特許第6877710号(P6877710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877710
(24)【登録日】2021年5月6日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】開閉装置
(51)【国際特許分類】
   E05C 19/02 20060101AFI20210517BHJP
   E05F 5/00 20170101ALI20210517BHJP
   E06B 3/46 20060101ALI20210517BHJP
   E05F 1/16 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   E05C19/02 A
   E05F5/00 D
   E06B3/46
   E05F5/00 A
   E05F1/16 B
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-194908(P2016-194908)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-59264(P2018-59264A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(73)【特許権者】
【識別番号】000137959
【氏名又は名称】株式会社ムラコシ精工
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】服部 真二
(72)【発明者】
【氏名】池田 祥平
【審査官】 鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−144891(JP,A)
【文献】 特開2013−213336(JP,A)
【文献】 特開2001−295536(JP,A)
【文献】 特開2016−079797(JP,A)
【文献】 特開2008−285935(JP,A)
【文献】 特開2002−285762(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0026357(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0126476(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05C 1/00−21/02
E05F 1/00−13/04
E06B 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上枠の長手方向に沿って移動可能な戸体に用いられる開閉装置であって、
前記上枠側に固定される受け金具と、
前記戸体とともにスライド可能な本体部と、を備え
前記本体部は、
前記本体部の上面近傍に配置され、前記受け金具に係合可能な係合部と、
内部に設けられるハートカム溝と、
前記ハートカム溝に係合することで前記ハートカム溝に沿って移動可能な変位部材と、
前記変位部材に接続され、前記戸体の移動により伸縮して前記戸体を付勢する付勢部材と、を有し、
前記受け金具及び前記係合部により構成される一対の係合部材と、前記ハートカム溝と、前記変位部材と、前記付勢部材とは、前記係合部が前記受け金具に係合した状態で、前記戸体が開方向に移動することにより、前記付勢部材が前記戸体を付勢し、前記戸体を所定位置に保持するキャッチ機構と、前記戸体の所定位置から前記戸体の開方向へのさらなる移動により前記戸体の保持を解除するポップアップ機構と、を構成する、開閉装置。
【請求項2】
記ハートカム溝は、
前記戸体が開方向に移動する際に内部を前記変位部材が移動する往路と、
前記往路の終端から、前記往路と異なる経路に延びる復路と、
前記往路及び前記復路の間に配置され、前記戸体が前記キャッチ機構に保持されるときに前記変位部材が位置する中間部と、を有し、
該中間部を挟んで前記往路側及び前記復路側の両側に、前記変位部材の逆戻りを妨げる段差が形成される、請求項1に記載の開閉装置。
【請求項3】
前記往路は、前記戸体の開方向への移動を可能にする第1往路と、該第1往路の終端から折り返すように延びる第2往路と、を有し、
前記復路は、前記第2往路の終端側から、前記第1往路の進行方向に沿って延びる第1復路と、該第1復路の終端から前記第1往路の進行方向と逆方向へ向かって延びる第2復路を、を有し、
前記中間部は、前記第2往路の終端及び前記第1復路の始端を結ぶ位置に配置され、
前記第2往路の長さと、前記第1復路の長さとは、実質的に等しい請求項2に記載の開閉装置。
【請求項4】
前記本体部は、前記上枠に固定される固定部材内をスライド移動する請求項2又は3に記載の開閉装置。
【請求項5】
前記受け金具は、前記固定部材に固定され、
前記一対の係合部材は、開状態の前記戸体を閉方向に引張り移動させたときに互いの係合が解除される請求項4に記載の開閉装置。
【請求項6】
前記戸体は、戸袋に収容される引込戸であり、
前記戸袋内の上端側における戸先側に、軟質素材が設けられる請求項1〜5いずれか1項に記載の開閉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、引戸の中には、戸袋に戸体が納まる引込戸タイプが存在する。引込戸は、通常の開閉操作で戸体を戸袋に納めることは容易だが、引込戸を閉める際には戸袋から戸体を引っ張り出す必要があり、開閉操作に手間がかかる。このため、引込戸が戸袋から自動的に飛び出し、その後使用者が戸体に手をかけて引込戸を閉められるようにした「ポップアップ機能」を備えた引込戸が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
引戸は、開くときに戸体の移動速度を減衰させないと、戸先側の端部が跳ね返って戸体が戻ることがある。このため、戸体の戸先が引戸の戸先側端部に到達する間際に、戸体の速度を適正に減速させて、戸体が戻らず引戸が完全に開くように手を添える必要がある。そこで、戸体が引戸の戸先側端部に到達する前に、移動速度を減速させる緩衝ダンパを戸体に設けたり(例えば、特許文献2参照)、戸体を捕捉する捕捉部材を設けたりすることで(例えば、特許文献3参照)、戸体の移動速度を減衰させる減衰機構を備える開閉装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−7332号公報
【特許文献2】特開2009−127293号公報
【特許文献3】特開2013−170415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2や3のような減衰機構を備えた引戸では、戸体を戸先側へ移動させて引き戸を開ける操作はスムーズだが、引戸を戸尻側へ移動させて閉める際には、減衰機構を解除する必要が生じる。このため、引戸を戸尻側へ引き出す際、最初に通常の操作よりも力が必要となる。また、戸体を戸袋に納める引込戸においては、戸を戸袋から引き出す際に、戸袋が邪魔して通常の引戸のように減衰機構を解除できないので、特許文献2や3のような減衰機構を搭載することはできない。
【0006】
また、減衰機構の設けられた引戸と、戸袋に戸体を納める引込戸とが混在する住居の場合は、減衰機構の設けられた引戸の操作感覚で、減衰機構の設けられていない引込戸の開閉操作をしてしまうことが考えられる。この場合、使用者が勢いよく引込戸を操作することにより戸の跳ね返りによるケガや戸体の破損が懸念される。また、ポップアップ機能を備えた引込戸では、強い衝撃によりポップアップ機能が設けられた部品の破損の恐れがある。
【0007】
このため、戸体を自動的に飛び出させるポップアップ機構と、戸先側へ移動した戸体が戻らないように、戸体の移動速度を減速させて戸体を保持するキャッチ機構とが両立した開閉装置が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明は、上枠(例えば、後述の上枠41)の長手方向に沿って移動可能な戸体(例えば、後述の引込戸100)に用いられる開閉装置(例えば、後述の開閉装置1)であって、前記上枠に、前記戸体の開方向への移動により前記戸体を付勢部材(例えば、後述のばね14)により付勢させるとともに、前記付勢部材が付勢された状態で前記戸体を所定位置に保持するキャッチ機構を有し、前記キャッチ機構は、前記戸体の所定位置から前記戸体の開方向へのさらなる移動により前記戸体の保持を解除する開閉装置を提供する。
【0009】
前記戸体とともにスライド移動可能な本体部(例えば、後述の本体部10)をさらに備え、該本体部は、その内部に設けられるハートカム溝(例えば、後述のハートカム溝20)及び該ハートカム溝に係合することで前記ハートカム溝に沿って移動可能な変位部材(例えば、後述のクランク15)を有し、前記ハートカム溝は、前記戸体が開方向に移動する際に内部を前記変位部材が移動する往路(例えば、後述の往路24)と、前記往路の終端から、前記往路と異なる経路に延びる復路(例えば、後述の復路25)と、前記往路及び前記復路の間に配置され、前記戸体が前記キャッチ機構に保持されるときに前記変位部材が位置する中間部(例えば、後述の中間部23)と、を有し、該中間部を挟んで前記往路側及び前記復路側の両側に、前記変位部材の逆戻りを妨げる段差(例えば、後述の段差26)が形成される、ことが好ましい。
【0010】
前記往路は、前記戸体の開方向への移動を可能にする第1往路(例えば、後述の第1往路241)と、該第1往路の終端から折り返すように延びる第2往路(例えば、後述の第2往路242)と、を有し、前記復路は、前記第2往路の終端側から、前記第1往路の進行方向に沿って延びる第1復路(例えば、後述の第1復路251)と、該第1復路の終端から前記第1往路の進行方向と逆方向へ向かって延びる第2復路(例えば、後述の第2復路252)を、を有し、前記中間部は、前記第2往路の終端及び前記第1復路の始端を結ぶ位置に配置され、前記第2往路の長さと、前記第1復路の長さとは、実質的に等しいことが好ましい。
【0011】
前記本体部は、前記上枠に固定される固定部材(例えば、後述のスライドレール101)内をスライド移動することが好ましい。
【0012】
前記固定部材に固定される受け金具(例えば、後述の受け金具31)及び前記本体部に設けられる係合部(例えば、後述の係合部32)により構成される一対の係合部材(例えば、後述の一対の係合部材30)をさらに備え、前記一対の係合部材は、開状態の前記戸体を閉方向に引張り移動させたときに互いの係合が解除されることが好ましい。
【0013】
前記戸体は、戸袋に収容される引込戸であり、前記戸袋(例えば、後述の戸袋200)内の上端側における戸先側に、軟質素材(例えば、後述のストッパー202)が設けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、戸体を自動的に飛び出させるポップアップ機構と、戸先側へ移動した戸体が戻らないように、戸体の移動速度を減速させて戸体を保持するキャッチ機構とが両立した開閉装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態の開閉装置を示し、(a)図は引込戸が開口部を閉じた閉状態の正面図であり、(b)図は、引込戸が開口部を開けた開状態における戸袋内の戸先側の部分図である。
図2】本実施形態の開閉装置、ダンパ及び吊車の連結構造を示す斜視図である。
図3】本実施形態の開閉装置の断面図である。
図4】本実施形態の開閉装置が設けられた引込戸の上部を示す部分図であり、(a)図は受け金具と係合部とが接触した状態を示し、(b)図は開閉装置が待機位置に至る寸前の状態を示し、(c)図は開閉装置が待機位置にある状態を示す。
図5】本実施形態の開閉装置が設けられた引込戸を示す部分図であり、(a)図は引込戸を戸袋に押し込んだ状態を示し、(b)図は引込戸が戸袋から飛び出した状態を示す。
図6】本実施形態の開閉装置を示す断面模式図であり、(a)図は受け金具と係合部とが接触した状態を示し、(b)図はクランクが待機位置に至る寸前の状態を示し、(c)図はクランクの待機位置を示す。
図7】本実施形態の開閉装置を示す断面模式図であり、(a)図は引込戸を戸袋に押し込んだ状態を示し、(b)図は引込戸が戸袋から飛び出した状態を示す。
図8】本実施形態のハートカム溝及び変位部材の動作を説明するための図であり、(a)図は、ハートカム溝、(b)図は(a)図に対応する変位部材の変位する軌道、(c)図は、ハートカム溝を立体的に説明するための模式図である。
図9】本実施形態の開閉装置を示す断面模式図であり、(a)図は引込戸を無理に引き出そうとしている状態、(b)図は引込戸を戸袋に戻そうとする状態、(c)図は、引込戸が正常状態に復帰する状態を示す。
図10】本実施形態の開閉装置を示す断面模式図であり、引込戸を強い力で戸袋に押し込んだ状態を示す。
図11】本実施形態の開閉装置が設けられた引込戸の上部を示す部分図であり、(a)図は引込戸を強い力で押した状態を示し、(b)図は引込戸が戸袋の閉端に衝突した衝撃が緩衝される様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。図1(a)は、本実施形態の戸体としての引込戸100と、引込戸100が収容される戸袋200とを示す正面図である。
【0017】
図1(a)に示すように、引込戸100及び戸袋200は、部屋等の開口部(図1(a)では開口部は閉じられているため、示されていない)と、開口部から連続し、開口部と略同じ幅を有して隣接する空間を囲む枠4内に設けられる。枠4は、開口部の周縁や、戸袋200の側縁等により構成されており、開口部の周囲を囲う部材としての枠体を意味するものではない。
【0018】
戸袋200は、枠4の一方側の半分で、部屋と部屋を仕切る壁の一部に形成される。戸袋200の底面は床側に位置し、戸袋200の上面は鴨居201等の部屋の上部の構造に連続する。戸袋200は、引込戸100を内部に収容し、引込戸100の周囲を囲むことが可能な寸法の空間を有する。戸袋200は、引込戸100が出入りする側が開口するとともに、開口の反対側が閉端となっている。
【0019】
引込戸100は、戸袋200内に収容可能な寸法を有する長方形の板体である。引込戸100の上端には、幅方向の一方及び他方に吊車109が設けられる。引込戸100は、吊車109により吊りこまれ、枠4の上部の上枠41の長手方向に沿って戸袋200の内外をスライド移動する。
【0020】
引込戸100は、戸袋200内に収容された状態で、引込戸100が配置される開口部を開状態にする。引込戸100が開状態のとき、部屋と部屋の間は開放される。また、図1(a)に示すように、戸袋200内の空間から引き出された状態で引込戸100が配置される開口部を閉状態にする。引込戸100が閉状態のとき、部屋と部屋の間は仕切られる。
【0021】
図1(b)は、戸袋200に引込戸100を収容した開状態における戸先側の部分図である。図1(a)及び(b)に示すように、戸袋200の戸先側の上部には、戸体のストッパー202が設けられている。ストッパー202は、平坦な部分202aと、平坦な部分より厚い部分202bとを有し、平坦な部分202aは、戸袋200の戸先側上部の内側縁に沿って配置され、引込戸100の上端を受け止める。厚い部分202bは、戸袋200の戸先側の最上端に配置され、吊車109を受け止める。ストッパー202は、軟質素材、例えば軟質ポリエチレンで構成される。
【0022】
図2は、引込戸100の上部に配置される開閉装置1の本体部10(後に詳述する)と、開閉装置1の本体部10に連結されるダンパ9及び吊車109の連結構造を示す斜視図である。図2に示すように、開閉装置1の本体部10の後方端部の下方側からは、連結用突起111が突出し、連結用突起111を介してダンパ9にねじ留めされる。また、ダンパ9の後方端部は吊車109に連結されている。
図2に示すように、吊車109には、下方に延びる吊り下げ部108が設けられており、図1(a)に示すように、吊り下げ部108が引込戸100の一方側の端部に埋め込まれることで、開閉装置1と引込戸100が間接的に接続されている。
【0023】
図3は、本実施形態における開閉装置1の断面図であり、開閉装置1が戸袋200の上側に配置された状態を示す。図4(a)〜図4(c)及び図5(a)及び図5(b)は、本実施形態の開閉装置1が設けられた引込戸の上部を示す部分図である。図6(a)〜図6(c)及び図7(a)及び図7(b)は、本実施形態の開閉装置1を示す断面模式図である。
本実施形態では、開閉装置1は、戸袋200に収容されるスライド式の引込戸100に用いられる。開閉装置1は、図3及び図4(a)等に示す固定部材としてのスライドレール101と、一対の係合部材30を構成する受け金具31及び係合部32と、本体部10と、図6(a)等に示す変位部材としてのクランク15と、付勢部材としてのばね14と、ハートカム溝20と、を有する。
【0024】
スライドレール101は、図1に示すように上枠41に固定されて、戸袋200の閉端から外部へ延び、戸袋200の幅と略同じ幅の分、延出している。スライドレール101は、引込戸100の移動領域における上部の鴨居201に固定される。スライドレール101は、内部に吊車109を係合させて、引込戸100をスライド移動可能に案内する。スライドレール101は、引込戸100を吊る吊車109を保持するように、断面視で下方が開口した略コの字の形状を有する。
なお、戸袋200の下側においては、スライドレール101に対応する位置に、引込戸100を案内するガイド金具102が形成されている。
【0025】
受け金具31は、開閉装置1における一対の係合部材30の一方を構成し、係合される側の部材である。
図3に示すように、受け金具31は、スライドレール101の内面にねじで固定して取り付けられる。受け金具31は、取り付け面311と、被係合突出部312と、を有する。
取り付け面311は、スライドレール101の上面と合わさる平坦な面である。
被係合突出部312は、取り付け面311と同じ幅と有するとともに、取り付け面311に直交する下方向に突出する突起である。
【0026】
図3及び図4(a)〜図5(b)等に示すように、本体部10は、スライドレール101内に取り付けられる。本体部10は、スライドレール101内をスライド移動可能な幅及び高さを有する細長い筺体であり、引込戸100とともにスライド移動する。
【0027】
図6(a)等に示すように、本体部10は、ケース本体11及びタイヤ17により構成される。
ケース本体11は、略直方体の形状を有し、本体部10の外郭を概ね形成する。ケース本体11は、上述の連結用突起111と、スライド用溝112と、上部規制突起113と、を有する。
連結用突起111は、ケース本体11の戸尻側端部の下側に配置され、本体部10とダンパ9とを連結するためダンパ9の端部に挿入される(図2参照)。
スライド用溝112は、ケース本体11の上面の戸先側に、長手方向に沿って形成される貫通孔である。スライド用溝112は、以下に説明するケース本体11の内部の構成部品がスライド移動できるように形成されている。
上部規制突起113は、スライド用溝112の戸尻側の端部に配置され、ケース本体11の幅方向の一方と他方に一対形成されている。上部規制突起113は、戸先側が高く、戸尻側が低い略三角形状である。
【0028】
ケース本体11は、内部に本体部10の構成部品である係合部32と、係合部案内溝13と、ばね14と、クランク15と、スライダー16と、ハートカム溝20と、を収容する。ケース本体11は、長手方向に沿う側面の一方側と他方側に二つに分かれる側面部材11a、11bが向い合せに接合されて形成されている(図2参照)。
タイヤ17は、ケース本体11がスライドレール101内をスライド移動できるようにケース本体11に外付けされる。
【0029】
係合部32は、一対の係合部材30の他方を構成し、係合する側の部材である。
図6(a)等に示すように、係合部32は、本体部10に設けられ、ケース本体11内部の戸先側の上面近傍に配置される。係合部32は、受け金具31に係合可能であり、第1係合部321と、第2係合部322と、第1係合軸323と、第2係合軸324と、を有し、上下方向に搖動可能に取り付けられている。
【0030】
第1係合部321は、ケース本体11から上部へ突出するように配置される。
第2係合部322は、第1係合部321に対向するように第1係合部321から連続して延び、第1係合部321との間に凹部が形成される程度、第1係合部321から戸先側へ離間する位置に形成される。第2係合部322は、第1係合部321よりも上方へ突出する高さが低く、上面に緩やかな湾曲面を有する。
第1係合軸323は、ケース本体11の幅方向に延びる軸であり、第1係合部321の内部を挿通する。
第2係合軸324は、ケース本体11の幅方向に延びる軸であり、第2係合部322の内部を挿通する。
【0031】
係合部案内溝13は、ケース本体11の戸先側に、ケース本体11の延びる方向に沿って形成される溝である。係合部案内溝13は、ケース本体11の上面側に配置され、戸先側の端部が下り傾斜するように曲がっている。係合部案内溝13の戸先側端部13aは、戸尻側端部13bよりも下方に位置している。
係合部案内溝13の内部には、第2係合軸324が配置されており、ケース本体11の走行に伴って第2係合軸324が係合部案内溝13内を走行し、係合部案内溝13の戸先側で下方に落ちることで、係合部32の第2係合部322が揺動するように構成されている。
【0032】
ばね14は、ケース本体11に沿って配置される。ばね14は、ケース本体11の戸先側に、ばね14の戸先側の一端部が固定され、ばね14の戸尻側の他端部は、後述するように、クランク15にスライダー16を介して接続される。ばね14は、係合部32の位置によって、ケース本体11の走行方向に沿って伸縮する引張ばねである。
【0033】
スライダー16は、係合部32と、ばね14と、後述するクランク15とを連結する部品であり、ケース本体11の内部をケース本体11に沿ってスライド移動する。スライダー16は係合部32に当接するように上方へ向かって突出する突出部161と、ばね14に接続されるばね接続部162と、クランク15に接続されるクランク接続部163とを有する。
突出部161は、係合部32の第1係合部321における戸尻側の面が当接し、ケース本体11の上部に突出する上下方向に延びる面と、第1係合部321の下面に当接する面とを有する略L字状の形状を有する。突出部161は、この略L字状の内面に第1係合部321が位置するように、第1係合軸323に接続されている。
ばね接続部162は、スライダー16の下方端部に形成され、ばね14の戸尻側の他端部を収容する略円筒状の凹部により構成される。
クランク接続部163は、ばね接続部162の戸尻側に配置され、クランク15に接続される。
【0034】
図8はハートカム溝20及びクランク15の動作を説明するための図であり、図8(a)は、ハートカム溝、図8(b)は図8(a)に対応するクランク15の変位する軌道、図8(c)は、ハートカム溝を立体的に説明するための模式図である。
【0035】
クランク15は、次に説明するハートカム溝20内を移動して変位する部材であり、クランク本体151と、クランク本体揺動軸152と、カム係合軸153と、を有する。
【0036】
クランク本体151は、スライダー16を介して係合部32及びばね14に接続される。クランク本体151は、戸先側の端部がクランク接続部163に接続される。図8(b)に示すように、クランク本体151は、上から見た状態で向かい合う二つの側面151a、151bを有するように分岐している。クランク本体151は、ハートカム溝20に面する側の側面151bが、ケース本体11の幅方向に撓むような可撓性の素材で構成される。
【0037】
クランク本体揺動軸152は、クランク本体151の戸先側の端部に配置され、ケース本体11の幅方向に沿って延びる軸である。クランク本体揺動軸152は、スライダー16のクランク接続部163に配置されて、クランク本体151を挿通する。
【0038】
カム係合軸153は、クランク本体151における、ハートカム溝20に面する一方の側面151bの戸尻側端部に配置される。カム係合軸153は、クランク本体揺動軸152と平行する方向に延びる軸であり、ハートカム溝20に向かって突出する。カム係合軸153は、ハートカム溝20に係合し、引込戸100のスライド移動に伴ってハートカム溝20に沿って移動し、クランク15を変位させる。
【0039】
ハートカム溝20は、本体部10の内部に設けられる。具体的には、ハートカム溝20は、ケース本体11における一方の側面の内側の戸尻側に配置される。ハートカム溝20は、例えば、図2に示されるケース本体11の奥側の側面部材11aの内面側に形成されており、ケース本体11の手前側の側面部材11bの内面は、平坦になっている。ハートカム溝20は、ハート型の外形に形成される溝であり、ハート形の形状が、ケース本体11の側面視に表れるように配置されている。ハートカム溝20は、第1の凸部21と、第2の凸部22と、中間部23と、往路24と、復路25と、を有する。
【0040】
第1の凸部21は、ハート型の一対の凸部の内の一方の凸部であり、その頂点がケース本体11における戸尻側の上部に配置される。
第2の凸部22は、ハート型の一対の凸部の内の他方の凸部であり、その頂点がケース本体11における戸尻側の下部に配置される。
【0041】
往路24は、引込戸100が開方向に移動する際に内部をクランク15が移動する経路であり、第1往路241と、第2往路242と、を有する。
第1往路241は、戸先側から第1の凸部21へ向かう経路であり、引込戸100の開方向への移動を可能にするようにケース本体11の長手方向に沿って延びる。
第2往路242は、第1往路241の終端に位置する第1の凸部21から戸先側に向かって折り返すように延びる。
【0042】
復路25は、往路24(第2往路242)の終端から、往路24とは異なる経路に延びる。復路25は、第1復路251と、第2復路252と、を有する。
第1復路251は、第2往路242の終端側から戸尻側の第2の凸部22へ向かう経路であり、第1往路241の進行方向に沿って延びる。
第2復路252は、第1復路251の終端に位置する第2の凸部22から戸先側に向かい、第1往路241の進行方向と逆方向に延びる。第2復路252は、その終端が第1往路241に合流して一本の経路になる。
【0043】
中間部23は、往路24及び復路25の中間に配置される。具体的には、中間部23は、第2往路242の終端であってかつ第1復路251の始端に、第2往路242の終端及び第1復路251の始端を結ぶ位置に配置される。また、中間部23は、第1の凸部21及び第2の凸部22の間に位置し、第1の凸部21及び第2の凸部22よりも戸先側に配置される。ケース本体11の側面視で、中間部23は、第1の凸部21及び第2の凸部22の間に形成される凹部の下端を構成する。第2往路242の長さ(すなわち、第1往路241の終端から中間部23までの距離)と、第1復路251の長さ(すなわち、中間部23から第1復路251の終端までの距離)とは、実質的に等しく形成される。
【0044】
ハートカム溝20は、溝内に傾斜面及び段差26が形成されている。図8(a)は、ハートカム溝20における各地点a〜iを示している。図8(b)は、ハートカム溝20内をクランク15のカム係合軸153が移動した場合のカム係合軸153の軌跡を示すとともに、ハートカム溝20内の高低差を表す。図8(c)は、溝内の傾斜面及び段差26を視覚的に表しており、溝内の高さ方向に陰影を付している。
【0045】
図8(b)に示すように、ハートカム溝20はケース本体11の側面における外面側と内面側との間で凹凸が形成され、カム係合軸153は溝内の凹凸に沿って撓みながらスライド移動する。
【0046】
図8(a)〜図8(c)に示すように、ハートカム溝20の第1往路241におけるa地点からb地点までは、平坦な面である。b地点からc地点までは、a地点からb地点までよりも高くなるように上り傾斜する(すなわち、ケース本体11の外面側から内面側へ向かって傾斜する)。c地点とd地点の間では、a地点からb地点までの面の深さまで戻るような段差26が形成される(すなわち、ケース本体11の外面側へ向かって低くなる)。d地点は、第1の凸部21に対応し、a地点からd地点までが第1往路241を構成する。
第2往路242におけるd地点からe地点までは、d地点よりも高くなるように上り傾斜する。e地点とf地点の間では、d地点の深さまで戻るような段差26が形成される。f地点は、中間部23を構成する。
第1復路251におけるf地点からg地点までは、f地点よりも高くなるように上り傾斜する。g地点とh地点の間では、f地点の深さまで戻るような段差26が形成される。h地点は、第2の凸部22を構成する。
第2復路252におけるh地点からi地点までは、h地点よりも高くなるように傾斜する。i地点とb地点の間では、b地点の深さまで戻るような段差26が形成される。
第2復路252は、その終端側で第1往路241に接続され、二つの経路が合流してb地点からa地点に向かう。
【0047】
以上の受け金具31及び係合部32により構成される一対の係合部材30と、ハートカム溝20と、クランク15及びばね14により、キャッチ機構及びポップアップ機構が構成される。
次に、開閉装置1の使用状態について説明する。
【0048】
図4及び図6は、引込戸100が戸袋200に収納されて開閉装置が待機位置に位置するまでを示す。図4及び図6では、各図がそれぞれ対応しており、図4(a)及び図6(a)は、受け金具31と係合部32とが接触した状態を示し、図4(b)及び図6(b)は、クランク15が待機位置に至る寸前の状態を示し、図4(c)及び図6(c)は、クランク15の待機位置を示す。
【0049】
まず、図1(a)に示すように、引込戸100は、戸袋200から完全に外部に出た閉状態にある。閉状態では、部屋と部屋の間が仕切られている。この仕切りを開放するため、引込戸100を図4(a)、(b)の矢印で示す開方向にスライド移動させ、戸袋200の中に収納することで、引込戸100を閉状態から開状態に向けて移動させる。このとき、引込戸100に設けられている本体部10は、スライドレール101内をスライド移動する。
図1(b)に示すように、引込戸100は、戸袋200の戸先側でストッパー202により受け止められ、衝撃が低減される。
【0050】
図4(a)及び図6(a)に示すように、引込戸100を開方向にスライドさせて戸袋200の中へ収納していくと、引込戸100の上部に設けられた開閉装置1におけるケース本体11の上部で、係合部32が受け金具31に接触する。このとき、第1係合部321が、受け金具31の被係合突出部312に引っ掛かる。ばね14は、係合部32が受け金具31に近付いて接触するまでは、付勢力を発生させない非伸長状態にある。
【0051】
係合部32が受け金具31に接触した後、引込戸100をさらに開方向へ移動させると、第1係合部321が、受け金具31の被係合突出部312に引っ掛かった状態で、ケース本体11が戸先側へ進み、係合部案内溝13の内部に第2係合軸324を挿通させた状態で進行する。このとき、第2係合軸324は上方に上がり、第2係合部322も上方に揺動して被係合突出部312に係合する。第2係合軸324が係合部案内溝13の戸尻側端部13bに当接した後、さらに引込戸100を開方向への荷重が加えられた場合、第1係合部321には戸尻側に反り返るように回転する荷重が加わる。しかし、スライダー16の突出部161に、係合部32の戸尻側の端部が当接することより、係合部32が過回転しないように受け止められる。
【0052】
なお、このとき、ケース本体11もケース本体11内部の係合部32の移動にしたがって移動する。上部規制突起113の三角形状の角度は、係合部32とスライダー16の突出部161が当接して並んだ状態で形成される三角形の大きさと揃っている(図6(b)参照)。第2係合軸324が係合部案内溝13の戸尻側端部13bに当接後、係合部32の戸尻側端部がスライダー16の突出部161に当接すると同時に、係合部32の戸尻側端部が上部規制突起113に当接することで、係合部32が過回転しないように受け止められる。
【0053】
また、引込戸100の移動に伴ってケース本体11が戸先側へ移動することで、ばね14が戸先側へ引っ張られて伸ばされ、引込戸100を開方向に付勢させる第1伸長状態になる。このとき、使用者が引込戸100を押すことで、引込戸100に戸先側へ進行する慣性が働くが、引込戸100の慣性は、ばね14を引っ張ることで相殺される。すなわち、ばね14が引っ張られることで、付勢力が発生し、引込戸100の戸先側へ進む速度が減衰する。引込戸100の移動速度が適切であれば、引込戸100のスライド移動に伴って、クランク15はハートカム溝20内の第1往路241(a地点からd地点)を移動して第1の凸部21へ進み、第1往路241の戸尻側の端部で第1の凸部21の頂点に達する。このとき、d地点には、c地点よりもd地点の方が深く(ケース本体11の外面側に)下がるような段差26が形成されているので、d地点からc地点の方向、すなわち第1往路241を逆流するような方向へクランク15のカム係合軸153が戻ることはできない(図8(a)〜(c)参照)。
【0054】
図4(b)及び図6(b)に示すように、クランク15は、第1の凸部21へ到達すると、ばね14に引っ張られて第2往路242を移動する。また、クランク15に対して重力も働くので、第1の凸部21よりも下方の中間部23へ移動して、中間部23内に係止される。このとき、クランク15のカム係合軸153は、d地点からe地点まで上り斜面(ケース本体11の内面側へ向かう斜面)を移動して、f地点に形成された段差26で落ちる(ケース本体11の外面側に嵌まる)。カム係合軸153は、f地点の方がe地点よりも低くなっているので、第1の凸部21から中間部23へ至る第2往路242を戻ることはできない(図8(a)〜(c)参照)。
【0055】
図4(c)及び図6(c)に示すように、ばね14の付勢力を維持した状態で、クランク15のカム係合軸153が、ハートカム溝20の中間部23に至ることで、引込戸100は戸尻側へ跳ね返ることなく不可逆的にキャッチされる。引込戸100は、クランク15が中間部23に位置している間、戸袋200内に収容された位置で、ばね14により開方向に付勢された状態で保持される。こうして、引込戸100の開状態が保持されるキャッチ機構が構成される。
【0056】
図5及び図7は、開閉装置1が待機位置から移動して引込戸100が戸袋200から開方向と反対の閉方向へ飛び出すようにポップアップする状態を示す。図5及び図7は、各図がそれぞれ対応しており、図5(a)及び図7(a)は、引込戸100を戸袋200に押し込まれた状態を示し、図5(b)及び図7(b)は、引込戸100が戸袋200から飛び出した状態を示す。
【0057】
図5(a)及び図7(a)に示すように、使用者は、引込戸100を引き出したいと望んだ時に、引込戸100の戸尻側の端面を、戸先側へ押圧する。すると、引込戸100が開方向にさらに移動することで、引込戸100の保持が解除され、クランク15のカム係合軸153は、ハートカム溝20内の中間部23から、第1復路251を通り、第2の凸部22へ変位する。このとき、クランク15のカム係合軸153は、f地点からg地点まで上り斜面(ケース本体11の内面側へ向かう斜面)を移動して、h地点に形成された段差26で落ちる(ケース本体11の外面側に嵌まる)。カム係合軸153は、h地点の方がg地点よりも低くなっているので、第2の凸部22から中間部23へ至る第1復路251を戻ることはできない。
【0058】
このように、中間部23を挟んで往路24側及び復路25側の両側に、クランク15の逆戻りを妨げる段差26が形成されている。
【0059】
図5(b)及び図7(b)に示すように、クランク15が第2の凸部22へ移動すると、第2の凸部22から復路25の間にはクランク15の移動を妨げるものがないので、第2復路252内の移動が自由になる。同時に、引込戸100が戸先側へ押しこまれてクランク15の中間部23に対する係止が解かれると、戸先側へ引っ張られていたばね14は、引込戸100が閉方向へ移動する際に付勢力を解除する第2伸長状態となり、引込戸100を押し戻す方向に復元する。引込戸100は、ばね14の復元力を受けながら、クランク15がケース本体11の第2復路252を通過し、戸先側へ移動することで、引込戸100は戸袋200の外側へポップアップする。戸袋200から引込戸100が飛び出した後は、使用者が引込戸100の戸尻側端部を把持して、引き出す。こうして引込戸100の開状態が閉状態に変化するポップアップ機構が構成される。
【0060】
図9は、使用者が引込戸100を無理に引っ張り出そうとした状態を示す。図9(a)は、引込戸100を無理に引き出そうとした状態、図9(b)は、引き出した後、引込戸100を戸袋200内に戻そうとする状態、図9(c)図は、引込戸100が正常状態に復帰する状態を示す。
【0061】
図9(a)に示すように、使用者が、引込戸100を戸先側へ押し込むとポップアップするということを知らない場合、クランク15が待機位置にある状態で、戸袋200に指を入れて引込戸100を掴み、開状態の引込戸100を戸尻方向へ引っ張って移動させ、引き抜こうとすることが考えられる。この場合、クランク15を待機状態に残したまま引込戸100が戸尻側に引っ張られる。すると、本体部10のケース本体11と、ケース本体11に連結されるダンパ9との連結部分が下方に撓んで沈み、係合部32の第2係合部322が受け金具31の被係合突出部312を超え、係合部32と受け金具31との互いの係合が解除される。この状態は、誤作動状態である。誤作動させた状態でさらに引込戸100を引いて、戸袋200から完全に取り出すと、そのまま閉状態へ引込戸100を引くことができる。
【0062】
図9(b)に示すように、閉状態の後、再び開状態にするため引込戸100を戸袋200に収納しようとするときは、クランク15を待機位置に位置させたまま、引込戸100を戸先方向へ移動させる。すると、図9(c)に示すように、第2係合部322が受け金具31に当たって揺動し、下方へ押される。すると、クランク15は第2の凸部22位置へ変位する。クランク15が第2の凸部22に移動した後は、第2復路252を移動し、正常状態に復帰して引込戸100が戸袋200に収納される。
【0063】
図10は、使用者が引込戸100を無理に押し込んだ状態を示す。強い力で押し込むと、第1係合部321が受け金具31を乗り越えて戸先側へ進もうとする。この場合、クランク15が第2の凸部22に移動するので、正常状態に復帰して、図5(b)及び、図7(b)と同じ状態で引込戸100が飛び出る。引込戸100をあまりに強く押しすぎると、キャッチ機構は作動しないが、開閉装置1が設けられているために、何も設置しない引込戸等の戸体と比べると、緩衝材的な役割を果たし、戸体周辺の戸枠やその他の部材に、戸体の移動と衝突による影響が及びにくい。
【0064】
図11は、引込戸100を強すぎる力で閉めた場合を示し、図11(a)は引込戸100が戸袋200の閉端に衝突した状態を示し、図11(b)は、引込戸100が戸袋200に閉端にあたって反発した状態を示す。なお、ストッパー202は説明の便宜のため省略している。
図11(a)に示すように、引込戸100が戸袋200の閉端に衝突して反発するほど強い力で押した場合でも、本実施形態では、クランク15のカム係合軸153は、ハートカム溝20のループから逃げられるように構成されていない。しかし、図11(b)に示すように、引込戸100の衝突による衝撃は、本体部10のケース本体11と、ケース本体11に連結されるダンパ9が下方に撓むことで、吸収される。ケース本体11及びダンパ9は、スライドレール101内に軽く支持された状態で、ケース本体11の下部に設けられた連結用突起111(図2参照)で連結されている。このため、連結された部分が撓むことで、ケース本体11側又はダンパ9側に無理に力がかかっても、連結された他方にその力が及びにくくなるように構成されている。
【0065】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態によれば、上枠41の長手方向に沿って移動可能な引込戸100に用いられる開閉装置1を、上枠41に、引込戸100の開方向への移動により引込戸100をばね14により付勢させるとともに、ばね14が付勢された状態で引込戸100を所定位置に保持するキャッチ機構を含んで構成し、キャッチ機構が、引込戸100の所定位置から引込戸100の開方向へのさらなる移動により引込戸100の保持を解除するように構成した。
本実施形態によれば、開閉装置1が、引込戸100を勢いよく開けたときに、戸袋200内の戸先側端部に跳ね返って飛び出てしまわないように、引込戸100を開方向に引っ張る一方で、引込戸100が開方向へ移動する慣性を減衰させるばね14を設けた。これにより、引込戸100の移動を減速させるとともに保持するキャッチ機構と、戸袋200内に完全に収納された引込戸100を、戸袋200に指を入れて取り出そうとしなくとも、引込戸100の戸尻側の端面を押して開方向へさらに移動させるだけで自動的に開方向と逆の閉方向へ飛び出すように移動させるポップアップ機構と、の両方を兼ね添えることができる。ある程度の勢いをもって引込戸100を戸袋200に収容するように押した場合でも、引込戸100をキャッチできる一方で、閉方向に飛び出させるポップアップ機構を有するので、引込戸100の出し入れが容易になる。
また、引込戸100にポップアップ用の機能部品を別途取り付ける必要がなくなり、引込戸100を跳ね返すために強度の高い部材を取り付ける必要がなくなるので、製造コストが低減される。
【0066】
本実施形態によれば、開閉装置1を、引込戸100とともにスライド移動可能な本体部10をさらに含んで構成した。また、本体部10を、その内部に設けられるハートカム溝20及び該ハートカム溝20に係合することでハートカム溝20に沿って移動可能なクランク15を含んで構成し、ハートカム溝20を、引込戸100が開方向に移動する際に内部をクランク15が移動する往路24と、往路24の終端から、往路24と異なる経路に延びる復路25と、往路24及び復路25の間に配置され、引込戸100がキャッチ機構に保持されるときにクランク15が位置する中間部23と、を含んで構成し、中間部23を挟んで往路24側及び復路25側の両側に、クランク15の逆戻りを妨げる段差26を形成した。
本実施形態によれば、引込戸100とともにスライド移動する本体部10の内部に、本体部の移動する軌道を規定するハートカム溝20と、ハートカム溝20内を移動するクランク15とを設けた。そして、引込戸100がキャッチ機構に保持された位置のときにクランク15が位置する中間部を挟んだ往路24側と復路25側に段差26を設け、クランク15が進行方向と逆の方向に逆戻りしないように構成した。これにより、クランク15の逆戻りや誤作動が防止できるので、本体部10とともにスライド移動する引込戸100の移動を正確にすることができ、キャッチ機構及びポップアップ機構を有効に働かせることができる。
【0067】
本実施形態によれば、往路24を、引込戸100の開方向への移動を可能にする第1往路241と、第1往路241の終端から折り返すように延びる第2往路242と、を含んで構成し、復路25を、第2往路242の終端側から、第1往路241の進行方向に沿って延びる第1復路251と、第1復路251の終端から第1往路241の進行方向と逆方向へ向かって延びる第2復路252を、を含んで構成した。また、中間部23を、第2往路242の終端及び第1復路251の始端を結ぶ位置に配置し、第2往路242の長さと、第1復路251の長さとを、実質的に等しく構成した。
中間部23が、引込戸100がキャッチ機構に保持された位置のときにクランク15が位置する地点であることから、第2往路242は、クランク15が中間部23に保持されて待機位置へ移動し、引込戸100がキャッチされるまでの経路である。また、第1復路は、引込戸100をさらに開方向へ押したときに、キャッチ機構が解除されるまでの経路である。したがって、第2往路242の長さと、第1復路251の長さとを、実質的に等しくすることで、引込戸100を開閉装置1にキャッチさせるために必要な力と、キャッチ機構を解除する力とを、ほぼ同程度の力に揃えることが可能となる。これにより、引込戸100を取り扱う力の強さが平均的になるので、引込戸100を押し込む際の操作感と、戸体100を一端押して飛び出すようにポップアップさせる操作感が同等となり、利便性が高まる。
【0068】
本実施形態によれば、本体部10を、上枠41に固定されるスライドレール101内をスライド移動するように構成した。これにより、引込戸100がスムーズに移動する。
【0069】
本実施形態によれば、スライドレール101に固定される受け金具31及び本体部10に設けられる係合部32により構成される一対の係合部材30をさらに含んで構成し、一対の係合部材30を、開状態の引込戸100閉方向に引張り移動させたときに互いの係合が解除されるように構成した。これにより、引込戸100が閉状態へ移動できるように開閉装置1内の機構が配置されていないときに、無理やり引込戸100を引張り移動させても、開閉装置1は故障することなく正常状態に復帰し、安全に引込戸100の開閉を行うことができる。
【0070】
本実施形態によれば、戸体を戸袋200に収容される引込戸100により構成し、戸袋200内の上端側における戸先側に、ストッパー202を設けた。これにより、引込戸100が高速で戸袋200内に入ったときに引込戸100はストッパー202に接触するので、引込戸100が戸袋200内に進入する際に衝撃を和らげ、引込戸100及び開閉装置1の破損が防止される。また、ストッパー202が、引込戸100が戸袋200の戸先側端面に当たる衝撃を弱められるので、引込戸100が戸尻側へ戻る勢いが弱まり、開閉装置1が引込戸100をキャッチすることの可能な引込戸100の慣性速度の範囲を広げることができる。
【0071】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
例えば、上記実施形態では、戸体は室内の引込戸100として説明しているが、これに限られない。閉じられた空間に出し入れされる戸又は扉であればよく、屋外の車庫や倉庫に用いられる戸等に設けられてもよい。
また、戸体は、引込戸に限られず、アウトセット(上吊式)タイプの引戸であってもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 開閉装置
10 本体部
14 ばね(付勢部材)
15 クランク(変位部材)
20 ハートカム溝
23 中間部
24 往路
25 復路
26 段差
41 上枠
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11