(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記成分(i)として前記成分(i−1)が含まれる場合において、前記ウレタンジアクリレートオリゴマーは、ポリエステル系ウレタンジアクリレートオリゴマーまたはポリカーボネート系ウレタンジアクリレートオリゴマーのうち少なくともいずれか一方を含み、
前記成分(i)として前記成分(i−2)が含まれる場合において、前記ポリジオールは、ポリエステルジオールまたはポリカーボネートジオールのうち少なくともいずれか一方を含む、請求項1記載のインクジェットインク。
前記成分(i)として前記成分(i−1)が含まれる場合において、前記ポリエステル系ウレタンジアクリレートオリゴマーまたはポリカーボネート系ウレタンジアクリレートオリゴマーの数平均分子量(Mn)は、1000〜10000であり、
前記成分(i)として前記成分(i−2)が含まれる場合において、前記ポリエステルジオールまたはポリカーボネートジオールの数平均分子量(Mn)は、500〜9000である、請求項2記載のインクジェットインク。
以下の条件で塗膜が形成される場合において、得られる塗膜の140℃条件下における引張破断伸度(測定条件は、JIS K 7127に準じる)が50〜300%である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
(塗膜形成条件)
塗工条件
塗工方法 アプリケータ
膜厚 250μm
紫外線照射条件
ピーク照度 500mW/cm2
積算光量 800mJ/cm2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の塗料組成物が用いられる場合、得られる成形品は、成形性と耐溶剤性とが充分に両立されていない。また、塗料組成物を塗工する方法以外の方法(たとえばインクジェット方式によりインクジェットインクを付与する方法)により、成形性と耐溶剤性とを充分に両立するための技術もまた、知られていない。
【0005】
ところで、インクジェット方式によってインクジェットインクを基材に付与してプリント物を作製する場合には、インクジェットインクは、吐出安定性等を考慮して、いくらか低粘度であることが好ましい。また、インクジェットインクは、保存安定性等も高度に要求される。すなわち、インクジェットインクに求められる特性は、塗料組成物に求められる特性よりも、より専門的であり、かつ、高度である。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、低粘度であり、保存安定性が優れ、かつ、成形性と耐溶剤性とが両立されたプリント物を得るためのインクジェットインク、および、成形性と耐溶剤性とが両立されたプリント物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明のインクジェットインクおよびプリント物の製造方法には、以下の構成が主に含まれる。
【0008】
(1)以下の成分(i)と、成分(ii)と、成分(iii)と、光ラジカル重合開始剤とを含む、インクジェットインク。
<成分(i)>
以下の成分(i−1)または成分(i−2)のうち少なくともいずれか一方の成分。
成分(i−1):ウレタンジアクリレートオリゴマー。
成分(i−2):ポリジオールと、前記ポリジオールと反応し得る官能基を有する(メタ)アクリレートモノマーとを含む成分。
<成分(ii)>
以下の式(I)で示される化合物。
【化1】
(式(I)中、R
1は、水素原子または1価の有機基を表す。有機基は、炭化水素で構成され、エーテル基を有していてもよい。炭化水素の水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。)
<成分(iii)>
直鎖脂肪族系(メタ)アクリレートモノマー、または、脂肪族環状構造を有する(メタ)アクリレートモノマーのうち少なくともいずれか一方の成分。
【0009】
このような構成によれば、インクジェットインクは、低粘度であり、かつ、保存安定性が優れる。また、このようなインクジェットインクを用いて得られるプリント物は、成形性と耐溶剤性とが両立される。
【0010】
(2)前記成分(i)として前記成分(i−1)が含まれる場合において、前記ウレタンジアクリレートオリゴマーは、ポリエステル系ウレタンジアクリレートオリゴマーまたはポリカーボネート系ウレタンジアクリレートオリゴマーのうち少なくともいずれか一方を含み、前記成分(i)として前記成分(i−2)が含まれる場合において、前記ポリジオールは、ポリエステルジオールまたはポリカーボネートジオールのうち少なくともいずれか一方を含む、(1)記載のインクジェットインク。
【0011】
このような構成によれば、インクジェットインクは、より低粘度であり、かつ、保存安定性が優れる。また、このようなインクジェットインクを用いて得られるプリント物は、成形性と耐溶剤性とがより両立されやすい。
【0012】
(3)前記成分(i)として前記成分(i−1)が含まれる場合において、前記ポリエステル系ウレタンジアクリレートオリゴマーまたはポリカーボネート系ウレタンジアクリレートオリゴマーの数平均分子量(Mn)は、1000〜10000であり、前記成分(i)として前記成分(i−2)が含まれる場合において、前記ポリエステルジオールまたはポリカーボネートジオールの数平均分子量(Mn)は、500〜9000である、(2)記載のインクジェットインク。
【0013】
このような構成によれば、インクジェットインクを用いて得られるプリント物は、より優れた成形性と耐溶剤性とが両立される。
【0014】
(4)式(I)で示される化合物は、2−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルである、(1)〜(3)のいずれかに記載のインクジェットインク。
【0015】
このような構成によれば、インクジェットインクは、より低粘度化されやすい。また、インクジェットインクを用いて得られるプリント物は、より優れた成形性と耐溶剤性とが両立される。
【0016】
(5)粘度(30℃条件下)が5〜50mPa・sである、(1)〜(4)のいずれかに記載のインクジェットインク。
【0017】
このような構成によれば、インクジェットインクは、充分に低粘度化されており、取り扱い易く、かつ、インクジェットプリント時における吐出安定性がより優れる。
【0018】
(6)前記成分(i)の含有量は、インクジェットインク中、5〜35質量%であり、前記成分(ii)の含有量は、インクジェットインク中、20〜50質量%であり、前記成分(iii)の含有量は、インクジェットインク中、5〜25質量%である、(1)〜(5)のいずれかに記載のインクジェットインク。
【0019】
このような構成によれば、インクジェットインクを用いて得られるプリント物は、優れた成形性と耐溶剤性とが両立される。特に、成分(i)および成分(ii)が上記含有量となるよう含まれていることにより、インクジェットインクを用いて得られるプリント物は、成形性と耐溶剤性とが両立されやすい。また、成分(iii)が上記含有量となるよう含まれていることにより、インクジェットインクを用いて得られるプリント物は、より幅広い種類の溶剤に対する耐溶剤性が発揮されやすい。
【0020】
(7)前記成分(i)として前記成分(i−2)が含まれる場合において、前記官能基は、ブロックイソシアネート系官能基である、(1)〜(6)のいずれかに記載のインクジェットインク。
【0021】
このような構成によれば、インクジェットインクは、特に保存安定性が優れる。
【0022】
(8)前記ブロックイソシアネート系官能基は、イソシアネート基がブロック剤によって封鎖された官能基であり、前記ブロック剤は、マロン酸ジエチル、ジメチルピラゾール、または、メチルエチルケトンオキシムである、(7)記載のインクジェットインク。
【0023】
このような構成によれば、インクジェットインクを用いて得られるプリント物は、優れた成形性と耐溶剤性とが両立される。
【0024】
(9)以下の条件で塗膜が形成される場合において、得られる塗膜の140℃条件下における引張破断伸度(測定条件は、JIS K 7127に準じる)が50〜300%である、(1)〜(8)のいずれかに記載のインクジェットインク。
(塗膜形成条件)
塗工条件
塗工方法 アプリケータ
膜厚 250μm
紫外線照射条件
ピーク照度 500mW/cm
2
積算光量 800mJ/cm
2
【0025】
このような構成によれば、インクジェットインクを用いて得られるプリント物は、優れた成形性(塗膜の伸び等)を示す。
【0026】
(10)基材上に、(1)〜(9)のいずれかに記載のインクジェットインクを付与するインクジェット工程と、付与された前記インクジェットインクに、紫外線を照射する、紫外線照射工程と、を含む、プリント物の製造方法。
【0027】
このような構成によれば、得られるプリント物は、成形性と耐溶剤性とが両立される。
【0028】
(11)前記紫外線照射工程の後に、熱処理を行う熱処理工程を含む、(10)記載のプリント物の製造方法。
【0029】
このような構成によれば、得られるプリント物は、成形性と耐溶剤性とが両立される。また、プリント物は、紫外線照射工程によりいくらか硬化された後、熱処理工程が施されることによりさらに硬化される。その結果、短時間で、滲みにくく、かつ、鮮明な画像が形成され得る。
【0030】
(12)前記紫外線照射工程の後に、前記基材を賦形する、賦形工程を含む、(10)または(11)記載のプリント物の製造方法。
【0031】
このような構成によれば、得られるプリント物は、たとえばインサート成形によって、種々の形状に成形され得る。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、低粘度であり、保存安定性が優れ、かつ、成形性と耐溶剤性とが両立されたプリント物を得るためのインクジェットインク、および、成形性と耐溶剤性とが両立されたプリント物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<インクジェットインク>
本発明の一実施形態のインクジェットインクは、以下の成分(i)と、成分(ii)と、成分(iii)と、光ラジカル重合開始剤とを含む。
<成分(i)>
以下の成分(i−1)または成分(i−2)のうち少なくともいずれか一方の成分。
成分(i−1):ウレタンジアクリレートオリゴマー。
成分(i−2):ポリジオールと、ポリジオールと反応し得る官能基を有する(メタ)アクリレートモノマーとを含む成分。
<成分(ii)>
以下の式(I)で示される化合物。
【化2】
(式(I)中、R
1は、水素原子または1価の有機基を表す。有機基は、炭化水素で構成され、エーテル基を有していてもよい。炭化水素の水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。)
<成分(iii)>
直鎖脂肪族系(メタ)アクリレートモノマー、または、脂肪族環状構造を有する(メタ)アクリレートモノマーのうち少なくともいずれか一方の成分。
【0034】
本実施形態のインクジェットインクは、上記成分(i)〜(iii)および光重合開始剤を含んでいることにより、低粘度であり、かつ、保存安定性が優れる。また、このようなインクジェットインクを用いて得られるプリント物は、成形性と耐溶剤性とが両立される。以下、それぞれについて説明する。
【0035】
(成分(i))
成分(i)は、以下の成分(i−1)または成分(i−2)のうち少なくともいずれか一方を含む。成分(i)は、得られるプリント物の成形性および耐溶剤性を共に向上させるために配合される。なお、成分(i−1)は、成分(iー2)の反応生成物である。成分(i−2)から成分(i−1)を得るための反応は、たとえばインクジェットインクを付与した後に硬化させる過程において行われ得る。
【0036】
・成分(i−1)
成分(i−1)は、ウレタンジアクリレートオリゴマーである。ウレタンジアクリレートオリゴマーは特に限定されない。一例を挙げると、ウレタンジアクリレートオリゴマーは、ポリエステル系ウレタンジアクリレートオリゴマー、ポリカーボネート系ウレタンジアクリレートオリゴマー、ポリエーテル系ウレタンジアクリレートオリゴマー等である。これらの中でも、得られるインクジェットインクが、より低粘度となり、かつ、保存安定性が優れる点から、ウレタンジアクリレートオリゴマーは、ポリエステル系ウレタンジアクリレートオリゴマーまたはポリカーボネート系ウレタンジアクリレートオリゴマーのうち少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。
【0037】
・ポリエステル系ウレタンジアクリレートオリゴマー
ポリエステル系ウレタンジアクリレートオリゴマーは、たとえば、ポリエステルジオールと、ポリエステルジオールと反応し得る官能基を有する(メタ)アクリレートモノマーとを反応させることにより製造されるオリゴマーである。
【0038】
ポリエステルジオールは特に限定されない。一例を挙げると、ポリエステルジオールは、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリへキサメチレンイソフタレートアジペートジオール、ポリエチレンサクシネートジオール、ポリブチレンサクシネートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリ−ε−カプロラクトンジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンアジペート)ジオール、1,6−へキサンジオールとダイマー酸の重縮合物等である。
【0039】
ポリエステルジオールの数平均分子量(Mn)は、500以上であることが好ましく、900以上であることがより好ましく、1200以上であることがさらに好ましい。また、Mnは、9000以下であることが好ましく、8000以下であることがより好ましい。Mnが上記範囲内であることにより、インクジェットインクを用いて得られるプリント物は、より優れた成形性と耐溶剤性とが両立され得る。なお、本実施形態において、Mn(および後述する重量平均分子量(Mw))は、たとえば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算値として算出され得る。
【0040】
ポリエステルジオールの粘度は特に限定されない。一例を挙げると、ポリエステルジオールの粘度(25℃条件下)は、100000mPa・s以下であることが好ましく、50000mPa・s以下であることがより好ましい。
【0041】
ポリエステルジオールと反応し得る官能基を有する(メタ)アクリレートモノマーは特に限定されない。一例を挙げると、上記官能基は、ブロックイソシアネート系官能基、イソシアネート系官能基である。これらの中でも、(メタ)アクリレートモノマーは、得られるインクジェットインクの保存安定性がより向上する点から、ポリエステルジオールと反応し得る官能基としてブロックイソシアネート系官能基を含んでいることが好ましい。
【0042】
ブロックイソシアネート系官能基は、イソシアネート基(−NCO)が熱脱離可能な保護基により保護された官能基であり、イソシアネート基にブロック剤を反応させることにより形成された官能基である。
【0043】
ブロック剤は特に限定されない。一例を挙げると、ブロック剤は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシヘキサノール、2−N,N−ジメチルアミノエタノール、2−エトキシエタノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、フェノール、o−ニトロフェノール、p−クロロフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のフェノール類、ε−カプロラクタム、γ−カプロラクタム等のラクタム類、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、メチルイソブチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム等のオキシム類、ピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチルピラゾール等のピラゾール類、ドデカンチオール、ベンゼンチオール等のチオール類、マロン酸ジエステル、アセト酢酸エステル、マロン酸ジニトリル、アセチルアセトン、メチレンジスルホン、ジベンゾイルメタン、ジピバロイルメタン、アセトンジカルボン酸ジエステル等の活性メチレン系化合物類である。ブロック剤は併用されてもよい。これらの中でも、ブロック剤は、得られるプリント物の熱処理による反応性とインクの保存安定性とを両立しやすい点から、マロン酸ジエチル、ジメチルピラゾール、または、メチルエチルケトンオキシムを含むことが好ましい。特に、ブロック剤としてマロン酸ジエチル、ジメチルピラゾール、または、メチルエチルケトンオキシムが含まれることにより、得られるプリント物は、たとえば日焼け止め化粧料に含まれる溶剤(炭化水素系溶剤、脂肪族エステル系溶剤、アルコール系溶剤等)に対して優れた耐溶剤性を示し得る。
【0044】
上記官能基を有する(メタ)アクリレートモノマーは特に限定されない。一例を挙げると、(メタ)アクリレートモノマーは、2−イソシアネートエチルメタクリレート、2−イソシアネートエチルアクリレート等のイソシアネート含有(メタ)アクリレートである。
【0045】
ポリエステル系ウレタンジアクリレートオリゴマーの数平均分子量(Mn)は、1000以上であることが好ましく、1200以上であることがより好ましい。また、Mnは、10000以下であることが好ましく、8000以下であることがより好ましい。Mnが上記範囲内であることにより、インクジェットインクを用いて得られるプリント物は、より優れた成形性と耐溶剤性とが両立され得る。
【0046】
・ポリカーボネート系ウレタンジアクリレートオリゴマー
ポリカーボネート系ウレタンジアクリレートオリゴマーは、たとえば、ポリカーボネートジオールと、ポリカーボネートジオールと反応し得る官能基を有する(メタ)アクリレートモノマーとを反応させることにより製造し得る。
【0047】
ポリカーボネートジオールは特に限定されない。一例を挙げると、ポリカーボネートジオールは、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオールなどのジオールを原料にしたポリカーボネートジオールである。
【0048】
ポリカーボネートジオールの数平均分子量(Mn)は、500以上であることが好ましく、900以上であることがより好ましく、1200以上であることがさらに好ましい。また、Mnは、9000以下であることが好ましく、8000以下であることがより好ましい。Mnが上記範囲内であることにより、インクジェットインクを用いて得られるプリント物は、より優れた成形性と耐溶剤性とが両立され得る。
【0049】
ポリカーボネートジオールの粘度は特に限定されない。一例を挙げると、ポリエステルジオールの粘度(25℃条件下)は、100000mPa・s以下であることが好ましく、50000mPa・s以下であることがより好ましい。
【0050】
ポリカーボネートジオールと反応し得る官能基を有する(メタ)アクリレートモノマーは特に限定されない。一例を挙げると、ポリカーボネートジオールと反応し得る官能基を有する(メタ)アクリレートモノマーは、ポリエステル系ウレタンジアクリレートオリゴマーに関連して上記したものと同様のものが用いられ得る。
【0051】
ポリカーボネート系ウレタンジアクリレートオリゴマーの数平均分子量(Mn)は、1000以上であることが好ましく、1500以上であることがより好ましい。また、Mnは、10000以下であることが好ましく、9000以下であることがより好ましい。Mnが上記範囲内であることにより、インクジェットインクを用いて得られるプリント物は、より優れた成形性と耐溶剤性とが両立され得る。
【0052】
・成分(i−2)
成分(i−2)は、ポリジオールと、ポリジオールと反応し得る官能基を有する(メタ)アクリレートモノマーとを含む成分である。ポリジオールは特に限定されない。一例を挙げると、ポリジオールは、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエーテルジオール等である。これらの中でも、得られるインクジェットインクが、より低粘度となり、かつ、保存安定性が優れる点から、ポリジオールは、ポリエステルジオールまたはポリカーボネートジオールのうち少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。
【0053】
ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、および、ポリエステルジオールまたはポリカーボネートジオールと反応し得る官能基を有する(メタ)アクリレートモノマーは、いずれも成分(i−1)に関連して上記したものと同様のものが使用され得る。
【0054】
成分(i−2)がインクジェットインクに含まれる場合、成分(i−2)は、たとえば後述するインクジェットインクからプリント物を製造する際に、紫外線照射工程によって、容易に反応し、成分(i−1)のポリエステル系ウレタンジアクリレートオリゴマーまたはポリカーボネート系ウレタンジアクリレートオリゴマーを生成し得る。より具体的には、紫外線照射工程によって、成分(i−2)中の(メタ)アクリレートモノマーが反応する。その後、ポリエステルジオールまたはポリカーボネートジオールと、上記官能基とが反応して硬化し、成分(i−1)のポリエステル系ウレタンジアクリレートオリゴマーまたはポリカーボネート系ウレタンジアクリレートオリゴマーが生成され得る。なお、ポリエステルジオールまたはポリカーボネートジオールと、上記官能基との反応は、紫外線が照射された後に熱が加えられることにより、より進行しやすい(後述する熱処理工程を参照)。
【0055】
成分(i)全体の説明に戻り、成分(i)の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、成分(i)の含有量は、インクジェットインク中、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、成分(i)の含有量は、インクジェットインク中、35質量%以下であることが好ましく、32質量%以下であることがより好ましい。成分(i)の含有量が上記範囲内であることにより、インクジェットインクを用いて得られるプリント物は、成形性と耐溶剤性とが両立されやすい。
【0056】
(成分(ii))
成分(ii)は、以下の式(I)で示される化合物である。成分(ii)は、インクジェットインクを低粘度化するとともに、得られるプリント物の成形性および耐溶剤性を共に向上させるために配合される。
【0058】
式(I)において、R
1は、水素原子または1価の有機基を表す。有機基は、炭化水素で構成され、エーテル基を有していてもよい。炭化水素の水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0059】
有機基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状構造を含んでいてもよい。炭化水素基は特に限定されない。一例を挙げると、炭化水素基は、炭素数1以上の鎖状飽和炭化水素基、炭素数3以上の鎖状不飽和炭化水素基、炭素数3以上の脂環式炭化水素基、炭素数6以上の芳香族炭化水素基等である。これらの中でも、炭化水素基は、炭素数1〜30の鎖状飽和炭化水素基、炭素数3〜30の鎖状不飽和炭化水素基、炭素数4〜30の脂環式炭化水素基および炭素数6〜30の芳香族炭化水素基であることが好ましい。置換基は特に限定されない。一例を挙げると、置換基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、シアノ基、トリメチルシリル基等である。
【0060】
鎖状飽和炭化水素基は特に限定されない。一例を挙げると、鎖状飽和炭化水素基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基、sec−アミル基、tert−アミル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、sec−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、カプリル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、セチル基、ヘプタデシル基、ステアリル基、ノナデシル基、エイコシル基、セリル基、メリシル基等である。
【0061】
鎖状不飽和炭化水素基は特に限定されない。一例を挙げると、鎖状不飽和炭化水素基は、クロチル基、1,1−ジメチル−2−プロペニル基、2−メチル−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、オレイル基、リノール基、リノレン基等である。
【0062】
脂環式炭化水素基は特に限定されない。一例を挙げると、脂環式炭化水素基は、シクロペンチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−tert−ブチルシクロヘキシル基、トリシクロデカニル基、イソボルニル基、アダマンチル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基等である。
【0063】
芳香族炭化水素基は特に限定されない。一例を挙げると、芳香族炭化水素基は、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ジフェニルエチル基、トリフェニルメチル基、シンナミル基、ナフチル基、アントラニル基等である。
【0064】
エーテル結合を有する炭化水素基は特に限定されない。一例を挙げると、エーテル結合を有する炭化水素基は、メトキシエチル基、メトキシエトキシエチル基、メトキシエトシキエトキシエチル基、3−メトキシブチル基、エトキシエチル基、エトキシエトキシエチル基などの鎖状エーテル基;シクロペントキシエチル基、シクロヘキシルオキシエチル基、シクロペントキシエトキシエチル基、シクロヘキシルオキシエトキシエチル基、ジシクロペンテニルオキシエチル基などの脂環式炭化水素基と鎖状エーテル基を併せ持つ基;フェノキシエチル基、フェノキシエトキシエチル基などの芳香族炭化水素基と鎖状エーテル基を併せ持つ基;グリシジル基、β−メチルグリシジル基、β−エチルグリシジル基、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル基、2−オキセタンメチル基、3−メチル−3−オキセタンメチル基、3−エチル−3−オキセタンメチル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロフルフリル基、テトラヒドロピラニル基、ジオキサゾラニル基、ジオキサニル基などの環状エーテル基等である。
【0065】
本実施形態において、式(I)中のR
1は、水素原子であるか、炭素数が1〜6である炭化水素基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。成分(ii)が、式(I)で示される化合物のR
1がメチル基である化合物(2−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル)である場合、インクジェットインクは、より低粘度化されやすい。また、得られるプリント物は、より優れた成形性と耐溶剤性とが両立され得る。
【0066】
成分(ii)の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、成分(ii)の含有量は、インクジェットインク中、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。また、成分(ii)の含有量は、インクジェットインク中、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましい。成分(ii)の含有量が上記範囲内であることにより、インクジェットインクを用いて得られるプリント物は、成形性と耐溶剤性とが両立されやすい。
【0067】
(成分(iii))
成分(iii)は、直鎖脂肪族系(メタ)アクリレートモノマー、または、脂肪族環状構造を有する(メタ)アクリレートモノマーのうち少なくともいずれか一方の成分である。成分(iii)は、インクジェットインクが、より幅広い種類の溶剤に対して優れた耐溶剤性を発揮し得るように配合される。
【0068】
直鎖脂肪族系(メタ)アクリレートモノマーは特に限定されない。一例を挙げると、直鎖脂肪族系(メタ)アクリレートモノマーは、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート等である。これらの中でも、直鎖脂肪族系(メタ)アクリレートモノマーは、粘度が比較的低いという点から、イソオクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレートであることが好ましい。直鎖脂肪族系(メタ)アクリレートモノマーは、併用されてもよい。
【0069】
脂肪族環状構造を有する(メタ)アクリレートモノマーは特に限定されない。一例を挙げると、脂肪族環状構造を有する(メタ)アクリレートモノマーは、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−tert−ブチルシクロヘキサノール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノールイソボルニル(メタ)アクリレート、1−アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等である。これらの中でも、脂肪族環状構造を有するアクリレートモノマーは、比較的低粘度であり、入手しやすいという点から、4−tert−ブチルシクロヘキサノール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートであることが好ましい。直鎖脂肪族系(メタ)アクリレートモノマーは、併用されてもよい。
【0070】
成分(iii)の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、成分(iii)の含有量は、インクジェットインク中、5質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましい。また、成分(iii)の含有量は、インクジェットインク中、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。成分(iii)の含有量が上記範囲内であることにより、インクジェットインクは、より幅広い種類の溶剤に対して優れた耐溶剤性を発揮し得る。
【0071】
(光ラジカル重合開始剤)
光ラジカル重合開始剤は、インクジェットインクを紫外線により適度に硬化させるために配合される。
【0072】
光ラジカル重合開始剤は特に限定されない。一例を挙げると、光ラジカル重合開始剤は、アルキルフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、チオキサントン系化合物、ハロメチル化トリアジン系化合物、ハロメチル化オキサジアゾール系化合物、ビイミダゾール系化合物、オキシムエステル系化合物、チタノセン系化合物、安息香酸エステル系化合物、アクリジン系化合物等である。光ラジカル重合開始剤は、併用されてもよい。
【0073】
アルキルフェノン系化合物は特に限定されない。一例を挙げると、アルキルフェノン系化合物は、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル〕−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−〔4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル〕フェニル}−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン、2−(ジメチルアミノ)−2−〔(4−メチルフェニル)メチル〕−1−〔4−(4−モルホリニル)フェニル〕−1−ブタノン等である。
【0074】
ベンゾフェノン系化合物は特に限定されない。一例を挙げると、ベンゾフェノン系化合物は、ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−カルボキシベンゾフェノン等である。
【0075】
ベンゾイン系化合物は特に限定されない。一例を挙げると、ベンゾイン系化合物は、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等である。
【0076】
チオキサントン系化合物は特に限定されない。一例を挙げると、チオキサントン系化合物は、チオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等である。
【0077】
ハロメチル化トリアジン系化合物は特に限定されない。一例を挙げると、ハロメチル化トリアジン系化合物は、2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−sec−トリアジン、2−(4−メトキシナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−sec−トリアジン、2−(4−エトキシナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−sec−トリアジン、2−(4−エトキシカルボキニルナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−sec−トリアジン等である。
【0078】
ハロメチル化オキサジアゾール系化合物は特に限定されない。一例を挙げると、ハロメチル化オキサジアゾール系化合物は、2−トリクロロメチル−5−〔β−(2’−ベンゾフリル)ビニル〕−1,3,4−オキサジアゾール、2−トリクロロメチル−5−〔β−(2’−(6”−ベンゾフリル)ビニル)〕−1,3,4−オキサジアゾール、2−トリクロロメチル−5−フリル−1,3,4−オキサジアゾール等である。
【0079】
ビイミダゾール系化合物は特に限定されない。一例を挙げると、ビイミダゾール系化合物は、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール等である。
【0080】
オキシムエステル系化合物は特に限定されない。一例を挙げると、オキシムエステル系化合物は、1−〔4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)〕−1,2−オクタンジオン、1−〔9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)エタノン等である。
【0081】
チタノセン系化合物は特に限定されない。一例を挙げると、チタノセン化合物は、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム等である。
【0082】
安息香酸エステル系化合物は特に限定されない。一例を挙げると、安息香酸エステル系化合物は、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジエチルアミノ安息香酸等である。
【0083】
アクリジン系化合物は特に限定されない。一例を挙げると、アクリジン系化合物は、9−フェニルアクリジン等である。
【0084】
光ラジカル重合開始剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、光ラジカル重合体の含有量は、インクジェットインク中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、光ラジカル重合体の含有量は、インクジェットインク中、15質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましい。光ラジカル重合体の含有量が上記範囲内であることにより、インクジェットインクは、紫外線により適度に硬化され得る。
【0085】
(任意成分)
本実施形態のインクジェットインクは、上記した成分(i)〜(iii)および光ラジカル重合開始剤以外にも、インクジェットインクの分野において周知な任意成分を含有することができる。一例を挙げると、任意成分は、上記以外の他の各種モノマー、各種バインダー樹脂、各種溶剤、硬化触媒、スリップ剤(レベリング剤)、分散剤、重合促進剤、重合禁止剤、浸透促進剤、湿潤剤(保湿剤)、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、増粘剤等である。
【0086】
・他のモノマー
インクジェットインクは、紫外線の照射により重合して硬化被膜を形成し得る他のモノマーが含有されてもよい。このような他のモノマーとしては、各種単官能モノマー、多官能モノマーが例示される。
【0087】
単官能モノマーは特に限定されない。一例を挙げると、単官能モノマーは、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミドおよびジイソプロピルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、アクリロイルモルフォリン、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチルアクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のn−アルキル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート等のイソアルキル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、ジアセトンアクリルアミド、イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、t−オクチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、7−アミノ−3,7−ジメチルオクチル(メタ)アクリレート等である。
【0088】
多官能モノマーは特に限定されない。一例を挙げると、多官能モノマーは、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルに(メタ)アクリレートを付加させたエポキシ(メタ)アクリレート等である。
【0089】
他のモノマーが含有される場合、他のモノマーの含有量は特に限定されない。一例を挙げると、他のモノマーは、インクジェットインク中、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。また、他のモノマーは、インクジェットインク中、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。他のモノマーの含有量が1質量%未満である場合、他のモノマーを含有させることによる効果が奏されにくい傾向がある。一方、他のモノマーの含有量が50質量%を超える場合、(i)、(ii)、(iii)の成分の含有量が少なくなり、本実施形態の効果が得られにくい傾向がある。
【0090】
本実施形態のインクジェットインクは、特に成分(i)のうち成分(i−2)が用いられる場合には、未反応物の残量を低減させるために、OH基含有モノマーが含有されることが好ましい。すなわち、本実施形態のインクジェットインクは、たとえば紫外線照射の後に熱硬化を行うことによりプリント物を製造する場合、インクジェットインクは、一旦紫外線によって硬化されているため、熱硬化の際の反応が進みにくい傾向がある。このような場合、OH基含有モノマーが含有されることにより、OH基含有モノマーは、熱硬化を促進し、未反応物の量を低減させ得る。
【0091】
OH基含有モノマーは特に限定されない。一例を挙げると、OH基含有モノマーは、2−ヒドロキエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタアクリレートやε−カプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート等である。これらの中でも、比較的低粘度であり、安価で入手しやすい点から、OH基含有モノマーは、4−ヒドロキシブチルメタアクリレートであることが好ましい。
【0092】
OH基含有モノマーの重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。一例を挙げると、Mwは、150以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましい。また、Mwは、800以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましい。Mwが上記範囲内であることにより、得られるプリント物は、より未反応物の量が低減されやすい。
【0093】
・バインダー樹脂
バインダー樹脂は、たとえば、インクジェットインクの粘度を調整したり、得られるプリント物の硬度の調整や形状を制御するために含有され得る。
【0094】
バインダー樹脂の種類は特に限定されない。一例を挙げると、バインダー樹脂は、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アイオノマー樹脂、エチレンエチルアクリレート樹脂、アクリロニトリルアクリレートスチレン共重合樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリル塩化ポリエチレンスチレン共重合樹脂、エチレン酢ビ樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、ポリスチレンマレイン酸共重合樹脂、ポリスチレンアクリル酸共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、メチルペンテン樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート樹脂、ブチラール樹脂、ホルマール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、およびこれらの共重合樹脂等である。バインダー樹脂は、耐溶剤性、膜強度、粘度、熱安定性、非着色性、耐水性、耐薬品性等を考慮し、適宜選択され得る。バインダー樹脂は、併用されてもよい。
【0095】
バインダー樹脂が含有される場合、バインダー樹脂の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、バインダー樹脂は、固形分換算で、インクジェットインク中、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、バインダー樹脂は、インクジェットインク中、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。バインダー樹脂の含有量が5質量%未満である場合、バインダーとしての所望の性能が得られにくい傾向がある。一方、バインダー樹脂の含有量が20質量%を超える場合、インクジェットインクの粘度が高くなり、インクジェットプリント時における吐出安定性が低下する傾向がある。
【0096】
・溶剤
溶剤は、本実施形態のインクジェットインクにおいて、インクの粘度を低下させるために添加してもよい。溶剤の種類は特に限定されない。一例を挙げると、溶剤は、水、グリコールエーテル系溶剤、アセテート系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、炭化水素系溶剤、脂肪酸エステル系溶剤、芳香族系溶剤等である。溶剤は、併用されてもよい。
【0097】
溶剤が含有される場合、溶剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、溶剤は、インクジェットインク中、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、溶剤は、インクジェットインク中、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。溶剤の含有量が5質量%未満である場合、インクジェットインクの粘度を低下させる効果があまり得られないおそれがある。一方、溶剤の含有量が50質量%を超える場合、インクジェットインク中に添加できる紫外線硬化型樹脂の割合が低くなり、インクジェット加工時に熱乾燥工程が必要になったり、インクの乾燥不良になるおそれがあり、所望の性能が得られにくい傾向がある。
【0098】
・硬化触媒
硬化触媒は特に限定されない。一例を挙げると、硬化触媒は、スズ、チタン、ジルコニウム、鉄、アンチモン、ビスマス、マンガン、亜鉛、アルミニウム等の金属の有機酸塩、アルコラートおよびキレート化合物;ヘキシルアミン、ドデシルアミンのようなアミン;酢酸ヘキシルアミン、リン酸ドデシルアミンのようなアミン塩;ベンジルトリメチルアンモニウムアセテートのような第4級アンモニウム塩;酢酸カリウムのようなアルカリ金属の塩等である。より具体的には、硬化触媒は、オクチル酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマスなどの有機ビスマス化合物、ジラウリル酸ジブチルスズ、ジオクチル酸ジブチルスズ、ジネオデカン酸ジメチルスズ、スタナスオクトエートなどの有機スズ化合物、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトン)チタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタンなどの有機チタン化合物等である。硬化触媒は、併用されてもよい。本実施形態では、硬化触媒は、スズ系の化合物であることが好ましく、ジラウリル酸ジブチルスズ、ジネオデカン酸ジメチルスズ等のジアルキルスズ系化合物であることがより好ましく、ジラウリル酸ジブチルスズであることがさらに好ましい。硬化触媒としてジラウリル酸ジブチルスズが含まれる場合、得られるインクジェットインクは、硬化性がより優れる。
【0099】
硬化触媒が配合される場合、硬化触媒の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、硬化触媒の含有量は、インクジェットインク中、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましい。また、硬化触媒の含有量は、インクジェットインク中、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。硬化触媒の含有量が0.001質量%未満である場合、硬化触媒としての性能が充分に発揮されない傾向がある。一方、硬化触媒の含有量が5質量%を超える場合、インクジェットインクは、硬化性が高くなり、インクジェットプリント時における吐出安定性が低下する傾向がある。
【0100】
・重合禁止剤
重合禁止剤は、硬化前におけるインクジェットインクの重合反応を防止するために好適に配合され得る。
【0101】
重合禁止剤は特に限定されない。一例を挙げると、重合禁止剤は、メチルヒドロキノン、t−ブチルヒドロキノン、4−メトキシナフトール、1,4−ベンゾキノン、メトキノン、ジブチルヒドロキシトルエン、N−ニトロソフェニルヒドロシキルアミンアルミニウム塩、1,4−ナフトキノン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(4−ヒドロキシTEMPO)等である。
【0102】
インクジェットインク全体の説明に戻り、インクジェットインクの粘度は特に限定されない。一例を挙げると、インクジェットインクの粘度は、30℃において、5mPa・s以上であることが好ましく、6mPa・s以上であることがより好ましい。また、インクジェットインクの粘度は、30℃において、50mPa・s以下であることが好ましく、40mPa・s以下であることがより好ましい。粘度が上記範囲内である場合、インクジェットインクは、充分に低粘度化されており、取り扱い易く、かつ、インクジェットプリント時における吐出安定性がより優れる。なお、本実施形態において、粘度は、B型粘度計(東機産業(株)製、型番:TVB−20LT)を用いて測定することができる。
【0103】
なお、粘度を上記範囲内に調整する方法は特に限定されない。一例を挙げると、粘度は、使用する各成分の添加量や種類によって調整され得る。粘度は、必要に応じて増粘剤等の粘度調整剤を使用して調整されてもよい。
【0104】
インクジェットインクの表面張力は特に限定されない。インクジェットインクの表面張力は、25℃において、20dyne/cm以上であることが好ましく、22dyne/cm以上であることがより好ましい。また、インクジェットインクの表面張力は、25℃において、40dyne/cm以下であることが好ましく、38dyne/cm以下であることがより好ましい。表面張力が上記範囲内である場合、インクジェットインクは、吐出安定性が優れる。表面張力が20dyne/cm未満である場合、インクジェットインクは、濡れ性が良くなり過ぎて、滲みやすくなる傾向がある。一方、表面張力が40dyne/cmを超える場合、基材表面においてインクジェットインクが弾かれやすく、得られるプリント物が不鮮明になる傾向がある。なお、本実施形態において、表面張力は、静的表面張力計(プレート法)(協和界面科学(株)製、CBVP−A3)を用いて測定することができる。
【0105】
なお、表面張力を上記範囲内に調整する方法は特に限定されない。一例を挙げると、表面張力は、アクリル系表面調整剤、シリコーン系表面調整剤、フッ素系表面調整剤等を添加することにより調整され得る。
【0106】
本実施形態のインクジェットインクを調製する方法は特に限定されない。一例を挙げると、インクジェットインクは、使用する材料を混合し、さらにその混合物をロールミル、ボールミル、コロイドミル、ジェットミルまたはビーズミルなどの分散機を使って分散させ、その後、濾過を行うことで調製し得る。
【0107】
以上、本実施形態のインクジェットインクは、低粘度であり、かつ、保存安定性が優れる。また、このようなインクジェットインクを用いて得られるプリント物は、成形性と耐溶剤性とが両立される。
【0108】
より具体的には、本実施形態のインクジェットインクによれば、以下の条件で塗膜が形成される場合において、得られる塗膜の引張破断伸度(測定条件は、JIS K 7127に準じる)が50〜300%となり得る。
(塗膜形成条件)
塗工条件
塗工方法 アプリケータ
膜厚 250μm
紫外線照射条件
ピーク照度 500mW/cm
2
積算光量 800mJ/cm
2
【0109】
引張破断伸度は、50%以上であることが好ましく、100%以上であることがより好ましい。また、引張破断伸度は、300%以下であることが好ましく、250%以下であることがより好ましい。得られる塗膜の引張破断伸度が上記範囲内であることにより、プリント物は、優れた成形性(特に塗膜の伸び等)を示す。
【0110】
<プリント物の製造方法>
本発明の一実施形態のプリント物の製造方法は、基材上に、上記したインクジェットインクを付与するインクジェット工程と、付与されたインクジェットインクに紫外線を照射する紫外線照射工程とを含む。本実施形態の製造方法によれば、成形性と耐溶剤性とが両立されたプリント物が製造され得る。以下、それぞれについて説明する。
【0111】
(インクジェット工程)
インクジェット工程は、基材上に、上記したインクジェットインクを付与する工程である。基材は特に限定されない。一例を挙げると、基材は、鋼板、アルミ、ステンレス等の金属板、アクリル、ポリカーボネート、ABS、ポリプロピレン、ポリエステル、塩化ビニル等のプラスチック板またはフィルム、窯業板、コンクリート、木材、ガラス等である。また、基材は、カチオン可染ポリエステル(CDP)繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリ乳酸繊維等のポリエステル系繊維やアセテート繊維、トリアセテート繊維、ポリウレタン繊維、ナイロン繊維等またはこれらの複合繊維からなる布帛等であってもよい。これらは、用途に応じて適宜選定され得る。基材が布帛である場合、布帛は、プリント前に、前処理剤により処理されることが好ましい。前処理剤としては、水溶性ポリマー、非水溶性不活性有機化合物、難燃剤、紫外線吸収剤、還元防止剤、酸化防止剤、pH調整剤、ヒドロトロープ剤、消泡剤、浸透剤、ミクロポーラス形成剤等が例示される。これら前処理剤を布帛に付与する方法としては、パッド法、スプレー法、浸漬法、コーティング法、ラミネート法、グラビア法、インクジェット法等が例示される。
【0112】
インクジェット工程において、インクジェット記録方式によりインクジェットインクを基材に付与する方式は特に限定されない。このような方式としては、荷電変調方式、マイクロドット方式、帯電噴射制御方式、インクミスト方式等の連続方式、ピエゾ方式、パルスジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式、静電吸引方式等のオン・デマンド方式等が例示される。
【0113】
インク付与量は特に限定されない。一例を挙げると、インク付与量は、基材に対して1g/m
2以上であることが好ましく、2g/m
2以上であることがより好ましい。また、インク付与量は、150g/m
2以下であることが好ましく、50g/m
2以下であることがより好ましい。インク付与量が上記範囲内であることにより、プリント物は、優れた成形性が維持されつつ、充分な表現がされやすい。
【0114】
(紫外線照射工程)
紫外線照射工程は、付与されたインクジェットインクに紫外線を照射する工程である。
【0115】
インクジェットインクの硬化条件は特に限定されない。一例を挙げると、UV照射強度は50mW/cm
2以上であることが好ましく、100mW/cm
2以上であることがより好ましい。また、UV照射強度は2000mW/cm
2以下であることが好ましく、1000mW/cm
2以下であることがより好ましい。UV照射強度が上記範囲内であることにより、得られるプリント物は、適度に硬化され、かつ、黄変等を生じにくい。
【0116】
UV照射エネルギー(積算光量)は特に限定されない。一例を挙げると、積算光量は、50mJ/cm
2以上であることが好ましく、100mJ/cm
2以上であることがより好ましい。また、積算光量は、1500mJ/cm
2以下であることが好ましく、1200mJ/cm
2以下であることがより好ましい。積算光量が上記範囲内であることにより、得られるプリント物は、適度に硬化され、かつ、黄変等を生じにくい。
【0117】
インクジェットインク中に、上記した成分(i)として成分(i−2)が含まれる場合、成分(i−2)は、紫外線照射工程(および要すれば後述する熱処理工程)により適宜反応が進行し、成分(i−1)に変換され得る。
【0118】
(任意工程)
本実施形態のプリント物の製造方法は、上記インクジェット工程および紫外線照射工程に加え、任意の他の工程が採用されてもよい。本実施形態のプリント物の製造方法は、以下の熱処理工程、賦形工程を好適に含む。
【0119】
(熱処理工程)
熱処理工程は、上記した紫外線照射工程の後に、熱処理を行う工程である。熱処理工程が採用されることにより、得られるプリント物は、成形性と耐溶剤性とがより優れ、かつ、両立される。また、プリント物は、紫外線照射工程により短時間のうちにいくらか硬化された後、熱処理工程が施されることによりさらに硬化される。その結果、短時間で、滲みにくく、かつ、鮮明な画像が形成され得る。特に、本実施形態のプリント物において形成される画像が自動車内装における図柄等(木目調、幾何学模様等)である場合、これらの図柄は、熱処理工程が採用されることにより、より滲むことなく鮮明に形成され得る。
【0120】
熱処理条件は特に限定されない。一例を挙げると、熱処理温度は、50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。また、熱処理温度は、200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。熱処理温度が上記範囲内であることにより、得られるプリント物は、黄変等を生じにくく、かつ、良好に硬化され得る。また基材に使用されるフィルムが変形を起こしにくい。
【0121】
熱処理時間は特に限定されない。一例を挙げると、熱処理時間は、10分以上であることが好ましく、30分以上であることがより好ましい。また、熱処理時間は、600分以下であることが好ましく、300分以下であることがより好ましい。熱処理時間が上記範囲内であることにより、得られるプリント物は、黄変等を生じにくく、かつ、良好に硬化され得る。
【0122】
(賦形工程)
賦形工程は、上記した紫外線照射工程の後に、基材を賦形する工程である。賦形工程が採用されることにより、得られるプリント物は、種々の形状に成形され得る。なお、賦形工程の後、上記した熱処理工程が行われてもよい。
【0123】
より具体的には、賦形工程において、紫外線照射工程を経た基材(プリント物)は、たとえば成形樹脂層と一体化され、成形体が形成される。成形樹脂層を形成する樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、成形樹脂層を形成する樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリイミド系樹脂等の公知の熱可塑性樹脂等である。樹脂は併用されてもよい。
【0124】
成形体を作製する方法は特に限定されない。一例を挙げると、成形体は、射出成形等により作製され得る。射出成形は、一般の射出成形のほか、射出圧縮成形、射出プレス成形等であってもよい。より具体的には、成形体は、たとえば以下の第1工程および第2工程とを行うインサート成形法によって成形され得る。
【0125】
第1工程は、プリント物を予備賦形する工程である。第1工程では、プリント物は、真空成形や圧空成形等の熱成形法によって、所望の意匠形状に賦形された賦形体が作製される。
【0126】
第2工程は、予備賦形したプリント物を用いて射出成形する工程である。第2工程では、金型キャビティ内に上記賦形体を配置して溶融樹脂を注入することにより、賦形体と成形樹脂層とを一体化する。これにより、上記成形体が得られる。なお、射出成形時における溶融樹脂の温度は特に限定されない。一例を挙げると、溶融温度は、180℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。また、溶融温度は、320℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましい。本実施形態で用いられるインクジェットインクにより形成される塗膜は、上記のとおり、優れた成形性(塗膜の伸び)を示す。そのため、インサート成形時に図柄が破損しにくく、かつ、得られた成形品は、表面に上記図柄が露出している場合であっても、種々の溶剤に対して優れた耐溶剤性を示す。
【0127】
特に、上記紫外線照射工程によれば、以下の条件で塗膜が形成される場合において、得られる塗膜の引張破断伸度(測定条件は、JIS K 7127に準じる)が50〜300%となり得る。
(塗膜形成条件)
塗工条件
塗工方法 アプリケータ
膜厚 250μm
紫外線照射条件
ピーク照度 500mW/cm
2
積算光量 800mJ/cm
2
【0128】
すなわち、得られるプリント物は、優れた成形性(特に塗膜の伸び等)を示す。そのため、上記した賦形工程等が施される際に、塗膜が損傷しにくいため、成形性が優れる。その結果、上記インクジェットインクを用いた本実施形態のプリント物の製造方法によれば、トレードオフの関係にある成形性と耐溶剤性とが両立されたプリント物が製造され得る。
【実施例】
【0129】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
【0130】
使用した原料を以下に示す。
(成分(i)および比較例用の代替品)
CN991:ポリエステルウレタンアクリレート、アルケマ(株)製、Mn:3000、成分(i−1)
EBECRYL4491:ポリエステルウレタンアクリレート、ダイセル・オルネクス(株)製、Mn:7000、成分(i−1)
UN−9000PEP:ポリカーボネートウレタンアクリレート、根上工業(株)製、Mn:5000、成分(i−1)
CN996:ポリエーテルウレタンアクリレート、アルケマ(株)製、Mn:4500
デュラノールG3450J:ポリカーボネートジオール、旭化成ケミカルズ(株)製、Mn:800、成分(i−2)
デュラノールG3452:ポリカーボネートジオール、旭化成ケミカルズ(株)製、Mn:2000、成分(i−2)
クラレポリオールP−1010:ポリエステルジオール、(株)クラレ製、Mn:1000、成分(i−2)
クラレポリオールP−5010:ポリエステルジオール、(株)クラレ製、Mn:5000、成分(i−2)
MOI−DEM:ブロックイソシアネート系官能基を有するメタアクリレート、昭和電工(株)製、ブロック剤としてマロン酸ジエステルを使用、成分(i−2)
AOI−BP:ブロックイソシアネート系官能基を有するメタアクリレート、昭和電工(株)製、ブロック剤として3,5−ジメチルピラゾールを使用、成分(i−2)
MOI−BP:ブロックイソシアネート系官能基を有するメタアクリレート、昭和電工(株)製、ブロック剤として3,5−ジメチルピラゾールを使用、成分(i−2)
AOI−BM:ブロックイソシアネート系官能基を有するメタアクリレート、昭和電工(株)製、ブロック剤としてメチルエチルケトンオキシムを使用、成分(i−2)
MOI−BM:ブロックイソシアネート系官能基を有するメタアクリレート、昭和電工(株)製、ブロック剤としてメチルエチルケトンオキシムを使用、成分(i−2)
MOI−CP:ブロックイソシアネート系官能基を有するメタアクリレート、昭和電工(株)製、ブロック剤としてγ−カプロラクタムを使用、成分(i−2)
MOI−MP:ブロックイソシアネート系官能基を有するメタアクリレート、昭和電工(株)製、ブロック剤として1−メトキシ−2−プロパノールを使用、成分(i−2)
MOI−OEt:ブロックイソシアネート系官能基を有するメタアクリレート、昭和電工(株)製、ブロック剤としてエタノールを使用、成分(i−2)
(成分(ii))
FX−AO−MA:2−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル、(株)日本触媒製
FX−AO−CHA:2−(アリルオキシメチル)アクリル酸シクロヘキシル、(株)日本触媒製
(成分(iii))
TBCH:脂肪族環状構造を有する(メタ)アクリレートモノマー、4−tert−ブチルシクロヘキサノールアクリレート、BASF社製
(光ラジカル重合開始剤)
Irg184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、BASF社製
(その他)
4−HBA:4−ヒドロキシブチルメタアクリレート、OH基含有モノマー、Mw:144
MEDOL−10:(2−メチル−2−エチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチルアクリレート、大阪有機化学工業(株)製
ACMO:アクリロイルモルフォリン、単官能モノマー、KJケミカルズ(株)製
4−ヒドロキシTEMPO:4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル、重合禁止剤
ジラウリル酸ジブチルスズ:触媒
【0131】
(実施例1〜16、比較例1〜3)
以下の表1に示される処方(単位:質量部)に従って、インクジェットインクを調製した。以下の評価方法にて、それぞれのインクジェットインクの粘度を評価した。また、得られたインクジェットインクを用いて、基板(ABSフィルムに白スクリーンインクにてベタ印刷を施したもの、スクリーンインキ:MRX−HF、帝国インキ製造(株)製)に対して、膜厚が250μmとなるようにインクジェットプリンタにて下記記録条件にて付与し(インクジェット工程)、紫外線(条件は下記)を照射し(紫外線照射工程)、評価サンプルを作製した。以下の評価方法にて、それぞれの評価サンプルの塗膜の引張破断伸度を評価した。さらに、それぞれの評価サンプルに対して以下の熱処理条件にて熱処理を行い(熱処理工程)、塗膜を硬化させた。熱処理後の評価サンプルに関して、各種耐溶剤性を評価した。結果を表1に示す。
【0132】
(実施例17)
熱処理工程を行わなかった以外は、実施例1と同様に、インクジェットインクおよび評価サンプルを作製し、評価した。なお、耐溶剤性は、紫外線照射後の評価サンプルに対して評価した。
【0133】
<インクジェットプリンタの記録条件>
ノズル径 40μm
電圧 70V
パスル幅 10μs
駆動周波数 10kHz
解像度 400×800dpi
塗布量 15g/m
2
<紫外線照射条件>
ランプ種類 インテグレーション社製、メタルハライドランプ
照射強度(測定波長365nm) 240mW/cm
2
積算光量(測定波長365nm) 720mJ/cm
2
照射高さ 45cm
<熱処理条件>
装置:ヤマト科学(株)製、定温乾燥器DY300
熱処理温度:80℃
熱処理時間:180分
<評価方法>
(インク粘度)
B型粘度計(東機産業(株)製、TVB−20LT)を用いて30℃条件下にて測定した。
(引張破断伸度)
JIS K 7127に準じて、それぞれのインクジェットインクを用いて以下の塗膜形成条件にて塗膜を形成し、引張破断伸度を測定した。
・塗膜形成条件
塗工条件
塗工方法 アプリケータ
膜厚 250μm
紫外線照射条件
ピーク照度 500mW/cm
2
積算光量 800mJ/cm
2
測定雰囲気
140℃条件下
(インク保管安定性)
インクを50℃環境下で1ヵ月保管した後の粘度を測定し、作製直後の粘度からの変化率とした。
○:粘度の変化率が3%未満であった。
△:粘度の変化率が3%以上10%未満であった。
×:粘度の変化率が10%以上であった。
(耐溶剤性)
・エタノールに対する耐溶剤性
塗膜を、50%エタノール溶液に55℃で4時間浸漬し、以下の評価基準にしたがって評価した。
○:処理前後において、塗膜の外観はほぼ変化しなかった。
△:処理前後において、塗膜はいくらか白化したか、いくらか軟化した。
×:処理後に塗膜が剥がれ落ちた。
・酸に対する耐溶剤性
塗膜を、0.1Nの硫酸水溶液に20℃で24時間浸漬し、以下の評価基準にしたがって評価した。
○:処理前後において、塗膜の外観はほぼ変化しなかった。
△:処理前後において、塗膜はいくらか白化したか、いくらか軟化した。
×:処理後に塗膜が剥がれ落ちた。
・アルカリに対する耐溶剤性
塗膜を、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液に55℃で4時間浸漬し、以下の評価基準にしたがって評価した。
○:処理前後において、塗膜の外観はほぼ変化しなかった。
△:処理前後において、塗膜はいくらか白化したか、いくらか軟化した。
×:処理後に塗膜が剥がれ落ちた。
・日焼け止め化粧料(ニュートロジーナ社製)に対する耐溶剤性
塗膜に、日焼け止めクリーム(ニュートロジーナ社製)を5g/100cm
2となるよう付与し、55℃で4時間保持し、以下の評価基準にしたがって評価した。
○:処理前後において、塗膜の外観はほぼ変化しなかった。
△:処理前後において、塗膜はいくらか白化したか、いくらか軟化した。
×:処理後に塗膜が剥がれ落ちた。
【0134】
【表1】
【0135】
表1に示されるように、実施例1〜17のインクジェットインクは、いずれも低粘度であった。また、得られたプリント物の塗膜は、適度な引張破断伸度を示し、かつ、種々の溶剤に対して優れた耐溶剤性を示した。なお、実施例1〜5および実施例17において作製した評価サンプルに関し、熱処理前における耐溶剤性と、熱処理後における引張破断伸度を評価したところ、表1の結果と同様に、いずれも良好であることが確認された。すなわち、これらの実施例によれば、熱処理工程の有無によらず、良好な塗膜物性を示す塗膜が形成されることが確認された。また、実施例1〜17のインクジェットインクを用いて得られた評価サンプルについて、真空成形装置フォーミング300X(成光産業(株)製)を用い真空成形を行った。フィルム表面の温度が140℃になるようにヒーターの温度を設定し、真空テーブルの中心に真空テーブルの中心に縦6cm×横10cm×高さ6cmの金属型を設置し予備賦形を行った。その後、予備賦形したフィルムを東芝機械(株)製のINJECTVISOR−V50を用いて、ポリカABSを射出成型し、インサート成形を行い(賦形工程)、成型品を作製した。得られた成型品は、図柄に滲み等を生じておらず、かつ、プリント塗膜のひび割れは見られず、各種耐溶剤性(特に日焼け止め化粧料)が良好であった。