(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877560
(24)【登録日】2021年4月30日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】ボツリヌス毒素を含む安定した液状組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/74 20150101AFI20210517BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20210517BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20210517BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20210517BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20210517BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20210517BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20210517BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20210517BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
A61K35/74 D
A61K38/16
A61P25/02
A61P21/00
A61K47/18
A61K47/38
A61K47/26
A61K47/12
A61K9/08
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-539817(P2019-539817)
(86)(22)【出願日】2017年10月17日
(65)【公表番号】特表2020-505382(P2020-505382A)
(43)【公表日】2020年2月20日
(86)【国際出願番号】KR2017011438
(87)【国際公開番号】WO2018135722
(87)【国際公開日】20180726
【審査請求日】2019年8月21日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0009727
(32)【優先日】2017年1月20日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517154177
【氏名又は名称】テウン カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】DAEWOONG CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】イム ヒョナ
(72)【発明者】
【氏名】キム チョンセイ
【審査官】
佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−178505(JP,A)
【文献】
特表2012−531442(JP,A)
【文献】
特表2010−532784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−35/768
A61K 38/00−38/58
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ボツリヌス毒素、(ii)L−アラニン又はメチルセルロース、(iii)ポリソルベート20、及び(iv)クエン酸ナトリウムを含む、液状組成物であって、前記液状組成物は、組成物の全量を基準に、ポリソルベート20を0.00001〜0.1%(w/v)含む液状組成物。
【請求項2】
ボツリヌス毒素はボツリヌス毒素A型であることを特徴とする、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項3】
組成物の全量を基準に、L−アラニンを0.01〜1%(w/v)含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の液状組成物。
【請求項4】
組成物の全量を基準に、メチルセルロースを0.00001〜0.1%(w/v)含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の液状組成物。
【請求項5】
クエン酸ナトリウムを、組成物の全量を基準に、5〜35mM含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の液状組成物。
【請求項6】
さらに等張化剤を含み、等張化剤は、組成物の全量を基準に、0.7〜0.95%(w/v)含有されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の液状組成物。
【請求項7】
即時使用可能な(ready−to−use)形態の注射剤である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の液状組成物。
【請求項8】
(i)ボツリヌス毒素、(ii)L−アラニン又はメチルセルロース、(iii)ポリソルベート20、及び(iv)クエン酸ナトリウムを含む液状組成物を用いてボツリヌス毒素を安定化させる方法であって、前記液状組成物は、組成物の全量を基準に、ポリソルベート20を0.00001〜0.1%(w/v)含む方法。
【請求項9】
前記液状組成物にさらに等張化剤が含まれることを特徴とする、請求項8に記載のボツリヌス毒素製剤を安定化させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は再水化(reconstitution)過程を経る必要なしに即時使用可能な(ready−to−use)、ボツリヌス毒素を有効成分として含む安定した液状組成物に係り、特にボツリヌス毒素が低濃度で含まれている場合にもボツリヌス毒素の凝集を防止して高い安定性を示すだけでなく、容器への吸着などを効率的に防止してバッチ(batch)別、又は液状バイアル(vial)別ボツリヌス毒素の活性を一定に維持することができる液状組成物に関する。
【0002】
具体的に、本発明は、(i)有効成分としてボツリヌス毒素、(ii)L−アラニン又はメチルセルロース、(iii)非イオン性界面活性剤及び(iv)緩衝剤を含み、選択的に等張化剤を含む液状組成物に関する。
【0003】
また、本発明は、(i)ボツリヌス毒素、(ii)L−アラニン又はメチルセルロース、(iii)非イオン性界面活性剤及び(iv)緩衝剤を含み、選択的に等張化剤を含む液状組成物を用いてボツリヌス毒素を安定化させる方法に関する。
【背景技術】
【0004】
神経毒性を有する毒素を分泌する多様なクロストリジウム属菌株が1890年代から今まで発見され、去る70年間これらの菌株が分泌する毒素に対する特性糾明が行われてきた(Schant, E. J. et al., Microbiol. Rev., 56:80, 1992)。
【0005】
前記クロストリジウム属菌株に由来した神経毒性を有する毒素、すなわちボツリヌス毒素(botulinum toxin)はその血清学的特徴によってA型〜G型の7種の型に区分される。各毒素は約150KDaの毒素タンパク質を持っており、自然的には多くの非毒性タンパク質と結合されている複合体からなっている。中間(Medium)複合体(300kDa)は毒素タンパク質と非毒性−非ヘマグルチニンタンパク質からなっており、大きな(Large;450kDa)複合体及び巨大(Large−Large;900kDa)複合体は中間複合体がヘマグルチニンと結合されている形態を取っている(Sugiyama, H., Microbiol. Rev., 44: 419, 1980)。このような非毒性非ヘマグルチニンタンパク質は腸内で低いpHと各種のタンパク質加水分解酵素から毒素を保護する機能をすると知られている。
【0006】
特に、ボツリヌス毒素(botulinum toxin)A型の場合には、全身的には人体に影響を及ぼさない容量以下で局所投与すれば、局所投与された部位の局所筋肉を麻痺させることがあることが明かされた。このような特性を用いて、シワ除去、硬直性片麻痺及び脳性麻痺の治療用途などに広範囲に使うことができるので、その需要が急増している。
【0007】
一方、使用者の便宜性側面で再水化(reconstitution)過程を経る必要なしに即時使用可能な(ready−to−use)形態のボツリヌス毒素を有効成分として含む液状組成物の形態が好まれているが、ボツリヌス毒素は液状形態で安定性が大きく落ちる欠点があるから、従来の商業用ボツリヌス毒素製剤はタンパク質の安定性を高めるために凍結乾燥するか真空乾燥した乾燥粉末状に製造されている。
【0008】
しかし、凍結乾燥などの方法で製造された乾燥粉末剤形の場合、使用時に再水化過程を経なければならないため、使用上の不便さがあるだけではなく、再水化過程で希釈過程の間違いなどによって、投与されるボツリヌス毒素量の偏差、特に活性側面での偏差などが発生する問題があるため、使用者の便宜性及び再水化過程での間違いを最小化することができる液状組成物に対する需要が大きくなっている。
【0009】
特に、ボツリヌス毒素は毒性が非常に強いから、治療又は美容目的の使用のためには微量が投与されなければならないので、高濃度のボツリヌス毒素の液状組成物よりは低濃度のボツリヌス毒素の液状組成物が好まれる。
【0010】
しかし、ボツリヌス毒素は、低濃度で存在する場合、互いに凝集する傾向があり、ボツリヌス毒素が容器に吸着するから、目的とする十分なボツリヌス毒素の活性が現れないか、むしろもっと高い毒素活性を示すなどのバッチ(batch)別、又は液状バイアル(vial)別ボツリヌス毒素の活性偏差が発生し、予期せぬ副作用などが発生するなどの問題があるため、低いボツリヌス毒素濃度を有する安定化した形態の液状組成物の製造は易しくないと知られている。
【0011】
このような側面で、使用者の使用便宜性を向上させることができ、低いボツリヌス毒素濃度でもボツリヌス毒素の凝集を効率的に防止することができるのみならず、ボツリヌス毒素の容器への吸着を効率的に防止して、バッチ(batch)別、又は液状バイアル(vial)別ボツリヌス毒素の活性を一定に維持することができる新しい形態の液状組成物に対する需要が非常に高い状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は低いボツリヌス毒素濃度でもボツリヌス毒素の凝集を効率的に防止することができるのみならず、ボツリヌス毒素の容器への吸着を効率的に防止することにより、バッチ(batch)別、又は液状バイアル(vial)別ボツリヌス毒素の活性を一定に維持することができる新しい形態の液状組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は、(i)有効成分としてボツリヌス毒素、(ii)L−アラニン又はメチルセルロース、(iii)非イオン性界面活性剤及び(iv)緩衝剤を含み、選択的に等張化剤を含むボツリヌス毒素の安定した液状組成物を提供する。
【0014】
また、本発明は、(i)ボツリヌス毒素、(ii)L−アラニン又はメチルセルロース、(iii)非イオン性界面活性剤及び(iv)緩衝剤を含み、選択的に等張化剤を含む液状組成物を用いてボツリヌス毒素を安定化させる方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
他に定義しない限り、本明細書で使用した全ての技術的及び科学的用語は本発明が属する技術分野で熟練した専門家によって通常的に理解されるものと同じ意味を有する。一般に、この明細書で使用した命名法は当該技術分野でよく知られており、通常に使われるものである。
【0016】
一観点で、本発明は、(i)有効成分としてボツリヌス毒素、(ii)L−アラニン又はメチルセルロース、(iii)非イオン性界面活性剤及び(iv)緩衝剤を含み、選択的に等張化剤を含む液状組成物に関する。
【0017】
本発明で、“ボツリヌス毒素”はクロストリジウムボツリヌス菌株又はその変異体によって生成された神経毒(Neurotoxins、NTXs)だけでなく、変形、組み換え、ハイブリッド及びキメラボツリヌス毒素の全てを包括する意味として使われる。
【0018】
組み換えボツリヌス毒素は非クロストリジウム種によって組み換えで製造された軽鎖及び/又は重鎖を有することができる。また、本発明の‘ボツリヌス毒素’はボツリヌス毒素血清型A、B、C、D、E、F及びGを包括し、ボツリヌス毒素複合体(すなわち、300,600及び900kDa複合体)だけでなく純粋ボツリヌス毒素(すなわち、約150kDa神経毒性分子)の両者を包括し、これらはいずれも本発明の実施に有用である。
好ましくは、本発明の液状組成物に含有されるボツリヌス毒素はボツリヌス毒素A型である。
【0019】
本発明による液状組成物にはボツリヌス毒素が約10〜200unit/ml又は約20〜150unit/ml、好ましくは約25〜100unit/ml、又は25〜75unit/ml、最も好ましくは25〜50unit/ml含有されることができるが、前記ボツリヌス毒素の含量に限定されるものではない。
【0020】
本発明によるボツリヌス毒素の液状組成物は、非極性アミノ酸の一種であるL−アラニン又はメチルセルロースによって疎水性が付与される。L−アラニンは疎水性効果又は塩効果(salt effect)によってボツリヌス毒素の溶解度を増加させることができ、非イオン性界面活性剤、特にポリソルベート20又はポリソルベート80と併用するとき、臨界ミセル濃度(critical micelle concentration)を調節することができる。メチルセルロースポリソルベート20又はポリソルベート80と類似した両親媒性を持っているが、界面活性剤とは違う形態の温度敏感性を有するポリマーであり、熱安定性に寄与すると予測される。
【0021】
本発明によるボツリヌス毒素の液状組成物において、L−アラニンは、組成物の全量を基準に、0.01〜1%(w/v)、好ましくは0.05〜0.5%(w/v)、最も好ましくは0.075〜0.3%(w/v)含有されることができる。一具現例で、L−アラニンの含量は、組成物の全量を基準に、0.1%(w/v)であってもよい。
【0022】
本発明によるボツリヌス毒素の液状組成物において、メチルセルロースは、組成物の全量を基準に、0.00001〜0.1%(w/v)、好ましくは0.0001〜0.01%(w/v)、最も好ましくは0.0005〜0.0015%(w/v)含有されることができる。一具現例で、メチルセルロースの含量は、組成物の全量を基準に、0.00125又は0.000625%(w/v)であってもよい。
【0023】
本発明のボツリヌス毒素の液状組成物において、非イオン性界面活性剤としては、ポリソルベート20又はポリソルベート80が使われることができるが、これに限定されるものではない。好ましくは、ポリソルベート20が使われることができる。非イオン性界面活性剤、特にポリソルベート20は容器に対するボツリヌス毒素の吸着を防止するために使われ、疎水性、表面相互作用、容器への吸着防止の役割を同時に遂行しながらボツリヌス毒素の安定性を大きく向上させることが確認された。しかし、ポリソルベート20又はポリソルベート80を液状組成物に含ませる場合、ボツリヌス毒素を安定化させるが、これと同時にボツリヌス毒素の活性が目的とする数値以上に高く現れることがある問題がある。
【0024】
このような問題を解決するために、本発明では、ポリソルベート20又はポリソルベート80を、組成物の全量を基準に、0.00001〜0.1%(w/v)、好ましくは0.0001〜0.01%(w/v)、最も好ましくは0.0005〜0.0015%(w/v)の範囲の微量で使用する場合、ボツリヌス毒素の活性が高く現れる問題点を防止することができ、容器への吸着などを効率的に防止して、バッチ(batch)別、又は液状バイアル(vial)別ボツリヌス毒素の活性を一定に維持することができることを確認した。一具現例で、ポリソルベート20の含量は、組成物の全量を基準に、0.001%(w/v)である。
【0025】
本発明のボツリヌス毒素の液状組成物には、等電点以下のpH維持のために、生理的に適した緩衝剤が含有されることができ、これによって臓器安定性を確保することができる。生理的に適した緩衝剤はpH4.5〜pH6.5の範囲、好ましくはpH5〜6の範囲を維持しなければならなく、最も好ましくは約pH5.5となるようにすることができる緩衝剤を使うことができる。生理的に適した緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム、コハク酸、リン酸、第一リン酸カリウム、酢酸ナトリウム、又は塩化ナトリウムなどを使うことができる。好ましくは、本発明による液状組成物には、緩衝剤としてクエン酸ナトリウムを使うことができる。クエン酸ナトリウム緩衝液はタンパク質医薬品の長期保管時に安定性に致命的な影響を与えるpH変化を制御することができるが、特定の賦形剤と併用するとき、含量及び活性(力価)低下の可能性があるから、適合性試験(compatibility test)を進めて決定しなければならない。
【0026】
本発明のボツリヌス毒素の液状組成物において、生理的に適した緩衝剤は、組成物の全量を基準に、5〜35mM、好ましくは10〜30mM、最も好ましくは15〜25mM含有されることができる。一具現例で、生理的に適した緩衝剤として、pH5.5のクエン酸ナトリウムが、組成物の全量を基準に、20mM含有される。L−アラニンとクエン酸ナトリウム緩衝液の組合せはボツリヌス毒素A型の安定性を大きく向上させることが確認された。
【0027】
また、本発明のボツリヌス毒素の液状組成物は選択的に等張化剤をさらに含むことができ、等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム、グリセリン、マンニトール、スクロース、塩化カリウム、デキストロースなどを使うことができる。等張化剤の含量は、組成物の全量を基準に、0.7〜0.95%(w/v)であってもよい。好ましくは、本発明のボツリヌス毒素の液状組成物は、等張化剤として、塩化ナトリウムを0.7〜0.95%(w/v)、最も好ましくは0.9%(w/v)含む。
【0028】
一具現例で、本発明のボツリヌス毒素の液状組成物には、組成物の全量を基準に、アラニン0.01〜1%(w/v)、ポリソルベート20又はポリソルベート80 0.00001〜0.1%(w/v)、クエン酸ナトリウム5〜35mM及び等張化剤0.7〜0.95%(w/v)が含有されることができる。
【0029】
他の一具現例で、本発明のボツリヌス毒素A型液状注射剤には、組成物の全量を基準に、メチルセルロース0.00001〜0.1%(w/v)、ポリソルベート20又はポリソルベート80 0.00001〜0.1%(w/v)、クエン酸ナトリウム5〜35mM及び等張化剤0.7〜0.95%(w/v)が含有されることができる。
【0030】
本発明のボツリヌス毒素の液状組成物は通常の投与経路を通して投与されることができる。本発明の一部具現例で、ボツリヌス毒素の液状組成物は投与が必要な個体に局所投与方法である筋肉内又は皮下注射で投与される。本発明のボツリヌス毒素の液状組成物は液状であるので、使用時に再水化段階を経る必要なしにすぐ投与可能である。また、本発明によるボツリヌス毒素の液状組成物に含まれたボツリヌス毒素は、室温で約12週、苛酷条件で5週まで安定性が維持されることができる。
【0031】
本発明の安定化したボツリヌス毒素液状組成物は、活動亢進性骨格筋を特徴とする神経筋肉障害の治療のために使われることができる。また、頭痛、片頭痛、緊張性頭痛、副鼻腔頭痛、頸椎性頭痛、発汗障害、わき多汗症、手多汗症、足多汗症、フレイ症侯群、多動性皮膚しわ(hyperkinetic skin line)、顔面しわ、眉間しわ、目縁しわ、口元しわ、鼻唇しわ、皮膚障害、弛緩不能症、斜眼、晩成裂肛、眼瞼痙攣、筋骨格痛症、線維筋腫、膵膓炎、頻拍、前立腺肥大、前立腺炎、尿閉、尿失禁、過敏性膀胱、片側顔面痙攣、震い、筋痙攣、胃腸管障害、糖尿病、唾液過多症、排尿筋−括約筋協調性運動障害、脳卒中後硬直、傷回復、小児脳性麻痺、平滑筋痙攣、再狭窄、局所筋緊張異常、癲癇、頸部ジストニア、甲状腺障害、高カルシウム血症、強迫障害、関節炎痛症、レイノー症侯群、皮膚裂線、腹膜癒着、血管痙攣、鼻水、筋肉痙縮、喉頭筋緊張異常、指痙攣及び手根管症侯群などの疾患治療及び美容の目的などで多様に使われることができる。
【0032】
他の観点で、本発明は、(i)ボツリヌス毒素、(ii)L−アラニン又はメチルセルロース、(iii)非イオン性界面活性剤及び(iv)緩衝剤を含み、選択的に等張化剤を含む液状組成物を用いてボツリヌス毒素を安定化させる方法に関する。
【0033】
一具現例で、本発明は、(i)ボツリヌス毒素に、(ii)L−アラニン、(iii)ポリソルベート20又はポリソルベート80、(iv)クエン酸ナトリウム及び選択的に等張化剤である塩化ナトリウムを組み合わせて液体組成物を形成する段階を含む。ここで、液状組成物全体を基準に、アラニンの含量は0.01〜1%(w/v)、ポリソルベート20又はポリソルベート80の含量は0.00001〜0.1%(w/v)、クエン酸ナトリウムの濃度は5〜35mM、等張化剤である塩化ナトリウムの含量は0.7〜0.95%(w/v)である、ボツリヌス毒素製剤を安定化させる方法に関する。
【0034】
さらに他の具現例で、本発明は、(i)ボツリヌス毒素に、(ii)メチルセルロース、(iii)ポリソルベート20又はポリソルベート80、(iv)クエン酸ナトリウム及び選択的に等張化剤である塩化ナトリウムを組み合わせて液体組成物を形成する段階を含む。ここで、液状組成物全体を基準に、メチルセルロースの含量は0.00001〜0.1%(w/v)、ポリソルベート20又はポリソルベート80の含量は0.00001〜0.1%(w/v)、クエン酸ナトリウムの濃度は5〜35mM、等張化剤である塩化ナトリウムの含量は0.7〜0.95%(w/v)である、ボツリヌス毒素製剤を安定化させる方法に関する。
【0035】
前記本発明の方法によって安定化したボツリヌス毒素製剤は液状製剤のままで注射剤として使えるから、使用前に別途の再水化過程が不必要であるので、使用が便利であり、約6ヶ月以上安定した状態で保管することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのもので、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものに解釈されないことは当該分野で通常の知識を有する者に明らかであろう。
【0037】
実施例1:両親媒性賦形剤の種類及び含量によるボツリヌス毒素の含量評価
ボツリヌス毒素の安定性を高めるのに適した賦形剤を捜し出すために、クロストリジウムボツリヌス毒素A型に多種の両親媒性賦形剤を添加した後、両親媒性賦形剤の種類及び含量がボツリヌス毒素の含量に及ぶ影響をMolecular Device社のVersamax microplate reader BC−138及びBC−378を用いてELISA試験法で評価した。緩衝溶液(buffer)としてはクエン酸ナトリウム緩衝液(以下、“S.C buffer”又は“S.C緩衝液”という)と塩化ナトリウム緩衝液を使い、クエン酸ナトリウム緩衝液は、特別な言及がない限り、0.9%(w/v)塩化ナトリウムを等張化剤として含むものを使った。
試験に使用されたボツリヌス毒素A型は韓国特許登録第1,339,349号に記載された方法によって製造されたものを使った。
【0038】
ELISA試験は、ボツリヌスtype A抗毒素(NIBSC、59/021)をコーティングした96−well plateに多様な濃度で希釈したボツリヌス毒素A型標準品(大熊製薬)と本発明による液状組成物を分株し、Sandwich ELISA技法を用いて試験を進めた。
【0039】
それぞれの標準品と液状組成物に1次、2次抗体反応させた後、基質(substrate)を処理して反応させた後、450〜540nmの波長で吸光度を測定して標準品の標準曲線による液状組成物の活性を測定する方法で実施した。以下、本発明における他のELISA結果も同じ方法で試験して含量を算出した。
【0040】
試験結果は、各組成物と同じ原液濃度(2ng/ml)で添加した対照群(0.02%ヒト血清アルブミン、0.9%塩化ナトリウム)に対する%比率で表現した。表1に表示された含量で賦形液1Lを調剤した後、40U/mlの濃度でボツリヌス毒素を添加し、40U/mlに比べて減少した含量を確認した。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に記載したように、メチルセルロース又はポリソルベート20を添加した場合はボツリヌス毒素A型の活性が高く維持される反面、PEG400、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Sod.CMC)又はポビドンK17(PVPK17)を添加した場合はボツリヌス毒素A型の活性が低下することが確認された。したがって、本発明では、ボツリヌス毒素を安定化させるための両親媒性賦形剤としてメチルセルロース又はポリソルベート20を使った。また、緩衝液、特にクエン酸ナトリウム緩衝液又は塩化ナトリウム緩衝液をともに使うことによって、ボツリヌス毒素A型の活性維持特性、すなわち安定性特性が異に現れることを確認することができた。
【0043】
実施例2:ポリソルベート20と併用可能な他の賦形剤
ポリソルベート20の使用可能な最大濃度を確認し、ポリソルベート20を基本賦形剤に設定して他の賦形剤と併用するとき、ボツリヌス毒素の含量に及ぶ影響を評価しようとした。実施例1の結果によってポリソルベート20を1次賦形剤として選定し、ELISA試験法を用いた各賦形剤別スクリーニングを実施した。
【0044】
選定されたポリソルベート20とこれと共に作用可能であると予想される安定化剤としてアミノ酸の疎水性、pKa、pKb値、等電点などの物理的性質を考慮してL−プロリンとL−アラニンを候補賦形剤として添加した。タンパク質の構造的安定性を維持するためには、ポリソルベート20だけではなくて追加的な安定化剤を必要とするので、ボツリヌス毒素AのpKa6.0を考慮してL−プロリンとL−アラニンの2種のアミノ酸を選定した。
【0045】
動物力価試験は乾燥粉末状のボツリヌス毒素A型を多様な濃度で希釈した標準溶液と本発明による液状組成物をそれぞれ10匹のICR−mice(4週齢、体重:18〜22g)の腹腔に投与し(0.1ml/匹)、3日間死亡及び生存動物の数を確認した後、統計プログラム(Stat Plus(R) 2009 Program(Release 5.9.8、AnalystSoft))を使って活性を算出した。以下、本発明における他の動物力価試験結果も同じ方法で試験して活性を算出した。
【0046】
【表2】
【0047】
40U/mlの濃度で処理されたボツリヌス毒素の量を100%に換算する場合、ELISA方法で分析した結果、ポリソルベート20の含量が1%以上の場合、ボツリヌス毒素の含量が80%以下に減少し、含量低下が現れた。唯一に100%の含量を維持する試験群NBT−25I−L169を用いて動物力価試験を実施した結果、100%含量値に対して活性が143.8%と現れて活性が高評価される現象を示した。また、ポリソルベート20をL−アラニンと併用した場合がL−プロリンと併用した場合より、ELISA試験時、ボツリヌス毒素A型の初期含量値が高く現れるので、本発明ではポリソルベート20とL−アラニンをともに使った。
【0048】
実施例3:ポリソルベート20とL−アラニンの併用が力価に及ぶ影響
実施例2で選定されたポリソルベート20とL−アラニンがボツリヌス毒素の活性(力価)に及ぶ影響を確認するために、ポリソルベート20とL−アラニンをともに添加してボツリヌス毒素A型製剤を下記のように製造し、その活性(力価)に及ぶ影響を確認した。
【0049】
【表3】
【0050】
前記表3を見ると、同じ実験条件で同じ含量のポリソルベート20とL−アラニンを使ったにもかかわらず、バッチ別にボツリヌス毒素A型の活性(力価)が異に現れ、全般的に活性が高評価されていることが現れた。全般的にポリソルベート20の濃度が0.015%の場合までポリソルベート20のボツリヌス毒素活性の高評価現象が持続的に現れ、生産されたバッチごとにその値の流れが一定でなくて不安定であることを示している。このような現象が両親媒性の性質を有するポリソルベート20によって現れる現象であると判断されるので、ポリソルベートを液状組成物にボツリヌス毒素の活性(力価)を一定に維持することができる含量で含ませることが必須であることを確認した。
【0051】
実施例4:ポリソルベート20の含量による力価評価
ポリソルベート20の含量がボツリヌス毒素の力価に及ぶ影響を調べるために、その含量を異にして下記のような組成を有する液状製剤の動物力価スクリーニングを進めた。ポリソルベート20の濃度による活性の高評価発生の有無を確認するために、下記のように多様な濃度のポリソルベート20の動物力価試験を実施した。5mMのクエン酸ナトリウムは減少するポリソルベート20によってタンパク質に及ぶタンパク質の安定性減少現象を補うために使った。
【0052】
【表4】
【0053】
動物力価試験によるボツリヌス毒素の活性評価試験は80〜125%を適合範囲と認めることができる。これは動物力価試験の変動(variation)による現象であるから、一般試験方法に比べてその程度が非常に大きい。前記表4に示したように、ポリソルベート20を極微量、例えば0.00075%(w/v)の微量を使う場合にもボツリヌス毒素の力価が114.4%と安定であることが確認された。
【0054】
実施例5:L−アラニンの濃度による力価及び安定性評価
L−アラニンの含量がボツリヌス毒素の力価に及ぶ影響を調べるために、L−アラニンの濃度を異にして動物力価スクリーニングを進めた。L−アラニンがポリソルベート20の力価上昇作用に及ぶ影響とクエン酸ナトリウム緩衝液との相互作用、安定性に及ぶ影響を確認するために、5mMクエン酸ナトリウム緩衝液、0.001%ポリソルベート20から液状注射剤を製造した。L−アラニンは0.1%、0.02%及び0.05%の濃度で使い、0.1%と0.02%の間に苛酷安定性を比較評価した。
【0055】
苛酷安定性評価は、食薬庁考試内容にしたがって、苛酷条件を40℃、75%RHにするか、ボツリヌス毒素A型の熱安定性及び動物力価試験日程を考慮して力価低下様相を比較評価することができるように、37℃で苛酷安定性評価を実施した。以下、全ての苛酷安定性評価は同じ方法を用いて実施した。
【0056】
【表5】
【0057】
L−アラニンの含量が高いほど苛酷条件での安定性が高くなることを確認することができ、ポリソルベート20の力価上昇作用も一部抑制する様相を示した。これは、L−アラニンがポリソルベート20の臨界ミセル濃度に影響を与えるからであると予想され、また0.1%L−アラニンの組合せで苛酷3週間に力価低下がただ14%に過ぎないことを確認した。前記結果から見ると、L−アラニンの濃度が0.1%の場合に特に安定性が優れた。
【0058】
実施例6:緩衝液によるボツリヌス毒素A型力価及び安定性評価
液状組成物の緩衝液はボツリヌス毒素A型の等電点を考慮して選定した。ボツリヌス毒素の等電点であるpH6.0以下で緩衝力を有し、筋肉投与製品のうち既使用の例が一番多くて安全性が確認されたクエン酸ナトリウム緩衝液と塩化ナトリウムを製剤の1次緩衝液に設定した。本実験全体で、クエン酸ナトリウム緩衝液は、特別な言及がない限り、塩化ナトリウム0.9%(w/v)を等張化剤として含むものを使った。
【0059】
緩衝液の選定は、(i)L−アラニン又はメチルセルロース及び(ii)ポリソルベート20を(iii)2種の緩衝剤、すなわち、クエン酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)及び0.9%(w/v)塩化ナトリウムのいずれか一つと組み合わせてボツリヌス毒素A型製剤を製造した。クロストリジウムボツリヌス毒素A型に添加された賦形剤の種類及び濃度は表6にまとめた。
【0060】
緩衝溶液の調剤後、各濃度に合うようにL−アラニン、メチルセルロース、ポリソルベート20を入れて賦形液を調剤した。その後、40U/mlの濃度になるようにボツリヌス毒素を添加した。
【0061】
【表6】
【0062】
実験結果、前記表6に示したように、0.9%(w/v)塩化ナトリウム緩衝液を使った場合、メチルセルロースとポリソルベート20の組合せは苛酷安定性が非常に低く現れた。一方、L−アラニンとポリソルベート20の組合せは0週に比べて苛酷1週の結果でメチルセルロースとポリソルベート20の組合せより活性低下が小さく現れた。
【0063】
一方、クエン酸ナトリウム緩衝液を使った場合、メチルセルロースとポリソルベート20組合せの安定性が十分に増大し、苛酷1週と2週の間に安定性が維持された。
【0064】
すなわち、クエン酸ナトリウム緩衝液を使う場合、安定性の維持能が向上することを確認することができた。これは、クエン酸ナトリウム緩衝液の機能によってボツリヌス毒素の安定性がpH6.0以下で維持される特徴と、苛酷条件のような環境で現れる酸化などの現象を緩和させることができるからである。
【0065】
【表7】
【0066】
また、2次試験結果で、10mM以上のクエン酸ナトリウム緩衝液が苛酷安定性の維持に一部寄与することが確認された。特に、20mMのクエン酸ナトリウム緩衝液を使った場合に安定性が一番高いことが現れた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によるボツリヌス毒素の液状組成物は再水化過程を経る必要なしに即時使用可能な形態であるので、使用者の便宜性が向上するのみならず、再水化過程での希釈間違いなどによるボツリヌス毒素の活性偏差などを減少させることができる。また、本発明による液状組成物は、低いボツリヌス毒素濃度でもボツリヌス毒素の凝集を効率的に防止して保管安定性が極めて優秀であり、ボツリヌス毒素の容器への吸着を効率的に防止することにより、バッチ(batch)別、又は液状バイアル(vial)別ボツリヌス毒素の活性が一定に維持されることができる利点がある。
【0068】
以上で本発明内容の特定部分を詳細に記述したが、当該分野の通常の知識を有する者にとって、このような具体的技術はただ好適な実施様態であるだけで、これによって本発明の範囲が制限されるものではない点は明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は添付の請求項及びその等価物によって定義されると言える。