【実施例】
【0043】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0044】
(1)陰極の製造及び容量評価
陰極1
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、40℃に加熱した。この液に、0.021MのEDOTと0.08Mのボロジサリチル酸アンモニウムとをこの順番で添加して撹拌し、全てのEDOTが溶解した電解重合用の重合液を得た。
【0045】
酸化アルミニウム皮膜を備えたアルミニウム箔を投影面積1cm
2に打ち抜き、酸化アルミニウム皮膜上に炭素を含むチタン蒸着膜を形成した。このチタン蒸着膜を備えたアルミニウム箔(基体,作用極)と、10cm
2の面積を有するSUSメッシュの対極とを、上述した電解重合用の重合液に導入し、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行った。重合後の作用極を水で洗浄した後、100℃で30分間乾燥し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが105nmである陰極を得た。なお、PEDOT層の厚みは、100μA/cm
2の条件での定電流電解重合を時間を変えて複数回実施し、各回の実験において得られたPEDOT層の厚みを原子間力顕微鏡或いは段差計を用いて測定し、PEDOT層の厚みと電荷量との関係式を導出した後、導出した関係式を用いて電解重合の電荷量をPEDOT層の厚みに換算して求めた値である。以下の電解重合の実験においても、同じ関係式を用いてPEDOT層の厚みを求めた。
【0046】
陰極2
100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を6分間行った点を除いて、陰極1の製造手順を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが210nmである陰極を得た。
【0047】
陰極3
100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を10分間行った点を除いて、陰極1の製造手順を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが350nmである陰極を得た。
【0048】
陰極4
100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を20分間行った点を除いて、陰極1の製造手順を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが700nmである陰極を得た。
【0049】
陰極5
100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を30分間行った点を除いて、陰極1の製造手順を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが1050nmである陰極を得た。
【0050】
陰極6
100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を50分間行った点を除いて、陰極1の製造手順を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが1750nmである陰極を得た。
【0051】
陰極7
100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を70分間行った点を除いて、陰極1の製造手順を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが2450nmである陰極を得た。
【0052】
陰極8
100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を100分間行った点を除いて、陰極1の製造手順を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが3500nmである陰極を得た。
【0053】
陰極9
100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を200分間行った点を除いて、陰極1の製造手順を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが7000nmである陰極を得た。
【0054】
フタル酸のアミジニウム塩をγ−ブチロラクトンに15質量%の濃度で溶解させた電解液に陰極1〜9を導入し、30℃及び70℃の条件下、120Hzにおける各陰極の容量を測定した。
図1に、PEDOT層の厚みと容量との関係を示す。なお、チタン蒸着膜を備えたアルミニウム箔(基体)の容量は39μF/cm
2であった。
【0055】
図1から、30℃の測定でも、70℃の測定でも、PEDOT層の厚みが1050nmに到るまで容量が増加し、PEDOT層の厚みが1050nm〜3500nmの範囲では略一定の容量値が得られ、PEDOT層の厚みが3500nmを超えると容量がわずかに減少することが分かる。そして、各陰極は基体に比較して顕著に増大した容量値を示し、陰極1(PEDOT層:105nm)であっても30℃で基体容量の約60倍の容量を有することが分かった。
【0056】
PEDOT層を備えた陰極の容量増大の原因を解明するため、PEDOT層を備えた陰極の電気化学的応答をサイクリックボルタモグラムにより評価した。上述した電解液中に、作用極としての陰極2及び上記基体のいずれかと、対極としての4cm
2の面積を有する白金メッシュと、参照電極としての銀−塩化銀電極とを導入し、走査電位範囲を−0.8V〜+0.4Vとし、走査速度を10mV/sとして評価した。結果を
図2に示す。
図2から明らかなように、上記基体のサイクリックボルタモグラムには酸化波も還元波も認められないが、陰極2のサイクリックボルタモグラムには−0.1V付近の非常に狭い範囲にドーピングを示す酸化波と脱ドーピングを示す還元波が認められた。このことは、速い充放電反応が生じていることを示している。したがって、PEDOT層を備えた陰極の容量の増大はこのレドックス容量の発現によるものと判断された。
【0057】
(2)電解コンデンサの製造及び容量評価
実施例1
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、40℃に加熱した。この液に、0.021MのEDOTと0.08Mのボロジサリチル酸アンモニウムとをこの順番で添加して撹拌し、全てのEDOTが溶解した電解重合用の重合液を得た。酸化アルミニウム皮膜を備えたアルミニウム箔を投影面積2cm
2に打ち抜き、酸化アルミニウム皮膜上に炭素を含むチタン蒸着膜を形成し、陰極基体を得た、次いでこの陰極基体(作用極)と、10cm
2の面積を有するSUSメッシュの対極とを、上述した電解重合用の重合液に導入し、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行った。重合後の作用極を水で洗浄した後、100℃で30分間乾燥し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが105nmである陰極を得た。
【0058】
エッチング処理を施して表面積を増大させたアルミニウム箔の表面に化成処理により酸化アルミニウム皮膜を形成した後、投影面積2cm
2に打ち抜き、陽極(容量:370μF/cm
2)を得た。次いで、この陽極と上記陰極とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、この素子にフタル酸のアミジニウム塩をγ−ブチロラクトンに15質量%の濃度で溶解させた電解液を含浸させ、ラミネートパックした。次いで、110℃の温度で2.9Vの電圧を60分印加するエージング処理を行い、平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hzの条件下で容量と等価直列抵抗とを測定した。
【0059】
実施例2
100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を6分間行った点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。陰極におけるチタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みは210nmである。
【0060】
実施例3
100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を10分間行った点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。陰極におけるチタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みは350nmである。
【0061】
実施例4
100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を20分間行った点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。陰極におけるチタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みは700nmである。
【0062】
実施例5
100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を30分間行った点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。陰極におけるチタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みは1050nmである。
【0063】
実施例6
100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を50分間行った点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。陰極におけるチタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みは1750nmである。
【0064】
実施例7
100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を70分間行った点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。陰極におけるチタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みは2450nmである。
【0065】
実施例8
100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を3分間行う代わりに、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を100分間行った点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。陰極におけるチタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みは3500nmである。
【0066】
実施例9
実施例1で用いた陰極基体上に、市販のPEDOTとポリスチレンスルホン酸イオンとの複合体の粒子を含む水性分散液(商品名バイトロンP:スタルク社製)の200μLをキャストし、3000rpmの回転数で30秒間スピンコートを行った。次いで150℃で30分間乾燥し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが約100nmである陰極を得た。次いで、実施例1において用いた陽極と上記陰極とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、この素子に実施例1において用いた電解液を含浸させ、ラミネートパックした。次いで、110℃の温度で2.9Vの電圧を60分印加するエージング処理を行い、平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hzの条件下で容量と等価直列抵抗とを測定した。
【0067】
実施例10
実施例1で用いた陰極基体上に、市販のPEDOTとポリスチレンスルホン酸イオンとの複合体の粒子を含む水性分散液(商品名バイトロンP:スタルク社製)の200μLをキャストし、3000rpmの回転数で30秒間スピンコートを行い、次いで150℃で30分間乾燥した。このキャスト〜乾燥の工程をさらに6回繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが約700nmである陰極を得た。この陰極を実施例9の陰極の代わりに使用した点を除いて実施例9の手順を繰り返した。
【0068】
実施例11
実施例1において用いた陰極基体上に、20質量%のEDOTを含むエタノール溶液を塗布した後、室温で乾燥した。次いで、酸化剤であるp−トルエンスルホン酸鉄(III)を20質量%の濃度で含むエタノール溶液を塗布し、室温での10分間の乾燥の後、高温処理した。この化学酸化重合工程を繰り返し、チタン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが約5μmである陰極を得た。次いで、実施例1において用いた陽極と上記陰極とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、この素子に実施例1において用いた電解液を含浸させ、ラミネートパックした。次いで、110℃の温度で2.9Vの電圧を60分印加するエージング処理を行い、平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hzの条件下で容量と等価直列抵抗とを測定した。
【0069】
実施例12
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、常温にて0.5Mのピロールと0.08Mのボロジサリチル酸アンモニウムとをこの順番で添加して撹拌し、全てのピロールが溶解した電解重合用の重合液を得た。酸化アルミニウム皮膜を備えたアルミニウム箔を投影面積2cm
2に打ち抜き、酸化アルミニウム皮膜上に炭素を含むチタン蒸着膜を形成し、陰極基体を得た、次いでこの陰極基体(作用極)と、10cm
2の面積を有するSUSメッシュの対極とを、上述した電解重合用の重合液に導入し、100μA/cm
2の条件で定電流電解重合を10分間行った。重合後の作用極を水で洗浄した後、100℃で30分間乾燥し、チタン蒸着膜上のポリピロール層の厚みが350nmである陰極を得た。次いで、実施例1において用いた陽極と上記陰極とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、この素子に実施例1において用いた電解液を含浸させ、ラミネートパックした。次いで、110℃の温度で2.9Vの電圧を60分印加するエージング処理を行い、平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hzの条件下で容量と等価直列抵抗とを測定した。
【0070】
比較例1
実施例1において用いた陰極基体と実施例1において用いた陽極とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、この素子に実施例1において用いた電解液を含浸させ、ラミネートパックした。次いで、110℃の温度で2.9Vの電圧を60分印加するエージング処理を行い、平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hzの条件下で容量を測定した。
【0071】
比較例2
エッチングを施したアルミニウム箔を投影面積2cm
2に打ち抜き、陰極を形成した。次いで、この陰極と実施例1において用いた陽極とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、この素子に実施例1において用いた電解液を含浸させ、ラミネートパックした。次いで、110℃の温度で2.9Vの電圧を60分印加するエージング処理を行い、平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hzの条件下で容量と等価直列抵抗とを測定した。
【0072】
比較例3
エッチングを施したアルミニウム箔を投影面積2cm
2に打ち抜き、さらに窒素雰囲気下でチタンを真空蒸着し、陰極を形成した。次いで、この陰極と実施例1において用いた陽極とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、この素子に実施例1において用いた電解液を含浸させ、ラミネートパックした。次いで、110℃の温度で2.9Vの電圧を60分印加するエージング処理を行い、平板型の電解コンデンサを得た。このコンデンサについて、120Hzの条件下で容量を測定した。
【0073】
表1に、得られた容量値(Cap)と等価直列抵抗(ESR)とをまとめて示す。
【表1】
【0074】
表1から明らかなように、電解重合により得られたPEDOT層を有する陰極を備えた実施例1〜8の電解コンデンサは、従来の比較例2及び比較例3の電解コンデンサと比較して、顕著に増大した容量を示し、PEDOT層の厚みが増加するに連れてコンデンサの容量も増大する傾向を示した。この結果は
図1に示した結果と良く一致しており、コンデンサの容量の増大が陰極のレドックス容量に起因していることが分かる。実施例1〜8の電解コンデンサの等価直列抵抗に関しては、従来の比較例2の電解コンデンサにおける等価直列抵の値と同等か或いはより大きな値を示し、PEDOT層の厚みが2450nmまでは、厚みが増加するに連れて等価直列抵抗が減少する傾向を示したが、厚みがさらに増加すると等価直列抵抗も増加した。なお、実施例1のコンデンサの等価直列抵抗の値であっても、実用上は特に問題がない。また、電解重合により得られたポリピロール層を有する陰極を備えた実施例12の電解コンデンサは、同じ厚みのPEDOT層を有する陰極を備えた実施例3の電解コンデンサと比較して、同等の容量を示し、より低い等価直列抵抗を示した。
【0075】
分散液から得られたPEDOT層を有する陰極を備えた実施例9,10の電解コンデンサは、従来の比較例2及び比較例3の電解コンデンサに比較して増大した容量を示すものの、同等の厚みのPEDOT層を有する陰極を備えた実施例1,4の電解コンデンサと比較して、小さな容量を示すに留まった。また、実施例9,10の電解コンデンサの等価直列抵抗は、実施例1,4の電解コンデンサの等価直列抵抗と比較して顕著に増大していた。化学重合により得られたPEDOT層を有する陰極を備えた実施例11の電解コンデンサは、最も大きな容量を示したが、厚い陰極を有するため、小型の電解コンデンサの製造には適さない。これらのことから、電解重合により陰極の導電性高分子層を形成することが有効であると判断された。
【0076】
小型高容量の電解コンデンサの製造に適している、電解重合により得られたPEDOT層を有する陰極を備えた実施例1〜5の電解コンデンサについて、105℃で2.5Vの電荷を印加する高温負荷試験を140時間行った。表2に、負荷試験前の容量に対する負荷試験後の容量の変化の割合を示す。
【表2】
【0077】
表2より、105nmのPEDOT層を有する陰極を備えた実施例1の電解コンデンサは大きな容量変化を示したものの、210nmのPEDOT層を有する陰極を備えた実施例2の電解コンデンサの容量変化率は−3%程度に留まっており、さらに、350nmのPEDOT層を有する陰極を備えた実施例3の電解コンデンサ、700nmのPEDOT層を有する陰極を備えた実施例4の電解コンデンサ、及び1050nmのPEDOT層を有する陰極を備えた実施例5の電解コンデンサの容量変化率は−2%以下に留まっており、十分な耐熱性を有していることが分かった。
【0078】
次に、小型高容量の電解コンデンサの製造に適している、電解重合により得られたPEDOT層を有する陰極を備えた実施例1〜8の電解コンデンサについて、120Hzの条件下で−40℃における容量値(Cap(−40℃))と20℃における容量値(Cap(20℃))とを測定し、Cap(20℃)に対する{Cap(−40℃)−Cap(20℃)}の割合(この割合を「ΔCap(−40℃/20℃)」と表す)を尺度として容量の温度依存性を調査した。得られた結果を
図3に示す。ΔCap(−40℃/20℃)の絶対値が大きいほど容量の温度依存性が大きいことになるが、
図3より明らかなように、PEDOT層の厚みが2450nmを超えると、容量の温度依存性が増大した。
【0079】
したがって、表2及び
図3に示した結果から、導電性高分子層の厚みは200〜2450nmであるのが好ましいと判断された。