特許第6877650号(P6877650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877650
(24)【登録日】2021年4月30日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】電極触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/03 20210101AFI20210517BHJP
   C25B 11/04 20210101ALI20210517BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20210517BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20210517BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20210517BHJP
   C23F 17/00 20060101ALI20210517BHJP
   C25F 3/02 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   C25B11/03
   C25B11/06 A
   B01J23/755 M
   B01J37/02 301N
   C25B1/04
   C23F17/00
   C25F3/02 Z
【請求項の数】13
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-537857(P2020-537857)
(86)(22)【出願日】2018年9月19日
(65)【公表番号】特表2020-534444(P2020-534444A)
(43)【公表日】2020年11月26日
(86)【国際出願番号】EP2018075335
(87)【国際公開番号】WO2019057763
(87)【国際公開日】20190328
【審査請求日】2020年9月9日
(31)【優先権主張番号】17192444.2
(32)【優先日】2017年9月21日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520100103
【氏名又は名称】ハイメット アーペーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ビシュワス, サモン
【審査官】 瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−21589(JP,A)
【文献】 特開昭53−81484(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0147800(US,A1)
【文献】 特開昭48−84044(JP,A)
【文献】 特開2008−184671(JP,A)
【文献】 特開昭57−152480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/00
C23F 17/00
C25F 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極触媒の製造方法であって、以下の工程:
a)ニッケル、第二の金属である銅、及び第三の金属である鉄を含有する合金を、銅、ニッケル又はその他の金属基材の上に電着又は電気化学めっきする工程、及び
b)堆積させたを電気化学的又は化学的に溶解させて、銅、ニッケル又はその他の金属基材の上にナノ多孔質構造を得る工程
を含む製造方法。
【請求項2】
さらに以下の工程:
c)多孔質構造上に鉄を堆積させる工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第二の金属が銅であり、銅塩と、ニッケル塩とを含有する電気めっき溶液を工程a)において使用する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
電気めっき溶液における銅の、ニッケルに対するモル比が、1:1から1:3の間にある、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程a)が2電極方式で行われ、2〜6Vの電圧を印加する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
硫酸イオン含有溶液、アルカリ性溶液又は酸性溶液を、工程b)において使用する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程b)が2電極方式で行われ、1〜12Vの電圧を印加する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程b)においてパルス電圧を印加する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程c)が電着である、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
工程d):堆積された鉄を不動態化する工程
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
銅基材が、銅コイルを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
記その他の金属が、鉄、コバルト、チタン、ジルコニウム、ステンレス鋼、及びアルミニウムのいずれかである、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
銅又はニッケルの基材が、多孔質の銅又は多孔質のニッケルの基材である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般的に、電極触媒に関する。本開示は特に、電極触媒の製造方法と、電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
水の電気分解とは、水分子が分解して水素ガスと酸素ガスが生じるプロセスである。このプロセスは、水に浸した2つの電極の間で電流を流すことによって起こる。
【0003】
電解質は通常、電気分解に先立ち、水の導電性を向上させるために水に添加される。これによって、より良好な電荷輸送特性に起因して、より効率的な電気分解プロセスが保証される。しかしながら電解質を添加することにより、電気分解プロセス中に不所望の副生成物が生成することがある。
【0004】
電気分解のために精製水を使用することができ、これによって不所望の副生成物の生成が実質的に排除される。しかしながら、精製水固有の特性(例えば導電性の低さ)が原因で、精製水中では効率的な電気分解プロセスを起こすのがより困難な場合がある。
【発明の概要】
【0005】
本開示の目的は、従来技術の問題を改善するか、又はこれを少なくとも低減させることである。
【0006】
よって本開示の第一の態様によれば、以下の工程を含む電極触媒の製造方法がもたらされる:
a)ニッケル及び第二の金属を含有する合金を、銅、ニッケル又はその他の金属基材の上に電着又は電気化学めっきする工程、及び
b)堆積させた第二の金属を電気化学的又は化学的に溶解させて、銅、ニッケル又はその他の金属基材の上にナノ多孔質構造を得る工程。
【0007】
多孔質構造により電極触媒の表面積が増大し、これによって電気化学反応がより効率的になる。例えば、電極触媒を水の電気分解の適用における電極として使用する場合、水と接触する電極の作用面積が増大する。こうして、水分子との接触面積が増大する。よって、より効率的な電気分解反応、及びコンパクトな電気分解設備が得られる。
【0008】
さらに、本発明による電極触媒が電気分解のための電極の一部を形成する場合、電気分解にかけるべき水における電流密度を上昇させることができる。電流密度は、電極触媒の多孔質構造に起因して増大させることができ、これによって、例えば水と接触する銅系電極について、より大きな表面積がもたらされる。
【0009】
加えて、銅は電気抵抗が低いので、電気分解の間に電気損失は僅かしかないことになる。よって、電極を含む電気分解デバイスにより生じる熱は少なくなり、電気分解全体の効率が上昇する。生じる熱が少ないことにより、蒸気の発生も回避される。
【0010】
本発明による電極触媒はさらに、コスト効率も非常によく、大量生産に向いている。
【0011】
1つの実施態様によれば、銅基材を熱処理する工程が、工程a)の後、ただし工程b)より前に行われる。
【0012】
熱処理の間、ニッケル及び第二の金属及び/又は第三の金属を含む合金を備える銅基材は、少なくとも250℃の温度、例えば少なくとも275℃、例えば少なくとも300℃、例えば少なくとも325℃、又は少なくとも350℃の温度に供する。この熱処理は、常圧条件で行うことができる。この熱処理は例えば、工程b)の前に少なくとも20分、例えば少なくとも25分、例えば少なくとも30分、行うことができる。
【0013】
工程b)における電気化学的又は化学的な溶解は、脱成分腐食工程、例えば電気化学的な脱成分腐食又は化学的な脱成分腐食であり得る。
【0014】
1つの実施態様によれば、第二の金属は、銅又は鉄である。
【0015】
1つの実施態様によれば、第二の金属は銅であり、本方法はさらに、工程c):多孔質構造上に鉄を堆積させる工程を含む。工程c)は、工程b)の後に行うことができる。多孔質ニッケル表面を有する銅電極に鉄を電着させることにより、例えば電気分解適用において、電極1cm2あたりの電流密度が増加する。
【0016】
多孔質構造上に鉄を電着させるためには、硫酸鉄(II)(硫酸第一鉄)七水和物FeSO4・7H2O及び/又は塩化鉄(II)0.86モル(濃度11%)と、pH緩衝剤としてのクエン酸ナトリウム(Na3657)又はホウ酸(H3BO3)とを使用して、電気めっき浴溶液を調製することができる。
【0017】
1つの実施態様によれば、第二の金属は鉄であり、本方法はさらに、工程c):多孔質構造上に銅を堆積させる工程を含む。工程c)は、工程b)の後に行うことができる。
【0018】
1つの実施態様によれば、工程a)の合金はさらに、第二の合金とは異なる第三の合金を含み、第三の合金は例えば、銅又は鉄である。
【0019】
1つの実施態様によれば、第三の金属は、銅又は鉄である。よって、第二の金属が銅の場合、第三の金属は、鉄である。第二の金属が鉄の場合、第三の金属は、銅である。ニッケル、銅及び鉄を含有する合金により、ニッケル−銅合金に比して表面積がより大きくなり、電気分解プロセスの効率及び電流密度が改善され、安定性が改善される。
【0020】
様々な電気めっき及び電気化学的な溶解/脱成分腐食条件を用いることによって、様々な表面形状を得ることができる。例えば、銅−鉄−ニッケル合金から銅−鉄が脱成分腐食される場合には、ニッケル−銅合金から銅のみが脱成分腐食される場合とは異なる表面形状及び電流密度が得られる。
【0021】
1つの実施態様によれば、第二の金属は銅であり、銅塩(例えばCuSO4)及びニッケル塩(例えばNiSO4)を含有する電気めっき溶液を、工程a)で使用する。
【0022】
1つの実施態様によれば、銅塩、例えば硫酸銅(CuSO4)、ニッケル塩、例えば硫酸ニッケル(NiSO4)、及びpH緩衝剤としてのクエン酸ナトリウム(Na3657)又はホウ酸(H3BO3)を含有する電気めっき溶液を、工程a)において使用する。
【0023】
1つの実施態様によれば、電気めっき溶液における銅の、ニッケルに対するモル比は、1:1から1:3の間、例えば1:1.5から1:2.5の間、例えば1:1.8から1:2.2の間である。
【0024】
1つの実施態様によれば、銅塩、例えば硫酸銅(CuSO4)、ニッケル塩、例えば硫酸ニッケル(NiSO4)、鉄塩、例えば硫酸鉄(FeSO4)、及びpH緩衝剤としてのクエン酸ナトリウム(Na3657)又はホウ酸(H3BO3)を含有する電気めっき溶液を、工程a)において使用する。
【0025】
1つの実施態様によれば、ニッケル塩、例えば硫酸ニッケル(NiSO4)、及び鉄塩、例えば硫酸鉄(FeSO4)、並びにpH緩衝剤としてのクエン酸ナトリウム(Na3657)又はホウ酸(H3BO3)を含有する電気めっき溶液を、工程a)において使用する。
【0026】
電気めっき溶液は例えば、水性であり得る。
【0027】
1つの実施態様によれば、ニッケルの濃度は、電気めっき溶液において銅の濃度よりも高い。ニッケルの濃度は特に、銅−ニッケル電気めっき溶液における銅の濃度よりも高くてよい。
【0028】
ニッケルの濃度は、鉄−ニッケル電気めっき溶液において、またニッケル−銅−鉄電気めっき溶液において、鉄よりも高くてよい。
【0029】
1つの実施態様によれば、2電極方式では2〜6Vの電圧を、工程a)において印加する。よって1つの実施態様では、工程a)における電着を、2電極方式では銅基材と第二の電極との間に2〜6Vの範囲の電圧差を印加することによって行う。
【0030】
1つの実施態様によれば、工程a)における電着は、飽和カロメル電極(SCE)に対して−0.5Vより低い電圧、例えばSCEに対して−0.8V〜−0.9Vの間の電圧、例えばSCEに対して少なくとも−0.92Vの電圧を、3電極方式では銅基材と参照電極との間で印加することを伴う。
【0031】
1つの実施態様によれば、硫酸イオンを含有する溶液、例えば硫酸カリウム(K2SO4)溶液、アルカリ性溶液又は酸性溶液を、工程b)において使用する。このような溶液は例えば、水性であり得る。適切なアルカリ性溶液の例は、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムである。適切な酸性溶液の例は、塩酸及び硫酸である。
【0032】
硫酸カリウムによって脱成分腐食溶液/電解質/化学浴は、銅−ニッケル合金及びニッケル−銅−鉄合金から銅及び/又は鉄が電気化学的に脱成分腐食するためにより良好なものになる。これは、アノード脱成分腐食であり得る。アノード脱成分腐食とは、電気化学的脱成分腐食にかける前述の合金のいずれかによってコーティングされた銅基材が、2電極方式では電源の正極に接続されること、又は3電極方式では作用電極として接続されることを意味する。
【0033】
1つの実施態様によれば、1〜12Vの電圧、例えば2〜3Vの電圧を、2電極方式では工程b)において印加する。よって、1つの実施態様によれば、工程b)における化学的な溶解は、2電極方式では銅基材と第二の電極との間に1〜12Vの範囲で電圧差を印加することによって行われる。
【0034】
1つの実施態様によれば、工程b)においてパルス電圧を印加する。パルス電圧が高ければ、その分だけ表面積が大きくなる。3電極方式では例えば、電圧の範囲はSECに対して1〜4V、例えば1〜3Vである。高いパルス電圧パラメータとは例えば、
[t1=1 s、V1=2.5 V;t2=5 s、V2=0.005 V]
であってよく、ここでは2.5ボルトをt1=1秒、それから0.005ボルトをt2=5秒、約15分間にわたり印加する。
【0035】
工程b)においてより高いパルス電圧を使用することにより、より多くの銅若しくは鉄、又はその両方を、銅−ニッケル又はニッケル−銅−合金から押し出すことができる。
【0036】
1つの実施態様によれば、工程c)は、電着である。
【0037】
1つの実施態様はさらに、d)堆積された鉄を不動態化する工程を含む。
【0038】
1つの実施態様によれば、銅基材は、銅コイルを含む。よって銅コイルは、工程a)〜b)の処理に供される。銅コイルが銅線から形成された後に工程a)〜b)を行うことによって、工程a)〜b)の後に形成された銅コイルよりも、銅コイルについて均一な被覆が得られる。コイル形状の電極触媒は、特に効率的な電気分解プロセスをもたらすことが実証されている。
【0039】
1つの実施態様によれば、その他の金属は、鉄、コバルト、チタン、ジルコニウム、ステンレス鋼及びアルミニウムのいずれかである。
【0040】
1つの実施態様によれば、銅又はニッケルの基材は、多孔質の銅又はニッケルの基材である。
【0041】
本開示の第二の態様によれば、第一の態様の方法によって得られる電極触媒がもたらされる。
【0042】
1つの実施態様によれば、第二の金属は、銅又は鉄である。
【0043】
ナノ多孔質構造は、第二の金属とは異なる第三の金属を含有することができる。第三の金属は例えば、銅又は鉄であり得る。よって、第二の金属が銅であれば、第三の金属は鉄である。第二の金属が鉄であれば、第三の金属は、銅である。
【0044】
本開示の第三の態様によれば、電気分解のための電極がもたらされ、この電極は、第二の態様の電極触媒を含むものである。銅基材は、銅コイルを含み、この銅コイルは、ニッケルと、好ましくは第二の金属と、また任意で第三の金属とを含有するナノ多孔質構造によって被覆されているものである。
【0045】
一般的に、特許請求の範囲で使用するすべての用語は、ここに明示的にそうでない旨が規定されていない限り、その技術分野における通常の意味に従って解釈されるべきである。「1つの(a)/1つの(an)/その(the)要素、装置、構成要素、手段、工程など」は、そうではない旨が明示的に述べられている場合を除いて、要素、装置、構成要素、手段、工程などの少なくとも1つの例について言及するものとして非限定的に解釈されるべきである。ここに開示するあらゆる方法の工程を、開示された通りの順序で実施する必要は、明示的に言及されている場合を除き、必ずしもない。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本開示は、アルカリ性の水電気分解における酸素及び水素の発生反応にそれぞれ適した、電極触媒の製造方法及び電極触媒に関する。この電極触媒は有利なことに、電気分解プロセスのための電極の一部を形成することができる。
【0047】
本発明による電極触媒の製造方法は、a)銅基材上にニッケル及び第二の金属を含有する合金を電着させる工程a)を含む。
【0048】
電着工程a)は例えば、電気化学的堆積又はパルス電着であり得る。パルス電着を使用する場合、すなわちパルス電圧を印加する場合には、電気化学な溶解/脱成分腐食の間に印加される電圧に比して低いパルス電圧を使用することができる。例えば、3電極方式では、低いパルス電圧は、5秒間の−0.92V、それから1秒の−0.005Vであり得る。これらのパルスは例えば、約15〜30分にわたって印加することができる。
【0049】
工程a)において使用する化学浴、すなわち銅基材を沈める浴は例えば、銅塩(例えばCuSO4)及びニッケル塩(例えばNiSO4)を含有する電気めっき溶液を含むことができる。電気めっき溶液は、水性であるのが好ましい。
【0050】
1つの例では、銅基材に合金を電着させるために、工程a)の間に一定の電圧を銅基材に印加することができる。印加する電圧は例えば、2電極方式では銅基材と第二の電極との間で2〜6Vの範囲であり得る。
【0051】
1つの変法では、第二の金属が銅である。この場合、合金は銅−ニッケル合金である。
【0052】
別の変法では、第二の金属が鉄である、この場合、合金はニッケル−鉄合金である。
【0053】
さらに別の変法では、合金はまた、第三の金属も含有する。この場合に第二の金属は、例えば銅であってよく、第三の金属は、鉄であり得る。よってこの場合、合金はニッケル−銅―鉄合金である。
【0054】
1つの変法では、工程a)で得られる合金を備える銅基材を、熱処理にかける。この熱処理は、以下に述べる工程b)の前に行うのが好ましい。
【0055】
工程b)の前に熱処理を行うことにより、ニッケル−銅合金、ニッケル−銅−鉄合金、又はニッケル−鉄合金において銅基材への拡散メカニズムが始まる。工程a)の後に後処理を行うことにより、工程b)において高いパルス電圧の電気化学脱成分腐食を用いる場合に、合金コーティングにおいてナノレベルの亀裂形成が著しく減少する。これにより、電極触媒の安定性及び活性も改善される。銅基材を工程a)の後に熱処理にかけておけば、より均一なナノ多孔質表面構造が、工程b)の後に得られる。銅基材/電極触媒を電極として使用する場合、熱処理によって電流密度が増加する。
【0056】
工程b)では銅基材を、堆積された第二の金属の電気化学的な溶解にかけて、銅基材上にナノ多孔質構造を得る。
【0057】
電気化学的な溶解は、脱成分腐食を伴うことがある。脱成分腐食は例えば、電気化学的な脱成分腐食、又はパルス電気化学的な脱成分腐食であり得る。
【0058】
工程b)で使用する化学浴は例えば、硫酸イオンを含有する溶液、例えば硫酸カリウムK2SO4溶液を含むことができる。
【0059】
1つの例によれば、工程b)において、1〜12Vの範囲の電圧、例えば2〜3Vの範囲の電圧を、2電極方式では、堆積させた合金を備える銅基材と、第二の電極との間に印加する。
【0060】
1つの変法では、銅基材上に堆積された第二の金属を電気化学的に溶解させるために、工程b)の間に一定の電圧を使用することができる。或いは、電気化学的な溶解を行うために、工程b)の間にパルス電圧を使用することができる。別の変法では、一定の電圧をパルス電圧と組み合わせることができる。例えば、脱成分腐食の一部の間に、一定の電圧を印加し、別の一部の間に、パルス電圧を印加することができる。
【0061】
合金が銅−ニッケル合金の場合、堆積された銅の少なくとも一部は、電気化学的に溶解される。この場合にはさらに、工程c)において、工程b)で得られた多孔質構造上に鉄が堆積される。工程c)におけるこの堆積は、電着であるのが好ましい。
【0062】
工程c)を含む1つの変法はさらに、堆積された鉄を不動態化する工程d)を含む。
【0063】
合金がニッケル−鉄合金である場合、堆積された鉄の少なくとも一部は、電気化学的に溶解される。この場合、任意選択的な工程c)において、工程b)で得られた多孔質構造上に銅を堆積させることができる。工程c)におけるこの堆積は、電着であるのが好ましい。
【0064】
合金がニッケル−銅―鉄である場合、堆積された鉄及び堆積された銅の少なくとも一部が、工程b)において電気化学的に溶解される。
【0065】
実施例1
薬品及び方式(set-up)
以下では、長さ約4cm、直径が約1mmの高表面積の銅線を得るための実験手順を記載する。銅線は本実施例において、工程a)及びb)に供する銅基材である。銅線は、純度が99.9%であった。
【0066】
薬品:ホウ酸(H3BO3、99.97%)、硫酸ナトリウム(Na2SO4、99.99%)、硫酸銅五水和物(CuSO4・5H2O、分析グレード99〜100.5%)、硫酸ニッケル六水和物(NiSO4・6H2O、98%)。
【0067】
電気化学処理:
3電極式電池をポテンシオスタットに接続した。ここでは飽和カロメル電極(SCE)を参照電極として使用し、炭素電極を対極として使用する。電極が完全に覆われることを保証するため、ニッケル源及び第二の金属(30mL)を含有する大容量の電気めっき溶液を選択した。
【0068】
電気めっき溶液及び脱成分腐食溶液双方の体積についてスケールダウンすることが可能であり、それでもなお、同じ結果が得られることに留意されたい。
【0069】
ニッケル及び銅を含有する合金の電着を行った。銅線上へのニッケル及び銅への堆積は、0.5MのHBO、0.5MのNiSO及び0.005MのCuSOを含有する電気めっき溶液から行った(Cu:Niの比は、1:100)。銅線のうち約3〜3.5cmを、この溶液に浸した。−0.92V(SCEに対して)の一定の電圧を15分間、印加した。
【0070】
電気めっきの間に得られたニッケル−銅層を備える銅線をその後、電気化学的溶解(本実施例では脱成分腐食工程)に進む前に、短時間、脱イオン水ですすぐ。脱成分腐食溶液は、0.5MのH3BO3及び0.5MのNa2SO4から成っていた(合計体積30mL)。銅−ニッケル層を備える銅線を、脱成分腐食溶液に浸し、2.5V(SCEに対して)の一定の電圧を15分間印加することによって、脱成分腐食した。
【0071】
実施例2
実施例2は、薬品及び方式に関して実施例1と同様である。電着工程も、実施例1と同様である。しかしながら、電気化学な溶解工程(ここでは脱成分腐食とも呼ぶ)の間には、異なる電圧特性を印加する。
【0072】
一定の電圧ではなく、「低い」パルス電圧又は「高い」パルス電圧を使用した。「低い」パルス電圧についてのパラメータは、
[t1=1 s, V1=0.5 V; t2=5 s, V2=0.005 V]
であったが、これは、0.5Vの電圧を1秒印加し、それから0.005Vの電圧を5秒間印加し、このプロセスを合計で15分間繰り返すことを意味する。「高い」パルス電圧についてのパラメータは、
[t1=1 s, V1=2.5 V; t2=5 s, V2=0.005 V]
である。
【0073】
本発明について、いくつかの実施態様を参照しながら主に述べてきた。しかしながら、当業者であれば直ちに肯定的に評価するように、先に開示したもの以外の実施態様も、添付特許請求の範囲によって規定される通り、本発明の範囲内で同様に可能である。