特許第6877564号(P6877564)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6877564有機着色微粒子、診断薬キット、及びインビトロ診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877564
(24)【登録日】2021年4月30日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】有機着色微粒子、診断薬キット、及びインビトロ診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20210517BHJP
【FI】
   G01N33/543 541Z
   G01N33/543 525W
   G01N33/543 525U
   G01N33/543 521
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-543641(P2019-543641)
(86)(22)【出願日】2018年9月18日
(86)【国際出願番号】JP2018034499
(87)【国際公開番号】WO2019059182
(87)【国際公開日】20190328
【審査請求日】2019年12月17日
(31)【優先権主張番号】特願2017-183472(P2017-183472)
(32)【優先日】2017年9月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】堀井 厚志
(72)【発明者】
【氏名】塩見 祥之
(72)【発明者】
【氏名】美村 信之
(72)【発明者】
【氏名】村岡 謙
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−138271(JP,A)
【文献】 特開平05−087812(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/117054(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/062157(WO,A1)
【文献】 特開2009−120901(JP,A)
【文献】 特開2004−184295(JP,A)
【文献】 特開2009−133739(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/186267(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が100〜650nmであり、発色強度が1.0〜10.0であり、粒子径400nm〜12000nmの範囲で、総個数100000個の粒子を検知したとき、粒子径700nm以上の粗大粒子の存在率が5%以下であり、かつ、長径(L)/短径(D)で表される真球度が1.0〜2.5であることを特徴とする、平均重合度(DP)50〜400の着色セルロース微粒子。
【請求項2】
前記着色セルロース微粒子の重量の10〜90重量%が着色成分である、請求項1に記載の着色セルロース微粒子。
【請求項3】
前記着色成分が反応性染料である、請求項2に記載の着色セルロース微粒子。
【請求項4】
前記反応性染料が、ピリミジン構造又はトリアジン構造を有する、請求項3に記載の着色セルロース微粒子。
【請求項5】
前記着色セルロース微粒子の親水度は、1.0〜30.0である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の着色セルロース微粒子。
【請求項6】
物理吸着によりリガンドが結合されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の着色セルロース微粒子。
【請求項7】
前記リガンドがカゼインによりコーティングされている、請求項6に記載の着色セルロース微粒子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の着色セルロース微粒子を含む診断薬キット。
【請求項9】
イムノクロマトグラフキットである、請求項8に記載の診断薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機高分子由来の有機着色微粒子、並びにそれを用いた診断薬キット及びインビトロ診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウィルス、細菌等の病原体感染の有無、妊娠の有無、癌マーカーの有無、食品中の特定原材料や残留農薬などの有害物質の有無などの様々な検査を短時間で行う簡易検査試薬、診断薬、診断キットが開発されている。これらはそれぞれの検査対象物質と、検査対象物質に特異的に反応する物質による特異的反応が利用される。特に、抗原と抗体による抗原抗体反応を用いる免疫学的測定法は、イムノクロマト測定法、比濁免疫測定法、酵素免疫測定法、化学発光測定法、放射免疫測定法、表面プラズモン共鳴を用いる測定法など、多くの測定法が開発されている。そしてこれらの測定法は病院、診療所などでの病気などの検査や、食品会社などでの食物検査などに利用されている。中でもイムノクロマト測定法は、特別な設備、機器、知識を必要とせず操作も簡便で安価であり、迅速な診断が可能であるという特徴から非常に多くの検査が実施されている。近年では妊娠検査薬などは一般薬局で市販され一般消費者でも測定できるようになり、更には検査対象物質の有無を検査する定性検査だけでなく量を測定する定量検査などもできるようになってきている。
【0003】
イムノクロマト測定法の測定原理としては、サンドイッチ法と呼ばれる方法や競合法と呼ばれる方法がある。また、測定形式としては、フロースルー型やラテラルフロー型と呼ばれる方法がある。検体中の検査対象物質としては様々な物質を検出することができるが、典型的な例としてはサンドイッチ法により抗原を検出する測定があり、以下のような操作順次実行される。ただし、この操作に限定されるものではない。
(1)検査対象物質である抗原に特異的に結合する抗体をニトロセルロース膜などのクロマトグラフ媒体の所定の部位に固定化し、クロマトグラフ媒体の任意の位置にテストライン(以下、「TL」ともいう。)と呼ばれる反応部位を形成する。
(2)酵素、発色粒子、蛍光発色粒子、磁性粒子などの標識物質に、検査対象物質と特異的に結合するリガンド(例えば、抗体)を担持させた検出試薬を調製し、コンジュゲートパッドなどにかかる検出試薬を塗布乾燥し、検出試薬含有部を形成させ、前記クロマトグラフ媒体と組み合わせてイムノクロマト診断キットを形成する。ここでいうリガンドとは、検査対象物質と特異的に結合するものであり、抗体や抗原、有機分子、タンパク質が例として挙げられる。
(3)抗原を含む検体そのもの、又はそれを任意の液体で希釈した溶液を、前記イムノクロマト診断キットの所定の位置に、例えば、サンプルパッドに滴下し、抗原と検出試薬をクロマトグラフ媒体上に展開させる。
これらの操作によって、反応部位においてクロマトグラフ媒体上に固定化された抗体に、抗原を介して標識物質が捕捉され、標識物質の信号を検出することでイムノクロマト診断キットによる診断を行う。一般的な診断は抗原の有無のみを検査する定性診断だが、近年ではその信号の強度を目視あるいは機械で検出することで定量診断を行うこともできる。
【0004】
ここで、標識物質に抗体を担持させる方法として、大きく二つある。一つは、化学結合により担持させる方法、もう一つは、物理的に標識物質表面に吸着させて担持させる方法である。化学結合により担持させる方法は、効果的に抗体を配向させることができる可能性があることが知られている。ただし、一般論として、抗体によっては、化学結合し難いものがあること、また取扱い操作の簡便性から、幅広い検査対象に対応するためには、物理的に抗体を吸着できる粒子の方がよりニーズがある。その中で、物理的に抗体を吸着させることができる粒子として、以下の特許文献1には、金コロイド、以下の特許文献2では着色ラテックスが報告されている。
【0005】
イムノクロマト測定法で求められているニーズの一つとして、分析感度の向上がある。これは、より少ない検査対象物質でも検出できることを意味する。分析感度が向上することで、迅速診断が可能になるため、分析感度は重要な要因となる。本願発明者らは、以下の特許文献3において、物理的に抗体を吸着可能な発色粒子として色が濃く粒子径の大きいセルロース粒子を用いることで分析感度の向上が可能なことを報告している。
【0006】
他方、別のニーズとして、イムノクロマト展開後のニトロセルロース膜のバックグラウンドの改善がある。ここで「バックグラウンド」とは、発色粒子が、ニトロセルロース膜の細孔に詰まったり、非特異吸着したりすることで、ニトロセルロース膜が着色してしまい発生する現象である。バックグラウンドが悪いと、ニトロセルロース膜とTLとのコントラストが悪くなり、TLの発色したラインが見えづらくなってしまい、医療現場で判定しにくくなる。更に、バックグラウンドが悪いと、陰性のTL(即ち、発色無し)の判断が困難になってしまう。これら現象は、誤診を引き起こしてしまう可能性がある。特許文献3には、このようなバックグラウンドの問題については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4514233号公報
【特許文献2】特開2004−184295号公報
【特許文献3】国際公開第2011/062157号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかる従来技術に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、良好なバックグラウンド及び検査結果の再現性を有し、十分な検出感度を持つイムノクロマト診断キット用の有機着色微粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、有機着色粒子の真球度及び粒子径700nm以上の粗大粒子量を緻密にコントロールした有機着色微粒子であれば、クロマトグラム媒体であるニトロセルロース膜に目詰まりせずに展開することができ、その結果、かかる有機着色微粒子を発色粒子として使用したイムノクロマトは、検出感度が高く、検査結果の再現性に優れることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]平均粒子径が100〜650nmであり、発色強度が1.0〜10.0であり、粒子径400nm〜12000nmの範囲で、総個数100000個の粒子を検知したとき、粒子径700nm以上の粗大粒子の存在率が5%以下であり、かつ、長径(L)/短径(D)で表される真球度が1.0〜2.5であることを特徴とする、平均重合度(DP)50〜400の着色セルロース微粒子。
[2]前記着色セルロース微粒子の重量の10〜90重量%が着色成分である、前記[1]に記載の着色セルロース微粒子。
[3]前記着色成分が反応性染料である、前記[2]に記載の着色セルロース微粒子。
[4]前記反応性染料が、ピリミジン構造又はトリアジン構造を有する、前記[3]に記載の着色セルロース微粒子。
[5]前記着色セルロース微粒子の親水度は、1.0〜30.0である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の着色セルロース微粒子。
[6]物理吸着によりリガンドが結合されている、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の着色セルロース微粒子。
[7]前記リガンドがカゼインによりコーティングされている、前記[6]に記載の着色セルロース微粒子。
[8]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の着色セルロース微粒子を含む診断薬キット。
[9]イムノクロマトグラフキットである、前記[8]に記載の診断薬キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機着色微粒子を発色粒子として使用したイムノクロマトは、良好なバックグラウンド及び検査結果の再現性を有し、十分な検出感度を持つ。
本発明は、有機着色微粒子の真球度及び粒子径700nm以上の粗大粒子を緻密にコントロールすることで、高い検出感度を維持しつつ、バックグランドが良好で、検査結果の再現性に優れることを見出し、これに基づいて完成された発明である。
特許文献3には、粒子径が大きく、色が濃い有機着色微粒子をイムノクロマトの発色粒子として使用することで、検出感度が向上することが開示されている。しかしながら、かかる微粒子は、真球度が低く、球形が歪であるために、ニトロセルロース膜に展開するとき、細孔中でひっかかってしまうため、バックグラウンド悪化に繋がるおそれがある。
他方、本願発明者らは、イムノクロマト用の発色粒子として展開する際に、粒子径が700nm以上の粗大粒子がバックグラウンド悪化の主原因であることを見出し粒子径が700nm以上の粒子を粗大粒子とした。特許文献3では、700nm以上の粗大粒子について何ら言及されておらず、当該文献中に示されているパラメータ(例えば、CV値)だけを管理していると、バックグランドが悪くなってしまう。バックグランドを改善する方法としては、展開液に界面活性剤、アミノ酸等の添加剤を加える手法もあるが、これらの手法では感度も低下させてしまうおそれがある。
本発明者らは、粒子の形状がより真球に近くなり、かつ、ニトロセルロース膜の細孔に詰まり易い粗大な粒子を減じることができれば、ニトロセルロース膜に着色せず展開する、換言すればバックグランドが良好になるのではないかと考えた。かかる仮説の下、実験を検討した結果、重合度を精密にコントロールして、ピリミジン構造又はトリアジン構造を有する反応性染料を用いて染色した粒子は、粒子の形状がより真球に近くなり、かつ、粒子径700nm以上の粗大粒子を減少させることができることを発見した。このような有機着色微粒子をイムノクロマトの発色粒子として使用すると、これまでの高い検出感度を維持しつつ、良好なバックグラウンドが得られる結果、TLとのコントラストも良くなり、発色の有無の判断もし易くなり、更には再現性も向上する。また、粒子表面の親疎水性を精密にコントロールすることで、粗大粒子が減じた分の検出感度が向上し、検査の再現性も大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態としてのラテラルフロー式のイムノクロマト診断キットの断面図である。
図2】親水度の求め方の説明図である。
図3】実施例1で得られた着色セルロース微粒子の電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る有機着色微粒子は、平均粒子径が100〜650nmであり、発色強度が1.0〜10.0であり、粒子径400nm〜12000nmの範囲で総個数100000個の粒子を検知したとき、粒子径700nm以上の粗大粒子の存在率が5%以下であり、かつ、長径(L)/短径(D)で表される真球度が1.0〜2.5であることを特徴とする。
本実施形態における「有機着色粒子」とは、水、緩衝液などに不溶性であり、色素、染料等が担持された粒子状物質を指す。粒子を構成する素材は特に限定されないが、このような有機着色微粒子としては、例えば、ポリスチレンラテックス等のスチレン系ラテックスやアクリル酸系ラテックス等を着色した着色ラテックス粒子、ケイ素原子及び酸素原子からなる3次元構造体からなるシリカを着色した着色シリカ粒子、セルロースを着色した着色セルロース粒子などの着色成分をそのまま粒子化した発色粒子などが挙げられる。また、前記有機着色微粒子は蛍光発光性粒子でもかまわない。粒子径の調整、色の濃さの調整、色の種類の調整、粒子表面状態の調整などの粒子の特徴の調整のしやすさから、着色セルロース粒子が好ましい。セルロースは大量の水酸基を有するため、親水性が高く分散安定性に優れ、着色成分を大量に含有することができる。
【0014】
「有機着色粒子の製造方法」は特に限定されない。有機粒子をまず成形し、色素、染料などの着色成分を担持させる方法、粒子を成形し、金属コロイドや顔料などのより小さい発色粒子を担持させる方法、粒子の成形時に色素、染料、顔料、金属コロイドなどの着色成分も一緒に加えて成形する方法などが挙げられる。中でも粒子径の調整、色の濃さの調整、色の種類の調整、粒子表面状態の調整などの粒子の特徴の調整のしやすさから、粒子をまず成形し、色素、染料などの着色成分を担持させる方法が好ましい。また、担持させる着色成分としては、担持の容易さから染料が好ましい。
【0015】
着色成分として染料を用いる場合、反応性染料が好ましい。直接染料、含金染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料、硫化染料、植物染料、ナフトール染料、蛍光染料などの染料を用いた場合では、高い発色強度が得られず、強く染色できたとしても脱色等のおそれがある。ただし、反応性染料を使用する場合、直接染料、含金染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料、硫化染料、植物染料、ナフトール染料、蛍光染料等の染料を組み合わせても構わない。
反応性染料は、ピリミジン構造又はトリアジン構造を有することが好ましい。ここで、ピリミジン構造又はトリアジン構造が、粒子を疎水化し、後述する親水度に大きく影響することがわかった。反応性染料としては、ピリミジン構造又はトリアジン構造を持っているものであれば特に制限はなく、Sumifixシリーズ、Sumifix HFシリーズ、Sumifix Supraシリーズ(以上、登録商標、住友化学社製)、Levafixシリーズ(登録商標、ダイスター社製)等が好適に使用できる。これらの反応性染料は、高濃度の水酸化ナトリウムを用いた場合でも、好適に染色することができる。ピリミジン構造又はトリアジン構造を反応部位としていない反応性染料では、高濃度の水酸化ナトリウムを使用すると、セルロースの水酸基と反応する前に、反応部位が失活してしまい、所望の発色強度や親水度に達しない。本実施形態では、高濃度の水酸化ナトリウムと、ピリミジン構造又はトリアジン構造を反応部位とする反応性染料とを用いて有機粒子をうぃ染色することで、粒子全体が均一に染色され、粒子径が均一になり、かつ、後述の親水度が達成される。
【0016】
セルロース粒子をまず成形しその後着色成分を担持させる場合、「セルロース粒子の成形方法」は特に限定されない。天然のセルロースをボールミルや高圧ホモジナイザーで物理的に微細化する方法、酸やアルカリなどで化学的に処理し微細化する方法、セルロースをその良溶媒に一度溶解させ粒子状に成形する方法などが挙げられる。また誘導体化されたセルロースを溶解、粒子状に成形し、誘導体化された置換基を水酸基に戻してセルロース粒子を調製してもよい。更にそれらの成形方法を組み合わせてもよい。また「セルロースの種類」も特に限定されるものではなく、再生セルロース、精製セルロース、天然セルロース、前記が誘導体化されたセルロース、誘導体化された置換基を水酸基に戻したセルロースなどを用いることができる。中でも粒子径の調整、粒子形状の調整などの点から良溶媒に一度溶解させ粒子状に成形する方法が好ましく、セルロースの種類としては再生セルロースが好ましい。
【0017】
セルロースをその良溶媒に一度溶解させ粒子状に成形する場合、「セルロースを溶解させる良溶媒の種類」も特に限定されるものではなく、銅アンモニア溶液、ビスコース溶液、N−メチルモルホリン、各種のイオン性液体などセルロースを溶解することのできる様々な良溶媒を用いることができる。中でも粒子径の調整、粒子形状の調整などの点から銅アンモニア溶液が好ましい。また、溶解させたセルロースを粒子に成形する方法も特に限定されるものではなく、本実施形態では相分離による方法を選択した。
【0018】
有機着色微粒子の「平均粒子径」とは、動的光散乱法で測定した場合の体積平均メジアン径を指し、体積平均メジアン径が100〜650nmの範囲にある。平均粒子径がこの範囲にあると、粒子の表面積が大きいためにイムノクロマト診断キットとして用いる場合にTLがより濃くなる、すなわち分析感度が高くなる。平均粒子径が小さすぎると表面積が小さくなり分析感度が下がったり、粒子の凝集が起こったりする場合がある。それゆえ、平均粒子径は150nm以上が好ましく、より好ましくは200nm以上である。粒子径が大きすぎるとニトロセルロースなどのクロマトグラフ媒体の孔に詰まることで本来検査後には白くなるはずの部分が着色し検査結果の判断に悪影響を及ぼしたり、検出限界が悪くなったりする場合がある。それゆえ、平均粒子径は600nm以下が好ましく、より好ましくは550nm以下である。なお、ここで述べている平均粒子径はあくまで平均値であり、粒子径分布の一部が上記範囲から外れていても構わない。
粒子径の評価に体積平均を用いる理由として、イムノクロマト診断キットにおいてあまりに大きな粒子はニトロセルロースなどのクロマトグラフ媒体に詰まってしまうが、体積平均が大きい粒子が僅かに存在するだけでも、その影響が反映されるためである。粒子径の評価方法としては体積平均以外にも、数平均、面積平均など様々なものがあり、評価方法が異なると当然に粒子径の値も異なることになる。
【0019】
本実施形態の有機着色微粒子の平均粒子径のCV値は特に規定しない。ただし、診断薬として用いる場合は30%以下が好ましい。平均粒子径のCV値が30%を超えると、診断薬としての診断の正確性に悪影響が出るため、より好ましくは25%以下であり、更に好ましくは20%以下である。一般に平均粒子径のCV値が小さければ診断の正確性は向上するが、CV値が小さくなりすぎると製造の手間やコストが大きくなってしまうため、コストと正確性のバランスを考えると1%以上が好ましい。
【0020】
「発色強度」とは、粒子の色の濃さを定義した値である。発色強度の測定方法は以下のとおりである。
濃度既知の有機着色微粒子の純水分散液を調製し、光路長10mmとして、400〜800nmの範囲で積分球を用いた可視吸光度測定を行い、得られた吸光度曲線のピーク値(ABS)を測定し、得られた値を有機着色微粒子の重量パーセントで割り返し、発色粒子0.01重量%辺りの吸光度に換算した値を求め、これを発色強度と定義する。例えば、調製した有機着色微粒子の濃度が0.0045%であり、吸光度曲線のピーク値が1.0であった場合、その発色強度は(1×0.01)÷0.0045=2.2となる。
粒子の色の濃さの測定に積分球を用いた可視吸光度測定を行う理由としては、液体に分散した状態の粒子の色の濃さを最も正確に測定できるためである。粒子の色の濃さを測る方法としては、粒子を乾燥させて得られた固体を測色計などで測定する方法もあるが、このような方法では粒子の色の濃さを正確に測定できない。例えば、金属コロイドなどは粒子径に応じて色調や最大波長が異なり、乾燥した凝集状態は液体に分散した状態の色の濃さを正確に反映できない。また、液体中に同じ粒子濃度で分散させても凝集が発生すると色の濃さは薄くなる。更に、可視吸光度測定を行う際に積分球を用いる理由は、粒子自体の散乱による影響を除去するためである。通常の可視吸光度測定は透過光を測定する方法であり、入射光に対し着色成分による吸収だけでなく粒子自体の散乱による影響も反映されてしまう。例えば、イムノクロマトに一般的に使われる金コロイドは、粒子径が40nm〜60nm、時には100nmのものが用いられる場合もあるがいずれも粒子径が小さいため散乱光の影響はほとんどない。それに対しポリスチレンラテックス粒子は粒子径が大きく明らかに散乱光の影響が大きい。上記のような理由から、粒子径や粒子素材が違う場合に粒子自体の色の濃さをより正確に反映するために、本実施形態では、積分球を用いた可視吸光度測定を採用する。
【0021】
本実施形態の有機着色微粒子の「発色強度」は1.0〜10.0である。この値が大きいほど粒子の色の濃さが濃く、イムノクロマト診断キットとして用いる場合に分析感度が高い。もちろん値が大きければ大きいほどよく、色の濃い染料を利用する、染色回数を増やす、スペーサーとして何らかの化合物を介して連結させる、粒子の非晶領域を増やし染料が入り込みやすくする、粒子を多孔性にして染料が入り込みやすくする、などの方法を採用することができる。しかしながら、経済性を考慮すると上限は7.0以下が好ましく、より好ましくは5.0以下である。また、値が小さいほどイムノクロマト診断キットとして用いた場合に分析感度が低下するため、下限は1.5以上が好ましく、より好ましくは2.0以上である。
【0022】
本実施形態の有機着色微粒子の「真球度」とは、粒子の長径(L)/短径(D)で表される値であり、長径(L)と短径(D)の長さが近い形状は球に近い構造体である。本実施形態の有機着色微粒子の「真球度」(すなわち、L÷Dで表されるL/D比)は、1.0〜2.5である。真球度がこの範囲外であると、発色粒子の形がいびつなため、ニトロセルロース膜の細孔を通過する際、粒子がひっかかってしまうために、バックグラウンドが悪化する。その結果、TLとのコントラストが悪化してしまうため、誤診に繋がるおそれがある。また当然ながら、検査の再現性も悪くなる。真球度は、より好ましくは1.0〜2.2、更に好ましくは1.0〜2.0、最も好ましくは1.0〜1.5である。測定方法としては粒子の電子顕微鏡画像を撮影し、100個の粒子の長径(L)と短径(D)を測定し、その100個の平均値を算出する。
【0023】
本実施形態の有機着色微粒子は、粒子径400nm〜12000nmの範囲で総個数100000個の粒子を検知したとき、粒子径700nm以上の粗大粒子の存在率が5%以下である。
ここで、「粗大粒子」とは、一定の分布をもつ粒子のうち、粒子径700nm以上の粒子を指す。本願発明者らは、イムノクロマト診断キットにおける発色粒子を鋭意検討した結果、この粒子径700nm以上の粗大粒子が、ニトロセルロース膜のバックグランドを悪化させる要因の一つであることを突き止めた。理由としては単純に、粒子径700nm以上の粒子がニトロセルロース膜の細孔に詰まってしまうため、バックグラウンドを悪化させる。この粗大粒子の存在率が5%を超えると、著しくバックグランドを悪化させてしまい、その結果、TLとのコントラストが悪化してしまうため、誤診に繋がるおそれがある。イムノクロマト診断キットに展開させるという観点から、粗大粒子の存在率は、好ましくは4.5%以下であり、より好ましくは4.0%以下である。
【0024】
ここで、粗大粒子の割合と、平均粒子径の%CVとは一見関連しているようにみえるが、リンクしないことが判明した。特許文献3では、%CVについて言及しているが、これは動的光散乱式により粒子のブラウン運動の様子を散乱光強度の揺らぎとして観測し、算出された値である。言い換えれば、粒径分布の平均値を計測するものである。一方、今回の粗大粒子の割合はコールターカウンター式で測定している。これは、粒子が細孔を通過する際に生じる電極間の電気抵抗の変化を測定している、即ちコールターカウンター式では、実際の粒子のサイズを直接的に算出できる。本願発明者らは、このコールターカウンター式により評価を行ったところ、一見分布が狭い(%CVが小さい)粒子でも、粒子によっては粗大粒子の割合が5%を超えるものがあることを発見した。特許文献3で使用している動的光散乱式の装置では、分布の偏りについて正確に測定できなかったため、本実施形態では、コールターカウンター式による装置を用いて、この粗大粒子を測定した。
【0025】
「有機着色微粒子の着色成分の割合」とは、有機着色微粒子の全重量における着色成分の割合を指す。例えば、有機着色微粒子1.0gが0.2gのセルロースと0.8gの着色成分から構成される場合、その着色成分の割合は80重量%である。有機着色微粒子の着色成分の割合は10〜90重量%が好ましい。この範囲にあるとイムノクロマト診断キットとして用いる場合に分析感度が高い。また、発色粒子としてセルロースを染料で染色した粒子を用いる場合、セルロースにこの範囲の染料を保持させることでセルロースに適度な疎水性を付与することができ、抗体などの被検出物に特異的に結合する物質を吸着により保持することができる。もちろん吸着による保持だけでなく、着色セルロース粒子にカルボキシル基やアミノ基などを導入し、共有結合により被検出物に特異的に結合する物質を保持することも可能である。着色成分の割合が少ない場合は、十分な発色強度を有することができず、イムノクロマト診断キットとして用いる場合に分析感度が低くなる。また、有機着色微粒子としてセルロースを染料で染色した粒子を用いる場合、着色成分の割合を増やすことで被検出物に特異的に結合する物質も増える場合もある。この観点から、有機着色微粒子の着色成分の割合の下限は20重量%以上が好ましく、より好ましくは30重量%以上である。着色成分の割合が90重量%を超えても特に問題はないが、経済的な面から考えると85重量%以下が好ましく、より好ましくは80重量%以下である。
「有機着色微粒子の着色成分の割合の算出方法」としては、着色前後の重量変化から算出することができる。また、重量変化からの算出が困難な場合は、着色成分を粒子から分離する操作を行い着色成分又は粒子を単離し算出することができる。例えば、セルロース粒子を反応性染料で染色した場合、酸やアルカリなどでセルロースと染料の共有結合を切断し、遠心分離によりセルロース粒子を回収することで算出することができる。また、セルラーゼを用いセルロースだけを分解することで算出することもできる。
「有機着色微粒子のセルロース由来成分の算出方法」は、前記の有機着色微粒子の着色成分の割合から計算できる。すなわち、「有機着色微粒子のセルロース由来成分の割合」=100%−(有機着色微粒子の着色成分の割合)の計算式によって計算できる。有機着色微粒子のセルロース由来成分の割合は90〜10重量%が好ましい。この範囲にあると、セルロース粒子の分散安定性が維持できる。また、前記着色成分の割合で記載した理由により、有機着色微粒子のセルロース由来成分の下限としては15重量%以上がより好ましく、特に好ましくは20重量%以上であり、上限は80重量%以下がより好ましく、特に好ましくは70重量%以下である。
【0026】
本実施形態の有機着色微粒子の疎水性親水性の程度を表す指標として、本実施形態では「親水度」を測定した。本明細書中、「親水度」とは、微粒子表面の濡れやすさ、すなわち水との親和性を表す指標である。
本実施形態の有機着色微粒子の親水度は1.0〜30.0の範囲であることが好ましい。親水度がこの範囲にあると、粒子表面が疎水的なために、有機着色微粒子表面へのタンパク質、抗体等の吸着量が増加する。セルロースは親水性であり、タンパク質や抗体は一般的に吸着しにくいため、タンパク質や抗体を吸着させるためには、粒子の表面を疎水化することが必要となる。逆に言えば、疎水化の程度をこの指標でコントロールすることで、吸着量についても同様にコントロールすることができる。つまり、イムノクロマト診断キットにおいて、再現性に優れた有機着色微粒子を作製することができる。特許文献3では、この指標について何ら管理されておらず、再現性に欠けるデータを示すことがあった。親水度が30.0以上であると微粒子表面は親水的となるため、微粒子表面にタンパク質や抗体等の吸着が阻害されてしまい、感度が低下したり、再現性に乏しい結果になってしまったりする。また、1.0未満であると、疎水性が強くなりすぎてしまい、ニトロセルロース膜に吸着し、バックグランドを悪化させてしまう。以上の点から、親水度の上限は、より好ましくは27.0が好ましく、さらにより好ましくは25.0である。他方また、親水度の下限はより好ましくは1.5が好ましく、さらにより好ましくは2.0である。
【0027】
微粒子の着色に使用した反応性染料がF元素を含有する場合、本実施形態の有機着色微粒子表面には、F元素が残存する。本実施形態の有機着色微粒子においては、X線光電分光法(XPS)による測定により算出された粒子表面のF元素の相対元素濃度は0.1atomic%以上であることが好ましい。F元素の相対元素濃度がこの範囲にあると、有機着色微粒子表面のタンパク質や抗体の吸着した際、驚くべきことに感度及び再現性が向上する。本実施形態の有機着色微粒子表面のF元素の相対元素濃度の下限は、好ましくは0.2atomic%以上、更に好ましくは0.3atomic%以上である。
【0028】
本実施形態の有機着色微粒子を要素として含む「イムノクロマト診断キット」とは、抗原抗体反応を利用して様々な検体中の検査対象物質の有無を簡便に検出するものである。当該診断キットの種類としては、ラテラルフロー式やフロースルー式がある。発色粒子(有機着色微粒子)やサンプルパッドを用いるものであれば特に限定されないが、好ましくはラテラルフロー式である。また、ラテラルフロー式の中でも、ディップスティックタイプとカセットタイプがあるが、それらのタイプは特に限定されない。診断キットの構成は、特に限定されるものではなく、当該分野で一般的に用いられる構成であればいずれでも構わない。抗体感作発色粒子を含むコンジュゲートパッド(b)とサンプルパッド(a)以外の部材の種類は、当該分野で用いられるものであれば特に限定されず、例えば、図1に示す(e)クロマトグラフ媒体、(f)吸収パッド、及び(g)台紙が挙げられる。また、必要に応じそれら部材を一部省いていてもかまわない。構造の例としては特許文献1の図1に記載されているような構造が挙げられる。本明細書に添付する図1はあくまで例であり、本実施形態を何ら限定するものではない。
図1中(a)で示すように、「サンプルパッド」とは、イムノクロマトにおいて測定対象である検体を最初に受け取る部分である。一般的なサンプルパッドとしては、セルロース濾紙、紙、ガラス繊維、グラスファイバー、アクリル繊維、ナイロン繊維、各種織物、などが挙げられる。
【0029】
サンプルパッドの親水/撥水性、吸水倍率のコントロールのため、上記物性に悪影響を及ぼさず、抗原抗体反応や抗体の安定性に影響しない範囲であれば、再生セルロース系繊維からなる不織布に各種薬剤や紛体を含有させたり、セルロースの一部を誘導体化したりしてもよい。含浸させる薬剤の一例としては、界面活性剤、タンパク質、抗体、樹脂、水溶性高分子、抗菌剤、防腐剤、酸化防止剤、などが挙げられる。また、セルロースの誘導体化の一例としては、カルボキシメチル化、カルボキシエチル化、1級アミノ化、2級アミノ化、3級アミノ化、4級アミノ化、オキシ化、などが挙げられる。
サンプルパッドは、必要に応じて前処理を行っても構わない。例えば、緩衝液、界面活性剤、タンパク、検体試料中の夾雑物をトラップする試薬、防腐剤、抗菌剤、酸化防止剤、吸湿剤、などを予め含ませるなどの処理を行っても構わない。また、サンプルパッドの形状は特に限定されないが、例えば、サンプルパッドのサイズとして、長さ(液が流れる長さ)は、検体液からの結びつき性や診断時間を考慮すると10〜25mm程度であることが好ましく、幅(液の流れに対して垂直)は、コンジュゲートパッドの巾より大きければ問題はない。幅が狭すぎるとサンプルパッドの端部より検査液が回り込んでしまう可能性がある。
【0030】
「コンジュゲートパッド」とは、発色粒子(有機着色微粒子)を含むコンジュゲートを含有するパッドであり、例えば、検査対象物質に結合する抗体と結合した発色粒子を含有するものである。コンジュゲートパッドの素材としては特に限定されないが、一般的なガラス繊維又は樹脂繊維等を用いることができる。樹脂繊維としては、ポリエチレン等のポリオレフィン系や、ポリエステル系、ポリアミド系、アクリル系などの樹脂繊維、及びこれらの樹脂繊維の複合繊維を好適に使用することができるが、これらに限定されるものではない。作業環境から考えると樹脂繊維製が好ましい。樹脂繊維製の中でも、発色粒子のリリースのしやすさの観点から考えると、ある程度疎水性の素材であることがより好ましい。疎水性が高すぎる場合は界面活性剤などで前処理して用いても構わない。ポリエチレン繊維製のコンジュゲートパッドを界面活性剤で前処理したものがより好ましい。
【0031】
本実施形態のイムノクロマト診断キットを使用する「診断方法」とは、イムノクロマト診断キットを用いて行われる様々な診断を指す。診断対象は特に限定されるものではなく、人用、動物用、食品用、植物用、その他環境検査など様々な診断対象の検査に用いることができる。一般的な診断の手順では、検査対象から検体試料を採取し、必要であればそれを抽出やろ過などの前処理を行い、サンプルパッドに滴下し、検査開始から所定時間待ち、検査対象物質の有無によって異なる発色より診断結果を判断する。もちろんこの手順に限定されず、同じような手順、原理の診断にも用いることができる。好ましいのは、検体試料を予めろ過しておくことで余分な異物や夾雑物を除去でき、それによりより一層の診断の迅速化や、診断精度の向上が期待できる。
【0032】
本実施形態においては、検体を直接サンプルパッドに滴下する方法以外に、予め所定の組成に調整しておいた検体処理液で検体を任意の倍率に希釈処理したものを滴下してもかまわない。検体処理液を使う目的としては、検体中の抗原等と反応しやすくするための成分、検体中の夾雑物を分解する成分、検体中の夾雑物をトラップする成分、非特異的な反応を抑える成分、発色粒子を流れやすくする成分、発色粒子を適度に凝集させテストラインに捕捉された際の視認性を向上させる成分、などの添加が挙げられる。一例としては、緩衝液、界面活性剤、タンパク質、無機塩、水溶性高分子、還元剤、キレート剤、等を添加してもよい。特に本願発明のような発色粒子を用いる場合、非イオン性界面活性剤や、各種水溶性アミノ酸、タンパク質、無機塩、水溶性高分子、などの添加が好ましい。具体的な成分の種類や添加量は検査対象や用いる抗体の種類によっても異なるが、非イオン性界面活性剤の一例としては、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル、ポリ(オキシエチレン)オクチルフェニルエーテル、ポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテルなどが挙げられる。水溶性アミノ酸の一例としては、アスパラギン、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、イソロイシン、グリシン、グルタミン、グルタミン酸、システイン、セリン、チロシン、トリプトファン、トレオニン、バリン、ヒスチジン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、リシン、ロイシンなどが挙げられる。タンパク質の一例としては、カゼイン、スキムミルク、カゼイン分解物、牛血清アルブミン、フィッシュゼラチン、などが挙げられる。無機塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、などのアルカリ金属イオンを生じる化合物が好ましい。水溶性高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、その他セルロース誘導体などが好ましい。またこれらの成分は検体処理液に加えておくだけでなく、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、クロマトグラフ媒体(ニトロセルロース膜)などに予め加えておいても構わない。
【0033】
イムノクロマト診断キットで診断できる対象は特に限定されるものではないが、具体例としては以下のものが挙げられる:癌マーカー、ホルモン、感染症、自己免疫、血漿蛋白、TDM、凝固・線溶、アミノ酸、ペプチド、蛋白、遺伝子、細胞、などが挙げられる。より具体的には、CEA、AFP、フェリチリン、β2マイクロ、PSA、CA19−9、CA125、BFP、エラスターゼ1、ペプシノーゲン1・2、便潜血、尿中β2マイクロ、PIVKA−2、尿中BTA、インスリン、E3、HCG、HPL、LH、HCV抗原、HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体、HBe抗原、HBe抗体、HTLV−1抗体、HIV抗体、HIV抗原、HIVウィルス遺伝子、トキソプラズマ抗体、梅毒、ASO、A型インフルエンザ抗原、A型インフルエンザ抗体、B型インフルエンザ抗原、B型インフルエンザ抗体、ロタ抗原、アデノウィルス抗原、ロタ・アデノウィルス抗原、A群レンサ球菌、B群レンサ球菌、カンジダ抗原、CD菌、クリプトロッカス抗原、コレラ菌、髄膜炎菌抗原、顆粒菌エラスターゼ、ヘリコバクターピロリ抗体、O157抗体、O157抗原、レプトスピラ抗体、アスペルギルス抗原、MRSA、RF、総IgE、LEテスト、CRP、IgG,A,M、IgD、トランスフェリン、尿中アルブミン、尿中トランスフェリン、ミオグロビン、C3・C4、SAA、LP(a)、α1−AC、α1−M、ハプトグロビン、マイクロトランスフェリン、APRスコア、FDP、Dダイマー、プラスミノーゲン、AT3、α2PI、PIC、PAI−1、プロテインC、凝固第X3因子、IV型コラーゲン、ヒアルロン酸、GHbA1c、その他の各種抗原、各種抗体、各種ウィルス、各種菌、各種アミノ酸、各種ペプチド、各種蛋白質、各種DNA、各種細胞、各種アレルゲン、各種残留農薬、各種有害物。
【0034】
発色粒子(有機着色微粒子)は、抗体などの被検出物に特異的に結合する物質を担持する必要があるが、その担持方法は特に限定されない。例えば、物理的な吸着による担持、共有結合による担持、それらの組み合わせによる担持などが挙げられる。担持する物質の種類や量も特に限定されない。担持する物質の種類としては抗体が最も一般的であり好ましい。また、担持する方法としては、容易さの観点からは物理的な吸着による担持が、安定性や性能などの観点からは共有結合による担持が好ましい。
【0035】
イムノクロマト診断キットに用いられるクロマトグラフ媒体は特に限定されるものではなく、一般的に用いられる様々なクロマトグラフ媒体を用いることができる。より具体的にはニトロセルロース膜が挙げられる。市販品のニトロセルロース膜はフローレートと呼ばれる一定距離を移動するために必要な時間によって分類されるが、このフローレートが早い膜ほど孔径が大きい。本発明では孔径が大きい膜のほうが検体の移動が速く発色粒子も詰まりにくいために好ましい。具体的なフローレートとしては180sec/4cmより速い膜が好ましい。
【0036】
以下、有機着色微粒子としての、セルロース粒子の作製方法、セルロース粒子の着色方法、イムノクロマト診断キットの作製方法、などの一例を記載する、もちろん、本発明はそれらによって何ら限定されるべきではない。
〔セルロース粒子の作製方法〕
セルロースリンターをセルロースの良溶媒に溶解させる。本発明では良溶媒として公知の方法で調製した銅アンモニア溶液を用いる。そして凝固液としては有機溶媒+水+アンモニア混合系を主に用いる。この凝固液を攪拌しながら、調製しておいた銅アンモニアセルロ−ス溶液を加えて凝固を行う。
ここで、銅アンモニアセルロース溶液を予め空気存在下でインキュベートさせて、銅アンモニアセルロース溶液中のセルロースの平均重合度を調整することがポイントとなってくる。セルロースの平均重合度(DP)が調整されていないと、粒子径700nm以上の粗大粒子の割合が5%以下にならない。そのため、本実施形態では銅アンモニアセルロース溶液中のセルロースの平均重合度(DP)は50〜400に調整する。平均重合度が50未満であると、粒子形状を形成しにくくなり、目標の真球度にならない。一方、平均重合度(DP)が400を超えると、粗大粒子量が多くなってしまい、イムノクロマトで使用した時に、展開不良が起こり、バックグラウンドが悪くなる。その結果、TLとのコントラストが悪化してしまうため、誤診に繋がる可能性がある。平均重合度(DP)の下限としては、粒子形成の観点から60以上が好ましく、更に好ましくは70以上である。粗大粒子発生抑制の観点から、上限としては、350以下が好ましく、より好ましくは300以下である。
【0037】
セルロースの平均重合度とは、セルロース微粒子をカドキセンに溶解した希薄セルロース溶液の比粘度をウベローデ型粘度計で測定し、その極限粘度数[η]から、参考文献:Eur.Polym.J.,1,1(1996)に記載される以下の粘度式及び換算式により算出した値である。
粘度式:[η]=3.85×10−2×M0.76
換算式:DP=M/162
【0038】
凝固後、硫酸を加え中和、再生を行うことで、目的のセルロ−ス粒子を含有したスラリーを得ることができる。この際スラリーは再生に用いた酸の残留により酸性であり、さらに中和で発生したアンモニウム塩などの不純物を含んでいるため、セルロース粒子と媒体からなるセルロース分散液へと精製する操作が必要となる。本実施形態ではこの精製操作として遠心分離−デカンテーション−分散媒液体による希釈の処理の繰り返しを用いる。得られたセルロース粒子分散液中のセルロース粒子は、精製操作の過程において凝集する場合もあるので、この場合は剪断などによる分散処理を行うことができる。本実施形態では剪断を与える手段としては高圧ホモジナイザーを用いる。
【0039】
[セルロース粒子の着色方法]
得られたセルロース粒子のスラリーに、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液を加えたところに、ピリミジン構造又はトリアジン構造を有する反応性染料を加え、マグネティックスターラーで撹拌しながら恒温槽で所定の温度に昇温する。所定時間経過後に目的の染色セルロース粒子を含有したスラリーを得ることができる。この工程を踏むことで、個々の粒子を各々均一に染色することができるため、特許文献3で得られた粒子は、不規則な輪郭を有していたり、表面がぎざぎざでなっていたが、本実施形態で得られる粒子は、不規則な輪郭や表面のぎざぎざは大きく改善され、真球度が格段に良くなる。前記した反応性染料による染色方法で、染色すると、粒子全体をまるで表面コーティングの様に染色できることを見出した。また同時に、この方法では、個々の粒子が均一にコーティングされるためか、均一に粒子径が大きくなる、即ち極端に粒子径が大きい粒子の発生を抑制できることがわかった。また、粒子表面にF元素も残存することが分かった。これに反し、特許文献3では、高濃度の水酸化ナトリウムではなく、炭酸ナトリウムを用いて染色を行っていたが、水酸化ナトリウムと比べて炭酸ナトリウムは、セルロースの膨潤させる力が弱いため、膨潤しやすい粒子の最表面だけが膨潤し、反応性染料と反応してしまうために、粒子全体からみて均一な反応が起こっていなかった。また、特許文献3では、一度染色した後に、水酸化ナトリウムで洗浄するために、一部染料の脱離反応が見られ、表面の均一性を余計に失っていた。このように、特許文献3では、先に述べた染料の表面コーティングが均一になされておらず、満足できる真球度が得られておらず、また、親水性のセルロースも表面に露出していたため、親水度を下げることができていなかった。更に、炭酸ナトリウムを用いて染色すると、不均一で表面積の大きい即ち粒子径の大きい粒子から染色されてしまうせいか、粗大粒子の量も増えてしまうことが分かった。また、度々アルカリで洗浄するために粒子表面のF元素も脱離してしまう。それゆえ、本願発明者らは、粒子の芯から表面まで、個々の粒子全体を均一に染色することができる高濃度の水酸化ナトリウムを用いる染色方法を採用した。その結果、粒子を染料で均一に染色することができ、粒子の真球度が格段に改善し、親水度を低下させ、粗大粒子を減少させることができた。
【0040】
さらに、反応性が高く、耐アルカリ性染料であるピリミジン構造又はトリアジン構造を有する反応性染料を、高濃度の水酸化ナトリウム存在下で染色することで、粒子を均一に染色でき、親水度を大きく低下させることができる。
【0041】
続いて遠心分離による精製を行い、染色セルロース粒子分散液を得る。得られた染色セルロース粒子分散液中のセルロース粒子は、精製操作の過程において凝集する場合もあるので、この場合は剪断などによる分散処理を行うことができる。本実施形態では剪断を与える手段としては高圧ホモジナイザーを用いる。その後、得られた着色セルロース粒子の各種物性を測定する。
【0042】
[イムノクロマト診断キットの作製方法]
所定の濃度に調整した着色セルロース粒子の分散液を準備し、緩衝液、抗体を加え、温度調整を行いながら一定時間撹拌し、着色セルロース粒子に抗体を吸着させる。一定時間撹拌後、更にブロッキング剤を加え温度調整を行いながら一定時間撹拌することで、着色セルロース粒子のブロッキングを行う。ここでいうブロッキングとは、粒子単体、または抗体や抗原を担持させた粒子等をコーティングする操作である。ブロッキング剤としては、検査対象物質や検体又はそれを希釈する溶液の組成などに応じ様々なブロッキング剤を用いることができる。カゼインは、着色セルロース粒子のブロッキングに特に好ましい。この場合、カゼインが、抗体を担持した着色セルロース粒子中の抗体及び着色セルロース粒子の表面をコーティングしている。抗体吸着とブロッキング後の着色セルロース粒子を洗浄するため、遠心分離を行い、余剰な抗体とブロッキング剤が含まれた上澄み液と沈降した粒子を分離し、上澄み液をデカンテーションにて除去する。沈降した粒子に緩衝液などの液体を加え、必要に応じ超音波などで分散処理を行う。この遠心分離による沈降、上澄みの除去、液体の添加という一連の操作による洗浄を必要回数行い、抗体吸着とブロッキングを行った粒子を所定の濃度含有した分散液を調整する。この分散液に必要に応じタンパク質、界面活性剤、スクロースやトレハロースなどの糖を加え、得られた溶液をポリエチレン製のコンジュゲートパッドに一定量塗布し、乾燥させ、検出試薬含有部を調整する。また、再生セルロース連続長繊維不織布に必要に応じ緩衝液、界面活性剤、タンパク、検体試料中の夾雑物をトラップする試薬、防腐剤、抗菌剤、酸化防止剤、吸湿剤、などを塗布し、乾燥させ、サンプルパッドを調製する。更に所定の位置に抗体を固定化したニトロセルロース多孔膜製のクロマトグラフ媒体、検体を吸収するためのセルロース濾紙製の吸収パッドを調製する。それらをバッキングシートと呼ばれる接着部位を有する台紙に固定化し、所定のサイズに裁断することでイムノクロマト診断キットを作製する。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また、特に記載のない全ての操作は温度23℃、相対湿度55%RHの環境下で行った。実施例では、以下の測定、算出方法を用いた。
〔セルロース微粒子の平均重合度の測定〕
セルロースの平均重合度(DP)とは、前記したように、セルロース微粒子をカドキセンに溶解した希薄セルロース溶液の比粘度をウベローデ型粘度計で測定し、その極限粘度数[η]から、参考文献:Eur.Polym.J.,1,1(1996)に記載される以下の粘度式と換算式により算出した値である。
[η]=3.85×10−2×M0.76
DP=M/162
【0044】
[発色粒子の平均粒子径の測定]
装置としては日機装社製のナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(動的光散乱式)を用いた。測定サンプルとして、着色有機微粒子(発色粒子)が0.01重量%、純水99.99重量%のサンプルを用いた。測定条件としては積算回数を30回、1測定辺りの測定時間を30秒とし、体積平均の粒子径分布を用いそのメジアン径を平均粒子径とした。また、30回の積算によって得られた粒度分布の標準偏差と平均粒子径を用いCV値を算出した。
【0045】
[発色粒子の発色強度の測定]
装置としては日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計JASCO V−650(光学系:シングルモノクロメータ、ツェルニターナマウント、ダブルビーム方式 光源:重水素ランプ(190〜350nm)、ハロゲンランプ(330〜900nm))に同社製の積分球ユニットISV−722を取り付けた装置を用いた。測定するサンプルは、任意の濃度の発色粒子の水分散液又は乾燥粒子を、分散媒として蒸留水を用いて発色粒子が0.01重量%、純水99.99重量%になるよう濃度を調整したものを使用した。この濃度調整した水分散液を、光路長10mmの石英セル(容量:3.5mL 光路幅:10mm)に2.5mL加え、この石英セルを紫外可視近赤外分光光度計のサンプルフォルダにセットし、その後、測定を実施した。得られた吸光度ピークのうち、400〜800nm可視光範囲での最大値(ABS)を発色強度とした。
【0046】
[発色粒子の着色成分の割合の算出]
所定回数の着色操作を行った後の発色粒子の重量と、着色前の粒子の重量から計算し算出した。例えば、1.0gのセルロース粒子を着色し、2.5gの着色セルロース粒子を得た場合の着色成分は2.5g−1.0g=1.5gとして計算した。この場合の着色成分の割合は1.5g÷2.5g×100=60.0重量%となる。
〔発色粒子のセルロース由来成分の割合の算出〕
前記の通り、「発色粒子のセルロース由来成分の割合」=100%−(発色粒子の着色成分の割合)の計算式によって計算した。
【0047】
[発色粒子の真球度の測定]
装置としては日本電子株式社製の走査型電子顕微鏡JSM-6700を用いた。発色粒子が0.01重量%、純水99.99重量%のサンプルを雲母板に滴下し、10秒経過させることで発色粒子を雲母板上に吸着させ、キムワイプで余分な液体を吸い取り乾燥させた。得られた雲母板をプラチナでコーティングし、電子顕微鏡測定用のサンプルを調製した。加速電圧1.6kV、測定倍率5万倍で観測を行い、粒子画像が100個以上になるように必要枚数の画像を撮影し、それぞれの粒子の長径(L)と短径(D)を測定し、粒子100個のL/Dの平均値を算出した。
【0048】
[発色粒子中の粗大粒子の割合の算出]
装置はBECHMAN COULTER社製のMultisizer4(コールターカウンター式)で、アパチャーはAP20を用いて測定を行った。尚、電解液は、同じくBECHMAN COULTER社製のアイソトンII−PC希釈液(塩化ナトリウム7.93g/L、フッ化ナトリウム0.30g/L、商品番号:8546719)を使用した。測定サンプルとして、発色粒子が1.00重量%、純水99.00重量%のサンプルを用いた。まず、200mLビーカーに100mLのアイソトンII希釈液を加える。このビーカーに、更にアイソトンII−PC希釈液中の発色粒子濃度が5%程度になるように、発色粒子を加える。Multisizer4付属のスターラーで攪拌しながら、測定を行った。測定条件としては、400nm〜12000nmの範囲で、粒子の総個数が100000個の粒子を検知した時の粒子径700nm以上の粒子の個数(A)から粗大粒子の存在率(X)を以下の式から算出する。
粗大粒子の存在率(X)(%)={粒子径700nm以上の粒子の個数(A)/100000}×100
例えば、100000個のうち、粒子径700nm以上の粒子が7000個存在した場合は、7.0%となる。 操作条件の詳細を以下に示す。
・アパチャー電流値:800μA
・校正係数Kd:29.764
・増幅率:4
・測定粒子径範囲:400nm〜12000nm
・測定粒子個数:100000個
・測定時におけるアイソトンII−PC希釈液中の発色粒子濃度:5%
【0049】
[発色粒子の親水度の測定]
親水度はパルスNMR法により測定する。パルスNMR法は、微粒子分散液にラジオ波を照射して水分子のプロトンを励起させた後、基底状態に戻るまでの時間(緩和時間)を測定する分析手法である。微粒子表面に吸着している水分子は運動性が制限されるため緩和時間が短く、バルク水分子(微粒子表面と吸着していない水分子)は運動性に制限が少なく自由に運動できるため緩和時間が長い。したがって、パルスNMR法により得られる微粒子分散液の緩和時間は、微粒子表面に吸着している水分子とバルク水分子の比率により変化する。すなわち、微粒子表面の親水性が高いほど、より多くの水分子を吸着できるため緩和時間は短くなる。
パルスNMRの測定には、ブルカー社製のMinispec mq20装置を用いる。濃度1%(wt/vol)の微粒子分散液を撹拌後、0.5mLを外径10mmのガラス製NMR管に移し、30℃に設定されたパルスNMR装置に設置し、各種パラメータを以下の通りに設定し測定する。
・観測核:1H
・測定する緩和時間:横緩和時間T2(ms)
・測定モード:CPMG法
・積算回数:32回
・Recycle Delay:10(s)
・90°−180°Pulse Separation(τ):2(ms)
・Total Number of Acquired Echoes:2000点。
得られた磁化減衰曲線(磁化強度の経時変化を示す曲線)を、Microsoft Excelの指数近似機能を用いて最小二乗法により下記式(1):
M(t)=M0・exp(−t/T2)・・・式(1)
{式中、M(t):ある時間tにおける信号強度、M0:信号強度の初期値、T2:緩和時間。}によりフィッティングした。式(1)のT2が緩和時間である。
【0050】
測定した緩和時間(T2)から親水度を算出するためには、縦軸に緩和時間の変化割合(Rsp値)を、横軸に微粒子の総表面積値(TSA値)をプロットしたグラフを用意し、最小二乗法により近似直線を作成し、その傾きとして親水度を求める。
・Rsp値の計算方法
Rsp値=Rav÷Rb−1
{式中、Rav:平均緩和時定数(試料の緩和時間逆数)、Rb:バルク水分子の緩和時定数(ブランク水の緩和時間逆数)。}。
・TSA値(m)の計算方法
TSA値=SA×V×Ψp×ρ
{式中、SA:微粒子の比表面積(m/g)=6÷(ρ×d)、ここで、ρ:微粒子密度(g/cm)(ここで、セルロース微粒子密度:1.4g/cm、ラテックス粒子密度:1.0g/cm、金コロイド粒子密度:19.3g/cm)、d:微粒子直径(μm)、V:ラジオ波が照射される部分のNMR管体積(cm)(≒試料量)、Ψp:微粒子体積比(ここで、微粒子体積(i)=微粒子濃度(wt%)÷100÷微粒子密度(ρ:同上)、水の体積(ii)=(1−微粒子体積(i))÷水の密度(0.997g/cm)、Ψp(微粒子体積比)=微粒子体積(i)÷水の体積(ii)}。
【0051】
例えば、図2に示すように、A微粒子(TSA値0.5、Rsp値10)とB微粒子(TSA値1、Rsp値5)の数値をグラフにプロットし、最小二乗法により各々の近似直線を作成する。A微粒子の場合はY=20x、B微粒子の場合はY=5xとなる。近似直線の傾き(親水度)が大きい方、すなわちA微粒子の方を親水度が大きいと判定する。
【0052】
[発色粒子の粒子表面のF元素の相対元素濃度の測定]
発色粒子の粒子表面のF元素の相対元素濃度はXPSにより測定する。発色粒子を、1.5mmΦ×0.2mmtの皿型試料台に載せて、以下条件によりXPS測定を実施した。XPS測定には、サーモフィッシャー ESCALAB250を用いて以下条件により実施した。
励起源:単色化A1Kα 15kV×10mA
分析サイズ:約1mm (形状は楕円)
光電子取込み角:0°(分光器の軸と試料面が垂直)
取込領域
Survey scan:0〜1,100eV
Narrow Scan:C1s、N1s、S2p、O1s、Na1s、F1s、Si2p、Cl2p
Pass Energy
Survey Scan:100eV
Narrow Scan:20eV
【0053】
本測定により得られたC1s、N1s、S2p、O1s、Na1s、F1s、Si2p、Cl2pの面積強度、及び各ピークの相対感度係数(C1s:1.00、N1s:1.68、S2p:1.98、O1s:2.72、Na1s:10.2、F1s:4.67、Si2p:0.93、Cl2p:2.285)から、以下の式:
[F](atomic%)=100× (IF1s/RSFF1s)/(ΣI/RSF
{式中、IF1s:F1sの面積強度(eV・cps)、RSFF1s:F1sの相対感度係数、I:C1s、N1s、S2p、O1s、Na1s、F1s、Si2p、Cl2pの面積強度(eV・cps)、RSF:C1s、N1s、S2p、O1s、Na1s、F1s、Si2p、Cl2pの相対感度係数。}を用いてF元素の相対元素濃度([F])を求める。
【0054】
[イムノクロマト診断キットの診断時間と再現性の測定]
5mm幅にカットしたイムノクロマト診断キットをプラスチックのハウジングに入れた。得られたハウジング入りの診断キットを、浜松ホトニクス社製のイムノクロマトリーダーC10066−10を用い測定した。用いる粒子の色に応じて装置の設定を行った。検査対象物質にはヒト絨毛性ゴナドトロピン(以下「hCG」という。)を用い、hCGを、1重量%の牛血清アルブミン(以下「BSA」という。)を含む66mM、PH7.4のリン酸緩衝液(以下「PBS」という。)で希釈し、hCG濃度が10mIU/mlの陽性検体を調製した。この陽性検体120μlを診断キットのサンプル滴下部に滴下し、以降20秒毎にイムノクロマトリーダーで測定を行い、TLの発色時間の測定を行った。ここで20秒毎とした理由は、測定1回につき20秒弱が必要なためである。イムノクロマトリーダーで得られるTLの発色強度(単位はmABS)が20mABS以上になった時間を測定した。ここで20mABSとした理由は、個人差もあるが20mABS以上になれば目視でもTLの存在を確認できるからである。この測定を20回行い、得られた値の平均値を診断時間、その標準偏差を診断時間標準偏差とした。再現性を表す指標%CVは下記式:
%CV={診断時間標準偏差/診断時間}×100
により算出した:
【0055】
[イムノクロマト診断キットの感度と再現性の測定]
同様に120μlの陽性検体を診断キットのサンプル滴下部に滴下し、15分経過後のTLの発色強度をイムノクロマトリーダーで測定した。この測定を20回行い、得られた値の平均値をTL強度、その標準偏差をTL強度標準偏差とした。再現性を表す指標%CVは、下記式:
%CV={TL強度標準偏差/TL強度}×100
により算出した。
【0056】
[イムノクロマト診断キットのバックグラウンドの判定]
同様に120μlの陽性検体を診断キットのサンプル滴下部に滴下し、15分経過後のTLの2mm上流側のバックグラウンド強度と2mm下流側のバックグランウンド強度をイムノクロマトリーダーで測定した。その平均値をバックグラウンド強度とした。
【0057】
[イムノクロマト診断キットの偽陽性の測定]
1重量%BSAを含む66mM、pH7.4のPBSを調整し陰性検体を調製した。120μlの陰性検体を診断キットのサンプル滴下部に滴下し、15分経過後のTLの発色強度をイムノクロマトリーダーで測定した。この測定を5回行い、得られた値の平均値が5mABS以下であれば偽陽性はないと判断した。ここで5mABSとした理由は、個人差もあるが5mABS以下であれば目視ではTLの存在が確認できないからである。
【0058】
[イムノクロマト診断キットの検出限界の測定]
hCG濃度を3.20mIU/ml、1.60mIU/ml、0.80mIU/ml、0.40mIU/ml、0.20mIU/ml、0.10mIU/ml、0.05mIU/ml、0.025mIU/mlと段階的に薄くしていった陽性検体を調製した。前記同様に120μlを診断キットのサンプル滴下部に滴下し、15分経過後のTLの発色強度をイムノクロマトリーダーで測定した。この測定を各濃度で5回行い、得られた値の平均値が陰性検体を測定した時の値+20mABS以上の場合は陽性判定、以下の場合は検出限界以下と見なした。この陽性判定が得られる下限のhCG濃度を検出限界とした。
【0059】
[実施例1]
従来公知の方法で、セルロース濃度0.37wt%、銅濃度0.13wt%、アンモニア濃度1.00wt%の銅アンモニアセルロース溶液を調製した。得られた銅アンモニアセルロース溶液を空気存在下でゆっくり撹拌し、12時間かけて重合度を調整した。さらにテトラヒドロフラン濃度89.00wt%、水濃度11.00wt%、の凝固液を調製した。マグネティックスターラーを用い凝固液5000gをゆっくり攪拌しながら、調製しておいた銅アンモニアセルロース溶液500gを添加した。5秒程度攪拌を継続した後、10wt%の硫酸1000gを加え中和、再生を行い、セルロース微粒子を含有したスラリー6500gを得た。
得られたスラリーを10000rpmの速度で10分間遠心分離した。沈殿物をデカンテーションにより取り出し、蒸留水を注入して攪拌し、再び遠心分離した。pHが6.0〜7.0になるまでこの操作を数回繰り返し、その後、高圧ホモジナイザーによる分散処理を行い、セルロース微粒子分散液150gを得た。得られたセルロース微粒子の平均粒径を測定した結果、261nmであった。尚、当該微粒子の重合度を測定したところ、110だった。
次に、前記のようにして調製したセルロース微粒子の染色を行った。微粒子濃度を1.00wt%に調整したセルロース微粒子分散体100gに対し、硫酸ナトリウム30g、トリアジン構造を有する反応性染料(ダイスター株式会社製Levafix Red CA GR.(登録商標))1.00g、を加え攪拌させながら恒温槽を用いて60℃まで昇温した。60℃に昇温後に水酸化ナトリウム10gを加え、2時間染色を行った。得られた粗着色微粒子を脱イオン水で洗浄し、遠心分離で回収し、その後遠心分離で回収するという一連の操作を1サイクルとし、同様の操作を計5サイクルまで実施し、着色セルロース微粒子を得た。当該微粒子の平均粒径は352nm、CV値は21%、発色強度は2.9ABS、着色成分の割合は49%、真球度は1.2で、粗大粒子は1.4%だった。得られた着色セルロース微粒子の電子顕微鏡画像を図3に示す。
【0060】
[抗体感作着色セルロース粒子の調製]
既知の方法で調製した1.0重量%の着色セルロース粒子1(平均粒子径352nm、発色強度2.9ABS、着色成分の割合49%、真球度は1.2、粗大粒子の割合1.4%)60μlを15mlの遠心管に入れ、更にトリス緩衝液(10mM、pH7.0)を540μl、0.1%の抗hCG-αマウス抗体(Fitzgerald社製、10-C25C)を60μl加え、ボルテックスで10秒撹拌した。続いて37℃に調整した乾燥機内に入れ120分間静置した。続いて1.0重量%のカゼイン(和光純薬工業社製、030−01505)を含有するブロッキング液(100mMホウ酸、pH8.5)を7.2ml加え、更に37℃の乾燥機内で60分間静置した。続いて遠心分離機(クボタ商事社製、6200)と遠心分離ローター(クボタ商事社製、AF−5008C)を用い、10,000gの遠心を15分間行い、感作粒子を沈降させた後に上澄みを除去した。続いてホウ酸緩衝液(50mMホウ酸、pH10.0)を7.2ml加え、超音波分散機(エスエムテー社製、UH−50)で10秒間処理した。続いて10,000gの遠心を15分間行い、感作粒子を沈降させた後に上澄みを除去した。また、別途スクロース(和光純薬工業社製、196−00015)1.8gと1.0重量%のカゼインブロッキング液2.4gを、ホウ酸緩衝液(50mMホウ酸、PH10.0)7.2mlに溶解させて得た緩衝液を用いて、感作粒子の分散液の重量を1.58gに調整し、0.038重量%の抗体感作着色セルロース粒子分散液を調整し、超音波分散機で10秒間処理した。
【0061】
[コンジュゲートパッドへの抗体感作着色セルロース粒子の含浸、乾燥]
ポリエチレン製コンジュゲートパッド(Pall社製、6613)を大過剰の0.05重量%のTween−20(登録商標、シグマアルドリッチ社製、T2700)に浸漬し、余分な液を取り除いた後に50℃で60分乾燥させた。続いて高さ10mm、長さ300mmの形状にカットした。続いてマイクロピペットを用い0.038重量%の抗体感作着色セルロース粒子分散液780μlを均等に塗布し、50℃で60分乾燥させた。
【0062】
[サンプルパッドの前処理]
既知の方法で調整したセルロース製サンプルパッド(Millipore社製、C083)を、大過剰の2.0重量%のBSA(シグマアルドリッチ社製、A7906)と2.0重量%のTween−20を含有するPBS緩衝液(66mM、PH7.4)に含浸し、余分な液を取り除いた後に50℃で60分乾燥させ、これを高さ20mm、長さ300mmの形状にカットした。
【0063】
[捕捉抗体塗布ニトロセルロース膜の調製]
ニトロセルロース膜(Millipore社製、SHF0900425)を高さ25mm、長さ300mmの形状にカットした。液体塗布装置(武蔵エンジニアリング社製、300DS)を用い、0.1重量%抗hCG-βマウス抗体(MedixBiochemica社製、6601)を含むPBS溶液(66mM、pH7.4)を0.1μl/mmの割合で高さ7mmの部分に塗布した。続いて0.1重量%の抗マウス-ウサギ抗体(Daco社製、Z0259)を含むPBS溶液(66mM、pH7.4)を0.1μl/mmの割合で高さ12mmの部分に塗布し、続いて37℃で30分乾燥させた。
【0064】
[イムノクロマト診断キットの調製]
バッキングカード(Adhesives Research社製、AR9020)に、調整した捕捉抗体塗布ニトロセルロース膜、吸収パッド(Millipore社製、C083)、抗体感作着色セルロース粒子を含有したコンジュゲートパッド、再生セルロース連続長繊維不織布サンプルパッドを、図1に示すレイアウトで貼り合わせ、続いて裁断機にて5mmの幅にカットし、幅5mm、高さ60mmのイムノクロマト診断キットを得た。
【0065】
[イムノクロマト診断キットの性能評価]
得られたイムノクロマト診断キットの性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0066】
[実施例2〜6]
セルロース微粒子を以下の表1に記載の重合度に調整した以外は、実施例1と同様の方法で発色粒子を作製し、イムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0067】
[実施例7〜9]
セルロース微粒子を、ピリミジン構造を有する反応性染料(ダイスター株式会社製Levafix Rubine CA GR.(実施例7、登録商標)、ダイスター株式会社製Levafix Navy Blue E−BNA CA GR.(実施例8、登録商標)、ダイスター株式会社製Levafix Navy CA GR.(実施例9、登録商標))を用いて染色した以外は、実施例1と同様の方法で発色粒子を作製し、イムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0068】
[実施例10〜13]
セルロース微粒子の製造条件を調整して以下の表1に記載の粒径の発色粒子を製造した以外は、実施例1と同様の方法で、イムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0069】
[実施例14〜18]
発色粒子の製造条件を調整して、以下の表1に記載の発色強度の発色粒子を製造した以外は、実施例1と同様の方法で、イムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0070】
[実施例19〜22]
発色粒子を混合して、以下の表1に記載の粗大粒子割合の発色粒子を作製した以外は、実施例1と同様の方法で、イムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0071】
[実施例23、24]
発色粒子を混合して、以下の表1に記載のCV値と粗大粒子割合の発色粒子を作製した以外は、実施例1と同様の方法で、イムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0072】
[比較例1、2]
セルロース微粒子を以下の表2に記載の重合度に調整し、更に凝固液のテトラヒドロフランの濃度を調整して、以下の表2に記載の真球度の発色粒子を作製した以外は、実施例1と同様の方法で、イムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表2に示す。
【0073】
[比較例3]
セルロース微粒子を以下の表2に記載の重合度に調整し、以下の表2記載の真球度の発色粒子を作製した以外は、実施例1と同様の方法で、イムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表2に示す。
【0074】
[比較例4〜6]
染色時に、特許文献3と同様の方法で、かつ使用する染料量を調整して発色強度を調整しながら染色した以外は、実施例1と同様の方法で、イムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表2に示す。
【0075】
[比較例7]
染色時に、水酸化ナトリウムの代わりに12gの炭酸ナトリウムを加えて染色した以外は、実施例1と同様の方法で、イムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表2に示す。
【0076】
[比較例8、9]
染色時に、染料をピリミジン構造又はトリアジン構造を有していない反応性染料(C.I.Reactive Orange16(実施例8)、C.I.Reactive Blue19(実施例9))を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、イムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表2に示す。
【0077】
[比較例10、11]
セルロース粒子の作製時、凝固液のテトラヒドロフランの濃度を調整して、以下の表2に記載の平均粒径の発色粒子を製造した以外は、実施例1と同様の方法で、イムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表2に示す。
【0078】
[比較例12]
発色粒子の製造条件を調整して、以下の表2に記載の発色強度の発色粒子を製造した以外は、実施例1と同様の方法で、イムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表2に示す。
【0079】
[比較例13〜15]
実施例20と比較例3の発色粒子を所定の比率で混合、調整して、以下の表2に記載の粗大粒子量の発色粒子を製造した以外は、実施例1と同様の方法で、イムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表2に示す。
【0080】
[比較例16、17]
発色粒子として、金コロイド(比較例16)、ラテックス(比較例17)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、イムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表2に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係る有機着色微粒子を用いたイムノクロマト診断キットは、良好なバックグラウンドと検査結果の再現性を有し、十分な検出感度を有する診断薬として好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0084】
(a) サンプルパッド
(b) 抗体感作発色粒子を含むコンジュゲートパッド
(c) 検出部A(TL)
(d) 検出部B(コントロールライン)
(e) クロマトグラフ媒体
(f) 吸収パッド
(g) 台紙
図1
図2
図3