特許第6878815号(P6878815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6878815-ガラス材及びその製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6878815
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】ガラス材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/15 20060101AFI20210524BHJP
   C03C 3/12 20060101ALI20210524BHJP
   C03C 3/062 20060101ALI20210524BHJP
   C03C 3/068 20060101ALI20210524BHJP
   C03B 19/00 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   C03C3/15
   C03C3/12
   C03C3/062
   C03C3/068
   C03B19/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-197703(P2016-197703)
(22)【出願日】2016年10月6日
(65)【公開番号】特開2018-58728(P2018-58728A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太志
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/121655(WO,A1)
【文献】 Hirofumi Akamatsu. et al.,Ferromagnetic Eu2+-based oxide glasses with reentrant spin glass behavior,PHYSICAL REVIEW B,2010年,81, 014423,pp.1-9
【文献】 Hirofumi Akamatsu. et al.,Magneto-optical properties of Eu2+-containing aluminoborosilicate glasses with ferromagnetic interactions,Optical Materials,2013年,35,pp.1997-2000
【文献】 M.W.SHAFER and J.C.SUITS,Preparation and Faraday Rotation of Divalent Europium Glasses,Journal of The American Ceramic Society,1966年,vol.49, No.5,pp.261-264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、EuOを58%以上(ただし58%は含まない)、Al 0〜25%(ただし0%を含まない)、+P+SiO 15〜27%含有することを特徴とするガラス材。
【請求項2】
さらに、モル%で、B 0〜27%、P 0〜27%、SiO 0〜27%を含有することを特徴とする請求項1に記載のガラス材。
【請求項3】
全Euに対するEu2+の割合が、モル%で50%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のガラス材。
【請求項4】
磁気光学素子として用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス材。
【請求項5】
ファラデー回転素子またはカー回転素子として用いられることを特徴とする請求項4に記載のガラス材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のガラス材を製造するための方法であって、
ガラス原料塊を空中に浮遊させて保持した状態で、ガラス原料塊を加熱融解させて溶融ガラスを得た後に、溶融ガラスを冷却する工程を備えることを特徴とする、ガラス材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光アイソレータ、光サーキュレータ、磁気センサ、磁気メモリ、磁気光学読み取り装置等の磁気デバイスを構成する磁気光学素子等に好適なガラス材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性化合物である酸化ユーロピウムを含むガラス材は、磁気光学効果の一つであるファラデー効果を示すことが知られている。ファラデー効果とは、磁場中におかれた材料を通過する直線偏光の偏光面を回転させる効果である。このような効果は光アイソレータや磁界センサなどに利用されている。
【0003】
ファラデー効果による旋光度(偏光面の回転角)θは、磁場の強さをH、偏光が通過する物質の長さをLとして、以下の式により表される。式中において、Vは物質の種類に依存する定数であり、ベルデ定数と呼ばれる。ベルデ定数は反磁性体の場合は正の値、常磁性体の場合は負の値となる。ベルデ定数の絶対値が大きいほど、旋光度の絶対値も大きくなり、結果として大きなファラデー効果を示す。
【0004】
θ=VHL
【0005】
従来、酸化ユーロピウムを用いたファラデー効果を示すガラス材として、B−Al−EuO系のガラス材(非特許文献1参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of the American Ceramic Society, volume 49, (1966), p.261
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ファラデー回転素子等の磁気光学素子に対して、近年ますます小型化が求められているため、小さな部材でも十分な旋光度を示すよう、さらなるファラデー効果の向上が要求されている。
【0008】
以上に鑑み、本発明は、従来よりも大きいファラデー効果を示すガラス材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のガラス材は、モル%で、EuOを58%以上(ただし58%は含まない)含有することを特徴とする。本発明のガラス材は、EuOを上記の通り多量に含有することに起因してベルデ定数の絶対値が大きくなる。その結果、従来よりも大きいファラデー効果を示す。
【0010】
本発明のガラス材は、さらに、モル%で、B 0〜42%(ただし42%は含まない)、P 0〜42%(ただし42%は含まない)、SiO 0〜42%(ただし42%は含まない)、Al 0〜42%(ただし42%は含まない)を含有することが好ましい。B、P、SiO、Alはガラス骨格を構成する成分であるため、これらの成分を含有させることにより、比較的容易にガラス化を行うことができる。
【0011】
本発明のガラス材は、モル%で、B+P+SiO 0〜42%(ただし42%は含まない)を含有することが好ましい。なお、本明細書において、「○+○+・・・」は該当する各成分の合量を意味する。
【0012】
本発明のガラス材は、全Euに対するEu2+の割合が、モル%で50%以上であることが好ましい。
【0013】
本発明のガラス材は、磁気光学素子として用いることができる。例えば、本発明のガラス材は、磁気光学素子の一種であるファラデー回転素子やカー(Kerr)回転素子として用いることができる。当該用途に用いることにより、本発明の効果を享受することができる。
【0014】
本発明のガラス材の製造方法は、上記のガラス材を製造するための方法であって、ガラス原料塊を空中に浮遊させて保持した状態で、ガラス原料塊を加熱融解させて溶融ガラスを得た後に、溶融ガラスを冷却する工程を備えることを特徴とする。
【0015】
一般に、ガラス材は原料を坩堝等の溶融容器内で溶融し、冷却することにより作製される(溶融法)。しかしながら、本発明のガラス材は、基本的にガラス骨格を構成しないEuOを上記の通り多量に含有する組成を有しており、ガラス化しにくい材料であるため、通常の溶融法では、溶融容器との接触界面を起点として結晶化が進行してしまうという問題がある。
【0016】
ガラス化しにくい組成であっても、溶融容器との界面での接触をなくすことによりガラス化が可能となる。このような方法として、原料を浮遊させた状態で溶融、冷却する無容器浮遊法が知られている。当該方法を用いると、溶融ガラスが溶融容器にほとんど接触することがないため、溶融容器との界面を起点とする結晶化を防止することができ、ガラス化が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来よりも大きいファラデー効果を示すガラス材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のガラス材を製造するための装置の一実施形態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のガラス材は、モル%でEuOを58%以上(ただし58%は含まない)含有し、59%以上、特に60%以上含有することが好ましい。EuOの含有量が少なすぎると、ベルデ定数の絶対値が小さくなり、十分なファラデー効果が得られにくくなる。EuOの含有量の上限は特に限定されないが、ガラス化の安定性を考慮して、95%以下、90%以下、特に80%以下であることが好ましい。
【0020】
なお、本発明におけるEuOの含有量は、ガラス中に存在するEuを全て2価の酸化物に換算して表したものである。
【0021】
ガラス材におけるEu2+の割合が大きいほど、ファラデー効果が大きくなるため好ましい。具体的には、全Eu中におけるEu2+の割合は、モル%で、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、特に90%以上であることが好ましい。
【0022】
本発明のガラス材には、EuO以外にも、以下に示す種々の成分を含有させることができる。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0023】
は主なガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、Bは磁化率の向上に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られにくくなる。従って、Bの含有量は0〜42%(ただし42%は含まない)、1〜40%、特に2〜35%であることが好ましい。
【0024】
はガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、Pは磁化率の向上に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られにくくなる。従って、Pの含有量は0〜42%(ただし42%は含まない)、1〜40%、特に2〜35%であることが好ましい。
【0025】
SiOはガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、SiOは磁化率の向上に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られにくくなる。従って、SiOの含有量は0〜42%(ただし42%は含まない)、0〜40%、特に0〜35%(ただし0%は含まない)であることが好ましい。
【0026】
なお、SiO+Bの含有量は0〜42%(ただし42%は含まない)、1〜40%、特に2〜35%であることが好ましい。B+Pの含有量は0〜42%(ただし42%は含まない)、1〜40%、特に2〜35%であることが好ましい。SiO+B+Pの含有量は0〜42%(ただし42%は含まない)、1〜40%、特に2〜35%であることが好ましい。
【0027】
Alは中間酸化物としてガラス骨格を形成し、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、Alは磁化率の向上に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られにくくなる。従って、Alの含有量は0〜42%(ただし42%は含まない)、0〜40%、0〜35%、0〜30%(ただし0%を含まない)であることが好ましい。
【0028】
MgO、CaO、SrO、BaOはガラス化の安定性を高める効果や、化学的耐久性を高める効果がある。ただし、磁化率の向上に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られにくくなる。従って、これらの成分の含有量は各々0〜10%、特に0〜5%であることが好ましい。
【0029】
Tb、Gd、Er、Tm、Dy、CeOはガラス化の安定性を高めるとともに磁化率の向上にも寄与する。ただし、その含有量が多すぎるとかえってガラス化しにくくなる。よって、Tb、Gd、Er、Tm、Dy、CeOの含有量は各々0〜15%、特に0〜10%であることが好ましい。
【0030】
、Laはガラス化の安定性を高める効果があるが、その含有量が多すぎるとかえってガラス化しにくくなってしまう。よって、これらの成分の含有量は各々0〜10%、特に0〜5%であることが好ましい。
【0031】
Gaはガラス形成能を高め、ガラス化範囲を広げる効果を有する。ただし、その含有量が多すぎると、かえって失透しやすくなる。また、Gaは磁化率の向上に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られにくくなる。従って、Gaの含有量は0〜6%、特に0〜5%であることが好ましい。
【0032】
GeOはガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる効果がある。ただし、GeOは磁化率の向上に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られにくくなる。また、バッチコストが高くなる傾向がある。従って、GeOの含有量は0〜20%、0〜10%、特に0〜5%であることが好ましい。
【0033】
フッ素はガラス形成能を高め、ガラス化範囲を広げる効果を有する。ただし、その含有量が多すぎると溶融中に揮発して組成変動を引き起こしたり、ガラス化の安定性に悪影響を及ぼす恐れがある。従って、フッ素の含有量(F換算)は0〜10%、0〜7%、特に0〜5%であることが好ましい。
【0034】
還元剤としてSbを添加することができる。ただし、着色を避けるため、あるいは環境への負荷を考慮して、Sbの含有量は0.1%以下であることが好ましい。
【0035】
次に本発明のガラス材の製造方法の一例について説明する。
【0036】
本発明のガラス材は、溶融容器を用いた通常の溶融方法により製造しても良いが、既述の通り、特にEuO含有量が多い場合は当該方法ではガラス化が困難であるため、無容器浮遊法により作製することが好ましい。図1は、無容器浮遊法によりガラス材を作製するための製造装置の一例を示す模式的断面図である。以下、図1を参照しながら、ガラス材の製造方法について説明する。
【0037】
ガラス材の製造装置1は成形型10を有する。成形型10は溶融容器としての役割も果たす。成形型10は、成形面10aと、成形面10aに開口している複数のガス噴出孔10bとを有する。ガス噴出孔10bは、ガスボンベなどのガス供給機構11に接続されている。このガス供給機構11からガス噴出孔10bを経由して、成形面10aにガスが供給される。ガスの種類は、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素等の不活性ガスや、一酸化炭素、水素等の還元性ガスを、単独または二種以上を混合して使用することができる。なかでも、全EuにおけるEu2+の割合を高めるため、還元性ガスを使用することが好ましく、特に安全性の観点からは水素と不活性ガスの混合ガスを用いることが好ましい。
【0038】
製造装置1を用いてガラス材を製造するに際しては、まず、ガラス原料塊12を成形面10a上に配置する。ガラス原料塊12としては、例えば、原料粉末をプレス成型等により一体化したものや、原料粉末をプレス成型等により一体化した後に焼結させた焼結体や、目標ガラス組成と同等の組成を有する結晶の集合体等が挙げられる。
【0039】
次に、ガス噴出孔10bからガスを噴出させることにより、ガラス原料塊12を成形面10a上で浮遊させる。すなわち、ガラス原料塊12を、成形面10aに接触していない状態で保持する。その状態で、レーザー光照射装置13からレーザー光をガラス原料塊12に照射する。なお、ガラス原料塊12が成形面10aに接触した状態で、レーザー光照射装置13からレーザー光をガラス原料塊12に照射し、その後ガラス原料塊12が溶解する過程で、あるいは溶解完了と同時に、ガラス原料塊12が成形面10a上に浮遊させるようにしてもよい。このようにしてガラス原料塊12を加熱溶融してガラス化させ、溶融ガラスを得る。なお、加熱溶融する方法としては、レーザー光を照射する方法以外にも、輻射加熱であってもよい。
【0040】
その後、溶融ガラスを冷却することにより、ガラス材を得ることができる。ガラス原料塊12を加熱溶融する工程と、溶融ガラス、さらにはガラス材の温度が少なくとも軟化点以下となるまで冷却する工程においては、少なくともガスの噴出を継続し、ガラス原料塊12、溶融ガラス、さらにはガラス材と成形面10aとの接触を抑制することが好ましい。
【0041】
なお、得られたガラス材をアニールする場合は、不活性雰囲気または還元性雰囲気で行うことが好ましい。そのようにすれば、Eu2+からEu3+への酸化が抑制される。使用する還元性ガスとしては、一酸化炭素、水素等が挙げられ、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素等が挙げられる。Eu成分の酸化を効果的に抑制する観点からは還元性雰囲気が好ましく、なかでも安全性の観点からは水素と不活性ガスの混合ガスの雰囲気であることが好ましい。
【0042】
アニール温度は、ガラス材のガラス転移点±50℃、特にガラス転移点±30℃であることが好ましい。熱処理温度が低すぎると、歪が十分に除去されにくい。一方、熱処理温度が高すぎると、失透しやすくなる。
【0043】
熱処理時間は0.5時間以上、特に1時間以上であることが好ましい。熱処理時間が短すぎると、歪が十分に除去されにくい。一方、熱処理時間の上限は特に限定されないが、長すぎてもさらなる効果が得られず、エネルギーロスにつながるため、100時間以下、50時間以下、特に10時間であることが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
表1は本発明の実施例(No.1〜7)及び比較例(No.8)を示している。
【0046】
【表1】
【0047】
まず、表1に示したガラス組成になるように調合した原料をプレス成型し、800〜1400℃で6時間焼結することによりガラス原料塊を作製した。次に、乳鉢中でガラス原料塊を粗粉砕し、0.05〜1.5gの小片とした。得られたガラス原料塊の小片を用いて、図1に準じた装置を用いた無容器浮遊法によってガラス材(直径約1〜10mm)を作製した。ガラス材はそれぞれガラス転移点にて、N雰囲気で3時間アニールを行った。
【0048】
なお、熱源としては100W COレーザー発振器を用いた。また、ガラス原料塊を成形面の上方に浮遊させるためのガスとして、体積%で、H 4%、N 96%の混合ガスを用いた。
【0049】
ベルデ定数は、回転検光子法を用いて測定した。具体的には、得られたガラス材を1mmの厚さとなるよう研磨加工し、10kOeの磁場中で波長500〜1100nmの範囲におけるファラデー回転角を測定し、波長633nmでのベルデ定数を算出した。
【0050】
表1から明らかなように実施例1〜7のガラス材は、波長633nmにおいて−0.85〜−1.23のベルデ定数を示した。一方、比較例のガラス材のベルデ定数は、波長633nmにおいて−0.36であり、絶対値が小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のガラス材は、アイソレータ、光サーキュレータ、磁気センサ、磁気メモリ、磁気光学読み取り装置等の磁気デバイスを構成する、ファラデー回転子やカー回転子等の磁気光学素子として好適である。
【符号の説明】
【0052】
1:ガラス材の製造装置
10:成形型
10a:成形面
10b:ガス噴出孔
11:ガス供給機構
12:ガラス原料塊
13:レーザー光照射装置
図1