特許第6878085号(P6878085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レエンジニアリング株式会社の特許一覧

特許6878085解析用メッシュ生成方法、プログラム、記憶媒体、および解析用メッシュ生成装置
<>
  • 特許6878085-解析用メッシュ生成方法、プログラム、記憶媒体、および解析用メッシュ生成装置 図000002
  • 特許6878085-解析用メッシュ生成方法、プログラム、記憶媒体、および解析用メッシュ生成装置 図000003
  • 特許6878085-解析用メッシュ生成方法、プログラム、記憶媒体、および解析用メッシュ生成装置 図000004
  • 特許6878085-解析用メッシュ生成方法、プログラム、記憶媒体、および解析用メッシュ生成装置 図000005
  • 特許6878085-解析用メッシュ生成方法、プログラム、記憶媒体、および解析用メッシュ生成装置 図000006
  • 特許6878085-解析用メッシュ生成方法、プログラム、記憶媒体、および解析用メッシュ生成装置 図000007
  • 特許6878085-解析用メッシュ生成方法、プログラム、記憶媒体、および解析用メッシュ生成装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6878085
(24)【登録日】2021年5月6日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】解析用メッシュ生成方法、プログラム、記憶媒体、および解析用メッシュ生成装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/23 20200101AFI20210517BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20210517BHJP
   B29C 64/386 20170101ALI20210517BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20210517BHJP
【FI】
   G06F17/50 612J
   B33Y50/00
   B29C64/386
   B29C64/118
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-66679(P2017-66679)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-169799(P2018-169799A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 光章
【審査官】 田中 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−86226(JP,A)
【文献】 特開2001−356804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/23
B29C 64/118
B29C 64/386
B33Y 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツールパスに従って造形される物品の造形シミュレーションに用いられる解析用メッシュ生成方法であって、
解析対象となる製品の前記ツールパスを入力する工程と、
コンピュータが、多数の微小要素からなり前記ツールパスを内包する初期メッシュを定義する工程と、
コンピュータが、前記ツールパスと前記微小要素との重なりを判定し、重なりがない前記微小要素を前記初期メッシュから除去し、重なりがある前記微小要素には前記ツールパスとの関連付けを保存する工程と、
を有することを特徴とする解析用メッシュ生成方法。
【請求項2】
前記ツールパスの幅及び厚みを考慮して前記初期メッシュの定義及び前記微小要素との重なりの判定を行うことを特徴とする、請求項1に記載の解析用メッシュ生成方法。
【請求項3】
前記ツールパスとの重なりがある前記微小要素に対し、前記ツールパスとの関連付けには、前記ツールパスの属性も含むことを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の解析用メッシュ生成方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の解析用メッシュ生成方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項5】
請求項4に記載のプログラムを記録したコンピュータ読みとり可能な記録媒体。
【請求項6】
ツールパスに従って造形される物品の造形シミュレーションに用いられる解析用メッシュの生成装置であって、
解析対象となる製品の前記ツールパスを入力する手段と、
多数の微小要素からなりツールパスを内包する初期メッシュを定義する手段と、
前記ツールパスと前記微小要素との重なりを判定し、重なりがない前記微小要素を前記初期メッシュから除去し、重なりがある前記微小要素には前記ツールパスとの関連付けを保存する手段と、
を有することを特徴とする解析用メッシュ生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンタでの造形に対するシミュレーションにおける解析用メッシュ生成方法、プログラム、記憶媒体、および解析用メッシュ生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、試作品や最終製品を3Dプリンタで造形することが盛んに行われてきている。溶融させた材料を一層毎に造形し、積層して最終的な形状を得る方法であり、溶かした樹脂を口金から吐出して造形する熱溶解積層法や、金属や樹脂の粉末材料にレーザーを照射して造形する粉末焼結積層法が一般的である。図1は、熱溶解積層法を表す模式図である。熱溶解積層法では造形中に材料101を吐出する口金102が指定された移動経路103を移動し、粉末焼結積層法ではレーザー光が指定された移動経路を移動するが、この移動経路103のことをツールパスと呼ぶ。
【0003】
本造形手法では、造形中あるいは造形後に製品が変形することが原因で狙いの製品が出来ない問題や、造形後の製品の強度に異方性があり特に熱溶解積層法では積層方向の強度が低いなどの問題があり、たとえば特許文献1に示すように造形する前に問題点を把握するためのシミュレーション技術の開発が進められている。
【0004】
特許文献1で述べられているように、変形や強度などについて造形のシミュレーションを行うためには、対象製品を有限要素に分割した解析用メッシュを準備する必要がある。特許文献2では、解析用メッシュを生成する際に用いる一般的な手法として、図2に示すように対象製品の外形形状201を定義するSTL形式などのファイルから解析用メッシュ202を生成する方法が記載されている。
【0005】
造形のシミュレーションを行うには、解析用メッシュの他に、造形される順序を表すツールパスデータや、造形する材料の物性値、造形時の材料の溶融温度や周囲の温度などが必要になる。ツールパスデータは、製品の外形形状から生成されるデータであり、3Dプリンタに渡されて造形に利用されるデータである。造形する層数分のデータがあり、各層毎にレーザの照射開始位置及び終了位置あるいは、口金からの樹脂の吐出開始位置及び終了位置のデータが記録されている。
【0006】
シミュレーションを実行するプログラムは、図3(a)に示すような製品外形形状301から生成されたツールパスデータ302と、図3(b)に示すような同じく製品外形形状301から生成された解析用メッシュデータ303との両方を読み取って、各有限要素に材料が生成される過程を再現しようとしたが、外形形状からの変換の過程で解析用メッシュデータとツールパスデータの間に誤差が生じ、部位304のようにツールパスが通る個所に有限要素が存在しない、あるいは部位305のようにツールパスが通らない箇所に有限要素が存在する課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2015−206629号公報
【特許文献2】特許第3770991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のとおり、従来は解析用メッシュとツールパスデータの両方を準備する必要があり、両者の生成手法の違いによりツールパスと有限要素の位置関係に矛盾が生じる場合があった。
【0009】
上記課題を解決するために本発明の解析用メッシュ生成方法は、3Dプリンタでの造形に対するシミュレーションにおいて現実の現象に即した解析用メッシュを生成することを可能とし、精度の良い造形シミュレーションを行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、ツールパスに従って造形される物品の造形シミュレーションに用いられる解析用メッシュ生成方法であって、解析対象となる製品の前記ツールパスを入力する工程と、コンピュータが、多数の微小要素からなり前記ツールパスを内包する初期メッシュを定義する工程と、コンピュータが、前記ツールパスと前記微小要素との重なりを判定し、重なりがない前記微小要素を前記初期メッシュから除去し、重なりがある前記微小要素には前記ツールパスとの関連付けを保存する工程と、を有することを特徴とする解析用メッシュ生成方法である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記ツールパスの幅及び厚みを考慮して前記初期メッシュの定義及び前記微小要素との重なりの判定を行うことを特徴とする、請求項1に記載の解析用メッシュ生成方法である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記ツールパスとの重なりがある前記微小要素に対し、前記ツールパスとの関連付けには、前記ツールパスの属性も含むことを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の解析用メッシュ生成方法である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の解析用メッシュ生成方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0014】
請求項5に記載の発明は、
請求項4に記載のプログラムを記録したコンピュータ読みとり可能な記録媒体である。
【0015】
請求項6に記載の発明は、ツールパスに従って造形される物品の造形シミュレーションに用いられる解析用メッシュ生成装置であって、解析対象となる製品の前記ツールパスを入力する手段と、多数の微小要素からなりツールパスを内包する初期メッシュを定義する手段と、前記ツールパスと前記微小要素との重なりを判定し、重なりがない前記微小要素を前記初期メッシュから除去し、重なりがある前記微小要素には前記ツールパスとの関連付けを保存する手段と、を有することを特徴とする解析用メッシュ生成装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、3Dプリンタでの造形用に準備されたツールパスデータに従って解析用メッシュを生成するため、現実の現象に即した解析用メッシュを生成することが可能であり、精度の良い造形シミュレーションを行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】3Dプリンタによる造形手法の一例である。
図2】従来の解析用メッシュを生成する方法の一例である。
図3】従来の解析用メッシュとツールパスデータの矛盾を示す一例である。
図4】本発明を実施するためのシステムの構成例である。
図5】本発明の実施手順を示すフローチャートである。
図6】ツールパスデータから解析用メッシュを生成する一例である。
図7】製品部とサポート部から構成される解析用メッシュの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0019】
図4は、本実施形態例を実施するためのシステムの構成例を示す図である。図4においてコンピュータ401は、CPU402、メモリ403及び補助記憶装置404から構成され、入力装置405、表示装置406、出力装置407が接続される。
【0020】
補助記憶装置404は、ハードディスクやCD−ROM、DVD−ROM、ブルーレイディスク等によって構成される。入力装置405は、マウスやキーボード等によって構成される。表示装置406は、CRTや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等によって構成される。出力装置407は、表示装置406に表示された内容を印刷するためのものであり、レーザープリンタやインクジェットプリンタ等によって構成される。
【0021】
本発明では、入力装置405を用いて入力したツールパスデータは、補助記憶装置404に格納される(入力される)。そして、作業者の指示により、コンピュータ401がツールパスデータを用いてこのツールパスデータを内包する多数の微小要素からなる初期メッシュを生成する(定義する)。続けて、コンピュータ401が微小要素とツールパスデータの重なりを判定し、重なりがない微小要素を初期メッシュから除去し、重なりがある微小要素にはツールパスとの関連付けを保存する。関連付けには、後述の通りツールパスの識別IDや、材料の供給順序などの情報が含まれる。得られた結果は表示装置406に表示され、作業者が確認の上、解析用メッシュとして補助記憶装置404へ保存する。確認結果は、プリンタなどの出力装置407へ出力しても良い。
【0022】
本発明の解析用メッシュ生成方法、また、本発明の解析用メッシュ生成装置による解析用メッシュ生成方法を以下に示す。
【0023】
作業者はまず、製品形状に対応したツールパスデータを準備しシステムに入力する(ステップS501)。ツールパスデータは製品形状のSTLデータから、スライサーなどの変換ソフトを用いて出力することが出来る。ツールパスデータは、製品の切削加工のために作成されたデータ形式であり、3Dプリンタでの造形にも利用されている。Gコードと呼ばれる出力形式が一般的である。
【0024】
入力されたツールパスデータから、まず始めに製品全体を囲む最外形を算出する(ステップS502)。ツールパスデータ内の全ての座標をチェックして、最小座標及び最大座標を算出する。ツールパスは幅を持ったデータであり、パスは幅方向の中心位置を通るため、幅を考慮して最小座標と最大座標を補正するのが良い。具体的には、ツールパス幅の半分の数値を最大座標のX、Y座標値に加算し、最小座標のX、Y座標値から減算する。積層方向についても同様に、ツールパスの厚みを考慮してZ座標を補正するのが良い。ツールパスデータ内にツールパスの幅や厚みの情報が定義されていない場合や、定義されていても他の値を使用したい場合などには、作業者が別途入力した値を利用して補正を行っても良い。最小座標と最大座標を対角点とする直方体が最外形として定義される。
【0025】
次に、最外形の形状から初期メッシュを生成するための分割数を定義する(ステップS503)。3Dプリンタによる造形のシミュレーションをコンピュータに行わせるに当たり、解析用メッシュの要素数は最低限必要な個数にするのが計算実行時間の上で望ましい。積層方向については、最低限必要な数は積層数であり、積層数を分割数とするのが良い。積層平面内については、ツールパスの道筋を再現するために最低限必要な要素サイズはツールパスの幅となるため、最外形の縦及び横の辺について、それぞれツールパスの幅で除算した数値を縦及び横方向の分割数とするのが良い。もちろん、計算手法や計算速度、計算精度との兼ね合いで、さらに分割数を多くしたり、逆に少なくしても良い。
【0026】
このようにして定義した縦・横・高さ方向の分割数で、最外形の直方体を分割し、ツールパスを内包する初期メッシュを生成する(ステップS504)。初期メッシュは多数の多面体微小要素と、各微小要素を構成する節点とで構成される。多面体微小要素は6面体であっても良いし、3角柱や4面体などの多面体であっても良い。
【0027】
次に、各層のツールパスが微小要素群と接触するかどうかを判定する(ステップS505)。必要最小限の初期メッシュを生成した場合には、各層の厚み方向に要素が1つしか存在しないため、各層の平面方向でのみ接触の判定を行えばよい。接触の判定は2次元に単純化でき、幅を持った帯状のツールパスと、各要素との接触判定を行えばよい。層方向により細かく分割した初期メッシュを生成した場合には、ツールパスの厚み方向も考慮して3次元的に接触判定を行う必要がある。内外判定には、一般的に知られている点と多角形の内外判定や線分同士の交差判定などを用いればよい。
【0028】
判定の結果、ツールパスと接触しない微小要素は、初期メッシュから削除する。削除した結果、不要になる節点も同時に削除する(ステップS506)。これにより、図6に示すようにツールパスデータ601に従った製品の解析用メッシュ602を生成できる。
【0029】
判定の結果、ツールパスと接触する微小要素は、要素情報を更新する(ステップS507)。具体的には、その要素が接触するツールパスの識別ID、材料の供給順序について各微小要素とツールパスとを関連付けし、保存する。
【0030】
また、要素情報には、ツールパスの属性、たとえば、該当要素が図7に示す製品部701であるかサポート部702であるかなどの情報を含めても良い。3Dプリンタでの造形の場合、横穴などの中空部や製品本体から横に張り出した部分には製品を支えるためのサポートと呼ばれる土台を同時に造形することが多い。造形後にサポートは除去されるが、その過程まで含めた造形シミュレーションを行うために、要素が製品部であるか、サポート部であるかの情報が必要となる。また、その他のツールパスの属性として、例えばツールパスの開始点における時刻と走査速度、ツールパスの温度を含めても良い。時刻については、ツールパス開始点からの各微小要素の距離を走査速度で除算して、各微小要素の時刻として保存する。温度については、ツールパス毎に設定されている温度を、そのツールパスに所属する各微小要素の温度として保存する。ツールパスの開始点と終了点で温度が異なる場合には、各微小要素には補間を行った温度を保存すると良い。これらツールパスの属性も含めて各微小要素との関連付けことにより、出力した解析用メッシュを用いてさらに正確なシミュレーションを実施することができる。
【0031】
全ての層の全てのツールパスについて、微小要素との接触判定を行う。全てのツールパスについて接触判定が行われたら、次のステップに進む(ステップS508)。
【0032】
最後に、造形シミュレーションを行うプログラムに利用できる形式で解析用メッシュファイルを出力する(ステップS509)。節点、要素の情報の他に、要素がどのツールパスに所属するか、また製品部とサポート部のどちらであるか、などの要素情報も合わせて出力する。
【0033】
以上の解析用メッシュ作成方法により、3Dプリンタでの造形用に準備されたツールパスデータに従って解析用メッシュを生成するため、現実の現象に即した解析用メッシュを生成することが可能となり、精度の良い造形シミュレーションを行うことが出来る。
【符号の説明】
【0034】
101 材料
102 口金
103 移動経路
201 外形形状
202 解析用メッシュ
301 製品外形形状
302 ツールパスデータ
303 解析用メッシュデータ
304 部位
305 部位
401 コンピュータ
402 CPU
403 メモリ
404 補助記憶装置
405 入力装置
406 表示装置
407 出力装置
S501 ツールパス入力ステップ
S502 最外形定義ステップ
S503 分割数定義ステップ
S504 初期メッシュ生成ステップ
S505 接触判定ステップ
S506 要素削除ステップ
S507 要素情報更新ステップ
S508 終了判定ステップ
S509 解析用メッシュ出力ステップ
601 ツールパスデータ
602 解析用メッシュ
701 製品部
702 サポート部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7