(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導電助剤として少なくとも2種以上の異なる炭素材料と、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを含有する導電助剤分散液であって、1種目の導電助剤が、平均一次粒子径20〜50nm、BET比表面積300〜1400m2/g、平均分散粒子径(累積50%粒子径)280〜1500nm、2種目の導電助剤が、平均一次粒子径20〜70nm、BET比表面積10〜200m2/g、平均分散粒子径(累積50%粒子径)500〜1500nm、であり、1種目の導電助剤と2種目の導電助剤との質量比が20〜80:80〜20であることを特徴とする、導電助剤分散液。
1種目の導電助剤および2種目の導電助剤がカーボンブラックであり、1種目の導電助剤と2種目の導電助剤との質量比が35〜65:65〜35であることを特徴とする、請求項1に記載の導電助剤分散液。
1種目の導電助剤が中空カーボンブラックであり、1種目の導電助剤の平均分散粒子径(累積50%粒子径)が280〜800nmであることを特徴とする、請求項1または2記載の導電助剤分散液。
請求項5に記載の導電助剤分散液に、さらに電極活物質としてリン酸鉄リチウム、およびチタン酸リチウムからなる群より選ばれた1種以上の電極活物質を含んでなる電極用塗工液であって、
電極用塗工液は、さらに添加剤を含有してもよく、また、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたとき、電極活物質が90質量部以上94質量部以下、導電助剤が3質量部以上7質量部以下、バインダーの量が2.5質量部以上5質量部以下、添加剤の量が0質量部以上0.5質量部以下(ただしバインダーと添加剤の量の合計は5質量部以下)であることを特徴とする、電極用塗工液。
バインダーと添加剤の合計量100質量部に対して、1種目の導電助剤が25質量部以上100質量部以下であることを特徴とする、請求項6〜9いずれか記載の電極用塗工液。
添加剤が分散剤であり、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたとき、分散剤が0.02質量部以上0.5質量部であることを特徴とする、請求項6〜10いずれかに記載の電極用塗工液。
1種目の導電助剤と2種目の導電助剤がそれぞれカーボンブラックであり、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100g、1種目の導電助剤、2種目の導電助剤および電極活物質の量とそれぞれの比表面積の積の総和を総表面積bm2としたとき、(添加剤の量/総表面積b)の値が
0.00005≦(添加剤の量/総表面積b)≦0.00070
を満たすことを特徴とする、請求項6〜11いずれかに記載の電極用塗工液。
集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウムイオン二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方が、請求項14記載の電池電極合材層を具備してなるリチウムイオン二次電池。
導電助剤と電極活物質を溶媒中で同時に分散処理する工程を経て電極用塗工液を製造する方法であって、導電助剤を単独で溶媒中に分散処理して1種目の導電助剤の平均分散粒子径(累積50%粒子径)が280〜1500nm、かつ、2種目の導電助剤の平均分散粒子径(累積50%粒子径)が500〜1500nmとなるときと同等の分散処理工程を経て製造することを特徴とする、請求項6〜13いずれか記載の電極用塗工液の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、非水電解液二次電池はデジタルカメラや携帯電話のような小型携帯型電子機器や、自動車等に広く用いられるようになってきた。これらの電子機器は、機器の容積を最小限にし、かつ重量を軽くすることが常に求められており、搭載される電池においても、小型、軽量かつ大容量、安全で長寿命の電池の実現が求められている。
【0003】
そのような要求に応えるため、リチウムイオン二次電池などの二次電池の開発が活発に行われている。例えば電極活物質の観点からは、Liと、Niと、主としてAl、Ti、Mn、FeおよびCoからなる群から選ばれる1つ以上の金属元素とからなる金属酸化物材料等を正極活物質として使用することで、小型かつ大容量な電池を実現できることが、リン酸鉄リチウム、マンガン酸リチウムやチタン酸リチウム等を電極活物質として使用することで、安全で長寿命な電池を実現できることが、それぞれ知られている。
【0004】
電極活物質を改良する以外の電池を大容量にするための手段として、電池電極合材層中に占める電極活物質の構成比率を向上させることが検討されている。少量でも良好な導電性を発現する高導電性材料を用いることで導電助剤の比率を低減し、その結果として電極活物質の比率を向上することが可能となる。
【0005】
このような材料として、例えば、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーのような繊維状の材料や、ストラクチャーが高度に発達したカーボンブラック、空孔を有するために単位重量当たりの粒子個数が多い中空カーボンブラック等が期待されている。
【0006】
一般に、導電性を効果的に発現させるためには、導電助剤粒子を均質に分散することが特に重要である。粒子を均質に制御して分散することによって、より効果的に塗膜中で導電パスを形成させることができるようになる。
【0007】
しかし、上述した高導電性材料は、その形状や粒子表面の性状が従来用いられてきたカーボンブラックとは大きく異なるため、制御して均質に分散することが困難である。そのため、導電助剤が形成する導電パスが重要であるにもかかわらず、導電助剤粒子の種類やその処理状態が、二次電池の導電性や伝導性、剥離強度等に与える影響は詳細には分かっておらず、最適な処理状態の設計が求められていた。
【0008】
また、従来のカーボンブラックを使用した場合と同様、これらの高導電性材料を用いた電極用塗工液についても、産業的に容易に大量塗工可能な状態とすることが特に重要である。特に環境や生産コストへの配慮から、より高濃度かつ均一に分散された導電助剤分散液や電極用塗工液とすることによって、溶剤使用量を低減することや乾燥時の使用エネルギーを低減することが求められている。
【0009】
上述したカーボンブラックを溶媒中に高濃度かつ均質に分散するための手段として、例えば特許文献1や2では、分散剤を作用させた上で分散機器で処理することで、高比表面積なカーボンブラックや空孔を有する中空カーボンブラックを溶媒中に均質に分散した導電助剤分散液、および、これを用いた電極用塗工液が開示されている。また、特許文献1では、分散剤の使用量が多くなりすぎた場合、製膜性や電池特性が悪化することが開示されている。
しかし、これらのカーボンブラックの分散処理状態が、電池電極合材層の導電性や伝導性に対して与える影響については十分に検討されていない。
【0010】
一方で、導電助剤の粒度分布を設計することで、電池電極合材層の電池特性を向上させることが提案されている。例えば特許文献3や4では、導電助剤として主としてアセチレンブラックを用いて、その累積10%粒子径と累積90%粒子径のサイズと比率を設計することで、良好な導電性を発現するように導電助剤粒子を配置できることが開示されている。
しかしながら、粒子径や比表面積が大きく異なる2種の導電助剤を用いた場合において、それぞれの導電助剤に最適な平均分散粒子径や構成比率については検討されていない。
【0011】
また、例えば特許文献5では、カーボンブラックと黒鉛等のマイクロメートルオーダーの粒子を併用して使用した場合の好適な粒度分布について開示されている。小粒子径の導電助剤と、大粒子径の導電助剤を併用して使用することで、電池電極合材層中でのパッキングを良好にし、高い導電性を発現させることができることが記載されている。
【0012】
しかし、高導電性材料として平均一次粒子径20〜50nm、BET比表面積300〜1400m
2/gの導電助剤、特に空孔を有する中空カーボンブラックを選択した場合における、好適な分散処理状態については十分な検討がなされていないのが実情であった。
この材料を従来のカーボンブラックと同様に設定した粒度分布とした上で単独で用いた場合、良好な電池特性を得ることができずに悪化する場合があり、さらに、これを従来のカーボンブラックから想定される最適粒度分布から大粒子径または小粒子径に変更して設計する、または、黒鉛等のマイクロメートルオーダーの粒子と併用して用いたとしても、良好な導電性や伝導性、剥離強度等を得ることができない場合があることを発明者は見出した。
【0013】
高導電性材料として平均一次粒子径20〜50nm、BET比表面積300〜1400m
2/gの導電助剤、特に空孔を有する中空カーボンブラックを選択した場合、従来のカーボンブラックと同様の取り扱い方をしたとしても、良好な電池特性を得ることは難しく、高容量な電極合材層として設計することは困難であった。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の詳細を説明する。尚、本明細書では、「N−メチル−2−ピロリドン」を「NMP」、「正極活物質または負極活物質」を「電極活物質」、「金属集電体」を「集電体」と略記することがある。
【0041】
<導電助剤>
本発明では、1種目の導電助剤と2種目の導電助剤を用いる。1種目の導電助剤として空孔を有する中空カーボンブラックが、2種目の導電助剤としてカーボンブラックが専ら使用されるが、これに限定されない。本発明に用いる導電助剤としては、市販の中空カーボンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなど各種のカーボンブラックを用いることができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、黒鉛化処理されたカーボンブラックなども使用できる。
【0042】
電極用塗工液の製造に用いる第一種の導電助剤の平均一次粒子径は20〜50nmであり、より好ましくは25〜45nmである。また、第二種の導電助剤の平均一次粒子径は20〜70nmであり、より好ましくは20〜50nmである。また、一次粒子の形状は球状であることが特に好ましい。ここでいう平均一次粒子径とは、電子顕微鏡で測定された算術平均粒子径を示し、この物性値は一般に導電助剤の物理的特性を表すのに用いられている。
【0043】
導電助剤の物理的特性を表すその他の物性値としては、BET比表面積やpHが知られている。BET比表面積は、窒素吸着によりBET法で測定された比表面積(以下、単に比表面積と記載)を指し、この比表面積はカーボンブラックの表面積に対応しており、一般に、比表面積が大きいほど均質かつ安定な塗工液とすることが難しくなる。pHはカーボンブラック表面の官能基や含有不純物の影響を受けて変化する。
【0044】
本発明で用いる1種目の導電助剤は、BET比表面積が300〜1400m
2/gであり、350〜1300m
2/gのものが好ましく、350〜900m
2/gのものがより好ましく、500〜800m
2/gのものが特に好ましい。また、2種目の導電助剤は、BET比表面積が10〜200m
2/gであり、30〜140m
2/gのものが好ましく、30〜70m
2/gのものが特に好ましい。上記BET比表面積の導電助剤であれば、各種の市販品、合成品を単独で、もしくは2種以上の導電助剤を併せて使用することができる。
【0045】
また、1種目の導電助剤または2種目の導電助剤として、2種以上の導電助剤を混合して調製された導電助剤を使用する場合、そのBET比表面積は、ある導電助剤iのBET比表面積をS
im
2/g、ある導電助剤iが1種目または2種目の導電助剤中に占める比率をG
iとしたときの、各導電助剤種のBET比表面積とその比率の積の総和として、下記一般式(A)に基づいて算出することができる。
式(A) (混合導電助剤のBET比表面積)=Σ(S
i・G
i)
例えば、BET比表面積800m
2/gのカーボンブラックと、1200m
2/gのカーボンブラックとを、質量比1対1で混合して調製したカーボンブラックの比表面積は、1000m
2/gである。
【0046】
1種目の導電助剤と2種目の導電助剤の比率は20:80〜80:20であり、25:75〜75:25であることが好ましく、35:65〜65:35であることがより好ましく、40:60〜60:40であることが特に好ましい。
【0047】
導電助剤分散液中の1種目の導電助剤の平均分散粒子径(累積50%粒子径)は、280〜1500nmであり、280〜800nmであることがより好ましく、300〜700nmであることがさらに好ましく、320〜500nmであることが特に好ましい。また、2種目の導電助剤の平均分散粒子径(累積50%粒子径)は、500〜1500nmであり、500〜1300nmであることがより好ましく、800〜1300nmであることが特に好ましい。平均分散粒子径がこの範囲内にあるとき、粒子の分散安定性や塗膜にしたときの均質性が良好になるだけでなく、電池電極合材層としたときに良好な導電性や伝導性を得ることが可能となる。なお、本発明における導電助剤の平均分散粒子径(累積50%粒子径)とは、レーザ光回折・散乱式の粒度分布計により測定されたD50値である。
【0048】
また、本発明で用いる導電助剤は、前記一次粒子径や比表面積のものであれば特に限定されるものではないが、アセチレンブラック、ファーネスブラック、中空カーボンブラックや黒鉛化処理されたカーボンブラックなど、高い導電性を有し、かつ工業的に生産されるカーボンブラックが特に好適に用いられる。これらのカーボンブラックの中でも、質量当たりの導電性が優れ、かつ、BET比表面積が大きい中空カーボンブラックが、1種目の導電助剤として特に好適に用いられる。また、2種目の導電助剤としては、発達したストラクチャーを有するカーボンブラックが好ましく、純度に優れるアセチレンブラックが特に好適に用いられる。中空カーボンブラックとしては、例えば、ケッチェンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)等が、アセチレンブラックとしては、例えば、デンカブラック(デンカ社製)等がそれぞれ挙げられ、種々のグレードを市場より入手することが出来る。
【0049】
本発明において、電極用塗工液中に含有する導電助剤の量は、電極活物質の種類によって異なる。電極活物質としてLi(Ni
xM1
yM2
z)O
2(x=0.3〜0.9、y=0.01〜0.69、z=0.01〜0.69、x+y+z=1。M1、M2はそれぞれ、Al、Ti、Mn、FeおよびCoからなる群より選ばれる元素であって、M1とM2は異なる元素)、マンガン酸リチウムからなる群より選ばれた1種以上の電極活物質を用いる場合、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量100質量部に対して、1質量部以上4質量部以下であり、1質量部以上3質量部以下が好ましく、1.5質量部以上3質量部以下がより好ましく、1.5質量部以上2.5質量部以下が特に好ましい。
また、電極活物質としてリン酸鉄リチウム、チタン酸リチウムからなる群より選ばれた1種以上の電極活物質を用いる場合、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量100質量部に対して、3質量部以上7質量部以下であり、3質量部以上6質量部以下が好ましく、3.5質量部以上6質量部以下がより好ましく、4質量部以上5.5質量部以下がさらに好ましく、4質量部以上5質量部以下が特に好ましい。
この量比で導電助剤を配合することで、1種目または2種目の導電助剤をそれぞれ単独で用いた場合や、1種目または2種目の導電助剤と、一次粒子径またはBET比表面積が大きく異なる材料とを併用して用いた場合と比較して、顕著に優れた導電性や伝導性を得ることが可能となる。
【0050】
さらに、本発明において電極用塗工液中に含まれるバインダーの量を100質量部としたとき、1種目の導電助剤は25質量部以上100質量部以下であることが好ましく、25質量部以上75質量部以下であることがより好ましく、30質量部以上60質量部以下であることが特に好ましい。
作用機構は明確ではないが、電極活物質を被覆したバインダー層内に、質量当たりの粒子個数に優れる1種目の導電助剤が均質に分散された状態で充填された結果、良好な導電性や伝導性が発現するようになったものと推察している。特に、導電助剤の構成比率が低いとき、1種目の導電助剤の量が25質量部以下の場合、導電助剤の導電パスがバインダーによって分断されて高抵抗になることがあり、100質量部を超過する場合、導電助剤粒子間の結着力不足に起因して塗膜が剥落することがある。
【0051】
<バインダー>
本発明の導電助剤分散液には、さらに、バインダーを含有させることができる。使用するバインダーとしては、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構成単位として含む重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;カルボキシメチルセルロースのようなセルロース樹脂;スチレン−ブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなゴム類;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でも良い。特に、耐性面から分子内にフッ素原子を有する高分子化合物、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等の使用が好ましい。
【0052】
また、バインダーとしてのこれらの高分子の重量平均分子量は、10,000〜2,000,000が好ましく、100,000〜1,500,000がより好ましく、200,000〜1,300,000がさらに好ましく、600,000〜1,300,000が特に好ましい。分子量が小さいとバインダーの耐性や密着性が低下することがある。分子量が大きくなるとバインダーの耐性や密着性は向上するものの、バインダー自体の粘度が高くなり作業性が低下するとともに、凝集剤として働き、分散された粒子が著しく凝集してしまうことがある。本発明の想定する産業上の利用可能性から、より高容量な電池を設計するために、製膜性を確保できる範囲内で分子量の大きな高分子を使用することで、電極合材層内に占めるバインダーの比率を低減することが望ましい。
【0053】
本発明において、電極用塗工液中に含有するバインダーの量は、電極活物質の種類によって異なる。電極活物質としてLi(Ni
xM1
yM2
z)O
2(x=0.3〜0.9、y=0.01〜0.69、z=0.01〜0.69、x+y+z=1。M1、M2はそれぞれ、Al、Ti、Mn、FeおよびCoからなる群より選ばれる元素であって、M1とM2は異なる元素)、およびマンガン酸リチウムからなる群より選ばれた1種以上の電極活物質を用いる場合、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量100質量部に対して、0.75質量部以上4質量部以下であり、1質量部以上4質量部以下が好ましく、1質量部以上3質量部以下がより好ましく、1.5質量部以上3質量部以下がさらに好ましく、1.5質量部以上2.5質量部以下がさらに好ましく、1.5質量部以上2質量部以下が特に好ましい。
また、電極活物質としてリン酸鉄リチウム、およびチタン酸リチウムからなる群より選ばれた1種以上の電極活物質を用いる場合、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量100質量部に対して、2.5質量部以上5質量部以下であり、3質量部以上4.5質量部以下がより好ましく、3質量部以上4質量部以下が特に好ましい。
【0054】
本発明の想定する産業上の利用可能性から、バインダーは、フッ素原子を有する高分子化合物を含むことが好ましく、フッ素原子を有する高分子化合物であることがより好ましく、フッ化ビニリデン系の重合体または共重合体であることがさらに好ましく、ポリフッ化ビニリデンまたはその変性体であることが特に好ましい。
産業上は優れた耐性を得るためにこれらのバインダーが主に用いられているが、接着性の弱い樹脂であるために、高比表面積な電極活物質や導電助剤を用いたときに、塗膜にした際の基材に対する密着性が弱く塗工や加工が困難になる場合が多い。そのため、高比表面積な材料を使用したときに、少ないバインダー量でも十分な密着性を得ることができる材料設計が求められている。
【0055】
<電極活物質>
本発明では、電極活物質としてLi(Ni
xM1
yM2
z)O
2(x=0.3〜0.9、y=0.01〜0.69、z=0.01〜0.69、x+y+z=1。M1、M2はそれぞれ、Al、Ti、Mn、FeおよびCoからなる群より選ばれる元素であって、M1とM2は異なる元素)が専ら使用されるが、これに限定されない。上記した範囲内の電極活物質であれば、各種の市販品、合成品を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。
【0056】
本発明で使用する電極活物質の合成方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、特開2011−192644公報、特開2012−146639公報、特開2016−143527公報等に記載されている方法で合成することができる。
【0057】
本発明における電極活物質は、Li(Ni
xM1
yM2
z)O
2(x=0.3〜0.9、y=0.01〜0.69、z=0.01〜0.69、x+y+z=1。M1、M2はそれぞれ、Al、Ti、Mn、FeおよびCoからなる群より選ばれる元素であって、M1とM2は異なる元素)、リン酸鉄リチウム、チタン酸リチウム、およびマンガン酸リチウムからなる群より選ばれた1種以上であることが好ましく、Li(Ni
xM1
yM2
z)O
2(x=0.3〜0.9、y=0.01〜0.69、z=0.01〜0.69、x+y+z=1。M1、M2はそれぞれ、Al、Ti、Mn、FeおよびCoからなる群より選ばれる元素であって、M1とM2は異なる元素)、またはチタン酸リチウムであることがより好ましく、Li(Ni
xMn
yCo
z)O
2(x=0.2〜0.6、y=0.01〜0.39、z=0.01〜0.39、x+y+z=1)またはLi(Ni
xCo
yAl
z)O
2(x=0.6〜0.9、y=0.09〜0.3、z=0.01〜0.1、x+y+z=1)であることが特に好ましい。
【0058】
電極活物質としてLi(Ni
xM1
yM2
z)O
2(x=0.3〜0.9、y=0.01〜0.69、z=0.01〜0.69、x+y+z=1。M1、M2はそれぞれ、Al、Ti、Mn、FeおよびCoからなる群より選ばれる元素であって、M1とM2は異なる元素)、およびマンガン酸リチウムからなる群より選ばれた1種以上の電極活物質を使用する場合と、リン酸鉄リチウム、およびチタン酸リチウムからなる群より選ばれた1種以上の電極活物質を使用する場合とでは、電極活物質粒子の密度や粒子径、比表面積等が大きく異なるために、導電性や伝導性を好適な状態に保ちつつ高容量な電池に設計することができる電極活物質の配合比は、大きく異なる。
【0059】
Li(Ni
xM1
yM2
z)O
2(x=0.3〜0.9、y=0.01〜0.69、z=0.01〜0.69、x+y+z=1。M1、M2はそれぞれ、Al、Ti、Mn、FeおよびCoからなる群より選ばれる元素であって、M1とM2は異なる元素)、およびマンガン酸リチウムからなる群より選ばれた1種以上の電極活物質は、平均一次粒子径が0.05〜20μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜12μmの範囲内であることがより好ましく、0.2〜10μmの範囲内であることがさらに好ましく、0.2〜5μmの範囲内であることが特に好ましい。本明細書でいう電極活物質の平均一次粒子径とは、電極活物質を電子顕微鏡で測定した一次粒子径の平均値である。
【0060】
また、これらの電極活物質の造粒体または凝集体は、平均粒子径が0.05〜50μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜20μmの範囲内であることがより好ましく、1〜15μmの範囲内であることがさらに好ましく、2〜15μmの範囲内であることが特に好ましい。本明細書でいう電極活物質の平均粒子径とは、レーザ光回折・散乱式の粒度分布計により測定されたD50値である。
【0061】
また、これらの電極活物質は、BET比表面積が0.1〜10m
2/gのものが好ましく、0.1〜5m
2/gのものがより好ましく、0.1〜3m
2/gのものがさらに好ましく、0.1〜1m
2/gのものが特に好ましい。上記BET比表面積の電極活物質であれば、各種の市販品、合成品を単独で、もしくは2種以上の電極活物質を併せて使用することができる。
【0062】
本発明において、これらの電極活物質の添加量は、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量100質量部に対して、94質量部以上98質量部以下であり、94質量部以上97質量部以下がより好ましく、95質量部以上97質量部以下が特に好ましい。想定する産業上の利用方法から、電池容量を向上させるために電極活物質を多量に充填することが望ましく、また、本発明の効果は、全固形分中に導電助剤が占める比率が少ないときに特に大きく発現することから、導電性や塗膜強度を損なわない範囲で電極活物質量が多いことが望ましい。
【0063】
一方、リン酸鉄リチウム、およびチタン酸リチウムからなる群より選ばれた1種以上の電極活物質は、平均一次粒子径が0.05〜20μmの範囲内であることが好ましく、0.05〜10μmの範囲内であることがより好ましく、0.05〜3μmの範囲内であることがさらに好ましく、0.1〜1μmの範囲内であることが特に好ましい。本明細書でいう電極活物質の平均一次粒子径とは、電極活物質を電子顕微鏡で測定した一次粒子径の平均値である。
【0064】
また、これらの電極活物質の造粒体または凝集体は、平均粒子径が0.05〜20μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜10μmの範囲内であることがより好ましく、0.2〜10μmの範囲内であることがさらに好ましく、0.2〜6μmの範囲内であることが特に好ましい。本明細書でいう電極活物質の平均粒子径とは、レーザ光回折・散乱式の粒度分布計により測定されたD50値である。
【0065】
また、これらの電極活物質は、BET比表面積が1〜20m
2/gのものが好ましく、3〜20m
2/gのものがより好ましく、5〜20m
2/gのものがさらに好ましく、5〜15m
2/gのものが特に好ましい。上記BET比表面積の電極活物質であれば、各種の市販品、合成品を単独で、もしくは2種以上の電極活物質を併せて使用することができる。
【0066】
本発明において、これらの電極活物質の添加量は、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量100質量部に対して、90質量部以上94質量部以下であり、90質量部以上93質量部以下が好ましく、91質量部以上93質量部以下が特に好ましい。想定する産業上の利用方法から、電池容量を向上させるために電極活物質を多量に充填することが望ましいため、導電性や塗膜強度を損なわない範囲で電極活物質量が多いことが望ましい。
【0067】
<添加剤>
本発明では、添加剤として特に分散剤を用いることができる。分散剤を用いて導電助剤を分散処理することで、より高濃度かつ貯蔵安定性が良好な導電助剤分散液を得ることができる。なお、本願における添加剤とは、電極用塗工液を乾燥した際に、その大部分が不揮発分として電極合材層中に残留する、電極活物質、導電助剤、バインダー以外の成分である。
【0068】
本発明で使用する分散剤について特に制限はなく、市販品、合成品に関わらず、単独もしくは2種類以上併せて使用することができる。
【0069】
N−メチル−2−ピロリドン溶剤中で好適に機能する分散剤として、例えば、特開2009−026744公報やWO2008−108360公報に記載の有機色素誘導体やトリアジン誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタールやポリビニルアルコール等を用いることができる。
【0070】
本発明において添加剤として分散剤を使用する場合、充分な量の分散剤を添加することによって、導電助剤や電極活物質を溶媒中に均質に分散させることが可能となる。電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたとき、導電助剤や電極活物質の分散処理に用いる分散剤の合計量は、0.02質量部以上0.5質量部以下であることが好ましく、0.02質量部以上0.3質量部以下であることがより好ましく、0.02質量部以上0.2質量部以下であることがさらに好ましく、0.02質量部以上0.15質量部以下であることが特に好ましい。この量比で分散剤を配合することで、本発明の良好な導電性や伝導性を発現させつつ、良好な加工性を得ることが可能となる。分散剤は、非導電性成分であり、また、バインダーに用いる材料と比較して、電気化学的な安定性や非水電解液に対する耐性が低いことが一般的である。そのため、分散剤の配合比が0.5質量部以上の場合、初期の特性は良好だったとしても、経時で特性が劣化する場合がある。分散剤の配合比は、導電助剤を好適に分散することができる範囲内で、できるだけ少量であることが望ましい。
【0071】
また、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100gとし、電極活物質、1種目の導電助剤および2種目の導電助剤、それぞれの量とそれぞれの比表面積の積の総和を総表面積bm
2としたとき、(添加剤の量/総表面積b)の値が、0.00005以上0.00070以下であることが好ましく、0.000050以上0.00050以下であることがより好ましく、0.00010以上0.00035以下であることがさらに好ましく、0.00010以上0.00030以下であることがさらに好ましく、0.00010以上0.00025以下であることがより好ましく、0.00010以上0.00020以下であることが特に好ましい。
なお、総表面積bは、(1種目の導電助剤の量×1種目の導電助剤の比表面積+2種目の導電助剤の量×2種目の導電助剤の比表面積+電極活物質の量×電極活物質の比表面積)として算出することができる。
使用する添加剤の量が多いほど、電池のレート特性評価(放電容量特性評価)から推測される抵抗値が顕著に大きくなるが、添加剤の量に対する総表面積が大きくなるほど、抵抗値の増大は観察されなくなり、良好なレート特性を得ることが可能となることを発明者は見出した。作用機構は明確ではないが、粒子に吸着された状態にある添加剤と、吸着されずに電解液中に溶解または分散された状態にある添加剤とでは、溶解構造やエネルギー的な状態が異なるために、抵抗成分としての振る舞い方や電気化学的な安定性等にも大きな差異が現れたと推察している。
【0072】
なお、電極用塗工液中に含まれる全固形成分の量を100質量部としたときの添加剤の配合比は、電極活物質ではない非導電性成分として、バインダーの配合比に含めて取り扱う。
【0074】
NMPは、リチウムイオン二次電池の電極製造に用いられている。本発明では、バインダーの化学的安定性や電池性能を損なわない範囲、分散剤を使用する場合は分散剤としての性能を損なわない範囲で、他の溶剤を1種類以上併用しても良いが、本発明の想定する産業上の利用可能性から、溶媒中におけるNMPの比率は、95%以上であることが好ましく、98%以上であることがより好ましく、99%以上であることが特に好ましく、NMPを単独で用いることが特に好ましい。
【0075】
<導電助剤分散液、電極用塗工液の製造方法>
本発明において、導電助剤分散液は、少なくとも1種目の導電助剤と、2種目の導電助剤と、N−メチル−2−ピロリドンを含有するものである。また、電極用塗工液は、少なくとも1種目の導電助剤と、2種目の導電助剤と、バインダーと、電極活物質と、N−メチル−2−ピロリドンを含有するものである。
本発明の導電助剤分散液および電極用塗工液は、材料を一括して混練する方法や、ミキサー等でせん断力をかけて処理する方法、メディアミルを用いて処理する方法等で作製することができる。
【0076】
本発明の電極用塗工液は、導電助剤を分散処理してからバインダー材料や電極活物質を順次添加して溶解・分散処理して作製することが特に好ましい。
分散処理が難しい導電助剤を先に分散処理しておくことで、導電助剤を均質に制御して分散処理することができる。また、続くバインダー材料や電極活物質の溶解・分散処理プロセスを、より精密に制御し、かつ、短時間で良好な電極用塗工液を作製することができるようになる。なお、導電助剤と電極活物質を複合化粒子とするための処理工程を設けないことが望ましい。これは、単に電池電極合材層の作製に要する時間が長くなるだけでなく、意図的な複合化を行った場合、材料の好ましい配合比や、導電助剤の平均分散粒子径が大きく変わることが推測されるためである。
【0077】
導電助剤を溶媒中に分散処理して導電助剤分散液としてから、電極活物質を添加して分散処理をする場合、導電助剤分散液中に含まれる粗大粒子は、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、20μm以下であることが特に好ましい。残存する粗大粒子が大きい、または多量に残存する場合、粗大粒子によって塗膜表面が粗くなり、良好な塗膜を得ることができない場合がある。なお、本発明における導電助剤分散液中に含まれる粗大粒子とは、グラインドゲージによって測定した、粒子が密集し始める粒子径である。
【0078】
本発明において、1種目の導電助剤は、せん断速度15000s
-1以上の条件で運転するミキサー類、または、メディアミルで分散処理して導電助剤分散液とすることが好ましく、メディアミルで分散処理することがより好ましい。メディアミルを用いて分散処理する場合、分散剤を用いることが特に好ましい。また、1種目の導電助剤の濃度は2質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3質量%以上18質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上15質量%以下であることが特に好ましい。
【0079】
また、本発明において、導電助剤分散液は、(I)1種目の導電助剤をメディアミルで分散処理する第一の工程、(II)2種目の導電助剤を添加してせん断速度15000s
-1以上の条件で運転するミキサー類で分散処理する第二の工程、を経て製造されることが特に好ましい。
一般に、1種目の導電助剤の方が2種目の導電助剤よりも分散処理に要する強度やエネルギーが大きく、均質に処理することが難しい。上記プロセスを経ることで、それぞれの導電助剤に対して最適な処理力を加えて粒子の分散処理状態を好適にしつつ、かつ、効率的に導電助剤分散液を得ることができる。なお、上記プロセスを経て作製された導電助剤分散液における1種目の導電助剤の分散粒子径とは、(I)の工程を経て製造された直後の状態での分散粒子径であり、また、2種目の導電助剤の分散粒子径とは、1種目の導電助剤を含まない状態で同一の処理工程(分散機形状、回転数、処理時間)を加えたときの値である。
【0080】
また一般に、メディアミルの処理力は、十分に溶媒が存在する状態でせん断力により分散する機構のミキサー類と比較して、非常に大きい。そのため、(II)の工程を経た後も、1種目の導電助剤の粒度分布は(I)の工程の直後とほぼ同等の形状となる。
屈折率、一次粒子径や二次粒子径が類似している異種の微粒子を、光学的な粒度分布測定によって適切に解析することは極めて困難である。そのため、1種目の導電助剤と2種目の導電助剤を共に含む状態で、それぞれの粒度分布を別々に計測して管理することは困難だが、上記方法をとることによって、1種目および2種目の導電助剤の分散処理状態をそれぞれ管理することができる。
【0081】
工程(I)における1種目の導電助剤の濃度は2質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3質量%以上18質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上15質量%以下であることが特に好ましい。また、工程(II)における、1種目の導電助剤と2種目の導電助剤の合計の濃度は5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、7質量%以上18質量%以下であることが特に好ましい。
【0082】
また、本発明において、導電助剤分散液は、(i)1種目の導電助剤をせん断速度15000s
-1以上の条件で運転するミキサー類、または、メディアミルを使用して分散処理して1種目の導電助剤分散液とする工程、(ii)2種目の導電助剤をせん断速度15000s
-1以上の条件で運転するミキサー類、または、メディアミルを使用して分散処理して2種目の導電助剤分散液とする工程、(iii)上記工程を経て製造されたそれぞれの導電助剤分散液を混合して導電助剤分散液とする工程、を経て製造することができる。上記プロセスを経ることで、各導電助剤の分散処理状態を精密に制御することが可能となるが、その一方で、容易に分散処理することができる電極活物質を用いた場合、達成することができる電極用塗工液の固形分濃度が低くなる場合がある。
【0083】
また、本発明において、導電助剤分散液は、1種目の導電助剤と2種目の導電助剤を同時に、せん断速度15000s
-1以上の条件で運転するミキサー類、または、メディアミルを使用して、
1種目の導電助剤の平均分散粒子径(累積50%粒子径)が280〜1500nm、かつ、2種目の導電助剤の平均分散粒子径(累積50%粒子径)が500〜1500nmとなるときと同等の分散処理工程を経て製造することが好ましい。(ただし、同等の分散処理工程とは、導電助剤分散液を分散処理する分散処理機の形状や運転速度を、1種目の導電助剤を単独で分散して導電助剤の平均分散粒子径が280〜1500nmの導電助剤分散液を製造することができる条件、かつ、2種目の導電助剤を単独で分散して平均分散粒子径が500〜1500nmの導電助剤分散液を製造することができる条件と同一に設定し、かつ、導電助剤分散液中の導電助剤の濃度を分散処理時間で除した値が、上記導電助剤分散液中の導電助剤の濃度を分散処理時間で除した値と同一であることである。)また、設定する電極用塗工液の製造条件は、
1種目の導電助剤を単独で溶媒中に分散処理したときの平均分散粒子径が280nm以上800nm以下となる条件と同一であることがより好ましく、300nm以上700nm以下となる条件と同一であることがさらに好ましく、320nm以上500nm以下となる条件と同一であることが特に好ましい。
【0084】
また、本発明において、電極用塗工液は、導電助剤と電極活物質を溶媒中で同時に分散処理する工程を経て電極用塗工液を製造する方法もあって、導電助剤を単独で溶媒中に分散処理して1種目の導電助剤の平均分散粒子径が280〜1500nm、かつ、2種目の導電助剤の平均分散粒子径が500〜1500nmとなるときと同等の分散処理工程を経て製造することができる。(ただし、同等の分散処理工程とは、電極用塗工液を分散処理する分散処理機の形状や運転速度を、導電助剤を単独で分散して1種目の導電助剤の平均分散粒子径が280〜1500nmの導電助剤分散液を製造することができる条件と同一に設定し、かつ、電極用塗工液中の導電助剤の濃度を分散処理時間で除した値が、上記導電助剤分散液中の導電助剤の濃度を分散処理時間で除した値と同一であることである。)また、設定する電極用塗工液の製造条件は、
1種目の導電助剤を単独で溶媒中に分散処理したときの平均分散粒子径が280nm以上800nm以下となる条件と同一であることがより好ましく、300nm以上700nm以下となる条件と同一であることがさらに好ましく、320nm以上500nm以下となる条件と同一であることが特に好ましい。
【0085】
一般に、電極活物質と導電助剤のように、屈折率、一次粒子径や二次粒子径が大きく異なる異種の微粒子を、光学的な粒度分布測定によって適切に解析することは困難である。そのため、本願の電極用塗工液中に含まれる導電助剤微粒子の粒度分布を適切な解析値として得ることは困難だが、上記製造方法をとることによって、導電助剤と電極活物質を同時に分散処理した場合においても、導電助剤の分散状態を好ましい状態で管理することができる。
【0086】
分散装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機を使用することができる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等、シルバーソン社製「アブラミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、コロイドミル(PUC社製「PUCコロイドミル」、IKA社製「コロイドミルMK」)類、コーンミル(IKA社製「コーンミルMKO」等)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0087】
<電極>
本発明の導電助剤分散液を用いて作製した電極用塗工液を、金属集電体上に塗工・乾燥することで、電池電極合材層を形成し、電極を得ることができる。
【0088】
(金属集電体)
電極に使用する金属集電体の材質や形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。例えば、集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属や合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、及びメッシュ状の集電体も使用できる。
【0089】
集電体上に電極用塗工液を塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等を挙げることができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0090】
本発明において、金属集電体に塗工後、溶媒分を完全に乾燥させて得た電池電極合材層の金属集電体1cm
2あたりの質量は、5〜40mgであることが好ましく、10〜30mgであることがより好ましく、10〜25mgであることが特に好ましい。
【0091】
本発明において、金属集電体に塗工後、溶媒分を完全に乾燥させて得た電池電極合材層の乾燥後膜厚は、30〜500μmであることが好ましく、40〜300μmであることがより好ましく、40〜200μmであることがさらに好ましく、40〜120μmであることが特に好ましい。なお、乾燥後膜厚とは圧延処理をしていない状態での膜厚であり、例えばデジマイクロ(ニコン社製)等の接触式膜厚形で測定して得た値である。一般に、膜厚が大きくなるほど塗膜のヒビ割れや剥落が起こりやすくなるため、より強い密着性が必要になる。本発明では、高比表面積で密着性を低下させる導電助剤を用いたとしても、密着性が十分に強い状態を維持することができるため、高膜厚で高容量な電池電極合材層を設計することができる。
【0092】
また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。圧延処理後の電極合材層の厚みは、一般的には1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0093】
<二次電池>
本発明の電極用塗工液から作製した電池電極合材層は、特にリチウムイオン二次電池で好適に使用することができ、特に正極用合材層として好適に使用することができる。
【0094】
(電解液)
リチウムイオン二次電池の場合を例にとって説明する。電解液としては、リチウムを含んだ電解質を非水系の溶媒に溶解したものを用いる。電解質としては、LiBF
4、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiCF
3SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、LiC
4F
9SO
3、Li(CF
3SO
2)
3C、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF
2、LiSCN、又はLiBPh
4(ただし、Phはフェニル基である)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、及びγ−オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−メトキシエタン、1,2−エトキシエタン、及び1,2−ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。
【0096】
(セパレーター)
セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施したものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0097】
(電池構造・構成)
本発明の電極用塗工液を用いたリチウムイオン二次電池は、少なくとも、集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備する。
また、本発明の導電助剤分散液を用いて作製した電極用塗工液を用いたリチウムイオン二次電池の構造については特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【0098】
本発明では、上記課題に支障を及ぼさない範囲で、塗膜物性等の調整等の目的で、従来公知の分散剤や樹脂、添加剤等を併用しても良い。
【実施例】
【0099】
以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。本実施例中、部は質量部を、%は質量%を、D50は平均分散粒子径(累積50%粒子径)をそれぞれ表す。
実施例及び比較例で使用した導電助剤(カーボンブラックを「CB」と略記することがある)、バインダー、電極活物質等を以下に示す。また、各表には、各原料の組成のみを記載しているが、特に記載の無い残りの成分は、NMPである。
【0100】
<導電助剤>
・デンカブラックHS−100(デンカ社製):アセチレンブラック、平均一次粒子径48nm、比表面積39m
2/g、以下HS−100と略記する。
・デンカブラック粒状品(デンカ社製):アセチレンブラック、平均一次粒子径35nm、比表面積69m
2/g、以下粒状品と略記する。
・デンカブラックFX−35(デンカ社製):アセチレンブラック、平均一次粒子径26nm、比表面積133m
2/g、以下FX−35と略記する。
・SuperP Li(ティムカル社製):ファーネスブラック、平均一次粒子径40nm、比表面積62m
2/g、以下SuperPと略記する。
・ケッチェンブラック EC−300J(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製):中空カーボンブラック、平均一次粒子径40nm、比表面積800m
2/g、以下EC−300Jと略記する。
・ケッチェンブラック EC−600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製):中空カーボンブラック、平均一次粒子径34nm、比表面積1270m
2/g、以下EC−600JDと略記する。
・ケッチェンブラック EC−200L(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製):中空カーボンブラック、平均一次粒子径40nm、比表面積377m
2/g、以下EC−200Lと略記する。
・TIMREX KS6(ティムカル社製):人造黒鉛、平均粒子径3.4μm、比表面積20m
2/g、以下KS−6と略記する。
【0101】
<バインダー>
・KFポリマーW#1100(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、重量平均分子量約280000。以下、#1100と略記する。
・KFポリマーW#7200(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、重量平均分子量約630000。以下、#7200と略記する。
・KFポリマーW#7300(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、重量平均分子量約1000000。以下、#7300と略記する。
・ソレフ5130(ソルベイ社製):変性ポリフッ化ビニリデン、重量平均分子量約12000000。以下、#5130と略記する。
・KFポリマーW#9100(クレハ社製):変性ポリフッ化ビニリデン、重量平均分子量約280000。以下、#9100と略記する。
【0102】
<分散剤>
・クラレポバール PVA−505(クラレ社製): ポリビニルアルコール、けん化度73mol%、平均重合度500、以下PVAと略記する。
・エスレックBL−10(積水化学工業社製): ポリビニルブチラール、水酸基28mol%、ブチラール化度71mol%、計算分子量15000。以下PVBと略記する。
・PVP K−30(ISP社製): ポリビニルピロリドン。以下、PVPと略記する。
【0103】
<電極活物質>
・RL−05(Hunan Reshine New Material社製):正極用三元系活物質(LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2)、平均粒子径11.5μm、比表面積0.3m
2/g。以下、NCM523と略記する。
・HED
TM NCM−111 1040(BASF戸田バッテリーマテリアルズ社製):正極用三元系活物質(LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2)、平均粒子径5.3μm、比表面積0.5m
2/g、以下、NCM111と略記する。
・NCA−1:正極用リチウムニッケルコバルトアルミ複合酸化物(LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2)、平均粒子径8μm、比表面積0.38m
2/g。
・NCA−2:正極用リチウムニッケルコバルトアルミ複合酸化物(LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2)、平均粒子径14μm、比表面積0.2m
2/g。
・M12(Aleees社製):正極用リン酸鉄リチウム、平均粒子径4.0μm、比表面積12m
2/g。
・チタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)、一次粒子径700nm、比表面積7m
2/g。以下
LTOと略記する。
【0104】
<導電助剤分散液の評価>
実施例および比較例で使用した導電助剤分散液の評価は、粘度、平均粒子径を測定することにより行った。
【0105】
導電助剤の平均分散粒子径の測定は、導電助剤分散液をNMPにより適切な濃度に希釈した後に、超音波処理を施した液を測定サンプルとして用い、レーザ光回折・散乱法方式の粒度分布計(マイクロトラック・ベル社製「マイクロトラックMT3000」、光源波長780nm)を用いて平均粒子径を測定することにより行った。
各種測定条件は、上記方法によりNMP希釈した分散液のローディング時の透過率を0.88以上0.92以下に、粒子条件を、吸収性粒子として、溶媒条件を、溶媒屈折率1.470、得られた累積50%径をD50値として表記した。測定結果は、液温25℃のNMP溶媒についてバックグラウンド値を測定した後、上記方法にて調製した液温25℃のサンプルを測定容器に充填し、上記測定条件にて測定を行うことにより得た。
【0106】
粘度値の測定は、B型粘度計(東機産業社製「BL」)を用いて、分散液温度25℃、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて、分散液をヘラで充分に撹拌した後、直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度値が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500以上2000mPa・s未満の場合はNo.3を、2000以上10000mPa・s未満の場合はNo.4のものをそれぞれ用い、粘度値が10000mPa・s以上の場合については評価不可能とした。貯蔵安定性の評価は、カーボンブラック分散液を50℃にて10日間静置して保存した後の、粘度値の変化から評価した。変化の少ないものほど安定性が良好であり、○:問題なし(良好)、△:問題なし(粘度変化はあるが使用可能)、×:極めて不良、とした。
【0107】
<導電助剤分散液の調製>
[製造例1〜製造例9、製造例1−1〜製造例1−4、製造例2−1〜製造例2−2]
表1に示す組成に従い、1種目または2種目の導電助剤分散液の量が合計5kgとなるように、ステンレス容器にNMPと分散剤とを仕込み、充分に混合溶解した後、ディスパー撹拌下、各種導電助剤を加えた。その後、メディアとして1.25mmφジルコニアビーズを充填したビーズミル(ダイノーミルMULTI LAB、容量300mL、シンマルエンタープライゼス社製)を用いて所定の時間分散し、1種目または2種目の導電助剤分散液を作製した。
【0108】
【表1】
【0109】
[実施例1−1〜実施例1−17、比較例1−1〜比較例1−4]
表2に示す組成に従い、製造例1〜製造例9、製造例1−1〜製造例1−4、製造例2−1〜製造例2−2で作製した1種目の導電助剤分散液と2種目の導電助剤分散液を十分に混合し、各導電助剤分散液を得た。
【0110】
【表2】
【0111】
<バインダーを含む導電助剤分散液の調製>
[実施例2−1〜実施例2−26、比較例2−1〜比較例2−7]
表3に示す組成に従い、バインダーを含む導電助剤分散液の量が合計300gとなるように、ガラス瓶に実施例1−1〜実施例1−17、製造例2、製造例7、製造例1−1、及び、比較例1−1〜比較例1−4で調製した各種導電助剤分散液、バインダー、分散剤、及び、NMPを仕込み、充分に混合溶解し、各種バインダー成分を含む各導電助剤分散液を得た。
【0112】
【表3】
【0113】
[参考例3−1〜参考例3−7]
表4に示す組成に従い、NMPと分散剤とを仕込み、充分に混合溶解した後、ディスパー撹拌下、2種目の導電助剤とバインダーを仕込み、マジックラボ(IKA社製)を用いて、表4に示す条件に従って分散処理を
20分間行うことで、2種目の導電助剤を含む各導電助剤分散液を得た。
参考例3−1〜参考例3−4および参考例3−7で作製した導電助剤分散液はいずれも粗大粒子がなく、かつ低粘度であり、貯蔵安定性も良好であった。一方、参考例3−5および参考例3−6で作製した導電助剤分散液は、大きな粗大粒子が多数残存し、かつ、経時で粘度値が安定しない分散液となった。これらの導電助剤分散液の平均分散粒子径を評価することで、実施例3−1〜実施例3−4、比較例3−1〜比較例3−3、実施例4−1〜実施例4−2、および、比較例4−1の導電助剤分散液中に含まれる2種目の導電助剤の平均分散粒子径(D50)のデータを得た。各実施例および比較例で添加された導電助剤の平均分散粒子径(D50)は、各参考例の同一のせん断速度で処理したときの平均分散粒子径(D50)と同等である。なお、表1のビーズミルで分散処理して作製した各種導電助剤分散液は、ビーズミルの方がミキサー類よりも分散処理する力が遥かに強いため、ミキサー類での分散処理の前後で平均分散粒子径はほとんど変わらない。
【0114】
[実施例3−1〜実施例3−4、比較例3−1〜比較例3−3]
表4に示す組成に従い、製造例2、または、製造例2−1で作製した各種1種目の導電助剤分散液をガラス瓶に仕込み、次いで、2種目の導電助剤とバインダーを仕込み、マジックラボ(IKA社製、MKモジュール)を用いて、表4に示す条件に従って分散処理を20分間行うことで、1種目の導電助剤と2種目の導電助剤をそれぞれ含む各導電助剤分散液を得た。
実施例3−1〜実施例3−4で作製した導電助剤分散液はいずれも粗大粒子がなく、かつ低粘度であり、貯蔵安定性も良好であった。一方、比較例3−1で作製した導電助剤分散液は、経時での粘度上昇が起こり、また、比較例3−2で作製した導電助剤分散液は、大きな粗大粒子が多数残存し、かつ、経時で粘度値が安定しない分散液となった。
【0115】
【表4】
【0116】
[実施例4−1〜実施例4−2、比較例4−1〜比較例4−2]
表5に示す組成に従い、バインダーを含む導電助剤分散液の量が合計400質量部となるように、ガラス瓶にNMP、バインダー、及び、分散剤を仕込み、充分に混合溶解した。次いで、各種導電助剤を加え、マジックラボ(IKA社製)を用いて、表5に示す条件に従って分散処理を20分間行うことで、各導電助剤分散液を得た。
実施例4−1〜実施例4−2で作製した導電助剤分散液はいずれも粗大粒子がなく、かつ低粘度であり、貯蔵安定性も良好であった。一方、比較例4−1〜比較例4−2で作製した導電助剤分散液は、特に1種目の導電助剤の分散処理がうまく進まず、粗大粒子が多数残り、かつ粘度も高く、貯蔵安定性の悪い分散液となった。比較例4−2は粗大粒子がほとんど処理できていないため平均分散粒子径を評価することはできないが、比較例4−1よりもさらに分散処理力が低いことから、少なくとも比較例4−1よりも平均分散粒子径が大きいことが推測できる。
【0117】
【表5】
【0118】
<電極用塗工液の調製>
[実施例5−1〜実施例5−28、比較例5−1〜比較例5−10、参考例5−1〜参考例5−4]
表6に示す組成に従い、電極用塗工液の量が合計200質量部となるように、ガラス瓶に実施例2−1〜実施例2−24、実施例3−2〜実施例3−3、および、比較例2−1〜比較例2−7、比較例3−1、比較例3−3で作製した各種導電助剤分散液、電極活物質、およびNMPを仕込み、ディスパーにより充分に混合し、各電極用塗工液を得た。
実施例5−1〜実施例5−29で得られた電極用塗工液は、粗大粒子が十分に小さく、粘性および粘度が良好で、かつ、貯蔵安定性試験後も良好な状態を保っていた。
一方、比較例5−1、比較例5−4〜比較例5−10で得られた電極用塗工液は、粘度が安定しない塗工液となった。比較例5−5〜比較例5−7で得られた電極用塗工液は、導電助剤の平均分散粒子径が微細すぎるために粘度が安定しない塗工液となったものと推測できる。また、比較例5−1、比較例5−4、比較例5−8、および比較例5−10のように、導電助剤として主として1種目の導電助剤を使用した場合は、導電助剤の粒子個数が顕著に多いために粘度が安定しない塗工液となったものと推測できる。一方、比較例5−2および比較例5−3は、粒子の安定化が容易な2種目の導電助剤を主として使用したため、貯蔵安定性が良好な電極用塗工液を得ることができるが、続くセル評価における電池特性における抵抗の高さが課題となる。
【0119】
[実施例5−29]
表6に示す組成に従い、軟膏容器に実施例2−3で作製した導電助剤分散液と、電極活物質を仕込み、自転・公転ミキサー(あわとり練太郎ARE−310、シンキー社製)を用いて、2000rpmで5分間混合し、電極用塗工液を得た。
【0120】
【表6】
【0121】
[実施例5−30]
軟膏容器に、実施例2−3で作製した導電助剤分散液65.5部、LTO82.8部、およびNMP1.7部を仕込み、自転・公転ミキサー(あわとり練太郎ARE−310、シンキー社製)を用いて、2000rpmで5分間混合し、電極用塗工液を得た。
【0122】
[実施例5−31]
ガラス瓶にNMP1200部と分散剤(PVA)9部とを仕込み、充分に混合溶解した。次いで、1種目の導電助剤(EC−300J)45部、2種目の導電助剤(HS−100)45部、および、正極活物質(M12)1656部との混合粉を、ディスパー撹拌下、全量の1/3だけ仕込み、メディアとして1.25mmφジルコニアビーズを充填したビーズミル(ダイノーミルMULTI LAB、シンマルエンタープライゼス社製)で10分間分散した。
その後、各種導電助剤と正極活物質(M12)との混合粉を全量の1/3だけ仕込み、ビーズミルで10分間分散した後、残りの混合粉を仕込んで、さらにビーズミルで1.5時間分散した。最後に、ディスパー撹拌下、バインダー(#7200)45部を仕込んで十分に混合溶解することで、電極用塗工液を得た。
【0123】
[比較例5−11]
プラネタリーミキサー(ハイビスミックス2P−03、プライミクス社製)の分散容器に、NMP120部、1種目の導電助剤(EC−300J)5.6部、2種目の導電助剤(HS−100)5.6部、バインダー(#7200)11.2部仕込み、自転速度40rpmにて90分間処理した。次いで、正極活物質(M12)の全量(257.6部)の内の1/4を添加して自転速度40rpmで30分間処理し、この工程を4回繰り返すことで、正極活物質(M12)を全て仕込んだ。その後、さらに自転速度40rpmで4時間混練した後、NMPを67部添加して希釈して、電極用塗工液を得た。
得られた電極用塗工液は均質に分散処理が進んでおらず、また、粒度分布計による適切な評価もできないほどに100μm超過の大きな粗大粒子が多数残り、さらに、貯蔵安定性や塗工性の悪い電極用塗工液となった。
【0124】
<電池電極合材層の作製>
[実施例6−1〜実施例6−29、比較例6−1〜比較例6−10、参考例6−1〜参考例6−4]
上記の各実施例、比較例、参考例で得られた各電極用塗工液を、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、ホットプレートを用いて70℃で10分間加熱し、その後減圧下120℃で30分間加熱乾燥し、電池電極合材層の乾燥後膜厚が80〜90μm、目付量18mg/cm
2となる各塗膜を作製した。得られた電池電極合材層の評価は、密着性(剥離強度試験)により行った。
【0125】
(塗膜評価)
剥離強度の測定には卓上型引張試験機(東洋精機製作所製、ストログラフE3)を用い、180度剥離試験法により評価した。具体的には、100mm×20mmサイズの両面テープ(No.5000NS、ニトムズ(株)製)を金属板上に貼り付け、作製した電池電極合材層を両面テープのもう一方の面に密着させ、一定速度(50mm/分)で上方に引っ張り、剥離試験を行った。剥離強度試験の結果は、◎:問題なし(特に良好、剥離強度500mN/cm以上)、○:問題なし(良好、剥離強度300mN/cm以上)、△:〇の場合よりは剥離強度が低いが問題なし(可、剥離強度100mN/cm以上)、×:強度が弱く、剥がれやすい(極めて不良、剥離強度100mN/cm未満または評価不可)、とした。評価結果を表7に示した。
【0126】
【表7】
【0127】
表7より、実施例6−1〜実施例6−29の電池電極合材層は、比較例6−1、比較例6−4〜比較例6−5および比較例6−7〜比較例6−9の電池電極合材層と比較して塗膜の密着性(剥離強度試験結果)が優れていることが分かった。また、比較例6−5、比較例6−7および比較例6−8〜比較例6−9は、180度剥離試験中に剥落する塗膜となった。1種目の導電助剤が塗膜中に占める比率が大きいほど密着性は低下し、さらに、1種目の導電助剤を微細に分散処理した場合、密着性が低下するだけでなく、湾曲等させたときに剥落しやすい塗膜となることが分かった。1種目の導電助剤を用いて、製膜性を良好にしながら密着性を確保するためには、参考例6−3のように多量のバインダーを使用する必要がある。しかし、1種目の導電助剤の一部を2種目の導電助剤で置き換えるか、または、1種目の導電助剤の粗大粒子を十分に処理しつつ、平均分散粒子径を微細にせず大粒子径側に制御することによって、バインダーの使用量を抑えた状態でも良好な密着性を有する塗膜が得られることが分かった。なお、比較例6−2と6−3のように、導電助剤として2種目の導電助剤を主として用いた場合は、粒子の比表面積が小さく、粒子個数が少ないために密着性が良好な塗膜を得ることができるが、続くセル評価における電池特性における抵抗の高さが課題となる。
【0128】
<リチウムイオン二次電池正極評価用セルの組み立て>
[実施例7−1〜実施例7−29、比較例7−1〜比較例7−10、参考例7−1〜参考例7−4]
先に作製した電池電極合材層(実施例6−1〜実施例6−29、比較例6−1〜比較例6−10、参考例6−1〜参考例6−4の電池電極合材層)を、ローラープレス機にて圧延処理し、合材層の密度3.1g/cm
3となる正極合材層を作製した。これを直径16mmの円形に打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(多孔質ポリオレフィンフィルム)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを容量比1:1で混合した混合溶媒にLiPF
6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝泉社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立ては、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
【0129】
(放電容量特性)
上述したセルについて、充放電装置(北斗電工社製SM−8)を用い、25℃で充放電測定を行った。各Cレートの充放電電流値は、電極活物質の構成比率や電極合材層の目付量、電極活物質の公開容量によって適宜変更されるが、例えば実施例
7−1では、充電電流1.18mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流0.12mAを行った後、
放電電流1.18mA(0.2C)、および、11.81mA(2C)または17.72mA(3C)で放電終止電圧3.0Vに達するまで定電流放電を行って、それぞれ放電容量を求めた。
放電容量特性の結果は、アセチレンブラックのみを導電助剤として用いた同一の組成比
の合材層における測定結果を基準とし、以下(式)Aで表され、放電容量特性が良好な場合ほど、正極評価用セル中における電池電極合材層の導電性が良好であることが推測できる。
(式A)放電容量特性=(対象とする各例の2Cまたは3C放電容量/導電助剤としてアセチレンブラックのみを用いた場合の2Cまたは3C放電容量)×100(%)
以下の基準で評価した結果を表8に示す。なお、放電容量特性に対する、導電助剤、バインダー、及び、分散剤の構成比率や、導電助剤微粒子の分散処理状態による影響の比較は、同一の導電助剤配合比率(1種目の導電助剤と2種目の導電助剤の和が同一である組成比)間で行うことが望ましい。これは、例えば電極活物質の比率を低減させて導電助剤の比率を増大させた場合、当然導電性がより良好な塗膜が得られ、導電助剤自体の比較とはならないためである。
・放電容量特性
◎:「放電容量特性の比が120%以上。特に優れている。」
○:「放電容量特性の比が105%以上、120%未満。優れている。」
△:「放電容量特性の比が80以上、105%未満。可。ただし、2Cおよび3Cの放電容量特性が共に△の場合は、従来技術と同等のため不良とする。」
△△:「放電容量特性の比が80%未満。劣っている(不良)。」
×:「放電容量特性の比が70%未満、または測定不可。劣っている。」
【0130】
【表8】
【0131】
(サイクル特性)
[実施例8−1〜実施例8−13、比較例8−1〜比較例8−3、参考例8−1]
先に作製した正極評価用セルを25℃で、充放電装置(北斗電工社製SM−8)を使用して、充電レート1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.3V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で、放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計50サイクル行い、充放電を行った。容量維持率は、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の百分率であり、容量維持率が95%以上の場合を◎(極めて良好)、90%以上95%未満の場合を○(良好)、80%以上90%未満を△(可)、80%未満を×(不可)とした。評価結果を表9に示した。
【0132】
【表9】
【0133】
表8および表9より、本発明の電極を使用した実施例7−1〜実施例7−29
や実施例8−1〜実施例8−13は、比較例7−1〜比較例7−10
や比較例8−1〜比較例8−3、および参考例7−1
や参考例8−1と比較して、放電電圧や放電容量特性、50サイクル後の容量維持率についても、良好な結果であった。
実施例7−1〜実施例7−4と比較例7−1〜比較例7−4から、1種目の導電助剤と2種目の導電助剤を特定の組成比で用いたときに、特に良好な結果を得ることができることが分かった。また、
実施例7−5〜実施例7−7および比較例7−1や比較例7−5〜比較例7−7から、分散処理を行った上で1種目の導電助剤を用いる場合、導電助剤の分散処理状態が特に重要であり、1種目の導電助剤単独では良好な結果を得ることができず、さらに、平均分散粒子径を大きく保つことによって良好な特性を得ることができることが分かった。
【0134】
一方、
参考例7−2〜参考例7−4からは、電極活物質の占める比率が低く導電助剤が充分である場合、1種目の導電助剤や2種目の導電助剤それぞれを単独で用いた場合と同等の結果となっている。これは、いずれの例についても電極活物質間の導通を取るために必要な量の導電助剤が充分にあるため、導電性の差異が現れなかったものと推測できる。本願発明の効果は、電極活物質の占める比率が高く導電助剤の比率が限定される設計において、特に顕著に得ることができる。
【0135】
また、実施例7−21〜実施例7−24と参考例7−1、実施例8−9〜実施例8−12と参考例8−1からは、分散剤を用いた上で作製した電極合材層において、分散剤の配合比は少ない方が良好な結果となることが分かった。分散剤の配合比は、導電助剤分散液の作製工程、電極用塗工液の塗工性や塗膜の密着性を良好にできる範囲で少ないことが望ましく、0.5%を超過した場合は、顕著にサイクル特性が悪化することが分かった。
【0136】
さらに、特に実施例7−25〜実施例7−27、または、実施例7−22、実施例7−28および
参考例7−1から、分散剤を用いた上で作製した電極合材層においては、合材層における分散剤の配合比だけではなく、導電助剤や電極活物質の総表面積bの影響を大きく受けることが判明した。同一の比率だけ分散剤を配合した場合であっても、総表面積bが大きければ大きい場合ほど、分散剤による電池特性への影響は小さなものとなる。
分散処理が難しい1種目の導電助剤を用いて、高濃度で加工性に優れる導電助剤分散液や電極用塗工液を得るためには分散剤を用いる必要があるが、導電助剤の配合比が少ない電極合材層としたときの電池特性への影響は合材層を構成する材料やその比率によって大きく異なることが判明した。