特許第6878060号(P6878060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6878060
(24)【登録日】2021年5月6日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼熱延鋼帯
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20210517BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20210517BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20210517BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/54
   C21D9/46 Z
   C21D8/02 D
   C21D9/46 R
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-50647(P2017-50647)
(22)【出願日】2017年3月15日
(65)【公開番号】特開2018-154857(P2018-154857A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2019年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】江籠 卓馬
【審査官】 浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−262282(JP,A)
【文献】 特開2002−332549(JP,A)
【文献】 特開2000−256750(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/035235(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/092714(WO,A1)
【文献】 特開昭63−047353(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102690994(CN,A)
【文献】 特表2017−534761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00〜38/60
C21D 8/02
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.020〜0.150%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜1.00%、Ni:0.01〜0.60%、Cr:11.00〜19.00%、Mo:0〜0.50%、Cu:0〜0.50%、Al:0〜0.100%、Co:0〜0.10%、V:0〜0.20%、B:0〜0.010%、N:0.001〜0.050%、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有する熱延鋼帯であって、熱間圧延の最終パス後に巻き取られたコイルの最外周に相当する位置(後端部)、および最外周よりも内周側かつ最内周から数えて2周目よりも外周側に相当する位置(中間部)のいずれにおいても、再結晶フェライト相と未再結晶フェライト相で構成されるマトリックス(金属素地)中に炭化物が分布し、圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)の平均硬さが230HV以上かつ最大硬さが300HV以下である組織状態を呈する、フェライト系ステンレス鋼熱延鋼帯。
【請求項2】
鋼がJIS G4305:2012の表5に規定されるSUS430である請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼熱延鋼帯。
【請求項3】
板厚が3.0〜7.0mmである請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼熱延鋼帯。
【請求項4】
800℃以上かつ下記(2)式で定義されるAC(A)点(℃)未満の温度に昇温したのち常温まで冷却する熱処理に供することにより、再結晶フェライト相からなるマトリックス中に炭化物が分布し、L断面の平均硬さが200HV以下である組織状態となる性質を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼熱延鋼帯。
AC(A)(℃)=−221C−40Mn−80Ni−247N+64Si+20Cr+1240Al+602 …(2)
ここで、(2)式の元素記号の箇所には当該元素の質量%で表される含有量の値が代入される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短時間の熱延板焼鈍を施すだけで再結晶フェライト相+炭化物の軟質な焼鈍組織が得られるように組織調整されたフェライト系ステンレス鋼熱延鋼帯に関する。また、その熱延鋼帯およびその熱延鋼帯に由来する熱延焼鈍鋼帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、「熱延鋼板」とは、熱間圧延を終えて巻き取られたまま(いわゆる「as hot」)の組織状態を有する鋼の板材、すなわち熱間圧延後に加熱処理を受けていない鋼の板材を意味する。「熱延鋼帯」は、熱延鋼板であって、特にコイル状に巻き取られた状態、あるいはそれを通板ラインで展開した状態の板材を意味する。
【0003】
SUS430に代表されるフェライト系ステンレス鋼板の製造においては、熱間圧延の後、バッチ式焼鈍炉により長時間の熱延板焼鈍を施すことが一般的である。フェライト系ステンレス鋼種の熱延鋼板には、通常、硬質なマルテンサイト相が混在する。加工性の良好な鋼板製品を得るためには熱延板焼鈍においてマルテンサイト相をフェライト相と炭化物に分解しておく必要がある。その分解反応には例えば790〜860℃×1〜24hといった長時間の加熱保持を要する。そのような長時間焼鈍にはバッチ式の焼鈍炉が必要となる。
【0004】
バッチ式焼鈍炉による長時間の熱延板焼鈍は、多大なエネルギーを消費する。また、大気雰囲気下で焼鈍した場合表面に酸化スケールが形成されるため、一般的に焼鈍後には酸洗が行われるが、バッチ式焼鈍炉で焼鈍された鋼板については、一般的な連続焼鈍酸洗設備にて酸洗のみを行う必要がある。そのため、フェライト系ステンレス鋼種は通常、オーステナイト系ステンレス鋼種に比べ、熱延焼鈍鋼板を得るまでの通板工程が1つ多くなる。さらに、大量生産においては多数のバッチ式焼鈍炉を設置するための広い敷地が必要となる。熱間圧延後の工程合理化のためには、バッチ式の長時間焼鈍を回避する製造工程の採用が望ましい。
【0005】
一方、フェライト系ステンレス鋼種では、鋳造組織に起因する方位の近い結晶の集合組織(コロニー)が冷延鋼板にまで残留しやすく、リジングあるいはローピングと呼ばれるような冷延製品の外観・形状不良を招く場合がある。このような問題の対策としては、熱間圧延工程で鋳造組織をできるだけ破壊し、結晶方位のランダム化を図ることが有効である。例えば特許文献1には圧延機の両側に保温炉を備えたリバース式圧延機で熱間圧延を行う手法が記載されている。しかし、バッチ式焼鈍炉による熱延板焼鈍は回避できていない。
【0006】
特許文献2〜8にはバッチ式の熱延板焼鈍を回避し得るフェライト系ステンレス鋼板の製造技術が開示されている。特許文献2、3はAlを比較的多量に含有する鋼種を対象とし、特許文献4は低C鋼を対象としている。特許文献5、6は粗圧延中にγ相が十分に確保できるよう成分組成に限定を課すとともに粗圧延での累積圧下率を40%以上かつ巻取温度を600℃以下に制限するものである。特許文献7はTi、Mnの含有量に応じて熱間圧延での加熱温度を設定するものである。特許文献8は粗圧延に相当する第1の熱間圧延を1000℃超えの高温で行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−270399号公報
【特許文献2】特公昭62−34803号公報
【特許文献3】特公昭61−50126号公報
【特許文献4】特公平7−51727号公報
【特許文献5】特開平10−176223号公報
【特許文献6】特開平10−36911号公報
【特許文献7】特開平10−60543号公報
【特許文献8】特開平11−256230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、フェライト系ステンレス鋼種は冷延製品においてリジングやローピングといった外観・形状不良が生じやすいという問題を有しているが、これまでに種々の対策が提案されて改善効果が得られている。しかしながら、バッチ式の熱延板焼鈍を回避しうる手法で耐リジング性の良好なフェライト系ステンレス鋼板を得るためには、成分組成に特別な限定を加えたり、熱延工程で非常に負荷の大きい高温強加工や高圧下率のプロセスを採用したりする必要があった。これらの手法は製造コストを増大させる要因となる。また、保温炉を備えたリバース式圧延機で熱間圧延を行う手法では、熱延鋼帯の長手方向において、端部付近と中央付近の組織状態に差が生じやすいという問題があった。
【0009】
本発明は、特殊な成分限定や非常に負荷の大きい熱間圧延に頼ることなく製造される熱延鋼帯であって、酸洗のため従来の製造方法でも通板させる必要がある連続焼鈍酸洗設備にて短時間の焼鈍に供するだけで、鋼帯の長手方向いずれの場所においても、再結晶フェライト相からなる軟質なマトリックス(金属素地)中に炭化物が分布した耐リジング性の確保に有利な組織状態が得られる性質を具備するフェライト系ステンレス鋼熱延鋼帯を提供しようというものである。また、その熱延鋼帯を用いた熱延焼鈍鋼帯の製造方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、質量%で、C:0.020〜0.150%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜1.00%、Ni:0.01〜0.60%、Cr:11.00〜19.00%、Mo:0〜0.50%、Cu:0〜0.50%、Al:0〜0.100%、Co:0〜0.10%、V:0〜0.20%、B:0〜0.010%、N:0.001〜0.050%、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有する熱延鋼帯であって、熱間圧延の最終パス後に巻き取られたコイルの最外周に相当する位置(後端部)、および最外周よりも内周側かつ最内周から数えて2周目よりも外周側に相当する位置(中間部)のいずれにおいても、再結晶フェライト相と未再結晶フェライト相で構成されるマトリックス(金属素地)中に炭化物が分布し、圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)の平均硬さが230HV以上かつ最大硬さが300HV以下である組織状態を呈する、フェライト系ステンレス鋼熱延鋼帯によって達成される。熱延鋼帯の板厚は例えば3.0〜7.0mmとすることができる。
【0011】
ここで、Mo、Cu、Al、Co、V、Bは任意含有元素である。
本発明の対象となる規格鋼種としては例えばJIS G4305:2012の表5に規定されるSUS430が挙げられる。
上記の炭化物は主としてM236(MはCr等の金属元素)タイプのものである。
【0012】
L断面の硬さにおいて、「最大硬さが300HV以下である」とは、JIS Z2244:2009に従うマイクロビッカース硬さ試験でHV0.05(試験力F=0.4903N)にてL断面内を測定することにより得られる測定値が、当該L断面内いずれの位置においても300HVを超えないことを意味する。
L断面の平均硬さは、JIS Z2244:2009に従う低試験力ビッカース硬さ試験でHV1(試験力F=9.807N)にてL断面内に無作為に選択した20箇所以上の位置について上記の方法で硬さを測定し、それらの測定値を平均することによって求めることができる。
【0013】
巻き取られたコイルにおいて「最内周から数えて2周目よりも外周側」とは、巻かれた鋼板の層がコイル内周側に2層以上存在している部位を意味する。例えば最内周を1層目とするとき、最内周から2層目の部分は前記の部位に該当せず、最内周から3層目の部分は前記の部位に該当する。
【0014】
上記の熱延鋼板は、800℃以上かつ下記(2)式で定義されるAC(A)点(℃)未満の温度に昇温したのち常温まで冷却する熱処理に供することにより、再結晶フェライト相からなるマトリックス中に炭化物が分布し、L断面の平均硬さが200HV以下である組織状態となる性質を有するものである。
AC(A)(℃)=−221C−40Mn−80Ni−247N+64Si+20Cr+1240Al+602 …(2)
ここで、(2)式の元素記号の箇所には当該元素の質量%で表される含有量の値が代入される。上記の熱処理は、800℃以上AC(A)点未満の範囲に設定した温度TM(℃)まで昇温したのち、炉から取り出して空冷する方法で行えばよい。TMは材料の最高到達温度であり、鋼板の材料温度は表面温度の測定値によって表すことができる。TMを820℃以上AC(A)点未満の範囲に設定するように熱処理条件を管理してもよい。
【0015】
上記熱延鋼帯の製造方法として、上記化学組成を有する鋳片を1000〜1250℃に加熱したのち炉から出し、粗圧延機を用いて板材とし、次いで仕上熱延機を用いて複数パスの仕上熱延を行い、仕上熱延の初パス開始から最終パス終了までの間に650℃以上かつ下記(1)で定義されるAC点(℃)未満の温度域での滞在時間を材料の長手方向の全ての位置で300秒以上確保して熱延鋼帯を得る工程(熱延工程)を有する、フェライト系ステンレス鋼熱延鋼帯の製造方法が提供される。
AC(℃)=−250C−66Mn−115Ni−18Cu−280N+73Si+35Cr+60Mo+750Al+310 …(1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には当該元素の質量%で表される含有量の値が代入される。
【0016】
また、その熱延鋼帯を用いた熱延焼鈍鋼帯の製造方法として、前記熱延鋼帯に、連続焼鈍炉を用いて800℃以上かつ下記(2)式で定義されるAC(A)点(℃)未満に加熱する熱処理を施す工程(熱延板焼鈍工程)を有する、フェライト系ステンレス鋼熱延焼鈍鋼帯の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱延鋼帯を用いると、バッチ式焼鈍炉による長時間の熱延板焼鈍を行うことなく、軟質で加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼の熱延焼鈍鋼板を得ることが可能である。本発明の熱延鋼帯を製造するための熱間圧延工程においては、高温域での特段の強加工や、高圧下率の圧延パスを特に必要としない。また、鋼の成分組成に厳しい制限を加えることもなく、汎用規格鋼種であるSUS430を適用することができる。この熱延鋼帯を用いて得た軟質な熱延焼鈍鋼板では、結晶方位のランダム化が進行しているので、それを加工して得られる冷延製品の耐リジング性確保にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例および比較例について、初パス開始からの経過時間と、各パスでの材料温度の関係を示すグラフ。
図2】比較例の熱延鋼帯におけるL断面の光学顕微鏡写真およびHV0.05(試験力F=0.4903)にて硬さ測定を行った結果を例示した図。
図3】実施例の熱延鋼帯におけるL断面の光学顕微鏡写真およびHV0.05(試験力F=0.4903)にて硬さ測定を行った結果を例示した図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔化学組成〕
本発明では、フェライト系ステンレス鋼種を対象とする。以下、鋼の化学組成に関する「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0020】
Cは、オーステナイト生成元素であり、熱間圧延中のフェライト結晶粒粗大化防止のために有効である。0.020%以上のC含有量を確保することが望ましい。ただし、多量のC含有は加工性の低下を招く。C含有量は0.150%以下であることが望ましく、0.100%未満であることがより好ましい。
【0021】
Siは、脱酸作用を有する元素であるが、多量に含有すると加工性、靱性の低下要因となる。一方、過度の低Si化は精錬コストの増大に繋がる。Si含有量は0.10〜1.00%とする。0.20〜0.70%の範囲に管理してもよい。
【0022】
Mnは、オーステナイト生成元素であり、熱間圧延中のフェライト結晶粒粗大化防止のために有効である。0.10%以上のMn含有量を確保することが望ましく、0.25%以上であることがより好ましい。多量のMn含有は加工性、耐食性の低下を招く。Mn含有量は1.00%以下の範囲とする。
【0023】
Niは、オーステナイト生成元素であり、熱間圧延中のフェライト結晶粒粗大化防止のために有効である。また、靱性や耐食性の向上にも有効である。Ni含有量は0.01〜0.60%の範囲で調整することが望ましく、0.05〜0.30%の範囲に管理してもよい。
【0024】
Crは、耐食性の観点から11.00%以上の含有量を確保する必要がある。ただし、多量のCr含有は加工性低下、靱性低下、コスト増大を招くので、19.00%以下の範囲に制限される。より好ましいCr含有量範囲は16.00〜18.00%である。
【0025】
Moは、Cr含有鋼の耐食性改善に有効であり、必要に応じて添加することができる。0.01%以上のMo含有量を確保することがより効果的である。過剰のMo含有は加工性低下、コスト増大を招く。Moを添加する場合は0.50%以下の範囲で行うことが望ましく、0.15%以下の範囲に管理してもよい。
【0026】
Cuは、オーステナイト生成元素であり、熱間圧延中のフェライト結晶粒粗大化防止のために有効であることから、必要に応じて添加することができる。0.01%以上のCu含有量を確保することがより効果的である。過剰のCu含有は耐食性や加工性の低下を招く。Cuを添加する場合は0.50%以下の範囲で行うことが望ましく、0.15%以下の範囲に管理してもよい。
【0027】
Alは、Nを固定し高純度化に寄与し、フェライト系ステンレス鋼の加工性を改善する上で有効な元素であるため、必要に応じて添加することができる。0.010%以上のAl含有量を確保することがより効果的である。ただし、過剰のAl添加はコスト増大を招くので、Alを添加する場合は0.100%以下の含有量範囲で行うことが望ましい。
【0028】
Bは、高温でのオーステナイト相を微細分散化する作用があるので、必要に応じて添加することができる。0.001%以上のB含有量を確保することがより効果的である。多量のB含有は溶接高温割れを引き起こす要因となるので、Bを添加する場合は0.010%以下の含有量範囲で行うことが望ましい。
【0029】
Nは、オーステナイト生成元素であり、熱間圧延中のフェライト結晶粒粗大化防止のために有効である。0.001%以上のN含有量であることが望ましい。ただし、多量のN含有は加工性の低下を招く。N含有量は0.050%以下であることが望ましく、0.035%以下であることがより好ましい。
【0030】
その他、Coを必要に応じて0.10%以下の範囲で含有することができる。また、Vを必要に応じて0.20%以下の範囲で含有することができる。
【0031】
上記以外の残部はFeおよび製造上不可避的に混入しうる不純物元素である。一般的なフェライト系ステンレス鋼の溶製工程で、通常の原料や、前の溶製チャージとして別鋼種(例えば、Nb含有鋼やTi含有鋼)で使用した取鍋などから混入しうる程度の不純物元素は、本発明の課題を達成する上で支障はない。規格鋼種としては、例えば汎用的な鋼種であるSUS430(JIS G4305:2012の表5)を採用することができる。
【0032】
〔金属組織〕
本発明に従う熱延鋼帯は、いわゆるas hotの状態であるにもかかわらず、鋼帯長手方向の全長にわたってマルテンサイト相が見られず、再結晶フェライト相と未再結晶フェライト相で構成されるマトリックス(金属素地)中に炭化物が分布した組織を有する点に特徴がある。
【0033】
熱延鋼帯中にマルテンサイト相が見られないことから、長時間の熱延板焼鈍を施すことなく、短時間の連続焼鈍にて軟質な熱延焼鈍鋼板が得られる。マルテンサイト相が見られない組織状態であることは、マイクロビッカース硬さ試験HV0.05によって測定される圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)の最大硬さが300HV以下を満たすことによって担保される。
【0034】
マトリックスのフェライト相のうち、未再結晶フェライト相は加工歪を蓄えており、再結晶フェライト相よりも硬質な部分である。加工歪を蓄えた未再結晶フェライト相が存在しているために、短時間の熱延板焼鈍にてその加工歪のエネルギーを利用した再結晶化が迅速に進行し、加工性の良好な熱延焼鈍鋼板が得られる。軟質な再結晶フェライト相と、それより硬質な未再結晶フェライト相が混在していることは、低試験力ビッカース硬さ試験HV1によって測定されるL断面の平均硬さが230HV以上を満たすことによって担保される。マトリックスに占める再結晶フェライト相の割合は面積率で例えば10〜30%である。
【0035】
発明者の検討によれば、鋼帯の長手方向全長にわたって上記のような組織状態が得られているかどうかは、熱間圧延の最終パス後に巻き取られたコイルの最外周に相当する位置(後端部)、および最外周よりも内周側かつ最内周から数えて2周目よりも外周側に相当する位置(中間部)の金属組織によって評価できることが確認された。巻き取られた熱延コイルの最外周の部分は、リバース式の仕上熱延機を用いた熱間圧延において材料温度が低下しやすい鋼帯長手方向端部付近に相当する。一方、最外周よりも内周側かつ最内周から数えて2周目よりも外周側の部分は、リバース式の仕上熱延機を用いた熱間圧延において材料温度が高く維持されやすい鋼帯長手方向中央付近と同等の組織状態を呈する。したがって、熱延鋼帯の後端部と中間部の両方において、再結晶フェライト相と未再結晶フェライト相で構成されるマトリックス(金属素地)中に炭化物が分布し、圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)の平均硬さが230HV以上かつ最大硬さが300HV以下である組織状態を呈していれば、その鋼帯は、長手方向すべての位置で上記の組織状態を呈していると評価することができる。
【0036】
〔熱間圧延工程〕
上記の熱延鋼帯は、例えば、鋳片加熱炉、粗圧延機、リバース式の仕上熱延機、仕上熱延の各圧延パス間で鋼板を巻き取って加熱保持する炉(以下「ファーネスコイラー」と呼ぶ)、および仕上熱延機による最終パス終了後の鋼板を巻き取る巻取装置、を備える熱間圧延設備により製造することができる。以下、この設備構成にて熱延鋼帯を製造する手法を例示する。
【0037】
(鋳片加熱)
熱延工程に供する鋳片としては連続鋳造スラブを適用することが好適である。鋳片を鋳片加熱炉に装入して1000〜1250℃に加熱する。鋳片加熱の温度が低すぎると熱間変形抵抗が過大となりやすく、温度が高すぎるとエネルギーコストや耐火物の維持コストなどの面で不利となる。鋳片の加熱保持時間(上記温度範囲での均熱時間)は例えば50〜160分とすればよい。なお、鋳片の厚さは例えば200〜250mmである。
【0038】
(粗圧延)
加熱後の鋳片を炉から出し、粗圧延機を用いて板厚を減じ、例えば板厚20〜30mm程度の板材(中間製品)を得る。粗圧延での圧延は5〜7パス程度で行えばよい。粗圧延最終パスの圧延温度(その圧延パスに供する直前の板材の表面温度)が850℃を超え1000℃以下となるように各パスのタイミングを管理することがより効果的である。
【0039】
(仕上熱延)
SUS430に代表されるフェライト系ステンレス鋼は、高温域にフェライト+オーステナイト2相温度域を有する。従来一般的な熱延工程では、オーステナイト相が冷却過程でマルテンサイト相に変態するので、通常、熱延鋼板はフェライト相+マルテンサイト相の組織となる。また、仕上圧延を連続式圧延機(タンデムミル)で行う従来一般的な生産手法では、数秒で仕上圧延が終わってしまうのでフェライト相の再結晶が進行せず、圧延後の伸長した組織である未再結晶フェライト相となる。これらのことから従来一般的な熱延工程で製造された熱延鋼板は未再結晶フェライト相+マルテンサイト相を有している。そのような組織状態から軟質な焼鈍組織を得るためには、マルテンサイト相を「再結晶フェライト相+炭化物」に分解する必要があるが、この分解反応には1時間以上の長時間の焼鈍が必要なため、バッチ式焼鈍炉を用いて焼鈍する必要があった。
【0040】
本発明では仕上熱延工程にて比較的短時間で進行する、オーステナイト相からの直接的な「フェライト相+炭化物」への分解反応を効率よく進行させることで、熱延鋼板の時点でフェライト相の組織にすることが可能となる。オーステナイト相からのフェライト相+炭化物への分解反応は、仕上圧延の初パス開始から最終パス終了までの過程において、AC点より低温かつ650℃以上の温度域での滞在時間を、鋼板長手方向の全長にわたって、300秒以上確保することが極めて効果的であることがわかった。AC点はオーステナイト相が形成し始める温度であり、本発明の対象鋼種では下記(1)式により表される。
AC(℃)=−250C−66Mn−115Ni−18Cu−280N+73Si+35Cr+60Mo+750Al+310 …(1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には当該元素の質量%で表される含有量の値が代入される。
【0041】
AC点より低温での滞在時間を十分に確保することにより、フェライト相からオーステナイト相への変態を抑制しオーステナイト相からフェライト相への変態を十分に進行させることでオーステナイト相からのフェライト相+炭化物への分解反応が進行し、上述した組織状態を実現することができる。最終パス温度が650℃を下回るような条件ではオーステナイト相からのフェライト相+炭化物への分解反応が進行しづらくなる。また、最終パス温度がAC点以上であったり、AC点より低温での滞在時間が300秒未満であったりする条件では、オーステナイト相からのフェライト相+炭化物への分解反応が不十分で熱延鋼板にマルテンサイト相が残留する組織状態となりやすい。
【0042】
一般的にフェライト系ステンレス鋼では動的再結晶が起こりにくい。そのため、再結晶化を進行させるには、静的再結晶の促進を重視する必要がある。しかし、熱延工程の仕上圧延を連続式圧延機(タンデムミル)で行う従来一般的な生産手法では、数秒で圧延が終わってしまうので、静的再結晶はほとんど起こらない。その結果、鋳造組織に起因する方位の近い結晶の集合組織(コロニー)が熱延工程で分解されず、後の冷延工程でも残留するため、冷延鋼板表面にリジングが発生する。
【0043】
本発明に従う熱延鋼板はリバース式の仕上熱延機を用いて、圧延パス間で鋼板を炉中に巻き取って加熱することで、圧下時に導入された歪のエネルギーを活用した静的再結晶を進行させ、圧延によって破壊されたコロニーの結晶方位のランダム化を進行させる。保持する温度はフェライト相の再結晶が効率良く進行する800℃以上が最も効率がよいが上述のようにオーステナイト相への変態が進行してしまうため、温度はAC点以下に制限される。ただし、AC点より低温かつ650℃以上の温度域での滞在時間を、鋼帯長手方向の全長にわたって、300秒以上確保する条件下でも結晶方位のランダム化が十分に進行していることがわかった。静的再結晶を繰り返し再結晶組織となったフェライト相は最終パスにて再び圧延され伸長した未再結晶組織となるが、最終パス後の温度は700℃以下まで低下しているため再結晶は一部表面しか進行せず、本発明に従う熱延鋼板は再結晶フェライト相と未再結晶フェライト相の金属組織を有する。
【0044】
仕上熱延のパス回数は例えば5〜9パス程度とすることができる。仕上熱延後の板厚は例えば3.0〜7.0mmの範囲で設定すればよい。仕上熱延機によるトータル圧延率は、粗圧延終了後の板厚および熱延鋼板の目標板厚に応じて設定されるが、70%以上のトータル圧延率とすることが圧下・加熱保持サイクルを十分繰り返すうえで有利である。トータル圧延率の上限については使用する設備の能力によって制約を受けるが、通常は90%以下の範囲で設定すればよい。
【0045】
仕上熱延機を用いた各圧延パスの圧下率は10〜35%の範囲で設定することが好ましい。圧下率を10%以上とすることで歪の導入効果が高まる。圧下率が35%を超える圧延パスは設備へ過剰な負担を与えやすい。設備へ与える負荷をできるだけ軽減し、かつ効率的に静的再結晶を進行させる手法として、各パスでの圧下率の平均値(平均圧下率)を25%未満に抑えたパススケジュールを採用することがより効果的である。
【0046】
仕上熱延の最終パスを終えた鋼板は、巻取装置で巻き取り、そのまま常温大気中で放冷すればよい。巻取温度は600℃未満とすることが好ましく、570℃未満とすることがより好ましい。巻取温度が高いと、巻取後の放冷中に、仕上熱延の最終パスで導入した歪が解放されやすくなり、加工歪の蓄積量が減少する。その場合、次工程で行う短時間の熱延板焼鈍で歪エネルギーを積極的に利用して未再結晶フェライト相を迅速に再結晶化することが難しくなる。既に加工歪の解放は停止しているため、巻取温度を過度に低下させる必要はない。通常、400℃以上の温度で巻き取ればよい。
【0047】
〔熱延板焼鈍工程〕
上記のようにして得られたフェライト系ステンレス鋼熱延鋼帯は再結晶フェライト相と未再結晶フェライト相の金属組織を有するため、短時間の熱延板焼鈍を施すことによって、加工性が良好な軟質の熱延焼鈍鋼板とすることができる。この焼鈍には一般的な連続焼鈍酸洗設備を利用することができる。
【0048】
熱延板焼鈍温度は、最高到達温度TMが800℃以上かつ下記(2)式で定義されるAC(A)点(℃)未満となる条件で行う。
AC(A)(℃)=−221C−40Mn−80Ni−247N+64Si+20Cr+1240Al+602 …(2)
ここで、(2)式の元素記号の箇所には当該元素の質量%で表される含有量の値が代入される。
【0049】
SUS430に代表されるフェライト系ステンレス鋼は、高温域にオーステナイト+フェライト2相温度域を有する。オーステナイト相が安定に存在しない低温域から昇温して行く場合、長時間保持したときに2相が共存する温度であっても、短時間の保持では2相が共存するには至らない(すなわちオーステナイト相が形成されない)ことがある。保持時間が短いほど実際にオーステナイト相が形成し始める温度は高くなる傾向にある。また、上述の熱間圧延工程では、スラブは例えば1000℃以上の高温で十分に加熱を受けることによって、Cが鋼中に完全に固溶している組織状態となる。これに対し熱延板焼鈍工程では、Cが炭化物として存在している低温域からの昇温となるので、フェライト相がオーステナイト相に変態するには炭化物中のCが鋼中に拡散して固溶する必要がある。このようなことから、炭化物が存在する低温域から昇温して最高到達温度TMに達したのち降温させる短時間の熱延板焼鈍工程においては、オーステナイト相が形成し始める温度はAC点より高い温度となる。このときの、熱延板焼鈍(Annealing)における、オーステナイト相が形成し始める温度をAC(A)点とする。最高到達温度TMがAC(A)点以上になると、オーステナイト相が形成され、その後の冷却過程でマルテンサイト相に変態して残留する。最高到達温度TMが800℃を下回ると短時間での再結晶化が十分に果たせない場合がある。TMは820℃以上とすることがより好ましい。連続焼鈍炉での熱延板焼鈍における焼鈍時間に関しては特にこだわる必要はない。連続焼鈍炉の仕様にもよるが、通常、材料温度が800℃以上TM以下、より好ましくは820℃以上TM以下の範囲内に保持される時間が0〜60秒の範囲で実施すれば十分である。
【0050】
この熱延板焼鈍においては、熱延鋼板中に存在する未再結晶フェライト相に蓄えられていた歪エネルギーを利用して再結晶が進行する。熱間圧延においてオーステナイト相からフェライト相と炭化物への分解は完結し、コロニーは十分に分解されているため、連続焼鈍炉を用いた短時間の焼鈍によってマトリックスは結晶方位のランダム化の進んだ再結晶フェライト相となる。
このようにして、再結晶フェライト相からなるマトリックス中に炭化物が分布し、板厚方向に平行な断面(L断面)の平均硬さが200HV以下である組織状態を呈する熱延焼鈍鋼板が得られる。
【0051】
〔冷間圧延・焼鈍工程〕
上記の熱延焼鈍鋼板は一般的なフェライト系ステンレス鋼冷延焼鈍鋼板の製造ラインにより冷延焼鈍鋼板とすることができる。バッチ式焼鈍炉による長時間の熱延板焼鈍を省略しているにもかかわらず、冷間圧延→焼鈍の工程を1回行うだけで、耐リジング性に優れた冷延焼鈍鋼板の製品材が得られる。目標板厚に応じて冷間圧延→焼鈍の工程を複数回行うことができる。最終焼鈍前の冷間圧延率は例えば30〜90%とすることができ、焼鈍温度は例えば800〜900℃とすることができる。最終的な冷延焼鈍鋼板の板厚は例えば0.3〜4.0mmの範囲で調整すればよい。
【実施例】
【0052】
表1に示すSUS430系の鋼を溶製し、連続鋳造スラブを得た。
【0053】
【表1】
【0054】
連続鋳造スラブをスラブ加熱炉で加熱した後、炉から出し、粗圧延および仕上熱延を施し、巻き取ることにより熱延鋼板とした。粗圧延に供する際の連続鋳造スラブの板厚は約200mmである。鋳片(連続鋳造スラブ)の加熱は、1050℃、均熱1時間とした。粗圧延は合計5パスの圧下で行い、板厚20mmの粗圧延材を得た。この粗圧延材を仕上熱延設備に搬送し、仕上熱延に供した。
【0055】
仕上熱延機はリバース式であり、ミルの両側に各圧延パス間で鋼板を巻き取って加熱保持する炉(ファーネスコイラー)を備えている。仕上熱延の総パス数は7パスとし、各パス間でファーネスコイラーによる加熱処理を行った。圧延時の材料温度は、ワークロールに噛み込まれる直前の鋼板表面温度を測定することによって求めた。仕上熱延の最終パス終了後の板厚は3.5〜4.0mmであり、鋼帯の全長が570℃未満の温度域で巻き取られるように、最終パス終了後の冷却速度を調整した。
【0056】
仕上熱延では、圧延時の通板速度(圧延速度)を調整することにより、「実施例」および「比較例」の2通りのヒートパターンにて圧延を行った。ファーネスコイラーの設定温度(炉温)はいずれも830℃とした。
【0057】
図1に、初パス開始からの経過時間と、各パスでの材料温度の関係を示す。図1(a)は奇数パスで鋼帯の後端部となり、偶数パスで鋼帯の先端部となる部位について、各パス圧延温度のプロットを結んだものである。図1(b)は鋼帯の長手方向中央の部位について、各パス圧延温度のプロットを結んだものである。鋼帯の長手方向端部は、後端部となるパスと先端部となるパスの間でのファーネスコイラー収容時間が短いので、鋼帯の長手方向中央部に比べて仕上熱延中の温度低下が大きくなりやすい。一般的には、圧延速度を速くするほど最終パス終了までの所要時間が短くなるので、生産性の観点からは有利となる。しかし、圧延速度が大きくなるほど、鋼帯長手方向の両端部と中央部の圧延温度に開きが生じやすくなる。ここでは、鋼帯長手方向の端部では図1(a)に示される通り、実施例、比較例とも、仕上熱延の初パス開始から最終パス終了までの間で650℃以上かつAC点(実施例:807℃、比較例:793℃)未満の温度域での滞在時間を300秒以上確保することができている。一方、鋼帯長手方向の中央部では図1(b)に示される通り、圧延速度を比較例よりも遅くコントロールした実施例においてのみ、初パス開始から最終パス終了までの間で650℃以上かつAC点(℃)未満の温度域での滞在時間を300秒以上確保することが可能であった。
【0058】
得られた熱延コイルについて、最終パスでの「後端部」に相当するコイルの最外周の位置、および鋼帯長手方向の「中央部」に相当する位置からサンプルを採取し、L断面の組織観察およびL断面内の硬さ測定を行った。上記の「中央部」は、「最外周よりも内周側かつ最内周から数えて2周目よりも外周側」の要件を満たす部位である。
【0059】
図2に、比較例の熱延鋼帯におけるL断面の光学顕微鏡写真およびHV0.05にて硬さ測定を行った結果を例示する。図3に、実施例の熱延鋼帯におけるL断面の光学顕微鏡写真およびHV0.05にて硬さ測定を行った結果を例示する。いずれも(a)は長手方向後端部、(b)は長手方向中央部である。図2および図3の硬さ測定は、最大硬さ測定のため、マイクロビッカース硬度計にてHV0.05で各相に照準を合わせて測定し、図中の値はバラツキ範囲と平均値を示してある。ここで、αは再結晶フェライト相、Mはマルテンサイト相を意味する。その他、平均硬さ測定のため、ビッカース硬度計にてHV1で無作為に選択した20箇所以上の位置について硬さを測定した。
【0060】
組織観察および硬さ測定の結果、比較例の熱延鋼帯では、長手方向中央部の金属組織にマルテンサイト相が認められ、その最大硬さは300HVを超えていた。これに対し、実施例の熱延鋼帯は、鋼帯長手方向後端部、中央部ともにマルテンサイト相は観察されず、L断面硬さは、長手方向後端部で平均硬さ236HV、最大硬さ254HVであり、長手方向中央部で平均硬さ247HV、最大硬さ251HVであった。実施例の熱延鋼帯は鋼帯全長にわたって再結晶フェライト相と未再結晶フェライト相で構成されるマトリックス(金属素地)中に炭化物が分布した組織状態を呈すると認められる。
【0061】
熱延鋼帯から採取した上記サンプルを用いて、AC(A)点未満である850℃まで昇温したのち、すぐに炉から出して空冷にて冷却する熱処理を施した。その結果、L断面の平均硬さは、比較例では鋼帯長手方向中央部で171HV、後端部で168HVであり、実施例では鋼帯長手方向中央部で174HV、後端部で173HVであった。この焼鈍後の金属組織を観察すると、実施例の鋼帯にはマルテンサイト相は認められなかった。しかし、比較例の鋼帯には、長手方向中央部に図2と同様のマルテンサイト相の存在が認められた。したがって、「鋼帯の長手方向いずれの場所においても、再結晶フェライト相からなる軟質なマトリックス(金属素地)中に炭化物が分布した組織状態を実現する」という本発明の課題は、実施例では達成されたが、比較例では達成されなかった。
図1
図2
図3