(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、ロイコ色素(染料)の顕色、消色機構を利用した熱変色性の色剤を用いた筆記具用インク組成物は、通常、上記色素をマイクロカプセル化した顔料を使用している。上記ロイコ色素を熱変色性マイクロカプセル顔料として用いるためには、マイクロカプセル顔料のコア成分を構成する媒体に対して十分な溶解性を有さなければならず、この溶解性が小さい場合には、満足する発色濃度が得られないものであった。
【0003】
従来の熱変色性マイクロカプセル顔料において、発色時に蛍光性を有する黄色等の色調を有するロイコ色素及びこれを用いたマイクロカプセル顔料としては、例えば、
1)(イ)ピリジン系、キナゾリン系、及びビスキナゾリン系化合物から選ばれる電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)前記電子供与性呈色性有機化合物に対して電子受容性である化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体である化合物の3成分を必須成分とする相溶体からなる可逆熱変色性組成物、これをマイクロカプセル内に内包してなるマイクロカプセル顔料(例えば、特許文献1参照)、
2)(イ)電子供与性呈色性有機化合物として特定式で示されるピリジン誘導体と、前記電子供与性呈色性有機化合物に対して電子受容性である化合物と、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体である化合物とからなる可逆熱変色性組成物、これをマイクロカプセル内に内包してなるマイクロカプセル顔料(例えば、特許文献2参照)、
3)(イ)ロイコ色素、(ロ)顕色性物質、及び(ハ)変色温度調整剤をマイクロカプセルに内包されてなる可逆感温変色性組成物において、(ロ)顕色性物質が特定式で示される化合物であり、且つ(ハ)変色温度調整剤が特定式で示される化合物であることを特徴とする可逆感温変色性ヒステリシス組成物(例えば、特許文献3参照)などが知られている。
上記特許文献1のピリジン系化合物として、具体的には、4−(4’−メチルベンジルアミノフェニル)−ピリジン、2,6−ジフェニル−4−(4’−ジメチルアミノフェニル)−ピリジン、2,6−ジフェニル−4−(4’−フェニル、メチルアミノフェニル)−ピリジンなどが例示されており、また、上記特許文献2のピリジン誘導体としては、2,6−ビス(2’,4’−ジメチルオキシフェニル)−4−(4’−ジメチルアミノフェニル)−ピリジンなどが例示されており、上記特許文献3のロイコ色素としては、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどが例示されている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載のロイコ色素(染料)となるピリジン系化合物・誘導体、または、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンを用いた熱変色性マイクロカプセル顔料は、マイクロカプセル顔料のコア成分を構成する媒体に対して溶解性が未だ十分でなく、満足する発色濃度、並びに明るい色相が得られない点などに課題がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
〔色素〕
本発明の色素は、下記式(I)で示されるロイコ色素からなることを特徴とするものである。
【化2】
〔上記式(I)中のR1、R2は、炭素数1〜4のアルキル基を表し、これらは互いに同一であっても異なっていてもよい。また、3つのR3のうち、何れか一つが−OH基(ヒドロキシ基)であり、残りの2つが水素原子を表す。〕
【0011】
本発明に用いる上記式(I)で示される色素は、黄色のロイコ色素として発色濃度及び明るい黄色の色調となるものである。
黄色のロイコ色素としては、特許文献1、2で例示したピリジン化合物・誘導体、フルオラン類などが知られているが、本発明では、上記式(I)で示される色素を用いることで、更に、発色濃度に優れ、濃度が高く明るい色調となるものである。
上記式(I)中において、R1、R2はメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などからなる炭素数1〜4のアルキル基である。また、3つのR3のうち、何れか一つが−OH基(ヒドロキシ基)であり、残りの2つが水素原子を表す。
上記式(I)中において、R1、R2は、互いに同一であっても異なっていてもよく、好ましくは、本発明の効果の更なる発揮、製造性などから互いに同一なものがよい。また、3つのR3のうち、2位の位置に−OH基(ヒドロキシ基)を有することが好ましい。
【0012】
上記式(I)で示される具体的なロイコ色素としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジメチルアミノフェニル)ピリジン、2−(2’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジエチルアミノフェニル)ピリジン、2−(2’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジプロピルアミノフェニル)ピリジン、2−(2’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジブチルアミノフェニル)ピリジン、2−(3’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジメチルアミノフェニル)ピリジン、2−(4’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジメチルアミノフェニル)ピリジン、2−(3’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジエチルアミノフェニル)ピリジン、2−(4’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジエチルアミノフェニル)ピリジン、2−(3’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジプロピルアミノフェニル)ピリジン、2−(4’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジプロピルアミノフェニル)ピリジン、2−(3’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジブチルアミノフェニル)ピリジン、2−(4’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジブチルアミノフェニル)ピリジンなどを挙げることができ、これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。
好ましくは、発色濃度、明るい色調、製造性等の点から、R1、R2が、共にメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基であるものが好ましく、また、3つのR3のうち、2位又は4位の位置に−OH基(ヒドロキシ基)を有することが好ましく、特に2位の位置に有することが好ましい。上記の各アルキル基、3つのR3のうち、何れか一つに−OH基(ヒドロキシ基)を導入することにより、高い発色濃度と明るい色調を実現することが可能となる。
【0013】
上記式(I)で示される各ロイコ色素の製造は、市販の又は汎用の合成手段により得られた2’−ヒドロキシアセトフェノンと、アミノベンズアルデヒド化合物と、フェナシルピリジニウムブロミドとを酸触媒の存在下で加熱反応させることなどにより、容易に上記式(I)で示される発色濃度及び明るい色調となるロイコ色素を得ることができる。例えば、2−(2’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジメチルアミノフェニル)ピリジンを製造する場合は、2’−ヒドロキシアセトフェノンと、4−ジメチルアミノベンズアルデヒド化合物と、フェナシルピリジニウムブロミドとを酸触媒の存在下で加熱反応させることなどにより得ることができる。また、2−(3’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジメチルアミノフェニル)ピリジンを製造する場合は、3’−ヒドロキシアセトフェノンと、4−ジメチルアミノベンズアルデヒド化合物と、フェナシルピリジニウムブロミドとを酸触媒の存在下で加熱反応させることなどにより得ることができる。
【0014】
〔マイクロカプセル顔料〕
次に、本発明のマイクロカプセル顔料は、上記式(I)で示される色素、顕色剤、変色温度調整剤から少なくとも構成される熱変色性組成物を内包させたものである。
【0015】
<顕色剤>
用いる顕色剤は、上記式(I)で示される色素を発色させる能力を有する成分となるものである。用いられる顕色剤は、従来公知のものが使用可能であり、例えば、無機酸、芳香族カルボン酸及びその無水物又は金属塩類、有機スルホン酸、その他の有機酸、フェノール性化合物や、ビスフェノール又はその誘導体等が挙げられる。
【0016】
本発明においては、これらの顕色剤を1種又は2種以上組み合わせて用いることにより、発色時の色彩濃度を自由に調節することができる。従って、その使用量は、所望される色彩濃度に応じて任意に選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、前記した式(I)で示される色素1質量部に対して、0.1〜100質量部程度の範囲内で選択するのが好適である。
【0017】
<変色温度調整剤>
本発明に用いる変色温度調整剤は、前記式(I)で示される色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールする物質である。
用いることができる変色温度調整剤は、従来公知のものが使用可能である。具体的には、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、酸アミド類、アゾメチン類、脂肪酸類、炭化水素類、ビスフェノール誘導体等の化学構造中に水酸基を有する化合物と、炭素数8〜22の飽和脂肪酸とから構成されるエステル化合物などが挙げられる。
【0018】
この変色温度調整剤の使用量は、所望されるヒステリシス幅及び発色時の色彩濃度等に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、色素1質量部に対して、1〜100質量部程度の範囲内で使用するのが好ましい。
【0019】
<マイクロカプセル顔料>
本発明に用いるマイクロカプセル顔料は、少なくとも上記式(I)で示される色素、顕色剤、変色温度調整剤からなる熱変色性組成物を、所定の平均粒子径(例えば、筆記具用インクでは、平均粒子径が0.3〜5μm)となるように、マイクロカプセル化することにより製造することができる。
なお、本発明で規定する「平均粒子径」は、粒子径分布解析装置HRA9320−X100(日機装株式会社性)を用いて、体積基準により算出されたD50の値である。
【0020】
マイクロカプセル化法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、in situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができ、用途に応じて適宜選択することができる。
好ましいマイクロカプセル顔料としては、安定性、より充実した機能を発揮せしめる,から、コアシェル型のマイクロカプセル顔料が望ましい。
【0021】
例えば、水溶液からの相分離法では、上記式(I)で示される色素、顕色剤、変色温度調整剤を加熱溶融後、乳化剤溶液に投入し、加熱攪拌して油滴状に分散させ、次いで、カプセル膜剤として、樹脂原料などを使用、例えば、アミノ樹脂溶液、具体的には、メチロールメラミン水溶液、尿素溶液、ベンゾグアナミン溶液などの各液を徐々に投入し、引き続き反応させて調製後、この分散液を濾過することにより目的の色素を用いた熱変色性のマイクロカプセル顔料を製造することができる。
【0022】
本発明のマイクロカプセル顔料では、描線濃度、保存安定性、筆記性の更なる向上の点から、壁膜がウレタン樹脂、エポキシ樹脂、あるいはアミノ樹脂で形成されることが好ましい。ウレタン樹脂としては、例えば、イソシアネートとポリオールとの化合物が挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂とアミンの化合物が挙げられる。アミノ樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などで形成されること、更に好ましくは、製造性、保存安定性、筆記性の点から、メラミン樹脂で形成されることが望ましい。マイクロカプセル顔料の壁膜の厚さは、必要とする壁膜の強度や描線濃度に応じて適宜決められる。
なお、壁膜がアミノ樹脂で形成するためには、各マイクロカプセル化法を用いる際に、好適なアミノ樹脂原料(メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等)、並びに、分散剤、保護コロイド剤などを選択する。
【0023】
本発明のマイクロカプセル顔料では、上記式(I)で示される色素、顕色剤及び変色温度調整剤の種類、上記各成分の範囲の量などを好適に組み合わせることにより、黄色の発色温度、消色温度を好適な温度に設定することができる。
好ましくは、マイクロカプセル顔料(全量)中の上記式(I)で示される色素の含有量は、コア成分(ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤、必要に応じてその他の成分)を基準に1〜20質量%(以下、単に「%」という)となることが望ましい。この範囲の量とすることにより、更に、発色の際には、発色濃度に優れ、明るい色調となる。
【0024】
このように構成される本発明のマイクロカプセル顔料は、発色濃度に優れ、明るい色調を有すると共に、易消色性、安定性に優れ、筆記具用インクなどの熱変色性の顔料として好適に用いることができ、後述するように、溶媒種が水性、または、油性の筆記具用インク組成物の顔料として用いても、その溶媒種等に影響を受けずに、上記効果を発揮することができるものである。
【0025】
<筆記具用インク組成物>
本発明の筆記具用インク組成物は、上記構成のマイクロカプセル顔料を含有することを特徴とするものであり、水性、または、油性のボールペン用、マーキングペン用等の筆記具用インク組成物として用いることをできる。
本発明のマイクロカプセル顔料の含有量は、各水性又は油性のインク組成物全量に対して、好ましくは、5〜30%、更に好ましくは、10〜25%とすることが望ましい。
このマイクロカプセル顔料の含有量が5%未満であると、着色力、発色性が不十分となり、一方、30%を超えると、カスレが生じやすくなり、好ましくない。
【0026】
<筆記具用水性インク組成物>
本発明の筆記具用インク組成物において、水性では、上記マイクロカプセル顔料の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、各筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用等)の用途に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、水溶性有機溶剤、増粘剤、潤滑剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤などを適宜含有することができる。
【0027】
用いることができる水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3−ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。
【0028】
用いることができる増粘剤としては、例えば、合成高分子、セルロースおよび多糖類からなる群から選ばれた少なくとも一種が望ましい。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体及びその塩、非架橋型アクリル酸重合体及びその塩、スチレン−アクリル酸共重合体及びその塩などが挙げられる。
【0029】
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
【0030】
この筆記具用水性インク組成物を製造するには、従来から知られている方法が採用可能であり、例えば、上記マイクロカプセル顔料の他、上記水性における各成分を所定量配合し、ホモミキサー、もしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することによって得られる。更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去してもよい。
【0031】
<筆記具用油性インク組成物>
本発明の筆記具用インク組成物において、油性では、上記構成のマイクロカプセル顔料を含有すると共に、主溶剤として、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルから選ばれる少なくとも一つとを含有することが好ましい。これらの溶剤を主溶剤として選択、使用することで、上記マイクロカプセル顔料の経時的な凝集を発生しないように作用するものである。
【0032】
用いるポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールは、各重合度のものが使用できるが、本発明の効果を更に発揮せしめる点から、ポリプロピレングリコールでは重合度(重量平均)400〜700の範囲の使用が好ましく、ポリブチレングリコールでは重合度(重量平均)500〜700の範囲の使用が好ましい。
また、本発明で用いるポリオキシプロピレンジグリセリルエーテル〔POP(n)ジグリセリルエーテル〕はジグリセリンの水酸基にポリオキシプロピレンが付加重合したものである。本発明においてポリオキシプロピレンジグリセリルエーテル〔POP(n)ジグリセリルエーテル〕におけるオキシプロピレンの付加モル数(n)は、本発明の効果を更に発揮せしめる点から、4〜25が好ましく、更に好ましくは4〜14である。
【0033】
これらの主溶剤の含有量は、インク組成物中の全溶剤量に対して、50〜100%とすることが好ましく、更に好ましくは、80〜100%とすることが望ましい。この主溶剤の含有量が、50%以上とすることにより、経時的な凝集の発生を極力抑制することができる。なお、本発明の効果を損なわない範囲で、上記主溶剤の他、主溶剤と相溶する性質を有する溶剤、例えば、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコールなどの溶剤を適宜含有することができる。
【0034】
この筆記具用油性インク組成物では、上記マイクロカプセル顔料、主溶剤の他、各筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用等)の用途に応じて、また、必要に応じて、油性インクに悪影響を及ぼさず相溶することができる樹脂や分散剤、防錆剤、防腐剤、潤滑剤等を含有することができる。
用いることができる樹脂としては、例えば、ケトン樹脂、スチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジンフェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、フェノール系樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、ロジン系樹脂、アクリル系樹脂、尿素アルデヒド系樹脂、マレイン酸系樹脂、シクロヘキサノン系樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン等に代表される樹脂が挙げられる。
【0035】
用いることができる分散剤として、上記に挙げたような樹脂の中からマイクロカプセル顔料を分散できるものを選択して使用することができ、界面活性剤やオリゴマーでも目的に沿うものであれば、含有することができる。
具体的な分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、ポリビニルエーテル、スチレン−マレイン酸共重合体、ケトン樹脂、ヒドロキシエチルセルロースやその誘導体、スチレン−アクリル酸共重合体等の合成樹脂やPO・EO付加物やポリエステルのアミン系オリゴマー等が挙げることができる。
また、防錆剤、防腐剤、潤滑剤としては、上述の水性で用いた各種の防錆剤、防腐剤、潤滑剤を用いることができる。
【0036】
この筆記具用油性インク組成物を製造するには、従来から知られている方法が採用可能であり、例えば、上記マイクロカプセル顔料の他、上記油性における各成分を所定量配合し、ホモミキサー、もしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することによって得られる。更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去してもよい。
【0037】
このように構成される本発明の筆記具用インク組成物では、上記式(I)で示される発色濃度に優れ、明るい色調となる色素、顕色剤及び変色温度調整剤を少なくとも含むマイクロカプセル顔料を含有する水性、または、油性のインクを処方し、このインクを搭載したボールペン体、マーキングペン体などの筆記具にて紙面等に筆記しても、経時的なマイクロカプセル顔料の凝集が発生せず、筆跡を良好に変色(発色:黄色、消色:無色)させることができ筆記具用インク組成物が得られるものとなる。
【実施例】
【0038】
次に、製造例、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。なお、以下において、配合単位である「部」は質量部を意味する。
【0039】
下記製造例1〜4により、上記(I)で示される各色素を製造し、下記製造例5〜11によりマイクロカプセル顔料1〜7を製造した。
〔製造例1:上記式(I)で示される色素(R1、R2が共にメチル基、R3のうち、2位の位置に−OH基(ヒドロキシ基))の製造〕
還流管を備えたフラスコに2’−ヒドロキシアセトフェノン2.7g、4−ジメチルアミノベンズアルデヒド3.0g、フェナシルピリジニウムブロミド7.2g、酢酸アンモニウム38.5g、酢酸10mlを入れ、140℃で3時間攪拌した。反応終了後、60℃でメタノールを加え、室温で析出物を濾過した。得られた個体を酢酸エチルに溶解して不要物を除去し、減圧して溶媒を留去した。残渣をアセトニトリルで再結晶することにより、目的物〔2−(2’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジメチルアミノフェニル)ピリジン〕3.2gを得た。
【0040】
〔製造例2:上記式(I)で示される色素(R1、R2が共にエチル基、R3のうち、2位の位置に−OH基(ヒドロキシ基))の製造〕
上記製造例1において、4−ジメチルアミノベンズアルデヒドに代えて4−ジエチルアミノベンズアルデヒドを用いて、製造例1と同様にして目的物〔2−(2’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジエチルアミノフェニル)ピリジン〕3.2gを得た。
【0041】
〔製造例3:上記式(I)で示される色素(R1、R2が共にプロピル基、R3のうち、2位の位置に−OH基(ヒドロキシ基))の製造〕
上記製造例1において、4−ジメチルアミノベンズアルデヒドに代えて4−ジプロピルアミノベンズアルデヒドを用いて、製造例1と同様にして目的物〔2−(2’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジプロピルアミノフェニル)ピリジン〕3.2gを得た。
【0042】
〔製造例4:上記式(I)で示される色素(R1、R2が共にブチル基、R3のうち、2位の位置に−OH基(ヒドロキシ基))の製造〕
上記製造例1において、4−ジメチルアミノベンズアルデヒドに代えて4−ジブチルアミノベンズアルデヒドを用いて、製造例1と同様にして目的物〔2−(2’−ヒドロキシフェニル)−6−フェニル−4−(4’−ジブチルアミノフェニル)ピリジン〕3.2gを得た。
【0043】
〔製造例5:熱変色性マイクロカプセル顔料1の製造〕
ロイコ色素として、製造例1の色素4質量部、顕色剤として、ビスフェノールA2部、及び変色性温度調整剤として、ミリスチン酸ミリスチル24部を100℃に加熱溶融して、均質な組成物30部を得た。
上記で得た組成物30部の均一な熱溶液にカプセル膜剤として、ヘキサメチレンジイソシアネートビウレット変性体(D−165N、三井化学社)10部を加えて攪拌混合した。次いで、保護コロイドとして12%ポリビニルアルコール(PVA−205、クラレ社)水溶液60部を用いて、25℃で乳化して分散液を調製した。次いで、5%の多価アミン5部を用いて、80℃で60分間処理してコアシェル型のマイクロカプセル顔料を得た。色相は、発色状態においては濃厚な黄色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0044】
(製造例6:熱変色性マイクロカプセル顔料2の製造)
ロイコ色素として、製造例2の色素3部、顕色剤として、4,4’−(2−エチルヘキシリデン)ビスフェノール2部、及び変色性温度調整剤として、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジミリステート24部を100℃に加熱溶融して、均質な組成物29部を得た。
上記で得た組成物29部の均一な熱溶液を、保護コロイド剤として、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合樹脂〔ガンツレッツAN−179:ISP(株)社製〕40部をNaOHにてpH4に溶解させた90℃の水溶液100部中に徐々に添加しながら、加熱攪拌して直径約0.5〜1.0μmの油滴状に分散させ、次いでカプセル膜剤として、メラミン樹脂(スミテックスレジンM−3、(株)住友化学製)20部を徐々に添加し、90℃で30分間処理してコアシェル型のマイクロカプセル顔料を得た。色相は、発色状態においては濃厚な黄色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0045】
〔製造例7:熱変色性マイクロカプセル顔料3の製造〕
ロイコ色素として、製造例3の色素2質量部、顕色剤として、ビスフェノールA2部、及び変色性温度調整剤として、ミリスチン酸ミリスチル24部を100℃に加熱溶融して、均質な組成物28部を得た。
上記で得た組成物28部を用いて上記製造例5と同様に処理してコアシェル型のマイクロカプセル顔料を得た。色相は、発色状態においては濃厚な黄色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0046】
〔製造例8:熱変色性マイクロカプセル顔料4の製造〕
ロイコ色素として、製造例4の色素1部、顕色剤として、4,4’−(2−エチルヘキシリデン)ビスフェノール2部、及び変色性温度調整剤として、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジミリステート24部を100℃に加熱溶融して、均質な組成物27部を得た。
上記で得た組成物27部を用いて上記製造例7と同様に処理してコアシェル型のマイクロカプセル顔料4を得た。色相は、発色状態においては濃厚な黄色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0047】
(製造例9:比較例用の熱変色性マイクロカプセル顔料5の製造)
比較例用マイクロカプセル顔料は、ロイコ染料として3’,6’−ジメトキシフルオランを2質量部に変更して用いた以外は、製造例5と同様にしてマイクロカプセル顔料5を得た。色相は、発色状態においては黄色を呈し、消色状態においては無色となるものであった。なお、2質量部に変更したのは、4質量部ではロイコ染料の溶解性が不足して、良好なマイクロカプセル顔料が製造できなかったことによる。
【0048】
(製造例10:比較例用の熱変色性マイクロカプセル顔料6の製造)
比較例用マイクロカプセル顔料は、ロイコ染料として従来技術の欄で示した特許文献1で開示の2,6−ジフェニル−4−(4’−ジメチルアミノフェニル)−ピリジンを2質量部に変更して用いた以外は、製造例6と同様にしてマイクロカプセル顔料6を得た。色相は、発色状態においては黄色を呈し、消色状態においては無色となるものであった。なお、2質量部に変更したのは、3質量部ではロイコ染料の溶解性が不足して、良好なマイクロカプセル顔料が製造できなかったことによる。
【0049】
(製造例11:比較例用の熱変色性マイクロカプセル顔料7の製造)
比較例用マイクロカプセル顔料は、ロイコ染料として従来技術の欄で示した特許文献3で開示の4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンを用いた以外は、製造例7と同様にしてマイクロカプセル顔料7を得た。色相は、発色状態においては黄色を呈し、消色状態においては無色となるものであった。
【0050】
〔実施例1〜4及び比較例1〜3〕
(筆記具用インク組成物の処方)
下記表1に示す配合処方(マイクロカプセル顔料1〜7、水性インクの各成分)にしたがって、常法により各筆記具用水性インク組成物を調製した。なお、各マイクロカプセル顔料1〜7は、各マイクロカプセル分散液を濾過し、乾燥することによりマイクロカプセル顔料として取り出し使用した。なお、得られたマイクロカプセル顔料1〜7の平均粒子径は各々1.5〜2.1μmであった。
【0051】
(水性ボールペンの作製)
上記で得られた各筆記具用水性インク組成物を用いて水性ボールペンを作製した。具体的には、ボールペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:シグノUM−100〕の軸を使用し、内径3.8mm、長さ113mmポリプロピレン製インク収容管とステンレス製チップ(超硬合金ボール、ボール径0.5mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに上記各筆記具用水性インク組成物を充填し、インク後端に鉱油を主成分とするインク追従体を装填し、水性ボールペンを作製した。
得られた実施例1〜4及び比較例1〜3の各ボールペンを用いて、下記評価方法で彩度(色濃度)、筆記性の評価を行った。
これらの結果を下記表1に示す。
【0052】
(1)彩度の測定方法
主な性能(色濃度≒彩度)は展色で評価した。
得られた筆記具用水性インク組成物を、バーコータ(RDS06、株式会社安田精機製作所)を用い、クラークケント紙(連量 160kg)に展色した。
JIS Z 8781に準拠するL*a*b*表色系に準拠した彩度(C
*ab)の値は、a
*値及びb
*値を用いて、以下の式で表される。
【数1】
この彩度C
*abの値は、例えば、以下の条件で測定したものであることができる:
分光測色計(SC−T(P)、スガ試験機社製)
光学条件:拡散照明8°受光 d8方式(正反射を除く)
光源:12V50Wハロゲンランプ
測色条件:D65光、2°視野
測定領域:5φ(3か所測定の平均)
【0053】
(2)筆記性の評価方法
得られた各ボールペンをISO規格に準拠した筆記用紙に、フリーハンドで螺旋筆記し、目視により筆記性を下記の基準で評価した。
評価基準:
○:カスレを生じることなく筆記可能。
△:部分的にカスレが生じる。
×:全体的に大きくカスレが生じる。
【0054】
【表1】
【0055】
上記表1の結果から明らかなように、本発明となる実施例1〜4のマイクロカプセル顔料1〜4を用いた筆記具用インク組成物は、本発明の範囲外となるマイクロカプセル顔料5〜7を用いた比較例1〜3の筆記具用インク組成物に較べて、彩度に優れ、筆記性も満足することが判明した。
これに対して、比較例1は、ロイコ色素として3’,6’−ジメトキシフルオランを用いたマイクロカプセル顔料5を含有した筆記具用インク組成物であり、比較例2は、2,6−ジフェニル−4−(4’−ジメチルアミノフェニル)−ピリジンを用いたマイクロカプセル顔料6を含有した筆記具用インク組成物であり、比較例3は4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンを用いたマイクロカプセル顔料7を含有した筆記具用インク組成物であり、これらの筆記具用インク組成物では、満足のいく十分な彩度が得られないものであった。