(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877433
(24)【登録日】2021年4月30日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】マイクロ波炉及び焼結方法
(51)【国際特許分類】
F27B 17/00 20060101AFI20210517BHJP
A61C 13/00 20060101ALI20210517BHJP
A61C 13/083 20060101ALI20210517BHJP
A61C 5/70 20170101ALI20210517BHJP
H05B 6/80 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
F27B17/00 C
A61C13/00 K
A61C13/083
A61C5/70
H05B6/80 Z
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-531542(P2018-531542)
(86)(22)【出願日】2016年12月13日
(65)【公表番号】特表2019-500120(P2019-500120A)
(43)【公表日】2019年1月10日
(86)【国際出願番号】US2016066368
(87)【国際公開番号】WO2017106183
(87)【国際公開日】20170622
【審査請求日】2019年12月10日
(31)【優先権主張番号】15200347.1
(32)【優先日】2015年12月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー ハウプトマン
【審査官】
河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−128491(JP,A)
【文献】
特開平04−092870(JP,A)
【文献】
特開2005−310382(JP,A)
【文献】
特開2010−025452(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0079101(US,A1)
【文献】
韓国登録特許第10−0841039(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 17/00
A61C 5/70
A61C 13/00
A61C 13/083
H05B 6/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバハウジングと、焼結される物体用の焼結プラットホームとの間に形成された炉チャンバと、前記炉チャンバ内にマイクロ波を放出するように配置されたマイクロ波源とを含むマイクロ波炉であって、前記マイクロ波炉が更に、少なくとも23℃〜700℃の材料の温度範囲にわたってマイクロ波によって加熱される材料を含むサセプタを有しており、前記サセプタ及び前記炉チャンバが、前記サセプタが前記炉チャンバに対して配置された第1の位置と、前記サセプタが前記第1の位置に対して前記炉チャンバから更に後退して配置された第2の位置との間で、互いに対して移動可能である、マイクロ波炉。
【請求項2】
前記炉チャンバが開放及び閉鎖が可能であり、前記炉チャンバが閉鎖している間に前記サセプタ及び前記焼結プラットホームが互いに対して移動可能である、請求項1に記載のマイクロ波炉。
【請求項3】
前記サセプタが前記第1の位置において前記炉チャンバ内に延在しており、前記サセプタが前記第2の位置において前記炉チャンバの外側に位置している、請求項1又は2に記載のマイクロ波炉。
【請求項4】
前記サセプタを、前記第1の位置と前記第2の位置の決められた中間位置に停止させるように構成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載のマイクロ波炉。
【請求項5】
前記サセプタが前記プラットホームと前記ハウジングとの間の間隙内に配置されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のマイクロ波炉。
【請求項6】
前記第1の位置にある前記サセプタが前記プラットホームが面している空間を囲んでいる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のマイクロ波炉。
【請求項7】
前記サセプタが炭化ケイ素(SiC)を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載のマイクロ波炉。
【請求項8】
前記マイクロ波炉の稼働を制御するための制御システムを有し、前記マイクロ波炉が、前記制御システムの制御により前記サセプタを移動させるように構成されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載のマイクロ波炉。
【請求項9】
前記マイクロ波源が300MHz〜300GHzの周波数の電磁波を発生するマグネトロンを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載のマイクロ波炉。
【請求項10】
前記マイクロ波源が、焼結のための前記マイクロ波炉の唯一のエネルギ源である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のマイクロ波炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ波炉に関し、特にマイクロ波エネルギ又は熱伝達を介して(例えば熱放射を介して)、選択的に物体を焼結するための炉チャンバの内部及び外部に、選択的に配置可能なサセプタを有するマイクロ波炉に関する。本発明は更に焼結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科修復物は多くの場合、歯科用セラミック材料で作製されるか、又は歯科用セラミック材料を含む。歯科用セラミック材料は、天然歯の色に似た色の歯科修復物を提供することができる。
【0003】
歯科修復物は多くの場合、自動工程を用いて作製され、自動工程は通常、患者の歯の形状の取り込み、計算機支援設計(CAD)による取り込んだ形状に基づいた歯科修復物のデザイン、及び自動計算機数値制御(CNC)又は計算機制御ビルドアップ法での歯科修復物の製造、を含む。
【0004】
セラミック材料から作製される歯科修復物は通常、予備焼結されたブランク(連続多孔質材料構造を有する)で作製されたブランクから歯科修復物の前駆体を機械加工し、引き続き、歯科修復物前駆体を完全な密度に向けて焼結して歯科修復物を形成することにより得られる。更に、多くのビルドアップ法では、歯科修復物を形成するために焼結されなければならない、連続多孔質材料構造を有する歯科修復物前駆体を提供する。
【0005】
焼結時間は可能な限り短くしたいという一般的な要望があり、従って焼結される物体を、より低い温度から必要とする最終焼結温度まで加熱する時間を特に最小限にしたいとの要望がある。
【0006】
無機固体のいわゆる非液相焼結は、その固体の融解温度の約0.5〜0.6を上回る温度で開始される。固体の格子内で物体又は物質の輸送を可能にするためには熱が必要である。この輸送は、表面拡散、粒界拡散又はバルク拡散、並びに蒸発及び凝縮効果を含む種々のメカニズムにより起こり得る。これらメカニズムの1つ以上により、多孔質体から所望の完全緻密体への転換が生じる。
【0007】
マイクロ波炉を使用する方法もあるが、特定の温度範囲においてマイクロ波と十分には結合しない、例えばジルコニアを含むいくつかのセラミック材料には、通常は使用することができない。いわゆるサセプタを、焼結される物体の近傍に配置して使用する更なる手段もある。サセプタは通常、マイクロ波と結合する材料で作製される。従って、マイクロ波エネルギは通常、サセプタによって熱に変換され、その熱はサセプタによって放出され、主として熱放射により、焼結される材料に与えられる。
【0008】
既存の手段はある程度の利点を提供するが、最大限の焼結品質(均一性、半透明性及び強度に関して)で、セラミック、特にジルコニアのような歯科用セラミックの急速焼結を可能にする、焼結炉及び焼結方法への必要性は依然としてある。
【発明の概要】
【0009】
本発明の一態様はマイクロ波炉に関する。本発明のマイクロ波炉は、チャンバハウジングと、焼結される物体用の焼結プラットホームとの間に形成された炉チャンバを含む。マイクロ波炉は、マイクロ波を炉チャンバ内に放出するように配置されているマイクロ波源を含む。マイクロ波炉は更に、少なくとも23℃〜700℃の材料の温度範囲にわたってマイクロ波と結合する材料を含む、又はその材料で形成された、サセプタを有する。サセプタ及び炉チャンバは、サセプタが炉チャンバに対して配置された第1の位置と、サセプタが第1の位置に対して、炉チャンバから更に後退して配置された第2の位置との間で、互いに対して移動可能である。
【0010】
本発明は、マイクロ波を用いることで、電気抵抗要素又はバーナーのような追加の加熱システムなしに、歯科用セラミック、特にジルコニアの焼結を可能にするという点で有益である。更に、本発明は歯科用セラミック、特にジルコニアを焼結するための焼結時間を最小限にする上で役立つ。本発明は更に、物体を必要な焼結温度に向けて加熱する時間を最小限にし、一方で物体内のあらゆる温度勾配の均一性を最大限にするという点で有益である。マイクロ波は通常、物体内に侵入することができ、それにより物体の内側及び外側部分を独立かつ同時に加熱する(体積加熱作用)ことができるため、これは従来の熱焼結とは対照的である。本発明は、最大限の焼結品質で焼結することが可能になるという点で有益である。特に本発明は、比較的良好な半透明性及び材料強度を示す、比較的均一な材料構造を有する焼結セラミック材料を提供するために使用することができる。
【0011】
一実施形態では、マイクロ波源及びサセプタは互いに対して移動可能である。好ましくは、サセプタ及び炉チャンバの第2の位置においては、サセプタとマイクロ波源は、サセプタ及び炉チャンバの第1の位置におけるよりも、更に間隔を空けている。マイクロ波源及び炉チャンバは、互いに固定した関係で配置されていてもよく、一方サセプタは炉チャンバ及びマイクロ波源に対して移動可能であってもよい。特に物体を焼結するためにマイクロ波炉を使用している間、サセプタは炉チャンバ又はマイクロ波源に対して、移動可能であってもよい。この考え方によれば、サセプタは同時に、炉チャンバから後退し、かつマイクロ波源から更に離れた位置に配置され得る。更に離れた位置においては通常、より少ないマイクロ波エネルギがサセプタに結合する。それに応じて、マイクロ波エネルギのより低い部分がサセプタにより吸収され、従ってマイクロ波により物体を直接焼結するために利用可能なままである。当業者であれば、本発明から逸脱することなく、炉チャンバ、マイクロ波及び/又はサセプタが適切に移動可能である更なる構成を理解し得る。
【0012】
一実施形態では、マイクロ波炉は、炉チャンバが開放及び閉鎖が可能であるように適合している。サセプタ及び焼結プラットホームは、好ましくは、炉チャンバが閉鎖している間には、互いに対して移動可能である。焼結プラットホームは、好ましくは支持体の表面で形成される。支持体及びハウジングは、好ましくは、炉チャンバの開放及び/又は閉鎖のために、互いに対して移動可能又は配置可能である。特に支持体及びハウジングは、好ましくは、焼結プラットホームがハウジングの開口部と端を揃えているか又はハウジング内部に配置されている、閉鎖位置に配置可能である。支持体及びハウジングは、好ましくは更に、焼結プラットホームがハウジングの開口部から間隔を置いて開放位置に配置可能である。従って、閉鎖位置においては、焼結プラットホームは炉チャンバを閉鎖し、開放位置においては、焼結される物体が焼結プラットホーム上で炉チャンバの外側から炉チャンバ内へ配置可能である。
【0013】
サセプタ及び炉チャンバは、好ましくは焼結プラットホーム及びハウジングの閉鎖位置において移動可能である。特に、サセプタ及び炉チャンバは、好ましくは炉チャンバ内の物体の焼結中に移動可能である。
【0014】
一実施形態では、マイクロ波炉はハウジングを吊り下げるスタンドを有する。サセプタ及び焼結プラットホームは、好ましくは各々がハウジングに対して移動可能及び/又は配置可能である。ハウジングは、キャップ状であってもよく、特に周辺部の側壁及び上部壁を有しても良く、ハウジングの下部側に隣接した開口部を形成していてもよい。この関連で、用語「上部」及び「下部」はそれぞれ、地球の重心から離れる方向、及び重心に向かう方向の位置を意味する。マイクロ波炉は更に、スタンドが延在するベースを有していても良い。それに応じて、本実施形態ではハウジングは静止しており、サセプタ及びプラットホームは、各々がハウジングに対して、及び互いに対して移動可能である。このことにより、マイクロ波源のハウジングへの一体化、及びマイクロ波源の電気的接続が促進される。
【0015】
一実施形態では、マイクロ波炉は断熱材を有する。特に、ハウジングは内側が断熱材(例えばセラミック繊維材料)で裏打ちされていても良い。断熱ライナは、好ましくは連続したキャップ状の構造を形成する。
【0016】
更なる一実施形態では、マイクロ波炉は、更に好ましくはマイクロ波遮蔽体を有する。例えば、ハウジングは断熱材の外側に、遮蔽体の少なくとも一部を形成する金属から作製された、連続したキャップ状のシェルを有していてもよい。マイクロ波炉は、ハウジングによって完全には遮蔽されないあらゆる領域を遮蔽するための更なる金属シェルを有してもよい。
【0017】
一実施形態では、サセプタは炉チャンバ内で第1の位置に延在している。例えばサセプタは、部分的に又は完全に炉チャンバ内に位置付けられてもよい。従って、マイクロ波源が起動されると、サセプタはマイクロ波により加熱され、従って熱伝達により(例えば熱放射及び熱対流)炉チャンバが加熱される。
【0018】
更なる一実施形態では、サセプタは炉チャンバの外側で第2の位置に配置されている。この関連で、サセプタの表面が炉チャンバの範囲を定め、サセプタの残部は炉チャンバの外側に位置していてもよい。それに応じて、マイクロ波源がハウジング内に配置されているので、第2の位置におけるサセプタとマイクロ波源との間の距離は、第1の位置におけるサセプタとマイクロ波源との間の距離よりも大きい。従って、第2の位置においてサセプタは、好ましくはマイクロ波源によって著しくは加熱されないように十分に離れている。
【0019】
更なる一実施形態では、マイクロ波炉はサセプタを、決められた第1の位置と第2の位置の中間位置に停止させるように構成されている。好ましくは、サセプタ及び焼結プラットホーム(又は支持体)は独立して配置可能である。マイクロ波炉は、好ましくは例えばCNC機械装置で使用されているように、例えばステッピングモーター及び/又はリニアデコーダによって、サセプタ及び焼結プラットホームの位置を制御するように構成されている。
【0020】
一実施形態では、サセプタはプラットホームとハウジングとの間の間隙内に配置されている。第1の位置にあるサセプタは、好ましくはプラットホームが面している空間を取り囲んでいる。焼結される物体は、好ましくはこの空間内に配置可能である。更に、サセプタは好ましくはリング状の断面部において長手方向軸に沿って略直線状に延在している。
【0021】
一実施形態では、サセプタは中空円筒形状を有する。ハウジング、サセプタ及び焼結プラットホームは、好ましくは互いに可動な状態でフィットするように形成されている。そのようなフィット(ハウジングとサセプタとの間の、並びにサセプタと焼結プラットホームとの間の)は、好ましくは緩いフィットであり、それぞれハウジングとサセプタとの間、並びにサセプタと焼結プラットホームとの間の摩擦を回避するためである。しかしながら、ハウジングとサセプタとの間及び/又はサセプタと焼結プラットホームとの間のいかなる間隙も、それぞれ、好ましくは炉チャンバの適切な断熱を確保するために最小限にされる。中空円筒状サセプタの対称軸(長手方向軸に相当する)に対して、サセプタ及びハウジング、並びにサセプタ及び焼結プラットホームは、好ましくは対称軸又は長手方向軸に沿った次元方向に、互いに可動である。サセプタが中空円筒形状であることから、サセプタ内部の空間に向かって、(加熱された)サセプタの熱の比較的均一な放出がもたらされる。
【0022】
一実施形態では、サセプタは、任意で互いに対して移動可能である、2つ以上の部分から構成されていてもよい。例えば、サセプタは2個、4個、6個、12個の部分を含み、各々がそれぞれ180°、90°、60°、30°にわたって延在し、中空円筒形状を補完してもよい。その角度は対称軸に垂直な平面内で測定される。当業者であれば他の形状のサセプタ、例えば、マイクロ波炉内で通常焼結される物体の形状に依存して、正方形、矩形又は楕円形で延在するサセプタを理解するであろう。
【0023】
好ましい実施形態では、サセプタは炭化ケイ素(SiC)を含む、又は炭化ケイ素(SiC)で形成される。炭化ケイ素は約2000℃の耐熱性を有し、従って、ジルコニア材料を焼結するために必要に応じて、約1500℃〜1600℃の所望の焼結温度に向けて加熱することができる。
【0024】
更なる一実施形態では、マイクロ波炉はマイクロ波炉の稼働を制御するための制御システムを有する。マイクロ波炉は、好ましくは制御システムの制御によりサセプタを移動するように構成されている。マイクロ波は更に、温度センサを有していてもよい。温度センサは、焼結プラットホーム上に置かれた物体の温度、及び/又はサセプタの温度を取り込むように適合されていてもよい。制御システムは、温度センサによって測定された温度に基づきサセプタを移動するように構成されていてもよい。特に、制御システムは焼結される物体の温度をモニタしてもよく、サセプタを第1の焼結温度範囲にある第1の位置に配置してもよく、又は第2の焼結温度範囲にある第2の位置に配置してもよい。第1の焼結温度範囲は、好ましくは第2の焼結温度範囲よりも小さい。第1の焼結温度範囲は、およそ少なくとも23℃〜約700℃であってもよく、一方では第2の焼結温度範囲は約701℃〜約1600℃であってもよい。制御システムは、加えて又は代替として、(プログラム可能)時限プログラムに基づき又は制御システムへの手動入力により、サセプタを動かすように構成されていてもよい。
【0025】
一実施形態では、マイクロ波源は300MHz〜300GHzの周波数の電磁波を発生するためにマグネトロンに基づく。特定のマイクロ波周波数を含む安全要件は、例えばIEEE802.16又はe−CFR1030.10などの、例えば標準規格において、国内当局又は地方自治体によって規定されている。市販のマイクロ波装置は通常、2.3GHz、2.5GHz、3.5GHz及び5.8GHzの範囲で稼働する。マイクロ波源は、好ましくは焼結用マイクロ波炉の唯一のエネルギ源である。
【0026】
一実施形態では、マイクロ波炉は物体を含む。物体は、ジルコニアを含む歯科用又は歯列矯正用の被加工物、例えば歯科修復物、歯列矯正ブラケット又はこれらの前駆体であってもよい。
【0027】
更なる態様では、本発明はジルコニアの焼結方法に関する。本方法は、
マイクロ波炉の炉チャンバ内の焼結プラットホーム上にジルコニアで作製された物体を提供するステップと、
サセプタの少なくとも一部が炉チャンバの内部に配置される第1の位置にサセプタを位置調整するステップと、
炉チャンバ内にマイクロ波を放出するステップと、
サセプタの一部が炉チャンバの外側に配置される第2の位置にサセプタを位置調整するステップと、を含む。
【0028】
好ましくは、本方法は、本発明によるマイクロ波炉を提供するステップ、及び本発明のマイクロ波炉の焼結プラットホーム上に物体を提供するステップを含む。
【0029】
一実施形態では、物体は、ジルコニアを含む歯科用又は歯列矯正用の被加工物、例えば歯科修復物、歯列矯正ブラケット又はこれらの前駆体である。
【0030】
一実施形態では、第2の位置においてサセプタは、第1の位置におけるよりも、マイクロ波源から更に離れて配置されている。従って第2の位置においては、サセプタのマイクロ波への曝露は、第1の位置におけるよりも低い。
【0031】
一実施形態では、本方法は更に、
サセプタに所定の熱容量を提供するステップと、
サセプタを所定の温度まで加熱するステップと、
サセプタの熱容量を用いて物体を焼結温度まで加熱するステップと、を含む。
【0032】
一実施形態では、第1の位置から第2の位置への位置調整が、マイクロ波の炉チャンバ内への放出と同時に行われる。
【0033】
更なる態様では、本発明は物体を焼結する方法に関する。その方法は、最初に熱放射による加熱を通じて物体を焼結するステップ、及び引き続き同じ物体をマイクロ波エネルギにより焼結するステップを含む。好ましくは、これら2つのステップは互いに時間的に直接前後してあらかじめ形成される。その方法は、最初に主として熱放射による加熱を通じて物体を焼結するステップ、及び引き続き同じ物体を主としてマイクロ波エネルギにより焼結するステップを含むこと、を包含する。好ましくは、これら2つのステップは互いに時間的に直接前後してあらかじめ形成される。
【0034】
10mmx10mmx10mm(=1cm
3)のサイズのジルコニア試料を加熱する時間は、約80分〜約10分であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の一実施形態による、マイクロ波炉の概略断面図である。
【
図2】異なる稼働モードにある
図1のマイクロ波炉の概略断面図である。
【
図3】熱伝達による焼結と比較した、マイクロ波焼結の温度特性を示す図である。
【
図4】マイクロ波焼結、熱伝達による焼結及びその組み合わせによる温度特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1は本発明の一実施形態によるマイクロ波炉1を示す。マイクロ波炉1は、ハウジング10、及びハウジング10内に配置された焼結プラットホーム11を有する。炉チャンバ12は、ハウジング10と焼結プラットホーム11との間に形成されている。この例では、ハウジング10はカップ状であり、カップ形状により形成された開いた窪み内に焼結プラットホーム11が配置されている。ハウジング10は開口部を下(重力の方向に)に向けて配置されている。詳細には示されていないが、マイクロ波炉1は、焼結される物体を炉チャンバ12内に挿入するために、ハウジング10が開放できるように構成されている。当業者であれば、チャンバがユーザーの選択により開放及び閉鎖が可能であるマイクロ波炉に対する、いくつかの解決策を理解するであろうが、好ましい例においては、ハウジング10は焼結炉のスタンド(図示せず)で吊り下げられており、焼結プラットホーム11は、炉チャンバ12を閉鎖するためにハウジング10の内部に、又は炉チャンバを開放するために炉チャンバ12の外側に、垂直に移動可能(矢印14で示される)である。代替として、ハウジング10は持ち上げることができる、又はヒンジにより回転して開けることができるように構成されていてもよい。移動可能なハウジングと移動可能な焼結プラットホームの組み合わせが可能である。
【0037】
更に、ハウジング10は、焼結される物体を炉チャンバ内に挿入するために開放及び閉鎖が可能な部分、例えばドア又はフード、を有していても良い。
【0038】
ハウジング10は、好ましくは例えばセラミック繊維材料で断熱されており、それにより、焼結炉1が稼働できる温度範囲における、数時間にわたるマイクロ波炉1の稼働中に、ハウジング10の外表面上の温度が40℃を上回ることを回避する。そのような温度範囲は、炉チャンバ12内で室温(23℃)から最大温度約1560℃であってもよい。
【0039】
焼結プラットホーム11は略平坦又は平面であり、マイクロ波炉1内に配置された支持体13の表面により形成される。焼結プラットホーム11並びに炉チャンバ12に面しているハウジング11の内壁は、焼結炉1が稼働できる温度範囲内でマイクロ波と結合しないセラミック材料で作製されている。断熱のために並びに焼結炉の表面を形成するために用いられる一般的なセラミック材料は、酸化アルミニウムをベースとしている。焼結プラットホーム11は略水平に配置されている。
【0040】
焼結炉1はマイクロ波源15を有する。マイクロ波源15は、マイクロ波を発生するように構成されているマグネトロンを含む。マイクロ波源15は示されるように、ハウジング10の側面を経て延在していてもよい。代替として、マイクロ波源15は、焼結プラットホーム11の反対側で、ハウジング10の上部を経て延在していてもよい。2つ以上のマグネトロンを適宜使用しても良い。
【0041】
焼結炉1は更にサセプタ16を有する。サセプタ16は、少なくとも23℃〜700℃の温度範囲でマイクロ波と結合する材料で作製されている。これにより、マイクロ波源15によるサセプタ16の加熱が可能になる。この例ではサセプタは中空円筒形状を有する。これにより、比較的均一な熱放射が、サセプタ16からサセプタ16内部に形成される空間に向かってもたらされる。サセプタ16は、好ましくは炭化ケイ素(SiC)から作製される。炭化ケイ素は更に、約2000℃の耐熱性を有し、従ってジルコニア材料を焼結するのに必要な約1500℃〜1600℃の所望の焼結温度に向けて容易に加熱することができる。矢印17で示すように、サセプタは炉チャンバ12に対して移動可能である。特に、焼結プラットホーム12(支持体13で形成された)、ハウジング10、及びサセプタ16は、互いに伸縮自在に移動可能である。焼結プラットホーム11及び/又は支持体は、好ましくは断面が円形であり、サセプタ16の内部と精密なフィットを形成するように寸法設定されている。そのような精密なフィットは、サセプタ16及び支持体13の収縮又は膨張、並びにサセプタ16と支持体13との間の間隙に入り込み得るあらゆる粉体が理由である。それに応じて、精密なフィットには、サセプタ16と支持体13との間に最大1mmの間隙が含まれる。従ってサセプタ16と支持体13との間のあらゆるブロッキングが防止でき、一方では十分な断熱が依然として実現される。ハウジング10の内部は更に円形の断面を有し、サセプタの外側と精密なフィットを形成するように寸法設定されている。再び、そのような精密なフィットは、サセプタ16及びハウジング10の収縮又は膨張、並びにサセプタ16とハウジング10との間の間隙に入り込み得るあらゆる粉体が理由であり、最大1mmの間隙を含んでいてもよい。
【0042】
この例では、支持体13及びサセプタ16は、互いに対して独立に移動可能である。特に、支持体13及びサセプタ16の各々はモーター駆動リニアドライブ(図示せず)に結合している。リニアドライブは、好ましくは例えばステッパモーター及び/又はリニアデコーダを含む、移動量計測部又は移動量制御部を含む。示した状況では、サセプタ16は、例では最上部の位置である第1の位置に配置されており、これは例えばサセプタ16がハウジング10の上部側と当接する位置である。この例の第1の位置において、サセプタ16はハウジング10の内側壁を完全に覆っている。この位置においては、サセプタ16も炉チャンバ12内に配置されている。示した状況では、炉チャンバ12はマイクロ波源15で加熱されたサセプタ16によって加熱され得る。
【0043】
図2は
図1にあるのと同じ焼結炉1であるが、サセプタ16が第2の位置に配置されている。第2の位置においてサセプタ16は炉チャンバ12から後退している。この例では、第2の位置においてサセプタ16は炉チャンバ12から完全に後退しており、そのためサセプタは炉チャンバ12内に延在していない。しかしながら、サセプタ16の表面は、炉チャンバ12の範囲を定め又は(少なくとも熱的に)封止する、壁を形成し得ることに留意すべきである。更に、歯科修復物100(又はその前駆体)が炉チャンバ12内に置かれる。サセプタ16が炉チャンバ12の外側に配置されていることで、歯科修復物100は、主としてマイクロ波源15によって発生されたマイクロ波に曝露される。更に、サセプタ16はマイクロ波源15から更に離れて配置されているため、サセプタ16内へのエネルギ供給は第1の位置と比較して低い(かつ特に重要ではない場合がある)。それに応じて、炉チャンバ12内に置かれた歯科修復物(又は他の物体)は、歯科修復物又は物体がマイクロ波と結合する材料から作製されている場合、サセプタ16の第2の位置においては、一般にマイクロ波エネルギによってだけ加熱され得る。
【0044】
マイクロ波炉1は、歯科修復物100(又は他の物体)の温度を測定するための温度センサ18、例えば焼結プラットホーム11の方向に向けられた光学センサ、を有する。マイクロ波炉1は、センサ18によって測定された温度に応じて、マイクロ波源15の電力を制御するように構成されている。更に、マイクロ波炉1は、以下で更に詳細に説明されているように、センサ18によって測定された温度に応じて、サセプタ16の移動を制御するように構成されている。
【0045】
図3は、
図1及び
図2に示すマイクロ波炉内に置かれた、円筒状のジルコニア材料に対する加熱効果を図で示している。特に図は、サセプタ16の第1の位置(
図1)においてマイクロ波炉が稼働している状態に対する温度特性II、及びサセプタ16の第2の位置(
図2)においてマイクロ波炉が稼働している状態に対する温度特性Iを示す。
【0046】
低温ではジルコニアはマイクロ波と結合しないという事実のために、ジルコニア材料は、サセプタが第1の位置に配置されている時にマイクロ波炉中で加熱され得る。サセプタを介した放射(及び対流)による加熱中には、温度特性IIは、ジルコニア材料の外側に向かってより高い温度、及び中心に向かってより低い温度という特徴がある。いったんジルコニアが約650℃〜700℃の温度に到達したら、ジルコニアはマイクロ波と結合し始めるため、サセプタを第2の位置に移動させることができる。この状態ではジルコニア材料は、実質的にマイクロ波エネルギのみにより、更に加熱され得る。マイクロ波源を介したジルコニア材料の加熱中は、温度特性Iは、ジルコニア材料の外側に向かって温度がより低くなり、及び中心に向かって温度がより低くなるという特徴がある。温度が上昇する方向は、図においてTで示されている。
【0047】
図4は、
図3に示すような異なる温度特性I及びIIを重ね合わせるために、サセプタを第1の位置及び第2の位置に置いた場合の加熱を組み合わせることができるという結果を示す。重ね合わせた温度特性I及びIIは、組み合わせた温度特性I+IIとして示されている。単独の温度特性I及びIIと比較して、組み合わせた温度特性I+IIは、ジルコニアを通してより均一であることが分かった(厳密に線形の、又は均一な特性には実際には到達し得ないが)。
【0048】
図5は本発明によるジルコニア材料の焼結方法を示す。ステップAで、マイクロ波源15が起動され、サセプタ16が第1の位置に配置される。従って、サセプタ16は、好ましくは約750℃の温度に向けて予備加熱される。予備加熱温度に到達した後、ジルコニアから作製された歯科修復物の前駆体100’が炉チャンバ12内に置かれる。そのような前駆体100’は通常、予備焼結された依然として連続多孔質の材料であり、1580℃に向かって加熱することにより、完全緻密な材料に向けて転換することができる。歯科修復物の前駆体100’がマイクロ波炉1内に置かれた時点で、炉チャンバ12は依然として十分高温には加熱されておらず、そのため炉チャンバの開放によるいかなる急激な温度低下も限定される。このことは、炉の内壁及び/又は断熱材のあらゆる劣化を最小限にするために役立ち、従って炉の寿命を最大限にするために役立つ。
【0049】
ステップBで、マイクロ波源15は停止され、サセプタ16は第1の位置に配置される。従って、歯科修復物前駆体100’はサセプタだけから放出される(主に放射される)熱に曝露される。それに応じて、歯科修復物前駆体100’は、
図3の温度特性Iに従って加熱される。歯科修復物前駆体100’が約700℃の外部温度に到達した時点で、ステップCに示すように、サセプタ16は第2の位置に後退し、マイクロ波源15が起動される。ステップCでは歯科修復物前駆体100’は、実質的にマイクロ波源15によって発生されたマイクロ波のみに曝露される。これにより、歯科修復物前駆体100’の内側部分は、
図3の温度特性IIに従って、外側部分よりもより加熱される。サセプタを介した初期加熱によって、マイクロ波による加熱の熱特性は、700℃を上回る温度領域では、初期加熱により生じた熱特性を補償する。マイクロ波のみによる更なる加熱の時点で、
図3の特性IIに似た温度特性が発生することを防止するために、ステップB及びCを交互に起動させて、サセプタを介し及びマイクロ波を介し、歯科修復物前駆体100’を連続的に加熱してもよい。この方法を用いることで、ジルコニア材料の急速加熱が、材料内の温度分布が最大限均一に、従って材料構造が最大限均一に、可能であることが見出された。これはまた通常、最大限の半透明性及び強度を有する焼結材料を実現することにつながる。