特許第6878103号(P6878103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6878103-メカニカルシール 図000002
  • 特許6878103-メカニカルシール 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6878103
(24)【登録日】2021年5月6日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20210517BHJP
【FI】
   F16J15/34 H
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-77381(P2017-77381)
(22)【出願日】2017年4月10日
(65)【公開番号】特開2018-179095(P2018-179095A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 徹
(72)【発明者】
【氏名】福本 崇人
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−216491(JP,A)
【文献】 特開2006−250306(JP,A)
【文献】 特開昭59−110960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に一体回転可能に設けられ、回転密封環を有する回転側ユニットと、
前記回転軸を包囲しているケーシングに設けられ、静止密封環を有する静止側ユニットと、を備え、
前記回転密封環と前記静止密封環とが摺接することで、機外側領域と機内側領域との間をシールするメカニカルシールであって、
前記機内側領域は、前記回転密封環と前記静止密封環との摺接部分よりも径方向外側に形成されており、
前記静止側ユニットは、前記摺接部分よりも径方向外側において前記機内側領域内の被密封流体と接する静止側部材を構成部品として備え、
前記静止側部材は、前記被密封流体を冷却する冷却流体が導入されるジャケット空間を有し、
前記回転側ユニットは、前記ケーシングの内周面との間に第1ラビリンス隙間を形成して当該第1ラビリンス隙間よりも機内側の前記被密封流体が前記摺接部分の径方向外側に流入するのを抑制する回転側部材を備え、
前記第1ラビリンス隙間は、前記回転側部材の機外側の端部に形成され
前記回転側部材は、前記第1ラビリンス隙間よりも機内側において前記ケーシングの内周面との間に第2ラビリンス隙間を形成している、メカニカルシール。
【請求項2】
前記回転側部材は、前記第1ラビリンス隙間と前記第2ラビリンス隙間との間において前記ケーシングの内周面との間に前記被密封流体を介在させる中間室を形成している、請求項に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
回転軸に一体回転可能に設けられ、回転密封環を有する回転側ユニットと、
前記回転軸を包囲しているケーシングに設けられ、静止密封環を有する静止側ユニットと、を備え、
前記回転密封環と前記静止密封環とが摺接することで、機外側領域と機内側領域との間をシールするメカニカルシールであって、
前記機内側領域は、前記回転密封環と前記静止密封環との摺接部分よりも径方向外側に形成されており、
前記静止側ユニットは、前記摺接部分よりも径方向外側において前記機内側領域内の被密封流体と接する静止側部材を構成部品として備え、
前記静止側部材は、前記被密封流体を冷却する冷却流体が導入されるジャケット空間を有し、
前記回転側ユニットは、前記ケーシングの内周面との間に第1ラビリンス隙間を形成して当該第1ラビリンス隙間よりも機内側の前記被密封流体が前記摺接部分の径方向外側に流入するのを抑制する回転側部材を備え、
前記第1ラビリンス隙間は、前記回転側部材の機外側の端部に形成され、
前記機外側領域には、前記摺接部分を冷却するクエンチ流体が導入されるクエンチ流体室が形成され
前記クエンチ流体室は、前記クエンチ流体が前記回転側部材と接するように形成されている、メカニカルシール
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、メカニカルシールにより高温の被密封流体をシールする場合、いわゆるデッドエンド方式のメカニカルシールが用いられる。デッドエンド方式のメカニカルシールでは、メカニカルシールが組み込まれるケーシングにジャケット空間を形成し、このジャケット空間内に導入されたジャケット水により、メカニカルシールの回転密封環と静止密封環との摺接部分付近の被密封流体を冷却するようになっている(例えば、特許文献1参照)。このため、デッドエンド方式のメカニカルシールは、フラッシング流体の配管やクーラー等の付帯設備を用いることなく、メカニカルシールへの熱影響を低減することができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−183790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のデッドエンド方式のメカニカルシールは、メカニカルシールの設置スペースとは別に、ジャケット空間を確保しなければならないため、構造全体が大型化するという問題があった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ジャケット空間を備えたメカニカルシールをコンパクトに構成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のメカニカルシールは、回転軸に一体回転可能に設けられ、回転密封環を有する回転側ユニットと、前記回転軸を包囲しているケーシングに設けられ、静止密封環を有する静止側ユニットと、を備え、前記回転密封環と前記静止密封環とが摺接することで、機外側領域と機内側領域との間をシールするメカニカルシールであって、前記静止側ユニットは、前記回転密封環と前記静止密封環との摺接部分付近において前記機内側領域内の被密封流体と接する静止側部材を構成部品として備え、前記静止側部材は、前記被密封流体を冷却する冷却流体が導入されるジャケット空間を有する。
【0006】
本発明によれば、メカニカルシールの静止側ユニットの構成部品である静止側部材は、冷却流体が導入されるジャケット空間を有するので、このジャケット空間に冷却流体を導入することで、回転密封環と静止密封環との摺接部分付近の被密封流体を冷却することができる。これにより、従来のように、メカニカルシールの設置スペース以外にジャケット空間を確保する必要がないので、ジャケット空間を備えたメカニカルシールをコンパクトに構成することができる。
【0007】
前記メカニカルシールにおいて、前記機内側領域は、前記摺接部分よりも径方向外側に形成されており、前記回転側ユニットは、前記ケーシングの内周面との間に第1ラビリンス隙間を形成して当該第1ラビリンス隙間よりも機内側の前記被密封流体が前記摺接部分付近に流入するのを抑制する回転側部材を備えるのが好ましい。
この場合、回転側部材とケーシングの内周面との間に形成された第1ラビリンス隙間により、回転密封環と静止密封環との摺接部分付近に被密封流体が流入しにくくなるので、前記摺接部分付近で冷却流体により冷却された被密封流体が、第1ラビリンス隙間よりも機内側の被密封流体と入れ替わるのを抑制することができる。その結果、前記摺接部分付近の被密封流体の冷却効率を高めることができるので、メカニカルシールへの熱影響を効果的に低減することができる。
【0008】
前記メカニカルシールにおいて、前記回転側部材は、前記第1ラビリンス隙間よりも機内側において前記ケーシングの内周面との間に第2ラビリンス隙間を形成しているのが好ましい。
この場合、回転側部材とケーシングの内周面との間には、第1ラビリンス隙間に加えて、第2ラビリンス隙間も形成されるので、これらの第1及び第2ラビリンス隙間により、回転密封環と静止密封環との摺接部分付近に被密封流体がさらに流入しにくくなる。その結果、前記摺接部分付近で冷却流体により冷却された被密封流体が、第2ラビリンス隙間よりも機内側の被密封流体と入れ替わるのをさらに抑制することができる。
【0009】
前記メカニカルシールにおいて、前記回転側部材は、前記第1ラビリンス隙間と前記第2ラビリンス隙間との間において前記ケーシングの内周面との間に前記被密封流体を介在させる中間室を形成しているのが好ましい。
この場合、第2ラビリンス隙間よりも機内側にある被密封流体の熱の一部は、回転側部材の第2ラビリンス隙間を形成している部分、中間室内の被密封流体、及び回転側部材の第1ラビリンス隙間を形成している部分を介して、回転密封環と静止密封環との摺接部分付近の被密封流体に伝熱する。これにより、前記機内側の被密封流体から前記摺接部分付近の被密封流体への伝熱効率は、中間室内の被密封流体を介して伝熱される分だけ低下するので、メカニカルシールへの熱影響をさらに効果的に低減することができる。
【0010】
前記メカニカルシールにおいて、前記機外側領域には、前記摺接部分を冷却するクエンチ流体が導入されるクエンチ流体室が形成されているのが好ましい。
この場合、回転密封環と静止密封環との摺接部分は、ジャケット空間内の冷却流体により被密封流体を介して機内側から冷却されるとともに、クエンチ流体室内のクエンチ流体によっても機外側から冷却されるので、メカニカルシールへの熱影響をさらに効果的に低減することができる。
【0011】
前記メカニカルシールにおいて、前記機外側領域には、前記摺接部分を冷却するクエンチ流体が導入されるクエンチ流体室が形成されており、前記クエンチ流体室は、前記クエンチ流体が前記回転側部材と接するように形成されているのが好ましい。
この場合、回転側部材よりも機内側の被密封流体の熱が回転側部材に伝熱しても、クエンチ流体によって回転側部材を冷却することができる。これにより、回転側部材よりも機内側の被密封流体の熱が、回転側部材を介して前記摺接部分付近の被密封流体に伝熱されるのを抑制することができる。その結果、メカニカルシールへの熱影響をさらに効果的に低減することができる。
【0012】
また、回転側部材が上記第2ラビリンス隙間及び上記中間室を形成している場合には、クエンチ流体水によって回転側部材が冷却されることで、中間室内の被密封流体も冷却することができる。これにより、中間室内の被密封流体の伝熱効率が低下するので、第2ラビリンス隙間よりも機内側にある被密封流体の熱の一部が、回転側部材の第2ラビリンス隙間を形成している部分、中間室内の被密封流体、及び回転側部材の第1ラビリンス隙間を形成している部分を介して、前記摺接部分付近の被密封流体に伝熱することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ジャケット空間を備えたメカニカルシールをコンパクトに構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るメカニカルシールを示す断面図である。
図2図1の要部を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
[全体構成]
図1は、本発明の一実施形態に係るメカニカルシールを示す断面図である。図1において、このメカニカルシール1は、各種産業用ポンプ、ブロワ、圧縮機、または撹拌機等の回転流体機器における高温用デッドエンド方式のメカニカルシールとして用いられ、回転軸Sと、この回転軸Sを包囲している回転流体機器のケーシングCとの間に配置されている。なお、本明細書において、高温用デッドエンド方式のメカニカルシールとは、ジャケット空間内の冷却流体により高温の被密封流体を冷却し、フラッシング流体の配管やクーラー等の付帯設備を不要としたメカニカルシールである。
【0016】
メカニカルシール1は、機外側領域Aと機内側領域Bとの間をシールするものであり、回転軸Sに一体回転可能に設けられた回転側ユニット2と、ケーシングCに設けられた静止側ユニット3とを備えている。なお、本明細書において、図1の左側を機外側、図1の右側を機内側という(図2についても同様)。
【0017】
[回転側ユニット]
メカニカルシール1の回転側ユニット2は、回転軸Sに取り付けられたスリーブ20と、スリーブ20に取り付けられたドライブリング21と、ドライブリング21に取り付けられた回転密封環22とを備えている。
【0018】
スリーブ20は、回転軸Sに外嵌されており、機外側の端部に配置されたストッパリング23にセットスクリュー24を螺合して締め付けることで、回転軸Sの外周面に一体回転可能に固定されている。スリーブ20の機内側の端部には、径方向外側に突出する円環状のスリーブ円環部20aが形成されている。なお、スリーブ20の機内側の端部の内周面と回転軸Sの外周面との間は、Oリング25によりシールされている。
【0019】
ドライブリング21は、スリーブ円環部20aに外嵌されており、ドライブリング21の機内側の端部にセットスクリュー26を螺合して締め付けることで、スリーブ20に一体回転可能に固定されている。なお、ドライブリング21の内周面とスリーブ円環部20aの外周面との間は、Oリング27によりシールされている。
【0020】
ドライブリング21は、スリーブ円環部20aよりも機外側に突出している部分を有し、この突出部分に回転密封環22が内嵌されている。回転密封環22の機外側の端面にはシール面22aが形成されている。また、回転密封環22の機内側の端面には、ピン溝22bが周方向に所定間隔をあけて複数(図1では1個のみ図示)形成されている。各ピン溝22bには、ドライブリング21に突設されたピン28が挿入されている。これにより、回転密封環22は、ドライブリング21に対する相対回転が規制されている。なお、回転密封環22の外周面とドライブリング21の前記突出部分の内周面との間は、Oリング29によりシールされている。
【0021】
[静止側ユニット]
メカニカルシール1の静止側ユニット3は、ケーシングCに取り付けられたシールケース30と、シールケース30に取り付けられたリテーナ36と、リテーナ36に取り付けられたドライブカラー37と、ドライブカラー37に取り付けられた保持部材38と、保持部材38に取り付けられた静止密封環39とを備えている。
【0022】
シールケース30は、円環状に形成されたケース円環部30aと、ケース円環部30aの内周部から機内側に延びる円筒状のケース円筒部30bとを有している。ケース円環部30aは、ケーシングCの外側面c1と、円環状のフランジ33との間に挟持された状態で、円環状のプレート34を介してボルト35によりケーシングCに固定されている。ケース円筒部30bは、ケーシングCの内周面c2に沿って機内側に延びて形成されている。
【0023】
なお、ケース円環部30aの機外側の側面とフランジ33の機内側の側面との間は、Oリング40によりシールされている。また、フランジ33の機外側の側面とプレート34の機外側の側面との間は、Oリング41(図2参照)によりシールされている。
【0024】
フランジ33は、その内周面の機内側の端部から径方向内側に延びるフランジ円環部33aを有している。フランジ円環部33aとプレート34との間には、セグメントシール60が取り付けられている。セグメントシール60の詳細については後述する。
【0025】
リテーナ36は、ケース円環部30aに内嵌して固定された円環状のリテーナ本体部36aと、リテーナ本体部36aの内周部から機内側に延びる円筒状のリテーナ円筒部36bとを有している。リテーナ本体部36aの機外側の側面は、フランジ円環部33aの機内側の側面に当接している。また、リテーナ本体部36aの機外側の側面には、ピン36cが周方向に所定間隔をあけて複数(図1では1個のみ図示)突設されている。各ピン36cは、フランジ円環部33aの機内側の側面に形成されたピン溝33bに挿入されている。これにより、リテーナ36は、シールケース30に対する相対回転が規制されている。
【0026】
リテーナ円筒部36bは、スリーブ20の外周面に対して所定の隙間をあけた状態で機内側に延びて形成されている。リテーナ本体部36aには、軸方向に貫通する貫通孔36dが周方向に所定間隔をあけて複数(図1では1個のみ図示)形成されている。各貫通孔36dには、ドライブピン42が挿通されて、リテーナ円筒部36bとケース円環部30aとの間に配置されたドライブカラー37に螺合されている。これにより、ドライブカラー37は、リテーナ36に対して軸方向へ移動可能に保持されながら、リテーナ36に対する相対回転が規制されている。
【0027】
ドライブカラー37には、円筒状の保持部材38の機外側の端部が内嵌して固定されている。保持部材38の機外側の端部には、ピン溝38aが周方向に所定間隔をあけて複数(図1では1個のみ図示)形成されている。各ピン溝38aには、ドライブカラー37の内周に突設されたピン37aが挿入されている。これにより、保持部材38は、ドライブカラー37に対する相対回転が規制されている。なお、保持部材38の外周面とケース円筒部30bの内周面との間は、Oリング43によりシールされている。
【0028】
保持部材38の機内側の端部には、円環状の静止密封環39が内嵌して固定されている。静止密封環39の機内側の端部には、回転密封環22のシール面22aが摺接するシール面39aが形成されている。リテーナ本体部36aとドライブカラー37との間には、ドライブカラー37を機内側へ押圧するスプリング44が周方向に所定間隔をあけて複数(図1では1個のみ図示)設けられている。これにより、静止密封環39のシール面39aは、スプリング44の付勢力により回転密封環22のシール面22aに押圧されながら摺接することで、機外側領域Aと機内側領域Bとの間をシールしている。
【0029】
[ジャケット空間]
図2は、図1の要部を示す拡大断面図である。機内側領域Bは、回転密封環22のシール面22aと静止密封環39のシール面39aとの摺接部分(以下、「シール摺接部」という)よりも径方向外側において、上記Oリング43よりも機内側に形成されており、この機内側領域Bに高温の被密封流体(例えば160℃の熱水)を密封している。
【0030】
シールケース30のケース円筒部30bにおける機内側の端部は、シール摺接部付近において機内側領域B内の被密封流体と接している。すなわち、本実施形態のシールケース30は、シール摺接部付近において機内側領域B内の被密封流体と接する静止側部材として機能している。シールケース30には、シール摺接部付近の被密封流体を冷却するジャケット水(冷却流体)が導入されるジャケット空間Jとなる環状の窪み部31が形成されている。
【0031】
本実施形態の窪み部31は、ケース円環部30aの機内側の側面を機外側に窪ませるとともに、ケース円筒部30bの外周面を径方向内側に窪ませることによって形成されている。そして、窪み部31の開口は、ケーシングCの外側面c1及び内周面c2によって覆われている。これにより、シールケース30の窪み部31の内部には、ケーシングCの外側面c1及び内周面c2によって覆われた環状のジャケット空間Jが形成されている。
【0032】
ケース円環部30aには、ジャケット空間Jにジャケット水を供給する供給路(図示省略)と、ジャケット空間J内のジャケット水を外部に排出する排出路30dとが形成されている。なお、ケース円環部30aの機内側の側面とケーシングCの外側面c1との間は、Oリング45によりシールされており、ジャケット空間J内のジャケット水が機内側領域Bに漏洩するのを防止している。また、ケース円筒部30bの機内側端部の外周面とケーシングCの内周面c2との間は、Oリング46によりシールされており、ジャケット空間J内のジャケット水が機外に漏洩するのを防止している。
【0033】
以上より、メカニカルシール1の静止側ユニット3の構成部品であるシールケース30は、ジャケット水が導入されるジャケット空間Jを有するので、このジャケット空間Jにジャケット水を導入することで、シール摺接部付近の被密封流体を冷却することができる。これにより、従来のように、メカニカルシールの設置スペース以外にジャケット空間を確保する必要がないので、ジャケット空間Jを備えたメカニカルシール1をコンパクトに構成することができる。
【0034】
[ラビリンス隙間および中間室]
回転側ユニット2において、ドライブリング21の外周面における機外側の端部には、凹凸が軸方向に連続する第1凹凸部21aが形成されている。この第1凹凸部21aとケーシングCの内周面c2との間には、第1ラビリンス隙間L1が形成されている。
【0035】
これにより、機内側領域Bには、シール摺接部付近よりも機内側に第1ラビリンス隙間L1が形成されるので、第1ラビリンス隙間L1よりも機内側の被密封流体がシール摺接部付近に流入するのを抑制することができる。したがって、本実施形態のドライブリング21は、ケーシングCの内周面c2との間に第1ラビリンス隙間L1を形成して当該第1ラビリンス隙間L1よりも機内側の被密封流体がシール摺接部付近に流入するのを抑制する回転側部材として機能している。
【0036】
以上より、第1ラビリンス隙間L1よりも機外側のシール摺接部付近に高温の被密封流体が流入しにくくなるので、シール摺接部付近でジャケット水により冷却された被密封流体が、第1ラビリンス隙間L1よりも機内側の被密封流体と入れ替わるのを抑制することができる。その結果、シール摺接部付近の被密封流体の冷却効率を高めることができるので、メカニカルシール1への熱影響を効果的に低減することができる。
【0037】
また、第1ラビリンス隙間L1は、ドライブリング21の機外側の端部に設けられているため、ドライブリング21の機内側の端部に設けられる場合に比べて、第1ラビリンス隙間L1よりも機外側に形成される空間を可及的に小さくすることができる。これにより、第1ラビリンス隙間L1よりも機外側の被密封流体を少なくすることができるので、シール摺接部付近の被密封流体の冷却効率をさらに高めることができる。
【0038】
ドライブリング21の外周面における機内側の端部には、凹凸が軸方向に連続する第2凹凸部21bが形成されている。この第2凹凸部21bとケーシングCの内周面c2との間には、第2ラビリンス隙間L2が形成されている。これにより、機内側領域Bには、第1ラビリンス隙間L1よりも機内側に第2ラビリンス隙間L2が形成されるので、第1ラビリンス隙間L1よりも機外側のシール摺接部付近に被密封流体が流入するのをさらに抑制することができる。
【0039】
以上のように第2ラビリンス隙間L2を形成することで、高温の被密封流体が、第1ラビリンス隙間L1よりも機外側のシール摺接部付近にさらに流入しにくくなるので、シール摺接部付近でジャケット水により冷却された被密封流体が、第2ラビリンス隙間L2よりも機内側の被密封流体と入れ替わるのをさらに抑制することができる。これにより、シール摺接部付近の被密封流体の冷却効率を高めることができるので、メカニカルシール1への熱影響をさらに効果的に低減することができる。
【0040】
ドライブリング21の外周面には、第1ラビリンス隙間L1と第2ラビリンス隙間L2との間に環状溝21cが形成されている。そして、この環状溝21cとケーシングCの内周面c2とによって、第1ラビリンス隙間L1と第2ラビリンス隙間L2との間に被密封流体を介在させる環状の中間室Mが形成されている。
【0041】
以上のように中間室Mを形成することで、第2ラビリンス隙間L2よりも機内側にある被密封流体の熱の一部は、ドライブリング21の第2ラビリンス隙間L2を形成している部分、中間室M内の被密封流体、及びドライブリング21の第1ラビリンス隙間L1を形成している部分を介して、シール摺接部付近の被密封流体に伝熱する。これにより、機内側の被密封流体からシール摺接部付近の被密封流体への伝熱効率は、中間室M内の被密封流体を介して伝熱される分だけ低下するので、メカニカルシール1への熱影響をさらに効果的に低減することができる。
【0042】
[クエンチ流体室]
機外側領域Aは、回転密封環22と静止密封環39とのシール摺接部よりも径方向内側に形成されている。そして、機外側領域Aには、シール摺接部を洗浄及び冷却するクエンチ水(クエンチ流体)が導入されるクエンチ流体室Qが形成されている。本実施形態のクエンチ流体室Qは、機内側のスリーブ円環部20aと機外側のセグメントシール60との間において、ケース円環部30aよりも径方向内側に形成されている。また、クエンチ流体室Qの機内側は、クエンチ水がドライブリング21の内周端部21dに接するように形成されている。
【0043】
ケース円環部30aには、クエンチ流体室Qにクエンチ水を供給する供給路30eと、クエンチ流体室Q内のクエンチ水を外部に排出する排出路30fとが形成されている。なお、供給路30eからクエンチ流体室Qに供給されたクエンチ水は、上記Oリング43によって機内側領域Bへの漏洩が防止されている。
【0044】
セグメントシール60は、クエンチ流体室Qの機外側をシールするもので、円環状に形成された一対のセグメントリング61と、各セグメントリング61の外周に設けられた円環状のガータスプリング62とを備えている。一対のセグメントリング61は、軸方向に並んで配置された状態で、フランジ円環部33aとプレート34との間に挟持された状態で、上記ボルト35によりケーシングC側に固定されている。
【0045】
図1において、機内側のセグメントリング61には、軸方向に貫通するピン孔61aが周方向に所定間隔をあけて複数(図1では1個のみ図示)形成されている。また、機外側のセグメントリング61の機内側の側面には、ピン孔61aと同数のピン溝61bが形成されている。一対のセグメントリング61のピン孔61a及びピン溝61bには、フランジ円環部33aの機外側の側面に突設されたピン33cが挿入されている。これにより、一対のセグメントリング61は、フランジ33に対する相対回転が規制されている。
【0046】
図2において、機内側のセグメントリング61とフランジ円環部33aとの間には、当該セグメントリング61を機外側へ押圧するスプリング63が周方向に所定間隔をあけて複数(図2では1個のみ図示)設けられている。
ガータスプリング62は、各セグメントリング61の外周に装着されており、各セグメントリング61の内周面をスリーブ20の外周面に圧接させている。これにより、クエンチ流体室Q内のクエンチ水が機外側に漏洩するのを防止している。
【0047】
以上より、回転密封環22と静止密封環39とのシール摺接部は、ジャケット空間J内のジャケット水により被密封流体を介して機内側から冷却されるとともに、クエンチ流体室Q内のクエンチ水によっても機外側から冷却されるので、メカニカルシール1への熱影響をさらに効果的に低減することができる。
【0048】
また、ドライブリング21の内周端部はクエンチ水に接するので、ドライブリング21よりも機内側の被密封流体の熱がドライブリング21に伝熱しても、クエンチ水によってドライブリング21を冷却することができる。これにより、ドライブリング21よりも機内側の被密封流体の熱が、ドライブリング21を介してシール摺接部付近の被密封流体に伝熱されるのを抑制することができる。その結果、メカニカルシール1への熱影響をさらに効果的に低減することができる。
【0049】
また、上記のようにクエンチ水によってドライブリング21が冷却されることで、中間室M内の被密封流体も冷却することができる。これにより、中間室M内の被密封流体の伝熱効率が低下するので、第2ラビリンス隙間L2よりも機内側にある被密封流体の熱の一部が、ドライブリング21の第2ラビリンス隙間L2を形成している部分、中間室M内の被密封流体、及びドライブリング21の第1ラビリンス隙間L1を形成している部分を介して、シール摺接部付近の被密封流体に伝熱することを抑制することができる。
【0050】
[その他]
上記実施形態におけるジャケット空間は、シールケースの窪み部によって形成されているが、シールケースの内部に中空部を形成し、この中空部をジャケット空間としてもよい。また、上記実施形態における機内側領域は、シール摺接部よりも径方向外側に形成されているが、シール摺接部よりも径方向内側に形成されていてもよい。また、上記実施形態におけるドライブリングの外周には、第1及び第2ラビリンス隙間と中間室とが形成されているが、外周全体にラビリンス隙間を形成してもよい。
【0051】
上記実施形態における静止側ユニットは、シールケースを静止側部材としているが、他の構成部品を静止側部材としてもよい。また、上記実施形態における回転側ユニットは、ドライブリングを回転側部材としているが、他の構成部品を回転側部材としてもよい。また、上記実施形態におけるメカニカルシールには、ジャケット空間とクエンチ流体室とが形成されているが、少なくともジャケット空間が形成されていればよい。
【0052】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
1 メカニカルシール
2 回転側ユニット
3 静止側ユニット
21 ドライブリング(回転側部材)
22 回転密封環
30 シールケース(静止側部材)
39 静止密封環
A 機外側領域
B 機内側領域
C ケーシング
c2 内周面
J ジャケット空間
L1 第1ラビリンス隙間
L2 第2ラビリンス隙間
M 中間室
S 回転軸
Q クエンチ流体室
図1
図2