(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一処理部は、前記測定領域に設定した平面座標系において前記対象位置を特定すると共に、演算により前記二部材のヘルツ接触に基づいて求められた接触形状の範囲内を前記弾性流体潤滑膜領域の範囲内とみなすことによって、前記対象位置それぞれが前記弾性流体潤滑膜領域の範囲内であるか範囲外であるかを判定する、請求項1に記載の測定装置。
前記演算装置は、更に、前記超音波プローブの音圧分布の情報として、当該超音波プローブから出力される超音波の測定結果から求められた音圧分布の近似式を、記憶している記憶部を有し、
前記第二処理部は、前記近似式から前記複数の対象位置それぞれにおける音圧を取得する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔1.測定装置の全体構成〕
図1は、本発明の測定装置、及び測定対象となる二部材のモデルの一例を示す説明図である。本発明の測定装置は、潤滑油(潤滑油又はグリース)を介して接触する二部材間の弾性流体潤滑膜領域における油膜厚さを、超音波を利用して求めるための装置である。
図1に示す本実施形態では、前記二部材の内の一方(第一部材)が鋼板31であり、他方(第二部材)が鋼球32である。鋼板31と鋼球32とは所定の接触荷重で接触(点接触)しており、また、鋼板31は中心線J1回りに回転している。この鋼板31に対して鋼球32は転がり接触し、定位置において中心線J1に直交する中心線J2回りに回転する。前記接触荷重により、鋼板31と鋼球32との間には面圧が生じており、これら鋼板31と鋼球32との間には弾性流体潤滑(Elasto−Hydrodynamic Lubrication)による油膜33が形成されている。そこで、測定装置10は、動的な条件における前記弾性流体潤滑膜の領域K1(以下、EHL膜領域K1という)の油膜厚さ(中心油膜厚さ)を、超音波を利用して求める。
【0018】
測定装置10は、超音波プローブ13及び検出器本体14を有する超音波測定器(超音波探傷器)12と、演算装置11とを備えている。
図2は、接触する鋼板31と鋼球32の一部(接触部)、及び、超音波プローブ13(
図1参照)から出力される超音波の音圧分布Pを示す説明図である。鋼板31において、鋼球32が接触する面(接触面)31aは平面であり、鋼球32の半径Rは既知である。このように、測定の対象となる二部材(鋼板31及び鋼球32)は幾何形状が既知である。また、前記接触荷重も一定の値にある。
【0019】
EHL膜領域K1の範囲(大きさ、形状)は、鋼板31及び鋼球32の仕様や接触荷重等の条件を基にして、ヘルツの弾性接触理論により計算することができる。このヘルツの弾性接触理論に基づいて算出された鋼板31と鋼球32との接触面(接触円)の範囲が、EHL膜領域K1の範囲となる。なお、前記接触荷重が大きくなると、EHL膜領域K1は広くなり、前記接触荷重が小さくなると、EHL膜領域K1は狭くなる。
【0020】
ここで、鋼板31の接触面31aに沿った面を基準平面Qと定義する。なお、仮に接触面31aが曲面である場合、基準平面Qは、その接触面31aと鋼球32との接点において接する平面と定義できる。そして、この基準平面Qにおいて、
図3に示すように、X軸方向とY軸方向とによる(仮想の)平面直交座標が設定される。この平面直交座標の原点は、EHL膜領域K1の中心とされ、この平面直交平面座標は、演算装置11における(後述の)演算及び処理で用いられる座標系となる。
【0021】
超音波プローブ13(
図1参照)からは、鋼板31と鋼球32との間であって膜厚測定の対象となる測定領域K0へ向かって収束する超音波ビームが発信される。超音波ビームがEHL膜領域K1を中央に含むように、超音波プローブ13から超音波は発信される。
図2に示すように、超音波プローブ13からの超音波の音圧分布Pは、中央が最も高く、周囲に広がるにしたがって低下する。本実施形態では、測定領域K0と、基準平面Qにおける超音波ビームの領域とが一致するとして説明する。つまり、EHL膜領域K1を含む超音波ビームの領域が、超音波測定器12による測定領域K0となる。EHL膜領域K1、及びこのEHL膜領域K1を含む測定領域K0は、基準平面Qに沿った領域である。そして、超音波プローブ13は、このEHL膜領域K1を含む測定領域K0に対して発信した超音波の反射波を受信する。
【0022】
図2及び
図3に示すように、EHL膜領域K1は、測定領域K0(つまり、超音波ビームの領域)よりも狭い。超音波プローブ13からは、
図2の音圧分布Pに示すように、EHL膜領域K1を中心とする範囲に超音波が発信され、更に、このEHL膜領域K1の周囲の外側である外部領域K2にも、所定の大きさの音圧による超音波が発信される。このため、超音波プローブ13には、EHL膜領域K1からの反射波の他に、外部領域K2からの反射波も受信する。超音波プローブ13が反射波を受信すると、その反射波のレベルに応じた信号を検出器本体14(
図1参照)が出力する。このように、超音波プローブ13及び検出器本体14を有している超音波測定器12は、反射波のレベルに応じた信号として、エコー強度の信号を出力する。
【0023】
図1において、演算装置11はコンピュータにより構成されており、超音波測定器12からの前記信号が演算装置11に入力される。演算装置11には、鋼板31や鋼球32の仕様及び前記接触荷重等の条件が入力され、演算装置11は、前記のとおりヘルツの弾性接触理論によりEHL膜領域K1の範囲を算出することができ、また、超音波測定器12からの前記信号に基づいてEHL膜領域K1における油膜厚さを求めるための演算等を実行する。
【0024】
演算装置11は、メモリ等によって構成されている記憶部15、CPUを含んで構成されている演算処理部16、及び、各種情報を出力する出力部17(例えば情報を画像として出力するディスプレイ)を備えている。記憶部15には、前記演算等を行うためのコンピュータプログラム、入力されたデータ、超音波測定器12から取得したデータ、このデータを処理して得たデータ等が記憶される。そして、この演算装置11は、前記コンピュータプログラムに従って前記演算処理部16が実行する機能部として、第一処理部21、第二処理部22、第三処理部23、及び第四処理部24を有している。これら機能部が行う処理については、後に説明する。なお、演算装置11は、複数のコンピュータにより構成されていてもよい。
【0025】
〔2.測定方法について〕
前記構成を備えている測定装置10が行う測定方法について説明する。まず、測定を行うための事前処理について説明する。
【0026】
〔2.1 事前処理〕
事前処理(その1)として、超音波プローブ13から出力される超音波の音圧を計測する。
図4は、計測位置とその計測位置における音圧強度比との関係を示すグラフである。
図4に示すように、超音波ビームの中心で音圧が最も高い。超音波プローブ13から出力される超音波の計測結果(
図4)に基づいて、超音波プローブ13からの超音波ビームの音圧分布の近似式を求める。本実施形態で求められた前記近似式は、次の式(1)となる。この近似式の分母の係数は、超音波プローブが異なると変わる。
【0028】
この式(1)は、超音波プローブ13の音圧分布の情報として記憶部15に記憶される。測定装置10は、この超音波ビームの中心を前記平面直交座標(
図3参照)の中心Cと一致させて扱うことから、式(1)中のX,Yは、前記平面直交座標(
図3参照)におけるX,Y座標値となる。つまり、式(1)は、前記平面直交座標における各位置での音圧を示す。なお、本実施形態では、音圧の最大値を「1」とした場合の比を採用している。
【0029】
事前処理(その2)として、測定の対象となる二部材(鋼板31と鋼球32)のEHL膜領域K1の範囲を求める処理が行われる。鋼板31や鋼球32の仕様及び前記接触荷重等の条件によって、前記のとおり、演算により二部材(鋼板31と鋼球32)のヘルツ接触に基づいて接触形状を求めることができ、この接触形状の範囲が、EHL膜領域K1の範囲とみなされる。本実施形態では、鋼板31と鋼球32との接触領域の形状(接触形状)は円形となる。この接触形状の情報は、前記平面直交座標に対応させて、記憶部15に記憶される。
【0030】
前記近似式(式(1))を求める処理、及び、EHL膜領域K1の範囲を求める処理は、前記演算装置11が行ってもよいが、別の演算装置が行ってもよい。
【0031】
事前処理(その3)として、超音波プローブ13が取得する反射波に基づく信号により生成されたエコー強度比と、油膜厚さとの相関が予め取得されており、この相関が検量線として、記憶部15に記憶されている。なお、この相関(検量線)は、鋼板31と鋼球32とが相対移動しない静的な条件で取得されたものである。相関(検量線)を取得するための具体的な手段は、従来知られている手段による。なお、エコー強度比は、油膜が存在している状態でのエコー強度を、油膜が存在していない状態でのエコー強度で除算した値である。
【0032】
〔2.2 測定方法の具体例〕
図5は、測定方法を説明するフロー図である。本実施形態の測定方法には、エコー測定ステップS1と、演算ステップS2とが含まれている。
エコー測定ステップS1では、超音波プローブ13(
図1参照)によって、鋼板31と鋼球32との間に形成される弾性流体潤滑膜領域K1を含む測定領域K0に対して発信した超音波の反射波を受信し、この反射波のレベルに応じた信号(エコー強度の信号)が超音波測定器12(検出器本体14)から出力される。
演算ステップS2では、前記信号に基づいて弾性流体潤滑膜領域K1における油膜厚さが求められる。演算ステップS2は、以下に説明するように、演算装置11(
図1参照)が有している第一処理部21、第二処理部22、第三処理部23、及び第四処理部24によって行われる。
【0033】
第一処理部21は、測定領域K0(
図3参照)に含まれる評価対象となる複数の対象位置Pi(i=1,2,3・・・)それぞれの位置を特定する機能を有している。本実施形態では、前記平面直交座標の中心C〔(X,Y)=(0,0)〕から開始して、この平面直交座標上の測定領域K0に含まれる複数の対象位置Pi(i=1,2,3・・・)それぞれの位置を特定し、中心Cから各対象位置Piまでの距離が演算により求められる(
図5のステップS11)。最初の対象位置Pi(i=1)は中心Cであり、その距離rはゼロとなる。
【0034】
なお、中心Cを最初の対象位置P1とし、それ以降については、前の対象位置PiからY軸方向に所定ピッチ(例えば、10マイクロメートル)又はX軸方向に所定ピッチ(例えば、10マイクロメートル)について移動した位置が、次の対象位置Pi+1に設定され、その位置がそれぞれ第一処理部21により特定される。
【0035】
第一処理部21は、対象位置P1について特定した位置に基づいて、この対象位置P1が、EHL膜領域K1の範囲内であるか、範囲外であるかの判定処理を行う(ステップS13)。前記事前処理(その2)のとおり、EHL膜領域K1の形状が前記平面直交座標と対応して求められていることから、この平面直交座標において座標(X,Y)=(0,0)である対象位置P1が、EHL膜領域K1の範囲内に属するか、範囲外である外部領域K2に属するかの判定を行うことができる。
【0036】
このように、第一処理部21は、測定領域K0に設定した前記平面直交座標系において対象位置Pi(i=1,2,3・・・)を特定すると共に、演算により鋼板31と鋼球32との間のヘルツ接触に基づいて求められた接触形状の範囲内を、EHL膜領域K1の範囲内とみなすことによって、対象位置Pi(i=1,2,3・・・)それぞれがEHL膜領域K1の範囲内であるか範囲外であるかを判定する機能を有している。
【0037】
最初の対象位置P1の位置(距離r)が求められると、第二処理部22は、この対象位置P1における超音波プローブ13からの超音波の音圧P1を、前記式(1)により求める(ステップS12)。求められた音圧P1は、対象位置P1と対応付けて記憶部15に記憶される。なお、本実施形態では、
図4により説明したように、音圧P1は、最大値を「1」とした場合の相対的な音圧(音圧比)となる。
【0038】
第二処理部22は、更に、対象位置P1における油膜厚さの計算値を求める機能を有している。ステップS13において、対象位置P1がEHL膜領域K1に属すると判定された場合、次の式(2)に示す油膜厚さの計算式(Hamrock−Dowson式)に基づいて油膜厚さの値(H)が求められ(ステップS14)、この計算値(H)を対象位置P1における油膜厚さとする。式(2)では、EHL膜領域K1における油膜厚さは一定であると仮定している。なお、油膜厚さの値を求める演算式は、式(2)に限らず、他の演算式としてもよい。
【0040】
これに対して、ステップS13において、対象位置が外部領域K2に属すると判定された場合、第二処理部22は、鋼板31と鋼球32との幾何形状に基づいて油膜厚さの値を求め(ステップS15)、この計算値を、その対象位置における油膜厚さとする。つまり、鋼板31と鋼球32との間に形成される隙間は油膜の厚さと同一とみなすことができることから、外部領域K2における油膜の厚さは幾何的な計算により求められる。
【0041】
最初の対象位置P1の油膜厚さ(H)が求められると(ステップS14)、第二処理部22は、次の式(3)により対象位置P1における反射率R1を求める(ステップS16)。求められた反射率R1は、対象位置P1と対応付けて記憶部15に記憶される。なお、式(3)に示すように、反射率Riは油膜厚さ(H)に依存する。
【0043】
ステップS16により、対象位置P1における反射率R1が求められると、第二処理部22は、この反射率R1と、ステップS12で求めた対象位置P1における音圧P1とを乗算し、エコー強度を求める(ステップS17)。このようにして求められた対象位置P1におけるエコー強度の値は、記憶部15の第一記憶領域15a(
図1参照)に記憶される(ステップS18)。なお、後にも説明するが、ステップS18では、各対象位置Piにおけるエコー強度の値が逐次加算されて、記憶される。
【0044】
ここで、対象位置がEHL膜領域K1であるか否かの判定(ステップS13)により、EHL膜領域K1以外の外部領域K2であると判定された場合、ステップS19からステップS20に進み、第三処理部23によって、その対象位置に関して前記乗算により求められたエコー強度が、誤差分エコー強度として記憶部15の第二記憶領域15b(
図1参照)に記憶される(ステップS20)。しかし、最初の対象位置P1は、EHL膜領域K1に含まれるため、前記乗算により求められた対象位置P1におけるエコー強度は、第二記憶領域15bに記憶されない。なお、後にも説明するが、ステップS20では、誤差分エコー強度の値は逐次加算されて、記憶される。
【0045】
ステップS21では、対象位置P1についてステップS17で求めたエコー強度が、中心Cにおけるエコー強度の所定割合(例えば1%)を下回っている否かについて判定される。ここでは、対象位置P1のエコー強度は、中心Cのエコー強度であるため、ステップS21ではNoの判定がされ、ステップS11に戻る。すると、Y軸方向又はX軸方向に所定ピッチ移動させた次の対象位置Pi(i=2)を設定し、この対象位置Pi(i=2)に関してステップS11〜S21が行われる。ステップS21の判定処理は、演算装置11の処理部21〜24のいずれか一つによって行うことができる。
【0046】
ステップS21によれば、対象位置Piのエコー強度が中心Cにおけるエコー強度の所定割合(例えば1%)を下回るまで、ステップS11〜S21が繰り返し行われる。そして、中心Cにおけるエコー強度の所定割合(例えば1%)以上となる全ての対象位置PiについてステップS11〜S21が行われると(つまり、ステップS21においてYesの判定がされると)ステップS22に進む。ステップS22の処理については、後に説明する。このように、ステップS21では、測定領域K0に含まれかつエコー強度が所定割合(例えば1%)以上となる対象位置Piの全てについて音圧の計算がされたか否かが判定されている。
【0047】
〔2.3 外部領域K2に属する対象位置の各処理について〕
ここで、n番目に設定された対象位置Pn(
図3参照)が、外部領域K2である場合についてのステップS11〜S21の各処理を説明する。第一処理部21は、この対象位置Pnの位置(平面直交座標における座標値)を特定し、中心Cからの距離rnを求める(ステップS11)。第一処理部21は、対象位置Pnについて特定した位置に基づいて、この対象位置Pnが、EHL膜領域K1の範囲内であるか、範囲外であるかの判定処理を行う(ステップS13)。前記事前処理(その2)のとおり、EHL膜領域K1の形状が前記平面直交座標と対応して求められていることから、この平面直交座標において、座標(X,Y)=(Xn,Yn)である対象位置Pnが、EHL膜領域K1の範囲内に属するか、範囲外である外部領域K2に属するかの判定を行い、ここでは、対象位置Pnは、外部領域K2に属すると判定される。
【0048】
対象位置Pnの位置(距離rn)が求められると、この対象位置Pnにおける音圧Pnが前記式(1)のより求められる(ステップS12)。求められた音圧Pnは、対象位置Pnと対応付けて記憶部15に記憶される。
【0049】
また、対象位置Pnにおける油膜厚さの計算値が求められる。ステップS13において、対象位置Pnが外部領域K2に属すると判定されることから、鋼板31と鋼球32との幾何形状に基づいて油膜厚さの値(H)が求められ(ステップS15)、この計算値(H)が対象位置Pnにおける油膜厚さとされる。
【0050】
ステップS15により対象位置Pnの油膜厚さ(H)が求められると、前記式(3)により対象位置Pnにおける反射率Rnが求められる(ステップS16)。求められた反射率Rnは、対象位置Pnと対応付けて記憶部15に記憶される。
【0051】
ステップS16により対象位置Pnにおける反射率Rnが求められると、この反射率Rnと、ステップS12で求めた対象位置Pnにおける音圧Pnとを乗算し、エコー強度が求められる(ステップS17)。このようにして求められた対象位置Pnにおけるエコー強度の値は、記憶部15の第一記憶領域15a(
図1参照)に記憶される(ステップS18)。この際、既に第一記憶領域15aに記憶されている全ての対象位置Pi(i=1,2,3・・・n)のエコー強度の総和が求められ、この総和が、対象位置Pnまでの全エコー強度の値として、第一記憶領域15aに記憶される。
【0052】
ステップS13において、対象位置PnはEHL膜領域K1以外の外部領域K2であると判定されていることから、ステップS19では、その対象位置Pnに関して前記乗算により求められたエコー強度が、誤差分エコー強度として記憶部15の第二記憶領域15b(
図1参照)に記憶される(ステップS20)。この際、既に第二記憶領域15bに記憶されている外部領域K2における全ての対象位置Piのエコー強度との総和が求められ、この総和が、外部領域K2における対象位置Pnまでの誤差分エコー強度の合計値として、第二記憶領域15bに記憶される。
【0053】
ステップS21では、対象位置Pnのエコー強度が、中心Cにおけるエコー強度の所定割合(例えば1%)を下回っている否かについて判定され、残りの対象位置PiについてステップS11〜S21が行われる。
以上のように、対象位置Pnが外部領域K2(
図3参照)である場合についてのステップS11〜S21の各処理が行われる。
【0054】
なお、前記のとおり、ステップS16において、各対象位置における反射率を求める処理は、第二処理部22によって行われており、ステップS14及びステップS15を前提とすることで、対象位置PiがEHL膜領域K1の範囲内である場合と範囲外である場合とで分けて、各対象位置Piにおける反射率Riが求められている。つまり、第二処理部22は、EHL膜領域K1における膜厚計算式(前記式2)により算出した油膜厚さの値を用いて、演算(前記式3)によりEHL膜領域K1における反射率Riを求める機能と、鋼板31及び鋼球32の既知である幾何形状に基づいて算出した油膜厚さの値を用いて、演算(前記式3)によりEHL膜領域K1以外の外部領域K2における反射率Riを求める機能と、を有している。
【0055】
〔2.4 誤差分比率の計算及び油膜厚さの計算について〕
ステップS22の処理を説明する。第四処理部24は、次の式(4)により、エコー強度の誤差分比率Eを求める。この誤差分比率Eは、超音波プローブ13が受信する反射波の内、EHL膜領域K1以外の誤差要因となる割合を示す値となる。
【0057】
前記のとおり、エコー測定ステップS1では、
図1において、潤滑油を介して接触している鋼板31と鋼球32との間の測定領域K0に対して超音波プローブ13が出力した超音波の反射波が測定され、この反射波のレベルに応じたエコー強度の信号が検出器本体14から出力されている。そして、演算装置11(第四処理部24)は、この信号に基づいて、測定領域K0におけるエコー強度比を求めることができる(
図5のステップS31)。
【0058】
このエコー強度比は、EHL膜領域K1における反射波の成分の他に、外部領域K2における反射波の成分も含まれている。そこで、第四処理部24は、この測定領域K0におけるエコー強度比を、前記エコー強度の誤差分比率Eにより補正する処理を行い(ステップS32)、これにより、EHL膜領域K1におけるエコー強度比が求められる(ステップS33)。具体的には、前記補正として、次の式(5)の演算が行われる。
【0060】
そして、第四処理部24は、前記式(5)により求められたEHL膜領域K1におけるエコー強度比を、静的条件で予め求められている前記検量線により換算して、このEHL膜領域K1における油膜厚さを求めることができる(ステップS34)。
【0061】
〔2.5 本実施形態の測定方法に関して〕
以上のように、この測定方法は(
図5参照)エコー測定ステップ(S1)と演算ステップ(S2)とを有している。演算ステップ(S2)には、判定ステップ(
図5のS13、S19)、全エコー強度算出ステップ(S18)、誤差分エコー強度算出ステップ(S20)、及び油膜厚さ算出ステップ(S34)が含まれる。
【0062】
判定ステップS13(S19)では、測定領域K0に含まれる複数の対象位置PiそれぞれがEHL膜領域K1の範囲内であるか範囲外であるかについての判定が行われる。この判定ステップS13(S19)は、第一処理部21によって実行される。
全エコー強度算出ステップ(S18)では、超音波プローブ13の音圧分布の情報(前記式(1))から取得した複数の対象位置Piそれぞれにおける音圧(S12)と、演算により求められる対象位置Piそれぞれにおける超音波の反射率(S16)との積によって対象位置Piそれぞれにおけるエコー強度が求められる(S17)と共に、このエコー強度が逐次加算されて全エコー強度が求められる。この全エコー強度算出ステップ(S18)は、第二処理部22によって実行される。
【0063】
誤差分エコー強度算出ステップ(S20)では、EHL膜領域K1の範囲外であると判定された対象位置Piにおける前記エコー強度が逐次加算されて誤差分エコー強度が求められる。この誤差分エコー強度算出ステップ(S20)は、第三処理部23によって実行される。
そして、油膜厚さ算出ステップ(S34)では、実際に超音波測定器12からの信号から取得されたエコー強度に関するデータ(エコー強度比)(S31)が、前記全エコー強度と前記誤差分エコー強度との割合によって補正されて(S32)、この補正されたエコー強度に関するデータ(エコー強度比)(S33)に基づいて、EHL膜領域K1における油膜厚さが求められる。この油膜厚さ算出ステップ(S34)は、第四処理部24によって実行される。
【0064】
図6は、本実施形態の測定方法(測定装置10)により、補正(
図5のステップS32)を行った場合の油膜厚さの測定結果(二重丸)を示すグラフである。横軸は、鋼板31と鋼球32との間に負荷された接触荷重であり、縦軸が、この測定方法(測定装置10)により求められた油膜厚さであり、荷重(一定値)を様々変更して測定を行った結果が示されている。なお、
図7は、従来方法として、前記補正を行わない場合の油膜厚さの測定結果(黒丸)を示すグラフである。なお、
図6及び
図7それぞれにおいて、他の手法により求められた(精度が高いとされている)油膜厚さの計算値を白丸で示している。
【0065】
図7に示すように、従来方法では、接触荷重が小さくなるほど、前記計算値との差が大きくなっているが、本実施形態の測定方法によれば、接触荷重が小さくなっても、前記計算値との差は小さく、測定精度が高い。これは、接触荷重が小さくなるほど、EHL膜領域K1は超音波ビームの範囲(ビーム径)に比して狭くなり、外部領域K2の影響が大きくなるためであり、従来方法では、外部領域K2の影響を大きく受けて誤差が大きくなっている。これに対して、本実施形態の測定方法では、外部領域K2による誤差要因が前記補正により抑制されていることから、測定精度が向上する。
【0066】
以上のように、本実施形態の測定装置10によって実行される測定方法によれば、鋼板31と鋼球32との間の接触によるEHL膜領域K1が、超音波プローブ13から発せられる超音波ビームの領域(ビーム径)よりも狭くても、超音波測定器12によって得られたエコー強度比から、EHL膜領域K1以外の外部領域K2による誤差要因を省くことができ、超音波による油膜厚さの測定精度を高めることが可能となる。
【0067】
前記実施形態では、油膜33を介して接触する幾何形状が既知の第一部材及び第二部材を、鋼板31及び鋼球32とした場合について説明したが、それ以外であってもよい。例えば、前記実施形態では、鋼板31の平面に球体である鋼球32が接触する場合について説明したが、鋼球32が接触する面は、平面ではなく、凹曲面であってもよい。この場合、玉軸受における転動体の玉と、この玉が接触する凹曲面からなる軌道を有する軌道輪との間における油膜厚さの測定を、前記測定方法によって精度良く行うことができる。これにより、玉軸受に関して、グリースや軌道輪の溝形状の改良等に貢献することが可能となる。
【0068】
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明の測定装置及び測定方法は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。