特許第6879048号(P6879048)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6879048塗工装置、衛生用品の製造装置、塗工方法、および、衛生用品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6879048
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】塗工装置、衛生用品の製造装置、塗工方法、および、衛生用品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/02 20060101AFI20210524BHJP
   B05C 1/10 20060101ALI20210524BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20210524BHJP
   A47K 10/16 20060101ALI20210524BHJP
   B31F 1/07 20060101ALN20210524BHJP
【FI】
   B05C5/02
   B05C1/10
   B05D1/26 A
   A47K10/16 D
   !B31F1/07
【請求項の数】16
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-97543(P2017-97543)
(22)【出願日】2017年5月16日
(65)【公開番号】特開2018-192413(P2018-192413A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2019年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】西郡 大介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 壮
(72)【発明者】
【氏名】仲山 伸二
(72)【発明者】
【氏名】永谷 宏幸
【審査官】 團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−135175(JP,A)
【文献】 特開2002−248395(JP,A)
【文献】 特開2001−121059(JP,A)
【文献】 特開昭49−135714(JP,A)
【文献】 特開2013−119082(JP,A)
【文献】 特開平06−285410(JP,A)
【文献】 特開2011−152780(JP,A)
【文献】 特開2013−132439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC A47K 7/00
10/16
B05C 1/00−5/04
B05D 1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗工剤を供給する塗工剤供給部と、
前記塗工剤供給部から供給された前記塗工剤を帯状の被塗工シートに吐出するスリットを有するリップヘッドと、
前記被塗工シートの搬送速度に応じて移動して前記被塗工シートに接触する接触面を有する接触部材と、を備え
前記リップヘッドは、軸方向に延在し前記塗工剤が流通する流路と、軸方向に延在し前記流路と連通する前記スリットと、を有するロール体によって構成され、
前記接触部材は、中空内部を有し搬送速度に応じて回転する中空ロールであって、前記接触面である外周面と、前記接触面の裏面である内周面と、前記外周面と前記内周面とを連通する多数の連通孔と、を有し、
前記リップヘッドは、前記中空内部に配置され、前記内周面側から前記連通孔を通じて前記外周面側を移動する前記被塗工シートに前記塗工剤を塗工し、
前記ロール体の円筒状の外周面が、前記中空ロールの円筒状の内周面に摺接して前記中空ロールを支持している
塗工装置。
【請求項2】
前記リップヘッドは、搬送される前記被塗工シートの下方に配置され、前記被塗工シートの下面に前記塗工剤を塗布する
請求項に記載された塗工装置。
【請求項3】
前記スリットの開口幅が可変に構成されている
請求項1又は2に記載された塗工装置。
【請求項4】
前記被塗工シートは、衛生用の抄造体である
請求項1〜の何れか1項に記載された塗工装置。
【請求項5】
張架された状態で搬送される帯状の抄造体から所定の幅方向寸法をなす衛生用品を製造する装置であって、
前記所定の幅方向寸法に裁断された前記抄造体に薬剤を塗布する塗布部と、
前記塗布部で前記薬剤が塗布された前記抄造体を所定の搬送方向寸法に分断する分断部と、を有し、
前記塗布部に、請求項に記載された塗工装置が装備され、
前記薬剤が塗布された前記抄造体を巻き取らずに積層し、折り畳む、
衛生用品の製造装置。
【請求項6】
張架された状態で搬送される帯状の抄造体から所定の幅方向寸法をなす衛生用品を製造する装置であって、
前記所定の幅方向寸法に裁断された前記抄造体に薬剤を塗布する塗布部と、
前記塗布部で前記薬剤が塗布された前記抄造体に凹凸を形成するエンボス形成部と、を有し、
前記塗布部に、請求項に記載された塗工装置が装備され、
前記エンボス形成部で前記凹凸形成された前記抄造体を、巻き取らずに積層し、折り畳む、
衛生用品の製造装置。
【請求項7】
張架された状態で搬送される帯状の抄造体から所定の幅方向寸法をなす衛生用品を製造する装置であって、
前記所定の幅方向寸法に裁断された前記抄造体に薬剤を塗布する塗布部と、
前記塗布部で前記抄造体に前記薬剤が塗布される前に、前記抄造体に凹凸を形成するエンボス形成部と、を有し、
前記塗布部に、請求項に記載された塗工装置が装備され、
前記塗布部で前記薬剤が塗布された前記抄造体を、巻き取らずに積層し、折り畳む、
衛生用品の製造装置。
【請求項8】
張架された状態で搬送される帯状の抄造体から所定の幅方向寸法をなす衛生用品を製造する装置であって、
前記所定の幅方向寸法に裁断された前記抄造体に薬剤を塗布する塗布部と、
前記塗布部で前記抄造体に前記薬剤が塗布される前に、前記抄造体を湿潤させる湿潤部と、を有し、
前記塗布部に、請求項に記載された塗布装置が装備され、
前記塗布部で前記薬剤が塗布された前記抄造体を、巻き取らずに積層し、折り畳む、
衛生用品の製造装置。
【請求項9】
塗工剤を供給する塗工剤供給部と、前記塗工剤供給部から供給された前記塗工剤を帯状の被塗工シートに吐出するスリットを有するリップヘッドと、前記被塗工シートの搬送速度に応じて移動して前記被塗工シートに接触する接触面を有する接触部材と、を備え、前記リップヘッドは、軸方向に延在し前記塗工剤が流通する流路と、軸方向に延在し前記流路と連通する前記スリットと、を有するロール体によって構成され、前記接触部材は、中空内部を有し搬送速度に応じて回転する中空ロールであって、前記接触面である外周面と、前記接触面の裏面である内周面と、前記外周面と前記内周面とを連通する多数の連通孔と、を有し、前記リップヘッドが前記中空内部に配置された塗工装置、を用いた塗工方法であって、
前記内周面側から前記連通孔を通じて前記外周面側を移動する前記被塗工シートに前記塗工剤を塗工し、
前記ロール体の円筒状の外周面で、前記中空ロールの円筒状の内周面に摺接して前記中空ロールを支持する
塗工方法。
【請求項10】
前記リップヘッドは、搬送される前記被塗工シートの下方に配置され、前記被塗工シートの下面に前記塗工剤を塗布する
請求項9に記載された塗工方法。
【請求項11】
前記スリットの開口幅が可変に構成され、前記開口幅を調整することで、前記塗工剤の塗布量をする
請求項9又は10に記載された塗工方法。
【請求項12】
前記被塗工シートは、衛生用の抄造体である
請求項9〜11の何れか1項に記載された塗工方法。
【請求項13】
張架された状態で搬送される帯状の抄造体から所定の幅方向寸法をなす衛生用品を製造する方法であって、
前記所定の幅方向寸法に裁断された前記抄造体に薬剤を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で前記薬剤が塗布された前記抄造体を所定の搬送方向寸法に分断する分断工程と、を有し、
前記塗布工程に、請求項12に記載された塗工方法が適用され、
前記薬剤が塗布された前記抄造体を巻き取らずに積層し、折り畳む、
衛生用品の製造方法。
【請求項14】
張架された状態で搬送される帯状の抄造体から所定の幅方向寸法をなす衛生用品を製造する方法であって、
前記所定の幅方向寸法に裁断された前記抄造体に薬剤を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で前記薬剤が塗布された前記抄造体に凹凸を形成するエンボス形成工程と、を有し、
前記塗布工程に、請求項12に記載された塗工方法が適用され、
前記エンボス形成工程で前記凹凸が形成された前記抄造体を、巻き取らずに積層し、折り畳む、
衛生用品の製造方法。
【請求項15】
張架された状態で搬送される帯状の抄造体から所定の幅方向寸法をなす衛生用品を製造する方法であって、
前記所定の幅方向寸法に裁断された前記抄造体に薬剤を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で前記抄造体に前記薬剤が塗布される前に、前記抄造体に凹凸を形成するエンボス形成工程と、を有し、
前記塗布工程に、請求項12に記載された塗工方法が適用され、
前記塗布工程で前記薬剤が塗布された前記抄造体を、巻き取らずに積層し、折り畳む、
衛生用品の製造方法。
【請求項16】
張架された状態で搬送される帯状の抄造体から所定の幅方向寸法をなす衛生用品を製造する装置であって、
前記所定の幅方向寸法に裁断された前記抄造体に薬剤を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で前記抄造体に前記薬剤が塗布される前に、前記抄造体を湿潤させる湿潤工程と、を有し、
前記塗布工程に、請求項12に記載された塗布方法が適用され、
前記塗布工程で前記薬剤が塗布された前記抄造体を、巻き取らずに積層し、折り畳む、
衛生用品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、液剤を塗る塗工装置、および、この塗工装置により液剤が塗布された抄造体から衛生用品を製造する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ティシュペーパやペーパタオルといった衛生用品を製造する工程では、搬送される帯状の原紙に保湿剤や芳香剤などの液剤を塗布することがある。従来、このような原紙に液剤を塗る手法の一つとして、グラビア方式によるものが知られている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
グラビア方式は、版目(凹部)が周面に刻設されたグラビアロールと、このグラビアロールに対向して配置されたバックアップロールとの間に被塗布物を通し、グラビアロールから被塗布物に液剤を転写する方式である。一般に、このようなグラビア方式の塗工では、グラビアロールの回転速度を変更することで、被塗布物に対する液剤の塗布量(塗布膜の厚み)が変更される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4676564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、塗布量はグラビアロールの回転速度に対してリニアに変化しないことがある。このため、グラビア方式の塗工法では塗布量の調整が難しいという課題がある。また、グラビアロールとバックアップロールとが被塗布物を挟んで対向配置されるため、装置の省スペース化が難しいという課題もある。
【0006】
本件は、上記のような課題に鑑みて創案されたものであり、塗布量の調整を容易にするとともに省スペース化を実現することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)ここで開示する塗工装置は、塗工剤を供給する塗工剤供給部と、前記塗工剤供給部から供給された前記塗工剤を帯状の被塗工シートに吐出するスリットを有するリップヘッドと、を備えている。
(2)前記被塗工シートが、衛生用の抄造体であることが好ましい。
(3)ここで開示する衛生用品の製造装置は、張架された状態で搬送される帯状の抄造体から所定の幅方向寸法をなす衛生用品を製造する。本製造装置は、前記所定の幅方向寸法に裁断された前記抄造体に薬剤を塗布する塗布部を備えている。また、前記塗布部が、前記塗工装置であって、前記薬剤を前記液剤として前記抄造体に塗布する。
【発明の効果】
【0008】
本件によれば、省スペース化を図りながら塗布量の調整を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】各実施形態に係るティシュペーパを製造する過程の概要を示す模式図である。
図2】各実施形態に係る抄紙機を示す模式図である。
図3】各実施形態に係る積層機を示す模式図である。
図4】各実施形態に係る折畳機を示す模式図であり、(A)は(B)のX−X矢視図である。
図5】各実施形態に係るティシュペーパを製造する手順を示すフローチャートである。
図6】各実施形態に係る折畳機の変形例を示す図である。
図7】第1実施形態に係る塗工装置の要部の斜視図である。
図8】第1実施形態に係る塗工装置の要部の分解斜視図である。
図9】第1実施形態に係る塗工装置の要部の断面図である。
図10】第1実施形態の変形例に係る塗工装置の塗布要部の分解斜視図である。
図11】第2実施形態に係る塗工装置の塗布要部の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本件を実施するための形態を説明する。下記の実施形態はあくまでも例示に過ぎず、実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。この実施形態の各構成は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、適宜組み合わせることもできる。
[I.第1実施形態]
【0011】
各実施形態の塗工装置は、衛生用品を製造する製造装置に組み込まれている。この製造装置によって製造される衛生用品は、抄造体である。
抄造体とは、繊維を用いて抄造された物である。この抄造体としては、パルプ繊維から抄造される紙や樹脂繊維から抄造される不織布が挙げられる。たとえば、抄造体には、ティシュペーパやペーパタオルなどの衛生用紙のほか衛生用不織布といった衛生用品が含まれる。
【0012】
以下の各実施形態では、上記した衛生用品の一例として、搬送される帯状の原紙(抄紙)から製造される枚葉状(シート状)のティシュペーパを挙げる。
なお、下記の実施形態では、原紙が搬送される方向(以下「搬送方向」と略称する)を基準に上流および下流を定める。また、原紙について、長手方向,幅方向,厚み方向の三方向を定める。長手方向は、原紙の延在面において帯状に延びる方向である。この長手方向は、搬送方向に沿う。幅方向は、原紙の延在面において長手方向に直交する方向である。厚み方向は、長手方向および幅方向の何れにも直交する方向である。
なお、本実施形態の構成の説明では、各実施形態に共通またはほぼ共通な製造装置の構成について説明し、その後、本実施形態に係る塗工装置について説明する。
【0013】
[1.製造装置]
ティシュペーパを製造する装置の構成を概説する。
図1に示すように、ティシュペーパの製造装置は、三つのパートP1,P2,P3に大別される。
第一パートP1では、図2に示す抄紙機1によって、帯状の原紙W(抄造体,シート)が抄造(抄紙)される。
【0014】
第二パートP2では、図3に示す積層機3によって、第一パートP1で抄造された原紙Wどうしが重ね合わせられる。
なお、重ね合わせられた後の原紙Wについては、二層構造(いわゆる2プライ)であり、重ね合わせられる前の一層構造(いわゆる1プライ)の原紙Wとは構造が異なるものの、可読性に配慮して単に「原紙W」と称する。
【0015】
第三パートP3では、図4に示す折畳機5によって、第二パートP2で重ね合わせられた原紙Wが折り畳まれる。
そして、所定の搬送方向寸法に原紙Wが分断される。このように分断されるまでの原紙Wは、張架された状態で搬送される。ここでいう「張架された状態」とは、搬送方向に沿う張力(テンション)が印加された状態かつロール間に架け渡された状態を意味する。この原紙Wは、搬送時に印加された張力が保持された状態で保管もされる。これらより、抄造されてから分断されるまでの原紙Wは、張力が印加された状態が保持される。
【0016】
第一パートP1において、抄造された原紙Wが巻き取られる。この原紙Wは、第二パートP2に運搬される。そして、原紙Wが繰り出される。同様に、第二パートP2において、重ね合わせられた原紙Wが巻き取られる。この原紙Wは、第三パートP3に運搬される。そして、原紙Wが繰り出される。
【0017】
すなわち、第一パートP1の下流に第一巻取パート15(図2参照)が設けられ、第二パートP2の上流に第一繰出パート30(図3参照)が設けられる。また、第二パートP2の下流に第二巻取パート38(図3参照)が設けられ、第三パートP3の上流に第二繰出パート50(図4参照)が設けられる。さらに、第一パートP1と第二パートP2との間に第一運搬パートP12(第一運搬部)が設けられ、第二パートP2と第三パートP3との間に第二運搬パートP23(第二運搬部)が設けられる。
【0018】
搬送される原紙Wは、第一パートP1および第二パートP2で巻き取られることにより張力が印加される。平たく言えば、第一パートP1および第二パートP2の巻き取りによって、原紙Wが搬送方向に沿って引っ張られる。
以下、抄紙機1,積層機3および折畳機5の各構成を述べる。
【0019】
[1−1.抄紙機]
図2を参照して、抄紙機1の構成を詳述する。
抄紙機1は、原料から帯状の原紙Wを抄造するティシュマシンである。
抄紙機1には、原紙Wを抄造する抄紙パート10(抄造部)が設けられている。そのほか、抄紙パート10で抄造された原紙Wを巻き取る第一巻取パート15(第一巻取部)も設けられている。
【0020】
抄紙パート10は、原料から湿った状態の原紙W(湿紙)を抄造するワイヤパート11,湿った状態の原紙Wから水分を圧搾するプレスパート12,水分が圧搾された原紙Wを乾燥させるドライヤパート13,乾燥した原紙Wの平滑度を高めるカレンダパート14に細別される。カレンダパート14によって平滑度の高められた原紙Wが第一巻取パート15で巻き取られる。
以下、抄紙機1の各パート11,12,13,14,15を製造工程順に説明する。
【0021】
〈ワイヤパート〉
ワイヤパート11には、原紙Wの原料であるスラリーを射出するヘッドボックスHが設けられている。スラリーには、パルプ繊維の懸濁した原料液が用いられる。
このワイヤパート11には、フォーミングロールRTの外周に一部が巻き掛けられた二種のワイヤベルトBT,BCが設けられている。
【0022】
ワイヤベルトBT,BCは、ベルト搬送ロールに巻き掛けられたメッシュ状の無端ベルトである。フォーミングワイヤベルトBTは、スラリーに対してフォーミングロールRT側とは反対側(外周側)に巻き掛けられ、搬送ワイヤベルトBCは、スラリーに対してフォーミングロールRT側(内周側)に巻き掛けられる。
フォーミングロールRTの外周においてワイヤベルトBT,BCどうしの間に射出されたスラリーが脱水されることにより、湿った状態の原紙Wが抄造される。
【0023】
図2に示すように、ヘッドボックスHには、フォーミングワイヤベルトBT側(外周側)に第一原料液を射出する第一射出口HE1と、搬送ワイヤベルトBC側(内周側)に第二原料液を射出する第二射出口HE2とが設けられている。第二原料液よりも第一原料液のほうが懸濁するパルプの繊維長が短く設定される。
【0024】
原紙Wは、搬送されるワイヤベルトBT,BC上で搬送される際にスラリーから抄造されるため、パルプが搬送方向に沿う配向をなす。そのため、原紙Wは、幅方向に沿っては裂けにくく長手方向に沿っては裂けやすい引き裂き強度の指向性をもつ。
原紙Wは、搬送ワイヤベルトBCによって、次のプレスパート12へ搬送される。
【0025】
〈プレスパート〉
プレスパート12には、ベルト搬送ロールに巻き掛けられた吸水性の搬送ベルトBAが設けられている。搬送ベルトBAには、吸水性をもつ材料(たとえばフェルト)の無端ベルトが用いられる。
搬送ベルトBAのうち上流側の部位は、上記した搬送ワイヤベルトBCで搬送される原紙Wに対して付勢された状態に設けられる。
【0026】
ベルト搬送ロールのうち、原紙Wに対して付勢する箇所の搬送ワイヤベルトBCが巻き掛けられるロールには、原紙Wを吸引するサクション機構MSの内蔵されたサクションロールRAが設けられている。サクションロールRAによって、原紙Wの搬送経路が搬送ワイヤベルトBC上から搬送ベルトBA上に切り替えられる。
原紙Wに対する搬送ワイヤベルトBCの付勢箇所において、原紙Wから水分が圧搾される。このようにして脱水された原紙Wは、搬送ベルトBAによって、次のドライヤパート13へ搬送される。
【0027】
〈ドライヤパート〉
ドライヤパート13には、原紙Wを乾燥させる乾燥ロールRD(「ヤンキーロール」とも称される)が設けられている。
乾燥ロールRDには、搬送ベルトBAのうち下流側の部位が原紙Wを介して付勢されている。搬送ベルトBAで搬送された原紙Wは、回転する乾燥ロールRDの外周面上へ張り付くように移行する。乾燥ロールRDは、たとえば筒内に導入された蒸気によって筒面が加熱され、その筒面上の原紙Wを乾燥させる。
【0028】
ドライヤパート13には、乾燥した原紙Wを乾燥ロールRDから剥離させるドクターブレードDDが設けられている。
ドクターブレードDDは、乾燥ロールRDの筒面に対して刃先が突き当てられた姿勢で配置される。ドクターブレードDDは、乾燥ロールRDから剥離する原紙Wにクレープ(縮緬状の皺)を付与する。原紙Wには、密に皺寄せられた箇所や疎に皺寄せられた箇所の混在したクレープが付与される。
【0029】
乾燥ロールRDに対するドクターブレードDDの突き当て角度や剥離された原紙Wの搬送速度に応じて、原紙Wに付与されるクレープの状態が変化する。逆に言えば、ドクターブレードDDの突き当て角度や乾燥ロールRDから剥離された原紙Wの搬送速度を制御することにより、原紙Wに付与されるクレープの状態を調節することが可能である。
このようにして乾燥ロールRDから剥離された原紙Wは、次のカレンダパート14へ搬送される。
【0030】
〈カレンダパート〉
カレンダパート14には、一対のカレンダロールRLが設けられている。カレンダロールRLは、原紙Wの搬送速度に応じた速度で回転し、搬送される原紙Wを挟み込んだ状態で互いに対向して配置される。カレンダロールRLどうしの間で原紙Wが厚み方向に圧縮される。
このようにしてカレンダ処理された原紙Wは、次の第一巻取パート15へ搬送される。
【0031】
〈第一巻取パート〉
第一巻取パート15には、原紙Wを巻き取る第一巻取ロールRW1が設けられている。第一巻取ロールRW1に帯状の原紙Wが巻き取られて第一原反ロールWR1が製造される。第一巻取パート15は、原紙Wが引っ張られて巻き取られることから、第一テンションパート(第一テンション部)や第一張力印加パート(第一張力印加部)とも言える。
以下の説明では、半製品(中間体)の第一原反ロールWR1について、装置構造をなすロールとの混同を防ぐため、「第一原反ロールWR1」を「第一原反WR1」と略称する。
【0032】
[1−2.積層機]
図3を参照して、積層機3の構成を詳述する。
積層機3は、原紙Wどうしを重ね合わせるプライマシンである。積層機3では、二つの第一原反WR1,WR1が設置され、第一原反WR1,WR1から繰り出された原紙Wどうしが積層される。すなわち、原紙Wが二層構造となる。
【0033】
積層機3には、各第一原反WR1から原紙Wを繰り出す第一繰出パート30(第一繰出部)や原紙Wを巻き取る第二巻取パート38(第二巻取部)に加えて、第一繰出パート30で繰り出された原紙Wどうしを重ね合わせる積層パート32(積層部)が設けられている。積層機3には、積層パート32で重ね合わせられた二層の原紙Wどうしを係合させる係合パート35(係合部)が設けられ、係合された原紙Wを裁断する裁断パート36(裁断部)も設けられている。積層機3には、二層どうしが係合された原紙Wを湿潤させる湿潤パート37(湿潤部)も設けられている。積層パート32と係合パート35との間には、カレンダパート33が設けられている。
以下、積層機3の各パート30,32,33,35,36,37,38を製造工程順に説明する。
【0034】
〈第一繰出パート〉
第一繰出パート30では、それぞれに第一原反WR1の設置された二つの第一繰出ロールRU1,RU1が設けられ、第一繰出ロールRU1の第一原反WR1から各原紙Wが繰り出される。
このように繰り出された原紙Wは、次の積層パート32へ搬送される。
【0035】
〈積層パート〉
積層パート32には、外周の一部に二つの原紙Wが重畳して巻き回される積層ロールRPが設けられている。積層ロールRPで二つの原紙Wが重ね合わせられる。
このように重ね合わせられた原紙Wについては、外側を向く二面のうち一方を第一面F1(一方の原紙Wの表面FF)とし、他方を第二面F2(他方の原紙Wの表面FF)とする。
上記のように積層された原紙Wは、次のカレンダパート33へ搬送される。
【0036】
〈カレンダパート〉
カレンダパート33には、カレンダパート14と同様に、カレンダロールRL1,RL2が二組設けられ、原紙Wに対して二段階のカレンダ処理を施す。
このようにカレンダ処理された原紙Wは、次の係合パート35へ搬送される。
【0037】
〈係合パート〉
係合パート35には、原紙Wの一部を厚み方向に係合させる係合ロールRCが設けられている。係合ロールRCには、凸ロールRC1および受ロールRC2が設けられている。凸ロールRC1および受ロールRC2は、原紙Wの搬送速度に応じた速度で回転し、原紙Wを挟んで互いに対向して配置される。凸ロールRC1には、原紙Wのうち端縁に沿う箇所に対応して外周に凸部が設けられている。この凸部は、受ロールRC2の外周に突き当てられ、受け止められる。
【0038】
凸ロールRC1の凸部が原紙Wを介して受ロールRC2の外周に突き当てられることにより、原紙Wが厚み方向に交絡した状態となる。言い換えれば、原紙Wの二層が互いに噛み込んだ状態となり、二層構造の層どうしが一体的に係合する。
受ロールRC2の外周が金属製であり、凸ロールRC1の凸部が原紙Wに対して受ロールRC2側に突出しにくい構造が採用されている。そのため、係合パート35で係合処理された原紙Wは、凸ロールRC1側の一部(たとえば搬送方向に沿う線状の部位)が凹設され、受ロールRC2側はほぼ平坦状をなす。このような係合構造は、「クリンパ」や「コンタクタエンボス」とも称され、両面に凹凸をもつエンボスとは構造的に相異する。
上記のように係合処理された原紙Wは、次の裁断パート36へ搬送される。
【0039】
〈裁断パート〉
裁断パート36には、長手方向に沿って原紙Wを裁断するスリッタSが設けられている。スリッタSは、裁断箇所の幅方向位置に応じたさまざまな幅方向寸法に原紙Wを断裁することができる。たとえば、原紙Wに対して幅方向位置が調節可能に設けられた刃(カッタ)および刃受けロールがスリッタSに設けられる。
【0040】
裁断パート36では、原紙Wの裁断寸法が所定の幅方向寸法に設定されている。
「所定の幅方向寸法」とは、折畳機5(図4参照)に設置される原紙Wの幅方向寸法を意味する。この幅方向寸法としては、完成したティシュペーパのうち端辺(長辺または短辺)の寸法(すなわち製品幅)やこの整数倍の寸法などが挙げられる。
このような幅方向寸法に裁断された各原紙Wは、次の湿潤パート37へ搬送される。
【0041】
〈湿潤パート〉
湿潤パート37には、原紙Wを湿潤させる装置が設けられている。この湿潤装置として、ここでは(図3には)原紙Wの両面F1,F2に水を吹き付ける噴霧器A1,A2(マルチ湿潤部)を例示する。詳細には、原紙Wの第一面F1に水分を含有させる第一噴霧器A1と、原紙Wの第二面F2に水分を含有させる第二噴霧器A2とが設けられている。
湿潤パート37は、上記したように水を原紙Wに含有させて湿潤度合いを増加させることから、加湿パート(加湿部)とも言える。
このようにして含水した原紙Wは、次の第二巻取パート38へ搬送される。
【0042】
〈第二巻取パート〉
第二巻取パート38には、第一巻取パート15と同様に、原紙Wを巻き取る第二巻取ロールRW2が設けられている。第二巻取ロールRW2に帯状の原紙Wが巻き取られて第二原反ロールWR2が製造される。第二巻取パート38では、第一巻取パート15と同様に、原紙Wが引っ張られつつ巻き取られることから、第二テンションパート(第二テンション部)や第二張力印加パート(第二張力印加部)とも言える。なお、この第二原反ロールWR2についても、装置構造をなすロールとの混同を防ぐため、「第二原反WR2」と略称する。
【0043】
[1−3.折畳機]
図4を参照して、折畳機5の構成を詳述する。
折畳機5は、原紙Wを折り畳むインターフォルダである。折畳機5には、いわゆるマルチスタンド方式のインターフォルダ(「多連機」とも称される)が採用されており、製品状態で包装される枚数(ティシュ箱に収容される枚数)に応じた多数の第二原反WR2が設置される。
【0044】
折畳機5には、各第二原反WR2から原紙Wを繰り出す第二繰出パート50(第二繰出部)や原紙Wを折り畳む折畳パート54(折畳部)に加えて、第二繰出パート50で繰り出された後であって折畳パート54で折り畳まれる前の原紙Wに薬剤を塗布する塗布パート52(塗布部)が設けられている。折畳機5には、薬剤の塗布される前の原紙Wに凹凸(エンボス)を形成(付与)するエンボス形成パート51(エンボス形成部)が設けられている。折畳機5には、折畳パート54で折り畳まれた原紙Wを分断する分断パート56(分断部)および分断パート56で分断された原紙Wの包装パート58(包装部)も設けられている。
【0045】
一台の第二繰出パート50には、二つの第二原反WR2が設置(たとえば並設)される。製品状態で包装される二枚で一組のティシュを製造する場合には、第二繰出パート50に設置される二つの第二原反WR2はそれぞれ二層構造であることから、一つの第二原反WR2からは一組(二枚の原紙Wが重なっている状態)のティシュが製造される。つまり、一台の第二繰出パート50から二組のティシュが製造される。すなわち、製品状態で包装されるティシュ(一箱のティシュ)における総組数の半数と同台数の第二繰出パート50が設置される。
エンボス形成パート51,塗布パート52および折畳パート54は、第二繰出パート50と同様に、多数の箇所に設けられる。一方、分断パート56および包装パート58は、折畳機5の下流において一箇所に設けられる。
【0046】
以下、折畳機5の各パート50,51,52,54,56,58を製造工程順に説明する。
上流側のパート50,51,52,54については図4(A)を参照し、下流側のパート56,58については図4(B)を参照して詳述する。
【0047】
〈第二繰出パート〉
第二繰出パート50では、第二原反WR2が設置された第二繰出ロールRU2が設けられ、第二繰出ロールRU2の第二原反WR2から原紙Wが繰り出される。
このように繰り出された原紙Wは、次のエンボス形成パート51へ搬送(導出)される。
【0048】
〈エンボス形成パート〉
エンボス形成パート51は、所定の幅方向寸法に裁断された原紙Wに凹凸を形成する(このことからエンボス形成パート51は「裁断後エンボス形成部」とも言える)。
エンボス形成パート51には、原紙Wに凹凸を形成する一対のエンボスロールREが原紙Wを挟んで互いに対向して配置されている。エンボスロールREの周面には、原紙Wに形成される凹凸に対応する凸凹が刻設されている。
エンボス形成パート51では、エンボスロールREの凸凹が原紙Wに押し付けられて、原紙Wに凹凸が形成される。
【0049】
エンボス形成パート51では、両面エンボス方式が採用され、第一面F1に凹凸を形成する第一エンボスロールRE1と、第二面F2に凹凸を形成する第二エンボスロールRE2とが設けられる。図4(A)に例示するように、原紙Wに凹凸が形成される箇所(エンボスロールRE1,RE2のニップ箇所)において、第一エンボスロールRE1の凸凹と第二エンボスロールRE2の凸凹とが互い違いに原紙Wを押し付ける両面エンボス方式が用いられている。
【0050】
ただし、エンボスロールの凸凹のうち凸部どうしが突き合せられる両面エンボス方式を用いてもよく、一方のエンボスロールのみが凸凹をもつ片面エンボス方式を用いてもよい。片面エンボス方式では、他方のエンボスロールにゴムロールが用いられ、原紙の凹凸形成面とは反対の面にも凹凸が形成される。
エンボス形成パート51は、原紙Wに凹凸を形成してエンボスを付与することから、エンボス付与パート(エンボス付与部)とも言える。
上記したように凹凸が形成された原紙Wは、次の塗布パート52へ搬送される。
【0051】
〈塗布パート〉
塗布パート52では、原紙Wに薬剤が塗布される。
この薬剤としては、保湿剤や芳香剤をはじめ、医療成分,清涼剤,顔料といったさまざまな液剤が挙げられる。たとえば、原紙Wの保湿機能を高める機能性の薬剤として、グリセリンやソルビトールが水溶した保湿液(薬剤)が用いられる。
【0052】
塗布パート52には、原紙Wの両面F1,F2をそれぞれ塗工する二つの塗布パート52A,52B(マルチ塗布部)が設けられている。原紙Wの第一面F1は、第一塗布パート52A(第一塗布部)によって塗工される。原紙Wの第二面F2は、第二塗布パート52B(第二塗布部)によって塗工される。
塗布パート52A,52Bでは、原紙Wに対する薬剤の塗布方向が同方向に設定される。言い換えれば、塗布パート52A,52Bは、所定方向から薬剤を原紙Wに塗布する。ここでは、薬剤塗布に関する所定方向として鉛直方向下側からとしたもの(すなわち下方からの薬剤の塗工)を例示する。
【0053】
塗布パート52には原紙Wの向きを反転させる反転ローラRR1,RR2(面返し部)が設けられ、このように塗布パート52A,52Bのそれぞれで両面F1,F2に対する塗布方向が下方(一方向)を向き、上記した塗布を可能としている。
表裏反転ローラRR1は第二繰出パート50と第一塗布パート52Aとの間に配置され、裏表反転ローラRR2は第一塗布パート52Aと第二塗布パート52Bとの間に配置される。
図4(A)には、二つの表裏反転ローラRR1および二つの裏表反転ローラRR2を例示する。ただし、反転ローラRR1,RR2の設置数は、原紙Wの搬送経路や周囲の構成,要求仕様などに応じて設定すればよく、単数であっても三つ以上の複数であってもよい。
【0054】
反転ローラRR1,RR2は、下記のように原紙Wの向きを反転させる。
表裏反転ローラRR1に進入する直前の原紙Wは、第一面F1が上方を向き、第二面F2が下方を向いている。つづいて、表裏反転ローラRR1によって両面F1,F2の向きが反転し、第一面F1が下方を向くとともに第二面F2が上方を向き、第一塗布パート52Aで下方から第一面F1に薬剤が塗布される。その後、裏表反転ローラRR2によって再び両面F1,F2の向きが反転し、第一面F1が上方を向くとともに第二面F2が下方を向き、第二塗布パート52Bで下方から第二面F2に薬剤が塗布される。
【0055】
かかる塗布パート52の詳細については後述する。
上記したように薬剤が塗布された原紙Wは、次の折畳パート54へ搬送される。
【0056】
〈折畳パート〉
折畳パート54には、折畳機構として折板Pを用いて原紙Wを折り畳む機構(折板式、原紙Wの折畳形態はポップアップ方式)が採用されている。
折畳パート54には、原紙Wを折り畳む折板Pのほか、原紙Wの幅方向に交差して配置された傾斜ロールCRI1,CRI2や一組の原紙W,Wどうしを離間させる離間ロールCRS1,CRS2といった種々の搬送ロールが設けられている。
【0057】
折畳パート54は、第一面F1が外側の状態であって第二面F2が内側の状態で原紙Wを折り畳み、折板Pによる折り目を原紙Wの搬送方向に沿って形成する。
上記したように折り畳まれた原紙Wは、並設された他の第二繰出パート50,エンボス形成パート51,塗布パート52および折畳パート54を経て折り畳まれた原紙Wと積み重ねられ、搬送ベルトBIによって、次の分断パート56へ搬送される。
【0058】
〈分断パート〉
分断パート56には、幅方向に沿って原紙Wを裁断するカッタCが設けられている。このように裁断された原紙Wは、長手方向に亘る連続が分断される。このように分断されることで、原紙Wに対して印加されていた搬送方向に沿う張力が解除される。このことから、薬剤が塗布された原紙Wは、巻き取られずに、積層され、折り畳まれるものと言える。
第一パートP1の第一巻取パート15,第二パートP2(パート30,32,33,35,36,38)第二運搬パートP23,第三パートP3の第二繰出パート50などの分断パート56よりも上流側は、原紙Wに印加された張力が保持されることから、張力保持パート(張力保持部)とも言える。
【0059】
カッタCは、裁断タイミング(ここでは上下動の制御間隔)に応じてさまざまな搬送方向寸法に原紙Wを断裁することができる。たとえば、カッタCの裁断間隔が長いほど、裁断後に原紙Wが搬送される距離が延びることから、搬送方向寸法の長い原紙Wが切り分けられる。
分断パート56は、上述した裁断パート36の下流で原紙Wを裁断することから、第二裁断パートとも言える。逆に、裁断パート36は、第一裁断パートとも言える。
【0060】
原紙Wの裁断寸法は、所定の搬送方向寸法に設定されている。
「所定の搬送方向寸法」とは、完成したティシュペーパのうち、上述した所定の幅方向寸法に裁断された端辺に対して直交する端辺の寸法を意味する。具体的に言えば、ティシュペーパのうち、ティシュ箱の長手方向に沿う端辺の長さとして設定された寸法が、所定の搬送方向寸法に設定される。
このように分断パート56で分断された原紙W(枚葉状の衛生用品)は、包装前のティシュペーパであり、次の包装パート58へ搬送される。
【0061】
〈包装パート〉
包装パート58では、分断パート56で分断された原紙Wを包装用のカートン59(ティシュ箱)に収容する。
このように包装が完了すると、箱入りのティシュペーパが完成する。
【0062】
〈塗布パートの詳細〉
塗布パート52の詳細構成を説明する。
図4(A)に示すように、各塗布パート52A,52Bにはそれぞれ、被塗工シートである原紙Wを搬送する反転ローラRR1,RR2を備えた搬送部520Mに加えて、液状の薬剤を圧送し下流側に供給する塗工剤供給部551と、塗工剤供給部551の下流に供給路553を介して接続され、原紙Wに塗工剤である薬剤を塗布するリップヘッド552とを備えた塗工装置550が装備されている。本実施形態の塗工装置550は、原紙Wとリップヘッド552との間に、円筒状の中空ロール554が介装されている。
【0063】
塗工剤供給部551は、詳細構成は図示しないが、塗工剤としての薬剤Cを貯留しるタンクと、タンク内の薬剤Cを圧送するポンプとを備えており、リップヘッド552に薬剤Cを供給する。薬剤Cは液体であるが、液体を泡(foam)の状態にした泡状薬剤であってもよい。
【0064】
図7図9に示すように、リップヘッド552は、ほぼ均一断面の細長い部材であり、塗工剤供給部551から薬剤Cが供給される流路(マニホールド)552bと、流路552b内の薬剤Cを吐出するスリット552aとを有している。流路552bおよびスリット552aは長手方向に延設され、リップヘッド552は、スリット552aが、搬送され移動する原紙Wの対向面に接近した位置を向くように、非回転状態で配設されている。
【0065】
スリット552aの開口幅は図示しない調整機構によって可変に構成されている。たとえば、スリット552aの一縁を構成するリップ片552cはスリット552aの他縁を構成するリップ片552dに対して離隔する方向あるいは接近する方向に可動に構成されて、可動リップ片552cを駆動することで開口幅を可変に構成できる。
なお、図7図9では、スリット552aの開口幅を便宜上大きく記載しているが、この開口幅は図示よりも微小に設定されている。開口幅は薬剤Cの粘性等に応じて、粘性が低いほど微小に設定される。
【0066】
中空ロール554は、中空内部554hと、中空内部554hの周面(内周面)と中空ロール554のロール周面(外周面)554cとを連通する多数の微細孔(連通孔)554aとを有している。中空ロール554は、リップヘッド552の外側にリップヘッド552の長手方向に沿って、即ち、原紙Wの搬送方向に対して交差する(ここでは、直交する)ように回転軸の方向が配向されて設置される。
【0067】
中空ロール554は、その円筒状のロール周面554cの一部が原紙Wの搬送経路に僅かに進入するように配置され、原紙Wと接触する接触面として機能する。中空ロール554は、図示しない駆動装置によってロール周面554cの周速が原紙Wの搬送速度に応じた速度になるように回転駆動される。このときのロール周面554cの周速度は原紙Wの搬送速度と一致させてもよいが、厳密に一致させる必要はない。
リップヘッド552のスリット552aから吐出された薬剤Cは、微細孔554aからロール周面554cに送給されるので、搬送経路を搬送されてロール周面554cに接触する原紙Wの対向面にロール周面554cから転写塗布されるようになっている。
【0068】
このように、原紙Wとリップヘッド552との間に中空ロール554を介装しているのは、リップヘッド552を原紙Wの対向面に接触させてスリット552aから吐出された薬剤Cを直接原紙Wに塗布すると、搬送されて移動する原紙Wに対してリップヘッド552は移動しないため、原紙Wの対向面がリップヘッド552と摺接することになり、原紙Wの対向面がリップヘッド552との摩擦で傷付くおそれを回避するためである。したがって、リップヘッド552の原紙Wの対向面との接触面が滑らかであって、摺接しても原紙Wの面が傷付くおそれがなければ、中空ロール554を省略しリップヘッド552を原紙Wに直接接触させてもよい。
【0069】
[2.製造方法]
上述した製造装置を用いてティシュペーパを製造する方法を述べる。
本方法では、図5に示すように、はじめに、抄紙機1の製法に対応する第一工程(ステップS10およびS15)が実施される。それから、抄紙機1で巻き取られた第一原反WR1を積層機3へ運搬する第一運搬工程(ステップS20)が実施される。
その後、積層機3の製法に対応する第二工程(ステップS30〜S38)が実施される。それから、積層機3で巻き取られた第二原反WR2を折畳機5へ運搬する第二運搬工程(ステップS40)が実施される。
このように、第一工程,第二工程および第三工程の工程間には、原反WR1,WR2を移動させる運搬工程が実施される。
そして、折畳機5の製法に対応する第三工程(ステップS50〜S58)が実施される。
【0070】
第一工程では、抄紙パート10の製法に対応する抄造工程(ステップS10)が実施される。この抄造工程では、原料のスラリーから湿った状態の原紙Wを乾燥させ、原紙Wにクレープが付与される。
そして、第一巻取パート15で原紙Wを巻き取る第一巻取工程(ステップS15)が実施される。この第一巻取工程は、第一巻取パート15の別称に倣って、第一テンション工程や第一張力印加工程とも言える。
【0071】
第二工程では、第一繰出パート30で原紙Wを繰り出す第一繰出工程(ステップS30)が実施される。つづいて、積層パート32で原紙Wを重ね合わせる積層工程(ステップS32)が実施される。
それから、カレンダパート33で原紙Wをカレンダ処理した後に、係合パート35で原紙Wどうしを係合する係合工程(ステップS35)が実施される。その後、裁断パート35で原紙Wを所定の幅方向寸法に裁断する裁断工程(ステップS36)が実施される。
【0072】
それから、裁断された原紙Wを湿潤させる湿潤工程(ステップS37)が実施される。湿潤工程は、原紙Wの両面F1,F2に水分を含有させる。また、湿潤パート37の別称に倣って、湿潤工程を加湿工程とも言える。
そして、第二巻取パート20で二層構造の原紙Wを巻き取る第二巻取工程(ステップS38)が実施される。第二巻取工程は、第二巻取パート38の別称に倣って、「第二テンション工程」や「第二張力印加工程」とも言える。
【0073】
第三工程では、第二繰出パート50で原紙Wを繰り出す第二繰出工程(ステップS50)が実施される。その後、エンボスロールREで原紙Wに凹凸を形成するエンボス形成工程(ステップS51)が実施される。このエンボス形成工程は、所定の幅方向寸法に裁断された原紙Wに凹凸を形成することから、「裁断後エンボス形成工程」とも言える。また、エンボス形成工程は、原紙Wに凹凸を形成してエンボスを付与することから、「エンボス付与工程」とも言える。
【0074】
それから、塗布パート52で原紙Wに薬剤を塗布する塗布工程(ステップS52)が実施される。詳細には、原紙Wの両面F1,F2に薬剤を塗布するマルチ塗布工程(ステップS52)が実施される。
このマルチ塗布工程では、まず、表裏反転ローラRR1で原紙Wの向き反転させる第一面返し工程(ステップS522)が実施される。それから、第一塗布パート52Aで原紙Wの第一面F1に薬剤を塗布する第一塗布工程(ステップS524)が実施される。
【0075】
その後、裏表反転ローラRR2で原紙Wの向きを再び反転させる第二面返し工程(ステップS526)が実施される。そして、第二塗布パート52Bで原紙Wの第二面F2に薬剤を塗布する第二塗布工程(ステップS528)が実施される。
なお、第一面返し工程および第二面返し工程は、薬剤を塗布する面を変更することから、面変更工程とも言える。
【0076】
つづいて、折畳パート54で原紙Wを折り畳む折畳工程(ステップS54)が実施される。
その後、分断パート56で折り畳まれた原紙Wを所定の搬送方向寸法に分断する分断工程(ステップS56)が実施される。
このようにして、薬剤が塗布された原紙Wを巻き取ることなく、原紙Wの折り畳みや積層を実施する。
【0077】
そして、原紙W(ティシュペーパ)をカートン59に包装する。
このような手順でティシュペーパが製造される。
【0078】
[3.作用および効果]
[3−1.塗工装置]
本実施形態で開示する塗工装置540は、上述のように構成されるため、以下のような作用および効果を得ることができる。
【0079】
リップヘッド552を用いたリップ塗工によって、極めて幅狭に形成されたスリット552aから一定以上の吐出圧で押し出しながら薬剤Cを原紙Wに塗布するので、薬剤Cの塗布量を抑えられ、薬剤Cの過剰な塗布を回避することができる。
したがって、特に装置を大型化することなく、省スペース化を図りながら塗布量の調整を容易に行なうことができる。
【0080】
スリット552aの開口幅が可変に構成されているので、スリット552aの開口幅を調整することで、塗布量を容易に調整することができる。
なお、塗工剤供給部551に、薬剤Cの供給量を調整する供給量調整部を装備して、塗布量の調整を行なうこともできる。
スリット552aの開口幅の調整に替えて薬剤Cの供給量を調整するようにしてもよく、スリット552aの開口幅の調整に加えて薬剤Cの供給量を調整するようにしてもよい。
【0081】
特に、原紙Wの種類や製造状況によって、原紙Wの搬送速度を変更する場合があり、搬送速度に応じて薬剤Cの必要な供給量が変化するが、この場合にも、必要な供給量に対応した供給量への調整を容易に実施することができる。
【0082】
薬剤Cを原紙Wに下方から塗布するので、原紙Wへの薬剤Cの過剰な塗布が抑えられる。したがって、塗布量を容易に調整することができる。
なお、薬剤Cの性状によっては滴下するおそれが極めて少ないものも想定できるので、この場合には、薬剤Cを原紙Wに下方から塗布するのに替えて或いは加えて、薬剤Cを原紙Wに上方から塗布してもよい。薬剤Cを原紙Wの上下両方から塗布する場合、原紙Wの上下両方から同時に、あるいは、搬送方向にずらして薬剤Cを原紙Wに塗布することができ、原紙Wの反転操作が不要になる。
【0083】
リップヘッド552と原紙Wとの間には、原紙Wの搬送速度に沿った周速度で回転する中空ロール554が介装され、リップヘッド552のスリット552aから吐出された薬剤Cは、原紙Wと同様に移動しながら原紙Wと接触する中空ロール554のロール周面554cから原紙Wの対向面FまたはFに塗布されるので、原紙Wの対向面がリップヘッド552との直接接触による摩擦で傷付くおそれを回避することができる。
【0084】
本実施形態では、リップヘッド552と原紙Wとの間には、原紙Wの搬送速度に沿った周速度で回転する中空ロール554を介装しているが、リップヘッド552と原紙Wとの間には、原紙Wの搬送速度に応じて移動しながら原紙Wに接触する接触面を有する部材(接触部材)であればよく、たとえば抄紙機に装備される透液性のワイヤ(網)に相当するものでもよい。
【0085】
本実施形態では、リップヘッド552の外周は、リップ片552c、552dの先端付近では中空ロール554の内周面に沿った円筒面上に形成されているが、図10に示すように、リップヘッド562の外周を、スリット562aを除いた全周を円筒状に形成してもよい。つまり、リップヘッド562を、ロール体によって構成し、ロール体562には、軸方向に延在し薬剤Cが流通する流路562bと、軸方向に延在し流路と連通して薬剤Cを吐出するスリット562aとを形成する。この場合、リップヘッド562の円筒状の外周面が、中空ロール554の円筒状の内周面に摺接して中空ロール554を支持するように構成することができる。
【0086】
[3−2.製造装置]
本実施形態で開示するティシュペーパの製造方法および製造装置は、上述のように構成されるため、以下のような作用および効果を得ることができる。
【0087】
以下、主に製法に関する作用および効果を述べる。
(1)
積層機において原紙に薬剤を塗布する従来製法では、薬剤塗布から原紙の分断や包装までに巻取工程や繰出工程をはじめとした多数の工程が実施される。
【0088】
これに対し、本製法では、積層機3よりも下流の折畳機5で原紙Wに薬剤を塗布する。そのため、原紙Wに薬剤が塗布されてから包装されるまでの工程数は、巻取工程や繰出工程が設定されていないことから、上記した従来製法の工程数よりも抑えられる。
よって、原紙Wが湿潤した状態かつ張力が印加された状態の期間が抑えられる。このようにして、原紙Wが伸びやすい期間が短縮される。そのため、原紙Wの厚み低下を抑えることができる。したがって、ティシュペーパの厚みを確保することができ、触感や風合いを高めることもできる。このように、ティシュペーパの品質を高めることができる。
【0089】
ところで、所定の幅方向寸法に裁断される前の原紙に薬剤を塗布する従来製法では、一種の薬剤を用いる限り、裁断された原紙のそれぞれに異なる薬剤を塗布することは困難である。仮に、原紙において裁断される各幅方向領域に薬剤を塗り分ければ、裁断後の原紙にそれぞれ異なる薬剤が塗布されるものの、薬剤を塗布する機構の複雑化を招く。
これに対し、本製法では、所定の幅方向寸法への裁断後に薬剤を原紙Wに塗布する。そのため、折畳機5ごとに種々の薬剤を使い分ければ、簡素な構成でティシュペーパにさまざまな機能をもたせることができる。
【0090】
折畳機5は様々な装置が複雑に入り組んで構成されるため、上述したように折畳機5で薬剤を塗布する場合、新たな装置を設置するためのスペースを確保することが難しい。これに対し、塗布工程で上述した塗工装置550を適用すれば、省スペース化を図ることができるため、折畳機5に対する組み込みを容易にすることができる。したがって、たとえば既存の折畳機に対しても、大幅な設計変更をすることなく塗工装置520を組み込むことが可能である。
【0091】
ここで、原紙Wが湿潤した際の物性を述べる。
原紙Wが湿潤すると、クレープをなす縮緬状の皺が解され、水素結合力(分子間力)に低下によって繊維の交絡が弱まる。すなわち、原紙Wは、水分が浸透するにつれて徐々に伸びやすくなる物性をもつ。薬剤の水分が原紙Wに浸透することによっても、上記のように原紙Wが経時的に伸張しやすくなる状態が引き起こされる。
【0092】
このように湿潤して伸張しやすい状態が分断工程で所定の搬送方向寸法に裁断された後、すなわち、搬送方向の張力が解除された後にも継続している場合には、原紙Wの伸張が張力で吸収あるいは解消されず、皺やヨレの発生を招くおそれがある。特に、塗布工程から分断工程までは、折畳工程が実施されるだけの短期間であることから、薬剤塗布による原紙Wの湿潤が皺やヨレの発生を引き起こしやすい。
【0093】
これに対し、本製法では、薬剤を塗布する前の原紙Wを湿潤させる湿潤工程が設定される。この湿潤工程によって薬剤が塗布される前の原紙Wを伸張しやすい状態としたうえで、この状態の原紙Wに印加される搬送方向の張力で予め伸張させることができる。そのため、原紙Wに対する皺やヨレの発生を抑えることができる。よって、ティシュペーパの品質を高めることができる。
(2)本製法では、原紙Wに対して両面F1,F2を湿潤させるため、薬剤の塗布される原紙Wを予め確実に伸張させることができる。そのため、原紙Wに対する皺やヨレの発生を確実に抑えることができる。
【0094】
(3)上記したように、本製法の塗布工程には、原紙Wの両面F1,F2に薬剤を塗布するマルチ塗布工程が設定されることから、原紙Wに対する薬剤の塗布量を確保することができる。よって、ティシュペーパに対して付加する機能を高めることができる。
マルチ塗布工程で両面F1,F2のそれぞれを塗工する第一塗布工程および第二塗布工程の間には、第二面返し工程が設定される。そのため、原紙Wに対する薬剤の塗布方向が一方向に限定された塗工方式を採用することができる。具体的には、下方から塗工する方式を第一塗布工程および第二塗布工程の双方に適用することができる。
【0095】
(4)仮に、重ね合わせられた原紙の片面だけに薬剤が塗布された場合や片面だけが湿潤させられた場合には、層どうしの伸張度合いの相異によって、原紙に皺やヨレを招くおそれがある。原紙の層どうしが係合されている場合には、更に大きな皺やヨレの発生が憂慮される。
これに対し、本製法では、係合処理された原紙Wの両面F1,F2に対して、湿潤工程で湿潤処理が実施され、塗布工程で塗布処理が実施されることから、皺やヨレの発生を抑えることができる。この点からも、ティシュペーパの品質を確保することができる。
【0096】
(5)抄造工程においてクレープが付与される原紙Wは、塗布工程の薬剤塗布による湿潤によって、クレープをなす縮緬状の皺が解される。このように伸張しやすい前提構造をもつ原紙Wに対して上述したように薬剤塗布およびエンボス形成を施すことにより、原紙Wの皺やヨレの発生を抑えることができる。
【0097】
(6)本製法では、原紙Wに対して薬剤を塗布する前にエンボス形成工程で凹凸が形成され、この凹凸によって原紙Wにおける繊維どうしの交絡が強化される。すなわち、薬剤塗布によって繊維どうしの交絡が弱化する原紙Wに対して、その交絡が前以って強化される。よって、原紙Wに対する皺やヨレの発生を抑えることができる。また、エンボス形成工程で形成される凹凸で原紙Wが予め厚み方向に伸ばされることによって、皺やヨレの発生を抑えることができる。よって、ティシュペーパの品質を高めることができる。
【0098】
本製法では、所定の幅方向寸法への裁断後に凹凸を原紙Wに形成する。そのため、折畳機5ごとに種々の凸凹パターンをもつエンボスロールを使い分ければ、簡素な構成でティシュペーパにさまざまな凹凸パターンを形成することができる。
(7)本製造装置によっても、上述した作用および効果を得ることができる。
【0099】
[II.第2実施形態]
次に、第2実施形態を説明する。
本実施形態では、図11に示すように、塗工装置570のリップヘッド572と原紙Wとの間に転写ロール574が介装されており、転写ロール574が、原紙Wの搬送速度に応じた周速度で回転しながらリップヘッド572から吐出された薬剤Cを原紙Wに転写する。この点を除いて、第1実施形態と同様に構成される。
【0100】
つまり、搬送経路に沿って搬送される原紙Wの下方に、転写ロール574が配置されている。転写ロール574はその円筒状のロール周面(外周面)574cの一部が原紙Wの搬送経路に僅かに進入するように配置され、原紙Wと接触する接触面として機能する。転写ロール574は、図示しない駆動装置によってロール周面574cの周速が原紙Wの搬送速度に応じた速度になるように回転駆動される。このときのロール周面574cの周速度は原紙Wの搬送速度と一致させてもよいが、厳密に一致させる必要はない。
【0101】
転写ロール574の下方には、リップヘッド572が装備される。
リップヘッド572は、第1実施形態のリップヘッド552と同様、ほぼ均一断面の細長い部材であり、塗工剤供給部551から薬剤Cが供給される流路(マニホールド)572bと、流路572b内の薬剤Cを吐出するリップ状のスリット572aとを有している。流路572bおよびスリット572aは長手方向に延設されている。リップヘッド572は、スリット572aが、転写ロール574に接近した位置を向くように配置されており、スリット572aから吐出された薬剤Cが転写ロール574のロール周面574cに供給される。
【0102】
なお、図7図9と同様に、図11でも、スリット572aの開口幅を便宜上大きく記載しているが、この開口幅は図示よりも微小に設定されている。開口幅は薬剤Cの粘性等に応じて、粘性が低いほど微小に設定される。
リップヘッド572においても、リップヘッド552のようにスリット572aの開口幅を可変に構成してもよい。
【0103】
本実施形態では、転写ロール574のロール周面574cに吐出された薬剤Cの供給量(厚み)を、原紙Wに転写する直前に調整するドクター(塗工量調整部)575を備えている。なお、ドクター575はその先端で転写ロール574のロール周面574cの薬剤Cを掻き取る。これにより、薬剤Cの過剰な塗布を回避することができるようになっている。
【0104】
転写ロール574のロール周面574cには薬剤Cを保持しうる構成が付与されている。本実施形態の転写ロール574のロール周面574cでは、図示しない多数の微細な凹部が設けられている。多数の微細な凹部がリップヘッド552から供給された薬剤Cを保持するため、リップヘッド552から転写ロール574のロール周面574cへの薬剤Cの供給を安定させることができる。多数の微細な凹部を設ける替わりに、あるいは凹部を設けるのに加えて、転写ロール574のロール周面574cをゴム材により形成するようにしてもよい。
【0105】
以上の構成によって、本実施形態では、薬剤Cをリップヘッド552から転写ロール574に供給したうえで、転写ロール574から原紙Wに転写するので、原紙Wへの薬剤Cの塗布量を安定させることができる。
【0106】
つまり、転写ロール574のロール周面574cには、リップヘッド552から吐出された薬剤Cを保持しうる構成を付与できるので、これによって、供給された薬剤Cをロール周面574cに確実に保持することができる。
本実施形態の転写ロール574のロール周面574cでは、図示しない多数の微細な凹部が設けられているので、微細な凹部内に薬剤Cが保持される。
転写ロール574のロール周面574cをゴム材により形成しても、ゴム材の持つ吸着性によってロール周面574cに薬剤Cが保持される。
【0107】
本実施形態においても、スリット572aの開口幅を可変に構成したり、塗工剤供給部551に、薬剤Cの供給量を調整する供給量調整部を装備したりして、これらの一方または両方によって塗布量の調整を行なうようにすることもできる。
【0108】
[III.その他]
最後に、その他の変形例について述べる。
【0109】
以下、抄造体を製造する装置および方法に係る変形例について詳述する。
第二工程の湿潤工程は、原紙に薬剤が塗布される前であれば、所定の幅方向寸法に原紙が裁断される前や二層に原紙が係合される前に設定されてもよい。湿潤工程は、第二工程に限らず、第一工程や第三工程に設定されてもよい。第三工程において第二繰出工程後に湿潤工程が設定されてもよいし、第一工程において第一巻取工程前に湿潤工程が設定されてもよい。
上記した種々の湿潤工程のうち二つに、第一噴霧器A1および第二噴霧器A2を分離して配置してもよい。すなわち、原紙の第一面を湿潤させる工程と原紙の第二面を湿潤させる工程とを独立して設定してもよく、これらの工程を別個に設定してもよい。
【0110】
第一噴霧器A1および第二噴霧器A2の何れか一方を省略し、第一塗布パート52Aおよび第二塗布パート52Bの何れか他方を省略してもよい。すなわち、原紙の両面のうち一方を湿潤工程(片面湿潤工程)や湿潤部(片面湿潤部)で湿潤させ、原紙の両面のうち他方を塗布工程(片面塗布工程)や塗布部(片面塗布部)に薬剤を塗布してもよい。このように湿潤工程および塗布工程に分担させて原紙の両面を湿潤させることにより、原紙のうち一方の面だけに湿潤処理や薬剤塗布を施す製法と比べて、皺やヨレの発生を抑えることができる。
【0111】
エンボス形成工程は、原紙に薬剤が塗布された後に設定されてもよい。この場合には、薬剤塗布によって繊維の交絡が弱化した原紙Wに対して、エンボス形成工程で凹凸が形成される。この凹凸によって原紙Wにおける繊維どうしの交絡が強化される。そのため、原紙Wに対する皺やヨレの発生を抑えることができる。さらに、凹凸が形成される原紙Wの繊維交絡が弱化した状態であることから、塗布工程後に実施されるエンボス形成工程によれば、凹凸を明瞭に形成することができる。これにより、原紙Wの見栄えや原紙Wによる拭取性を高めることもできる。
エンボス形成工程前の塗布工程で上述した塗工装置550,570を適用すれば、原紙に対する薬剤の塗布量が安定化することで、エンボス形成工程前にも皺やヨレの発生が抑えられるため、エンボス形成工程でより適切に凹凸を形成することができる。
【0112】
反対に、エンボス形成工程は、原紙に薬剤が塗布される前に設定されてもよい。たとえば、積層機において重ね合わせられた原紙に凹凸を形成してから裁断してもよい。このようなエンボス形成工程やエンボス形成部は、所定の幅方向寸法に裁断される前の原紙に凹凸を形成することから、裁断前エンボス形成工程(裁断前エンボス付与工程)や裁断前エンボス形成部(裁断前エンボス付与部)とも言えるあるいは、抄紙機において、乾燥後の原紙に凹凸を形成し、その後に巻き取ってもよい。これらの場合には、上述した多数のエンボス形成パートに対して、一つのエンボス形成パートを設ければよいため、装置コストの低減や製造効率の向上に寄与する。
【0113】
薬剤の両面塗布に際して原紙を反転させる形態は、鉛直平面に直交する向きのままで原紙が反転する形態に限らず、原紙が種々の姿勢に変化する形態であってもよい。たとえば、幅方向に対して傾斜配置された反転ローラを用いて、原紙を捻るように反転させてもよい。
原紙は三層(3プライ)以上に重ね合わせられてもよい。反対に、積層工程を省略して一層のティシュペーパを製造してもよい。この場合には係合工程も省略される。
【0114】
原紙に薬剤を塗布する塗布工程が裁断工程後に設定されていれば、抄造工程および湿潤工程を除く他の工程は省略してもよい。たとえば、第二塗布工程を省略して片面塗工のティシュペーパを製造してもよい。この場合には、面返し工程も省略される。さらに、巻取工程,運搬工程,繰出工程を省略して、連続的にティシュペーパを製造してもよい。このようなインライン製法によれば、ティシュペーパの生産効率を高めることができる。
【0115】
ワイヤパートには長網式,円網式といった他の方式を用いてもよく、ドライヤパートには多筒式(シリンダドライヤ)ロールを用いてもよい。
あるいは、図6に示すように、ロータリ式のインターフォルダを折畳機5′に用いてもよい。この折畳機5′では、一組の原紙W′,W′が折り畳まれて積み重ねられ、原紙W′の幅方向に沿う折り目が形成される。このように一組の原紙W′,W′が設置される折畳機5′によれば、上述したマルチスタンド方式の折畳機5と比べて、塗布部の設置数を抑えることができ、装置コストを低減させることができる。
【符号の説明】
【0116】
1 抄紙機
3 積層機
5,5′ 折畳機
10 抄紙パート(抄造部)
15 第一巻取パート(第一巻取部)
30 第一繰出パート(第一繰出部)
32 積層パート(積層部)
35 係合パート(係合部)
36 裁断パート(裁断部)
37 湿潤パート(湿潤部)
38 第二巻取パート(第二巻取部)
50 第二繰出パート(第二繰出部)
51 エンボス形成パート(エンボス形成部)
52 塗布パート(塗布部)
52A 第一塗布パート(第一塗布部)
52B 第二塗布パート(第二塗布部)
54 折畳パート(折畳部)
56 分断パート(分断部)
520M 搬送部
550,570 塗工装置
551 塗工剤供給部
552,572 リップヘッド
552a,552a スリット
552c,552d リップ片
554 中空ロール
554h 中空内部
554c ロール周面(外周面)
554a 微細孔(連通孔)
薬剤
574 転写ロール
574c ロール周面(外周面)
575 ドクター(塗工量調整部)
1,A2 噴霧器
C カッタ
D ドクターブレード
G1 ドクターブレード
G2 ドクターブレード
F 表面
B 裏面
1 第一面
2 第二面
1 第一パート
2 第二パート
3 第三パート
12 第一運搬パート
23 第二運搬パート
C 係合ロール
D 乾燥ロール
E エンボスロール
E1 第一エンボスロール
E2 第二エンボスロール
O1 オフセットロール
P 積層ロール
R1 表裏反転ローラ
R2 裏表反転ローラ
T フォーミングロール
U1,RU2 繰出ロール
W1,RW2 巻取ロール
S スリッタ
W,W′ 原紙(抄造体)
R1 第一原反(ロール)
R2 第二原反(ロール)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11