特許第6877438号(P6877438)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6877438レーダシステムにおける位相ノイズに起因する干渉を低減するための方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877438
(24)【登録日】2021年4月30日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】レーダシステムにおける位相ノイズに起因する干渉を低減するための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/36 20060101AFI20210517BHJP
   G01S 13/87 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   G01S7/36
   G01S13/87
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-534784(P2018-534784)
(86)(22)【出願日】2017年1月3日
(65)【公表番号】特表2019-505782(P2019-505782A)
(43)【公表日】2019年2月28日
(86)【国際出願番号】EP2017050056
(87)【国際公開番号】WO2017118621
(87)【国際公開日】20170713
【審査請求日】2019年12月19日
(31)【優先権主張番号】102016100107.4
(32)【優先日】2016年1月4日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516287933
【氏名又は名称】シメオ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フォシーク、マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ゴッティンガー、ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】キルシュ、ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】グルデン、ペーター
【審査官】 東 治企
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102014104273(DE,A1)
【文献】 特表2005−510947(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/019975(WO,A1)
【文献】 A. Stelzer et al.,"Precise Distance Measurement with Cooperative FMCW Radar Unit",2008 IEEE Radio and Wireless Symposium,2008年,pp.771-774,DOI: 10.1109/RWS.2008.4463606
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00−7/42
G01S 13/00−13/95
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダシステムにおける位相雑音による干渉を低減する方法であって、
1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)において、第1の信号(sigTX1)が生成され、経路(SP)を介して送信されるステップと
別の非同期トランシーバユニット(NKSE2)において、別の第1の信号(sigTX2)が生成され、前記経路(SP)を介して送信されるステップと、
前記第1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)において、前記第1の信号(sigTX1)と、前記別の非同期トランシーバユニット(NKSE2)から前記経路(SP)を介して受信された前記別の第1の信号(sigRTX2)とから、比較信号(sigC12)が形成されるステップと
前記別の非同期トランシーバユニット(NKSE2)において、前記別の第1の信号(sigTX2)と、前記第1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)から前記経路(SP)を介して受信された前記第1の信号(sigTX1)とから、別の比較信号(sigC21)が形成されるステップと
前記別の非同期トランシーバユニット(NKSE2)から前記第1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)に、前記別の比較信号(sigC21)が送信されるステップと
前記第1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)において、前記比較信号(sigC12)及び前記別の比較信号(sigC21)のうちの一方の表現物から少なくとも1つの複素値が決定されるステップと、
前記比較信号(sigC12)及び前記別の比較信号(sigC21)のうちの他方の表現物に適用するための少なくとも1つの複素値を適応させ、前記比較信号(sigC12)及び前記別の比較信号(sigC21)の各々よりも振幅が小さい位相雑音を有した適応信号(sigCC)が形成されるステップと
を含み、
前記適応させる動作は、複素値のベクトル和もしくは差、又は、複素値の位相成分の和もしくは差を使用して行われる
方法
【請求項2】
信された前記第1の信号(sigTX1及び送信された前記別の第1の信号(sigTX2)は周波数変調連続波(FMCW変調される
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
記第1の信号(sigTX1及び前記別の第1の信号(sigTX2)を生成するために使用される信号ソースのクロックレート等化が行われるステップを含む
請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
次レーダの動作を使用して、前記第1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)及び前記別の非同期トランシーバユニット(NKSE2)の連続した複数のランプにわたる周波数ドリフトの決定による同期化が行われるステップを含む
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
主レーダの動作を使用して、時間オフセット及び周波数オフセットのうちの少なくとも一方を含むオフセットが決定されるステップを含む
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記オフセットが前記比較信号(sigTX1及び前記別の比較信号(sigTX2)のスペクトルの最大値の位置の決定を介して決定される
請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)及び前記別の非同期トランシーバユニット(NKSE2)のうちの少なくとも一方が、前記決定及び適応させる動作を実行するための少なくとも1つの分析ユニットを有するか、又は前記少なくとも1つの分析ユニットに接続されている
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記比較信号(sigC12及び前記別の比較信号(sigC21)は、共有分析ユニットに送信され、両方の分析のためにそこに入力され、
前記共有分析ユニットは、前記第1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)又は前記別の非同期トランシーバユニット(NKSE2)の一部として含まれる
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
記第1の信号(sigTX1及び前記別の第1の信号(sigTX2)は、少なくとも時間的に重なり合って送信され、前記別の非同期トランシーバユニット(NKSE2)の前記別の第1の信号(sigTX2)は、前記第1の非同期トランシーバユニット(NKSE2)の前記第1の信号(sigTX1)の信号持続時間の少なくとも半分の間送信され
請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記適応させる動作の前に、前記比較信号(sigC12)及び前記別の比較信号(sigC21)のうちの少なくとも一方のスペクトルが正規化される
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ーダシステムにおける位相雑音による干渉を低減するためのシステムであって、
第1の信号(sigTX1)を生成し、前記第1の信号(sigTX1)を経路(SP)を介して送信するための第1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)と、
別のの信号(sigTX2)を生成し、前記別の第1の信号(sigTX2)を前記経路(SP)を介して送信するための別の非同期トランシーバユニット(NKSE2)と、
を備え、
前記第1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)は、処理を含む前記別の第1の信号(sigTX2)を受信して、受信信号(sigRX12)を提供するように構成され
前記別の非同期トランシーバユニット(NKSE2)は、処理を含む前記第1の信号(sigTX1)を受信して、別の受信信号(sigRX21)を提供するように構成され、
前記第1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)は、前記第1の信号(sigTX1)と、前記別の非同期トランシーバユニット(NKSE2)から前記経路(SP)を介して受信された前記受信信号(sigRX12)とから、比較信号(sigC12)を形成するように構成され、
前記別の非同期トランシーバユニット(NKSE2)は、前記別の第1の信号(sigTX2)と、前記第1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)から前記経路(SP)を介して受信された前記別の受信信号(sigRX21)とから、別の比較信号(sigC21)を形成するように構成され、
前記別の比較信号(sigC21)を前記別の非同期トランシーバユニット(NKSE2)から前記第1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)に送信するための送信ユニットが設けられ、
少なくとも1つの分析ユニットが設けられ、前記少なくとも1つの分析ユニットは、
前記比較信号(sigC12)及び前記別の比較信号(sigC21)のうちの一方の表現物から少なくとも1つの複素値を決定し、
前記比較信号(sigC12)及び前記別の比較信号(sigC21)のうちの他方の表現物に適用するための少なくとも1つの複素値を適応させ、前記比較信号(sigC12)及び前記別の比較信号(sigC21)の各々よりも振幅が小さい位相雑音を有した適応信号(sigCC)形成するように構成され、
前記分析ユニットは、複素値のベクトル和もしくは差、又は、複素値の位相成分の和もしくは差を用いて、前記適応させる動作を行うように構成される
システム
【請求項12】
記第1の信号(sigTX1及び前記別の第1の信号(sigTX2)を生成するために使用される信号ソースのクロックレート等化のために、通信バスが設けられ
請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
共有トランシーバアンテナが、前記第1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)び前記別の非同期トランシーバユニット(NKSE2)のうちの少なくとも一方で使用するために設けられ
送信ミキサが設けられる
請求項11又は請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記第1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)と前記別の非同期トランシーバユニット(NKSE2)との間の周波数オフセット及び時間オフセットのうちの少なくとも一方を決定するための通信バスを備える
請求項11に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【背景技術及び発明の概要】
【0002】
本発明は、少なくとも2つの非同期のトランシーバユニットNKSE1及びNKSE2によって放出され、具体的には放射され、別のNKSEにそれぞれ送信され受信される無線信号を処理する方法を説明する。この少なくとも2つのトランシーバユニットは、この場合、信号生成のための少なくとも部分的に独立した装置(信号ソース)を備えている。
独立した信号生成は、異なるNKSEの生成された信号があらかじめ互いに定義された位相関係を持たない、すなわち互いにコヒーレントでないという結果をもたらす。
【0003】
この場合、分散型レーダシステムは、少なくとも2つのNKSEを有するシステムであってもよく、2つのNKSE間において、信号は間接接続(物体、散乱体、又は境界層で反射される)又は直接経路(視線による接続を用いて)により、少なくとも1つの送信機から少なくとも1つの受信機へ送信される。このレーダネットワークは、複数のNKSEを使用して、物体のシーンを画像化し、及び/又は、物体の速度、距離もしくは姿勢などの特性を検出するために使用することができる。しかしながら、複数のNKSEの互いの距離、姿勢もしくは相対速度を決定するために、このレーダネットワークが使用されてもよい。第1のケースでは、第1のレーダシステムがよく説明され、第2のケースでは、第2のレーダシステム又は無線ロケーションシステムが説明される。
【0004】
レーダシステムでは、良好な角度分解能を達成するため、可能な限り大きな空間アパーチャを探す。この場合、アパーチャという用語は、複数の個々のアンテナが配置されている領域もしくは空間領域を識別する、又は、単一のアンテナを複数の位置にそれぞれ移動させ、個々のアンテナの信号を送信中に合成し及び/又は受信後に結合されることを識別する。本発明に関連して、信号がコヒーレントに、すなわち所定の位相関係で結合されることが重要である。送信された信号及び/又は受信された信号は、信号の受信後に、波の重ね合わせ又はコンピュータによって物理的に結合されてもよい。これに関連して、いわゆるアパーチャ合成法又は合成アパーチャを使用する方法も参照されることが多い。このようなアパーチャ構成は、MIMO、SIMO、又はMISOの用語でも知られている。MIMO(Multiple Input、Multiple Output)は、通信エンジニアリング又はレーダ技術において、複数の送信アンテナ及び受信アンテナを使用するための方法及び/又は送信システムを指す。MIMOシステムでは、送信機と受信機は複数のアンテナを有する。SIMO(Single Input, Multiple Output)システムにおいては、送信機は1つのアンテナを有し、受信機は多数のアンテナを有する。MISO(Multiple Input, Single Output)においては、送信機は多数のアンテナを有し、受信機は1つのアンテナのみを有する。
【0005】
多数のアンテナ素子を使用して大きなアパーチャを合成することを望む場合、これらの配置内でコヒーレントに高周波数の信号を分配するためにアパーチャサイズを大きくするとますます問題となる。したがって、より低い周波数レベルでの同期化又は後処理による分散配置の結合が望ましい。高周波信号を少なくとも部分的に分離して生成することが可能となり、理想的には、完全に独立したサブモジュールを使用することができる。しかしながら、分散ユニットの同期化の分野において技術的困難が生じ、位相雑音の干渉影響が増大する。
【0006】
分散型レーダシステムの場合には、別個に配置された少なくとも2つの、それぞれ他のトランシーバユニットとの関連で非同期でないトランシーバユニット(NKSE)への割り当てのために、特に少なくとも2つのNKSEにおいて同期及び位相雑音成分に関連する少なくとも部分的に独立した信号発生ソースの影響を補償するために、いずれの場合にも要件が存在する。各NKSEのシステムクロックがローカルに生成される場合、高周波信号は完全に独立して生成される。例えば、高周波発振器を使用するか、又は、水晶発振器もしくはMEMS発振器を高周波発振器及びフェーズロックループと組み合わせて使用する場合である部分的に独立した高周波信号の生成は、例えば、共通の低周波システムクロック又はNKSE間の基準信号の分配である。高周波信号は、乗算もしくは他の周波数比較機構を用いて、フェーズロックループにより生成又は導出される。
【0007】
同期を達成し、かつ位相雑音の影響を低減するための第1のアプローチを以下に説明する。この場合、少なくとも2つのNKSEは、全二重方式で同じ逆方向無線チャネルを介して(ほぼ)同時に送受信する。送信信号と受信信号は、それぞれ互いに混合され、従って、少なくとも2つのNKSEの各々において比較信号が形成される。相互かつ(ほぼ)同時送信であるために、両方の信号ソースの位相雑音は、比較信号(混合信号、中間周波数信号又はビート信号とも呼ばれる)のそれぞれに含まれる。比較信号の少なくとも1つのデータは、A/D変換器によってサンプリングされた後、他方のユニットに送信されることにより、両方の比較信号がこのNKSEに供給される。これらの2つの比較信号を相関させ又は乗算し、いわゆる比較−比較信号を形成することにより、位相雑音の影響を強く抑制することができ、かつコヒーレントな測定が可能となる。この手順の後、このようなシステムを用いて、搬送波周波数のドップラーシフトによって検出可能な速度を測定することも可能である。
【0008】
従来技術では、特に複数の信号成分を有するレーダ信号、すなわち複数のターゲット又は複数の信号伝送経路を含む信号が干渉する可能性がある。この結果、達成可能な精度及び範囲が縮小される。加えて、計算コストが高い。
【0009】
本発明の目的は、上述の欠点を回避するレーダシステムにおける位相雑音による干渉を低減するための方法及びシステムを提案することである。特に、可能な限り少ない計算量で干渉を低減する必要がある。
【0010】
この目的は、請求項1に記載の特徴、対応するシステム、及び、対応する用途を有する方法によって達成される。有利な実施形態は、特に従属請求項の主題である。
【0011】
本発明は、NKSE間で送信される信号が、信号生成のために1つの共用装置、すなわちコヒーレントな信号ソースのみを用いて動作するレーダ信号のみが実際に有する有利な特性を持つ比較信号を生じるように処理される方法に関する。より詳細には、本発明は、特に、信号発生のための複数の独立した装置の無相関位相雑音によって誘発される干渉効果を低減する方法に関する。この方法は、分散型レーダシステム、いわゆるレーダネットワークに特に有利に適用可能である。
【0012】
レーダ信号処理の分野では、高精度及び長距離を達成するために、受信信号を可能な限りノイズの少ない中間周波数信号に変換することが望ましい。この場合、送信機と受信機との間に複数の伝播経路が存在することが想定される。原理的には、予想される周波数と正確に一致するフィルタによる帯域通過フィルタリングによって、受信されたマルチパス伝播及び相関ノイズ成分を抑制することが可能である。しかしながら実際には、この方法は、各NKSEにおけるサンプリング時点の同期誤差及び局部発振器周波数が、混合プロセスの後に生成されるビート信号の限定された範囲内での正確な予測を可能にするだけなので、実用的ではない。これらの問題により、これらの2つの信号の位相雑音の相関が減少し、位相の推定誤差が増大する。
【0013】
従って、位相雑音及び同期誤差の影響が低減又は完全に抑制された計算ステップを有する方法が有利である。
【0014】
本発明による方法は、少なくとも2つのNKSEがほぼ同時に送信することから始まる。この文脈において「ほぼ同時に」とは、送信信号sigTX1及びsigTX2は、両方向の、すなわちn1からNKSE2へのsigTX1及びNKSE2からNKSE1へのsigTX2の信号持続期間の大部分にわたって送信されることを意味する。送信信号sigTX1及びsigTX2の開始時間の最初に未知の差は、T_offと呼ばれる。可能な限り多くの送信時間が望ましい。シフトT_offは、信号持続時間の半分よりも長くないことが好ましいが、どんな場合でも信号持続時間よりも小さい。少なくとも部分的に独立した生成のため、信号sigTX1及びsigTX2は、局NKSE1及びNKSE2内の信号ソースの位相ノイズに起因する無相関の信号成分を有する。
【0015】
このような構成では、伝送チャネルの相反性を保証するために、送信(Tx)及び受信(Rx)に同じアンテナが使用されることが好ましい。アレイ(例えば、MIMOの場合)の構成では、好ましくは、少なくとも1つの伝送経路が逆数であることが保証される。NKSEの少なくとも1つの送信及び受信経路における送信ミキサの使用は、相互性を達成するのに特に適している。レーダ装置における送信ミキサの1つの例示的な実施形態は、例えば、米国特許第6317075号に記載されている。
【0016】
さらなるステップとして、比較信号(sigC21,sigC12)が各NKSEにおいて形成される。特に、それぞれの受信信号と送信信号との間に形成されるか、又は、位相雑音に関して送信信号と相関する送信信号の成分を用いて形成される。これらの比較信号を形成する方法は、特許出願DE102014104273A1の手順に対応する。
【0017】
本発明によれば、位相雑音及び同期誤差は、受信信号の処理を2つのステップで実行することによって少なくとも低減される。第1のステップとして信号を受信する前に、信号ソースの起動を介して、及び/又は、受信信号内の直接の補償を介して、及び/又は、比較信号内の補償を介して、系統的な偏差が補正される。第2のステップとして、例えば、比較−比較信号の相関及び/又は形成の短縮された評価が、予測されるシフト範囲に対してのみ、又は、最良の場合には1つのシフト値においてのみ行われる。
【0018】
第2のステップにおいては、DE102014104273A1とは異なり、位相補償のための乗算を使用するのではなく、複素信号の加算を使用することが特に有利である。乗算の代わりに加算を使用することは、上述した処理の第1ステップ、すなわち系統的偏差の事前補償によって可能になる。
【0019】
信号の乗算又は除算は、非線形演算を表す。非線形演算には、非線形効果、特に、信号成分と雑音成分のいわゆる相互変調が伴う。特に、複数の信号成分を有するレーダ信号、すなわち複数の宛先又は複数の信号伝送経路を含む信号の場合、干渉を生じる。本発明により提案された複素信号の加算による使用は、加算が線形演算であり、非線形効果、すなわち特に信号及び雑音成分の相互変調が回避されるという大きな利点を有する。したがって、この変形例は、比較信号sigC21及びsigC12を合成する通常の方法と比較して、位相雑音の大幅な改善をもたらす。
【0020】
本発明によれば、結果として位相雑音/位相雑音の影響は、DE102014104273A1において予想されるような上述の追加の干渉効果を伴わずに抑制される。さらに、この手法は、DE102014104273A1の実施形態として提案された完全な乗算又は相関よりも大幅に低い計算労力しか必要としないため、技術的に有利である。
【0021】
本発明による処理を実行することができるように、好ましくは、まず、周波数オフセットを(できるだけ広範囲に)補償するため、直接的同期(制御可能なハードウェアによる)及び/又は合成同期(計算による)のいずれかが実行される。次に、線形化された手法を使用することができ、これは、小さな残留位相差(図3に示す原理)の場合にのみ、干渉の相関部分の分解を引き起こす。
【0022】
同期は測定前、測定自体の一部として、又は測定後に別々に行うことができる。測定自体の一部としての同期の場合、同期は、例えば、比較信号のその後の適応を介して行われ得る。
【0023】
同期のために、sigTX1及びsigTX2のソースのクロックレートを直接的に(例えば、TCXOによって)、又は、計算(合成同期)により一致させるように適合された手段又は方法が提供されてもよい。
【0024】
分散されたステーションのクロックソースを等化するためのすべての既知の方法を用いることができる。同期のための特に有利な手法は、米国特許第7940743号による方法、特許出願DE102008010536による方法、及び/又は、基準クロックもしくは基準信号の交換である。FMCW信号の測定内のクロック等化のための更なる方法については後述する。
【0025】
クロックソースを等化するためのこれらの方法はすべて、電波又はケーブル接続を介して実装することができる。有線とは、ケーブルによって伝送される電気信号又は光信号を意味する場合がある。
【0026】
あるいは、クロックソースを等化する方法を改良するために、非常に高品質のクロックソース、例えば原子時計を使用することもできる。
【0027】
同期ステップの後、信号(sigEP21,sigEP12)が比較信号から導出される。比較信号は、それぞれ信号伝播時間又はそれぞれの信号成分の伝送チャネルの長さを関数引数として有する関数を表す。
【0028】
次いで、ステーション間のオフセットT_offは、例えば特許DE10157931に開示された方法によって、又は少なくとも2つのNKSEの比較信号の相関によって決定される。この場合、最大値はオフセットを供給することができる。あるいは、FMCW信号について以下に説明する方法を使用することもできる。上記のように、これらの方法は有線方式又は電波方式で実行されうる。
【0029】
決定された伝播時間(ランタイム)に関連づけられる信号sigEP21から少なくとも1つの関数値F1が決定され、さらにできるだけ同一の伝播時間に関連づけられる信号sigEP12の少なくとも1つの関数値F2が決定される。F1及びF2は、互いにオフセットされる。このオフセットは、例えば、2つの伝播時間値を加算又は減算することによって行われる。
【0030】
したがって、信号sigTX1及びsigTX2の無相関信号成分による信号ソースの位相雑音に起因する干渉は除去されるか、又は少なくとも低減される。手順は以下に要約される。
【0031】
レーダシステムにおける位相雑音による干渉を低減する方法であって、
−第1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)において、第1の信号(sigTX1)が生成され、特に経路(SP)を介して送信される。
【0032】
−特に、第2の非同期トランシーバユニット(NKSE2)では、(さらに)第1の信号(sigTX2)が生成され、経路(SP)を介して送信される。
【0033】
−信号(sigTX1及びsigTX2)は、それぞれの他のトランシーバユニットにおいて直接的又は間接的に受信され、受信信号sigRX12及びsigTXRX21としてさらに処理され、
−第1のトランシーバユニット(NKSE1)において、その第1の信号(sigTX1)と、さらなるトランシーバユニット(NKSE2)から経路(SP)を介して受信された第1の信号(sigRTX2)とから比較信号sigC12が形成され、
−さらに、トランシーバユニット(NKSE2)において、その第1の信号(sigTX2)と、第1のトランシーバユニット(NKSE1)から経路(SP)を介して受信されたそのような第1の信号(sigTX1)とから、さらなる比較信号sigC21が形成される。
【0034】
−このさらなる比較信号(sigC21)は、特に、上記通信された別のトランシーバユニット(NKSE2)から第1のトランシーバユニット(NKSE1)に送信され、
−第1のステップにおいて、トランシーバユニット(NKSE2、NKSE1)内の系統的な偏差によって引き起こされる信号sigC21及びsigC12の偏差が補償され、
−第2のステップにおいて、2つの比較信号のうちの第1の比較信号からの、又はこの第1の比較信号から導出された信号からの、少なくとも1つの複素値は、2つのうち第2の複素値である少なくとも1つの複素値を適応させる目的で使用される。
【0035】
−適応は、数学的演算によって、複素数値のベクトル和もしくは差が形成されるか、又は、複素数値の位相の和もしくは差が形成されるように行われる。
【0036】
非同期トランシーバユニット(NKSE)は、(NKSEの最初の信号又はさらなるNKSEの信号が、それ自体でコヒーレントであっても)さらなるNKSEの信号との関係で送信信号が非コヒーレントであるトランシーバユニットとして理解されるべきである。計算、分析、又は他の方法ステップが(それぞれの)トランシーバユニット内で実行される場合、これには、トランシーバユニットに接続される物理的に独立した分析ユニットも含まれてもよい。したがって、例えば、トランシーバユニットは、信号生成ユニット又は信号処理コンポーネントをいくつか有する、特に1つ又は複数のアンテナからなる構成として設計することができる。信号比較ユニット又は分析ユニットなどのさらなるコンポーネントは、構造的に独立したコンポーネントとして、そのような構造に接続される。コンポーネントを使用することができる場合、それらは、技術的に実現可能であれば、処理コンポーネントからのいわゆるハードウェアとして形成することができ、及び/又は、プロセッサ内で完全にもしくは部分的に実行される信号もしくはデータ処理ステップとして実装することができる。
【0037】
一般に、任意で提供される分析ユニットは、特に、1つもしくは複数(両方)のトランシーバユニットのコンポーネントであるか、又は、1つもしくは複数(両方)のトランシーバユニットに接続される。物理的に独立した分析ユニットは、それぞれのトランシーバユニット又はそれぞれのトランシーバユニットの他のコンポーネントに接続されていてもよい。あるいは、解析ユニットは、第1及び/又はさらなる非同期トランシーバユニット、例えば共有ハウジング及び/又はモジュラーユニットとして、任意に統合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
例示的な実施形態は、以下に図面に基づいてより詳細に説明される。
図1図1は、相互に通信する2つのトランシーバユニット及びその個々のコンポーネントを示す。
図2図2は、方法シーケンスとともに、図1のコンポーネントを示す。
図3図3は、上部では、同期化前の無相関ノイズ成分を有する2つのトランシーバユニットのビート信号を示し、下部では、同期化後の相関位相雑音を有する合成混合結果を示す。
図4図4は、同期前の2つのトランシーバユニットからの全てのランプのスペクトログラムを示す。
【0039】
図1から明らかなように、2つのトランシーバユニットNKSE1,NKSE2は、無線インタフェースを介して互いに通信する。この場合、第1又は第2の信号sigTX1,sigTX2がそれぞれ送信される。トランシーバユニットNKSE1,NKSE2の各々は、信号ソース1と、クロック適応又は比較信号変更のためのユニット2と、送信比較ユニット(SigComp1,SigComp2)とを有する。
【0040】
図2は、各場合において、位相修正のためのユニット4を追加的に示す。位相修正のために、2つのユニットの間で、データ交換が行われる。
【0041】
本発明の正確な数学的導出は、以下のように行われる。第1の非同期トランシーバユニット(NKSE1)では、第1の信号(sigTX1)が生成され、特に経路(SP)を介して送信される。さらに、特に第2の非同期トランシーバユニット(NKSE2)では、第2の信号(sigTX2)が生成され、特に経路(SP)を介して送信される。この場合、信号の放出は可能な限り同時に行われるが、少なくとも2つの信号波形が伝送時間の少なくとも半分にわたって重なり合うように、少なくとも互いに時系列に適合されるのが好ましい。信号ソースは、完全に又は部分的に独立していてもよい。
【0042】
通信技術分野において一般的であるように、使用される送信信号(sigTX1,sigTX2)は等価なベースバンド信号(bbTX1)及び搬送波信号への分解として表すことができる。
【0043】
本発明によるシステムは、好ましくは、距離測定及び/又はイメージングに使用されるため、いわゆる良好な相関特性を有する信号がベースバンド信号として使用されることが好ましい。相関特性が良好な信号としては、例えば広帯域パルス、ノイズ信号、又は、M系列、ゴールド符号、バーカー符号、カサミ系列、ハフマン系列、チャープ、線形周波数変調信号(FMCW)等の擬似ランダムパルス系列(PN符号)などである。このような信号形態は、レーダ技術及び通信技術(特にCDMAの分野)において、長年にわたって多様な形態でよく知られている。
【0044】
トランシーバユニット(NKSE1)の送信信号(sigTX1)は、以下のように表すことができる。
【0045】
【数1】
【0046】
時間オフセットT01は、信号sigTX1の送信時間を規定する。位相項ΦTX1(t)=φTX1+ξTX1(t)は、一定の位相オフセットと搬送波信号の位相雑音とを含む。
【0047】
角周波数ωclは、sigTX1の搬送波信号の周波数を特徴付ける。
【0048】
トランシーバユニット(NKSE2)の送信信号(sigTX2)も同様に、以下のように形成されうる。
【0049】
【数2】
【0050】
送信された信号(sigTX1及びsigTX2)は、直接反射されるか又は物体に反射されて、それぞれの他のトランシーバステーションに到着し、そこで受信され、受信信号sigRX12及びsigRX21としてさらに処理される。
【0051】
第2の非同期トランシーバユニット(NKSE2)で受信された受信信号は送信信号(sigTX1)に対応するが、振幅が変化し、伝播時間τ21だけ遅延される。数学的表示を簡単にするために、かつ一般的な開示を限定することなく、すべての信号は、以下では複素数値の信号として表現される。したがって、次式が適用される。
【0052】
【数3】
【0053】
送信された信号(sigTX1)が、第2のトランシーバユニット(NKSE2)に向け、異なる長さの複数(I個)の伝送経路上を送信される場合、受信信号は、振幅重みづけされた信号と時間遅延された信号の線形重畳として、次のように表すことができる。
【0054】
【数4】
【0055】
ここで
【0056】
【数5】
【0057】
それに応じて、第2のトランシーバユニット(NKSE2)から第1のトランシーバユニット(NKSE1)に送信される信号については、以下が適用される。
【0058】
【数6】
【0059】
又は
【0060】
【数7】
【0061】
ここで
【0062】
【数8】
【0063】
トランシーバユニット(NKSE1,NKSE2)は、信号比較ユニットsigComp1,sigComp2を含むように統合され、トランシーバユニットのそれぞれの受信信号は、その送信信号を用いてオフセットされる。すなわち、NKSE1においては、sigRX12はsigTX1を用いてオフセットされ、NKSE2においては、sigRX21がsigTX2を用いてオフセットされる。信号比較ユニットsigComp1,sigComp2は、例示的な実施形態ではミキサMixとして具体化される。すなわち、信号sigRX12はここではNKSE1の信号sigTX1と混合され、信号sigRX21はNKSE2の信号sigTX2と混合される。一般的に、混合動作がシステム理論的に、2つの複素正弦信号が一方の信号と他方の信号の共役複素数(=共役のための文字)とを掛けたものとしての乗算又はダウンミキシングにより表されることは、よく知られている。したがって、以下が適用される。
【0064】
【数9】
【0065】
比較信号を形成する別の有利な方法は、NKSE1が信号sigRX12を信号sigTX1と混合するのではなく、その搬送波のみと混合することである。したがって、
【0066】
【数10】
【0067】
NKSE2の信号については、次のようになる。
【0068】
【数11】
【0069】
あるいは、代替の実施形態では、
【0070】
【数12】
【0071】
NKSEには次の条件が満たされていることを保証する手段が用意されていることが期待される。
【0072】
【数13】
【0073】
これらの手段が好適に具体化される方法は、すでに上に説明されているか、及び/又は、以下で例示的な実施形態において説明される。これらの境界条件の下で、次の結果が得られる。
【0074】
【数14】
【0075】
【数15】
【0076】
相互の伝送チャネルを仮定すると、以下も適用される。
【0077】
【数16】
【0078】
次のステップでは、データ通信により確実に両方の比較信号が共通の分析ユニットに送信され、両者の分析がそこに提供される。共通の分析ユニットは、NKSE1,NKSE2又は他の分析ユニットでもよい。
【0079】
ここで、さらなる処理ステップにおいて、2つの比較信号の位相が加算される。位相雑音成分を有する搬送波位相のみを観測すると、未知の位相寄与がこの成分にのみ存在するので、2つの搬送波位相項を加算すると、次の式が得られる。
【0080】
【数17】
【0081】
一般に、伝播時間τは、電磁波の伝播速度が速いために非常に小さく、発振器における決定的な位相雑音成分は、発振器の位相雑音の既知の関係に従って、キャリアからの距離が増加するにつれて大きく減少する。したがって、それぞれ、φTX1又はφTX2は、顕著なローパス挙動、具体的には、通常は1/τより著しく小さい限界周波数を有するローパス挙動を有する。それは以下の通りである。
【0082】
【数18】
【0083】
【数19】
【0084】
本発明により提案された処理において、比較信号の1つにおいてそれぞれの他の比較信号の位相が加算されるため、位相雑音による干渉がかなり実質的に低減される。この位相ノイズの低減により、ターゲットの検出可能性が向上し、測定範囲が長くなり、測定精度が向上する。
【0085】
選択されたミキサトポロジに応じて、例えば標準位置ミキサ又は逆位ミキサであろうと、上記の位相項は他の符号を有する可能性がある。符号に応じて、位相項の好ましい結合は、必ずしも加算ではなく、場合によっては減算でもよい。結合により、位相ノイズ項及び伝播時間に依存する位相項、すなわち項ωτを含む式の減少が維持されることは明白である。さらに、位相値が複素数で表される場合には、複素数は互いに乗算されるかもしくは互いに除算されるか、又は、それぞれの他の数の共役複素数と乗算されることにより、位相の和又は差を形成することが一般的に知られている。
【0086】
位相雑音成分を低減するための好ましい変形例を以下に説明する。多くの場合、第1及び第2の非同期トランシーバユニット(NKSE1、NKSE1)において等価なベースバンド信号が生成されること、すなわち、以下が適用されることが好ましい。
【0087】
【数20】
【0088】
少なくともおおよそ相反する無線チャネルでは、さらに次のことが当てはまると推定される。
【0089】
【数21】
【0090】
これらの条件下で、以下の結果が得られる。
【0091】
【数22】
【0092】
【数23】
【0093】
2つの信号は、それらの位相項を除いて同一であることが容易に分かる。
【0094】
しかしながら、信号sigC12及びsigC21は逆方向無線チャネルにもかかわらず、ミキサ又は増幅器などの電気的構成要素の異なる特性のために、結果として両者の振幅がわずかに異なる結果となる可能性がある。信号sigC12及びsigC21の振幅が異なる場合、ここで説明される好ましい変形例において、まず信号は同じ振幅に正規化される必要がある。
【0095】
また、信号sigC12及びsigC21を形成する手順において、さらなる系統的な位相オフセットが生じる可能性がある。信号sigC12及びsigC21の位相オフセットが異なる場合、ここで説明される好ましい変形例において、まずこれらの位相オフセットは補償される必要がある。
【0096】
ある時間tの間、信号sigC12及びsigC21は、複素ポインタとして理解されうる。ポインタの複素加算により、異なる符号を有する位相項のベクトル成分は、位相項の加算の場合に、上述と同じ方法で打ち消される。したがって、位相雑音成分を低減するための可能な好ましい変形例として、複素信号sigC12及びsigC21を加算すること、すなわち、以下のような信号を形成することが提案される。
【0097】
【数24】
【0098】
信号sigCCは、信号sigC12又はsigC21よりも著しく低い位相雑音を有する。そして、信号sigCCは、さらに距離測定、角度測定又はイメージングのために使用される。しかしながら、異なるキャリア周波数及び異なる送信時間の原因となるため、信号が加算される前に、振幅及び位相における上記の系統的な偏差が補償されていることが重要である。
【0099】
言うまでもなく、信号sigC12及びsigC21のすべての値と、必ずしも信号sigC12とsigC21それら自体が加算される必要はない。しかしながら、2つの比較信号のうちの第1の比較信号からの少なくとも1つの複素値、又は、この第1の比較信号から得られた信号からの少なくとも1つの複素値は、2つの比較信号のうちの第2の比較信号の少なくとも1つの複素値、又は、この第2の比較信号から得られた信号の値を適合させる目的で用いられ、信号(sigCC)の少なくとも1つの値を形成するために、数学的演算によって、sigC12及びsigC21から得られた少なくとも2つの複素値のベクトル和もしくは差が形成されるか、又は、これらの複素値の位相の和又は差が形成されるように適応が行われる。
【0100】
ここで、提案された混合手順は1つの可能な実施形態を表すに過ぎず、位相ノイズ成分の補償は代替の方法によっても実施できることに留意されたい。したがって、例えば、すべての高周波信号は、混合前に既にデジタル化されていてもよく、すなわち、アナログ/デジタル変換器を使用してサンプリングされてもよい。そして、すべてのさらなる演算は、例えばプロセッサ又はFPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)において、コンピュータにより又はデジタル的に実行されてもよい。
【0101】
原理的には、送信信号sigTX1及びsigTX2は、FMCW変調され得る。この場合(数学的演算の前に)、好ましくは、比較信号のスペクトルは最大値に正規化される。
【0102】
FMCW信号及び複数の連続するNランプを使用する本発明の特別な実施形態を以下に説明する。この場合、NKSEは、線形に上昇又は下降する周波数を有する複数のN個の信号(以下、周波数ランプと呼ぶ)を送信する。比較信号は、NKSEにおいて受信信号より生成され、さらなる処理のためにバッファリングされる。例えば、上昇ランプ及び下降ランプが使用され、以下のように正しい符号を有する相対速度の決定が行われる。
【0103】
まず、ビート信号sigC12,sigC21の個々のスペクトログラムが、各ランプの受信チャンネルごとに用意される。これらのスペクトログラムは、N個の連続したランプごとに、位相情報なしの振幅による表現で、互いに隣接して配置される。上昇ランプについては図4に示されているが、2つの最大値が現れている。これは、IQミキシングが実行されずに、実数値のサンプリング信号が提供されるためである。主レーダで使用する場合、検出範囲内の少なくとも1つの反射器は、このステップのために予め識別され、上述のように表されなければならない。
【0104】
ビート信号が期待される(粗いプリシンクロナイゼーションによって保証される)周波数帯域は、十分にカットされる。その後、それぞれの第1のN/2ランプのスペクトログラムは、周波数軸に沿った第2のN/2ランプのスペクトログラムと相関する(ステップ1)。この場合に発見される最大値は、2つのNKSEの相対時間ドリフトを反映する(この場合、線形関数が推定されうる)。1つ又はそれ以上の反射を介して信号を受信する場合、例えば、ターゲットの識別は、両側の相互ドリフトを介して行われてもよい。
【0105】
あるいは、周波数オフセットの決定は、特に、共有バスシステムを介した主レーダにおいて行われてもよい。これは、当該システムがその測定信号又はより広範な同期信号をバスシステムのケーブルを介して交換することによって行われる。この場合、バスシステムは特にCAN,FlexRay,Most,ギガバイトのイーサネット(登録商標)システム、USB,FireWire(登録商標)、又は、TTPシステムである。
【0106】
その後、クロック適応又は比較信号変更のためのユニット2において、例えば反対の周波数オフセットを有する複素補正信号を乗算することによって、このドリフトによってスペクトログラムのすべてのランプが補正される。このようにして得られた様々なランプのスペクトログラムは(非同期に)加算され、この重ね合わせの結果として、時間オフセット(オフセット誤差)に対応する最大値が求められる。主レーダでは、前のステップで行われる互いに関連付けられたピークの識別を用いて、ピークの選択を行うことができる。
【0107】
あるいは、時間オフセットの決定は、共有バスシステムを介して、特に測定データ又は適切な相関系列のいずれかを送信することによって行われてもよい。
【0108】
このようにして決定された相対時間オフセット及び相対時間ドリフト(=現在の周波数オフセット)のパラメータは、Nランプの完全な系列にわたって平均化される。この結果には、クロック偏差の大部分が含まれる。さらに、スペクトログラムのどの点で入射信号のエネルギーが期待されるかを各ランプ及びステーションごとに知ることができる。
【0109】
最初に記録されたローカル混合信号sigC12及びsigC21は、まず、整数値Tint(2つのステーション間の時間オフセットはΔT=|T01−T02|=Tint+Tfracとして表現される)だけシフトされ、均一な時間基準を得る。位相雑音は、共有された正確な時間ベースのために、より強く相関する。残りの小さな時間誤差Tfracは、例えば、分数遅延フィルタを使用することによって補償することができる。このようにシフトされた信号は、2つの局部発振器の周波数オフセットΔω=ω1−ω2のために生じる偏差ランプスロープにより、周波数応答を反対方向にマッピングする正規化された複素補正信号をフォールディング又はスペクトル乗算することによって補正される。
【0110】
ビート信号のFFTの後で、これらの再尖鋭化された混合信号のそれぞれにおけるチャネルパルス応答についてピークが求められる。第2のレーダでは、最も強いピーク、あるいは最初のピークが選択されることが好ましく、第1のレーダでは、両側に等しく存在するピークが選択される必要がある。両方のステーションのランプごとに、関連する位相と推定距離において最大値が得られる。これらの値は原則的に、相互チャンネルの往復の経路の測定に対応する。残りの偏差は、NKSEの2つの信号ソース1間の残りの周波数及び位相差、例えば、位相雑音が原因となる発振器などによるものである。正確な周波数差を絶対的に決定し、補正することができる(180度における曖昧さを除いて、位相差を求めることができる(IQミキサ360°において))。この曖昧さは、位相カーブをランプからランプまで+/−90°に制限することによって改善される。これは、アンラッピングとも呼ばれる。この残りの位相誤差の正確な補正の後、両方のステーションの合成混合信号は、もはやほとんど相違しない。
【0111】
この前処理の後、レーダシステムの特性的な系統誤差は完全に補正されているので、2つのビート信号の位相シフトは僅かな絶対値のみずれるだけである。この時点では、一方では時間及び周波数ベースの正確な同期が達成され、他方では、位相雑音は加算的な寄与とみなされ、線形結合によって相殺される。これは、例えば両方のNKSEで全Nランプを2Dフーリエ変換することによって行われ、振幅で正規化されたビート信号が最終的に加算される。システムパラメータ(サンプリングレート、ランプスロープ、キャリア周波数、など)を考慮することで、この線形結合の結果の最大値は、距離と速度の推定値を表す。
図1
図2
図3
図4