFは最大凝塊堅さであり、LI130はCT後30分の溶解指数であり、MLは最大溶解である。
【
図8】
図6Aおよび
図6Bは、2つの典型的なTEMogramトレースを示す概略図である。
図6Aおよび
図6Bにおいて、CTは凝固時間を示し、CFTは凝塊形成時間を示し、アルファはアルファ角であり、ラムダ角は溶解速度であり、MCFは最大凝塊堅さであり、LI130はCT後30分の溶解指数であり、MLは最大溶解である。
【0029】
【
図9】
図7は、75ng/mlのtPAの存在下での粘弾性分析によって得られた外傷患者(黒色バー)および健康な個体(灰色バー)のLY30凝固特性値の比較を示す棒グラフである。
【0030】
【
図10】
図8は、150ng/mlのtPAの存在下での粘弾性分析によって得られた外傷患者(黒色バー)および健康な個体(灰色バー)のLY30凝固特性値の比較を示す棒グラフである。
【0031】
【
図11】
図9Aおよび
図9Bは、2名の健康な個体、すなわち患者15(
図9A)および患者33(
図9B)からのTEGトレースである。
図9A−
図9Bにおける白線は、ネイティブTEG(クエン酸塩添加全血)であり、緑色線は全血+ 75ng/mLのtPAであり、桃色線は全血+ 150ng/mLのtPAである。
図9Aのトレースの下に示されるパラメータの値(例えば、R、K、MA、LY30など)は、健康なボランティア患者15からの全血試料+75ng/mLのtPAからの値である。
【
図12】
図9Aおよび
図9Bは、2名の健康な個体、すなわち患者15(
図9A)および患者33(
図9B)からのTEGトレースである。
図9A−
図9Bにおける白線は、ネイティブTEG(クエン酸塩添加全血)であり、緑色線は全血+ 75ng/mLのtPAであり、桃色線は全血+ 150ng/mLのtPAである。
図9Bのトレースの下に示されるパラメータの値(例えば、R、K、MA、LY30など)は、健康なボランティア患者33からの全血サンプル+75ng/mLのtPAからの値である。
【0032】
【
図13】
図10Aおよび
図10Bは、線維素溶解停止を有する2名の患者、すなわち患者22(
図10A)および患者38(
図10B)からのTEGトレースである。
図10A−
図10B中の白線は、ネイティブTEG(クエン酸塩添加全血)であり、緑色線は全血+ 75ng/mLのtPAであり、桃色線は全血+ 150ng/mLのtPAである。
図10Aのトレースの下に示されるパラメータの値(例えば、R、K、MA、LY30など)は、健康なボランティア患者22からの全血サンプル+150ng/mlのtPAからの値である。
【
図14】
図10Aおよび
図10Bは、線維素溶解停止を有する2名の患者、すなわち患者22(
図10A)および患者38(
図10B)からのTEGトレースである。
図10A−
図10B中の白線は、ネイティブTEG(クエン酸塩添加全血)であり、緑色線は全血+ 75ng/mLのtPAであり、桃色線は全血+ 150ng/mLのtPAである。
図10Bのトレースの下に示されるパラメータの値(例えば、R、K、MA、LY30など)は、健常ボランティア患者38からの全血サンプル+150ng/mlのtPAからの値である。
【0033】
【
図15】
図11Aおよび
図11Bは、潜在性高線維素溶解を有する2名の患者、すなわち患者3(
図11A)および患者24(
図11B)からのTEGトレースである。
図11A−
図11B中の白線は、ネイティブTEG(クエン酸塩添加全血)であり、緑色線は全血+ 75ng/mLのtPAであり、桃色線は全血+ 150ng/mLのtPAである。
図11Aのトレースの下に示されるパラメータの値(例えば、R、K、MA、LY30など)は、患者3からの全血サンプル+ 75ng/ mLのtPAからの値である。
【
図16】
図11Aおよび
図11Bは、潜在性高線維素溶解を有する2名の患者、すなわち患者3(
図11A)および患者24(
図11B)からのTEGトレースである。
図11A−
図11B中の白線は、ネイティブTEG(クエン酸塩添加全血)であり、緑色線は全血+ 75ng/mLのtPAであり、桃色線は全血+ 150ng/mLのtPAである。
図11Bのトレースの下に示されるパラメータの値(例えば、R、K、MA、LY30など)は、患者24からの全血サンプル+ 75ng/mLのtPAからの値である。
【0034】
【
図17】
図12Aおよび
図12Bは、典型的(または顕在的)な高線維素溶解を有する2名の患者、すなわち患者4(
図12A)および患者36(
図12B)からのTEGトレースである。
図12A−
図12B中の白線は、ネイティブTEG(クエン酸塩添加全血)であり、緑色線は全血+75ng/mLのtPAであり、桃色線は全血+150ng/mLのtPAである。
図12Aのトレースの下に示されるパラメータの値(例えば、R、K、MA、LY30など)は、患者4からの全血サンプル+ 75ng/mLのtPAからの値である。
【
図18】
図12Aおよび
図12Bは、典型的(または顕在的)な高線維素溶解を有する2名の患者、すなわち患者4(
図12A)および患者36(
図12B)からのTEGトレースである。
図12A−
図12B中の白線は、ネイティブTEG(クエン酸塩添加全血)であり、緑色線は全血+75ng/mLのtPAであり、桃色線は全血+150ng/mLのtPAである。
図12Bのトレースの下に示されるパラメータの値(例えば、R、K、MA、LY30など)は、患者36からの全血サンプル+ 75ng/mLのtPAからの値である。
【0035】
【
図19】
図13Aおよび13Bは、健康なボランティアから採取した血液サンプル中のLY30値の頻度を示す棒グラフであり、75ng/mlのtPA(
図13A)または150ng/mlのtPA(
図13B)の存在下でサンプルを分析した。
図13Aに示すように、低用量(例えば、75ng/ml)のtPAの存在下で、ほとんどの健康なボランティアの血液サンプルは、LY30値が5または10であった。
図13Bに示すように、高用量(例えば、150ng/ml)のtPAの存在下で、ほとんどの健康なボランティアの血液サンプルは、50から70の間のLY30値を有していた。
【0036】
【
図20】
図14は、全身性線維溶解の高い死亡率を示す棒グラフである。
【0037】
【0038】
【
図22】
図16−18は、tPAとPAI-1との相互作用、およびPAI-1がtPAのコグネイト阻害剤としての役割を果たすことを示す概略図である。
【
図23】
図16−18は、tPAとPAI-1との相互作用、およびPAI-1がtPAのコグネイト阻害剤としての役割を果たすことを示す概略図である。
【
図24】
図16−18は、tPAとPAI-1との相互作用、およびPAI-1がtPAのコグネイト阻害剤としての役割を果たすことを示す概略図である。
【0039】
【
図25】
図19は、tPAおよびPAI-1が、どのように相互に阻害的であり、不活性で肝臓により除去される共有結合複合体と平衡状態でどのように存在するかを示す概略図である。
【0040】
【
図26】
図20−25は、活性化タンパク質C(aPC)が第V因子および第VIII因子の分解による外傷誘発凝固障害(TIC)の駆動因子であることを示す一連の概略図である。
【
図27】
図20−25は、活性化タンパク質C(aPC)が第V因子および第VIII因子の分解による外傷誘発凝固障害(TIC)の駆動因子であることを示す一連の概略図である。
【
図28】
図20−25は、活性化タンパク質C(aPC)が第V因子および第VIII因子の分解による外傷誘発凝固障害(TIC)の駆動因子であることを示す一連の概略図である。
【
図29】
図20−25は、活性化タンパク質C(aPC)が第V因子および第VIII因子の分解による外傷誘発凝固障害(TIC)の駆動因子であることを示す一連の概略図である。
【
図30】
図20−25は、活性化タンパク質C(aPC)が第V因子および第VIII因子の分解による外傷誘発凝固障害(TIC)の駆動因子であることを示す一連の概略図である。
【
図31】
図20−25は、活性化タンパク質C(aPC)が第V因子および第VIII因子の分解による外傷誘発凝固障害(TIC)の駆動因子であることを示す一連の概略図である。
【0041】
【
図32】
図26は、外傷誘発凝固障害(TIC)の3つの主要な成分を示すチャートである。
【0042】
【
図33】
図27は、トロンボエラストグラフィ(TEG)アッセイの機構的作用を示す図である。
【0043】
【0044】
【
図34】
図29は、
図28の典型的なTEG曲線にアルファ角度とLY30のメトリックが表示されたものである。
【0045】
【
図35】
図30は、健康なボランティアと比較した高線維素溶解患者のLY30値を示すグラフである。
【0046】
【
図36】
図31は、健康なボランティアおよび高線維素溶解を有する患者における総血漿PAI-1(活性+複合体化、左パネル)および総血漿tPA(活性+複合体化、右パネル)の濃度を示すグラフである。
【0047】
【
図37】
図32は、健康なボランティアおよび高線維素溶解を有する患者における活性PAI-1(左パネル)および活性tPA(右パネル)の濃度を示すグラフである。
【0048】
【
図38】
図33は、健康なボランティア(左)と高線維素溶解を有する患者(右)のPAI-1 / tPAバランスの変化を示す棒グラフである。
【0049】
【
図40】
図34は、健常対照(左)および高線維素溶解を有する患者(右)における低用量tPA TEGアッセイのLY30値の結果を示すグラフである。図から分かるように、LY30値は、低線量tPAの存在下での粘弾性アッセイにて、高線維素溶解を有する患者において増加する。
【0050】
【
図41】
図35−
図37は、止血における凝固および線維素溶解の相関系および平衡系を示す一連の概略図である。
【
図42】
図35−
図37は、止血における凝固および線維素溶解の相関系および平衡系を示す一連の概略図である。
【
図43】
図35−
図37は、止血における凝固および線維素溶解の相関系および平衡系を示す一連の概略図である。
【0051】
【
図44】
図38は、外傷患者の線維素溶解の範囲を示す棒グラフである。この
図38のデータは、上記の
図3に示したものと同じであることに留意されたい。重傷を負った外傷患者の60%以上が線維素溶解停止を示し、一方で20%未満が線維素溶解を示す。
【0052】
【
図45】
図39は、線維素溶解停止患者における抗線維素溶解剤(例えば、TXA)の疑問のある使用を示す
図38のグラフである。
【0053】
【
図46】
図40は、
図9Bの健康なボランティア患者33からのTEGトレースのイメージであり、未処理の血液(
図40の「ネイティブ」と表示されたライン)、低用量tPAで処理された血液(
図40の「低用量tPA」と表示されたライン)または高用量tPAで処理された血液(
図40の「高用量tPA」と表示されたライン)のラインが付されている。
【0054】
【
図47】
図41は、健常対照および線維素溶解停止を有する患者における高用量tPA TEGアッセイのLY30値の結果を示すグラフである。図から分かるように、LY30値は、高用量tPAの存在下での粘弾性アッセイにて、線維素溶解停止を有する患者において減少する。
【0055】
【
図48】
図42は、健常対照および線維素溶解停止を有する患者の活性PAI-1活性度を示すグラフである。
【0056】
【
図49】
図43は、健康なボランティア、線維素溶解停止を有する患者および高線維素溶解を有する患者における、活性PAI-1(青色)、活性tPA(赤色)および相互不活性化tPA/PAI-1複合体(紫色)の相対レベルを示す棒グラフである。
【0057】
【
図50】
図44は、健康なボランティア(緑色の菱形)および外傷患者(紫色の正方形)における高用量のtPAでのLY30値に応じた活性PAI-1レベルをプロットした散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本発明は、潜在性高線維素溶解および線維素溶解停止が存在し、これらの2つの疾患状態が検出され得るという発見に部分的に由来する。したがって、いくつかの実施態様において、本発明は、潜在性高線維素溶解および/または線維素溶解停止を検出するための方法および試薬(例えば、カップ)を提供する。本明細書で言及される刊行物(特許公報を含む)、ウェブサイト、会社名、および科学文献は、当業者に利用可能な知識を確立するものであり、それぞれが具体的かつ個々に参照により本明細書に援用されることが示されているのと同程度に、それらの全体が本明細書に組み込まれる。本明細書に引用された参考文献と本明細書の特定の教示との間の矛盾はいずれも、後者を優先して解されるものとする。
【0059】
止血は、凝固および線維素溶解タンパク質、アクチベーター、インヒビター、ならびに細胞要素、例えば、血小板細胞骨格、血小板細胞質顆粒および血小板細胞表面などを含む、多くの相互作用因子が関与する、個体(例えば、ヒト個体)の身体における出血を制御する厳密に制御された極めて複雑なプロセスである。止血は、(1)凝固プロセス、すなわち線維素含有血塊の形成による血液凝固、ならびに(2)線維素溶解プロセス、すなわち、例えば当該血塊をまとめている線維素メッシュを溶解させるプラスミンの活性化により、当該血塊の分解に関与するプロセス、の2つのプロセス間のバランスを含む。
【0060】
身体において、循環血液は正常な状態では液体のままであるが、脈管系の保全が損なわれた場合に局所性の血塊を形成する。外傷、感染、および炎症はすべて血液の凝固システムを活性化させ、これは凝固カスケード(例えば、第VII因子または第IX因子などの凝固因子)、活性化血小板、および損傷血管内皮における酵素タンパク質の相互作用に依存する。これらの3つの要素は、壊れた血管の欠陥を塞ぐために協力して作用する。
【0061】
止血中に血塊(血栓とも称される)が形成される(
図1A参照)。血塊は、循環する血液または機械的運動による遊離に抵抗するのに十分な強度である必要がある。血友病のように特定の凝固因子が機能不全または不在の場合、不十分な量の線維素が形成する。最終的に、線維素形成または血小板凝集の減少は、不十分な引張強さの凝塊を生じる。この凝固不能状態により、患者が出血しやすくなる。反対に、損傷、不動状態、炎症、感染、癌、または遺伝的障害は、過凝固につながり、潜在的に、深部静脈血栓症、肺塞栓、ならびに脳卒中および心筋梗塞などの動脈閉塞により例示される、血栓(すなわち、血塊)形成につながる。微小血管血栓および小血管の血管閉塞性疾患は、多臓器不全(MOF)の重大な原因であり、様々な基礎疾患の経過にある重篤患者であるとも考えられる。
【0062】
プラスミンの前駆体であるプラスミノゲンは、血塊に取り込まれる酵素前駆体である(
図1B参照)。組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)およびウロキナーゼは、血塊中のプラスミノゲンをプラスミンに転化することができるセリンプロテアーゼであり、したがって活性化して、線維素溶解を起こさせるようにする。線維素溶解、すなわち血塊を分解して問題にならないようにするプロセスは、正常な生物学的プロセスである。通常tPAは、血管の損傷した内皮により血液中に非常にゆっくりと放出される。結果として、出血が止まった後、血塊中の不活性酵素前駆体プラスミノゲンが活性化されてプラスミンになると、凝塊が分解され、血塊をまとめている線維素メッシュを分解するように作用する。線維素分解産物(FDP)と称される、生じた断片は、他の酵素、または腎臓および肝臓によって除去される。
【0063】
組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)およびウロキナーゼの主な阻害剤は、プラスミノゲン活性化因子阻害剤-1(PAI-1)である(
図1B参照)。PAI-1は、ヒトの第7染色体(7q21.3-q22)に位置するPAI-1遺伝子SERPINE1によってコードされるセリンプロテアーゼ阻害剤(セルピン)である。PAI-1は、主に内皮細胞(血管を覆う細胞)によって産生されるが、脂肪組織などの他の組織型によっても分泌される。tPAおよびウロキナーゼを阻害することにより、PAI-1は線維素溶解の阻害剤となる。線維素溶解におけるPAI-1の役割を
図1Bに示す。PAI-2および3、TAFI、α2-抗プラスミン、α2-マクログロブリンならびにその他を含む線維素溶解酵素系の多くの他の阻害剤があることに留意されたい。しかしながら、tPAおよびウロキナーゼの主な阻害剤はPAI-1である。
【0064】
正常で健康な個体(例えば、14から44歳または20から40歳の男性および女性のヒト)では、PAI-1とtPAの血中濃度はバランスして存在し、ここでPAI-1よりもわずかにtPAが多い。したがって、「健康な個体」は健常な患者と定義される。例えば患者がヒトの場合、健康なヒトの個体は14歳から44歳の間であり、PAI-1の正常(すなわち、非損傷)血中濃度よりも1%、2%、または5%、または10%高いtPAの正常(すなわち、非損傷)血中濃度を有する。
【0065】
いくつかの実施態様において、患者は、哺乳類、鳥類、爬虫類、または魚類のような非ヒト動物である。したがって、患者は、非ヒト霊長類(例えば、チンパンジー、ヒヒ)、ネコ、イヌ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ニワトリ、七面鳥、ラマ、象、実験動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ゼブラフィッシュ)、エキゾチック動物(例えば、トラ、ライオン、コモドオオトカゲ、ゼブラ、キリン、オオカミ)であってもよい。いくつかの実施態様において、患者は哺乳類である。
【0066】
健康な個体からの血液サンプルは、少量のtPAのような血栓溶解剤に対する線維素溶解反応をほとんどまたは全く有さず、多量の血栓溶解剤に対して線維素溶解反応を有する。
【0067】
対照的に、「見かけ上健康な個体」とは、無傷であるとき正常であるように見える(例えば、14から44歳または20から40歳の男性および女性の)個体を意味するが(例えば、見かけ上健康な個体は血友病を有していない)、その個体が負傷、出血(例えば、手術を受けている)または重病の場合、その個体のPAI-1およびtPA濃度が、PAI-1側に多すぎる(すなわち、tPAと比較してPAI-1が多すぎる)か、または tPA側に多すぎる(例えば、PAI-1と比較してtPAが多すぎる)のいずれかに転じ、見かけ上健康な個体は、異常な線維素溶解(例えば、潜在的高線維素溶解または線維素溶解停止)を有することがありえる。もちろん、重病、出血、または負傷していないほとんどの男性および女性のヒトは、PAI-1およびtPAの血中濃度を定期的に測定していないので、本発明のいくつかの実施形態の前に、見かけ上健康な個体と健康な個体とを区別することは不可能であった。いくつかの実施形態において、本発明は、そのような見かけ上健康な個体を迅速に確認することができ、医療従事者は、さもなければ受けていた健康な個体よりも、治療のためのより重大な緊急性を有するそのような個体を優先選別することを可能にする。
【0068】
本発明は、負傷(例えば、自動車事故のような偶発的負傷または選択的手術のような意図的負傷を含む)の間またはその直後において、見かけ上健康な個体におけるtPA対PAI-1の比が変化し始めた場合、見かけ上健康な個体は、潜在性高線維素溶解または線維素溶解停止のような異常な線維素溶解状態を有することがありえるという発見に部分的に由来する。この比率が正常よりも多いtPAに移行する場合、その見かけ上健康な個体は潜在性高線維素溶解を有する可能性がある。その比率において、その比率がより多いPAI-1に移行する場合、その見かけ上健康な個体は線維素溶解停止する可能性がある。
【0069】
本明細書中で使用される場合、「異常な線維素溶解」とは、止血の線維素溶解プロングが正常でない疾患状態を意味する。いくつかの実施形態において、異常な線維素溶解は、外傷誘発性凝固障害または「TIC」である。
【0070】
線維素溶解は、上述したように、血塊の分解である。これは、不活性プラスミノゲン酵素前駆体を活性プラスミンへ活性化するによって達成される。プラスミンは血塊をまとめている線維素メッシュを分解することになる。
図1Bに示すように、複数の薬剤がプラスミノゲンを活性プラスミンに活性化することができる。
図1Bに示されるこれらの薬剤は、第XIa因子、第XIla因子、カリクレイン、組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)(ヒト一本鎖tPAおよびヒト二本鎖tPAを含む)、ストレプトキナーゼおよびウロキナーゼを含む。プラスミノゲンを活性プラスミンに活性化することができるさらなる薬剤としては、限定されるものではないが、ウロキナーゼ・プラスミノゲン活性化因子(uPA)が挙げられる。プラスミノゲンからプラスミンへの転換は、プラスミノゲン中のArg-561とVal-562との間のペプチド結合の切断を含む。
【0071】
TICの特に危険な様相は、高線維素溶解である。この状態では、線維素溶解システム(通常、負傷が癒えた後に血塊を分解することによって血流を維持する役割を果たす)は、病理学的に上方制御され、負傷後に形成した必要な血塊を破壊する。この状態は、60%を超える死亡率と関連している。治療可能であるが、この状態は、既存の臨床検査では検出されない、特に発見できないまたは潜在的な危険な形態で時折現れる。潜在性高線維素溶解を有する患者は、よく出現するが、予期せずかつ劇的な代償不全、大量の出血、高頻度の死亡となる傾向がある。その理由の一部は、治療する医師によってその激しさの程度が過小評価されるためである。いくつかの実施形態では、本発明は、潜在性高線維素溶解の検出および/または診断を可能にする。
【0072】
外傷患者において起こり得る別の潜在的な状態は、本質的に高線維素溶解の逆の状態、線維素溶解停止である。線維素溶解システムの重篤な障害であるこの状態は、全ての重症の外傷患者の半分以上、ならびに腎臓病を含む他の医学的および外科的状態の患者に存在する。線維素溶解停止も既存の臨床検査では検出できない。いくつかの実施形態では、本発明はまた、線維素溶解停止を検出および/または診断するための方法も提供する。
【0073】
本明細書中で使用される場合、「潜在性高線維素溶解」(時として「発見できない高線維素溶解」と称される)は、異常な線維素溶解疾患状態の1つのタイプを意味し、この状態において、(例えば、手術中または外傷後の)負傷を有する患者(例えば、ヒト患者)は、最初は安定しているように見えるが、血塊の過度の急速な分解のため、内部または外部にて急激に著しく出血し始める。したがって、潜在性高線維素溶解において、止血の第1の部分、すなわち血塊の形成または凝固プロセスは正常である。しかし、血塊の分解(すなわち、止血の線維素溶解部分)は異常である。潜在性高線維素溶解では、多すぎるプラスミノゲンが、多すぎる組織プラスミノゲン活性化因子によってプラスミンに分解される。換言すれば、PAI-1に対するtPAの比率は、潜在性高線維素溶解において多すぎるtPAに移行する。
【0074】
外傷誘発高線維素溶解はまた、この比率を歪め得ることに留意されたい。例えば、
図2に示すように、肢虚血または外傷誘発高線維素溶解を有する患者において、tPA濃度がPAI-1濃度を圧倒し、これによりその比率を多すぎるtPAに移行させている。これにより血塊は急速に分解されることになり、したがって高線維素溶解となる。
【0075】
本明細書において「線維素溶解停止」とは、患者の血塊(例えば、外傷後に形成される)が分解されるのを遅らせるタイプの異常な線維素溶解疾患状態を意味する。換言すれば、線維素溶解停止は、血塊が適切に分解されず、臓器不全および血栓塞栓症を潜在的に生じるいくつかの患者において起こりうる線維素溶解耐性の極端な形態である。線維素溶解停止において、止血の凝固プロセスは正常であるが、線維素溶解プロセスが異常である。線維素溶解停止において、多過ぎるPAI-1により、少な過ぎるプラスミノゲンがプラスミンに変化する。換言すれば、tPA対PAI-1の比は、線維素溶解停止において、多すぎるPAI-1に移行する。線維素溶解停止は、血栓症、すなわち血栓(すなわち血塊)の形成をもたらす。血栓の存在は、組織への血流を減少させ、低酸素症または無酸素症を引き起こし、組織死および臓器不全を引き起こし得る。血栓の一部が壊れて(例えば、血流を介して)体内を移動する場合、移動する血栓は塞栓と称される。その塞栓が最終的に留まるところでは、血管を詰まらせ、詰まった血管により供給されている組織および器官が死ぬことがありえる。
【0076】
潜在性高線維素溶解および線維素溶解停止を検出することが困難であるため、これらの2つの状態からの死亡率は高い。線維素溶解の障害の理解の大部分は、2つの別個の外科的患者の集団、すなわち外傷性負傷患者および肝臓移植を受けている患者によるものである。肝臓移植を受けている患者は、手術の無肝期中に線維素溶解システムの著しい上方調節を有し、この高線維素溶解状態が、それらを大規模な凝固異常出血の危険にさらすことは1960年代から知られている。同様に、重傷を負った外傷患者の一部(約20%)は、高線維素溶解を示すこととなり、そして出血による死亡リスクが著しく高まって死亡率が約50%−60%となり、または高線維素溶解のない同様の負傷患者の約4倍の死亡率となる。
【0077】
我々は最近、線維素溶解システムに関する別の病理学的疾患単位である、線維素溶解停止を認識するようになった。高線維素溶解よりも即時に致命的ではないが、線維素溶解停止により、患者は、血栓塞栓症(すなわち、静脈血栓塞栓症)および微小血管血栓症による多臓器不全のリスクが高くなる。さらに、線維素溶解停止は、高線維素溶解よりはるかに一般的な現象であり、重傷患者の60%以上が罹患する。
【0078】
したがって、高線維素溶解および線維素溶解停止は、死亡率の増加に関連する危険な症候群である。
図3(および
図38)に示すように、線維素溶解停止を有する患者の全死因死亡率は負傷28日以内で18%であり、潜在性線維素溶解を有する患者の全死因死亡率は負傷28日以内で45%である。対照的に、負傷28日以内の全死因死亡患者の約2%のみが生理学的に正常な止血を有している。いくつかの実施態様において、血塊を強めるか、または血塊の分解を遅らせる治療薬、例えば抗線維素溶解剤トラネキサム酸(TXA)の治療的に関連する量で、患者が治療(例えば、予防)される場合、潜在性高線維素溶解による総死亡率が減少することになりうる。
【0079】
したがって、一部の患者(すなわち、高線維素溶解を有する患者)は、血塊を強めるまたは血塊の溶解を遅らせる抗線維素溶解剤(例えば、TXA)などの治療薬による予防的処置により効果を得ることは明らかである。しかしながら、血塊を強めるまたは血塊の溶解を遅らせる治療薬は、緊急治療室の全ての外傷患者に一様に与えることができない。なぜなら、患者が線維素溶解停止を有する場合、TXAの「治療」は実際にはまったく治療にはならず、むしろTXAを受けなかった場合よりも悪い結果をもたらすことになるからである。
【0080】
線維素溶解プロセスの複雑さを考慮すると、本開示の以前では、線維素溶解停止または潜在性高線維素溶解のいずれかを測定または検出することさえ困難であったことに留意されたい。さらに、(例えば、潜在性高線維素溶解を有する患者の場合には、血塊を強めるまたは血塊の溶解を遅らせる治療剤、例えばトラネキサム酸またはイプシロンアミノカプロン酸など、また線維素溶解停止を有する患者の場合には、血塊を弱めるまたは血塊の溶解を速める治療薬、例えばリバロキサバン(第Xa因子阻害剤)またはアルガトロバン(直接トロンビン阻害剤)などの治療的に関連する量で)治療される必要がありえる患者にとっては、潜在性高線維素溶解または線維素溶解停止の検出が、好ましいことに非常に迅速である。
【0081】
いくつかの実施態様において、本発明は、患者の血液試料中の線維素溶解停止または潜在性高線維素溶解を迅速に検出するための方法および試薬を提供する。いくつかの実施態様において、本発明は、外因性tPAを用いて、血液中のPAI-1、tPAおよびPAI-1 / tPA複合体のバランスを移行させ、機能転帰を読み取る。いくつかの実施態様において、本発明は、tPA阻害の間接的機能アッセイを提供する。本発明のいくつかの実施態様において、患者を迅速に確認して、どの患者には処置を受けさせるべきでないか、どの患者が潜在性高線維素溶解を有しており、血塊を強めまたは血塊の分解を遅くする治療薬(例えば、トラネキサム酸またはイプシロンアミノカプロン酸)の処置を受けるべきか、および、どの患者が線維素溶解停止を有しており、処置を受けさせるべきではないかまたは血塊を弱めるまたは血塊の分解を速める治療薬(例えば、ヘパリン、ワルファリン、アスピリン、クロピドグレル、ヒルジンのような直接トロンビン阻害剤、またはエドキサバンのような第Xa因子阻害剤)の処置を受けさせるべきかを決めることができる。
【0082】
したがって、第1の様相において、本発明は、患者における異常な線維素溶解を検出する方法であって、患者からの血液サンプルを既知の量の血栓溶解剤の存在下での粘弾性分析に供して患者の凝固特性値を得ること、および患者の凝固特性値を健康な個体の凝固特性値と比較することを含み、当該健康な個体の凝固特性値は、既知の量の血栓溶解剤の存在下での粘弾性分析凝固アッセイに供することにより得られ、ここで健康な個体の凝固特性値と比較した患者の凝固特性値の差異は、患者が異常な線維素溶解状態を有するものと確認する方法を提供する。
【0083】
健康な個体の凝固特性値は、複数の健康な個体からの平均値であってもよいことに留意すべきである。さらに、健康な個体の凝固特性値は、保存値または既知の値であってもよい。
【0084】
本明細書で使用される場合、「血液サンプル」とは、例えば患者から採取された血液サンプル(例えば、全血、処理血液、または血液成分)を意味する。患者はヒトであってもよいが、任意の他の動物(例えば、獣医動物またはエキゾチック動物)であってもよい。血液は、酸素および栄養物質を組織に運び、二酸化炭素および排泄のための様々な代謝産物を除去する生物の循環組織である。血液(しばしば全血と称される)は、淡黄色または灰黄色の液体の血漿を含み、血漿中には、赤血球、白血球および血小板が浮遊している。いくつかの実施態様において、血液サンプルは、全血である。血液は、未処理でも、(例えばクエン酸塩で)処理されてもよい。例えば、血液サンプルは、クエン酸塩添加血液(例えば、3.2%クエン酸塩を含有する3.5mL容器に集められた全血)であってもよい。血液サンプルはまた、ヘパリン添加血液であってもよく、またはヘパリンの効果を拮抗させるプロタミンで処理された血液サンプルであってもよい。いくつかの実施態様において、血液サンプルは、全血の1つ以上の成分である。したがって、血液サンプルは、患者の血液から採取された血漿または血小板を含まない血漿であり得る。いくつかの実施態様において、血液サンプルは、血小板機能が低下したサンプルであってもよい。例えば、血液サンプルは、サイトカラシンDのような血小板機能の阻害剤で処理されてもよい。
【0085】
いくつかの実施態様において、血液サンプルは供給源から採取される。供給源は、ドナーバッグを含む任意の供給源、または直接患者からであってもよい。いくつかの実施態様において、血液サンプルが採取される患者は、血塊を強める、または血塊の溶解を遅らせる治療薬(例えば、抗線維素溶解剤トラネキサム酸)に反応する。いくつかの実施態様において、血液サンプルが採取される患者は、血塊を弱める、または血塊の溶解を速める治療薬(例えば、tPA)に反応する。
【0086】
いくつかの実施態様において、異常な線維素溶解状態は潜在性高線維素溶解である。異常な線維素溶解状態が潜在性高線維素溶解である方法において、既知の量の血栓溶解剤(例えば、tPA)は少量である。いくつかの実施態様において、少量の血栓溶解剤(例えば、tPA)は、約1ng/mlから約100ng/mlの間である。いくつかの実施態様において、少量の血栓溶解剤(例えば、tPA)は、約10ng/mlから約90ng/mlの間である。いくつかの実施態様において、少量の血栓溶解剤(例えば、tPA)は、約20ng/mlから約80ng/mlの間である。
【0087】
いくつかの実施態様において、粘弾性分析は、少量の血栓溶解剤の存在下で行われ、健康な個体の凝固過程を反映する凝固特性値と比較した、患者の凝固過程を反映する凝固特性値(例えば、MA値)の減少は、患者が潜在性高線維素溶解を有するものであると確認する。いくつかの実施態様において、健康な個体の凝固プロセスを反映する凝固特性値よりも、少なくとも約7.5%低い患者の凝固プロセスを反映する凝固特性値は、患者が潜在性高線維素溶解を有するものであると確認する。いくつかの実施態様において、健康な個体の凝固プロセスを反映する凝固特性値よりも、少なくとも約10%低い患者の凝固プロセスを反映する凝固特性値は、患者が潜在性高線維素溶解を有するものと確認する。
【0088】
いくつかの実施態様において、粘弾性分析は、少量の血栓溶解剤の存在下で行われ、健康な個体の線維素溶解プロセスを反映する凝固特性値と比較して、患者の線維素溶解プロセスを反映する凝固特性値(例えば、LY30値)の増加は、患者が潜在性高線維素溶解を有するものと確認する。いくつかの実施態様において、健康な個体の線維素溶解プロセスを反映する凝固特性値よりも、少なくとも約7.5%大きい患者の線維素溶解プロセスを反映する凝固特性値は、患者が潜在性高線維素溶解を有するものと確認する。いくつかの実施態様において、健康な個体の線維素溶解プロセスを反映する凝固特性値よりも、少なくとも約10%大きい患者の線維素溶解プロセスを反映する凝固特性値は、患者が潜在性高線維素溶解を有するものと確認する。
【0089】
潜在性高線維素溶解を有するものと確認された患者は、血塊を強めるまたは血塊の溶解を遅らせる治療薬の治療的に関連する量による処理により効果を得ることがありえる。
【0090】
「血塊を強めるまたは血塊の溶解を遅らせる治療薬」とは、血塊の分解または溶解を妨害または阻害するか、血塊の溶解または分解を遅くするまたは阻害する任意の薬品を意味する。いくつかの実施態様において、血塊を強めるまたは血塊の溶解を遅らせる治療剤は、血塊を弱めるまたは血塊の溶解を速める治療剤と同一ではない。
【0091】
いくつかの実施態様において、血塊を強めるまたは血塊の溶解を遅らせる治療剤としては、限定されるものではないが、抗線維素溶解剤(抗線溶薬とも称される)、特定因子補充(例えば、第XIII因子)、プロトロンビン複合体濃縮物、フィブリノゲン濃縮物、および血漿などの生体ドナーのヒト血液製剤などがあげられる。非限定的な抗線維素溶解剤としては、プラスミノゲン活性化因子阻害剤1(PAI-1)、プラスミノゲン活性化因子阻害剤2(PAI-2)、トラネキサム酸、アミノカプロン酸(例えば、イプシロンアミノカプロン酸)、アプロチニンが挙げられる。
【0092】
いくつかの実施態様において、異常な線維素溶解状態は線維素溶解停止である。異常な線維素溶解が線維素溶解停止である方法において、既知の量の血栓溶解剤(例えば、tPA)は多量である。いくつかの実施態様において、多量の血栓溶解剤(例えば、tPA)は、約110ng/mlから約1200ng/mlの間である。いくつかの実施形態において、多量の血栓溶解剤(例えば、tPA)は、約150ng/mlから約1000ng/mlの間である。いくつかの実施形態において、多量の血栓溶解剤(例えば、tPA)は、約200ng/mlから約900ng/mlである。いくつかの実施態様において、多量の血栓溶解剤(例えば、tPA)は、約300ng/mlから約900ng/mlの間である。
【0093】
いくつかの実施態様において、粘弾性分析が多量の血栓溶解剤の存在下で行われるとき、健康な個体の凝固プロセスを反映する凝固特性値と比較した、患者の凝固プロセスを反映する凝固特性値の増加は、患者が線維素溶解停止を有しているものとして確認する。いくつかの実施態様において、健康な個体の凝固プロセスを反映する凝固特性値よりも、少なくとも約7.5%大きな患者の凝固プロセスを反映する凝固特性値は、患者が線維素溶解停止を有するものとして確認する。いくつかの実施態様において、健康な個体の凝固プロセスを反映する凝固特性値よりも、少なくとも約10%高い患者の凝固プロセスを反映する凝固特性値は、患者が線維素溶解停止を有するものとして確認する。
【0094】
いくつかの実施態様において、粘弾性分析が多量の血栓溶解剤の存在下で行われるとき、健康な個体の線維素溶解プロセスを反映する凝固特性値と比較して、患者の線維素溶解プロセスを反映する凝固特性値の減少は、患者が線維素溶解停止を有しているものとして確認する。いくつかの実施態様において、健康な個体の線維素溶解プロセスを反映する凝固特性値よりも、少なくとも約7.5%低い患者の線維素溶解プロセスを反映する凝固特性値は、患者が線維素溶解停止を有しているものとして確認する。いくつかの実施態様において、健康な個体の線維素溶解プロセスを反映する凝固特性値よりも、少なくとも約10%低い患者の線維素溶解プロセスを反映する凝固特性値は、患者が線維素溶解停止を有するものとして確認する。
【0095】
線維素溶解停止を有すると確認された患者は、血塊を弱めるまたは血塊の溶解を速める治療薬の治療的に関連する量による処置から効果を得ることができる。
【0096】
「血塊を弱めるまたは血塊の溶解を速める治療薬」とは、血塊の形成を妨害または阻害するか、血塊の溶解または分解を速める任意の薬品を意味する。いくつかの実施態様において、血塊を弱めるまたは血塊の溶解を速める治療薬は、血塊を強めるまたは血塊の溶解を遅らせる治療薬と同一ではない。したがって、用語「血塊を弱めるまたは血塊の溶解を速める治療薬」としては、限定されるものではないが、抗凝血剤、血栓溶解剤、抗フィブリノゲン剤、抗第XIII因子剤、および抗血小板剤が挙げられる。抗凝固剤としては、限定されるものではないが、血小板を阻害するまたは凝固カスケードにおける因子を阻害する薬品、例えば直接トロンビン阻害剤(例えば、アルガトロバン、メラガトラン、キメラガトラン、およびダビガトラン)、直接第Xa因子阻害剤(例えば、リバロキサバン、アピキサバンおよびエドキサバン)、ヘパリン、およびビタミンK拮抗剤(例えば、ワルファリン)があげられる。血栓溶解剤(血栓溶解薬とも称される)としては、限定されるものではないが、血塊の分解を活性化する薬品、例えば一本鎖または二本鎖ヒト組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)、他の種由来のtPA、アルテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼ、アニストレプラーゼ、セロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、カリクレイン、またはプラスミン/線維素溶解システムの任意の他の上方調節剤が挙げられる。抗血小板剤としては、限定されるものではないが、アスピリン、クロピドグレル(P2Y
12受容体拮抗剤)、および糖タンパク質IIb/IIIa受容体拮抗剤が挙げられる。
【0097】
いくつかの実施態様において、本発明は、血塊を弱めるまたは血塊の溶解を速める治療薬(例えば、tPAのような血栓溶解剤)に対する患者の耐性のベースラインレベル、および全身療法に対する患者の反応を明確にすることにより、深部静脈血栓(DVT)、肺塞栓(PE)、心筋梗塞(MI)または虚血性脳梗塞などを含む病状の処置のための、血塊を弱めるまたは血塊の溶解を速める治療薬、例えば抗凝固剤または血栓溶解剤の適切な用量を個々の患者のために決めることを可能にする。
【0098】
本明細書において、「粘弾性解析」とは、弾性固体(例えば、線維素固体)および流体の特性を測定する任意の解析方法を意味する。換言すれば、粘弾性分析は、血液または血液サンプルのような粘性流体の特性の研究を可能にする。
【0099】
いくつかの実施態様において、粘弾性分析は、止血を生じる生体内の条件を模倣した条件下で行われる。例えば、この状態は、体温(例えば、37℃の温度)を模倣する温度を含み得る。この状態はまた、血管に見られる流速を模倣した流速での凝塊の形成および溶解を含み得る。
【0100】
1つの非限定的な形態において、本発明の実施形態に含まれる非限定的な分析としては、tPAなしのネイティブTEGと比較される、2つのtPA含有カップのLY30を用いた、全血混合物に0、75または150ng/mLのヒト一本鎖tPAを添加した3つのクエン酸塩添加ネイティブTEGのグループが挙げられる。このグループは、例えば、血管電気分析装置の単一カートリッジ内で実行されてもよく、ここでカートリッジが複数のチャンネルを有し、ここで1つのチャンネルが個別のサンプルを保持している(例えば、1つのチャンネルは未処理の血液を保持し、別のものは75ng/mlのtPAなどを有する血液を保持する)。低濃度(75ng/mL)のサンプルは健康な個体では凝塊溶解を最小限にするが、潜在性高線維素溶解を有する個体においては、上昇したLY30により潜在性高線維素溶解を明らかにする。逆に、高濃度(150ng/mLのtPA)では、健康な個体の血液中に重大な線維素溶解(約20%)が生じることになる。しかし、重度に負傷した個体が150ng/mlのtPAの存在下で線維素溶解に対する耐性を示した場合、その個体は線維素溶解停止を有する可能性がある。特定の個体および動物モデルでは、必要に応じて他の濃度のtPAまたは他の血栓溶解剤を使用することができる。
【0101】
いくつかの実施態様において、血液サンプルの粘弾性分析は、血液サンプルを止血分析装置における分析に供することを含むことができる。1つの非限定的な粘弾性分析方法は、トロンボエラストグラフィ(「TEG」)アッセイである。したがって、いくつかの実施形態では、粘弾性分析は、血液サンプルをトロンボエラストグラフィ(TEG)を用いた分析に供することを含み、これは1940年代にドイツのHelmutHartertにより最初に記載されている。
【0102】
トロンボエストグラフィを実施する様々な装置、およびその使用方法は、米国特許公開番号5,223,227、6,225,126、6,537,819、7,182,913、6,613,573、6,787,363、7,179,652、7,732,213、8,008,086、7,754,489、7,939,329、8,076,144、6,797,419、6,890,299、7,524,670、7,811,792、20070092405、20070059840、8,421,458、US 20120301967、および7,261,861に記載されており、それぞれの全ての開示がここで明示的に参照により本明細書に組み込まれる。
【0103】
トロンボエラストグラフィ(TE)は、低速静脈血流に似た低剪断環境下で凝固を誘導するようにして、血液の弾性特性をモニターする。発達している凝塊の剪断弾性の変化のパターンは、凝塊の形成の動態ならびに形成された凝塊の強度および安定性、つまり発達している血塊の機械的特性の測定を可能にする。上述したように、凝塊の動態、強度および安定性は、凝塊の「機械的作用」を実施する能力、すなわち循環血液の変形剪断応力に抵抗する能力に関する情報を提供する。本質的に、凝塊は止血の基本的な機構である。止血を測定する止血器具は、その構造発達を通じた機械的作用を実施する凝塊の能力を測定することができる。これらの止血分析装置は、試験開始時から最初の線維素の形成まで、凝固速度の強化および最終的には凝固特性による凝塊強度まで、非単離または静的様式で、全血成分の全産物として患者の止血の全段階を連続的に測定する。
【0104】
いくつかの実施態様において、粘弾性分析および/または止血分析器は、血液と接触している容器を含む。
【0105】
本明細書で使用される場合、「容器」とは、粘弾性分析の間の任意の点で容器の中に置かれた血液サンプルの一部にその一部が接触する剛体面(例えば、固体表面)を意味する。血液サンプルの一部と接触する容器の部分はまた、容器の「内側」と称されうる。「容器の中へ」という段階は、容器が血液サンプルの部分と接触する底面を有することを意味しないことに留意されたい。むしろ、容器はリング状構造体であってもよく、ここでリングの内部は容器の内側であり、リングの内部が血液サンプルの一部と接触するリング状容器の部分であることを意味する。血液サンプルは、容器内に流入し、例えば、真空圧又は表面張力によってそこに保持されることができる。
【0106】
この定義に含まれるさらに別のタイプの容器は、カートリッジおよびカセット(例えば、マイクロ流体カートリッジ)に存在するものであり、ここでカートリッジまたはカセットは、その中に複数のチャンネル、リザーバ、トンネル、およびリングを有する。連続するチャンネル(例えば、チャンネル、リザーバ、およびリングを含む)の各々は、本明細書で使用される用語である、容器である。したがって、1つのカートリッジに複数の容器が存在してもよい。米国特許第7,261,861号(本明細書中に参照により組み込まれる)には、複数のチャンネルまたは容器を備えたそのようなカートリッジが記載されている。カートリッジのチャンネルまたはトンネルのいずれの表面も、粘弾性分析中の任意の時点で、その表面が血液サンプルの任意の部分と接触する場合、容器の内側でありえる。
【0107】
1つの非限定的な止血分析装置が、米国特許第7,261,861号、米国特許公報第US20070092405号、および米国特許公報第20070059840号に記載されている。
【0108】
トロンボエラストグラフィを使用して粘弾性分析を行う別の非限定的な止血分析装置は、Haemonetics社(ブレインツリー、マサチューセッツ州)によって市販されているTEGトロンボエラストグラフ止血アナライザシステムである。
【0109】
したがって、TEGアッセイは、発達中の血塊の機械的強度を測定するTEGトロンボエラストグラフ止血アナライザシステムを用いて行うことができる。アッセイを行うために、血液サンプルを容器(例えば、カップまたはキュベット)に入れ、ピンを容器の中心に入れる。容器の内側壁との接触(または容器への凝固活性化剤の添加)は凝塊の形成を開始する。次いで、TEGトロンボエラストグラフ止血分析装置は、約10秒毎に約4.45度から4.75度の振動様式で容器を回転させて、低速静脈流を模倣して、凝固を活性化する。線維素と血小板の凝集体が形成すると、それらは容器の内側をピンとを接続し、容器を動かすのに使用されるエネルギーをピンに伝達する。ピンに接続された捩じりワイヤは、血塊の強さに直接比例する出力の大きさにより、経時的な血塊の強さを測定する。血塊の強度が経時的に増加するにつれて、典型的なTEGトレース曲線が現れる(
図4と
図5参照)。
図4に示す概略図は、線維素溶解が起こるときのTEGトレースを示す。言うまでもなく、健康な個体からの未処理の血液サンプル(すなわち、血塊を強めるまたは血塊の溶解を遅らせる治療薬、または血塊を弱めるまたは血塊の溶解を速める治療薬のいずれによっても処理されていない血液)の典型的なTEGトレースを
図5に示す。
【0110】
TEG分析装置にピンがあり、ピンの回転運動は変換器によって電気信号に変換され、電気信号はプロセッサおよび制御プログラムを含むコンピュータによってモニターすることができる。コンピュータは、電気信号により測定された凝固プロセスに対応する止血プロファイルを作成することができる。さらにコンピュータは、視覚ディスプレイを含むか、または止血プロファイルの視覚的表現を提供するプリンタに結合されてもよい。このようなコンピュータの構成は、当業者の技術の範囲内である。
図4に示すように、得られた止血プロファイル(すなわち、TEGトレース曲線)は、第1の線維素鎖が形成されるのに要する時間、血塊形成の動態、血塊の強度(ミリメートル(mm)単位で測定され、そしてdyn/cm2の剪断弾性単位に変換される)および凝固物の溶解の計測である。Donahue等、J. Veterinary Emergency andCritical Care:15(1): 9-16 (March 2005)を参照、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0111】
これらの測定されたパラメータのいくつかの説明は以下の通りである。
【0112】
Rは、血液がトロンボエラストグラフィ分析装置に配置されてから最初の線維素形成までの待ち時間である。これは、典型的には約30秒から約10分かかる。しかしながらR範囲は、実施される特定のTEGアッセイ(例えば、試験される血液サンプルのタイプ(例えば、血漿のみ、または全血)、血液成分がクエン酸添加されているかどうかなど)に基づいて変化することになる。低凝固状態(すなわち血液の凝固能が減少した状態)の患者では、R数がより大きくなり、一方、高凝固状態(すなわち血液の凝固能が増加した状態)の患者では、R数がより小さくなる。本明細書に記載の方法では、R値(分または秒)を非限定的な凝固特性値として使用することができる。
【0113】
K値(分で測定)は、Rの終了から血塊が20mmに達するまでの時間であり、これは凝塊形成速度を表す。このK値は、約0から約4分(すなわち、Rの終了後)である。低凝固状態では、K数はより大きく、一方、高凝固状態では、K数はより小さい。本明細書に記載の方法では、K値を非限定的な凝固特性値として使用することができる。
【0114】
α(アルファ)値は、線維素の集積および架橋(凝塊強化)の速度を測定する。従って、α(アルファ)値は凝固プロセスを反映している。これは、分割点からの曲線との接線と水平軸との間の角度である。この角度は、典型的には約47°から74°である。低凝固状態状態ではα度がより小さく、一方、高凝固ではα度がより大きい。本明細書に記載の方法において、α値は、非限定的な凝固特性値として使用することができる。
【0115】
MAまたは最大振幅(mm)は、線維素および血小板結合の最大動的特性の直接的機能であり、血塊の最大強度を表す。MA値は、凝固プロセスを反映しており、典型的には約54mmから約72mmである。MAは、典型的には、粘弾性分析の開始後、約15から約35分の間に生じる。検査される血液サンプルが低下した血小板機能を有する場合(例えば、血小板を含まない血漿)、このMAは主として線維素に基づく凝塊の強度を表すことに留意されたい。MAにおける減少は、低凝固状態(例えば、血小板機能不全または血小板減少症を有する)を反映することがありえ、一方で、MAの増加(例えば、Rの減少と結び付いている)は、高凝固状態を示唆することがありえる。
【0116】
いくつかの実施態様において、少量のtPAまたは他の血栓溶解剤の存在下でのTEGによる測定で、患者のMA凝固特性値が健康な個体のMA凝固特性値(または健康な個体群のMA値の平均値)よりも小さい場合、潜在性高線維素溶解状態が患者に存在する。いくつかの実施態様において、少量のtPAまたは他の血栓溶解剤の存在下でのTEGによる測定で、患者のMA凝固特性値が健康な個体のMA凝固特性値(または健康な個体群の平均MA値)よりも少なくとも約7.5%低い場合、潜在性高線維素溶解状態が患者に存在する。いくつかの実施態様において、少量のtPAまたは他の血栓溶解剤の存在下でのTEGによる測定で、健康な個体のMA(または健康な個体群の平均MA値)よりも約6%、または約5%、または約4%低い患者のMAは、潜在性高線維素溶解を有する患者として確認する。いくつかの実施態様において、多量のtPA存在下でのTEGによる測定で、患者のMA凝固特性値が健康な個体のMA凝固特性値(または健康な個体群の平均MA値)より大きい場合、線維素溶解停止状態が患者に存在する。本明細書に記載の方法において、MA値は、非限定的な凝固特性値として使用することができる。
【0117】
LY30は、MAの30分後の振幅減少の基準であり、凝塊の退縮または溶解を表す。したがって、LY30値はMAの30分後の振幅の減少率であり、線維素溶解プロセスを反映している。この数は、典型的には0%から約8%である。LY30値が大きいほど、より速い線維素溶解が起こる。線維素溶解が起こらない場合、MAトレースにおける振幅値は一定のままであるか、凝塊退縮によりわずかに減少し得る。しかしながら、線維素溶解が起こると(例えば、健康な個体において)、TEGトレースの曲線は減衰し始める。TEGアッセイにおける最大振幅30分後の曲線に基づく潜在的な領域の結果的な損失は、LY30と称される(
図4および
図5参照)。LY30、つまり最大振幅点の30分後の溶解パーセンテージ(溶解した血塊のパーセンテージとして表される)は、凝固特性の速度を示す。いくつかの実施態様において、凝塊堅さ(G、ダイン/cm2で測定)を用いてLY30を表現する。いくつかの実施態様において、少量のtPAまたは他の血栓溶解剤の存在下でのTEGによる測定で、患者のLY30凝固特性値が、LY30凝固特性値よりも大きい場合、潜在性高線維素溶解状態が患者に存在する。
【0118】
いくつかの実施態様において、少量のtPAまたは他の血栓溶解剤の存在下でのTEGによる測定で、患者のLY30凝固特性値が、健康な個体のLY30凝固特性値(または健康な個体群の平均LY30値)より少なくとも約3%大きい場合、潜在性高線維素溶解状態が患者に存在する。いくつかの実施態様において、少量のtPAまたは他の血栓溶解剤の存在下でのTEGによる測定で、健康な個体のLY30(または健康な個体群の平均LY30値)よりも少なくとも約5%、少なくとも約7.5%、または少なくとも約10%、または少なくとも約15%大きい患者のLY30は、潜在性高線維素溶解を有する患者を確認する。いくつかの実施態様において、多量のtPAまたは他の血栓溶解剤の存在下でTEGによる測定で、患者のLY30凝固特性値が、健康な個体のLY30凝固特性値(または健康な個体群の平均LY30値)よりも小さい場合、線維素溶解停止状態が患者に存在する。いくつかの実施態様において、高濃度のtPAの存在下でのTEGによる測定で、患者のLY30凝固特性値が、健康な個体のLY30凝固特性値(または健康な個体群の平均LY30値)より少なくとも約3%低い場合、線維素溶解停止状態が患者に存在する。いくつかの実施態様において、多量のtPAまたは他の血栓溶解剤の存在下でのTEGによる測定で、健康な個体のLY30(または健康な個体群の平均LY30値)よりも、少なくとも約5%、または少なくとも約7.5%、または少なくとも約10%、または少なくとも約15%少ない患者のLY30は、線維素溶解停止を有する患者を確認する。本明細書に記載の方法では、LY30値を非限定的な凝固特性値として使用することができる。
【0119】
TEGアッセイの改変を行うことができることに留意すべきである。
【0120】
使用することができる別の粘弾性止血分析は、トロンボエラストメトリ(「TEM」)アッセイである。このTEMアッセイは、ROTEMトロンボエラストメトリ凝固分析装置(TEMInternational GmbH、ミュンヘン、ドイツ)を使用して実施することができ、その使用はよく知られている(例えば、Sorensen,B.等、J. Thromb. Haemost.,2003. 1(3): p. 551-8:Ingerslev, J.等、Haemophilia,2003. 9(4): p. 348-52:Fenger-Eriksen, C.等、Br J Anaesth, 2005. 94(3): p. 324-9を参照)。ROTEM分析装置では、血液サンプルを容器(キュベットまたはカップとも称される)に入れ、円筒状のピンを沈める。ピンと容器の内側壁との間には、血液によって橋渡しされる1mmの隙間がある。ピンはバネにより右および左へと回転する。血液が液体である(すなわち、凝固していない)限り、移動は制限されない。しかしながら血液が凝固を始めると、血塊は凝固の堅さを増強してピンの回転を次第に制限する。ピンは光検出器に接続されている。この動態は機械的に検出され、統合コンピュータにより、典型的なトレース曲線(TEMogram)および数値パラメータに計算される(
図6Aおよび6B参照)。
【0121】
ROTEMトロンボエラストメトリ凝固分析装置において、ピンの動きは、プロセッサおよび制御プログラムを含むコンピュータによってモニターすることができる。コンピュータは、電気信号により測定された凝固プロセスに対応する止血プロファイルを作成することができる。さらにコンピュータは、視覚ディスプレイを含むか、または止血プロファイル(TEMogramと称される)の視覚的表現を提供するプリンタに結合されてもよい。このようなコンピュータの構成は、当業者の技術の範囲内である。
図6Aおよび
図6Bに示すように、得られた止血プロファイル(すなわち、TEMトレース曲線)は、第1の線維素鎖が形成されるのに要する時間、凝塊形成の動態、凝塊の強度(ミリメートル(mm)で測定されて、dyn/cm 2の剪断弾性単位に変換)および凝固物の溶解の計測である。これらの測定されたパラメータのいくつかの説明は以下の通りである。
【0122】
CT(凝固時間)は、ROTEM分析装置に血液が入れられた時点から凝塊が形成し始めるまでの待ち時間の期間である。このCT時間は、本明細書に記載の方法に従って非限定的な凝固特性値として使用することができる。
【0123】
CFT(凝塊形成時間):CTから20mm点の凝塊堅さに到達するまでの時間。このCFT時間は、本明細書に記載の方法に従って非限定的な凝固特性値として使用することができる。
【0124】
アルファ角度:アルファ角度は2mm振幅での接線の角度である。このアルファ角度は、本明細書に記載の方法に従って非限定的な凝固特性値として使用することができる。
【0125】
MCF(最大凝塊堅さ):MCFは、トレースの最大垂直振幅である。MCFは、線維素および血小板凝塊の絶対強度を反映する。試験した血液サンプルが減少した血小板機能を有している場合、このMCFは主に線維素結合強度の機能である。MCF値は、本明細書に記載の方法に従って非限定的な凝固特性値として使用することができる。
【0126】
A10(またはA5、A15またはA20の値)。この値は、10分(または5分または15分または20分)後に得られた凝塊の堅さ(または振幅)を示し、早期に予測されるMCF値についての予想を提供する。これらのA値(例えば、A10)のいずれかを、本明細書に記載の方法に従って非限定的な凝固特性値として使用することができる。
【0127】
LI30(30分後の溶解指数)。LI30値は、CT後30分でのMCF値に対する残存凝固安定性のパーセンテージである。このLI30値は、本明細書に記載の方法に従って非限定的な凝固特性値として使用することができる。線維素溶解が起こらない場合、TEMトレースのMCFにおける振幅値は一定のままであるか、凝塊退縮によりわずかに減少し得る。しかしながら、線維素溶解が起こると(例えば、低凝固状態で)、TEMトレースの曲線が減衰し始める。LI30は、TEGトレースからのLY30値に対応する。
【0128】
ML(最大溶解)。MLパラメータは、選択された任意の時点または試験が停止したときの喪失凝固安定性(MCFとの相対、%)のパーセンテージを示す。このML値は、本明細書に記載の方法に従って非限定的な凝固特性値として使用することができる。
【0129】
低LI30値または高ML値は、高線維素溶解を示す。正常な血液の線維素溶解活性はかなり低いものの、臨床サンプルにおいて、高線維素溶解による凝塊安定性のより急速な喪失は出血合併症をもたらし得るが、これは血塊を強めるまたは血塊の溶解を遅らせる治療薬、例えば抗線維素溶解剤の投与によって治療することができる。
【0130】
したがって、本明細書に記載の方法による凝固特性値として使用することができるTEGまたはTEMアッセイにおける関心のあるパラメータには、凝塊強度の反映である凝塊の最大強度が含まれる。これは、TEGアッセイにおけるMA値であり、TEMアッセイにおけるMCF値である。TEG(秒または分で測定)における反応時間(R)およびTEMにおける凝固時間(CT)は、凝塊の最初の証拠があるまでの時間である。凝塊動態(K、分で測定)は、凝塊堅さの達成を示すTEG試験におけるパラメータである。そしてTEGにおけるαまたはTEMにおけるアルファ角度は、凝塊発達の動態を反映する凝固反応時間の時点から開始するTEGトレースまたはTEMトレースの曲線に引かれた接線からの角度測定値である。(Trapani, L.M. Thromboelastography、Current Applications, Future Directions,Open Journal of Anesthesiology 3(1): Article ID: 27628, 5 pages (2013)、およびKroll, M..H., “Thromboelastography: Theory and Practice in Measuring Hemostasis,”Clinical Laboratory News: Thromboelastography 36(12), 2010年12月、TEG機器の取扱説明書(Haemonetics社から入手可能)、およびROTEM機器の取扱説明書(TEM International GmbHから入手可能)を参照、これらすべての文献は参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)。
【0131】
いくつかの実施態様において、パラメータ(したがって凝固特性値)は、凝固が起こるとサンプルの異なる励起レベルの観察により記録される。例えば、容器がマイクロ流体カートリッジまたはカートリッジ内の特定のチャンネルである場合、血液サンプルは、共鳴周波数で励起されることがありえ、凝固が生じると電磁または光源によってその挙動が観察される。いくつかの実施態様において、サンプルを励起することなく、光源による変化により、サンプルの凝固特性値を観察することができる。
【0132】
単一のカートリッジは複数の容器(例えば、カートリッジ内の異なるチャンネル)を有することができるので、既知の量のtPAと接触させた容器中の患者サンプルは、同じ既知の量のtPAと接触させた容器中(例えば、同じマイクロ流体カートリッジ内の隣接チャンネル内の)健康な個体からの対照サンプルと容易に直接比較することができる。
【0133】
線維素溶解が起こらない場合(例えば、tPAを添加しない線維素溶解停止状態で)、TEGトレースのMAにおける振幅値およびTEMトレースのMCFにおける振幅値は、一定のままであるか、または凝塊退縮のためにわずかに減少し得る。しかしながら、線維素溶解が起こると(例えば、少量のtPAのような血栓溶解剤を有する潜在性高線維素溶解状況において)、TEGトレースおよびTEMトレースの曲線は減衰し始める。TEGアッセイにおける最大振幅30分後の曲線に基づく潜在的な領域の結果的な損失は、LY30と称される(
図4および
図5参照)。LY30、つまり最大振幅点の30分後の溶解パーセンテージ(溶解した血塊のパーセンテージとして表される)は、凝固特性の速度を示す。TEMアッセイにおける対応する値はLI30値である(
図6A参照)。
【0134】
本明細書で使用される場合、「凝固特性」とは、試験される血液サンプルの止血状態を示すパラメータを意味する。粘弾性分析アッセイを用いて測定された任意の凝固特性値を、本明細書に記載の方法において使用して、患者が線維素溶解停止または潜在性高線維素溶解を有するかどうかを決定することができる。例えば、TEGアッセイにおいて、任意のR(反応時間)、K(凝固堅さが達成される時間)、α(凝塊発達の動態)、MA(最大振幅)およびLY30を比較することができる(
図4および
図5参照)。TEMアッセイのため、任意のCT(凝固時間)、CFT(凝塊形成時間)、α角、MCF(最大凝塊堅さ)、A10(CT10分後の振幅)、LI30(CT 30分後の溶解指数)およびML を比較することができ(
図6Aおよび
図6B参照)、同様に、これらのパラメータのいずれかおよびすべての派生物も凝固特性として使用することができる。
【0135】
したがって、本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、粘弾性分析は、TEGトロンボエラストグラフィアナライザシステムを使用して、またはROTEMトロンボエラストマアナライザシステムを使用して実施される。
【0136】
確かに、いくつかの実施態様において、外傷状況では、日常的に熟練した医師は、患者からの血漿サンプル(例えば、血小板欠失血液サンプル)を、血栓溶解剤のないもの(例えば、tPAなし)、少量の血栓溶解剤を有するもの、および多量の血栓溶解剤を有するものをリアルタイムで比較して、(例えば、健康な個体からの献血から採取された)対象血液サンプルからの2つのトレースが分岐し始めると(例えば分析の開始後2分で)、医師は、血塊を強化するまたは血塊の溶解を遅らせる治療剤、例えば抗線維素溶解剤(例えば、トラネキサム酸、またはイプシロンアミノカプロン酸、または最後の手段としてアプロチニン)、あるいは血塊を弱めるまたは血塊の溶解を速める治療薬、例えば抗凝固剤または血栓溶解剤(例えば、ヘパリン、アスピリン、またはtPA)で、その瞬間に患者を治療することを選択することができる。あるいは、患者の凝固特性値(例えば、患者のR時間)から、医師は、患者を健康な個体と確認することができ、これより、より緊急の治療の必要性のある他の患者に医師が接することを可能にする。したがって、特に生存および死亡の結果が数分以内に決まる外傷患者の場合、患者における線維素溶解停止または潜在性高線維素溶解を検出する速度は臨床的に意義がある。
【0137】
従って、本明細書に記載の方法は、tPAのような既知の量の血栓溶解剤で処理した患者の血液サンプル中の凝固特性値と、健康な個体からの対照血液サンプル中の同じ凝固特性とを比較する。
【0138】
本発明は、患者の転帰を改善するために、線維素溶解停止および潜在性高線維素溶解を検出するのに必要な時間を短縮する試みから部分的に由来している。本開示に記載された発見の以前では、線維素溶解停止も潜在性高線維素溶解もよく知られておらず、検出することもできなかった。その結果、健康なように見える患者が、(例えば、偶発的または手術中に課された)外傷により、しばしば驚くほど悪化して死亡した。血塊を強まるまたは血塊の溶解を遅らせる治療薬、例えば抗線維素溶解性トラネキサム酸(TXA)による処置は、いくらかの高線維素溶解患者の死亡率を低下させることができるが、線維素溶解停止を有する患者にとっては非常に有害である。加えて、患者が潜在性高線維素溶解を有し、そしてTXAを受けない場合、その転帰は非常に良くない。本発明は、潜在性高線維素溶解および線維素溶解停止を有するそのような患者の確認によりその転帰を改善することを可能にする。
【0139】
いくつかの実施態様において、少量または多量の血栓溶解剤は、血液サンプルが容器内に置かれると、血液サンプルと接触するように容器の内側を覆う。
【0140】
止血中、血小板もまた関与する。骨髄中の巨核球によって産生される、直径1μmのこれらの小さな細胞質性小胞は、活性生物学的因子で満ちている。凝固カスケードの酵素が線維素凝塊を形成するために活性化される必要があるように、4つの薬剤である、アデノシン二リン酸(ADP)、エピネフリン、トロンビン、およびコラーゲンが、血小板を活性化する。糖タンパク質IIb-IIIa(Gp IIb-IIIa)と呼ばれる接着タンパク質は、血小板凝集を媒介する。凝固促進因子のフィブリノゲンは、この受容体に付着し、血小板を互いに連結する。フィブリノゲンによって連結された架橋は、凝集の主な原因となる。外科手術または外傷は、凝固因子を組織因子に曝露し、凝固カスケードを引き起こす。フィブリノゲンを血塊を強化するポリマーであるフィブリン(線維素)に変換することに加えて、凝固カスケードは、血小板の主な活性化因子であるトロンビンを大量に生成する。
【0141】
いくつかの実施態様において、患者の凝塊形成および強度に対する血小板の寄与が除去または低減されることがありえ、これにより、凝塊の線維素成分およびフィブリノゲンの寄与のみに基づいて高線維素溶解または線維素溶解の決定を可能にする。
【0142】
したがっていくつかの実施態様において、血液サンプルは、血小板機能が低下した血液サンプルである。例えば、血液サンプルは、血小板機能阻害剤と接触させて、血液サンプル中の血小板の機能を低下させることができる。血液サンプルはまた、血液サンプルから血小板を物理的に除去することによって、血液サンプル中の血小板数を減少させるよう、物理的に操作されて(例えば、遠心分離に供されて)もよい。
【0143】
上述したように、フィブリノゲンおよび血小板は両方とも凝塊の統合に寄与する。本明細書に記載されるいくつかの方法において、線維素溶解は、(例えば、サンプルをサイトカラシンDのような血小板阻害剤で処理することによって)血小板機能が低下している血液サンプルで検出することができる。抗線維素溶解剤(例えば、トラネキサム酸)の添加により、血小板機能低下サンプル中の線維素溶解が妨げられる場合、線維素溶解は、血小板機能によるものではなく、凝固カスケードにおける線維素および他の因子による可能性が高い。したがって、サンプルが得られた(および線維素溶解または高線維素溶解を発症しやすい、または現在線維素溶解または高線維素溶解にある)患者は、抗線維化剤による処置に応答することになる。したがって、いくつかの実施形態では、試験される血液サンプルは、正常な全血と比較して血小板機能が低下している。
【0144】
「血小板機能の低下」とは、血液サンプルが全く血小板機能を有していないことを意味しないことに留意されたい。むしろ、血小板機能が低下した血液サンプルは、正常な全血とは対照的に血小板機能が低下しているだけである。例えば、血小板機能が低下した血液サンプルとしては、全血よりも、血小板機能が少なくとも25%、または少なくとも50%、または少なくとも75%、または少なくとも90%少ない血小板機能を有する血液サンプルが挙げられる。血小板機能としては、限定されるものではないが、止血への寄与が挙げられる。したがって血小板機能の低下は、(例えば、カオリンおよびカルシウムの存在下での)血液凝固における血小板の凝集の減少によって評価することができる。
【0145】
いくつかの実施態様において、血液サンプルは、血液サンプル中の血小板の数を減少させるために物理的に操作される。例えば、全血を遠心分離して、血小板の一部または大部分を除去することができる。1つの非常に単純な手順では、1.5μlの血液を、2.0mlの微量遠心チューブ中で1000rpmで10分間遠心分離することができる。血小板が豊富な血漿は、上清中の血液の上部に浮遊することになる。この上清は、血小板が減少した全血をチューブの底に残すようにして(例えば、吸引によって)除去することができる。後述するように粘弾性解析を行うには500μl未満の血液が必要であるため、これは血中の血小板数を迅速に減らすための非常に迅速な方法である。
【0146】
別の方法では、全血を固体表面に付着した血小板特異的抗体と接触させることにより、血小板が減少した全血を得ることができる。血小板は固体表面に選択的に結合することになり、血小板が減少した全血を得ることができる。例えば、糖タンパク質IIb/IIIa受容体(血小板に発現するが赤血球には発現しない)に特異的に結合する抗体を、磁気ビーズに結合させることができる(Dynabeads、カールスバッド、カリフォルニア州、米国のLifeTechnologiesから市販されている)。全血を抗体被覆磁気ビーズと接触させることができ、血小板が抗体により結合した後、磁気が適用される。磁石はビーズを引き付け(それにより血小板を引きつけ)、血小板含量が減少した(したがって、血小板機能が低下した)残りの血液は磁石に結合せず、このようにして収集することができる。
【0147】
いくつかの実施態様において、血小板機能は、血液サンプルを血小板機能阻害剤と接触させることによって減少する。1つの非限定的な血小板機能阻害剤は、アブシキシマブ(c7E3 Fabとしても知られている)である。アブシキシマブは、糖タンパク質IIb/IIIa受容体拮抗薬であり、血小板凝集を阻害する。さらなる非限定的な血小板機能阻害剤は、アデノシン二リン酸(ADP)受容体阻害剤(例えば、クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロル、チクロピジン)、ホスホジエステラーゼ阻害剤(例えば、シロスタゾール)糖タンパク質IIb/IIIa受容体阻害剤(例えば、アブシキシマブ、エプチフィバチド、およびチロフィバン)、アデノシン再取り込み阻害剤(例えば、ジピリダモール)ならびにトロンボキサンシンターゼ阻害剤およびトロンボキサン受容体拮抗薬(例えば、テルトロバン)を含むトロンボキサン阻害剤が挙げられる。これらの血小板機能阻害剤(またはそれらの組み合わせ)のいずれも、本明細書に記載の方法で使用することができる。
【0148】
血小板機能阻害剤(上に列挙したものおよびそれらの組み合わせを含む)はよく知られており、全血中の血小板機能を低下させるために既知の濃度で使用することができる。様々な実施形態において、血小板機能阻害剤は、約2.5μg/mlから約250μg/mlの間の濃度で血液サンプル(例えば、全血サンプル)に投与される。
【0149】
本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、全血サンプルが患者から採取されると、(例えば、物理的操作または血小板機能阻害剤との接触により)サンプル中の血小板機能を低下させるように血液を処理することができる。例えば、全血は、既に血小板機能阻害剤を含有する単一の容器に入れることができる。あるいは、全血を含む容器に血小板機能阻害剤を加えることができる。あるいは、全血は、(例えば、血液から血小板を物理的に除去することによって)血小板を減少させることができる。血小板機能の低下に続き、血液サンプルを3つの粘弾性アッセイ試験群に分離することができ、第1の試験は血栓溶解剤の非存在下で実施され、第2の試験は少量の血栓溶解剤の存在下で実施され、第3の試験は多量の血栓溶解剤の存在下で実施される。
【0150】
もちろん、いくつかの実施形態では、血栓溶解剤が添加されるのと同時に、サンプルの血小板機能が低下する。したがって、いくつかの実施形態においては、試験される血液サンプルが容器(例えば、カップまたはキュベット)に入れられるとき、血小板機能阻害剤は、血液サンプルを加える前に容器内にある。いくつかの実施形態において、血小板機能阻害剤は、血液サンプルが容器に入れられると血液サンプルと接触するように、容器の内側をコートする。
【0151】
トロンボエラストグラフィ(TEG)の方法を使用した機能的フィブリノゲンアッセイは、Haemonetics社(ブレインツリー、マサチューセッツ州、米国)から市販されている。この分析は血小板阻害剤を含み、したがって血栓溶解の測定から血小板の寄与を取り除く。この機能的フィブリノゲンアッセイの使用は記載されている(Harr等、Shock 39(1): 45-49, 2013)。
【0152】
後述するように、非常に早期に線維素溶解停止または潜在性高線維素溶解を検出するために、標準的なTEGまたはTEMアッセイに加えて、機能的フィブリノゲン(FF)アッセイ(すなわち、血小板の止血プロセスへの寄与を取り除くTEGアッセイ)を使用することができる。上述したように、線維素溶解停止または潜在性高線維素溶解を有する患者からの血液は、正常血と比較して、少量の血栓溶解剤の存在下または多量の血栓溶解剤の存在下のトレースとの間において差異を示す。これらのトレース(例えば、TEG、TEM、またはFFアッセイから)は、凝固プロセスを反映する凝固特性値および線維素溶解プロセスを反映する凝固特性値の決定を可能にすることになる。
【0153】
別の様相において、本発明は、患者における潜在性高線維素溶解または線維素溶解停止を検出するための方法を提供し、当該方法は、患者からの第1の血液サンプルを、少量の血栓溶解剤の存在下での粘弾性分析に供して、患者の低凝固特性値を得ること、患者からの第2の血液サンプルを、多量の血栓溶解剤の存在下での粘弾性分析に供して、患者の高凝固特性値を得ること、患者の低凝固特性値を、健康な個体の低凝固特性値と比較すること、健康な個体の低凝固特性値は、健康な個体からの血液サンプルを少量の血栓溶解剤の存在下での粘弾性分析凝固アッセイに供することにより得られ、ならびに患者の高凝固特性値を、健康な個体の高凝固特性値と比較すること、健康な個体の高凝固特性値は健康な個体からの血液サンプルを多量の血栓溶解剤の存在下での粘弾性分析凝固アッセイに供することにより得られ、ここで健康な個体の低凝固特性値と比較した患者の低凝固特性値の差異は、患者が潜在性高線維素溶解を有するものとして確認し、ここで健康な個体の高凝固特性値と比較した患者の高凝固特性値の差異は、患者が線維素溶解停止を有するものとして確認する、を含むものである。
【0154】
別の様相では、本発明は少量の血栓溶解剤を含むコーティングを有する内側を含む、粘弾性分析を用いて血液サンプルにおける高線維素溶解を検出するのに適した容器を提供する。別の様相では、本発明は多量の血栓溶解剤を含むコーティングを有する内側を含む、粘弾性分析を用いて血液サンプルにおける線維素溶解停止を検出するのに適した容器を提供する。
【0155】
もちろん容器は、血栓溶解剤を安定化するための安定化剤(単に安定剤とも称される)をさらに含んでもよい。非限定的な安定化剤としては、EDTA、ポリマー(例えばPEG)、アミノ酸(例えばグリシン)、防腐剤(例えばベンジルアルコール)、界面活性剤(例えばポリソルベート80、ポリソルベート20、トリトンX010、Pluronic F127、およびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)のような非イオン性界面活性剤)、ならびに、スクロースおよびトレハロースのような糖および糖アルコールが挙げられる。
【0156】
いくつかの実施態様において、容器は、粘弾性分析が行われる容器(例えば、TEGおよびROTEM装置の文脈では典型的には「カップ」として知られている)であってもよく、または分析が行われる前に、内部で血液サンプルおよび線維素溶解剤および他の薬剤が混合されてインキュベートされる分離容器であってもよい。
【0157】
さらに別の様相において、本発明は、血液サンプルにおいて異常な線維素溶解を検出するための複数の容器を含むカートリッジであって、ここで少なくとも1つの容器は少量の血栓溶解剤を含むコーティングを有する内側を含み、少なくとも1つの容器は多量の血栓溶解剤を含むコーティングを有する内側を含む、カートリッジを提供する。いくつかの実施態様において、カートリッジにおける容器は、底面がない。
【0158】
血栓溶解剤は、カートリッジ内の1つまたは複数の容器の内側にコートされることができるが、少量または多量の血栓溶解剤は、(例えば、丸剤または錠剤またはドロップとして)予め包装された形態に容易になりえ、そして血液サンプルが容器に加えられるのと同時に、前に、または後に容器(またはカートリッジ内の容器)に加えられることができることに留意されたい。tPA誘発TEGまたはtPA誘発TEMの場合、血液サンプルに対してTEGまたはTEMが実施される前に、血栓溶解剤が容器内の血液サンプルに容易に添加される。
【0159】
いくつかの実施態様において、血栓溶解剤は、一本または二本鎖ヒト組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)、他の種由来のtPA、アルテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼ、アニストレプラーゼ、セロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、カリクレイン、またはプラスミン/線維素溶解システムの任意の他の上方調節剤である。いくつかの実施態様において、血栓溶解剤は、ヒト一本鎖組織プラスミノゲン活性化因子またはヒト二本鎖組織プラスミノゲン活性化因子である。いくつかの実施態様において、少量は、約1ng/mlから約100ng/mlの間の血栓溶解剤、または約10ng/mlから約90ng/mlの間の血栓溶解剤である。いくつかの実施態様において、多量は、110ng/mlから約1200ng/mlの間、または約150ng/mlから約1000ng/mlの間の血栓溶解剤である。
【0160】
いくつかの実施態様において、容器は、TEGトロンボエラストグラフィアナライザシステムを使用して、またはROTEMトロンボエラストメトリアナライザシステムにて実施される粘弾性分析において使用される。
【0161】
いくつかの実施態様において、カートリッジは、TEGトロンボエラストグラフィアナライザシステムを使用して、またはROTEMトロンボエラストメトリアナライザシステムにて実施される粘弾性分析において使用される。
【実施例】
【0162】
以下の実施例は、本明細書に記載されている本発明を例示するものであって、限定するものではない。
【0163】
実施例1;血栓溶解剤を用いた機能性フィブリノゲンTEGアッセイ
【0164】
簡潔には、クエン酸塩添加全血サンプルは、外傷患者から得られる。静脈穿刺は、正中静脈にて21ゲージ針を用いて行い、3.2%クエン酸塩を含む真空容器(例えば、3.2%クエン酸塩を含有する3.5mLプラスチックVacutainers(登録商標))に血液を採取する。
【0165】
機能的フィブリノゲンアッセイは、Haemonetics社(ナイルズ、イリノイ州、米国およびブレインツリー、マサチューセッツ州、米国)から購入し、そして製造者の指示に従ってTEG(登録商標)5000装置で実施した。
【0166】
機能性フィブリノゲン(FF)アッセイを行うために、0.5mLのクエン酸塩添加血液を、組織因子(凝固活性化因子)とアブシキシマブ(モノクローナルGPIIb/IIIa受容体拮抗薬、時としてFF試薬と称される)を含む指定されたFFバイアルに加え、血液サンプルを穏やかに混合する。340μLのアリコートを、FFバイアルから、20μLの0.2mol/LのCaCl
2が予め充填された37℃のTEGカップに移す。FFアッセイは、血小板のない凝塊の凝固パラメータを測定する。第2の340μLのアリコートを、FFバイアルから、20μLの0.2mol/LのCaCl
2が予め充填された37℃のTEGカップに移し、ここで第2のTEGカップは、75ng/mlの組織プラスミノゲン活性化因子(「少量のtPA」)でコートされている。第3の340μLのアリコートを、FFバイアルから、20μLの0.2mol/LのCaCl
2が予め充填された37℃のTEGカップに移し、ここで第3のTEGカップは、150ng/mlの組織プラスミノゲン活性化因子(「多量のtPA」)でコートされている。
【0167】
血液サンプルの3つの部分(すなわち、tPAを含まないFF、少量のtPAとあわせたFF、および多量のtPAとあわせたFF)は、TEG 5000装置で同時に分析される。血液サンプルが正常であれば、各サンプルは、健康な個体のtPAなしのFF、少量のtPAとあわせたFF、および多量のtPAとあわせたFFと同一になることになる。しかしながら、血液サンプルが潜在性高線維素溶解を有する患者から採取された場合、少量のtPAで処理された血液サンプルの部分は、また少量のtPAで処理された健康な個体からの血液サンプルのTEGトレースと著しく異なるTEGトレースをもたらすことになる。血液サンプルが線維素溶解停止を有する患者から採取された場合、多量のtPAで処理された血液サンプルの部分は、また多量のtPAで処理された健康な個体からの血液サンプルのTEGトレースと著しく異なるTEGトレースをもたらすことになる。
【0168】
実施例2:血栓溶解剤を用いたマルチチャンネルTEGアッセイ
【0169】
これらの研究では、実施例1のプロトコールに従い、クエン酸塩添加したが、機能的フィブリノゲンアッセイは実施しなかった。
【0170】
簡潔には、全血は、手術のため運び込まれた患者から採取される。静脈穿刺は、正中静脈にて21ゲージ針を用いて行い、3.2%クエン酸塩を含む真空容器(例えば、3.2%クエン酸塩を含有する3.5mLプラスチックVacutainers(登録商標))に血液を採取する。
【0171】
採取された血液サンプルは、複数の部分に分けられ、以下のように、マルチチャンネル(および複数の容器)カートリッジのTEGチャンネルに充填される。
【0172】
第1のチャンネルでは、340μLのクエン酸塩添加全血を、20μLの0.2mol/LのCaCl
2を予め充填したチャンネルに充填し、「クエン酸塩添加ネイティブ」サンプルとして行う。カートリッジ内のチャンネルおよび容器の各々は、底面がないことに留意されたい。
【0173】
第2および第3のチャンネルを充填するための血液を、それぞれ37.5および75ngのtPAを含有する、凍結乾燥tPAのバイアルに加える。次いで、500μLのクエン酸塩添加血液(すなわち、3.2%クエン酸塩を含有するVacutainersから)をこれらの2つのバイアルのそれぞれに添加して、75ng/mlおよび150ng/mlのバイアル中のtPAの最終濃度をもたらす。バイアルを穏やかに10回反転し、340μLのその内容物を第2および第3のチャンネルのTEGカップにピペットで入れ、そしてこれらのチャネルはまた、第2のチャネルは75ng/mLの最終濃度のtPAを含有し、第3のチャネルは150ng/mLの最終濃度のtPAを含有するという注釈付きの「クエン酸塩添加ネイティブ」として行わた。第2および第3のチャンネルの各々には、20μLの0.2mol/LのCaCl
2が予め充填されている。
【0174】
結果を表1Aおよび表1Bおよび
図7(75ng/mlの少量のtPA)、ならびに表2Aおよび表2Bおよび
図8(150ng/mlの多量のtPA)に示す。
【表1】
【0175】
表1Bの結果を
図7にグラフで示す。「ビン中心」とは、特定のビン内のサンプルの平均LY30数の反映を意味することに留意されたい。例えば、表1において、75ng/mlのtPAの存在下でサンプルが分析された被験外傷患者の21.875%は、平均LY30値が5であった。対照的に、75ng/mlのtPAの存在下でサンプルが分析された健康な個体の31.915%は、平均LY30値が5であった。これは外傷患者の典型的な反応であり、75ng/mlのtPAの存在下で分析されたほとんどの患者からのサンプルは、健康な個体からの75ng/mmlのTPA処理されたサンプルよりも低いLY30時間を有することになる。
【0176】
しかしながら、75ng/mlのtPAの存在下で分析した場合、75ng/mlのtPAの存在下で血液を分析した健康なボランティアのLY30値よりも大きいLY30値を有する外傷患者の小さな部分集合が存在する。
図7において、この部分集団は、LY30が25以上の場合に現れる。これらの外傷患者は、潜在性高線維素溶解を有する可能性があり、血塊を強めるまたは血塊の溶解を遅らせる治療薬、例えば抗線維素溶解剤の治療的に関連する量を予防的に投与されるべきである。
【0177】
表2Aおよび表2Bおよび
図8は、外傷患者および健康な個体において、高(150ng/ml)tPAの存在下でのTEG分析のLY30数を示す。
【表2】
【0178】
表2Bの結果を
図8にグラフで示す。表2Aおよび表2Bおよび
図8が示すように、150ng/mlのtPAの存在下では、外傷患者のLY30値は、典型的には、血液サンプルが150ng/mlのtPAでのTEGアッセイがされた健康な個体のLY30値よりも大きい。これらの個体は、典型的には40以上、特に60以上のLY30値を有する。これらの個体は線維素溶解停止を有し、血塊を弱めるまたは血塊の溶解を速める治療剤の治療的に関連する量で処置して、血栓塞栓症および他の血栓関連傷害を予防すべきである。
【0179】
この例では、患者はLY30値に基づいて診断されたことに留意することが重要である。換言すれば、患者はMA時間(最大凝塊強度)の30分後に診断されている。典型的には粘弾性分析が開始されてから20分以内にこの点に到達するので、患者は50分未満で診断される。それは長時間のように見えるかもしれないが、潜在性高線維素溶解および線維素溶解停止状態は、見かけ上健康な個体に一般的に見られることに留意することが重要である。患者が実際に健康な個体であった場合は、彼または彼女は直ちに治療されず、そして救急室の待合室で待たなければならないかもしれないが、一方で目に見えて健康ではない個体(例えば、高齢の患者や子供)が最初に処置されることになる。いくつかの実施態様において、本発明の方法は、患者が救急室に入ったときに直ちにデータを収集することを可能にし、そして粘弾性分析の開始の1時間以内に結果を提供する。
【0180】
実施例3:健康な個体と異常な線維素溶解を有する見かけ上健康な個体のTEGトレースの比較
【0181】
本発明の様々な実施形態を強調するため、本実施例3は、以下の群の各々からの2人の患者からのトレースを提供する:健康な個体(
図9Aおよび
図9B)、線維素溶解停止(
図10Aおよび
図10B)、潜在性線維素溶解(
図11Aおよび
図11B)、そして潜在性高線維素溶解との対比として、通常(非潜在性)高線維素溶解(
図12A−12B)を提供する。
【0182】
これらのすべての試験は、20 μLの0.2 mol/LのCaCl
2が充填されたTEG5000トロンボエラストグラフシステム(Haemonetics社、ブレインツリー、マサチューセッツ州から市販されている)により行われた。
【0183】
図9Aおよび
図9Bにおいて、健康な個体の患者15(
図9A)および患者33(
図9B)からのTEGトレースが示されている。
図9A−
図9B中の白線は、ネイティブTEG(すなわち、クエン酸塩添加全血)であり、緑色線は全血+ 75ng/mLのtPAであり、桃色線は全血+ 150ng/mLのtPAである。
図9Aおよび
図9Bの両方に見られるように、健康な個体では、未処理の全血において線維素溶解は何も見られない(またはごくわずか)。血液を75ng/mlのtPA(緑色線)で処理すると、線維素溶解は中程度のペースで起こる。この線維素溶解のペースは、150ng/mlのtPA(桃色線)の存在下で劇的に増加する。健康なボランティア患者33のTEGプロフィールのより詳細な説明については、下記の実施例9および
図40を参照されたい。
【0184】
図10Aおよび
図10Bにおいて、線維素溶解停止患者22(
図10A)および患者38(
図10B)からのTEGトレースが示されている。
図10A−10B中の白線は、ネイティブTEG(すなわち、クエン酸塩添加全血)であり、緑色線は全血+ 75ng/mLのtPAであり、桃色線は全血+ 150ng/mLのtPAである。
図10Aおよび
図10Bの両方からわかるように、線維素溶解停止患者では、血栓溶解剤のtPAが多量であっても線維素溶解は起こらない。これらの患者が、治療的に関連する量のtPA(または血塊を弱めるまたは血塊の溶解を速める別の治療剤)で直ちに処置されない場合、彼らは、血塊が臓器への血液供給を遮断することによる臓器不全および/または血栓塞栓症(例えば、肺の場合は肺塞栓症または脳の場合は脳卒中)の危険にある。
【0185】
図11Aおよび
図11Bにおいて、潜在性高線維素溶解患者3(
図11A)および患者24(
図11B)からのTEGトレース示されている。
図11A−11B中の白線は、ネイティブTEG(すなわち、クエン酸塩添加全血)であり、緑色線は全血+ 75ng/mLのtPAであり、桃色線は全血+ 150ng/mLのtPAである。
図11Aおよび
図11Bの両方からわかるように、潜在性高線維素溶解を有する患者では、少量の血栓溶解剤(すなわち、25ng/mlのtPA、緑色線)でも、および多量の150ng/mlのtPA(桃色線)の存在下でも、線維素溶解が迅速に起こるため、凝塊が迅速に溶解し、それらが効果的には用をなさない。これらの患者が、血塊を強めるまたは血塊の溶解を遅らせる治療剤(例えば、トラネキサム酸)の治療的に関連する量で直ちに処置されない場合、彼らは死に至る出血の危険性がある。これらの潜在性高線維素溶解患者の血液サンプルがtPAの存在下で分析されない場合、それらの血塊は溶解しないことに留意されたい(
図11Aおよび
図11Bの白線参照)。
【0186】
最後に、
図12Aおよび
図12Bにおいて、典型的な(または明白な)高線維素溶解を有する患者、すなわち患者4(
図12A)および患者36(
図12B)からのTEGトレースが示されている。
図12A−12B中の白線は、ネイティブTEG(例えば、クエン酸塩添加全血)であり、緑色線は全血+75ng/mLのtPAであり、桃色線は全血+ 150ng/mLのtPAである。
図12Aおよび
図12Bの両方からわかるように、明白な高線維素溶解を有する患者において、これらの患者の血液サンプルにtPAを添加することがなくても線維素溶解が起こる。少量の血栓溶解剤(例えば、25ng/mlのtPA;緑色線)が添加される場合、線維素溶解がより迅速に起こり、多量の血栓溶解剤(例えば、150ng/mlのtPA;桃色線)の存在下ではより迅速に起きる。
【0187】
線維素溶解停止を有すると確認された患者(
図10Aおよび
図10B)については、血塊の溶解を促進するのに必要なtPAの量を調整するために、量を変えたtPAの存在下でTEGアッセイを用いてそれらの血液サンプルを試験することができることに留意されたい。例えば、患者22(
図10A)および患者38(
図10B)の両方は、150ng/mLのtPAに応答しない凝塊を有する。本明細書に記載のアッセイを使用して、tPAの濃度を増加させて、TEGアッセイにおいてインビトロでそれらの凝塊を分解するために必要なtPAの濃度を見出すことができる。そして、患者にこの量のtPAを全身的に投与して、インビボで血塊を溶解させ、それによって血塊に関連する不良転帰を予防することができる。このような調整tPA療法の効果を得る患者としては、限定されるものではないが、深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症(PE)、心筋梗塞(MI)または虚血性脳卒中を含む疾患状態を有する患者があげられる。
【0188】
実施例4:本明細書に記載の方法から効果を得る見かけ上健康な個体の確認
【0189】
この実施例4は、本発明のいくつかの実施態様の現実的な使用を示す仮説的な例を提供する。この仮想的な例では、40名の高齢者を運ぶバスと地元の大学のオーケストラの40名の学生メンバー運ぶバスの2つのバスが関与する交通事故を受けて、様々な年齢の患者が病院の救急室に運ばれる。高齢者の平均は60歳である。学生の平均年齢は19歳である。男女ともに両方のバスで等しくされる。
【0190】
年齢の違いを考慮して、高齢者が緊急ケアのためにより高い優先順位を与えられるように患者の治療の順番が決められる。しかしながら、少量の血栓溶解剤(例えば、75ng/mlのtPA)および多量の血栓溶解剤(例えば150ng/mlのtPA)の存在下でのTEGトレースは、すべての20名の学生から得られる。事故のニュースが大学に伝わると、学生のクラスメートや友人が緊急室に到着する。75ng/mlのTPAの存在下および150ng/mlのtPAの存在下でのTEGトレースは、負傷していない学生から得られる。負傷していない学生の平均年齢は19歳である。
【0191】
負傷したオーケストラ学生のほとんどは、負傷していない学生の75ng/mlのTPAの存在下および150ng/mlのtPAの存在下でのTEGトレースの大部分と実質的に同一の、75ng/mlのTPAの存在下および150ng/mlのtPAの存在下でのTEGトレースを有することになる。これらの負傷していない生徒のほとんどは、この用語が本明細書で使用されるように健康な個体である。
【0192】
しかしながら、2人の負傷したオーケストラの学生は、負傷していない学生の75 ng/mlのtPAの存在下のTEGトレースと異なる、75 ng/mlのtPAの存在下でのTEGトレースを有することが見いだされる。この2人の学生のLY30数は、負傷していない学生のLY30数よりも高い。これらの2人の生徒のうちの1人は、すぐにトラネキサム酸で処置される。彼女は完全に回復する。これら2人の学生うちの2人目の異常なTEGトレースは、不運にも見落とされる。その結果、彼はトラネキサム酸で処理されない。彼は緊急待合室では良好に見えたが、その後急に彼の外傷の出血が増加し、そして彼は内部出血(例えば、意識朦朧、腹痛、頭痛)の特徴を示す。救急室のスタッフが彼の容体が急に悪くなるのに注意するまでに、彼は死亡する。
【0193】
さらに、2人の負傷したオーケストラが、負傷していない学生の150ng/mlのtPAの存在下でのTEGトレースとは異なる、150ng/mlのtPAの存在下でのTEGトレースを有することが見出される。これらの2人の学生のLY30数は、負傷していない学生のLY30数よりも小さい。学生の1人は、抗凝固薬(例えば、ダビガトラン)などの血塊を弱めるまたは血塊の溶解を速める治療薬で直ちに処置され、完全に回復する。2人の学生のうちの他の1人は見落とされる。彼女の異常なTEGトレースに気が付くまでに、彼女の体内の大きな血塊は、彼女の腎臓の1つへの血液供給を減少させる。彼女は生存するが、その結果、彼女の腎臓は永続的に損傷している。
【0194】
この仮説的な例は、本明細書に記載された方法のいくつかを用いることで、負傷したオーケストラの学生のうちの4人が、健康な個体ではないが、見かけ上健康な個体であることを示している。しかしながら彼らは若いゆえに、彼らは救急室で見過ごされる。健康な個体の75ng/mlのtPAまたは150ng/mlのtPAの存在下でのTEGトレースと比較した、75ng/mlのtPAまたは150ng/mlのtPAの存在下でのTEGトレースでの彼らの異常なTEGトレースは、これら4名の患者を、異常な線維素溶解を有する見かけ上健康な個体として確認する。本明細書に記載されたように、潜在性高線維素溶解を有する患者が、抗線維素溶解剤(例えば、トラネキサム酸)などの、血塊を強めるまたは血塊の溶解を遅らせる治療剤で直ちに処置される場合、その患者は完全に回復することができるが、処置されない場合、その患者は死亡する可能性がある。同様に、線維素溶解停止を有する患者が、抗凝固剤(例えばダビガトラン)などの、血塊を弱めるまたは血塊の溶解を速める治療薬で直ちに処置された場合、その患者は完全に回復することができるが、処置されない場合、その患者は永続的な傷害を受けるか、または死亡する可能性がある。
【0195】
実施例5:グラフトから効果を得る可能性のある末期腎疾患を有する個体の確認
【0196】
はじめに:末期腎疾患(ESRD)の患者は、様々な異常な凝固を示す。低凝固性および高凝固性の混合パターンが、これらの患者において見出されることがありえ、凝塊形成の酵素相の奇異な延長、その後の急速な凝塊成長および上昇した最終凝塊強度を伴う。本実施例は、ESRDの凝固障害の凝固能が高まる成分の詳細な特徴を明らかにして、透析アクセス人工血管血栓の予防を目的とした予防療法の標的を開発するために実施した。
【0197】
方法:透析アクセス構築時に16名の連続ESRDヒト患者から血液を採取し、マルチチャンネルトロンボエラストグラフィ(TEG)を用いて53名の健康な個体(ボランティア)の血液と比較した。Rapid TEGおよび機能的フィブリノゲン(血小板阻害)TEGを用いて、血塊強度および血小板およびフィブリノゲンの相対的寄与を評価した。tPA誘発TEGを使用し、TEGの30分(LY30)パラメータでの凝固特性を用いて線維素溶解感受性を評価し、ここでサンプルを外因性tPA(例えば、1つは75ng/mlのヒト一本鎖tPA、1つは150ng/mlのヒト一本鎖tPAの2つの用量で)誘発した。血小板機能は、凝集能測定およびTEG血小板マッピングによって評価した。
【0198】
結果:Rapid TEG最大振幅(MA)で測定した全凝固強度は、ESRD患者では71±6mmであり、これに対し健常対照では66±4であった(p = 0.0005、両側マン - ホイットニー試験)。機能的フィブリノゲンレベル(血小板阻害TEG MAによる)は、ESRD患者において32(IQR29-37)mmであり、対照の 20 (IQR 17-22) mmよりも顕著に上昇した(p <0.0001)。ESRD患者はまた、高い用量の tPA(すなわち、150ng/mlのtPA)で、健常対照の56%(IQR 40−65%)と比較して、tPA誘発TEG LY30が29%(IQR 15−39%)(p =0.0004)といった、線維素溶解に対する耐性の上昇を示した。ESRD患者の血小板機能検査は正常範囲内であった。ESRD患者は、低用量および高用量のtPAの両方に耐性であり、線維素溶解停止状態にあることを示した。
【0199】
結論:高フィブリノゲン血症(すなわち潜在性高線維素溶解)および線維素溶解障害(すなわち線維素溶解停止)は、ESRDにおいて観察される凝固亢進の原因であり、人工血管/瘻孔血栓症に寄与し得る。酵素的凝固はESRDにおいてすでに延長されており、そして血小板機能は一般に正常であるので、ヘパリンまたはアスピリンのような伝統的な薬剤は、人工血管/瘻孔血栓症の予防において予防の効果が限られている。したがって、線維素凝塊強度に影響し、線維素溶解を促進する抗線維素溶解治療剤(例えば、第XIIIa因子阻害剤、トラネキサム酸(TXA)、PAI-1拮抗薬または組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)などの低用量血栓溶解剤)は、透析アクセスの予防に有用性がより高くなりうる。
【0200】
この実施例5の結果は、多量の血栓溶解剤(例えば、150ng/mlのtPA)の存在下でのTEG分析において、ESRD患者からの血液サンプルは健常個体からの血液サンプルよりも低いLY30値を有することを示している。本発明のいくつかの実施形態において、これらのESRD患者は、線維素溶解停止を有する可能性がある(または既に有する)と確認される。これらのESRD患者は、血塊を弱くするまたは血塊の溶解を速める治療剤(例えば、PAI-1拮抗薬、第XIIIa因子阻害剤、tPA、ヘパリン、ワルファリン、直接トロンビン阻害剤(例えばダビガトラン)および第Xa因子阻害剤(例えば、アピキサバン))の治療的に関連する量の予防投与から効果を得ることができる。
【0201】
実施例6:健康な個体の少量および多量のtPA平均の決定
【0202】
これらの研究は、75ng/mlのtPAまたは150ng/mlのtPAのいずれかで血液サンプルを処理した健康な個体の平均LY30値を決定するために行った。
【0203】
75ng/mlのtPAについて、150名の健康なボランティアの血液サンプルを試験した。最小LY30は0.7であった。25%パーセンタイルLY30値は5.875であった。中央LY30値は8.6であった。75%パーセンタイルLY30値は12.3であった。そして最大LY30は52.9であった。75ng/mlのtPAの存在下で血液サンプルを試験したこれらの健康な個体については、平均LY30値は10.987で、標準偏差は7.565であり、標準誤差は0.6177であった。平均の下限95%CIは8.97813であり、平均の上限95%CIは11.4192であった。
【0204】
図13Aは、75ng/mLのtPAの存在下における健康なボランティアの血液サンプルのLY30数の頻度を示す。上述したように、ビンは、特定のビン内のサンプルの平均LY30値の反映である。例えば、5に最も近いLY30値を持つすべてのサンプルがビン5に入ることになる。
図13Aからわかるように、ビン5および10(すなわち、5および10のLY30数)が最も高い頻度を有する。
【0205】
159ng/mlのtPAについて、115名の健康なボランティアの血液サンプルを試験した。最小LY30は5.8であった。25%パーセンタイルLY30値は40.1であった。中央LY30値は53.5であった。75%パーセンタイルLY30値は62.4であった。そして最大LY30は73.9であった。150ng/mlのtPAの存在下で血液を試験したこれらの健康な個体については、平均LY30値は49.7であり、標準偏差は16.8592であり、標準誤差は1.572であった。平均の下限95%CIは46.5865であり、平均の上限95%CIは52.8152であった。
【0206】
図13Bは、150ng/mLのtPAの存在下における健康なボランティアの血液サンプルのLY30数の頻度を示す。
図13Bからわかるように、健康な個体からの血液サンプルの大部分は、150ng/mlのtPAの存在下で50から70の間のLY30値を有していたが、ビン55および60(すなわち、55および60のLY30数)が最も高頻度であった。
【0207】
実施例7:少量のtPAおよび多量のtPAを含む容器およびカートリッジの製造
【0208】
ヒト一本鎖組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)は、Molecular Innovations(ノバイ、ミシガン州)から入手した。これを用いて個々の500μlバイアルを作製し、各バイアルは、37.5ngのtPAまたは75ngのtPAのいずれかを含んでいた。500μlの添加に続き、有する混合物において凍結乾燥した。
【0209】
37.5ngのtPA含有500μlバイアルおよび75ngのtPA含有500μlを以下のように作製した。
【0210】
ヒト一本鎖tPAを、1%BSAを有する、30mMTris-HCl、50mM NaCl、pH7.4 の25μlと混合する。tPAを凍結乾燥してバイアルに入れ、37.5ngまたは75ngのいずれかを各500μlバイアルに入れるようにした。いくつかの実施形態において、凍結乾燥されたtPAは、バイアルの内壁上にコートされる。
【0211】
500μl(すなわち、0.5ml)の血液サンプル(例えば、全血、または血漿)を添加すると、37.5ngのtPAを含むバイアル中のtPAの濃度は75ng/mlのtPAとなり、75ngのtPAを含むバイアル中のtPAの濃度は150ng/mlのtPAとなる。
【0212】
もちろん、異なる量のtPAを含むバイアルまたは他の容器またはカートリッジを使用して、他の濃度のtPAを容易に得ることができる。
【0213】
一度血液サンプルがバイアルに加えられると、バイアルを反転することによって、tPAを血液サンプルに混合することができる。バイアルは、例えば、TEGカップであってもよい。別の実施態様において、バイアルの混合内容物(すなわち、血液サンプルと混合されたtPA)をTEG容器またはTEGカートリッジに移すことができる。
【0214】
例えば、340μlのバイアルの混合内容物を、20μLの0.2mol / LのCaCl
2を予め充填した37℃のTEGカップに移すことができる。次いで、TEG分析を、TEGカップに充填されたサンプルに対して行うことができる。
【0215】
実施例8:高線維素溶解
【0216】
全身性の高線維素溶解は、外傷誘発凝固障害(TIC)の重要な要素であり、非常に致命的であり、それは60%を超える死亡率に関連している(
図14)。
図15に概略を示すように、この病理の詳細な分子メカニズムはまだ解明されていないが、トラネキサム酸(TXA)による可逆性によって証明されるように、外傷における高線維素溶解は主にtPA /プラスミンシステムによって引き起こされることが知られている。
【0217】
図16に概略が示されるように、組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)は、酵素前駆体プラスミノゲンの、その活性な線維素溶解性形態プラスミンへの変換を触媒する。プラスミノゲン活性化因子阻害剤1(PAI-1)は、tPAのコグネイト阻害剤であり、それによって相互に阻害的共有結合複合体を形成する(
図17)。これにより、プラスミンシステムが停止する(
図18)。tPAおよびPAI-1は、相互に阻害的であり、共有結合複合体と平衡状態で存在し、不活性であり、肝臓により除去される(
図19参照)。予備実験では、TEGにおいて明らかな高線維素溶解を伴う外傷患者の小集団において、PAI-1活性の検出が低レベルであることが示されている。しかしながら、総PAI-1は、心筋梗塞(MI)、脳卒中および血管疾患のような虚血状態で増加するが、これは主にPAI-1との不活性共有結合複合体の形態である。さらに、微小血管内皮は、出血性ショックにおいて顕著に上昇するカテコールアミンおよびバソプレシンと同様に、虚血性ストレスに応答してtPAを放出することができる。
【0218】
図20−25に記載されているように、活性化タンパク質C(aPC)は第V因子および第VIII因子の分解を介してTICの駆動因子であることが示されており(
図20−23)、さらにPAI-1のaPC媒介性分解は、外傷における全身性高線維素溶解の主な原因であることが示唆されている(
図24−25)。
【0219】
しかしながら、主成分分析は、TICの高線維素溶解成分(トロンボエラストグラムのLY30パラメータと見なされ、
図26の主成分3を構成する)がTICのトロンビン生成成分とは異なり、独立していることを証明している。したがって、これらの2つの現象は、機構的に区別されなければならず、両方がaPCによって媒介されることはできない。
【0220】
したがって、損傷後の高線維素溶解はtPAの過剰産生に起因し、PAI-1の破壊ではない可能性がある。
【0221】
これを試験するために、86名の連続重症外傷患者(25の中央外傷重症度スコア(ISS)、中央ベース過剰:-7.5)は、高線維素溶解についてスクリーニングし、健常対照(例えば、健康なボランティア)と比較した。活性ELISAおよびイムノアッセイを用いて、これらの患者の血漿(および健常対照の血漿)における活性PAI-1、活性tPAおよび不活性共有結合tPA/PAI-1複合体の相対レベルを定量した。
【0222】
粘弾性止血分析トロンボエラストグラフィまたは「TEG」は、線維素溶解を測定するために発達する血塊の機械的強度を測定する(
図27参照)。
【0223】
時間にわたり血塊の強度が増加するにつれて、典型的なTEG曲線が、X軸の時間およびY軸の凝塊強度にて展開する(
図4および
図28参照)。MAの30分後またはLY30における凝塊溶解量は、線維素溶解を、TEG曲線に基づく潜在的領域の喪失として定量する(
図29参照)。
【0224】
予期されたように、高線維素溶解患者は、TEGに重度の血栓溶解を示しただけでなく(
図30参照)、中央ISSが33、ベース欠乏が9、および死亡率52%で、一般的に非常に悪かった。
【0225】
全PAI-1レベル(活性PAI-1とそのtPAとの複合体の合計)を測定した。レベルは、高線維素溶解患者および健常対照において同一であるが(
図31、左パネル参照)、総血漿tPAは劇的に、ほぼ二桁大きく上昇した(
図31、右パネル参照)。これは、高線維素溶解患者における、PAI-1とtPAとの複合体化した形態のへの著しい移行を反映する。この移行と並行して、活性化tPAは、健常対照における最小レベルからほぼ10倍に上昇し、PAI-1の貯蔵のtPAのオーバーフローが圧倒していることを反映している(
図32、右パネル参照)。
【0226】
これを視覚化するため、
図33は、問題の3種間の全体的移行のグラフ表示である:活性型のtPA(赤色のバーの上)、PAI-1の活性型(青色のバーの下)、および不活性複合体(紫色のバーの中間)。健康な人は、活性PAI-1の巨大な貯蔵、少量の複合体、およびほとんど不活性のtPAを有する(
図33、左のバーを参照)。外傷における高線維素溶解において、総tPAレベルが著しく上昇し、遊離tPAが複合体になる(
図33、右のバーを参照)。
図33の右のバーの高線維素溶解性外傷患者における青色バーとしての活性PAI-1の量は非常に少ないことに留意されたい。
【0227】
したがって、出血性ショックを伴う外傷における高線維素溶解は、PAI-1の破壊ではなく、tPAレベルの大幅な増加によって引き起こされる。tPAの大過剰は、共有結合PAI-1 / tPA複合体を形成させることによりPAI-1を不活性化し、続いてこれが除去される。
【0228】
これを臨床的に適用するために、本明細書に記載のアッセイを開発した。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の新規なTEGアッセイが開発され、ここで患者の血液は、TEGを行う前にtPAの濃度が低い状態でインキュベートされる。tPAによるこの外因性誘発は、tPAの過剰および相対的PAI-1欠乏である本状態を明らかにする。このアッセイは、従来のTEGよりもプラスミンシステムの状態についてより明確なシグナルを与え、免疫アッセイよりもはるかに速く、および代償不全のちょうど閾値にあるかもしれない潜在性高線維素溶解を有する患者を明らかにする。
図34に示すように、高線維素溶解を有する患者は、TEG測定前に75ng/mlのtPAで血液をインキュベートした場合、正常な健康なボランティアと比較して有意に高い線維素溶解(LY30で測定)を有する。
【0229】
結論として、活性PAI-1の酵素的分解は、外傷誘発高線溶化の重要な特徴ではなく、むしろPAI-1の遊離活性型からtPAとの不活性複合体に移行する。tPA誘発TEGは、外傷性損傷の初期におけるtPA過剰の進展のための簡易な機能アッセイである。
【0230】
実施例9:線維素溶解停止
【0231】
止血の異常は、外傷において一般的であるが、止血は(もちろん)凝固だけではない。止血とは、血液が流れる場所の補修、および血液が血管区画から漏れて出血すべきではない場所での血液の流れの防止である。出血と凝固との間のホメオスタシスは、凝固と線維素溶解の2つに相互に関連し、そして平衡するシステムによって維持される(
図35参照)。このバランスは、主にトロンビンおよびプラスミンのそれぞれの活性によって促進され(
図36)、凝塊の線維素マトリックスの構築および溶解を触媒し、止血のバランスを維持する(
図37)。
【0232】
線維素溶解システムは、しばしば外傷において乱される。外傷誘発凝固障害(TIC)の状況における高線維素溶解の致死現象は、実施例8で上述したように起こるが、この病理は、外傷で観察される線維素溶解活性の範囲のごく一部のみを含む。線維素溶解の3つの異なる表現型があり、範囲の一端では20%未満の発生率の高線維素溶解、範囲の他端では最も一般的な状態の「線維素溶解停止」(重傷の外傷入院の> 60%を占める)がある(
図3および
図38参照)。死亡率は、線維素分解の生理学的レベルを有する患者と比較して、線維素溶解活性のこれらの2つの極端において上昇し、「U字型」の死亡率分布をもたらす(
図38参照)。線維素溶解停止の場合、死亡率は主に、多臓器不全のような後発の原因によるものであり、出血によるものではなく、これらの患者がTXAのような抗線維素溶解剤の実証的使用によって助けられるかまたは害されるかどうかの疑問が真摯に求められる(
図39参照)。
【0233】
線維素溶解は、厳重に調節されたホメオスタシス系の一部であり、その主なエンドエフェクタはプラスミンである。tPAは、酵素前駆体プラスミノゲンの、その活性型の線維素形態のプラスミンへの変換を触媒する(
図16および
図17参照)。PAI-1はtPAのコグネイト阻害剤であり、これは相互に阻害的な共有結合複合体を形成し、プラスミン系を停止させる(
図18参照)。
【0234】
高線維素溶解ではtPAが優位にある。PAI-1活性の抑制を促進する上昇したtPA活性(
図32、右パネル)は、外傷における高線維素溶解の主な特徴である(
図32、左パネル)。この状況の逆転は、線維素溶解停止(例えば、上昇したPAI-1が、tPA活性の抑制を促進する)の状態において得られる。したがって、外傷性損傷における線維素溶解停止は、主にPAI-1の上昇によるものでありえる。
【0235】
これを試験するために、線維素溶解停止にある47名の連続外傷活性化からのフィールドの血液および血漿サンプルを収集した。この研究の目的のために、線維素溶解停止は、それらの入院トロンボエラストグラムにおいて<0.8%TXA可逆的線維素溶解として慎重に定義された。線維素溶解停止を有する47名の連続最高レベル外傷活性化患者を、TEGによってスクリーニングした(患者は、中央ISSが17、中央BDが7であった)。彼らは、2つのアッセイによって、正常な線維素溶解を有する14名の健康なボランティアと比較された:外因性tPA誘発TEGで、患者のプラスミン系の活性化に対する機能的耐性の程度、ならびに活性PAI-1、活性tPAおよびPAI-1/tPAの不活性複合体についての三重ELISAを試験する。
【0236】
図9Bおよび
図40は、本明細書に記載され、本研究で使用されたtPA誘発TEGアッセイを用いた健康なボランティア患者33からの血液サンプルのTEG曲線を示す。本アッセイ(tPA誘発TEGと称されることもある)は、様々な濃度の外因性tPAの存在下での全血で行われる標準TEGである。
図9Bおよび
図40は、TEGアッセイが行われたときに血液が未処理の健常対照被験体のTEGトレース(「ネイティブ」TEGトレース)を示し、その血液は、低用量の75ng/mLのtPAの存在下でTEGアッセイが行われ(「低用量tPA」)、そしてその血液は、高用量の150ng/mLのtPAの存在下でTEGアッセイが行われる(「高用量tPA」)。予想通り、LY30によって測定される線維素溶解は、健康な個体におけるtPA誘発用量と共に増加する。
【0237】
しかしながら、線維素溶解停止患者は、外因性tPAに対して耐性である。
図41に示すように、それらの入院TEGにおける検出可能な線維素溶解を有しない外傷患者は、tPA誘発TEGにおいて外因性tPAに対する耐性を示した。
図41は、高用量のtPA(150ng/mL)に対するこれらの患者の血液の応答を示す。
図41に示すように、線維素溶解停止にある患者は、健常対照よりも20%低い中央tPA誘発LY30を有する。
【0238】
驚くべきことではないが、活性PAI-1は、線維素溶解停止を有する外傷患者において健康なボランティアよりも約6倍高く、一部の患者は正常のほぼ100倍に達する(
図42参照)。
【0239】
これらのデータを全体的な文脈に入れることを目的とし、
図43は、3つの異なる集団にわたる、活性PAI-1(
図43のバー下の青色)、活性tPA(
図43のバー上の赤色)、および相互不活性化複合体(
図43のバー中央の紫色)の相対レベルのグラフ表示を示している:左の健康なボランティア、中央のPAI-1の上昇が著しい線維素溶解停止を有する外傷患者、右の高線維素溶解外傷患者。興味深いことに、線維素溶解停止を有する外傷患者は、全tPA(バーの赤色部分と紫色部分の合計)の上昇を示すが、これはほとんどが圧倒的なPAI-1(
図43のバー下の青色)により不活性複合体にされている。これとは対照的に、
図43の右に示すように、高線維素溶解の外傷患者には逆の関係があり、PAI-1を不活性複合体にするtPAのレベルが上昇している(
図2も参照)。
【0240】
要約すると、重症患者の>60%を占める、入院TEGにおける線維素溶解停止を有する外傷患者は、健常対照と比較して、外因性tPAに対する耐性の増加および活性PAI-1の6倍の増加を示し、一方で活性tPAは、線維素溶解停止を有するこれらの患者においてほぼゼロに抑制された。
【0241】
臨床的適用性の観点から、機能アッセイとしてのtPA誘発TEGは、異常に上昇したPAI-1および完全に機能しないプラスミン系を有する外傷患者を、TEGにおいて線維素溶解の明らかな証拠を単に有さない者から区別するのに適用されうる。
図44は、健康なボランティア(緑色の菱形)および外傷患者(紫色の四角形)の両方における高用量tPA誘発TEG応答の関数としての活性PAI-1レベルの単純な散布図である。
図44に示すように、異常に上昇したPAI-1を有する全ての外傷患者は、外因性tPA誘発に対する応答の抑制を示し、アッセイが優れた負の予測値を有することを意味する。したがって、このアッセイは、重篤な線維素溶解停止に対する良好な機能的スクリーニングツールである。
【0242】
したがって、最も重篤な損傷を受けた患者は、PAI-1レベルの大規模な上昇のためにtPAに対して耐性であり、そして抗線維素溶解剤を投与すると有害事象の危険性の可能性がある。本明細書に記載のtPA誘発TEGアッセイは、これらの外傷患者の線維素溶解停止を迅速にスクリーニングして診断し、したがって不必要で有害な抗線維素溶解療法を回避する手段を提供する。
【0243】
上述した本発明の実施形態は単なる例示であることを意図しており、当業者には数多くの変形および修正が明らかであろう。そのような変形および修正のすべては、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲内にあることが意図されている。