(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
揺動歯車と、該揺動歯車を揺動させるクランク軸と、前記揺動歯車の軸方向一側に配置された第1キャリヤと、前記揺動歯車の軸方向他側に配置された第2キャリヤと、前記第1キャリヤと前記クランク軸との間に配置された第1軸受と、前記第2キャリヤと前記クランク軸との間に配置された第2軸受と、前記クランク軸の前記第1キャリヤ側の端部に設けられた入力歯車と、を備えた偏心揺動型の歯車装置において、
前記クランク軸は、前記第2軸受が配置されるクランク軸第2軸受部と、前記揺動歯車を揺動させる偏心体と、前記クランク軸第2軸受部と前記偏心体との間に設けられた第2偏心体段部と、を有し、
前記クランク軸の軸方向両側への移動を規制する移動規制手段を有し、
該移動規制手段は、前記クランク軸の前記第2キャリヤ側の端部に設けられたクランク軸第2溝と、該クランク軸第2溝に嵌合したクランク軸第2止め輪と、前記第2キャリヤに設けられたキャリヤ第2溝と、該キャリヤ第2溝に嵌合したキャリヤ第2止め輪と、を有し、前記第2偏心体段部と前記クランク軸第2止め輪が前記第2軸受を挟み込むことで前記クランク軸の軸方向両側への移動を規制し、
前記クランク軸は、前記第1軸受が配置されるクランク軸第1軸受部を有し、かつ
前記クランク軸は、該クランク軸第1軸受部と前記入力歯車との間に、前記移動規制手段の構成要素として機能する前記クランク軸第1軸受部よりも外径が小さい小径部を有さない
ことを特徴とする偏心揺動型の歯車装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る偏心揺動型の歯車装置G1の一例を示す全体断面図、
図2は、
図1の要部拡大断面図である。
【0014】
この歯車装置G1は、揺動歯車として、第1外歯歯車12Aと、該第1外歯歯車12Aと軸方向に隣接して配置された第2外歯歯車12Bとを有する。第1外歯歯車12Aおよび第2外歯歯車12Bは、内歯歯車16に内接噛合している。また、歯車装置G1は、第1外歯歯車12Aおよび第2外歯歯車12Bを揺動させるクランク軸20と、第1外歯歯車12Aおよび第2外歯歯車12Bの軸方向一側に配置された第1キャリヤ30Aと、第1外歯歯車12Aおよび第2外歯歯車12Bの軸方向他側に配置された第2キャリヤ30Bと、を有している。
【0015】
歯車装置G1は、内歯歯車16に対する第1外歯歯車12Aおよび第2外歯歯車12Bの相対回転を、クランク軸20を介して第1キャリヤ30Aおよび第2キャリヤ30Bから取り出す構成とされている。
【0017】
先ず、歯車装置G1の概略から説明する。
【0018】
歯車装置G1は、第1外歯歯車12Aおよび第2外歯歯車12Bを揺動させるクランク軸20を複数(この例では3本:
図1では1本のみ図示)備えている。クランク軸20は、内歯歯車16の軸心C16からδ20だけオフセットした位置に、円周方向に120度の間隔で配置されている。
【0019】
各クランク軸20は、第1キャリヤ30A側の端部に入力歯車50を備えている。入力歯車50は、内歯歯車16の軸心C16の位置に配置された図示せぬ駆動源側ピニオンと同時に噛合している。入力歯車50の内周には駆動源側からの動力をクランク軸20に伝達するための内スプライン51が形成されている。
【0020】
クランク軸20のキャリヤ側の端部には、入力歯車50の内スプライン51と係合する外スプライン21、および溝78、79が形成されている。入力歯車50は、当該溝78、79に嵌合した止め輪81、82により、クランク軸20の軸方向に沿った移動が規制されている。
【0021】
各クランク軸20には、第1外歯歯車12Aを揺動させる第1偏心体52Aと、第2外歯歯車12Bを揺動させる第2偏心体52Bが一体的に形成されている(別体で構成された第1偏心体および第2偏心体をキーなどを介してクランク軸に連結させた構成であってもよい)。
【0022】
第1偏心体52Aおよび第2偏心体52Bは、それぞれクランク軸20の軸心C20に対して偏心した軸心C52AおよびC52Bを有している。第1偏心体52Aと第2偏心体52Bの偏心位相差は、この例では180度である(互いに離反する方向に偏心している)。
【0023】
3本のクランク軸20は、同様の構成を有し、各クランク軸20の軸方向同位置に形成されている第1偏心体52A同士は、偏心位相が揃えられている。各クランク軸20の軸方向同位置に形成されている第2偏心体52B同士も、偏心位相が揃えられている。
【0024】
第1偏心体52Aと第1外歯歯車12Aとの間には第1偏心軸受56Aが配置されている。第2偏心体52Bと第2外歯歯車12Bとの間には第2偏心軸受56Bが配置されている。
【0025】
内歯歯車16は、この歯車装置G1では、ケーシング62と一体化された内歯歯車本体17と、該内歯歯車本体17に形成されたピン溝18に回転自在に組み込まれ該内歯歯車16の内歯を構成する円柱状のピン部材19と、を有している。内歯歯車16の歯数(ピン部材19の本数)は、第1外歯歯車12Aおよび第2外歯歯車12Bの歯数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
【0026】
歯車装置G1のケーシング62と第1キャリヤ30Aとの間には、第1主軸受74Aが配置されている。ケーシング62と第2キャリヤ30Bとの間には、第2主軸受74Bが配置されている。この歯車装置G1では、第1主軸受74Aおよび第2主軸受74Bは、背面合わせで組み込まれたアンギュラ玉軸受で構成されている。第1主軸受74Aおよび第2主軸受74Bは、専用の第1主軸受外輪74A1および第2主軸受外輪74B1を有しているが、専用の内輪は有していない。第1主軸受74Aの内輪は、第1キャリヤ30Aに形成されたキャリヤ第1主転走面37Aによって構成されている。第2主軸受74Bの内輪は、第2キャリヤ30Bに形成されたキャリヤ第2主転走面37Bによって構成されている。
【0027】
第2キャリヤ30Bからは、キャリヤピン31が第1キャリヤ30A側に突出されている。キャリヤピン31は、第1外歯歯車12Aおよび第2外歯歯車12Bを非接触で貫通している。第1キャリヤ30Aと第2キャリヤ30Bは、キャリヤピン31を介してボルト76により連結・一体化されている。
【0028】
本歯車装置G1では、ケーシング62に対してボルト(ボルト孔75のみ図示)を介して例えばロボットの第1アーム(図示略)が連結される。第2キャリヤ30Bには、ボルト(タップ穴32のみ図示)を介して、例えばロボットの第2アーム(図示略)が連結される。
【0029】
主に、
図2を参照して、第1外歯歯車12Aおよび第2外歯歯車12Bの軸方向一側には、第1キャリヤ30Aが配置されている。第1外歯歯車12Aおよび第2外歯歯車12Bの軸方向他側には、第2キャリヤ30Bが配置されている。第1キャリヤ30Aとクランク軸20との間には第1軸受66Aが配置されている。第2キャリヤ30Bとクランク軸20との間には第2軸受66Bが配置されている。つまり、クランク軸20は、第1軸受66Aおよび第2軸受66Bを介して第1キャリヤ30Aおよび第2キャリヤ30Bに支持されている。
【0030】
第1軸受66Aは、転動体としての第1ころ66A1と、該第1ころ66A1を保持する第1リテーナ66A2を有する。第1軸受66Aは、専用の内外輪を有していない。クランク軸20(のクランク軸第1軸受部25A)が第1軸受66Aの内輪を兼用し、第1キャリヤ30A(のキャリヤ第1軸受部35A)が第1軸受66Aの外輪を兼用している。
【0031】
第2軸受66Bは、転動体としての第2ころ66B1と、該第2ころ66B1を保持する第2リテーナ66B2を有する。第2軸受66Bは、専用の内外輪を有していない。クランク軸20(のクランク軸第2軸受部25B)が第2軸受66Bの内輪を兼用し、第2キャリヤ30B(のキャリヤ第2軸受部35B)が第2軸受66Bの外輪を兼用している。
【0032】
なお、第1偏心体52Aと第1外歯歯車12Aとの間に配置されている第1偏心軸受56Aは、転動体としての第1偏心軸受ころ56A1と、該第1偏心軸受ころ56A1を保持する第1偏心軸受リテーナ56A2を有する。第1偏心軸受56Aも、専用の内外輪を有していない。第1偏心体52Aが第1偏心軸受56Aの内輪を兼用し、第1外歯歯車12A(のクランク軸貫通孔12A1)が第1偏心軸受56Aの外輪を兼用している。
【0033】
第2偏心体52Bと第2外歯歯車12Bとの間に配置された第2偏心軸受56Bも、転動体としての第2偏心軸受ころ56B1と、該第2偏心軸受ころ56B1を保持する第2偏心軸受リテーナ56B2を有する。第2偏心軸受56Bも、専用の内外輪を有していない。第2偏心体52Bが第2偏心軸受56Bの内輪を兼用し、第2外歯歯車12B(のクランク軸貫通孔12B1)が第2偏心軸受56Bの外輪を兼用している。なお、本明細書においては、「ころ」の概念には、「ニードル」の概念が含まれる。
【0034】
第1軸受66Aの第1リテーナ66A2と第1偏心軸受56Aの第1偏心軸受リテーナ56A2は、第1滑りリング70Aを介して当接している。第1滑りリング70Aは、クランク軸20の第1偏心体段部27Aに当接している。第1偏心軸受56Aの第1偏心軸受リテーナ56A2と、第2偏心軸受56Bの第2偏心軸受リテーナ56B2は、中央滑りリング72を介して当接している。第2偏心軸受56Bの第2偏心軸受リテーナ56B2と第2軸受66Bの第2リテーナ66B2は、第2滑りリング70Bを介して当接している。第2滑りリング70Bは、クランク軸20の第2偏心体段部27Bに当接している。
【0035】
ここで、クランク軸20の軸方向の移動規制に関する構成を詳細に説明する。
【0036】
前述したように、クランク軸20は、第1軸受66Aを介して第1キャリヤ30Aに支持されると共に、第2軸受66Bを介して第2キャリヤ30Bに支持されている。
【0037】
第1キャリヤ30Aは、第1外歯歯車12Aの軸方向一側(入力歯車50側)に位置し、第1軸受66Aが配置されるキャリヤ第1軸受部35Aを、該第1キャリヤ30Aの軸方向第1外歯歯車12A側に有している。第2キャリヤ30Bは、第2外歯歯車12Bの軸方向他側(反入力歯車側)に位置し、第2軸受66Bが配置されるキャリヤ第2軸受部35Bを、該第2キャリヤ30Bの軸方向第2外歯歯車12B側に有している。
【0038】
ここで、キャリヤ第1軸受部とは、第1軸受の外輪が第1キャリヤと対向している部位を示す。第1軸受66Aが外輪を有さない本歯車装置G1のような場合には、キャリヤ第1軸受部35Aは、第1軸受66Aの転動体である第1ころ66A1を径方向から見て第1キャリヤ30A側に投影した部位を指す。同様に、キャリヤ第2軸受部とは、第2軸受の外輪が第2キャリヤと対向している部位を指す。第2軸受66Bが外輪を有さない本歯車装置G1のような場合には、キャリヤ第2軸受部35Bは、第2軸受66Bの転動体である第2ころ66B1を径方向から見て第2キャリヤ30B側に投影した部位を指す。
【0039】
一方、クランク軸20は、キャリヤ第1軸受部35Aに対向する位置に、第1軸受66Aが配置されるクランク軸第1軸受部25Aを有している。また、クランク軸20は、キャリヤ第2軸受部35Bに対向する位置に、第2軸受66Bが配置されるクランク軸第2軸受部25Bを有している。
【0040】
ここで、クランク軸第1軸受部とは、第1軸受の内輪がクランク軸と対向している部位を指す。第1軸受66Aが内輪を有さない本歯車装置G1のような場合には、クランク軸第1軸受部25Aは、第1軸受66Aの転動体である第1ころ66A1を径方向から見てクランク軸20側に投影した部位を指す。同様に、クランク軸第2軸受部とは、第2軸受の内輪がクランク軸と対向している部位を指す。第2軸受66Bが内輪を有さない本歯車装置G1のような場合には、クランク軸第2軸受部25Bは、第2軸受66Bの転動体である第2ころ66B1を径方向から見てクランク軸20側に投影した部位を指す。
【0041】
本歯車装置G1のクランク軸20の移動規制手段は、クランク軸20の第2キャリヤ30B側の端部に設けられたクランク軸第2溝23Bと、該クランク軸第2溝23Bに嵌合したクランク軸第2止め輪24Bを備えている。また、移動規制手段は、第2キャリヤ30B(の後述するキャリヤ第2大径部38B)に設けられたキャリヤ第2溝33Bと、該キャリヤ第2溝33Bに嵌合したキャリヤ第2止め輪34Bを備えている。
【0042】
第2キャリヤ30Bは、第2軸受66Bが配置される前記キャリヤ第2軸受部35Bと、キャリヤ第2止め輪34Bが配置されるキャリヤ第2大径部38Bと、を有している。前記キャリヤ第2溝33Bは、当該キャリヤ第2大径部38Bに形成されている。
【0043】
キャリヤ第2大径部38Bの内径(半径:以下同じ)R38Bは、キャリヤ第2軸受部35Bの内径R35Bよりも径差δ(35B−38B)だけ大きい。このため、キャリヤ第2軸受部35Bとキャリヤ第2大径部38Bとの間には、当該径差δ(35B−38B)のキャリヤ第2段部36Bが形成されている。
【0044】
クランク軸20は、第2軸受66Bが配置されるクランク軸第2軸受部25Bと、クランク軸第2止め輪24Bが配置されるクランク軸第2小径部28Bと、を有している。前記クランク軸第2溝23Bは、当該クランク軸第2小径部28Bに形成されている。
【0045】
クランク軸第2小径部28Bの外径(半径:以下同じ)r28Bは、クランク軸第2軸受部25Bの外径r25Bよりも径差δ(25B−28B)だけ小さい。このため、クランク軸第2軸受部25Bとクランク軸第2小径部28Bとの間には、径差δ(25B−28B)のクランク軸第2段部26Bが形成されている。
【0046】
そして、第2リング部材73Bが、クランク軸第2止め輪24Bとクランク軸第2段部26Bとの間、およびキャリヤ第2止め輪34Bとキャリヤ第2段部36Bとの間に跨がって配置されている。
【0047】
このように、歯車装置G1では、クランク軸20の移動規制手段の構成要素として、キャリヤ第2溝33B、キャリヤ第2止め輪34B、キャリヤ第2段部36B、クランク軸第2溝23B、クランク軸第2止め輪24B、クランク軸第2段部26B、および第2リング部材73Bを有している。
【0048】
一方、クランク軸20の第1キャリヤ30A側は、前述したように、入力歯車50を連結するための外スプライン21と、止め輪81、82が嵌合する溝78、79が形成されているのみであり、クランク軸20の軸方向の移動規制は、軸方向両側いずれの方向についても、全てクランク軸20の第2キャリヤ30B側で完結している。クランク軸第1軸受部25Aよりも入力歯車50側の位置(クランク軸第1軸受部25Aと入力歯車50との間)には、移動規制手段の構成要素として機能する構成要素は一切設けられていない。
【0049】
換言するならば、クランク軸第1軸受部25Aよりも入力歯車50側の位置(クランク軸第1軸受部25Aと入力歯車50との間)には、クランク軸20の軸方向移動を規制する目的のために、クランク軸第1軸受部25Aよりも外径が小さく形成された小径部は存在していない。
【0050】
なお、第1キャリヤ30Aは、第1軸受66Aが配置されるキャリヤ第1軸受部35Aと、該キャリヤ第1軸受部35Aの軸方向入力歯車50側に設けられ該キャリヤ第1軸受部35Aの内径R35Aよりも径差δ(35A−38A)だけ内径R38Aが大きいキャリヤ第1大径部38Aと、を有している。キャリヤ第1軸受部35Aとキャリヤ第1大径部38Aとの間には、当該径差δ(35A−38A)のキャリヤ第1段部36Aが形成されている。キャリヤ第1大径部38Aには、キャリヤ第1溝33Aが形成されている。キャリヤ第1溝33Aには、キャリヤ第1止め輪34Aが嵌合されている。キャリヤ第1止め輪34Aとキャリヤ第1段部36Aとの間には、第1軸受66Aと対向する第1リング部材73Aが配置されている。第1リング部材73Aは、第1軸受66A(の第1リテーナ66A2)と対向し、第1軸受66Aの軸方向移動を規制している。
【0051】
次に、本歯車装置G1の作用を説明する。先ず、歯車装置G1の動力伝達に関する作用を簡単に説明する。
【0052】
内歯歯車16の軸心C16の位置に配置された図示せぬ駆動源側ピニオンが回転すると、該駆動源側ピニオンと同時に噛合している3個の入力歯車50が同一方向に同一の回転速度で回転する。この結果、各入力歯車50と、内スプライン51および外スプライン21を介して連結されている3本のクランク軸20が同一方向に同一の回転速度で回転する。
【0053】
これにより、各クランク軸20において位相が揃えられた第1偏心体52Aを介して第1外歯歯車12Aが揺動回転する。また、第1偏心体52Aと180度の位相差で位相が揃えられた第2偏心体52Bを介して第2外歯歯車12Bが揺動回転する。
【0054】
第1外歯歯車12Aおよび第2外歯歯車12Bは、内歯歯車16に内接噛合しており、かつ内歯歯車16の歯数(ピン部材19の本数)は、第1外歯歯車12Aおよび第2外歯歯車12Bの歯数よりも1だけ多い。したがって、第1外歯歯車12Aおよび第2外歯歯車12Bは、クランク軸20が1回回転する毎に(第1偏心体52Aおよび第2偏心体52Bが1回偏心回転する毎に)1回揺動し、内歯歯車16に対して歯数差分(この歯車装置G1では1歯分)だけ位相がずれる。
【0055】
この結果、第1外歯歯車12Aおよび第2外歯歯車12Bを貫通しているクランク軸20が内歯歯車16の軸心C16の周りで公転する。この公転は、クランク軸20を第1軸受66Aおよび第2軸受66Bを介して支持している第1キャリヤ30Aおよび第2キャリヤ30Bに伝達される。第1キャリヤ30Aおよび第2キャリヤ30Bが回転すると、第2キャリヤ30Bと連結されているロボットの第2アームが、ケーシング62に連結されたロボットの第1アームに対して相対回転する。
【0056】
ここで、クランク軸20は、クランク軸20の第2キャリヤ30B側の端部に設けられたクランク軸第2溝23Bに嵌合したクランク軸第2止め輪24Bと、第2キャリヤ30Bに設けられたキャリヤ第2段部36Bとによって、第2リング部材73Bを介してクランク軸20の軸方向第1キャリヤ30A側への移動が規制される。
【0057】
また、クランク軸20は、クランク軸20のクランク軸第2段部26Bと、第2キャリヤ30Bに設けられたキャリヤ第2止め輪34Bとによって、第2リング部材73Bを介して軸方向第2キャリヤ30B側への移動が規制される。
【0058】
すなわち、この歯車装置G1の移動規制手段は、第2軸受66Bの軸方向反第1キャリヤ側に設けられた移動規制手段のみによって、軸方向両側へのクランク軸20の移動規制を実現している。
【0059】
この種の歯車装置G1のクランク軸20には、入力歯車50、第1軸受66A、第2軸受66B、第1偏心軸受56A、第2偏心軸受56B等から様々な荷重が常時掛かる。とりわけ、クランク軸第1軸受部25Aよりも入力歯車50側の位置(クランク軸第1軸受部25Aと入力歯車50との間)は、クランク軸20を回転させようとする入力歯車50側からの駆動トルクと、第1偏心軸受56Aおよび第2偏心軸受56B側からの反力トルクとによって強い捻じり応力が発生する。また、入力歯車50は、第1軸受66Aから片持ち状態で突出した部位に設けられていることから、トルク伝達や偏心揺動に対する曲げ応力や剪断応力も、クランク軸20の他の位置と比べてより大きく発生する傾向となる。このため、当該クランク軸第1軸受部25Aよりも入力歯車50側の位置は、クランク軸20の他の位置と比べて強度上より過酷な状態となる。
【0060】
しかし、本歯車装置G1では、この部位に、少なくともクランク軸20の軸方向移動を規制する目的のために、クランク軸第1軸受部25Aよりも外径が小さく形成された小径部が存在していない。そのため、その分、よりクランク軸20の強度に優れた歯車装置G1を得ることができる。
【0061】
また、本歯車装置G1では、「第1軸受66Aの軸方向移動を規制する」という観点において、当該クランク軸20のクランク軸第1軸受部25Aよりも入力歯車50側の位置(クランク軸第1軸受部25Aと入力歯車50との間)に、クランク軸第1軸受部25Aよりも外径が小さい小径部は一切形成されていない。つまり、本歯車装置G1では、第1軸受66Aの軸方向の位置決めという観点においても、当該クランク軸第1軸受部25Aよりも入力歯車50側の位置において強度が低下することはない。
【0062】
なお、「第1軸受66Aの軸方向移動を規制する」という構成に関しては、例えば、
図3に示されるような変形例を採用してもよい。
図3に示される歯車装置G2では、入力歯車150が、第1軸受66A側に向けて突出する突出部151を有している。突出部151は、ワッシャ154を介して第1軸受66Aの第1リテーナ66A2と対向し、第1軸受66Aの軸方向移動を規制している。入力歯車150は、ボルト153によってクランク軸120の端部に固定されている。なお、その他の構成は、歯車装置G1と同一である(
図3において、
図2と対応する部位に同一の符号を付している)。
【0063】
このような構成によっても、クランク軸120のクランク軸第1軸受部25Aよりも入力歯車150側の位置(クランク軸第1軸受部25Aと入力歯車150との間)に、クランク軸120のクランク軸第1軸受部25Aよりも外径が小さい小径部を一切形成することなく、当該第1軸受66Aの軸方向移動を規制することができる。
【0064】
なお、「クランク軸第1軸受部よりも入力歯車側の位置(クランク軸第1軸受部25Aと入力歯車150との間)に、移動規制手段の構成要素として機能するクランク軸第1軸受部よりも外径が小さい小径部を有さない」ことを実現する構成は、上記歯車装置G1、G2の構成に限定されない。
【0065】
例えば、上記
図1、
図2の歯車装置G1では、キャリヤ第1段部36Aが、キャリヤ第1軸受部35Aとキャリヤ第1大径部38Aとの間に設けられている。キャリヤ第1止め輪34Aは、キャリヤ第1大径部38Aに設けられたキャリヤ第1溝33Aに嵌合している。第1リング部材73Aは、第1軸受66Aの第1リテーナ66A2と対向すると共に該キャリヤ第1止め輪34Aとキャリヤ第1段部36Aとの間に配置されている。さらに、第1滑りリング70Aは、第1軸受66Aの第1リテーナ66A2と対向すると共にクランク軸20の第1偏心体段部27Aと対向している。
【0066】
そのため、クランク軸20は、キャリヤ第1段部36Aと、キャリヤ第1止め輪34Aと、第1リング部材73Aと、(第1軸受66Aの第1リテーナ66A2を介した)第1滑りリング70Aと、によっても軸方向第1キャリヤ30A側(入力歯車50側)への移動が規制されている。
【0067】
したがって、
図1、
図2の歯車装置G1においては、例えば、キャリヤ第2段部36Bはなくてもよい。つまり、キャリヤ第2溝33Bおよびキャリヤ第2止め輪34Bが、キャリヤ第2軸受部35Bと同一内径の面に設けられ、第2リング部材73Bが、第2軸受66Bの第2リテーナ66B2およびクランク軸第2段部26Bと対向する構成としてもよい。
【0068】
この場合も、クランク軸20の軸方向両側への移動規制が可能であり、かつ、クランク軸第1軸受部25Aよりも入力歯車50側の位置(クランク軸第1軸受部25Aと入力歯車50との間)は、クランク軸20の軸方向移動を規制する目的のために、クランク軸第1軸受部25Aよりも外径が小さく形成された部位が存在していない。そのため、その分、よりクランク軸20の強度に優れた歯車装置G1を得ることができる。
【0069】
さらには、クランク軸20の軸方向両側への移動規制を実現するために、
図4に示されるような歯車装置G3の構成を採用することもできる。
【0070】
この歯車装置G3においては、第1軸受266Aは、専用の第1外輪266A3および第1内輪266A4を有している。また、第2軸受266Bも、専用の第2外輪266B3および第2内輪266B4を有している。
【0071】
専用の第1外輪266A3および第1内輪266A4を有する第1軸受266Aは、単体で当該第1外輪266A3と第1内輪266A4の軸方向の相対移動が規制されている。専用の第2外輪266B3および第2内輪266B4を有する第2軸受266Bも、単体で当該第2外輪266B3と第2内輪266B4の軸方向の相対移動が規制されている。
【0072】
クランク軸220の軸方向両側への移動を規制する移動規制手段は、このような第1軸受266Aおよび第2軸受266Bを有することを前提とし、クランク軸第2溝223Bに嵌合したクランク軸第2止め輪224Bと、キャリヤ第2溝233Bに嵌合したキャリヤ第2止め輪234Bのほかに、第1キャリヤ230Aに設けられたキャリヤ第1溝233Aと、該キャリヤ第1溝233Aに嵌合したキャリヤ第1止め輪234Aを有している。
【0073】
そして、クランク軸第2止め輪224Bが、第2軸受266Bの第2内輪266B4と対向し、キャリヤ第2止め輪234Bが、第2軸受266Bの第2外輪266B3と対向し、キャリヤ第1止め輪234Aが、第1軸受266Aの第1外輪266A3と対向している。
【0074】
なお、この歯車装置G3では、第1軸受266Aの第1外輪266A3は第1偏心軸受256Aの第1偏心軸受リテーナ256A2と対向している。第1軸受266Aの第1内輪266A4は、クランク軸第1軸受部225Aと第1偏心体252Aとの間に設けられた第1偏心体段部227Aと対向している。
【0075】
第2軸受266Bの第2外輪266B3は第2偏心軸受256Bの第2偏心軸受リテーナ256B2と対向している。第2軸受266Bの第2内輪266B4は、クランク軸第2軸受部225Bと第2偏心体252Bとの間に設けられた第2偏心体段部227Bと対向している。
【0076】
また、第1軸受266Aの第1外輪266A3と第2軸受266Bの第2外輪266B3は、軸方向中央に中央リング部材272を挟んで第1偏心軸受256Aの第1偏心軸受リテーナ256A2と第2偏心軸受256Bの第2偏心軸受リテーナ256B2を挟持している。
【0077】
一方で、この歯車装置G3は、キャリヤ第1溝233Aとキャリヤ第1止め輪234Aは、キャリヤ第1軸受部235Aと同一内径の面に設けられている。キャリヤ第2溝233Bとキャリヤ第2止め輪234Bも、キャリヤ第2軸受部235Bと同一内径の面に設けられている。
【0078】
この歯車装置G3においても、クランク軸第1軸受部225Aよりも入力歯車250側の位置(クランク軸第1軸受部225Aと入力歯車250との間)には、クランク軸220の軸方向移動を規制する目的のために、クランク軸第1軸受部225Aよりも外径が小さく形成された小径部は存在していない。
【0079】
また、この歯車装置G3では、第1キャリヤ230Aにも第2キャリヤ230Bにも、キャリヤ第1段部やキャリヤ第2段部は設けられていないため、第1キャリヤ230Aおよび第2キャリヤ230Bの製造が容易である。
【0080】
特に、第1キャリヤ230Aの第1主軸受274Aの近傍(あるいは第2キャリヤ230Bの第2主軸受274Bの近傍)は、第1主軸受274Aのキャリヤ第1主転走面237A(あるいは第2主軸受274Bのキャリヤ第2主転走面237B)として機能し得るように高い硬度に維持されている。このため、例えば、
図1、
図2の歯車装置G1のような構成の場合には、高い硬度が維持された第1主軸受74Aあるいは第2主軸受74Bの近傍に、高い加工精度の要求される(転走面として機能する)キャリヤ第1軸受部35Aあるいはキャリヤ第2軸受部35Bを形成する必要があり、第1キャリヤ30Aおよび第2キャリヤ30Bの加工に際して手間、時間、およびコストが掛かる。
【0081】
しかし、この歯車装置G3にあっては、キャリヤ第1軸受部235Aおよびキャリヤ第2軸受部235Bは、第1ころ266A1および第2ころ266B1の転走面を構成していないため、第1キャリヤ230Aおよび第2キャリヤ230Bの加工の手間、時間、およびコストを低減できる。
【0082】
また、この歯車装置G3では、第1軸受266Aの第1外輪266A3が第1偏心軸受256Aの第1偏心軸受リテーナ256A2と対向しており、第2軸受266Bの第2外輪266B3が、第2偏心軸受256Bの第2偏心軸受リテーナ256B2と対向している(第1軸受266Aの第1内輪266A4や第2軸受266Bの第2内輪266B4が第1偏心軸受リテーナ256A2や第2偏心軸受リテーナ256B2に対向する構成であってもよい)。
【0083】
これにより、クランク軸220の軸方向両側への移動をより確実に規制することができる。その他の構成および作用については、先の歯車装置G1と同様であるため、
図4において
図2と対応する主な部位に下2桁が同一の符号を付すに止め、重複説明を省略する。
【0084】
なお、上記実施形態においては、第1外歯歯車および第2外歯歯車を揺動させるクランク軸を内歯歯車の軸心からオフセットした位置に複数有する振り分けタイプの偏心揺動型の歯車装置が採用されていた。しかしながら、偏心揺動型の歯車装置には、このほかに、内歯歯車の軸心上にクランク軸を1本のみ備え、キャリヤ側から突出させた柱状部を介して外歯歯車と内歯歯車の相対回転を取り出す、センタクランクタイプと称されるタイプの歯車装置も知られている。
【0085】
また、上記実施形態においては、第1外歯歯車および第2外歯歯車が、(固定状態にある)内歯歯車に対して揺動する、外歯揺動型の偏心揺動型の歯車装置が示されていた。しかし、偏心揺動型の歯車装置の中には、クランク軸によって内歯歯車が外歯歯車に対して揺動する内歯揺動型の偏心揺動型の歯車装置も知られている。
【0086】
本発明は、揺動歯車を揺動させるクランク軸の第1キャリヤ側の端部に、該クランク軸に動力を伝達する入力歯車が設けられた偏心揺動型の歯車装置ならば、いずれのタイプの偏心揺動型の歯車装置においても適用することができ、同様の作用効果を得ることができる。