特許第6879053号(P6879053)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6879053-マルチピースソリッドゴルフボール 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6879053
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】マルチピースソリッドゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20210524BHJP
【FI】
   A63B37/00 328
   A63B37/00 334
   A63B37/00 640
   A63B37/00 532
   A63B37/00 412
   A63B37/00 138
   A63B37/00 144
   A63B37/00 650
   A63B37/00 118
【請求項の数】12
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-103700(P2017-103700)
(22)【出願日】2017年5月25日
(65)【公開番号】特開2018-198642(P2018-198642A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2020年4月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 克典
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 英郎
【審査官】 槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−016117(JP,A)
【文献】 特開2006−289065(JP,A)
【文献】 特開2011−031043(JP,A)
【文献】 特開2016−116627(JP,A)
【文献】 特開2006−230661(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0096077(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104971472(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層コア及び外層コアからなる2層のコアと、1層以上のカバーとを有し、表面に多数のディンプルが形成されるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記コア全体の硬度分布において、コア中心のJIS−C硬度を(Cc)、コア中心から5mmの位置のJIS−C硬度を(Cc+5)、コア表面から5mm内側の硬度(Cs−5)及びコア表面硬度(Cs)とするとき、下記式(1)〜(3)
(Cc+5)−(Cc)≦5 ・・・・(1)
(Cs)−(Cs−5)≧10 ・・・・(2)
{(Cs)−(Cs−5)}/{(Cc+5)−(Cc)}≧4 ・・・・(3)
の関係を満足するものであり、上記カバーの各層のうち最も硬い層の材料硬度がショアD硬度で56以上であり、この最も硬い層の表面硬度からコア全体の表面硬度を引いた値がショアD硬度で2以上であると共に、ボールに対して、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量が2.7mm以上であり、内層コアを外層コアで被覆した球体の初速から内層コアの初速を引いた値が1m/s以上であることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項2】
更に、下記の式を満足する請求項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
(Cs)−(Cc)≧30 ・・・・(4)
【請求項3】
内層コアは、基材ゴムが2種類以上からなるゴム組成物により形成されると共に、外層コアは、基材ゴムが1種類以上からなるゴム組成物により形成される請求項1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項4】
上記カバーが、中間層と外層との2層に形成されるものである請求項1〜のいずれ1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項5】
上記中間層が、
(a)オレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、
(b)オレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0〜0:100であるベース樹脂、
(c)分子量228以上1500以下の脂肪酸又はその誘導体、及び
(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物
の上記(a)〜(d)成分を含有する樹脂組成物を主材として形成されるものである請求項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項6】
外層の材料硬度が中間層の材料硬度よりも高くなる請求項〜7のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項7】
ディンプルの個数が250〜370個であり、ディンプルの種類が3種以上であり、ディンプルがゴルフボールの球面に占めるディンプル占有率(SR値)が75%以上であり、且つ、ボールが打撃されたときレイノルズ数70000、スピン量2000rpmにおけるボールの揚力係数CLが、レイノルズ数80000、スピン量2000rpmにおける揚力係数CLの70%以上である請求項1〜のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項8】
内層コア及び外層コアからなる2層のコアと、1層以上のカバーとを有し、表面に多数のディンプルが形成されるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記カバーが、中間層と外層との2層に形成されるものであり、上記カバーの各層のうち最も硬い層の材料硬度がショアD硬度で56以上であり、この最も硬い層の表面硬度からコア全体の表面硬度を引いた値がショアD硬度で2以上であると共に、ボールに対して、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量が2.7mm以上であり、且つ、内層コアの初速をV1(m/s)、内層コアを外層コアで被覆した球体の初速をV2(m/s)、コアに中間層を被覆した球体の初速をV3(m/s)、ボールの初速をV4(m/s)とするとき、V4>V3≧V2>V1、及び、V2−V1≧1(m/s)が成立することを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項9】
内層コアは、基材ゴムが2種類以上からなるゴム組成物により形成されると共に、外層コアは、基材ゴムが1種類以上からなるゴム組成物により形成される請求項8記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項10】
上記中間層が、
(a)オレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、
(b)オレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0〜0:100であるベース樹脂、
(c)分子量228以上1500以下の脂肪酸又はその誘導体、及び
(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物
の上記(a)〜(d)成分を含有する樹脂組成物を主材として形成されるものである請求項8又は9記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項11】
外層の材料硬度が中間層の材料硬度よりも高くなる請求項8〜10のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項12】
ディンプルの個数が250〜370個であり、ディンプルの種類が3種以上であり、ディンプルがゴルフボールの球面に占めるディンプル占有率(SR値)が75%以上であり、且つ、ボールが打撃されたときレイノルズ数70000、スピン量2000rpmにおけるボールの揚力係数CLが、レイノルズ数80000、スピン量2000rpmにおける揚力係数CLの70%以上である請求項8〜11のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内層及び外層の2層構造のコアと、1層以上のカバーと、表面に多数のディンプルが形成されるマルチピースソリッドゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフプレーヤーは、プロ・上級者から低ヘッドスピードのアマチュアまで多様であり、ゴルフボールに対する要望も多様かつ個性化してきており、かかる要望に応えるべくボール構造について様々な検討が試みられている。
【0003】
ボール構造として、コア硬度やカバー硬度、更にはディンプルを種々改良した多層構造を有するマルチピースソリッドゴルフボールが種々提案されており、特にコアを2層に形成したマルチピースソリッドゴルフボールとしては、特開2006−230661号公報(特許文献1),特開2006−289065号公報(特許文献2),特開2011−115593号公報(特許文献3)及び米国特許第8690712号明細書(特許文献4)が挙げられる。
【0004】
しかしながら、これらゴルフボールにおいても、ドライバー(W#1)での打撃時だけでなく各種アイアンでのフルショットにおいても良好な飛距離の得るためには十分満足できるものではなかった。低ヘッドスピードのアマチュアプレーヤーが使用する場合に、ドライバーからアイアンまでのフルショット領域で、良好な飛距離を得ることができると共に、ソフトで心地よい打感を両立し得るゴルフボールが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−230661号公報
【特許文献2】特開2006−289065号公報
【特許文献3】特開2011−115593号公報
【特許文献4】米国特許第8690712号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ヘッドスピードが比較的低いゴルファーが、ドライバーからアイアンまでのフルショット領域で、良好な飛距離を得ることができ、且つ、ソフトで心地よい打感を得ることができるゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、コアと、少なくとも1層を有するカバーとを具備し、外表面に多数のディンプルが形成されるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記カバーの各層のうち最も硬い層の材料硬度がショアD硬度で56以上であり、この最も硬い層の表面硬度からコア全体の表面硬度を引いた値がショアD硬度で2以上であると共に、ボールに対して、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量が2.7mm以上であり、内層コアを外層コアで被覆した球体の初速から内層コアの初速を引いた値が1m/s以上であるボール構造が、フルショットでのスピンを抑え、低ヘッドスピード領域での実打初速が高くなるので、ドライバー打撃時のヘッドスピードが速くないユーザーに全てのクラブのフルショット時の飛距離が優位となる共に、ソフトで心地よい打感を得ることができるゴルフボールを提供できることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
即ち、本発明は、コアを被覆するカバーが少なくとも1層、好ましくは中間層と外層とを有する2層以上に形成される場合、比較的軟らかい内層コアと比較的硬い外層コアとのコア構成と、柔軟で高反発性のある樹脂材料からなる層と硬く高反発性のある樹脂材料からなる層とのカバー構成により本発明の課題を解決し得るものであり、内層コアの反発性よりも外層コアの反発性を高めることにより、低ヘッドスピード領域での飛距離優位性を確保したボールとし得ると共に、ゴルフボールの各部材の硬度レベルを最適化することにより、スピン抑制により飛距離優位性確保に加えて、心地よい打感が得られるボールに仕上げたものである。なお、本明細書では低ヘッドスピード領域とは、おおよそドライバー(W#1)打撃時のヘッドスピードが25〜38m/sであり、6番アイアン(I#6)でのフルショット時の打撃時のヘッドスピードが22〜35m/sであることを意図している。
【0009】
従って、本発明は、下記のマルチピースソリッドゴルフボールを提供する。
1.内層コア及び外層コアからなる2層のコアと、1層以上のカバーとを有し、表面に多数のディンプルが形成されるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記コア全体の硬度分布において、コア中心のJIS−C硬度を(Cc)、コア中心から5mmの位置のJIS−C硬度を(Cc+5)、コア表面から5mm内側の硬度(Cs−5)及びコア表面硬度(Cs)とするとき、下記式(1)〜(3)
(Cc+5)−(Cc)≦5 ・・・・(1)
(Cs)−(Cs−5)≧10 ・・・・(2)
{(Cs)−(Cs−5)}/{(Cc+5)−(Cc)}≧4 ・・・・(3)
の関係を満足するものであり、上記カバーの各層のうち最も硬い層の材料硬度がショアD硬度で56以上であり、この最も硬い層の表面硬度からコア全体の表面硬度を引いた値がショアD硬度で2以上であると共に、ボールに対して、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量が2.7mm以上であり、内層コアを外層コアで被覆した球体の初速から内層コアの初速を引いた値が1m/s以上であることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
2.更に、下記の式を満足する上記1記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
(Cs)−(Cc)≧30 ・・・・(4)
3.内層コアは、基材ゴムが2種類以上からなるゴム組成物により形成されると共に、外層コアは、基材ゴムが1種類以上からなるゴム組成物により形成される上記1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
4.上記カバーが、中間層と外層との2層に形成されるものである上記1〜3のいずれに記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
5.上記中間層が、
(a)オレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、
(b)オレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0〜0:100であるベース樹脂、
(c)分子量228以上1500以下の脂肪酸又はその誘導体、及び
(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物
の上記(a)〜(d)成分を含有する樹脂組成物を主材として形成されるものである上記4記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
6.外層の材料硬度が中間層の材料硬度よりも高くなる上記4〜7のいずれかに記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
7.ディンプルの個数が250〜370個であり、ディンプルの種類が3種以上であり、ディンプルがゴルフボールの球面に占めるディンプル占有率(SR値)が75%以上であり、且つ、ボールが打撃されたときレイノルズ数70000、スピン量2000rpmにおけるボールの揚力係数CLが、レイノルズ数80000、スピン量2000rpmにおける揚力係数CLの70%以上である上記1〜6のいずれかに記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
8.内層コア及び外層コアからなる2層のコアと、1層以上のカバーとを有し、表面に多数のディンプルが形成されるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記カバーが、中間層と外層との2層に形成されるものであり、上記カバーの各層のうち最も硬い層の材料硬度がショアD硬度で56以上であり、この最も硬い層の表面硬度からコア全体の表面硬度を引いた値がショアD硬度で2以上であると共に、ボールに対して、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量が2.7mm以上であり、且つ、内層コアの初速をV1(m/s)、内層コアを外層コアで被覆した球体の初速をV2(m/s)、コアに中間層を被覆した球体の初速をV3(m/s)、ボールの初速をV4(m/s)とするとき、V4>V3≧V2>V1、及び、V2−V1≧1(m/s)が成立することを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
9.内層コアは、基材ゴムが2種類以上からなるゴム組成物により形成されると共に、外層コアは、基材ゴムが1種類以上からなるゴム組成物により形成される上記8記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
10.上記中間層が、
(a)オレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、
(b)オレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0〜0:100であるベース樹脂、
(c)分子量228以上1500以下の脂肪酸又はその誘導体、及び
(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物
の上記(a)〜(d)成分を含有する樹脂組成物を主材として形成されるものである上記8又は9記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
11.外層の材料硬度が中間層の材料硬度よりも高くなる上記8〜10のいずれかに記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
12.ディンプルの個数が250〜370個であり、ディンプルの種類が3種以上であり、ディンプルがゴルフボールの球面に占めるディンプル占有率(SR値)が75%以上であり、且つ、ボールが打撃されたときレイノルズ数70000、スピン量2000rpmにおけるボールの揚力係数CLが、レイノルズ数80000、スピン量2000rpmにおける揚力係数CLの70%以上である上記8〜11のいずれかに記載のマルチピースソリッドゴルフボール
【発明の効果】
【0010】
本発明のゴルフボールによれば、ヘッドスピードが比較的低いゴルファーが、ドライバーからアイアンまでのフルショット領域で、良好な飛距離を得ることができ、且つ、ソフトで心地よい打感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例及び比較例で使用したディンプルを表面に有するゴルフボールの平面図であり、(A)はType−Aのディンプルを使用したボール平面(写真)図、(B)はType−Bのディンプルを使用したボール平面(写真)図、及び(C)はType−Cのディンプルを使用したボール平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明において、コアは、内層コア及び外層コアの2層に形成されるものである。
【0013】
内層コアの直径は、好ましくは10mm以上、より好ましくは15mm以上、更に好ましくは20mm以上であり、上限としては、好ましくは30mm以下、より好ましくは27.5mm以下、更に好ましくは25mm以下である。内層コアの直径が上記範囲を逸脱すると、フルショットでのスピン抑制効果が十分ではなくなり、飛距離が出なくなることがある。
【0014】
内層コアの特定荷重負荷時のたわみ量、即ち、内層コアに対して、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量(以下、「内層コアたわみ量T」とも言う)は、好ましくは4.0mm以上、より好ましくは5.0mm以上、更に好ましくは6.0mm以上であり、上限として、好ましくは10.0mm以下、より好ましくは9.0mm以下、更に好ましくは8.0mm以下である。この値が小さすぎる、即ち硬すぎると、スピンが増えすぎて飛ばなくなり、または、打感が硬くなりすぎることがある。逆に、この値が大きすぎる、即ち軟らかすぎると、反発性が低くなりすぎ、飛ばなくなり、或いは打感が軟らかくなりすぎ、繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなる場合がある。
【0015】
外層コアは内層コアを直接被覆する層であり、この層の厚さは、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上、更に好ましくは7mm以上であり、上限としては、好ましくは12mm以下、より好ましくは10mm以下、更に好ましくは8mm以下である。外層コアの層の厚さが上記範囲を逸脱すると、フルショットでのスピン抑制効果が十分ではなくなり、飛距離が出なくなることがある。
【0016】
内層及び外層コアの材料としては、ゴム材を主材として用いる。内層コアを包囲する外層コアのゴム材は、内層コアの材料と同種であっても異種であってもよい。具体的には、基材ゴムを主体とし、これに、共架橋剤、有機過酸化物、不活性充填剤、有機硫黄化合物等を配合させてゴム組成物を作成することができる。基材ゴムとしては、ポリブタジエンを用いることが好ましい。
【0017】
更に、内層コアは、基材ゴムが2種類以上からなるゴム組成物により形成されると共に、外層コアは、基材ゴムが1種類以上からなるゴム組成物により形成されることが好適である。内層コアの材料としては、生産性と適度な反発性能を両立させるために、ポリブタジエン(BR)を主材とするゴムに低反発性ゴムを混合することが好ましい。上記の低反発性ゴムとしては、特に限定されないが、例えば、ブチルゴム、ポリイソプレン(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴムまたはこれらの混合物などを使用することができる。本発明では、比較的軟らかい内層コアと比較的硬い外層コアとのコア構成により、ドライバーからアイアンまでのフルショット領域で、良好な飛距離を得ることができ、良好な打感を得ることができる。
【0018】
上記ゴム成分のポリブタジエンは、そのポリマー鎖中に、シス−1,4−結合を60質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上有することが好適である。分子中の結合に占めるシス−1,4−結合が少なすぎると、反発性が低下する場合がある。
【0019】
また、上記ポリブタジエンに含まれる1,2−ビニル結合の含有量としては、そのポリマー鎖中に通常2%以下、好ましくは1.7%以下、更に好ましくは1.5%以下である。1,2−ビニル結合の含有量が多すぎると、反発性が低下する場合がある。
【0020】
共架橋剤としては、例えば不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の金属塩等が挙げられる。不飽和カルボン酸として具体的には、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができ、特にアクリル酸、メタクリル酸が好適に用いられる。不飽和カルボン酸の金属塩としては特に限定されるものではないが、例えば上記不飽和カルボン酸を所望の金属イオンで中和したものが挙げられる。具体的にはメタクリル酸、アクリル酸等の亜鉛塩やマグネシウム塩等が挙げられ、特にアクリル酸亜鉛が好適に用いられる。
【0021】
上記不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩は、上記基材ゴム100質量部に対し、通常5質量部以上、好ましくは9質量部以上、更に好ましくは13質量部以上、上限として通常60質量部以下、好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下、最も好ましくは30質量部以下配合する。配合量が多すぎると、硬くなりすぎて耐え難い打感になる場合があり、配合量が少なすぎると、反発性が低下してしまう場合がある。
【0022】
上記有機過酸化物としては市販品を用いることができ、例えば、パークミルD(日本油脂(株)製)、パーヘキサC−40、パーヘキサ3M(日本油脂(株)製)、Luperco 231XL(アトケム社製)等を好適に用いることができる。これらは1種を単独であるいは2種以上を併用してもよい。有機過酸化物の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、最も好ましくは0.7質量部以上であり、上限として、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、最も好ましくは2.5質量部以下配合する。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると好適な打感、耐久性及び反発性を得ることができない場合がある。
【0023】
そのほか、基材ゴムに配合される配合剤として、不活性充填剤が挙げられ、例えば、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を好適に用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。不活性充填剤の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、上限として好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは35質量部以下とする。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると適正な質量、及び好適な反発性を得ることができない場合がある。
【0024】
更に、必要に応じて老化防止剤を配合することができ、例えば、市販品としてはノクラックNS−6、同NS−30(大内新興化学工業(株)製)、ヨシノックス425(吉富製薬(株)製)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
該老化防止剤の配合量は上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0質量部以上、更に好ましくは0.05質量部以上、特に好ましくは0.1質量部以上、上限として好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下、特に好ましくは1質量部以下、最も好ましくは0.5質量部以下とする。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると好適な反発性、耐久性を得ることができない場合がある。
【0026】
また、上記外層コアには、良好な反発性付与させるために、有機硫黄化合物を配合することが好ましい。有機硫黄化合物としては、ゴルフボールの反発性を向上させ得るものであれば特に制限されないが、例えばチオフェノール類、チオナフトール類、ハロゲン化チオフェノール類又はそれらの金属塩等が挙げられる。より具体的には、ペンタクロロチオフェノール、ペンタフルオロチオフェノール、ペンタブロモチオフェノール、パラクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩、ペンタフルオロチオフェノールの亜鉛塩、ペンタブロモチオフェノールの亜鉛塩、パラクロロチオフェノールの亜鉛塩、硫黄数が2〜4のジフェニルポリスルフィド、ジベンジルポリスルフィド、ジベンゾイルポリスルフィド、ジベンゾチアゾイルポリスルフィド、ジチオベンゾイルポリスルフィド等が挙げられ、特に、ペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩が好適に用いられる。有機硫黄化合物の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.2質量部以上、上限として、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2.5質量部以下であることが推奨される。配合量が多すぎると、反発性(特に、W#1による打撃)の改良効果がそれ以上期待できなくなり、コアが軟らかくなりすぎ、または打感が悪くなる場合がある。逆に、配合量が少なすぎると、反発性の改善効果が期待できなくなる。
【0027】
内層コア及び外層コアの製造方法としては、常法に従って、140℃以上180℃以下、10分以上60分以下で加熱圧縮して球状に形成する等の方法により内層コアを成形し得る。上記外層コアを上記内層コア表面に形成する方法としては、シート状の未加硫ゴムを用いて一対のハーフカップを形成し、このカップ内に内層コアを入れて更に被包し、加圧加熱成形する方法などを採用できる。例えば、一次加硫(半加硫)して一対の半球カップ体を製造した後、次いで、予め製作した外層コアが被覆形成された内層コアを一方の半球カップ体に載せ、更に他方の半球カップ体をこれに被せた状態で二次加硫(全加硫)を行う方法や、ゴム組成物を未加硫状態でシート状にして一対の外層コア用シートを作成し、該シートを半球状突部が設けられた半型により型押して未加硫の半球カップ体を製造した後、これらの一対の半球カップ体を、予め製作した内層コアに被せ、140〜180℃,10〜60分間にて加熱圧縮して球状に形成することにより、加硫工程を2段階に分けた方法などを好適に採用し得る。
【0028】
上記内層コア及び外層コアからなるコア全体の特定荷重負荷時のたわみ量、即ち、コア全体に対して、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量(以下、「コア全体たわみ量P」とも言う)は、好ましくは3.0mm以上、より好ましくは3.5mm以上、更に好ましくは4.0mm以上であり、上限として、好ましくは6.0mm以下、より好ましくは5.5mm以下、更に好ましくは5.0mm以下である。この値が小さすぎる、即ち硬すぎると、スピンが増えすぎて飛ばなくなり、または、打感が硬くなりすぎることがある。逆に、この値が大きすぎる、即ち軟らかすぎると、反発性が低くなりすぎ、飛ばなくなり、或いは打感が軟らかくなりすぎ、繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなる場合がある。
【0029】
上記コアの表面硬度(Cs)は、JIS−C硬度で好ましくは75以上、より好ましくは79以上、更に好ましくは82以上であり、その上限は、JIS−C硬度で好ましくは95以下、より好ましくは91以下、更に好ましくは88以下である。また、上記コアの表面硬度は、ショアD硬度で表すと、好ましくは49以上、より好ましくは52以上、更に好ましくは54以上であり、上限として、好ましくは64以下、より好ましくは61以下、更に好ましくは59以下である。この値が大き過ぎると、打感が硬くなり、または繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。逆に、上記の値が小さすぎると、反発性が低くなり、またフルショットでのスピンが増えて飛距離が出なくなることがある。
【0030】
コア表面から5mm内側の硬度(Cs−5)は、JIS−C硬度で好ましくは55以上、より好ましくは59以上、更に好ましくは62以上であり、その上限は、JIS−C硬度で好ましくは80以下、より好ましくは76以下、更に好ましくは73以下である。この値が大き過ぎると、打感が硬くなり、または繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。逆に、上記の値が小さすぎると、反発性が低くなり、またフルショットでのスピンが増えて飛距離が出なくなることがある。
【0031】
コア中心から5mm外側の硬度(Cc+5)は、JIS−C硬度で好ましくは34以上、より好ましくは37以上、更に好ましくは40以上であり、その上限は、JIS−C硬度で好ましくは63以下、より好ましくは60以下、更に好ましくは57以下である。この値が小さすぎると、繰り返し打撃耐久性が悪くなり、または初速が低くなりすぎて飛距離が出なくなることがある。逆に、上記の値が大きすぎると、フルショットした時の打感が硬くなりすぎ、或いはスピンが増えて飛距離が出なくなることがある。
【0032】
上記コアの中心硬度(Cc)は、JIS−C硬度で好ましくは34以上、より好ましくは37以上、更に好ましくは40以上であり、その上限は、JIS−C硬度で好ましくは60以下、より好ましくは57以下、更に好ましくは54以下である。また、上記コアの中心硬度は、ショアD硬度で表すと、好ましくは18以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは22以上であり、上限として、好ましくは38以下、より好ましくは35以下、更に好ましくは33以下である。この値が小さすぎると、繰り返し打撃耐久性が悪くなり、または初速が低くなりすぎて飛距離が出なくなることがある。逆に、上記の値が大きすぎると、フルショットした時の打感が硬くなりすぎ、或いはスピンが増えて飛距離が出なくなることがある。
【0033】
上記コア全体の硬度分布において、更には、下記式(1)〜(3)
(Cc+5)−(Cc)≦5 ・・・・(1)
(Cs)−(Cs−5)≧10 ・・・・(2)
{(Cs)−(Cs−5)}/{(Cc+5)−(Cc)}≧4 ・・・・(3)
の関係を満足することが好適である。
【0034】
(Cc+5)−(Cc)の値は、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3以下であり、下限値は、0以上である。
【0035】
(Cs)−(Cs−5)の値は、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、さらに好ましくは14以上であり、上限値は、好ましくは25以下、より好ましくは20以下である。
【0036】
{(Cs)−(Cs−5)}/{(Cc+5)−(Cc)}の値は4以上であることが好ましい。この値は、コアの中心付近のコア硬度分布の勾配よりコアの表面付近のコア硬度分布の勾配が4倍以上大きいということを表している。この値は、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上であり、上限値は、好ましくは50以下、より好ましくは40以下である。
【0037】
コア表面硬度(Cs)−コア中心C硬度(Cc)の値は、JIS−C硬度で好ましくは30以上であり、より好ましくは31以上、さらに好ましくは32以上である。また、その上限は、JIS−C硬度で好ましくは50以下、より好ましくは47以下、さらに好ましくは43以下である。上記硬度差が小さすぎると、フルショットした時のスピンが増えて飛距離が出なくなることがある。また、上記値が大きくなりすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなる時がある。
【0038】
上述した内層コアたわみ量T及びコア全体たわみ量Pとの関係について、T/Pの値は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.4以上であり、上限として、好ましくは1.8以下、より好ましくは1.7以下、さらに好ましくは1.6以下である。上記の値が小さくなりすぎると、フルショットした時のスピンが増え飛距離が出なくなることがある。また、上記値が大きくなりすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなり、または初速が低くなりすぎて飛距離が出なくなることがある。
【0039】
内層コア及びコア(コア全体)は、R&Aの承認する装置であるUSGAのドラム回転式の初速計と同方式の初速測定器を用いて、その初速を測定することができる。この場合、コアは23.9±1℃の温度で3時間以上温度調節し、室温23.9±2℃の部屋でテストすることができる。コア全体の初速から内層コアの初速を引いた値は、好ましくは1.0m/s以上、より好ましくは1.3m/s以上、さらに好ましくは1.6m/s以上であり、上限値としては、好ましくは2.5m/s以下、より好ましくは2.0m/s以下である。上記値が小さくなりすぎると、低ヘッドスピードでのドライバー(W#1)打撃時やアイアンショット時の実打初速が低くなり、狙いの飛距離が出なくなることがある。逆に、上記値が大きくなりすぎると、ボール全体としての初速がルール上限値に近いところに設定できなくなり、全ての打撃条件で飛距離が出なくなることがある。
【0040】
本発明で用いられるカバーは少なくとも1層有するものであり、2層以上に形成することができる。
【0041】
カバーの各層の材料については、ゴルフボールのカバー材として使用される各種の熱可塑性樹脂材料を主材として形成することができ、特に、アイオノマー樹脂を主材とする樹脂組成物や下記の高中和型樹脂材料を採用することが好適である。
【0042】
高中和型樹脂材料とは、下記(a)及び(b)成分
(a)オレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物、
(b)オレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物
を特定量配合したベース樹脂を必須成分とする酸含量樹脂材料である。
【0043】
上記(a)成分と上記(b)成分は、市販品を使用してもよく、例えば、(a)成分のランダム共重合体として、ニュクレルN1560、同N1214、同N1035、同AN4221C(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)等を、(b)成分のランダム共重合体として、例えば、ニュクレルAN4311、同AN4318、同AN4319(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)等を挙げることができる。
【0044】
また、(a)成分のランダム共重合体の金属イオン中和物として、例えば、ハイミラン1554、同1557、同1601、同1605、同1706、同AM7311(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン7930(DuPont社製)等を、(b)成分のランダム共重合体の金属イオン中和物として、例えば、ハイミラン1855、同1856、同AM7316(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン6320、同8320、同9320、同8120(いずれもDuPont社製)等をそれぞれ挙げることができる。上記ランダム共重合体の金属イオン中和物として好適なナトリウム中和型アイオノマー樹脂としては、ハイミラン1605、同1601、同1555等を挙げることができる。
【0045】
上記ベース樹脂の調製に際しては、(a)成分と(b)成分との配合を質量比で通常100:0〜0:100とすることができる。また、(a)成分と(b)成分との全量に対する(b)成分の割合を、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、最も好ましくは70質量%とすることができる。
【0046】
上記ベース樹脂には、打撃時のフィーリング、反発性をより一層向上させるために、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマーを配合することができる。この(e)成分の具体例としては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等を挙げることができる。本発明では、反発性をより高めることができる点から、ポリエステル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、特に、結晶性ポリエチレンブロックをハードセグメントとして含む熱可塑性ブロック共重合体からなるオレフィン系エラストマーを好適に使用することができる。
【0047】
上記(e)成分は、市販品を使用してもよく、具体的には、ダイナロン(JSR社製)、ポリエステル系エラストマーとして、ハイトレル(東レ・デュポン社製)等を挙げることができる。
【0048】
上記(e)成分の配合量は0質量部以上とすることができる。また、配合量の上限は特に制限されないが、好ましくは上記ベース樹脂100質量部に対して100質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは50質量部以下、最も好ましくは40質量部以下とすることができる。(e)成分の配合量が多すぎると、混合物の相溶性が低下し、ゴルフボールの耐久性が著しく低下する可能性がある。
【0049】
次に、上記ベース樹脂に(c)成分として、分子量228以上1500以下の脂肪酸又はその誘導体を配合することができる。この(c)成分は、上記ベース樹脂と比較して分子量が極めて小さいものであり、混合物の溶融粘度を適度に調整し、特に流動性の向上に寄与する成分である。また、上記(c)成分は、比較的高含量の酸基(誘導体)を含み、反発性の過度の損失を抑制できる。
【0050】
上記(c)成分の配合量は、上記(a)成分、(b)成分及び(e)成分を適宜配合した樹脂成分100質量部に対して、5質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは18質量部以上とすることができる。また、配合量の上限は、100質量部以下とすることができ、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下とすることができる。(c)成分の配合量が少なすぎると、溶融粘度が低くなり加工性が低下することがあり、多すぎると耐久性が低下することがある。
【0051】
(d)成分として、上記ベース樹脂及び(c)成分中の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物を加えることができる。(d)成分の配合により、上記ベース樹脂と(c)成分中の酸基が中和され、これら各成分配合による相乗効果により、樹脂組成物の熱安定性が高まると同時に、良好な成形性が付与され、成形物の反発性が向上することができる。
【0052】
上記(d)成分の配合量は、上記樹脂成分100質量部に対して、0.1質量部以上とすることができ、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上とすることができる。また、配合量の上限は、17質量部以下とすることができ、好ましくは15質量部以下、より好ましくは13質量部以下、更に好ましくは10質量部以下とすることができる。(d)成分の配合量が少なすぎると、熱安定性、反発性の向上が見られず、多すぎると過剰の塩基性無機金属化合物によりゴルフボール用材料の耐熱性がかえって低下することがある。
【0053】
上述したように(a)成分及び(b)成分を所定量配合したベース樹脂と、任意成分の(e)成分を配合した樹脂成分に対し、所定量の(c)成分と(d)成分とをそれぞれ配合することにより、熱安定性、流動性、成形性に優れる材料とすることができ、更に成形物の反発性を飛躍的に向上させることができる。
【0054】
上述した樹脂成分、(c)成分及び(d)成分を所定量配合した材料は、中和度が高い(高中和化されている)ことが推奨され、具体的には、材料中の酸基の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上が中和されていることが推奨される。材料中の酸基を高中和化することにより、上述した従来技術のベース樹脂と脂肪酸(誘導体)のみを使用した場合に問題となる交換反応をより確実に抑制し、脂肪酸の発生を防ぐことができる上、熱的安定性が著しく向上し、成形性が良好で、従来のアイオノマー樹脂と比較して反発性に非常に優れた成形物を得ることができる。
【0055】
ここで、中和度とは、ベース樹脂と(c)成分の脂肪酸(誘導体)の混合物中に含まれる酸基の中和度であり、ベース樹脂中のランダム共重合体の金属イオン中和物としてアイオノマー樹脂を使用した場合におけるアイオノマー樹脂自体の中和度とは異なる。中和度が同じ混合物と、同中和度のアイオノマー樹脂のみとを比較した場合、混合物は、(d)成分が配合されていることにより非常に多くの金属イオンを含むため、反発性の向上に寄与するイオン架橋が高密度化し、成形物に優れた反発性を付与できる。
【0056】
上記の高中和型樹脂材料には、任意の添加剤を用途に応じて適宜配合することができる。例えば、顔料,分散剤,老化防止剤,紫外線吸収剤,光安定剤などの各種添加剤を加えることができる。これら添加剤を配合する場合、その配合量としては、上記(a)〜(e)成分の総和100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、上限として、好ましくは10質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。
【0057】
本発明においては用いられるカバーが1層以上であり、特に、中間層及び外層の2層以上であることが好ましい。2層以上のカバーである場合、内軟外硬型のカバー構造や内硬外軟型のカバー構造も含まれる。即ち、中間層が外層よりも硬くても軟らかくても本発明の範囲に含まれる。しかしながら、本発明では、カバーの各層にうち最も硬い層の材料硬度がショアD硬度で56以上であり、この最も硬い層の表面硬度からコア全体の表面硬度を引いた値がショアD硬度で2以上とすることにより、ドライバーからアイアンまでのフルショット領域で、良好な飛距離を得ることができ、且つ、ソフトで心地よい打感を得ることができるものである。
【0058】
カバーの各層にうち最も硬い層の材料硬度は、ショアD硬度で56以上であり、好ましくは59以上、より好ましくは61以上、更に好ましくは62以上、上限として、好ましくは70以下、より好ましくは68以下、更に好ましくは65以下である。
【0059】
また、カバーの各層にうち最も硬い層の表面硬度、即ち、該最も硬い層を被覆した球体の表面硬度は、ショアD硬度で好ましくは62以上、より好ましくは65以上、更に好ましくは68以上、上限として、好ましくは76以下、より好ましくは74以下、更に好ましくは71以下である。上記の最も硬い層の表面硬度からコア全体の表面硬度を引いた値がショアD硬度で2以上であり、好ましくは6以上、より好ましくは10以上である。この値が小さすぎると、ドライバー(W#1)でフルショットした時のスピンが増え、飛距離が十分に伸びなくなる。
【0060】
ここで、本発明の用いられるカバーが中間層と外層とを含む場合、中間層及び外層の構成について以下に詳述する。
【0061】
中間層の材料硬度は、ショアD硬度で、好ましくは40以上、より好ましくは44以上、更に好ましくは47以上、上限として、好ましくは65以下、より好ましくは60以下、更に好ましくは55以下である。また、コアに中間層を被覆した球体の表面硬度(以下、「中間層被覆球体」と称す。)は、ショアD硬度で、好ましくは46以上、より好ましくは50以上、更に好ましくは53以上であり、上限として、好ましくは71以下、より好ましくは66以下、更に好ましくは61以下である。上記範囲よりも軟らかすぎると、ドライバー(W#1)やアイアンフルショット時にスピンが多くなり過ぎて、狙いの飛距離が出なくなることがある。また、上記範囲よりも硬すぎると、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなり、または打感が硬くなりすぎることがある。
【0062】
中間層の厚さは、好ましくは0.7mm以上、より好ましくは1.0mm以上、更に好ましくは1.2mm以上であり、上限として、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.5mm以下、更に好ましくは1.3mm以下である。上記の範囲を逸脱すると、ドライバー(W#1)打撃での低スピン効果が足りずに飛距離が出なくなることがある。
【0063】
中間層被覆球体の特定荷重負荷時のたわみ量、即ち、中間層被覆球体に対して、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量(以下、「中間層被覆球体たわみ量Q」とも言う)は、好ましくは3.3mm以上、より好ましくは3.5mm以上、更に好ましくは3.7mm以上であり、上限として、好ましくは5.2mm以下、より好ましくは4.7mm以下、更に好ましくは4.2mm以下である。この値が小さすぎると、打感が硬くなりすぎ、ドライバー(W#1)により低ヘッドスピードで打撃する時やアイアン打撃時にスピンが多くなり飛距離が出なくなることがある。逆に、上記値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなり、或いはボールとしての初速がルール上限付近に及ばなくなり、全てのショット打撃時に初速が低くなり、飛距離が出なくなることがある。
【0064】
上記の中間層の樹脂材料としては、特に、上述した高中和型樹脂材料を採用することが好適である。
【0065】
一方、外層の材料硬度は、ショアD硬度で、好ましくは56以上、より好ましくは59以上、更に好ましくは61以上、上限として、好ましくは70以下、より好ましくは68以下、更に好ましくは65以下である。また、上記中間層被覆球体に外層を被覆した球体の表面硬度(以下、「ボールの表面硬度」とも言う。)は、ショアD硬度で、好ましくは62以上、より好ましくは65以上、更に好ましくは68以上であり、上限として、好ましくは76以下、より好ましくは74以下、更に好ましくは71以下である。上記範囲よりも軟らかすぎると、ドライバー(W#1)やアイアンフルショット時にスピンが多くなり過ぎて、狙いの飛距離が出なくなることがある。また、上記範囲よりも硬すぎると、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなり、または打感が硬くなりすぎることがある。
【0066】
外層の厚さは、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1.0mm以上、更に好ましくは1.2mm以上であり、上限として、好ましくは1.7mm以下、より好ましくは1.5mm以下、更に好ましくは1.3mm以下である。上記の範囲を逸脱すると、ドライバー(W#1)打撃での低スピン効果が足りずに飛距離が出なくなることがある。
【0067】
外層の樹脂材料としては、特にアイオノマー樹脂を採用することが好適であり、アイオノマー樹脂としては市販品を用いることができる。更に、外層の樹脂材料として、市販品のアイオノマー樹脂のうち酸含量16%以上の高酸含量アイオノマー樹脂を採用し、この高酸含量アイオノマー樹脂をカバーの材料全量の好ましくは25質量%以上、より好ましくは50質量%以上含ませることであり、これにより高反発性且つ低スピン化によるドライバー(W#1)打撃時の飛距離を良好に得ることができる。
【0068】
上述したコア,中間層及び外層の各層を積層して形成されたマルチピースソリッドゴルフボールの製造方法については、公知の射出成形法等の常法により行なうことができる。例えば、コアの周囲に、中間層材料を射出して中間層被覆球体を得、次いで、外層の材料を射出成形することによりマルチピースのゴルフボールを得ることができる。また、各被覆層として、予め半殻球状に成形した2枚のハーフカップで該被覆球体を包み加熱加圧成形することによりゴルフボールを作製することもできる。
【0069】
上記中間層被覆球体に外層を被覆した球体の特定荷重負荷時のたわみ量、即ち、ボール全体に対して、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量(以下、「ボールたわみ量R」とも言う)は、好ましくは2.7mm以上、より好ましくは2.8mm以上、更に好ましくは2.9mm以上であり、上限として、好ましくは4.0mm以下、より好ましくは3.5mm以下である。この値が小さすぎると、打感が硬くなりすぎ、ドライバー(W#1)により低ヘッドスピードで打撃する時やアイアン打撃時にスピンが多くなり飛距離が出なくなることがある。逆に、上記値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなり、或いはボールとしての初速がルール上限付近に及ばなくなり、全てのショット打撃時に初速が低くなり、飛距離が出なくなることがある。
【0070】
上記のボールは、上述した内層コアやコアの初速と同様の初速測定器及び条件により、その初速を測定することができる。この場合、ボールの初速は、好ましくは76.5m/s以上、より好ましくは76.8m/s以上、さらに好ましくは77.0m/s以上であり、上限値としては、好ましくは77.724m/s以下である。ボールの初速が上記範囲を超えると、R&A規格オーバーとなり公認球として認められなくなる。逆に、ボールの初速が上記範囲より小さすぎると、全ての打撃条件にて初速が低くなり、飛距離が出なくなることがある。
【0071】
また、本発明のゴルフボールは、以下の要件を満たすことが好適である。
中間層被覆球体の表面硬度からコア表面硬度を引いた値は、ショアD硬度で、好ましくは−2〜20、より好ましくは0〜14、さらに好ましくは1〜7である。上記の値が小さすぎると、フルショットした時のスピンが増え、飛距離が出なくなることがある。また、上記の値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなり、または打感が悪くなることがある。
【0072】
ボール表面硬度からコア表面硬度を引いた値は、ショアD硬度で、好ましくは−2〜20、より好ましくは3〜17、さらに好ましくは8〜15である。上記の値が小さすぎると、フルショットした時のスピンが増え、飛距離が出なくなることがある。また、上記の値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなり、または打感が悪くなることがある。
【0073】
ボール表面硬度から中間層被覆球体の表面硬度を引いた値は、ショアD硬度で、好ましくは−35〜40、より好ましくは0より大きく25以下、さらに好ましくは5〜15である。上記の値が小さすぎると、ボール全体としての初速がルール上限値に近いところに設定できにくくなり、全ての打撃条件で飛距離が出なくなることがある。また、上記の値が大きすぎると、繰り返し打撃における割れ耐久性が悪くなることがある。
【0074】
コア全体たわみ量Pと中間層被覆球体たわみ量Qとボールたわみ量Rとの合計の値は、好ましくは10〜13.5mm、より好ましくは10.5〜13mm、さらに好ましくは11〜12.5mmである。この値が小さすぎると、打感が硬くなりすぎ、またはドライバー(W#1)で低ヘッドスピードでの打撃時やアイアン打撃時にスピンが多くなり飛距離が出なくなることがある。また、上記値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなり、またはボールとしての初速がルール上限付近に及ばなくなり、全てのショット打撃時に初速が低くなり、飛距離が出なくなることがある。
【0075】
また、内層コアたわみ量Tとボールたわみ量Rとの差、T−Rの値は、好ましくは1.9〜5.3mm、より好ましくは2.3〜4.9mm、さらに好ましくは2.8〜4.5mmである。上記の値が小さすぎると、フルショット時のスピンが増えて飛距離が出なくなることがある。また、上記の値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0076】
内層コアの初速をV1(m/s)、内層コアを外層コアで被覆した球体(コア全体)の初速をV2(m/s)、コアに中間層を被覆した球体(中間層被覆球体)の初速をV3(m/s)、ボールの初速をV4(m/s)とするとき、V4>V3≧V2>V1が成立することが好適である。上記の各球体における初速の関係式を逸脱する場合、ドライバー(W#1)で低ヘッドスピード領域及びアイアンショットでの飛距離が優位なボールが設計できなくなるおそれがある。
【0077】
中間層被覆球体の初速V3からコア全体の初速V2を引いた値は、好ましくは0m/s以上であり、より好ましくは0.1〜1.0m/s、さらに好ましくは0.2〜0.5m/sである。上記の値が小さすぎると、フルショットした時のスピンが増え、飛距離が出なくなることがある。また、上記の値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなり、または打感が悪くなることがある。
【0078】
ボールの初速V4から中間層被覆球体の初速V3を引いた値は、好ましくは−1〜1.0m/s、より好ましくは−0.4〜0.7m/s、さらに好ましくは0.2〜0.5m/sである。上記の値が小さすぎると、ボール全体としての初速がルール上限値に近いところに設定し難くなることと、及びフルショットした時のスピンが増え、飛距離が出なくなることがある。また、上記の値が大きすぎると、繰り返し打撃における割れ耐久性が悪くなることがある。
【0079】
中間層の厚さから外層の厚さを引いた値は、好ましくは−0.5〜1.0mm、より好ましくは−0.3〜0.6mm、さらに好ましくは−0.1〜0.3mmである。上記の値が小さすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。また、上記の値が大きすぎると、フルショット時のスピンが増えて、飛距離が出なくなることがある。
【0080】
なお、上記カバー(最外層)の外表面には多数のディンプルを形成することができる。カバーの外表面に配置されるディンプルについては、好ましくは250個以上、より好ましくは270個以上、更に好ましくは300個以上であり、上限としては、好ましくは370個以下、より好ましくは350個以下、更に好ましくは340個以下具備することができる。ディンプルの個数が上記範囲より多くなると、ボールの弾道が低くなり、飛距離が低下することがある。逆に、ディンプル個数が少なくなると、ボールの弾道が高くなり、飛距離が伸びなくなる場合がある。
【0081】
ディンプルの形状については、円形、楕円形、各種多角形、デュードロップ形、その他非円形など1種類又は2種類以上を組み合わせて適宜使用することができる。例えば、円形ディンプルを使用する場合には、直径は2.5〜6.5mm以下程度、深さは0.08〜0.30mm以下とすることができる。
【0082】
ディンプルの形状が非円形の場合、例えば以下の手法をとることができる。隣接する2つのボール表面上のディンプル以外の部分(以下、「陸部」という)については、互いに頂点同士で接することができる。また、略凹多角形の陸部が有する全ての頂点または一部の頂点で、隣接する陸部と接することができる。陸部の外周の長さは、1.6mmから19.4mmとすることができ、ディンプルの外周の長さは、3.2〜38.8mmとすることができる。また、上記ディンプルの表面は、その全面を滑らかな曲面とすることができる。ディンプルの1個が、4つ以上の上記陸部と接するように配置することができる。ディンプルの1個が、6つ以下の上記陸部と接するように配置することができる。陸部の数は、434〜863個とすることができる。陸部は、三角形の内側に接する形状とすることができる。
【0083】
ディンプルがゴルフボールの球面に占めるディンプル占有率、具体的には、ディンプルの縁に囲まれた平面の面縁で定義されるディンプル面積の合計が、ディンプルが存在しないと仮定したボール球面積に占める比率(SR値)については、空気力学特性を十分に発揮し得る点から60〜90%であることが望ましい。また、各々のディンプルの縁に囲まれた平面下のディンプルの空間体積を、前記平面を底面とし、かつこの底面からのディンプルの最大深さを高さとする円柱体積で除した値V0は、ボールの弾道の適正化を図る点から0.35〜0.80とすることが好適である。更に、ディンプルの縁に囲まれた平面から下方に形成されるディンプル容積の合計がディンプルが存在しないと仮定したボール球容積に占めるVR値は、0.6〜1.0%とすることが好ましい。上述した各数値の範囲を逸脱すると、良好な飛距離が得られない弾道となり、十分満足した飛距離を出せない場合がある。
【0084】
また、所望の飛距離増大効果を得るには、抗力係数CD又は揚力係数CLを適宜調整すること、特に、高速条件では抗力係数CDを低く設定することが良く、また、低速条件では揚力係数CLを高く設定することが良いとされている。具体的には、打球の弾道上の最高点に達する直前のレイノルズ数70000,スピン量2000rpmのときの揚力係数CLが、それより少し前のレイノルズ数80000,スピン量2000rpmのときの揚力係数CLに対して好ましくは70%以上、より好ましくは75%保持されていることが好ましい。更に、打球の打出し直後におけるレイノルズ数180000,スピン量2520rpmのとき、抗力係数CDが0.225以下であることが望ましい。
【0085】
本発明のゴルフボールは、競技用としてゴルフ規則に従うものとすることができ、ボール外径としては42.672mm内径のリングを通過しない大きさで42.80mm以下、重さとしては、好ましくは45.0〜45.93gに形成することができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0087】
〔実施例1〜4、比較例1〜5〕
コアの形成
表1に示す配合のゴム組成物を155℃で15分間加硫した後、内層コアを作成した。次いで、表2に示す配合のゴム組成物を未加硫状態でシート状にして一対の外層コア用シートを作成し、該シートを半球状突部が設けられた半型により型押した。その後、上記外層コア用シートが金型のキャビティに沿って型押しされた未加硫ゴムを内層コアに被せて155℃で15分間加硫した後、内外層からなる2層コアを作成した。なお、比較例4は、表1に示す配合のゴム組成物を155℃で15分間加硫した単層コアである。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
上記コア材料の詳細は下記のとおりである。なお、表中の数字は質量部を示す。
「ポリブタジエン I」JSR社製、商品名「BR01」
「ポリイソプレンゴム」JSR社製、商品名「IR2200」
「ポリブタジエン II」JSR社製、商品名「BR51」
「有機過酸化物(1)」ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」(日油社製)「有機過酸化物(2)」1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンとシリカの混合物、商品名「パーヘキサC−40」(日油社製)
「老化防止剤」2,2−メチレンビス(4−メチル−6−ブチルフェノール)、商品名「ノクラックNS−6」(大内新興化学工業社製)
「硫酸バリウム」商品名「バリコ#300」(ハクスイテック社製)
「酸化亜鉛」商品名「酸化亜鉛3種」(堺化学工業社製)
「ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩」ZHEJIANG CHO & FU CHEMICAL社製
【0091】
中間層及びカバーの形成
次に、表3に示すNo.1の配合を中間層用樹脂材料として、該樹脂材料を上記で得たコアの周囲に射出成形法して、中間層被覆球体を得た。次に、表3に示すNo.2又はNo.4の配合を外層用樹脂材料として、該樹脂材料を上記で得た中間層被覆球体の周囲に射出成形することにより、各実施例及び比較例のマルチピースソリッドゴルフボールを得た。
【0092】
【表3】
【0093】
なお、表中に記載した主な材料の商品名は以下の通りである。
「AM7318」,「AM7327」:三井デュポンポリケミカル社のアイオノマー
「サーリン7930」,「サーリン6320」,「サーリン9320」:Dupont社製のアイオノマー
「AN4318」,「AN4221C」:三井・デュポンポリケミカル社製の「(商標)ニュクレル」
【0094】
この際、各実施例、比較例のカバー表面には、図1(A)〜(C)に示したディンプルを形成した。このディンプルの詳細については表4に示した。
【0095】
【表4】
【0096】
なお、Type−Cのディンプルについて説明すると、図1(C)で示されるように、Type−Cのディンプルは、星形の陸部によって囲まれた特殊形状のディンプルである。即ち、5個の星形陸部に囲まれて形成される非円形ディンプルが12個と、6個の星形陸部に囲まれて形成される非円形ディンプルが314個との計326個のディンプルにより構成される。星形陸部の総数は648個であり、星形陸部の面積は、星型状が5個の部分は0.5〜0.7mm2で平均0.65mm2であり、星型状が6個の部分は0.65〜1.0mm2で平均0.9mm2である。
【0097】
ディンプルの定義
直径: ディンプルの縁に囲まれた平面の直径
深さ: ディンプルの縁に囲まれた平面からのディンプルの最大深さ
SR: ディンプルの縁に囲まれた平面で定義されるディンプル面積の合計が、ディンプルが存在しないと仮定したボール球面積に占める比率(単位:%)
【0098】
空気力学特性(低速CL比・高速CD値)
低速CL比は、UBL(Ultra Ball Launcher)を用いて打ち出し直後の軌道上のボールからレイノルズ数80000,スピン量2000rpm時のボールの揚力係数CLに対するレイノルズ数70000,スピン量2000rpmのときの揚力係数CLの比率を算出した。同様に、高速CD値は、レイノルズ数180000,スピン量2520rpmにてボールを打出した時の抗力係数を求めたものである。
【0099】
上記の「UBL」とは上下に2対のドラムを設置し上同士、下同士のドラムにベルトをかけ、それらを回転させその間にボールを挿入することによりボールを所望の条件にて打ち出す装置である。UBLはAutomated Design Corporation製。
【0100】
得られた各ゴルフボールにつき、コア硬度分布、各層の厚さ、材料硬度及び表面硬度、各たわみ量等の諸物性を下記の方法で計測し、表5に示す。
【0101】
コアの中心硬度(Cc)(JIS−C硬度)
コアを半分に(中心を通るように)切断して得た断面の中心の硬度を計測した。JIS−C硬度は、JIS K 6301−1975に規定するスプリング式硬度計(JIS−C形)により計測した。また、コアの中心硬度については、ショアD硬度(ASTM D2240−95規格に準拠したタイプDデュロメータ)で計測した。
【0102】
コアの表面硬度(Cs)(JIS−C硬度)
球状のコアの表面に対して針を垂直になるように押し当てて計測した。JIS−C硬度は、JIS K 6301−1975に規定するスプリング式硬度計(JIS−C形)により計測した。また、コアの表面硬度については、ショアD硬度(ASTM D2240−95規格に準拠したタイプDデュロメータ)で計測した。
【0103】
コアの所定位置における断面硬度(JIS−C硬度)
(1)コア中心から5mm外側の位置の断面硬度(Cc+5)については、コアを半分に(中心を通るように)切断して得た断面の中心から5mm外側の位置の硬度を、JIS K 6301−1975に規定するスプリング式硬度計(JIS−C形)により測定した。
(2)コア表面から5mm内側の位置の断面硬度(Cs−5)については、コアを半分に(中心を通るように)切断して得た断面の表面から5mm内側の位置の硬度を、上記硬度計(JIS−C形)により測定した。
【0104】
外径
内層コア、コア全体、中間層被覆球体について、23.9±1℃の温度で、任意の表面5箇所を測定し、その平均値を1個の各球体の測定値とし、測定個数10個の各球体の平均値を求めた。ボールの直径については、任意のディンプルのない部分を15箇所測定し、その平均値を1個のボールの測定値とし、測定個数10個のボールの平均値を求めた。
【0105】
たわみ量(mm)
内層コア(T)、コア全体(P)、中間層被覆球体(Q)及びボール(R)について、23±1℃の温度で、50mm/分の速度で圧縮し、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)に負荷した時までのたわみ量(mm)を計測し、測定個数10個の平均値を求めた。
【0106】
中間層及びカバーの材料硬度
中間層及びカバーの樹脂材料を厚さ2mmのシート状に成形し、2週間以上放置した。その後、ショアD硬度はASTM D2240−95規格に準拠して計測した。
【0107】
コア、各被覆球体、ボールの表面硬度(ショアD硬度)
コア、各被覆球体又はボール(外層)の表面に対して針を垂直になるように押し当てて計測した。なお、ボール(外層)の表面硬度は、ボール表面においてディンプルが形成されていない陸部における測定値である。ショアD硬度はASTM D2240−95規格に準拠したタイプDデュロメータによって計測した。
【0108】
内層コア、コア全体、中間層被覆球体及びボールの初速
R&Aの承認する装置であるUSGAのドラム回転式の初速計と同方式の初速測定器を用いて測定した。内層コア、コア全体、中間層被覆球体及びボールを23.9±1℃環境下で3時間以上温度調整した後、室温23.9±2℃の部屋でテストした。250ポンド(113.4kg)のヘッド(ストライキングマス)を用いて打撃速度143.8ft/s(43.83m/s)にて各対象球体を打撃し、1ダースのボールを各々4回打撃して6.28ft(1.91m)の間を通過する時間を測定し、初速(m/s)を算出した。約15分間でこのサイクルを行なった。
【0109】
【表5】
【0110】
そして、各実施例、比較例のゴルフボールの飛び性能(W#1及びI#6)及び打感を下記の基準に従って評価した。その結果を表6に示す。
【0111】
飛び評価(W#1打撃)
ゴルフ打撃ロボットにドライバー(W#1)をつけてヘッドスピード(HS)35m/s及び30m/sでそれぞれ打撃した時の飛距離を測定し、下記基準により評価した。クラブはブリヂストン社製「PHYZドライバー」(ロフト10.5°)を使用した。また、スピン量は同様に打撃した直後のボールを初期条件計測装置により測定した。
〔HS35m/sの判定基準〕
トータル飛距離177.0m以上 ・・・・ ○
トータル飛距離177.0m未満 ・・・・ ×
〔HS30m/sの判定基準〕
トータル飛距離128.0m以上 ・・・・ ○
トータル飛距離128.0m未満 ・・・・ ×
【0112】
アイアン(I#6)打撃時の飛び評価
ゴルフ打撃ロボットに6番アイアン(I#6)をつけてヘッドスピード34m/sにて打撃した時の飛距離を測定した。
〔判定基準〕
トータル飛距離135.0m以上 ・・・・ ○
トータル飛距離135.0m未満 ・・・・ ×
【0113】
打感
ドライバー(W#1)のヘッドスピード(HS)が25〜38m/sのアマチュアゴルファーによる実打における官能評価を行い、下記基準により評価した。
〔判定基準〕
良好な打感と評価した人が10人中6人以上 ・・・・ ○
良好な打感と評価した人が10人中5人以下 ・・・・ ×
なお、上記の「良好な打感」とは、適度な軟らかさと弾き感が感じられるものをいう。
【0114】
【表6】
【0115】
表6から各比較例は本発明(実施例)よりも下記の点で劣る結果となった。
比較例1は、内層コアを外層コアで被覆した球体の初速から内層コアの初速を引いた値が1m/s以内のものであり、その結果、ドライバー(W#1)でヘッドスピード(HS)30m/s及び6番アイアン(I#6)の打撃条件で飛距離が劣る。
比較例2は、ボール製品の特定荷重負荷時のたわみ量が2.7mmより小さい(硬い)ものであり、その結果、スピンが多くなり、ドライバー(W#1)でヘッドスピード(HS)30m/s及び6番アイアン(I#6)の打撃条件で飛距離が劣り、打感も悪くなる。
比較例3は、ボール製品の特定荷重負荷時のたわみ量が2.7mmより小さい(硬い)ものであり、その結果、スピンが多くなり、ドライバー(W#1)でヘッドスピード(HS)30m/s及び6番アイアン(I#6)の打撃条件で飛距離が劣り、打感も悪くなる。
比較例4は、コアが単層であり、その結果、スピンが多くなり、ドライバー(W#1)でヘッドスピード(HS)30m/s及び6番アイアン(I#6)の打撃条件で飛距離が劣る。
比較例5は、最も硬い層の材料硬度が56より軟らかく、且つ、カバー各層のうち最も硬い中間層の表面硬度よりもコア表面硬度がショアD硬度で2未満であるものであり、その結果、スピンが多くなるとともに初速が低くなり、全ての打撃条件で飛距離が劣る。
図1