特許第6879092号(P6879092)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6879092-滅菌紙、および、滅菌包装体 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6879092
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】滅菌紙、および、滅菌包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/10 20060101AFI20210524BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20210524BHJP
   A61L 2/26 20060101ALI20210524BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20210524BHJP
   C09J 7/21 20180101ALI20210524BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20210524BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20210524BHJP
   C09J 123/04 20060101ALI20210524BHJP
   C09J 123/22 20060101ALI20210524BHJP
   C09J 133/02 20060101ALI20210524BHJP
   C09J 133/10 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   B32B27/10
   B32B27/30 A
   A61L2/26
   B65D65/40 D
   C09J7/21
   C09J7/35
   C09J11/06
   C09J123/04
   C09J123/22
   C09J133/02
   C09J133/10
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-135133(P2017-135133)
(22)【出願日】2017年7月11日
(65)【公開番号】特開2019-14203(P2019-14203A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】萬道 律雄
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−196188(JP,A)
【文献】 特開2017−020130(JP,A)
【文献】 特開2017−040015(JP,A)
【文献】 特開2016−211089(JP,A)
【文献】 特開2008−105374(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0054117(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第105346820(CN,A)
【文献】 特開平01−174506(JP,A)
【文献】 特開平04−028710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
B65D65/00−85/88
C08C19/00−19/44
C08F6/00−301/00
D21B1/00−D21J7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、
前記紙基材の一方の面に位置する熱接着層と、
を備えた滅菌紙であって
前記熱接着層は
部架橋したアクリル酸系重合体、および、内部架橋したメタクリル酸エステル系共重合体との少なくとも1種類である内部架橋重合体と、
エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルション系ヒートシール剤と、を含み、
前記内部架橋重合体は、架橋剤と架橋反応する官能基を有する共重合体または自己架橋できる官能基を有する共重合体を含み、
各官能基がシラノール基である
滅菌紙。
【請求項2】
前記架橋剤は、メチロール化合物、アミノ化合物、アミド化合物、エポキシ化合物、アルコキシシラン化合物、カルボン酸、無水カルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物である
請求項に記載の滅菌紙。
【請求項3】
前記紙基材の坪量は、30g/m以上である
請求項1または2に記載の滅菌紙。
【請求項4】
前記熱接着層における前記内部架橋重合体の含有率は、前記熱接着層の全固形分に対して10質量%以上100質量%以下である
請求項1〜のいずれか一項に記載の滅菌紙。
【請求項5】
前記紙基材は、JIS P 8121−2:2012に準じて測定されるフリーネスが250mL以上700mL以下である
請求項1〜のいずれか一項に記載の滅菌紙。
【請求項6】
前記紙基材は、質量平均分子量が5万以上1000万以下のポリアクリルアミド樹脂を
含む
請求項1〜のいずれか一項に記載の滅菌紙。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の滅菌紙と、
前記滅菌紙の熱接着層に熱接着された被着体とを備える
滅菌包装体。
【請求項8】
JIS P 8113:2006に準じた剥離速度を300mm/分として前記滅菌紙から前記被着体を180°剥離するときの剥離強度が150gf/15mm以上1000gf/15mm以下である
請求項に記載の滅菌包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滅菌紙、および、滅菌包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
手術や治療などに使用する器具類は、滅菌包装体に収納された状態で使用前に滅菌される。病院などで実施される滅菌方法は、例えば、メスや鉗子などの被滅菌物を滅菌包装体内に密封した後に、ガス滅菌法、高圧蒸気滅菌法、放射線滅菌法などを用いる。ガス滅菌法は、滅菌包装体を収容した耐圧容器内を減圧した後に、エチレンオキサイドガス(EOG)などを容器内に満たし、それによって、滅菌包装体内にガスを浸透させて滅菌する。高圧蒸気滅菌法は、オートクレーブなどを用いて滅菌包装体を高温の蒸気に曝し、減圧と加圧とを繰り返して滅菌する。放射線滅菌法は、滅菌包装体に放射線を照射して滅菌する。これらの滅菌方法のうち、滅菌に要するコストが低いこと、および、滅菌に要する作業が簡便であることから、高圧蒸気滅菌法、および、ガス滅菌法が広く用いられている。
【0003】
一方、被滅菌物を収納した滅菌包装体は、手術などに使用されるまで保管され、手術などに使用される際に開封される。そのため、手袋を装着した医師や施術者でも開封しやすいように、滅菌包装体は、裏表で二枚の矩形のシートまたはフィルムなどの薄葉体を剥離可能に相互に接着したり、引き裂き開封し易い性質である易裂開性を有した薄葉体を用いたりする。開封に際しては、一般に、一方の薄葉体を他方の薄葉体から剥離するピールオープン方式や、二枚の薄様体を引き裂く引き裂き方式が採用される。
【0004】
上述した滅菌包装体の一例として、例えば、特許文献1〜6に記載の構成が知られている。特許文献1に記載の滅菌包装体は、基紙の片面に熱可塑性樹脂層を備える。特許文献2に記載の滅菌包装体は、アルミン酸塩を含む基紙にアクリル酸系共重合体を塗工して得られる。特許文献3に記載の滅菌包装体は、基紙の表面に中空重合体顔料を含む熱可塑性樹脂層を備える。特許文献4に記載の滅菌包装体は、10秒以下の低透気度基紙に、ポリビニルアルコールを主成分とした含浸剤を含浸させて得られる。特許文献5に記載の滅菌包装体は、基紙の少なくとも片面に塗工層を備え、塗工層は主として架橋されたポリビニルアルコールであり、かつ、塗工後の乾燥重量で0.1g/m以上6g/m以下である。特許文献6に記載の滅菌包装体は、20秒以下の低透気度基紙に、アクリル系共重合体を主成分とした含浸剤を含浸させて得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−122348号公報
【特許文献2】特開平9−290808号公報
【特許文献3】特開2010−196188号公報
【特許文献4】特開2001−200493号公報
【特許文献5】特開2004−84131号公報
【特許文献6】特開2002−173900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したピールオープン方式の滅菌包装体において滅菌紙から被着体が剥離されるとき、滅菌紙の基材破壊に起因した紙粉などが飛散する場合がある。基材破壊に起因した紙粉や塵(リント)などは、滅菌後の医療器具などの被滅菌物を再汚染させる要因となる。そのため、上述したピールオープン方式の滅菌包装体は、滅菌紙から薄葉体を剥離しやすい性質であるイージーピール性を向上させて、滅菌紙の剥離時におけるリントの飛散を抑えることが求められる。イージーピール性を向上させる要求は、手術室内、および、手術室前室などの高いクリーン度を求められる医療現場において特に顕著となっている。
本発明の目的は、滅菌紙のイージーピール性を向上可能とした滅菌紙、および、滅菌包装体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための滅菌紙は、紙基材と、前記紙基材の一方の面に位置する熱接着層とを備え、前記熱接着層は、内部架橋したアクリル酸系重合体、および、内部架橋したメタクリル酸エステル系共重合体との少なくとも1種類である内部架橋重合体を含む。
【0008】
上記滅菌紙によれば、内部架橋型重合体が熱接着層の凝集力を高め、紙基材と熱接着層との間で、一方から他方を容易に剥離させる。結果として、滅菌紙に被着体が熱接着された滅菌包装体では、滅菌包装体の開封時に、イージーピール性を向上させることが可能となる。そして、熱接着層は、剥離後には紙基材から被着体に移り、それによって、熱接着層が被着体に位置すること、ひいては、滅菌紙から被着体が剥離されていることを容易に視認させることが可能となる。
上記滅菌紙において、前記内部架橋重合体は、自己架橋できる官能基を有した共重合体を含有してもよい。
上記滅菌紙において、前記内部架橋重合体は、架橋剤と架橋反応する官能基を有する共重合体を含有してもよい。
【0009】
上記滅菌紙において、前記自己架橋できる官能基は、アミド基の水素原子の一つがメチロール基またはアルコキシアルキル基で置換された置換アミド基、酸化重合性基、珪素原子に加水分解性基が直接結合したシリル基、シラノール基、イソシアネート基、エポキシ基、カルボキシル基、無水カルボキシル基、水酸基からなる群から選択される少なくとも1種類の官能基であってもよい。
【0010】
上記滅菌紙において、前記架橋剤は、メチロール化合物、アミノ化合物、アミド化合物、エポキシ化合物、アルコキシシラン化合物、カルボン酸、無水カルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物であってもよい。
【0011】
上記滅菌紙において、前記架橋剤と架橋反応する官能基は、水酸基、カルボキシル基、珪素原子に加水分解性基が直接結合したシリル基、シラノール基からなる群から選択される少なくとも1種類であってもよい。これらの官能基のなかで、架橋剤と架橋反応する官能基がシラノール基である場合、滅菌紙からホルムアルデヒドの発生する可能性は無く、滅菌紙の安全性を高めることが可能ともなる。また、熱接着層において高い凝集力が得られ、高い接着強度と、イージーピール性の発現との両立が可能ともなる。
【0012】
上記滅菌紙において、前記自己架橋できる官能基は、珪素原子に加水分解性基が直接結合したシリル基とシラノール基とからなる群から選択される少なくとも1種類であってもよい。
【0013】
上記滅菌紙において、前記紙基材の坪量が30g/m以上であってもよい。この滅菌紙によれば、紙基材から被着体を剥離することに耐えうる強度が紙基材で得られやすく、剥離時の紙基材での破壊が起こりにくい。また、ピンホールの発生も抑えられるため、バクテリアバリア性の観点からも好ましい。
【0014】
上記滅菌紙において、前記熱接着層は、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル酸エステル重合体、ポリエチレン、および、ポリブテンからなる群から選択される少なくとも1種類の重合体を含んでもよい。
【0015】
上記滅菌紙において、前記熱接着層における前記内部架橋重合体の含有率は、前記熱接着層の全固形分に対して10質量%以上100質量%以下であってもよい。
上記滅菌紙において、前記紙基材は、JIS P 8121−2:2012に準じて測定されるフリーネスが250mL以上700mL以下であってもよい。
【0016】
上記滅菌紙において、前記紙基材は、質量平均分子量が5万以上1000万以下のポリアクリルアミド樹脂を含んでもよい。
上記課題を解決するための滅菌包装体は、上記滅菌紙と、前記滅菌紙の熱接着層に熱接着された被着体とを備える。
【0017】
上記滅菌包装体において、JIS P 8113:2006に準じた剥離速度を300mm/分として前記滅菌紙から前記被着体を180°剥離するときの剥離強度が150gf/15mm以上1000gf/15mm以下であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】滅菌包装体の一実施形態における断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、滅菌紙、および、滅菌包装体の一実施形態について図1を参照して説明する。
[滅菌包装体]
滅菌包装体11は、滅菌紙21と被着体31とを備える。滅菌紙21は、紙基材22と、紙基材22の一方の面に位置する熱接着層23とを備える。
【0020】
被着体31は、例えば、包装紙、フィルム、滅菌用成形容器などである。被着体31を構成する材料は、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン・アクリル共重合樹脂からなる群から選択される少なくとも1種類の樹脂である。被着体31を構成する材料は、相互に異なる2種類以上の樹脂であり、被着体31は、各種類の樹脂が別々の層を構成する積層体としても具体化できる。滅菌包装体11は、熱接着部11Eを備える。熱接着部11Eは、滅菌紙21と被着体31とが相互に熱接着された環状を有する。
【0021】
滅菌包装体11は、滅菌紙21と被着体31との間に、熱接着部11Eで囲まれた空間Sを備える。滅菌包装体11が備える空間Sは、医療器具などの被滅菌物を収容するための空間である。滅菌包装体11は、例えば、空間Sのなかに被滅菌物を収容し、その状態で、オートクレーブ、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌、電子線滅菌、γ線滅菌などの滅菌処理を施される。滅菌された被滅菌物が使用される際には、滅菌紙21から離間した被着体31の一端部31Eが、紙基材22に対して引き上げられ、被着体31が滅菌紙21から剥離される。そして、空間Sが解放されて、滅菌包装体11の位置する空間に、被滅菌物が曝される。なお、熱接着層23は、被着体31の位置する紙基材22の一方の面、および、その面とは反対側の面に形成できる。
[熱接着層23]
【0022】
熱接着層23は、内部架橋したアクリル酸系重合体、および、内部架橋したメタクリル酸エステル系共重合体の少なくとも1種類である内部架橋型重合体を含む。アクリル酸系重合体は、アクリル酸、もしくは、アクリル酸塩由来の構造単位を含む重合体である。メタクリル酸エステル系共重合体は、メタクリル酸エステル由来の構造単位を主成分として含む共重合体であり、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。メタクリル酸エステル系共重合体は、メタクリル酸エステルと、他の単量体とを含み、メタクリル酸エステルを主成分とするモノマーを重合させて得られる。他の単量体は、例えば、アクリル酸アルキルエステル、水酸基含有アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸やアクリル酸などの不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸化合物である。
【0023】
内部架橋型重合体は、粒子の内部で重合体が網目状に架橋し、それによって、さらに高分子量化した構造体である。内部架橋型重合体の分子量は、例えば、10万以上100万以下である。内部架橋型重合体の含有量は、例えば、熱接着層23の全固形分に対して、10質量%以上100質量%以下の範囲で調整される。
【0024】
内部架橋型重合体は、例えば、内部架橋剤の存在下での重合によって得られる。例えば、内部架橋型のアクリル酸系重合体は、内部架橋剤の存在下でのアクリル酸、および、アクリル酸塩の少なくとも一方の重合によって得られる。
【0025】
内部架橋型重合体の製造方法には、例えば、内部架橋剤を使用せず、自己架橋できる官能基を有した重合体同士で架橋する方法が用いられる。内部架橋型重合体の他の製造方法には、内部架橋剤と架橋反応する官能基を有した重合体と、内部架橋剤とを架橋する方法が用いられる。なお、内部架橋型重合体の製造方法は、これらを組み合わせることも可能である。
【0026】
自己架橋できる官能基は、例えば、アミド基の水素原子の一つがメチロール基またはアルコキシアルキル基で置換された置換アミド基、酸化重合性基、シラノール基、珪素原子に加水分解性基が直接結合したシリル基、イソシアネート基、エポキシ基、カルボキシル基、無水カルボキシル基、水酸基からなる群から選択される少なくとも1種類である。
【0027】
内部架橋剤は、例えば、メチロール化合物、アミノ化合物、アミド化合物、エポキシ化合物、アルコキシシラン化合物、カルボン酸、無水カルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種類である。
【0028】
内部架橋剤と架橋反応する官能基は、例えば、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、珪素原子に加水分解性基が直接結合したシリル基からなる群から選択される少なくとも1種類である。これらの官能基のなかでも、珪素原子に加水分解性基が直接結合したシリル基とシラノール基とからなる群から選択される少なくとも1種類の官能基では、その官能基による架橋反応を利用した内部架橋型重合体を熱接着層23が含む場合、ホルムアルデヒドの発生する可能性は無く、安全性が高い。また、シラノール基による架橋反応を利用した内部架橋型重合体を含む熱接着層23は、他の内部架橋型重合体を含む熱接着層23と比べても、高い凝集力が得られ、高い接着強度と、イージーピール性の発現との両立が可能となるため好ましい。
【0029】
熱接着層23は、熱接着性樹脂として内部架橋していない樹脂をさらに含むことも可能である。熱接着性樹脂は、例えば、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル酸エステル単独重合体、ポリエチレン、および、ポリブテンからなる群から選択される少なくとも1種類である。これらの熱接着性樹脂の中でも、エチレン−アクリル共重合体、もしくは、エチレン−酢酸ビニル共重合体が、熱接着層23の主成分であることがより好ましい。なお、熱接着性樹脂の含有量は、熱接着層23に要求される接着強度や被接着体の材質によって適宜調整される。
【0030】
熱接着層23は、例えば、ヒートシール剤を紙基材22の一方の面(図中の上面)に塗布し、塗布されたヒートシール剤の乾燥によって得られる。ヒートシール剤は、内部架橋型重合体、熱接着性樹脂、および、液体媒体を含む。なお、ヒートシール剤は、紙基材22の一方の面の他に、その面とは反対側の面に、他の熱接着層23を備えることも可能である。ヒートシール剤は、水系ヒートシール剤でもよいし、溶剤系ヒートシール剤でもよい。水系ヒートシール剤は、内部架橋型重合体や熱接着性樹脂を水に溶解、または、分散したヒートシール剤である。溶剤系ヒートシール剤は、内部架橋型重合体や熱接着性樹脂を溶剤に溶解したヒートシール剤である。水系ヒートシール剤は、例えば、内部架橋型重合体のエマルションである。内部架橋型重合体のエマルションは、アクリル酸系重合体のエマルション、メタクリル酸エステル系共重合体のエマルション、エチレン−酢酸ビニル共重合体のエマルション、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体のエマルション、アクリル酸エステル重合体のエマルション、ポリエチレンのエマルション、ポリエチレン−ポリブテン混合体のエマルションである。これらのエマルションのなかでも、アクリル酸系重合体のエマルションやメタクリル酸エステル系共重合体のエマルションに、エチレン−酢酸ビニル共重合体のエマルション、アクリル酸エステルのエマルション、ポリエチレンのエマルションを併用することが好ましい。併用されたエマルションによれば、安定した剥離力が発現されて、かつ、被着体31が滅菌紙21から剥離される際に、紙基材22の表面での毛羽立ちを抑えることが可能ともなる。
【0031】
ヒートシール剤の塗布方法は、各種公知の湿式塗布法を利用できる。例えば、抄紙機のオンマシンサイズプレス装置、トランスファーロールコーター(シムサイザー、ゲートロールコーターなど)、スプレー装置などを利用できる。また、オフマシン式装置では、一般的な塗工装置、例えば、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、シムサイザー、ゲートロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、ブラシコーター、ツーロールコーター、ビルブレードコーター、ショートドウェルコーターなどを利用できる。ヒートシール剤の乾燥設備は、設備の汚染を確実に抑制できる観点から、塗布面と接触しないエアードラーヤーや、赤外線ヒーターなどを利用することが好ましい。なお、ヒートシール剤の乾燥設備は、シリンダードライヤーによる塗布面直接接触方式を利用することも可能である。
【0032】
ヒートシール剤の塗布量は、例えば、0.1g/m以上20g/m以下、好ましくは、0.5g/m以上10g/m以下、さらに好ましくは、0.7g/m以上5.0g/m以下の範囲で調整される。ヒートシール剤の塗布量が0.1g/m以上である場合、熱接着層23に求められる接着強度を確保することが可能となる。また、ヒートシール剤の塗布量が20g/m以下である場合、滅菌包装体の滅菌処理において必要とされる通気性が確保される。
【0033】
内部架橋型重合体は、熱接着層23の凝集力を高め、紙基材22と熱接着層23との間で、一方から他方を容易に剥離させて、滅菌包装体11の開封時にイージーピール性を向上させる。熱接着層23は、剥離後には被着体31に移り、それによって、熱接着層23が被着体31に位置すること、ひいては、滅菌紙21から被着体31が剥離されていることを容易に視認させる。
【0034】
[紙基材22]
紙基材22は、原紙と、必要に応じて設けられる下塗り層とを備える。原紙は、パルプスラリーを含む抄紙原料の抄紙によって得られる。パルプスラリーに使用されるパルプは、例えば、木材パルプや非木材パルプである。木材パルプは、例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプからなる群から選択される少なくとも1種類である。木材パルプの蒸解方法や漂白方法は、特に限定されない。非木材パルプは、例えば、麻パルプ、ケナフパルプ、竹パルプからなる群から選択される少なくとも1種類である。パルプスラリーは、レーヨン繊維やナイロン繊維、その他の熱融着繊維など、パルプ繊維以外の材料を副資材として含むことが可能である。
【0035】
パルプスラリーは、パルプを水の存在下で叩解することによって得られる。パルプの叩解方法や、それに用いられる叩解装置は、例えば、叩解効率が高いダブルディスクリファイナー(DDR)が好適に使用される。パルプの叩解は、JIS P 8121−2:2012に準じて測定されるパルプのフリーネス(以下、「標準フリーネス」ともいう。)が250mL以上700mL以下となるように実施され、250mL以上600mL以下となるように行うことがより好ましく、300mL以上500mL以下となるように叩解を行うことがさらに好ましい。パルプの標準フリーネスが250mL以上である場合、紙の透気性を確保することが可能となる。また、パルプの標準フリーネスが250mL以下である場合、紙の強度を向上させて、イージーピール性を向上させることが可能となる。
【0036】
一般に、パルプの叩解と紙力の関係は、叩解をあまり進めない状態では、紙力は得られ難く、その理由としては、パルプ繊維同士のからみが弱く、繊維間結合(水素結合)のポイントも少ないためと考えられており、ある程度叩解を進めることで紙力は向上する。一方、叩解を進めると、パルプ繊維同士のからみが増え、繊維間結合のポイントが増えるため、紙力は得られるが繊維の空隙が減少し、原紙の透気性が低下する。この点、パルプの標準フリーネスが250mL以上700mL以下の範囲であれば、原紙、ひいては、紙基材22の透気性を保ちつつも、紙力を充分に高くすることが可能であって、結果として、滅菌紙21のイージーピール適性をさらに向上させることが可能となる。
【0037】
叩解により得られたパルプスラリーは、例えば、各種の製紙用の内添薬品を添加されて調成された抄紙原料を使用することも可能である。内添薬品は、例えば、サイズ剤、紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、硫酸バンド、カチオン化デンプンなどの各種の定着剤である。また、これらの他にも、内添薬品として、歩留向上剤、消泡剤、填料、着色剤などを、抄紙原料に対して任意に配合することも可能である。
【0038】
紙力増強剤は、例えば、ポリアクリルアミド樹脂、カチオン化デンプン、および、ポリビニルアルコールから選択される少なくとも1種類を含む。これらの紙力増強剤のうち、ポリアクリルアミド樹脂系紙力増強剤を内添することによって、原紙の強度をより効果的に向上させて、イージーピール性をさらに高めることが可能となる。また、紙力増強剤の添加後に紙力増強効果を発現させるためには、質量平均分子量が200万(Mw)以上であることが好ましい。また、紙力増強剤を添加する操業上、適切な粘度が得られ、かつ、添加が容易であることから、質量平均分子量が1000万(Mw)以下であることが好ましい。なお、ポリアクリルアミド樹脂の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリエチレンオキシド換算値である。また、紙力増強剤としてのポリアクリルアミド樹脂は、例えば、アニオン性、カチオン性、両性、または、ノニオン性のポリアクリル樹脂を利用できるが、これらのなかで、両性のポリアクリルアミド樹脂を用いることが特に好ましい。サイズ剤は、例えば、アルケニルコハク酸、アルキルケテンダイマー、および、ロジンからなる群から選択される少なくとも1種類を含む。また、湿潤紙力増強剤は、例えば、エピクロル樹脂、および、メラミン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種類を含む。
【0039】
原紙の少なくとも一方の面には、ポリアクリルアミド樹脂を含む塗布液である下塗り剤を塗布することも可能である。下塗り剤が塗布されることによって、さらにイージーピール性を高めることが可能となる。下塗り剤が原紙の一方の面のみに塗布される場合、下塗り剤が塗布されるのは、原紙のうちの熱接着層23が設けられる側の面である。なお、下塗り剤は、原紙の一方の面、および、その面とは反対の面の両方に塗布されていてもよい。
【0040】
紙基材22の原紙は、例えば、調成された抄紙原料を定法で抄紙することによって得られる。なお、原紙の坪量は、紙基材22の坪量、および、下塗り剤の塗布量に応じて、適宜設定することが可能である。
【0041】
下塗り剤は、ポリアクリルアミド樹脂を含む。ポリアクリルアミド樹脂は、(メタ)アクリルアミド単位を繰り返す重合体である。(メタ)アクリルアミドは、アクリルアミド、および、メタクリルアミドの総称である。ポリアクリルアミド樹脂は、アクリルアミド単位、および、メタクリルアミド単位のいずれか一方を有してもよく、両方を有してもよい。ポリアクリルアミド樹脂は、(メタ)アクリルアミド単位以外の他の単位を有していてもよい。
【0042】
下塗り剤に含まれるポリアクリルアミド樹脂は、例えば、アニオン性ポリアクリルアミド樹脂、カチオン性ポリアクリルアミド樹脂、両性ポリアクリルアミド樹脂、ノニオン性ポリアクリルアミド樹脂である。これらの下塗り剤は、製紙分野における紙力剤などとして使用される。ポリアクリルアミド樹脂は、1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。入手容易性の点では、アニオン性ポリアクリルアミド樹脂が好ましい。
【0043】
アニオン性ポリアクリルアミド樹脂は、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、または、これらの塩などのアニオン性官能基を含む。アニオン性ポリアクリルアミド樹脂は、例えば、(メタ)アクリルアミドと、アクリル酸などのアニオン性官能基含有モノマーとの共重合体や、ポリ(メタ)アクリルアミドの部分加水分解物である。
【0044】
下塗り剤の含むポリアクリルアミド樹脂の質量平均分子量(Mw)は、5万以上200万以下であることが好ましく、5万以上50万以下であることがより好ましく、5万以上30万以下であることがさらに好ましい。下塗り層に含まれるポリアクリルアミド樹脂の質量平均分子量が5万以上200万以下であれば、被着体31の剥離による紙基材22の表面での毛羽立ちを抑える効果がより優れる。質量平均分子量が5万以上であれば、熱接着層23が剥離する際の紙基材22の表面での毛羽立ちを抑える効果が得られやすい。質量平均分子量が200万以下であれば、下塗り剤の塗布に必要とされる低粘度を充分に得られ、下塗り剤の調製、および、塗布が容易である。また、下塗り剤に含まれるポリアクリルアミド樹脂の濃度を所望の粘度範囲で高くすることもでき、所望の塗布量が得られやすい。なお、ポリアクリルアミド樹脂の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリエチレンオキシド換算値である。
【0045】
下塗り剤に含まれる液体媒体は、ポリアクリルアミド樹脂を溶解するものが好ましく、例えば、水である。下塗り剤は、イージーピール性を損なわない範囲で、ポリアクリルアミド樹脂以外の他の成分を含むことも可能である。他の成分は、例えば、水溶性高分子化合物、水性高分子化合物、離型剤、消泡剤、分散剤、濡れ剤、有色染料、有色顔料、白色顔料であり、これらはいずれか1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。水溶性高分子化合物は、例えば、デンプン、変性デンプン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、カゼイン、アラビアガム、ジイソブチレン・無水マレイン酸共重合体塩、スチレン・無水マレイン酸共重合体塩である。水性高分子化合物は、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体エマルション、アクリル酸エステル共重合体エマルション、ウレタン樹脂、尿素樹脂、スチレン−アクリル樹脂エマルション、エチレン−アクリル樹脂エマルションである。
【0046】
下塗り剤に含まれるポリアクリルアミド樹脂の含有量(濃度)は、下塗り剤のなかの総固形分(100質量%)に対し、50質量%以上100質量%以下が好ましく、80質量%以上100質量%以下がより好ましい。ポリアクリルアミド樹脂の含有量が50質量%以上であれば、滅菌紙21のイージーピール適性をより高めることができる。総固形分は、下塗り剤から液体媒体を除いた全量であり、ポリアクリルアミド樹脂以外の他の成分が含まれる場合は、ポリアクリルアミド樹脂と他の成分との合計である。
【0047】
原紙に対する下塗り剤の塗布量は、下塗り剤に含まれるポリアクリルアミド樹脂の含有量に応じて適宜設定される。原紙のうちの熱接着層23が位置する側の面での下塗り剤の塗布量は、ポリアクリルアミド樹脂の量に換算して、0.05g/m以上20g/m以下であることが好ましく、0.1g/m以上15g/m以下であることがより好ましく、0.2g/m以上10g/m以下であることがさらに好ましい。ポリアクリルアミド樹脂の塗布量が0.05g/m以上であれば、滅菌紙21から被着体31を剥離する際に、紙基材22と熱接着層23とが良好に剥離し、この剥離による紙基材22の表面での毛羽立ちや、紙基材22の破壊が生じにくい。また、ポリアクリルアミド樹脂の塗布量が20g/m以下であれば、滅菌紙21をヒートシールする際に、接着ムラを抑えることができ、例えば、原紙のうちの熱接着層23が位置する側の面の全体に対して略均一に塗布することができる。一方で、下塗り剤は、例えば原紙のうちの熱接着層23が設けられる側の面に、所定のパターンを有するように塗布されていてもよい。
【0048】
下塗り層の成分は、ポリアクリルアミド樹脂以外の他の成分を含むことも可能である。他の成分は、例えば、澱粉、ポリビニルアルコールやスチレンーブタジエン樹脂などの樹脂、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、ホワイトカーボンなどの顔料からなる群から選択される少なくとも1種類である。なお、一側面に塗布される下塗り剤に含まれるポリアクリルアミド樹脂は、例えば、他側面に塗布される下塗り剤に含まれるポリアクリルアミド樹脂と同様のものであってもよいし、相互に異なるものであってもよい。原紙の他側面に下塗り剤を塗布する場合、下塗り剤の塗布量は、例えば、固形分量に換算して、0.01g/m以上20g/m以下であり、0.01g/m以上5g/m以下であることが好ましく、0.01g/m以上3g/m以下であることがより好ましく、0.1g/m以上2g/m以下であることがさらに好ましい。下塗り剤の塗布量が20g/m以下であれば、滅菌紙21の透気性を良好に保つことができる。また、原紙の他面における下塗り剤の塗布量をこのように調整することによって、原紙の一面、他面、一面と他面との中間でのポリアクリルアミド樹脂の濃度を適切に調整することが容易となる。なお、原紙の一面、および、他面のそれぞれに下塗り剤を塗布する場合、例えば、一面での塗布量と他面での塗布量との比を3:7〜7:3とすることが好ましい。こうした塗布量の比によって、原紙のなかのポリアクリルアミド樹脂の濃度を、原紙の一面、および、他面においてこれらの中間よりも大きくすることがさらに容易となる。なお、滅菌紙21の製造コストを低減する観点からは、原紙の他面に下塗り剤を塗布しない場合を好ましい態様の一例として採用することができる。
【0049】
下塗り剤の塗布方法は、各種公知の湿式塗布法を利用できる。下塗り剤の塗布方法は、例えば、抄紙機のオンマシンサイズプレス装置、トランスファーロールコーター(シムサイザー、ゲートロールコーターなど)、スプレー装置などを利用できる。また、オフマシン式装置では、一般的な塗工装置、例えば、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、シムサイザー、ゲートロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、ブラシコーター、ツーロールコーター、ビルブレードコーター、ショートドウェルコーターなどを利用できる。操業性や生産性を高められる観点では、下塗り剤の塗布および乾燥は、オンマシン式を利用することが好ましい。原紙を抄紙する抄紙機の形式は、長網抄紙機、短網抄紙機、円網抄紙機など、オンマシンで塗工機が装備されているものが好ましい。
紙基材22のなかのポリアクリルアミド樹脂の含有量は、例えば、1.0質量%以上30質量%以下である。
【0050】
紙基材22の坪量は、例えば、30g/m以上であることが好ましく、40g/m以上であることがより好ましく、45g/m以上であることがさらに好ましい。紙基材22の坪量が30g/m以上であれば、紙基材22から被着体31を剥離することに耐えうる強度が紙基材22で得られやすく、剥離時の紙基材22での破壊が起こりにくい。また、ピンホールの発生も抑えられるため、バクテリアバリア性の観点からも好ましい。
【0051】
紙基材22の坪量の上限は特に限定されないが、滅菌処理時の通気性を得られる観点から、300g/m以下であることが好ましく、250g/m以下がより好ましく、200g/m以下がさらに好ましい。紙基材22、および、原紙の坪量は、例えばJIS P 8124:2011に準拠して測定される。
【0052】
紙基材22の密度は、例えば、0.60g/cm以上1.20g/cm以下であることが好ましく、0.70g/cm以上1.10g/cm以下であることがより好ましい。紙基材22の密度が0.60g/cm以上であれば、イージーピールに耐えうる強度が得られやすく、剥離時の紙基材22での破壊が起こりにくい。紙基材22の密度が1.20g/cmであれば、透気性を保つことができる。紙基材22の密度は、例えばJIS P 8118:1998に準拠して厚さを測定して、厚さと坪量の測定値から計算で求められる。
【0053】
滅菌紙21は、JIS P 8117:2009に準じて測定される王研式透気度が、例えば、700秒以下であることが好ましく、500秒以下であることがより好ましく、300秒以下であることが特に好ましい。この範囲の王研式通気度を有する滅菌紙21であれば、滅菌紙21の透気性を効果的に向上させることができる。一方で、王研式透気度の下限値は、例えば、5秒とすることができる。なお、滅菌紙21の王研式透気度は、例えば、パルプのフリーネス、紙基材22の坪量、下塗り剤の塗布量などを適切に選択することによって調整できる。
【0054】
熱接着層23の表面である滅菌紙21の熱接着面は、JIS P 8155:2010に準拠して測定される王研式平滑度として、例えば、50秒以上であることが、シール強度のバラツキを小さくし、短時間の加熱にも対応できるため好ましい。熱接着面の平滑度の調整方法は、紙基材22に各種公知の方法で平滑化処理を施してもよいし、熱接着層23を形成した後に平滑化処理を施すこともできる。
【0055】
滅菌紙21と被着体31を熱接着して得られる滅菌包装体11は、被着体31をJIS P 8113:2006に準じて剥離速度300mm/分で180°剥離する際の剥離強度は、例えば200gf/15mm以上1000gf/15mm以下に調整されることが好ましい。この範囲での剥離強度を有した滅菌紙21であれば、イージーピール性と熱接着力とのバランスに非常に優れた滅菌包装体11が得られる。また、イージーピール性と熱接着力のバランスをより効果的に向上させる観点からは、剥離強度が250gf/15mm以上900gf/15mm以下であることがより好ましい。なお、剥離強度は、例えば、熱接着層23の種類や塗布量などを選択することによって適切に調整できる。
【0056】
[作用]
滅菌紙21は、熱接着層23のなかに内部架橋重合体を含むため、イージーピール性に優れる。例えば、滅菌紙21をフィルム状の被着体31に熱接着した後、被着体31から滅菌紙21を剥離する際に、熱接着層23が被着体31に付着したまま、紙基材22との界面から剥離しやすく、紙基材22が破れにくい。また、熱接着層23が剥離したときに紙基材22の表面の毛羽立ちや、紙基材22の表面からの紙片の剥離が生じにくい。さらに、被着体31に熱接着層23が視認できるため、剥離前に一様に接着していたことが容易に確認できる。また、紙基材22が破れにくいため、滅菌紙21を被着体31からイージーピール方式で剥離する際に、被着体31の全体を一度に滅菌紙21から剥離できる。そして、毛羽立ちや紙片の剥離が抑制されているため、毛羽立った部分から脱落したリントや剥離した紙片が被着体31や被収容物に付着することを防止できる。結果として、剥離時の毛羽立ちを抑制し、クリーン度の高い手術室内で使用することが可能な滅菌紙21を提供することができる。
【0057】
滅菌紙21の滅菌方法は、オートクレーブ、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌、γ線滅菌などのいくつか滅菌方法が挙げられるが、特にEOG滅菌は滅菌後のガス置換を実施する必要がある。滅菌紙21は、紙基材22の製造に使用するパルプのフリーネスや紙基材22の坪量によって、透気性も優れたものとすることができる。そして、滅菌紙21の透気性を高くし、それによって、滅菌後の滅菌ガスを空気に置換する時間を短縮できる。このため、EOG滅菌に特に好適な滅菌紙21の実現が可能となる。このように、滅菌紙21は、イージーピール性と透気性とのバランスに優れた、実用上極めて有用なものである。
【0058】
以上、滅菌紙21は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態における各構成、および、それらの組み合わせなどは一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、および、その他の変更が可能である。例えば、滅菌紙21の紙基材22と、熱接着層23との間に他の層を有してもよい。他の層としては、例えば、水蒸気バリア層、酸素バリア層、印刷層、印刷適性向上層、オーバープリント層、遮光層である。紙基材22と熱接着層23との間に位置する他の層は、1層でもよく、2層以上でもよい。なお、透気度や剥離強度が本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、紙基材22の両面に印刷層を有してもよい。印刷層上にさらにオーバープリント層を有してもよい。
【0059】
上記実施形態の一例である実施例を以下に説明する。
<実施例1>
[紙基材22の製造]
JIS P 8121−2:2012に記載されるカナダ標準ろ水度(フリーネス)が400mLになるように、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)をダブルディスクリファイナー(DDR)によって叩解してパルプスラリーを得た。次いで、パルプスラリーに内添薬品を添加して抄紙原料を得た。内添薬品は、パルプ質量に対する絶乾での添加量として、0.5%の硫酸バンド、あらかじめカチオン化澱粉(ピラー3YK、ピラースターチ社製)で分散させた0.05%のアルケニルコハク酸サイズ剤(ファイブラン81K,ナショナルスターチ社製)、0.7%の両性ポリアクリルアミド系樹脂紙力増強剤(PAM)(商品名:ポリストロンOFT−3、荒川化学工業社製、質量平均分子量300万)、0.4%のエピクロル樹脂湿潤紙力増強剤である。次いで、抄紙原料を長網抄紙機で抄紙して原紙を得た後に、抄紙機に付設されたオンマシンカレンダーにて、JIS P 8155:2010に準拠して測定される原紙表面の王研式平滑度を80秒に調整して、坪量が60g/mであり、密度が0.8g/cmである実施例1の紙基材22を得た。
【0060】
[滅菌紙21の製造]
エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルション系ヒートシール剤(商品名:EA−H700、東洋インキ社製、固形分濃度50質量%)、シラノール基による内部架橋部分を含むアクリルエマルジョン(商品名:ヨドゾールAD194、ヘンケルジャパン社製、固形分濃度質量51%)、および、水を混合してヒートシール層塗料を調製した。この際、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルション系ヒートシール剤の使用量を50質量部、シラノール基による内部架橋部分を含むアクリルエマルジョンの使用量を49質量部、水の使用量を151質量部とした。次いで、実施例1の紙基材22の片面に、バーコーターを用いて、乾燥後の塗布量が1.0g/mとなるように、ヒートシール層塗料を塗布、および、乾燥して、実施例1の熱接着層23を形成した。これによって、実施例1の紙基材22と、実施例1の熱接着層23とを備える滅菌紙21を得た。
【0061】
<実施例2>
実施例1の滅菌紙21の製造において、実施例1のエチレン−酢酸ビニル共重合体エマルション系ヒートシール剤の使用量を70質量部、実施例1のアクリルエマルジョンの使用量を29.4質量部、水を150.6質量部とした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の滅菌紙21を製造した。
【0062】
<実施例3>
実施例1の滅菌紙21の製造において、実施例1のエチレン−酢酸ビニル共重合体エマルション系ヒートシール剤の使用量を30質量部、実施例1のアクリルエマルジョンの使用量を68.6質量部、水の使用量を151.4質量部とした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の滅菌紙21を製造した。
【0063】
<比較例1>
実施例1の滅菌紙21の製造において、実施例1のアクリルエマルジョンを割愛し、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルション系ヒートシール剤の使用量を100質量部、および、水の使用量を150質量部とした以外は、実施例1と同様にして、比較例1の滅菌紙を製造した。
【0064】
<比較例2>
実施例1の滅菌紙21の製造において、実施例1のアクリルエマルジョンに代えて、52.1質量部のスチレンブタジエンラテックス(商品名:X300B、JSR社製、固形分濃度48%)を使用し、水の添加量を147.9質量部とした以外は、実施例1と同様にして、比較例2の滅菌紙を製造した。
【0065】
<比較例3>
実施例1の滅菌紙21の製造において、実施例1のアクリルエマルジョンに代えて、内部架橋していない49質量部のスチレンアクリル共重合体エマルション(商品名:ヨドゾールAD208,ヘンケルジャパン社製、固形分濃度51質量%)を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例3の滅菌紙を製造した。
【0066】
<評価>
実施例1〜3、および、比較例1〜3の各滅菌紙について以下の評価を行った。評価の結果を表1に示す。
[王研式透気度の測定]
各滅菌紙の王研式透気度をJIS P 8117:2009に準じて測定した。
[王研式平滑度の測定]
各滅菌紙の王研式平滑度をJIS P 8155:2010に準じて測定した。
[被着体との接着]
ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)とポリエチレン樹脂(PE)との複合フィルムを被着体31として用い、滅菌紙の熱接着層側での面がポリエチレン樹脂側と接するように重ねて、熱プレス試験機を用い、150℃、1.6MPa、1.1秒間の熱接着条件で熱圧し、それによって、各滅菌紙を有する滅菌包装体を得た。
【0067】
[剥離強度の測定、および、紙基材での破壊状態の評価]
幅が15mm、長さが100mmに各滅菌包装体を断裁して、剥離強度測定用サンプルを作成した。各剥離強度測定用サンプルの剥離強度(gf/15mm)をJIS P 8113:2006に準じて測定した。この際、引張試験機(型式:テンシロンRTC−1250A、オリエンテック社製)を用い、PETとPEとの複合フィルムの一端部31Eと、滅菌紙の一端部とをチャッキングし、180度ピール法で剥離速度300mm/分で測定した。また、剥離強度の測定の際に、滅菌紙21の基材破壊の状態を目視で確認し、以下の基準で評価した。
○:滅菌紙21に基材破壊が認められなかった。
×:滅菌紙21に基材破壊が認められた。
【0068】
【表1】
【0069】
上記結果に示す通り、実施例1〜3の滅菌紙21は、剥離試験での剥離強度が200gf/15mm以上1000gf/15mm以下であり、また、剥離試験時に滅菌紙21の基材破壊が認められなかった。これらの結果から、イージーピール適性に優れることが確認できた。一方で、比較例1〜3については、剥離試験時に滅菌紙21の基材破壊が認められた。
【0070】
以上、上記実施形態によれば、以下に記載する効果が得られる。
(1)内部架橋型重合体が熱接着層23の凝集力を高め、紙基材22と熱接着層23との間で、一方から他方を容易に剥離させる。結果として、滅菌紙21に被着体31が熱接着された滅菌包装体では、滅菌包装体の開封時に、イージーピール性を向上させることが可能となる。
【0071】
(2)熱接着層23は、剥離後には紙基材22から被着体31に移り、それによって、熱接着層23が被着体31に位置すること、ひいては、滅菌紙21から被着体31が剥離されていることを容易に視認させることが可能となる。
【0072】
(3)内部架橋型重合体にて、内部架橋剤と内部架橋反応する官能基がシラノール基である場合、滅菌紙21からホルムアルデヒドの発生する可能性は無く、滅菌紙21の安全性を高めることが可能ともなる。また、熱接着層23において高い凝集力が得られ、高い接着強度と、イージーピール性の発現との両立が可能ともなる。
【0073】
(4)熱接着層23を形成するための塗料が水系である場合、熱接着層23に接着される被着体31において安定した剥離力が発現されて、かつ、被着体31が滅菌紙21から剥離される際に、紙基材22の表面での毛羽立ちを抑えることが可能ともなる。
【0074】
(5)紙基材22の坪量が30g/m以上である場合、紙基材22から被着体31を剥離することに耐えうる強度が紙基材22で得られやすく、剥離時の紙基材22での破壊が起こりにくい。また、ピンホールの発生も抑えられるため、バクテリアバリア性の観点からも好ましい。
【符号の説明】
【0075】
S…空間、11…滅菌包装体、21…滅菌紙、22…紙基材、23…熱接着層、31…被着体、31E…一端部。
図1