(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、以下の構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0011】
まず、
図1を参照して、実施形態の車両用制動制御装置であるECU(Electronic Control Unit)50を搭載する車両の概略構成について説明する。
図1は、実施形態の車両用制動制御装置であるECU50を搭載する車両の概略構成を示す図である。
【0012】
図1に示すように、車両には、車両を走行させるための駆動力発生装置11と、前輪FR,FLを転舵輪として転舵させるための操舵装置12と、各車輪FL,FR,RL,RR(以下、符号を省略して単に「車輪」という場合もある。)に制動力を付与するための制動装置13とが設けられている。
【0013】
駆動力発生装置11には、運転者によるアクセルペダル20の操作量、即ちアクセル開度に基づいた駆動力を発生するエンジン21と、エンジン21の出力軸に接続された自動変速機22とが設けられている。また、駆動力発生装置11には、アクセル開度を検出するためのアクセル開度センサSE1が設けられている。そして、エンジン21から出力された駆動力は、自動変速機22からディファレンシャルギヤ23に伝達され、ディファレンシャルギヤ23から駆動輪である前輪FR,FLに配分される。
【0014】
なお、車両には、運転者によって操作されるシフト装置25が設けられている。シフト装置25のレンジが前進レンジである場合、自動変速機22からは、車両を前進させる方向の駆動力が出力される。一方、シフト装置25のレンジが後進レンジである場合、自動変速機22からは、車両を後進させる方向の駆動力が出力される。こうした前進レンジであるか又は後進レンジであるかなどのシフト情報は、制動装置13を制御する車両用制動制御装置としてのECU50に送信される。
【0015】
操舵装置12には、運転者によって操舵されるステアリング30が固定されたステアリングシャフト31と、ステアリングシャフト31に連結された転舵アクチュエータ32とが設けられている。また、操舵装置12には、転舵アクチュエータ32により車両の左右方向に移動自在なタイロッドと、タイロッドの移動により前輪FL,FRを転舵させるリンクとを含んだリンク機構部33が設けられている。また、操舵装置12には、ステアリング30の操舵角に応じた検出信号をECU50に出力する操舵角センサSE2が設けられている。なお、操舵角センサSE2からは、例えば、車両を右方向に旋回させる場合には操舵角が正の値となるような検出信号を出力し、車両を左方向に旋回させる場合には操舵角が負の値となるような検出信号を出力する。
【0016】
制動装置13には、運転者によるブレーキペダル40の操作力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧発生装置41と、車輪FR,FL,RR,RL毎に個別に設けられたブレーキ装置42a,42b,42c,42dに連結されたブレーキアクチュエータ43とが設けられている。また、制動装置13には、運転者によるブレーキペダル40の操作状況(オンかオフか)に応じた検出信号をECU50に出力するブレーキスイッチSW1が設けられている。
【0017】
ブレーキアクチュエータ43は、運転者がブレーキペダル40を操作しない場合であっても各車輪FR,FL,RR,RLに対して制動力を付与できるように構成されている。例えば、ブレーキアクチュエータ43は、液圧発生装置41側のブレーキ液圧と、ブレーキ装置42a,42b,42c,42dに設けられたホイールシリンダ内のブレーキ液圧との間に差圧を発生させるための差圧調整弁と、ホイールシリンダ内にブレーキ液を供給するための電動ポンプとを備えている。また、ブレーキアクチュエータ43には、各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を個別に調整するための各種弁が設けられている。つまり、本実施形態のブレーキアクチュエータ43は、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を個別に調整可能である。
【0018】
また、ECU50には、アクセル開度センサSE1、操舵角センサSE2、ブレーキスイッチSW1に加え、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE3,SE4,SE5,SE6が電気的に接続されている。また、ECU50には、車両の前後方向における加速度(以下、「前後方向加速度」という。)を検出するための前後方向加速度センサSE7と、車両の横方向(車幅方向)における加速度(以下、「横方向加速度」という。)を検出するための横方向加速度センサSE8と、車両のヨーレートを検出するためのヨーレートセンサSE9とが電気的に接続されている。
【0019】
なお、前後方向加速度センサSE7からは、車両の走行する路面が水平路である場合において、車両が加速するときには前後方向加速度が正の値となるような検出信号が出力され、車両が減速するときには前後方向加速度が負の値となるような検出信号が出力される。また、車両が降坂路で停車する場合、車両の重心が前側に移動するため、前後方向加速度センサSE7からの検出信号に基づき算出される前後方向加速度は負の値となる。
【0020】
また、横方向加速度センサSE8及びヨーレートセンサSE9からは、車両が右方向に旋回する場合には、車両の横方向加速度及びヨーレートが正の値となる一方、車両が左方向に旋回する場合には、車両の横方向加速度及びヨーレートが負の値となるような検出信号がそれぞれ出力される。
【0021】
また、本実施形態のECU50は、左右同数の車輪を有し、各車輪に車輪と共に回転する回転部材(例えばブレーキディスク)に対して押圧される摩擦部材(例えばブレーキパッド)が設けられている車両(例えば四輪車)に適用される。
【0022】
車両における制動時の鳴きは、例えば、ブレーキパッドとブレーキディスクとの間の摩擦を起因とする振動による音である。具体的には、ブレーキディスクにブレーキパッドが接触する場合の不均一な接触により微振動が発生し、これが原因となって自励振動が生じ、その自励振動が周辺部材にも伝達されることによって、鳴きが発生する。
【0023】
また、この鳴きは、ブレーキパッドやブレーキディスクの表面状態(摩耗具合等)、ブレーキディスクに対するブレーキパッドの押圧力、車両の速度、温度、湿度等の複数の要因により、発生の有無や、発生する場合の音の種類(「キー」、「ゴー」等)や、大きさが変わる。したがって、どのような状況下でどのような鳴きが発生するのかを推定するのは容易ではない。また、上述したように、特に降坂路では、制動によって鳴きが発生することが多い。そこで、本実施形態では、鳴きの発生源を低減することで、降坂路における車両の制動による鳴きを抑制する。また、以下では、駐車支援制御を行う場合を例にとって説明するが、適用場面はこれに限定されない。
【0024】
ECU50は、車両に搭載されたいずれかのシステムのECUに組み込まれてもよいし、独立したECUであってもよい。ECU50は、不図示のCPU(Central Processing Unit)、コントローラ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等を有することができる。ECU50は、インストールされ、ロードされたプログラムにしたがって処理を実行し、各機能を実現することができる。
【0025】
ECU50は、処理部510と、記憶部520と、を備える。処理部510は、取得部511、駐車支援制御部512、勾配判定部513、制動制御部514を備える。つまり、ECU50は、プログラムにしたがって処理が実行されることにより、取得部511、駐車支援制御部512、勾配判定部513、制動制御部514等として機能することができる。また、記憶部520には、各部の演算処理で用いられるデータや、演算処理の結果のデータ等が記憶される。なお、上記各部の機能の少なくとも一部は、ハードウエアによって実現されてもよい。
【0026】
取得部511は、各センサSE1〜SE9、ブレーキスイッチSW1等からデータ(信号)を取得する。
【0027】
駐車支援制御部512は、駐車支援制御時に、車両が制御区間の始点位置から終点位置まで移動するように、駆動力発生装置11と制動装置13(以下、両者を総称して「制御対象」ともいう。)を制御する。なお、駐車支援制御部512は、制動装置13を制御する場合は、制動制御部514を用いる。
【0028】
駐車支援制御部512は、フィードバック制御を含む制御によって、制御対象を制御する。フィードバック制御は、目標値と実値との偏差を小さくする制御である。なお、駐車支援制御部512は、フィードバック制御の他に、フィードフォワード制御や、いわゆる外乱オブザーバ等の他の制御を併せて実行してもよい。
【0029】
駐車支援制御部512は、車両が制御区間の始点位置から終点位置まで移動するように、目標位置を逐次更新し、また、取得部511によって取得された各種データを用いて車両の現在地を逐次推定しながら、制御対象を制御する。なお、本実施形態では、駐車支援制御部512は、車両の操舵を制御しないが、操舵を制御してもよい。
【0030】
勾配判定部513は、取得部511によって取得された前後方向加速度センサSE7からの検出値に基づいて、車両が降坂路を走行しているか否かを判定する。
【0031】
制動制御部514は、制動装置13を制御することで、各車輪FL,FR,RL,RRの少なくともいずれかに制動力を付与する。例えば、制動制御部514は、勾配判定部513によって車両が降坂路以外を走行していると判定されている場合に制動制御するときは、制動装置13を用いて、すべての車輪の摩擦部材を回転部材に対して押圧させる。また、制動制御部514は、勾配判定部513によって車両が降坂路を走行していると判定されている場合に制動制御するときは、制動装置13を用いて、各車輪の少なくとも1つに対応する摩擦部材の押圧を解除する。例えば、制動制御部514は、勾配判定部513によって車両が降坂路を走行していると判定されている場合に制動制御するときは、制動装置13を用いて、すべての車輪のうち、左右一組の後輪に対応する摩擦部材の押圧を解除させる。
【0032】
車両が降坂路を走行する場合、車両が登坂路を走行する場合よりも車速が大きくなりやすく、より大きな制動力が要求されるため、摩擦部材の押圧動作による鳴きがより顕著になり得る。そこで、車両が降坂路を走行している場合に制動制御するときに、すべての車輪のうち、一部であって、かつ、左右同数の車輪の摩擦部材を回転部材に対して押圧させる。これにより、降坂路走行時において、鳴きの発生源が少なくなるので、鳴きを抑制することができる。また、摩擦部材を押圧する車輪を左右同数としたので、左右の制動力のバランスを好適に維持できる。
【0033】
また、例えば、車両は、車輪として、左右一組の前輪と左右一組の後輪を有しているものとする。その際、制動制御部514は、勾配判定部513によって車両が降坂路を走行していると判定されている場合に制動制御するときは、制動装置13を用いて左右一組の前輪の摩擦部材を回転部材に対して押圧させる。
【0034】
車両が降坂路を走行する場合、後輪よりも前輪の接地荷重が大きくなりやすい。したがって、前輪および後輪のいずれか一方のみの摩擦部材を押圧して制動力を発生させる場合、前輪のみの摩擦部材を押圧した方が、後輪のみの摩擦部材を押圧する場合よりも小さい押圧力で済むことが多い。そこで、車両が降坂路を走行している場合に制動制御するときに、左右一組の前輪の摩擦部材を回転部材に対して押圧することで、鳴きをより抑制することができる。
【0035】
次に、
図2を参照して、ECU50による制御の手順の例について説明する。
図2は、実施形態のECU50による制御の手順の例を示すフローチャートである。なお、
図2の制御中における任意のタイミングで、ECU50は、運転者によって駐車支援制御を終了する旨の操作があった場合は処理を終了するが、その点については以下では説明を省略する。
【0036】
ステップS1において、駐車支援制御部512は、駐車支援制御を開始するか否かを判定し、Yesの場合はステップS2に進み、Noの場合はステップS1に戻る。例えば、駐車支援制御部512は、運転者によって駐車支援制御を開始する旨の操作があった場合は、ステップS1でYesと判定する。
【0037】
ステップS2において、駐車支援制御部512は、四輪制動での駐車支援制御を実行する。つまり、駐車支援制御部512は、車両が制御区間の始点位置から終点位置まで移動するように制御対象を制御しながら、制動制御時は制動制御部514を用いてすべての車輪の摩擦部材を押圧するように制動装置13を制御する。
【0038】
次に、ステップS3において、勾配判定部513は、前後方向加速度センサSE7から取得した検出値に基づいて、車両が降坂路を走行しているか否かを判定し、Yesの場合はステップS4に進み、Noの場合はステップS2に戻る。
【0039】
ステップS4において、駐車支援制御部512は、二輪制動での駐車支援制御を実行する。つまり、駐車支援制御部512は、駐車支援制御を実行しながら、制動制御時は制動制御部514を用いて左右一組の前輪の摩擦部材を押圧するように制動装置13を制御する。すなわち、制動制御部514は、制動装置13を制御することで、左右一組の前輪の摩擦部材は押圧した状態を維持させ、左右一組の後輪に対応する摩擦部材は押圧を解除させる。ここで、降坂路走行時において鳴きの発生源を減らすために、左右後輪に対応する摩擦部材の押圧を解除させる際に、当該押圧の解除に伴う左右の制動力配分が変動することで、左右の制動力バランスが崩れ、車両の姿勢が乱れる恐れがある。そこで、ステップS4では、制動制御部514は、左右一組の後輪の摩擦部材の押圧解除を実行する直前における左右後輪に付与された制動力に基づき、当該押圧の解除に伴う制動力の減少量を左右後輪それぞれについて算出する。そして、制動制御部514は、当該押圧解除に伴う左右の制動力配分の変動が低減されるように、左右後輪それぞれの制動力の減少量に応じて、左右の制動力配分の変動が当該押圧解除の前後で小さくなるように、左右前輪の摩擦部材の押圧力(左右前輪に付与される制動力)をそれぞれ増大させる。
【0040】
以降、ステップS4を繰り返す。なお、この後、勾配判定部513によって車両が降坂路以外を走行していると判定された場合、二輪制動から四輪制動に戻してもよいが、駐車支援制御自体が全体として短時間で終わるものなので戻さなくてもよい。
【0041】
このようにして、本実施形態によれば、降坂路における車両の制動による鳴きを抑制することが可能なECU50(車両用制動制御装置)を得ることができる。つまり、鳴きが発生しやすい降坂路走行時に、鳴きの発生源を減らす(四輪→二輪)ことで、効果的に鳴きの発生を抑制することができる。
【0042】
また、前輪と後輪のうち、降坂路走行時に接地荷重が大きくなりやすい前輪を制動制御することで、後輪を制動制御する場合に比べて、摩擦部材の押圧力が小さく済み、鳴きをより抑制することができる。
【0043】
なお、例えば、従来技術で、鳴きの発生を検出してから前輪と後輪の摩擦部材の押圧力のバランスを変更するものがある。これに対比して、本実施形態では、降坂路走行時には鳴きの発生を検出することなく鳴きの発生源を低減するという新規な技術思想を具現化することで、簡潔かつ効果的な鳴きの抑制を実現することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態はあくまで例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、数等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0045】
例えば、一般に、低温時や高湿時は鳴きが発生しやすいので、制動を四輪から二輪に変える条件として、降坂路走行時であることに、低温であることや高湿であること等を追加してもよい。その際、例えば、気温と、制動の使用履歴と、に基づいて、ブレーキパッド等の温度を推定してもよい。
【0046】
また、上述の実施形態では、前輪駆動の四輪車について説明したが、後輪駆動の四輪車、四輪駆動の四輪車、四輪車以外の車両等にも本発明を適用することができる。