特許第6878836号(P6878836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6878836
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】マスターバッチの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20210524BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20210524BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20210524BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   C08J3/22CEP
   C08J3/22CEQ
   C08L1/02
   C08L21/00
   B60C1/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-214349(P2016-214349)
(22)【出願日】2016年11月1日
(65)【公開番号】特開2018-70812(P2018-70812A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 澄子
【審査官】 大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−209175(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/163253(WO,A1)
【文献】 特開2014−118462(JP,A)
【文献】 国際公開第02/020655(WO,A1)
【文献】 特開2002−146211(JP,A)
【文献】 特開2008−244326(JP,A)
【文献】 特開2000−273311(JP,A)
【文献】 特開2014−098073(JP,A)
【文献】 特開2009−001672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00−3/28;99/00、
B29B7/00−11/14;13/00−15/06;B29C31/00−31/10;37/00−37/04;71/00−71/02、
C08K3/00−13/08;C08L1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼータ電位が−100〜−20mVのゴムラテックスと、ゼータ電位が10〜90mVのフィラー分散体とを混合して、ゼータ電位が−20〜0mVの配合ラテックスを調製する工程を含み、
前記フィラーが、ミクロフィブリル化天然繊維であるマスターバッチの製造方法。
【請求項2】
前記ゴムラテックスが、ジエン系ゴムラテックスである請求項記載のマスターバッチの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のマスターバッチの製造方法を用いて作製したマスターバッチを混練する工程を含むタイヤ用ゴム組成物の製造方法
【請求項4】
請求項1又は2記載のマスターバッチの製造方法を用いて作製したマスターバッチを混練する工程を含む空気入りタイヤの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスターバッチの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アラミド等の短繊維や、セルロース繊維等のミクロフィブリル化植物繊維、シンジオタクチックポリブタジエン等の結晶性ポリマーなどのフィラーをゴム組成物に配合することで、ゴム組成物を補強し、モジュラス(複素弾性率)を向上させることができることが知られている。しかしながら、フィラーは自己凝集力が強く、ゴム成分との相溶性が悪い場合が多々あり、例えば、ゴムラテックスにミクロフィブリル化植物繊維を投入して混合しても、投入したミクロフィブリル化植物繊維の20%程度がゴム成分に取り込まれずに溶液中に残留してしまっていた。
【0003】
また、ゴムラテックスとフィラーとを混合してマスターバッチを作製した場合、フィラーの凝集塊がマスターバッチ中に発生しやすい傾向があった。例えば、このようなマスターバッチをタイヤに使用した場合、発生した凝集塊により、早期摩耗、割れ、チッピング、層間セパレーションが引き起こされる可能性があり、更に、空気漏れ、操縦安定性の喪失に至る可能性もあることから、マスターバッチにおけるゴム中でのフィラーの分散性を向上させることが望まれていた。
【0004】
マスターバッチにおけるゴム中でのフィラーの分散性を向上させ、ゴム物性を改善するための方法として、従来、ゴムラテックスとフィラーとを混合した後、pHを調整してマスターバッチを作製する方法が行われてきた。その他にも、例えば、所定のゼータ電位を有するカーボンブラック含有スラリー溶液と、ゴムラテックス溶液とを混合し、凝固乾燥してウェットマスターバッチを製造する方法(例えば、特許文献1参照)、天然ゴムラテックス中のアミド結合を分解し、分解後のラテックスと、無機充填材のスラリー溶液とを混合して天然ゴムマスターバッチを製造する方法(例えば、特許文献2参照)、無機粒子のスラリーと、当該無機粒子のスラリーと反対の符号の表面電位を有するポリマーのラテックスとを混合して高分子複合体を製造する方法(例えば、特許文献3参照)、単一成分を水性分散液の状態で一緒にして混合し、該水性分散液において粒子は同じ符号の表面電荷、所定のゼータ電位、所定の各分散液の粒子のゼータ電位の間の比を有し、得られた混合分散液を凝固させる方法(例えば、特許文献4参照)、所定の平均繊維幅を有するセルロースナノファイバーとゴムラテックスを含有する所定の固形分濃度の水分散液から水分を除去してゴムマスターバッチを製造する方法(例えば、特許文献5参照)や、所定の平均繊維幅を有する微細セルロース繊維と樹脂エマルションとを含有する所定の固形分濃度を有する混合液から水分を除去して複合材を製造する方法(例えば、特許文献6参照)などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−209175号公報
【特許文献2】特開2004−99625号公報
【特許文献3】特開2006−348216号公報
【特許文献4】特開昭62−104871号公報
【特許文献5】特開2014−141637号公報
【特許文献6】特開2015−93882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、マスターバッチにおけるゴム中でのフィラーの分散性を向上させ、ゴム物性を改善するための方法が種々検討されているが、フィラーの分散性としては更なる改善の余地があった。
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、ゴム中でのフィラーの分散性を向上させ、破断強度、剛性、低燃費性の性能バランスが改善されたマスターバッチを製造する方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゼータ電位が−100〜−20mVのゴムラテックスと、ゼータ電位が10〜90mVのフィラー分散体とを混合して、ゼータ電位が−20〜0mVの配合ラテックスを調製する工程を含むマスターバッチの製造方法に関する。
【0009】
前記フィラーは、ミクロフィブリル化天然繊維であることが好ましい。
【0010】
前記ゴムラテックスは、ジエン系ゴムラテックスであることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、前記製造方法により得られたマスターバッチに関する。
【0012】
本発明はまた、前記マスターバッチを用いて作製したタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0013】
本発明はまた、前記ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゼータ電位が−100〜−20mVのゴムラテックスと、ゼータ電位が10〜90mVのフィラー分散体とを混合して、ゼータ電位が−20〜0mVの配合ラテックスを調製する工程を含むマスターバッチの製造方法であるので、ゴム中でのフィラーの分散性がより向上し、ゴム中にフィラーが微細に分散したマスターバッチを得ることができる。そしてそのようなマスターバッチを用いることで、破断強度、剛性、低燃費性の性能バランスが改善されたタイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔マスターバッチの製造方法〕
本発明のマスターバッチの製造方法は、ゼータ電位が−100〜−20mVのゴムラテックスと、ゼータ電位が10〜90mVのフィラー分散体とを混合して、ゼータ電位が−20〜0mVの配合ラテックスを調製する工程を含む。なお、本発明の製造方法は、上記工程を含む限りその他の工程を含んでいてもよく、上記工程を1回行ってもよいし、複数回繰り返し行ってもよい。
【0016】
フィラーをマスターバッチにおけるゴム中に均一に分散させることは一般に困難であるところ、本発明者は、前記工程を含む製法を採用することで、ゼータ電位が−20〜0mVの特定範囲の配合ラテックスを調製することからフィラーの凝集を抑制してフィラーをゴム中に微細に高分散でき、そのようなマスターバッチを用いることで、破断強度、剛性、低燃費性の性能バランスを改善できることを見出した。
【0017】
本発明では、ゼータ電位が−100〜−20mVのゴムラテックスと、ゼータ電位が10〜90mVのフィラー分散体とを混合して、ゼータ電位が−20〜0mVの配合ラテックスを調製する工程が行われる。
【0018】
上記ゴムラテックスとしては、−100〜−20mVの範囲内のゼータ電位を有する限り特に限定されないが、例えば、天然ゴムラテックス、改質天然ゴムラテックス(ケン化天然ゴムラテックス、エポキシ化天然ゴムラテックスなど)、合成ジエン系ゴムラテックス(ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、イソプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレン酢酸ビニルゴム、クロロプレンゴム、ビニルピリジンゴム、ブチルゴムなどのラテックス)などのジエン系ゴムラテックスが好適に使用できる。このように、上記ゴムラテックスが、ジエン系ゴムラテックスであることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。これらゴムラテックスとしては、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果がより好適に得られるという点から、天然ゴムラテックス、SBRラテックス、BRラテックス、イソプレンゴムラテックスがより好ましく、天然ゴムラテックスが特に好ましい。
【0019】
上記ゴムラテックスのゼータ電位は、濃度(ゴム固形分濃度)により調整することができる。
【0020】
上記ゴムラテックスのゼータ電位としては、本発明の効果がより好適に得られるという点から、−90mV以上であることが好ましく、−80mV以上であることがより好ましく、−70mV以上であることが特に好ましい。また、−30mV以下であることが好ましく、−40mV以下であることがより好ましく、−50mV以下であることが更に好ましく、−60mV以下であることが特に好ましい。
【0021】
本明細書において、ゼータ電位は、後述する実施例において用いられる測定装置、測定条件により測定することができる。
【0022】
天然ゴムラテックスはヘベア樹等の天然ゴムの樹木の樹液として採取され、ゴム成分のほか水、タンパク質、脂質、無機塩類等を含み、ゴム中のゲル分は種々の不純物の複合的な存在に基づくものと考えられている。本発明では、天然ゴムラテックスとして、ヘベア樹をタッピングして出てくる生ラテックス(フィールドラテックス)、遠心分離法やクリーミング法によって濃縮した濃縮ラテックス(精製ラテックス、常法によりアンモニアを添加したハイアンモニアラテックス、亜鉛華とTMTDとアンモニアによって安定化させたLATZラテックス等)等を使用できる。
【0023】
天然ゴムラテックスは、蛋白質やリン脂質からなる蜂の巣状のセルを有しており、このセルによって天然ゴムへのフィラーの取り込みが阻害されてしまう傾向があることから、天然ゴムラテックスとフィラーとを混合する際には、予めケン化処理によって天然ゴムラテックス中のセルを除去する等の対処を行う必要があったが、本発明では、前記工程を含む製法(特に、ゼータ電位が−20〜0mVの特定範囲の配合ラテックスを調製する工程)を採用することで、ケン化処理を経ていない天然ゴムラテックスを使用した場合であっても、フィラーをゴム中に微細に分散させることができる。
【0024】
上記ゴムラテックスは、従来公知の製法で調製でき、各種市販品も使用できる。なお、上記ゴムラテックスとしては、ゴム固形分(固形分濃度)が5〜80質量%のものを使用することが好ましい。7質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましい。また、上記フィラーの分散性の観点から、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下が更に好ましく、20質量%以下が特に好ましい。
【0025】
上記フィラー分散体は、フィラーを溶媒中に分散させたものであるが、10〜90mVの範囲内のゼータ電位を有するものであればよい。当該フィラーとしては、例えば、シリカ、リグニン、古紙、くるみ、ミクロフィブリル化天然繊維などが好適に使用できる。これらフィラーとしては、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果がより好適に得られるという点から、ミクロフィブリル化天然繊維が特に好ましい。また、当該溶媒としては、通常、水が好適に使用され、水の他、水に可溶なアルコール類、エーテル類、ケトン類なども使用できる。
【0026】
上記フィラー分散体のゼータ電位は、濃度(フィラーの固形分濃度)、溶媒の種類により調整することができる。
【0027】
上記フィラー分散体のゼータ電位としては、本発明の効果がより好適に得られるという点から、15mV以上であることが好ましく、20mV以上であることがより好ましく、25mV以上であることが更に好ましい。また、80mV以下であることが好ましく、70mV以下であることがより好ましく、50mV以下であることが更に好ましく、40mV以下であることが特に好ましい。
【0028】
上記ミクロフィブリル化天然繊維としては、天然物由来のものであれば特に制限されず、例えば、果実、穀物、根菜などの資源バイオマス、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、及びこれらを原料として得られるパルプや紙、布、農作物残廃物、食品廃棄物や下水汚泥などの廃棄バイオマス、稲わら、麦わら、間伐材などの未使用バイオマスの他、ホヤ、酢酸菌等の生産するセルロースなどに由来するセルロースミクロフィブリル;カニやエビ等の甲殻類、昆虫、真菌類などに由来するキチンナノファイバー;などが挙げられる。
【0029】
上記ミクロフィブリル化天然繊維の製造方法としては特に限定されないが、例えば、上記セルロースミクロフィブリルの場合には、該セルロースミクロフィブリルの原料を水酸化ナトリウム等の薬品で化学処理した後、リファイナー、二軸混練機(二軸押出機)、二軸混練押出機、高圧ホモジナイザー、媒体撹拌ミル、石臼、グラインダー、振動ミル、サンドグラインダー等により機械的に磨砕ないし叩解する方法が挙げられる。この方法では、化学処理によって原料からリグニンが分離されるため、リグニンを実質的に含有しないセルロースミクロフィブリルが得られる。また、その他の方法として、上記ミクロフィブリル化天然繊維の原料を超高圧処理する方法なども挙げられる。
【0030】
なお、上記ミクロフィブリル化天然繊維としては、上記製造方法により得られたものに更に、酸化処理や種々の化学変性処理などを施したものも用いることができる。
【0031】
上記ミクロフィブリル化天然繊維の平均繊維径は、破断強度の観点から、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。更に好ましくは200nm以下、より更に好ましくは100nm以下、特に好ましくは80nm以下、最も好ましくは50nm以下である。該平均繊維径の下限は特に限定されないが、作業性の観点から、3nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上が更に好ましい。
【0032】
上記ミクロフィブリル化天然繊維の平均繊維長は、破断強度の観点から、好ましくは5mm以下、より好ましくは1mm以下、更に好ましくは100μm以下、より更に好ましくは10μm以下、特に好ましくは1μm以下であり、また、作業性の観点から、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.5μm以上である。
【0033】
上記ミクロフィブリル化天然繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、走査型電子顕微鏡写真の画像解析、透過型顕微鏡写真の画像解析、X線散乱データの解析、細孔電気抵抗法(コールター原理法)等によって測定できる。
【0034】
上記フィラー分散体は、公知の方法で製造でき、その製造方法としては特に限定されず、例えば、高速ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ブレンダ―ミルなどを用いて前記フィラーを前記溶媒に分散させることで調製できる。調製の際の温度や時間も、前記フィラーが前記溶媒に充分分散するよう、通常行われる範囲で適宜設定することができる。
【0035】
上記フィラー分散体中のフィラーの含有量(固形分含量、固形分濃度)は、特に限定されないが、当該分散体中でのフィラーの分散性の観点から、フィラー分散体100質量%中、0.2〜20質量%が好ましく、0.3〜10質量%がより好ましく、0.4〜3質量%が更に好ましく、0.5〜1質量%が特に好ましい。
【0036】
上記工程において、前記ゴムラテックスと前記フィラー分散体との混合は、前記ゴムラテックスと前記フィラー分散体とが混合される限り特に限定されず、前記ゴムラテックス及び前記フィラー分散体以外のバインダーなどの他の配合剤を更に加えてもよい。
【0037】
上記工程において、前記ゴムラテックスと前記フィラー分散体とを混合する方法としては、特に限定されないが、例えば、高速ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ブレンダ―ミルなどの公知の撹拌装置に前記ゴムラテックスを入れ、撹拌しながら、前記フィラー分散体を滴下する方法や、上記公知の撹拌装置に前記フィラー分散体を入れ、撹拌しながら、前記ゴムラテックスを滴下する方法、上記公知の撹拌装置に前記ゴムラテックス及び前記フィラー分散体を入れ、撹拌、混合する方法などが挙げられる。このようにしてゴムラテックス分散液を調製できる。
【0038】
上記工程では、前記ゴムラテックスのゴム固形分100質量部に対して、前記フィラーの配合量が5〜150質量部となるように前記ゴムラテックスと前記フィラー分散体とを混合することが好ましい。5質量部以上とすることで、本発明の効果がより好適に得られる。また、150質量部以下とすることで、前記フィラーのゴム中での分散性がより向上し、本発明の効果がより好適に得られる。該フィラーの配合量は、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上が更に好ましい。また、100質量部以下がより好ましく、70質量部以下が更に好ましく、50質量部以下がより更に好ましく、30質量部以下が特に好ましい。
【0039】
上記工程において、前記ゴムラテックスと前記フィラー分散体とを混合する際の、混合温度及び混合時間は、均一なゴムラテックス分散液が調製できる点から、10〜40℃で3〜120分が好ましく、15〜35℃で5〜90分がより好ましい。
【0040】
上記工程においては、前記ゴムラテックス分散液から、ゼータ電位が−20〜0mVの配合ラテックスが調製される。ゼータ電位が−20〜0mVの配合ラテックスを調製することで、フィラーの凝集を抑制してフィラーをゴム中に微細に高分散させることができる。該ゼータ電位としては、−2mV以下が好ましく、−5mV以下がより好ましく、−10mV以下が更に好ましい。
【0041】
なお、本発明においては、前記ゴムラテックスと前記フィラー分散体とを混合して、ゼータ電位が−20〜0mVの配合ラテックスを調製するが、その配合ラテックス調製過程で配合ラテックスの凝固反応が自ずと並行して進行することとなる。ここで、本発明においては、上記工程においてゼータ電位が−20〜0mVの配合ラテックスが調製された、とは、配合ラテックス調製過程で並行して進行する凝固反応が充分に進行し完了した、といえる程度に長い時間が経過した後の配合ラテックスのゼータ電位が−20〜0mVの範囲内であることを意味している。
【0042】
上記工程においては、前記ゴムラテックスと前記フィラー分散体とを混合して、ゼータ電位が−20〜0mVの配合ラテックスを調製する。当該調製の方法としては、特に制限されないが、前記ゴムラテックスと前記フィラー分散体とを混合して得られるゴムラテックス分散液を、撹拌装置に入れ、撹拌しながら、必要に応じてアニオン系の高分子凝集剤や、酸及び/又は塩(特に好ましくは酸)を添加する方法が好ましい。更に、酸及び/又は塩を添加する場合、該酸及び/又は塩の添加は、フィラーの分散性の観点から、段階的に行われることが好ましい(すなわち、該酸及び/又は塩は、段階的に投入される(全量を分割して投入される)ことが好ましい。)。特に好ましくは、酸を段階的に投入する形態である。
なお、上記アニオン系高分子凝集剤や、酸及び/又は塩の添加の要否や添加量は、連続的に若しくは断続的にゴムラテックス分散液のゼータ電位を測定しながら決定すればよい。
【0043】
上記酸としては、例えば、ギ酸、硫酸、塩酸、酢酸などが挙げられる。また、上記塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム等のカルシウム塩などの1〜3価の金属塩が挙げられる。中でも、塩化カルシウムが好ましい。
【0044】
なお、一般的に、ギ酸、硫酸、塩酸、酢酸などの酸や、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム等のカルシウム塩などの1〜3価の金属塩等の酸や塩を添加することで、配合ラテックスのゼータ電位を上げることが可能であり、一方、アクリル酸塩の重合体等のアニオン系の高分子凝集剤などを添加することで、配合ラテックスのゼータ電位を下げることが可能である。
【0045】
上記撹拌装置としては、例えば、高速ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ブレンダ―ミル、電子制御撹拌機などの公知の撹拌装置が挙げられるが、フィラーの分散性の観点から、電子制御撹拌機が好ましい。なお、該撹拌の撹拌条件は、通常行われる範囲で適宜設定することができるが、フィラー分散性の観点から、例えば、撹拌速度は、10〜500rpmが好ましく、50〜200rpmがより好ましい。また、撹拌温度及び撹拌時間は、10〜40℃で3〜120分が好ましく、15〜35℃で5〜90分がより好ましい。
【0046】
また、ゼータ電位が−20〜0mVの配合ラテックスを調製する際には、フィラーの分散性の観点から、配合ラテックスの温度を10〜40℃とすることが好ましい。35℃以下とすることがより好ましい。
【0047】
更に、上記工程において、前記ゴムラテックスと前記フィラー分散体とを混合して、ゼータ電位が−20〜0mVの配合ラテックスを調製する際には、並行して進行する凝固の状態(凝固した凝集粒子の大きさ)を制御する目的で、凝集剤を添加してもよい。該凝集剤としてはカチオン性高分子などを用いることができる。
【0048】
上記工程により、結果、凝固物が得られることとなるが、必要に応じて、上記工程で得られた凝固物(凝集ゴム及びフィラーを含む凝集物)を公知の方法でろ過、乾燥させ、更に乾燥後、2軸ロール、バンバリーミキサーなどでゴム練りを行うと、フィラーがゴムマトリックスに微細に高分散したマスターバッチが得られる。なお、上記マスターバッチは、本発明の効果を阻害しない範囲で他の成分を含んでもよい。
【0049】
〔マスターバッチ〕
本発明のマスターバッチの製造方法は、ゼータ電位が−100〜−20mVのゴムラテックスと、ゼータ電位が10〜90mVのフィラー分散体とを混合して、ゼータ電位が−20〜0mVの配合ラテックスを調製する工程を含む方法であるので、ゴム中でのフィラーの分散性がより向上し、ゴム中にフィラーが微細に分散したマスターバッチを作製することができる。したがって、本発明の製造方法で作製されたマスターバッチは、ゴム中にフィラーが微細に分散したマスターバッチである。このように、上記製造方法により得られたマスターバッチもまた、本発明の1つである。
【0050】
〔タイヤ用ゴム組成物〕
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記マスターバッチを用いて作製される。上記マスターバッチは、ゴム中にフィラーが微細に分散しているので、他の成分と混合したゴム組成物においてもフィラーを微細に分散できる。結果、これにより、破断強度、剛性、低燃費性の性能バランスを改善できる。
【0051】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分100質量%中、上記マスターバッチ由来のゴム分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。5質量%以上とすることで、本発明の効果がより好適に得られる。また、上限は、100質量%であってよい。
【0052】
上述のように、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記マスターバッチ由来ではないゴム分を含んでいてもよい。該ゴム分としては特に制限されず、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)などが挙げられ、中でも、NR、BR、SBRを配合することが好ましく、NR、BRを配合することがより好ましく、NR及びBRを併用することが特に好ましい。
【0053】
上記天然ゴム(NR)としては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等、ゴム工業において一般的なものを使用できる。
【0054】
本発明のタイヤ用ゴム組成物が、上記マスターバッチ由来ではないゴム分として天然ゴムを含む場合の、本発明のタイヤ用ゴム組成物におけるゴム成分100質量%中の天然ゴムの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。5質量%以上とすることで、特に優れた低燃費性が得られる。また、該含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。60質量%以下とすることで、特に操縦安定性をより向上させることができる。
【0055】
上記ブタジエンゴム(BR)としては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できるが、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B等の高シス含有量のブタジエンゴム、日本ゼオン(株)製のBR1250H等の変性ブタジエンゴム、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等のシンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するブタジエンゴム、ランクセス(株)製のBUNA−CB25等の希土類元素系触媒を用いて合成されるブタジエンゴム等を使用できる。これらBRは、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
上記BRのシス含量は、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、97質量%以上が更に好ましい。
なお、本明細書において、BRのシス含量(シス1,4結合含有率)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0057】
本発明のタイヤ用ゴム組成物が、上記マスターバッチ由来ではないゴム分としてブタジエンゴムを含む場合の、本発明のタイヤ用ゴム組成物におけるゴム成分100質量%中のブタジエンゴムの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。5質量%以上とすることで、特に優れた破断強度が得られる。また、該含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。50質量%以下とすることで、特に、加工性、低燃費性をより向上させることができる。
【0058】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、前記フィラーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは3質量部以上である。また、該含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。1質量部以上とすることで、本発明の効果がより好適に得られる。また、50質量部以下とすることで、前記フィラーの分散性がより向上し、本発明の効果がより好適に得られる。
【0059】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、上記マスターバッチ以外に、上記マスターバッチに用いられたゴム成分以外のタイヤ工業において一般的に用いられるゴム成分、上記マスターバッチに用いられたフィラー以外のタイヤ工業において一般的に用いられるカーボンブラックなどの充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、軟化剤、硫黄、加硫促進剤などのタイヤ工業において一般的に用いられる各種材料を適宜配合できる。
【0060】
特に、上記タイヤ用ゴム組成物にカーボンブラックを配合すると、補強効果が得られると共に、前記フィラーとの併用により、相乗的に前記フィラーのタイヤ用ゴム組成物中での分散性を顕著に向上させることが可能となる。したがって、上記タイヤ用ゴム組成物がカーボンブラックを含むこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0061】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられる。これらのカーボンブラックは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは20m/g以上、より好ましくは25m/g以上である。また該NSAは、好ましくは200m/g以下、より好ましくは150m/g以下、更に好ましくは120m/g以下である。20m/g以上とすることで、より高い補強効果が得られる。また、200m/g以下とすることで、低燃費性がより向上する。
なお、本発明において、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって求められる。
【0063】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。該含有量は、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは100質量部以下、特に好ましくは70質量部以下である。上記範囲内であると、より良好な低燃費性が得られる。
【0064】
上記タイヤ用ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、上記マスターバッチ、上記各種材料をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0065】
〔空気入りタイヤ〕
本発明のタイヤ用ゴム組成物は空気入りタイヤに好適に使用できる。上記空気入りタイヤは、上記タイヤ用ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種材料を配合したタイヤ用ゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形することにより未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0066】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0067】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
天然ゴムラテックス:野村貿易(株)社から入手したHytex Latex(高アンモニアタイプ、固形分濃度:60質量%)を使用
ミクロフィブリル化天然繊維:(株)スギノマシン製のバイオマスナノファイバー(製品名「BiNFi−s キチン」〔キチンナノファイバー〕、固形分:2質量%、水分:98質量%、平均繊維径:10〜50nm、重合度:300、比表面積:200m/g)
天然ゴム:TSR20
ブタジエンゴム:宇部興産(株)製のBR150B(シス含量:97質量%、ML1+4(100℃):40)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN550(NSA:42m/g)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)(6PPD)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
硫黄:日本乾溜工業(株)製のセイミ硫黄(オイル分:10%)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド)(TBBS)
【0068】
<マスターバッチの作製>
(実施例1)
ミクロフィブリル化天然繊維500gに純水1000gを添加し、ミクロフィブリル化天然繊維の0.5質量%(固形分濃度)懸濁液を作製し、高速ホモジナイザー(IKAジャパン社製の「T50」、回転数:8000rpm)で約5分撹拌して均一な水分散液を調製した(粘度:7〜8mPa・s)。
天然ゴムラテックスの固形分濃度(DRC)を10質量%に調整した後、天然ゴムラテックスのゴム固形分100質量部に対して、上記調製した水分散液をミクロフィブリル化天然繊維の乾燥重量(固形分)が20質量部となるように添加し、高速ホモジナイザー(IKAジャパン社製の「T50」、回転数:8000rpm)を用いて25℃で5分撹拌、混合して、ゴムラテックス分散液を調製した。次いで、25℃で5分ゆっくり撹拌(IKAジャパン社製のEurostar〔電子制御撹拌機〕、回転数:100rpm)しながら1質量%ギ酸水溶液を添加してゼータ電位を−20mVに調整して配合ラテックスを調製し、凝固物を得た。ろ過し、80℃で6時間乾燥してマスターバッチ1を得た。
【0069】
上記ゼータ電位は、次の装置、測定条件で測定した。
測定装置:大塚電子社製のゼータ電位測定装置「ELS−PT」
測定条件
pHタイトレータを使用して測定
pH滴定モード
溶媒:水
温度:25℃
誘電率:78.22
粘度:0.8663cp
屈折率:1.3312
【0070】
なお、上記天然ゴムラテックス(固形分濃度:10質量%)、及び、上記ミクロフィブリル化天然繊維の水分散液(固形分濃度:0.5質量%)のゼータ電位を上述の方法で測定したところ、それぞれ次の通りであった。
天然ゴムラテックス(固形分濃度:10質量%):−65mV
ミクロフィブリル化天然繊維の水分散液(固形分濃度:0.5質量%):35mV
【0071】
また、上記マスターバッチ1におけるミクロフィブリル化天然繊維のゴム中の分散性を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、ミクロフィブリル化天然繊維の凝集塊はできておらず、ゴム中にミクロフィブリル化天然繊維が微細に分散していることが確認された。
【0072】
(実施例2)
ゴムラテックス分散液を、25℃で5分ゆっくり撹拌(IKAジャパン社製のEurostar、回転数:100rpm)しながら1質量%ギ酸水溶液を添加してゼータ電位を−10mVに調整して配合ラテックスを調製し、凝固物を得た以外は、実施例1と同様にしてマスターバッチ2を得た。
また、上記マスターバッチ2におけるミクロフィブリル化天然繊維のゴム中の分散性を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、ミクロフィブリル化天然繊維の凝集塊はできておらず、ゴム中にミクロフィブリル化天然繊維が微細に分散していることが確認された。
【0073】
(比較例1)
ミクロフィブリル化天然繊維500gに純水1000gを添加し、ミクロフィブリル化天然繊維の0.5質量%(固形分濃度)懸濁液を作製し、高速ホモジナイザー(IKAジャパン社製の「T50」、回転数:8000rpm)で約5分撹拌して均一な水分散液を調製した(粘度:7〜8mPa・s)。
天然ゴムラテックスの固形分濃度(DRC)を10質量%に調整した後、天然ゴムラテックスの固形分100質量部に対して、上記調製した水分散液をミクロフィブリル化天然繊維の乾燥重量(固形分)が20質量部となるように添加し、高速ホモジナイザー(IKAジャパン社製の「T50」、回転数:8000rpm)で25℃、約5分撹拌、混合して、ゴムラテックス分散液を調製した。次いで、25℃で5分ゆっくり撹拌(IKAジャパン社製のEurostar、回転数:100rpm)しながら1質量%ギ酸水溶液を添加してpH((株)堀場製作所製のpHメーターD51T)を7に調整して配合ラテックスを調製し、凝固物を得た(併せて、実施例1と同様にしてゼータ電位も測定したところ、ゼータ電位は−29mVであった。)。ろ過し、80℃で6時間乾燥して比較マスターバッチ1を得た。
また、上記比較マスターバッチ1におけるミクロフィブリル化天然繊維のゴム中の分散性を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、ミクロフィブリル化天然繊維の凝集塊が多少見られ、ゴム中にミクロフィブリル化天然繊維が充分には微細に分散していないことが確認された。
【0074】
(比較例2)
ゴムラテックス分散液を、25℃で5分ゆっくり撹拌(IKAジャパン社製のEurostar、回転数:100rpm)しながら1質量%ギ酸水溶液を添加してゼータ電位を−30mVに調整して凝固物を得た以外は、実施例1と同様にして比較マスターバッチ2を得た。
また、上記比較マスターバッチ2におけるミクロフィブリル化天然繊維のゴム中の分散性を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、ミクロフィブリル化天然繊維の凝集塊ができており、ゴム中にミクロフィブリル化天然繊維が微細には分散していないことが確認された。
【0075】
(比較例3)
ゴムラテックス分散液を、25℃で5分ゆっくり撹拌(IKAジャパン社製のEurostar、回転数:100rpm)しながら1質量%ギ酸水溶液を添加してゼータ電位を20mVに調整して凝固物を得た以外は、実施例1と同様にして比較マスターバッチ3を得た。
また、上記比較マスターバッチ3におけるミクロフィブリル化天然繊維のゴム中の分散性を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、ミクロフィブリル化天然繊維の凝集塊ができており、ゴム中にミクロフィブリル化天然繊維が微細には分散していないことが確認された。
【0076】
<加硫ゴム組成物の作製>
(実施例11〜12及び比較例11〜13)
表1に示す配合に従って、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を混練りした。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加して練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で15分間プレス加硫して加硫ゴム組成物を得た。得られた加硫ゴム組成物を下記により評価し、結果を表1に示した。
【0077】
(引張試験)
加硫ゴム組成物を用いて3号ダンベル型ゴム試験片を作製し、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて引張試験を行い、加硫ゴム組成物の破断時の引張強度(引張破断強度:TB〔MPa〕)を測定した。
比較例11のTBを100として、下記計算式により、各配合のTBを指数表示した(破断強度指数〔TB指数〕)。TB指数が大きいほど破断強度が大きく耐久性に優れることを示す。
(TB指数)=(各配合のTB)/(比較例11のTB)×100
【0078】
(粘弾性試験)
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪み10%、及び、動歪み2%の条件下で、各配合(加硫ゴム組成物)から切り出した試験片のタイヤ周方向の複素弾性率E*(MPa)及び損失正接(tanδ)を測定した。
比較例11のE*、tanδをそれぞれ100として、下記計算式により各配合のE*、tanδを指数表示した(E*指数、tanδ指数)。E*指数が大きいほど剛性が大きく操縦安定性に優れることを示す。また、tanδ指数が大きいほど転がり抵抗特性(低燃費性)に優れることを示す。
(E*指数)=(各配合のE*)/(比較例11のE*)×100
(tanδ指数)=(比較例11のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
ここで、タイヤ周方向とは、加硫ゴム組成物の押出し方向である。
【0079】
(バランス指数)
前記各指数に基づき、タイヤ性能のバランス指数を下記計算式により算出した。バランス指数が大きいほど、破断強度、剛性、及び低燃費性のバランスに優れることを示す。
(バランス指数)=(TB指数×E*指数×tanδ指数)/10000
【0080】
【表1】
【0081】
表1から、ゼータ電位が−100〜−20mVのゴムラテックスと、ゼータ電位が10〜90mVのフィラー分散体とを混合して、ゼータ電位が−20〜0mVの配合ラテックスを調製する工程を含む製造方法で得られるマスターバッチを用いた実施例11及び12では、比較例11に比べて、破断強度、剛性、低燃費性の性能バランスが改善されることが明らかとなった。一方で、配合ラテックスのゼータ電位を−20〜0mVの範囲外に調整したマスターバッチを用いた比較例12及び13では、破断強度、剛性、低燃費性の性能バランスの悪化が見られた。