(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フィブリノーゲン結合ペプチドが、フィブリノーゲンのホール「b」より、フィブリノーゲンのホール「a」に選択的に結合する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
前記フィブリノーゲン結合ペプチドが、フィブリノーゲンのホール「a」より、フィブリノーゲンのホール「b」に選択的に結合する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
前記複数の担体が、第1の複数の担体、および第2の複数の担体を含み、前記第1の複数の担体に結合した前記フィブリノーゲン結合ペプチドが、前記第2の複数の担体に結合した前記フィブリノーゲン結合ペプチドとは異なる配列である、請求項9に記載の組成物。
異なる配列の前記フィブリノーゲン結合ペプチドが、フィブリノーゲンのホール「b」に比べて、フィブリノーゲンのホール「a」に対する結合の異なる選択性を有する、請求項9〜11のいずれか1項に記載の組成物。
異なる配列の前記フィブリノーゲン結合ペプチドが、フィブリノーゲンのホール「b」よりフィブリノーゲンのホール「a」に選択的に結合する第1のフィブリノーゲン結合ペプチド、および前記第1のフィブリノーゲン結合ペプチドより高い結合選択性でフィブリノーゲンのホール「b」よりフィブリノーゲンのホール「a」に結合する第2のフィブリノーゲン結合ペプチドを含む、請求項9〜12のいずれか1項に記載の組成物。
異なる配列の前記フィブリノーゲン結合ペプチドが、フィブリノーゲンのホール「b」よりフィブリノーゲンのホール「a」に選択的に結合する第1のフィブリノーゲン結合ペプチド、およびフィブリノーゲンのホール「a」よりフィブリノーゲンのホール「b」に選択的に結合する第2のフィブリノーゲン結合ペプチドを含む、請求項9〜12のいずれか1項に記載の組成物。
前記第2のフィブリノーゲン結合ペプチドが、そのアミノ末端に、アミノ酸配列GHRP−(配列番号10)、好ましくはアミノ酸配列GHRPY−(配列番号11)を含む、請求項16または17に記載の組成物。
前記ポリサッカライドが、グリコサミノグリカン、酸化セルロース、キトサン、キチン、アルギネート、酸化アルギネート、または酸化デンプンを含む、請求項1〜20のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の概要】
【0013】
本発明では、止血組成物が提供され、該組成物は、複数の担体およびそれぞれの担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合ペプチドを含む可溶性止血剤;生体適合性液体;および止血での使用に好適し、生体適合性液体中に不溶性の生体適合性架橋ポリサッカライド粒子を含む。
【0014】
本発明の特定の実施形態では、組成物は、すぐに使える流動性止血組成物である。
【0015】
意外にも、本発明の組成物中の止血剤は、滅菌、特に蒸気滅菌、または乾熱滅菌に耐性があることが見出された。したがって、本発明の組成物は、止血活性の大きな低下なしに、従来の滅菌法を使って滅菌し得る。組成物を水和した無菌のすぐに使える流動性止血組成物として提供することを可能とするので、これは重要な利点である。水和したすぐに使える形態で熱または蒸気滅菌する場合、トロンビンを含む従来のゼラチン系止血剤は安定ではない。
【0016】
本明細書で使われる場合、用語の「止血性」は、出血を停止させるまたは最小化する能力を意味する。
【0017】
本明細書で使われる場合、用語の「生体適合性」は、有毒または有害ではない、および免疫学的な拒絶を生じないことにより、材料が生きている組織と適合性があることを意味する。材料は、好ましくは、International Organization for Standardization(NAMSA,Northwood,Ohio)により公表されている規格#ISO10993−1の基準に適合するべきである。
【0018】
本明細書で使われる場合、用語の「流動性」は、閾値レベルを超える応力を受けた場合、例えば、オリフィスまたはカニューレを通して押し出された場合、またはスパチュラを使って送達部位中に詰め込まれた場合、組成物が流動することを意味する。閾値応力は通常、3x10
4〜5x10
5Paの範囲である。しかし、閾値レベル未満の応力を受けた場合、組成物は通常、不動のままであろう。流動性組成物は通常、組成物が送達される標的部位で不規則な創傷形状に適合できる。
【0019】
止血剤、液体および不溶性粒子を組み合わせて、連続的生体適合性液相を含み、液相全体に実質的に均一に分散した粒子を含む、実質的に均一な止血組成物を得るのに効果的な条件下で混合し得る。
【0020】
本明細書で使用される場合、「実質的に均一な」は、固体:液体の比率および組成物の任意の部分または断面の密度が実質的に同じであるように固体粒子が連続液相全体に均一に分散された組成物の物理的状態を意味する。
【0021】
本発明の特定の態様では、組成物は吸収性である。本明細書で使われる場合、用語の「吸収性」は、それらの最初の適用後、1年以下、通常1日〜1年、より一般的には1〜120日、または1〜90日、または2〜30日間にわたり、患者の身体の標的部位に直接投与される(および乳房インプラントなどのインプラント装置内に保護されない)場合、組成物が分解または可溶化するはずであることを意味する。吸収および分解を測定するプロトコルは、国際公開第98/08550号に記載されている。
【0022】
本発明の組成物に使われる止血剤は、複数の担体およびそれぞれの担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合ペプチドを含む。意外にも、本発明の止血組成物中に存在するとき、止血剤はフィブリノーゲンを重合することができるということが見出された。
【0023】
本発明の組成物で使用する止血剤は、トロンビンの非存在下、水溶液中でフィブリノーゲンを重合することができる。それぞれのフィブリノーゲン分子は、少なくとも2個のフィブリノーゲン結合ペプチドに結合できる。複数のフィブリノーゲン結合ペプチドがそれぞれの担体に固定化されているので、フィブリノーゲン分子は、担体を介して一緒に結合する。フィブリノーゲン分子とフィブリノーゲン結合ペプチドとの間で非共有結合が形成される。水溶液では、止血剤がフィブリノーゲンと接触すると、重合フィブリノーゲンを含むヒドロゲルが形成される。
【0024】
止血剤は、生体適合性液体、および血漿に可溶性である必要がある。止血剤は、少なくとも1mlの溶媒あたり10mgの溶解度、例えば、10〜1000mg/ml、33〜1000mg/ml、または33〜100mg/mlの溶解度を有し得る。止血剤は、出血創傷部位への投与に好適する必要がある。担体は、ポリマー、例えば、タンパク質、ポリサッカライド、もしくはポリエチレングリコールなどの合成生体適合性ポリマー、またはこれらの内のいずれかの組み合わせを含んでよい。アルブミンはタンパク質担体の一例である。好ましい実施形態では、フィブリノーゲン結合ペプチドは担体に共有結合で固定化される。
【0025】
いくつかの実施形態では、可溶性止血剤は、国際出願第2008/065388号(この出願の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載のバイオゲル形成用の可溶性薬剤である。国際出願第2008/065388号は、可溶性ヒト血清アルブミン(HSA)担体に結合したいくつかのフィブリノーゲン結合ペプチド(それぞれ、ペプチドのアミノ末端にフィブリノーゲン結合ペプチド配列GPRP−を含む)を含む試薬を使ったバイオゲルの形成について記載している。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態では、止血剤のそれぞれの担体は分岐コアおよびそれぞれの分岐コアに別々に共有結合した複数のフィブリノーゲン結合ペプチドを含む。例えば、止血剤は、分岐コアおよび分岐コアに別々に共有結合した複数のフィブリノーゲン結合ペプチドを含むペプチドデンドリマーであってよい。
【0027】
分岐コアは、
2〜10個の多官能性アミノ酸残基であって、それぞれのフィブリノーゲン結合ペプチドが別々に分岐コアの多官能性アミノ酸残基に共有結合している多官能性アミノ酸残基;
複数の多官能性アミノ酸残基であって、1個または複数のフィブリノーゲン結合ペプチドがそれぞれ別々に分岐コアの少なくとも2個の隣接する多官能性アミノ酸残基に共有結合する多官能性アミノ酸残基;
複数の多官能性アミノ酸残基であって、2個以上のフィブリノーゲン結合ペプチドが別々に分岐コアの少なくとも1個の多官能性アミノ酸残基に共有結合する多官能性アミノ酸残基;
複数の多官能性アミノ酸残基であって、2個以上の多官能性アミノ酸残基が隣接する多官能性アミノ酸残基の側鎖を介して共有結合で連結する多官能性アミノ酸残基;
または単一の多官能性アミノ酸残基であって、フィブリノーゲン結合ペプチドが別々に多官能性アミノ酸残基のそれぞれの官能基に共有結合する多官能性アミノ酸残基、を含み得、
多官能性アミノ酸残基は、三もしくは四官能性アミノ酸残基、または三および四官能性アミノ酸残基を含み、または
単一の多官能性アミノ酸残基は、三もしくは四官能性アミノ酸残基、を含む。
【0028】
それぞれのフィブリノーゲン結合ペプチドは、異なる分岐コアとの結合点を有し、したがって、フィブリノーゲン結合ペプチドは、本明細書では分岐コアに「別々に共有結合される」と呼ばれる。
【0029】
分岐コアは任意の好適なアミノ酸配列を含む。分岐コアは、10個までの多官能性アミノ酸残基、例えば、2〜10個、または2〜6個の多官能性アミノ酸残基を含み得る。
【0030】
分岐コアは、複数の連続した多官能性アミノ酸残基を含み得る。分岐コアは、10個までの連続した多官能性アミノ酸残基を含み得る。
【0031】
本明細書で使われる場合、用語の「三官能性アミノ酸」は、アミン(−NH
2)である第1の官能基、カルボン酸(−COOH)である第2の官能基、および第3の官能基を有する任意の有機化合物を意味する。本明細書で使われる場合、用語の「四官能性アミノ酸」は、アミン(−NH
2)である第1の官能基、カルボン酸(−COOH)である第2の官能基、第3の官能基、および第4の官能基を有する任意の有機化合物を意味する。第3および第4の官能基は、フィブリノーゲン結合ペプチドのカルボキシ末端と反応できる任意の官能基、またはフィブリノーゲン結合ペプチドのカルボキシ末端に結合したリンカーの官能基と反応できる任意の官能基であってよい。
【0032】
多官能性アミノ酸は、アミノ基、カルボキシル基、およびさらなる官能基(それにより、三官能性アミノ酸を提供する)、またはさらなる2個の官能基(それにより、四官能アミノ酸を提供する)を有する側鎖を有する中心炭素原子(α−または2−)を含み得る。
【0033】
その、またはそれぞれの多官能性アミノ酸残基は、タンパク質を構成するまたは非蛋白質構成多官能性アミノ酸の残基、または天然のまたは非天然の多官能性アミノ酸の残基であってよい。
【0034】
タンパク質を構成する三官能性アミノ酸は、アミノ基、カルボキシル基、側鎖およびα−水素左旋性配座を有する中心炭素原子(α−または2−)を有する。好適な三官能性タンパク質を構成するアミノ酸の例には、L−リジン、L−アルギニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−アスパラギン、L−グルタミン、およびL−システインが挙げられる。
【0035】
好適な三官能性の非蛋白質構成アミノ酸残基の例には、D−リジン、ベータリジン、L−オルニチン、D−オルニチン、およびD−アルギニン残基が挙げられる。
【0036】
したがって、本発明の組成物の止血剤に使用する好適な三官能性アミノ酸残基の例には、リジン、オルニチン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、およびシステイン残基、例えば、L−リジン、D−リジン、ベータリジン、L−オルニチン、D−オルニチン、L−アルギニン、D−アルギニン、L−アスパラギン酸、D−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、D−グルタミン酸、L−アスパラギン、D−アスパラギン、L−グルタミン、D−グルタミン、L−システイン、およびD−システイン残基が挙げられる。
【0037】
本発明の組成物の止血剤で使用に好適する多官能性非天然アミノ酸の例には、シトルリン、2,4−ジアミノイソ酪酸、2,2’−ジアミノピメリン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸、およびシス−4−アミノ−L−プロリンが挙げられる。多官能性非天然アミノ酸は、Sigma−Aldrichから入手できる。
【0038】
いくつかの実施形態では、分岐コアは、2〜10個、または2〜6個の、連続したリジン、アルギニン、またはオルニチン残基を含む分岐コアなどの、ホモポリマー多官能性アミノ酸配列、例えば、ポリリジン、ポリアルギニン、またはポリオルニチン配列を含んでよい。他の実施形態では、分岐コアは、異なる多官能性アミノ酸残基、例えば、1個または複数のリジン残基、1個または複数のアルギニン残基、および/または1個または複数のオルニチン残基を含んでよい。
【0039】
他の実施形態では、分岐コアは、複数の多官能性アミノ酸残基、および1個または複数のその他のアミノ酸残基を含んでよい。
【0040】
分岐コアが複数の多官能性アミノ酸残基を含む場合は、隣接する多官能性アミノ酸残基はアミノ酸側鎖連結により、ペプチド結合により一緒に連結され得、またはいくつかの隣接する多官能性アミノ酸残基は側鎖連結によりおよびその他の残基はペプチド結合により一緒に連結され得る。
【0041】
さらなる実施形態では、分岐コアは2個以上の多官能性アミノ酸残基を含んでよく、少なくとも1個のフィブリノーゲン結合ペプチドは、2個以上の多官能性アミノ酸残基のそれぞれに別々に結合し、また、2個以上のフィブリノーゲン結合ペプチドは、分岐コアの少なくとも1個の多官能性アミノ酸残基に別々に結合する。
【0042】
その他の実施形態では、2個のフィブリノーゲン結合ペプチドは、分岐コアの末端多官能性アミノ酸残基に別々に結合する。
【0043】
本発明の組成物の止血剤としての使用に好適するペプチドデンドリマーの構造の例には、下記のペプチドデンドリマーが含まれる:
・分岐コアは、2個のフィブリノーゲン結合ペプチドが結合している第1の三官能性アミノ酸残基、および1個のフィブリノーゲン結合ペプチドが結合している第2の三官能性アミノ酸残基を含む;
・分岐コアは、2個のフィブリノーゲン結合ペプチドが結合している第1の三官能性アミノ酸残基、および2個のフィブリノーゲン結合ペプチドが結合している第2の三官能性アミノ酸残基を含む;
・分岐コアは、2個のフィブリノーゲン結合ペプチドが結合している第1の三官能性アミノ酸残基、1個のフィブリノーゲン結合ペプチドが結合している第2の三官能性アミノ酸残基、および1個のフィブリノーゲン結合ペプチドが結合している第3の三官能性アミノ酸残基を含む;または
・分岐コアは、2個のフィブリノーゲン結合ペプチドが結合している第1の三官能性アミノ酸残基、1個のフィブリノーゲン結合ペプチドが結合している第2の三官能性アミノ酸残基、1個のフィブリノーゲン結合ペプチドが結合している第3の三官能性アミノ酸残基、および1個のフィブリノーゲン結合ペプチドが結合している第4の三官能性アミノ酸残基を含む。
【0044】
本発明の組成物の止血剤としての使用に好適するペプチドデンドリマーは、下記の一般式(I)を含み得る:
【化1】
式中、
FBPは、フィブリノーゲン結合ペプチドであり;
−(リンカー)−は、任意のリンカー、好ましくは非ペプチドリンカーであり;
Xは、三官能性アミノ酸残基、好ましくは、リジン、オルニチン、またはアルギニンであり;
Yは、−FBP、または−NH
2であり;
Zは、Yが−FBPの場合、−(リンカー)−FBPであり、またはYが−NH
2の場合、−[−X
n−(リンカー)−FBP]
a−(リンカー)−FBPであり;
式中、
X
nは、三官能性アミノ酸残基、好ましくは、リジン、L−オルニチン、またはアルギニンであり;および
aは1〜10、好ましくは1〜3である。
【0045】
例えば、YがNH
2、Zが−[−X
n−(リンカー)−FBP]
a−(リンカー)−FBPである場合、デンドリマーの構造は以下の通りである:
aが1の場合:
【化2】
または、aが2の場合:
【化3】
または、aが3の場合:
【化4】
【0046】
あるいは、Yが−FBPの場合、Zは、−[−X
n−(リンカー)−FBP]
a−(リンカー)−FBPであり;
式中、
X
nは、三官能性アミノ酸残基、好ましくは、リジン、L−オルニチン、またはアルギニンであり;および
aは1〜10、好ましくは1〜3である。
【0047】
例えば、Yが−FBP、Zが−[−X
n−(リンカー)−FBP]
a−(リンカー)−FBPで、aが1である場合、デンドリマーの構造は以下の通りである:
【化5】
【0048】
本発明の組成物の止血剤としての使用に好適するペプチドデンドリマーは、下記の一般式(II)を含み得る:
【化6】
式中、
FBPは、フィブリノーゲン結合ペプチドであり;
−(リンカー)−は、任意のリンカーであり、好ましくは−NH(CH
2)
5CO−を含み;
Yは、−FBP、または−NH
2であり;
Zは:
Yが−FBPの場合、
−R−(リンカー)−FBP
であり、または
Yが−NH
2の場合、
【化7】
であり;または
Yが−NH
2の場合、
【化8】
であり;または
Yが−NH
2の場合、
【化9】
であり;
式中、Rは、−(CH
2)
4NH−、−(CH
2)
3NH−、または−(CH
2)
3NHCNHNH−である。
【0049】
したがって、一実施形態では、Zは:
Yが−NH
2の場合、
【化10】
であってよく;
式中、Rは、−(CH
2)
4NH−、−(CH
2)
3NH−、または−(CH
2)
3NHCNHNH−であり;
aは1〜3である。
あるいは、aは4〜10であってよく、または1〜10であってよい。
【0050】
別の実施形態では、Zは:
Yが−FBPの場合、
【化11】
であり、
式中、Rは、−(CH
2)
4NH−、−(CH
2)
3NH−、または−(CH
2)
3NHCNHNH−であり;
aは1〜10、好ましくは1〜3である。
【0051】
例えば、Zは:
Yが−FBPで、aが1の場合、
【化12】
である。
【0052】
本発明の組成物の止血剤としての使用に好適するペプチドデンドリマーは、下記の一般式(III)を含み得る:
【化13】
式中、
FBPは、フィブリノーゲン結合ペプチドであり;
−(リンカー)−は、任意のリンカーであり、好ましくは−NH(CH
2)
5CO−を含み;
Yは、−FBP、または−NH
2であり;
Zは:
Yが−FBPの場合、
−(CH
2)
4NH−(リンカー)−FBP
であり;または
Yが−NH
2の場合、
【化14】
であり;または
Yが−NH
2の場合、
【化15】
であり;または
Yが−NH
2の場合、
【化16】
である。
【0053】
したがって、一実施形態では、Zは:
Yが−NH
2の場合、
【化17】
であってよく;
aは1〜3である。
あるいは、aは4〜10であり、または1〜10であってよい。
【0054】
別の実施形態では、Zは:
Yが−FBPの場合、
【化18】
であり;
式中、aは1〜10、好ましくは1〜3である。
【0055】
例えば、Zは:
Yが−FBPで、aが1の場合、
【化19】
である。
【0056】
任意の好適なフィブリノーゲン結合ペプチド(FBP)を本発明の組成物中の止血剤に使用してよい。例えば、FBPは、天然でフィブリンに結合している、または血小板膜糖タンパク質GPIIb−IIIaにより結合されているフィブリノーゲンの領域に結合可能であり得る。フィブリンのフィブリノーゲンへの結合は、Mosesson et al.2001,Ann.N.Y.Acad.Sci.,936,11−30で考察されている。GPIIb−IIIaのフィブリノーゲンへの結合は、Bennett,2001,Annals of NY Acad.Sci.,936,340−354で考察されている。
【0057】
本明細書で使用される場合、用語の「ペプチド」は、ペプチド類似体も包含する。いくつかのペプチド類似体は当業者に既知である。フィブリノーゲンがフィブリノーゲン結合ペプチドに結合できる限りにおいて、任意の好適な類似体を使ってよい。
【0058】
好適なフィブリノーゲン結合ペプチドの例およびそれらを特定し得る方法は、国際公開第2005/035002号、同第2007/015107号、および同第2008/065388号で与えられている。
【0059】
好適なFBPの配列例には、次記が含まれる:GPR−;GPRP−(配列番号1);GPRV−(配列番号2);GPRPFPA−(配列番号3);GPRVVAA−(配列番号4);GPRPVVER−(配列番号5);GPRPAA−(配列番号6);GPRPPEC−(配列番号7);GPRPPER−(配列番号8);GPSPAA−(配列番号9);GHR−、GHRP−(配列番号10)、GHRPY−(配列番号11)、GHRPL−(配列番号12)、GHRPYアミド−(配列番号13);APFPRPG(配列番号14)。
【0060】
FBPの好ましい例には、そのアミノ末端にアミノ酸配列G(P,H)RX−(配列番号15)が含まれ、式中、Xは任意のアミノ酸であり、(P,H)はプロリンまたはヒスチジンがその位置に存在することを意味する。
【0061】
担体に結合したFBPは、同じまたは異なる配列を含んでよい。FBPは、それぞれ3〜60個、3〜30個、または3〜10個のアミノ酸残基の長さであってよい。
【0062】
いくつかの実施形態では、それぞれのフィブリノーゲン結合ペプチドは、10
−9〜10
−6M、例えば、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、200、250、300、350、400、またはそれを超えるnMの解離定数(K
D)でフィブリノーゲンに結合する。約100nMのK
Dが好ましい。解離定数は平衡時に測定できる。例えば、既知の濃度の放射標識フィブリノーゲンをフィブリノーゲン結合部分が架橋しているマイクロスフェアとインキュベートできる。通常、5μMのペプチドが1gのマイクロスフェアに架橋する、または15〜40μモルのペプチドが1gのマイクロスフェアに架橋する。ペプチド結合マイクロスフェアは、0.5mg/mlに希釈され、pH7.4の等張性緩衝液(例えば、0.15MのNaClを含む0.01Mヘペス緩衝液)中で、0.05〜0.5mg/mlの濃度の放射標識フィブリノーゲンと共に20℃で1時間までインキュベートされる。マイクロスフェア上のフィブリノーゲン結合ペプチドに結合したフィブリノーゲンは、遠心分離により遊離フィブリノーゲンから分離でき、遊離および結合フィブリノーゲンの量が測定される。次に、結合:遊離フィブリノーゲンの濃度の比率に対し、結合フィブリノーゲンの濃度をプロットすることにより、スキャチャード解析で解離定数が計算でき、曲線の傾斜がK
Dを表す。
【0063】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物に使用するための止血剤のフィブリノーゲン結合ペプチド、特にペプチドデンドリマーは、フィブリノーゲンのホール「b」より、フィブリノーゲンのホール「a」に選択的に結合する。フィブリノーゲンのホール「b」より、ホール「a」に選択的に結合する好適なフィブリノーゲン結合ペプチドの配列例には下記が含まれる:GPR−;GPRP−(配列番号1);GPRV−(配列番号2);GPRPFPA−(配列番号3);GPRVVAA−(配列番号4);GPRPVVER−(配列番号5);GPRPAA−(配列番号6);GPRPPEC−(配列番号7);GPRPPER−(配列番号8);GPSPAA−(配列番号9)。
【0064】
その他の実施形態では、本発明の組成物に使用するための止血剤のフィブリノーゲン結合ペプチド、特にペプチドデンドリマーは、フィブリノーゲンのホール「a」より、フィブリノーゲンのホール「b」に選択的に結合する。フィブリノーゲンのホール「a」より、ホール「b」に選択的に結合するフィブリノーゲン結合ペプチドの配列例には下記が含まれる:GHR−、GHRP−(配列番号10)、GHRPY−(配列番号11)、GHRPL−(配列番号12)、GHRPYアミド−(配列番号13)。
【0065】
それぞれのフィブリノーゲン結合ペプチドは、独立に、そのカルボキシ末端で(必要に応じてリンカーを介して)、またはアミノ末端で(必要に応じてリンカーを介して)担体、またはデンドリマーの分岐コアに結合し得る。フィブリノーゲン結合ペプチドがそのアミノ末端で結合する場合は、ペプチドのカルボキシ末端は、アミド基を含み得る。露出したペプチドのカルボキシ末端での、カルボキシル基(または負電荷カルボキシレートイオン)ではなくアミド基の存在は、フィブリノーゲン結合ペプチドのフィブリノーゲンへの結合を最適化するのを支援し得る。
【0066】
いくつかの実施形態では、それぞれのフィブリノーゲン結合ペプチドは、そのカルボキシ末端で担体に、またはデンドリマーの分岐コアに(必要に応じてリンカーを介して)結合する。他の実施形態では、少なくとも1個のフィブリノーゲン結合ペプチドは、そのアミノ末端で担体に、またはデンドリマーの分岐コアに(必要に応じてリンカーを介して)結合する。例えば、フィブリノーゲンのホール「b」よりホール「a」に選択的に結合する少なくとも1個のフィブリノーゲン結合ペプチド、例えば、配列APFPRPG(配列番号14)を含むペプチドは、そのアミノ末端で担体に、またはデンドリマーの分岐コアに(必要に応じてリンカーを介して)結合し得る。
【0067】
好都合にも、止血剤、またはペプチドデンドリマーは、異なる配列のフィブリノーゲン結合ペプチドを含む(本明細書においては、「キメラ」止血剤、またはペプチドデンドリマーと呼ぶ)。例えば、いくつかの実施形態では、止血剤、またはペプチドデンドリマーは、フィブリノーゲンのホール「b」と比較してホール「a」に対する異なる結合選択性を有するフィブリノーゲン結合ペプチドを含む。
【0068】
本発明の組成物に使われる止血剤は複数の担体を含んでよく、それぞれの担体は、複数の担体に結合したフィブリノーゲン結合ペプチドを有し、担体に結合したフィブリノーゲン結合ペプチドは、種々の配列のフィブリノーゲン結合ペプチドを含む。
【0069】
いくつかの実施形態では、複数の担体は、第1の複数の担体、および第2の複数の担体を含み、第1の複数の担体に結合したフィブリノーゲン結合ペプチドは、第2の複数の担体に結合したフィブリノーゲン結合ペプチドとは異なる配列である。
【0070】
他の実施形態では、それぞれの担体は、それに結合した異なる配列のフィブリノーゲン結合ペプチドを有する。
【0071】
理論上は、担体分子当たりのフィブリノーゲン結合ペプチドの数に制限はない。最適数は、多くの因子、例えば、担体の性質、およびそれぞれの担体上のフィブリノーゲン結合ペプチドに結合するための反応性基の数に依存し得る。しかし、平均で担体分子当たり最大100個のフィブリノーゲン結合ペプチドが存在することが好ましい。好ましくは平均で担体分子当たり少なくとも3個の、好ましくは少なくとも4個または5個のフィブリノーゲン結合ペプチドが存在する。好ましい範囲は、担体分子当たり、10〜20個のフィブリノーゲン結合ペプチドである。
【0072】
担体は、フィブリノーゲン結合ペプチドの結合を可能とする反応性基を含んでよい。例えば、担体は、その表面にチオール部分またはアミン部分を含んでよい。担体がタンパク質性である場合は、チオールまたはアミン部分はアミノ酸、例えば、システインまたはリジンの側鎖により提供され得る。あるいは、反応性基を担体に付加してもよい。担体がアルブミンなどのタンパク質から形成される場合は、これは特に有利である。例えば、担体は、担体上の一級アミン基と反応できる2−イミノチオラン(2−IT)を用いてチオール化され得る。あるいは、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)の存在下でシスタミンを担体上のカルボキシル基に結合させ、その後、導入されたジスルフィド結合の還元開裂を行ってもよい。
【0073】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン結合ペプチドはスペーサーを介して担体に共有結合で固定化される。好ましいスペーサーは、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)などの親水性ポリマーを含む非ペプチドスペーサーである。好ましい実施形態では、PEGスペーサーによってチオール反応性基(例えば、マレイミド基)に結合したフィブリノーゲン結合ペプチドをそれぞれ含む複数のペプチド複合体が、チオール化担体(例えば、2−ITまたはシスタミンを使って上述のように調製された)と反応する。好適な非ペプチドスペーサーは、国際公開第2013/114132号に記載されている。
【0074】
異なる配列のフィブリノーゲン結合ペプチドは、フィブリノーゲンのホール「b」よりホール「a」に選択的に結合する第1のフィブリノーゲン結合ペプチド、および第1のフィブリノーゲン結合ペプチドより高い選択性でフィブリノーゲンのホール「b」よりホール「a」に結合する第2のフィブリノーゲン結合ペプチドを含み得る。このようなフィブリノーゲン結合ペプチド配列を有するペプチドデンドリマーは、比較的広いペプチドデンドリマー濃度範囲にわたりフィブリノーゲンを急速に重合することが明らかになった。
【0075】
例えば、第1のフィブリノーゲン結合ペプチドは、そのアミノ末端にアミノ酸配列GPRP−(配列番号1)を含み得、かつ/または第2のフィブリノーゲン結合ペプチドは、そのカルボキシ末端にアミノ酸配列−APFPRPG(配列番号14)を含み得、配列のアミノ酸残基は、アミノ−からカルボキシ−の順序で表され、「−」は、ペプチドデンドリマーの分岐コアに、または担体に結合した配列の末端を表す。カルボキシ末端に配列−APFPRPG(配列番号14)を有するフィブリノーゲン結合ペプチドは、そのアミノ末端にGPRP−(配列番号1)を有するフィブリノーゲン結合ペプチドに比べて、フィブリノーゲンのホール「b」よりホール「a」により高い選択性で結合する。
【0076】
他の実施形態では、異なる配列のフィブリノーゲン結合ペプチドは、フィブリノーゲンのホール「b」よりホール「a」に選択的に結合する第1のフィブリノーゲン結合ペプチド、およびフィブリノーゲンのホール「a」よりホール「b」に選択的に結合する第2のフィブリノーゲン結合ペプチドを含み得る。このようなフィブリノーゲン結合ペプチド配列を有するペプチドデンドリマーは、フィブリノーゲンのホール「b」より、ホール「a」に選択的に結合するフィブリノーゲン結合ペプチドのみを含む等価のペプチドデンドリマーに比べて、フィブリノーゲンと重合して比較的密なヒドロゲルを形成することが明らかになった。形成されたヒドロゲルの密度の増加は、デンドリマーのフィブリノーゲン結合ペプチドがフィブリノーゲンのホール「a」およびホール「b」へ結合し、それにより、重合フィブリノーゲンの網状組織を強化したことによると考えられている。
【0077】
例えば、第1のフィブリノーゲン結合ペプチドは、そのアミノ末端にアミノ酸配列GPRP−(配列番号1)を含み得る、かつ/または第2のフィブリノーゲン結合ペプチドは、そのアミノ末端にアミノ酸配列GHRP−(配列番号10)、またはアミノ酸配列GHRPY−(配列番号11)を含み得る。アミノ末端に配列GPRP−(配列番号1)を有するフィブリノーゲン結合ペプチドは、フィブリノーゲンのホール「a」に若干の選択性で結合する。アミノ末端に配列GHRP−(配列番号10)、またはGHRPY−(配列番号11)を有するフィブリノーゲン結合ペプチドは、フィブリノーゲンのホール「b」に選択的に結合する。
【0078】
1個または複数の、またはそれぞれのフィブリノーゲン結合ペプチドは、止血剤の担体に、例えば、ペプチドデンドリマーの分岐コアに、非ペプチドリンカーにより共有結合し得る。リンカーは、フィブリノーゲンのフィブリノーゲン結合ペプチドへの結合と干渉しない任意の好適なリンカーであってよい。リンカーは可撓性の直鎖リンカー、適宜に直鎖アルキル基を含んでよい。このようなリンカーは、フィブリノーゲン結合ペプチドが相互に離れて伸長するのを可能にする。例えば、リンカーは、−NH(CH
2)
nCO−基を含んでもよく、式中、nは任意の数値、適宜に1〜10、例えば、5である。−NH(CH
2)
5CO−基を含むリンカーは、ε−アミノ酸 6−アミノヘキサン酸(εAhx)の使用により形成し得る。
【0079】
理論上は、ペプチドデンドリマー中に存在し得るフィブリノーゲン結合ペプチドの合計数に制限はない。しかし、実際には、任意の特定の構造に対し、フィブリノーゲン結合ペプチドの数を変え、所望のフィブリノーゲン重合特性、例えば、フィブリノーゲン重合速度のための、またはフィブリノーゲンとの重合により作製されたヒドロゲルの密度のための、最適数を決定するために試験することができる。ペプチドデンドリマーは、デンドリマー当たり、合計で20個までのフィブリノーゲン結合ペプチド、例えば、デンドリマー当たり10個までのフィブリノーゲン結合ペプチド、またはデンドリマー当たり5個までのフィブリノーゲン結合ペプチドを含んでよい。
【0080】
意外にも、出願人は、2個以上のフィブリノーゲン結合ペプチドを含むペプチドデンドリマーとペプチド複合体との混合物が、ペプチドデンドリマー、またはペプチド複合体のいずれか単独よりも急速にフィブリノーゲンを重合できることを見出した。
【0081】
したがって、本発明の組成物に使用するための止血剤は、2個以上のフィブリノーゲン結合ペプチドを含むペプチドデンドリマー、およびペプチド複合体を含んでよい。
【0082】
ペプチド複合体は、同じ配列のまたは異なる配列のフィブリノーゲン結合ペプチドを含んでよい。例えば、ペプチド複合体は、フィブリノーゲンのホール「b」よりもホール「a」に選択的に結合するフィブリノーゲン結合ペプチドのみを含んでもよく、またはフィブリノーゲンのホール「a」よりもホール「b」に選択的に結合するフィブリノーゲン結合ペプチドのみを含んでもよく、またはフィブリノーゲンのホール「b」よりもホール「a」に選択的に結合する1個または複数のフィブリノーゲン結合ペプチドおよびフィブリノーゲンのホール「a」よりもホール「b」に選択的に結合する1個または複数のフィブリノーゲン結合ペプチドを含んでもよい。
【0083】
ペプチド複合体は、フィブリノーゲン結合ペプチドが結合する担体を含んでもよい。好適な担体は、1個または複数のアミノ酸残基、例えば、リジンアミノ酸残基などの単一アミノ酸残基を含み得る。1個または複数のアミノ酸残基を含む担体を含む複合体の利点は、それらが固相ペプチド合成法を使って容易に作成できることである。さらに、それらは免疫原性薬剤を使用せずに容易に作製し得、また、滅菌に対し耐え得る。
【0084】
ペプチド複合体のそれぞれのフィブリノーゲン結合ペプチドは、独立に、そのカルボキシ末端で(必要に応じてリンカーを介して)、またはそのアミノ末端で(必要に応じてリンカーを介して)担体に結合し得る。フィブリノーゲン結合ペプチドがそのアミノ末端で結合する場合は、ペプチドのカルボキシ末端は、アミド基を含み得る。
【0085】
一例では、ペプチド複合体は下記の一般式を有し得る:
FBP−(リンカー)−X−(リンカー)−FBP
式中、
FBPは、フィブリノーゲン結合ペプチドであり;
−(リンカー)−は、任意のリンカー、好ましくは非ペプチドリンカーであり;
Xは、アミノ酸、好ましくは多官能性アミノ酸、最も好ましくは三官能性アミノ酸残基、例えば、リジン、オルニチン、またはアルギニンである。
【0086】
ペプチド複合体はデンドリマーであってよい。デンドリマーは分岐コアおよび分岐コアに別々に共有結合した複数のフィブリノーゲン結合ペプチドを含み得る。分岐コアは、1個または複数の多官能性アミノ酸を含み得る。それぞれの多官能性アミノ酸、または複数の多官能性アミノ酸は、それに共有結合した1個または複数のフィブリノーゲン結合ペプチドを有し得る。いくつかの実施形態では、ペプチド複合体は上記で定義のペプチドデンドリマーであってよい。
【0087】
本発明の組成物に使用するためのペプチドデンドリマーのフィブリノーゲン結合ペプチドは、フィブリノーゲンのホール「b」よりもフィブリノーゲンのホール「a」に選択的に結合し得、およびペプチド複合体のフィブリノーゲン結合ペプチドは、フィブリノーゲンのホール「a」よりもフィブリノーゲンのホール「b」に選択的に結合し得る。このような組成物は、それらがペプチドデンドリマーまたはペプチド複合体のいずれか単独よりもより急速にフィブリノーゲンを重合できるという点で相乗的効果を有することが見出された。この相乗的作用の機構は完全には理解されていない。しかし、理論に束縛されるものではないが、それは、組成物がより多くの「A」および「B」フィブリノーゲン重合部位を提供するという理由で起こると考えられている。
【0088】
あるいは、本発明の組成物に使用するためのペプチドデンドリマーのフィブリノーゲン結合ペプチドは、フィブリノーゲンのホール「a」よりもフィブリノーゲンのホール「b」に選択的に結合し得、およびペプチド複合体のフィブリノーゲン結合ペプチドは、フィブリノーゲンのホール「b」よりもフィブリノーゲンのホール「a」に選択的に結合する。
【0089】
本発明の組成物に使用するための止血剤の特定の利点は、それらが動物由来生成物を使用せずに合成でき、それにより、このような生成物に起因するウイルス感染またはプリオン感染のリスクを最小化できることであるのは理解されよう。
【0090】
本発明の組成物に使用される生体適合性液体は、水性または非水性液体であってよいが、通常は、水性液体である。水性液体には、塩化カルシウムまたは塩化ナトリウムの水溶液などの生体適合性水溶液を含んでよい。一般に、生体適合性液体は、生理学的pHに近く、例えば、pH6.0〜7.5、pH7.3〜7.5、またはpH7.35〜7.45の範囲であろう。
【0091】
生体適合性液体は、緩衝液、例えば、ホスフェート、ヘペス、またはトリス緩衝液、例えば、10〜150mMのリン酸緩衝液、10〜150mMのヘペス緩衝液、または10〜150mMのトリス緩衝液を含んでよい。
【0092】
本発明の組成物に含まれる粒子の量および平均直径、ならびに止血剤、生体適合性液体、および不溶性粒子の相対量は、後述のような、止血性および物理学的性質を有する組成物を与えるのに効果的である。
【0093】
特定の実施形態では、組成物の粒子は、組成物の流動性(例えば、シリンジを通って押し出される能力)および組織表面および画定された腔、例えば、脊椎内腔、組織のくぼみ、孔、またはポケットを含む、組織上のまたは組織内の部位に流れ、その部位に沿う組成物の能力を高める寸法およびその他の物理学的性質を有する。
【0094】
本発明の組成物は、部分的に水和または完全に水和されてもよく、また、水和の程度に応じて、ある程度の、例えば、0%〜100%の膨潤を示してもよい。
【0095】
部分的にまたは完全に水和した粒子の代表的および好ましい寸法範囲は以下の通りである:
【表1】
【0096】
本発明の組成物は通常、部分的にまたは完全に水和した形態となろう。ポリサッカライドの粒子を含む乾燥粉末(20重量%未満の含水量を有する)は、本発明の組成物の調製のための出発材料として有用であり得る。部分的に水和した、通常50%〜80%の水和度を有する、本発明の組成物は、湿潤標的部位、例えば、組織のくぼみ、への適用時に組成物がさらに膨潤することが望ましい用途に有用である。完全に水和した組成物は、インサイツ膨潤が望ましくない、脊柱中ならびに神経およびその他の感受性構造物が存在する他の領域などの用途にとって有用である。
【0097】
「標的部位」は、本発明の組成物が送達されるべき位置である。標的部位は、損傷または外科手術の結果として、現在出血があるまたは以前に出血があった部位であってよい。通常、標的部位は、目的の組織位置であるが、場合によっては、例えば、材料がインサイツで膨潤して目的の位置を覆う場合には、組成物は目的の位置近傍の位置に投与される場合がある。
【0098】
粒子の寸法は、様々な方法で実現し得る。例えば、ポリサッカライドを含む出発材料は、(1)ポリサッカライド出発材料の架橋の前または後で、または(2)架橋または非架橋ポリサッカライド出発材料の水和の前または後で、例えば、完全にもしくは部分的に水和した材料または乾燥粒子粉末として、粉砕し得る。本明細書で使われる場合、用語の「乾燥」は、粉末が易流動性であり、個々の粒子が集合しないように含水量が充分に低い、通常20重量%未満であることを意味する。本明細書で使われる場合、用語の「水和した」は、含水量が充分に高く、典型的には平衡水和レベルの50%超、通常は平衡水和レベルの80%〜95%の範囲であることを意味する。
【0099】
粒径および/または粒度分布を制御することが望ましい場合には、乾燥状態での出発材料の機械的な粉砕が好ましいであろう。乾燥粒子の粉砕の制御は、水和した組成物より容易であり得、したがって、得られた小さくされた粒子寸法の調節がより容易である。逆に、水和した材料の機械的な粉砕は通常、より簡単であり、乾燥ポリマー出発材料の粉砕の場合より少ないステップを含む。したがって、最終的な粒径および/または粒度分布が重要でない場合には、水和した材料の粉砕が好ましいであろう。
【0100】
本発明の組成物は、オリフィスまたはその他の流量制限機構を通す押し出しにより、それが標的部位に送達された時点で機械的に粉砕され得、またはそれは標的部位に送達の前に機械的に粉砕され得る。あるいは、本発明の組成物は、最終用途または送達の前に機械的に粉砕され得る。ポリサッカライド鎖の分子架橋は、機械的な粉砕の前または後で実施できる。機械的な粉砕ステップの主な目的は、組成物が送達されるべき空隙に適合させ、それに充填することを可能とする寸法を有する複数の粒子を生成することである。機械的な粉砕の別の目的は、小径の管、カニューレ、および/またはその他のアプリケーター中を通って標的部位へ組成物が通過するのを促進することである。使用の前に組成物が粉砕されると、それは、押し出し以外の技術により、例えば、スパチュラまたはスプーンを使って、適用または投与できる。
【0101】
いくつかの実施形態では、ポリサッカライドは、最初に(例えば、スプレー乾燥により)調製してよく、かつ/または架橋前に、多くの場合水和の前に、機械的に粉砕してよい。ポリサッカライドは、微粉化または粉末状乾燥固体として供給され得る。これは、さらなる微粉砕により粉砕して、通常小さい範囲内に狭く限定された所望の寸法を有する粒子を提供し得る。さらなる寸法選択および調節ステップ、例えば、篩分け、またはサイクロン分級、を実施してもよい。代表的材料では、乾燥粒径は、10〜1500μm、または50〜1000μmの範囲であってよい。代表的な粒度分布は、50〜700μmの範囲の粒子が、95重量%を超えるような分布である。
【0102】
ポリマー出発材料を微粉砕する方法には、ホモジナイゼーション、グラインディング、コアセルベーション、ミリング、ジェットミル粉砕が含まれる。粉末状ポリサッカライド出発材料は、スプレー乾燥によっても形成可能である。粒度分布は、篩分け、凝集、またはさらなるグラインディングなどの従来技術によってさらに制御および精密化し得る。乾燥粉末化固体は、その後、緩衝水溶液中に懸濁させ、架橋させ得る。他の場合、ポリサッカライドは緩衝水溶液中に懸濁させ、架橋させた後に乾燥させ得る。架橋し、乾燥したポリサッカライドをその後粉砕し、粉砕された材料を引き続き、緩衝水溶液中に懸濁させてもよい。
【0103】
代表的製造プロセスでは、乾燥した非架橋ポリサッカライド出発材料が、ホモジナイゼーション、グラインディング、コアセルベーション、またはミリングなどの従来の単位操作により機械的に粉砕される。粉末は、生成物が部分的にまたは完全に水和された場合に所望の範囲の粒径をもたらす乾燥粒径が得られるように、十分に粉砕される。乾燥粒径と完全に水和したサブユニット寸法との間の関係は、以下でさらに考察されるように、材料の膨潤性に依存するであろう。
【0104】
あるいは、粒子状ポリサッカライド出発材料は、スプレー乾燥によっても形成可能である。スプレー乾燥プロセスは、ノズルなどの小さいオリフィスを通って溶液を流して液滴を形成することに依存し、この液滴は、向流または並流ガス流、通常は加熱ガス流中に放出される。気相は、溶液であっても分散液であってもよい液体出発材料から溶媒を蒸発させる。スプレー乾燥を使って、乾燥粉末出発材料を形成することは、出発材料の機械的粉砕に対する代替法である。スプレー乾燥操作は通常、極めて均一な粒径を有する非架橋乾燥粉末生成物を生成するであろう。粒子はその後、後述のように架橋され得る。
【0105】
多くの場合、機械的粉砕を充分に制御して、所望の範囲内の粒径および粒度分布の両方を得ることができる。しかし、他の場合では、さらに精密な粒度分布が必要とされる場合には、粉砕材料は、例えば、篩分け、または凝集により、さらに処理または選択されて、所望の粒度分布を得ることができる。機械的に粉砕したポリマー出発材料は、以降でより詳細に記載されるように、その後、架橋され得る。
【0106】
本発明の組成物の粒径がそれほど重要でない場合は、機械的粉砕の前に、乾燥したポリサッカライド出発材料は好適な緩衝液中で水和、溶解、または懸濁され得る。機械的粉砕は通常、材料をオリフィスを通過させることにより実現され、オリフィスの寸法および押し出し力はともに粒径および粒度分布を決定する。この方法は、多くの場合操作上、水和および架橋前の乾燥ポリサッカライド粒子の機械的粉砕より簡単であるが、粒径を制御する能力の精密さが劣る可能性がある。
【0107】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、組成物中の粒子の機械的粉砕の前に、シリンジまたはその他のアプリケーターに充填され得る。その後、材料は、シリンジを通して組織標的部位に適用される際に、機械的に粉砕される。あるいは、非粉砕架橋ポリサッカライド出発材料は、使用前に、乾燥形態で貯蔵され得る。乾燥材料はその後、シリンジまたはその他の好適なアプリケーターに充填され、アプリケーター内で水和されて本発明の組成物を形成し得、材料が、この場合も通常はオリフィスまたは小さい管状内腔を通って、標的部位に送達されるに伴い機械的に粉砕される。
【0108】
種々の生体適合性の天然、半合成または合成ポリサッカライドを用いて本発明の組成物に使用される粒子の調製に使用し得る。架橋ポリサッカライドの粒子は、特定の組成物に対し選択された生体適合性液体中で実質的に不溶性である必要がある。適切には、粒子は、生体適合性液体の1ml当たり10mg未満の粒子の溶解度、例えば、1mg/ml未満、または0.1mg/ml未満の溶解度を有する。いくつかの実施形態では、機械的、化学的および/または生物学的止血活性を与える非水溶性粒子が使用される。
【0109】
代表的なポリサッカライドには、グリコサミノグリカン、デンプン誘導体(例えば、酸化デンプン)、セルロース誘導体(例えば、酸化セルロース)、ヘミセルロース誘導体、キシラン、アガロース、アルギネート、アルギネート誘導体(例えば、酸化アルギネート)、キトサン、キチン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0110】
ポリサッカライドの架橋は、任意の従来方式で達成し得る。例えば、ポリサッカライドは、好適な架橋剤を使って架橋し得る。
【0111】
ポリサッカライド分子は、2個以上のポリサッカライドに共有結合する二または多官能性架橋剤を使って、架橋し得る。代表的な二官能性架橋剤には、アルデヒド、エポキシ、スクシンイミド、カルボジイミド、マレイミド、アジド、カーボネート、イソシアネート、ジビニルスルホン(DVS)、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、アルコール、アミン、イミデート、無水物、ジアゾアセテート、またはアジリジンが挙げられる。あるいは、架橋は、ポリサッカライドの側鎖または部分を活性化し、それにより、それらが他の側鎖または部分と反応して架橋を形成し得る、酸化剤またはペルヨーデートなどのその他の薬剤を使って実現し得る。
【0112】
通常、ポリサッカライド分子の出発材料は、それぞれ、10kDa〜10,000kDaまたは25kDa〜5,000kDaの範囲の分子量を有する。通常、架橋ポリサッカライド分子は、別のポリサッカライド分子に対する少なくとも1個の連結部、多くの場合1〜5個の連結部を有し、実際の架橋レベルは、所望の速度の生分解性を与えるように選択され得る。
【0113】
ポリサッカライドの架橋の程度は、押し出し性、周囲生体液の吸収性、粘着性、空隙を満たす能力、膨潤能力、および組織部位に付着する能力を含む、組成物のいくつかの機能特性に対し影響を与える。架橋度は、粒子を含む本発明の組成物を滅菌するために使用される滅菌条件(例えば、蒸気または乾熱滅菌条件)に耐えることができるように、ポリサッカライドの不溶性粒子にとって十分である必要がある。架橋度は、架橋剤の濃度の調節、架橋剤とポリサッカライド出発材料の相対量の変更、または反応条件の変更により制御可能である。通常、架橋度は、架橋剤の濃度を調節することにより、制御される。
【0114】
いくつかの実施形態では、(例えば、ヒアルロン酸を含む粒子を含む実施形態)、粒子の平衡膨潤は、0%〜500%、例えば、0%〜100%の範囲であってよい。
【0115】
平衡膨潤は、架橋度を変えることにより制御し得、この架橋度は、架橋法のタイプ、架橋剤への暴露期間、架橋剤の濃度、および架橋温度などの架橋条件を変えることにより達成される。異なった平衡膨潤値を有する材料は、異なる用途において異なるように機能する。架橋および平衡膨潤を制御する能力は、本発明の組成物の種々の使用に対する最適化を可能とする。
【0116】
用語の「パーセント膨潤」は、湿重量から乾燥重量を差し引いて、乾燥重量で除算し、100を乗じた値を意味し、湿重量は、湿潤剤が材料の外部から、例えば、濾過により可能な限り完全に除去された後に測定され、乾燥重量は湿潤剤を蒸発させるのに十分な時間、例えば、120℃で2時間、高温に暴露後、測定される。「平衡膨潤」は、ポリサッカライド材料が含水量が一定になるのに十分な期間、通常18〜24時間にわたり湿潤剤中に浸漬された後の平衡時のパーセント膨潤と定義される。
【0117】
平衡膨潤に加えて、標的部位に送達する直前の組成物の水和を制御することも有用である。0%水和の材料は、非膨潤であることになる。100%水和の材料は、その平衡含水量であることになる。0%〜100%の間の水和は、最小と最大量との間の膨潤に対応する。実際問題として、多くの乾燥した非膨潤材料は、若干の、通常20重量%未満の、より一般的には8重量%〜15重量%の残留含水量を有するであろう。本明細書で用語の「乾燥」が使われる場合、それは、個々の粒子が易流動性で通常は非膨潤である低含水量を有する材料を規定する。
【0118】
水和は極めて容易に、例えば、使用の前に、乾燥した、または部分的に水和した架橋材料に添加される生体適合性液体(緩衝水溶液など)の量を制御することにより調節できる。通常、少なくとも、シリンジまたはその他の送達装置を通して押し出しを可能とするのに十分な緩衝水溶液を導入することが望ましいであろう。しかしながら他の事例では、少ない流体材料の送達のために、スパチュラまたはその他のアプリケーターを利用するのが望ましい場合がある。使用目的も、水和の所望の程度を決定するのに有用であろう。湿潤腔を満たすまたは密封することが望まれる場合には、一般に、標的部位から水分を吸収することにより膨潤させて腔を満たすことができる、部分的に水和した組成物を採用するのが望ましい。逆に、脳中、脊椎近傍における適用、ならびに神経および配置後膨潤により損傷を受ける可能性のあるその他の感受性身体構造物近傍の標的部位への適用では、完全にまたは実質的に完全に水和した組成物が好ましい。また、余剰緩衝液を含む本発明の組成物を調製して、完全に水和した相と緩衝液不含相を有する2相組成物を得ることも可能である。
【0119】
本発明のいくつかの実施形態では、ポリサッカライド粒子はグリコサミノグリカン(GAG)を含む。GAGは、反復二糖ユニットで構成され、アミノ糖(GlcNAcまたはGalNAc)およびウロン酸(グルクロン酸および/またはイズロン酸)を含む一次構成を有する、大きな直鎖ポリサッカライドである。本発明での使用に好適なグリコサミノグリカンは、ヒアルロン酸(HA)、またはその塩である。
【0120】
HAは、β−D−(1→3)グルクロン酸(GlcA)およびβ−D−(1→4)−N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)の交互残基から構成される。文献で使用される用語の「ヒアルロン酸」は、細胞表面で、脊椎動物の結合組織の塩基性細胞外物質で、関節の関節液で、眼の眼球内液で、ヒト臍帯組織で、および鶏冠で、天然に発生するD−グルクロン酸およびN−アセチル−D−グルコサミン酸残基により構成された種々の分子量を有する酸性ポリサッカライドを意味する。本明細書で使われる場合、用語の「ヒアルロン酸」は、D−グルクロン酸およびN−アセチル−D−グルコサミン酸の交互残基を含む種々の分子量を有するポリサッカライドの混合物を含む。ヒアルロン酸は、ヒアルロナン、ヒアルロネート、またはHAとしても知られる。用語のヒアルロナンおよびヒアルロン酸は本明細書では同義に使用される。
【0121】
ヒアルロン酸含量は、改良カルバゾール法(Bitter and Muir,1962,Anal Biochem.4:330−334)により測定し得る。ヒアルロン酸の平均分子量は、Ueno et al.,1988,Chem.Pharm.Bull.36,4971−4975;Wyatt,1993,Anal.Chim.Acta272:1−40;およびWyatt Technologies,1999,“Light Scattering University DAWN Course Manual”and“DAWN EOS Manual”Wyatt Technology Corporation,Santa Barbara,California、に記載のものなどの当該技術分野における標準的方法を使って測定し得る。
【0122】
ヒアルロン酸またはその塩は、約10,000〜10,000,000Da、25,000〜5,000,000Da、または50,000〜3,000,000Daの分子量であってよい。特定の実施形態では、ヒアルロン酸またはその塩は、300,000〜3,000,000Da、400,000〜2,500,000Da、500,000〜2,000,000Da、または600,000〜1,800,000Daの範囲の分子量を有してよい。他の実施形態では、ヒアルロン酸またはその塩は、10,000〜800,000Da、20,000〜600,000Da、30,000〜500,000Da、40,000〜400,000Da、または50,000〜300,000Daの範囲の低い平均分子量を有してよい。
【0123】
ヒアルロン酸の無機塩の例には、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸アンモニウム、ヒアルロン酸カルシウム、ヒアルロン酸マグネシウム、ヒアルロン酸亜鉛、およびヒアルロン酸コバルトが挙げられる。
【0124】
オンドリの鶏冠は、ヒアルロン酸の重要な市販品入手源である。微生物は代替入手源である。米国特許第4,801,539号および欧州特許第EP0,694,616号は、ストレプトコッカス・ズーエピデミカスの株を使ってヒアルロン酸を調製するための発酵法を開示している。国際公開第03/054163号(その全体が本明細書に組み込まれる)は、例えば、グラム陽性桿菌宿主中で、ヒアルロン酸またはその塩の組換え産生について記載している。
【0125】
米国特許第4,582,865号(Biomatrix Inc.)は、ジビニルスルホン(DVS)を架橋剤として使用したHAの架橋ゲルの調製について記載している。多官能性エポキシ化合物を使った架橋HAまたはその塩の調製が、欧州特許第EP0161887B1号に記載されている。共有結合によるHAの架橋に用いられてきたその他の二または多官能性試薬には、ホルムアルデヒド(米国特許第4,713,448号、Biomatrix Inc.)、ポリアジリジン(国際公開第03/089476A1号、Genzyme Corp.)、L−アミノ酸またはL−アミノエステル(国際公開第2004/067575号、Biosphere S.P.A.)が挙げられる。カルボジイミドはまた、HAの架橋に関し報告されている(米国特許第5,017,229号、Genzyme Corp.;米国特許第6,013,679号、Anika Research,Inc)。脂肪族アルコールを用いたHAの完全または部分的な架橋エステル、および無機のまたは有機塩基によるこのような部分的なエステルの塩は、米国特許第4,957,744号に開示されている。
【0126】
HAの化学的に架橋に好ましい薬剤には、ジビニルスルホン(DVS)、1,2,7,8−ジエポキシオクタン(DEO)、および1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)が挙げられる。
【0127】
本発明の組成物に使用するための粒子を調製するために好適する架橋HAゲルの製造方法は、国際公開第2006/056204号、米国特許出願公開第2010/0035838号、米国特許出願公開第2010/0028437号、米国特許出願公開第2005/0136122号に記載されている。これらそれぞれの内容は、それらの全体が本明細書に組み込まれる。HA系ヒドロゲル粒子の製造は、Sahiner & Jia,Turk J Chem32(2008),397−409:“One−Step Synthesis of Hyaluronic Acid−Based (Sub)micron Hydrogel Particles:Process Optimization and Preliminary Characterization”、にも記載されている。
【0128】
例えば、国際公開第2006/056204号は、ヒアルロン酸またはその塩を含むジビニルスルホン(DVS)で架橋したヒドロゲルの製造方法を記載している。この方法は、(a)ヒアルロン酸またはその塩のアルカリ溶液を用意するステップ;(b)ステップ(a)の溶液にDVSを加え、それにより、ヒアルロン酸またはその塩がDVSで架橋されてゲルを形成するステップ;および(c)ステップ(b)のゲルを緩衝液で処理し、ゲルを膨潤させてDVSで架橋されたヒアルロン酸またはその塩を含むヒドロゲルを形成するステップ、を含む。
【0129】
ヒアルロン酸またはその塩は、100〜3,000kDaの平均分子量、例えば、500〜2,000kDa、または700〜1,800kDaの平均分子量を有し得る。DVSは、ステップ(a)の溶液に、1:1〜100:1のHA/DVS(乾燥重量)、好ましくは2:1〜50:1のHA/DVS(乾燥重量)、例えば、2.5:1〜8:1、または5:1のHA/DVS(乾燥重量)の重量比で添加し得る。
【0130】
好適な架橋HAヒドロゲルは、架橋HAゲルを調製するためのNovozymeのHyasis Link技術を使って製造し得る。Novozymeは、非病原性菌株枯草菌の発酵をベースにした組換え製造プロセスから得られた桿菌由来ヒアルロン酸のHyasisも提供している。このプロセスは動物由来原材料を使用していない。
【0131】
架橋HAヒドロゲルは、例えば、上記のいずれかの機械的粉砕法を使って微粒子化して、本発明の組成物に使用するための好適な寸法の粒子を得てもよい。特定の実施形態では、架橋HAヒドロゲルは、グラインディングにより微粒子化され、好適な寸法の架橋HAヒドロゲル粒子が粉砕生成物を篩分けすることにより選択される。
【0132】
本発明での使用に好適な架橋HAヒドロゲル粒子は、約100〜1500μm、または100〜1000μmの平均直径(部分的にまたは完全に水和した場合)を有する。例は、HA2.7w/v%を含み;架橋5:1のHA:DVS、平均ヒドロゲル粒径約400μmを有する架橋HAヒドロゲル粒子である。
【0133】
従来のゼラチン系止血剤の特有の欠点は、ゼラチンマトリックスが不透明であることである。これは、視認性を妨げ、創傷部位への正確な投与、および出血が制御されている程度をモニターすることをより困難にすることがある。出願者は、架橋ポリサッカライド粒子を含むペースト、特に架橋HAヒドロゲル粒子を含む水性ペーストからの、例えば、ペーストを遠心処理することによる、気泡の除去が、その不透明度を劇的に低減させ、実質的に透明のペーストをもたらすことを見出した。創傷または縫合線の出血が透明のペーストを通して観察可能である。これは、外科医が止血をより効果的にモニターすること、および必要に応じてより急速に介入することを可能にする。
【0134】
本発明のさらなる態様では、生体適合性液相全体に分散された架橋生体適合性ポリサッカライドの不溶性粒子を含む組成物の不透明度を低下させる方法が提供され、該方法は、組成物を遠心処理して、組成物から気泡を除去することを含む。
【0135】
生体適合性液相全体に分散された架橋生体適合性ポリサッカライドの不溶性粒子を含む実質的に透明の組成物がさらに提供される。液相は、上述のように、生体適合性液体により提供され得る。
【0136】
このような透明の組成物を、本発明の止血組成物に使用することにより、実質的に透明の本発明の止血組成物を提供し得る。例えば、実質的に透明の本発明の止血組成物は、複数の担体およびそれぞれの担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合ペプチドを含む可溶性止血剤を、生体適合性液相全体に分散された、止血での使用に好適する架橋生体適合性ポリサッカライドの不溶性粒子を含む実質的に透明の組成物と混合することにより形成され得る。
【0137】
あるいは、実質的に透明の本発明の止血組成物は、本発明の止血組成物から気泡を除去することにより形成し得る。気泡は、任意の好適な方法、例えば、遠心分離により止血組成物から除去し得る。
【0138】
本発明では、複数の担体およびそれぞれの担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合ペプチド;生体適合性液体;および止血での使用に好適し、生体適合性液体に不溶性である架橋生体適合性ポリサッカライド粒子を含む可溶性止血剤を含む、実質的に透明の止血組成物が本発明によりさらに提供される。
【0139】
本発明の組成物は、1mm直径以下、例えば、0.5mm、0.4mm、0.3mm、0.2mm、または0.1mm直径の外科縫合糸が3mmの厚さの組成物を通して視認可能である場合に、透明であると見なされる。
【0140】
本発明の組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤または希釈剤をさらに含んでもよい。好適な薬学的に許容可能な賦形剤および希釈剤は当業者には周知である。薬学的に許容可能な賦形剤および希釈剤には、本発明の組成物による創傷部位への局所投与に好適するものが含まれる。好適な薬学的に許容可能な希釈剤または賦形剤には、トリス塩酸、酢酸塩、またはリン酸緩衝液などの緩衝液、合成洗剤または可溶化剤などの添加剤(例えば、ツイーン80、ポリソルベート80)、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、防腐剤(例えば、メタクレゾール、パラベン(メチル、プロピル、またはブチル)、クロロブタノール、フェニル水銀塩(例えば、アセテート、ボレート、ニトレート)、ソルビン酸、ベンジルアルコール)、および増量物質(例えば、ラクトース、マンニトール)、等張化剤(例えば、糖、塩化ナトリウム)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのポリマー化合物が挙げられる。
【0141】
本発明の組成物は、組成物の調製を促進する添加剤、物理的および機械的性質を向上させる添加剤、組成物の止血特性を向上させるまたは抗菌性を付与する添加剤をさらに含んでよい。例えば、本発明の組成物は、有効量の1種または複数の添加剤または化合物、例えば、患者に送達されるべき生理活性成分(単一または複数)、炭水化物およびアルコールなどの粘度調整剤、吸収速度を制御する材料、界面活性剤、酸化防止剤、保水剤、湿潤剤、潤滑剤、増粘剤、希釈剤、照射安定剤(例えば、ラジカルスカベンジャー)、可塑剤、または安定剤をさらに含んでよい。例えば、グリセロールは組成物の押し出し性または注入性を高めるために添加し得る。使用する場合には、グリセロールは、組成物中に、液相の重量を基準にして、約0重量%〜約20重量%、または約1重量%〜約10重量%、または約5重量%のグリセロールで存在してよい。
【0142】
代表的生理活性成分としては、タンパク質、炭水化物、核酸、および酵素などの無機のおよび有機生物学的に活性な分子、抗悪性腫瘍剤、静菌剤、殺菌剤などの抗菌剤、抗生物質、抗ウイルス薬、局所麻酔剤、抗炎症剤、ホルモン、抗血管新生薬、抗体、神経伝達物質、向精神薬、生殖器に影響を与える薬剤およびアンチセンスオリゴヌクレオチドなどのオリゴヌクレオチドが挙げられるが、これらに限定されない。このような生理活性成分は通常、比較的低い濃度、典型的には組成物の10重量%未満、通常5重量%未満、および多くの場合1重量%未満で存在するであろう。
【0143】
「有効量」という用語は、その添加物を加える目的である性質を組成物に与えるのに必要な量を意味する。有効量はまた、有害な生物学的影響を生じることなく添加し得る最大の量により制限される。
【0144】
本発明の組成物の生体適合性液体および粒子は通常、止血に使用するのに好適な組成物、例えば、ペーストまたはスラリーを提供するために効果的な相対量で存在する。特定の実施形態では、粒子の液体に対する重量比は、約1:1〜約1:12、または約1:3〜約1:8または約1:5である。本発明の組成物は通常、1重量%〜70重量%、例えば、5重量%〜20重量%、または5重量%〜16重量%の範囲の固形分含有量を有するであろう。より高い、通常16重量%を超える固形分含有量に対しては、組成物中に可塑剤を、通常0.1重量%〜30重量%、または1重量%〜5重量%含めてよい。好適な可塑剤類には、ポリエチレングリコール、ソルビトール、およびグリセロールが含まれる。
【0145】
また、本発明では、フィブリノーゲンを重合する方法が提供され、該方法は、フィブリノーゲンを本発明の組成物と接触させることを含む。
【0146】
重合に使われる組成物およびフィブリノーゲンの相対濃度は、組成物の性質、例えば、どのくらい多くのフィブリノーゲン結合ペプチドが存在するか、およびフィブリノーゲン結合ペプチドの配列に依存するであろう。出願者は、生理学的レベルのフィブリノーゲン(3mg/ml)と共に、0.005mg/ml〜2mg/mlの範囲の濃度でペプチドデンドリマーを使って迅速な重合時間を観察した。
【0147】
一部のペプチドデンドリマーでは、デンドリマーの濃度が増加するに伴い、フィブリノーゲン重合の速度(すなわち、「凝固時間」)が遅くなった。理論に束縛されるものではないが、これは、デンドリマーのフィブリノーゲン結合ペプチドによるフィブリノーゲン分子の「a」および/または「b」ホールの飽和に起因すると考えられている。これらのより高いデンドリマー濃度で、遊離フィブリノーゲン結合ホール(すなわち、空の「a」および/または「b」ホール)と結合するために競合する過剰のフィブリノーゲン結合ペプチドが存在し、この競合により重合が進行する速度が低下すると考えられている。
【0148】
また、本発明では、出血を処置するためのキットが提供され、該キットは、本発明の組成物、およびにフィブリノーゲンを別々に含む。
【0149】
組成物は、標的部位に存在する内在性(すなわち、宿主の)フィブリノーゲンを重合し得る。いくつかの実施形態では、外来性のフィブリノーゲンが本発明の組成物と共に投与され得る。
【0150】
本明細書では、用語の「フィブリノーゲン」は、天然のフィブリノーゲン、組換え型フィブリノーゲン、またはトロンビンに変換されてフィブリン(例えば、天然のまたは組換え型フィブリンモノマー、または自然発生的に集合できても、できなくてもよいフィブリンモノマーの誘導体)を形成できるフィブリノーゲンの誘導体を含めて使用される。フィブリノーゲンは、少なくとも2個のフィブリノーゲン結合ペプチドに結合できる必要がある。フィブリノーゲンは任意の原材料から得てよく、また、任意の種(ウシフィブリノーゲンを含む)から得てよいが、ヒトフィブリノーゲンが好ましい。ヒトフィブリノーゲンは、自己またはドナー血液から得てよい。自己フィブリノーゲン、または組換えフィブリノーゲンが好ましい。理由は、これは、対象に投与された場合、感染のリスクを低減するためである。
【0151】
ヒト対象への投与のための本発明の組成物の適量は、例えば、止血剤のタイプ、例えば、担体分子当たり、どのくらい多くのフィブリノーゲン結合ペプチドが存在するか、および創傷または出血部位のタイプと寸法に依存するであろう。しかし、止血剤の典型的な量は、0.005〜25mg/ml、例えば、0.01〜10mg/mlの濃度の止血剤を含む組成物の0.1ml〜50ml、例えば、0.1ml〜5ml、1〜50ml、または1〜5mlである。
【0152】
ヒト対象への投与のための外来性のフィブリノーゲンの適量は、0.1mg〜120mg、例えば、3mg〜120mgである。
【0153】
本発明の組成物は、いくつかの重要な利点を有する。特に、特定の実施形態では、止血剤は従来の固相ペプチド合成手順を使って容易に製造できる。これは、ウイルス感染またはプリオン感染のリスクを最小化する。最適な濃度では、本発明の組成物の止血剤は、トロンビンの非存在下、1秒に満たない時間で、フィブリノーゲンを重合することができる。また、本発明の組成物の止血剤は、ヒト血漿中で1秒に満たない時間で、フィブリノーゲンを重合することができる。
【0154】
本発明の組成物中で使用するための止血剤の構造は、組成物の使用目的のためのその特性を最適化するように選択できる。例えば、フィブリノーゲンの「a」ホールに選択的に結合する5個の同じ配列のフィブリノーゲン結合ペプチドを含むペプチドデンドリマーは、ほぼ瞬間的にフィブリノーゲンを重合できる。対照的に、フィブリノーゲンの「a」ホールに選択的に結合する1個または複数のフィブリノーゲン結合ペプチド、およびフィブリノーゲンの「b」ホールに選択的に結合する1個または複数の異なるフィブリノーゲン結合ペプチドを有する「キメラ」ペプチドデンドリマーは、よりゆっくりとフィブリノーゲンを重合し得るが、より大きな密度および寸法のヒドロゲルを形成する。
【0155】
本発明の組成物(特に、生体適合性液体が水性の液体である本発明の組成物)中の止血剤は、意外にも、滅菌、特に蒸気滅菌、および乾熱滅菌に耐性があることが見出された。したがって、本発明の組成物は、止血活性の大きな低下なしに、特に組成物の止血剤のフィブリノーゲンとの重合に対する能力の大きな低下なしに、従来の滅菌法を使って滅菌し得る。組成物を水和した無菌のすぐに使える流動性止血組成物として提供することを可能とするので、これは重要な利点である。組成物は、使用時間より十分に前もって調製可能であり、同時に、加熱するまたは蒸気滅菌に供した後でも止血活性を維持し得る。
【0156】
本明細書で使用される場合、用語の「無菌」は、生存可能な病原菌および/または微生物および本明細書で記載および請求された組成物および医療装置に関する政府基準により追加で承認および記載されたものを実質的に不含であることを意味する。
【0157】
好適な従来の滅菌方法には、加圧飽和水蒸気を使った滅菌(「蒸気滅菌」)、または乾熱滅菌が含まれる。
【0158】
オートクレーブ中での微生物の加圧飽和水蒸気への暴露は、酵素および構造タンパク質の不可逆的変性を生じる。オートクレーブは、オートクレーブの内容物を、121℃(249°F)で約15〜20分間、飽和蒸気にさらすことによる滅菌に使われる圧力チャンバーである。変性が生じる温度は、存在する水の量と反比例して変化する。空気は蒸気の侵入の前にオートクレーブから排気する必要がある。本方法は、水性の調製物、外科用包帯材および医療装置に特に好適する。
【0159】
本発明では、本発明の組成物の滅菌方法が提供され、該方法は、組成物を滅菌するのに効果的な時間、温度、および圧力の条件下で、組成物を加圧飽和水蒸気に暴露することを含む。オートクレーブ中で加圧飽和水蒸気を使った好適な滅菌条件は、121〜124℃(200kPa)で少なくとも15分間、126〜129℃(250kPa)で少なくとも10分間、または134〜138℃(300kPa)で少なくとも5分間、である。
【0160】
乾熱滅菌プロセスでは、主要な壊滅的プロセスは、細胞成分の酸化であると考えられている。乾熱滅菌は、湿式加熱より高温およびより長い暴露時間を必要とする。したがって、この方法は、その有害な影響や浸透しないことから、蒸気により滅菌できない熱的に安定な、非水性材料に対してはより使いやすい。
【0161】
本発明では、本発明の組成物の滅菌方法が提供され、該方法は、組成物を滅菌するのに効果的な時間と温度の条件下で、組成物を乾熱に暴露することを含む。乾熱滅菌に好適な温度および時間は、160℃で180分間、170℃で60分間、または180℃で30分間である。異なる調製物から全ての望ましくない微生物を確実に効果的に除去するためには、他の条件が必要となる場合がある。全ての処理される材料全体にわたる熱の均一分布を保証するために、通常、オーブンは強制空気系を備える必要がある。
【0162】
また、本発明では、無菌である本発明の組成物が提供される。本発明の無菌組成物は、任意の好適な方法により、最も適切には、蒸気滅菌または乾熱滅菌により滅菌されてよい。
【0163】
出願者は、本発明の組成物に使用するための止血剤は、オートクレーブ中121℃で25分間の滅菌後、フィブリノーゲンを重合する能力を保持し、40℃で少なくとも13週間貯蔵時に、安定のまま存続することを見出した。出願者は、本発明の組成物が、オートクレーブ中121℃で25分間の滅菌後、フィブリノーゲンを重合する能力を保持し、40℃で少なくとも2週間貯蔵時に、安定のまま存続することを見出した。40℃の貯蔵温度は、加速安定性調査のために使用されたもので、医薬品の貯蔵における通常の一般的な温度、例えば、室温または冷蔵温度では、より長期間の貯蔵が予測される。
【0164】
本発明の組成物は、好都合にも、無菌のすぐに使える流動性配合物として提供し得る。このような組成物は、組成物の標的部位への投与用の好適なアプリケーターに供給し得る。
【0165】
本発明の組成物は、シリンジ、スパチュラ、ブラシ、スプレーなどのアプリケーターを使って、圧力による手作業で、または任意のその他の従来技術を使って適用し得る。通常、組成物は、オリフィス、開口、針、チューブ、またはその他の通路を通って組成物を押し出して、ビーズ、層、または類似の材料の部分を形成することができるシリンジまたは類似のアプリケーターを使って適用されるであろう。組成物の機械的粉砕は、組成物がシリンジまたはその他のアプリケーター中を、通常0.01mm〜5.0mm、好ましくは、0.5mm〜2.5mmの範囲の寸法を有するオリフィスを通って押し出される際に行なうことができる。しかし、通常、組成物中の粒子は、所望の粒径を有する粉末から調製される(水和時に、必要寸法の粒子が得られる)か、または最終的押し出しまたはその他の適用ステップの前に、部分的にまたは全体が機械的に必要な寸法に粉砕されるであろう。
【0166】
本発明の止血組成物が利用され得る医療装置は、流動性または注入可能止血ペーストを止血を必要とする標的部位に適用するために好適する任意の装置を含む。装置またはアプリケーターの例には、シリンジ、例えば、Becton DickinsonまたはMonojectルアーシリンジが挙げられる。その他の好適な装置は、米国特許第6,045,570号で詳細に開示されている。この特許の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0167】
前記組成物は、種々の水和の程度で適用され得、必須ではないが通常は少なくとも部分的に水和した状態で適用され得る。それらの平衡水和レベルで適用される場合は、組成物は実質的に平衡水和を示し、組織に適用した場合、膨潤をほとんど示さないかまたは全く示さない。いくつかの実施形態では、組成物は、その平衡膨潤未満の水和レベルで患者に送達される。組成物の粒子は、血液または体液と接触時に、10〜20%膨潤し得る。部分水和組成物の膨潤は、組成物が適用された組織および周辺部由来の水分の吸収の結果として生じる。
【0168】
本発明は、本発明の組成物および組成物を標的部位に投与するための文書による説明書を含むキットをさらに提供する。組成物および文書による説明書は、ボックス、広口瓶、ポーチ、またはトレーなどの従来の容器に一緒に含められる。文書による説明書は、別の用紙またはその他の材料に印刷して、容器上にまたは容器内に包装してよく、または容器それ自体に印刷してもよい。通常、組成物(単一または複数)は、独立した無菌シリンジ、またはその他のアプリケーター、または独立したボトル、広口瓶、またはバイアルで提供されるであろう。本発明の組成物は、非水和形態で提供される場合は、キットは必要に応じ、水和用の好適な緩衝水溶液を含む別の容器を含んでもよい。本発明の組成物がアプリケーターに入れて提供されない場合には、好適なアプリケーター、例えば、シリンジも同様に提供してよい。
【0169】
本発明では、本発明の止血組成物の製造方法も提供され、該方法は、生体適合性液体、可溶性止血剤、および止血での使用に好適し、生体適合性液体中に不溶性である架橋生体適合性ポリサッカライドの粒子を一緒に混合することを含み、可溶性止血剤は、複数の担体およびそれぞれの担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合ペプチドを含む。
【0170】
特定の実施形態では、生体適合性液体、可溶性止血剤、および粒子が、液相全体に粒子が実質的に均一に分散された連続的な液相を形成するのに効果的な条件下で一緒に混合され、それにより、実質的に均一な止血組成物が形成される。
【0171】
生体適合性液体、可溶性止血剤、および粒子は、任意の順序で、または、実質的に同時に、混合されてよい。例えば、一実施形態では、生体適合性液体および粒子が一緒に混合されて、液体全体に粒子が分散された実質的に均一なペーストが形成され、その後、可溶性止血剤が添加され、ペーストと混合されて止血組成物が形成され得る。例えば、生体適合性液体またはその他の液体(しかし、好ましくは水または緩衝水溶液などの水性液体)中の止血剤の溶液が、実質的に均一なペーストに添加され、ペーストと混合されて止血組成物が形成される。必要に応じて、可溶性止血剤の添加の前に、またはその後に、均一なペーストを遠心分離して、気泡を除去してもよい。代替的実施形態では、可溶性止血剤は、生体適合性液体中に溶解しても、または生体適合性液体と混合してもよく、その後、粒子を混合物に加えて、混合して止血組成物を形成してもよい。必要に応じて、その後、止血組成物を遠心分離して気泡を除去してもよい。さらなる実施形態では、可溶性止血剤および粒子を生体適合性液体に実質的に同時に加えて、または交互に即座に加えて、その後、混合して止血組成物を形成しもよい。必要に応じて、その後に組成物を遠心分離して気泡を除去してもよい。気泡の除去は、組成物の不透明度を低減して、組成物を実質的に透明にするであろう。
【0172】
止血組成物を、例えば、蒸気滅菌または乾熱滅菌により滅菌してもよい。
【0173】
本発明のいくつかの実施形態では、本発明の止血組成物は、水和した流動性ペーストまたはスラリーに配合し、アプリケーター(例えば、上述のシリンジまたはその他のアプリケーター)に充填してもよく、これをその後、滅菌して無菌のすぐに使える流動性止血組成物が得られる。
【0174】
したがって、本発明では、本発明の無菌のすぐに使える流動性止血組成物を含むアプリケーターが提供される。
【0175】
内部に組成物を詰め込んだアプリケーターは、任意の好適な方法により、もっとも適切には蒸気滅菌または乾熱滅菌により、滅菌されてよい。
【0176】
本発明の組成物は、止血効果に加えて、封止性を有し得る。前記組成物は、出血のないまたはほとんど出血のない創傷に予防的に適用し得、また、創傷上に接着性保護バリヤーを形成し、それにより、創傷が治癒するのを促進すると考えられる。
【0177】
本発明では、薬物として使用するための本発明の止血組成物が提供される。
【0178】
本発明では、出血の処置に使用するための、または創傷の処置に使用するための、本発明の止血組成物も提供される。
【0179】
本発明では、出血の処置のための、または創傷の処置のための、薬物の製造における本発明の止血組成物の使用が提供される。
【0180】
本発明では、出血を処置する方法も提供され、該方法は、有効量の本発明の止血組成物を出血している創傷に投与することを含む。
【0181】
本発明では、創傷を処置する方法が提供され、該方法は、有効量の本発明の止血組成物を創傷に投与することを含む。
【0182】
ヒト対象などの対象への投与のための本発明の組成物の有効量は、例えば、止血剤のタイプ、例えば、担体分子当たり、どのくらい多くのフィブリノーゲン結合ペプチドが存在するか、および創傷または出血部位のタイプと寸法に依存するであろう。しかし、組成物の典型的な有効量は、0.005〜25mg/ml、例えば、0.01〜10mg/mlの濃度の止血剤を含む組成物の0.1ml〜50ml、例えば、0.1ml〜5ml、1〜50ml、または1〜5mlである。
【0183】
本発明の実施形態が、添付の図面を参照しながら、例示の目的のみで以降で記載される。
【発明を実施するための形態】
【0185】
実施例1
ペプチドデンドリマーおよびペプチド複合体の合成
FmocまたはBoc保護アミノ酸(Novabiochem)を使って、標準的Fmocペプチド合成によりRinkアミドMBHA低密度充填型樹脂(Novabiochem、0.36mmol/g)上でペプチドを合成した。
【0186】
一般に、合成全体を通して、単一カップリングサイクルが使用され、HBTU活性化反応を採用した(カップリング剤としてHBTUおよびPyBOP(AGTC Bioproductsから入手)を使用した)。しかし、いくつかの位置では、カップリングが予測より効率が低く、2回のカップリングが必要であった。
【0187】
分岐点までは、自動化ペプチド合成装置およびHBTUを使ってペプチドを構築し、ペプチド分岐部に対しては、PyBOPを使って手操作によるペプチド合成により構築した。
【0188】
自動化合成では、それぞれのカップリングに対し3倍過剰のアミノ酸およびHBTUを使用し、9倍過剰のジメチルホルムアミド(DMF、Sigma)中のジイソプロピルメチルアミン(DIPEA、Sigma)を使用した。
【0189】
手操作による合成では、それぞれのカップリングに対し3倍過剰のアミノ酸およびPyBOPを使用し、9倍過剰のN−メチルピロリジノン(NMP、Sigma)中のDIPEAを使用した。
【0190】
DMF中の20%のピペリジン(Sigma)を使った、成長しているペプチドの脱保護(Fmoc基の除去)も同様に必ずしも効率的とは限らず、2回の脱保護を要する可能性がある。
【0191】
分岐部は、Fmoc−Lys(Fmoc)−OH、Fmoc−Lys(Boc)−OH、またはFmoc−Lys(Mtt)−OHを使って作製した。
【0192】
ペプチドの最終的脱保護および固体支持体からの開裂をトリイソプロピルシラン(TIS、Sigma)、水およびアニソール(Sigma)(1:1:1、5%)を含む95%のTFA(Sigma)を使った樹脂の2〜3時間の処理により実施した。
【0193】
開裂させたペプチドを冷ジエチルエーテル(Sigma)中で沈殿させ、遠心分離によりペレット化して、凍結乾燥した。ペレットを水(10〜15mL)中に再溶解し、濾過して、C−18(Phenomenex、流速20ml/分)カラムおよび0.1%TFA含有アセトニトリル/水グラジエントを使って逆相HPLCにより精製した。精製生成物を凍結乾燥し、ESI−LC/MSおよび分析用HPLCで分析し、純粋(>95%)であることが示された。質量分析結果は全て計算値と合致した。
【0194】
ペプチドデンドリマーおよびペプチド複合体
上記の方法を使って合成したペプチドデンドリマーおよびペプチド複合体の構造を以下に示す。
【0195】
ペプチド配列の末端の「NH
2−」基は、配列のアミノ末端のアミノ基を意味する。ペプチド配列の末端の「−am」基は、配列のカルボキシ末端のアミド基を意味する。
ペプチド複合体No.1:
【化20】
ペプチド複合体No.2:
【化21】
ペプチド複合体No.3:
【化22】
ペプチド複合体No.4:
【化23】
ペプチド複合体No.5:
【化24】
ペプチド複合体No.8:
【化25】
ペプチド複合体No.9:
【化26】
ペプチド複合体No.10:
【化27】
ペプチド複合体No.11:
【化28】
ペプチド複合体No.12:
【化29】
ペプチド複合体No.13:
【化30】
【0196】
実施例2
ペプチドデンドリマーとフィブリノーゲンの共重合
デンドリマーNo.12は、5個の連続したリジン残基を有する分岐コアを含む。リジン残基は、隣接するリジン残基の側鎖を介して共有結合で連結される。
【0197】
ペプチドデンドリマーNo.12のフィブリノーゲンを重合させる能力を評価した。0.005〜2mg/mlの濃度のデンドリマー溶液30μlを、3mg/ml(血液中で認められたフィブリノーゲンのレベル)の精製ヒトフィブリノーゲン100μlに加えた。Sigma Amelung KC4 Delta凝固分析装置を使ってフィブリノーゲンの重合を分析した。
図1は、重合(凝固)時間(秒)とデンドリマーの濃度増加のプロットを示す。
【0198】
結果は、デンドリマーが、極めて低いデンドリマー濃度であっても、フィブリノーゲンとほぼ瞬時に共重合できることを示している。0.5mg/mlを超えるデンドリマー濃度による凝固時間の増加は、フィブリノーゲン中の遊離結合ポケットの数に比べて、過剰なフィブリノーゲン結合ペプチドにより説明されると考えられる。より高い濃度では、デンドリマーのフィブリノーゲン結合ペプチドは、フィブリノーゲン結合ポケットを飽和させて、フィブリノーゲンと共重合できないかなりの数の過剰デンドリマー分子を生じるであろう。
【0199】
実施例3
デンドリマー当たりの種々の数のフィブリノーゲン結合ペプチドがフィブリノーゲンとの共重合速度に与える影響
この実施例は、ペプチドデンドリマー当たりの種々の数のフィブリノーゲン結合ペプチドがフィブリノーゲンとの共重合速度に与える影響を調査する。
【0200】
実施例2に記載のものと同じ方法を使って、ペプチドデンドリマーNo.4、5、10、11、および12の、フィブリノーゲンと共重合する能力を評価した。それぞれのデンドリマーの濃度を、0.005〜0.5mg/mlで変更した。
図2は、凝固時間(秒)とそれぞれ異なるデンドリマーの濃度増加とのプロットを示す。
【0201】
結果は、No.5(2個のみのフィブリノーゲン結合ペプチド/デンドリマーを有する)はフィブリノーゲンと共重合できなかったことを示している。フィブリノーゲン結合ペプチドの数が3から5に増加(デンドリマーの濃度で約0.125から約0.275mg/mlに増加)するのに伴い、共重合速度が増加する。約0.125mg/mlデンドリマー未満の濃度では、デンドリマーNo.10(3個のフィブリノーゲン結合ペプチド/デンドリマーを有する)は、デンドリマーNo.4(4個のフィブリノーゲン結合ペプチド/デンドリマーを有する)より速い凝固時間をもたらした。約0.02〜0.5mg/mlの範囲では、デンドリマーNo.12(5個のフィブリノーゲン結合ペプチド/デンドリマーを有する)がほぼ瞬時の凝固をもたらした。約0.05〜0.3mg/mlの範囲では、デンドリマーNo.11(4個のフィブリノーゲン結合ペプチド/デンドリマーを有する)もほぼ瞬時の凝固をもたらした。
【0202】
デンドリマーによりフィブリノーゲンが重合される速度は、デンドリマー当たりのフィブリノーゲン結合ペプチドの数が増加するに伴い、一般に増加すると結論付けられる。
【0203】
実施例4
フィブリノーゲン結合ペプチドの配向、および異なるフィブリノーゲン結合ペプチド配列の、フィブリノーゲンとの共重合速度に与える影響
フィブリノーゲン結合ペプチドの配向がペプチドデンドリマーのフィブリノーゲンと共重合する能力に影響を与えることがあり得るのかどうかを評価するために、単一の三官能性アミノ酸残基(リジン)に結合した3個のフィブリノーゲン結合ペプチドを含むペプチドデンドリマーを合成し(「3分岐」デンドリマーと呼ぶ)、そのフィブリノーゲン結合ペプチドの1個を、分岐コアに結合したアミノ末端に配向させ、そのカルボキシ末端をアミド化した。異なるフィブリノーゲン結合ペプチド配列を含むペプチドデンドリマーの、フィブリノーゲンと共重合する能力も試験した。
【0204】
ペプチドデンドリマーNo.3および10のフィブリノーゲン結合ペプチドは、それぞれの配列GPRPG(配列番号17)である。ペプチドデンドリマーNo.10のそれぞれのフィブリノーゲン結合ペプチドは、分岐コアに結合したそのカルボキシ末端に配向している。ペプチドデンドリマーNo3.の1個のフィブリノーゲン結合ペプチドは、分岐コアに結合したそのアミノ末端に配向している。そのペプチドのカルボキシ末端はアミド基を含む。
【0205】
ペプチドデンドリマーNo8.の2個のフィブリノーゲン結合ペプチドは、配列GPRPG(配列番号17)であり、3番目のフィブリノーゲン結合ペプチドは、分岐コアに結合したそのアミノ末端に配向した、配列APFPRPG(配列番号14)である。そのペプチドのカルボキシ末端はアミド基を含む。
【0206】
ペプチドデンドリマーNo9.の2個のフィブリノーゲン結合ペプチドは、配列GPRPFPA(配列番号3)であり、3番目のフィブリノーゲン結合ペプチドは、分岐コアに結合したそのアミノ末端に配向した、配列APFPRPG(配列番号14)である。そのペプチドのカルボキシ末端はアミド基を含む。
【0207】
配列GPRPG(配列番号17)は、フィブリノーゲンのホール「a」およびホール「b」に結合するが、ホール「a」に対する若干の選択性を有する。配列GPRPFPA(配列番号3)は、高い選択的でフィブリノーゲンのホール「a」に結合する。配列Pro−Phe−Proは、ペプチド鎖の主鎖を安定化し、ノブ−ホール相互作用の親和性を高める(Stabenfeld et al.,BLOOD,2010,116:1352−1359)。
【0208】
実施例2と同じ方法を使って、0.005〜0.5mg/mlの濃度範囲のそれぞれのデンドリマーに対し、デンドリマーのフィブリノーゲンと共重合する能力を評価した。
図3は、それぞれの異なるデンドリマーの濃度増加に対し得られた凝固時間(秒)のプロットを示す。
【0209】
結果は、ペプチドが分岐コアに結合したそのアミノ末端に配向するように、3分岐デンドリマーのフィブリノーゲン結合ペプチドの1個の配向を変えること(すなわち、デンドリマーNo.3)が、デンドリマーのフィブリノーゲンと共重合する能力を低下させた(デンドリマーNo.3の凝固時間をデンドリマーNo.10の凝固時間と比較して)ことを示している。しかし、より高いフィブリノーゲン濃度では、デンドリマーNo.3は、フィブリノーゲンと共重合可能であった(データは示さず)。
【0210】
分岐コアに結合したアミノ末端に配向した異なる配列のフィブリノーゲン結合ペプチドを有する3分岐デンドリマーは、フィブリノーゲンと共重合することが可能であった(デンドリマーNo.8に対する結果を参照)。
【0211】
選択的にフィブリノーゲンのホール「b」と結合する配列(配列GPRPFPA(配列番号3))を含み、分岐コアに結合したそれらのカルボキシ末端に配向した2個のフィブリノーゲン結合ペプチド、および分岐コアに結合したそのアミノ末端に配向したリバース配列(すなわち、APFPRPG(配列番号14))を含む別のペプチドを含む3分岐デンドリマー(デンドリマーNo.9)も同様に、フィブリノーゲンと共重合する大きな活性があった。
【0212】
実施例5
異なるフィブリノーゲン結合ペプチド配列を有するペプチドデンドリマーの、フィブリノーゲンと共重合する能力
GPRPG(配列番号15)およびGPRPFPA(配列番号3)モチーフが主にフィブリノーゲンの「a」ホールに結合する。この実施例は、キメラペプチドデンドリマー(すなわち、同じ分岐コアに結合した異なるフィブリノーゲン結合ペプチド配列を有するペプチドデンドリマー)の、フィブリノーゲンと共重合する能力の評価について記載する。
【0213】
ペプチドデンドリマーNo.13は、配列GPRPG−(配列番号17)(これは「a」ホールに対する結合選択性を有する)を有する2個のフィブリノーゲン結合ペプチド、およびGHRPY−(配列番号11)(これは「b」ホールに対し選択的に結合する)を有する2個のフィブリノーゲン結合ペプチドを含むキメラ4分岐ペプチドデンドリマーである。非キメラペプチドデンドリマーNo.11および12は、それぞれ、4および5アームペプチドデンドリマーである。これらのデンドリマーのそれぞれのフィブリノーゲン結合ペプチドは、配列GPRPG−(配列番号17)を有する。ペプチドデンドリマーNo.11、12、および13のそれぞれのフィブリノーゲン結合ペプチドは、分岐コアに対しそのカルボキシ末端で結合している。
【0214】
実施例2と同じ方法を使って、0.005〜0.5mg/mlの濃度範囲のそれぞれのデンドリマーに対し、デンドリマーのフィブリノーゲンと共重合する能力を評価した。
図4は、それぞれの異なるデンドリマーの濃度増加に対し得られた凝固時間(秒)のプロットを示す。
【0215】
結果は、0.3mg/ml未満の濃度で、キメラデンドリマーを使った凝固速度は、非キメラデンドリマーよりも遅かったことを示している。しかし、
図5は、異なるデンドリマーを使って得られたヒドロゲルの写真を示す。ゲルは、使用したペプチドデンドリマーの番号(11、12、および13)で標識され、「P」は、いくつかのフィブリノーゲン結合ペプチドがヒト血清アルブミンに結合されている生成物を使って形成したヒドロゲルの標識である。キメラデンドリマーにより形成したヒドロゲルは、デンドリマーNo.11および12(3mg/mlフィブリノーゲン、またはより高濃度のフィブリノーゲン)を使って形成されたヒドロゲルに比べて、より緻密で、より少ない流体を含んでいた。したがって、キメラデンドリマーを使った場合、凝固時間はより遅いが、このデンドリマーを使って形成されたヒドロゲルはより緻密であった。
【0216】
実施例6
ペプチドデンドリマーおよびペプチド複合体の混合物のフィブリノーゲンと共重合する能力
配列GPRP−(配列番号1)のフィブリノーゲン結合ペプチドは、フィブリノーゲンの「a」ホールに強力におよび選択的に結合する(Laudano et al.,1978 PNAS 7S)。ペプチド複合体No.1は、この配列を有する2個の、それぞれリジン残基に結合したフィブリノーゲン結合ペプチドを含む。第1のペプチドは、リジン残基へのリンカーによりそのカルボキシ末端に結合され、第2のペプチドは、リジン残基へのリンカーによりそのアミノ末端に結合される。第2のペプチドのカルボキシ末端はアミド基を含む。
【0217】
配列GHRPY−(配列番号11)のフィブリノーゲン結合ペプチドは、フィブリノーゲンの「b」ホールに強力におよび選択的に結合する(Doolittle and Pandi,Biochemistry 2006,45,2657−2667)。ペプチド複合体No.2は、リジン残基へのリンカーによりそのカルボキシ末端に結合した、この配列を有する第1のフィブリノーゲン結合ペプチドを含む。リバース配列(YPRHG(配列番号16))を有する第2のフィブリノーゲン結合ペプチドは、リジン残基へのリンカーによりそのアミノ末端に結合される。第2のペプチドのカルボキシ末端はアミド基を含む。
【0218】
リンカーは、ペプチドが相互に離れて伸長するのを可能にする。
【0219】
ペプチド複合体No.1または2(2mg/ml)をペプチドデンドリマーNo.3または4、およびフィブリノーゲンと混合し、実施例2での記載と同じ方法を使って、0.025〜0.5mg/mlの範囲のそれぞれのデンドリマーの濃度に対し、その混合物のフィブリノーゲンと共重合する能力を評価した。
図6は、それぞれの異なるデンドリマーの濃度増加に対し得られた凝固時間(秒)のプロットを示す。
【0220】
結果は、ペプチド複合体No.2(すなわち、B−ノブペプチドを有する)およびデンドリマーペプチドを含む混合物のみが、活性が相乗的で、増加したが、ペプチド複合体No.1(A−ノブペプチド)を含む混合物は、ペプチド複合体No.2またはペプチドデンドリマーに添加した場合、活性ではなかったことを示している
【0221】
実施例7
ヒト血漿中でペプチドデンドリマーのフィブリノーゲンを重合する能力
ヒト血漿中で、いくつかの異なるペプチドデンドリマー(No.4、5、8、9、10、11、12、13)のフィブリノーゲンを重合する能力を試験した。
【0222】
30μLのそれぞれのデンドリマー(0.25mg/mlの濃度)を37℃で100μLのヒト血漿に加え、Sigma Amelung KC4 Delta凝固分析装置を使ってフィブリノーゲンの重合を測定した。
【0223】
それぞれのデンドリマーに対する凝固時間を
図7に示し、ペプチドデンドリマーNo.10、11、4、12および13はヒト血漿中でフィブリノーゲンを重合でき、デンドリマーNo.12が特に効果的であった(1秒未満の凝固時間)ことを示す。しかし、ペプチドデンドリマーNo.5、8および9は、ヒト血漿中でフィブリノーゲンを重合できなかった。
【0224】
実施例8
溶液中の止血剤に対する蒸気滅菌の影響
この実施例は、蒸気滅菌の、生理食塩水中で配合された止血剤(ペプチドデンドリマーNo.12(実施例1を参照):「HXP12」)の止血活性に与える影響について記載している。
【0225】
50mg/mlの濃度のHXP12を150mMの塩化ナトリウムを使って0.5mg/mlの濃度に希釈した。配合物を6mlのバルク溶液として調製した(60μlのHXP12ストックを使って)。400μlのこのバルク溶液を、ねじ込み式の気密蓋を備えた2mlの各ガラスバイアルに入れた。それぞれのバイアルを121℃で25分間オートクレーブ処理(200kPa)した。滅菌後、バイアルを40℃で最大27週間貯蔵した。
【0226】
貯蔵試料のフィブリノーゲンを重合する能力を試験するために、20mMのリン酸緩衝液pH7.6を使ってそれぞれの試料を0.05mg/mlの濃度に希釈した。30μlのそれぞれの希釈試料を、20mMのリン酸緩衝液pH7.6中で配合された3mg/mlの濃度のヒトフィブリノーゲン100μlに加えた。それぞれの希釈した試料中のHXP12のフィブリノーゲンを重合する能力(「凝固」活性)を、Sigma Amelung KC4 Delta凝固分析装置を使って37℃で測定した。非滅菌対照試料の重合活性も測定した。結果を以下の表1にまとめている。
【表2】
【0227】
表1の結果は、生理食塩水中で配合された止血剤は、オートクレーブ(200kPa)中、121℃で25分間の蒸気による滅菌後、フィブリノーゲンを重合するその能力を保持すること、およびこの活性が40℃で少なくとも27週間の貯蔵後でも保持されることを示す。
【0228】
実施例9
すぐに使える流動性止血組成物に対する蒸気滅菌の影響
この実施例は、蒸気滅菌の、すぐに使える流動性ペーストとして配合された、ヒアルロン酸(HA)架橋粒子を含む止血剤(HXP12)の止血活性に与える影響について記載している。
【0229】
0.6mlの水に溶解されたHXP12溶液を、10mMのリン酸緩衝液(HA濃度2.7%;架橋5:1[HA/ジビニルスルホン「DVS」]、完全水和粒径400μm)中で水和したHAヒドロゲル粒子の1.4gと混合し、HXP12の濃度が1mg/mlであるペーストを形成した。200mgのペーストをガラスバイアル中に分取し、それぞれのバイアルを蓋で密閉した。バイアルを121℃で25分間オートクレーブ処理(200kPa)した。滅菌後、バイアルを80℃に追加の16時間置き、加速劣化プロセスを模擬した。試料を4および16時間で評価した。
【0230】
HXP12を貯蔵試料から抽出し、20mMのリン酸緩衝液pH7.2を使って0.1mg/mlの濃度に希釈した。30μlのそれぞれの抽出試料を、ヒト血漿(AlphaLabs)100μlに加え、それぞれの希釈試料中のHXP12のフィブリノーゲンを37℃で重合する能力(「凝固」活性)を、Sigma Amelung KC4 Delta凝固分析装置を使って測定した。非滅菌対照試料の重合活性も測定した。結果を以下の表2にまとめている。
【表3】
【0231】
表2の結果は、HAヒドロゲル粒子を含む、すぐに使える流動性ペーストとして配合されたHXP12ペプチドが、オートクレーブ(200kPa)中、121℃で25分間の蒸気による滅菌後、ヒト血漿由来のフィブリノーゲンを重合する能力を保持すること、およびこの活性が80℃で少なくとも4時間の貯蔵後でも保持されることを示す。
【0232】
実施例10
すぐに使える流動性止血組成物に対する蒸気滅菌の影響
この実施例は、蒸気滅菌の、すぐに使える流動性ペーストとして配合された、ヒアルロン酸(HA)架橋粒子から作製された止血剤(HXP12)の止血活性に与える影響について記載している。
【0233】
10mMのリン酸緩衝液、160mMのArg.HCl、pH6.8中で配合されたHXP12溶液0.6mlを、1.4gのHAヒドロゲル粒子(HA濃度2.7%;架橋5:1[HA/ジビニルスルホン「DVS」]、完全水和粒径400μm)と混合し、HXP12の濃度が1mg/mlであるペーストを形成した。200mgのペーストをガラスバイアル中に分取し、それぞれのバイアルを蓋で密閉した。バイアルを121℃で25分間オートクレーブ処理(200kPa)した。滅菌後、バイアルを40℃中に置いた。試料を0、2および4週間の時点で評価した。
【0234】
HXP12を貯蔵試料から抽出し、20mMのリン酸緩衝液pH7.2を使って0.06mg/mlの濃度に希釈した。30μlのそれぞれの抽出試料を、20mMのリン酸緩衝液pH7.2中で配合された3mg/mlの濃度(血液中で認められたフィブリノーゲンのレベル)のヒトフィブリノーゲン100μlに加えた。それぞれの希釈試料中のHXP12のフィブリノーゲンを37℃で重合する能力(「凝固」活性)を、Sigma Amelung KC4 Delta凝固分析装置を使って測定した。非滅菌対照試料の重合活性も測定した。結果を以下の表3にまとめている。
【表4】
【0235】
表3の結果は、HAヒドロゲル粒子を含む、すぐに使える流動性ペーストとして配合されたHXP12ペプチドが、オートクレーブ(200kPa)中、121℃で25分間の滅菌後、ヒトフィブリノーゲン由来のフィブリノーゲンを重合する能力を保持すること、およびこの活性が40℃で少なくとも2週間の貯蔵後でも保持されることを示す。
【0236】
実施例11
ウサギの肝臓生検損傷モデルにおける本発明の止血組成物の止血活性の評価
この実施例は、それぞれ異なる濃度の止血剤(HXP12ペプチドデンドリマー)を含む3種の異なる本発明の組成物の止血活性の試験について記載している。
【0237】
方法
7gのHAペースト(HA濃度2.7%;5:1;HA/DVS、完全水和粒径400μm)をシリンジにプレフィルし、3種の異なる濃度の内の1種の濃度のHXP12ペプチドデンドリマー3mlと混合し、10mlの最終生成物を得た。それぞれの10mlの生成物の最終HXP12濃度は:試料B、1mg/ml;B2、0.5mg/ml;B3、1.4mg/mlであった。対照(C)として、7gのHAペーストを3mlの生理食塩水と混合した。
【0238】
ヘパリン処置したウサギ(品種:ニュージーランドホワイト種;性別:雄)を麻酔した。3個全ての肝葉を腹腔から回収し、生理食塩水湿潤ガーゼスワブ上に置いた。下表3に記載のように、3個の肝葉に順次形成した生検損傷に対し試料を試験した。
図8Aは、3個の葉上の肝臓損傷の大凡の位置および順番を示す。
【表5】
【0239】
肝臓の葉上に、6mmの生検パンチを使って、約5mm深さまで生検材料を作成した。予め秤量した乾燥スワブを使って、創傷から出た血液を15秒間収集した。その後、出血重症度の尺度としてスワブを秤量した。スワブの除去後、創傷を別のスワブで乾燥させた後、試験試料を適用した。
【0240】
試験試料の適用のために、生理食塩水で湿潤させた無菌ガーゼスワブを出血表面に対し適用し、シリンジを使って最大2mlの試料B、B2もしくはB3、または2mlの対照(C)を、ガーゼと出血表面の間で生検創傷へ投与した。適用後、1分間にわたり緩やかな圧力をガーゼスワブに印加した。湿潤ガーゼの除去時に、試験試料適用後1、3、6、9および12分(すなわち、1分間の加圧を含む)に創傷の止血を評価した。
【0241】
0、1、2、3、4および5の出血スコアを、出血なし、滲出、極めて軽度、軽度、中度、および重度出血、にそれぞれ割り付けた(
図8B)。出血の程度のスコアは、Adams et al(J Thromb Thrombolysis DOI 10.1007/s 11239−008−0249−3)から改良した。成功した止血に対しては、葉を生理食塩水含浸スワブで覆った。それぞれの葉が上述の処置を受けるまで、この手順を繰り返した。
【0242】
結果
図9は、生検用に採取した肝臓のうち1個の写真である。対照で処置した生検部位(標識「対照」の上部に示す)から血液が流れるのを認めることができ、一方、HAペーストおよびHXP12を含む本発明の組成物で処置した生検部位(「HAペースト+HXP12」標識の上部に示す)で止血効果が明確に視認可能である。
【0243】
図10は、対照と比較して、試料B、B2、およびB3の止血効果(%止血成功)の、評価の時間(分)に対するプロットを示す。対照とは異なり、HAペーストおよびHXP12ペプチドデンドリマーを含むそれぞれの異なる組成物は、強力な凝固活性を示した。この活性は、用量依存性であり、より高い濃度のHXP12を有する組成物(試料BおよびB3)は、12分の評価全体にわたり約80%〜100%の止血活性を示した。最も低いHXP12濃度の組成物(試料B2)は、評価の最初の3分間は100%の止血活性を示したが、その後、残りの9分間は約75%に低下した。
【0244】
この実施例は、基本的に止血性でないHA粒子、および凝固剤特性を有するペプチドデンドリマーを含む本発明の組成物の実施形態が、意外にも、出血を抑えるのに効果的であることを示す。
【0245】
実施例12
架橋HAゲル粒子および止血剤を含む無菌のすぐに使える流動性止血組成物
架橋ヒアルロン酸(HA)ゲル粒子(HA濃度2.7%;5:1;HA/DVS、完全水和粒径400μm)から作製された流動性ペーストは、そのペーストを600rpmで5分間遠心処理することにより透明になった。透明のペーストを
図11Aに示す。
【0246】
7gの透明HAペーストを3mlのHXP12ペプチドデンドリマー(10mMのリン酸緩衝液、160mMのArg.HCl、pH6.8)と混合し、10mlの最終生成物を得た。HXP12の最終濃度は1.05mg/mlであった。
図11Bは、得られた組成物の一部の写真を示す。写真は、組成物が充分に接着性で、創傷上に連続した層を形成し、したがって、創傷を密封するために使用できることを示す。
【0247】
組成物をガラスバイアルに入れ、オートクレーブ(200kPa)中、121℃で25分間の蒸気滅菌により滅菌した。
【0248】
図11Cは、組成物を含むシリンジの写真を示す。
図11Dは、組成物を含むシリンジを示し、一部の組成物がそのプランジャを使ってシリンジ外筒先端の開口部を通して押し出されている。
【0249】
図11Eは、寸法コード「0」、直径0.3〜0.39mmの外科縫合材料上に沈着した本発明の透明組成物の一実施形態の写真である。縫合材料は、透明組成物を通して明確に視認可能である。
【0250】
外科医は、本発明の透明組成物を投与した場合、それを通して見ることができる。これは、組成物を正確に投与し、出血を抑えるまたは停止させるのに効果的であったかどうかを判断することを遥かに容易にする。