特許第6877405号(P6877405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877405
(24)【登録日】2021年4月30日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】電極及びその製造方法、並びに二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20210517BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20210517BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20210517BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/139
   H01M10/0525
【請求項の数】10
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2018-509094(P2018-509094)
(86)(22)【出願日】2017年3月21日
(86)【国際出願番号】JP2017011260
(87)【国際公開番号】WO2017169988
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2019年12月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-68321(P2016-68321)
(32)【優先日】2016年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社エンビジョンAESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】加藤 有光
(72)【発明者】
【氏名】河野 安孝
【審査官】 小川 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−008523(JP,A)
【文献】 特開2014−032759(JP,A)
【文献】 特開2006−139986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/139
H01M10/0525
H01M 4/02−4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、第2の電極と、これらの電極を空間的に分離する分離層と、イオン伝導体を含む二次電池用の電極であって、
集電体と、該集電体上の活物質含有膜を含み、
前記活物質含有膜の体積あたりの空隙率が25%以下であり、
前記電極断面の膜厚方向の面積あたりの空隙率の電極平面方向の位置に対するトレンド分布を評価するトレンド解析による最大空隙率と最小空隙率の比が2.2以上となる高空隙率領域が、半径500μmの電極平面の範囲内に、1箇所以上あり、
前記電極断面について、前記電極平面方向の位置に対する、前記電極断面の膜厚方向の面積あたりの空隙率のトレンド分布を、前記電極平面方向35〜70μmの範囲で平滑化し、
前記平滑化の手法が3次式への最小二乗法近似である電極。
【請求項2】
前記活物質含有膜が、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る活物質を含む、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記活物質含有膜が結着剤を含む、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の電極を製造する方法であって、
集電体上に、活物質粒子と結着剤と溶媒を含むスラリーを塗工する工程と、
塗工工程において厚みの異なる領域を形成し、
前記塗工工程の後に、全面に圧力をかけて密度を上げる工程を有する電極の製造方法。
【請求項5】
前記塗工時に、凹凸を有するブレードを用いて前記スラリーの塗工量を調整して、厚みの異なる領域を形成する請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記塗工工程において、同種又は異なるスラリーを部分的に重ね塗りして、厚みの異なる領域を形成する請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか一項に記載の電極を製造する方法であって、
集電体上に、活物質粒子と結着剤と溶媒を含むスラリーを塗工する工程と、
前記塗工工程の後に、凹凸のあるローラーで電極に圧力をかける工程を有する電極の製造方法。
【請求項8】
請求項1から3のいずれか一項に記載の電極を製造する方法であって、
集電体上に、活物質粒子と結着剤と溶媒を含むスラリーを塗工する工程と、
前記塗工後の乾燥により塗工膜の表面にひび割れを起こさせる工程と、
ひび割れ形成後に、全面に圧力をかける工程とを含む電極の製造方法。
【請求項9】
第1の電極と、第2の電極と、これらの電極を空間的に分離する分離層と、イオン伝導体を含む二次電池であって、
前記第1及び第2の電極の少なくとも一方に、請求項1から3のいずれか一項に記載の電極を用いた二次電池。
【請求項10】
前記第1及び第2の電極の一方がリチウムイオンを吸蔵、放出し得る活物質を含む正極であり、他方が黒鉛系活物質を含む負極である、請求項9記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極及びその製造方法、並びに二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池(リチウムイオン二次電池)は、小型で大容量であることから、携帯型電子機器やパソコン等の用途に広く利用されている。しかし、近年の携帯型電子機器の急速な発達や電気自動車への利用が実現される中で、限られた体積の中で更なるエネルギー密度を向上させることが重要な技術的課題となっている。
【0003】
リチウム二次電池のエネルギー密度を高める方法としては幾つかの方法が考えられるが、その中でも電極の密度を上げることが有効である。
【0004】
一般的な二次電池では、金属集電体薄膜にイオンを吸蔵、脱離する活物質を含む活物質層を形成した正極、および同様に集電体薄膜に負極活物質層を形成した負極と、両者を電子的に分離する分離層と、両者間で分離層を経由してイオンを運ぶイオン伝導体とを有し、これらが積層された構造である。
【0005】
このような構造において、集電体と分離層は数μm〜20μm程度であるのに対し、正極活物質層および負極活物質層のいずれも集電体の両面にそれぞれ100μm程度の厚さで形成されており、活物質層だけで約400μmの厚さになる。
【0006】
たとえば負極活物質に炭素粉末を用いた場合、溶媒と混合したスラリーを塗工し、120℃程度で乾燥した時点での活物質層の密度は1.1g/cm程度である。この活物質層に圧力をかけて1.5g/cmまで圧縮した場合、100μmの厚さを73μmまで低減することができる。
【0007】
このようにして、正極および負極とも電極密度を高くして薄くすることは、電池体積を小さくできるため、体積当たりのエネルギー密度を高める効果的な手法である。
【0008】
特許文献1には、リチウムを吸蔵、放出できる負極活物質を含む負極合剤からなる負極と、リチウムを含む複合酸化物からなる正極活物質を含む正極合剤からなる正極と、電解質とからなり、少なくとも一方の合剤を、集電体の平面方向に対して密度の差を設けて配設したことを特徴とするリチウムイオン二次電池が記載されている。また、このような電池は、高率放電特性に優れ、高率放電時の温度上昇が抑制できることが記載されている。
【0009】
特許文献2には、鎖状カルボン酸エステル、又は主骨格炭素が飽和しているハロゲン置換炭酸エステルを含む二次電池用電解液が記載されている。また、このような電解液を用いることにより、非水電解液二次電池のサイクルに伴う容量低下や高温での信頼性の低下を抑制でき、また動作電圧を向上できることが記載されている。
【0010】
非特許文献1には、オリビン正極の評価(図10)において、Liイオンの脱離が反応点を起点として起こり、広がるという報告がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−64514号公報
【特許文献2】特開2009−123707号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】山重寿夫(トヨタ自動車(株)材料技術開発部)、「放射光XAFS法を用いたリチウムイオン電池材料の解析」、[online]、2014年3月28日、あいちシンクロトロン光センター成果公開無償利用課題成果発表会、インターネット<URL:http://www.astf-kha.jp/synchrotron/userguide/files/20140328_1.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
電極内の活物質がイオン伝導体中のイオンを吸蔵・脱離することで電池が動作するため、活物質とイオン伝導体とが接する面積が広いことが望ましい。しかし、この接触面積を大きくするために電極密度を上げると、活物質間の隙間が減るため、孤立した空隙が形成され、電極表面からイオン伝導体である電解液や固体電解質が活物質間に入り込みにくくなる。このような電極では、イオンの移動が難しくなるため、イオンの吸蔵・脱離が遅くなり、充放電速度などの電池特性が悪化するという問題があった。
【0014】
このような問題の対策として、イオン伝導体が入り込む領域を形成したうえで、電極密度を上げることが望ましい。
【0015】
関連技術として、たとえば特許文献1のように、集電体の平面方向に対して活物質を離散的に配設する技術の利用がある。特許文献1は、具体的には、直径または最大対角線長が3mm以下のドット状活物質(合剤)を集電体上に形成しており、その間隔は0.5mm以上である。もっとも活物質量が多いのは、1つのドットが、対角線長3mmの正方形で、間隔0.5mmの場合である。この時、ドット状活物質の面積占有率は(3mm×3mm)/(3.5mm×3.5mm)=0.735(73.5%)となる。この技術では、活物質を集電体に塗布したのみで密度を上げる処理をしていないが、たとえばドット部の空隙率をゼロ%になるまで高密度化した場合でも、活物質が無い領域があるため、電極としての単位体積当たりの空隙率は100%−73.5%=26.5%より小さくなることはない。
【0016】
本発明は、エネルギー密度を高めるために、電極の空隙率を小さくして電極密度を上げる技術において、空隙率が低い条件下でも、イオン伝導体である電解液や固体電解質を活物質間に入りやすくすることで、優れた電池特性を有するリチウム二次電池及びこれを実現する電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様によれば、第1の電極と、第2の電極と、これらの電極を空間的に分離する分離層と、イオン伝導体を含む二次電池用の電極であって、
集電体と、該集電体上の活物質含有膜を含み、
前記活物質含有膜の体積あたりの空隙率が25%以下であり、
前記電極断面の膜厚方向の面積あたりの空隙率のトレンド解析による最大空隙率と最小空隙率の比が2.2以上となる高空隙率領域が、半径500μmの電極平面の範囲内に、1箇所以上ある電極が提供される。
【0018】
本発明の他の態様によれば、上記の電極を製造する方法であって、
集電体上に、活物質粒子と結着剤と溶媒を含むスラリーを塗工する工程と、
塗工工程において厚みの異なる領域を形成し、
前記塗工工程の後に、全面に圧力をかけて密度を上げる工程を有する電極の製造方法が提供される。
【0019】
本発明の他の態様によれば、上記の電極を製造する方法であって、
集電体上に、活物質粒子と結着剤と溶媒を含むスラリーを塗工する工程と、
前記塗工工程の後に、凹凸のあるローラーで電極に圧力をかける工程を有する電極の製造方法が提供される。
【0020】
本発明の他の態様によれば、上記の電極を製造する方法であって、
集電体上に、活物質粒子と結着剤と溶媒を含むスラリーを塗工する工程と、
前記塗工後の乾燥により塗工膜の表面にひび割れを起こさせる工程と、
ひび割れ形成後に、全面に圧力をかける工程とを含む電極の製造方法が提供される。
【0021】
本発明の他の態様によれば、第1の電極と、第2の電極と、これらの電極を空間的に分離する分離層と、イオン伝導体を含む二次電池であって、
前記第1及び第2の電極の少なくとも一方に、上記の電極を用いた二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の実施形態によれば、エネルギー密度を高めるために、電極の空隙率を小さくして電極密度を上げる技術において、空隙率が低い条件下でも、イオン伝導体である電解液や固体電解質を活物質間に入りやすくすることができ、優れた電池特性を有するリチウム二次電池及びこれを実現する電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態による二次電池を説明するための模式的断面図である。
図2】実施例1の負極の断面(膜厚方向の断面)のSEM画像である。
図3】実施例1の負極の空隙率の電極平面方向の位置依存(平滑化前)を示す図である。
図4】実施例1の負極の空隙率の電極平面方向の位置依存(平滑化後)を示す図である。
図5】比較例1の負極の断面のSEM画像である。
図6】比較例1の負極の空隙率の電極平面方向の位置依存(平滑化後)を示す図である。
図7】比較例2の負極の断面のSEM画像である。
図8】比較例2の負極の空隙率の電極平面方向の位置依存(平滑化後)を示す図である。
図9】平滑化の範囲と空隙率比の関係を示す図である。
図10】電極の面・断面方向の反応分布の成長過程を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本実施形態による二次電池は、第1の電極と、動作時に第1の電極と電位が異なる第2の電極と、両電極を空間的に分離する分離層と、第1又は第2の電極と接触するイオン伝導体とを含む。
【0025】
第1及び第2の電極は、それぞれ、集電体とこの集電体上に形成された活物質含有膜を含む。
【0026】
第1及び第2の電極の少なくとも一方は、その活物質含有膜の体積あたりの空隙率(体積空隙率)が25%以下であり、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。
【0027】
さらに、電極断面(膜厚方向の断面)の膜厚方向(集電体平面に垂直な方向)の面積あたりの空隙率(面積空隙率)のトレンド解析による最大空隙率と最小空隙率の比が2.2以上となる高空隙率領域(以下、適宜「高空隙率領域H」という)が、電極平面内の任意の位置の半径500μmの電極平面の範囲内に、1箇所以上あることが好ましい。
【0028】
上記の最大空隙率と最小空隙率は、電極断面(膜厚方向の断面)の画像に基づく空隙率のトレンド解析により求めることができる。その際、その電極断面について、電極平面方向(すなわち集電体平面方向)の位置に対する、膜厚方向に沿った画像部分の空隙率の分布(トレンド分布)を、その電極平面方向35〜70μmの範囲で平滑化することが好ましい。この平滑化の手法は3次式への最小二乗法近似であることが好ましい。
【0029】
この電極断面(膜厚方向の断面)は、所定の面内方向に沿った電極断面とすることができ、この所定の面内方向に沿った任意の断面において、平面方向の1000μmの領域内に高空隙率領域Hが1つ以上あることが好ましく、500μmの領域内に高空隙率部Hが1つ以上あることがより好ましい。
【0030】
また、電極断面は複数とることができ、これらの電極断面の間隔は1000μm以下にすることができる。
【0031】
体積空隙率は、集電体上の活物質含有膜の体積(この膜内の空隙部を含む)に対する、この膜内の空隙部の割合(百分率)を意味する。この膜内の空隙部は、この膜を構成する固形分(例えば活物質、導電助剤、結着剤等)以外の空間部である。二次電池においては、この空隙部(空間部)にイオン伝導体が存在する。
【0032】
体積空隙率は、次のようにして求めることができる。
使用した固形分材料の体積と、集電体上に形成した活物質含有膜のプレス後の厚さから求めた体積との差を求め、この差を空隙の体積とし、この空隙の体積をプレス後の活物質含有膜の体積で割った値を体積空隙率とすることができる。
また、作製後の電極について、FIB(集束イオンビーム加工装置)で断面を形成して空隙形状を撮影、断面形成位置をずらして空隙形状の撮影を繰り返し、得られた断面像群から電極内の3D状態を再構成することで体積空隙率を得ることができる。
【0033】
面積空隙率は、電極断面の画像解析により求めることができる。この面積空隙率は、電極断面の膜厚方向で求めた空隙率の面内方向のトレンドを示す空隙率であって、面内方向位置と膜厚方向空隙率の関係を面内方向35〜70μmの範囲で3次式近似して、該当箇所の空隙率とすることができる。
【0034】
また本実施形態による電極において、前記空隙率比(最大空隙率と最小空隙率の比)は、2.2以上が好ましく、2.3以上がより好ましい。この空隙率比が大きいほど、活物質間にイオン伝導体が入りやすくなり、電荷移動もしやすくなり、充放電速度等の電池特性を向上できる。
【0035】
一方、エネルギー密度の点からは、体積空隙率が小さいことが好ましく、この体積空隙率は25%以下が好ましい。但し、体積空隙率が低くなるにつれ、最小空隙率が小さくなりにくくなるため、空隙率比を大きくすることが困難になる傾向がある。そのため、体積空隙率は10%以上がより好ましい。
【0036】
以下に、本発明の好適な実施形態についてさらに説明する。なお、以降、充電時に電圧が高いほうの電極を正極、低いほうの電極を負極と呼ぶ。
【0037】
(正極)
本実施形態によるリチウム二次電池の正極は、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る材料を含むものであれば特に限定されない。たとえば、LiMnあるいはLiCoOなどの4V級(平均動作電位=3.6〜3.8V:対リチウム電位)の材料を用いることができる。これらの正極活物質では、CoイオンもしくはMnイオンの酸化還元反応(Co3+←→Co4+もしくはMn3+←→Mn4+)によって発現電位が規定される。また、LiM1O(M1はMn、Fe、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M1の一部がMg、AlまたはTiで置換されていてもよい)、LiMn2−xM2(M2はMg、Al、Co、Ni、FeおよびBからなる群から選択される少なくとも一種の元素であり、0≦x<0.4である。)などのリチウム含有複合酸化物、LiFePOで表されるオリビン型材料なども用いることができる。
【0038】
また、高エネルギー密度を得る観点からは、リチウム金属に対して4.5V以上の電位でリチウムイオンを吸蔵または放出可能な正極活物質を含むことが好ましい。
【0039】
例えば、以下のような方法によって選択することができる。まず、正極活物質を含む正極とLi金属とをセパレータを挟んで対向させた状態で電池内に配置させ、電解液を注液し、電池を作製する。そして、正極内の正極活物質質量あたり例えば5mAh/gとなる定電流で充放電を行った場合に、活物質質量あたり10mAh/g以上の充放電容量をリチウムに対して4.5V以上の電位で持つものを、リチウムに対して4.5V以上の電位で動作する正極活物質とすることができる。
【0040】
例えばマンガン酸リチウムのMnをNiやCo、Fe、Cu、Crなどにより置換したスピネル化合物を活物質として用いることにより、5V級の動作電位を実現できることが知られている。具体的には、特許文献2のように、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル化合物が4.5V以上の領域に電位プラトーを示すことが知られている。こうしたスピネル化合物において、Mnは4価の状態で存在し、Mn3+←→Mn4+の酸化還元に代わってNi2+←→Ni4+の酸化還元によって動作電位が規定される。
【0041】
例えばLiNi0.5Mn1.5は容量が130mAh/g以上であり、平均動作電圧は金属リチウムに対して4.6V以上である。容量としてはLiCoOより小さいものの、電池のエネルギー密度はLiCoOよりも高い。更に、スピネル型リチウムマンガン酸化物は三次元のリチウム拡散経路を持ち、熱力学的安定性に優れている、合成が容易といった利点もある。
【0042】
リチウムに対して4.5V以上の電位で動作する活物質として、たとえば下記式(10)で表されるリチウムマンガン複合酸化物がある。下記式(10)で表されるリチウムマンガン複合酸化物はリチウムに対して4.5V以上の電位で動作する活物質である。
【0043】
Li(MMn2−x−y)(O4−w) (10)
(式中、0.3≦x≦1.2、0≦y、x+y<2、0≦a≦1.2、0≦w≦1である。Mは、Co、Ni、Fe、Cr及びCuからなる群より選ばれる少なくとも一種である。Yは、Li、B、Na、Al、Mg、Ti、Si、K及びCaからなる群より選ばれる少なくとも一種である。Zは、F及びClからなる群より選ばれる少なくとも一種である。)
【0044】
また、式(10)で表されるリチウムマンガン複合酸化物は、下記式(10−1)で表される化合物であることがより好ましい。
【0045】
Li(MMn2−x−y)(O4−w) (10−1)
(式中、0.5≦x≦1.2、0≦y、x+y<2、0≦a≦1.2、0≦w≦1である。Mは、Co、Ni、Fe、Cr及びCuからなる群より選ばれる少なくとも一種である。Yは、Li、B、Na、Al、Mg、Ti、Si、K及びCaからなる群より選ばれる少なくとも一種である。Zは、F及びClからなる群より選ばれる少なくとも一種である。)
【0046】
また、式(10)において、Mは、Niを含むことが好ましく、Niのみであることが好ましい。MがNiを含む場合、比較的容易に高容量の活物質が得られるためである。MがNiのみからなる場合において、高容量の活物質を得られる観点から、xが0.4以上0.6以下であることが好ましい。また、正極活物質がLiNi0.5Mn1.5であると、130mAh/g以上の高い容量が得られることからより好ましい。
【0047】
また、式(10)で表される、リチウムに対して4.5V以上の電位で動作する活物質として、例えば、LiCrMnO、LiFeMnO、LiCoMnO、LiCu.5Mn1.5等が挙げられ、これらの正極活物質は高容量である。また、正極活物質は、これらの活物質と、LiNi0.5Mn1.5とを混合した組成としてもよい。
【0048】
また、これらの活物質のMnの部分の一部をLi、B、Na、Al、Mg、Ti、SiK又はCa等で置換することによって、寿命面の改善が可能となる場合がある。つまり、式(10)において、0<yの場合、寿命が改善できる場合がある。これらの中でも、YがAl、Mg、Ti、Siの場合に寿命改善効果が高い。また、YがTiの場合、高容量を保ったまま寿命改善効果を奏することからより好ましい。yの範囲は、0より大きく、0.3以下であることが好ましい。yを0.3以下とすることにより、容量の低下を抑制することが容易となる。
【0049】
また、酸素の部分をFやClで置換することが可能である。式(10)において、wを0より大きく1以下とすることにより、容量の低下を抑制することができる。
【0050】
式(10)で表されるスピネル型の正極活物質の例としては、例えば、LiNi0.5Mn1.5等のMとしてNiを含む化合物;及び、LiCrMn2−x(0.4≦x≦1.1)、LiFeMn2−x(0.4≦x≦1.1)、LiCuMn2−x(0.3≦x≦0.6)、LiCoMn2−x(0.4≦x≦1.1)等;並びにこれらの固溶体が挙げられる。
【0051】
また、リチウムに対して4.5V以上の電位で動作する活物質としては、オリビン型のものが挙げられる。オリビン型の正極活物質としては、LiMPO(M:Co及びNiの少なくとも一種)、例えば、LiCoPO、又はLiNiPO等が挙げられる。
【0052】
また、リチウムに対して4.5V以上の電位で動作する活物質としては、Si複合酸化物も挙げられ、Si複合酸化物としては、例えば、LiMSiO(M:Mn、Fe、Coのうちの少なくとも一種)が挙げられる。
【0053】
また、リチウムに対して4.5V以上の電位で動作する活物質としては、層状構造を有するものも含み、層状構造を含む正極活物質としては、例えば、Li(M1M2Mn2−x−y)O(M1:Ni,Co及びFeからなる群より選ばれる少なくとも一種、M2:Li、Mg及びAlからなる群から選ばれる少なくとも一種、0.1<x<0.5、0.05<y<0.3)、Li(M1−zMn)O(M:Li、Co及びNiのうちの少なくとも一種、0.7≧z≧0.33)、又は、Li(Li1−x−zMn)O(M:Co及びNiのうちの少なくとも一種、0.3>x≧0.1、0.7≧z≧0.33)等で表される活物質が挙げられる。
【0054】
前記式(10)で表されるリチウムマンガン複合酸化物等の正極活物質の比表面積は、例えば0.01〜5m/gであり、0.05〜4m/gが好ましく、0.1〜3m/gがより好ましく、0.2〜2m/gがさらに好ましい。比表面積をこのような範囲とすることにより、電解液との接触面積を適当な範囲に調整することができる。つまり、比表面積を0.01m/g以上とすることにより、リチウムイオンの挿入脱離がスムーズに行われ易くなり、抵抗をより低減することができる。また、比表面積を5m/g以下とすることにより、電解液の分解が促進することや、活物質の構成元素が溶出することをより抑制することができる。
【0055】
前記リチウムマンガン複合酸化物等の活物質の中心粒径(メジアン径:D50)は、0.1〜50μmであることが好ましく、0.2〜40μmがより好ましい。粒径を0.1μm以上とすることにより、Mnなどの構成元素の溶出をより抑制でき、また、電解液との接触による劣化をより抑制できる。また、粒径を50μm以下とすることにより、リチウムイオンの挿入脱離がスムーズに行われ易くなり、抵抗をより低減することができる。粒径の測定はレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置によって実施することができる。
【0056】
正極活物質は、1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
例えば、上述の4V級の活物質のみを含むものであってもよい。また、高エネルギー密度を得る観点では、上述のように、リチウムに対して4.5V以上の電位で動作する活物質を用いることがより好ましい。さらに4V級の活物質を含んでもよい。
【0057】
正極用結着剤としては、特に制限されるものではないが、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。中でも、汎用性や低コストの観点から、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。使用する正極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」の観点から、正極活物質100質量部に対して、2〜10質量部が好ましい。
【0058】
正極活物質を含む正極活物質層には、インピーダンスを低下させる目的で、導電補助材を添加してもよい。導電補助材としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子が挙げられる。
【0059】
正極集電体としては、特に制限されるものではないが、電気化学的な安定性から、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、およびそれらの合金、およびステンレスが好ましい。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。
【0060】
(負極)
負極は、負極活物質として、リチウムを吸蔵及び放出し得る材料を含むものであれば特に限定されない。
【0061】
負極活物質としては、特に制限されるものではなく、例えば、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る炭素材料(a)、リチウムと合金可能な金属(b)、又はリチウムイオンを吸蔵、放出し得る金属酸化物(c)等が挙げられる。
【0062】
炭素材料(a)としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛等)、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブ、またはこれらの複合物を用いることができる。ここで、結晶性の高い黒鉛は、電気伝導性が高く、銅などの金属からなる負極集電体との接着性および電圧平坦性が優れている。一方、結晶性の低い非晶質炭素は、体積膨張が比較的小さいため、負極全体の体積膨張を緩和する効果が高く、かつ結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する劣化が起きにくい。炭素材料(a)は、それ単独で又はその他の物質と併用して用いることができる。その他の物質と併用する実施形態では、炭素材料(a)が、負極活物質中2質量%以上80質量%以下の範囲であることが好ましく、2質量%以上30質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0063】
金属(b)としては、Al、Si、Pb、Sn、Zn、Cd、Sb、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、La等を主体とした金属、又はこれらの2種以上の合金、あるいはこれら金属又は合金とリチウムとの合金等を用いることができる。特に、金属(b)としてシリコン(Si)を含むことが好ましい。金属(b)は、それ単独で又はその他の物質と併用して用いることができるが、負極活物質中5質量%以上90質量%以下の範囲であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0064】
金属酸化物(c)としては、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化リチウム、またはこれらの複合物を用いることができる。特に、金属酸化物(c)として酸化シリコンを含むことが好ましい。これは、酸化シリコンは、比較的安定で他の化合物との反応を引き起こしにくいからである。また、金属酸化物(c)に、窒素、ホウ素およびイオウの中から選ばれる一種または二種以上の元素を、例えば0.1〜5質量%添加することもできる。こうすることで、金属酸化物(c)の電気伝導性を向上させることができる。金属酸化物(c)は、それ単独で又はその他の物質と併用して用いることができるが、負極活物質中5質量%以上90質量%以下の範囲であることが好ましく、40質量%以上70質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0065】
金属酸化物(c)の具体例としては、例えば、LiFe、WO、MoO、SiO、SiO、CuO、SnO、SnO、Nb、LiTi2−x(1≦x≦4/3)、PbO、Pb等が挙げられる。
【0066】
また、負極活物質としては、他にも、例えば、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る金属硫化物(d)が挙げられる。金属硫化物(d)としては、例えば、SnSやFeS等が挙げられる。また、負極活物質としては、他にも、例えば、金属リチウム若しくはリチウム合金、ポリアセン若しくはポリチオフェン、又はLi(LiN)、LiMnN、LiFeN、Li2.5Co0.5N若しくはLiCoN等の窒化リチウム等を挙げる事ができる。
【0067】
以上の負極活物質は、単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。
【0068】
また、負極活物質は、炭素材料(a)、金属(b)、及び金属酸化物(c)を含む構成とすることができる。以下、この負極活物質について説明する。
【0069】
金属酸化物(c)はその全部または一部がアモルファス構造を有することが好ましい。アモルファス構造の金属酸化物(c)は、炭素材料(a)や金属(b)の体積膨張を抑制することができ、電解液の分解を抑制することができる。このメカニズムは、金属酸化物(c)がアモルファス構造であることにより、炭素材料(a)と電解液の界面への被膜形成に何らかの影響があるものと推定される。また、アモルファス構造は、結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する要素が比較的少ないと考えられる。なお、金属酸化物(c)の全部または一部がアモルファス構造を有することは、エックス線回折測定(一般的なXRD測定)にて確認することができる。具体的には、金属酸化物(c)がアモルファス構造を有しない場合には、金属酸化物(c)に固有のピークが観測されるが、金属酸化物(c)の全部または一部がアモルファス構造を有する場合が、金属酸化物(c)に固有ピークがブロードとなって観測される。
【0070】
金属酸化物(c)は、金属(b)を構成する金属の酸化物であることが好ましい。また、金属(b)及び金属酸化物(c)は、それぞれシリコン(Si)及び酸化シリコン(SiO)であることが好ましい。
【0071】
金属(b)は、その全部または一部が金属酸化物(c)中に分散していることが好ましい。金属(b)の少なくとも一部を金属酸化物(c)中に分散させることで、負極全体としての体積膨張をより抑制することができ、電解液の分解も抑制することができる。なお、金属(b)の全部または一部が金属酸化物(c)中に分散していることは、透過型電子顕微鏡観察(一般的なTEM(Transmission Electron Microscope)観察)とエネルギー分散型X線分光法測定(一般的なEDX(Energy Dispersive X-ray spectroscopy)測定)を併用することで確認することができる。具体的には、金属(b)粒子を含むサンプルの断面を観察し、金属酸化物(c)中に分散している金属(b)粒子の酸素濃度を測定し、金属(b)粒子を構成している金属が酸化物となっていないことを確認することができる。
【0072】
上述のように、炭素材料(a)、金属(b)、及び金属酸化物(c)の合計に対するそれぞれの炭素材料(a)、金属(b)、及び金属酸化物(c)の含有率は、それぞれ、2質量%以上80質量%以下、5質量%以上90質量%以下、及び5質量%以上90質量%以下であることが好ましい。また、炭素材料(a)、金属(b)、及び金属酸化物(c)の合計に対するそれぞれの炭素材料(a)、金属(b)、及び金属酸化物(c)の含有率は、それぞれ、2質量%以上30質量%以下、20質量%以上50質量%以下、及び40質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。
【0073】
金属酸化物(c)の全部または一部がアモルファス構造であり、金属(b)の全部または一部が金属酸化物(c)中に分散しているような負極活物質は、例えば、特開2004−47404号公報で開示されているような方法で作製することができる。すなわち、金属酸化物(c)をメタンガスなどの有機物ガスを含む雰囲気下でCVD処理を行うことで、金属酸化物(c)中の金属(b)がナノクラスター化し、かつ表面が炭素材料(a)で被覆された複合体を得ることができる。また、炭素材料(a)と金属(b)と金属酸化物(c)とをメカニカルミリングで混合することでも、上記負極活物質を作製することができる。
【0074】
また、炭素材料(a)、金属(b)、及び金属酸化物(c)は、特に制限するものではないが、それぞれ粒子状のものを用いることができる。例えば、金属(b)の平均粒子径は、炭素材料(a)の平均粒子径および金属酸化物(c)の平均粒子径よりも小さい構成とすることができる。このようにすれば、充放電時にともなう体積変化の大きい金属(b)が相対的に小粒径となり、体積変化の小さい炭素材料(a)や金属酸化物(c)が相対的に大粒径となるため、デンドライト生成および合金の微粉化がより効果的に抑制される。また、充放電の過程で大粒径の粒子、小粒径の粒子、大粒径の粒子の順にリチウムが吸蔵、放出されることとなり、この点からも、残留応力、残留歪みの発生が抑制される。金属(b)の平均粒子径は、例えば20μm以下とすることができ、15μm以下とすることが好ましい。
【0075】
また、金属酸化物(c)の平均粒子径が炭素材料(a)の平均粒子径の1/2以下であることが好ましく、金属(b)の平均粒子径が金属酸化物(c)の平均粒子径の1/2以下であることが好ましい。さらに、金属酸化物(c)の平均粒子径が炭素材料(a)の平均粒子径の1/2以下であり、かつ金属(b)の平均粒子径が金属酸化物(c)の平均粒子径の1/2以下であることがより好ましい。平均粒子径をこのような範囲に制御すれば、金属および合金相の体積膨脹の緩和効果がより有効に得ることができ、エネルギー密度、サイクル寿命と効率のバランスに優れた二次電池を得ることができる。より具体的には、シリコン酸化物(c)の平均粒子径を黒鉛(a)の平均粒子径の1/2以下とし、シリコン(b)の平均粒子径をシリコン酸化物(c)の平均粒子径の1/2以下とすることが好ましい。また、より具体的には、シリコン(b)の平均粒子径は、例えば20μm以下とすることができ、15μm以下とすることが好ましい。
【0076】
また、負極活物質として、表面が低結晶性炭素材料で覆われた黒鉛を用いることができる。黒鉛の表面が低結晶性の炭素材料で覆われることにより、エネルギー密度が高く、高伝導性の黒鉛を負極活物質として用いた場合であっても、負極活物質と電解液との反応を抑制することができる。そのため、低結晶性炭素材料で覆われた黒鉛を負極活物質として用いることにより、電池の容量維持率を向上することができ、また、電池容量を向上することができる。
【0077】
黒鉛表面を覆う低結晶性炭素材料は、レーザーラマン分析によるラマンスペクトルの1550cm−1から1650cm−1の範囲に生じるGピークの強度Iに対する、1300cm−1から1400cm−1の範囲に生じるDピークのピーク強度Iの比I/Iが、0.08以上0.5以下であることが好ましい。一般に、結晶性が高い炭素材料は低いI/I値を示し、結晶性が低い炭素は高いI/I値を示す。I/Iが0.08以上であれば、高電圧で動作する場合でも、黒鉛と電解液との反応を抑制することができ、電池の容量維持率を向上することができる。I/Iが0.5以下であれば、電池容量を向上することができる。また、I/Iは、0.1以上0.4以下であることがより好ましい。
【0078】
低結晶性炭素材料のレーザーラマン分析は、例えば、アルゴンイオンレーザーラマン分析装置を用いることができる。炭素材料のようなレーザー吸収の大きい材料の場合、レーザーは表面から数10nmまでで吸収される。そのため、低結晶性炭素材料で表面が覆われた黒鉛に対するレーザーラマン分析により、表面に配置された低結晶性炭素材料の情報が実質的に得られる。
【0079】
値又はI値は、例えば、以下の条件により測定したレーザーラマンスペクトルから求めることができる。
【0080】
レーザーラマン分光装置:Ramanor T−64000(Jobin Yvon/愛宕物産社製)
測定モード:マクロラマン
測定配置:60°
ビーム径:100μm
光源:Ar+レーザー/514.5nm
レザーパワー:10mW
回折格子:Single600gr/mm
分散:Single21A/mm
スリット:100μm
検出器:CCD/Jobin Yvon1024256
【0081】
低結晶性炭素材料で覆われた黒鉛は、例えば、粒子状の黒鉛に低結晶性炭素材料を被覆することにより得ることができる。黒鉛粒子の平均粒子径(体積平均:D50)は5μm以上30μm以下であることが好ましい。黒鉛は結晶性を有することが好ましく、黒鉛のI/I値が0.01以上0.08以下であることがより好ましい。
【0082】
低結晶性炭素材料の厚さは、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.02μm以上1μm以下であることがより好ましい。
【0083】
平均粒子径(D50)は、例えば、レーザ回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置マイクロトラックMT3300EX(日機装)を使用して、測定することができる。
【0084】
低結晶性炭素材料は、例えば、プロパンやアセチレン等の炭化水素を熱分解させて炭素を堆積させる気相法を用いることにより、黒鉛の表面に形成することができる。また、低結晶性炭素材料は、例えば、黒鉛の表面にピッチやタール等を付着させ、800〜1500℃で焼成する方法を用いることにより、形成することができる。
【0085】
黒鉛は、結晶構造において、002面の層間隔d002が、0.33nm以上0.34nm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.333nm以上0.337nm以下、更に好ましくは、0.336nm以下である。このような高結晶性の黒鉛は、リチウム吸蔵容量が高く、充放電効率の向上を図ることができる。
【0086】
黒鉛の層間隔は、例えば、X線回折により測定することができる。
【0087】
低結晶性炭素材料で覆われた黒鉛の比表面積は、例えば、0.01〜20m/gであり、0.05〜10m/gであることが好ましく、0.1〜5m/gであることがより好ましく、0.2〜3m/gであることがさらに好ましい。低結晶性炭素で覆われた黒鉛の比表面積を0.01m/g以上とすることにより、リチウムイオンの挿入脱離がスムーズに行われ易くなるため、抵抗をより低減することができる。低結晶性炭素で覆われた黒鉛の比表面積を20m/g以下とすることにより、電解液の分解をより抑制でき、また、活物質の構成元素の電解液への溶出をより抑制することができる。
【0088】
基材となる黒鉛としては、高結晶性のものが好ましく、例えば人造黒鉛や天然黒鉛を使用することができるが、特にこれらに制限されるものではない。低結晶性炭素の材料としては、例えば、コールタール、ピッチコークス、フェノール系樹脂を使用し、高結晶炭素と混合したものを用いることができる。高結晶炭素に対して低結晶性炭素の材料を5〜50質量%で混合して混合物を調製する。該混合物を150℃〜300℃に加熱した後、さらに、600℃〜1500℃の範囲で、熱処理を行う。これにより、表面に低結晶性炭素が被覆された表面処理黒鉛を得ることができる。熱処理は、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガス雰囲気が好ましい。
【0089】
負極活物質は、低結晶性炭素材料で覆われた黒鉛以外にも、他の活物質を含んでいてもよい。
【0090】
負極用結着剤としては、特に制限されるものではないが、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。
【0091】
負極結着剤の含有率は、負極活物質と負極結着剤の総量に対して1〜30質量%の範囲であることが好ましく、2〜25質量%であることがより好ましい。1質量%以上とすることにより、活物質同士あるいは活物質と集電体との密着性が向上し、サイクル特性が良好になる。また、30質量%以下とすることにより、活物質比率が向上し、負極容量を向上することができる。
【0092】
負極集電体としては、特に制限されるものではないが、電気化学的な安定性から、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、およびそれらの合金、およびステンレスが好ましい。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。
【0093】
負極は、負極集電体上に、負極活物質と負極用結着剤を含む負極活物質層を形成することで作製することができる。負極活物質層の形成方法としては、ドクターブレード法、ダイコーター法、CVD法、スパッタリング法などが挙げられる。予め負極活物質層を形成した後に、蒸着、スパッタ等の方法でアルミニウム、ニッケルまたはそれらの合金の薄膜を形成して、負極集電体としてもよい。
【0094】
(分離層)
二次電池は、その構成として正極、負極、分離層、及びイオン伝導体との組み合わせからなることができる。分離層として通常のセパレータを用いることができ、例えば、織布、不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系、ポリイミド、多孔性ポリフッ化ビニリデン膜等の多孔性ポリマー膜、又はイオン伝導性ポリマー電解質膜等が挙げられる。これらは単独または組み合わせで使用することができる。
【0095】
イオン伝導体として固体電解質を用いる場合は、分離層として兼用することができる。
【0096】
(イオン伝導体)
イオン伝導体は、支持塩及び非水電解溶媒を含む電解液、もしくは固体電解質である。
【0097】
非水電解溶媒は、環状カーボネート及び/又は鎖状カーボネートを含むことが好ましい。
【0098】
環状カーボネート又は鎖状カーボネートは比誘電率が大きいため、これらの添加により、支持塩の解離性が向上し、十分な導電性を付与し易くなる。また、環状カーボネート及び鎖状カーボネートは、耐電圧性及び導電率が高いことから、フッ素含有リン酸エステルとの混合に適している。さらに、電解液の粘度を下げる効果がある材料を選択することで、電解液におけるイオン移動度を向上させることも可能である。
【0099】
環状カーボネートとしては、特に制限されるものではないが、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、又はビニレンカーボネート(VC)等を挙げることができる。また、環状カーボネートは、フッ素化環状カーボネートを含む。フッ素化環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、又はビニレンカーボネート(VC)等の一部又は全部の水素原子をフッ素原子に置換した化合物等を挙げることができる。フッ素化環状カーボネートとしては、より具体的には、例えば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(cis又はtrans)4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−フルオロ−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン等を用いることができる。環状カーボネートとしては、上で列記した中でも、耐電圧性や、導電率の観点から、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、又はこれらの一部をフッ素化した化合物等が好ましく、エチレンカーボネートがより好ましい。環状カーボネートは、一種を単独で又は二種以上を併用して用いることができる。
【0100】
環状カーボネートを含有する場合の非水電解溶媒中の含有率は、支持塩の解離度を高める効果と電解液の導電性を高める効果の観点から、0.1体積%以上が好ましく、5体積%以上がより好ましく、10体積%以上がさらに好ましく、15体積%以上が特に好ましい場合もある。また、環状カーボネートの非水電解溶媒中の含有率は、同様の観点から、70体積%以下が好ましく、50体積%以下がより好ましく、40体積%以下がさらに好ましい。
【0101】
鎖状カーボネートとしては、特に制限されるものではないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等を挙げることができる。また、鎖状カーボネートは、フッ素化鎖状カーボネートを含む。フッ素化鎖状カーボネートとしては、例えば、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の一部又は全部の水素原子をフッ素原子に置換した構造を有する化合物等を挙げることができる。フッ素化鎖状カーボネートとしては、より具体的には、例えば、ビス(フルオロエチル)カーボネート、3−フルオロプロピルメチルカーボネート、3,3,3−トリフルオロプロピルメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルエチルカーボネート、モノフルオロメチルメチルカーボネート、メチル2,2,3,3,テトラフルオロプロピルカーボネート、エチル2,2,3,3,テトラフルオロプロピルカーボネート、ビス(2,2,3,3,テトラフルオロプロピル)カーボネート、ビス(2,2,2トリフルオロエチル)カーボネート、1−モノフルオロエチルエチルカーボネート、1−モノフルオロエチルメチルカーボネート、2−モノフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(1−モノフルオロエチル)カーボネート、ビス(2−モノフルオロエチル)カーボネート、ビス(モノフルオロメチル)カーボネート、等が挙げられる。これらの中でも、ジメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、モノフルオロメチルメチルカーボネート、メチル2,2,3,3,テトラフルオロプロピルカーボネートなどが耐電圧性と導電率の観点から好ましい。鎖状カーボネートは、一種を単独で又は二種以上を併用して用いることができる。
【0102】
鎖状カーボネートは、「−OCOO−」構造に付加する置換基の炭素数が小さい場合、粘度が低いという利点がある。一方、炭素数が大きすぎると、電解液の粘度が高くなってLiイオンの導電性が下がる場合がある。このような理由から、鎖状カーボネートの「−OCOO−」構造に付加する2つの置換基の総炭素数は2以上6以下であることが好ましい。また、「−OCOO−」構造に付加する置換基がフッ素原子を含有する場合、電解液の耐酸化性が向上する。このような理由から、鎖状カーボネートは下記式(5)で表されるフッ素化鎖状カーボネートであることが好ましい。
【0103】
2n+1−l−OCOO−C2m+1−k(5)
(式(5)中、nは1,2又は3であり、mは1,2又は3であり、lは0から2n+1までのいずれかの整数であり、kは0から2m+1までのいずれかの整数であり、l及びkのうち少なくともいずれかは1以上の整数である。)
【0104】
式(5)で示されるフッ素化鎖状カーボネートにおいて、フッ素置換量が少ないと、フッ素化鎖状カーボネートが高電位の正極と反応することにより電池の容量維持率が低下したり、ガスが発生したりする場合がある。一方、フッ素置換量が多すぎると、鎖状カーボネートの他の溶媒との相溶性が低下したり、鎖状カーボネートの沸点が下がったりする場合がある。このような理由から、フッ素置換量は、1%以上90%以下であることが好ましく、5%以上85%以下であることがより好ましく、10%以上80%以下であることがさらに好ましい。つまり、式(5)のl、m、nが以下の関係式を満たすことが好ましい。
【0105】
0.01≦(l+k)/(2n+2m+2)≦0.9
【0106】
鎖状カーボネートは、電解液の粘度を下げる効果があり、電解液の導電率を高めることができる。これらの観点から、鎖状カーボネートを含有する場合の非水電解溶媒中の含有量は、5体積%以上が好ましく、10体積%以上がより好ましく、15体積%以上がさらに好ましい。また、鎖状カーボネートの非水電解溶媒中の含有率は、90体積%以下が好ましく、80体積%以下がより好ましく、70体積%以下がさらに好ましい。
【0107】
また、フッ素化鎖状カーボネートを含有する場合の含有率は、特に制限されるものではないが、非水電解溶媒中0.1体積%以上70体積%以下が好ましい。フッ素化鎖状カーボネートの非水電解溶媒中の含有率が0.1体積%以上であると、電解液の粘度を下げることができ、導電性を高めることができる。また、耐酸化性を高める効果が得られる。また、フッ素化鎖状カーボネートの非水電解溶媒中の含有率が70体積%以下であると、電解液の導電性を高く保つことが可能である。また、フッ素化鎖状カーボネートの非水電解溶媒中の含有率は、1体積%以上がより好ましく、5体積%以上がさらに好ましく、10体積%以上が特に好ましい。また、フッ素化鎖状カーボネートの非水電解溶媒中の含有率は、65体積%以下がより好ましく、60体積%以下がさらに好ましく、55体積%以下が特に好ましい。
【0108】
非水電解溶媒は、式(1)で表されるフッ素含有リン酸エステルを含んでもよい。
【0109】
【化1】
【0110】
(式(1)において、R,R及びRは、それぞれ独立に、置換又は無置換のアルキル基であって、R,R及びRの少なくとも1つはフッ素含有アルキル基である。)
【0111】
また非水電解溶媒は、式(2)で表されるフッ素含有鎖状エーテルを含んでもよい。
【0112】
A−O−B (2)
(式(2)において、A及びBはそれぞれ独立に置換又は無置換のアルキル基であって、A及びBの少なくとも1つはフッ素含有アルキル基である。)
【0113】
上記非水電解溶媒を用いることにより、二次電池の体積膨張を抑制し、容量維持率を向上させることができる。その理由は明らかではないが、これらを含有する電解液では、フッ素含有リン酸エステルとフッ素含有エーテルが耐酸化性の溶媒として働き、酸無水物が電極上に反応生成物を形成することで、電解液の反応を抑え体積膨張を抑制することができるものと推定される。さらにこれらが相乗的に作用することによって、サイクル特性をより良好な特性にできるものと考えられる。これは、電解液の分解が大きな問題となる長期充放電サイクルや高温条件下での二次電池の使用時又は保存後において、また、高電位な正極活物質を用いた際に、より顕著に効果を発揮する特性である。
【0114】
非水電解溶媒に含まれる、式(1)で表されるフッ素含有リン酸エステルの含有率は、特に制限されるものではないが、非水電解溶媒中5体積%以上95体積%以下が好ましい。フッ素含有リン酸エステルの非水電解溶媒中の含有率が5体積%以上であると、耐電圧性を高める効果がより向上する。また、フッ素含有リン酸エステルの非水電解溶媒中の含有率が95体積%以下であると、電解液のイオン伝導性が向上して電池の充放電レートがより良好になる。また、フッ素含有リン酸エステルの非水電解溶媒中の含有率は、10体積%以上がより好ましい。また、フッ素含有リン酸エステルの非水電解溶媒中の含有率は、70体積%以下がより好ましく、60体積%以下がさらに好ましく、59体積%以下が特に好ましく、55体積%以下がより特に好ましい。
【0115】
式(1)で表されるフッ素含有リン酸エステルにおいて、R,R及びRは、それぞれ独立に、置換又は無置換のアルキル基であって、R,R及びRの少なくとも1つはフッ素含有アルキル基である。フッ素含有アルキル基とは、少なくとも1つのフッ素原子を有するアルキル基である。アルキル基R、R、及びRの炭素数は、それぞれ独立に、1以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。アルキル基の炭素数が4以下であると、電解液の粘度の増加が抑えられ、電解液が電極やセパレータ内の細孔に浸み込み易くなるとともに、イオン伝導性が向上し、電池の充放電特性において電流値が良好になるためである。
【0116】
また、式(1)において、R,R及びRの全てがフッ素含有アルキル基であることが好ましい。
【0117】
また、R,R及びRの少なくとも1つは、対応する無置換のアルキル基が有する水素原子の50%以上がフッ素原子に置換されたフッ素含有アルキル基であることが好ましい。また、R,R及びRの全てがフッ素含有アルキル基であり、該R,R及びRが対応する無置換のアルキル基の水素原子の50%以上がフッ素原子に置換されたフッ素含有アルキル基であることがより好ましい。フッ素原子の含有率が多いと、耐電圧性がより向上し、リチウムに対して4.5V以上の電位で動作する正極活物質を用いた場合でも、サイクル後における電池容量の劣化をより低減することできるからである。また、フッ素含有アルキル基における水素原子を含む置換基中のフッ素原子の比率は55%以上がより好ましい。
【0118】
また、R〜Rは、フッ素原子の他に置換基を有していても良く、置換基としては、アミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基及びハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子)からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。なお、上記の炭素数は置換基も含む概念である。
【0119】
フッ素含有リン酸エステルとしては、例えば、リン酸トリス(トリフルオロメチル)、リン酸トリス(トリフルオロエチル)、リン酸トリス(テトラフルオロプロピル)、リン酸トリス(ペンタフルオロプロピル)、リン酸トリス(ヘプタフルオロブチル)、リン酸トリス(オクタフルオロペンチル)等が挙げられる。また、フッ素含有リン酸エステルとしては、例えば、リン酸トリフルオロエチルジメチル、リン酸ビス(トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビストリフルオロエチルエチル、リン酸ペンタフルオロプロピルジメチル、リン酸ヘプタフルオロブチルジメチル、リン酸トリフルオロエチルメチルエチル、リン酸ペンタフルオロプロピルメチルエチル、リン酸ヘプタフルオロブチルメチルエチル、リン酸トリフルオロエチルメチルプロピル、リン酸ペンタフルオロプロピルメチルプロピル、リン酸ヘプタフルオロブチルメチルプロピル、リン酸トリフルオロエチルメチルブチル、リン酸ペンタフルオロプロピルメチルブチル、リン酸ヘプタフルオロブチルメチルブチル、リン酸トリフルオロエチルジエチル、リン酸ペンタフルオロプロピルジエチル、リン酸ヘプタフルオロブチルジエチル、リン酸トリフルオロエチルエチルプロピル、リン酸ペンタフルオロプロピルエチルプロピル、リン酸ヘプタフルオロブチルエチルプロピル、リン酸トリフルオロエチルエチルブチル、リン酸ペンタフルオロプロピルエチルブチル、リン酸ヘプタフルオロブチルエチルブチル、リン酸トリフルオロエチルジプロピル、リン酸ペンタフルオロプロピルジプロピル、リン酸ヘプタフルオロブチルジプロピル、リン酸トリフルオロエチルプロピルブチル、リン酸ペンタフルオロプロピルプロピルブチル、リン酸ヘプタフルオロブチルプロピルブチル、リン酸トリフルオロエチルジブチル、リン酸ペンタフルオロプロピルジブチル、リン酸ヘプタフルオロブチルジブチル等が挙げられる。リン酸トリス(テトラフルオロプロピル)としては、例えば、リン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)が挙げられる。リン酸トリス(ペンタフルオロプロピル)としては、例えば、リン酸トリス(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)が挙げられる。リン酸トリス(トリフルオロエチル)としては、例えば、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)(以下、PTTFEとも略す)などが挙げられる。リン酸トリス(ヘプタフルオロブチル)としては、例えば、リン酸トリス(1H,1H−ヘプタフルオロブチル)等が挙げられる。リントリス(オクタフルオロペンチル)としては、例えば、リン酸トリス(1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル)等が挙げられる。これらの中でも、高電位における電解液分解の抑制効果が高いことから、下記式(1−1)で表されるリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)が好ましい。フッ素含有リン酸エステルは、一種を単独で又は二種以上を併用して用いることができる。
【0120】
【化2】
【0121】
非水電解溶媒は、カルボン酸エステルを含むことができる。
【0122】
カルボン酸エステルとしては、特に制限されるものではないが、例えば、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、ギ酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酢酸メチル、ギ酸メチル等が挙げられる。また、カルボン酸エステルは、フッ素化カルボン酸エステルも含み、フッ素化カルボン酸エステルとしては、例えば、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、ギ酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酢酸メチル、又はギ酸メチルの一部又は全部の水素原子をフッ素原子で置換した構造を有する化合物等が挙げられる。また、フッ素化カルボン酸エステルとしては、具体的には、例えば、ペンタフルオロプロピオン酸エチル、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸エチル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピオン酸メチル、酢酸2,2−ジフルオロエチル、ヘプタフルオロイソ酪酸メチル、2,3,3,3−テトラフルオロプロピオン酸メチル、ペンタフルオロプロピオン酸メチル、2−(トリフルオロメチル)−3,3,3−トリフルオロプロピオン酸メチル、ヘプタフルオロ酪酸エチル、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸メチル、酢酸2,2,2−トリフルオロエチル、トリフルオロ酢酸イソプロピル、トリフルオロ酢酸tert−ブチル、4,4,4−トリフルオロ酪酸エチル、4,4,4−トリフルオロ酪酸メチル、2,2−ジフルオロ酢酸ブチル、ジフルオロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸n−ブチル、酢酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、3−(トリフルオロメチル)酪酸エチル、テトラフルオロ−2−(メトキシ)プロピオン酸メチル、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸3,3,3トリフルオロプロピル、ジフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、酢酸1H,1H−ヘプタフルオロブチル、ヘプタフルオロ酪酸メチル、トリフルオロ酢酸エチルなどが挙げられる。これらの中でも、耐電圧と沸点などの観点から、カルボン酸エステルとしては、プロピオン酸エチル、酢酸メチル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピオン酸メチル、トリフルオロ酢酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピルが好ましい。カルボン酸エステルは、鎖状カーボネートと同様に電解液の粘度を低減する効果がある。したがって、例えば、カルボン酸エステルは、鎖状カーボネートの代わりに使用することが可能であり、また、鎖状カーボネートと併用することも可能である。
【0123】
鎖状カルボン酸エステルは、「−COO−」構造に付加する置換基の炭素数が小さい場合、粘度が低いという特長があるが、沸点も低くなる傾向がある。沸点が低い鎖状カルボン酸エステルは電池の高温動作時に気化してしまう場合がある。一方、炭素数が大きすぎると、電解液の粘度が高くなって導電性が下がる場合がある。このような理由から、鎖状カルボン酸エステルの「−COO−」構造に付加する2つの置換基の総炭素数は3以上8以下であることが好ましい。また、「−COO−」構造に付加する置換基がフッ素原子を含有する場合、電解液の耐酸化性を向上することができる。このような理由から、鎖状カルボン酸エステルは下記式(6)で表されるフッ素化鎖状カルボン酸エステルであることが好ましい。
【0124】
2n+1−l−COO−C2m+1−k(6)
(式(6)中、nは1,2,3又は4であり、mは1,2,3又は4であり、lは0から2n+1までのいずれかの整数であり、kは0から2m+1までのいずれかの整数であり、l及びkのうち少なくともいずれかは1以上の整数である。)
【0125】
式(6)で示されるフッ素化鎖状カルボン酸エステルにおいて、フッ素置換量が少ないと、フッ素化鎖状カルボン酸エステルが高電位の正極と反応することにより電池の容量維持率が低下したり、ガスが発生したりする場合がある。一方、フッ素置換量が多すぎると、鎖状カルボン酸エステルの他溶媒との相溶性が低下したり、フッ素化鎖状カルボン酸エステルの沸点が下がったりする場合がある。このような理由から、フッ素置換量は、1%以上90%以下であることが好ましく、10%以上85%以下であることがより好ましく、20%以上80%以下であることがさらに好ましい。つまり、式(6)のl、m、nが以下の関係式を満たすことが好ましい。
【0126】
0.01≦(l+k)/(2n+2m+2)≦0.9
【0127】
カルボン酸エステルを含有する場合の非水電解溶媒中の含有率は、0.1体積以上が好ましく、0.2体積%以上がより好ましく、0.5体積%以上がさらに好ましく、1体積%以上が特に好ましい。カルボン酸エステルの非水電解溶媒中の含有率は、50体積%以下が好ましく、20体積%以下がより好ましく、15体積%以下がさらに好ましく、10体積%以下が特に好ましい。カルボン酸エステルの含有率を0.1体積%以上とすることにより、低温特性をより向上でき、また導電率をより向上できる。また、カルボン酸エステルの含有率を50体積%以下とすることにより、電池を高温放置した場合に蒸気圧が高くなりすぎることを低減することができる。
【0128】
また、フッ素化鎖状カルボン酸エステルを含有する場合の含有率は、特に制限されるものではないが、非水電解溶媒中0.1体積%以上50体積%以下が好ましい。フッ素化鎖状カルボン酸エステルの非水電解溶媒中の含有率が0.1体積%以上であると、電解液の粘度を下げることができ、導電性を高めることができる。また、耐酸化性を高める効果が得られる。また、フッ素化鎖状カルボン酸エステルの非水電解溶媒中の含有率が50体積%以下であると、電解液の導電性を高く保つことが可能であり、電解液の相溶性を確保することができる。また、フッ素化鎖状カルボン酸エステルの非水電解溶媒中の含有率は、1体積%以上がより好ましく、5体積%以上がさらに好ましく、10体積%以上が特に好ましい。また、フッ素化鎖状カルボン酸エステルの非水電解溶媒中の含有率は、45体積%以下がより好ましく、40体積%以下がさらに好ましく、35体積%以下が特に好ましい。
【0129】
非水電解溶媒は、フッ素含有リン酸エステルに加えて、下記式(7)で表されるアルキレンビスカーボネートを含むことができる。アルキレンビスカーボネートの耐酸化性は、鎖状カーボネートと同等かやや高いことから、電解液の耐電圧性を向上することができる。
【0130】
【化3】
【0131】
(式(7)中、R及びRは、それぞれ独立に、置換又は無置換のアルキル基を表す。Rは、置換又は無置換のアルキレン基を表す。)
【0132】
式(7)において、アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のものを含み、炭素数が1〜6であることが好ましく、炭素数が1〜4であることがより好ましい。アルキレン基は、二価の飽和炭化水素基であり、直鎖状又は分岐鎖状のものを含み、炭素数が1〜4であることが好ましく、炭素数が1〜3であることがより好ましい。
【0133】
式(7)で表されるアルキレンビスカーボネートとしては、例えば、1,2−ビス(メトキシカルボニルオキシ)エタン、1,2−ビス(エトキシカルボニルオキシ)エタン、1,2−ビス(メトキシカルボニルオキシ)プロパン、又は1−エトキシカルボニルオキシ−2−メトキシカルボニルオキシエタン等が挙げられる。これらの中でも、1,2−ビス(メトキシカルボニルオキシ)エタンが好ましい。
【0134】
アルキレンビスカーボネートを含有する場合の非水電解溶媒中の含有率は、0.1体積%以上が好ましく、0.5体積%以上がより好ましく、1体積%以上がさらに好ましく、1.5体積%以上が特に好ましい。アルキレンビスカーボネートの非水電解溶媒中の含有率は、70体積%以下が好ましく、60体積%以下がより好ましく、50体積%以下がさらに好ましく、40体積%以下が特に好ましい。
【0135】
アルキレンビスカーボネートは誘電率が低い材料である。そのため、例えば、鎖状カーボネートの代わりに使用することが可能であり、又は鎖状カーボネートと併用することが可能である。
【0136】
非水電解溶媒は、鎖状エーテルを含むことができる。
【0137】
鎖状エーテルとしては、特に制限されるものではないが、例えば、1,2−エトキシエタン(DEE)若しくはエトキシメトキシエタン(EME)等が挙げられる。また、鎖状エーテルとして、フッ素含有エーテルなどのハロゲン化鎖状エーテルを含んでもよい。ハロゲン化鎖状エーテルは、耐酸化性が高く、高電位で動作する正極の場合に好ましく用いられる。
【0138】
鎖状エーテルは、鎖状カーボネートと同様に電解液の粘度を低減する効果がある。したがって、例えば、鎖状エーテルは、鎖状カーボネート、カルボン酸エステルの代わりに使用することが可能であり、また、鎖状カーボネート、カルボン酸エステルと併用することも可能である。
【0139】
また、鎖状エーテルを含有する場合の含有率は、特に制限されるものではないが、非水電解溶媒中0.1体積%以上70体積%以下が好ましい。鎖状エーテルの非水電解溶媒中の含有率が0.1体積%以上であると、電解液の粘度を下げることができ、導電性を高めることができる。また、耐酸化性を高める効果が得られる。また、鎖状エーテルの非水電解溶媒中の含有率が70体積%以下であると、電解液の導電性を高く保つことが可能であり、また、電解液の相溶性を確保することができる。また、鎖状エーテルの非水電解溶媒中の含有率は、1体積%以上がより好ましく、5体積%以上がさらに好ましく、10体積%以上が特に好ましい。また、鎖状エーテルの非水電解溶媒中の含有率は、65体積%以下がより好ましく、60体積%以下がさらに好ましく、55体積%以下が特に好ましい。
【0140】
非水電解得溶媒は、下記式(8)で表されるスルホン化合物を含むことができる。
【0141】
【化4】
【0142】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、置換または無置換のアルキル基を示す。Rの炭素原子とRの炭素原子が単結合又は二重結合を介して結合し、環状構造を形成していてもよい。)
【0143】
式(8)で表されるスルホン化合物において、Rの炭素数n、Rの炭素数nはそれぞれ1≦n≦12、1≦n≦12であることが好ましく、1≦n≦6、1≦n≦6であることがより好ましく、1≦n≦3、1≦n≦3であることが更に好ましい。また、アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のものを含む。
【0144】
及びRにおいて、置換基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基)、炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基)が挙げられる。
【0145】
一実施形態では、スルホン化合物は下記式(8−1)で表される環状スルホン化合物であることがより好ましい。
【0146】
【化5】
【0147】
(式中、Rは、置換または無置換のアルキレン基を示す。)
【0148】
において、アルキレン基の炭素数は4〜9であることが好ましく、4〜6であることが更に好ましい。
【0149】
において、置換基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)等が挙げられる。
【0150】
環状スルホン化合物は下記式(8−2)で表される化合物であることがさらに好ましい。
【0151】
【化6】
【0152】
(式中、mは1〜6の整数である。)
【0153】
式(8−2)において、mは、1〜6の整数であり、1〜3の整数であることが好ましい。
【0154】
式(8−1)で表される環状スルホン化合物としては、例えば、テトラメチレンスルホン(スルホラン)、ペンタメチレンスルホン、ヘキサメチレンスルホン等が好ましく挙げられる。また、置換基を有する環状スルホン化合物として、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホランなどが好ましく挙げられる。
【0155】
また、スルホン化合物は、鎖状スルホン化合物であってもよい。鎖状スルホン化合物としては、例えば、エチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、エチルイソブチルスルホン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン等が挙げられる。これらのうちエチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、エチルイソブチルスルホンが好ましい。
【0156】
スルホン化合物は、フッ素化エーテル化合物等の他の溶媒と相溶性を持つと共に、比較的高い誘電率を有するため、リチウム塩の溶解/解離作用に優れている。スルホン化合物は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0157】
スルホン化合物を含む場合、非水電解溶媒中1体積%以上75体積%以下であることが好ましく、5体積%以上50体積%以下であることがより好ましい。スルホン化合物が1体積%以上であると電解液の相溶性が向上する。スルホン化合物の含有量が多すぎると電解液の粘度が高くなり、特に室温での充放電サイクル特性の容量低下を招く恐れがある。
【0158】
非水電解液溶媒には酸無水物が含まれてもよい。非水電解溶媒に含まれる酸無水物の含有率は、特に制限されるものではないが、非水電解溶媒中、一般には0.01質量%以上10質量%未満であることが好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。酸無水物の非水電解溶媒中の含有率が0.01質量%以上であると、容量維持率を高める効果が得られ、また、電解液の分解によるガス発生を抑制する効果が得られる。酸無水物の非水電解溶媒中の含有率は0.1質量%以上であることがより好ましい。また、酸無水物の非水電解溶媒中の含有率が10質量%未満であると、良好な容量維持率を維持することができ、また、酸無水物の分解によるガス発生量も抑制することができる。酸無水物の非水電解溶媒中の含有率は5質量%以下であることがより好ましい。酸無水物の非水電解溶媒中の含有率は、0.5質量%以上がさらに好ましく、0.8質量%以上が特に好ましい。また、酸無水物の非水電解溶媒中の含有率は、3質量%以下がさらに好ましく、2質量%以下が特に好ましい。
【0159】
酸無水物としては、例えば、カルボン酸無水物、スルホン酸無水物、及び、カルボン酸とスルホン酸の無水物等が挙げられる。
【0160】
電解液中の酸無水物は、電極上に反応生成物を形成して充放電にともなう電池の体積膨張を抑制するとともに、サイクル特性を改善する効果があるものと考えられる。また、推論ではあるが、上記のような酸無水物は電解液中の水分と結合するため、水分に起因するガス発生を抑制する効果もあると考えられる。
【0161】
酸無水物の例としては、下式(3)で表される鎖状酸無水物、及び下式(4)で表される環状酸無水物が挙げられる。
【0162】
【化7】
【0163】
(式(3)中、2つのXは、それぞれ独立に、カルボニル基(−C(=O)−)又はスルホニル基(−S(=O)−)であり、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数7〜20のアリールアルキル基であり、R及びRの少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【0164】
【化8】
【0165】
(式(4)中、2つのXは、それぞれ独立に、カルボニル基(−C(=O)−)又はスルホニル基(−S(=O)−)であり、Rは、炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数2〜10のアルケニレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、炭素数3〜12のシクロアルキレン基、炭素数3〜12のシクロアルケニレン基または炭素数3〜10のヘテロシクロアルキレン基であり、Rの少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【0166】
式(3)及び式(4)において、R、R又はRで表される基について以下に説明する。
【0167】
式(3)中、アルキル基及びアルケニル基は、それぞれ、直鎖であっても分岐鎖を有していてもよく、炭素数は一般には1〜10であり、1〜8が好ましく、1〜5がより好ましい。
【0168】
式(3)中、シクロアルキル基の炭素数は、3〜10が好ましく、3〜6がより好ましい。
【0169】
式(3)中、アリール基の炭素数は、6〜18が好ましく、6〜12がより好ましい。アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0170】
式(3)中、アリールアルキル基の炭素数は、7〜20が好ましく、7〜14がより好ましい。アリールアルキル基の例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0171】
式(3)において、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基又はフェニル基であることがより好ましい。
【0172】
式(4)中、アルキレン基及びアルケニレン基は、それぞれ、直鎖であっても分岐鎖を有していてもよく、炭素数は一般には1〜10であり、1〜8が好ましく、1〜5がより好ましい。
【0173】
式(4)中、アリーレン基の炭素数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることがより好ましい。アリーレン基の例としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。
【0174】
式(4)中、シクロアルキレン基の炭素数は一般には3〜12であり、3〜10が好ましく、3〜8がより好ましい。シクロアルキレン基は、単環であっても、ビシクロアルキレン基のように複数の環構造を有していてもよい。
【0175】
式(4)中、シクロアルケニレン基の炭素数は一般には3〜12であり、3〜10が好ましく、3〜8がより好ましい。シクロアルケニレン基は、単環であっても、ビシクロアルケニレン基のように、少なくとも1つの環が不飽和結合を有する複数の環構造を有していてもよい。シクロアルケニレン基の例としては、シクロヘキセン、ビシクロ[2.2.1]ヘプテン、ビシクロ[2.2.2]オクテン等から形成される2価の基が挙げられる。
【0176】
式(4)中、ヘテロシクロアルキレン基は、シクロアルキレン基の環上の炭素原子の少なくともひとつが、硫黄、酸素、窒素等の1種または2種以上のヘテロ原子で置換された2価の基を表す。ヘテロアルキレン基は、3〜10員環であることが好ましく、4〜8員環であることがより好ましく、5又は6員環であることがさらに好ましい。
【0177】
式(4)において、Rは、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数2若しくは3のアルケニレン基、シクロへキシレン基、シクロヘキシニレン基又はフェニレン基であることがより好ましい。
【0178】
酸無水物は、一部がハロゲン化されていてもよい。ハロゲン原子の例としては、塩素、ヨウ素、臭素、フッ素等が挙げられるが、中でも塩素及びフッ素が好ましく、フッ素がより好ましい。
【0179】
また、式(3)又は式(4)で表される酸無水物は、ハロゲン以外の置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基、アミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基等が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、R、R又はRに含まれる飽和又は不飽和炭化水素環の水素原子の少なくとも1つが炭素数1〜3のアルキル基で置換されていてもよい。
【0180】
カルボン酸無水物としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水クロトン酸又は無水安息香酸等の鎖状酸無水物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、5,6−ジヒドロキシ−1,4−ジチイン−2,3ジカルボンサン無水物、無水5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、無水1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、無水ビシクロ[2.2.2]オクト−5−エン−2,3−ジカルボン酸などの環構造を有する酸無水物(環状酸無水物)があげられる。
【0181】
また、ハロゲン化物としては、ジフルオロ酢酸無水物(Difluoroacetic
anhydride)、3H−パーフルオロプロピオン酸無水物(3H−Perfluoropropanoic anhydride)、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸無水物(3,3,3−Trifluoropropionic anhydride)、無水ペンタフルオロプロピオン酸、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロペンタン二酸無水物、テトラフルオロこはく酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物等が挙げられる。また、ハロゲン化物に加えて、4−メチルフタル酸無水物など他の置換基を有する酸無水物も使用できる。
【0182】
スルホン酸無水物の例としては、メタンスルホン酸無水物、エタンスルホン酸無水物、プロパンスルホン酸無水物、ブタンスルホン酸無水物、ペンタンスルホン酸無水物、ヘキサンスルホン酸無水物、ビニルスルホン酸無水物、ベンゼンスルホン酸無水物等の鎖状スルホン酸無水物;1,2−エタンジスルホン酸無水物、1,3−プロパンジスルホン酸無水物、1,4−ブタンジスルホン酸無水物、1,2−ベンゼンジスルホン酸無水物等の環状スルホン酸無水物;およびこれらのハロゲン化物が挙げられる。
【0183】
カルボン酸とスルホン酸の無水物の例としては、酢酸メタンスルホン酸無水物、酢酸エタンスルホン酸無水物、酢酸プロパンスルホン酸無水物、プロピオン酸メタンスルホン酸無水物、プロピオン酸エタンスルホン酸無水物、プロピオン酸プロパンスルホン酸無水物等の鎖状酸無水物;3−スルホプロピオン酸無水物、2−メチル−3−スルホプロピオン酸無水物、2,2−ジメチル−3−スルホプロピオン酸無水物、2−エチル−3−スルホプロピオン酸無水物、2,2−ジエチル−3−スルホプロピオン酸無水物、2−スルホ安息香酸無水物等の環状酸無水物;およびこれらのハロゲン化物が挙げられる。
【0184】
中でも、酸無水物は、分子内に[−(C=O)−O−(C=O)−]で表される構造を有するカルボン酸無水物であることが好ましい。カルボン酸無水物の例としては、下記式(3−1)で表される鎖状カルボン酸無水物、及び下記式(4−1)で表される環状カルボン酸無水物が挙げられる。
【0185】
【化9】
【0186】
【化10】
【0187】
なお、式(3−1)及び式(4−1)においてR、R及びRで表される基は、上述の式(3)及び式(4)において例示したものと同じである。
【0188】
酸無水物の好ましい化合物例としては、無水酢酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水安息香酸、5,6−ジヒドロキシ−1,4−ジチイン−2,3−ジカルボン酸、無水5−ノルボルネン−テトラヒドロフタル酸、無水ビシクロ[2.2.2]オクト−5−エン−2,3−ジカルボン酸等;及び、ジフルオロ酢酸無水物、3H−パーフルオロプロピオン酸無水物、トリフルオロプロピオン酸無水物、無水ペンタフルオロプロピオン酸、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロペンタン二酸無水物、テトラフルオロこはく酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物、4−メチルフタル酸無水物等のハロゲンまたはその他の置換基を有する酸無水物等が挙げられる。
【0189】
非水電解溶媒としては、上記以外に以下のものを含んでいても良い。非水電解溶媒は、例えば、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、テトラヒドロフラン若しくは2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類等を含むことができる。また、これらの材料の水素原子の一部をフッ素原子で置換したものを含んでも良い。また、その他にも、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンスルトン、アニソール、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性有機溶媒を含んでも良い。また、環状スルホン酸エステルを含んでも良い。例えば環状モノスルホン酸エステルは下記式(9)で表される化合物であることが好ましい。
【0190】
【化11】
【0191】
(式(9)中、R101及びR102は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。nは0、1、2、3、又は4である。)
【0192】
また、例えば環状ジスルホン酸エステルでは下記式(9−1)で表される化合物であることが好ましい。
【0193】
【化12】
【0194】
(式(9−1)中、R201からR204は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。nは0、1、2、3、又は4である。)
【0195】
環状スルホン酸エステルとしては、例えば、1,3−プロパンスルトン、1,2−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、1,2−ブタンスルトン、1,3−ブタンスルトン、2,4−ブタンスルトン、1,3−ペンタンスルトン等のモノスルホン酸エステル、メチレンメタンジスルホン酸エステル、エチレンメタンジスルホン酸エステル等のジスルホン酸エステルなどが挙げられる。これらの中でも、被膜形成効果、入手容易性、コストの点から、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メチレンメタンジスルホン酸エステルが好ましい。
【0196】
環状スルホン酸エステルの電解液中の含有量は、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。環状スルホン酸エステルの含有量が0.01質量%以上の場合、正極表面に被膜をより効果的に形成して電解液の分解を抑制することができる。
【0197】
支持塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiAlCl、LiClO、LiBF、LiSbF、LiCFSO、LiCCO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiB10Cl10等のリチウム塩が挙げられる。また、支持塩としては、他にも、低級脂肪族カルボン酸カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiBr、LiI、LiSCN、LiCl等が挙げられる。支持塩は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0198】
また、非水電解溶媒にイオン伝導性ポリマーを添加することができる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン等を挙げることができる。また、イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリメタクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンアシパミド、ポリカプロラクタム、ポリウレタン、ポリエチレンイミン、ポリブタジエン、ポリスチレン、若しくはポリイソプレン、又はこれらの誘導体を挙げることができる。イオン伝導性ポリマーは、一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記ポリマーを構成する各種モノマーを含むポリマーを用いてもよい。
【0199】
固体電解質としては、その機能を有するものであれば特に指定されるものではないが、たとえばNa-β-Al203、あるいは高分子固体電解質であるポリエチレンオキサイド(PEO)、LISICON(lithium superionic conductor)と言われる酸化物イオン導電体や、硫化物系固体電解質(thio-LISICONなど)を用いることができる。
【0200】
(電池の形状)
電池の形状としては、例えば、円筒形、角形、コイン型、ボタン型、ラミネート型等が挙げられる。電池の外装体としては、例えば、ステンレス、鉄、アルミニウム、チタン、又はこれらの合金、あるいはこれらのメッキ加工品等が挙げられる。メッキとしては例えばニッケルメッキを用いることができる。
【0201】
また、ラミネート型に用いるラミネート樹脂フィルムとしては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン箔等が挙げられる。金属ラミネート樹脂フィルムの熱溶着部の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性高分子材料が挙げられる。また、金属ラミネート樹脂層や金属箔層はそれぞれ1層に限定されるものではなく2層以上であっても構わない。
【0202】
外装体としては、電解液に安定で、かつ十分な水蒸気バリア性を持つものであれば、適宜選択することができる。例えば、積層ラミネート型の二次電池の場合、外装体としては、アルミニウム、シリカをコーティングしたポリプロピレン、ポリエチレン等のラミネートフィルムを用いることができる。特に、体積膨張を抑制する観点から、アルミニウムラミネートフィルムを用いることが好ましい。
【0203】
本発明の実施形態による二次電池を複数個組み合わせて、組電池とすることができる。本発明の実施形態による二次電池またはその組電池は、蓄電システムや自動車用電池等の用途において好適に使用することができる。
【0204】
本発明の実施形態によるリチウムイオン二次電池の一例(ラミネート型)の断面図を図1に示す。図1に示すように、本例のリチウムイオン二次電池は、アルミニウム箔等の金属からなる正極集電体3と、その上に設けられた正極活物質を含有する正極活物質層1とからなる正極、及び銅箔等の金属からなる負極集電体4と、その上に設けられた負極活物質を含有する負極活物質層2とからなる負極を有する。正極および負極は、正極活物質層1と負極活物質層2とが対向するように、不織布やポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレン等)微多孔膜などからなるセパレータ5を介して積層されている。この電極対は、アルミニウムラミネートフィルムからなる外装体6、7で形成された容器内に収容されている。正極集電体3には正極タブ9が接続けられ、負極集電体4には負極タブ8が接続され、これらのタブは容器の外に引き出されている。容器内には電解液が注入され封止される。複数の電極対が積層された電極群が容器内に収容された構造とすることもできる。
【実施例】
【0205】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、本実施例に限定されるものではなく、その主旨を超えない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0206】
(実施例1)
本実施例の負極活物質としては、低結晶性炭素材料で被覆された人造黒鉛を用いた。人造黒鉛と、球状の炭素材料である導電助剤と、SBR(styrene-butadiene rubber)系バインダーとを97.7/0.3/2の質量比で混合し、N−メチルピロリドンに分散させ、負極用スラリーを調製した。この負極用スラリーを厚さ10μmのCu集電体上に均一に塗布した。乾燥させた後、ロールプレスで圧縮成形することにより負極を作製した。
【0207】
非水電解溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを3/7の体積比で混合した溶媒を用いた。以下、本溶媒を溶媒EC/DECとも略す。この非水電解溶媒にLiPFを1mol/Lの濃度で溶解させ、電解液を調製した。
【0208】
イオン伝導体の電極への入り込みやすさの指標として、電解液が電極内に浸み込む時間を用いた。浸み込みが速いほど、イオンの通り道が広く、電池特性が良くなる考えられるためである。浸み込み時間は、負極電極上に非水電解液を1μL置き、目視で無くなるまでの時間を6サンプル測定し、最短時間と最長時間を除いた4データの平均を用いた。実施例1の平均浸み込み時間は30.8秒であった。
【0209】
図2に、負極をArイオンビームにより断面加工し、その断面をSEM観察した結果を示す。活物質粒間に空隙が存在するが、場所によって電極面方向の面積当たりの空隙密度が異なっており、電極表面からの浸み込み性に影響したと考えられる。図中、円で囲った部分に空隙が集まっているように見える。
【0210】
そこで、電極の断面積に対する空隙面積を示す空隙率の電極面方向分布を評価した。
【0211】
図3に、SEM像の濃淡を2値化して固体部と空隙部を切り分け、電極面方向の1画素ずつについて、集電体との接触面から電極表面までの領域の空隙率の、電極面方向位置依存を示す。縦軸は、面積空隙率に係る相対値、横軸は、電極平面方向の相対位置を示す。膜厚方向に長い空隙があると空隙率が極端に大きくなるため、増減が大きいグラフとなる。空隙の集中、分散を評価するには、電極面方向にある程度の幅で平滑化する必要がある。
【0212】
図4に、電極面方向に対象点の前後25μmの幅で平滑化を行った場合の、空隙率の電極面方向位置依存を示す。平滑化は、最小二乗法をもちいて3次近似式にフィッティングし、この3次近似式の対象点での値を用いる方法で行った。図4より、横軸方向(平面方向)に沿って空隙率が変動し、横軸の数十μm程度のオーダーで上下に揺らいでいることがわかる。
【0213】
空隙率を求める際、固体と空隙の境界を決定する必要があるが、この決定方法により境界位置が微妙に変わるため、空隙面積に影響がでる。同一断面内で空隙面積を比較する方法であれば、比較する両者で境界位置の影響が同様になるため、この影響を小さくできると考えられる。このため、空隙率の比を指標として用いることは有用である。
【0214】
今回の測定範囲は425μm程度であるが、この範囲内での空隙率の最大と最小の比は2.39であった。また、SEM断面像全体の平均空隙率は4.7%であった。
【0215】
平滑化にはいろいろな手法があり、特に制限されることはない。たとえば、前述の方法と単純平均を用いた場合の、空隙率の最大と最小の比について、平滑化範囲依存性を図9に示す。単純平均の方が、平滑化すると範囲が広いほど空隙率比が小さくなってしまう傾向が強い。用いる平滑化手法は、空隙率の分布をできるだけ失わない方法を選択することが望ましい。
【0216】
(比較例1)
比較例1は、実施例1で用いたバインダーとは異なるSBR系バインダーを用いた以外は、実施例1と同様の方法で電極を作製した。図5に、Arイオンビームにより断面加工し、その断面をSEM観察した結果を示す。比較例1の平均浸み込み時間は37.0秒であり、実施例1より浸み込みにくい結果となった。
【0217】
SEM断面像全体の平均空隙率は6.1%であり、実施例1より空隙が多い電極である。図6に、電極面方向に対象点の前後25μmの幅で平滑化を行った場合の、空隙率の電極面方向位置依存を示す。実施例1と同様の方法で求めた空隙率の最大と最小の比は2.04であった。このことから、平均浸み込み時間が長いのは、空隙率の最大と最小の比が小さいことが影響していることが原因と推定される。
【0218】
(比較例2)
比較例2は、実施例1及び比較例1で用いたバインダーとは異なるSBR系バインダーを用いた以外は、実施例1と同様の方法で電極を作製した。図7に、Arイオンビームにより断面加工し、その断面をSEM観察した結果を示す。比較例1の平均浸み込み時間は40.8秒であり、実施例1より浸み込みにくい結果となった。
【0219】
SEM断面像全体の平均空隙率は3.8%であり、実施例1より空隙が少ない電極である。図8に、電極面方向に対象点の前後25μmの幅で平滑化を行った場合の、空隙率の電極面方向位置依存を示す。実施例1と同様の方法で求めた空隙率の最大と最小の比は1.99であり、実施例1より小さい値であった。
【0220】
浸み込み時間と空隙率分布の関係性は完全には分かっていないが、空隙が均等に分布するより、集まっている部分があると浸み込みやすくなることは容易に想像できる。なお、上記は推論であり本発明を制限するものではない。
【0221】
【表1】
【0222】
空隙率が大きい領域の発生頻度であるが、非特許文献1のオリビン正極の評価(図10)で、Liイオンの脱離が反応点を起点として起こり、広がるという報告がある。この報告によると1mm以上離れた反応点もある。このことから、Liイオンの挿入脱離は活物質粒をまたいで広がり、その範囲は半径500μm以上であることがわかる。このことから、半径500μmの範囲で空隙率が大きい領域が形成されていれば、充電速度やエネルギー密度、容量等の電池特性に優れた電池として動作可能と考えられる。
【0223】
実施例および比較例ではバインダーを変えることで空隙率の分布を形成した。主にバインダーの物性が異なることより、スラリー状態が変化し、それに応じて活物質粒子の凝集状態が変化し、空隙率の分布に違いができたと考えられる。
【0224】
空隙率の分布を形成する他の方法としては、次の例が考えられる。
【0225】
塗工時に厚みの異なる領域を形成し、全体に圧力をかけて密度を上げる処理を行う。このとき薄い部分は圧力がかからないため、空隙が多く残る。
【0226】
厚みを異ならせる方法としては、塗工時に活物質スラリーの塗工量を調整するブレードに凸部を設け、塗工時に凹んだスジをつける方法がある。また、別の方法として、塗工後の活物質が柔らかいうちに、凹凸のあるローラーで電極を押して凹凸をつける方法が考えらえる。また、別の方法として、塗工後に乾燥させることでスラリーを収縮させ、電極表面にひび割れを起こさせてから圧力をかける。この方法では、ひび割れ部に電解液を含むゲルなどのイオン伝導性を有する材料を浸み込ませてから電極に圧力をかけることで、ひび割れ部に空隙を残すことも効果的である。別の方法として、集電体上の所望の領域に塗工し、さらに前記領域の一部に塗工を行うことで、塗工が1層の領域と2層の領域を設けることで、厚さを異ならせる方法がある。この際、層数は2層以上でもよく、また各層は異なる厚さでもよく、また別構成のスラリーを用いてもよい。
【0227】
以上の結果は、本発明の請求の範囲においても有効であることは明らかである。また、本発明に係る電極を用いることによって、一般的な場合でも同様に、電池特性の改善効果が得られることは明らかである。
【0228】
以上、実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0229】
この出願は、2016年3月30日に出願された日本出願特願2016−68321を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0230】
1 正極活物質層
2 負極活物質層
3 正極集電体
4 負極集電体
5 セパレータ
6 ラミネート外装体
7 ラミネート外装体
8 負極タブ
9 正極タブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10