特許第6878529号(P6878529)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6878529
(24)【登録日】2021年5月6日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導性酸化物
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/37 20060101AFI20210517BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20210517BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20210517BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20210517BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   C01B25/37 M
   H01M10/0562
   H01M10/052
   H01B1/06 A
   H01B1/08
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-158373(P2019-158373)
(22)【出願日】2019年8月30日
(65)【公開番号】特開2021-38100(P2021-38100A)
(43)【公開日】2021年3月11日
【審査請求日】2020年10月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】清 良輔
(72)【発明者】
【氏名】李 建燦
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 駿介
【審査官】 佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2020/036290(WO,A1)
【文献】 国際公開第2018/181827(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/008097(WO,A1)
【文献】 KIM, J. et al.,LiTa2PO8: a fast lithium-ion conductor with new framework structure,Journal of Materials Chemistry A,英国,2018年10月29日,Vol.6,pp.22478-22482,URL,doi: 10.1039/c8ta09170f
【文献】 HUSSAIN, F. et al.,Theoretical Insights into Li-ion Transport in LiTa2PO8,The Journal of Physical Chemistry C,米国,2019年 7月23日,Vol.123,pp.19282-19287,URL,doi: 10.1021/acs.jpcc.9b03313
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/37
H01B 1/00 − 1/24
H01M 10/05 − 10/0587
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン伝導性酸化物であって、
少なくとも、リチウム、タンタル、リン、M2および酸素を構成元素として有し、
M2は、14族の元素およびAlからなる群(ただし、炭素を除く)から選ばれる少なくとも一種の元素であり、
リチウム、タンタル、リン、M2および酸素の各構成元素の原子数の比が、1:2:1−y:y:8であり、
前記yが0より大きく0.7未満であり、
単斜晶の含有率の合計が60%以上である、リチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項2】
前記M2が、Si、GeおよびAlからなる群から選ばれるいずれか一種以上の元素である請求項1に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項3】
トータルでのリチウムイオン伝導度σtotal(25℃)が1.50×10-4(S/cm)以上である請求項1〜のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物を固体電解質として含むリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、タブレット端末、携帯電話、スマートフォン、および電気自動車(EV)等の電源として、高出力かつ高容量の電池の開発が求められている。その中でも有機溶媒などの液体電解質に替えて、固体電解質を用いた全固体リチウムイオン電池が、充放電効率、充電速度、安全性、および生産性に優れるとして注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、基本構成をSrZrOとするペロブスカイト型イオン伝導性酸化物が開示されている。
【0004】
また、非特許文献1においては、単斜晶の結晶構造を有するLiTaPOが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−169145号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Kim et al., J. Mater. Chem. A, 2018, 6, p22478-22482
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リチウムイオンが伝導する固体電解質としては、硫化物系の固体電解質も知られているが、安全性の観点からは酸化物系の固体電解質が好ましい。特許文献1開示のイオン伝導性酸化物は、SrサイトやZrサイトが他の元素により置換された基本組成を有することにより、粒界部での電気伝導度を向上させているものの、まだ十分ではなく、結晶粒界におけるリチウムイオン伝導性が高く、かつ、結晶粒内と結晶粒界のリチウムイオン伝導度のトータルのイオン伝導度の向上が望まれていた。また、非特許文献1で開示されているLiTaPOのトータルのリチウムイオン伝導度は2.48×10−4(S/cm)と、例えば特許文献1開示のペロブスカイト型化合物よりも低い。
【0008】
上記の従来の技術においては、リチウム、タンタル、リンおよび酸素を構成元素として有するリチウムイオン伝導性酸化物において、結晶粒内と結晶粒界のリチウムイオン伝導度のトータルのイオン伝導度を向上させる記載や示唆はない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下に示す構成を含んでいる。
【0010】
[1]
リチウムイオン伝導性酸化物であって、
少なくとも、リチウム、タンタル、リン、M2および酸素を構成元素として有し、
M2は、14族の元素およびAlからなる群(ただし、炭素を除く)から選ばれる少なくとも一種の元素であり、
リチウム、タンタル、リン、M2および酸素の各構成元素の原子数の比が、1:2:1−y:y:8であり、
前記yが0より大きく0.7未満であり、
単斜晶を含有するリチウムイオン伝導性酸化物。
[2]
前記M2が、Si、GeおよびAlからなる群から選ばれるいずれか一種以上の元素である前項1に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
[3]
単斜晶の含有量の合計が60%以上である前項1または2に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
[4]
トータルでのリチウムイオン伝導度σtotal(25℃)が1.50×10−4(S/cm)以上である前項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
[5]
請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物を固体電解質として含むリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物は、例えば、リチウムイオン二次電池の固体電解質として用いたとき、結晶粒界におけるリチウムイオン伝導性が高く、かつ、結晶粒内と結晶粒界のリチウムイオン伝導度のトータルのイオン伝導度の高いリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で作製したリチウムイオン伝導性酸化物(1)のX線回折図形である。
図2】実施例2で作製したリチウムイオン伝導性酸化物(2)のX線回折図形である。
図3】実施例3で作製したリチウムイオン伝導性酸化物(3)のX線回折図形である。
図4】実施例4で作製したリチウムイオン伝導性酸化物(4)のX線回折図形である。
図5】実施例5で作製したリチウムイオン伝導性酸化物(5)のX線回折図形である。回折ピークのうち、LiTaPO相当の単斜晶以外の不純物に由来する回折ピークを○印で示す。
図6】実施例6で作製したリチウムイオン伝導性酸化物(6)のX線回折図形である。回折ピークのうち、LiTaPO相当の単斜晶以外の不純物に由来する回折ピークを○印および▽印で示す。
図7】実施例7で作製したリチウムイオン伝導性酸化物(7)のX線回折図形である。回折ピークのうち、LiTaPO相当の単斜晶以外の不純物に由来する回折ピークを○印および▽印で示す。
図8】実施例8で用意したリチウムイオン伝導性酸化物(8)のX線回折図形である。回折ピークのうち、LiTaPO相当の単斜晶以外の不純物に由来する回折ピークを▽印で示す。
図9】比較例1で作製したリチウムイオン伝導性酸化物(c1)のX線回折図形である。
図10】比較例2で作製したリチウムイオン伝導性酸化物(c2)のX線回折図形である。回折ピークのうち、LiTaPO相当の単斜晶以外の不純物に由来する回折ピークを▽印および□印で示す。
図11】実施例4で作製したリチウムイオン伝導性酸化物(4)の、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて得た透過画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施態様について詳細に説明する。
【0014】
(リチウムイオン伝導性酸化物の結晶系)
本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物は、LiTaPOのPの一部が元素M2で置換されたものを基本構成とし、X線回折測定において単斜晶の結晶系を有することが確認される。単斜晶の結晶系が確認されるLiTaPOは、格子定数a、b、cがそれぞれ9.712Å、11.532Å、10.695Åであり、βの角度が90.03°であり、理論密度は、5.85(g/cm)である。これらの格子定数とβの角度は、実施例において後述するリートベルト解析を行うことによって算出することができる。本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物は、元素M2がP位置に置換してドープされており、元素M2の元素種およびドープ量に応じて格子定数とβの角度が変動するが、単斜晶の結晶系は保たれる。より具体的には、単斜晶であっても、ドープ量によってβの角度が変化して90°に近くなると、直方晶になるということもできる。
【0015】
(リチウムイオン伝導性酸化物の構成元素)
本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物は、少なくとも、リチウム、タンタル、リン、M2および酸素を構成元素として有し、M2は、14族の元素とAlからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、リチウム、タンタル、リン、M2および酸素の各構成元素の原子数の比が、1:2:1−y:y:8であり、前記yが0より大きく0.7未満である。本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物は、リチウムを含有する特定の酸化物からなるリチウムイオン伝導性酸化物ともいえる。ただ、このことは、リチウムイオン伝導性酸化物における不純物の存在を厳密に排除するものでなく、原料および/または製造過程などに起因する不可避不純物、その他、リチウムイオン伝導性を劣化させない範囲内において他の結晶系を有する不純物が本発明のリチウムイオン伝導性酸化物に含まれることは差し支えない。
本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物を構成するリチウム、タンタル、リン、元素M2および酸素の各構成元素の原子数の比は、例えば、LiCoO等のリチウム含有遷移金属酸化物として、Mn、Co、Niが1:1:1の割合で含有されている標準粉末試料を用いて、オージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)により絶対強度定量法を用いて行うことができる。
【0016】
(元素M2含有量)
本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物は、下記式(1)で表すことができる。
LiTa1―yM2 …式(1)
上記式(1)においてyで表される、リチウムイオン伝導性酸化物が含む元素M2の含有量は、0より大きく0.7未満である。この含有量の範囲は、リンと元素M2の元素の合計原子数に対する元素M2の原子数の百分率で表すと、0.0より大きく70.0未満である。上記式(1)のyで表すとき、元素M2含有量の下限は、好ましくは0.01であり、より好ましくは0.02であり、さらに好ましくは0.03である。元素M2含有量の上限は、好ましくは0.65であり、より好ましくは0.60であり、さらに好ましくは0.55である。元素M2含有量が上記の範囲であると、後述する結晶粒内と結晶粒界のリチウムイオン伝導度のトータルのイオン伝導度が高い。元素M2含有量は、リンと元素M2との合計原子数に対する元素M2の原子数の百分率として、従来公知の定量分析により求めることができる。例えば、試料に酸を加えて熱分解後、熱分解物を定容し、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて求めることができる。後述するリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法において、リンと元素M2は系外に流出しないので、元素M2のドープ量として、リンと元素M2との合計原子数に対する元素M2の原子数の百分率としては、簡易的に原材料の仕込み量から算出することができる。
【0017】
(元素M2)
リチウムイオン伝導性酸化物が含む元素M2は、14族の元素およびAlからなる群(ただし、炭素を除く)から選ばれる少なくとも一種の元素である。M2は、Si、GeおよびAlからなる群から選ばれるいずれか一種以上であることが好ましい。結晶粒界におけるリチウムイオン伝導度が大きくなることから、元素M2は、SiおよびAlがより好ましく、Siがさらに好ましい。これらの元素M2は、2種以上を併せて用いてもよい。
リチウムイオン伝導性酸化物の構成元素の価数に着目したとき、ドープされる元素M2はリンと価数が異なるので、電化中性のバランスをとるため、リチウムイオン伝導性酸化物に含有されるリチウムが増減することが考えられる。例えば、増減量をαで表すと、リチウムイオン伝導性酸化物は、下記式(2)で表すことができる。
Li1+αTa1―yM2 …式(2)
【0018】
(単斜晶の含有率)
リチウムイオン伝導性酸化物がX線回折測定において確認される単斜晶の含有率は、60%以上であることが好ましい。単斜晶の含有率は、実施例において後述する、リートベルト解析を用いた方法で求めることができる。単斜晶の含有率の合計は、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。単斜晶の含有率が上述した範囲であると、トータルでのリチウムイオン伝導度が大きくなる傾向がある。
【0019】
(その他の結晶構造)
リチウムイオン伝導性酸化物は、後述する製造方法において焼成が不十分な場合、原材料が残存すると、X線回折測定において原材料に由来する回折ピークが確認される場合がある。原材料として用いる、炭酸リチウム(LiCO)、五酸化タンタル(Ta)、元素M2の酸化物、およびリン酸一水素二アンモニウム((NHHPO)の存在は、X線回折測定により確認することができる。これらの原材料化合物はリチウムイオン伝導性を有しないので含まないことが好ましい。また、焼成が不十分な場合に、副生成物の存在がX線回折測定において副生成物に由来する回折ピークとして確認される場合がある。タンタル酸リチウム(LiTaO)、LiPO、TaPO、Ta、元素M2とリチウム、タンタルおよびケイ素の複合酸化物などが観測される場合があり、これらの副生成物はリチウムイオン伝導性が小さいため含まないことが好ましい。
【0020】
(トータルでのリチウムイオン伝導度)
リチウムイオン伝導性酸化物のトータルでのリチウムイオン伝導度は、結晶粒内と結晶粒界のリチウムイオン伝導度のトータルのイオン伝導度であり、例えば、後述する実施例において記載するイオン伝導度評価のインピーダンス測定で求めることができる。リチウムイオン伝導性酸化物は、好ましくは、25℃において測定されるトータルでのリチウムイオン伝導度σtotal(25℃)が1.50×10−4(S/cm)以上である。より好ましくは1.55×10−4(S/cm)であり、さらに好ましくは2.00×10−4(S/cm)であり、さらに好ましくは2.50×10−4(S/cm)である。上述した本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物は、特に用途に制限があるわけではないが、特にリチウムイオン二次電池用の固体電解質として好適に用いることができる。
【0021】
(結晶粒界におけるリチウムイオン伝導度)
リチウムイオン伝導性酸化物の結晶粒界におけるリチウムイオン伝導度は、例えば、前述したトータルでのリチウムイオン伝導度と同様に、インピーダンス測定で求めることができる。リチウムイオン伝導性酸化物は、好ましくは、25℃において測定される結晶粒界でのリチウムイオン伝導度σgb(25℃)が3.00×10−4(S/cm)以上である。より好ましくは3.50×10−4(S/cm)であり、さらに好ましくは4.00×10−4(S/cm)である。上述した本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物は、特に用途に制限があるわけではないが、特にリチウムイオン二次電池用の固体電解質として好適に用いることができる。
【0022】
(結晶粒のメジアン径)
リチウムイオン伝導性酸化物が含む結晶粒のメジアン径は、好ましくは結晶粒径の算術平均が6.0μm以下であり、より好ましくは3.0μm以下であり、さらに好ましくは1.5μm以下である。リチウムイオン伝導性酸化物が含む結晶粒のメジアン径は、後述する方法で作製したリチウムイオン伝導性酸化物のペレットに対して、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて1000倍以上の倍率で透過画像を得、任意の100μm四方の領域において少なくとも100個の結晶粒の粒径を計測して求める。結晶粒は完全な球形ではないので、最長径を結晶粒の粒径とする。本明細書においては、結晶粒の最長径とは、以下のようにして求められる結晶粒の輪郭を構成する多角形が有する最長の対角線の長さを意味する。
【0023】
リチウムイオン伝導性酸化物の透過画像において、結晶粒の輪郭は視野平面において凸多角形として観測される。凸多角形が有する複数の長さの対角線のうち最長の対角線の長さを結晶粒の最長径とする。
【0024】
なお、リチウム、タンタル、リン、元素M2および酸素を構成元素とする結晶粒と、他の結晶粒との区別は、TEM装置に付属するエネルギー分散型X線分光(EDS)分析装置を用いて、結晶粒が含有する元素の違いから確認することもできる。
【0025】
(リチウムイオン伝導性酸化物の製造方法)
本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法は、上記の構成の範囲内のリチウムイオン伝導性酸化物が得られる限り特に限定されない。固相反応、液相反応等が採用可能である。以下、固相反応による製造方法について詳細に説明する。
【0026】
固相反応による製造方法は、少なくともそれぞれ1段階の混合工程と焼成工程を有する製造方法が挙げられる。
混合工程では、リチウム原子、タンタル原子、元素M2をそれぞれ含む化合物およびリン酸塩を混合する。
リチウム原子を含有する化合物としては、特に限定はされないが、扱いやすさから無機化合物が好ましく、リチウム原子を含有する無機化合物としては、炭酸リチウム(LiCO)、酸化リチウム(LiO)などのリチウム化合物を挙げることができる。これらのリチウム化合物は1種単独でもよく、2種以上併用してもよい。分解、反応させやすいことから炭酸リチウム(LiCO)を用いることが好ましい。
タンタル原子を含有する化合物としては、特に限定はされないが、扱いやすさから無機化合物が好ましく、五酸化タンタル(Ta)、硝酸タンタル(Ta(NO)などのタンタル化合物を挙げることができる。これらのタンタル化合物は1種単独でもよく、2種以上併用してもよい。コストの点から五酸化タンタル(Ta)を用いることが好ましい。
元素M2を含有する化合物としては、特に限定はされないが、扱いやすさから無機化合物が好ましく、元素M2の単体、または酸化物を挙げることができる。これらの物質は1種単独でもよく、2種以上併用してもよい。扱いやすさの点から酸化物を用いることが好ましい。
元素M2がSi、GeおよびAlである場合には、酸化物としてそれぞれ、酸化ケイ素(SiO)、酸化ゲルマニウム(GeO)および酸化アルミニウム(Al)が挙げられる。
リン酸塩としては、特に限定はされないが、分解、反応させやすいことからリン酸一水素二アンモニウム((NHHPO)、リン酸二水素一アンモニウム(NHPO)などのリン酸塩を挙げることができる。これらのリン酸塩は1種単独でもよく、2種以上併用してもよい。
上述した原材料の混合方法としては、ロール転動ミル、ボールミル、小径ボールミル(ビーズミル)、媒体撹拌ミル、気流粉砕機、乳鉢、自動混練乳鉢、槽解機またはジェットミルなどの方法を用いることができる。混合する原材料の比率は、簡便には、上述した式(1)の組成となるよう化学量論比で混合する。より具体的には、後述する焼成工程において、リチウム原子が系外へ流出しやすいので、上述したリチウム原子を含有する化合物を1〜2割程度過剰に加えて調節されてもよい。
混合雰囲気は、大気下で行ってもよい。酸素ガス含有量の調整された窒素ガスおよび/またはアルゴンガスのガス雰囲気であることがより好ましい。
焼成工程では、混合工程で得た混合物を焼成する。焼成工程を、例えば低温焼成と高温焼成の2段階の工程とするように複数回行う場合には、焼成工程間に、一次焼成物を解砕し、または小粒径化することを目的として、ボールミルや乳鉢を用いた解砕工程を設けてもよい。
焼成工程は大気下で行ってもよい。酸素ガス含有量の調整された窒素ガスおよび/またはアルゴンガスのガス雰囲気であることがより好ましい。
焼成温度としては、800〜1200℃の範囲が好ましく、950〜1100℃の範囲がより好ましく、950〜1000℃の範囲がさらに好ましい。800℃以上で焼成すると元素M2の固溶が十分に行われてイオン伝導度が向上し、1200℃以下にすると、リチウム原子が系外へ流出しにくく好ましい。焼成時間は、1〜16時間が好ましく、3〜12時間が好ましい。焼成時間が前述の範囲であると、結晶粒内と結晶粒界との両方において、バランスよくイオン伝導度が大きくなりやすく好ましい。焼成時間が前述の範囲より長いと、リチウム原子が系外へ流出しやすい。焼成の時間と温度は互いに合わせて調整される。
焼成工程を、例えば低温焼成と高温焼成の2段階の工程とする場合、低温での仮焼成は、400〜800℃で、2〜12時間行ってもよい。
また、副生成物の残存を抑えるために、高温焼成を2回行ってもよい。2回目の焼成工程では、焼成温度としては、800〜1200℃の範囲が好ましく、950〜1100℃の範囲がより好ましく、950〜1000℃の範囲がさらに好ましい。各焼成工程の焼成時間は1〜8時間が好ましく、2〜6時間が好ましい。
焼成後に得られる焼成物は、大気中に放置すると、吸湿したり二酸化炭素と反応したりして変質することがある。焼成後に得られる焼成物は、焼成後の降温において200℃より下がったところで除湿した不活性ガス雰囲気下に移して保管することが好ましい。
このようにして本願発明のリチウムイオン伝導性酸化物を得ることができる。
【0027】
(リチウムイオン二次電池)
リチウムイオン伝導性酸化物の好適な実施態様の1つとして、固体電解質として、リチウム二次電池に利用することが挙げられる。リチウム二次電池の構造は、特に限定されないが、例えば、固体電解質層を備える固体電池の場合、正極集電体、正電極層、固体電解質層、負電極層および負極集電体がこの順に積層された構造を成している。
正極集電体および負極集電体は、その材質が電気化学反応を起こさずに電子を導電するものであれば特に限定されない。例えば、銅、アルミニウム、鉄等の金属の単体および合金、またはアンチモンドープ酸化スズ(ATO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)などの導電性金属酸化物などの導電体で構成される。なお、導電体の表面に導電性接着層を設けた集電体を用いることもできる。導電性接着層は、粒状導電材や繊維状導電材などを含んで構成することができる。
【0028】
正電極層および負電極層は、公知の粉末成形法によって得ることができる。例えば、正極集電体、正電極層用の粉末、固体電解質層用の粉末、負電極層用の粉末および負極集電体をこの順に重ね合わせて、それらを同時に粉末成形することによって、正電極層、固体電解質層および負電極層のそれぞれの層形成と、正極集電体、正電極層、固体電解質層、負電極層および負極集電体のそれぞれの間の接続を同時に行うこともできる。また、各層を逐次に粉末成形することもできる。得られた粉末成形品を、必要に応じて、焼成などの熱処理を施してもよい。
【0029】
粉末成形法としては、例えば、粉末に溶剤を加えてスラリーとし、スラリーを集電体に塗布し、乾燥させ、次いで加圧することを含む方法(ドクターブレード法)、スラリーを吸液性の金型に入れ、乾燥させ、次いで加圧することを含む方法(鋳込成形法)、粉末を所定形状の金型に入れ圧縮成形することを含む方法(金型成形法)、スラリーをダイスから押し出して成形することを含む押出成形法、粉末を遠心力により圧縮して成形することを含む遠心力法、粉末をロールプレス機に供給して圧延成形することを含む圧延成形法、粉末を所定形状の可撓性バッグに入れ、それを圧力媒体に入れて等方圧を加えることを含む冷間等方圧成形法(cold isostatic pressing)、粉末を所定形状の容器に入れ真空状態にし、その容器に高温下、圧力媒体にて等方圧を加えることを含む熱間等方圧成形法(hot isostatic pressing)などを挙げることができる。
【0030】
金型成形法としては、固定下パンチと固定ダイに粉末を入れ、可動上パンチで粉末に圧を加えることを含む片押し法、固定ダイに粉末を入れ、可動下パンチと可動上パンチで粉末に圧を加えることを含む両押し法、固定下パンチと可動ダイに粉末を入れ、可動上パンチで粉末に圧を加え圧が所定値を超えた時に可動ダイを移動させて固定下パンチが相対的に可動ダイの中に入り込むようにすることを含むフローティングダイ法、固定下パンチと可動ダイに粉末を入れ、可動上パンチで粉末に圧を加えると同時に可動ダイを移動させて固定下パンチが相対的に可動ダイの中に入り込むようにすることを含むウイズドローアル法などを挙げることができる。
【0031】
正電極層の厚さは、好ましくは10〜200μm、より好ましくは30〜150μm、さらに好ましくは50〜100μmである。固体電解質層の厚さは、好ましくは50nm〜1000μm、より好ましくは100nm〜100μmである。負電極層の厚さは、好ましくは10〜200μm、より好ましくは30〜150μm、さらに好ましくは50〜100μmである。
【0032】
(活物質)
負電極用の活物質としては、リチウム合金、金属酸化物、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、ケイ素、ケイ素合金、ケイ素酸化物SiO(0<n≦2)、ケイ素/炭素複合材、多孔質炭素の細孔内にケイ素を内包する複合材、チタン酸リチウム、チタン酸リチウムで被覆されたグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも一つを含有するものを挙げることができる。ケイ素/炭素複合材や多孔質炭素の細孔内にケイ素ドメインを内包する複合材は、比容量が高く、エネルギー密度や電池容量を高めることができるので好ましい。より好ましくは、多孔質炭素の細孔内にケイ素ドメインを内包する複合材であり、ケイ素のリチウム吸蔵/放出に伴う体積膨張の緩和性に優れ、複合電極材料または電極層において、マクロ導電性、ミクロ導電性およびイオン伝導性のバランスを良好に維持することができる。特に好ましくは、ケイ素ドメインが非晶質であり、ケイ素ドメインのサイズが10nm以下であり、ケイ素ドメインの近傍に多孔質炭素由来の細孔が存在する、多孔質炭素の細孔内にケイ素ドメインを内包する複合材である。
【0033】
正電極用の活物質としては、LiCo酸化物、LiNiCo酸化物、LiNiCoMn酸化物、LiNiMn酸化物、LiMn酸化物、LiMn系スピネル、LiMnNi酸化物、LiMnAl酸化物、LiMnMg酸化物、LiMnCo酸化物、LiMnFe酸化物、LiMnZn酸化物、LiCrNiMn酸化物、LiCrMn酸化物、チタン酸リチウム、リン酸金属リチウム、遷移金属酸化物、硫化チタン、グラファイト、ハードカーボン、遷移金属含有リチウム窒化物、酸化ケイ素、ケイ酸リチウム、リチウム金属、リチウム合金、Li含有固溶体、およびリチウム貯蔵性金属間化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有するものを挙げることができる。LiNiCoMn酸化物、LiNiCo酸化物またはLiCo酸化物が好ましく、LiNiCoMn酸化物がより好ましい。この活物質は固体電解質との親和性がよく、マクロ導電性、ミクロ導電性およびイオン伝導性のバランスに優れる。また、平均電位が高く、比容量と安定性のバランスにおいてエネルギー密度や電池容量を高めることができるからである。また、正電極用の活物質は、イオン伝導性酸化物であるニオブ酸リチウム、リン酸リチウムまたはホウ酸リチウム等で表面が被覆されていてもよい。
【0034】
本発明の一実施形態における活物質は、粒子状が好ましい。その体積基準粒度分布における50%径は0.1μm以上30μm以下が好ましく、0.3μm以上20μm以下がより好ましく0.4μm以上10μm以下がさらに好ましく0.5μm以上3μm以下が最も好ましい。また、短径の長さに対する長径の長さの比(長径の長さ/短径の長さ)、すなわちアスペクト比が、好ましくは3未満、より好ましくは2未満である。
【0035】
本発明の一実施形態における活物質は、二次粒子を形成していてもよい。その場合、一次粒子の数基準粒度分布における50%径は、0.1μm以上20μm以下が好ましく、0.3μm以上15μm以下がより好ましく、0.4μm以上10μm以下がさらに好ましく、0.5μm以上2μm以下が最も好ましい。圧縮成形して電極層を形成する場合においては、活物質は、一次粒子であることが好ましい。活物質が一次粒子である場合は、圧縮成形した場合でも、電子伝導パスまたは正孔伝導パスが損なわれることが起こりにくい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。また、実施例および比較例における粉末X線回折測定およびイオン伝導度評価は、以下の方法および手順により行った。
【0037】
実施例1:
(1)リチウムイオン伝導性酸化物の作製
まず、炭酸リチウム(LiCO)(シグマアルドリッチ製、純度99.0%以上)、五酸化タンタル(Ta)(富士フイルム和光純薬製、純度99.9%)、酸化ケイ素(SiO)(富士フイルム和光純薬製、純度99.9%)、リン酸一水素二アンモニウム((NHHPO)(シグマアルドリッチ製、純度98%以上)を、リンとケイ素の元素の合計原子数に対するケイ素の原子数の百分率が3.0%となるようリン酸一水素二アンモニウムと酸化ケイ素とを秤量し、リンとケイ素の元素の合計原子数に対してタンタルの原子数が2倍量となるよう五酸化タンタルを秤量し、タンタルの原子数に対してリチウムの原子数が1.1/2倍量となるよう炭酸リチウムを秤量した。
秤量した各粉末を、適量のトルエンを加えてジルコニアボールミル(ジルコニアボール:直径1mm)を用いて3時間混合した。
得られた混合物をアルミナボートに入れ、回転焼成炉(モトヤマ社製)を用いて空気(ガス流量100mL/分)の雰囲気下で昇温速度10℃/分で1000℃まで昇温し、1000℃において4時間焼成を行った。
焼成して得られた一次焼成物に、適量のトルエンを加えてジルコニアボールミル(ジルコニアボール:直径1mm)を用いて3時間解砕した。
得られた解砕物をアルミナボートに入れ、回転焼成炉(モトヤマ社製)を用いて空気(ガス流量100mL/分)の雰囲気下で昇温速度10℃/分で1000℃まで昇温し、1000℃において4時間焼成を行った。
得られた二次焼成物を降温後、室温で取り出し、除湿された窒素雰囲気下に移し、リチウムイオン伝導性酸化物(1)を得た。
【0038】
(2)粉末X線回折(XRD)測定
粉末X線回折測定装置パナリティカルMPD(スペクトリス株式会社製)を用いて、リチウムイオン伝導性酸化物(1)の粉末X線回折測定を行った。X線回折測定条件としては、Cu−Kα線(出力45kV、40mA)を用いて回折角2θ=10〜50°の範囲で測定を行い、リチウムイオン伝導性酸化物(1)のX線回折図形を得た。得られたX線回折(XRD)図形を図1に示す。XRD図形において、後述する比較例1において図9に示す未ドープのLiTaPOとほぼ同じ単斜晶の結晶構造のみが確認された。
得られたXRD図形に対し、公知の解析ソフトウェアRIETAN−FP(作成者;泉富士夫のホームページ「RIETAN-FP・VENUS システム配布ファイル」(http://fujioizumi.verse.jp/download/download.html)から入手することができる。)を用いてリートベルト解析を行い、格子定数а、b、c、および角度βを算出し、それぞれ9.7182Å、11.5321Å、10.6956Å、および90.033°であった。RIETAN−FPを用いてリートベルト解析により、確認された結晶の結晶量を算出することができる。下記式(3)を用いて単斜晶の含有率を算出した。
(単斜晶含有率)(%)=(単斜晶の結晶量)/{(単斜晶の結晶量)+(単斜晶以外の結晶の合計量)×100 …式(3)
ここで、単斜晶以外の結晶とは、LiTaPOに由来しない単斜晶の結晶系の結晶を含む。
図1においては、LiTaPOとほぼ同じ単斜晶の回折パターンのみが観測され、リチウムイオン伝導性酸化物(1)の単斜晶含有率は100%であった。
【0039】
(2)イオン伝導度評価
(測定ペレット作製)
リチウムイオン伝導性酸化物のイオン伝導度評価用の測定ペレットの作製は、次のように行った。得られたリチウムイオン伝導性酸化物(1)を、錠剤成形機を用いて直径10mm、厚さ1mmの円盤状に成形し、1100℃で大気下3時間焼成した。得られた焼成物の、理論密度に対する相対密度は93%であった。得られた焼成物の両面に、スパッタ機を用いて金層を形成して、イオン伝導度評価用の測定ペレットを得た。
(インピーダンス測定)
リチウムイオン伝導性酸化物(1)のイオン伝導度評価を次のように行った。前述の方法で作製した測定ペレットを、測定前に2時間25℃に保持した。次いで、25℃においてインピーダンスアナライザー(ソーラトロンアナリティカル製、型番:1260A)を用いて振幅25mVで周波数1Hz〜10MHzの範囲でACインピーダンス測定を行った。得られたインピーダンススペクトルを装置付属の等価回路解析ソフトウェアZViewソフトを用いて等価回路でフィッティングして、結晶粒内および結晶粒界におけるイオン伝導度、およびトータルでのリチウムイオン伝導度をそれぞれ得た。求められた各イオン伝導度を併せて表1に示す。
【0040】
実施例2〜8:
(リチウムイオン伝導性酸化物の作製)
LiTaPOに対して、ドープされるケイ素の量が表1記載のドープ量となるよう酸化ケイ素とリン酸一水素二アンモニウムの混合量を変更した以外は、実施例1と同様にしてそれぞれリチウムイオン伝導性酸化物(2)〜(8)を得た。
(XRD測定、イオン伝導度評価)
XRD測定およびイオン伝導度評価は、それぞれ実施例1と同様に測定および分析を行った。リチウムイオン伝導性酸化物(2)〜(8)のXRD図形を図2図8にそれぞれ示す。図2図4のXRD図形においては、図1と同様のピークのみが観測され、単斜晶の結晶構造のみが確認された。図5においては、図1と同様のピークが確認されるとともに、○印で示す位置に五酸化タンタル(Ta)の結晶に由来する回折ピークが確認された。図6および図7においては、図1と同様のピークが確認されるとともに、○印で示す位置に五酸化タンタル(Ta)の結晶に由来する回折ピークが、▽印で示す位置にタンタル酸リチウム(LiTaO)の結晶に由来する回折ピークが、それぞれ確認された。図8においては、図1と同様のピークが確認されるとともに、▽印で示す位置にタンタル酸リチウム(LiTaO)の結晶に由来する回折ピークが確認された。
リチウムイオン伝導性酸化物(2)〜(8)の、単斜晶含有率、結晶粒内および結晶粒界におけるイオン伝導度、およびトータルでのリチウムイオン伝導度をそれぞれ表1に示す。
【0041】
比較例1:
(リチウムイオン伝導性酸化物の作製)
LiTaPOに対して、ケイ素をドープせず、すなわちリン酸一水素二アンモニウムの混合量を変更した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン伝導性酸化物(c1)を得た。
(XRD測定、イオン伝導度評価)
XRD測定およびイオン伝導度評価は、実施例1と同様に測定および分析を行った。リチウムイオン伝導性酸化物(c1)のXRD図形を図9に示す。図9のXRD図形においては、LiTaPOに同定される単斜晶の結晶構造のみが確認された。
リチウムイオン伝導性酸化物(c1)の、単斜晶含有率、結晶粒内および結晶粒界におけるイオン伝導度、およびトータルでのリチウムイオン伝導度をそれぞれ表1に示す。
【0042】
比較例2:
(リチウムイオン伝導性酸化物の作製)
LiTaPOに対して、リンとケイ素の元素の合計原子数に対するケイ素の原子数の百分率が70%(y=0.70)となるようリン酸一水素二アンモニウムと酸化ケイ素との混合量を変更した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン伝導性酸化物(c2)を得た。
(XRD測定、イオン伝導度評価)
XRD測定およびイオン伝導度評価は、それぞれ実施例1と同様に測定および分析を行った。得られたXRD図形を図10に示す。図10においては、図1と同様のピークが確認されるとともに、▽印で示す位置にタンタル酸リチウム(LiTaO)の結晶に由来する回折ピークが、□印で示す位置にLiTaSiOの結晶に由来する回折ピークが、それぞれ確認された。
リチウムイオン伝導性酸化物(c2)の、単斜晶含有率、結晶粒内および結晶粒界におけるイオン伝導度、およびトータルでのリチウムイオン伝導度をそれぞれ表1に示す。
【0043】
(結晶粒のメジアン径)
実施例4で作製したリチウムイオン伝導性酸化物(4)の結晶粒のメジアン径を次の手順で求めた。
(メジアン径測定用試料の作製)
メジアン径測定用試料は、リチウムイオン伝導性酸化物(4)を用いて、前述した測定ペレット作製方法で作製したペレットを集束イオンビーム(FIB)加工装置を用いて加工してメジアン径測定用試料を得た。
(TEM画像とメジアン径の算出)
TEM装置を用いて、作製したメジアン径測定用試料の透過画像を得た。
測定装置等;
TEM装置:ARM200F(日本電子社製)
加速電圧200kV
図11に透過画像の一例を示す。前述した方法で求められたリチウムイオン伝導性酸化物(4)の結晶粒のメジアン径は、1.3μmであった。
【0044】
【表1】
【0045】
実施例の結果より、少なくとも、リチウム、タンタル、リン、M2および酸素を構成元素として有し、M2は、14族の元素およびAlからなる群(ただし、炭素を除く)から選ばれる少なくとも一種の元素であり、リチウム、タンタル、リン、M2および酸素の各構成元素の原子数の比が、1:2:1−y:y:8であり、yが0より大きく0.7未満であり、単斜晶を含有するリチウムイオン伝導性酸化物は、結晶粒界におけるリチウムイオン伝導性が高く、かつ、トータルのリチウムイオン伝導度が高い。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物は、結晶粒界におけるリチウムイオン伝導性が高く、かつ、トータルのリチウムイオン伝導度が高く、リチウムイオン二次電池の固体電解質として好適に用いることができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11