特許第6878433号(P6878433)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6878433ジストロフィンエクソン53スキッピングのための効果的な遺伝子治療ツール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6878433
(24)【登録日】2021年5月6日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】ジストロフィンエクソン53スキッピングのための効果的な遺伝子治療ツール
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20210517BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20210517BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20210517BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20210517BHJP
【FI】
   C12N15/864 100Z
   A61K31/7105ZNA
   A61K35/76
   A61P21/04
   A61K48/00
   C12N15/113 Z
【請求項の数】9
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2018-530093(P2018-530093)
(86)(22)【出願日】2016年12月9日
(65)【公表番号】特表2019-502376(P2019-502376A)
(43)【公表日】2019年1月31日
(86)【国際出願番号】FR2016053312
(87)【国際公開番号】WO2017098187
(87)【国際公開日】20170615
【審査請求日】2019年10月15日
(31)【優先権主張番号】1562036
(32)【優先日】2015年12月9日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フランス・ピエトリ−ルクセル
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルジニー・フランソワ
【審査官】 松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/100714(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/153240(WO,A1)
【文献】 特表2013−510561(JP,A)
【文献】 特表2008−509695(JP,A)
【文献】 Guiner C. L. et al., 'Forelimb treatment in a large cohort of dystrophic dogs supports delivery of a recombinant AAV for exon skipping in Duchenne patients.', Molecular Therapy, 2014, vol. 22, no. 11, pp 1923-1935
【文献】 Dickson G. et al., 'Optimised AAV-microdystrophin gene therapy in the GRMD dog model of Duchenne Muscular Dystrophy: Intravenous delivery, long-term expression, functional improvement and absence of adverse cellular immune reactions.' Molecular Therapy, 2014, vol. 22, Supplement 1, S89, Abstract#235
【文献】 Popplewell L. J. et al., 'Comparative analysis of antisense oligonucleotide sequences targeting exon 53 of the human DMD gene: Implications for future clinical trials.' Neuromuscular Disorders, 2010, vol. 20, no. 2, pp102-110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/864
A61K 31/7105
A61K 35/76
A61K 48/00
A61P 21/04
C12N 15/113
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストロフィンのプレメッセンジャーRNAのエクソン53の+30から+69の領域の全体に対して向けられたアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)をコードする配列を含む、組換えアデノ随伴ウイルスベクター(AAVr)であって、前記配列が配列番号3の配列から成る、AAVrベクター
【請求項2】
前記AONをコードする配列が、改変snRNAをコードする配列に挿入されることを特徴とする、請求項1に記載のAAVrベクター
【請求項3】
前記改変snRNAが、有利にはマウス由来であるタイプU7のもの(U7snRNA)であることを特徴とする、請求項に記載のAAVrベクター。
【請求項4】
配列番号2の配列を含むことを特徴とする、請求項に記載のAAVrベクター。
【請求項5】
AAV2/1、AAV2、AAV2/6、AAV2/8、AAV2/9、AAV2/10、AAV8、及びAAV9から成る群から選択され、有利にはAAV2/8ベクターであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のAAVrベクター。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のAAVrベクターを含む医薬組成物。
【請求項7】
医薬品としての使用のための、請求項1から5のいずれか一項に記載のAAVrベクター。
【請求項8】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の処置における使用のための、請求項1から5のいずれか一項に記載のAAVrベクター又は請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
Δ52、Δ45-52、Δ48-52、及びΔ50-52の型のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の処置における使用のための、請求項1から5のいずれか一項に記載のAAVrベクター又は請求項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋ジストロフィー疾患、例えばデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療において特に良好に機能する遺伝子治療ツールに関する。
【0002】
これは、ジストロフィン遺伝子のエクソン53をスキップすることを可能にする、組換えアデノ随伴ウイルスベクター(AAVr)により運搬され、有利には改変snRNAと会合した、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)の慎重な選択に基づくものである。
【背景技術】
【0003】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、最も頻繁に起こる変性進行性筋疾患である。これは、X染色体により保持される遺伝子疾患であり、およそ5000人に1人の男児が罹患する。ジストロフィン遺伝子の変異又は欠失に起因するものである。ジストロフィンの非発現又は高度に異常なジストロフィンの発現により、筋線維の脆弱性が生じ、それにより筋組織の破壊の加速がもたらされる。機能的ジストロフィン欠損は、線維の変性、炎症、壊死、及び筋肉の脂肪組織との置換をもたらし、それにより進行性の筋力低下、及び呼吸不全又は心不全に起因する10代から30代の間の早期死亡をもたらす(Moser, H., Hum Genet, 1984. 66(1): 17-40)。
【0004】
dmd遺伝子(2.7 Mb)は、ジストロフィンタンパク質をコードするものであるが、79のエクソンから成っており、X染色体の座位21.2に位置している。ジストロフィンは、24の「スペクトリン様」反復ドメインから成る中央領域を有する調節タンパク質である。
【0005】
ジストロフィン遺伝子の深刻な変異の大部分は、最終的なメッセンジャーのリーディングフレームを破壊するエクソンの欠失、遺伝子の一部分の重複、又は、リーディングフェーズ(reading phase)においてストップコドン若しくはシフトを導入する、コード領域(又はエクソン)に存在する点変異の1以上から成っている。
【0006】
しかしながら、短縮形態のジストロフィン、特に特定の反復配列が無いものは、完全に機能的であるか、又は、例えばベッカー型筋ジストロフィー(BMD)と呼ばれる、減弱された形態の疾患のように、少なくとも一部にのみ欠陥があることが知られている。
【0007】
この観察結果から始まり、また欠損遺伝子のインタクトなコピーを提供する従来の遺伝子療法(これはジストロフィンをコードするもののサイズの観点から問題があった)の代替として、機能不全のジストロフィンを「回復(修復)する」ことを試みるために様々な戦略が考えられてきた。
【0008】
したがって、エクソンスキッピングは、リーディングフレームを回復するために、マスクしようとするエクソンのスプライシングに関与する配列に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を投与する工程から成る治療的アプローチである。特に、反復配列の領域で起こるエクソンスキッピングにより、天然のタンパク質よりも短いが、それでも機能的であるジストロフィンタンパク質を得ることができる。
【0009】
実際には、エクソン53をスキップすることが、それによりリーディングフレームを回復させることができる全ての場合において有益であることが明らかになる可能性がある。これは、理論的には、ジストロフィン遺伝子に存在し得る多数の変異、特に、エクソン52(Δ52)、エクソン50〜52(Δ50-52)、エクソン49〜52(Δ49-52)、エクソン48〜52(Δ48-52)、エクソン47〜52(Δ47-52)、エクソン45〜52(Δ45-52)、エクソン43〜52(Δ43-52)、エクソン42〜52(Δ42-52)、エクソン41〜52(Δ41-52)、エクソン40〜52(Δ40-52)、エクソン39〜52(Δ39-52)、エクソン38〜52(Δ38-52)、エクソン37〜52(Δ37-52)、エクソン36〜52(Δ36-52)、エクソン35〜52(Δ35-52)、エクソン34〜52(Δ34-52)、エクソン33〜52(Δ33-52)、エクソン32〜52(Δ32-52)、エクソン31〜52(Δ31-52)、エクソン30〜52(Δ30-52)、エクソン29〜52(Δ29-52)、エクソン28〜52(Δ28-52)、エクソン27〜52(Δ27-52)、エクソン26〜52(Δ26-52)、エクソン25〜52(Δ25-52)、エクソン24〜52(Δ24-52)、エクソン23〜52(Δ23-52)、エクソン21〜52(Δ21-52)、及びエクソン10〜52(Δ10-52)の欠失、又はエクソン53の重複を標的とする。
【0010】
したがって、この戦略によって、特に、異なる特定された種類のDMD、特に、エクソン52(Δ52)、エクソン50〜52(Δ50-52)、エクソン49〜52(Δ49-52)、エクソン48〜52(Δ48-52)、エクソン47〜52(Δ47-52)、エクソン46〜52(Δ46-52)、エクソン45〜52(Δ45-52)、エクソン43〜52(Δ43-52)、及びエクソン10〜52(Δ10-52)の欠失、又はエクソン53の重複に関連するものを処置することを考慮することができる。
【0011】
この技術の課題の一つは、アンチセンスオリゴヌクレオチドを病気の筋線維に安定して持続的に導入することから成る。
【0012】
前記AONを直接、ネイキッドな(裸の)形態で注入することが考えられてきた。しかしながら、筋肉内でこれらのオリゴヌクレオチドが有する短い寿命の観点から、この処置様式は、定期的な、比較的制限のある注入を必要とする。開発により、これらのオリゴヌクレオチドを化学的に修飾してきた(モルホリノ、2'Oメチル、イノシン誘導体等)。このアプローチにより、これらをインビボで効果的に安定化することができ、したがって効率及び注入の間隔を改善することができる。しかしながら、高用量では、この種類のオリゴヌクレオチドは毒性である可能性がある。
【0013】
その代わりに、これらの配列をインサイチュで、発現ベクターを介して発現させる試みが行われてきており、それにより、これらを標的細胞に運搬することができる。アデノ随伴組換えウイルスベクター(又はAAVr)は、筋肉への形質導入に特に適していることが明らかになっている。これらのベクターにより、AONをコードする配列を保持する発現カセットのインビボ移入が可能になり、AONのインビボでの継続的な合成がもたらされる。したがって、これらのベクターの注入には、長期にわたってタンパク質の発現を回復させることができるという利点がある。例として、Le Guiner et al.(Molecular Therapy, 2014, 22(11)1923-35)は、ジストロフィーの犬における局所領域投与後3.5ヶ月後でさえも、組換えAAV8と組み合わせたエクソンスキッピングの顕著な効率性を報告している。
【0014】
この状況において、アンチセンス配列が挿入された、これらのベクターにおけるsnRNA(「スモールヌクレオチドRNA」)に由来する配列の使用により、インビボでのAONの劣化を制限することができ、長時間にわたる処置の効率をよりいっそう向上させた。この戦略は、WO 2006/021724に特に記述されており、この出願はジストロフィン遺伝子を標的とするAONの輸送へのU7型snRNA(U7snRNA)の使用を報告している。
【0015】
snRNAは、その特徴のために、AON配列の安定な核の発現のための、高性能のツールとなる。事実、対応する遺伝子は小さく、核レベルで安定且つ継続的に発現され、転写の初期段階(pre-mRNA)を標的とする。実際には、またU7snRNAに関連して、これには、AON配列の、snRNAにおけるSmタンパク質の結合部位への挿入であって、snRNAがヒストンのプレメッセンジャーRNAをもはや標的とせず、目的の標的遺伝子のエクソンを標的とし、それによりスプライシングコンセンサス部位をブロックし、この遺伝子の成熟を修正するか又は改変するような、挿入が関与する。
【0016】
さらに、観察された治療的効果をさらに向上させるために、これらのsnRNA配列に、「エクソンスプライシングエンハンサー」と呼ばれる配列を加え、それによりスプライシングに関連する因子(特にhnRNPA1タンパク質、「ヘテロ核リボタンパク質A1」を表す)を結合させることが示唆されてきた(Goyenvalle et al., Mol Ther.; 17(7): 1234-1240, 2009)。
【0017】
AON、ひいてはベクターについてはこれらのAONをコードする配列の選択が、決定的であり、特に複雑であることがわかっているという事実が未だに存在する。実際、どの配列が有効であるかを予測することは困難である。標的とするエクソンに応じて、有効な配列は変わり、同一の部位に関連しないようである。この現象により、AON配列の選択が特に細心の注意を要する煩雑なものとなり、複雑なアルゴリズムまでも用いる(Echigoya et al., Plos One, March 27, 2015, DOI: 10.1371/journal.pone.0120058)。
【0018】
したがって、及びエクソン53に関して、標的とするエクソンの領域及び当該オリゴヌクレオチドのサイズが異なっている多数のアンチセンスが提唱されている。候補アンチセンス配列は、例えば以下の文献において提唱されている:WO2004/083446、WO2006/000057、US2010/0168212、WO2011/057350、WO2012/029986、WO2014/100714、US 2014/315977、Popelwell et al. (Mol Ther. 2009 Mar; 17(3):554-61; Neuromuscul Disord. 2010 Feb; 20(2):102-10)。ネイキッドな、又は場合により修飾されたオリゴヌクレオチドの形態で、場合により組合せで試験された、これらの配列の不定の有効性が、これらの文献に記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】WO2004/083446
【特許文献2】WO2006/000057
【特許文献3】US2010/0168212
【特許文献4】WO2011/057350
【特許文献5】WO2012/029986
【特許文献6】WO2014/100714
【特許文献7】US 2014/315977
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Mol Ther. 2009 Mar; 17(3):554-61; Neuromuscul Disord. 2010 Feb; 20(2):102-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
臨床的課題の観点から、ジストロフィンをコードするメッセンジャーRNAのエクソン53スキッピングを標的とする、すなわち前記エクソンの効果的なスキッピング及び、短縮されているが潜在的に機能性である、対応するタンパク質の高い発現レベルを可能にする、最適化されたツールを開発する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、ジストロフィンをコードするメッセンジャーRNAのエクソン53をスキップすることにより、短縮されているが少なくとも部分的には機能的であるタンパク質を得ることができる種類のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を処置又は改善することを目的とする。
【0023】
提案する解決法は、標的とするエクソンの領域及びサイズの両方に関して慎重に選択された、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)に基づく。対応する配列が、snRNA、好ましくはタイプU7で、有利にはSmタンパク質の結合部位において改変されているものを好ましくは含む、アデノ随伴組換えウイルスベクター(AAVr)から成る高性能発現系に導入される。
【0024】
そのようなベクター化されたアンチセンスオリゴヌクレオチドにより、出願人の知る限りそれまで達成されたことが無かった、エクソン53が無い転写産物の発現及び短縮されたジストロフィンの生産の両方に関する有効性を得ることができ、したがって非常に有望な臨床ツールがもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、盲検で試験した、筋芽細胞Δ45/52を異なるrAAV8ベクターを用いて形質導入した後の、ヒトジストロフィンメッセンジャーのエクソン53のスキッピングの評価を示す。解析は、エクソン44〜56の間のネステッドRT-PCRにより行った。Blc:PCR水対照;NT:形質導入されていない細胞。
図2図2は、盲検で試験した、筋芽細胞Δ52を異なるrAAV8ベクターを用いて形質導入した後の、ヒトジストロフィンメッセンジャーのエクソン53のスキッピングの評価を示す。解析は、エクソン51〜54の間のネステッドRT-PCRにより行った。Blc:PCR水対照;NT:形質導入されていない細胞。
図3図3は、盲検で試験した、筋芽細胞Δ45/52を異なるrAAV8ベクターを用いて形質導入した後の、RTqPCRによる、(総ジストロフィンのメッセンジャーレベルに基づいた)エクソン53が無いヒトジストロフィンのメッセンジャーの発現レベルの評価を示す。NT:形質導入されていない細胞。
図4図4は、DMD筋芽細胞Δ45-52におけるヒトジストロフィンのpre-mRNAのエクソン53のスキッピングを示す。A/ 筋芽細胞Δ45-52を、ベクターAAV2/8-U7-5901(01と表示)又は5902(02と表示)又は5903(03と表示)又は5907(07と表示)又は5912(12と表示)又は5894(94と表示)又は5899(99と表示)を用いて(材料と方法を参照)、300.10E+3のMOIで形質導入した。エクソン53をスキップすることに関してのこれらの有効性を、ネステッドRT-PCRにより評価した。ジストロフィンのmRNAの総量を、RT-PCR Dys3-9により評価し、ハウスキーピング遺伝子18Sの発現により、mRNAの存在を評価することができる。B/ 筋芽細胞Δ45-52を、ベクターAAV2/8-U7-5901又は5902又は5903又は5907又は5912又は5894又は5899を用いて(材料と方法を参照)、300.10E+3のMOIで形質導入した。マルチプレックスウエスタンブロットを用いて、ジストロフィン及びジスフェリンタンパク質を、健康な対象細胞(8220;1/5に希釈したタンパク質抽出物)及び非感染DMD Δ45-52細胞(Non Inf)で検出した。この図は、独立に行われた4つの実験を代表するものである。
図5図5は、DMD筋芽細胞Δ52におけるヒトジストロフィンのpre-mRNAのエクソン53のスキッピングを示す。A/ 筋芽細胞Δ45-52を、ベクターAAV2/8-U7-5901(01と表示)又は5902(02と表示)又は5903(03と表示)又は5907(07と表示)又は5912(12と表示)又は5894(94と表示)又は5899(99と表示)を用いて(材料と方法を参照)、300.10E+3のMOIで形質導入した。。エクソン53をスキップすることに関してのこれらの有効性を、ネステッドRT-PCRにより評価した。ジストロフィンのmRNAの総量を、RT-PCR Dys3-9により評価し、ハウスキーピング遺伝子18Sの発現により、mRNAの存在を評価することができる。B/ 筋芽細胞Δ52を、ベクターAAV2/8-U7-5901又は5902又は5903又は5907又は5912又は5894又は5899を用いて(材料と方法を参照)、300.10E+3のMOIで形質導入した。マルチプレックスウエスタンブロットを用いて、ジストロフィン及びジスフェリンタンパク質を、健康な対象細胞(8220;1/5に希釈したタンパク質抽出物)及び非感染DMD Δ52細胞(Ni)で検出した。この図は、独立に行われた4つの実験を代表するものである。
図6図6は、形質導入されたDMDヒト線維筋芽細胞において、ジストロフィンのエクソン53をスキップすることに関してのJR53の有効性を示す。A、左から右:分子量マーカー;健康な対照筋芽細胞(hM);線維筋芽細胞(hFM);不適格なDMD線維筋芽細胞(FMstop16);3名のDMD患者、5-13889(FM13889 del49-52)、5-14211(FM14211 del52)、5-14476(FM14476 del45-52)の細胞であって、各患者について、4つの条件が伴うもの:線維芽細胞(FH)、ドキシサイクリンによって誘導されていない線維筋芽細胞(FM no)、ドキシサイクリンによって誘導された線維筋芽細胞(FM dox-)、ドキシサイクリンによって誘導され、JR53により処理された線維筋芽細胞(FM dox+);superscript酵素が無い(RT-)、又はRNAが無い(RTo)逆転写の陰性対照;分子量マーカー。B、Aと同一だが、DMD患者、DMD 5-14496(FM14496 del45-52)、5-14498(FM14498 del48-52)、5-14878(FM14878 del50-52)を用い、RTo対照が無いもの。C、左から右:分子量マーカー;健康な対照筋芽細胞(hM);線維筋芽細胞(hFM);不適格なDMD線維筋芽細胞(FMstop16);対照DMD線維芽細胞(FH)、ドキシサイクリンによって誘導された、4名のDMD患者、5-14499(FM14499 del50-52)、5-14589(FM14589 del50-52)、5-14683(FM14683 del48-52)、5-16283(FM16283 del45-52)の線維筋芽細胞であって、各々について、2つの条件が伴うもの:JR53で処理されていない(FM dox-)、JR53で処理されている(FM dox+);superscript酵素が無い(RT-)、又はRNAが無い(RTo)、逆転写の陰性対照;分子量マーカー。エクソン53無しの、予想されるサイズを有するRT-PCR産物を、矢印で示す。
図7図7は、ウエスタンブロットにより明らかにされる、形質導入されたヒトDMD線維筋芽細胞における、ジストロフィンタンパク質の発現を示す。ジストロフィン(上)及びカルネキシン(下)の発現の検出は、ウエスタンブロットにより行われた。A、左から右:健康な対照線維筋芽細胞(hFM);不適格なDMD線維筋芽細胞(FMstop16);ドキシサイクリンにより誘導されていないDMD線維筋芽細胞(FH);ドキシサイクリンにより誘導された、3名のDMD患者、5-13889(FM13889 del48-52)、14211(FM14211 del52)、5-14476(FM14476 del45-52)の線維筋芽細胞であって、各々、2つの条件下のもの:JR53で処理されていない(FM dox-)及びJR53で処理されている(FM dox+);健康な筋芽細胞(hM)。B:Aと同一だが、DMD患者、DMD 5-14878(FM14878 del45-52)、5-14496(FM14496 del50-52)、5-14498(FM14498 del48-52)を用いたもの。C:Aと同一だが、DMD患者、DMD 5-14499(FM14499 del50-52)、5-14589(FM14589 del50-52)、5-14683(FM14683 del48-52)、5-16283(FM16283 del45-52)を用いたもの。JR53の有効性は、各ロットのDMD線維筋芽細胞について、2回又は3回の実験において試験された。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(定義)
以下の定義は、本発明との関連において一般的に用いられる意味に対応し、他の定義が明示的に示されていない限りは、考慮されるべきである。
【0027】
本発明の意義の範囲内では、冠詞「a」及び「an」は、その冠詞の文法的主語の一つ以上(例えば、少なくとも一つの)単位を指すために用いられる。例として、「(an)要素」は、少なくとも一つの要素、すなわち一つ以上の要素を指す。
【0028】
量、持続期間、及び他の類似の値等の測定可能な値に言及する際に用いられる用語「約」又は「およそ」は、特定された値の±20%又は±10%、好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、そして特に好ましくは±0.1%の不確実性を測定する包含するものとして理解されなければならない。
【0029】
区間:本明細書全体にわたり、発明の様々な特徴が、値の区間の形態で提示され得る。区間の形態での値の説明は、単に読解を容易にすることを意図するものであることが理解されなければならず、本発明の範囲の固定された限定として解釈されてはならない。結果として、値の区間の記述は、全ての可能な区間、及びこの区間内の値の各々を具体的に開示するものとして考慮されるべきである。例えば、1〜6という区間の記述は、それに含まれる区間の各々、例えば1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6等の区間、並びにこの区間内の値の各々、例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3、及び6を具体的に記述するものとして考慮されるべきである。この定義は、区間の範囲とは独立して有効である。
【0030】
用語「単離された」は、本発明との関連において、その天然の環境又は状態から取り出された、又は取り除かれたと同義であると理解されなければならない。例えば、単離された核酸又はペプチドは、例えば、それが植物に関連するものであっても生きている動物に関連するものであっても、それが典型的に見出される天然の環境から取り出してきた核酸又はペプチドである。したがって、生きている動物に天然に存在する核酸又はペプチドは、本発明の意義の範囲内では単離された核酸又はペプチドではないが、一方でその天然の状況に存在する他の要素から部分的に又は完全に分離された、同じ核酸又はペプチドは、今度は、本発明の意義の範囲内では「単離されている」。単離された核酸又はペプチドは、実質的に純粋な形態で存在してもよいし、又は非天然(外来)の環境、例えば宿主細胞中に存在していてもよい。
【0031】
本発明との関連において、最も一般的な核酸塩基について以下の略称が用いられる。「A」は、アデノシンを指し、「C」は、シトシンを指し、「G」は、グアノシンを指し、「Tは、チミジンを指し、そして「U」は、ウリジンを指す。
【0032】
別段の指示がない限り、本発明の意義の範囲内で、「アミノ酸の配列をコードするヌクレオチドの配列」は、アミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列を指し、前記アミノ酸の配列を得ることを可能にする変性したヌクレオチド配列を含む。タンパク質又はRNA又はcDNAをコードするヌクレオチド配列は、場合によりイントロンを含んでいても良い。
【0033】
用語「をコードしている(“coding”又は“coding for”)」又は「をコードする(“code”又は“code for”)は、ポリヌクレオチド、例えば遺伝子、cDNA、又はmRNA中の、生物学的プロセスにおいて、規定された配列のヌクレオチド(例えばrRNA、tRNA、及びmRNA)又は規定された配列のアミノ酸のいずれかを有する他のポリマー及び巨大分子の合成の基質(母型)として機能する、特定の配列のヌクレオチドに固有の特性、並びにそこから生じる生物学的特性を指す。したがって、遺伝子は、この遺伝子に対応するmRNAの転写及び翻訳により、細胞又は別の生物学的系においてタンパク質が生成する場合、タンパク質をコードする。そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、通常配列表及びデータベースにおいて記述される、コード鎖、及び、遺伝子又はcDNAの転写の基質(母型)として用いられる、非コード鎖の両方を、タンパク質又はこの遺伝子若しくはcDNAの他の生産物をコードするものとして表示することができる。
【0034】
本発明との関連において用いられる用語「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチドの鎖として定義される。さらに、核酸はヌクレオチドポリマーである。したがって、本発明との関連において用いられる用語、核酸及びポリヌクレオチドは、互換可能である。分子生物学及び遺伝子工学の分野では、核酸がポリヌクレオチドであることは周知であり、これは加水分解されてモノマーになることができる。モノマー形態のヌクレオチドは、加水分解されてヌクレオシドになることができる。本発明との関連において用いられる場合、用語ポリヌクレオチドは、非限定的に、任意の種類の核酸分子を指す、すなわち、核酸分子は当該技術分野で利用可能な任意の手段により得ることができ、組換え手段、すなわち組換えライブラリ又は細胞のゲノムからの核酸の配列のクローニングによるもの、通常のクローニング技術、例えばPCRを用いることによるもの、又は合成によるものを含む。
【0035】
本発明との関連において、用語「オリゴヌクレオチド」はポリヌクレオチドを指し、そのサイズは、好ましくは100ヌクレオチド(又は塩基)を超えない、又は95、80、75、70、65、60、55さえも、若しくは50ヌクレオチド(又は塩基)さえも超えない。
【0036】
本発明の意義の範囲内で、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」は互換可能に用いられ、ペプチド結合により共有結合的に結合されているアミノ酸残基で構成される化合物を指す。定義によれば、タンパク質は、アミノ酸の最大数に関する制限無く、少なくとも2個のアミノ酸を含有する。ポリペプチドは、無差別的に複数のペプチド及び/又はタンパク質を含有し、こちらはペプチド結合により互いに連結された2個以上のアミノ酸を含む。本願明細書で用いられる場合、この用語は、当該技術分野において例えばペプチド、オリゴペプチド、及びオリゴマーとしても一般的に称される、短い鎖、並びに当該技術分野において通常タンパク質と称され、多くの種類が存在する、より長い鎖の両方を指す。「ポリペプチド」は、例えば生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドバリアント、改変ポリペプチド、誘導体、類似体(アナログ)、融合タンパク質をとりわけ含む。ポリペプチドは、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、又はこれらの組合せを含む。
【0037】
用語「同一の」又は「相同な」は、2個のポリペプチド間の、又は2個の核酸分子間の配列の類似性又は配列の同一性を指す。2つの比較される配列の各々における位置が、同一のアミノ酸モノマー、塩基、又はサブユニットにより占められている場合、(例えば、2つのDNA分子の各々における位置が、アデニンにより占められている場合)、その分子は、この位置について、相同である又は同一である。2つの配列間の同一性のパーセンテージは、2つの配列により共有される、対応する位置の数に依存し、この数を比較した位置の数で除し、100を乗じたものに相当する。例えば、2つの対にした配列において、10中6の位置が同一である場合、2つの配列は60%同一である。一般的な規則として、比較は、2つの配列を、最大の相同性/同一性を与えるようにアラインすることにより行われる。
【0038】
「ベクター」は、本発明の意義の範囲内では、単離された核酸を細胞の内部に送達するために用いることができる、単離された核酸を含む分子コンストラクトである。当該技術分野において多数のベクターが公知であり、直鎖上ポリヌクレオチド、イオン性又は両親媒性の化合物と会合したポリヌクレオチド、プラスミド、及びウイルスを含むが、これに限定されない。したがって、用語「ベクター」は、例えば、自律的複製を備えたプラスミド又はウイルスを指す。また、この用語は、核酸の細胞への移入を容易にする非プラスミド又は非ウイルス化合物、例えばポリリジン、リポソーム等の化合物を含むものとして解釈されなければならない。ウイルスベクターの例には、特に、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、及びレトロウイルスベクターが含まれる。
【0039】
用語「発現ベクター」は、組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指し、該組換えポリヌクレオチドは、発現されるヌクレオチド配列に作動可能に連結された発現調節配列を含む。発現ベクターは、特に、シス(cis)で機能する発現エレメントを含む;他の発現に関するエレメントが、宿主細胞により、又はインビトロ発現系により、与えられてもよい。本発明の意義の範囲内の発現ベクターには、当該技術分野において公知の全てのもの、例えば組換えポリヌクレオチドが組み込まれているコスミド、プラスミド(例えばネイキッドのもの又はリポソームに包含されるもの)、及びウイルス(例えばレンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)が含まれる。
【0040】
本願明細書で用いられる用語「プロモーター」は、ポリヌクレオチドの配列の特定の転写を開始するのに必要な、細胞の合成機構、又は導入される合成機構により認識されるDNA配列として定義される。
【0041】
本発明の意義の範囲内では、用語「プロモーター/レギュレーター配列」は、プロモーター/レギュレーター配列に作動可能に連結されているポリヌクレオチドの発現に必要な核酸配列を指す。ある場合は、この配列は、プロモーターの塩基配列であってもよく、他の場合は、この配列は、ポリヌクレオチドの発現に有用なアクティベーター配列及び他のレギュレーターエレメントも含んでもよい。プロモーター/レギュレーター配列は、例えば組織に特異的なポリヌクレオチドの発現を可能にする、すなわち、好ましくはその組織において生産される。
【0042】
本発明の意義の範囲内では、「構成的」プロモーターは、ポリヌクレオチドに作動可能に連結された場合、細胞の大部分又は全ての生理学的条件下でポリヌクレオチドの発現をもたらすヌクレオチド配列である。
【0043】
本発明の意義の範囲内では、「誘導性」プロモーターは、ポリヌクレオチドに作動可能に連結された場合、プロモーターのインデューサーが細胞に存在する場合にのみ、ポリヌクレオチドの発現をもたらすヌクレオチド配列である。
【0044】
「組織に特異的な」プロモーターは、ポリヌクレオチドに作動可能に連結された場合、細胞において、好ましくはその細胞がプロモーターに対応する種類の組織の細胞であるときに、ポリヌクレオチドの発現をもたらすヌクレオチド配列である。
【0045】
本発明の意義の範囲内において、用語「異常な」は、生物、組織、細胞、又はその成分に関して用いられる場合、少なくとも一つの観察可能な又は検出可能な特徴(例えば、年齢、処置、時刻等)において、いわゆる「正常な」生物、組織、細胞、又は成分において予想される特徴と異なる、これらの生物、組織、細胞、又はその成分を指す。
【0046】
用語「患者」、「対象(被験者)」、「個体」、及び類義語は、本発明との関連において、互換的に用いられ、動物、好ましくは哺乳類を指す。特定の非限定的な実施形態において、動物はヒトである。また、マウス、ラット、ブタ、イヌ、又は非ヒト霊長類(NHP)、例えばマカクであってもよい。
【0047】
本発明の意義の範囲内では、「疾患」又は「病理」は、動物の健康状態であって、後者(動物)の恒常性(ホメオスタシス)が変化しており、その疾患が処置されない場合には悪化し続ける、状態である。逆に、本発明の意義の範囲内において、「障害」は、動物がその恒常性を維持することはできるが、その動物の健康状態がその障害が無かった場合のものよりも好ましくない、健康状態である。処置無しでも、障害は必ずしも動物の健康状態の経時的な悪化を引き起こさない。
【0048】
本発明との関連において、疾患又は障害は、疾患又は障害の症状の重大さ、若しくは対象によりその症状が感知される頻度、又はその両方が低減される場合、「緩和される」か又は「改善される」。また、これには、疾患の進行の消失、すなわち健康状態の悪化の停止が含まれる。疾患又は障害は、疾患又は障害の症状の重大さ、若しくは患者によりその症状が感知される頻度、又はその両方が除去される場合、「治癒する」。
【0049】
本発明との関連において、「治療的」処置は、病理の症状を有する対象に、それらの症状を減少させるか又は除去する目的で、施される処置である。
【0050】
本発明との関連において、「疾患又は障害の処置」は、対象の疾患又は障害の少なくとも1つの症状の頻度又は重症度の低減を指す。
【0051】
本発明の意義の範囲内では、化合物の「有効量」は、その化合物が投与される対象にとって有益な効果を得るために十分な化合物の量である。表現「治療有効量」は、疾患又は障害を予防する又は処置するために(換言すれば、発現を遅延又は防止する、発達を防止する、阻害する、低減する、又は回復させるために)十分な量を指し、この疾患又は障害の症状を和らげるためのものを含む。
【0052】
(発明の詳細な説明)
第一の態様によれば、本発明は、ジストロフィンのプレメッセンジャーRNA(pre-mRNA)のエクソン53の+30から+69の領域の少なくとも33塩基のセグメントに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)をコードする配列を含むアデノ随伴組換えウイルスベクター(AAVr)に関する。
【0053】
本発明との関連において、また以下に概要を示すとおり、用語「に対する」、「を標的とする(標的化する)」、「とハイブリダイズする」、及び「に相補的である」は、同等に用いられる。
【0054】
本発明に係るAAVrベクターは、典型的には2つの成分を含む:
・パッケージ化された組換え核酸配列、「AAVrのゲノム」とも呼ばれる。この組換え核酸配列は、AONをコードする配列を含み、このAONが、目下のケースでは、標的細胞/組織において発現されると、ジストロフィンのpre-mRNAのエクソン53のスキッピングという治療的効果を生み出す;
・遺伝子の移行及び一定の組織指向性を可能にするウイルスカプシド。
【0055】
本発明によれば、AAVrベクターのゲノムは、したがって、アンチセンスオリゴヌクレオチド、又はAONをコードする配列を含む。この配列は、有利には、DNAの形態をとり、標的pre-mRNA、目下のケースでは、ジストロフィンのpre-mRNAのエクソン53とハイブリダイズすることができるAONの発現を可能にする。
【0056】
特徴的に、本発明によれば、アンチセンスオリゴヌクレオチドにより、ジストロフィンのメッセンジャーRNAのエクソン53をスキップすることができる。本願発明に係るAONを用いたエクソン53のスキッピングは、ジストロフィンのプレメッセンジャーRNAのスプライシング段階において行われることが理解されなければならない。当該技術分野において公知の様式で、選択されたAONは、スプライシングに関与する領域を標的とし、これにハイブリダイズする。そのようなAONの存在下では、AONによって「マスクされた」スプライシング部位は、標的とされたエクソンが結果として生じるメッセンジャーRNAにインテグレートされないように、細胞機構によって認識されず、したがって「スキップされる」。
【0057】
本発明との関連において「ジストロフィンプレメッセンジャーRNA」又は「ジストロフィンpre-mRNA」は、スプライシング工程の前に得られる、ジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子の転写産物を指す。
【0058】
本発明は、ジストロフィンをコードする任意の遺伝子、又はそのような遺伝子を含む任意の生物であって、エクソン53のスキッピング、すなわち、比較的短いが少なくとも部分的には機能的であるタンパク質の生産が有益である可能性があるものを標的とする。一つの好ましい実施形態によれば、標的遺伝は、ジストロフィンのヒト遺伝子である。ジストロフィンのヒト遺伝子は、十分に裏付けられている:2.7 Mbのサイズを有し、79個のエクソンを含有する。その完全な配列は、データベースにおいて、例えばNCBIデータベースにおいて参照Gene ID: 1756、又はEnsemblデータベースにおいて参照ENSG00000198947で、入手可能である。
【0059】
有利には、また本発明との関連において、「ジストロフィンプレメッセンジャーRNA」は、ヒト由来のジストロフィンのpre-mRNA、換言すればヒトジストロフィンのpre-mRNAを指す。
【0060】
ヒトジストロフィンのpre-mRNAの配列は、周知であり、特に、遺伝子全体に関して上に示した参考文献を用いて、入手可能である。
【0061】
より具体的には、本発明は、ヒトジストロフィンのpre-mRNAのエクソン53を標的とする。公知の様式において、後者は、212の塩基又はヌクレオチドから成り、以下の配列番号1の配列を有する:
ttgaaagaat tcagaatcag tgggatgaag tacaagaaca ccttcagaac cggaggcaac
agttgaatga aatgttaaag gattcaacac aatggctgga agctaaggaa gaagctgagc
aggtcttagg acaggccaga gccaagcttg agtcatggaa ggagggtccc tatacagtag
atgcaatcca aaagaaaatc acagaaacca ag
【0062】
本発明の意義の範囲内で、以下に記述される領域は、ジストロフィンのpre-mRNAのエクソン53の配列、すなわち配列番号1の配列に準拠したヌクレオチドの位置によって特定される。
【0063】
本明細書の残りの部分において、用いられる番号付けは、したがって、AONは必然的にかつ定義により、その標的の配列に相補的な配列を有するという理解のもと、配列番号1の配列に基づく。実際には、本発明のベクターに含まれる、AONをコードする配列は、例えば、ジストロフィンのpre-mRNAのエクソン53における標的領域の逆相補に相当する配列であってもよい。しかしながら、以下に概要を述べるとおり、標的領域の断片としかハイブリダイズしない、又はミスマッチが存在するにも関わらずこの領域とハイブリダイズするAONも、有効であることができる。したがって、本発明に係るAONをコードする配列は、本発明の意義の範囲内で定義される標的領域の相補配列と、又はこの標的領域の少なくとも一つのセグメントの相補配列と、少なくとも一定のパーセンテージの同一性を有する配列を含むか、又はこれから成ることが理解されなければならない。
【0064】
第一の特徴によれば、本発明に係るAONは、ジストロフィンpre-mRNAのエクソン53の+30から+69の領域、すなわち配列:
g tacaagaaca ccttcagaac cggaggcaac agttgaatg
を有する40塩基を伴う領域を標的とする。
【0065】
好ましくは、AONは、前記領域の少なくとも33塩基(又はヌクレオチド)のセグメントに対するものである。換言すれば、アンチセンスは、40ヌクレオチドから成るこの領域の少なくとも33の連続するヌクレオチドとハイブリダイズする。
【0066】
本発明の意義の範囲内で、オリゴヌクレオチド及び標的配列が、決定された中程度又は有利には高いストリンジェンシーで、二重鎖pre-mRNA分子を形成する場合に、オリゴヌクレオチドは標的配列とハイブリダイズしていると言われる。
【0067】
ストリンジェンシー条件は、従来、温度、イオン強度、及び反応媒体中の変性剤(例えばホルムアミド)の濃度等の実験的条件に依存する。これらの条件及びそれらの可能な変動は、当業者に周知である。高ストリンジェンシー条件の例には、特に、塩化ナトリウム(0.015 M)及びクエン酸ナトリウム(0.0015 M)を含む組成物を65〜68℃で用いて行われるハイブリダイゼーション及び洗浄操作が含まれる(Sambrook, Fritsch & Maniatis, Molecular Cloning. A Laboratory Manual, 2nd Ed, Cold Spring Harbor Laboratory, NY 1989を参照)。中程度ストリンジェンシー条件は、同一の組成物中だが、より低い、典型的には50〜65℃に含まれる温度で行われるハイブリダイゼーション及び洗浄操作に相当してもよい。
【0068】
換言すれば、オリゴヌクレオチドは、配列を標的化して2本の鎖のマッチングを可能にするのに十分な程に同一でなければならない。これは、2つの配列がひとたび同一になると与えられるが、1つ以上(特に2、3、4、又は5)の異なるヌクレオチドの存在下でも起こり、有利には、後者が配列内に位置する場合である。同一性に関しては、オリゴヌクレオチドは、有利には標的領域と少なくとも70%、75%、80%、85%、又はさらに90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またさらに有利には100%の同一性を有する。したがって、好ましくは、本発明に係るAONをコードする配列又は前記AONは、配列番号1の配列のヌクレオチドの+30から+69までの領域の相補的配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、又はさらに90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またさらに有利には100%の同一性を有する配列を含むか、又はそれから成る。
【0069】
一つの特定の実施形態によれば、AONは、配列番号1の配列のヌクレオチドの+30から+69までの領域の、33塩基より長い、すなわち34、35、36、37、38、39、又はさらに40塩基を有するセグメントに対するものである。一つの好ましい実施形態によれば、オリゴヌクレオチドは、配列番号1の配列の+30から+69の領域全体にハイブリダイズする。用語「ハイブリダイズする」は、上に規定したものとして理解される、すなわち、オリゴヌクレオチドと標的領域との間の完璧な同一性のケースを含むが、1以上のミスマッチが存在するケースも含む。したがって、好ましくは、本発明に係るAONをコードする配列は、配列番号1の配列の+30から+69までの領域の相補配列、又は配列番号1の配列のヌクレオチドの+30から+69までの領域の33塩基より多い、すなわち34、35、36、37、38、39、又はさらには40塩基を有するセグメントの相補配列を含むか、又はこれらから成る。したがって、好ましくは、本発明に係るAONをコードする配列又は前記AONは、標的領域の相補配列と、又は配列番号1の配列のヌクレオチドの+30から+69までの領域の33塩基より多い、すなわち34、35、36、37、38、39、又はさらには40塩基を有するセグメントの相補配列と、少なくとも70%、75%、80%、85%、又はさらには90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、さらにより有利には100%の同一性を有する配列を含むか、又はこれらから成る。
【0070】
別の実施形態によれば、AON標的領域のいずれかの側に延長している領域に対するものとすることができる。したがって、前記配列によりコードされるAONは、そのようなAONが、配列番号1の配列のヌクレオチドの+30から+69までの領域の33塩基よりも多いセグメントに対するAONについて観察されるもの、又はさらには配列番号1の配列のヌクレオチドの+30から+69までの領域に対するAONのものと少なくとも同等に、エクソン53をスキップするという点に関して、有効性を有するという有利な条件において、エクソン53の+30から+69の領域を超えて5'及び/又は3'に延長した領域とハイブリダイズすることができる。
【0071】
本発明によれば、目的のアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする配列のサイズは、少なくともエクソン53において標的にされるセグメントのサイズ、すなわち少なくとも33ヌクレオチドと等しい。
【0072】
標的にされるセグメントが比較的大きいサイズ、特に34〜40ヌクレオチドで変動し得るものを有する場合、本発明に係るAONをコードする配列は、少なくとも等しいサイズ、すなわち少なくとも34、35、36、37、38、39、又はさらには40塩基を有する。一つの特定の実施形態によれば、本発明に係るAONをコードする配列は、34塩基、好ましくは35、又はさらには36、37、38、又は39塩基から成る。一つの好ましい実施形態によれば、本発明に係るAONをコードする配列は、40ヌクレオチドから成る。
【0073】
別の特定の実施形態によれば、実行されるAONをコードする配列は、本発明との関連において、70塩基未満、又はさらには65、60、55、50、若しくはさらには45、44、43、42、若しくは41塩基以下のサイズを有する。
【0074】
一つの特定の実施形態によれば、本発明のAAVrに含まれる、アンチセンスヌクレオチドをコードする配列は、列番号3又は配列番号4、有利には配列番号3の配列を含むか又はこれから成る。
【0075】
より具体的には、
・配列番号3の配列(実施例において「JR53」又は「5902」として言及されるもの)は、ジストロフィンのpre-mRNAのエクソン53の+30/+69領域を標的とするAONをコードする40ヌクレオチドの配列に対応する;
・配列番号4の配列(実施例において、「N3」又は「5901」として言及されるもの)は、ジストロフィンのpre-mRNAのエクソン53の+33/+65領域を標的とするAONをコードする33ヌクレオチドの配列に対応する。
【0076】
有利な一実施形態によれば、前記オリゴヌクレオチドは、ジストロフィンの遺伝子のエクソン53の+30から+69の領域全体に対するものである。結果として、一つの特定の実施形態によれば、本発明のAAVrに含まれるAONをコードする配列は、40塩基のサイズを有し、配列番号3の配列を有する。代替的に、それは、配列番号3の配列を含む。
【0077】
特徴的に、本発明によれば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、又はAONをコードする配列は、AAVrベクターにより保持される又は運搬される。換言すればアンチセンスオリゴヌクレオチド、又はAONをコードする配列は、AAVrゲノムに含有される又は含まれる。
【0078】
組換えアデノ随伴ウイルスベクター(AAVr)は、今や、多数の疾患を処置すると考えられる遺伝子を移行するための高性能のツールとして認識されている。AAVrベクターは、それらを遺伝子治療に適したものにする一定の数の特徴、特に、病原性が無いこと、適度な免疫原性力、及び有糸分裂後の細胞及び組織を安定的且つ効果的に形質導入する能力を有する。AAVrベクターにより運搬される特定の遺伝子の発現を、AAVの血清型、プロモーター、及び投与様式を適切に選択することにより、1以上の細胞型においてさらに標的化することができる。
【0079】
また、AAVrは、AAVウイルスの遺伝子操作による改変に由来してもよい。100以上の天然のAAVの血清型が現在公知である。多数の天然のバリアントが、AAVのカプシドに存在しており、それにより、筋ジストロフィーに特に適した特性を有する特定のAAVrを生産及び使用することができるようになっている。AAVrベクターは、従来の分子生物学手法を用いて作製することができ、それにより、AAVウイルスを特定の核酸分子の細胞送達に最適化すること、免疫原性を最小化すること、効果的な分解のため及び核レベルでの輸送のために粒子の安定性及び寿命を調節することができる。上で述べたように、AAVrの使用は、細胞外DNAの送達の典型的な方法であるが、それはその非毒性、効率的なDNA移行、及び特定の用途への最適化の可能性に起因する。
【0080】
人または非ヒト霊長類から単離され、十分に特徴付けされているAAVの血清型の中で、ヒト血清型2は、遺伝子移行のためのAAVrベクターを製造するために用いられた最初のAAVである。AAVrベクター製造に一般的に用いられる他のAAV血清型には、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、及びAAV12が含まれる。
【0081】
AAVのウイルスゲノムは、約5000ヌクレオチドから成り、調節タンパク質及び複製タンパク質をコードする遺伝子(rep)及び構造タンパク質をコードする遺伝子(cap)を含む。ゲノムの複製及びそのパッケージングにcisで必要となる配列は、ゲノムの各端に見られる130〜145ヌクレオチドのセグメントに含まれる(ITR、逆位末端反復を表す)。
【0082】
これらのウイルスから、多数の組換えベクター及びキメラ(ハイブリッド)AAVrsを生産し使用することもできる。
【0083】
ベクターにおいてアセンブリに有用なAAVの断片には、capタンパク質、特にvp1、vp2、vp3、及び超可変領域、rep 78、rep 68、rep 52、及びrep 40を含むrepタンパク質、並びにこれらのタンパク質をコードする配列が含まれる。これらのフラグメントは、多種多様なベクター系及び宿主細胞に用いることができる。
【0084】
AAVr生産との関連において、これらの断片は、単独で、他のAAV血清型の配列及び断片と組み合わせて、他のAAVの要素と、又はAAV由来ではないウイルス配列と組み合わせて、使用することができる。本発明との関連において、適切なAAVrには、非天然カプシドタンパク質を含む改変AAVrが含まれるが、これに限定されない。そのような天然のカプシドは、任意の適切な手法を用いて、選択されたAAV配列(例えば、vp1カプシドタンパク質の断片)を、異なる選択されたAAV血清型、同じAAV血清型の不連続部分、非AAVウイルス源又は非ウイルス源から得ることができる異種の配列と組み合わせて用いることにより、作製することができる。人工AAV血清型は、これに限定されないが、キメラAAVカプシド、組換えAAVカプシド、又は「ヒト化」AAVカプシドであってよい。そのようなAAV、又は人工AAVの例には、AAV2/8(US 7,282,199)、AAV2/5(National Institutes of Healthから入手可能)、AAV2/9(WO 2005/033321)、AAV2/6(US 6,156,303)、及びAAVrh8 (WO 2003/042397)がとりわけ含まれる。一実施形態によれば、本発明の組成物及び方法において有用なベクターは、選択されたAAV血清型のカプシド、例えばAAV8カプシドをコードする配列、又はその断片を少なくとも含む。別の実施形態によれば、有用なベクターには、選択されたAAV血清型のrepタンパク質、例えばAAV8 repタンパク質をコードする配列、又はその断片を少なくとも含む。場合により、そのようなベクターは、AAVのcap及びrepタンパク質の両方を含む。rep及びcapの両方が存在するベクターにおいて、AAV rep及びcapタンパク質の配列は、同一のAAVに由来することができ、例えば全てAAV8由来である。代替的に、rep配列が、cap配列が由来するものとは異なるAAV血清型に由来する、ベクターを使用することができる。一実施形態において、rep及びcap配列は、別個の源から発現される(例えば別個のベクター、又は宿主細胞及びベクター)。別の実施形態において、これらのrep配列は、異なる血清型を有するAAVのcap配列と一致して融合されて、キメラAAVrベクター、例えばAAV2/8(US 7,282,199)を形成する。
【0085】
AAVから、ウイルスタンパク質をコードする遺伝子(rep及びcap)が欠失され、2つのITR反復配列のみが残った、組換えAAVゲノムを調製することができる。組換えベクターの生産には、これらの組換えゲノムを増殖させパッケージングさせる必要がある。この工程は、目的の組換えゲノムと、欠けているrep及びcapタンパク質(capタンパク質により、カプシドの形成が可能になる)をコードするプラスミドの両方を用いてトランスフェクトされた、培養中の細胞において行われることが最も多い。同一の又は異なる血清型由来の組換えゲノム並びにrep及びcap遺伝子を用いることができる。多数の組合せが、したがって可能である。
【0086】
血清型が同一の場合、ベクターに対応する血清型のみが表示される。血清型が異なる場合、いわゆるハイブリッドAAVrベクターが得られ、用いられた血清型が表示される。一例として、血清型2のAAVrベクターは、単一の血清型2に由来するものとして理解される。逆に、血清型2/8のAAVrベクターは、用いられた組換えゲノムが血清型2のAAVであり、一方で用いられたカプシドのタンパク質をコードする遺伝子が血清型8のAAVのものに相当する、ベクターである。
【0087】
AAVウイルスのカプシド、及び結果としてAAVrベクターが、一般的に、特定の細胞又は組織指向性に関連していることが示されてきた。
【0088】
本発明によれば、実行されるAAVは、有利には、血清型2(AAV2)、8(AAV8)、又は9(AAV9)のAAVに基づく。適切な様式において、カプシドは、骨格筋、心筋、又は平滑筋に関わらず、有効な、又はさらには優先的な筋肉の形質導入を可能にするように選択される。したがって、及び好ましくは、実行されるAAVは、有利には、以下の群から選択されるAAVである:AAV2/1、AAV2、AAV2/6、AAV2/8、AAV2/9、AAV2/10。好ましい様式において、ベクターは、AAV8ベクター、さらにより有利にはAAV2/8ベクターである。
【0089】
本発明との関連において実行されるAAVrベクターに関して、AAVゲノムは、一本鎖の核酸、二本鎖の核酸、又は自己相補的な核酸であってもよい。
【0090】
AAVrベクターの生産は、当業者には周知であり、単純ヘルペスウイルス系による、HEK 293細胞の二重トランスフェクション又は三重トランスフェクションより、又はバキュロウイルス系を用いて、行うことができる。有利には、HEK 293細胞の二重又は三重トランスフェクションによって、又はバキュロウイルス系を用いて、粒子が得られる。
【0091】
一つの特定の実施形態によれば、本発明に係るベクターは、改変snRNAをコードする配列をさらに含有するか又は含む。より具体的には、本発明に係るアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)をコードする配列は、snRNAをコードする配列中に導入されるか又は挿入される。換言すれば、また好ましくは、本発明のベクターは、アンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする配列を含み、これが今度は改変snRNAをコードする配列に含まれる。この実施形態により、AONがインテグレートされた改変snRNAを含むオリゴヌクレオチドの発現が可能になる。既に述べたように、AONの改変snRNA中へのインテグレーションにより、得られるオリゴヌクレオチドの発現の安定化がもたらされ、さらにこれらのオリゴヌクレオチドの核での発現が可能になる。
【0092】
snRNA(「核内低分子(small nuclear)RNA」を表す)は、細胞の核に存在し、メッセンジャーpre-RNAの特定の成熟工程に関与する小型RNAである。これらは、U1、U2、U3…最大U13と呼ばれている。天然のsnRNAが、成熟をもたらすメッセンジャーpre-RNAの特定のアンチセンス領域を含むことは周知である。この配列により、標的メッセンジャーpre-RNAとのハイブリダイゼーションが可能となる。さらに、天然のsnRNAをコードする領域(すなわち、実際に転写される配列)は、特に、smと呼ばれるドメインを含み、これは、Smタンパク質(「核内低分子リボヌクレオタンパク質」を表す)の結合部位をコードしている。このドメインは、snRNAの、プレメッセンジャーRNAの成熟活性に必須である(Grimm et al. EMBO J., 1993, 12(3): 1229-1238)。天然snRNAをコードする領域は、snRNAと成熟させようとするpre-mRNAとの間の相互作用を安定化させ、それによりスプライシングを促進させることが示されている、ステムループ形態をコードする配列をさらに含む(Sharma et al., Genes Dev., 2014, 28(22): 2518-2531)。
【0093】
本発明との関連において、「改変snRNAをコードする配列」は、snRNAの初期機能に関与する配列が、有利には本発明に係るAONをコードする配列の挿入により不活性化されている及び/又は改変されている、snRNAの機能的遺伝子の天然配列の配列を有するオリゴヌクレオチドを指す。本発明の意義の範囲内において、「機能的遺伝子の天然配列」は、snRNA(すなわち、転写された配列)をコードする領域、並びに5'及び3'レギュレーター領域、及び特にsnRNAの天然のプロモーターを含む、内在性遺伝子の一部を指す。
【0094】
好ましくは、改変snRNAをコードする配列は、タイプU7のsnRNAをコードする。この実施形態によれば、Smタンパク質の結合部位の配列は、好ましくは本発明に係るAONをコードする配列の挿入により、ヒストンをコードするプレメッセンジャーRNAの成熟を不活性化させるように改変されている。
【0095】
タイプU7のsnRNAに関して説明したように、Smタンパク質の結合部位の配列は、snRNAの核内濃度を増加させるように、さらに改変されてもよく、例えば最適化した配列と、有利にはSchumperli及びPillaiにより記述されるsmOPT配列と(Cell. Mol. Life Sci. 60: 2560-2570, 2004)、置き換えてもよい。
【0096】
逆に、また所望のスプライシングを促進するために、ステムループ形態をコードする配列は、好ましくは天然である。換言すれば、有利には改変されていない。
【0097】
既に述べたように、本発明との関連において実行される改変snRNAは、好ましくはsnRNAにより標的とされるメッセンジャーpre-RNA、目下のケースでは、U7snRNAについてはヒストンのものを標的とする特定の天然アンチセンス配列を有さない。有利には、この配列は、目下のケースでは、ジストロフィンのpre-mRNAのエクソン53の+30〜+69塩基の間に含まれる領域を標的とする、目的のアンチセンスオリゴヌクレオチドと置き換えられる。
【0098】
本発明の意義の範囲内において、改変snRNAをコードする配列は、snRNAのプロモーターの天然配列を別のプロモーターの配列、例えば別の種類のsnRNAのプロモーターの配列と置き換えるように、さらに改変されてもよい。一例として、また本発明によれば、「タイプU7の改変snRNAをコードする配列」は、上述の改変を経ているが、snRNA U7の天然のプロモーターを含むタイプU7のsnRNAをコードする配列を指す。このプロモーターを、別のsnRNAのもの、例えばタイプU1、U2、若しくはU3のものと、又は本発明を実施するのに適切な任意の他のプロモーターと置き換えることができる。様々なsnRNAプロモーターが周知であり、特に、Hernadezにより記述されている(J Biol Chem.; 2001, 276(29):26733-6)。
【0099】
本発明との関連において、及び異なる種類のsnRNAの中で、通常はヒストンをコードするプレメッセンジャーRNAの成熟に関与する、タイプU7のもの(U7snRNA)が、好ましくは用いられる。
【0100】
この状況において、「キスドメイン」と呼ばれる特定のドメインが、snRNAにより保持されるアンチセンスオリゴヌクレオチドと融合される場合、snRNAのステムループ形態とハイブリダイズすることを可能にすることがさらに示されている。このハイブリダイゼーションにより、スプライシングに必要な分子機構との相互作用を改善する、改変snRNAの二次構造の改変がもたらされる。このドメインは、WO 2011/113889の出願に特に記述されており、その内容は本願の一部として考慮されなければならない。したがって、本発明に係る改変snRNAをコードする配列中に、この文書に記述した「キスドメイン」をコードする配列をインテグレートすることが可能である。
【0101】
実際には、これらの様々な改変を、snRNAをコードする配列中に、遺伝子操作における標準的な手法、例えばPCRによる変異誘発を用いて導入することができる。
【0102】
snRNA配列は、異なる種間で高度に保存されていることに留意すべきである。したがって、本発明に係るベクター中で用いられる、改変snRNAをコードする配列は、ヒト又はマウス由来とすることができる。好ましくは、本発明において用いられる改変snRNAをコードする配列は、マウス由来のものである。
【0103】
目的のAONをコードする配列が挿入されているsnRNAをコードする、本発明に係る典型的なコンストラクトは、有利には以下を含む:
・U7 snRNAをコードする遺伝子の非翻訳5'領域、特に、有利にはマウス由来の、プロモーターを含むもの、例えば配列番号2の配列のヌクレオチド1〜258により例示されるもの;
・ジストロフィンのpre-mRNAのエクソン53の+30から+69の領域に対するAONをコードする配列。一例として、配列番号2の配列のヌクレオチド259〜298が、そのような配列を例示しており、40塩基のオリゴヌクレオチドをコードし(実施例においてJR53と表示)、配列番号3の配列を有する。しかしながら、このアンチセンス配列は、例えば配列番号4の配列により置き換えられても良い;
・Smタンパク質の改変された結合配列、例えば配列番号2の配列のヌクレオチド299〜309に相当する、smOPT配列;
・配列番号2の配列のヌクレオチド310〜340に相当する、非改変で有利にはマウス由来の、ステムループ形態をコードする配列;
・有利にはマウス由来の、U7 snRNAの非翻訳3’領域、例えば配列番号2の配列のヌクレオチド341〜442により例示されるもの。
【0104】
好ましくは、目的のアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする配列は、Smタンパク質の改変された結合配列の上流、すなわちsmOPT配列の上流にインテグレートされる。
【0105】
有利にはタイプU7の、目的のアンチセンスオリゴヌクレオチドをインテグレートしている、上述の改変snRNAは、本発明の意義の範囲内で、例えば配列番号2の配列を有してもよい。
【0106】
他の配列を、上述のコンストラクトにインテグレートしてもよいことに留意すべきである。特に、他の配列を、目的のAONをコードする配列を保有する改変snRNA中に、有利には前記配列の上流又は下流に、インテグレートすることができる。エクソン53の別の領域に対する、又はジストロフィンの別のエクソンであって、そのスキッピングもまた目的のものであるエクソンのスキッピングを可能にする、目的の別のAONをコードする少なくとも1つの配列を挿入することを特に考慮してもよい。
【0107】
本発明との関連における目的のAONをコードする配列を保持する改変snRNAをコードする配列は、有利には、AAV、例えば血清型2のものの2つのITR配列の間に挿入される。対応するコンストラクトは、例えば配列番号10の配列に例示される。
【0108】
本発明との関連において考慮されるコンストラクトのサイズ、及びAAVパッケージング能力の観点から、他のコンストラクトを、本発明に係るAAVrベクターの2つのITR配列の間に挿入することを考慮することができることが考慮されるべきである:
・本発明に係るコンストラクトをコードする配列(目的のAONをコードする配列が導入されるsnRNA)、例えば配列番号2の配列の、1つ以上の追加のコピー(例えば1〜9、有利には1〜3)の導入;
・エクソン53の別の領域に対する、又はジストロフィンの別のエクソンであって、そのスキッピングもまた目的のものであるエクソンのスキッピングを可能にする、目的の別のAONをコードする少なくとも1つの配列を保持する改変snRNAをコードする1以上の他の配列の導入。
【0109】
換言すれば、またエクソンスキッピングを改善するために、本発明に係るAAVrベクターは、アンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする複数の配列を含んでもよい。種々の実施形態を考慮することができ、それらは互いに排他的でない。第一の実施形態によれば、AAVrベクターは、複数の改変snRNAを含み、これらのsnRNAの各々は、アンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする配列を含む。第二の実施形態によれば、AAVrベクターは、単一の改変snRNAを含み、これは1つ以上のアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする複数の配列を含む。この実施形態において、AAVrが、同一のアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする複数の配列及び/又は異なるアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする配列を含んでもよいことが理解される。
【0110】
本発明は、上述のAAVrベクターによって形質導入された、任意の種類の単離された細胞も包含する。これには、有利には筋肉細胞、特に筋線維(筋管)又は筋前駆体(筋芽細胞)等が含まれる。一つの特定の実施形態によれば、ヒト胚の破壊を必要とするヒト胚細胞は、範囲から除外される。
【0111】
前記ベクターにより形質導入された、単離された筋線維又は非ヒト生物も、保護を求める範囲に含まれる。非ヒト生物の中で、動物が好ましい。
【0112】
本願は、特許請求するベクターの潜在的治療用途を初めて記述する。本発明は、したがって、有効成分として、本願に規定する少なくとも1つのAAVrベクターを含む医薬組成物、並びに医薬品としてのこのベクターの使用にも関する。
【0113】
別の態様によれば、本発明は、上に規定するAAVrベクター及び潜在的に(場合により)同じ疾患又は別の疾患を専ら処置するための他の活性分子(他の遺伝子治療物、化学物質、ペプチド、タンパク質等)、を含む組成物、有利には医薬組成物又は薬剤に関する。
【0114】
したがって、本発明は、本発明に係る核酸、目下のケースでは、本発明に係るAAVrベクターを含む、医薬組成物を提供する。そのような組成物は、治療有効量の本発明に係るベクター及び医薬的に許容され且つ不活性な賦形剤を含む。一つの特定の実施形態によれば、表現「医薬的に許容される」は、連邦又は州の規制当局により承認されていることを、又は米国若しくは欧州薬局方、又は任意の他の薬局方に、ヒト及び動物について許容されるものとして掲載されていることを意味する。用語「賦形剤」又は「ビヒクル」は、治療剤と共に投与される、希釈剤、アジュバント、担体、又は支持体を指す。そのような医薬的賦形剤は、有利には無菌の、液体、例えば水及び油であり、石油、動物、植物、又は合成由来のもの、例えばラッカセイ油、ダイズ油、鉱物油、ゴマ油等を含む。水は、組成物が血管内投与される場合に、好ましい賦形剤である。生理食塩水、水性デキストロース、グリセリン溶液も、特に注射液の場合に、液体賦形剤として用いることができる。医薬的に許容される賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリン、タルク、塩化ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、水、エタノール等が含まれる。
【0115】
必要であれば、組成物は、微量の湿潤化若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含有することもできる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルション、遅延放出製剤等の形態をとってもよい。医薬的に許容される賦形剤の例は、例えば、E.W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記述されている、そのような組成物は、好ましくは純粋な形の、治療有効量の有効成分を、患者にとって適切な投与形態を得るために適切な量の賦形剤と共に含有する。
【0116】
一つの好ましい実施形態によれば、組成物は、ヒトにおける血管内投与に適した医薬組成物のための典型的な手順に従って製剤化される。従来、血管内投与のための組成物は、等張無菌水性緩衝液である。必要であれば、組成物は、可溶化剤及び注射部位の痛みを和らげるための局所麻酔、例えばリドカインも含有しても良い。
【0117】
一実施形態によれば、本発明の組成物は、ヒトにおける投与に適している。組成物は、好ましくは液体状であり、有利には生理食塩水組成物の形態であり、さらにより有利にはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)又は乳酸リンゲルタイプの溶液を含有する組成物の形態である。
【0118】
本発明に係る治療剤、目下のケースでは、組換えベクターの、ジストロフィー疾患を処置するために有効な量は、標準的な臨床プロトコルにより決定してもよい。さらに、インビトロ及び/又はインビボの試験を任意選択で行って最適な用量値の決定を手助けすることができる。組成物中で用いるべき正確な用量は、選択した投与経路、投与の頻度、患者の体重及び/又は年齢、疾患の重症度にも依存する可能性があり、各患者の特定の状況に照らして、医師により決定されなければならない。
【0119】
適切な投与方式は、治療有効量の有効成分を標的組織、特に骨格筋、及び場合により心臓及び横隔膜へ送達できるようにしなければならない。有効成分が組換えAAVベクターである本発明の特定の状況において、治療的用量は、患者1キログラム(kg)あたりに投与されるウイルス粒子の量(vg、「ウイルスゲノム」を表す)を単位として規定される。
【0120】
適切な様式の、適切な量により、以下が可能となる:
・ジストロフィン転写産物の少なくとも10%、又はさらには20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又はさらには100%についてのエクソン53のスキッピング。これは、当業者に公知の任意の手法を用いて、例えばRT-PCRにより、評価することができる;
・健康な生物において通常生産されるジストロフィンの少なくとも5%、又はさらには10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又はさらには100%を占める、短縮されたジストロフィン(少なくともエクソン53によりコードされる部分を欠いている)の生産、これは、当業者に公知の任意の手法を用いて、例えばウエスタンブロットにより、評価することができる。
【0121】
実際には、また特に全身投与の場合には、組成物は、有利には、1015 vg/kg、又はさらには1014 vg/kg以下の用量で投与される。用量は、1012 vg/kg〜1014 vg/kgの間に含まれてもよく、好ましくは2.1012 vg/kg〜5.1013 vg/kgの間に含まれてもよい。公知の様式において、特に毒性及び免疫応答の問題を回避するために、満足な結果を得ることを可能にしながら用量を可能な限り低くすることが推奨される。
【0122】
利用可能な投与経路は、局所(限局的)、経腸(全身作用だが、胃腸(GI)管を通して送達される)、又は非経口(全身作用だが、GI管以外の経路を通して送達される)である。本発明に係る組成物の好ましい投与経路は、非経口経路であり、筋肉内投与(筋肉における)及び全身投与(循環系における)が含まれる。この状況において、用語「注射(注入)」(又は灌流)は、血管内投与、特に静脈内(IV)、及び筋肉内(IM)を含む。注射は、通常シリンジ又はカテーテルを用いて行われる。
【0123】
一つの特定の実施形態によれば、組成物の全身送達には、処置部位、例えば弱くなった筋肉の静脈又は動脈での組成物の局所投与が含まれる。全身作用をもたらす局所投与を含むこの投与手法は、一般的に局所領域(loco-regional)投与と呼ばれ、筋肉病理を処置するのに特に適していることがわかっている。実際には、これには駆血帯の設置による圧力下での患者の肢(脚又は腕)での動脈又は静脈内投与が含まれてもよく、例えばZheng et al.(Mol. Therapy, 2012, 20(2): 456-461)、Toromanoff et al.(Mol. Therapy, 2008, 16(7): 1291-99)、及びArruda et al.(Blood, 2010, 115(23): 4678-88)に記述されている。
【0124】
局所領域投与の他に、一つの好ましい本発明に係る投与方式は、全身投与である。全身投与により、身体全体、特に心臓及び横隔膜を含む患者の全筋肉に到達することが可能となる。
【0125】
一つの好ましい実施形態によれば、全身投与は、組成物の血管への注入により、すなわち血管内投与(動脈内又は静脈内)を介して行われる。特に、組成物は、末梢静脈中に、注射により投与することができる。代替的に、全身投与は、筋肉内注射であってもよい。
【0126】
当業者に公知の様式において、全身投与は、以下の従来の条件下で行われる:
・1〜10 mL/分、有利には1〜5 mL/分に含まれる流量、例えば3 mL/分;
・患者1 kgあたり1〜10 mLに含まれる、好ましくは5 mLに等しい総注入量のベクター調製物。注入量は、好ましくは総血液量の10%より多くを占めてはならず、好ましくは約6%である。
【0127】
本発明に係る組成物の単回投与は、十分であると判明する可能性がある。しかしながら、異なる条件下での複数回の投与を考慮することができ、特に:
・同一ベクターの同一投与経路での反復投与;
・同一ベクターの異なる部位、特に異なる肢での投与;
・ベクターの血清型又は投与されるAONをコードする配列が異なっていても良い、異なる組換えベクターの投与。
【0128】
一実施形態によれば、本発明に係るAAVベクターの存在、及び関連する有益な治療的効果は、少なくとも1ヶ月間、又は3ヶ月間、又は6ヶ月間、又は1年間、又は2年間、又は5年間、又は10年間、又はさらには患者の生涯にわたって、観察される。
【0129】
既に述べたとおり、患者は、有利にはヒト、特に小児、ティーンエイジャー、又は若年成人である。しかしながら、本発明に係る治療ツールは、他の動物、特にブタ及びマウスの処置にも適しており、且つ有用である可能性がある。
【0130】
そのような薬剤は、特に、ジストロフィー疾患を処置することが意図される。本発明との関連において、ジストロフィー疾患は、ジストロフィン遺伝子の欠陥に関連する疾患を指す。より特定すると、それは、エクソン53をスキッピングすることにより、リーディングフレームを再構築し、確かに短縮されてはいるが機能的であるジストロフィンを生産することが可能になる、欠陥を伴う。本発明に関して、短縮されているが機能的であるジストロフィンは、天然のタンパク質よりも小さいサイズのタンパク質であって、特に、エクソン53にコードされる領域を含まないが、天然のタンパク質の機能の少なくとも一部を担うことができ、特に、天然のジストロフィンが存在しないことに関連する症状、例えば線維の変性、炎症、壊死、筋肉の瘢痕又は脂肪組織による置換、筋力低下、呼吸不全又は心不全、及び早期死亡を少なくとも部分的に緩和することができるものを指す。
【0131】
一つの特定の実施形態によれば、ジストロフィー疾患は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)である。
【0132】
DMDの型は、エクソン52(Δ52)、エクソン50〜52(Δ50-52)、エクソン49〜52(Δ49-52)、エクソン48〜52(Δ48-52)、エクソン47〜52(Δ47-52)、エクソン46〜52(Δ46-52)、エクソン45〜52(Δ45-52)、エクソン43〜52(Δ43-52)、及びエクソン10〜52(Δ10-52)の欠失に、又はエクソン53の重複に関連して、特に影響を受ける。本発明の関心は、Δ52及びΔ45-52、またΔ48-52及びΔ50-52に関して、さらに例示される。
【0133】
患者に存在するジストロフィン遺伝子の欠失の性質(種類)は、当業者により、例えばシーケンシング又はPCRによって、容易に決定することができる。
【0134】
DMDに侵された筋線維中のジストロフィンの回復について観察された顕著な効果を鑑みれば、本発明は、上述のAAVrベクター又はそれを含む組成物の、医薬品、有利にはジストロフィー疾患、特にDMD、特に上に列挙した型を処置することが意図されるものの製造のための使用にも関する。
【0135】
換言すれば、本発明は、ジストロフィー疾患、特に上に規定したものを処置するための方法を提供し、方法は対象にそのようなAAVベクター又はそれを含む組成物を投与する工程を含む。
【実施例】
【0136】
本発明及び生じる利益が、添付の図面により支持される、以下の実施例からより明らかになるであろう。特に、本発明は、本発明の意義の範囲内における目的のAONをコードする様々な配列及び改変されたマウスのタイプU7snRNAを含み、ジストロフィンのヒト遺伝子のエクソン52(Δ52)又はエクソン45-52(Δ45-52)の欠失を有する筋芽細胞において試験される、AAV 2/8ベクターに関して例示されている(実施例1)。本発明は、ヒト遺伝子のエクソン52(Δ52)、又はエクソン45-52(Δ45-52)、48-52(Δ48-52)、若しくは50-52(Δ50-52)の欠損を有する、筋変換された(myo-converted)患者の線維芽細胞(線維筋芽細胞)に対して試験された、特定のAON(JR53)をコードする配列、及びタイプU7の改変マウスsnRNAを含む、ジストロフィンAAV 2/8ベクターに関して、さらに例示される(実施例2)。これらは、しかしながら、決して限定するものではなく、これらの教示は、他のAAVベクター、他の改変snRNAs、及び他の変異からもたらされるデュシェンヌ疾患の対象にまで拡張され得る。
【0137】
「実施例1:筋芽細胞でのジストロフィンのエクソン53のスキッピングにおける、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)をコードする配列を含むベクターの有効性」
以下により詳しく記述する、組換えAAV8の有効性を、2つの並行した試験の状況において、盲検で試験した。
【0138】
第1の試験(I)は、定量的及び定性的観点から、エクソン53のスキッピング(ジストロフィンのmRNAに対するRT-PCRにより評価される)での種々のアンチセンス配列の有効性を比較することを目的とした。
【0139】
第2の試験(II)は、エクソン53のスキッピング(ジストロフィンのmRNAに対するRT-PCRにより評価される)での、及び生産されたジストロフィンタンパク質での、種々のアンチセンス配列の有効性を確認することを目的とした。
【0140】
(A. 材料と方法)
(1/ アンチセンス、ベクター、及びプラスミド)
以下の表1に特定されるアンチセンス配列を試験した:
【0141】
【表1】
【0142】
自身のプロモーターを含む最適化したマウスU7snRNA遺伝子における指向性(特異的)変異誘発により、これらをクローニングした。AON 5902(JR53)に関連する、対応するコンストラクトを、配列番号2の配列に示す。
【0143】
対応するコンストラクトは、発現プラスミド、例えばpFBDプラスミドに挿入されている。
【0144】
Ayuso et al. (Hum. Gen. Ther., 2014, Nov 25(11): 977-87)によって記述されているように、AAV2/8ベクターを作製するために用いられるプラスミドは:
・rep-2及びcap-8遺伝子、並びに補助遺伝子のE2b、E4、VARNAアデノウイルスを保持する、pDP10;及び
・対応するITR-2及び導入遺伝子を保持するベクタープラスミド(上述のコンストラクト)である。
【0145】
(2/ AAV2/8ベクターの生産)
AAV8ベクターを、5トレイのCell Stackにおける接着系において培養した、HEK293細胞(細胞性ゲノム中に、E1A及びE1B遺伝子を安定的にインテグレートしたもの)から作製した。10%ウシ胎児血清(体積/体積)並びにペニシリン及びストレプトマイシン(各抗生物質について1%体積/体積)を含むDMEM培地中で培養した細胞を、リン酸カルシウムを用いた沈殿手法を使用して、2つのプラスミド(補助プラスミド:rep-2及びcap-8遺伝子、及び補助遺伝子のE2b、E4、VARNAアデノウイルスを保持するpEP10、並びに対応するITR-2及び導入遺伝子を保持するベクタープラスミド)について、トランスフェクションした。
【0146】
トランスフェクション後、培地を無血清DMEM培地と交換した。AAVr粒子を72時間後に上清から採取し、40%ポリエチレングリコール+ベンゾナーゼ(benzonase)を用いて沈殿させた。次に粒子を2回の連続したCsCl勾配で精製した。CsClの混入は、dPBS 1X緩衝液に対する透析により除去した。次に粒子を低結合性チューブ中で-80℃で凍結させた(Ayuso et al., Hum. Gen. Ther., 2014, Nov 25(11): 977-87)。
【0147】
(3/ ベクターの力価測定)
ベクターの生成物を、DNaseで処理して、混入している遊離DNAを除去し、その後ウイルス核酸を抽出した。抽出後、核酸を希釈し、AAVウイルスゲノムのコピー数(AAV/ITRアンプリコン)を、線状化し標準化したプラスミド線を用いて、qPCRにより決定した。
【0148】
qPCRに関して、以下のプライマー及びプローブを用いた:
AAV18mers.R: GTAGATAAGTAGCATGGC (配列番号11)
AAV22mers.F: CTCCATCACTAGGGGTTCCTTG (配列番号12)
AAV_M G B.P: TAGTTAATGATTAACCC (配列番号13)
【0149】
(4/ 不死化筋芽細胞株)
2株のデュシェンヌ患者を用いたが、一方はジストロフィン遺伝子におけるエクソン45〜52(Δ45-52)の欠失に関連するものであり、他方は、エクソン52(Δ52)のものであった。健康な対象の筋芽細胞の第3の株は、対照の役割を果たした(8220)。
【0150】
(I/ 試験Iに関して実行されたプロトコル:)
(5/ AAV2/8による不死化筋芽細胞の形質導入)
細胞を、6ウェルプレートの1ウェルあたり190,000細胞で播種し、その後、増殖培地(骨格筋細胞基本培地+骨格筋細胞生育培地キット、Promocell Ref: C23160)中で培養した。約24時間後、細胞を、1e5及び5e5 vg/細胞のMOIで、目隠しをして(ブラインドで)改変した種々のU7snRNA組換えAAV2/8ベクター、並びに形質導入の有効性を検証するための、緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現を可能にするAAV2/8対照を用いて形質導入した。
【0151】
培養の3日後、細胞を採取し、細胞ペレットを-80℃で凍結乾燥した。ペレットを、次にDNA及びRNA精製に使用した。
【0152】
(6/ 細胞あたりのウイルスゲノムの数の評価)
AAVゲノムを、Gentra Puregeneキット(Qiagen)を用いて抽出した。
【0153】
ベクターDNAコピーの数を、TaqMan Real time PCR手順を用いて決定した。プライマー及びプリマ―を、(i)逆位末端反復(ITR)(ポイント3を参照)及び(ii)アルブミンの内在性遺伝子を増幅するように開発した。各サンプルについて、Ct値を、ITRとアルブミン遺伝子の両方を含む標準プラスミドの種々の希釈で得られたものと比較した。最終結果は、2倍体ゲノムあたりのウイルスゲノム(vg/dg、ウイルスゲノム/2倍体ゲノムを表す)として表した。
【0154】
Alb.F: GCTGTCATCTCTTGTGGGCTGT (配列番号14)
AIb.R: ACTCATGGGAGCTGCTGGTTC (配列番号15)
AlbVIC.P: CCTGTCATGCCCACACAAATCTCTCC (配列番号16)
【0155】
(7/ ネステッドRT-PCRによるエクソンスキッピングの評価)
乾燥細胞ペレットからのRNA抽出を、1 mLのTrizol Reagentによって、供給元の指示を使用して(Life Technologies、Ref 15596-026)行った。RNAを30 μLの滅菌水に回収し、その後ウイルスDNAによる典型的なRNA混入を除去するために、2回の連続的DNase工程により処理した(Ambion、Ref. AM1907)。逆転写反応に500 ngのRNAを使用した(Life Technologiesキット、Ref. 28025-013)。この工程の間に、ウイルスDNAの混入が存在しないことを検証するために、逆転写陰性対照を各サンプルについて行った。
【0156】
エクソンスキッピングを検出するために、Gotaq G2酵素(Promega、Ref.: M7805)を用いた第1のPCR(PCR1)を、1 μLの相補的DNA(cDNA)から、最終液量50 μL中で、各細胞型の適切なプライマーの対を用いて(以下のプライマーの一覧を参照)、25サイクル[95℃ 30秒間 − 50℃又は58℃ 1分間 − 72℃ 2分間]行い、その後、1 μLのPCR1を、合計で50 μLの液量中で、30サイクル[95℃ 30秒間 − 50℃又は58℃ 1分間 − 72℃ 2分間]、PCR1産物の内部の第2のプライマーの組を用いて、再増幅した(PCR2)。ネステッドPCR産物を、トリス-酢酸-EDTA緩衝液中、1.5%アガロースゲルでの電気泳動により解析した。エクソンスキッピングに対応するバンドを切り出し、Nucleospin Gel and PCR Clean-upキット(MACHEREY-NAGEL, Ref: 740609.250)を用いて、カラムを通して精製し、シーケンシングした。
【0157】
エクソン53スキッピングのためのプライマーの対は、以下のとおりであった:
DMD Δ52株用:
・PCR1: ex51 hDMD Fext及びex54 hDMD Rext、50℃で
・PCR2: ex51 hDMD Fint及びex54 hDMD Rint、50℃で
Δ45-52株用:
・PCR1 Dys43F/Dys57R、58℃で
・PCR2 Dys44F/Dys56R、58℃で
エクソン53スキッピングのためのプライマーの配列:
・ex51 hDMD Fext: GTTACTCTGGTGACACAACC (配列番号17)
・ex54 hDMD Rext: ATGTGGACTTTTCTGGTATC (配列番号18)
・ex51 hDMD Fint: ACTAGAAATGCCATCTTCCT (配列番号19)
・ex54 hDMD Rint: CAAGTCATTTGCCACATCTA (配列番号20)
・Dys43-F: CCTGTGGAAAGGGTGAAGC (配列番号21)
・Dys44-F: CGATTTGACAGATCTGTTGAG (配列番号22)
・Dys56-R: TGAGAGACTTTTTCCGAAGT (配列番号23)
・Dys57-R: AAGTTCCTGCAGAGAAAGGT (配列番号24)
【0158】
PCR2についての予想されるサイズは、以下の表2に表示される。
【0159】
【表2】
【0160】
(8/ Δ45-52株における定量的PCRによるエクソン53スキッピングの定量)
エクソン53のスキッピングを定量するために、2回のRTqPCRを行った。第1のものは、ジストロフィンについて、エクソン53をもはや含まない転写産物に特異的であった(エクソン44及び54の連結部のRTqPCR)。第2のものは、ジストロフィンの全ての転写産物を増幅することによって、正規化するために用いられた(エクソン4及び5の連結部のRTqPCR)。逆転写反応から生じたcDNAを希釈し、その後、Premix Ex Taqキットを使用し、Taqman技術を用いて、供給元の推奨に従って(Takara, Ref. RR390w)、0.3 μmol/Lの各プライマー、及び0.25 μmol/LのTaqmanプローブ(以下のプライマー及びプローブの一覧を参照)を用いて、40サイクル[95℃ 15秒間−57℃ 1分間]増幅した。RTqPCRの有効性を検証し、転写産物を定量するために、目的の配列を含有する参照プラスミドの希釈列を、プレート上にサンプルと並行して置いた。
【0161】
エクソン53を含まないジストロフィンRTqPCRには、以下のプライマー及びプローブが用いられる:
・hDys-44/54-F: CCTGAGAATTGGGAACATGCTAA (配列番号25)
・hDys-44/54-R: GCCACTGGCGGAGGTCTT (配列番号26)
・hDys-44/54-P: GGTATCTTAAGCAGTTGGC (配列番号27)=エクソン44と54との連結部にまたがるTaqmanプローブ
【0162】
総ジストロフィンRTqPCRには、以下のプライマー及びプローブが用いられる:
・hDys-4/5-F: CATGCCCTGAACAATGTCAACAAG (配列番号28)
・hDys-4/5-R: TCCATCTACGATGTCAGTACTTCCA (配列番号29)
・hDys-4/5-P: TTGCAGAACAATAATGTTGATTTA (配列番号30)=エクソン4と5との連結部にまたがるTaqmanプローブ
【0163】
(II/ 試験IIに関して実行されたプロトコル:)
(5/ AAV2/8による不死化筋芽細胞の形質導入)
細胞を、35 mmのウェルあたり100,000細胞で播種し、その後上述の増殖培地中で、80%コンフルエンスまで培養した。約24時間後、細胞を、種々の組換えAAV2/8ベクターを用いて、250,000 vg/細胞のMOIで、分化培地(血清を含まず、ゲンタマイシンを含むIMDM)中、37℃で感染させた。
【0164】
4時間〜6時間後、ゲンタマイシンを添加した250 μLのIMDMを加えた。分化培地中での9日間の培養後、35 mmウェルの1/10量の、培養培地のサンプルを取り出す。これを、次にRT-PCR解析のためのRNA精製に用いた。並行して、細胞を掻き取り、すすいで、1分間、11,000 g、又は5分間、1500 rpm、遠心分離した。ペレットを-80℃で凍結乾燥した。ペレットを、次にDNA精製及びウイルスゲノム定量のために使用した。
【0165】
(6/ 細胞あたりのウイルスゲノムの数の評価)
上記ポイントI-6を参照。
【0166】
(7/ ネステッドRT-PCRによるエクソンスキッピングの評価)
ネステッドRT-PCRを行うために、Nucleospin RNAIIキットを用い、カラムを通してRNAを抽出し、30 μLの水(DNase/RNaseフリー)に溶離させた。500 ngのRNAを、逆転写反応(Superscript II Life Technologiesキット、Ref. 18064-014)に用いた。
【0167】
エクソンスキッピングの検出のために、第1のPCRを、2 μLのcDNA、及び20 μLの総液量について、各細胞の種類に適切なプライマーの対(以下の一覧を参照)を用いて、30サイクル[95℃ 30" - 56℃ 1'- 72℃ 2']行い、その後、30 μLの総液量中、3 μLのPCR1を、25サイクル、PCR1産物の内部の第2のプライマーの対を用いて、増幅させた。18S及びPO RNA解析に関しては、1回のPCRしか行わなかった。ネステッドPCR産物を、トリス-酢酸-EDTA緩衝液中、1.8%アガロースゲルで、電気泳動により解析した。エクソンスキッピングに対応するバンドを切り出し、Nucleospin Gel and PCR Clean-upキット(MACHEREY-NAGEL, Ref: 740609.250)を用いて、カラムを通して精製し、シーケンシングした(GATCによって)。
【0168】
エクソン53スキッピングのために用いられたプライマーの対は以下のとおりであった:
対照筋芽細胞 wt (8220)及びDMD Δ52用:
・PCR1: Dys49F/Dys57R
・PCR2: Dys50F/Dys56R (ヒトジストロフィン)
筋芽細胞Δ45-52用:
・PCR1 Dys43F/Dys57R
・PCR2 Dys44F/Dys56R (ヒトジストロフィン)
エクソン53スキッピングのための5'->3’プライマーの配列:
・Dys43-F: CCTGTGGAAAGGGTGAAGC (配列番号21)
・Dys44-F: CGATTTGACAGATCTGTTGAG (配列番号22)
・Dys49-F: CAACCGGATGTGGAAGAGAT (配列番号31)
・Dys50-F: CTCTGAGTGGAAGGCGGTAA (配列番号32)
・Dys56-R: TGAGAGACTTTTTCCGAA-GT (配列番号23)
・Dys57-R: AAGTTCCTGCAGAGAAAG-GT (配列番号24)
18S、PO、及び総ヒトジストロフィンのための他のプライマーの配列:
・PO -F: GGCGAGCTGGAAGTGCAACT (配列番号33)
・PO-R: CCATCAGCACCACAGCCTTC (配列番号34)
・18S-F: TCAAGAACGAAAGTCGGAGGTTCG (配列番号35)
・18S-R: TTATGCTCAATCTCGGGTGGCTG (配列番号36)
・Dys3-F: GAGAACCTCTTCAGTGACCTAC (配列番号37)
・Dys9-R: GAGGTGGTGACATAAGCAGC (配列番号38)
【0169】
各細胞型について用いられたプライマー及び予想サイズは、以下の表3に示される。
【0170】
【表3】
【0171】
(8/ マルチプレックスウエスタンブロットによる、ジストロフィンの発現の回復の評価)
形質導入され9日間分化させた細胞(第5段落を参照)から、125 mMのスクロース、5 mMのトリス-HCl pH 6.4、6%のXT-Tricine移動(migration)緩衝液(Bio-Rad)、10%のSDS、10%のグリセロール、5%の13-メルカプトエタノール、及び抗タンパク質分解酵素を含有する緩衝液中で、タンパク質を抽出した。サンプルを5分間、95℃で変性させ、その後Compat-AbleTM Protein Assay preparation Reagent Setキット(Thermo Scientific Pierce)で前処理した。タンパク質の濃度を、BCA Protein Assay Kit(Thermo Scientific Pierce)により決定した。75 μgのタンパク質を、Criterion XTトリス-酢酸 3-8%予備充填(pre-poured)ゲル(Bio-Rad)に置いた。1:50に希釈したNCL-DYS1モノクローナル一次抗体(Novocastra)との膜のハイブリダイゼーションにより、及びその後の1:15,000に希釈した抗マウスヒツジ二次抗体(HRP)により、ジストロフィンを検出した。タンパク質を、SuperSignal West Pico Chemiluminescent Substrateキット(Thermo Scientific Pierce)により明らかにした。
【0172】
(B. 結果及び考察)
最適化マウスU7snRNA遺伝子に挿入され、自身のプロモーターを含有し、AAV2/8に保持される、候補アンチセンス配列を、2株の不死化ヒト筋芽細胞、Δ45-52及びΔ52に対してそれぞれ用いて二重盲検試験を行った。
【0173】
試験したベクター及びその力価を、以下の表4に示す:
【表4】
【0174】
(I/ 試験Iの結果:)
これらのベクターは、増殖条件下、盲検で、2人の作業者によって、1e5及び5e5 vg/細胞のMOIで試験された。形質導入の有効性は、フローサイトメトリーにより推測され、形質導入された細胞の68%〜96%の間であった。
【0175】
以下の表5に示すとおり、qPCRによる細胞あたりのウイルスゲノムの定量は、種々のベクターの形質導入の均一性を示す:
【0176】
【表5】
【0177】
図1〜3は、DMD Δ45-52及びΔ52筋芽細胞のそれぞれの形質導入後のコンストラクトの有効性の評価の結果を示す:図1及び2により、エクソン53のスキッピングを、2つの細胞株でのネステッドRT-PCRにより評価することができ、図3は、このスキッピングの定量を、Δ45-52の株に対するRTqPCRを示す。
【0178】
(II/ 試験IIの結果:)
これらのベクターは、300.E+3のMOIで試験した。修正した細胞においてジストロフィンタンパク質の回復を示すことができるような分化条件を得るために、形質導入した細胞を、9日間分化させた(材料と方法を参照)。
【0179】
図4及び5は、DMD Δ45-52及びΔ52筋芽細胞のそれぞれの形質導入後のコンストラクトの有効性の評価の結果を示す。図4A及び5Aにより、エクソン53のスキッピングをネステッドRT-PCRにより評価することができ、図4B及び5Bは、ウエスタンブロットによるジストロフィンタンパク質発現の試験の結果を示す。
【0180】
(結論:)
これらの2つの独立した及び完全に整合した試験は、エクソンスキッピングの有効性の結果が、2つのDMD株について同一であったこと、すなわち以下の有効性の大きさ:5902>5901=5903を示す。同様に、筋芽細胞の2つの株では、AON 5902を保持するコンストラクトが、最も効果的にジストロフィンの発現を回復させる。
【0181】
U7にクローニングされ、AAV2/8にベクター化されたアンチセンス配列、特にJR53(配列番号3)及びN3(配列番号4)と呼ばれるものは、先行技術のDtex53配列(5912)よりもいっそう有効である。
【0182】
「実施例2:JR53配列(配列番号3)を含むベクターの、ヒト線維筋芽細胞でのジストロフィンのエクソン53のスキッピングにおける有効性」
(A. 材料及び方法)
(1/ 細胞培養)
DMD患者の線維芽細胞を、10%のウシ胎児血清(FCS)及び10 μg/mLのゲンタマイシンを補ったIMDM(イスコフ改変ダルベッコ培地)培養培地(Life Technologies)中で培養した。コンフルエンスで、細胞をトリプシン/EDTA溶液中に分離して増幅した。各患者について、サンプルを調製し、冷温で保存した(冷凍保存)。
【0183】
(2/ 筋変換:ヒトDMD線維芽細胞の線維筋芽細胞への変換)
(2.1 筋変換に用いられるベクター)
筋変換手法及びそれを実行することを可能にするツール、特に適切なレンチウイルスベクターは、当業者に公知であり、例えばCooper et al. (Neuromuscular Disorders 17 (2007), 276-284)及びChaouch et al. (Human Gene Therapy 20 (2009), 784-790)に記述されている。
【0184】
筋変換に用いられるベクターは、GU007HT _psin_pTRE_MyoD_hPGK_rtTA2M2レンチウイルスベクターであったが、これはGenethon(ロット番号13RO281 GU 007H)により製造され、これ以降LV/MyoD又はLV/MyoDiとも称された。
【0185】
(2.2 筋変換方法)
ヒト線維芽細胞(HF)を、トリプシン/EDTA溶液を用いて分離し、5分間、300 gで遠心分離し、DMEM(高グルコースダルベッコ培地)中に再懸濁し、計数した。25,000細胞を、抗生物質を含まないDMEM中5 μLのLV/MyoDiの入ったEppendorfチューブに移し、総液量100 μLで、その後30分間、37℃でインキュベートした(2又は3回混合した)。次に、各チューブに含まれる混合物(細胞+ベクター)を、900 μLのDMEM、10% FCS、100 μL/mLのペニシリン、100 μg/mLのストレプトマイシンを含有する22 mmウェル(P12)に播種し、37℃、5% CO2のインキュベーターに3日間静置した。3日目から、培地を完全に交換してウイルス粒子を取り除いた。LV/MyoDiにより形質導入された細胞を、次に増幅し-80℃で凍結し、その後液体窒素中に移した。
【0186】
(2.3 MyoD1の免疫細胞マーキングによる筋変換の有効性の検証)
線維筋芽細胞(FM)を、マトリゲル上の22 mmのストリップに、10,000 細胞/ウェルで接種した。24時間後に、10 μg/mLのドキシサイクリンを4〜6日間、増殖培地に加えることにより、筋変換を誘導した。線維筋芽細胞を、2%のパラホルムアルデヒド(PFA)で15分間、室温で固定した(また、必要な場合は4℃で維持した)。細胞を5分間、メタノールを用いて-20℃で透過処理し、1時間、2%のBSA(ウシ血清アルブミン)を含むPBS中でブロッキングした。免疫学的マーキングを、1/100に希釈した5.8A MyoD1マウスモノクローナル抗体(コードDAKO M3512)のクローンを用い、一晩4℃でインキュベートして行った。次に、ヤギ抗マウス488-IgG fluoro Alexa二次抗体(1/500)を、1時間、室温でインキュベートした。核をDAPIで5分間標識した。ストリップをFluoromount Gスライドにマウントし、蛍光顕微鏡下で観察した(DM2500 Leica共焦点イメージング及びImageJアプリケーション)。
【0187】
筋変換の有効性は、MyoD1について陽性の核の、DAPIを有する陽性の核に対するパーセンテージを算出することにより表した(条件あたり100細胞をカウント)。
【0188】
(3/ 臨床製品)
配列JR53(配列番号3)を含む、臨床試験に用いられたベクターは、実施例1に記述した、Genethonにより製造されたG7U007 bacculoAAV2 / 8-U7-JR53ベクターである(ロット番号14PO353: JR53)。
【0189】
(4/ JR53によるヒトDMD線維筋芽細胞の形質導入)
筋変換した線維芽細胞(線維筋芽細胞)を、無血清IMDM培地中、37℃で、JR53配列(細胞あたりMOI 300,000ウイルスゲノム)を含むベクターに感染させた。5時間後、線維筋芽細胞を、1%のウマ血清、10 μg/mLのゲンタマイシン、及び10 μg/mLのドキシサイクリンを添加したIMDM培地中で、13〜14日間、分化させた。分化した細胞を、室温でPBS中に掻き取り、第1のチューブに回収し(ウエスタン型の移行用)、氷上で保持した。採取した量の1/10を、RNA抽出に移行した。11,000 gでの1分間の遠心分離後、細胞ペレットを凍結して、-80℃で保存した。
【0190】
(5/ 形質導入されたヒトDMD線維筋芽細胞におけるジストロフィンpre-mRNAでのエクソンスキッピング試験)
Nucleospin RNAIIキット(Macherey Nagel)を用いて、製造元の指示に従い、総RNAを細胞から抽出し、30 μLの水に溶離した。500 ngのアリコート部(分注量)の全RNAをネステッドRT-PCR解析に用いた。逆転写反応を、Superscript IIキット(Life Technologies)を使用し、42℃で50分間、ランダムプライマーアナライザーを用いて、その後PCR Master mix キット(Promega)を用いて、PCRにより行った。
【0191】
DMDのpre-mRNAのエクソンスキッピングの評価のために、ネステッドRT-PCRを行った(PCR1):2 μLのcDNA、総液量20 μL中、変異及びエクソン53を囲むプライマー(表6を参照)を用いて、30サイクル[95℃ (30秒間) − 56℃ (1分間) − 72℃ (2分間)]。次に、総液量30 μL中、3 μLのPCR1を、25秒間、第2のプライマーの対を用いて増幅した(表6を参照)。
【0192】
ジストロフィンの総mRNA及び18SリボソームmRNA(cDNAの添加の内在性対照)を評価するために、34サイクルの単回PCR[95℃ (30秒間) − 57℃ (1分間) − 72℃ (1分間)]を、表6に記述するプライマーの対を用いて行った。
【0193】
PCR産物は、トリス-酢酸-EDTA緩衝液中、1.8%アガロースゲルでの電気泳動により解析した。RT-PCR産物についての予想されるバンドサイズは、以下の表7に示す。各バンドについて得られたピクセル数を、ImageJソフトウェアを用いて処理する。エクソンスキッピングを有するアンプリコンのサイズに対応するバンド(下のバンド)を切り出し、Nucleospin Gel and PCR Clean-upキット(MACHEREY-NAGEL)を用いて、カラムを通して精製し、シーケンシングした(GATCによって)。
【0194】
【表6-1】
【表6-2】
【0195】
【表7】
【0196】
(6/ ウエスタンブロットによる、形質導入されたDMDヒト線維筋芽細胞におけるジストロフィンタンパク質の発現の試験)
細胞タンパク質を、溶解緩衝液(サッカロース125 mM、トリス-HCl 5 mm pH 6.4、6%のXT-Tricine移動(migration)緩衝液(Bio-Rad)、10%のSDS、10%のグリセロール、5%のβ-メルカプトエタノール、抗タンパク質分解酵素)から抽出した。サンプルを、95℃で5分間変性させた。
【0197】
タンパク質濃度を、BCA Protein Assay Kit (Thermo Scientific Pierce)を、Compat-Able(商標)キット(Thermo Scientific Pierce)のタンパク質アッセイ試薬で前処理した2 μLのタンパク質サンプルに対して用いて決定した。75〜100 μgのタンパク質を、3〜8%のポリアクリルアミドの予め充填したゲル(Bio-RadのCriterion XT トリス-酢酸キット)にロードした。1:50に希釈したNCL-DYS1一次モノクローナル抗体(Novocastra)との膜のハイブリダイゼーション、その後1:15,000に希釈したヒツジIgG二次抗体(HRP)により、ジストロフィンを検出した。タンパク質を、SuperSignal West Pico or Femto Maximum Sensitivity Substrateキット(Thermo Scientific Pierce)により明らかにした。総筋肉タンパク質は、1:2000に希釈したウサギカルネキシン抗体との膜の、4℃で一晩のハイブリダイゼーション、その後、1:50,000に希釈したヤギ抗ウサギIgG二次抗体(HRP)とのインキュベーションを行うことにより、明らかにした。
【0198】
(7/ 細胞についての情報)
【0199】
【表8】
【0200】
(7.2/ 対照細胞)
細胞株は、Universite de la Sorbonne UPMC - INSERM - UMRS 974 - CNRS FRE 3617 - Institut de Myologie [筋肉学研究所]のCentre de Recherche en Myologie [筋肉学研究センター]の細胞不死化プラットフォームにより提供された。
【0201】
・線維筋芽細胞
ジストロフィンの発現の対照:J5C健康なヒト線維芽細胞、UMRS974リサーチユニットにより行われた筋変換。
【0202】
ジストロフィンの回復の陰性対照:不死化線維芽細胞no. F033、JR53によるエクソンスキッピングに不適格(エクソン16中のストップコドン)、UMRS974リサーチユニットにより行われた筋変換。
【0203】
・不死化筋芽細胞
ジストロフィンの発現の陽性対照のための健康な筋芽細胞 no. 8220: hM
【0204】
臨床製品の有効性の陽性対照:エクソン53のスキッピングに適格な、エクソン52に欠失を有するDMD筋芽細胞、KM571DMD10FLと称される。
【0205】
(B.結果)
(1/ ヒトDMD線維芽細胞の線維筋芽細胞への変換:)
全てのロットのDMD線維芽細胞(10/10)は、MyoDの核発現に関して陽性であることが示され、myoD1について陽性の核の、標識した核の総数に対するパーセンテージが70%より高いことが示され(表9)、したがって筋変換されたとみなすことができた。
【0206】
【表9】
【0207】
(2/ 形質導入されたDMDヒト線維筋芽細胞における、エクソン53のスキッピングについてのJR53の有効性)
エクソンスキッピングについてのJR53の有効性は、各ロットのDMD線維筋芽細胞について2回又は3回の実験で試験した。エクソン53を含まない予想されるサイズに対応するRT-PCR産物が、10名のDMD患者の各々において検出された(図6)。
【0208】
JR53の有効性のパーセンテージを、スキップされたバンドについて得られたピクセル数と、スキップされた及びスキップされていないバンドの全てについて計算されたピクセルの合計との間の比を用いて算出した(表10)。
【0209】
DMD線維筋芽細胞のロットの8つについて、JR53の有効性が、70%より高いものとして検出され、一方で患者5-14878 DMD及び5-14499 DMDについては、有効性はそれより低く、それぞれ64及び50%の有効性であった。エクソンスキッピングを有するアンプリコンのサイズに対応するバンド(下のバンド)をシーケンシングし、全て、エクソン53のスキッピングに対応する予想されたシーケンシングを与えた。
【0210】
【表10】
【0211】
(3/ DMDヒト線維筋芽細胞におけるジストロフィンタンパク質の発現の回復)
行われあたウエスタンブロットの結果は、図7に表される。
【0212】
ヒトDMD線維筋芽細胞におけるジストロフィンの発現の回復レベルは、ImageJソフトウェアを用いた各バンドのシグナルに対応する画素数の定量により評価した。ジストロフィンレベルは、カルネキシンの発現(総タンパク質の寄与)により正規化した。回復したジストロフィンのパーセンテージは、処理した線維筋芽細胞における正規化したジストロフィンレベルと、100%を示すとみなされる健康な線維筋芽細胞(hFM)において観察されるジストロフィンの発現率との間の比を用いて計算した。結果は、ジストロフィンタンパク質の回復を、JR53で処理された全てのロットのDMD線維筋芽細胞において観察することができたことを示している。被験者DMD 5-14889に関しては、回復したジストロフィンレベルは一度しか測定されなかったことに留意しなければならない。
【0213】
ジストロフィンタンパク質の発現についての回復データの定量を、表11に示す:
【0214】
【表11】
【0215】
(結論)
種々の型のDMDの患者から取得したヒト線維筋芽細胞に対して行われたこの試験の背景において得られた全ての結果を、以下の表12にまとめる:
【0216】
【表12】
【0217】
結論として、上に示した、種々の型のDMD(Δ52、Δ45-52、Δ48-52、及びΔ50-52)について得られた前臨床結果により、試験したコンストラクトによりもたらされた、JR53アンチセンスの治療可能性が立証される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]