(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6878469
(24)【登録日】2021年5月6日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】整形外科−歯科矯正用大臼歯ディスタライザー
(51)【国際特許分類】
A61C 7/28 20060101AFI20210517BHJP
A61C 7/14 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
A61C7/28
A61C7/14
【請求項の数】46
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-566619(P2018-566619)
(86)(22)【出願日】2017年3月13日
(65)【公表番号】特表2019-508208(P2019-508208A)
(43)【公表日】2019年3月28日
(86)【国際出願番号】CA2017000053
(87)【国際公開番号】WO2017152267
(87)【国際公開日】20170914
【審査請求日】2020年2月14日
(31)【優先権主張番号】62/307,082
(32)【優先日】2016年3月11日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/415,350
(32)【優先日】2016年10月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518322931
【氏名又は名称】スパータン オーソドンティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SPARTAN ORTHODONTICS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ヴードリス、ジョン
【審査官】
井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】
特表2015−511518(JP,A)
【文献】
米国特許第05938437(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0244414(US,A1)
【文献】
米国特許第05727941(US,A)
【文献】
中国実用新案第202776594(CN,U)
【文献】
特開平09−234208(JP,A)
【文献】
特開2010−131368(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102004016317(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/00 − A61C 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上顎骨の同じ側で近心固定歯から大臼歯へ片側に延在する後方上顎セクターを歯科矯正治療するための歯科矯正装置であって、
大臼歯構成要素であって、前記大臼歯構成要素を大臼歯に付着させるためのボンディングパッドを含み、前記大臼歯構成要素の内部に対して近心開口部を有する、大臼歯構成要素と、
近心固定歯取付部品であって、前記取付部品を近心固定歯に付着させるためのボンディングパッドを含む、近心固定歯取付部品と、
咬合−歯肉平面において鞍形状であり、かつ前記大臼歯に向かう遠心ステップダウン部分を有する長尺ロッドであって、前記近心固定歯取付部品から前記大臼歯構成要素に向かって近遠心方向に延在する、長尺ロッドと、
大臼歯を直接牽引するための牽引要素を取り付けるための、前記ロッド上に位置するフックと
を含み、前記ロッドの遠心端部が、前記大臼歯構成要素の少なくとも1つの面に係合して、前記フック上の前記牽引要素の力の作用下にあるときに前記大臼歯に遠心力を加える、歯科矯正装置。
【請求項2】
前記遠心ステップダウン部分が湾曲している、請求項1に記載の歯科矯正装置。
【請求項3】
前記牽引要素が弾性材料を含む、請求項1に記載の歯科矯正装置。
【請求項4】
前記ロッドの前記遠心端部が、その近心端部よりも咬合側に低い、請求項1に記載の歯科矯正装置。
【請求項5】
前記ロッドの近心端部が、その遠心端部よりも咬合側に低い、請求項1に記載の歯科矯正装置。
【請求項6】
前記ロッドの近心端部が、前記近心固定歯取付部品から前記ロッドまでの近心ステップアップ部分を含む、請求項1に記載の歯科矯正装置。
【請求項7】
前記近心ステップアップ部分が湾曲している、請求項6に記載の歯科矯正装置。
【請求項8】
前記大臼歯構成要素の少なくとも1つの面が、その遠心壁を含む、請求項1に記載の歯科矯正装置。
【請求項9】
前記大臼歯構成要素の内部が、前記開口部からその遠心壁に向かってテーパが付けられている、請求項1に記載の歯科矯正装置。
【請求項10】
前記フックが、鞍形状の前記ロッドの上部セクション上に位置している、請求項1に記載の歯科矯正装置。
【請求項11】
前記フックが、前記近心ステップアップ部分上に位置している、請求項6に記載の歯科矯正装置。
【請求項12】
前記フックが、前記遠心ステップダウン部分上に位置している、請求項1に記載の歯科矯正装置。
【請求項13】
前記近心固定歯取付部品が、歯科矯正用チューブであって、それを前記近遠心方向に通過するアーチワイヤスロットを含む歯科矯正用チューブをさらに含み、前記アーチワイヤスロットが、アーチワイヤの挿入が、前記近心固定歯取付部品から少なくとも1つの小臼歯ブラケット内に全体的に近遠心方向に通過することを可能にするような大きさにされている、請求項1に記載の歯科矯正装置。
【請求項14】
小臼歯への付着のための少なくとも1つの小臼歯ブラケットであって、前記ロッドの上部セクションの下に咬合側に位置している、少なくとも1つの小臼歯ブラケットをさらに含む、請求項13に記載の歯科矯正装置。
【請求項15】
ディスタライザーが前記牽引要素の力によって遠心側に移動すると、鞍形状の前記ロッドの遠心ステップダウン部分は、前記大臼歯構成要素の歯肉側ルーフ壁上に形成されたバイザーオーバーハングの近心端部に係合する、請求項1に記載の歯科矯正装置。
【請求項16】
前記バイザーオーバーハングが、前記大臼歯が遠心移動するときに鞍形状の前記ロッドの経路に従うように湾曲している、請求項15に記載の歯科矯正装置。
【請求項17】
バイザーが、前記大臼歯構成要素に付着された別個に溶接された構成要素であるか、または前記大臼歯構成要素と一体的に形成されている、請求項15に記載の歯科矯正装置。
【請求項18】
前記ロッドが、その遠心端部に係合特徴を含み、および前記大臼歯構成要素が、前記係合特徴を受け入れるのに好適な保持特徴を有する、請求項1に記載の歯科矯正装置。
【請求項19】
前記係合特徴が、本質的にD字形状であり、および前記保持特徴が、正弦曲線である、請求項18に記載の歯科矯正装置。
【請求項20】
前記係合特徴が全体的に球形であり、および前記保持特徴が、漏斗状鍵穴クラスプの形態である、請求項18に記載の歯科矯正装置。
【請求項21】
前記係合特徴が、前記保持特徴に結合され、かつ前記大臼歯構成要素の遠心壁を遠心側に押している、請求項20に記載の歯科矯正装置。
【請求項22】
前記大臼歯構成要素が、前記係合特徴を支持するための咬合側フロアを有するCクラスプの形態である、請求項18に記載の歯科矯正装置。
【請求項23】
係止爪を含むUクランプをさらに含み、前記係止爪が、前記Cクラスプ上の係止溝と協働して嵌合して、前記Cクラスプの上での前記Uクランプの係合および係止を可能にし、従って前記Cクラスプ内に前記係合特徴を保持する、請求項22に記載の歯科矯正装置。
【請求項24】
前記大臼歯構成要素が、前記大臼歯構成要素内に前記係合特徴を維持する係止爪を含む、請求項18に記載の歯科矯正装置。
【請求項25】
前記ロッドの遠心端部の近くかつ前記係合特徴から近心側に、前記大臼歯構成要素に遠心力を加えるための垂直に向けられたプッシュフランジレバーをさらに含む、請求項18に記載の歯科矯正装置。
【請求項26】
前記プッシュフランジレバーが、前記ロッドに対してオフセットされ、それにより、前記プッシュフランジレバーが、前記ロッドが前記牽引要素の力の作用下で遠心側に移動されると、前記大臼歯構成要素の壁の近心縁に係合する、請求項25に記載の歯科矯正装置。
【請求項27】
前記大臼歯構成要素が、フレア付きクラスプの形態であり、前記クラスプがハウジングであって、該ハウジングの内部への前記係合特徴の挿入を容易にするために近心側へ外向きにフレアが付けられたハウジングを有する、請求項18に記載の歯科矯正装置。
【請求項28】
前記係合特徴が、前記大臼歯構成要素の頬側壁上の制限特徴によって前記保持特徴内に保持される、請求項18に記載の歯科矯正装置。
【請求項29】
前記係合特徴が、前記大臼歯構成要素の舌側壁上の制限特徴によって前記保持特徴内にさらに保持される、請求項28に記載の歯科矯正装置。
【請求項30】
前記係合特徴が、咬合側フロアおよび歯肉側ルーフ壁によって前記大臼歯構成要素の内部に垂直に保持される、請求項18に記載の歯科矯正装置。
【請求項31】
前記係合特徴が楕円体形状を含む、請求項18に記載の歯科矯正装置。
【請求項32】
前記ロッドの遠心端部の近くかつ前記係合特徴から近心側に、前記大臼歯構成要素に遠心力を加えるための垂直に向けられたプッシュタブレバーをさらに含む、請求項18に記載の歯科矯正装置。
【請求項33】
ディスタライザーが前記牽引要素の力によって遠心側に移動されると、前記垂直に向けられたプッシュタブレバーは、前記大臼歯構成要素の咬合側フロアの近心端部に係合する、請求項32に記載の歯科矯正装置。
【請求項34】
前記大臼歯構成要素が、アパーチャであって、前記アパーチャを通して前記ロッドの遠心端部を受け入れるための、遠心壁に形成されたアパーチャを有する、請求項1に記載の歯科矯正装置。
【請求項35】
前記大臼歯構成要素の内部が、前記開口部からその遠心壁に向かってテーパが付けられ、前記ロッドの遠心端部の一部分が、前記大臼歯構成要素の壁の内面に摩擦係合して、前記ロッド上に位置する前記フック上の牽引要素の力の作用下で前記大臼歯構成要素に遠心力を加える、請求項34に記載の歯科矯正装置。
【請求項36】
前記アパーチャが、前記ロッドの遠心端部の一部分が、前記フック上の牽引要素の力の作用下で前記大臼歯構成要素に遠心力を加えるために前記アパーチャにおいて前記遠心壁に摩擦係合するような大きさにされている、請求項34に記載の歯科矯正装置。
【請求項37】
前記ロッドが前記大臼歯構成要素から取り外されることを防止するために、前記ロッドの遠心端部の遠心チップに付着されたブロッキング特徴をさらに含む、請求項34に記載の歯科矯正装置。
【請求項38】
前記ブロッキング特徴が、前記ロッドの遠心端部にクリンプされること、該遠心端部に溶接されること、および該遠心端部と一体的に形成されることのいずれかである、請求項37に記載の歯科矯正装置。
【請求項39】
前記ロッドの遠心端部の近くにあり、かつ前記大臼歯構成要素の近心端部に遠心力を加えるように位置決めされた、垂直に向けられたプッシュフランジレバーをさらに含む、請求項34に記載の歯科矯正装置。
【請求項40】
前記プッシュフランジレバーが、前記ロッドに対してオフセットされ、それにより、前記プッシュフランジレバーが、前記ロッドが前記牽引要素の力の作用下で遠心側に移動されると、前記大臼歯構成要素の壁の近心縁に係合する、請求項39に記載の歯科矯正装置。
【請求項41】
前記大臼歯構成要素の壁が、舌側にフレアが付けられ、それにより、前記プッシュフランジレバーが、前記大臼歯チューブの壁の近心縁のチップに係合する、請求項39に記載の歯科矯正装置。
【請求項42】
前記アパーチャが、治療中に前記ロッドの遠心端部の頬−舌方向の移動を可能にするために、頬−舌方向において、咬合−歯肉方向の長さよりも長い長さを有する、請求項34に記載の歯科矯正装置。
【請求項43】
前記ロッドの遠心端部の近くかつ係合特徴から近心側に、前記大臼歯構成要素に遠心力を加えるための垂直に向けられたプッシュタブレバーをさらに含む、請求項34に記載の歯科矯正装置。
【請求項44】
ディスタライザーが前記牽引要素の力によって遠心側に移動されると、垂直に向けられた前記プッシュタブレバーは、前記大臼歯構成要素の咬合側フロアの近心端部に係合する、請求項43に記載の歯科矯正装置。
【請求項45】
前記近心固定歯が犬歯である、請求項1〜44のいずれか一項に記載の歯科矯正装置。
【請求項46】
前記近心固定歯が小臼歯である、請求項1〜44のいずれか一項に記載の歯科矯正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科矯正装置の分野に関し、より詳細には、整形外科−歯科矯正用大臼歯ディスタライザーに関する。
【背景技術】
【0002】
不正咬合は、2つの顎骨、上顎骨と下顎骨との間およびそれぞれの2つの歯列弓の歯間のずれまたは不適当な関係である。これは、多くの場合、上顎および上切歯のオーバージェットによって特徴付けられる骨格の形成異常と呼ばれ、多くの場合、外部ヘッドギアの装着を必要とする。一般的に、方向を説明するために、3つの歯科矯正用語がある。頬−舌方向は、それぞれ頬側から舌側へを意味する。近心−遠心方向は、前方から後方または前から後ろへを意味する。咬合−歯肉方向は、咬み合わせ側から歯肉側へを意味する。不正咬合または咬み合わせでの歯列不正は、3つの級の1つに分類され得る。
【0003】
I級:咬合の大臼歯関係が正常範囲内である中性咬合。これは、上顎(または上)第一大臼歯近心咬頭が、下顎(または下)第一大臼歯の中心溝に収まるものとして説明され、ここで、他の歯は、空隙、叢生、または過萌出もしくは不完全萌出などの垂直方向の配列の問題などの追加的な問題を有し得る。
【0004】
II級:上第一大臼歯の近心頬側咬頭頂が、下第一大臼歯の近心頬側溝の前方にあるのではなく、それより前側に、前方に、または出っ張って位置決めされる遠心咬合(著しい「過蓋咬合」または技術的に上歯が下歯列よりも前方に著しくオーバージェットの状態にあると呼ばれることが多い)。ここでも、II級は、上顎(上顎骨セグメント)および/または下顎(下顎骨セグメント)の骨格構成要素が歯列不正となっている結果であり得るか、または歯列不正をさらに含み得る(上述)。II級はまた、2つの類を有する:1類は、前歯が前突しているII級などの大臼歯関係を有し、および2類は、II級のような大臼歯関係を有するが、中切歯が舌側傾斜しており、および側切歯が中切歯に前方に重なっているように見える。上第一大臼歯は、II級不正咬合では、多くの場合かつ全体的に、近心側に移動および回転され、上歯列弓の空間をより多く占めてオーバージェットに寄与し、矯正を必要とすることが重要である。
【0005】
III級:上大臼歯が下大臼歯近心頬側溝に配置されるのではなく、上大臼歯が下大臼歯中心溝の後方に位置する近心咬合が患者に見られ、反対咬合と呼ばれることが多い。
ディスタライザーは、一般的に、上述のII級のオーバージェット状態の上歯および上顎の治療に適用されるが、III級の不正咬合の矯正では、使用される力の方向を逆にすることによって下顎または歯にも使用され得る。
【0006】
ヘッドギアを用いるかまたは用いない、II級の上方および下方の歯列弓間弾性材料または固定式機能的装置(これは下顎を前方かつ下方へ保つ)と共に、セグメントアーチワイヤおよび歯科矯正用ブラケット(ブレス)を用いた上大臼歯の回転および遠心移動は新しいものではない。ディスタライザーは、半世紀以上にわたって上述の不正咬合の1つ以上を矯正するために使用されてきた。そのようなディスタライザーの1つが、(特許文献1)、(特許文献2)および(特許文献3)に説明されており、これらの全てが、歯科矯正治療での特に犬歯(または代わりに小臼歯)から大臼歯までの後方上顎骨(upper jaw bone)(上顎骨(maxilla))セクターのセグメント遠心移動のための補助要素を開示している。歯科矯正装置または要素は、2つの構成要素:近心セグメントおよび遠心セグメントを含む。近心セグメントは、前側でボンディングされる矩形の犬歯取付部品で構成され、そのボンディングベースがボンディング樹脂接着剤によって犬歯のエナメル質に取り付けられて固定される。この犬歯取付部品は、同様に犬歯用歯科用ユニットに直接取り付けられた水平方向のハンドル様部分として頬側突出前端を有し、これにより、患者が個別に設置した個別の弾性要素の保持を容易にし、弾性要素は、各側の前端から個別の下顎第一大臼歯取付部品まで下方に伸張されて、対角線に向けられた顎間および上下の歯列弓間(上顎歯列弓と下顎歯列弓との間)の力を生じる。この近心構成要素は、ボンディングされた犬歯取付部品の遠心端部の一部であり、かつそれに確実に取り付けられる長尺状およびアーチ状のロッド延在部を含む。ロッドの他方の端部は、平坦な球形部材であって、主に頬−舌方向の回転を可能にする常設ピンのための側方および中心に位置する孔開口部またはオリフィスを有する平坦な球形部材を有する。
【0007】
遠心構成要素は、一般的に上顎の各側で上大臼歯に取り付けられている、遠心(または後方)に位置するより小さい要素である。遠心構成要素は、中央部分に位置する靴形のレセプタクルで構成され、外側ベースが歯に取り付けられている。ロッドの球形端部部材は、靴形レセプタクルに結合されかつ永久的にピンで留められ、レセプタクルの別個のピンを近心セグメントの遠心球形端部に接続する。ピンが靴の中心に位置する靴形レセプタクルの両側に永久的に溶接されたピンは、ディスク状ロッド端部のハウジングオリフィスを通過する。遠心セグメントのレセプタクルキャビティの突出する旋回軸は、近心セグメントの球の横向きのスロットに配置され、球形端部部材の回転を制限する。
【0008】
上述したようなこれらのディスタライザー機構は、多くの場合に複雑であり、追加的な精度の回転ピンがロッドを通って遠心構成要素に複雑に接続しているために3個または4個の部片での製造が困難であり、かつ組み立てが困難である。回転を制限する突出する旋回軸およびスロットも組み立ての困難さを増大させる。全体でのバランスのために、2つのディスタライザーを、一方を上顎の左側でおよび他方を右側で使用するため、複雑なディスタライザーは法外なコストがかかる。
【0009】
さらに、従来技術のディスタライザーは、近心セグメントロッドを遠心セグメントに固定する横向きの回転ピンによって特徴付けられる。これらの横向きのピンは、近心セグメントに対して加えられる力を生じ、およびこの力は、遠心セグメントのレセプタクルとの結合に起因して、特に横向きの舌側面に位置する球形に対してスロットによって制限される。上部の横向きの斜視図から、理想的ではない従来技術のディスタライザーに関して、近心セグメントの球形の横向きのスロット内の横向きのレセプタクルピンとのこの舌側の横向き接触も距離を削減し、かつそれにより大臼歯の抵抗中心からの力のモーメント(力×距離)を小さくする。
【0010】
従来のディスタライザーでの上記した力のモーメントのこの縮小は、3次元において3つの理由から好ましくなかった。第1に、咬合側上面図からおよび横方向寸法において、球上の舌側に位置する表面スロットから大臼歯の抵抗中心までの距離が短くなったため、遠心への大臼歯回転量の減少があった。この横方向に短い距離は、歯列および上顎骨の他の2つの抵抗中心にも適用される。さらに、頬側側面図から、力が垂直にかつより低く、それにより長い距離で加えられたとき、大臼歯歯冠のレベルにおいて、大臼歯歯冠が後方に傾斜し始めた。その後、治療後および保定中、これは、歯根の前進位置下でそれ自体が再配列して、矯正後の後戻りとして公知の大臼歯歯冠の傾斜を生じた。第3に、頬側側面図からおよび水平寸法において、弾性力が近心セグメントの前端から従来のディスタライザーに加えられたとき、弾性の傾斜力および距離は、より長くかつ大臼歯の抵抗中心から離れており、これも不安定な大臼歯の傾斜を生じさせることが明らかであった。ピンが、単に従来技術のディスタライザーの遠心セグメントにあるレセプタクルの横クリンプで置き換えられたとき、より望ましい大臼歯遠心セグメントの後部に向けられた純粋な遠心力ではなく、同様の横向き接触力が特に確立されていたため、上述の3次元における3つの力の逆モーメントに対する変化はほとんどなかった。
【0011】
さらに、患者の他のより一般的なかつ最も臨床的に見られる認識されている合併症は、両上犬歯が過挺出するようになり、弾性牽引に起因して犬歯がその歯槽から長く伸びることである。これは、従来のディスタライザーを用いる患者の咬合(咬み合わせ)に干渉するため、審美的および機能的な重要課題である。上犬歯が過挺出すると、それらは上顎骨にある最長の根歯であるため、それらが再陥入することは難しい。
【0012】
歯根の上部の近くに全て位置する大臼歯、歯列全体および上顎骨の抵抗中心の近くから大臼歯を水平および垂直に押すことがバイオメカニクス的に理想的である。このために、歯科矯正バイオメカニクスでは、大臼歯根を平行移動させるか、または水平寸法において、かつ従来のディスタライザーと比較して3つの抵抗中心に垂直方向により近い、より歯肉的な位置からより遠心側に押すことにより、大臼歯を後方へ歯体移動させることが好ましくかつそのように示唆されている。
【0013】
最後に、大臼歯遠心移動の好ましい方法は、大臼歯に力を可能な限り直接加えることである。(反対に、犬歯の過挺出を防止するために、前端において犬歯に力を直接加えることを回避することが理想的である)。従来のディスタライザーにおける大臼歯の遠心移動方法は、従来技術では、移動を必要とする大臼歯により近い力ではなく、犬歯に加わる力を必要とするため、間接的対直接的な力である。この結果は、犬歯歯冠および骨に覆われた歯根からバーおよび球への(および邪魔になる2つの間にある小臼歯への)間接的な力のドミノ効果であり、大臼歯チューブへの力を分散させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6,976,839号明細書
【特許文献2】米国特許第7,238,022号明細書
【特許文献3】米国特許第7,618,257号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
総合的に、目的は、大臼歯の歯体移動をより大きくするために、歯列弓間弾性力を、バイオメカニクス的に3つの抵抗中心のより近くとなるようにより後方(遠心)にかつより高く(歯肉側)に加えながらも、上犬歯の過萌出を防止することである。反対に、横断斜視図から、大臼歯の抵抗中心から離れて頬側へさらなる距離にわたり大臼歯チューブを押すことも理想的である。これらの改良点はまた、犬歯および大臼歯の歯体移動をより安定的で長期的なものにし、保定中の後戻りが起きないようにする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様では、上顎骨の同じ側で近心固定歯から大臼歯へ片側に延在する後方上顎セクターを歯科矯正治療するための歯科矯正装置が提供され、この歯科矯正装置は、大臼歯構成要素と、近心固定歯取付部品と、長尺ロッドと、フックとを含む。大臼歯構成要素は、大臼歯構成要素を大臼歯に付着させるためのボンディングパッドを含み、かつ大臼歯構成要素の内部に対して近心開口部を有し得る。近心固定歯取付部品は、取付部品を近心固定歯に付着させるためのボンディングパッドを含む。長尺ロッドは、咬合−歯肉平面において鞍形状であり得、かつ大臼歯に向かう遠心ステップダウン部分を有し得る。このロッドは、固定歯取付部品から大臼歯構成要素に向かって近遠心方向に延在し得る。フックは、大臼歯を直接牽引するための牽引要素を取り付けるためにロッド上に位置し得る。ロッドの遠心端部は、大臼歯構成要素の少なくとも1つの面に係合して、フック上の牽引要素の力の作用下にあるときに大臼歯に遠心力を加え得る。
【0017】
長尺ロッドの遠心ステップダウン部分は、湾曲する。牽引要素は、弾性材料を含み得る。ロッドの遠心端部は、その近心端部よりも咬合側に低いことができる。あるいは、ロッドの近心端部は、その遠心端部よりも咬合側に低いことができる。ロッドの近心端部は、近心固定歯取付部品からロッドまでの近心セットアップ部分を含み得る。近心ステップアップ部分は湾曲し得る。大臼歯構成要素の少なくとも1つの面は、その遠心壁であり得る。大臼歯構成要素の内部は、開口部から遠心壁に向かってテーパが付けられ得る。
【0018】
一実施形態では、フックは、鞍形状ロッドの上部セクション上に位置している。別の実施形態では、フックは、鞍形状ロッドの近心ステップアップ部分上に位置している。さらに別の実施形態では、フックは、遠心ステップダウン部分上に位置している。
【0019】
近心固定歯取付部品は、歯科矯正用チューブであって、それを近遠心方向に通過するアーチワイヤスロットを含む歯科矯正用チューブを含み得、アーチワイヤスロットは、アーチワイヤの挿入が、近心固定歯取付部品から少なくとも1つの小臼歯ブラケット内に全体的に近遠心方向に通過することを可能にするような大きさにされている。歯科矯正装置は、小臼歯への付着のための少なくとも1つの小臼歯ブラケットであって、ロッドの上部セクションの下の咬合側に位置し得る、少なくとも1つの小臼歯ブラケットを含み得る。
【0020】
ディスタライザーが牽引要素の力によって遠心方向に移動されると、鞍形状ロッドの遠心ステップダウン部分は、大臼歯構成要素の歯肉側ルーフ壁上に形成されたバイザーオーバーハングの近心端部に係合し得る。バイザーオーバーハングは、大臼歯が遠心移動されるときに鞍形状ロッドの経路に従うように湾曲し得る。バイザーは、大臼歯構成要素に付着された別個に溶接された構成要素であるか、または大臼歯構成要素と一体的に形成されていてもよい。
【0021】
いくつかの実施形態では、ロッドは、その遠心端部に係合特徴を含み得、および大臼歯構成要素は、係合特徴を受け入れるのに好適な保持特徴を有し得る。一実施形態では、係合特徴は、本質的にD字形状であり、および保持特徴は、正弦曲線である。別の実施形態では、係合特徴は、全体的に球形であり、および保持特徴は、漏斗状鍵穴クラスプの形態である。係合特徴は、保持特徴に結合され得、かつ大臼歯構成要素の遠心壁を遠心側に押し得る。
【0022】
さらに別の実施形態では、大臼歯構成要素は、係合特徴を支持するための咬合側フロアを有するCクラスプの形態である。Cクラスプ上の係止溝と協働して嵌合する係止爪を含むUクランプが提供され得る。係止爪は、Cクラスプの上でのUクランプの係合および係止を可能にし、従ってCクラスプ内に係合特徴を保持する。
【0023】
一実施形態では、大臼歯構成要素は、大臼歯構成要素内に係合特徴を維持する係止爪を含み得る。
一実施形態では、歯科矯正装置は、ロッドの遠心端部の近くかつ係合特徴から近心側に、大臼歯構成要素に遠心力を加えるための垂直に向けられ
たプッシュフランジレバーを含み得る
。プッシュフランジレバーは、ロッドに対し
てオフセットされ得、それにより
、プッシュフランジレバーは、ロッドが牽引要素の力の作用下で遠心側に移動されると、大臼歯構成要素
の壁の近心縁に係合する。
【0024】
一実施形態では、大臼歯構成要素は、クラスプハウジングの内部への係合特徴の挿入を容易にするために、近心側へ外向きにフレアが付けられたハウジングを有するフレア付きクラスプの形態であり得る。係合特徴は、大臼歯構成要素の頬側壁上の制限特徴によって保持特徴内に保持され得る。係合特徴は、大臼歯構成要素の舌側壁上の制限特徴によって保持特徴内にさらに保持され得る。係合特徴はまた、咬合側フロアおよび歯肉側ルーフ壁によって大臼歯構成要素の内部に垂直に保持され得る。係合特徴は、楕円体形状を含み得る。
【0025】
別の実施形態では、歯科矯正装置は、ロッドの遠心端部の近くかつ係合特徴から近心側に、大臼歯構成要素に遠心力を加えるための垂直に向けられ
たプッシュタブレバーを含み得る。ディスタライザーが牽引要素の力によって遠心側に移動されると、垂直に向けられ
たプッシュタブレバーは、大臼歯構成要素の咬合側フロアの近心端部に係合する。
【0026】
さらに別の実施形態では、大臼歯構成要素は、アパーチャであって、そのアパーチャを通してロッドの遠心端部を受け入れるための、遠心壁に形成されたアパーチャを有し得る。大臼歯構成要素の内部は、開口部からその遠心壁に向かってテーパが付けられ得る。ロッドの遠心端部の一部分は、大臼歯構成要素
の壁の内面に摩擦係合して、ロッド上に位置するフック上の牽引要素の力の作用下で大臼歯構成要素に遠心力を加え得る。アパーチャは、ロッドの遠心端部の一部分が、フック上の牽引弾性材料の力の作用下で大臼歯構成要素に遠心力を加えるためにアパーチャにおいて遠心壁に摩擦係合するような大きさにされる。歯科矯正装置は、ロッドが大臼歯構成要素から取り外されることを防止するために、ロッドの遠心端部の遠心チップに付着されたブロッキング特徴をさらに含み得る。ブロッキング特徴は、ロッドの遠心端部にクリンプされるか、それに溶接されるか、またはそれと一体的に形成される。歯科矯正装置は、ロッドの遠心端部の近くにあり、かつ大臼歯構成要素の近心端部に遠心力を加えるように位置決めされ
たプッシュフランジレバーを含み得る
。プッシュフランジレバーは、ロッドに対し
てオフセットされ得、それにより
、プッシュフランジレバーは、ロッドが牽引要素の力の作用下で遠心側に移動されると、大臼歯構成要素
の壁の近心縁に係合する。大臼歯構成要素
の壁は、舌側でフレアが付けられ得、それにより
、プッシュフランジレバーは
、壁の近心縁
のチップに係合する。アパーチャは、治療中にロッドの遠心端部の頬−舌方向の移動を可能にするために、頬−舌方向において、咬合−歯肉方向の長さよりも長い長さを有し得る。歯科矯正装置は、ロッドの遠心端部の近くかつ係合特徴から近心側に、大臼歯構成要素に遠心力を加えるための垂直に向けられ
たプッシュタブレバーを含み得る。ディスタライザーが牽引要素の力によって遠心側に移動されると、垂直に向けられ
たプッシュタブレバーは、大臼歯構成要素の咬合側フロアの近心端部に係合する。
【0027】
近心固定歯は、犬歯または小臼歯である。
本発明の特徴であると考えられる新規の特徴は、その構造、機構、使用および動作方法に関して、特に上顎および歯の3つの主要な抵抗中心に対する近接性を向上させる点において、さらなる目的およびその利点と共に、本発明の現在好ましい実施形態がここで例として説明される以下の図面からより良好に理解される。しかしながら、図面は、図示および説明のためのものにすぎず、本発明の限定の定義であると意図されるものではないことが明白に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1A】本発明の実施形態による、スライディングディスタライザーと共に上顎歯列、上顎第一大臼歯および上顎骨(上顎)の抵抗中心の位置を示す、上顎の中央および後方の歯の頬側から見た(側面)図である。
【
図1B】
図1Aのスライディングディスタライザーの遠心部分を頬側−歯肉方向に見た斜視図からの七分像の拡大図である。
【
図1C】
図1Aのスライディングディスタライザーを頬側−咬合方向に見た斜視図からの七分像の図である。
【
図2】分解形態である、
図1A〜1Cのスライディングディスタライザーを頬側−歯肉方向に見た斜視図からの七分像の図である。
【
図3A】本発明の別の実施形態による、スライディングディスタライザーと一緒の上顎の中央および後方の歯の頬側側面図である。
【
図3B】
図3Aのスライディングディスタライザーの遠心部分を全体的に近心側から見た斜視図である。
【
図3C】本発明の別の実施形態による、スライディングディスタライザーの遠心部分を全体的に遠心側から見た斜視図である。
【
図3D】
図3Cのスライディングディスタライザーの遠心部分を全体的に頬側−歯肉方向に見た斜視図である。
【
図3E】大臼歯に関して示す、
図3Aのスライディングディスタライザーの遠心部分を全体的に近心方向に見た図である。
【
図4A】本発明のさらに別の実施形態による、スライディングディスタライザーと一緒の上顎の中央および後方の歯の頬側から見た図である。
【
図4B】
図4Aのスライディングディスタライザーの遠心部分を近心側から頬側−歯肉方向に見た拡大斜視図である。
【
図5A】本発明のさらに別の実施形態による、スライディングディスタライザーと一緒の上顎の中央および後方の歯の頬側から見た図である。
【
図5B】
図5Aのスライディングディスタライザーの遠心部分を全体的に近心側からおよび頬側−歯肉方向に見た拡大斜視図である。
【
図6】本発明のさらに別の実施形態による、スライディングディスタライザーの一部として直列配列の外部係止爪を備える遠心セグメント大臼歯構成要素を近心側からまたは前面側から見た斜視図である。
【
図7】スライディングディスタライザーの一部として湾曲構成に折り畳まれた外部係止爪を備える
図6の遠心セグメント大臼歯構成要素を近心側または前面側から見た斜視図である。
【
図8】ロッド−フックを備える近心セグメントバー、およびスライディングディスタライザーの一部として直列配列の外部係止爪を備える遠心セグメント大臼歯構成要素を頬側−歯肉方向に見た斜視図からの七分像の図である。
【
図9A】ロッド−フックを備える近心セグメントバー、および近心セグメントバー端部構成要素をスライディングディスタライザーの一部としての大臼歯構成要素に係止する、湾曲構成に折り畳まれた外部係止爪を備える遠心セグメント大臼歯構成要素を頬側−咬合方向に見た斜視図からの七分像の図である。
【
図9B】遠心セグメント大臼歯構成要素、およびスライディングディスタライザーの近心セグメントバー端部を係止する湾曲構成に折り畳まれた
図9Aの外部係止爪を備える、近心セグメントロッドおよびロッド−フックの頬側側面図である。
【
図10B】
図10Aに示すスライディングディスタライザーを頬側−咬合方向に見た斜視図の七分像の図である。
【
図10C】
図10Aおよび
図10Βに示すスライディングディスタライザーを遠心−咬合方向に見た斜視図からの七分像の図である。
【
図10D】完全に組み立てられた近心セグメント、および
図9Bに示すスライディングディスタライザーの湾曲構成に折り畳まれている外部係止爪を備える遠心セグメント大臼歯構成要素の頬側側面図である。
【
図10E】上犬歯で始まる、組み立てられた近心セグメントの頬側側面図であり、2つの小臼歯セルフライゲーティングブラケットは、上顎歯科矯正用チューブへ前方に通過する部分的な矩形アーチワイヤを含む。遠心セグメント大臼歯構成要素は、
図10B〜
図10Dのスライディングディスタライザーにおいて、外部係止爪が湾曲構成に折り畳まれて示されている。
【
図10F】歯科矯正用チューブを通過する部分的な矩形アーチワイヤおよび2つの小臼歯セルフライゲーティングブラケットの支持を使用することによる、犬歯挺出(大きい矢印)の防止を示す、組み立てられた近心セグメントの頬側側面図である。
【
図11A】大臼歯と併せて示す、本発明のさらに別の実施形態によるスライディングディスタライザーの遠心部分を近心側から見た斜視図である。
【
図11B】大臼歯と併せて示す、
図11Aのスライディングディスタライザーの遠心部分を遠心側から見た斜視図である。
【
図11C】大臼歯と併せて示す、
図11Aのスライディングディスタライザーの遠心部分を咬合側から見た図である。
【
図12A】大臼歯と併せて示す、本発明の別の実施形態によるスライディングディスタライザーの遠心部分を近心側から見た斜視図である。
【
図12B】大臼歯と併せて示す、
図12Aのスライディングディスタライザーの遠心部分を遠心側から見た斜視図である。
【
図12C】大臼歯と併せて示す、本発明のさらに別の実施形態によるスライディングディスタライザーの遠心部分を咬合側から見た図である。
【
図12D】本発明のさらに別の実施形態によるスライディングディスタライザーの遠心部分を歯肉側から見た斜視図である。
【
図12E】
図12Cのスライディングディスタライザーの遠心部分を咬合側から見た拡大図である。
【
図12F】本発明のさらに別の実施形態によるスライディングディスタライザーの遠心部分を頬側−歯肉方向に見た斜視図である。
【
図12G】
図12Fのスライディングディスタライザーの遠心部分を咬合側から見た図である。
【
図12H】
図12Fのスライディングディスタライザーの遠心部分を遠心−歯肉方向に見た分解斜視図である。
【
図13】本発明のさらに別の実施形態によるスライディングディスタライザーの遠心部分を咬合側から見た図である。
【
図14】本発明のさらに別の実施形態によるスライディングディスタライザーの遠心部分を咬合側から見た拡大図である。
【
図15】本発明のさらに別の実施形態による、近心セグメントよりも咬合側に低いロッドの遠心端部を示す、
図1Aのディスタライザーの頬側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
近心固定歯から大臼歯へ片側に(すなわち上顎骨の同じ側で)延在する後方上顎セクターの歯科矯正治療用の歯科矯正装置が提供される。近心固定歯は、一般的に、添付図面に示すように犬歯であるが、犬歯が萌出していない場合またはあまり見えていない場合、小臼歯である。装置は、スライディングディスタライザー、大臼歯ディスタライザー、スライディング大臼歯ディスタライザー、または本明細書を通して単にディスタライザーとも呼ばれる。図面を参照すると、歯科矯正装置は、大臼歯構成要素40と、犬歯取付部品と、ロッド30とを含む。大臼歯構成要素40は、チューブ、クラスプまたは任意の他の好適な形状の形態であり、かつボンディングパッド38を介して大臼歯12に付着されている。犬歯取付部品は、犬歯10のエナメル質に付着されたボンディングパッド20を含む。
【0030】
ロッド30は、咬合−歯肉平面においてステップアップする鞍形状を有し、かつ頬舌側に穏やかに湾曲する。他の実施形態では、ロッド30は、頬−舌平面では直線であるが、歯肉−咬合平面では鞍形状である。ロッド30は、遠心ステップダウン部分14も有し、これは、斜めに湾曲するように示されているが、直線であるか、実質的に垂直であるか、または角度を付けられ、かつ丸みを帯びた角を有し得る。別の実施形態では、ロッド30は、近心ステップアップ部分を有し、これは、斜めに湾曲するように示されているが、直線であるか、実質的に垂直であるか、または角度を付けられ、かつ丸みを帯びた角を有し得る。
図11A〜
図11Cを参照すると、例えば、ロッド30は、その近心端部において、犬歯取付部品から大臼歯チューブ40に向かって近遠心方向に延在し(すなわち口の奥に向かって遠心側にまたは後方に)、かつ大臼歯チューブ40に結合された遠心端部52を有する。
【0031】
図1A、
図1C、
図2、
図3A、
図4A、
図5A、
図8、
図9A〜
図9Bおよび
図10A〜
図10Fに見られるように、フック34は、ロッド30上に位置して、別個の牽引力要素を斜め角度で下大臼歯に取り付けて(
図10Fに示す)、ロッド30上のフック34からの直接的な力を大臼歯チューブ40に加えるようにする。
図10Fに示す牽引要素は、牽引弾性材料である。しかしながら、牽引力要素は、フック34に取り付けることによってロッドに牽引力を与えるバネまたは別の均等な要素でもあり得る。ロッド30上のフック34の位置決めは、同様に犬歯歯冠、犬歯歯根に取り付けられかつ周囲の骨に覆われている犬歯パッドの前端に位置するフックにより、大臼歯チューブに対して間接的な力を有する(ここで、犬歯フックはまた、大臼歯12からより長い距離に位置している)従来のディスタライザーと異なるために有利である。言及した図面に示すように、フック34は、ロッド30の鞍形状部分に位置している。他の実施形態では(図示せず)、フック34は、ロッド30の斜め部分に位置し得る。例えば、フック34は、犬歯取付部品の近位のロッド30の近心ステップアップ部分に位置し得る。あるいは、フック34は、ロッド30の遠心ステップダウン部分14に位置し得
、かつ滑らかであり
得る。
図1Aを参照すると、上顎歯列全体の抵抗中心(CR)90、実際の局所的な上大臼歯CR94および上顎骨と、上大臼歯の後根のほぼ上に位置決めされた頬骨(zygoma)(頬骨(cheek bone))との間の縫合連結部の領域の近くに位置する上顎または上顎骨CR92が特定される。いくつかの実施形態では、フック34は、ロッド30の湾曲部分に位置し得る。他の実施形態では、フック34は、ロッド30の中央の第3の部分に位置し得る。歯槽骨に覆われた歯科用ユニットへ直接ではなく、鞍形状ロッド部分のロッド30上へのフック34の位置決めは、フック34がまた、直接的な歯科的取り付けとは無関係に、従来技術の機器と比較して大臼歯のCR94、歯列のCR90および上顎骨のCR92に前−後方向により近くなるために有利である。上述したようなロッド30上でのフック34の位置決めは、大臼歯の傾斜を減少させるために、上大臼歯12のより大きい歯体平行移動の機会も向上する。フック34の位置決めは、上顎骨成長を制限するために牽引要素によってより強い牽引力がフック34に直接加えられるときに、上顎骨の抵抗中心92により近くにあることによって上顎骨成長の制限をさらに向上させる一方、オーバージェット矯正のために下顎が前へ成長する。フック34は、犬歯に間接的な力を加えるという別の利点を提供する。なぜなら、フックは、犬歯に直接取り付けられておらず、および第2に、フックは、犬歯前端からより長い距離だけ遠心方向に離れており、かつより高い歯肉側にあるためである。従来技術の機器では、犬歯へ直接的に牽引要素を配置していたため、犬歯過挺出(ドラキュラ−犬歯の出現)の認識されている合併症に寄与していた。フック34は、ロッド30と一体的に形成されるか、または好適な手段によってそれに取り付けられる/溶接されることができる。
【0032】
ロッド30の遠心端部52は、大臼歯チューブ40の少なくとも1つの表面に係合して、フック34に対する牽引要素の力の作用下にあるときに大臼歯12に遠心力を加える。例えば、
図11A〜
図11Cを参照すると、遠心ロッド端部52は、大臼歯チューブ40の遠心壁に係合する。さらに、大臼歯チューブ40の内部44(点線で示す)は、開口部46から大臼歯チューブの遠心壁に向かってテーパが付けられる。ロッド30の遠心端部52(大臼歯チューブ40内部に点線で示す)は、ステップダウンするロッド部分14の遠心側にある。図面は、大臼歯チューブ40がボンディングパッド38によって大臼歯12に付着されていることも示す。
【0033】
図1A、
図1C、
図2、
図3A、
図4Aおよび
図5A、ならびに
図10A〜
図10Fを参照すると、犬歯取付部品は、歯科矯正用チューブ24をさらに含む。歯科矯正用チューブ24は、ボンディング樹脂(図示せず)によって犬歯エナメル質に取り付けるように作用する取付ボンディングパッド20に溶接されるか、ろう付けされるか、または二次成形された別個の構成要素である。ボンディングパッド20は、ロッド30の近心端部に一体的に形成されるか、またはロッド30の一部分に取り付けられる。歯科矯正用チューブ24は、それを近遠心方向に通過するアーチワイヤスロット19を含む。取付部品は、角度の付けられた菱形、矩形形状または他の好適な形状に付形される。アーチワイヤスロット19は、アーチワイヤの挿入が、犬歯取付部品から少なくとも1つの小臼歯ブラケットまでほぼ近遠心方向に通過することを可能にするような大きさにされる。アーチワイヤスロット19は、矩形であるかまたは任意の他の好適な形状を有し得る。
図10A〜
図10Fでは、上顎ロッド30上において、犬歯端部からかなり長い距離にありかつ非歯科用ユニットに位置するフック34を備える組み立てられたスライディングディスタライザーを、矩形アーチワイヤスロット19を有する歯科矯正用チューブ24と併せて示す。
【0034】
図10Eおよび
図10Fでは、上顎の第一および第二小臼歯において、矩形のステンレス鋼アーチワイヤを備える追加的な歯科矯正用ブラケット(ブレス)100および101が、鞍形状ロッド30のステップアップ部分によって収容されかつそれによって配置できるようにされた専用の固定ループガイドまたは固定ユニットとして使用される。鞍形状ロッド30は、小臼歯ブラケット100および101または固定ガイド(図示せず)の上方で歯肉側に位置決めされ、全体的にあまり摩擦を有しない丸みを帯びたアーチワイヤの部分(図示せず)が配列の初期の第1段階で配置されるときに、最初に小臼歯の自然な遠心ドリフトを可能にする。
【0035】
部分的な矩形アーチワイヤは、従来技術のディスタライザーにおいて見られる、故意ではない犬歯過挺出の合併症を防止する。この合併症は、前端に位置する従来技術のフックに加わり、かつ犬歯取付部品に直接加わる直接的な垂直の歯列弓間弾性力成分(
図10Fの大きい上向き矢印)によって生じる。
図10Fでは、ロッド30に一体化されたフック34は、犬歯から離れてさらに遠心側に位置する。これにより、犬歯を直接引き下げることを防止し、および長いレバーアームが加える、犬歯の過挺出を引き起こす傾斜力を減少させる。小臼歯ブラケット100および101または過挺出している犬歯をさらに支持する固定ループガイド(図示せず)は、セルフライゲーティングして、鞍形状ロッド30の下に(それに咬合して)位置する部分的な矩形アーチワイヤを簡単に除去できるようにもし得る。歯列弓間弾性材料の力は、3つの抵抗中心(90、92および94)により近くなるように、より後方で(遠心で)かつより高くより歯肉側の位置で与えられる。なぜなら、(従来技術において、骨に覆われた長い根犬歯にも取り付けられている犬歯取付近心構成要素の前端を介して、大臼歯に間接的な力を加えるのではなく)弾性材料は、バー30上に位置する機能的な中央フック34に取り付けられ、および大臼歯へのより直接的な弾性力を可能にする直接的な歯科用ユニット取付部品がないためである。重要なことは、このバー−フックが、大臼歯遠心移動のために、スライディングディスタライザーのより近位の遠心大臼歯チューブ40により直接的な力を提供すること、および第2に、臼歯の歯体移動のために大臼歯の抵抗中心により近くになるように、バーフックが自由におよびより高く歯肉側に配置されているため、このバー−フックがバイオメカニクス的により効果的であることである。第3に、より高い位置にあるバーフックは、上顎骨の抵抗中心に対してより近位にあり、オーバージェット−過蓋咬合および顎の骨格の形成異常のある患者においてその成長を制限する。
【0036】
アーチワイヤは、
図10Eおよび
図10Fに示すような別個の部分的なアーチワイヤである。アーチワイヤは、犬歯に位置する歯科矯正用チューブ24の矩形スロット19に、かつロッド30の下に配置される2つの後方に位置する小臼歯ブラケット100および101を通して配置される。これにより、前方固定セグメントを生じて犬歯過挺出の審美的な合併症を防止する。犬歯過挺出は、従来技術のディスタライザーの前端に位置するフックに対する牽引力の垂直ベクトルからの傾斜に直接起因する。これにより、固定大臼歯の抵抗中心94(
図1A)から離れた長いレバーアームを生じ、犬歯に対して著しい挺出力のモーメントを生じて、従来技術のディスタライザーによる犬歯の傾斜および過萌出を生じる。
【0037】
ディスタライザーバー30のステップアップするユーティリティアーチ形態または鞍形状には少なくとも5つの利点がある。それは、より高くより歯肉側の位置への新規のロッド−フック34の配置を可能にして、第1に大臼歯の歯体移動をより大きくし、および第2に、上顎骨成長がより大きい制限を受けるために、牽引力を3つの抵抗中心の全て(90、92および94)に対してより近くにできるようにする。第3に、鞍形状ロッド30は、犬歯にその前端において取り付けられたフックによって力をさらに離れるようにし、かつ大臼歯チューブに間接的な力を加える従来技術の機器と比較して、大臼歯チューブ40の遠心壁に対してロッド−フック34(歯に取り付けられていない)をより近くし、および牽引力をより直接的に加えることができるようにする。第4に、鞍形状は、牽引力を直接犬歯から垂直方向に遠ざけることができ、むしろ間接的な副次的な力を犬歯に提供して過挺出を防止する。第5に、垂直方向の犬歯の固定をさらに増大させるために、鞍形状は、特に2つの小型化した小臼歯ブラケット100および101の配置に必要な空間を提供し、歯科矯正用チューブ24が、セグメント化された矩形ステンレス鋼アーチワイヤと組み合わせられるときに、固体固定装置を形成して犬歯過挺出の合併症をさらに防止するようにする(
図10F)。
【0038】
いくつかの実施形態では、大臼歯チューブ40は、その近心歯肉頂にバイザーオーバーハング82(
図4Bおよび
図5B)を備える。一実施形態では、
図4Bおよび
図5Bから分かるように、鞍形状ロッド30の遠心ステップダウン部分14が大臼歯チューブ40上のバイザー様のオーバーハング82に係合するとき、牽引要素によって引き起こされかつロッド30へ伝達される遠心摺動力が大臼歯チューブ40に加えられる。バイザーオーバーハング82は、大臼歯が遠心移動するときに鞍形状ロッドの経路に従うように湾曲する。バイザーオーバーハング82は、大臼歯チューブ40に付着された別個の溶接された構成要素であるか、または大臼歯チューブ40の一部として形成される。
【0040】
本発明の別の実施形態によれば、
図13は、ステップダウン部分14の遠心であるロッド30の遠心端部52に取り付けられたか、またはそれに形成された本質的にD字形状の係合特徴50を有する遠心ロッド部分を示す、スライディングディスタライザーの大臼歯チューブ40を咬合側から見た拡大断面図である。D字形状の係合特徴50は、大臼歯チューブ40内の正弦曲線の保持特徴55に係合する。初期の大臼歯遠心移動(図示せず)の第1段階に続いて、D字形状の係合特徴50は、初期の最も遠心の空隙部49(初期の保持壁58から離れた点線)から近心側にかつ
図13に示す位置内に摺動し、ここで、係合特徴50は、第2の空隙部44の一部分を占有する。係合特徴50は、補足的な第2段階の遠心移動のために保持特徴壁55を再度遠心側に押し始める。
【0041】
図12Cおよび
図12Eを参照すると、ロッド30の遠心端部52にある球形係合特徴50は、大臼歯チューブ40の遠心壁に係合する。大臼歯チューブ40は、保持特徴49に球形係合特徴を受け入れる。大臼歯チューブ40の内部44は、図面において点線で示すようにテーパが付けられる。一実施形態では、遠心端部52は、最初に大臼歯チューブ40の頬側壁54の内部と接触する。牽引要素の力の作用下でロッド30が遠心側に移動されると、係合特徴50は、大臼歯チューブ40の遠心壁を押し、および大臼歯12が回転される。回転が発生すると、大臼歯チューブ40の舌側壁が遠心端部52の方へそれと接触するまで(図示せず)回転される。
【0042】
図12Dは、本発明のさらに別の実施形態による、ステップダウン部分14の遠心側にあり、漏斗状鍵穴−クラスプ49の形態の上大臼歯構成要素40の保持特徴に結合された球形係合特徴50を有する遠心ロッド端部52の拡大斜視図である。漏斗状鍵穴−クラスプ49は、係合特徴50の移動を制限しかつ鍵穴−クラスプ49から係合特徴が取り外しされることを防止するための少なくとも1つの制限特徴42または59を特徴とし得る。ロッド30が牽引要素の力の作用下で矢印の方向に移動されると、特徴50は、大臼歯構成要素40の遠心壁を押し、および大臼歯が遠心移動される。
【0043】
図12A〜
図12Bおよび
図12F〜
図12Hは、本発明のさらに別の実施形態による大臼歯ディスタライザーの遠心部分を示す。大臼歯構成要素は、Cクラスプ40の形態であり、一体形ユニットとして、大臼歯12のエナメル質に取り付けられる大臼歯ボンディングパッド38に接続される。Cクラスプ40は、フロア56を有し、全体的に球形または楕円体形状を有するロッド30の係合特徴50をCクラスプ40内に載置できるようにする。Cクラスプ40は、ロッド30の構成要素を大部分(完全にではないが)包むことにより、そこからの前方への抜け出しをさらに阻止する。これにより、接触することなくロッド30がCクラスプ40に入る係合特徴50の前側または近心の外観を残して、ロッド30のより自由な側方の(すなわち頬舌平面における)移動を可能にする。
【0044】
それにより、遠心移動のロッド力がCクラスプハウジング40の遠心壁に加えられ、その力がさらに後側に移動する。ロッド30を保持するCクラスプ40内では、外側(頬側(buccally)位置または頬側(cheek−side)位置の)フレア付き壁32および内側(舌側位置の)フレア付き壁42があり、大臼歯12が遠心移動するときにロッド30のピンに依らない側方の移動をさらに可能にする。
【0045】
別個のU字形状のクランプ74は、Cクラスプ40の頂部および底部を覆って配置されて、ロッド30の係合特徴50を大臼歯Cクラスプ40内に係止し得る。U字形状のクランプ74は、三壁であり、かつ頂部および底部の係止爪76の組を含む。Uクランプ74の係止爪76を収容するために、Cクラスプ40は、相補的な組の2つの係止溝78を、一方はCクラスプ40の歯肉(頂部)面に、および同様の係止溝78をCクラスプ40の咬合(底部)面に有する。これらの2つの係止溝78は、ボンディングパッドとの境界面のごく近くにあり得る。Cクラスプ40にある2つの係止溝78は、Cクラスプ40の上側を覆う三壁のUクランプ74の係合および係止を可能にする。三壁のクランプ74は、Cクラスプ40の後方(後ろ)から摺動し、かつCクラスプ構成要素の係止溝78に嵌入されて、ロッド30の係合特徴50を頂部または歯肉側からCクラスプ40に係止する。Cクラスプ56のフロアは、自動的にロッド30の係合特徴50の他方の咬合または底部側を確実に挟む。
【0046】
さらに、
図12Fおよび
図12Hに示すように、Uクランプ74を相補的にさらに固定するために、Cクラスプ40の頬側(buccal)(頬側(cheek−side))に位置する小さい差込部79があり、およびそれにより、Uクランプ74が近遠心(前から後ろへの)方向の滑りを防止する。三壁のUクランプ74は、ロッド30の係合特徴50を確実にCクラスプ40に収容することを支援する一方、ロッド30がCクラスプ40の遠心壁(後壁)を自由に押すことができるようにする。あるいは、三壁のUクランプ74は、ボンディングベースおよびCクラスプ40にレーザ溶接されて、それにより永久的に係止されるようにし得る。全体的に球形を有し得る係合特徴50は、ロッド30の遠心端部上に一体的に形成される。ロッド30は、係合特徴50よりもわずかに大きい寸法にされた球形空隙部などの対応する保持特徴49によって適所に保たれている係合特徴50により、Cクラスプ40に保たれる。保持特徴49は、
図12Gに示すように、保持特徴49内に係合特徴50を維持する制限特徴42および59を有する。
【0047】
ここで、
図1A〜
図1Cおよび
図2を参照すると、本発明の別の実施形態によるスライディングディスタライザーが示されている。この実施形態では、ロッド30の遠心部分は、楕円体の係合特徴50と、大臼歯チューブ40の頬側壁54の近心−咬合縁の近位にある垂直に向けられた頬側プッシュフランジレバー70とを有する。頬側プッシュフランジレバーは、大臼歯チューブ40に対して遠心側に力を加える。上大臼歯構成要素40は、保持特徴49を有するフレア付きクラスプの形態であり、かつボンディングパッド38を介して大臼歯に取り付け可能である。係合特徴50は、頬側壁54の近心端部の近くの制限特徴59と、舌側壁の近心端部の近くの制限特徴42とによって保持特徴49内に保持される。係合特徴50は、咬合側フロア56および歯肉側ルーフキャップ72によってさらに垂直に保持される。内部クラスプハウジング49は、頬側壁54および歯肉側壁48の近心端部31、32において、内部49への係合特徴50の挿入を容易にするためにそれぞれ近心側へ外向きにフレアが付けられている。係合特徴50は、上大臼歯構成要素40の咬合側底壁56に載置し得る。ディスタライザーが遠心側に移動されると、ロッド−フック34上に位置する牽引要素の作用下において、頬側プッシュフランジレバー70は、大臼歯構成要素40に対して
図1Bの矢印の方向に力を加える。頬側プッシュフランジレバー70は、ロッド30に対して頬側にオフセットされ、それにより、頬側プッシュフランジレバー70は、頬側壁54の近心縁に係合する。いくつかの実施形態では、頬側壁54の近心縁は、フレア付き近心端部32を有する。従って、頬側プッシュフランジレバー70は、頬側壁54のフレア付き近心端部32の最も頬側の縁に係合する。力は、大臼歯構成要素40およびボンディングパッド38を経由して大臼歯に伝達され、大臼歯12を遠心側に摺動させる。
【0048】
有利には、
図1Bおよび
図3Dに示す横方向寸法を参照すると、頬側壁54のフレア付き端部32の最も頬側の縁に対する頬側プッシュフランジレバー70の接触点と大臼歯抵抗中心94との間の距離が長いことに起因して、大臼歯12の周りでの力のモーメントが増大し、大臼歯の回転をより効果的にする。さらに、牽引要素の力により小さい力が加えられて、大臼歯12を遠心移動させ、歯根吸収の合併症を防止し得る。さらに、頬側プッシュフランジレバー70は、CR90からより離れた、すなわちより後方の大臼歯チューブ40での従来技術の接触よりも上顎歯列の抵抗中心90の近くにある。さらに、頬側プッシュフランジレバー70は、頬の近くに位置するためにかつ骨格の上顎骨成長を制限するために上顎骨の抵抗中心92の近くにあり、および頬骨(zygoma)(頬骨(cheek bone))の近位にある。
【0049】
図2は、分解した態様で
図1A〜
図1Cのスライディングディスタライザーを示す。フレア付きクラスプの形態である上大臼歯構成要素40は、ロッド30の遠心部分に位置する係合特徴50および頬側フランジ70から切り離されて示されている。上大臼歯構成要素40から持ち上げられて外された大臼歯チューブ40の歯肉側ルーフキャップ72も示されている。キャップ72は、保持特徴49に嵌合するような形状および寸法にされた突起74を備える。キャップ72は、突起74と、大臼歯構成要素40の壁48および54の内部との間の摩擦によって大臼歯構成要素40上に摩擦嵌合されるか、または大臼歯構成要素にレーザ溶接されるか、またはクリンプされる。
【0050】
図4A〜
図4Bおよび
図5A〜
図5Bは、頬側プッシュフランジレバー70に対する代替形態を示す。垂直に向けられた頬側プッシュタブレバー84は、大臼歯チューブ40のフロア56の近心縁47の近位にある鞍形状ロッド30の遠心部分上に位置する。ディスタライザーが、ロッド−フック上に位置する牽引要素の力によって遠心側に移動されると、上述したように、頬側プッシュタブレバー84は、近心縁47において大臼歯チューブ40に係合するため、大臼歯チューブ40および大臼歯12に対して遠心摺動力を加える。一実施形態では、遠心摺動力は、鞍形状ロッド30のステップダウン部分14が大臼歯チューブ40上のバイザー様のオーバーハング82に係合するときに大臼歯チューブ40に加えられる。別の実施形態では、遠心摺動力は、頬側プッシュタブレバー84が大臼歯チューブ40のフロア56の近心縁47に係合するときに大臼歯チューブ40に加えられる。さらに別の実施形態では、係合特徴50、頬側プッシュタブレバー84およびステップダウン部分14は、全て大臼歯チューブ40に同時に係合し、従って様々な点から大臼歯12に遠心摺動力を加え得る。他の実施形態では(図示せず)、頬側プッシュタブレバー84は、水平に向けられ、かつ大臼歯チューブ40の頬側壁54の近心縁に係合し、従って大臼歯12の周りでより大きい回転のモーメントを生じ得る。
【0051】
ここで、
図3A〜3Eおよび
図5A〜
図5Bならびに
図14を参照すると、上大臼歯チューブ40には、その遠心壁にアパーチャまたは孔51がある。鞍形状ロッド30の遠心端部52は、大臼歯チューブ40の内部44を通過し、その後、アパーチャ51において大臼歯チューブ40から出る。アパーチャ51は、楕円形であり、または治療中にロッド30の遠心端部52の頬−舌方向の移動を可能にするために、頬−舌方向において、咬合−歯肉方向の長さよりも長い長さを有する。ロッド30は、遠心端部52に付着されたブロッキング特徴53を有し、それにより、例えば咀嚼中などにロッド30が大臼歯チューブ40から取り外されることを防止する。ブロッキング特徴53は、ロッドにクリンプされるかまたは通され、および同様に、ロッド30も、遠心端部52において通されて、ブロッキング特徴53が、アパーチャ51を通した配置後にロッド30に回してはめ込まれるようにする。あるいは、ブロッキング特徴53は、装置の製造中、遠心端部52のチップにおいてロッド30に一体的に形成または溶接される。
【0052】
図14を参照すると、ロッド30の遠心端部52の一部分は、大臼歯チューブ40の頬側壁54の内面に摩擦係合して、ロッド−フック34上の牽引要素の力の作用下で大臼歯チューブ40に遠心力を加える。いくつかの実施形態では、アパーチャ51は、ロッド−フック34上の牽引要素の力の作用下で大臼歯チューブ40に遠心力を加えるために、ロッド30の遠心端部52の一部分がアパーチャ51において大臼歯チューブ40の遠心壁に摩擦係合するような大きさにされる。大臼歯チューブ40の内部44は、点線で示すように、近心開口部46からその遠心壁に向かって開口してテーパが付けられる。一実施形態では、遠心端部52は、最初に大臼歯チューブ40の頬側壁54の内部と接触する。ロッド30が牽引要素の力の作用下で遠心側に移動されると、遠心端部52は、アパーチャ51において大臼歯チューブ40の遠心壁に摩擦係合する。これにより、大臼歯チューブ40および大臼歯12を遠心移動させる。遠心移動が発生すると、大臼歯チューブ40の舌側壁は、遠心端部52の方へそれと接触するまで回転する(図示せず)。
【0053】
図6、
図7、
図8、
図9A〜
図9Bおよび
図10A〜
図10Fに示すさらに別の実施形態では、ロッド30の端部を内部に維持する係止爪98および99を備えるスライディングディスタライザーの遠心構成要素が示されている。爪98および99は、大臼歯チューブ40の上壁(歯肉側)および底壁(咬合側)に形成され得る。
図6は、爪98および99が開放態様にある大臼歯チューブ40を示し、ここで、それらは、大臼歯チューブ40の歯肉側壁および咬合側壁と一直線上に配列されている。
図7は、係止爪98および99が係止態様にある大臼歯チューブ40を示し、ここで、それらは湾曲構成である。一般に、大臼歯チューブ40は、開放態様にある爪98および99を有するため、ロッド30の遠心端部が大臼歯チューブ40の内部に挿入される。ロッド30の遠心端部は、
図8および
図9A〜
図9Bに示すような係合特徴50を含む。大臼歯チューブ40へのロッド30の遠心端部の挿入に続いて、係止爪98および99は、クリンプまたは任意の他の方法のいずれかによって係止態様へ移動される。これは、ディスタライザーの異なる図を示す
図10A〜
図10Fに示される。
【0054】
大臼歯チューブ40の内部44を空隙部として示すが、空隙部は、圧縮性材料、例えば潤滑材、ポリカーボネート、ワックス、発泡体またはゴムで満たされて大臼歯12の遠心移動力の量を調整する。あるいは、大臼歯チューブ40の内部44は、ワックスなどの材料で被覆されて、装置全体の初期のボンディングの際にロッド30と内部44との間の滑りを低減させるか、または構成要素を適所に維持するために摩擦を増大させる。
【0055】
本明細書の実施形態は、II級の矯正のためのディスタライザーを示すが、ディスタライザーは、III級の矯正のために、別個の牽引要素が上顎第一大臼歯において別個の底部取付部品に取り付けられて下犬歯および下大臼歯に配置され得る。
【0056】
ここで、実施形態は、犬歯および大臼歯に配置された歯科矯正装置を説明しているが、歯科矯正装置は、より短くされて歯の異なる対に適用され得る。別の代替形態では、取付部品は、好適な歯根の強度の近心歯(例えば、第一小臼歯)に配置され得、および大臼歯チューブは、場合により任意の好適な遠心歯(例えば、第二大臼歯)に配置され得る。
本明細書の実施形態は、患者の歯の頬側に位置するディスタライザーを示すが、ディスタライザーを患者の歯の舌側に適用することも可能である。
本明細書の実施形態は、頬側プッシュフランジレバーを示すが、患者の頬の舌側にディスタライザーが位置する場合には、プッシュフランジレバーも舌側に位置する。
本明細書の実施形態は、頬側プッシュタブレバーを示すが、患者の頬の舌側にディスタライザーが位置する場合には、プッシュタブレバーも舌側に位置する。
【0057】
本明細書で説明する実施形態は、例にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。当業者は、本明細書の説明を適応し、かつ同じまたは同様の機能を実施する均等な要素を代用することができるであろう。