特許第6878896号(P6878896)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6878896
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】電解コンデンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/042 20060101AFI20210524BHJP
   H01G 9/055 20060101ALI20210524BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20210524BHJP
   H01G 11/48 20130101ALI20210524BHJP
   H01G 11/02 20130101ALI20210524BHJP
【FI】
   H01G9/042 500
   H01G9/055 105
   H01G9/00 290D
   H01G11/48
   H01G11/02
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-3881(P2017-3881)
(22)【出願日】2017年1月13日
(65)【公開番号】特開2017-188655(P2017-188655A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年11月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-72664(P2016-72664)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115509
【弁理士】
【氏名又は名称】佐竹 和子
(72)【発明者】
【氏名】小関 良弥
(72)【発明者】
【氏名】町田 健治
【審査官】 多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−283086(JP,A)
【文献】 特開平03−112116(JP,A)
【文献】 特開2010−74089(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/132141(WO,A1)
【文献】 特開2010−74083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/042
H01G 9/00
H01G 9/055
H01G 11/02
H01G 11/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と、該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、
弁金属からなる基体と、該基体の表面に設けられた前記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有し、該誘電体層と前記陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置されている陽極と、
前記空間に充填されているイオン伝導性電解質と、
を備えた電解コンデンサであって、
前記導電性高分子層が200〜2450nmの範囲の厚みを有する電解重合膜であり、
前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することにより、前記イオン伝導性電解質と接触している前記陰極の導電性高分子層がレドックス容量を発現する
ことを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項2】
前記陰極における導電性基体が、弁金属箔と、該弁金属箔の表面に設けられた、前記弁金属箔を構成している弁金属の酸化皮膜と、該酸化皮膜の表面に設けられた、炭素、チタン、白金、金、銀、コバルト、ニッケル、鉄から成る群から選択された導電性材料により構成されている導電膜と、を備えた基体であり、
前記導電膜の表面に前記導電性高分子層が設けられている、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記弁金属箔がアルミニウム箔である、請求項2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記導電膜が窒素又は炭素を含むチタン蒸着膜である、請求項3に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記陰極の導電性高分子層が、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)により構成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
請求項1に記載の電解コンデンサの製造方法であって、
導電性基体の表面に導電性高分子層を形成し、前記電解コンデンサのための陰極を得る、陰極形成工程、
弁金属からなる基体の表面を酸化して前記弁金属の酸化物からなる誘電体層を形成し、前記電解コンデンサのための陽極を得る、陽極形成工程、及び
前記陰極の導電性高分子層と前記陽極の誘電体層とを空間を開けて対向させ、前記空間にイオン伝導性電解質を充填する、電解質充填工程
を含み、
前記陰極形成工程において、電解重合により200〜2450nmの範囲の厚みを有する導電性高分子層を形成する
ことを特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
前記陰極形成工程において用いられる導電性基体が、弁金属箔と、該弁金属箔の表面に設けられた、前記弁金属箔を構成している弁金属の酸化皮膜と、該酸化皮膜の表面に設けられた、炭素、チタン、白金、金、銀、コバルト、ニッケル、鉄から成る群から選択された導電性材料により構成されている導電膜と、を備えた基体であり、
前記陰極形成工程において、前記導電膜の表面に前記導電性高分子層を形成する、請求項6に記載の電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い容量を発現する陰極を備えた電解コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン伝導性電解質(電解液を含む。)を有する電解コンデンサは、一般的に、アルミニウム、タンタル、ニオブ等の弁金属箔の表面に誘電体層としての酸化皮膜が設けられている陽極と、弁金属箔等により構成された集電用の陰極(見かけの陰極)と、陽極と陰極との間に配置された真の陰極としてのイオン伝導性電解質を保持したセパレータとが密封ケース内に収容された構造を有しており、巻回型、積層型等の形状のものが広く使用されている。
【0003】
この電解コンデンサは、プラスチックコンデンサ、マイカコンデンサ等と比較して、小型で大容量を有するという利点を有し、陽極の酸化皮膜を厚くすることによりコンデンサの絶縁破壊電圧を向上させることができる。しかし、陽極の酸化皮膜を厚くすると電解コンデンサの容量が低下してしまい、小型大容量という利点の一部が失われてしまう。そこで、電解コンデンサの絶縁破壊電圧を低下させることなく容量を向上させることを目的として種々の検討がなされており、例えば、陽極及び陰極を構成する弁金属箔に化学的或いは電気化学的なエッチング処理を施すための条件を制御することにより、これらの弁金属箔の表面積を効果的に増大させて、陽極ばかりでなく陰極の容量をも増加させる検討が行われている。
【0004】
また、特許文献1(特公平3−37293号公報)には、アルミニウム電解コンデンサにおいて、エッチングが過大になるとアルミニウム箔表面のエッチング液への溶解が同時に進行し、却って箔の表面積の増大が妨げられ、エッチングによる陰極の容量増大に限界があるという問題を解決する陰極材料として、適度に粗面化されたアルミニウム箔の表面をアルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気中で形成された平均粒子径0.02〜1.0μmのチタン微粒子からなる厚さ0.2〜5.0μmのチタン蒸着膜で被覆した陰極材料が開示されている。この陰極材料によると、チタン蒸着膜の表面が微細に粗面化されるため、陰極材料の表面積増大が達成され、ひいてはアルミニウム電解コンデンサの容量の増大が達成されている。また、チタン蒸着膜により、耐久性に優れた陰極材料が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−37293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電解コンデンサに対する絶縁破壊電圧を低下させることなく単位体積当たりの容量をさらに向上させることへの要請は常に存在する。陰極の容量を顕著に増大させることができれば、この要請に答えることができる。同じ定格容量値の電解コンデンサであれば、陰極若しくは陽極のサイズを減少させることができるため電解コンデンサの小型化が達成される。また、同じ体積の電解コンデンサであれば、電解コンデンサの容量を増大させることができ、高容量化が達成される。
【0007】
そこで、本発明の目的は、電解コンデンサの単位体積当たりの容量を増大させて小型化高容量化の要請に答えることが可能な、高い容量を発現する陰極を備えた電解コンデンサ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、鋭意検討した結果、導電性基体上に導電性高分子層を形成した陰極を用いて電解コンデンサを構成すると、コンデンサ中のイオン伝導性電解質と接触した導電性高分子層がレドックス容量を発現し、コンデンサの単位体積あたりの容量が顕著に増大することを発見し、発明を完成させた。
【0009】
したがって、本発明はまず、
導電性基体と、上記導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、
弁金属からなる基体と、該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有し、該誘電体層と上記陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置されている陽極と、
上記空間に充填されているイオン伝導性電解質と、
を備えた電解コンデンサであって、
上記陽極と上記陰極との間に電圧を印加することにより、上記イオン伝導性電解質と接触している上記陰極の導電性高分子層がレドックス容量を発現することを特徴とする電解コンデンサに関する。
【0010】
本発明の電解コンデンサにおける導電性高分子層を有する陰極は、導電性高分子層を有していない陰極と比較して、レドックス容量の発現により顕著に増大した容量を示し、ひいては電解コンデンサの単位体積あたりの容量を顕著に増大させる。レドックス容量の発現のため、陰極の導電性高分子層はイオン伝導性電解質と直接接触している必要があるが、陽極の誘電体層はイオン伝導性電解質と直接接触していてもよく、他の導電性材料を介してイオン伝導性電解質と間接的に接続していても良い。また、イオン伝導性電解質はセパレータに保持されていても良い。上記陰極の導電性基体がチタン蒸着膜を有しており、該チタン蒸着膜の表面に上記導電性高分子層が設けられているのが好ましい。チタン蒸着膜は耐久性に優れた陰極を与える。
【0011】
上記陰極の導電性基体の表面に形成される導電性高分子層のためには、公知のπ−共役二重結合を有するモノマーから誘導された導電性高分子を特に限定なく使用することができるが、導電性高分子層がポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以下、3,4−エチレンジオキシチオフェンを「EDOT」と表し、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェンを「PEDOT」と表す。)により構成されているのが好ましい。PEDOTは、高いレドックス活性を示し、耐熱性にも優れているため、本発明において好ましく使用することができる。
【0012】
薄い導電性高分子層を備えた陰極の使用により、陰極若しくは陽極のサイズを減少させることができ、ひいては電解コンデンサの単位体積当たりの容量を向上させることができる。陰極の導電性高分子層の厚みは、200〜2450nmの範囲であるのが好ましい。導電性高分子層の厚みが200nm未満であると、高温耐久性が低下する傾向が認められ、また、導電性高分子層の厚みが2450nmより厚いと、容量の温度依存性が大きくなる上に、電解コンデンサの小型化に寄与しにくくなる。
【0013】
陰極の導電性基体上の導電性高分子層は、電解重合により形成しても良く、化学重合により形成しても良く、また、導電性高分子の粒子を含む分散液を上記導電性基体の表面に適用することにより形成しても良いが、電解重合により形成するのが好ましい。電解重合により、上記基体の表面に、少量のモノマーから機械的強度に優れた導電性高分子層を短時間で形成することができる。また、電解重合は薄く緻密で均一な導電性高分子層を与え、200〜2450nmの範囲の厚みを有する好適な導電性高分子層を容易に得ることができる。
【0014】
本発明はまた、上述した本発明の電解コンデンサを製造する方法であって、
導電性基体の表面に導電性高分子層を形成し、上記電解コンデンサのための陰極を得る、陰極形成工程、
弁金属からなる基体の表面を酸化して上記弁金属の酸化物からなる誘電体層を形成し、上記電解コンデンサのための陽極を得る、陽極形成工程、及び、
上記陰極の導電性高分子層と上記陽極の誘電体層とを空間を開けて対向させ、上記空間にイオン伝導性電解質を充填する、電解質充填工程
を含むことを特徴とする電解コンデンサの製造方法に関する。この方法において、上記陰極形成工程における導電性高分子層の形成を電解重合により行うのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電解コンデンサによると、陽極と陰極との間に電圧を印加することにより、イオン伝導性電解質と接触している陰極の導電性高分子層がレドックス容量を発現し、電解コンデンサの単位体積あたりの容量が顕著に増大する。したがって、電解コンデンサの小型化高容量化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】陰極におけるPEDOT電解重合膜の膜厚と容量との関係を示す図である。
図2】PEDOT電解重合膜を有する陰極の電解液中でのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
図3】電解コンデンサにおける陰極のPEDOT電解重合膜の膜厚とコンデンサ容量の温度変化との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の電解コンデンサは、導電性基体と、上記導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、弁金属からなる基体と、該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有し、該誘電体層と上記陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置されている陽極と、上記空間に充填されているイオン伝導性電解質と、を備えた電解コンデンサであり、上記陽極と上記陰極との間に電圧を印加することにより、上記イオン伝導性電解質と接触している上記陰極の導電性高分子層がレドックス容量を発現することにより、電解コンデンサの単位体積当たりの容量が顕著に増加する。このコンデンサは、以下に示す、陰極形成工程、陽極形成工程、及び電解質充填工程により製造することができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0018】
(1)陰極形成工程
本発明の電解コンデンサにおける陰極は、導電性基体と、上記導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する。導電性基体としては、集電体として使用可能なものであれば、特に限定なく使用することができる。例えば、従来の電解コンデンサにおいて陰極のために使用されている、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム等の弁金属の箔、或いは、これらの弁金属箔に化学的或いは電気化学的なエッチング処理を施すことにより表面積を増大させた箔を、基体として使用することができ、これらの箔の表面には酸化皮膜が存在していても良い。また、これらの弁金属箔の表面に、或いは、酸化皮膜を有する弁金属箔の酸化皮膜の表面に、炭素、チタン、白金、金、銀、コバルト、ニッケル、鉄等の導電性材料を、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、塗布等の手段により積層した構造の基体も好適に使用することができる。弁金属箔上の酸化皮膜は、自然酸化皮膜であっても良く、また、ホウ酸アンモニウム水溶液、アジピン酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液等の化成液を使用した化成処理により形成した皮膜であっても良い。さらに、アルミニウム−銅合金などの合金を導電性基体とすることもできる。
【0019】
弁金属としてはアルミニウムが好ましい。また、必要に応じてエッチング処理を施したアルミニウム箔の表面に、或いは、酸化アルミニウム皮膜を備えたアルミニウム箔の酸化アルミニウム皮膜の表面に、チタン膜を積層した基体は、耐久性に優れた陰極を与えるため好ましい。チタン膜の形成方法としては蒸着手法が好ましく、チタン蒸着膜は、蒸着処理における周囲雰囲気中の原子を含むことができ、例えば、窒素や炭素を含むことができる。中でも、炭素を含むチタン蒸着膜は、以下に示す電解重合において安定した特性を示す重合膜を与えるため好ましい。
【0020】
上記基体の表面には、導電性高分子層が設けられる。この導電性高分子層は、電解重合膜であっても良く、化学重合膜であっても良く、導電性高分子の粒子と分散媒とを少なくとも含む分散液を用いて形成しても良い。
【0021】
電解重合膜の形成は、モノマーと支持電解質と溶媒とを少なくとも含む重合液に上記基体と対極とを導入し、上記基体と対極との間に電圧を印加することにより行われる。対極としては、白金、ニッケル、鋼等の板や網を用いることができる。電解重合の過程で、支持電解質から放出されるアニオンがドーパントとして導電性高分子層に含まれる。
【0022】
電解重合用重合液の溶媒としては、所望量のモノマー及び支持電解質を溶解することができ電解重合に悪影響を及ぼさない溶媒を特に限定なく使用することができる。例としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、アセトニトリル、ブチロニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、γ−ブチロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ニトロベンゼン、スルホラン、ジメチルスルホランが挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。水を溶媒全体の80質量%以上の量で含む溶媒、特に水のみからなる溶媒を使用すると、緻密で安定な電解重合膜が得られるため好ましい。
【0023】
電解重合用重合液に含まれるモノマーとしては、従来導電性高分子の製造のために用いられているπ−共役二重結合を有するモノマーを特に限定なく使用することができる。以下に代表的なモノマーを例示する。これらのモノマーは、単独で使用しても良く、2種以上の混合物として使用しても良い。
【0024】
まず、チオフェン及びチオフェン誘導体、例えば、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン等の3−アルキルチオフェン、3,4−ジメチルチオフェン、3,4−ジエチルチオフェン等の3,4−ジアルキルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−エトキシチオフェン等の3−アルコキシチオフェン、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン等の3,4−ジアルコキシチオフェン、3,4−メチレンジオキシチオフェン、EDOT、3,4−(1,2−プロピレンジオキシ)チオフェン等の3,4−アルキレンジオキシチオフェン、3,4−メチレンオキシチアチオフェン、3,4−エチレンオキシチアチオフェン、3,4−(1,2−プロピレンオキシチア)チオフェン等の3,4−アルキレンオキシチアチオフェン、3,4−メチレンジチアチオフェン、3,4−エチレンジチアチオフェン、3,4−(1,2−プロピレンジチア)チオフェン等の3,4−アルキレンジチアチオフェン、チエノ[3,4−b]チオフェン、イソプロピルチエノ[3,4−b]チオフェン、t−ブチル−チエノ[3,4−b]チオフェン等のアルキルチエノ[3,4−b]チオフェン、を挙げることができる。
【0025】
また、ピロール及びピロール誘導体、例えば、N−メチルピロール、N−エチルピロール等のN−アルキルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール等の3−アルキルピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール等の3−アルコキシピロール、N−フェニルピロール、N−ナフチルピロール、3,4−ジメチルピロール、3,4−ジエチルピロール等の3,4−ジアルキルピロール、3,4−ジメトキシピロール、3,4−ジエトキシピロール等の3,4−ジアルコキシピロールを挙げることができる。さらに、アニリン及びアニリン誘導体、例えば、2,5−ジメチルアニリン、2−メチル−5−エチルアニリン等の2,5−ジアルキルアニリン、2,5−ジメトキシアニリン、2−メトキシ−5−エトキシアニリン等の2,5−ジアルコキシアニリン、2,3,5−トリメトキシアニリン、2,3,5−トリエトキシアニリン等の2,3,5−トリアルコキシアニリン、2,3,5,6−テトラメトキシアニリン、2,3,5,6−テトラエトキシアニリン等の2,3,5,6−テトラアルコキシアニリン、及び、フラン及びフラン誘導体、例えば、3−メチルフラン、3−エチルフラン等の3−アルキルフラン、3,4−ジメチルフラン、3,4−ジエチルフラン等の3,4−ジアルキルフラン、3−メトキシフラン、3−エトキシフラン等の3−アルコキシフラン、3,4−ジメトキシフラン、3,4−ジエトキシフラン等の3,4−ジアルコキシフランを挙げることができる。
【0026】
モノマーとしては、3位と4位に置換基を有するチオフェンからなる群から選択されたモノマーを使用するのが好ましい。チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。特に、EDOTは、高いレドックス活性を示し、耐熱性にも優れたPEDOTを与えるため好ましい。
【0027】
電解重合用重合液に含まれる支持電解質としては、従来の導電性高分子に含まれるドーパントを放出する化合物を特に限定なく使用することができる。例えば、ホウ酸、硝酸、リン酸、タングストリン酸、モリブドリン酸等の無機酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、アスコット酸、酒石酸、スクアリン酸、ロジゾン酸、クロコン酸、サリチル酸等の有機酸に加えて、メタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、1,2−ジヒドロキシ−3,5−ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸等のスルホン酸及びこれらの塩が例示される。また、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等のポリカルボン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等のポリスルホン酸、及びこれらの塩も支持電解質として使用可能である。
【0028】
さらに、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジマロン酸、ボロジコハク酸、ボロジアジピン酸、ボロジマレイン酸、ボロジグリコール酸、ボロジ乳酸、ボロジヒドロキシイソ酪酸、ボロジリンゴ酸、ボロジ酒石酸、ボロジクエン酸、ボロジフタル酸、ボロジヒドロキシ安息香酸、ボロジマンデル酸、ボロジベンジル酸等のホウ素錯体、式(I)又は式(II)
【化1】
(式中、mが1〜8の整数、好ましくは1〜4の整数、特に好ましくは2を意味し、nが1〜8の整数、好ましくは1〜4の整数、特に好ましくは2を意味し、oが2又は3の整数を意味する)で表わされるスルホニルイミド酸、及びこれらの塩も支持電解質として使用可能である。
【0029】
塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、エチルアンモニウム塩、ブチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩、ジエチルアンモニウム塩、ジブチルアンモニウム塩等のジアルキルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、トリブチルアンモニウム塩等のトリアルキルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウム塩が例示される。
【0030】
これらの支持電解質は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良く、支持電解質の種類に依存して、重合液に対する飽和溶解度以下の量で且つ電解重合のために充分な電流が得られる濃度、好ましくは水1リットルに対して10ミリモル以上の濃度で使用される。水を多く含む溶媒、好ましくは水のみから成る溶媒中で、3位と4位に置換基を有するチオフェンモノマー、好ましくはEDOTを電解重合するときに、上記ホウ素錯体及びその塩、好ましくはボロジサリチル酸及びその塩を用いると、熱安定性に優れた導電性高分子層が形成されるため好ましい。
【0031】
電解重合における電解重合は、定電位法、定電流法、電位掃引法のいずれかの方法により行われる。定電位法による場合には、モノマーの種類に依存するが、飽和カロメル電極に対して1.0〜1.5Vの電位が好適であり、定電流法による場合には、モノマーの種類に依存するが、1〜10000μA/cmの電流値が好適であり、電位掃引法による場合には、モノマーの種類に依存するが、飽和カロメル電極に対して0〜1.5Vの範囲を5〜200mV/秒の速度で掃引するのが好適である。電解重合により、導電性高分子層が好ましくは200〜2450nmの厚みで基体上に形成される。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10〜60℃の範囲である。重合時間にも厳密な制限はないが、一般的には1分〜10時間の範囲である。
【0032】
化学重合膜の形成は、溶媒にモノマーと酸化剤の両方を溶解させた液を用意し、この液を刷毛塗り、滴下塗布、浸漬塗布、スプレー塗布等により上記導電性基体の表面に適用し、乾燥する方法、又は、溶媒にモノマーを溶解させた液と、溶媒に酸化剤を溶解させた液とを用意し、これらの液を交互に刷毛塗り、滴下塗布、浸漬塗布、スプレー塗布等により上記導電性基体の表面に適用し、乾燥する方法により行うことができる。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、アセトニトリル、ブチロニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、γ−ブチロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ニトロベンゼン、スルホラン、ジメチルスルホランを使用することができる。これらの溶媒は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。モノマーとしては、π−共役二重結合を有するモノマー、例えば、電解重合のために例示したモノマーを使用することができる。これらのモノマーは、単独で使用しても良く、2種以上の混合物として使用しても良い。モノマーとしては、3位と4位に置換基を有するチオフェンから選択されたモノマーが好ましく、特にEDOTが好ましい。酸化剤としては、p−トルエンスルホン酸鉄(III)、ナフタレンスルホン酸鉄(III)、アントラキノンスルホン酸鉄(III)等の三価の鉄塩、若しくは、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム等の過硫酸塩等を使用することができ、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を使用しても良い。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10〜60℃の範囲である。重合時間にも厳密な制限はないが、一般的には1分〜10時間の範囲である。
【0033】
さらに、導電性高分子の粒子と分散媒とを少なくとも含む分散液を上記導電性基体の表面に塗布、滴下等の手段により適用し、乾燥することにより、導電性高分子層を形成することもできる。上記分散液における分散媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、アセトニトリル、ブチロニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、γ−ブチロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ニトロベンゼン、スルホラン、ジメチルスルホランを使用することができるが、水を分散媒として使用するのが好ましい。上記分散液は、例えば、水に、モノマーと、ドーパントを放出する酸又はその塩と、酸化剤とを添加し、化学酸化重合が完了するまで攪拌し、次いで、限外濾過、陽イオン交換、及び陰イオン交換などの精製手段により酸化剤及び残留モノマーを除去した後、必要に応じて超音波分散処理、高速流体分散処理、高圧分散処理等の分散処理を施すことにより得ることができる。また、水に、モノマーと、ドーパントを放出する酸又はその塩を添加し、攪拌しながら電解酸化重合し、次いで、限外濾過、陽イオン交換、及び陰イオン交換などの精製手段により残留モノマーを除去した後、必要に応じて超音波分散処理、高速流体分散処理、高圧分散処理等の分散処理を施すことにより得ることができる。さらに、上述した化学酸化重合法又は電解重合法により得られた液をろ過して凝集体を分離し、十分に洗浄した後水に添加し、超音波分散処理、高速流体分散処理、高圧分散処理等の分散処理を施すことにより得ることができる。分散液中の導電性高分子の粒子の含有量は、一般的には1.0〜3.0質量%の範囲であり、好ましくは1.5質量%〜2.0質量%の範囲である。
【0034】
薄い導電性高分子層を備えた陰極の使用により、陰極のサイズを減少させることができ、ひいてはコンデンサの単位体積当たりの容量を向上させることができる。陰極の導電性高分子層の厚みは、200〜2450nmの範囲であるのが好ましい。導電性高分子層の厚みが200nm未満であると、高温耐久性が低下する傾向が認められ、また、導電性高分子層の厚みが2450nmより厚いと、容量の温度依存性が大きくなる上に、電解コンデンサの小型化に寄与しにくくなる。
【0035】
陰極の導電性高分子層は、電解重合により形成するのが好ましい。電解重合により、上記導電性基体の表面に、少量のモノマーから機械的強度に優れた導電性高分子層を短時間で形成することができる。また、電解重合は薄く緻密で均一な導電性高分子層を与え、200〜2450nmの範囲の厚みを有する好適な導電性高分子層を容易に得ることができる。一方、化学重合膜は、膜質が不均一である上に薄くても3μm程度の厚みを有するため、コンデンサの小型化に適さない。また、分散液を用いて200〜2450nmの範囲の厚みを有する好適な導電性高分子層を得るためには、一般に上記導電性基体に対する分散液の適用及び乾燥の工程を繰り返し行わなければならず煩雑である。その上、現在のところ理由は明らかでないが、分散液から得られた導電性高分子層を有する陰極を備えた電解コンデンサは、同じ厚みを有する電解重合膜を有する陰極を備えた電解コンデンサと比較して、低い容量と高い等価直列抵抗とを有することが分かっている。
【0036】
(2)陽極形成工程
本発明の電解コンデンサにおける陽極は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム等の弁金属からなる基体と、該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有する。陽極のための基体としては、弁金属の箔に公知の方法により化学的或いは電気化学的なエッチング処理を施すことにより表面積を増大させたものが好ましく、エッチング処理を施したアルミニウム箔が特に好ましい。基体の表面の誘電体層は、基体にホウ酸アンモニウム水溶液、アジピン酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液等の化成液を使用した化成処理を施す公知の方法により形成することができる。
【0037】
(3)電解質充填工程
この工程では、上記陰極形成工程において得られた陰極と、上記陽極形成工程において得られた陽極とを、陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とが空間を開けて対向するように配置して組み合わせた後、上記空間にイオン伝導性電解質を充填する。
【0038】
イオン伝導性電解質としては、電子伝導性を有していない公知のイオン伝導性電解質を特に限定なく使用することができる。まず、従来の電解コンデンサのために使用されている電解液、例えば、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、スルホラン、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、水等の溶媒に、フタル酸塩、サリチル酸塩、安息香酸塩、アジピン酸塩、マレイン酸塩、ホウ酸塩等の溶質を溶解させた電解液を使用することができる。塩としては、アミジニウム塩、イミダゾリニウム塩、ピリミジニウム塩、ホスホニウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカリ金属塩等が挙げられる。電解液の溶媒は単一の化合物であっても2種以上の混合物であっても良く、溶質も単一の化合物であっても良く2種以上の混合物であっても良い。これらの電解液にはゲル化剤が含まれていても良い。さらに、常温溶融塩(イオン液体)をイオン伝導性電解質とすることができる。
【0039】
例えば、帯状の上記陰極と上記陽極とをセパレータを介して陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とが対向するように積層した後これを巻回することにより形成したコンデンサ素子に上記電解液或いはイオン液体を含浸させることにより、この工程を実施することができる。また、所望形状の上記陰極と上記陽極とをセパレータを介して陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とが対向するように積層することにより形成したコンデンサ素子に上記電解液或いはイオン液体を含浸させることにより、この工程を実施することができる。複数組の陰極と陽極とをセパレータを間に挟んで陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とが対向するように交互に積層したコンデンサ素子に上記電解液或いはイオン液体を含浸させても良い。セパレータとしては、セルロース系繊維で構成された織布又は不織布、例えば、マニラ紙、クラフト紙、エスパルト紙、ヘンプ紙、コットン紙及びこれらの混抄紙に加えて、合成繊維紙、ガラスペーパー、ガラスペーパーとマニラ紙、クラフト紙との混抄紙等を使用することができる。上記電解液或いはイオン液体の含浸は、開口部を有する外装ケース内に上記コンデンサ素子を収容した後に実施しても良い。ゲル化剤を含む電解液を使用すると、上記コンデンサ素子に電解液を含浸させた後加熱することにより、電解液をゲル状とすることができる。
【0040】
また、陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とを絶縁性のスペーサーを介して対向させることにより形成したコンデンサ素子の上記スペーサーにより形成された空間にイオン伝導性電解質を充填することにより、この工程を実施しても良い。この形態の場合には、イオン伝導性電解質として、上記電解液或いはイオン液体に加えて、上記電解液をポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル等に吸収させたゲル状電解質、或いは、上述した塩とポリエチレンオキサイド、ポリメタクリレート、ポリアクリレート等の高分子化合物との複合体からなる固体状電解質も使用可能である。陰極の導電性高分子層の上にゲル状又は固体状の電解質を積層し、次いでこの電解質上に陽極を誘電体層が接触するように積層しても良い。
【0041】
本発明では、陰極の導電性高分子層はイオン伝導性電解質と直接接触している必要があり、陰極の導電性高分子層は陽極と直接接触せずイオン伝導性電解質を介して陽極と接続(導通)しているが、陽極の誘電体層はイオン伝導性電解質と直接接触していてもよく、他の導電性材料を介してイオン伝導性電解質と間接的に接続していても良い。好適な他の導電性材料として導電性高分子層を挙げることができる。この導電性高分子層は、上記陽極形成工程において陽極を形成した後、陽極の誘電体層の表面に電解重合法又は化学重合法により形成することができ、また、導電性高分子の粒子と分散媒とを少なくとも含む分散液を陽極の誘電体層の表面に適用して乾燥することにより形成することもできる。この導電性高分子層については、上述した陰極の導電性高分子層の形成に関する説明がそのまま当てはまるため、これ以上の説明を省略する。陽極の誘電体層に隣接して導電性高分子層が設けられている場合には、この導電体層と陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置して組み合わせた後、上記空間にイオン伝導性電解質を充填すれば良い。
【0042】
外装ケース内に収容されて封止されたコンデンサ素子の陽極と陰極との間に電圧が印加されると、上記イオン伝導性電解質と接触している上記陰極の導電性高分子層にレドックス容量が発現するため、電解コンデンサの単位体積当たりの容量が顕著に増大する。レドックス容量発現の過程で、上記陰極の導電性高分子層にイオン伝導性電解質中のアニオンがドーパントとして取り込まれる。
【実施例】
【0043】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0044】
(1)陰極の製造及び容量評価
陰極1
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、40℃に加熱した。この液に、0.021MのEDOTと0.08Mのボロジサリチル酸アンモニウムとをこの順番で添加して撹拌し、全てのEDOTが溶解した電解重合用の重合液を得た。
【0045】
酸化アルミニウム皮膜を備えたアルミニウム箔を投影面積1cmに打ち抜き、酸化アルミニウム皮膜上に炭素を含むチタン蒸着膜を形成した。このチタン蒸着膜を備えたアルミニウム箔(基体,作用極)と、10cmの面積を有するSUSメッシュの対極とを、上述した電解重合用の重合液に導入し、100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行った。重合後の作用極を水で洗浄した後、100℃で30分間乾燥し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが105nmである陰極を得た。なお、PEDOT層の厚みは、100μA/cmの条件での定電流電解重合を時間を変えて複数回実施し、各回の実験において得られたPEDOT層の厚みを原子間力顕微鏡或いは段差計を用いて測定し、PEDOT層の厚みと電荷量との関係式を導出した後、導出した関係式を用いて電解重合の電荷量をPEDOT層の厚みに換算して求めた値である。以下の電解重合の実験においても、同じ関係式を用いてPEDOT層の厚みを求めた。
【0046】
陰極2
100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cmの条件で定電流電解重合を6分間行った点を除いて、陰極1の製造手順を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが210nmである陰極を得た。
【0047】
陰極3
100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cmの条件で定電流電解重合を10分間行った点を除いて、陰極1の製造手順を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが350nmである陰極を得た。
【0048】
陰極4
100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cmの条件で定電流電解重合を20分間行った点を除いて、陰極1の製造手順を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが700nmである陰極を得た。
【0049】
陰極5
100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cmの条件で定電流電解重合を30分間行った点を除いて、陰極1の製造手順を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが1050nmである陰極を得た。
【0050】
陰極6
100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cmの条件で定電流電解重合を50分間行った点を除いて、陰極1の製造手順を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが1750nmである陰極を得た。
【0051】
陰極7
100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cmの条件で定電流電解重合を70分間行った点を除いて、陰極1の製造手順を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが2450nmである陰極を得た。
【0052】
陰極8
100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cmの条件で定電流電解重合を100分間行った点を除いて、陰極1の製造手順を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが3500nmである陰極を得た。
【0053】
陰極9
100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cmの条件で定電流電解重合を200分間行った点を除いて、陰極1の製造手順を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが7000nmである陰極を得た。
【0054】
フタル酸のアミジニウム塩をγ−ブチロラクトンに15質量%の濃度で溶解させた電解液に陰極1〜9を導入し、30℃及び70℃の条件下、120Hzにおける各陰極の容量を測定した。図1に、PEDOT層の厚みと容量との関係を示す。なお、チタン蒸着膜を備えたアルミニウム箔(基体)の容量は39μF/cmであった。
【0055】
図1から、30℃の測定でも、70℃の測定でも、PEDOT層の厚みが1050nmに到るまで容量が増加し、PEDOT層の厚みが1050nm〜3500nmの範囲では略一定の容量値が得られ、PEDOT層の厚みが3500nmを超えると容量がわずかに減少することが分かる。そして、各陰極は基体に比較して顕著に増大した容量値を示し、陰極1(PEDOT層:105nm)であっても30℃で基体容量の約60倍の容量を有することが分かった。
【0056】
PEDOT層を備えた陰極の容量増大の原因を解明するため、PEDOT層を備えた陰極の電気化学的応答をサイクリックボルタモグラムにより評価した。上述した電解液中に、作用極としての陰極2及び上記基体のいずれかと、対極としての4cmの面積を有する白金メッシュと、参照電極としての銀−塩化銀電極とを導入し、走査電位範囲を−0.8V〜+0.4Vとし、走査速度を10mV/sとして評価した。結果を図2に示す。図2から明らかなように、上記基体のサイクリックボルタモグラムには酸化波も還元波も認められないが、陰極2のサイクリックボルタモグラムには−0.1V付近の非常に狭い範囲にドーピングを示す酸化波と脱ドーピングを示す還元波が認められた。このことは、速い充放電反応が生じていることを示している。したがって、PEDOT層を備えた陰極の容量の増大はこのレドックス容量の発現によるものと判断された。
【0057】
(2)電解コンデンサの製造及び容量評価
実施例1
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、40℃に加熱した。この液に、0.021MのEDOTと0.08Mのボロジサリチル酸アンモニウムとをこの順番で添加して撹拌し、全てのEDOTが溶解した電解重合用の重合液を得た。酸化アルミニウム皮膜を備えたアルミニウム箔を投影面積2cmに打ち抜き、酸化アルミニウム皮膜上に炭素を含むチタン蒸着膜を形成し、陰極基体を得た、次いでこの陰極基体(作用極)と、10cmの面積を有するSUSメッシュの対極とを、上述した電解重合用の重合液に導入し、100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行った。重合後の作用極を水で洗浄した後、100℃で30分間乾燥し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが105nmである陰極を得た。
【0058】
エッチング処理を施して表面積を増大させたアルミニウム箔の表面に化成処理により酸化アルミニウム皮膜を形成した後、投影面積2cmに打ち抜き、陽極(容量:370μF/cm)を得た。次いで、この陽極と上記陰極とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、この素子にフタル酸のアミジニウム塩をγ−ブチロラクトンに15質量%の濃度で溶解させた電解液を含浸させ、ラミネートパックした。次いで、110℃の温度で2.9Vの電圧を60分印加するエージング処理を行い、平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hzの条件下で容量と等価直列抵抗とを測定した。
【0059】
実施例2
100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cmの条件で定電流電解重合を6分間行った点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。陰極におけるチタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みは210nmである。
【0060】
実施例3
100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cmの条件で定電流電解重合を10分間行った点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。陰極におけるチタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みは350nmである。
【0061】
実施例4
100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cmの条件で定電流電解重合を20分間行った点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。陰極におけるチタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みは700nmである。
【0062】
実施例5
100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cmの条件で定電流電解重合を30分間行った点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。陰極におけるチタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みは1050nmである。
【0063】
実施例6
100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cmの条件で定電流電解重合を50分間行った点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。陰極におけるチタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みは1750nmである。
【0064】
実施例7
100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cmの条件で定電流電解重合を70分間行った点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。陰極におけるチタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みは2450nmである。
【0065】
実施例8
100μA/cmの条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cmの条件で定電流電解重合を100分間行った点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。陰極におけるチタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みは3500nmである。
【0066】
実施例9
実施例1で用いた陰極基体上に、市販のPEDOTとポリスチレンスルホン酸イオンとの複合体の粒子を含む水性分散液(商品名バイトロンP:スタルク社製)の200μLをキャストし、3000rpmの回転数で30秒間スピンコートを行った。次いで150℃で30分間乾燥し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが約100nmである陰極を得た。次いで、実施例1において用いた陽極と上記陰極とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、この素子に実施例1において用いた電解液を含浸させ、ラミネートパックした。次いで、110℃の温度で2.9Vの電圧を60分印加するエージング処理を行い、平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hzの条件下で容量と等価直列抵抗とを測定した。
【0067】
実施例10
実施例1で用いた陰極基体上に、市販のPEDOTとポリスチレンスルホン酸イオンとの複合体の粒子を含む水性分散液(商品名バイトロンP:スタルク社製)の200μLをキャストし、3000rpmの回転数で30秒間スピンコートを行い、次いで150℃で30分間乾燥した。このキャスト〜乾燥の工程をさらに6回繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが約700nmである陰極を得た。この陰極を実施例9の陰極の代わりに使用した点を除いて実施例9の手順を繰り返した。
【0068】
実施例11
実施例1において用いた陰極基体上に、20質量%のEDOTを含むエタノール溶液を塗布した後、室温で乾燥した。次いで、酸化剤であるp−トルエンスルホン酸鉄(III)を20質量%の濃度で含むエタノール溶液を塗布し、室温での10分間の乾燥の後、高温処理した。この化学酸化重合工程を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが約5μmである陰極を得た。次いで、実施例1において用いた陽極と上記陰極とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、この素子に実施例1において用いた電解液を含浸させ、ラミネートパックした。次いで、110℃の温度で2.9Vの電圧を60分印加するエージング処理を行い、平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hzの条件下で容量と等価直列抵抗とを測定した。
【0069】
実施例12
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、常温にて0.5Mのピロールと0.08Mのボロジサリチル酸アンモニウムとをこの順番で添加して撹拌し、全てのピロールが溶解した電解重合用の重合液を得た。酸化アルミニウム皮膜を備えたアルミニウム箔を投影面積2cmに打ち抜き、酸化アルミニウム皮膜上に炭素を含むチタン蒸着膜を形成し、陰極基体を得た、次いでこの陰極基体(作用極)と、10cmの面積を有するSUSメッシュの対極とを、上述した電解重合用の重合液に導入し、100μA/cmの条件で定電流電解重合を10分間行った。重合後の作用極を水で洗浄した後、100℃で30分間乾燥し、チタン蒸着膜上のポリピロール層の厚みが350nmである陰極を得た。次いで、実施例1において用いた陽極と上記陰極とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、この素子に実施例1において用いた電解液を含浸させ、ラミネートパックした。次いで、110℃の温度で2.9Vの電圧を60分印加するエージング処理を行い、平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hzの条件下で容量と等価直列抵抗とを測定した。
【0070】
比較例1
実施例1において用いた陰極基体と実施例1において用いた陽極とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、この素子に実施例1において用いた電解液を含浸させ、ラミネートパックした。次いで、110℃の温度で2.9Vの電圧を60分印加するエージング処理を行い、平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hzの条件下で容量を測定した。
【0071】
比較例2
エッチングを施したアルミニウム箔を投影面積2cmに打ち抜き、陰極を形成した。次いで、この陰極と実施例1において用いた陽極とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、この素子に実施例1において用いた電解液を含浸させ、ラミネートパックした。次いで、110℃の温度で2.9Vの電圧を60分印加するエージング処理を行い、平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hzの条件下で容量と等価直列抵抗とを測定した。
【0072】
比較例3
エッチングを施したアルミニウム箔を投影面積2cmに打ち抜き、さらに窒素雰囲気下でチタンを真空蒸着し、陰極を形成した。次いで、この陰極と実施例1において用いた陽極とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、この素子に実施例1において用いた電解液を含浸させ、ラミネートパックした。次いで、110℃の温度で2.9Vの電圧を60分印加するエージング処理を行い、平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hzの条件下で容量を測定した。
【0073】
表1に、得られた容量値(Cap)と等価直列抵抗(ESR)とをまとめて示す。
【表1】
【0074】
表1から明らかなように、電解重合により得られたPEDOT層を有する陰極を備えた実施例1〜8の電解コンデンサは、従来の比較例2及び比較例3の電解コンデンサと比較して、顕著に増大した容量を示し、PEDOT層の厚みが増加するに連れてコンデンサの容量も増大する傾向を示した。この結果は図1に示した結果と良く一致しており、コンデンサの容量の増大が陰極のレドックス容量に起因していることが分かる。実施例1〜8の電解コンデンサの等価直列抵抗に関しては、従来の比較例2の電解コンデンサにおける等価直列抵の値と同等か或いはより大きな値を示し、PEDOT層の厚みが2450nmまでは、厚みが増加するに連れて等価直列抵抗が減少する傾向を示したが、厚みがさらに増加すると等価直列抵抗も増加した。なお、実施例1のコンデンサの等価直列抵抗の値であっても、実用上は特に問題がない。また、電解重合により得られたポリピロール層を有する陰極を備えた実施例12の電解コンデンサは、同じ厚みのPEDOT層を有する陰極を備えた実施例3の電解コンデンサと比較して、同等の容量を示し、より低い等価直列抵抗を示した。
【0075】
分散液から得られたPEDOT層を有する陰極を備えた実施例9,10の電解コンデンサは、従来の比較例2及び比較例3の電解コンデンサに比較して増大した容量を示すものの、同等の厚みのPEDOT層を有する陰極を備えた実施例1,4の電解コンデンサと比較して、小さな容量を示すに留まった。また、実施例9,10の電解コンデンサの等価直列抵抗は、実施例1,4の電解コンデンサの等価直列抵抗と比較して顕著に増大していた。化学重合により得られたPEDOT層を有する陰極を備えた実施例11の電解コンデンサは、最も大きな容量を示したが、厚い陰極を有するため、小型の電解コンデンサの製造には適さない。これらのことから、電解重合により陰極の導電性高分子層を形成することが有効であると判断された。
【0076】
小型高容量の電解コンデンサの製造に適している、電解重合により得られたPEDOT層を有する陰極を備えた実施例1〜5の電解コンデンサについて、105℃で2.5Vの電荷を印加する高温負荷試験を140時間行った。表2に、負荷試験前の容量に対する負荷試験後の容量の変化の割合を示す。
【表2】
【0077】
表2より、105nmのPEDOT層を有する陰極を備えた実施例1の電解コンデンサは大きな容量変化を示したものの、210nmのPEDOT層を有する陰極を備えた実施例2の電解コンデンサの容量変化率は−3%程度に留まっており、さらに、350nmのPEDOT層を有する陰極を備えた実施例3の電解コンデンサ、700nmのPEDOT層を有する陰極を備えた実施例4の電解コンデンサ、及び1050nmのPEDOT層を有する陰極を備えた実施例5の電解コンデンサの容量変化率は−2%以下に留まっており、十分な耐熱性を有していることが分かった。
【0078】
次に、小型高容量の電解コンデンサの製造に適している、電解重合により得られたPEDOT層を有する陰極を備えた実施例1〜8の電解コンデンサについて、120Hzの条件下で−40℃における容量値(Cap(−40℃))と20℃における容量値(Cap(20℃))とを測定し、Cap(20℃)に対する{Cap(−40℃)−Cap(20℃)}の割合(この割合を「ΔCap(−40℃/20℃)」と表す)を尺度として容量の温度依存性を調査した。得られた結果を図3に示す。ΔCap(−40℃/20℃)の絶対値が大きいほど容量の温度依存性が大きいことになるが、図3より明らかなように、PEDOT層の厚みが2450nmを超えると、容量の温度依存性が増大した。
【0079】
したがって、表2及び図3に示した結果から、導電性高分子層の厚みは200〜2450nmであるのが好ましいと判断された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明により、小型で大容量を有する電解コンデンサが得られる。
図1
図2
図3