(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877879
(24)【登録日】2021年5月6日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】打撃装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/04 20060101AFI20210517BHJP
G01N 29/12 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
G01N29/04
G01N29/12
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-18650(P2016-18650)
(22)【出願日】2016年2月3日
(65)【公開番号】特開2017-138177(P2017-138177A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2019年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】593005644
【氏名又は名称】JFE物流株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(72)【発明者】
【氏名】中村 尚志
(72)【発明者】
【氏名】三宅 賢治
【審査官】
越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−066016(JP,A)
【文献】
特開昭53−115286(JP,A)
【文献】
特開昭62−067448(JP,A)
【文献】
特開2015−227807(JP,A)
【文献】
実公昭45−032089(JP,Y1)
【文献】
特開平10−104210(JP,A)
【文献】
特開2008−275520(JP,A)
【文献】
特開平10−026931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に検査対象物に接する円柱状の打撃部を有し、前記先端に至る途中に張出し部を有する軸と、
前記軸が貫通する貫通孔を有し、前記軸の軸方向に移動可能なウェイト部と、を備え、
前記ウェイト部が前記軸の前記張出し部に衝突することによって、前記軸の前記打撃部から前記検査対象物に直接的に打撃を与えて、金属製の検査対象物の腐食を点検し、
前記打撃部の径が前記張出し部の径よりも小さい打撃装置。
【請求項2】
前記打撃装置は、前記ウェイト部を前記軸方向における前記張出し部に向かう方向に付勢する弾性部材を備えることを特徴とする請求項1に記載の打撃装置。
【請求項3】
前記打撃装置は、前記弾性部材の弾性力に抗して前記軸方向における所定の位置に前記ウェイト部を保持可能なトリガを備えることを特徴とする請求項2に記載の打撃装置。
【請求項4】
先端に検査対象物に接する打撃部を有し、前記先端に至る途中に張出し部を有し、基端
部に作業者が握ることができるハンドル部を有する軸と、
前記軸が貫通する貫通孔を有し、前記軸の軸方向に移動可能なウェイト部と、を備える打撃装置であって、
前記ウェイト部が前記軸の前記張出し部に衝突することによって、前記軸の前記打撃部から前記検査対象物に直接的に打撃を与えて、金属製の検査対象物の腐食を点検し、
前記打撃部の径が前記張出し部の径よりも小さく、
前記打撃装置は、前記ウェイト部を前記軸方向における前記張出し部に向かう方向に付勢する弾性部材を備え、
前記打撃装置は、前記ウェイト部及び前記弾性部材を覆い、前記軸に固定される筒状のカバーを備え、
前記ハンドル部が前記カバーから露出する打撃装置。
【請求項5】
前記カバーには、前記軸方向に延在するスリットが設けられ、
前記ウェイト部には、前記カバーの外側から前記ウェイト部を前記軸方向に移動させることができるように、前記スリットを通る操作部が固定されることを特徴とする請求項4に記載の打撃装置。
【請求項6】
前記ウェイト部及び前記弾性部材を交換可能なように、前記張出し部が前記軸に着脱可能に螺合することを特徴とする請求項2ないし5のいずれか1項に記載の打撃装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象物に打撃を与える打撃装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば製鉄所等の工場内には、機械類の点検などのために金属製の歩廊、作業床、階段が設けられる。これらが腐食すると、歩行者が床面を踏み抜くおそれがある。このため、床面が腐食しているか否かを定期的に点検する必要がある。
【0003】
床面の点検を簡易に行う手段として、目視による溶接剥がれ、塗装白地、腐食減肉の程度などの確認と共に、ハンマで打診し、破れ、変形、溶接剥がれ、破断の発生有無を確認する方法が一般的である。しかし、従来のハンマでの打診では、検査部位に当てるハンマ打撃面を検査面に水平に当てる、過剰な打撃力を与えない、といった熟練の技が必要になるため、教育・訓練を受けた者が行う必要があるという課題がある。同様の課題は、橋梁、トンネル壁面等のコンクリート構造物の打音検査、樹木の打音検査にも存在する。
【0004】
この課題を解決するために、特許文献1には、ハンマの動きを模して検査対象物に一定の打撃力を与えられるようにする打撃装置が提案されている。特許文献2には、先端に打撃部を有するプラグと、プラグを軸方向に移動可能に支持する筒状の案内部と、プラグから検査対象物に打撃を与えられるようにプラグを押すエアーシリンダと、を備える打撃装置が提案されている。これらの従来の打撃装置は、人力の替わりにばねやエアーシリンダの動力を用いて検査対象物に一定の打撃力を与えようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−254948号公報
【特許文献2】特開2015−227807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の打撃装置にあっては、始めに検査対象物から離れた位置にあるハンマやプラグが、検査対象物に衝突することで検査対象物に打撃を与えている。このため、従来の打撃装置には、打撃を与える部位及び打撃力がいまだにばらつくという課題がある。また、エアーシリンダなどの動力源を用いて一定の打撃力を与える打撃装置には、外部動力が必要となるので、広範囲の点検を連続的に行うには不向きであるという課題がある。
【0007】
そこで本発明は、上記の問題点を考慮し、外部動力を必要としない簡易な構造で、定められた点検部位に対し定めた方向に一定の打撃力を与えることができる打撃装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、先端に検査対象物に接する円柱状の打撃部を有し、前記先端に至る途中に張出し部を有する軸と、前記軸が貫通する貫通孔を有し、前記軸の軸方向に移動可能なウェイト部と、を備え、前記ウェイト部が前記軸の前記張出し部に衝突することによって、前記軸の前記打撃部から前記検査対象物に直接的に打撃を与えて、金属製の検査対象物の腐食を点検し、前記打撃部の径が前記張出し部の径よりも小さい打撃装置である。
本発明の他の態様は、先端に検査対象物に接する打撃部を有し、前記先端に至る途中に張出し部を有し、基端部に作業者が握ることができるハンドル部を有する軸と、前記軸が貫通する貫通孔を有し、前記軸の軸方向に移動可能なウェイト部と、を備え
る打撃装置であって、前記ウェイト部が前記軸の前記張出し部に衝突することによって、前記軸の前記打撃部から前記検査対象物に直接的に打撃を与えて、金属製の検査対象物の腐食を点検し、前記打撃部の径が前記張出し部の径よりも小さく、前記打撃装置は、前記ウェイト部を前記軸方向における前記張出し部に向かう方向に付勢する弾性部材を備え、前記打撃装置は、前記ウェイト部及び前記弾性部材を覆い、前記軸に固定される筒状のカバーを備え、前記ハンドル部が前記カバーから露出する打撃装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、検査対象物に軸の打撃部を接触させた状態で、軸方向に移動するウェイト部の質量を利用して検査対象物に打撃力を与えるので、外部動力を必要としない簡易な構造で、検査対象物の定められた点検部位に対し定めた方向に一定の打撃力を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態の打撃装置を示す図(
図1(a)は側面図(一部断面図を含む)であり、
図1(b)は正面図(一部断面図を含む)である)。
【
図2】本実施形態の打撃装置の使用方法を説明する側面図である(
図2(a)はウェイト部を上昇させてトリガに係合させた状態を示し、
図2(b)はウェイト部を落下させてフランジに衝突させた状態を示す)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態の打撃装置を詳細に説明する。ただし、本発明の打撃装置は、種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
【0012】
図1(a)は、本実施形態の打撃装置1の側面図を示し、
図1(b)は、本実施形態の打撃装置1の正面図を示す。本実施形態の打撃装置1は、軸2、ウェイト部3、弾性部材としてのコイル状のスプリング4、トリガ5、カバー6、を備える。以下に、これらの構成要素を順番に説明する。
【0013】
軸2は、軸方向の先端に打撃部2bを、先端に至る途中に張出し部としてのフランジ7を、軸方向の基端部にハンドル部8を有する。パイプ体からなる軸本体2aの先端部の内面には、円柱状の打撃部2bが固定される。打撃部2bが検査対象物に接する。軸本体2aの先端部の外面には、円筒状のフランジ7が螺合する。フランジ7の径は軸本体2aの径よりも大きい。フランジ7は、ねじによって軸本体2aに着脱可能に取り付けられる。ハンドル部8は、作業者がハンドル部8を握ることができるように、カバー6から露出する。ハンドル部8は、軸本体2aの基端部に固定される樹脂製の握玉8aを備える。
【0014】
ウェイト部3は、軸2が貫通する貫通孔3bを有して略円筒状である。ウェイト部3は、軸2に案内されて軸方向に移動する。ウェイト部3の外面には、円周方向に延びるリング溝3aが形成される。このリング溝3aは、ウェイト部3がトリガ5に係合できるようにする。ウェイト部3には、操作部としてのボルト9が螺合する。ボルト9には、取手10が引っ掛けられる。取手10は、例えばワイヤーをリング状に丸めたものであり、カバー6の外側に配置される。作業者は、取手10を掴んでカバー6の外側からウェイト部3を軸方向に移動させる。ウェイト部3の質量は、検査対象物に与えるべき打撃力に応じて決定される。なお、ウェイト部3の質量を調整するために、ウェイト部3を軸方向に配列される複数のリング状体から構成することも可能である。
【0015】
スプリング4は、軸2を囲むように配置される。スプリング4は、ウェイト部3とカバー6の基端側ブラケット6bとの間に配置され、ウェイト部3を軸方向におけるフランジ7に向かうA方向に付勢する。スプリング4の軸方向の長さ、ばね定数は、検査対象物に与えるべき打撃力に応じて決定される。スプリング4の自然長L
sは、フランジ7に当接する位置にあるウェイト部3から基端側ブラケット6bまでの距離L
1未満に設定される(
図2(b)も参照)。
【0016】
図1に示すように、トリガ5は、鉤状であり、シーソーのように軸2に揺動可能に支持される。軸2とトリガ5との間には、トリガ5の一端の係合部5aがウェイト部3のリング溝3aに係合可能なように、トリガ5の回転方向Cに付勢するトリガ用スプリング11が設けられる。また、カバー6の外側のトリガ5の係合部5aがウェイト部3に係合可能なように、カバー6にはトリガ5の係合部5aに対応する位置に縦長の穴6c
1が空けられる。
【0017】
カバー6は、ウェイト部3及びスプリング4を覆うと共に、軸2に固定される。カバー6は、軸2の先端側に固定される環状の先端側ブラケット6aと、軸2の基端側に固定される環状の基端側ブラケット6bと、先端側ブラケット6aと基端側ブラケット6bとの間に設けられる筒状のカバー本体6cと、を備える。カバー本体6cには、軸方向に延在するスリット6c
2が形成されると共に、穴6c
1が形成される。スリット6c
2には、ウェイト部3のボルト9が通る。穴6c
1には、トリガ5の係合部5aが出入りする。カバー本体6cは、樹脂製であり、カバー本体6cの内部のスプリング4及びウェイト部3が視認できるように透明である。カバー本体6cと先端側ブラケット6aとの間の隙間12a、及びカバー本体6cと基端側ブラケット6bとの間の隙間12bには、図示しないOリングが巻かれる。
【0018】
図2を参照しつつ、本実施形態の打撃装置1の使用方法を説明する。まず、作業者が取手10(
図1(b)参照)を掴み、ウェイト部3をスプリング4のばね力に抗してフランジ7から離れる方向に移動させる。
図2(a)に示すように、ウェイト部3が軸方向の所定の位置まで移動すると、トリガ5がウェイト部3に係合し、ウェイト部3が所定の位置に保持される。スプリング4は自然長L
sよりも短い長さL
s1に縮められる。次に、作業者は、軸2が検査対象物Wの検査面に対して垂直方向を向くように打撃装置1を床面上に立て、軸2の先端の打撃部2bを検査対象物Wの点検部位に接触させる。次に、作業者は、軸2のハンドル部8を握り、トリガ用スプリング11の弾性力に抗してトリガ5をD方向に回転させる。すると、
図2(b)に示すように、トリガ5とウェイト部3との係合が外れ、ウェイト部3がその自重及びスプリング4のばね力によって落下する。落下したウェイト部3は軸2のフランジ7に衝突する。これにより、軸2の打撃部2bから検査対象物Wの点検部位に打撃が与えられる。
【0019】
以上に本実施形態の打撃装置1の構成及び使用方法を説明した。本実施形態の打撃装置1によれば以下の効果を奏する。
【0020】
検査対象物Wに軸2の打撃部2bを接触させた状態で、軸2の軸方向に移動するウェイト部3の質量を利用して検査対象物Wに打撃力を与えるので、外部動力を必要としない簡易な構造で、検査対象物Wの定められた点検部位に対し定めた方向に一定の打撃力を与えることができる。
【0021】
ウェイト部3を軸2のフランジ7に向かう方向に付勢するスプリング4を設けるので、小型の打撃装置1でありながら大きな打撃力を与えることができるようになり、持ち運び可能なサイズと重量を実現できる。
【0022】
スプリング4の弾性力に抗してウェイト部3を所定の位置に保持するトリガ5を備えるので、ウェイト部3の落下距離(速度)を一定に保つことができ、誰が使用しても常に一定の打撃力を発揮させることができる。
【0023】
ウェイト部3およびスプリング4を覆うカバー6を備えるので、作業者が手を挟むのを防止でき、安全な打撃装置1にすることができる。
【0024】
カバー6にスリット6c
2を設け、ウェイト部3をカバー6の外側から操作できるようにするので、作業者が手を挟むのをより防止でき、安全な打撃装置1にすることができる。
【0025】
フランジ7が軸2に着脱可能であり、ウェイト部3及びスプリング4が交換可能なので、検査対象物Wに応じて必要な打撃力を調整することができる。
【0026】
なお、本発明は上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲でさまざまな実施形態に変更可能である。
【0027】
例えば、上記実施形態では、軸を垂直方向に配置し、ウェイト部の落下とスプリングの弾性力により検査対象物に打撃を与えているが、軸を水平方向に配置し、ウェイト部の水平方向の移動とスプリングの弾性力により検査対象物に打撃を与えることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の打撃装置の用途は、歩廊、作業床、階段等の床面の踏抜き検査に好適であるが、これに限定されるものではない。例えば、橋梁、トンネル壁面等のコンクリート構造物の打音検査、樹木の打音検査にも使用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1…打撃装置
2…軸
2a…軸本体
2b…打撃部
3…ウェイト部
3a…リング溝
3b…貫通孔
4…スプリング(弾性部材)
5…トリガ
5a…係合部
6…カバー
6a…先端側ブラケット
6b…基端側ブラケット
6c…カバー本体
7…フランジ(張出し部)
8…ハンドル部
8a…握玉
9…ボルト(操作部)
10…取手
11…トリガ用スプリング
W…検査対象物