(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
容器へ取り付けられるべき取り付け部と、ICタグを配設するICタグ配設部と、前記ICタグ配設部の外側周囲部に突設された熱可塑性樹脂の固定用突起とを含むチップ部材の、前記ICタグ配設部にICタグを配設する配設工程と、
前記固定用突起を溶融し、前記ICタグの表面の縁部分と前記外側周囲部とを溶融させた前記熱可塑性樹脂で一体的に覆うことで前記ICタグを前記チップ部材に固定する固定工程と、
前記チップ部材に前記容器を識別する情報の表示を付す表示工程と、
含み、
前記チップ部材は、底部と、前記底部の周囲に設けられた立上り周壁部と、を有し、
前記取り付け部は前記立上り周壁部の外側面に設けられ、
前記底部の上面に設けられた前記ICタグ配設部の外側に前記固定用突起が突設される、
容器識別チップの製造方法。
前記固定用突起の前記ICタグ配設部からの突出高さと前記ICタグの厚みとの差が、前記ICタグ配設部の幅の3%以上50%以下である、請求項5から7のいずれか1項に記載の容器識別チップの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ICタグを容器または容器に貼着する部品を構成する樹脂内部に埋設することで容器にICタグを付す方法では、ICタグの全表面が溶融された樹脂による高温にさらされることが不可避である。このため、製造時にICタグが受けた熱履歴による読み取り障害の問題をはらんでおり、データ信頼性に支障をきたすおそれがある。
一方、合成樹脂の被膜をICタグに積層して貼着すること、およびICタグを接着剤で接着することで容器にICタグを付す方法では、貼着態様および接着態様が本質的に剥離の問題をはらんでおり、データ信頼性に支障をきたすおそれがある。さらにこれらの方法では、貼着または接着のための材料を別途用意しなければならないぶん、製造上煩雑となりやすい。
【0005】
そこで本発明の目的は、ICタグが受ける熱履歴を低減し且つICタグの剥離を防止してデータ信頼性を有し、かつ、製造が簡易な容器識別チップ、細胞保管用容器および容器識別チップの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は以下の発明を含む。
(1)
本発明の容器識別チップは、チップ本体部と、容器へ取り付けられるべき取り付け部と、容器を識別する情報を示す表示コードと、容器を識別する情報が記録されたICタグと、ICタグをチップ本体部に固定する固定部と、を含む。固定部は、熱可塑性樹脂で構成され、かつ、熱可塑性樹脂の溶融固化物によりICタグの表面の縁部分とICタグの外側周囲部とを一体的に覆うことでICタグを固定している。
【0007】
このように、ICタグが、固定部における熱可塑性樹脂の溶融固化物によって固定されているため、ICタグが剥離することなく固着状態が安定に保たれる。また、溶融固化物がICタグの表面のうち縁部分だけを覆っているため、製造時に受けた熱履歴が低減される。さらに、ICタグと表示コードとの両方が付されているため、ICタグが破損、故障または電波環境により読み取り障害が発生したり、表示コードが視認困難となったりなど、いずれか一方から情報を取得できない場合であっても、他方から情報を取得することができる。したがって、高いデータ信頼性が得られる。
【0008】
(2)
上記(1)の容器識別チップは、溶融固化物によって覆われているICタグの縁部分の総面積が、ICタグの表面の全体の3%以上であってよい。
【0009】
これによって、ICタグの確実な固定を良好に行なうことができる。
【0010】
(3)
本発明の培養用または保管用容器は、上記(1)または(2)の容器識別チップと、容器識別チップが取り付け部によって取り付けられた容器と、を含む。
【0011】
この場合、サンプルの情報およびトレーサビリティーの点が特に厳格に求められる培養用または保管用容器を使用するときに、上記(1)または(2)の容器識別チップによる高いデータ信頼性をもって管理することができる。
【0012】
(4)
上記(3)の培養用または保管用容器は、細胞保管用容器であってよい。
【0013】
この場合、サンプルの情報およびトレーサビリティーの点がさらに厳格に求められるため、細胞保管用容器を使用するときに、上記(1)または(2)の容器識別チップによる高いデータ信頼性をもって管理することができる。
【0014】
(5)
本発明の容器識別チップの製造方法では、配設工程と、固定工程と、表示工程とを含む。配設工程では、容器へ取り付けられるべき取り付け部と、ICタグを配設するICタグ配設部と、ICタグ配設部の外側周囲部に突設された熱可塑性樹脂の固定用突起とを含むチップ部材の、前記ICタグ配設部にICタグを配設する。固定工程では、固定用突起を溶融し、ICタグの表面の縁部分と外側周囲部とを、溶融させた熱可塑性樹脂で一体的に覆うことでICタグを固定する。表示工程では、チップ部材に容器を識別する情報の表示を付す。
【0015】
このように、ICタグの固定工程において溶融樹脂が接触する部分がICタグの表面の縁部分のみであるため、ICタグへの熱履歴を低減することができる。また、予めチップに設けられていた固定用突起を溶融することによってICタグを固定すればよいため、製造工程が簡易である。
【0016】
なお、配設工程と固定工程とはこの順番で行われるが、表示工程が行われるタイミングは任意である。
【0017】
(6)
上記(5)の容器識別チップの製造方法では、配設工程および表示工程の前に、チップ部材を光線照射により表面処理する表面処理工程を含んでよい。
【0018】
このように、表面処理工程を表示工程の前に行うことで、特に表示工程を印刷することにより行いやすくなるとともに、配設工程の前に行うことでICタグへの光線照射の影響を回避することができる。
【0019】
(7)
上記(5)または(6)の容器識別チップの製造方法では、固定用突起のICタグ配設部からみて内外方向の中央面が、ICタグ配設部の方向へ傾斜していてよい。
【0020】
この場合、固定用突起が、中央面からみて外側よりも、ICタグが配設される内側のほうで肉量が多くなるため、溶融されるとICタグ側でより多くの溶融樹脂が生じる。これによって、固定用突起を小さく形成してもICタグを確実に固定することができる。
【0021】
(8)
上記(5)から(7)のいずれかの容器識別チップの製造方法では、固定用突起のICタグ配設部からの突出高さとICタグの厚みとの差が、ICタグ配設部の幅の3%以上50%以下であってよい。
【0022】
これによって、ICタグの確実な固定と、熱履歴の低減とがより良好に両立する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[1.容器識別チップ]
[1−1.概要]
図1は、一実施形態の容器識別チップの上側からみた模式的外観斜視図である。以下において、便宜上、
図1の上方向に相当する方向を上、
図1の下方向に相当する方向を下と記載するが、容器識別チップの使用時および製造時の絶対的方向を示す意ではない。
図2は、
図1の容器識別チップの下側からみた模式的外観斜視図である。
図3は、
図1の容器識別チップの上側からみた模式的正面図である。
図4および
図5は、それぞれ、
図1のIV-IV線およびV-V線を含む平面で切断した場合の模式的断面図である。
図6は、
図1の容器識別チップおよびそれが取り付けられるべき容器の模式的切り欠き断面図である。
図6は、後述の
図7のVI-VIを含む面で切断した場合の断面図である。
図7は、
図6における容器の下側からみた模式的外観図である。
図8は、
図1の容器識別チップが取り付けられた容器の模式的断面図である。
【0025】
図1から
図5に示す容器識別チップ100は、チップ本体部200と、チップ本体部200に表示された表示コード310と、チップ本体部200に固定されたICタグ330とを含む。
【0026】
本実施形態では、チップ本体部200は熱可塑性樹脂で構成される。熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、たとえば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂または環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等のメタクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリアクリロニトリル等のアクリル系樹脂、プロピオネート樹脂等の繊維素系樹脂等ポリスチレンなどが挙げられる。
【0027】
表示コード310は、容器識別チップ100が取り付けられるべき容器610(
図6参照)を識別する情報を示す。具体的には、インクなどによる印刷表示またはレーザーマーキングなどによる刻設表示であってよい。本実施形態では、
図2に示すように、表示コード310として二次元コードと、当該二次元の内容を示す文字列との両方を設けている。これにより、二次元コード読み取りトラブルの場合であっても目視により情報を取得することができる。
【0028】
ICタグ330は、RFタグ、電子タグ、または非接触タグとも呼ばれるものであり、容器610を識別する情報を記録している。ICタグ330は、ICチップとアンテナとが内蔵された微小チップである。具体的には、ICチップと、それに接続されたアンテナとが基板に挟みこまれたインレットであってよい。ICタグの正面形状は任意であり、図示するように正方形であってもよいし、長方形などの矩形その他の多角形、円、楕円、およびそれらの変形または組み合わせ形状であってもよい。容器識別チップ100の製造(後述)の容易性からは、多角形であることが好ましく、固定確実性および熱履歴を考慮して縁部分Eを適切に設ける観点からは、三角形、長方形、および四角形が好ましい。
【0029】
[1−2.チップ本体部]
チップ本体部200は、容器610(
図6参照)の底延長部690の内部空間IS内に挿入される形状に形成されている。具体的には
図1に示すように、底部210と、底部210の全周に設けられた立上り周壁部220とを含む、上面開口した容器状に形成されている。
【0030】
図2に示すように、チップ本体部200の底部210の下面219には表示コード310が表示されており、
図1および
図3に示すように底部210の上面にはICタグ配設部213が設けられ、ICタグ配設部213にはICタグ330が配置されかつ固定されている。ICタグ330の固定は、底部210の上面に設けられた固定部250による。
【0031】
[1−3.固定部]
固定部250は、熱可塑性樹脂の溶融固化物で構成されている。固定部250を構成する熱可塑性樹脂は、チップ本体部200を構成する熱可塑性樹脂で構成されてよい。固定部250は、
図3に示すようにICタグ330の外周囲を取り囲む外側周囲部Sにおいて略環状に盛設されているとともに、ICタグ330の表面のうちの縁部分Eのみを被覆している。
図3および
図4に示すように、固定部250は、ICタグ330の表面の一部である縁部分EとICタグ330の外側周囲部Sとを一体的に覆うことで、ICタグ330をチップ本体部200に固定している。
なお、本実施形態では、
図3に示すように、当該略管状の固定部250の内周は、溶融固化物の一部がICタグ330の表面のうちの縁部分Eに進出していることで、円周の一部が縁部分Eの箇所でそれぞれ内側に凹んだ変形形状を有している。
【0032】
一方、
図1、
図3および
図5に示すように、ICタグ330の縁部分E以外の表面は固定部250によって覆われていない。つまり、縁部分E以外の表面には、固定部250の形成時に生じた高温の溶融樹脂が接触した経緯がない。したがって、ICタグ330は、熱可塑性樹脂の溶融固化物によって固定されているにもかかわらず、全体として熱履歴が低減されている。
【0033】
ICタグ330が固定される縁部分Eは、ICタグ330の任意の幅の両端部分である。これによって、固定が安定する。容器識別チップ100の製造(後述)の容易性からは、縁部分Eは、ICタグ330の角同士(好ましくは最も遠い角同士)を結ぶ幅の両端部分であることが好ましい。また、縁部分Eは、固定を確実にする観点から、複数箇所、少なくとも3箇所、好ましくは4箇所以上であってよい。本実施形態ではICタグ330が矩形であるため、縁部分Eは、ICタグ330の最大幅の両端部分つまり内角部分であり、4箇所設けられている。
【0034】
縁部分Eの面積の合計(総面積)は、ICタグ330の表面(上表面)の面積の3%以上であってよい。総面積が上記下限以上であることは、ICタグ330の固定を確実にする点で好ましい。これらの効果をより良好に得る点で、縁部分Eの総面積は、ICタグ330の表面(上表面)の面積の5%以上であることがより好ましく、7%以上であることがさらに好ましい。
また、縁部分Eの面積の合計(総面積)は、ICタグ330の表面(上表面)の面積の95%以下であってよい。上記上限以下であることは、樹脂を溶解する時間を削減する点で好ましい。これらの効果をより良好に得る点で、縁部分Eの総面積は、ICタグ330の表面(上表面)の面積の70%以下であることがより好ましく、60%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
[1−4.取り付け部]
立上り周壁部220の外側面には取り付け部222が設けられている。取り付け部222は、容器610に取り付けられる部分であり、本実施形態では、
図4および
図5に示すように、立上り周壁部220の外側面に設けられた凹部を構成している。取り付け部222である凹部は、立上り周壁部220の外側面の全周に亘る溝状に形成されている。
【0036】
[1−5.容器]
図6に示すように、本実施形態の容器識別チップ100は容器610に取り付けられる。容器610としては、培養用又は保管用容器であってよく、具体的には、シャーレ、フラスコ、細胞培養ウェルプレート等の培養用容器、またサンプルチューブ、および遠沈管(たとえばコニカルチューブ)、クライオチューブ等の保管用容器などであってよい。容器識別チップ100は容器610に取り付けられることで、
図7に示すように識別機能付き容器600(例えば細胞保管用容器)を構成する。識別機能付き容器600は、高い信頼性による容器610の識別が可能となる。
【0037】
容器610はスクリュー型アウターキャップで閉蓋される上開口部620と、円錐形の底部670とを含む。上開口部620の形状はこれに限定されず、インナーキャップで閉蓋される形状でもよいし、嵌合型キャップで閉蓋される形状でもよい。底部670の形状もこの態様に限定されず、円錐形と同様深さ方向に容積が減少する形状であれば半球形底などであってもよい一方、平坦底であってもよい。
【0038】
図6に示すように、容器610には、底部670の下にさらに底延長部690が設けられている。底延長部690では、底部670に垂下り周壁部691が延設されることで、下面開口した内部空間ISを形成している。垂下り周壁部691は、その最下端699が底部670の最下端679よりも所定長さ下に位置するように設けられることで、内部空間IS中に容器識別チップ100を完全に収容することができる。本実施形態では、底延長部690は底部670と一体的に形成されている。
【0039】
図6に示すように、垂下り周壁部691の内側面には取り付け部692が設けられている。取り付け部692は、容器識別チップ100を取付ける部分であるため、取り付け部222に対応する形状で構成される。本実施形態では、取り付け部692は垂下り周壁部691の内側面に設けられた凸部を形成している。取り付け部692である凸部は、垂下り周壁部691の内側面の全周に亘る凸条状に形成されている。容器識別チップ100における取り付け部222(凹部)が、容器における取り付け部692(凸部)と嵌合することで、容器識別チップ100が容器に確実に取り付けられる。
【0040】
図6および
図7に示すように、垂下り周壁部691と底部670との間には衝止リブ680が設けられている。衝止リブ680は、内部空間ISにおいて、垂下り周壁部691の内壁と底部670の外壁面との間に介設されたリブであり、衝止面689を構成する。
図7に示すように本実施形態では衝止リブ680は周方向に均等に4箇所設けられている。衝止リブ680は3箇所以上設けられていればよい。本実施形態では、衝止リブ680は垂下り周壁部691および底部670と一体的に形成されている。
【0041】
衝止面689は、
図8に示すように、容器識別チップ100が容器610に取り付けられた場合に、容器識別チップ100の立上り周壁部220の上面221を当接させる。これによって、容器識別チップ100が内部空間IS内に誤って過度に深く押し込まれることでICタグ330と底部670の最下端679との衝突によるICタグ破損を防止することができる。衝止リブ680の衝止面689と垂下り周壁部691の最下端699との間の長さは、容器識別チップ100の上面221と下面219との間の長さと略同じ、好ましくは取り付け後に簡単に外せないように容器識別チップ100の上面221と下面219との間の長さよりもわずかに大であってよい。
【0042】
垂下り周壁部691の最下端699と底部670の最下端679との間の長さ(上述の所定長さ)は、容器識別チップ100におけるICタグ330の厚みと底部210のICタグ配設部213の部分の厚みとの合計より大きければよい。具体的には、上述の所定長さが0,1mm以上10mm以下であってよい。所定長さが上記下限以上であることは、容器識別チップ100を容器610に取り付ける際に、ICタグ330と底部670の最下端679との衝突によるICタグ破損を防止する(
図8参照)点で好ましく、上記上限以下であることは、内部空間ISのデッドスペース化を防止する点で好ましい。
【0043】
[2.容器識別チップの製造方法]
[2−1.概要]
本発明の容器識別チップの製造方法は、配設工程と、固定工程と、表示工程とを含む。
【0044】
図9は、容器識別チップの製造に用いられるチップ部材の上からみた模式的外観斜視図である。
図10は、
図9のチップ部材をX-X線を含む平面で切断した場合の模式的断面図である。
図11は、配設工程におけるチップ部材を上からみた模式的正面図であり、
図12は、配設工程におけるチップ部材の模式的断面図である。
図12は、
図11に対応する断面図である、
図13および
図14は、固定工程における模式的断面図である。
図13は、
図4に対応する断面図であり、
図14は、
図5に対応する断面図である。
【0045】
本実施形態では、まず、表示工程を行い、その後、配設工程と固定工程とをこの順に行う。なお、本発明はこの態様に限定されるものではなく、表示工程を行うタイミングは任意である。
【0046】
[2−2.チップ部材]
上述の容器識別チップ100の製造には、
図9および
図10のチップ部材200’を用いることができる。チップ部材200’は上述の熱可塑性樹脂で構成される。チップ部材200’は、底部210と、底部210の全周に設けられた立上り周壁部220とを含む、上面開口した容器状に形成されている。
【0047】
底部210の上面にはICタグ配設部213が設けられている。ICタグ配設部213の外側周囲部S(
図10参照)には固定用突起250’が突設されている。固定用突起250’がICタグ配設部213を取り囲んで形成されていることで、好ましくは図示されるようにICタグ配設部213の全周を取り囲む管状の突条として形成されていることで、ICタグ配設部213はICタグ330を容易に収容できるポケットとして画成される。
【0048】
固定用突起250’は、熱可塑性樹脂で構成されている。これによって、後述するように、固定用突起250’はICタグ330を固定化するための溶融樹脂を生じさせるための融かし代として機能する。チップ固定後の強度を維持する観点から、固定用突起250’を構成する熱可塑性樹脂は結晶性樹脂であってよい。
【0049】
固定用突起250’からみてICタグ配設部213の側を内側とし、立上り周壁部220の側を外側とすると、
図10に示すように固定用突起250’の内外方向の中央面CPは、固定用突起250’の基端側よりも頂端側がICタグ配設部213の側に傾斜している。これによって、固定用突起250’が、中央面CPからみて外側よりもICタグ330が配設される内側のほうで肉量が多くなり、溶融された時に内側でより多くの溶融樹脂を生じさせることができる。
【0050】
立上り周壁部220の外側面には取り付け部222が設けられている。取り付け部222は、容器610(
図6参照)に取り付けられる部分であり、本実施形態では、
図9および
図10に示すように、立上り周壁部220の外側面に設けられた凹部を構成している。取り付け部222である凹部は、立上り周壁部220の外側面の全周に亘る溝状に形成されている。
【0051】
[2−2.表示工程]
表示工程では、チップ部材200’の下面219(
図2参照)に、容器610の情報を示す表示コード310を付す。
【0052】
表示コード310を付す方法としては、印刷が挙げられる。印刷には、インクとして、顔料および着色した光硬化性樹脂が挙げられる。細胞培養実験室で殺菌用にスプレーされることが多いエタノールなどの有機溶媒に対する耐久性、およびスクラッチに対する耐久性などを考慮すると、光硬化性樹脂を用いることが好ましい。この場合、印刷と同時に紫外線等の光線を照射することができる。
【0053】
印刷を行う場合、インクと下面219との親和性を向上させるために、表示工程に先だってチップ部材200’の下面219を表面処理することができる。表面処理の方法としては、プラズマ処理またはコロナ処理などの光線照射による処理を行うことができる。プラズマ処理としては、たとえば、大気圧プラズマ処理、真空プラズマ処理(酸素ガス)などが挙げられる。一度に大量に処理する観点からは真空プラズマ処理を選択することができる。工程の自動化によりインライン処理する観点らは大気圧プラズマまたはコロナ処理を選択することができる。光線照射による表面処理を行う場合は、ICタグ330がプラズマおよびコロナのような光線の影響を回避するために、配設工程の前に行う。
【0054】
表示コード310を付す他の方法として、インクなどの付着物を生じさせないために、レーザー照射によるマーキングも挙げられる。
【0055】
[2−3.配設工程]
図11および
図12に示すように、配設工程では、チップ部材200’のICタグ配設部213にICタグ330を配設する。この時点において、ICタグ330にはまだ容器610の情報が記録されていない。
【0056】
図11からみてICタグ配設部213(本実施形態では円形)の重心とICタグ330(本実施形態では正方形)の重心とを合わせた場合、ICタグ330の外縁とICタグ配設部213の外縁とが最近接する箇所の間隔はICタグ330を確実に配設する観点から、たとえば1mm以下、好ましくは0.3mm以下であってよい。
【0057】
図12に示すように、チップ部材200’における固定用突起250’のICタグ配設部213からの突出高さHとICタグ330の厚みTとの差dは、ICタグ配設部213の幅wのたとえば3%以上50%以下であってよい。当該差dが上記下限以上であることは、ICタグ330の縁部分Eを確保しICタグ330の固定を確実にする観点で好ましく、上記上限以下であることは、ICタグの縁部分Eの面積を大きくしすぎることなくICタグ330に与える熱履歴を低減する観点で好ましい。これらの効果をより良好に得る観点から、当該差dは幅wのたとえば5%以上30%以下であることがより好ましい。
【0058】
[2−4.固定工程]
図13および
図14に示すように、固定工程では、熱源900によって固定用突起250’を溶融する。熱源900は最下面として平滑な押圧面990を有し、チップ部材200’の立上り周壁部220の上部開口部から内部に進入可能な大きさおよび形状で構成されている。本実施形態では、押圧面990が固定用突起250’の外周形状に対応する円形に構成され、かつ、熱源900自体が円筒状に形成されている。
【0059】
熱源900は、固定用突起250’を構成する熱可塑性樹脂の種類を考慮して当該熱可塑性樹脂を溶融可能な温度に加熱され、押圧面990が固定用突起250’に押し当てられる。固定用突起250’は加熱により溶融し、溶融樹脂を生じる。溶融樹脂は、
図13に示すように、ICタグ330の縁部分Eが近接している部分においてはICタグの縁部分Eに達してその面に沿って流動する一方、
図14に示すように、縁部分Eがない部分においてはICタグ330の表面に達することなくICタグ330との間の隙間に流下する。これによって、ICタグ330の表面のうち縁部分Eのみと外側周囲部Sとが溶融樹脂で一体的に被覆される。このようにICタグ330の表面のうち縁部分Eのみと外側周囲部Sとを一体的に被覆した状態の溶融樹脂を冷却固化されることにより、ICタグ300がチップ部材200’に固定される。
【0060】
なお、本実施形態では、固定用突起250’が、中央面CP(
図10参照)からみて外側よりもICタグ330が配設される内側のほうで肉量が多くなるように構成されているため、押圧面990が下方向へ向かって押し当てられることで溶融された時に、内側でより多くの溶融樹脂を生じさせることができる。このため、溶融樹脂をICタグの縁部分Eに到達させかつその面に沿って流動させることが容易である。したがって、より確実にICタグ300を固定することができる。
【0061】
また、本実施形態では、融かし代である固定用突起250’が連続環状に構成されているため、ICタグ330がICタグ配設部213にどのような向きで配設されても、固定されるべきICタグ330の縁部分Eと固定用突起250’とが近接する位置関係は常に変わらない。したがって、ICタグ330がICタグ配設部213にどのような向きで配設されても、同じような固定態様のものが得られる。したがって、配設工程および固定工程の自動化が容易となる。しかしながら本発明はこの態様に限定されず、ICタグ330の形状および固定用突起250’の形状それぞれが任意であるとともに、それらの形状の組み合わせも任意である。また、固定用突起250’は、本実施形態のようにICタグ配設部213の外側周囲部Sの全周において連続するように設けられている態様に限定されず、外側周囲部Sにおいて間欠的に設けられていることも許容する。
【0062】
[2−5.その他の工程]
本実施形態では、固定工程の後、固定されたICタグ330に容器610の情報を記録すること(記録工程)ができる。この場合、記録工程に先だって、下面219付された表示コード310の読み取り(読み取り工程)を行い、読み取られた情報に対応する情報をICタグ330に記録することができる。
これによって、容器識別チップ100が得られる。
【0063】
[実施形態における各部と請求項の各構成要素との対応関係]
本明細書において、容器識別チップ100は請求項の「容器識別チップ」に相当し、チップ本体部200は「チップ本体部」に相当し、チップ部材200’は「チップ部材」に相当し、ICタグ配設部213は「ICタグ配設部」に相当し、取り付け部222は「取り付け部」に相当し、固定部250は「固定部」に相当し、固定用突起250’は「固定用突起」に相当し、表示コード310は「表示コード」に相当し、ICタグ330は「ICタグ」に相当し、識別機能付き容器600は「細胞保管用容器」に相当し、容器610は「細胞培養容器」に相当し、縁部分Eは「縁部分」に相当し、外側周囲部Sは「外側周囲部」に相当し、中央面CPは「中央面」に相当し、突出高さHは「突出高さ」に相当し、ICタグの厚みTは「ICタグの厚み」に相当し、差dは「差」に相当し、ICタグ配設部の幅wは「ICタグ配設部の幅」に相当する。