特許第6879159号(P6879159)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6879159
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】渦電流式減速装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 49/02 20060101AFI20210524BHJP
【FI】
   H02K49/02 B
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-193771(P2017-193771)
(22)【出願日】2017年10月3日
(65)【公開番号】特開2019-68669(P2019-68669A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野上 裕
(72)【発明者】
【氏名】今西 憲治
(72)【発明者】
【氏名】野口 泰隆
(72)【発明者】
【氏名】楞川 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】増井 亮介
(72)【発明者】
【氏名】佐野 薫平
【審査官】 若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−023091(JP,A)
【文献】 特公昭50−19710(JP,B1)
【文献】 米国特許第03624437(US,A)
【文献】 実開平05−080180(JP,U)
【文献】 特開2001−320870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に取り付けられ、一方向に回転可能な円筒状のロータと、
前記ロータの外周面に設けられ、前記ロータの回転方向に対して傾斜した複数のフィンと、
前記ロータの内周面と隙間を空けて対向するように前記回転軸回りに配列された複数の永久磁石と、
前記永久磁石と前記ロータとの間に磁気回路が形成される制動状態と、前記永久磁石と前記ロータとの間に磁気回路が形成されない非制動状態と、に切り替えるスイッチング機構と、
前記ロータの半径方向において前記複数のフィンの頂面と前記複数のフィンの根元との間に位置する外周端を含み、回転軸方向において前記ロータの2つの端面のうちの一方の端面と隙間を空けて対向し、前記ロータに対して前記回転軸方向にスライド可能な円板状のカバーと、
前記制動状態のときに前記カバーを前記ロータから遠ざけ、前記非制動状態のときに前記カバーを前記ロータに近づけるカバー切替え機構と、を備え、
前記カバーは、前記複数のフィンそれぞれの前記回転軸方向の2つの端部のうち、前記ロータの回転方向で先行する端部が存在する側に配置されている、渦電流式減速装置。
【請求項2】
請求項1に記載の渦電流式減速装置であって、
前記回転軸の中心軸から前記カバーの外周端までの距離は、前記回転軸の中心軸から前記複数のフィンの頂面までの距離と同じである、渦電流式減速装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の渦電流式減速装置であって、
前記ロータの前記回転軸方向の長さをWとし、前記非制動状態のときの前記カバーと前記カバーと対向する前記ロータの端面との距離をC1とし、前記制動状態のときの前記カバーと前記カバーと対向する前記ロータの端面との距離をC2としたとき、
C1/Wは2.0%以下であり、C2/Wは2.5%以上、6.0%以下である、渦電流式減速装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の渦電流式減速装置であって、
前記カバー切替え機構は、
前記カバーを回転軸方向にスライド可能に支持する、少なくとも3つの棒と、
前記カバーに接続された流体圧シリンダと、を含み、
前記流体圧シリンダの作動により、前記カバーが前記ロータに対してスライドし、前記カバーが前記ロータから遠ざかった状態と、前記カバーが前記ロータに近づいた状態と、に切り替わる、渦電流式減速装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の渦電流式減速装置であって、
前記減速装置は、
前記ロータと前記永久磁石との前記隙間に設けられ、前記回転軸回りに配列された複数のポールピースと、
前記永久磁石を保持する磁石保持リングと、
前記磁石保持リングを前記回転軸回りに回転可能に支持するとともに、前記ポールピースを保持するハウジングと、を備え、
前記スイッチング機構は、前記磁石保持リングに接続された流体圧シリンダを含み、
前記流体圧シリンダの作動により、前記磁石保持リングが前記ポールピースに対して回転し、前記ポールピースに対する前記永久磁石の位置が切り替わる、渦電流式減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラック、バス等の車両に補助ブレーキとして搭載される減速装置に関する。特に、本発明は、制動力を発生させるために永久磁石(以下、単に「磁石」ともいう)を用いた渦電流式減速装置(以下、単に「減速装置」ともいう)に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、渦電流式減速装置は円筒状の制動部材を備える。制動部材は、車両の回転軸に取り付けられるロータである。通常、ロータの内周面に対向する複数の磁石が回転軸回りに配列される。ロータの内周面と磁石との隙間に、複数のポールピースが回転軸回りに配列される。スイッチング機構によって、ポールピースに対する磁石の位置が切り替わり、制動と非制動とが切り替わる。
【0003】
制動時、磁石からの磁束がポールピースを通じてロータに達する。つまり、磁石とロータとの間に磁気回路が形成される。これにより、回転軸と一体で回転するロータの内周面に渦電流が発生する。その結果、ロータに制動トルクが作用し、回転軸の回転速度が減少する。一方、非制動時は、磁石からの磁束がロータに達しない。つまり、磁石とロータとの間に磁気回路が形成されない。そのため、ロータの内周面に渦電流が発生せず、制動トルクが発生しない。
【0004】
制動時には、渦電流の発生に伴ってロータが発熱する。ロータが発熱すると、ロータからの輻射熱によって磁石が加熱される。ロータが磁石を包囲しているからである。磁石が過度に加熱されると、磁石が保有する磁力が減少し、減速装置の性能が低下する。そのため、複数のフィンがロータの外周面に設けられる。フィンは、ロータに生じた熱を効率よく外部に放出する。
【0005】
ここで、車両が通常に走行しているとき、すなわち非制動時、フィンはロータと一体で回転する。フィンは外部に表出しているため、ロータ(回転軸)の円滑な回転を妨げる抵抗となる。フィンによる回転抵抗は風損とも称される。風損が増大すれば、燃費の低下につながる。したがって、減速装置には、フィンによる風損を抑制することが要求される。
【0006】
風損を抑制する技術は、例えば、実開平7−3286号公報(特許文献1)及び特開平5−308770号公報(特許文献2)に開示される。特許文献1に開示された従来の減速装置では、フィンが設けられたロータを外周側から覆うように、複数のカバーが配置されている。各カバーはロータの径方向の外側に向けて跳ね上がるように可動する。非制動時、各カバーがフィンを覆った状態になる。そのため、フィンによる風損を低減できる。一方、制動時は、各カバーが跳ね上がり、フィンが外部に表出した状態になる。そのため、フィンの放熱性能を確保できる。
【0007】
特許文献2に開示された従来の減速装置では、フィンが設けられたロータを外周側から覆うように、円筒状のカバーが配置されている。カバーは回転軸方向にスライド可能である。非制動時、カバーがフィンを覆った状態になる。そのため、フィンによる風損を低減できる。一方、制動時は、カバーがスライドし、フィンが外部に表出した状態になる。そのため、フィンの放熱性能を確保できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平7−3286号公報
【特許文献2】特開平5−308770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示された従来の減速装置では、複数のカバーがロータの回転軸方向の全域を外周側から覆う。そして、各カバーの径方向への可動域を確保するため、装置自体が径方向に拡大する。特許文献2に開示された従来の減速装置では、カバーがロータの回転軸方向の全域を外周側から覆う。そして、カバーの回転軸方向への可動域を確保するため、装置自体が回転軸方向に拡大する。つまり、従来の減速装置では、装置自体の拡大が問題となる。車両において、減速装置が搭載されるスペースは限られているからである。
【0010】
本発明の目的は、装置自体の拡大を抑えつつ、風損の抑制及び放熱性能の確保を実現できる渦電流式減速装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態による渦電流式減速装置は、円筒状のロータと、複数のフィンと、複数の永久磁石と、スイッチング機構と、円板状のカバーと、カバー切替え機構と、を備える。ロータは、回転軸に取り付けられ、一方向に回転可能である。複数のフィンは、ロータの外周面に設けられ、ロータの回転方向に対して傾斜している。複数の永久磁石は、ロータの内周面と隙間を空けて対向するように回転軸回りに配列されている。スイッチング機構は、永久磁石とロータとの間に磁気回路が形成される制動状態と、永久磁石とロータとの間に磁気回路が形成されない非制動状態と、に切り替える。カバーは、ロータの半径方向において複数のフィンの頂面と複数のフィンの根元との間に位置する外周端を含む。カバーは、回転軸方向においてロータの2つの端面のうちの一方の端面と隙間を空けて対向し、ロータに対して回転軸方向にスライド可能である。カバー切替え機構は、制動状態のときにカバーをロータから遠ざけ、非制動状態のときにカバーをロータに近づける。カバーは、複数のフィンそれぞれの回転軸方向の2つの端部のうち、ロータの回転方向で先行する端部が存在する側に配置されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態による渦電流式減速装置によれば、装置自体の拡大を抑えつつ、風損の抑制及び放熱性能の確保を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、シミュレーション解析で用いた減速装置のモデルの一部を示す斜視図である。
図2図2は、減速装置の主な構成を模式的に示す断面図である。
図3図3は、ロータを外周側から見たときの平面図である。
図4図4は、図1に示すモデルを用いて気流の熱流体解析を実施したときの結果を示す図である。
図5図5は、本発明の実施形態による減速装置の主な構成を模式的に示す断面図である。
図6A図6Aは、図5に示す減速装置による非制動時の状態を模式的に示す断面図である。
図6B図6Bは、図5に示す減速装置による制動時の状態を模式的に示す断面図である。
図7図7は、図5に示す減速装置における磁石の配列の一例を示す斜視図である。
図8A図8Aは、図5に示す減速装置による非制動時の状態を模式的に示す断面図である。
図8B図8Bは、図5に示す減速装置による制動時の状態を模式的に示す断面図である。
図9図9は、非制動時の風損に関する評価結果を示す図である。
図10図10は、制動時の放熱性能に関する評価結果を示す図である。
図11図11は、磁石の配列の一例を示す斜視図である。
図12A図12Aは、図11に示す減速装置による非制動時の状態を模式的に示す断面図である。
図12B図12Bは、図11に示す減速装置による制動時の状態を模式的に示す断面図である。
図13図13は、図11とは異なる磁石の配列の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記の課題を解決するため、本発明者らは、種々の実験及びシミュレーション解析を実施し、鋭意検討を重ねた。その結果、下記の知見を得た。
【0015】
図1は、シミュレーション解析で用いた減速装置のモデルの一部を示す斜視図である。図2は、減速装置の主な構成を模式的に示す断面図である。図3は、ロータを外周側から見たときの平面図である。なお、図2に示す断面は、回転軸に沿った断面である。
【0016】
図1図3を参照し、制動部材としての円筒状(ドラム状)のロータ1は、アーム5及びホイール6を介して回転軸10に取り付けられ、回転軸10と一体化される。ロータ1は回転軸10と一体で一方向に回転する。ロータ1に生じた熱を放熱するため、ロータ1の外周面1aに複数のフィン8が設けられる。各フィン8はロータ1の回転方向に対して傾斜している。ロータ1の回転に伴って各フィン8が回転し、各フィン8が気流より圧力を受ける。各フィン8が受けた圧力が回転の抵抗力となる。このように各フィン8が気流より圧力を受けることにより、風損が生じると考えられる。
【0017】
図4は、図1に示すモデルを用いて気流の熱流体解析を実施したときの結果を示す図である。図4に示す結果は、図3に示す領域Aに作用するガス圧力の分布を表わす。図3及び図4を参照し、各フィン8は全域で一様な圧力を受けるわけではない。
【0018】
フィン8それぞれの2つの端部8a、8bのうち、ロータ1の回転方向で先行する端部(以下、「先行端部」ともいう)8aが、局部的に高い圧力を受ける。そのため、各フィン8が受ける回転の抵抗力は、各フィン8の先行端部8aで最も高くなる。したがって、非制動時に風損を効果的に抑制するためには、各フィン8の先行端部8aが受けるガス圧力を低減すればよい。つまり、各フィン8の先行端部8aを含む限定的な領域をカバーで覆えばよい。
【0019】
また、制動時にそのカバーをロータから遠ざけた状態にし、非制動時にそのカバーをロータに近づけた状態にすればよい。制動時、カバーがロータから遠ざかっていれば、ガス(空気)が外部からカバーの内外周を通じて各フィン8に導入され、フィン8の放熱性能を確保できる。
【0020】
本発明は上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0021】
本発明の実施形態による渦電流式減速装置は、円筒状のロータと、複数のフィンと、複数の永久磁石と、スイッチング機構と、円板状のカバーと、カバー切替え機構と、を備える。ロータは、回転軸に取り付けられ、一方向に回転可能である。複数のフィンは、ロータの外周面に設けられ、ロータの回転方向に対して傾斜している。複数の永久磁石は、ロータの内周面と隙間を空けて対向するように回転軸回りに配列されている。スイッチング機構は、永久磁石とロータとの間に磁気回路が形成される制動状態と、永久磁石とロータとの間に磁気回路が形成されない非制動状態と、に切り替える。カバーは、ロータの半径方向において複数のフィンの頂面と複数のフィンの根元との間に位置する外周端を含む。カバーは、回転軸方向においてロータの2つの端面のうちの一方の端面と隙間を空けて対向し、ロータに対して回転軸方向にスライド可能である。カバー切替え機構は、制動状態のときにカバーをロータから遠ざけ、非制動状態のときにカバーをロータに近づける。カバーは、複数のフィンそれぞれの回転軸方向の2つの端部のうち、ロータの回転方向で先行する端部が存在する側に配置されている。
【0022】
本実施形態の減速装置によれば、非制動時、カバーがロータに最も近づいた状態になる。つまり、外部からガス(空気)が各フィンの先行端部に導入されにくくなる。そのため、各フィンの先行端部が受けるガス圧力を低減できる。その結果、フィンによる風損を抑制できる。一方、制動時、カバーがロータから最も遠ざかった状態になる。つまり、各フィンの先行端部が外部に開放される。これにより、外部からガスが各フィンの先行端部に導入されやすくなる。その結果、フィンの放熱性能を確保できる。
【0023】
更に、本実施形態の減速装置によれば、ロータの半径方向において円板状のカバーの外周端は複数のフィンの頂面より外側に突出しない。したがって、装置自体の拡大は抑えられる。
【0024】
本実施形態の減速装置において、回転軸の中心軸からカバーの外周端までの距離は、回転軸の中心軸から複数のフィンの頂面までの距離と同じであるのが好ましい。換言すると、ロータの回転軸方向において、カバーが複数のフィンの全領域と対向している。この場合、後述する実施例に示すように、最も効率的に風損を抑制できる。
【0025】
本実施形態の減速装置において、ロータの回転軸方向の長さをWとし、非制動状態のときのカバーと、カバーと対向するロータの端面との距離をC1とし、制動状態のときのカバーと、カバーと対向するロータの端面との距離をC2としたとき、C1/Wは2.0%以下であり、C2/Wは2.5%以上、6.0%以下であるのが好ましい。後述する実施例に示すように、C1/Wが2.0%以下であれば、非制動状態でのロータの抵抗トルクはカバーを備えない減速装置(比較例)の85%以下となり、フィンによる風損を顕著に抑制できる。また、C2/Wが2.5%以上であれば、制動状態での放熱性能が十分に確保できる。さらに、C2/Wが6.0%以下であれば、カバーのスライド範囲が大きくなり過ぎず、減速装置が回転軸方向に拡大するのを抑制できる。
【0026】
典型的な例では、カバー切替え機構は、カバーを回転軸方向にスライド可能に支持する少なくとも3つの棒と、カバーに接続された流体圧シリンダと、を含む。流体圧シリンダの作動により、カバーがロータに対してスライドする。このスライドにより、カバーがロータから遠ざかった状態と、カバーがロータに近づいた状態と、に切り替わる。この場合、カバーを支持する棒の個数は、少なくとも3つである限り特に限定しない。棒の主な役割は、カバーのスライドを安定的に案内することである。棒の断面形状は特に限定しない。実用的な棒の断面形状は円形である。流体圧シリンダはエアシリンダ、油圧シリンダ等である。
【0027】
典型的な例では、減速装置は、複数のポールピースと、磁石保持リングと、ハウジングと、を備える。複数のポールピースは、ロータと永久磁石との隙間に設けられ、回転軸回りに配列されている。磁石保持リングは永久磁石を保持する。ハウジングは、磁石保持リングを回転軸回りに回転可能に支持するとともに、ポールピースを保持する。スイッチング機構は、磁石保持リングに接続された流体圧シリンダを含む。流体圧シリンダの作動により、磁石保持リングがポールピースに対して回転し、ポールピースに対する永久磁石の位置が切り替わる。その流体圧シリンダはエアシリンダ、油圧シリンダ等である。スイッチング機構の流体圧シリンダは、カバー切替え機構の流体圧シリンダとは異なる。
【0028】
以下に、本発明の渦電流式減速装置について、その実施形態を詳述する。
【0029】
図5は、本発明の実施形態による減速装置の主な構成を模式的に示す断面図である。図6Aは、その減速装置による非制動時の状態を模式的に示す断面図である。図6Bは、その減速装置による制動時の状態を模式的に示す断面図である。図7は、その減速装置における磁石の配列の一例を示す斜視図である。図8Aは、その減速装置による非制動時の状態を模式的に示す断面図である。図8Bは、その減速装置による制動時の状態を模式的に示す断面図である。なお、図5図6Bに示す断面は、回転軸に沿った断面である。図8A及び図8Bに示す断面は、回転軸に垂直な断面である。
【0030】
図5を参照し、減速装置は、円筒状のロータ1と、ロータ1の内側に配置されたステータ7と、を備える。ロータ1は、制動トルクが付与される制動部材に相当する。ロータ1は、車両の回転軸10(例:プロペラシャフト、ドライブシャフト等)にアーム5及びホイール6を介して固定される。これにより、ロータ1は回転軸10と一体で回転する。ロータ1の外周面1aに複数のフィン8が設けられる。各フィン8はロータ1の回転方向に対して所定の角度(例:30°〜60°の範囲)で傾斜している(図3参照)。フィン8の役割は、ロータ1に生じた熱を放熱することである。
【0031】
図7及び図8Aを参照し、ステータ7は、複数の永久磁石3と、円筒状の磁石保持リング2と、複数のポールピース4と、図示しないハウジングと、を含む。磁石保持リング2は、ロータと同心状に配設される。磁石保持リング2は、ハウジングによって、回転軸回りに回転可能に支持される。ハウジングは、図示しない車両の非回転部(例:トランスミッションカバー)に固定される。
【0032】
磁石保持リング2の外周には、複数の永久磁石3が固定される。磁石3は、ロータ1の内周面1bと隙間を空けて対向し、回転軸回りに配列される。各磁石3の磁極(N極、S極)の配置は、回転軸を中心とする径方向である。互いに隣接する磁石3同士の磁極の配置は交互に異なる。
【0033】
図8Aを参照し、ロータ1の内周面1bと磁石3との隙間には、複数の強磁性体のポールピース4が配置される。ポールピース4は、回転軸回りに配列される。ポールピース4の回転軸回りの配置角度は、磁石3の回転軸回りの配置角度と一致する。ポールピース4は、各々の両側部をハウジングによって保持される。
【0034】
磁石保持リング2からは、図示しないレバーが回転軸と平行に突出する。そのレバーに、図示しないリンク機構を介して、エアシリンダのピストンロッドが接続される。エアシリンダは流体圧シリンダに相当する。エアシリンダはハウジングに固定される。
【0035】
図示しない制御装置からの指令により、エアシリンダは圧縮空気を動力として作動する。エアシリンダの作動によって、ピストンロッドが進退する。ピストンロッドの進退によって、磁石保持リング2が回転し、ポールピース4に対する磁石3の位置が切り替わる。これにより、制動と非制動とが切り替わる。
【0036】
図5図6A及び図6Bを参照し、ロータ1は、回転軸方向に2つの端面1c、1dを有する。以下の説明では、便宜上、フィン8の先行端部8aが存在する側の一方の端面1cを第1端面ともいう。他方の端面1dを第2端面ともいう。ロータ1の第1端面1cと隙間を空けて対向するように、円板状のカバー21が配置される。カバー21の内周部21aはステータ7のハウジングに向けて凹む。カバー21の内周部21aには3つの円筒穴21bが設けられている。3つの円筒穴21bは、同一円周上に一定の間隔を空けて配置される。
【0037】
ハウジングからは、3つの円筒穴21bそれぞれの位置に対応するように、3つの棒23が回転軸10と平行に突出する。棒23は、断面が円形の軸部23aと、フランジ部23bとを含む。各軸部23aは、カバー21の各円筒穴21bに挿入される。これにより、カバー21は、回転軸10方向にスライド可能に支持される。カバー21がロータ1に最も近づいた状態、すなわち非制動状態では、カバー21の内周部21aが円周方向の全域にわたってステータ7のハウジングに接触する。これにより、カバー21の内周部21aよりも回転軸10に近い領域が外部に対して閉塞される。カバー21がロータ1から最も遠ざかった状態、すなわち制動状態では、カバー21の内周部21aとステータ7のハウジングとの間に隙間が形成される。これにより、カバー21の内周部21aよりも回転軸10に近い領域が外部に対して開放される。
【0038】
カバー21は外周端22を含む。ロータ1の半径方向において、外周端22は複数のフィン8の頂面8cと複数のフィン8の根元8dとの間に位置する。複数のフィン8は、ロータ1の外周面1aに設けられるため、複数のフィン8の根元8dはロータ1の外周面1aに相当する。このような構成によれば、回転軸方向において、カバー21の少なくとも一部は複数のフィン8と対向する。したがって、非制動状態では、カバー21の少なくとも一部が複数のフィン8の先行端部8aを覆う。これにより、非制動状態での風損を抑制することができる。
【0039】
風損の抑制の効果は、回転軸方向において、カバー21が複数のフィン8と対向する領域の大きさに依存する。回転軸方向において、カバー21が複数のフィン8の全領域と対向すれば、風損の抑制の効果は最大となる。カバー21の外周端22は、ロータ1の半径方向において、複数のフィン8の頂面8cよりも外側に位置すれば、回転軸方向において、カバー21が複数のフィン8の全領域と対向できる。しかしながら、カバー21の外周端22が複数のフィン8の頂面8cも外側に位置すれば、減速装置がロータ1の半径方向に拡大する。これより、風損の抑制の効果を最大限高め、かつ、減速装置の拡大を抑制するため、カバー21の外周端22は、ロータ1の半径方向において、複数のフィン8の頂面8cと同じ位置であるのが好ましい。換言すれば、回転軸10の中心軸Yからカバー21の外周端22までの距離Lは、回転軸10の中心軸Yから複数のフィン8の頂面8cまでの距離Rと同じであるのが好ましい。
【0040】
このように、本実施形態では、非制動時に各フィン8の先行端部8a付近の限定的な領域がカバー21によって覆われている。
【0041】
カバー21には、図示しないエアシリンダのピストンロッドが接続される。このエアシリンダは、上記した磁石保持リング2を回転させるためのエアシリンダとは異なる。エアシリンダは流体圧シリンダに相当する。エアシリンダは非回転部に固定される。
【0042】
エアシリンダの作動によって、ピストンロッドが回転軸方向に進退する。ピストンロッドの進退によって、カバー21がロータ1に対して回転軸方向にスライドし、カバー21とロータ1の相対的な位置が切り替わる。これにより、カバー21がロータ1から遠ざかった状態と、カバー21がロータ1に近づいた状態と、に切り替わる。
【0043】
非制動時、図8Aに示すように、ポールピース4が隣接する磁石3同士を均等に跨ぐ。この状態では、制動トルクは発生しない。
【0044】
非制動時の磁石3からの磁束は、次のような状況になる。図8Aを参照し、互いに隣接する磁石3のうちの一方の磁石3のN極から出た磁束は、ポールピース4を通じた後、他方の磁石3のS極に達する。他方の磁石3のN極から出た磁束は、磁石保持リング2を通じて一方の磁石3のS極に達する。つまり、磁石3とロータ1との間に磁気回路は形成されない。したがって、回転軸10と一体で回転するロータ1に制動トルクは発生しない。
【0045】
また、非制動時、図6Aに示すように、カバー21がロータ1に最も近づいた状態になっている。そうすると、カバー21によって、各フィン8の先行端部8aへの空気の導入が妨げられる。これにより、各フィン8の先行端部8aに導入される空気が少なくなる。そのため、各フィン8の先行端部8aが受けるガス圧力を低減できる。その結果、フィン8による風損を抑制できる。
【0046】
一方、制動時は、図8Bに示すように、非制動時の状態から磁石保持リング2が磁石3の配置角度の半分ほど回転する。この場合、ポールピース4は磁石3と完全に重なる。
【0047】
制動時の磁石3からの磁束は、次のような状況になる。図8Bを参照し、互いに隣接する磁石3のうちの一方の磁石3のN極から出た磁束は、ポールピース4を貫き、ロータ1に達する。ロータ1に達した磁束は、他方の磁石3のS極にポールピース4を通じて達する。他方の磁石3のN極から出た磁束は、磁石保持リング2を通じて一方の磁石3のS極に達する。つまり、円周方向に隣接する磁石3同士、磁石保持リング2、ポールピース4、及びロータ1との間に、磁石3による磁気回路が形成される。このような磁気回路が、円周方向の全域にわたり、交互にその磁束の向きを逆向きにして形成される。この場合、ロータ1の内周面に渦電流が発生する。これにより、回転軸10と一体で回転するロータ1に回転方向と逆向きの制動トルクが発生する。更に、ロータ1が発熱する。
【0048】
また、制動時、図6Bに示すように、非制動時の状態からカバー21がスライドする。そうすると、カバー21の内周部21a(円筒穴21b)が棒23のフランジ部23bと接触し、ロータ1から最も遠ざかった状態になる。これにより、空気が外部からカバー21の内周の開放端を通じて各フィン8に導入される。その結果、フィン8の放熱性能を確保できる。ロータ1に生じた熱は、各フィン8から外部に放出される。
【実施例】
【0049】
本実施形態の減速装置による効果を確認するため、熱流体解析を実施した。
【0050】
[試験条件]
図5に示すカバーを備えた減速装置の解析モデルを作成した。回転軸の中心軸からカバーの外周端までの距離Lは、回転軸の中心軸から複数のフィンの頂面までの距離Rと同じとした。解析では、非制動状態のときのカバーと、カバーと対向するロータの端面との距離C1、及び制動状態のときのカバーと、カバーと対向するロータの端面との距離C2を種々変更した。比較例として、カバーを備えない減速装置を想定した。
【0051】
解析で用いた主な諸特性は下記のとおりである。
・ロータの回転数:3000rpm
・ロータ回転軸方向の長さW:1.000
・フィンを含めたロータの外周半径R:2.552
ここで、単位の記載が無い特性W、Rの数値は、ロータ回転軸方向の長さWを基準1.000とした比を表す。
【0052】
[評価方法]
非制動時のフィンによる風損、及び制動時のフィンの放熱性能を評価した。風損の評価のために、全フィンが気流より圧力を受けることによってロータに生じる抵抗トルクを算出した。抵抗トルクが低いほど、風損の抑制が優れることを意味する。したがって、抵抗トルクを比較することにより風損を評価することができる。なお、風損を評価するための解析では、非制動時の状態を想定し、カバーの内周部をステータのハウジングに接触させ、カバーの内周部よりも回転軸に近い領域を外部に対して閉塞させた。
【0053】
放熱性能の評価のために、ロータの外周側で表出した面(全フィン及びロータの外周面)の平均熱伝達率を算出した。ここで、表出面の平均熱伝達率と表出面の総面積との積算値が表出面からの放熱量を示す。放熱量が大きいほど、放熱性能が優れることを意味する。本解析では、表出面の総面積が一律であるため、平均熱伝達率が大きいほど、放熱性能が優れることを意味する。したがって、平均熱伝達率を比較することにより放熱性能を評価することができる。なお、放熱性能を評価するための解析では、制動時の状態を想定し、カバーをスライドさせ、カバーの内周部よりも回転軸に近い領域を外部に対して開放した。
【0054】
[結果]
図9は、非制動時の風損に関する評価結果を示す図である。図10は、制動時の放熱性能に関する評価結果を示す図である。図9では、横軸に、ロータの回転軸方向の長さWに対する非制動状態のときのカバーと、カバーと対向するロータの端面との距離C1の割合C1/Wを示す。縦軸に、風損の指標となる抵抗トルクを示す。なお、縦軸の抵抗トルクの数値は、比較例(カバー無し)の抵抗トルクに対する割合(%)を示す。図10では、横軸に、図9と同様に、ロータの回転軸方向の長さWに対する制動状態のときのカバーと、カバーと対向するロータの端面との距離C2の割合C2/Wを示す。縦軸に、放熱性能の指標となる平均熱伝達率を示す。なお、図10の縦軸の平均熱伝達率の数値は、比較例(カバー無し)の平均熱伝達率に対する割合(%)を示す。
【0055】
図9を参照して、C1/Wが約2.4%であれば、抵抗トルクは比較例の約85%であった。C1/Wが約1.2%であれば、抵抗トルクは比較例の約80%であった。C1/Wが約0.6%であれば、抵抗トルクは比較例の約78%であった。これより、非制動時において、カバーをロータに近づけるほど抵抗トルクが抑制され、フィンによる風損を抑制できることがわかった。
【0056】
比較例と比べて風損を顕著に抑制しようとすれば、抵抗トルクは比較例の85%以下とするのが好ましい。したがって、非制動状態でのC1/Wは2.0%以下であるのが好ましい。より好ましくは、非制動状態でのC1/Wは1.0%以下である。C1/Wの下限は特に限定されない。非制動状態でのC1/Wは小さいほど、風損が抑制できるからである。しかしながら、C1/Wが小さすぎれば、カバーとロータとの距離が近すぎるためカバーがロータと干渉するおそれがある。そのため、好ましくは、C1/Wは0.5%以上である。
【0057】
図10を参照して、C2/Wが約1.2%であれば、平均熱伝達率は比較例の約85%であった。C2/Wが約2.4%であれば、平均熱伝達率は比較例の約95%であった。C2/Wが約5.8%であれば、平均熱伝達率は比較例とほとんど同じであった。すなわち、C2/Wが約6.0%以上であれば、カバーを備えない減速装置、すなわち、ロータのフィンが完全に開放されている減速装置と同等の放熱性能であった。これより、制動時において、カバーをロータから遠ざけるほど平均熱伝達率が増加し、放熱性能が高いことがわかった。
【0058】
放熱性能を確保しようとすれば、平均熱伝達率は比較例の85%以上であるのが好ましい。したがって、制動状態でのC2/Wは1.0%以上であるのが好ましい。より好ましくは、制動状態でのC2/Wは2.5%以上である。C2/Wの上限は特に限定されない。制動状態でのC2/Wは大きいほど、放熱性能が高くなるからである。しかしながら、C2/Wが約6.0%以上であれば、放熱性能はそれ以上高くならない。また、C2/Wが約6.0%以上であれば、カバーのスライド範囲が大きく、減速装置が回転軸方向に拡大する。そのため、好ましくは、C2/Wは6.0%以下である。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかしながら、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【0060】
上述の実施形態では、磁石の磁極の配置が回転軸の径方向である場合について説明した。しかしながら、本実施形態の減速装置の磁極の配置はこれに限定されない。
【0061】
図11は、磁石の配列の一例を示す斜視図である。複数の磁石3は、回転軸周りに配列される。磁石3の磁極の配置は、回転軸の周方向である。互いに隣接する磁石3同士の磁極の配置は交互に異なる。
【0062】
図12Aは、図11に示す減速装置による非制動時の状態を模式的に示す断面図である。非制動時の磁石3からの磁束は、次のような状況になる。非制動時、ポールピース4は磁石3と完全に重なる。1つの磁石3のN極から出た磁束は、ポールピース4又は磁石保持リング2を通じた後、同じ磁石3のS極に達する。つまり、磁石3とロータ1との間に磁気回路は形成されない。したがって、回転軸10と一体で回転するロータ1に制動トルクは発生しない。
【0063】
図12Bは、図11に示す減速装置による制動時の状態を模式的に示す断面図である。制動時は、図12Bに示すように、非制動時の状態から磁石保持リング2が磁石3の配置角度の半分ほど回転する。制動時の磁石3からの磁束は、次のような状況になる。1つの磁石3のN極から出た磁束は、ポールピース4を貫き、ロータ1に達する。ロータ1に達した磁束は、同じ磁石3のS極にポールピース4を通じて達する。つまり、ポールピース4、及びロータ1との間に、1つの磁石3による磁気回路が形成される。これにより、回転軸10と一体で回転するロータ1に回転方向と逆向きの制動トルクが発生する。なお、1つの磁石3のN極から出た磁束の一部は、磁石保持リング2を通じた後、同じ磁石3のS極に達する。
【0064】
図13は、図11とは異なる磁石の配列の一例を示す斜視図である。複数の磁石3は、回転軸の軸方向に配列される。磁石3の磁極の配置は、回転軸の軸方向である。回転軸の軸方向において互いに隣接する磁石3同士の磁極の配置は交互に異なる。また、複数の磁石3は、回転軸の周方向にも配列される。回転軸の周方向において隣接する磁石3の磁極配置は交互に異なる。この場合、回転軸の軸方向の位置が同じである第1列R1において制動トルクを生じさせることができるだけでなく、第2列R2においても制動トルクを生じさせることができる。したがって、制動トルクを任意に調整することができる。なお、回転軸の軸方向における磁石の列は2列に限らず、3列以上であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、永久磁石を用いた渦電流式減速装置に有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 ロータ
1a ロータの外周面
1b ロータの内周面
1c ロータの端面(第1端面)
1d ロータの端面(第2端面)
2 磁石保持リング
3 永久磁石
4 ポールピース
5 アーム
6 ホイール
7 ステータ
8 フィン
8a フィンの端部(先行端部)
8b フィンの端部
8c フィンの頂面
8d フィンの根元
10 回転軸
21 カバー
21a 内周部
21b 円筒穴
22 外周端
23 棒
23a 軸部
23b フランジ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13