(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6878619
(24)【登録日】2021年5月6日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】アミノプロピルアルコキシシランの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20210517BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20210517BHJP
【FI】
C07F7/18 M
!C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-554868(P2019-554868)
(86)(22)【出願日】2018年2月6日
(65)【公表番号】特表2020-521721(P2020-521721A)
(43)【公表日】2020年7月27日
(86)【国際出願番号】EP2018052942
(87)【国際公開番号】WO2019154479
(87)【国際公開日】20190815
【審査請求日】2019年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】エルケ、フリッツ−ラングハルス
(72)【発明者】
【氏名】リヒャルト、バイドナー
【審査官】
松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−180792(JP,A)
【文献】
特開平02−235891(JP,A)
【文献】
特開平06−025264(JP,A)
【文献】
Eur.J.Inorg.Chem.,2016年,No.11,pp.1641-1659
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/18
C07B 61/00
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I:
H
2N−CR
2R
3−CHR
1−CH
2−SiR
4R
5(OR
6) I
の3−アミノプロピルアルコキシシランを合成する方法であって、
一般式IVaおよびIVb:
【化1】
ならびにそれらの混合物から選ばれるシラザンを、ロジウム化合物、イリジウム化合物、およびそれらの混合物から選ばれる化合物を含有する触媒Aの存在下でヒドロシリル化させ、
前記一般式Iの3−アミノプロピルアルコキシシランへの転換のために、一般式V:
R
6−OH V
のアルコールと反応させる方法。
(上記式中、
R
1〜R
3は互いに独立して、水素原子、または、一価の非置換もしくは置換の炭素数1〜20の炭化水素基であり、前記炭化水素基における個々の非隣接メチレンユニットは、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−S−、またはNR
xの基で置き換えられてもよく、前記炭化水素基は、炭化水素基によって架橋されてもよく;
R
4〜R
5は互いに独立して、一価の非置換または置換の炭素数1〜20の炭化水素基であり、前記炭化水素基における個々の非隣接メチレンユニットは、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−S−、またはNR
xの基で置き換えられてもよく、前記炭化水素基は、炭化水素基によって架橋されてもよく;
R
6は、炭素数1〜8の炭化水素基であり、非隣接炭素原子は酸素で置き換えられてもよく;
R
xは、一価の非置換または置換の炭素数1〜20の炭化水素基であり、前記炭化水素基における個々の非隣接メチレンユニットは、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、または−S−の基で置き換えられてもよく、前記炭化水素基は、炭化水素基によって架橋されてもよい。)
【請求項2】
R1が水素原子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R2およびR3が互いに独立して水素原子またはメチル基である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
R4およびR5が互いに独立して一価の非置換の炭素数1〜6の炭化水素基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
R6が炭素数1〜4の炭化水素基である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒Aが、4配位または6配位であるRh錯体とイリジウム錯体から選ばれる化合物を含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記Rh錯体およびイリジウム錯体が、ハロゲン化物、水素、BF4−、一座もしくは二座配位のN、P、As、もしくはSb、N−複素環カルベンもしくはアルケニルリガンド、および一酸化炭素から選ばれるリガンドを有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
一般式I:
H
2N−CR
2R
3−CHR
1−CH
2−SiR
4R
5(OR
6) I
の3−アミノプロピルアルコキシシランを合成する方法であって、
第一の工程で、一般式II:
H
2N−CR
2R
3−CHR
1=CH
2 II
のオレフィンアミンを一般式III:
ClSiR
4R
5H III
のクロロシランと反応させ、一般式IVaおよびIVb:
【化2】
のシラザンの混合物を形成し、
第二の工程で、前記一般式IVaおよびIVbのシラザンの混合物を、ロジウム化合物、イリジウム化合物、およびそれらの混合物から選ばれる化合物を含有する触媒Aの存在下でヒドロシリル化させ、前記一般式Iの3−アミノプロピルアルコキシシランへの転換のために、一般式V:
R
6−OH V
のアルコールと反応させる方法。
(上記式中、
R
1〜R
3は互いに独立して、水素原子、または、一価の非置換もしくは炭素数1〜20の置換炭化水素基であり、前記炭化水素基における個々の非隣接メチレンユニットは、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−S−、またはNR
xの基で置き換えられてもよく、前記炭化水素基は、炭化水素基によって架橋されてもよく;
R
4〜R
5は互いに独立して、一価の非置換または置換の炭素数1〜20の炭化水素基であり、前記炭化水素基における個々の非隣接メチレンユニットは、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−S−、またはNR
xの基で置き換えられてもよく、前記炭化水素基は、炭化水素基によって架橋されてもよく;
R
6は、炭素数1〜8の炭化水素基であり、非隣接炭素原子は酸素で置き換えられてもよく;
R
xは、一価の非置換または置換の炭素数1〜20の炭化水素基であり、前記炭化水素基における個々の非隣接メチレンユニットは、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、または−S−の基で置き換えられてもよく、前記炭化水素基は、炭化水素基によって架橋されてもよい。)
【請求項9】
前記第一の工程で、一般式IIIのクロロシランに基づいて少なくとも2モル当量の一般式IIのオレフィンアミンを用い、反応中に形成された二相液体混合物を、前記第二工程の前に相分離によって分離する方法であって、
前記二相液体混合物の下相が一般式IIのアミンの塩酸塩を含有し、上相が前記一般式IVaおよびIVbのシラザンの混合物を含有する、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロジウム化合物またはイリジウム化合物の存在下でヒドロシリル化を介して一級3−アミノプロピルアルコキシシランを製造することに関する。
【背景技術】
【0002】
一級3−アミノプロピルアルコキシシランは、産業において重要な中間体であり、特に、ヒドロキシ官能性シロキサンを末端封止して、末端官能化されたアミノアルキルシロキサンを形成するのに適しており、このアミノアルキルシロキサンはアミンオイルとして知られている。
【0003】
一級3−アミノプロピル基で末端官能化されたポリシロキサンは、アミンオイルとして知られており、シリコーン化学の多くの分野、例えば、共重合体調製などで用いられている。高分子の共重合体が調製できるようにするためには、アミンオイルは、できるだけ完全に末端官能化されていなければならない。しかし、別の用途でも、封止されていないSi−OH鎖末端で鎖分解プロセスが開始するため、不完全な末端官能化によって質が低下する。
【0004】
ビス−3−アミノプロピルジシロキサンを用いる平衡方法は、不完全に反応した鎖末端をアミンオイルに付与するのみであるが、一方、独国特許出願公開第102015207673(A1)号および欧州特許第2841489(B1)号に記載される、3−アミノプロピルアルコキシシランを用いた封止方法は、完全な封止を行なうことができるので、3−アミノプロピルアルコキシシランだけがアミンオイルの生産に適切である。
【0005】
欧州特許出願公開第2828270(A1)号には、3−アミノプロピルアルコキシシランを、対応する3−クロロプロピルアルコキシシランと20〜30倍モル過剰のアンモニアとから調製する方法が記載されている。この方法は、高圧が必要であるために、比較的費用が高い。また、この方法の更なる欠点は、反応物として用いられる3−クロロプロピルシランを、白金触媒作用による塩化アリルのヒドロシリル化を介して調製しなければならず、それでは、プロペン切断という副反応により中程度の収率しか達成できないということである。
【0006】
したがって、大気圧で行なわれ、3−アミノプロピルアルコキシシロキサンを良好な収率と高い純度で提供する簡単な方法は、まだ利用されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第102015207673(A1)号
【特許文献2】欧州特許第2841489(B1)号
【特許文献3】欧州特許出願公開第2828270(A1)号
【発明の概要】
【0008】
本発明は、一般式I:
H
2N−CR
2R
3−CHR
1−CH
2−SiR
4R
5(OR
6) I
の3−アミノプロピルアルコキシシランを合成する方法であって、
一般式IVaおよびIVb:
【化1】
ならびにそれらの混合物から選ばれるシラザンを、ロジウム化合物、イリジウム化合物、およびそれらの混合物から選ばれる化合物を含有する触媒Aの存在下でヒドロシリル化させ、
一般式Iの3−アミノプロピルアルコキシシランへの転換のために、一般式V:
R
6−OH V
のアルコールと反応させる方法を提供する。
上記式中、
R
1〜R
3は互いに独立して、水素原子、または、一価の非置換もしくは炭素数1〜20の置換炭化水素基であり、炭化水素基における個々の非隣接メチレンユニットは、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−S−、またはNR
xの基で置き換えられてもよく、前記炭化水素基は、炭化水素基によって架橋されてもよく;
R
4〜R
5は互いに独立して、一価の非置換または置換の炭素数1〜20の炭化水素基であり、炭化水素基における個々の非隣接メチレンユニットは、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−S−、またはNR
xの基で置き換えられてもよく、前記炭化水素基は、炭化水素基によって架橋されてもよく;
R
6は、炭素数1〜8の炭化水素基であり、非隣接炭素原子は酸素で置き換えられてもよく;
R
xは、一価の非置換または置換の炭素数1〜20の炭化水素基であり、炭化水素基における個々の非隣接メチレンユニットは、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、または−S−の基で置き換えられてもよく、前記炭化水素基は、炭化水素基によって架橋されてもよい。
【0009】
本発明の方法は、大気圧で且つ簡単な方法で行うことができ、一級アミノ基を有する所望のアミノプロピルアルコキシシランを、β生成物Ia:
H
2N−CR
2R
3−CMeR
1−SiR
4R
5(OR
6) Ia
と称する異性体生成物を小さい割合(約2〜4%)でしか有さない良好な収率で、提供する。
【0010】
本方法の更なる利点は、アリルアミンやジメチルクロロシラン等の低コストな出発材料を、一般式IVaおよびIVbのシラザンの混合物を調製するために用いることができ、更なる試薬が必要ないことである。
【0011】
欧州特許第0578186号には、ロジウム触媒を用い、ジアリルアミンを分子内でヒドロシリル化して五員環シラザンを形成することが記載されている。この方法では、除去できないアルキル基によって窒素が不可逆的に遮断されるので、一級アミノ基を有する3−アミノプロピルアルコキシシランを生成させることができない。
【0012】
また、独国特許第3546376号には、モノシラザンIVaとジシラザンIVb(独国特許第3606262号に従って得ることができる)の混合物が白金触媒と反応し、続く加水分解でジシロキサンになるが、このジシロキサンが異性体混合物として存在するということが記載されている;したがって、独国特許第3546376号は、ヒドロシリル化用にモノシラザンだけを用いることを推奨するが、これは、ジシラザンやアリルアミンに変換される可能性があるので、純粋な形で調製することは困難であり、費用が高くなる。
【0013】
二つの文献のいずれも、上に説明したような、アミンオイルの調製に特に適した3−アミノプロピルアルコキシシランを調製することを記載していない。したがって、公開文献に基づいても、ロジウム触媒によるモノシラザン/ジシラザン混合物のヒドロシリル化が、一般式Ibの異性体β生成物を低い割合でしか有さない一般式Iの基本的に均質な3−アミノプロピルアルコキシシランに至るということは、期待されない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本方法では、一般式IVaとIVbのシラザンは、いかなる比率で用いてもよい。また、一般式IVaまたはIVbの純粋なシラザンを用いてもよい。一般式IVaおよびIVbのシラザンの合計に基づいて10〜80重量%、特に20〜60重量%の一般式IVaのシラザンを含有する混合物を用いることが好ましい。
【0015】
R
1〜R
3は互いに独立して、好ましくは水素原子または一価の非置換または置換の炭素数1〜6の炭化水素基であり、炭化水素基における個々の非隣接メチレンユニットは、NR
xの基で置き換えられてもよい。
【0016】
R
4およびR
5は互いに独立して、好ましくは一価の非置換または置換の炭素数1〜6の炭化水素基であり、炭化水素基における個々の非隣接メチレンユニットは、−O−またはR
xの基で置き換えられてもよい。
【0017】
R
6は、好ましくは炭素数1〜4の炭化水素基であり、非隣接炭素原子は酸素で置き換えられてもよい。
【0018】
R
xは、好ましくは一価の非置換または置換の炭素数1〜6の炭化水素基である。
【0019】
R
1〜R
5上の好ましい置換基は、ハロゲン、特にフッ素、塩素、もしくは臭素の基またはシアノの基である。
【0020】
R
2およびR
3は互いに独立して、特に好ましくは水素原子またはメチル基である。
【0021】
R
1は、特に好ましくは水素原子である。
【0022】
R
4およびR
5は互いに独立して、特に好ましくは一価の非置換の炭素数1〜6の炭化水素基、特にメチル、エチル、n−プロピル、またはi−プロピル基である。
【0023】
R
6は、特に好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、またはi−プロピル基である。
【0024】
R
xは、特に好ましくは一価の非置換の炭素数1〜6の炭化水素基、特にメチル、エチル、n−プロピル、またはi−プロピル基である。
【0025】
ヒドロシリル化は、触媒Aの存在下で行なわれ、この触媒Aは、ロジウム化合物、イリジウム化合物、およびそれらの混合物から選ばれる化合物を含有する。
【0026】
Aは、好ましくは、錯化リガンドを有する1つまたは複数のロジウム化合物またはイリジウム化合物を含有する。
【0027】
4配位または6配位であり得るRh錯体またはイリジウム錯体が特に好ましい。
【0028】
リガンドとして好ましいのは、ハロゲン化物、水素、BF
4−、アセチルアセトナート、一座もしくは二座配位のN、P、As、もしくはSb、N−複素環カルベンもしくはアルケニルリガンド、および一酸化炭素である。
【0029】
特に好ましリガンドは、塩素、臭素、ヨウ素、水素、アセタート、カルボキシラート、アセチルアセトナート、R
y3P、または(R
yO)
3Pであり、式中、R
yは好ましくは、炭素数1〜20のアルキル、炭素数5〜20のアリール、炭素数6〜20のアラルキル、CO、または炭素数2〜20のアルケニルである。
【0030】
成分Aとしては次のロジウム化合物が挙げられる:
[Rh(O
2CCH
3)
2]
2、Rh(O
2CCH
3)
3、Rh
2(C
8H
15O
2)
4、Rh(C
5H
7O
2)
3、Rh(C
5H
7O
2)(CO)
2、Rh(CO)[Ph
3P](C
5H
7O
2)、Rh(CO)
2(C
5H
7O
2)、RhRhCl
3[(R)
2S]
3、(R
y3P)
2Rh(CO)X、(R
y3P)
3Rh(CO)H、RhCl(PPh
3)
3、RhBr(PPh
3)
3、RhBr(PPh
3)
3、RhCl(PHPh
2)
3、RhCl[P(ベンジル)
3]
3、RhCl(SbPh
3)
3、RhBF
4(シクロオクタジエン)
2、RhH(PPh
3)
3、RhCl(CO)(PPh
3)
2、RhI(CO)(PPh
3)
2、RhCl(CO)(PEt
3)
2、RhH(CO)(PPh
3)
2、RhCl(CO)(C
8H
14)
2、RhCl(1,5−シクロオクタジエン)、RhCl(CO)
2(acac)、RhCl(1,5−シクロオクタジエン)(acac)、RhCl
3、[RhCl(C
2H
4)
2]
2、[RhCl(1,5−シクロオクタジエン)]
2、[RhCl(CO)
2]
2、またはRh
4(CO)
12。式中R
yは上述の意味を有する。
【0031】
成分Aの更なる例としては、Ir(OOCCH
3)
3、Ir(C
5H
7O
2)
3、[Ir(Z)(En)
2]
2、および[Ir(Z)(ジエン)]
2などのイリジウム化合物が挙げられ、Zは塩素、臭素、ヨウ素、またはアルコキシであり、Enはエチレン、プロピレン、ブテン、シクロヘキセン、およびシクロオクテンなどのオレフィンであり、ジエンはシクロオクタジエンである。好ましいイリジウム触媒は、クロロビス(シクロオクタン)イリジウム(I)二量体、クロロビス(1,5−シクロオクタジエン)イリジウム(I)二量体、およびイリジウム(III)アセチルアセトネートである。
【0032】
また、化合物Aは、例えばSiO
2または炭素に担持された形で用いてもよい。
【0033】
ロジウム化合物またはイリジウム化合物は、用いられるシラザン混合物に基づくロジウムまたはイリジウム(元素に基づく)の量として、好ましくは少なくとも0.1ppmおよび20000ppm以下、特に好ましくは少なくとも1ppmおよび2000ppm以下、非常に特に好ましくは少なくとも10ppmおよび500ppm以下で、用いられる。
【0034】
ヒドロシリル化は、好ましくは不活性溶媒中で行なわれる。
【0035】
好ましい溶媒としては、トルエンまたはキシレンなどの芳香族炭化水素、またはシクロヘキサン、ヘプタン、もしくはオクタンなどの脂肪族炭化水素が挙げられ、これらは混合物の形で存在していてもよい。
【0036】
ヒドロシリル化における溶媒としては更に、例えば1,2−ジクロロエタンまたはジクロロメタンなどの塩素化炭化水素や、例えばメチルtert−ブチルエーテル、ジエチルエーテル、またはエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテルが挙げられる。
【0037】
溶媒は、一般式IVaおよびIVbからなるシラザンの混合物の重量に基づいて、好ましくは少なくとも1重量%〜10000重量%以下の割合で、特に好ましくは少なくとも10重量%および1000重量%以下の割合で、非常に特に好ましくは少なくとも30%および500%以下の割合で用いられる。
【0038】
ヒドロシリル化は、好ましくは少なくとも20℃および250℃以下、特に好ましくは少なくとも50℃および200℃以下、非常に特に好ましくは少なくとも80℃および150℃以下の温度で行なわれる。
【0039】
ヒドロシリル化混合物は、好ましくは単離せず、一般式Vのアルコールと反応させる。
【0040】
ヒドロシリル化混合物の加アルコール分解において基本的に得られるのは、3−アミノプロピルアルコキシシランや、更なる生成物としての、アルコキシシランであるR
6OSiR
4R
5Hであり、このアルコキシシランは、化合物Vbまたは更に窒素−ジシリル化された直鎖シラザンの、加アルコール分解から生じる。しかし、これは、一般式Iの化合物より沸点がかなり低いので、蒸留によって非常に容易に除去することができる。
【0041】
ヒドロシリル化された混合物は、好ましくは、混合物の構成成分を処理したり除去したりすることなく加アルコール分解される。
【0042】
一般式IVaおよびIVbから選ばれ、ヒドロシリル化に用いられるシラザンを、一般式II:
H
2N−CR
2R
3−CHR
1=CH
2 II
のオレフィンアミンを一般式III:
ClSiR
4R
5H III
のクロロシランと反応させることによって調製することで、経済的実行可能性を更に高めることができる。
上記式中、R
1、R
2、R
3、R
4、およびR
5は、上述の意味および好適な意味を有する。
【0043】
これにより、一般式IVaのモノシラザンと一般式IVbのジシラザンの混合物が生成される。2つのシラザンの複雑な分離を行なうことなく、続いてこの混合物をヒドロシリル化およびアルコールとの反応に直接用いて、一般式Iの3−アミノプロピルアルコキシシランを形成させることができる。したがって、本方法は、ワンポット反応として、特に経済的に実施することができる。
【0044】
しかしながら、一般式IIIのクロロシラン、特にジメチルクロロシランに基づいて少なくとも2当量の一般式IIのオレフィンアミン、特にアリルアミンを用いると、反応中に二相液体混合物が形成され、そのうちの下相には、一般式IIのアミンの塩酸塩と、非常に低い割合(<1重量%)でしかシラザンを有さないアミンとが含まれ、上相には、一般式IVaおよび一般式IVbのシラザンの混合物と、10重量%近辺の小量の、一般式IIのアミン、特にアリルアミンとが、基本的に含まれるということが、驚いたことに見出された。その上に、上相には塩化物がほとんどない。
【0045】
その結果、続くヒドロシリル化に用いるシラザン混合物は、簡単な相分離で得ることができる。更なる利点は、一般式IIのオレフィンアミン、特にアリルアミンは、塩基、例えば水性の水酸化ナトリウム溶液と反応させることで、下相から完全且つ容易に回収できるということである。
【0046】
この方法では、好ましくは、一般式IIIのクロロシランに基づいてモル過剰の一般式IIのオレフィンアミンが用いられ、特に好ましくは、一般式IIIのクロロシランに基づいて少なくとも1.5当量および20当量以下の一般式IIのアミンが用いられ、非常に特に好ましくは、一般式IIIのクロロシランに基づいて少なくとも2当量および10当量以下の一般式IIのアリルアミンが用いられる。本実施形態では、固形分のない液体二相混合物が得られ、そのうちの上相には一般式IVaおよびIVbのシラザンの混合物と、低い割合の一般式IIのアミンとが含まれ、下相にはアミンに溶解したアミンの塩酸塩が含まれる。ここでは、下相(塩相)には、実質上シランがない。
【0047】
したがって、ヒドロシリル化に必要であり上相を形成する一般式IVaおよびIVbのシラザンの混合物を、簡単な相分離で分離し、任意で、一般式IIの過剰アミンを例えばストリッピングで除去した後に、蒸留によって一般式IIの未反応アミンを除去することが可能である。
【0048】
一般式IIのアミンは、下相から定量的に回収し、少なくともモル量の塩基、例えば水性水酸化ナトリウム溶液を添加し、蒸留することによって、再使用することができる。
【0049】
一般式IVaおよびIVbのシラザンの混合物の調製は、好ましくは少なくとも0℃、特に好ましくは少なくとも20℃、非常に特に好ましくは少なくとも30℃の温度で行なわれ、好ましくは150℃以下、特に好ましくは100℃以下、非常に特に好ましくは60℃以下で行なわれる。一好適実施形態では、一般式IIのアミンが最初に投入され、一般式IIIのクロロシランが添加される。
【0050】
一般式IVaおよびIVbのシラザン混合物の調製は、溶媒を用いても用いなくても行なうことができる。溶媒を用いる場合は、ヒドロシリル化用との記載のある溶媒が好ましい。
【0051】
上述の式の記号は全て、それぞれ互いに独立して定義される。全ての式において、ケイ素原子は四価である。
【実施例】
【0052】
以下の実施例では、その都度他に断りがなければ、量とパーセントは重量に基づき、圧力は全て0.10MPa(abs.)であり、温度は全て20℃である。
【0053】
実施例1
最初に664g(11.6mol)のアリルアミンを、KPG撹拌子と還流冷却器とを備えた2Lの丸底フラスコに、不活性ガス下で投入し、472g(5.00mol)のジメチルクロロシランと、約2時間ゆっくり混合する。混合物を周囲温度まで放冷し、相分離を行なう。分離した上相の重量は502g、分離した下相の重量は616gである。
【0054】
各相の組成(GC面積%):
a)下相(MTBE可溶性画分のGC):<1%のシラン、>99%のアリルアミン(塩酸アリルアミンは検知されない)
b)上相(MTBEにおけるGC):13%のアリルアミン、38%のモノシラザンIVa、48%のジシラザンIVb
【0055】
上相は、約17ppmの塩化物を含有する(イオンクロマトグラフィーによる測定)。
【0056】
上相は、115℃の浴温で部分的に蒸留する。ここで、34gのアリルアミンを回収する。底部に残存するシラザン混合物はまだ約4%のアリルアミンを含有する。
【0057】
実施例2(アリルアミンの回収)
実施例1で得られた下相60gを、25gのNaOHと78gの水との溶液と混合し、得られた溶液をランダム充填カラムで蒸留する。43gの純粋アリルアミンが63℃の頂点温度で得られる。
【0058】
実施例3(ヒドロシリル化)
実施例1で得た、部分的に蒸留した上相60g[組成:28重量%(146mmol)のモノシラザンと64重量%(222mmol)のジシラザン]を、120mlのトルエンに溶解させ、1.5mlのキシレン中5.5mgの二塩化ビス(1,5−シクロオクタジエン)二ロジウム(I)(Rhの割合が約41%で、シラザン混合物に基づいて約40ppmのRhに相当)と混合する。混合物を110℃に加熱すると、沸騰が始まる。合計60分の反応時間の後、混合物を放冷し、19gのメタノールと混合し、室温で一晩放置する。
【0059】
続いて、混合物を画分し、80mbarの圧力で減圧蒸留する。約2〜4%の1−メチル−2−アミノエチルジメチルメトキシシランを有する3−アミノプロピルジメチルメトキシシランを39g(264mmol、72%)得る。
【0060】
実施例4(ヒドロシリル化)
33ppmの二塩化ビス(1,5−シクロオクタジエン)二ロジウム(I)を用いて、実施例3と同様に実験を行なう。38gの3−アミノプロピルジメチルメトキシシランを得る。
【0061】
実施例5
比較のための生成物を得ることになる以下のヒドロシリル化触媒(それぞれの場合においてRhは50ppm)を追加して、実施例2と同様に実験を行なう:塩化トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)、ジクロロテトラエチレン二ロジウム(I)、アセチルアセトナート(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)99%[12245−39−5]、クロロジカルボニルロジウム(I)二量体、カルボニルクロロビス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)、塩化ロジウム(III)水和物。