特許第6878895号(P6878895)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6878895
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】表示体、および、表示体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/02 20060101AFI20210524BHJP
   B29C 59/00 20060101ALI20210524BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20210524BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   B29C59/02 A
   B29C59/00 B
   B32B7/023
   G02B5/28
【請求項の数】14
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-2948(P2017-2948)
(22)【出願日】2017年1月11日
(65)【公開番号】特開2018-111253(P2018-111253A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2019年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】川下 雅史
【審査官】 正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−153192(JP,A)
【文献】 特開2012−078447(JP,A)
【文献】 特表2016−505161(JP,A)
【文献】 特開2012−173535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/00−59/18
B32B 1/00−43/00
B42D 25/328
G02B 5/20− 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の表示要素を備え、表面と裏面とを有する表示体であって、
前記表示要素は、表面に凹凸構造を有する凹凸層と、前記凹凸構造上に位置して当該凹凸構造に追従した表面形状を有する多層膜層とを備え、前記多層膜層において相互に隣接する層の屈折率は互いに異なり、前記多層膜層に入射する入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高く、
前記凹凸層と前記多層膜層とは、前記表示体の表面と対向する方向に積層され、
前記凹凸構造を構成する凸部は、前記凹凸層の表面から1段以上の段差形状を有し、
前記凹凸層の表面と対向する方向から前記凹凸構造を見たとき、前記凸部が構成するパターンは、複数の矩形の集合からなるパターンを含み、前記矩形にて、前記矩形の延伸方向に沿った長さは、前記延伸方向と直交する幅方向に沿った長さよりも大きく、かつ、前記幅方向に沿った長さはサブ波長以下であり、前記複数の矩形において、前記延伸方向に沿った長さの標準偏差は、前記幅方向に沿った長さの標準偏差よりも大きく、
複数の前記表示要素は、第1表示要素と第2表示要素とを含み、前記第1表示要素における前記延伸方向と前記第2表示要素における前記延伸方向とは、互いに異なり、
前記表示体の表面と対向する方向から見て、前記表示体は、前記表示要素として前記第1表示要素を含む第1表示領域と、前記表示要素として前記第2表示要素を含む第2表示領域と、前記第1表示領域と前記第2表示領域との間の領域である境界領域とを含み、
前記凹凸層は、前記第1表示領域と前記境界領域と前記第2表示領域とに連続し、
前記多層膜層は、前記第1表示領域と前記境界領域と前記第2表示領域とに連続し、
前記第1表示領域と前記第2表示領域とが並ぶ方向において前記境界領域が有する幅の最小値は、前記多層膜層の厚さの1/2以上の大きさであり、
前記境界領域において前記凹凸層の表面は平坦である
表示体。
【請求項2】
前記第1表示領域と前記第2表示領域とが並ぶ方向において前記境界領域が有する幅の最大値は、50μm以下である
請求項に記載の表示体。
【請求項3】
前記第1表示領域と前記第2表示領域とが並ぶ方向において前記境界領域が有する幅の
最小値は、50μmよりも大きい
請求項に記載の表示体。
【請求項4】
複数の前記表示要素の各々において、
前記凹凸層の表面と対向する方向から前記凹凸構造を見たとき、前記凹凸構造を構成する凸部が構成するパターンは、前記複数の矩形の集合からなるパターンであり、
前記凹凸構造を構成する前記凸部の高さは各表示要素内で一定である
請求項1〜3のいずれか一項に記載の表示体。
【請求項5】
複数の表示要素を備え、表面と裏面とを有する表示体であって、
前記表示要素は、表面に凹凸構造を有する凹凸層と、前記凹凸構造上に位置して当該凹凸構造に追従した表面形状を有する多層膜層とを備え、前記多層膜層において相互に隣接する層の屈折率は互いに異なり、前記多層膜層に入射する入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高く、
前記凹凸層と前記多層膜層とは、前記表示体の表面と対向する方向に積層され、
前記凹凸構造を構成する凸部は、前記凹凸層の表面から1段以上の段差形状を有し、
前記凹凸層の表面と対向する方向から前記凹凸構造を見たとき、前記凸部が構成するパターンは、複数の矩形の集合からなるパターンを含み、前記矩形にて、前記矩形の延伸方向に沿った長さは、前記延伸方向と直交する幅方向に沿った長さよりも大きく、かつ、前記幅方向に沿った長さはサブ波長以下であり、前記複数の矩形において、前記延伸方向に沿った長さの標準偏差は、前記幅方向に沿った長さの標準偏差よりも大きく、
複数の前記表示要素は、第1表示要素と第2表示要素とを含み、前記第1表示要素における前記延伸方向と前記第2表示要素における前記延伸方向とは、互いに異なり、
複数の前記表示要素の各々において、
前記凹凸層の表面と対向する方向から前記凹凸構造を見たとき、前記凹凸構造を構成する凸部が構成するパターンは、前記複数の矩形の集合からなる第1パターンと、前記延伸方向に沿って延び、前記幅方向に沿って並ぶ複数の帯状領域からなる第2パターンとが重ね合わされたパターンであり、
前記幅方向に沿った前記帯状領域の配列間隔は、前記複数の帯状領域において一定ではなく、その平均値が前記入射光に含まれる波長域における最小波長の1/2以上であり、
前記凹凸構造を構成する前記凸部は、前記凹凸層と前記多層膜層との積層方向への投影像が前記第1パターンを構成する要素であって前記表示要素ごとの所定の高さを有する凸部要素と、前記積層方向への投影像が前記第2パターンを構成する要素であって前記表示要素ごとの所定の高さを有する凸部要素とが高さ方向に重ねられた多段形状を有する
表示体。
【請求項6】
前記第1表示要素における前記延伸方向と前記第2表示要素における前記延伸方向とは、互いに直交する
請求項1〜5のいずれか一項に記載の表示体。
【請求項7】
複数の前記表示要素の各々において、
前記矩形の前記幅方向に沿った長さは830nm以下であり、前記複数の矩形の集合からなるパターンを構成する凸部の高さは415nm以下である
請求項1〜6のいずれか一項に記載の表示体。
【請求項8】
複数の前記表示要素の各々において、
前記凸部が構成するパターンに含まれる前記複数の矩形における前記延伸方向に沿った長さの平均値は4.15μm以下であり、当該長さの標準偏差は1μm以下である
請求項1〜7のいずれか一項に記載の表示体。
【請求項9】
複数の前記表示要素の各々において、
前記凹凸層の表面と対向する方向から前記凹凸構造を見たとき、前記表示要素を構成する領域内において、前記複数の矩形の集合からなるパターンを構成する凸部が占める面積の比率は、40%以上60%以下である
請求項1〜8のいずれか一項に記載の表示体。
【請求項10】
前記多層膜層を構成する各層の材料および膜厚は、前記第1表示要素と前記第2表示要素とにおいて一致している
請求項1〜9のいずれか一項に記載の表示体。
【請求項11】
前記第1表示要素において前記複数の矩形の集合からなるパターンを構成する凸部の高さと、前記第2表示要素において前記複数の矩形の集合からなるパターンを構成する凸部の高さとが異なり、その差が5nm以上である
請求項10に記載の表示体。
【請求項12】
第1表示要素と第2表示要素とを含む複数の表示要素を備える表示体の製造方法であって、
凹版の有する凹凸をナノインプリント法を用いて樹脂に転写することにより、表面に凹凸構造を有する凹凸層を形成する工程であって、前記凹凸層における前記第1表示要素に含まれる部分と前記第2表示要素に含まれる部分とに前記凹凸構造を同時に形成する第1工程と、
前記凹凸構造上に、多層膜層を、当該多層膜層において相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、当該多層膜層に入射する入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高くなるように形成する第2工程と、を含み、
前記第1工程では、前記凹凸層のうちの前記表示要素に含まれる部分の各々において、前記凹凸構造を構成する凸部が前記凹凸層の表面から1段以上の段差形状を有し、前記凹凸層の表面と対向する方向から前記凹凸構造を見たとき、前記凸部が構成するパターンが、複数の矩形の集合からなるパターンを含み、前記矩形にて、前記矩形の延伸方向に沿った長さは、前記延伸方向と直交する幅方向に沿った長さよりも大きく、かつ、前記第1表示要素に含まれる部分における前記延伸方向と前記第2表示要素に含まれる部分における前記延伸方向とが、互いに異なる方向となるように前記凹凸構造を形成し、
前記凹凸層のうちの前記表示要素に含まれる部分の各々において、前記矩形の前記幅方向に沿った長さはサブ波長以下であり、前記複数の矩形において、前記延伸方向に沿った長さの標準偏差は、前記幅方向に沿った長さの標準偏差よりも大きく、
前記表示体の表面と対向する方向から見て、前記表示体は、前記表示要素として前記第1表示要素を含む第1表示領域と、前記表示要素として前記第2表示要素を含む第2表示領域と、前記第1表示領域と前記第2表示領域との間の領域である境界領域とを含み、前記第1表示領域と前記第2表示領域とが並ぶ方向において前記境界領域が有する幅の最小値は、前記多層膜層の厚さの1/2以上の大きさであり、
前記第1工程では、前記凹凸層を、前記第1表示領域と前記境界領域と前記第2表示領域とに連続し、前記境界領域においてその表面が平坦であるように形成し、
前記第2工程では、前記多層膜層を、前記第1表示領域と前記境界領域と前記第2表示領域とに連続するように形成する
表示体の製造方法。
【請求項13】
第1表示要素と第2表示要素とを含む複数の表示要素を備える表示体の製造方法であって、
凹版の有する凹凸をナノインプリント法を用いて樹脂に転写することにより、表面に凹凸構造を有する凹凸層を形成する工程であって、前記凹凸層における前記第1表示要素に含まれる部分と前記第2表示要素に含まれる部分とに前記凹凸構造を同時に形成する第1
工程と、
前記凹凸構造上に、多層膜層を、当該多層膜層において相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、当該多層膜層に入射する入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高くなるように形成する第2工程と、を含み、
前記第1工程では、前記凹凸層のうちの前記表示要素に含まれる部分の各々において、
前記凹凸構造を構成する凸部が前記凹凸層の表面から1段以上の段差形状を有し、前記凹凸層の表面と対向する方向から前記凹凸構造を見たとき、前記凸部が構成するパターンが、複数の矩形の集合からなるパターンを含み、前記矩形にて、前記矩形の延伸方向に沿った長さは、前記延伸方向と直交する幅方向に沿った長さよりも大きく、かつ、前記第1表示要素に含まれる部分における前記延伸方向と前記第2表示要素に含まれる部分における前記延伸方向とが、互いに異なる方向となり、
前記矩形の前記幅方向に沿った長さはサブ波長以下であり、前記複数の矩形において、前記延伸方向に沿った長さの標準偏差は、前記幅方向に沿った長さの標準偏差よりも大きく、
前記凹凸層の表面と対向する方向から前記凹凸構造を見たとき、前記凹凸構造を構成する凸部が構成するパターンは、前記複数の矩形の集合からなる第1パターンと、前記延伸方向に沿って延び、前記幅方向に沿って並ぶ複数の帯状領域からなる第2パターンとが重ね合わされたパターンであり、
前記幅方向に沿った前記帯状領域の配列間隔は、前記複数の帯状領域において一定ではなく、その平均値が前記入射光に含まれる波長域における最小波長の1/2以上であり、
前記凹凸構造を構成する前記凸部は、前記凹凸層と前記多層膜層との積層方向への投影像が前記第1パターンを構成する要素であって前記表示要素ごとの所定の高さを有する凸部要素と、前記積層方向への投影像が前記第2パターンを構成する要素であって前記表示要素ごとの所定の高さを有する凸部要素とが高さ方向に重ねられた多段形状を有する、
ように前記凹凸構造を形成する
表示体の製造方法。
【請求項14】
前記ナノインプリント法は、光ナノインプリント法または熱ナノインプリント法である
請求項12または13に記載の表示体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造色を利用した表示体、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モルフォ蝶等の自然界の生物の色として多く観察される構造色は、色素が呈する色のように分子における電子遷移に起因して視認される色とは異なり、光の回折や干渉や散乱といった、物体の微細な構造に起因した光学現象の作用によって視認される色である。
【0003】
例えば、多層膜干渉による構造色は、相互に隣り合う薄膜の屈折率が互いに異なる多層膜層において、多層膜の各界面で反射した光が干渉することによって生じる構造色であり、多層膜干渉は、モルフォ蝶の翅の発色原理の1つである。モルフォ蝶の翅では、多層膜干渉に加えて、翅の表面の微細な凹凸構造によって光の散乱や回折が生じる結果、鮮やかな青色が広い観察角度において視認される。
【0004】
モルフォ蝶の翅のような構造色を人工的に再現する構造として、特許文献1に記載のように、不均一に配列された微細な凹凸を有する基材の表面に、多層膜層が積層された構造が提案されている。
【0005】
多層膜層において、干渉によって強められる光の波長は、多層膜層の各層にて生じる光路差によって定まり、光路差は各層の膜厚および屈折率によって定まる。そして、干渉によって強められた光の出射方向は、入射光の入射方向と多層膜層の積層方向とのなす角度である入射角度と、上記出射方向と上記積層方向とのなす角度である反射角度との大きさが等しくなる方向に限定される。したがって、平面に多層膜層が積層された構造では、視認される反射光の波長が観察角度によって大きく変化するため、視認される色が観察角度によって大きく変化する。
【0006】
これに対し、特許文献1の構造体では、不規則な凹凸の上に多層膜層が積層されていることにより、干渉によって強められた反射光が広範囲に広がるため、観察角度による色の変化が緩やかになる。その結果、モルフォ蝶の翅のように広い観察角度で特定の色を呈する構造体が実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−153192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した構造色を呈する構造体によれば、色素が呈する色によっては実現が困難な視覚効果を得ることが可能である。例えば、特許文献1の構造体において、不規則な凹凸を構成する複数の凸部は、凹凸が形成された面と対向する方向から見て、各凸部にて共通する方向に延びる矩形形状を有しており、その長辺方向の長さは不規則である一方、短辺方向の長さはほぼ一定である。すなわち、複数の凸部における長辺方向は異方性を有しており、その結果、反射光の広がる方向も異方性を有するため、構造体を観察する位置が変わることによって、構造体が呈する色の明るさ等の見え方が変わる。そこで、こうした見え方の変化を表示体に利用することによって、例えば、領域ごとのコントラストの差が明瞭な像を形成可能な表示体等、より意匠性の高い表示体の実現が望まれている。
【0009】
本発明は、意匠性を高めることのできる表示体、および、表示体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する表示体は、複数の表示要素を備え、表面と裏面とを有する表示体であって、前記表示要素は、表面に凹凸構造を有する凹凸層と、前記凹凸構造上に位置して当該凹凸構造に追従した表面形状を有する多層膜層とを備え、前記多層膜層において相互に隣接する層の屈折率は互いに異なり、前記多層膜層に入射する入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高く、前記凹凸層と前記多層膜層とは、前記表示体の表面と対向する方向に積層され、前記凹凸構造を構成する凸部は、前記凹凸層の表面から1段以上の段差形状を有し、前記凹凸層の表面と対向する方向から前記凹凸構造を見たとき、前記凸部が構成するパターンは、複数の矩形の集合からなるパターンを含み、前記矩形にて、前記矩形の延伸方向に沿った長さは、前記延伸方向と直交する幅方向に沿った長さよりも大きく、かつ、前記幅方向に沿った長さはサブ波長以下であり、前記複数の矩形において、前記延伸方向に沿った長さの標準偏差は、前記幅方向に沿った長さの標準偏差よりも大きく、複数の前記表示要素は、第1表示要素と第2表示要素とを含み、前記第1表示要素における前記延伸方向と前記第2表示要素における前記延伸方向とは、互いに異なる。
【0011】
上記構成によれば、表示要素では、多層膜層から反射される特定の波長域の反射光は、表示要素の有する凹凸構造に起因して散乱され、その散乱が幅方向において生じる異方性を有する。そして、第1表示要素における幅方向と第2表示要素における幅方向とが、互いに異なるため、表示体に対する観察者の位置のなかで、第1表示要素からの反射光が視認される位置と第2表示要素からの反射光が視認される位置とが、互いに異なる。その結果、表示体を観察する位置が変わると、反射光の視認される領域が表面において変わり、例えば、こうした構成の利用によって、上記観察者の位置に応じた異なる像を観察者に視認させることもできる。したがって、表示体の意匠性が高められる。
【0012】
上記表示体において、前記第1表示要素における前記延伸方向と前記第2表示要素における前記延伸方向とは、互いに直交してもよい。
上記構成によれば、第1表示要素からの反射光が散乱される方向と第2表示要素からの反射光が散乱される方向とが、表示体の表面に沿った平面への投影像においては直交するため、上記観察者の位置に応じた異なる像を観察者に視認させる場合には、観察者の位置に応じた像の違いが認識されやすい。
【0013】
上記表示体において、複数の前記表示要素の各々において、前記矩形の前記幅方向に沿った長さは830nm以下であり、前記複数の矩形の集合からなるパターンを構成する凸部の高さは415nm以下であってもよい。
【0014】
上記構成によれば、凹凸構造に起因した分光や干渉が抑えられるため、多層膜層からの反射光の視認性が高められる。
上記表示体において、複数の前記表示要素の各々において、前記凸部が構成するパターンに含まれる前記複数の矩形における前記延伸方向に沿った長さの平均値は4.15μm以下であり、当該長さの標準偏差は1μm以下であってもよい。
【0015】
上記構成によれば、多層膜層からの反射光の効率の良い散乱が可能である。
上記表示体において、複数の前記表示要素の各々において、前記凹凸層の表面と対向する方向から前記凹凸構造を見たとき、前記表示要素を構成する領域内において、前記複数の矩形の集合からなるパターンを構成する凸部が占める面積の比率は、40%以上60%以下であってもよい。
【0016】
上記構成によれば、多層膜層からの反射光の広がりを大きく確保することが可能である。
上記表示体において、前記多層膜層を構成する各層の材料および膜厚は、前記第1表示要素と前記第2表示要素とにおいて一致していてもよい。
【0017】
上記構成によれば、第1表示要素に対応する領域と第2表示要素に対応する領域とに対して、同一の工程によって同時に多層膜層の形成が可能であるため、表示体を簡便な製造工程によって形成することができる。
【0018】
上記表示体において、前記第1表示要素において前記複数の矩形の集合からなるパターンを構成する凸部の高さと、前記第2表示要素において前記複数の矩形の集合からなるパターンを構成する凸部の高さとが異なり、その差が5nm以上であってもよい。
【0019】
上記構成によれば、第1表示要素の位置する領域と第2表示要素の位置する領域とに互いに異なる色相の色が視認される。したがって、表示体の意匠性が高められる。そして、こうした色相の違いが凸部の高さの違いによって実現され、第1表示要素と第2表示要素とにおいては多層膜層の構成は一致しているため、各表示要素の位置する領域ごとに多層膜層を形成する必要がなく、互いに異なる色相の色を呈する表示要素を有する表示体を、簡便な製造工程によって形成することができる。
【0020】
上記表示体において、前記表示体の表面と対向する方向から見て、前記表示体は、前記表示要素として前記第1表示要素を含む第1表示領域と、前記表示要素として前記第2表示要素を含む第2表示領域と、前記第1表示領域と前記第2表示領域との間の領域である境界領域とを含み、前記凹凸層は、前記第1表示領域と前記境界領域と前記第2表示領域とに連続し、前記多層膜層は、前記第1表示領域と前記境界領域と前記第2表示領域とに連続し、前記第1表示領域と前記第2表示領域とが並ぶ方向において前記境界領域が有する幅の最小値は、前記多層膜層の厚さの1/2以上の大きさであり、前記境界領域において前記凹凸層の表面は平坦であってもよい。
【0021】
上記構成によれば、第1表示領域と第2表示領域との間に境界領域が位置するため、第1表示領域と第2表示領域との境界部分で、第1表示要素の備える多層膜層の凸部と第2表示要素の備える多層膜層の凸部とが連なることが抑えられる。そして、各表示要素における多層膜層の表面に本来求められる凹凸構造の形状が、上述した凸部の連なりによって崩れることが抑えられる。その結果、各表示要素の全体から所望の方向に向けて所望の発色が得られやすくなる。
【0022】
上記表示体において、前記第1表示領域と前記第2表示領域とが並ぶ方向において前記境界領域が有する幅の最大値は、50μm以下であってもよい。
上記構成によれば、境界領域が視認されることが抑えられるため、境界領域からの反射光が観察者に視認されることが抑えられ、観察者には、第1表示領域と第2表示領域とが接しているかのように認識される。そして、第1表示領域と第2表示領域との各々において、表示要素の全体から所望の方向に向けて所望の発色が得られやすいため、第1表示領域と第2表示領域とによって精密な像の形成が可能である。
【0023】
上記表示体において、前記第1表示領域と前記第2表示領域とが並ぶ方向において前記境界領域が有する幅の最小値は、50μmよりも大きくてもよい。
上記構成によれば、境界領域が視認可能であるため、観察角度に応じて、境界領域からの反射光、すなわち、異方性を有さずに正反射の方向へ射出される反射光が観察者に視認される。したがって、表示体の表面に沿った平面内での表示領域ごとの特定の位置において、広い観察角度で特定の波長域の反射光が観察される第1表示領域および第2表示領域と、表示体の表面に沿った平面内での任意の位置において、観察角度に応じた波長域の反射光が観察される境界領域との組み合わせによって、上記観察者の位置の違いに応じた変化の大きい像の形成が可能である。それゆえ、より多彩な像の表現が可能であり、表示体の意匠性のさらなる向上が可能である。
【0024】
上記表示体において、複数の前記表示要素の各々において、前記凹凸層の表面と対向する方向から前記凹凸構造を見たとき、前記凹凸構造を構成する凸部が構成するパターンは、前記複数の矩形の集合からなるパターンであり、前記凹凸構造を構成する前記凸部の高さは各表示要素内で一定であってもよい。
【0025】
上記構成によれば、凸部によって反射光の拡散効果が得られ、各表示要素において、多層膜層からの反射光として特定の波長域の光が広い観察角度で観察される。そして、凸部が多段形状を有する場合と比較して、凹凸層における凹凸構造の設計や形成に要する負荷が低減できる。
【0026】
上記表示体において、複数の前記表示要素の各々において、前記凹凸層の表面と対向する方向から前記凹凸構造を見たとき、前記凹凸構造を構成する凸部が構成するパターンは、前記複数の矩形の集合からなる第1パターンと、前記延伸方向に沿って延び、前記幅方向に沿って並ぶ複数の帯状領域からなる第2パターンとが重ね合わされたパターンであり、前記幅方向に沿った前記帯状領域の配列間隔は、前記複数の帯状領域において一定ではなく、その平均値が前記入射光に含まれる波長域における最小波長の1/2以上であり、前記凹凸構造を構成する前記凸部は、前記凹凸層と前記多層膜層との積層方向への投影像が前記第1パターンを構成する要素であって前記表示要素ごとの所定の高さを有する凸部要素と、前記積層方向への投影像が前記第2パターンを構成する要素であって前記表示要素ごとの所定の高さを有する凸部要素とが高さ方向に重ねられた多段形状を有してもよい。
【0027】
上記構成によれば、凸部によって反射光の拡散効果と回折効果とが得られ、各表示要素において、多層膜層からの反射光として特定の波長域の光が広い観察角度で観察可能であるとともに、この反射光の強度が高められることにより光沢感のある鮮やかな色が視認される。
【0028】
上記課題を解決する表示体の製造方法は、第1表示要素と第2表示要素とを含む複数の表示要素を備える表示体の製造方法であって、凹版の有する凹凸をナノインプリント法を用いて樹脂に転写することにより、表面に凹凸構造を有する凹凸層を形成する工程であって、前記凹凸層における前記第1表示要素に含まれる部分と前記第2表示要素に含まれる部分とに前記凹凸構造を同時に形成する第1工程と、前記凹凸構造上に、多層膜層を、当該多層膜層において相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、当該多層膜層に入射する入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高くなるように形成する第2工程と、を含み、前記第1工程では、前記凹凸層のうちの前記表示要素に含まれる部分の各々において、前記凹凸構造を構成する凸部が前記凹凸層の表面から1段以上の段差形状を有し、前記凹凸層の表面と対向する方向から前記凹凸構造を見たとき、前記凸部が構成するパターンが、複数の矩形の集合からなるパターンを含み、前記矩形にて、前記矩形の延伸方向に沿った長さは、前記延伸方向と直交する幅方向に沿った長さよりも大きく、かつ、前記第1表示要素に含まれる部分における前記延伸方向と前記第2表示要素に含まれる部分における前記延伸方向とが、互いに異なる方向となるように前記凹凸構造を形成し、前記凹凸層のうちの前記表示要素に含まれる部分の各々において、前記矩形の前記幅方向に沿った長さはサブ波長以下であり、前記複数の矩形において、前記延伸方向に沿った長さの標準偏差は、前記幅方向に沿った長さの標準偏差よりも大きい。
【0029】
上記製法によれば、ナノインプリント法を用いて凹凸層の凹凸構造が形成されるため、微細な凹凸構造を好適に、かつ、簡便に形成することができる。そして、凹凸層における第1表示要素に含まれる部分と第2表示要素に含まれる部分とに凹凸構造が同時に形成されるため、表示要素ごとに凹凸層の凹凸構造を形成する方法と比較して、凹凸層の形成に要する負荷が低減できる。
【0030】
上記製法において、前記ナノインプリント法は、光ナノインプリント法または熱ナノインプリント法であってもよい。
上記製法によれば、ナノインプリント法として、光ナノインプリント法もしくは熱ナノインプリント法が用いられるため、ナノインプリント法による凹凸構造の形成が、好適、かつ、簡便に実現される。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、表示体の意匠性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】表示体の一実施形態について、表示体の平面構造を示す平面図。
図2】表示体の一実施形態について、第1の構造を有する画素の断面構造を示す断面図。
図3】表示体の一実施形態について、(a)は、第1の構造における凹凸構造の平面構造を示す平面図、(b)は、第1の構造における凹凸構造の断面構造を示す断面図。
図4】表示体の一実施形態について、第2の構造を有する画素の断面構造を示す断面図。
図5】表示体の一実施形態について、(a)は、第2の構造における第2凸部要素のみからなる凹凸構造の平面構造を示す平面図、(b)は、第2の構造における第2凸部要素のみからなる凹凸構造の断面構造を示す断面図。
図6】表示体の一実施形態について、(a)は、第2の構造における凹凸構造の平面構造を示す平面図、(b)は、第2の構造における凹凸構造の断面構造を示す断面図。
図7】表示体の一実施形態について、変形例の画素の断面構造を示す断面図。
図8】表示体の一実施形態について、第1画素における凹凸構造の配置と、第2画素における凹凸構造の配置とを示す図。
図9】表示体の一実施形態について、(a)は、表示体の表面と対向する方向から見た場合での、入射光と反射光との方向を示す図、(b)は、表示体の断面と対向する方向から見た場合での、入射光と反射光との方向を示す図。
図10】表示体の一実施形態について、(a)は、表示体に対する観察位置を示す図、(b)は、位置PAから表示体を観察した場合に視認される像を示す図、(c)は、位置PBから表示体を観察した場合に視認される像を示す図。
図11】表示体の一実施形態における構成例について、凹凸層の凸部付近に積層された多層膜層を拡大して示す断面図。
図12】表示体の一実施形態における構成例について、(a)は、凹凸構造の配置、および、表示体に対する観察位置を示す図、(b)は、位置PAから表示体を観察した場合に視認される像を示す図、(c)は、位置PBから表示体を観察した場合に視認される像を示す図、(d)は、位置PCから表示体を観察した場合に視認される像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1図12を参照して、表示体、および、表示体の製造方法の一実施形態を説明する。
[表示体の全体構成]
図1を参照して、表示体の全体構成について説明する。本実施形態の表示体は、物品の偽造の困難性を高める目的で用いられてもよいし、物品の意匠性を高める目的で用いられてもよいし、これらの目的を兼ねて用いられてもよい。物品の偽造の困難性を高める目的としては、表示体は、例えば、パスポートや免許証等の認証書類、商品券や小切手等の有価証券類、クレジットカードやキャッシュカード等のカード類、紙幣等に貼り付けられる。また、物品の意匠性を高める目的としては、表示体は、例えば、身に着けられる装飾品や、使用者に携帯される物品、家具や家電等のように据え置かれる物品、壁や扉等の構造物、自動車の内装や外装等に取り付けられる。
【0034】
図1が示すように、表示体100は、表面100Fと、表面100Fとは反対側の面である裏面100Rとを有し、表面100Fと対向する方向から見て、表示体100は、画素10の配置される領域である表示領域110を含んでいる。表示領域110は、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとを含む。第1表示領域110Aは、複数の第1画素10Aが位置する領域であり、第2表示領域110Bは、複数の第2画素10Bが位置する領域である。
【0035】
第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとの各々は、これらの領域単独、もしくは、これらの領域の2以上の組み合わせによって、文字、記号、図形、模様、絵柄、これらの背景等を表現する。一例として、図1に示す構成では、第1表示領域110Aによって「A」という文字が表現され、第2表示領域110Bによってその背景が表現されている。
【0036】
[画素の構成]
本実施形態の画素10は、多層膜層を有する凹凸構造体である。画素10が有する凹凸構造としては、第1の構造と第2の構造とのいずれもが適用可能であり、まず、これらの2つの構造の各々について説明する。
【0037】
なお、画素10に対する入射光および反射光の波長域は特に限定されないが、以下の説明においては、一例として、可視領域の光を対象とした画素10について説明する。本実施形態においては、360nm以上830nm以下の波長域の光を可視領域の光とする。
【0038】
<第1の構造>
図2は、第1の構造を有する画素10である凹凸構造体11を示す。凹凸構造体11は、可視領域の光を透過する材料から形成されており、表面に凹凸構造を有する凹凸層の一例である基材15と、基材15の表面に積層された多層膜層16とを備えている。すなわち、多層膜層16は、基材15における凹凸の形成されている面を覆っている。基材15と多層膜層16とは、表示体100の表面100Fと対向する方向に積層されている。
【0039】
基材15の有する凹凸構造は、複数の凸部15aと、複数の凸部15aの間の領域である凹部15bとから構成され、凸部15aは、不規則な長さを有して略帯状に延びる複数の部分から構成される。
【0040】
多層膜層16は、高屈折率層16aと低屈折率層16bとが交互に積層された構造を有する。高屈折率層16aの屈折率は、低屈折率層16bの屈折率よりも大きい。例えば、基材15の表面には、高屈折率層16aが接し、多層膜層16における基材15とは反対側の面を、低屈折率層16bが構成する。
【0041】
基材15における凸部15a上と凹部15b上とで、多層膜層16の構成、すなわち、多層膜層16を構成する各層の材料や膜厚や積層順序は一致している。そして、多層膜層16における基材15とは反対側の面である表面は、基材15の凹凸構造に追従した表面形状、すなわち、基材15に形成された凹凸に追従した凹凸を有している。
【0042】
こうした構造においては、多層膜層16の表面側から凹凸構造体11に光が入射すると、多層膜層16における高屈折率層16aと低屈折率層16bとの各界面で反射した光が干渉を起こすとともに多層膜層16の表面における不規則な凹凸に起因して進行方向を変える結果、特定の波長域の光が広い角度に出射される。この反射光として強く出射される特定の波長域は、高屈折率層16aと低屈折率層16bとの材料および膜厚、ならびに、凸部15aの幅、高さおよび配列によって決まる。
【0043】
なお、多層膜層16における基材15と接する面も、多層膜層16の表面と同様の凹凸を有するため、基材15の位置する側から凹凸構造体11に光が入射した場合にも、同様に、特定の波長域の反射光が広い角度に出射される。それゆえ、凹凸構造体11は、多層膜層16と基材15とのいずれの側から観察されてもよい。すなわち、基材15に対して多層膜層16の位置する側が表示体100の裏面100Rに対して表面100Fの位置する側であってもよいし、多層膜層16に対して基材15の位置する側が表示体100の裏面100Rに対して表面100Fの位置する側であってもよい。
【0044】
図3を参照して、凹凸層である基材15が有する凹凸構造の詳細について説明する。図3(a)は、基材15をその表面と対向する方向から見た平面図であり、図3(b)は、図3(a)の3−3線に沿った基材15の断面構造を示す断面図である。図3(a)においては、凹凸構造を構成する凸部15aにドットを付して示している。
【0045】
図3(a)が示すように、基材15の表面と対向する方向から見て、凸部15aが構成するパターンは、破線によって示す複数の矩形Rの集合からなるパターンである。矩形Rは、1つの方向に延びる形状を有し、この矩形Rの延びる方向、すなわち、矩形Rの長辺方向が延伸方向C2であり、延伸方向C2と直交する方向、すなわち、矩形Rの短辺方向が、幅方向C1である。幅方向C1と延伸方向C2とは、表示体100の表面100Fに沿った平面に含まれる方向である。
【0046】
矩形Rにおいて、延伸方向C2の長さd2は、幅方向C1の長さd1よりも大きい。複数の矩形Rは、幅方向C1および延伸方向C2のいずれにおいても重ならないように配列されている。
【0047】
複数の矩形Rにおいて、幅方向C1の長さd1は一定であり、複数の矩形Rは、幅方向C1に沿って、長さd1の配列間隔、すなわち、長さd1の周期で配置されている。
一方、複数の矩形Rにおいて、延伸方向C2の長さd2は不規則であって、各矩形Rにおける長さd2は、所定の標準偏差を有する母集団から選択された値である。この母集団は、正規分布に従うことが好ましい。複数の矩形Rからなるパターンは、例えば、所定の標準偏差で分布する長さd2を有する複数の矩形Rを、画素10を構成する領域内に仮に敷き詰め、各矩形Rの実際の配置の有無を一定の確率に従って決定することにより、矩形Rの配置される領域と矩形Rの配置されない領域とを設定することによって形成される。多層膜層16からの反射光を効率よく散乱させるためには、長さd2は、平均値が4.15μm以下、かつ、標準偏差が1μm以下の分布を有することが好ましい。
【0048】
矩形Rの配置されている領域が、凸部15aの配置される領域であり、互いに隣接する矩形Rが接する場合には、各矩形Rの配置されている領域が結合された1つの領域に1つの凸部15aが配置される。こうした構成においては、凸部15aの幅方向C1の長さは、矩形Rの長さd1の整数倍である。
【0049】
凹凸によって虹色の分光が生じることを抑えるために、矩形Rにおける幅方向C1の長さd1は可視領域の光の波長以下とされる。換言すれば、長さd1は、サブ波長以下、つまり、入射光の波長域以下の長さを有する。すなわち、長さd1は830nm以下であることが好ましく、700nm以下であることがより好ましい。さらに、長さd1は、多層膜層16から反射される上記特定の波長域の光が有するピーク波長よりも小さいことが好ましい。例えば、画素10にて青色を発色させる場合は、長さd1は300nm程度であることが好ましく、画素10にて緑色を発色させる場合は、長さd1は400nm程度であることが好ましく、画素10にて赤色を発色させる場合は、長さd1は460nm程度であることが好ましい。
【0050】
多層膜層16からの反射光の広がりを大きくするため、すなわち、反射光の散乱効果を高めるためには、凹凸構造の起伏が多いことが好ましく、基材15の表面と対向する方向から見て、画素10を構成する領域内において凸部15aが占める面積の比率は40%以上60%以下であることが好ましい。例えば、基材15の表面と対向する方向から見て、画素10を構成する領域内における凸部15aの面積と凹部15bとの面積の比率は、1:1であることが好ましい。
【0051】
図3(b)が示すように、凸部15aの高さh1は一定であり、画素10にて発色させる所望の色、すなわち、凹凸構造体11から反射させることの望まれる波長域に応じて設定されればよい。凸部15a上や凹部15b上における多層膜層16の表面粗さよりも、凸部15aの高さh1が大きければ、反射光の散乱効果は得られる。
【0052】
ただし、多層膜層16の表面の凹凸での反射に起因した光の干渉を抑えるために、高さh1は可視領域の光の波長の1/2以下であることが好ましく、すなわち、415nm以下であることが好ましい。さらに、上記光の干渉を抑えるために、高さh1は、多層膜層16から反射される上記特定の波長域の光が有するピーク波長の1/2以下であることがより好ましい。
【0053】
また、高さh1が過剰に大きいと、反射光の散乱効果が高くなりすぎて、反射光の強度が低くなりやすいため、反射光が可視領域の光である場合、高さh1は10nm以上200nm以下であることが好ましい。例えば、青色を呈する画素10では、効果的な光の広がりを得るためには、高さh1は40nm以上150nm以下の程度であることが好ましく、散乱効果が高くなりすぎることを抑えるためには、高さh1は100nm以下であることが好ましい。
【0054】
なお、矩形Rは、幅方向C1に沿って並ぶ2つの矩形Rの一部が重なるように配列されることにより、凸部15aのパターンを構成していてもよい。すなわち、複数の矩形Rは、幅方向C1に、長さd1よりも小さい配列間隔で配置されていてもよいし、矩形Rの配列間隔は一定でなくてもよい。矩形Rが重なり合う部分では、各矩形Rの配置されている領域が結合された1つの領域に1つの凸部15aが位置する。この場合、凸部15aの幅方向C1の長さは、矩形Rの長さd1の整数倍とは異なる長さとなる。また、矩形Rの長さd1は一定でなくてもよく、各矩形Rにおいて長さd2が長さd1よりも大きく、複数の矩形Rにおける長さd2の標準偏差が長さd1の標準偏差よりも大きければよい。こうした構成によっても、反射光の散乱効果は得られる。
【0055】
また、画素10の製造の際には、例えば、複数の矩形Rからなるパターンに従った凸部を一括して大面積の領域に形成後、このパターンを分割するように凸部を切断等により分割することで、各画素10の凹凸構造を形成してもよく、こうした製造方法は、製造工程が容易となるため好ましい。ここで、凸部の分割によって、複数の画素10の一部には、画素10の端部に、延伸方向C2の長さd2が、幅方向C1の長さd1よりも小さい矩形Rを構成する凸部が形成される場合がある。しかし、凸部15aのパターンにこうした矩形Rが含まれたとしても、その割合が十分に小さい場合は上記矩形Rによる光学的影響は無視できるほど小さい。
【0056】
<第2の構造>
図4は、第2の構造を有する画素10である凹凸構造体12を示す。
第2の構造を有する凹凸構造体12は、第1の構造を有する凹凸構造体11と比較して、基材15における凹凸構造の構成、すなわち、多層膜層16の表面における凹凸構造の構成が異なり、こうした凹凸構造の構成以外については、上述の第1の構造を有する凹凸構造体11と同様の構成を有する。以下では、凹凸構造体12について、上述の凹凸構造体11との相違点を中心に説明し、凹凸構造体11と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0057】
凹凸構造体12における基材15の凹凸構造を構成する凸部15cは、第1の構造における凸部15aと同様の構成を有する第1凸部要素と、帯状に延びる第2凸部要素とが、基材15の厚さ方向に重畳された構造を有する。
【0058】
第1の構造の凹凸構造体11によれば、反射光の散乱効果によって視認される色の観察角度による変化は緩やかになるものの、散乱に起因した反射光の強度の低下によって、視認される色の鮮やかさは低下する。表示体100の用途等によっては、画素10として、より鮮やかな色を広い観察角度で観察可能な構造体が求められる場合もある。第2の構造において、第2凸部要素は、入射光が特定の方向へ強く回折されるように配列されており、第1凸部要素による光の散乱効果と第2凸部要素による光の回折効果とによって、より鮮やかな色を広い観察角度で観察可能な構造体が実現される。
【0059】
図5を参照して、第2凸部要素の構成について説明する。図5(a)は、第2凸部要素のみからなる凹凸構造の平面図であり、図5(b)は、図5(a)の5−5線に沿った断面構造を示す断面図である。図5(a)においては、第2凸部要素にドットを付して示している。
【0060】
図5(a)が示すように、平面視において、第2凸部要素15Ebは、延伸方向C2に沿って一定の幅で延びる帯状を有し、複数の第2凸部要素15Ebは、幅方向C1に沿って、間隔をあけて並んでいる。換言すれば、平面視において第2凸部要素15Ebが構成するパターンは、延伸方向C2に沿って延び、幅方向C1に沿って並ぶ複数の帯状領域からなるパターンである。第2凸部要素15Ebにおける幅方向C1の長さd3は、第1凸部要素のパターンを決定する上記矩形Rの長さd1と一致していてもよいし、異なっていてもよい。
【0061】
幅方向C1における第2凸部要素15Ebの配列間隔de、すなわち、幅方向C1における帯状領域の配列間隔は、上記長さd3以上であり、第2凸部要素15Ebが構成する凹凸構造の表面での反射光の少なくとも一部が、一次回折光として観測されるように設定される。一次回折光は、換言すれば、回折次数mが1または−1である回折光である。すなわち、入射光の入射角度をθ、反射光の反射角度をφ、回折する光の波長をλとした場合、配列間隔deは、de≧λ/(sinθ+sinφ)を満たす。例えば、λ=360nmである可視光線を対象とするとき、第2凸部要素15Ebの配列間隔deは180nm以上であればよく、すなわち、配列間隔deは、入射光に含まれる波長域における最小波長の1/2以上であればよい。なお、配列間隔deは、互いに隣り合う2つの第2凸部要素15Ebの端部間の幅方向C1に沿った距離であって、幅方向C1において第2凸部要素15Ebに対して同一の側に位置する端部間の距離である。
【0062】
第2凸部要素15Ebが構成するパターンの周期性は、基材15が有する凹凸構造の周期性、すなわち、多層膜層16の表面における凹凸構造の周期性に反映される。複数の第2凸部要素15Ebの配列間隔deが一定の場合、多層膜層16の表面での回折現象によって、多層膜層16からは、特定の波長の反射光が特定の角度に出射される。この回折による光の反射強度は、上述の第1の構造にて説明した第1凸部要素による光の散乱効果によって生じる反射光の反射強度と比較して非常に強いため、金属光沢のような輝きを有する光が視認されるが、一方で、回折による分光が生じ、観察角度の変化に応じて視認される色が変化する。
【0063】
したがって、例えば、青色を呈する画素10が得られるように第1凸部要素の構造を設計したとしても、第2凸部要素15Ebの配列間隔deを400nm〜5μmの程度の一定値とすると、観察角度によっては、回折に起因した強い緑色から赤色の表面反射による光が観察される。これに対し、例えば、第2凸部要素15Ebの配列間隔deを50μm程度に大きくすると、可視領域の光が回折される角度の範囲が狭くなるため、回折に起因した色の変化が視認されにくくなるが、金属光沢のような輝きを有する光は特定の観察角度でのみしか観察されない。
【0064】
そこで、配列間隔deを一定の値とせず、第2凸部要素15Ebのパターンを、周期が異なる複数の周期構造が重ね合わされたパターンとすれば、回折による反射光に複数の波長の光が混じり合うため、分光された単色性の高い光は視認されにくくなる。したがって、光沢感のある鮮やかな色が広い観察角度で観察される。この場合、配列間隔deは、例えば、360nm以上5μm以下の範囲から選択され、複数の第2凸部要素15Ebの配列間隔deの平均値が、入射光に含まれる波長域における最小波長の1/2以上であればよい。
【0065】
ただし、配列間隔deの標準偏差が大きくなるにつれ、第2凸部要素15Ebの配列が不規則となって散乱効果が支配的になり、回折による強い反射が得られにくくなる。そのため、第2凸部要素15Ebの配列間隔deは、第1凸部要素による光の散乱効果によって光が広がる角度に応じて、この光が広がる範囲と同程度の範囲に回折による反射光が出射されるように決定することが好ましい。例えば、青色の反射光が、入射角度に対して±40°の範囲に広がって出射される場合、第2凸部要素15Ebのパターンにおいて、配列間隔deを、その平均値が1μm以上5μm以下の程度であり、標準偏差が1μm程度であるように設定する。これにより、第1凸部要素の光の散乱効果によって光が広がる角度と同程度の角度に回折による反射光が生じる。
【0066】
すなわち、複数の第2凸部要素15Ebからなる構造は、特定の波長域の光を回折させて取り出すための構造とは異なり、配列間隔deの分散により、回折を利用して所定の角度範囲に様々な波長域の光を射出させるための構造である。
【0067】
さらに、より長周期の回折現象を生じさせるために、一辺が10μm以上100μm以下の正方形領域を1つの画素10を構成する領域とし、この画素領域ごとの第2凸部要素15Ebのパターンにおいて、配列間隔deを、平均値が1μm以上5μm以下の程度、かつ、標準偏差が1μm程度としてもよい。なお、複数の画素領域のなかには、配列間隔deが1μm以上5μm以下の範囲に含まれる一定の値である領域が含まれてもよい。配列間隔deが一定である画素領域が存在したとしても、この画素領域と隣接する画素領域のいずれかにおいて、配列間隔deが標準偏差1μm程度のばらつきを有していれば、人の目の解像度においてはすべての画素領域で配列間隔deがばらつきを有している構成と同等の効果が期待できる。
【0068】
なお、図5に示した第2凸部要素15Ebは、幅方向C1のみに、配列間隔deに起因した周期性を有している。第1凸部要素による光の散乱効果は、主として、基材15の表面と対向する方向から見た場合での幅方向C1に沿った方向への反射光に作用するが、延伸方向C2に沿った方向への反射光にも一部影響し得る。したがって、第2凸部要素15Ebは、延伸方向C2にも周期性を有してもよい。すなわち、第2凸部要素15Ebのパターンは、延伸方向C2に延びる複数の帯状領域が、幅方向C1と延伸方向C2との各々に沿って並ぶパターンであってもよい。
【0069】
こうした第2凸部要素15Ebのパターンにおいて、例えば、帯状領域の幅方向C1に沿った配列間隔と延伸方向C2に沿った配列間隔との各々は、各々の平均値が1μm以上100μm以下であるようにばらつきを有していればよい。また、第1凸部要素による光の散乱効果の幅方向C1への影響と延伸方向C2への影響との違いに応じて、幅方向C1に沿った配列間隔の平均値と、延伸方向C2に沿った配列間隔の平均値とは互いに異なっていてもよく、幅方向C1に沿った配列間隔の標準偏差と、延伸方向C2に沿った配列間隔の標準偏差とは互いに異なっていてもよい。
【0070】
図5(b)が示すように、第2凸部要素15Ebの高さh2は、凸部15c上や凹部15b上における多層膜層16の表面粗さよりも大きければよい。ただし、高さh2が大きくなるほど、凹凸構造が反射光に与える効果において第2凸部要素15Ebによる回折効果が支配的となって、第1凸部要素による光の散乱効果が得られにくくなるため、高さh2は第1凸部要素の高さh1と同程度であることが好ましく、高さh2は高さh1と一致していてもよい。例えば、第1凸部要素の高さh1と第2凸部要素15Ebの高さh2とは、10nm以上200nm以下の範囲に含まれていることが好ましく、青色を呈する画素10では、第1凸部要素の高さh1と第2凸部要素15Ebの高さh2とは、10nm以上150nm以下の範囲に含まれていることが好ましい。
【0071】
図6を参照して、第2の構造の凹凸構造体12が有する凹凸構造の詳細について説明する。図6(a)は、基材15をその表面と対向する方向から見た平面図であり、図6(b)は、図6(a)の6−6線に沿った基材15の断面構造を示す断面図である。図6(a)においては、第1凸部要素が構成するパターンと、第2凸部要素が構成するパターンとに異なる密度のドットを付して示している。
【0072】
図6(a)が示すように、基材15の表面と対向する方向から見て、凸部15cが構成するパターンは、第1凸部要素15Eaが構成するパターンである第1パターンと、第2凸部要素15Ebが構成するパターンである第2パターンとが重ね合わされたパターンである。すなわち、凸部15cが位置する領域には、第1凸部要素15Eaのみから構成される領域S1と、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとが重なっている領域S2と、第2凸部要素15Ebのみから構成される領域S3とが含まれる。なお、図6においては、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとが、幅方向C1においてその端部が揃うように重ねられているが、こうした構成に限らず、第1凸部要素15Eaの端部と第2凸部要素15Ebの端部とはずれていてもよい。
【0073】
図6(b)が示すように、領域S1では、凸部15cの高さは、第1凸部要素15Eaの高さh1である。また、領域S2では、凸部15cの高さは、第1凸部要素15Eaの高さh1と第2凸部要素15Ebの高さh2との和である。また、領域S3では、凸部15cの高さは、第2凸部要素15Ebの高さh2である。このように、凸部15cは、基材15と多層膜層16との積層方向への投影像が第1パターンを構成し、所定の高さh1を有する第1凸部要素15Eaと、上記積層方向への投影像が第2パターンを構成し、所定の高さh2を有する第2凸部要素15Ebとが、高さ方向に重ねられた多段形状を有する。
【0074】
以上のように、第2の構造を有する画素10によれば、凸部15cにおける第1凸部要素15Eaが構成する部分に起因した光の拡散現象と、第2凸部要素15Ebが構成する部分に起因した光の回折現象との相乗によって、特定の波長域の反射光が広い観察角度で観察可能であるとともに、この反射光の強度が高められることにより光沢感のある鮮やかな色が視認される。換言すれば、第2の構造においては、1つの構造体である凸部15cが、光の拡散機能と光の回折機能との2つの機能を担っている。
【0075】
なお、基材15の表面と対向する方向から見て、第1凸部要素15Eaが構成するパターンと、第2凸部要素15Ebが構成するパターンとは、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとが重ならないように配置されてもよい。こうした構造によっても、第1凸部要素15Eaによる光の拡散効果と第2凸部要素15Ebによる光の回折効果とは得られる。ただし、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとを互いに重ならないように配置しようとすれば、第1の構造と比較して、単位面積あたりにおける第1凸部要素15Eaの配置可能な面積が小さくなり、光の拡散効果が低下する。したがって、凸部要素15Ea,15Ebによる光の拡散効果と回折効果とを高めるためには、図6に示したように、第1凸部要素15Eaと第2凸部要素15Ebとを重ねて凸部15cを多段形状とすることが好ましい。
【0076】
[凹凸構造体の変形例]
画素10を構成する凹凸構造体は、図7が示す構成を有していてもよい。図7が示す凹凸構造体13は、基材15と、基材15の表面を覆う樹脂層17と、樹脂層17に積層された多層膜層16とを備える。基材15の表面は平坦であり、樹脂層17がその表面に凹凸を有する。図7に示す形態においては、基材15と樹脂層17との積層体が凹凸層である。樹脂層17の表面における凹凸構造としては、上述の第1の構造の凹凸構造と第2の構造の凹凸構造とのいずれもが適用可能である。
【0077】
なお、第1の構造および第2の構造のいずれにおいても、凸部のパターンは、例えば、第1画素10Aごと、および、第2画素10Bごとに設定されればよい。例えば、第1の構造であれば、凸部15aのパターンを構成する複数の矩形Rにおける長さd1や長さd2の平均値や標準偏差は画素10ごとに設定される。凸部のパターンは画素10ごとに異なっていてもよいし、一致していてもよい。表示体100の表面100Fと対向する方向から見た画素10の大きさ、すなわち、画素10を構成する領域の大きさは、表示領域110が構成する像についての所望の解像度に応じて設定されればよい。ただし、上述の矩形Rから構成されるパターンにおいて、複数の矩形Rの延伸方向C2の長さd2を適切な範囲で分散させるためには、画素10を構成する領域は、一辺が10μm以上の正方形形状を有することが好ましい。
【0078】
[表示領域の構成]
図8図10を参照して、第1表示領域110Aにおける第1画素10Aの配置と、第2表示領域110Bにおける第2画素10Bの配置との詳細、および、本実施形態の表示体100がもたらす作用について説明する。なお、図8では、画素10に上述の第1の構造の凹凸構造体11が適用されている形態を例として説明する。
【0079】
図8が示すように、第1方向Dxと第2方向Dyとは、表示体100の表面100Fに沿った方向であり、第1方向Dxと第2方向Dyとは互いに直交する。第1画素10Aは、その凹凸構造における幅方向C1を第1方向Dxとし、延伸方向C2を第2方向Dyとして、配列されている。一方、第2画素10Bは、その凹凸構造における幅方向C1を第2方向Dyとし、延伸方向C2を第1方向Dxとして、配列されている。すなわち、第1画素10Aにおける延伸方向C2と、第2画素10Bにおける延伸方向C2とは、互いに異なる方向であり、詳細には、互いに直交している。
【0080】
こうした画素10の配置を有する表示体100にて視認される像について、図9および図10を参照して説明する。図9(a)は、表示体100の表面100Fと対向する方向から見た場合での、表示体100に対する入射光と反射光との進行方向を示す図であり、図9(b)は、表示体100の厚さ方向の断面と対向する方向から見た場合での、表示体100に対する入射光と反射光との進行方向を示す図である。なお、図9(b)では、入射光および反射光の多層膜層16内での進路や散乱による進路の変化を省略し、光の経路を簡略化して示している。また、図10は、表示体100に対する観察者の観察位置と、各観察位置にて観察される像とを示す図である。
【0081】
画素10において、凸部による光の散乱効果は、主として、表示体100の表面100Fと対向する方向から見た場合において、換言すれば、表面100Fに沿った平面へ光の進路を投影した場合において、幅方向C1に沿った方向へ進む反射光に作用する。
【0082】
詳細には、図9(a)を参照して、幅方向C1が第1方向Dxである画素10を例に説明すると、表面100Fと対向する方向から見て、幅方向C1に沿って画素10に入射する入射光Ioを受けて、画素10の多層膜層16からは、幅方向C1に沿って出射する反射光Irが生じる。多層膜層16が平坦面に積層されている場合、多層膜層16の各界面で反射した光が干渉することによって強められた特定の波長域の反射光は、図9(b)が示すように、入射光Ioの入射方向と多層膜層16の積層方向とのなす角度である入射角度θと、反射光Irの出射方向と上記積層方向とのなす角度である反射角度φとの絶対値が等しくなる方向である正反射の方向のみに出射される。
【0083】
これに対し、本実施形態の画素10では、画素10が不規則な凹凸構造を有していることに起因して反射光が散乱され、画素10からは、入射角度θと絶対値の等しい角度だけではなく、入射角度θよりも広い角度範囲からなる反射角度φの各方向に、干渉によって強められた特定の波長域の反射光Irが進む。ここで、画素10が有する凹凸構造は、幅方向C1と延伸方向C2とにおける凹凸の幅のばらつきが異なり、全体として延伸方向C2に延びる構造であることから、反射光Irは、表面100Fと対向する方向から見て、幅方向C1に沿った方向に散乱され、換言すれば、幅方向C1に沿った方向のなかで反射角度φが広がるように散乱される。このように、画素10からは、特定の波長域の反射光が、幅方向C1に異方性を有して出射される。
【0084】
したがって、図10(a)が示すように、第1方向Dxに沿った反射光が観察される位置PAから表示体100の表面100Fを観察した場合、第1方向Dxを幅方向C1とする第1画素10Aからの反射光が視認される一方、第2画素10Bからの光は極めて弱い。したがって、図10(b)が示すように、第1表示領域110Aには、反射光の波長域に応じた特定の色相の色が明るく視認される一方で、第2表示領域110Bは暗く見える。
【0085】
反対に、図10(a)が示すように、第2方向Dyに沿った反射光が観察される位置PBから表示体100の表面100Fを観察した場合、第2方向Dyを幅方向C1とする第2画素10Bからの反射光が視認される一方、第1画素10Aからの光は極めて弱い。したがって、図10(c)が示すように、第2表示領域110Bには、反射光の波長域に応じた特定の色相の色が明るく視認される一方で、第1表示領域110Aは暗く見える。
【0086】
以上のように、本実施形態の表示体100によれば、画素10の有する凹凸の配列に起因して、画素10から特定の波長域の反射光が異方性を有して出射される。すなわち、表面100Fに沿った平面内での、表示体100に対する観察者の位置、換言すれば、表面100Fに沿った平面に投影した場合での観察者の位置である観察位置のうち、特定の位置である明像位置にて、画素10から特定の波長域の反射光が観察される。それゆえ、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとで画素10の凹凸の配列の方向性を異ならせることによって、各表示領域110についての明像位置を異ならせることが可能であり、観察位置の違いに応じて、異なる像を観察者に視認させることができる。
【0087】
したがって、表示体100の意匠性の向上が可能であり、表示体100が偽造の困難性を高める目的で用いられる場合には、偽造の防止効果も高められる。
特に、画素10からの光として観察される光の強度は、特定の明像位置において強い一方で、明像位置以外の位置においては極めて弱い。本実施形態の画素10と比較して、例えば、表示体100において、平坦面に多層膜層16が積層されている場合、干渉によって強められた特定の波長域の反射光は、正反射の方向のみに出射されるが、いずれの方向からの入射光に対しても、各入射光に対する正反射の方向に反射光は出射され得る。結果として、表示体100の表面100Fと観察者の視線の方向とがなす角度である観察角度の変化によって視認される色相は変化する一方で、上記観察位置のなかで、こうした反射光を観察可能な位置は限定されない。これに対し、本実施形態の画素10によれば、凹凸構造に起因した異方性を有する反射光の散乱効果により、特定の観察位置において、広い観察角度で、特定の波長域の反射光、すなわち、特定の色相の色が観察される。
【0088】
したがって、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとのいずれか一方に、平坦面に多層膜層16が積層された構造が適用される場合と比較して、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとのコントラストの差を際立たせることが可能であり、表示体100によって明暗の違いの明瞭な像の形成が可能である。
【0089】
[表示体の構成例]
上述の作用を生じる表示体100の構成として好適な構成例について説明する。
<境界領域を含む構成>
図11が示すように、多層膜層16は、詳細には、凹凸層における凸部の側面にも成膜される。そのため、幅方向C1において、多層膜層16の表面における凹凸構造の凸部の長さd4は、凹凸層における凸部の長さd5よりもやや広がる。第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとが相互に隣接する部分、すなわち、延伸方向C2が互いに異なる第1画素10Aと第2画素10Bとが隣り合う部分において、第1画素10Aの多層膜層16における凸部と、第2画素10Bの多層膜層16における凸部とが連なると、多層膜層16における凹凸構造に、本来求められる形状からの崩れが生じる。その結果、各画素10の端部において、所望の発色や所望の方向への異方性を有する反射光の拡散効果が得られ難くなり、表示体100における精密な像の形成が阻害され得る。
【0090】
そのため、表示体100は、第1画素10Aと第2画素10Bとの間、すなわち、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとの間の領域である境界領域を含み、境界領域においては、平坦面に多層膜層16が積層されていることが好ましい。具体的には、凹凸層は、第1表示領域110Aと境界領域と第2表示領域110Bとに連続し、また、多層膜層16も、第1表示領域110Aと境界領域と第2表示領域110Bとに連続する。そして、境界領域では、凹凸層に凹凸が形成されておらず、凹凸層の表面が平坦であればよい。こうした構成によれば、多層膜層16の広がりに起因した凹凸構造の崩れが表示領域110の端部に位置する画素10の端部にて抑えられ、各画素10の全体から所望の方向に向けて所望の発色が得られやすくなる。境界領域は、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとの間で、例えば、帯状に延びる形状を有していればよい。
【0091】
多層膜層16における凸部の広がりの程度、すなわち、長さd4と長さd5との差は、多層膜層16の形成方法によって異なるが、例えば、真空蒸着によって多層膜層16を形成する場合には、多層膜層16の全体の膜厚の1/2程度の厚さの層が凹凸層における凸部の側面に成膜される。したがって、境界領域の幅、換言すれば、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとが並ぶ方向において境界領域が有する幅の最小値は、多層膜層16の膜厚の1/2以上であることが好ましい。
【0092】
一方、境界領域が視認可能な大きさであると、境界領域の多層膜層16からの反射光が視認されることにより、境界領域に、観察角度によって色相の変化する色が視認される。こうした現象を抑えるためには、上記境界領域の幅の最大値は、50μm以下であることが好ましい。
【0093】
なお、同一の表示領域110内において、第1画素10A間や第2画素10B間においても、凹凸層に凹凸が形成されていない領域が設けられていてもよく、こうした構成によれば、多層膜層16の広がりに起因した凹凸構造の崩れが画素10の端部にて抑えられ、各画素10の全体から所望の発色が得られやすくなる。
【0094】
一方、上記境界領域を視認可能な構成とすることで、表示体によって、より多彩な像を形成することも可能である。こうした構成について以下に説明する。
図12(a)が示す表示体101は、表面100Fと対向する方向から見て、上述の表示体100と同様の構成を有する第1表示領域110Aおよび第2表示領域110Bに加えて、上述の境界領域111を含んでいる。すなわち、境界領域111は、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとの間に位置する。
【0095】
第1表示領域110Aを構成する第1画素10Aは、その凹凸構造における幅方向C1を第1方向Dxとし、延伸方向C2を第2方向Dyとして、配列されている。第2表示領域110Bを構成する第2画素10Bは、その凹凸構造における幅方向C1を第2方向Dyとし、延伸方向C2を第1方向Dxとして、配列されている。そして、境界領域111においては、基材15や樹脂層17に凹凸が形成されておらず、平坦面に多層膜層16が積層されている。
【0096】
上記構成においては、第1方向Dxに沿った反射光が観察される位置PAから表示体101の表面100Fを観察した場合、第1方向Dxを幅方向C1とする第1画素10Aからの反射光が視認される一方、第2画素10Bからの光は極めて弱い。また、観察角度によって、境界領域111からは、多層膜層16からの正反射の方向への反射光が視認される。
【0097】
したがって、図12(b)が示すように、第1表示領域110Aには、反射光の波長域に応じた特定の色相の色が明るく視認される一方で、第2表示領域110Bは暗く見え、さらに、境界領域111は、観察角度によって色が大きく変化するように見える。
【0098】
また、図12(a)が示すように、第2方向Dyに沿った反射光が観察される位置PBから表示体101の表面100Fを観察した場合、第2方向Dyを幅方向C1とする第2画素10Bからの反射光が視認される一方、第1画素10Aからの光は極めて弱い。また、観察角度によって、境界領域111からは、多層膜層16からの正反射の方向への反射光が視認される。
【0099】
したがって、図12(c)が示すように、第2表示領域110Bには、反射光の波長域に応じた特定の色相の色が明るく視認される一方で、第1表示領域110Aは暗く見え、さらに、境界領域111は、観察角度によって色が大きく変化するように見える。
【0100】
また、図12(a)が示すように、位置PAとも位置PBとも異なる位置PC、すなわち、第1方向Dxおよび第2方向Dyのいずれとも異なる方向に沿った反射光が観察される位置PCから表示体101の表面100Fを観察した場合、第1画素10Aからの光、および、第2画素10Bからの光はいずれも極めて弱い。一方、観察角度によって、境界領域111からは、多層膜層16からの正反射の方向への反射光が視認される。
【0101】
したがって、図12(d)が示すように、第1表示領域110Aおよび第2表示領域110Bは暗く見える一方で、境界領域111は、観察角度によって色が大きく変化するように見える。
【0102】
このように、凹凸構造を有する面に多層膜層16が積層されている第1表示領域110Aおよび第2表示領域110Bと、平坦面に多層膜層16が積層されている境界領域111との組み合わせによって、観察位置の違いに応じた変化の大きい像の形成が可能であり、より多彩な像の表現が可能である。例えば、第1表示領域110Aあるいは第2表示領域110Bが表現する文字や絵柄等の像の縁取りとして、境界領域111が虹色に光るように視認され、表示体101の意匠性がより高められる。
【0103】
なお、こうした効果を得る観点では、境界領域111の形状は限定されず、境界領域111は視認可能な大きさを有していればよい。具体的には、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとが並ぶ方向において境界領域111が有する幅の最小値が、50μmより大きければよい。さらに、境界領域111の配置位置は、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとの間に限られない。例えば、境界領域111は、複数の第1表示領域110Aの間に配置されて、各第1表示領域110Aの縁取りとして機能してもよい。
【0104】
<画素の色相が異なる構成>
第1画素10Aの呈する色相と第2画素10Bの呈する色相とは、互いに異なってもよい。こうした構成においては、第1画素10Aと第2画素10Bとの各々が第1の構造の凹凸構造体11から構成される場合、第1画素10Aと第2画素10Bとで、凸部15aの高さh1が互いに異なっている。一方、第1画素10Aと第2画素10Bとにおいて、多層膜層16の構成は共通しており、すなわち、高屈折率層16aの材料や膜厚、低屈折率層16bの材料や膜厚、および、これらの層の層数は、共通している。各画素10A,10Bにおける凸部15aの高さh1は、各画素10A,10Bの所望の色相に応じて設定されればよい。
【0105】
ここで、第1画素10Aの凸部15aの高さh1と、第2画素10Bの凸部15aの高さh1との差が大きいほど、第1画素10Aの呈する色相と第2画素10Bの呈する色相との差が大きくなり、その色相の差が人の目によって認識されやすくなる。例えば、第1画素10Aと第2画素10Bとの凸部15aの高さh1の差は5nm以上であることが好ましく、多層膜層16が平坦面に積層されている場合における多層膜層16からの反射光のピーク波長の1%以上であることが好ましい。
【0106】
具体的には、多層膜層16が平坦面に積層されている場合における多層膜層16からの反射光のピーク波長が500nmであり、画素10によって緑色を発色させたい場合は、凸部15aの高さh1を100nm程度とすることが好ましく、画素10によって赤色を発色させたい場合は、凸部15aの高さh1を200nm程度とすることが好ましい。
【0107】
また、画素10に適用される凹凸構造体が、第2の構造を有する凹凸構造体12である場合、凸部15cが構成するパターンにおいて第1凸部要素15Eaが占める割合よりも第2凸部要素15Ebが占める割合が小さい構成においては、第2凸部要素15Ebの高さh2が画素10の呈する色相に与える影響は微小である。したがって、第2の構造を有する画素10においても、第1の構造の凸部15aに相当する第1凸部要素15Eaの高さh1の調整によって、画素10の呈する色相の調整が可能である。
【0108】
こうした構成によれば、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとのコントラストの差が顕著であって、かつ、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとに互いに異なる色相の色が視認されるため、表示体100によって、より多彩で明瞭な像の形成が可能である。
【0109】
[表示体の製造方法]
上述の表示体100,101が含む画素10を構成する各層の材料、および、表示体100,101の製造方法を説明する。
【0110】
基材15は、可視領域の光に対して光透過性を有する材料、すなわち、可視領域の光に対して透明な材料から構成される。例えば、基材15としては、合成石英基板や、ポリエチレンテレフタラート(PET)等の樹脂からなるフィルムが用いられる。基材15が凹凸構造を有している場合、基材15の表面の凹凸構造は、例えば、光または荷電粒子線を照射するリソグラフィやドライエッチング等の公知の微細加工技術を利用して形成される。
【0111】
また、画素10が樹脂層17を有し、樹脂層17が凹凸構造を有する場合、樹脂層17の凹凸構造の形成方法としては、例えば、ナノインプリント法が用いられる。例えば、光ナノインプリント法によって樹脂層17の凹凸構造を形成する場合、まず、形成対象の凹凸の反転された凹凸を有する凹版であるモールドの凹凸が形成された面に、樹脂層17を構成する樹脂として、光硬化性樹脂が塗布される。光硬化性樹脂の塗布方法は特に限定されず、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スリットコート法、グラビアコート法等の公知の塗布法が用いられればよい。
【0112】
次いで、光硬化性樹脂からなる塗布層の表面に、基材15が重ねられ、塗布層とモールドとが互いに押し付けられた状態で、基材15側もしくはモールド側から光が照射される。続いて、硬化した光硬化性樹脂および基材15からモールドが離型される。これによって、モールドの有する凹凸が光硬化性樹脂に転写されて、表面に凹凸を有する樹脂層17が形成される。モールドは、例えば、合成石英やシリコンから構成され、光または荷電粒子線を照射するリソグラフィやドライエッチング等の公知の微細加工技術を利用して形成される。なお、光硬化性樹脂は、基材15の表面に塗布され、基材15上の塗布層にモールドが押し当てられた状態で、光の照射が行われてもよい。
【0113】
また、光ナノインプリント法に代えて、熱ナノインプリント法が用いられてもよく、この場合、樹脂層17の樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の、製造方法に応じた樹脂が用いられる。
【0114】
基材15は、第1画素10Aと第2画素10Bとに連続しており、すなわち、これらの画素10A,10Bは、共通した1つの基材15を有している。また、画素10が樹脂層17を有する場合、樹脂層17は、第1画素10Aと第2画素10Bとに連続している。
【0115】
基材15が凹凸構造を有する場合、基材15の表面の凹凸構造は、例えば、第1画素10Aに含まれる部分と、第2画素10Bに含まれる部分との各々に対して、リソグラフィやドライエッチングを行うことによって形成される。第1画素10Aに対応する部分と、第2画素10Bに対応する部分とで、レジストマスクのパターンの方向性を変えることにより、延伸方向C2が互いに異なる第1画素10Aと第2画素10Bとが形成可能である。また、第1画素10Aと第2画素10Bとで、凸部の高さを変えるためには、エッチング時間を変更すればよい。
【0116】
また、画素10が樹脂層17を有し、樹脂層17が凹凸構造を有する場合、ナノインプリント法を利用して、第1画素10Aに対応する部分と第2画素10Bに対応する部分とで凹凸のパターンの方向性を変えたモールドが用いられる。そして、樹脂層17において、第1画素10Aに含まれる部分と第2画素10Bに含まれる部分との凹凸構造が同時に形成される。第1画素10Aと第2画素10Bとで、凸部の高さが異なる場合にも、各画素10A,10Bに対応する部分で凹凸の高さを変えたモールドが用いられることによって、各画素10A,10Bの樹脂層17の凹凸構造が同時に形成される。
【0117】
第1画素10Aに対応する部分と第2画素10Bに対応する部分とで凹凸の高さが異なるモールドは、画素10A,10Bに対応する部分ごとに、リソグラフィやドライエッチングを行うことにより形成されてもよい。また例えば、以下の方法によれば、より簡便にモールドの形成が可能である。すなわち、荷電粒子線リソグラフィに用いられるレジストに対して照射する荷電粒子線の線量を画素10A,10Bに対応する部分ごとに変え、各画素10A,10Bに対応する部分について所望の高さの凹凸が形成されるように現像時間を調整してレジストパターンを形成する。レジストパターンの表面に例えばニッケル等の金属層を電鋳によって形成した後、レジストを溶解することによって、ニッケル製のモールドが得られる。
【0118】
多層膜層16を構成する高屈折率層16aと低屈折率層16bとは、可視領域の光に対して光透過性を有する材料、すなわち、可視領域の光に対して透明な材料から構成される。高屈折率層16aの屈折率が、低屈折率層16bの屈折率よりも高い構成であれば、これらの層の材料は限定されないが、高屈折率層16aと低屈折率層16bとの屈折率の差が大きいほど、少ない積層数で高い強度の反射光が得られる。こうした観点から、例えば、高屈折率層16aと低屈折率層16bとを無機材料から構成する場合、高屈折率層16aを二酸化チタン(TiO)から構成し、低屈折率層16bを二酸化珪素(SiO)から構成することが好ましい。こうした無機材料からなる高屈折率層16aおよび低屈折率層16bの各々は、スパッタリング、真空蒸着、あるいは、原子層堆積法等の公知の薄膜形成技術を用いて形成される。また、高屈折率層16aおよび低屈折率層16bの各々は有機材料から構成されてもよく、この場合、高屈折率層16aおよび低屈折率層16bの形成には、自己組織化等の公知の技術が用いられればよい。
【0119】
高屈折率層16aおよび低屈折率層16bの各々の膜厚は、画素10にて発色させる所望の色に応じて、転送行列法等を用いて設計されればよい。例えば、青色を呈する画素10を形成する場合は、TiOからなる高屈折率層16aの膜厚は40nm程度であることが好ましく、SiOからなる低屈折率層16bの膜厚は75nm程度であることが好ましい。
【0120】
なお、図2および図4では、多層膜層16として、基材15に近い位置から高屈折率層16aと低屈折率層16bとがこの順に交互に積層された10層からなる多層膜層16を例示したが、多層膜層16が有する層数や積層の順序はこれに限られず、所望の波長域の反射光が得られるように高屈折率層16aと低屈折率層16bとが設計されていればよい。例えば、基材15の表面に低屈折率層16bが接し、その上に高屈折率層16aと低屈折率層16bとが交互に積層されている構成でもよい。また、多層膜層16における基材15とは反対側の表面である最表面を構成する層も、高屈折率層16aと低屈折率層16bとのいずれであってもよい。さらに、低屈折率層16bと高屈折率層16aとが交互に積層されていれば、基材15の表面に接する層と、上記最表面を構成する層とを構成する材料が同じであってもよい。さらに多層膜層16は、3つ以上の屈折率の異なる層の組み合わせによって構成されてもよい。
【0121】
要は、多層膜層16は、相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、多層膜層16に入射する入射光のうち特定の波長域での光の反射率が他の波長域での反射率よりも高いように構成されていればよい。
【0122】
多層膜層16は、第1画素10Aと第2画素10Bとに連続しており、多層膜層16は、第1画素10Aに対応する部分と第2画素10Bに対応する部分とに対し、同一の工程によって、同時に形成される。
【0123】
こうした製造方法によれば、第1画素10Aと第2画素10Bとが同一の色相を呈する場合はもちろん、第1画素10Aと第2画素10Bとが互いに異なる色相の色を呈する場合であっても、各画素10A,10Bに対応する領域に対して多層膜層16を同時に形成すればよいため、表示体100,101を簡便な製造工程によって形成することができる。
【0124】
本実施形態の構成と比較して、第1画素10Aと第2画素10Bとの呈する色相を異ならせることは、第1画素10Aと第2画素10Bとで、多層膜層16を構成する層の材料や膜厚等の構成を異ならせることによっても可能ではある。しかしながら、表示領域110ごとに多層膜層16の構成が異なると、表示領域110ごとに、領域のマスキングや高屈折率層16aと低屈折率層16bとの成膜を繰り返すことが必要であり、製造工程が複雑になる。結果として、製造コストの増加や歩留まりの低下が引き起こされる。また、微小な領域にマスキングを行うことは困難であるため、精細な像の形成には限界がある。
【0125】
これに対し、本実施形態の表示体100,101の構成であれば、第1表示領域110Aに対応する部分と第2表示領域110Bに対応する部分とに対し、多層膜層16を同時に形成することが可能であるため、表示体100,101の製造に要する負荷が軽減される。また、微小な領域へのマスキングと比較して、微小な領域ごとに凸部の高さを異ならせることは容易であるため、表示領域110A,110Bを小さくしてより精細な像を形成することもできる。
【0126】
なお、第1画素10Aと第2画素10Bとで、多層膜層16の構成を同一として、凸部の高さを変えることによって色相を異ならせるためには、多層膜層16を以下のように構成することが好ましい。すなわち、平坦面に多層膜層16を積層した場合における多層膜層16からの反射光のピーク波長が、第1画素10Aにて発色させる色相の光の波長と、第2画素10Bにて発色させる色相の光の波長との間に位置するように、多層膜層16を構成することが好ましい。
【0127】
凸部の高さを変えることにより、多層膜層16を構成する各層の形状が変わって光路長が変化することや、凹凸構造が効率的に散乱させる光の波長域が変化することが起こり、こうした現象等に起因して、画素10に視認される色相が変化すると考えられる。
【0128】
また、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとの間に、凹凸層に凹凸が形成されていない境界領域が位置する場合には、基材15への凹凸構造の形成に用いられるレジストマスクのパターンの調整や、樹脂層17への凹凸構造の形成に用いられるモールドにおける凹凸のパターンの調整が行われることによって、凹凸層に凹凸を有さない領域が形成されればよい。ナノインプリント法によって凹凸構造を有する樹脂層17を形成する場合には、凹凸層における第1表示領域110A、第2表示領域110B、境界領域の各々に対応する部分を同時に形成することができる。また、多層膜層16も、第1表示領域110A、第2表示領域110B、境界領域の各々に対応する部分を同時に形成することができる。
【0129】
以上説明したように、上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)画素10では、多層膜層16からの特定の波長域の反射光が、画素10の有する凹凸構造に起因して幅方向C1に異方性を有して散乱される。そして、第1画素10Aにおける延伸方向C2と第2画素10Bにおける延伸方向C2とが、互いに異なる方向であるため、第1画素10Aからの反射光が散乱される方向と第2画素10Bからの反射光が散乱される方向とは互いに異なる。その結果、観察位置の違いに応じて、互いに異なる画素10からの反射光を視認させることが可能であり、例えば、観察位置に応じた異なる像を観察者に視認させることができる。したがって、表示体100の意匠性が高められる。
【0130】
特に、第1画素10Aにおける延伸方向C2と第2画素10Bにおける延伸方向C2とが直交するため、上記観察者の位置に応じた像の違いが認識されやすく、また、表示体100,101において、画素10の配置の設計も容易である。
【0131】
(2)画素10の凹凸層が有する凹凸構造において、凸部のパターンを構成する矩形Rの幅方向C1に沿った長さが830nm以下であり、凸部の高さが415nm以下である構成では、凹凸構造に起因した分光や干渉が抑えられるため、多層膜層16からの反射光の視認性が高められる。また、複数の矩形Rにおける延伸方向C2に沿った長さの平均値が4.15μm以下であり、標準偏差が1μm以下である構成では、多層膜層16からの反射光の効率の良い散乱が可能である。また、凹凸層の表面と対向する方向から凹凸構造を見たとき、画素10を構成する領域内において、矩形Rからなるパターンを構成する凸部の占める面積の比率が、40%以上60%以下である構成では、多層膜層16からの反射光の広がりを大きく確保することが可能である。
【0132】
(3)第1画素10Aと第2画素10Bとにおいて、多層膜層16を構成する各層の材料および膜厚が一致しているため、第1画素10Aに対応する領域と第2画素10Bに対応する領域とに対して、同一の工程によって同時に多層膜層16の形成が可能である。したがって、表示体100,101を簡便な製造工程によって形成することができる。
【0133】
さらに、第1画素10Aが含む凹凸層における凸部の高さと、第2画素10Bが含む凹凸層における凸部の高さとが異なり、その差が5nm以上である構成では、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとに互いに異なる色相の色が視認される。したがって、表示体100,101の意匠性が高められる。そして、こうした色相の違いが凸部の高さの違いによって実現され、第1画素10Aと第2画素10Bとにおいては多層膜層16の構成は一致しているため、表示領域110ごとに多層膜層16を形成する必要がなく、互いに異なる色相の色を呈する画素10を有する表示体100,101を、簡便な製造工程によって形成することができる。
【0134】
(4)第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとの間に、凹凸層の表面が平坦である境界領域が位置し、境界領域の幅の最小値が、多層膜層16の厚さの1/2以上である。こうした構成では、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとの境界部分で、第1画素10Aの備える多層膜層16の凸部と第2画素10Bの備える多層膜層16の凸部とが連なってこれらの画素10の多層膜層16の表面における凹凸構造が崩れることが抑えられる。その結果、各画素10の全体から所望の方向に向けて所望の発色が得られやすくなる。
【0135】
(5)上記境界領域の幅の最大値が、50μm以下である構成では、境界領域は、視認不能な大きさを有する。こうした構成によれば、境界領域からの反射光が観察者に視認されることが抑えられ、観察者には、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとが接しているかのように認識される。そして、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとの各々において、画素10の全体から所望の方向に向けて所望の発色が得られやすいため、第1表示領域110Aと第2表示領域110Bとによって精密な像の形成が可能である。
【0136】
(6)上記境界領域の幅の最大値が、50μmよりも大きい構成では、境界領域111は、視認可能な大きさを有する。こうした構成によれば、観察角度に応じて、境界領域111からの反射光、すなわち、異方性を有さずに正反射の方向へ射出される反射光が観察者に視認される。したがって、特定の観察位置において、広い観察角度で特定の波長域の反射光が観察される第1表示領域110Aおよび第2表示領域110Bと、任意の観察位置において、観察角度に応じた波長域の反射光が観察される境界領域111との組み合わせによって、観察位置の違いに応じた変化の大きい像の形成が可能である。それゆえ、より多彩な像の表現が可能であり、表示体101の意匠性のさらなる向上が可能である。
【0137】
(7)画素10が第1の構造の凹凸構造を有する構成であれば、凸部によって反射光の拡散効果が得られ、各画素10において、多層膜層16からの反射光として特定の波長域の光が広い観察角度で視認される。また、画素10が第2の構造の凹凸構造を有する場合と比較して、凹凸層における凹凸構造の設計や形成に要する負荷が低減できる。
【0138】
(8)画素10が第2の構造の凹凸構造を有する構成であれば、凸部によって光の拡散効果と回折効果とが得られ、各画素10において、多層膜層16からの反射光として特定の波長域の光が広い観察角度で視認されるとともに、この反射光の強度が高められることにより光沢感のある鮮やかな色が視認される。
【0139】
(9)ナノインプリント法を用いて凹凸層の凹凸構造が形成される製造方法によれば、微細な凹凸構造を好適に、かつ、簡便に形成することができる。さらに、凹凸層における第1画素10Aに含まれる部分と第2画素10Bに含まれる部分とに凹凸構造が同時に形成されるため、画素10ごとに凹凸層の凹凸構造を形成する方法と比較して、凹凸層の形成に要する負荷が低減できる。
【0140】
そして、ナノインプリント法として、光ナノインプリント法もしくは熱ナノインプリント法が用いられる製造方法であれば、ナノインプリント法による凹凸構造の形成が、好適、かつ、簡便に実現される。
【0141】
[変形例]
上記実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。
・第1画素10Aにおける延伸方向C2と第2画素10Bにおける延伸方向C2とは異なっていればよく、直交していなくてもよい。要は、表示体100,101は、凹凸構造における延伸方向C2が互いに異なる複数の画素10を備えていればよい。例えば、延伸方向C2が様々である複数の画素10の集合である領域では、観察位置がいずれの位置であっても、いずれかの画素10からの反射光が観察される。したがって、例えば、画素10が人の目の分解能では視認不能な大きさであれば、上記領域は、観察位置に関わらず明るく見える。さらに、複数の画素10が、延伸方向C2が同一である画素10ごとに、異なる色相の色を呈する構成であれば、上記領域は、観察位置に応じて異なる色相の色に見える。
【0142】
このように、複数の画素10の延伸方向C2や色や配置の調整によって、平坦面に多層膜層16が積層された構造によっては実現が困難な、観察位置に応じた明るさや色相の変化を表示体100,101にて実現することができる。したがって、表示体100,101の意匠性が高められる。
【0143】
・画素10を構成する凹凸構造体は、多層膜層16の表面を覆う保護層を備えていてもよい。こうした構成によれば、多層膜層16の表面の凹凸構造が保護されることにより、物理的な衝撃や化学的な衝撃を受けて凹凸構造が変形することが抑えられる。したがって、多層膜層16にて反射される光の光路長が変化することや、凹凸構造による光の拡散効果や光の回折効果が低下することが抑えられるため、画素10において所望の発色が好適に得られる。
【0144】
また、こうした保護層は、例えば黒色顔料等を含む黒色の層であって、多層膜層16の透過光の吸収性を有していることが好ましい。この場合、多層膜層16に対する基材15の側が、表示体100,101の裏面100Rに対する表面100Fの側とされ、基材15の位置する側から画素10が観察される。多層膜層16および凹凸層は可視領域の光に対して透明な材料から形成されているため、入射光に含まれる波長域のうち、多層膜層16にて反射される特定の波長域以外の波長域の光の一部は、多層膜層16および凹凸層を透過する。そのため、多層膜層16および凹凸層からなる画素10をその表裏の一方側から観察するとき、画素10の他方側に、光源や、白色板等の透過光をはね返す構造物が存在すると、上記一方側では、多層膜層16からの特定の波長域の反射光とともに、他方側から多層膜層16を透過した透過光が視認される。上述のように、この透過光の波長域は反射光の波長域とは異なり、透過光の色は、主として、反射光の色の補色である。そのため、こうした透過光が視認されると、反射光による色の視認性が低下する。
【0145】
これに対し、保護層が、多層膜層16を透過した透過光を吸収する構成であれば、基材15側から多層膜層16を透過した光は保護層によって吸収され、透過光が基材15側に返ってくることが抑えられるため、多層膜層16からの反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられる。したがって、反射光による色の視認性が低下することが抑えられ、画素10において所望の発色が好適に得られる。
【0146】
また、こうした構成において、基材15における多層膜層16とは反対側の面には、この面の表面反射を低減する機能を有する反射防止層が設けられていてもよい。基材15側から表示体100,101を観察した場合に、基材15の表面反射が大きいと、多層膜層16からの特定の波長域の反射光による色の視認性が低くなる。これに対し、反射防止層が設けられていることによって、基材15の表面反射が低減されるため、多層膜層16からの反射光による色の視認性が低下することが抑えられ、表示体100,101において所望の発色が好適に得られる。
【0147】
・凹凸層の凹凸構造を構成する凸部は、基部から頂部に向かって幅方向C1の長さが徐々に小さくなる構成を有していてもよい。こうした構成によれば、凸部に多層膜層16が成膜されやすくなる。この場合、幅方向C1の長さd1や長さd3は、凸部の底面が構成するパターンにて規定される。
【0148】
・表示体100が含む表示領域の数は特に限定されず、表示領域の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。さらに、表示領域には、凹凸構造体から構成された表示要素が含まれればよく、表示要素は、ラスタ画像を形成するための繰返しの最小単位である画素に限らず、ベクタ画像を形成するためのアンカを結んだ領域であってもよい。
【符号の説明】
【0149】
C1…幅方向、C2…延伸方向、Dx…第1方向、Dy…第2方向、10,10A,10B…画素、11,12,13…凹凸構造体、15…基材、15a,15c…凸部、15b…凹部、15Ea…第1凸部要素、15Eb…第2凸部要素、16…多層膜層、16a…高屈折率層、16b…低屈折率層、17…樹脂層、100,101…表示体、100F…表面、100R…裏面、110,110A,110B…表示領域、111…境界領域。
図1
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