特許第6878345号(P6878345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6878345
(24)【登録日】2021年5月6日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】回転式表面処理装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/22 20060101AFI20210517BHJP
   C25D 17/12 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   C25D17/22
   C25D17/12 D
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-64846(P2018-64846)
(22)【出願日】2018年3月29日
(65)【公開番号】特開2019-173129(P2019-173129A)
(43)【公開日】2019年10月10日
【審査請求日】2019年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000189327
【氏名又は名称】上村工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092956
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 栄男
(74)【代理人】
【識別番号】100101018
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 正
(72)【発明者】
【氏名】堀田 輝幸
(72)【発明者】
【氏名】清水 宏治
(72)【発明者】
【氏名】内海 雅之
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 真佐登
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/081536(WO,A1)
【文献】 特開2004−300470(JP,A)
【文献】 特開平11−172495(JP,A)
【文献】 特開2004−267980(JP,A)
【文献】 特開2011−174157(JP,A)
【文献】 実開昭59−074815(JP,U)
【文献】 実開昭55−102964(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 17/22
C25D 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側壁および底面を有し、処理液および処理対象を収納する処理槽と、
処理対象が前記側壁に向けて遠心力を受けるように、前記処理槽を回転させる回転機構と、
前記処理液に接するように設けられ第1の電位に接続された第1の電極と、
を備えた処理液とともに処理対象を回転させて表面処理を行う回転式表面処理装置において、
前記側壁には、前記処理槽の回転による遠心力によって、処理液を外部に放出するための空隙が設けられており、
前記空隙は、前記処理対象に接する内側において当該処理対象の最小外形寸法よりも小さく形成されており、外側において大きくなるように形成されていることを特徴とする回転式表面処理装置において、
前記処理槽は、
円盤状の底面部材と、
前記底面部材上に積層された中空円盤状のスリットリングおよび電極部材と、
を備え、
前記電極部材は、第2の電位に接続されることを特徴とする回転式表面処理装置。
【請求項2】
側壁および底面を有し、処理液および処理対象を収納する処理槽と、
処理対象が前記側壁に向けて遠心力を受けるように、前記処理槽を回転させる回転機構と、
前記処理液に接するように設けられ第1の電位に接続された第1の電極と、
を備えた処理液とともに処理対象を回転させて表面処理を行う回転式表面処理装置において、
前記側壁には、前記処理槽の回転による遠心力によって、処理液を外部に放出するための空隙が設けられており、
前記空隙は、前記処理対象に接する内側において当該処理対象の最小外形寸法よりも小さく形成されており、外側において大きくなるように形成されていることを特徴とする回転式表面処理装置において、
前記処理槽は、
円盤状の底面部材と、
前記底面部材上に積層された中空円盤状のカソードリングと、
を備え、
前記カソードリングは導電性を有し、第2の電位に接続されることを特徴とする回転式表面処理装置。
【請求項3】
請求項2の回転式表面処理装置において、
前記空隙は、隣接する中空円盤の間にスペーサを挟むことによって形成され、前記中空円盤は内側よりも外側が薄く形成されており、
前記処理槽は、
前記底面部材と前記カソードリングの間に設けられた中空円盤状のスリットリングと、
前記底面部材、前記スリットリングおよび前記カソードリングを貫通して固定するボルトとを備え、
前記スペーサは、前記底面部材と前記スリットリングとの間および/または前記スリットリングと前記電極部材との間に挟まれ、
前記スリットリングは、
前記ボルトが貫通する貫通穴と、
前記貫通穴近傍における前記スリットリングの厚さが最も大きくなる最大厚部と、
前記貫通穴の間に設けられ、前記最大厚部を内側に残し、外周に向けて全面的に形成された凹部を有し、
前記スペーサは、前記貫通穴の周囲に設けられていることを特徴とする回転式表面処理装置。
【請求項4】
請求項1または2の回転式表面処理装置において、
前記側壁は、くさび状部材の幅広側を内側に向け、空隙を空けて隣接するようサポート部材に固定されて構成されていることを特徴とする回転式表面処理装置。
【請求項5】
側壁および底面を有し、処理液および処理対象を収納する処理槽と、
処理対象が前記側壁に向けて遠心力を受けるように、前記処理槽を回転させる回転機構と、
前記処理液に接するように設けられ第1の電位に接続された第1の電極と、
を備えた処理液とともに処理対象を回転させて表面処理を行う回転式表面処理装置において、
前記側壁には、前記処理槽の回転による遠心力によって、処理液を外部に放出するための空隙が設けられており、
前記空隙には、少なくとも前記処理対象に接する内側において、処理対象より小さい穴を持つ多孔質部材が設けられ、前記空隙は、外側において大きくなるように形成されていることを特徴とする回転式表面処理装置において、
前記処理槽は、
円盤状の底面部材と、
前記底面部材上に積層された中空円盤状のスリットリングおよび電極部材と、
を備え、
前記電極部材は、第2の電位に接続されることを特徴とする回転式表面処理装置。
【請求項6】
側壁および底面を有し、処理液および処理対象を収納する処理槽と、
処理対象が前記側壁に向けて遠心力を受けるように、前記処理槽を回転させる回転機構と、
前記処理液に接するように設けられ第1の電位に接続された第1の電極と、
を備えた処理液とともに処理対象を回転させて表面処理を行う回転式表面処理装置において、
前記側壁には、前記処理槽の回転による遠心力によって、処理液を外部に放出するための空隙が設けられており、
前記空隙には、少なくとも前記処理対象に接する内側において多孔質部材が設けられ、前記空隙は、外側において大きくなるように形成されていることを特徴とする回転式表面処理装置において、
前記処理槽は、
円盤状の底面部材と、
前記底面部材上に積層された中空円盤状のカソードリングと、
を備え、
前記カソードリングは導電性を有し、第2の電位に接続されることを特徴とする回転式表面処理装置。
【請求項7】
側壁および底面を有し、処理液および処理対象を収納する処理槽と、
処理対象が前記側壁に向けて遠心力を受けるように、前記処理槽を回転させる回転機構と、
を備えた処理液とともに処理対象を回転させて表面処理を行う回転式表面処理装置において、
前記側壁には、前記処理槽の回転による遠心力によって、処理液を外部に放出するための空隙が設けられており、
前記空隙は、前記処理対象に接する内側において当該処理対象の最小外形寸法よりも小さく形成されており、外側において大きくなるように形成されていることを特徴とする回転式表面処理装置において、
前記処理槽は、
円盤状の底面部材と、
前記底面部材上に積層された中空円盤状のスリットリングおよび電極部材と、
を備え、
前記電極部材は、第2の電位に接続され、
前記空隙は、前記中空円盤状のスリットリングおよび電極部材を積層する際に、スペーサを挟むことで形成されることを特徴とする回転式表面処理装置。
【請求項8】
側壁および底面を有し、処理液および処理対象を収納する処理槽と、
処理対象が前記側壁に向けて遠心力を受けるように、前記処理槽を回転させる回転機構と、
を備えた処理液とともに処理対象を回転させて表面処理を行う回転式表面処理装置において、
前記側壁には、前記処理槽の回転による遠心力によって、処理液を外部に放出するための空隙が設けられており、
前記空隙は、前記処理対象に接する内側において当該処理対象の最小外形寸法よりも小さく形成されており、外側において大きくなるように形成されていることを特徴とする回転式表面処理装置において、
前記処理槽は、
円盤状の底面部材と、
前記底面部材上に積層された中空円盤状のカソードリングと、
を備え、
前記カソードリングは導電性を有し、第2の電位に接続され、
前記空隙は、前記中空円盤状のカソードリングおよび電極部材を積層する際に、スペーサを挟むことで形成されることを特徴とする回転式表面処理装置。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、めっき液などの処理液とともに処理対象を回転させて表面処理を行う装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小さな部品などを大量にめっきするために回転式表面処理装置が用いられている。図17に、特許文献1に開示された回転式表面処理装置を示す。
【0003】
外部筐体18の中には、処理槽2が設けられている。処理槽2は、底面部材4、側壁6、カバー部材14を備えている。処理槽2の下部には、モータ(図示せず)によって回転される回転軸10が結合されており、これによって処理槽2も回転される。
【0004】
処理槽2の中には、処理液16とめっき対象(処理対象)である多数の部品20が投入される。処理液16に接するように第1の電極12が設けられている。
【0005】
処理槽2が回転されると、遠心力により部品20がひとかたまりとなり、側壁6に押しつけられる。側壁6は第2の電極を兼ねており、第1の電極12と側壁6との間に通電を行うことで、部品20にめっきを施すことができる。
【0006】
底面部材4と側壁6との間には空隙8が設けられている。空隙8は、部品20の最小寸法よりも僅かに小さく形成されている。したがって、遠心力により空隙8を通って処理液16が外部に排出される一方、部品20は処理槽2の中に留まることになる。
【0007】
処理槽2の外に排出された処理液16は、ポンプPによって再び処理槽2に戻される。これにより、処理槽2の中の処理液16が循環され、部品20に対して常に新しい処理液16が供給される。
【0008】
また、処理液16の種類などを交換する場合には、処理槽2を回転させて空隙8を介して処理液16を外部に放出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許4832970号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記のような従来技術における回転式表面処理装置においては、処理液16の交換などの際に、空隙8から処理液16を排出するための時間を要し、処理効率を上げることが難しいという問題があった。
【0011】
特に、部品20が微小である場合(たとえば、直径30μmの金属ボール(金属粉末)など)には、空隙8が狭くならざるを得ず、処理液16の排出時間が長くなっていた。
【0012】
この発明は、上記のような問題点を解決して、処理液の排出時間が短く処理効率の良い回転式表面処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の独立したいくつかの特徴を以下に列挙する。
【0014】
(1)この発明に係る回転式処理装置は、側壁および底面を有し、処理液および処理対象を収納する処理槽と、処理対象が前記側壁に向けて遠心力を受けるように、前記処理槽を回転させる回転機構とを備えた回転式処理装置において、前記側壁には、前記処理層の回転による遠心力によって、処理液を外部に放出するための空隙が設けられており、前記空隙は、前記処理対象に接する内側において当該処理対象の最小外形寸法よりも小さく形成されており、外側において大きくなるように形成されていることを特徴としている。
【0015】
したがって、処理液の排出速度を速くすることができ、処理効率を上げることができる。
【0016】
(2)この発明に係る回転式処理装置は、側壁は中空円盤を積層して構成され、前記空隙は、隣接する中空円盤の間にスペーサを挟むことによって形成され、前記中空円盤は内側よりも外側が薄く形成されていることを特徴としている。
【0017】
したがって、処理液の排出速度を速くすることができる構造を、容易に得ることができる
(3)この発明に係る回転式処理装置は、側壁が、くさび状部材の幅広側を内側に向け、空隙を空けて隣接するようサポート部材に固定されて構成されていることを特徴としている。
【0018】
したがって、処理液の排出速度を速くすることができる構造を、容易に得ることができる
(4)この発明に係る回転式処理装置は、側壁および底面を有し、処理液および処理対象を収納する処理槽と、処理対象が前記側壁に向けて遠心力を受けるように、前記処理槽を回転させる回転機構とを備えた回転式処理装置において、前記側壁には、前記処理層の回転による遠心力によって、処理液を外部に放出するための空隙が設けられており、前記空隙には、少なくとも前記処理対象に接する内側において多孔質部材が設けられ、前記空隙は、外側において大きくなるように形成されていることを特徴としている。
【0019】
したがって、処理液の排出速度を速くすることができ、処理効率を上げることができる。
【0020】
(5)この発明に係る回転式処理装置は、側壁および底面を有し、処理液および処理対象を収納する処理槽と、処理対象が前記側壁に向けて遠心力を受けるように、前記処理槽を回転させる回転機構とを備えた回転式処理装置において、前記側壁には、前記処理層の回転による遠心力によって、処理液を外部に放出するための空隙が設けられており、前記空隙を有する側壁の内側から外側までの長さは、前記処理対象の平均直径の50倍以下であることを特徴としている。
【0021】
したがって、処理液の排出速度を速くすることができ、処理効率を上げることができる。
【0022】
(6)この発明に係る回転式処理装置は、側壁の少なくとも一部として第2の電極を有し、処理液に接するように設けられた第1の電極を有することを特徴としている。
【0023】
したがって、電気処理を行う装置に適用することができる。
【0024】
(7)この発明に係るリング状部材は、側壁および底面を有し、処理液および処理対象を収納して回転する処理槽の側壁を構成するためのリング状部材であって、当該リング状部材の外周端から内周端手前にかけて、処理液排出を容易にするための凹部を設けたことを特徴としている。
【0025】
したがって、処理液の排出速度を速くするためのリング状部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】この発明の一実施形態による回転式処理装置の断面図である。
図2】ベース部材90の詳細を示す図である。
図3】底面部材60の詳細を示す図である。
図4】スリットリング30の詳細を示す図である。
図5】スリットリング30の取付状態を示す図である。
図6】カソードリング50の詳細を示す図である。
図7】カバー部材70の詳細を示す図である。
図8】他の実施形態を示す図である。
図9】他の実施形態を示す図である。
図10】他の実施形態を示す図である。
図11】スリット部材110の詳細を示す図である。
図12】他の実施形態を示す図である。
図13】実施形態の構造と従来の構造との比較図である。
図14】実験結果データである。
図15】実施形態の構造のバリエーションを示す図である。
図16】他の例によるスロットリング30の構成を示す図である。
図17】従来の回転式処理装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.実施形態の説明
図1に、この発明の一実施形態による回転式表面処理装置の断面図を示す。
【0028】
外部筐体18の中には、処理槽2が設けられている。処理槽2は、底面部材60、側壁80、カバー部材70を備えている。処理槽2は、金属製のベース部材90の上に載置されて固定される。
【0029】
ベース部材90は、モータ(図示せず)によって回転される回転軸10によって回転される。したがって、処理槽2もこれにつれて同じように回転する。処理槽2の中には、処理液であるめっき液16、処理対象である部品20が投入される。めっき液16の上部には、第1の電極である陽極12が浸漬される。
【0030】
側壁80は、下側スリットリング30、第2の電極であるカソード(陰極)リング50、上側スリットリング30を積層することで構成されている。底面部材60、下側スリットリング30、カソードリング50、上側スリットリング30、カバー部材70のそれぞれの間には、ワッシャが挿入されて積層されている。したがって、これらの間には、わずかな空隙が形成されている。
【0031】
処理槽2が回転されると、遠心力により部品20が側壁80の側に押しつけられる。その際、側壁80のカソードリング50に当接した部品20は、陽極12からの電流によって電気めっきが施される。処理槽2の回転に伴って(特に逆回転を行った場合には)、部品20の位置が移動するので、各部品20についてめっきを施すことができる。
【0032】
回転により、めっき液16は、側壁80の空隙から外部に放出されて、外部筐体18の下部に蓄積される。このめっき液16は、回収パイプ93を経てポンプPに導入される。ポンプPは回収しためっき液16を、再供給パイプ95に送り出す。再供給パイプ95の先端は、処理槽2の上部に来るように構成されている。したがって、めっき液16が循環して使用される。
【0033】
また、めっき液16の種類を変える等の場合には、ポンプPによるめっき液の循環は行わず排出する(排出パイプは図示していない)。
【0034】
この実施形態では、めっき液を処理槽2から排出する速度を速くするために以下のような構成を採用している。前述のように処理槽2の側壁80は、各部材を積層して形成されているので、以下、積層順に各部材を説明する。
【0035】
図2に、ベース部材90の詳細を示す。図2Aが平面図、図2Bが側断面図、図2Cが拡大断面図である。ベース部材90は、処理槽2を保持して回転させるための部材である。ベース部材90は、導電性金属の円盤92によって構成されている。円盤92の外周近傍には、処理槽2を固定するための貫通穴94が設けられている。
【0036】
図3に、ベース部材90の上に載置される底面部材60の詳細を示す。図3Aが平面図、図3Bが側断面図、図3Cが拡大断面図である。ベース部材90は非導電性樹脂の円盤62によって構成されている。円盤62には、中央部に部品20を保持するための凹部66が設けられている。円盤62の外周近傍には、円盤92の貫通穴94と対応する位置に、貫通穴64が設けられている。これら貫通穴94、64・・・にボルト(図示せず)を貫通させてナット(図示せず)を螺入することで固定することができる。
【0037】
図4に、底面部材60の上に載置されるスリットリング30の詳細を示す。図4Aが平面図、図4B図4Cが拡大断面図である。スリットリング30は、中央部に大きな開口40のある非導電性樹脂のリング状円盤34によって構成されている。リング状円盤34には、底面部材60の貫通穴64に対応する位置に、貫通穴38が設けられている。
【0038】
図4AにおけるB−B断面を示す図4Bからわかるように、貫通穴38の近傍においては、リング状円盤34の厚さが最も大きくなる最大厚部33として形成されている。
【0039】
隣接する貫通穴38の間には、凹部32が設けられている。図4AにおけるC−C断面を示す図4Cからわかるように、凹部32は、最大厚部33を内側に残し、外周に向けて全面的に形成されている。また、凹部32は上下両面に設けられている。この実施形態では、凹部32の深さを、0.5mm程度としている。
【0040】
なお、底面部材60の上にスリットリング30を載置して固定する際に、図5A(端面図)に示すように、貫通穴38の周囲にスペーサリング5を挟むようにしている。したがって、底面部材60とスリットリング30との間には、スペーサリング5の厚さに対応する空隙8が形成される。
【0041】
この実施形態では、処理対象である部品20の最小寸法(縦横高さのうち最も小さい寸法)の30%〜80%(好ましくは40%〜60%)の空隙8が形成されるようにしている。これにより、部品20は排出されず、めっき液16のみを空隙8から排出することができる。
【0042】
また、図5B(端面図)に示すように、スリットリング30の凹部32が形成された部分では、凹部32の深さだけ空隙8が広くなる。すなわち、外側に向かって空隙8が広くなるように形成されている。したがって、めっき液16の排出が迅速になされ、排出速度が向上する。また、処理槽2の内側部分においては、最大厚部33が設けられており、空隙8が狭くなっているので部品20は排出されない。
【0043】
なお、図5Bにおける最大厚部33の長さLはできるだけ小さい方が好ましい。この実施形態では、強度とのバランスを考慮して、2mmの長さとしている。
【0044】
図6に、スリットリング30の上に載置されるカソードリング50の詳細を示す。図6Aが平面図、図6Bが拡大断面図である。カソードリング50は、中央部に大きな開口56のある導電性金属のリング状円盤52によって構成されている。リング状円盤52には、スリットリング30の貫通穴38に対応する位置に、貫通穴54が設けられている。
【0045】
スリットリング30の上にカソードリング50を載置して固定する際に、図5A(端面図)に示すように、貫通穴38の周囲にスペーサリング5を挟むようにしている。したがって、カソードリング50とスリットリング30との間には、スペーサリング5の厚さに対応する空隙8が形成される。
【0046】
この実施形態では、処理対象である部品20の最小寸法(縦横高さのうち最も小さい寸法)の30%〜80%(好ましくは40%〜60%)の空隙8が形成されるようにしている。これにより、部品20は排出されず、めっき液16のみを空隙8から排出することができる。
【0047】
また、図5B(端面図)に示すように、スリットリング30の凹部32が形成された部分では、凹部32の深さだけ空隙8が広くなる。したがって、めっき液16の排出が迅速になされ、排出速度が向上する。また、処理槽2の内側部分においては、最大厚部33が設けられており、空隙8が狭くなっているので部品20は排出されない。
【0048】
この実施形態では、図1に示すように、カソードリング50の上にもスリットリング30を載置している。この際にも、スペーサリング5を挟み込んで空隙8を形成する点、スリットリング30の凹部32によって広い空隙8が形成される点は同様である。
【0049】
図7に、上側のスリットリング30の上に載置されるカバー部材70の詳細を示す。図7Aが平面図、図7Bが断面図、図7Cが拡大断面図である。カバー部材70は、非導電性樹脂の蓋状ドーナツ部材72によって構成されている。蓋状ドーナツ部材72は、外周部が平坦で、中央部に向かって傾斜したカバーとなっている。中央部には開口76が設けられている。外周の平坦部には、スリットリング30の貫通穴38に対応する位置に、貫通穴74が設けられている。
【0050】
カバー部材70は、回転時に内部のめっき液16が上方から飛び出さないようにカバーするものである。
【0051】
スリットリング30の上にカバー部材70を載置して固定する際にも、スペーサリング5を挟み込むようにしている。これによって、空隙8を形成する点、スリットリング30の凹部32によって広い空隙8が形成される点は、他の箇所と同様である。
【0052】
カバー部材70の上には、保持リング55が設けられる。保持リング55は、カソードリング50と同じ形状であるが、電気的には接続されない。
【0053】
なお、各部材の貫通孔を貫くボルト(図示せず)は、導電材で構成されている。これによって、カソードリング50をベース部材90に電気的に接続するようにしている。ベース部材90には、回転軸10を介してカソード電位が供給される。陽極12には、アノード電位が供給される。
【0054】
以上のように、この実施形態では、側壁80に形成された空隙8を、内側において部品20の最小外形寸法よりも小さく、外側に向かって大きくなるように形成している。これにより、狭い空隙が長く続く場合に比べて、排水のための抵抗が小さくなり、迅速な排水を行うことができる。
【0055】
2.その他
(1)上記実施形態では、スペーサリング5によって空隙8を設けるようにしている。しかし、スリットリング30などの部材にスペーサリングに相当する突起を設けて、空隙8を形成するようにしてもよい。
【0056】
また、スロットリング30を図16に示すような構成にして、スペーサリング5を不要にしてもよい。図16Aが平面図、図16B図16Cが拡大断面図である。図16Dは、図16Cの内周部近傍のさらなる拡大断面図である。図16Bに示すように、貫通穴38の近傍においては内周から外周までにわたって最大厚部33が形成されている。隣接する貫通穴38の間に凹部32が設けられている点は、図4と同様である。
【0057】
図16Dに示すように、内周において、最大厚部33より僅かに低く形成され、微小凹部35が形成されるようになっている。この例では、微小凹部35による空隙が、スペーサリング5によって形成される空隙と同じになるようにしている。
【0058】
このような構成によれば、スペーサリング5を用いなくともよく、組立が容易である。
【0059】
(2)上記実施形態では、スリットリング30の上下両側に空隙8を設けているが、いずれか一方だけに空隙8を設けるようにしてもよい。
【0060】
(3)上記実施形態では、スペーサリング5やカバー部材70を非導電性の部材によって構成している。しかし、これらの一部または全部を導電性部材とし、陰極として作用させるようにしてもよい。
【0061】
(4)上記実施形態では、表面処理として電気めっきの場合について説明した。しかし、電極を用いるその他の表面処理一般に適用することができる。
【0062】
(5)上記実施形態では、カソードリング50の上下に一つずつスリットリング30を設けるようにしている。しかし、上下のいずれか一方にのみ設けるようにしてもよい。また、スリットリング30は、複数重ねて設けるようにしてもよい。この場合、スリットリング30間に空隙8を設けることが好ましい。
【0063】
(6)上記実施形態では、図5Bに示すような段差のある空隙8ができるように構成している。しかし、図8に示すように、外側に向けて徐々に空隙8が広くなるように構成してもよい。
【0064】
(7)上記実施形態では、各部材に貫通穴を設け、ボルト・ナットによって固定するようにしている。しかし、図9に示すようなバネ性部材101によって、積層した部材を挟み込んで固定するようにしてもよい。この場合には、貫通孔は不要である。なお、処理槽2をベース部材90に固定するためには、底面部材60の底面にネジ孔を設け、ベース部材90設けた貫通穴を介してボルトによって固定すればよい。
【0065】
また、図9のような固定方式を採用した場合、貫通孔が不要であるため、側壁80の全幅Wを小さくすることができる。したがって、この全幅Wを、図5Bの最大厚部33の長さLに等しいかまたは小さくすれば、狭い空隙8を設けるだけで(図5BのLの部分だけを設ける)、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。全幅Wを処理対象の最小寸法の50倍以下とすることが好ましい。
【0066】
(8)上記実施形態では、部材を積層して側壁80を形成するようにしている。しかし、図10に示すように、シート状のスリット部材110によって側壁80を形成するようにしてもよい。
【0067】
スリット部材110は、カバー部材70、底面部材60に設けられたホルダ120に上下を挟み込まれて保持される。ベース部材90、底面部材60、カバー部材70は、底面部材60とカバー部材70の間に挟み込まれた円筒スペーサ75とともに、ボルト112、ナット114によって固定される。
【0068】
図11に、スリット部材110の部分的な詳細を示す。図11Aが正面図、図11Bが底面図、図11Cが側面図である。スリット部材110は、近接して立設されたサポートロッド130に、断面がくさび状の線材132を固定して形成されている。隣接する線材132の頭部における間隔Dは、処理対象である部品20の最小寸法(縦横高さのうち最も小さい寸法)の30%〜80%(好ましくは40%〜60%)とする。
【0069】
使用時には、線材132の頭部(最も幅が広い部分)が、処理槽2の内側に向くように取り付ける。これにより、部品20を処理槽2に留めつつ、めっき液16を排水することができる。また、くさび状の線材132を用いているので、排水抵抗を低くすることができる。なお、スリット部材110を導電性材料で形成することにより、カソードを兼ねることができる。
【0070】
スリット部材110としては、真鍋工業株式会社のファインウェッジ(商標)を用いることができる。
【0071】
(9)上記実施形態では、側壁80の空隙8のみから排水を行うようにしている。しかし、図12に示すように、排水時のみ回転数を大きくして(あるいは、排水時のみカバー部材70を低くするようにして)、めっき液16の水面をカバー部材70より上に来るようにして、排水を行うようにしてもよい。側壁80の空隙8からの排水と併用することで、排水速度を速くすることができる。なお、この際、カバー部材70の形状を、部品20が上部から排出されることなく、めっき液16のみが排出されるような形状とすることが好ましい。
【0072】
(10)上記実施形態では、外側において大きくなる空隙8を設けるようにしている。しかし、当該空隙8の一部または全部に多孔質部材を充填するようにしてもよい。多孔質部材の穴を処理対象の最小寸法よりも小さくしておけば、空隙8の大きさは処理対象の最小寸法よりも大きくすることができる。この場合、少なくとも、処理対象が当接する内側に多孔質部材を設けることが好ましい。
【0073】
(11)上記実施形態では、表面処理装置について説明を行った。しかし、表面処理以外の処理(内部処理など)についても適用することができる。
【実施例】
【0074】
従来の構造と本発明の構造による排水速度の比較実験を行った。図13Bに示すようにスリットリング30に凹部を設けない従来の構造と、図13Aに示すようにスリットリング30に凹部32(0.5mm)を設けた本発明による構造とにおける、排水速度の比較実験を行った。
【0075】
底面部材60の直径を280mm、カソードリング50の厚さを5mm、空隙8を0.05mm、スリットリング30の幅LLを30mm、最大厚部33の幅Lを3.0mmとした。実験は、2.2Lの水を処理槽2に満たし、回転数405rpmにて処理槽2を回転させて排水速度を計測した。
【0076】
図14Aに計測された排水速度を示す。従来構造のものに比べて、約15倍もの排水速度が得られた。
【0077】
また、図15Aに示すように本発明に係るスリットリング30を下側のみに設けた場合、図15Bに示すように上側に2つ、下側に1つ設けた場合についても実験を行った。
【0078】
図14Bに計測された排水速度を示す。下側のみに設けた場合であっても、従来構造に比べると12倍程度の排水速度が得られている。上下にそれぞれ1つずつの場合と、上側に2つ下側に1つの場合とでは、ほとんど変化がなかった。
図1
図2
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図5
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