特許第6879253号(P6879253)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6879253
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】車載用電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20210524BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20210524BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20210524BHJP
   H01F 27/36 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   H02M7/48 Z
   F04B39/00 106Z
   F04C29/00 T
   H01F27/36 101
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-70078(P2018-70078)
(22)【出願日】2018年3月30日
(65)【公開番号】特開2019-180220(P2019-180220A)
(43)【公開日】2019年10月17日
【審査請求日】2020年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】安保 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】賀川 史大
(72)【発明者】
【氏名】永田 芳樹
【審査官】 土井 悠生
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−180428(JP,A)
【文献】 特開2002−237423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00−7/98
F04B 39/00
F04C 29/00
H01F 27/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を圧縮する圧縮部と、
前記圧縮部を駆動する電動モータと、
前記電動モータを駆動するインバータ装置と、を備え、
前記インバータ装置は、
直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路の入力側に設けられるとともに前記インバータ回路に入力される前の前記直流電力に含まれるコモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減させるノイズ低減部と、を備え、
前記ノイズ低減部は、
コモンモードチョークコイルと、
前記コモンモードチョークコイルと共にローパスフィルタ回路を構成する平滑コンデンサと、を備え、
前記コモンモードチョークコイルは、
環状の樹脂製のケースと、
前記ケースの内部に収容される環状のコアと、
前記ケースの外面に巻回された第1の巻線と、
前記ケースの外面に巻回されるとともに前記第1の巻線から離れつつ対向する第2の巻線と、
前記第1の巻線及び前記第2の巻線を跨ぎつつ前記コア及び前記ケースを覆う環状の導電体と、を備え、
前記導電体は、前記第1の巻線と前記第2の巻線の間において対向する部位同士が離れており、
前記ケースは、
外面から突出する一対の突部を備え、
前記導電体は、前記第1の巻線及び前記第2の巻線から離間されるように前記一対の突部によって挟持される
ことを特徴とする車載用電動圧縮機。
【請求項2】
前記ケースは、互いに平行となるよう直線に延び前記第1の巻線の少なくとも一部が巻回される第1直線部と前記第2の巻線の少なくとも一部が巻回される第2直線部を備えることを特徴とする請求項1に記載の車載用電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車載用電動圧縮機における電動モータを駆動するインバータ装置に用いられるコモンモードチョークコイルの構成として、特許文献1には全面シールドしているチョークコイルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2017/170817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、チョークコイルを全面シールドする場合、熱がこもりやすく、また、製造しにくくなることが懸念される。そこで、環状の導電体で覆う構造を採用することが考えられる。つまり、漏れ磁束に伴い発生する電流を板状の導電体において熱に変換する。ここで、帯状金属板と巻線とを全周囲にわたり絶縁を確保しつつ帯状金属板と巻線との間に一定間隔の空隙を確保する必要がある。
【0005】
本発明の目的は、フィルタ回路の特性を安定化させることができる車載用電動圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明では、流体を圧縮する圧縮部と、前記圧縮部を駆動する電動モータと、前記電動モータを駆動するインバータ装置と、を備え、前記インバータ装置は、直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路の入力側に設けられるとともに前記インバータ回路に入力される前の前記直流電力に含まれるコモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減させるノイズ低減部と、を備え、前記ノイズ低減部は、コモンモードチョークコイルと、前記コモンモードチョークコイルと共にローパスフィルタ回路を構成する平滑コンデンサと、を備え、前記コモンモードチョークコイルは、環状の樹脂製のケースと、前記ケースの内部に収容される環状のコアと、前記ケースの外面に巻回された第1の巻線と、前記ケースの外面に巻回されるとともに前記第1の巻線から離れつつ対向する第2の巻線と、前記第1の巻線及び前記第2の巻線を跨ぎつつ前記コア及び前記ケースを覆う環状の導電体と、を備え、前記導電体は、前記第1の巻線と前記第2の巻線の間において対向する部位同士が離れており、前記ケースは、外面から突出する一対の突部を備え、前記導電体は、前記第1の巻線及び前記第2の巻線から離間されるように前記一対の突部によって挟持されることを要旨とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、コモンチョークコイルにおける第1の巻線と第2の巻線を跨ぎつつコア及びケースを覆う環状の導電体が形成されるとともに、ケースの外面から突出する一対の突部によって導電体が第1の巻線及び第2の巻線から離間される。よって、特性を安定化させることができる。
【0008】
請求項2に記載のように、請求項1に記載の車載用電動圧縮機において、前記ケースは、互いに平行となるよう直線に延び前記第1の巻線の少なくとも一部が巻回される第1直線部と前記第2の巻線の少なくとも一部が巻回される第2直線部を備えるとよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フィルタ回路の特性を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車載用電動圧縮機の概要を示す概要図。
図2】駆動装置及び電動モータの回路図。
図3】(a)はコモンモードチョークコイルの平面図、(b)はコモンモードチョークコイルの右側面図、(c)は(a)のA−A線での断面図。
図4】コモンモードチョークコイルの斜視図。
図5】(a)はケースとコアと巻線の平面図、(b)はケースとコアと巻線の右側面図、(c)は(a)のA−A線での断面図。
図6】(a)はケースとコアの平面図、(b)はケースとコアの右側面図、(c)は(a)のA−A線での断面図。
図7】(a)は作用を説明するためのコモンモードチョークコイルの平面図、(b)は(a)のA−A線での断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。本実施形態の車載用電動圧縮機は、流体としての冷媒を圧縮する圧縮部を備えており、車載用空調装置に用いられる。即ち、本実施形態における車載用電動圧縮機の圧縮対象の流体は冷媒である。
【0012】
図1に示すように、車載用空調装置10は、車載用電動圧縮機11と、車載用電動圧縮機11に対して流体としての冷媒を供給する外部冷媒回路12とを備えている。外部冷媒回路12は、例えば熱交換器及び膨張弁等を有している。車載用空調装置10は、車載用電動圧縮機11によって冷媒が圧縮され、且つ、外部冷媒回路12によって冷媒の熱交換及び膨張が行われることによって、車内の冷暖房を行う。
【0013】
車載用空調装置10は、当該車載用空調装置10の全体を制御する空調ECU13を備えている。空調ECU13は、車内温度やカーエアコンの設定温度等を把握可能に構成されており、これらのパラメータに基づいて、車載用電動圧縮機11に対してON/OFF指令等といった各種指令を送信する。
【0014】
車載用電動圧縮機11は、外部冷媒回路12から冷媒が吸入される吸入口14aが形成されたハウジング14を備えている。
ハウジング14は、伝熱性を有する材料(例えばアルミニウム等の金属)で形成されている。ハウジング14は、車両のボディに接地されている。
【0015】
ハウジング14は、互いに組み付けられた吸入ハウジング15と吐出ハウジング16とを有している。吸入ハウジング15は、一方向に開口した有底筒状であり、板状の底壁部15aと、底壁部15aの周縁部から吐出ハウジング16に向けて起立した側壁部15bとを有している。底壁部15aは例えば略板状であり、側壁部15bは例えば略筒状である。吐出ハウジング16は、吸入ハウジング15の開口を塞いだ状態で吸入ハウジング15に組み付けられている。これにより、ハウジング14内には内部空間が形成されている。
【0016】
吸入口14aは、吸入ハウジング15の側壁部15bに形成されている。詳細には、吸入口14aは、吸入ハウジング15の側壁部15bのうち吐出ハウジング16よりも底壁部15a側に配置されている。
【0017】
ハウジング14には、冷媒が吐出される吐出口14bが形成されている。吐出口14bは、吐出ハウジング16、詳細には吐出ハウジング16における底壁部15aと対向する部位に形成されている。
【0018】
車載用電動圧縮機11は、ハウジング14内に収容された回転軸17、圧縮部18及び電動モータ19を備えている。
回転軸17は、ハウジング14に対して回転可能な状態で支持されている。回転軸17は、その軸線方向が板状の底壁部15aの厚さ方向(換言すれば筒状の側壁部15bの軸線方向)と一致する状態で配置されている。回転軸17と圧縮部18とは連結されている。
【0019】
圧縮部18は、ハウジング14内における吸入口14a(換言すれば底壁部15a)よりも吐出口14b側に配置されている。圧縮部18は、回転軸17が回転することによって、吸入口14aからハウジング14内に吸入された冷媒を圧縮し、その圧縮された冷媒を吐出口14bから吐出させるものである。なお、圧縮部18の具体的な構成は、スクロールタイプ、ピストンタイプ、ベーンタイプ等任意である。
【0020】
電動モータ19は、ハウジング14内における圧縮部18と底壁部15aとの間に配置されている。電動モータ19は、ハウジング14内にある回転軸17を回転させることにより、圧縮部18を駆動させるものである。電動モータ19は、例えば回転軸17に対して固定された円筒形状のロータ20と、ハウジング14に固定されたステータ21とを有する。ステータ21は、円筒形状のステータコア22と、ステータコア22に形成されたティースに捲回されたコイル23とを有している。ロータ20及びステータ21は、回転軸17の径方向に対向している。コイル23が通電されることによりロータ20及び回転軸17が回転し、圧縮部18による冷媒の圧縮が行われる。
【0021】
図1に示すように、車載用電動圧縮機11は、電動モータ19を駆動させるものであって直流電力が入力される駆動装置24と、駆動装置24を収容する収容室S0を区画するカバー部材25とを備えている。
【0022】
カバー部材25は、伝熱性を有する非磁性体の導電性材料(例えばアルミニウム等の金属)で構成されている。
カバー部材25は、ハウジング14、詳細には吸入ハウジング15の底壁部15aに向けて開口した有底筒状である。カバー部材25は、開口端が底壁部15aに突き合せられた状態で、ボルト26によってハウジング14の底壁部15aに取り付けられている。カバー部材25の開口は、底壁部15aによって塞がれている。収容室S0は、カバー部材25と底壁部15aとによって形成されている。
【0023】
収容室S0は、ハウジング14外に配置されており、底壁部15aに対して電動モータ19とは反対側に配置されている。圧縮部18、電動モータ19及び駆動装置24は、回転軸17の軸線方向に配列されている。
【0024】
カバー部材25にはコネクタ27が設けられており、駆動装置24はコネクタ27と電気的に接続されている。コネクタ27を介して、車両に搭載された車載用蓄電装置28から駆動装置24に直流電力が入力されるとともに、空調ECU13と駆動装置24とが電気的に接続されている。車載用蓄電装置28は、車両に搭載された直流電源であり、例えば二次電池やキャパシタ等である。
【0025】
図1に示すように、駆動装置24は、回路基板29と、回路基板29に設けられたインバータ装置30と、コネクタ27とインバータ装置30とを電気的に接続するのに用いられる2本の接続ラインEL1,EL2と、を備えている。
【0026】
回路基板29は板状である。回路基板29は、底壁部15aに対して回転軸17の軸線方向に所定の間隔を隔てて対向配置されている。
インバータ装置30は、電動モータ19を駆動するためのものである。インバータ装置30は、インバータ回路31(図2参照)と、ノイズ低減部32(図2参照)を備えている。インバータ回路31は、直流電力を交流電力に変換するためのものである。ノイズ低減部32は、インバータ回路31の入力側に設けられるとともにインバータ回路31に入力される前の直流電力に含まれるコモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減させるためのものである。
【0027】
次に電動モータ19及び駆動装置24の電気的構成について説明する。
図2に示すように、電動モータ19のコイル23は、例えばu相コイル23u、v相コイル23v及びw相コイル23wを有する三相構造となっている。各コイル23u〜23wは例えばY結線されている。
【0028】
インバータ回路31は、u相コイル23uに対応するu相スイッチング素子Qu1,Qu2と、v相コイル23vに対応するv相スイッチング素子Qv1,Qv2と、w相コイル23wに対応するw相スイッチング素子Qw1,Qw2と、を備えている。各スイッチング素子Qu1〜Qw2は例えばIGBT等のパワースイッチング素子である。なお、スイッチング素子Qu1〜Qw2は、還流ダイオード(ボディダイオード)Du1〜Dw2を有している。
【0029】
各u相スイッチング素子Qu1,Qu2は接続線を介して互いに直列に接続されており、その接続線はu相コイル23uに接続されている。そして、各u相スイッチング素子Qu1,Qu2の直列接続体は、両接続ラインEL1,EL2に電気的に接続されており、上記直列接続体には、車載用蓄電装置28からの直流電力が入力されている。
【0030】
なお、他のスイッチング素子Qv1,Qv2,Qw1,Qw2については、対応するコイルが異なる点を除いて、u相スイッチング素子Qu1,Qu2と同様の接続態様である。
【0031】
駆動装置24は、各スイッチング素子Qu1〜Qw2のスイッチング動作を制御する制御部33を備えている。制御部33は、例えば、1つ以上の専用のハードウェア回路、及び/又は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ(制御回路)によって実現することができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、例えば各種処理をプロセッサに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ即ちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0032】
制御部33は、コネクタ27を介して空調ECU13と電気的に接続されており、空調ECU13からの指令に基づいて、各スイッチング素子Qu1〜Qw2を周期的にON/OFFさせる。詳細には、制御部33は、空調ECU13からの指令に基づいて、各スイッチング素子Qu1〜Qw2をパルス幅変調制御(PWM制御)する。より具体的には、制御部33は、キャリア信号(搬送波信号)と指令電圧値信号(比較対象信号)とを用いて、制御信号を生成する。そして、制御部33は、生成された制御信号を用いて各スイッチング素子Qu1〜Qw2のON/OFF制御を行うことにより直流電力を交流電力に変換する。
【0033】
ノイズ低減部32は、コモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35を備えている。平滑コンデンサとしてのXコンデンサ35は、コモンモードチョークコイル34と共にローパスフィルタ回路36を構成する。ローパスフィルタ回路36は、接続ラインEL1,EL2上に設けられている。ローパスフィルタ回路36は、回路的にはコネクタ27とインバータ回路31との間に設けられている。
【0034】
コモンモードチョークコイル34は、両接続ラインEL1,EL2上に設けられている。
Xコンデンサ35は、コモンモードチョークコイル34に対して後段(インバータ回路31側)に設けられており、両接続ラインEL1,EL2に電気的に接続されている。コモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35とによってLC共振回路が構成されている。即ち、本実施形態のローパスフィルタ回路36は、コモンモードチョークコイル34を含むLC共振回路である。
【0035】
両Yコンデンサ37,38は、互いに直列に接続されている。詳細には、駆動装置24は、第1Yコンデンサ37の一端と第2Yコンデンサ38の一端とを接続するバイパスラインEL3を備えている。当該バイパスラインEL3は車両のボディに接地されている。
【0036】
また、両Yコンデンサ37,38の直列接続体が、コモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35との間に設けられており、コモンモードチョークコイル34に電気的に接続されている。第1Yコンデンサ37の上記一端とは反対側の他端は、第1接続ラインEL1、詳細には第1接続ラインEL1のうちコモンモードチョークコイル34の第1の巻線とインバータ回路31とを接続する部分に接続されている。第2Yコンデンサ38における上記一端とは反対側の他端は、第2接続ラインEL2、詳細には第2接続ラインEL2のうちコモンモードチョークコイル34の第2の巻線とインバータ回路31とを接続する部分に接続されている。
【0037】
車両には、車載用機器として例えばPCU(パワーコントロールユニット)39が、駆動装置24とは別に搭載されている。PCU39は、車載用蓄電装置28から供給される直流電力を用いて、車両に搭載されている走行用モータ等を駆動させる。即ち、本実施形態では、PCU39と駆動装置24とは、車載用蓄電装置28に対して並列に接続されており、車載用蓄電装置28は、PCU39と駆動装置24とで共用されている。
【0038】
PCU39は、例えば、昇圧スイッチング素子を有し且つ当該昇圧スイッチング素子を周期的にON/OFFさせることにより車載用蓄電装置28の直流電力を昇圧させる昇圧コンバータ40と、車載用蓄電装置28に並列に接続された電源用コンデンサ41とを備えている。また、図示は省略するが、PCU39は、昇圧コンバータ40によって昇圧された直流電力を、走行用モータが駆動可能な駆動電力に変換する走行用インバータを備えている。
【0039】
かかる構成においては、昇圧スイッチング素子のスイッチングに起因して発生するノイズが、ノーマルモードノイズとして、駆動装置24に流入する。換言すれば、ノーマルモードノイズには、昇圧スイッチング素子のスイッチング周波数に対応したノイズ成分が含まれている。
【0040】
次に、コモンモードチョークコイル34の構成について図3(a),(b),(c)、図4図5(a),(b),(c)、図6(a),(b),(c)を用いて説明する。
コモンモードチョークコイル34は、車両側のPCU39で発生する高周波ノイズが圧縮機側のインバータ回路31に伝わるのを抑制するためのものであり、特に、漏れインダクタンスをノーマルインダクタンスとして利用することでノーマルモードノイズ(ディファレンシャルモードノイズ)を除去するためのローパスフィルタ回路(LCフィルタ)36におけるL成分として用いられる。即ち、コモンモードノイズ及びノーマルモードノイズ(ディファレンシャルモードノイズ)に対応可能であり、コモンモード用チョークコイルとノーマルモード(ディファレンシャルモード)用チョークコイルとを、それぞれ、用いるのではなく1つのチョークコイルで両モードノイズに対応可能である。
【0041】
なお、図面において、3軸直交座標を規定しており、図1の回転軸17の軸線方向をZ方向とし、Z方向に直交する方向をX,Y方向としている。
図3(a),(b),(c)に示すように、コモンモードチョークコイル34は、ケース50と、コア60と、第1の巻線70と、第2の巻線71と、導電体よりなる帯板としての金属板80と、を備える。コア60を収容したケース50に巻線70,巻線71が巻回され、巻線70,71に対し金属板80が離間して巻かれた状態で使用される。
【0042】
図6(a),(b),(c)に示すように、コア60は、ケース50の内部に収容される。コア60は、図6(c)に示すように断面四角形状をなし、図6(a)に示すX−Y平面において全体として略長方形状の環状をなしている。
【0043】
図6(a),(b),(c)に示すように、ケース50は、環状をなし、樹脂製であり、電気絶縁性を有する。ケース50は、本体部51と、4つの突起52と、壁53とを備える。本体部51は、開口部51a(図4参照)を除いて、コア60の全てを覆っている。本体部51には、図5(a),(b),(c)に示すように、巻線70,71が巻かれる。図4の開口部51aは、巻線70と巻線71との間に設けられ、開口部51aは巻線70と巻線71との間におけるコア60の一部を外方に露出させる。
【0044】
図6(a),(b),(c)に示すように、突起52は、本体部51の外周面からコア60の径方向に突出している。詳しくは、図6(a)において4つの突起52が本体部51から外方(X方向)に突設されている。4つの突起52のうちのY方向において対向する一対の突起52は金属板80の幅方向の端部に位置し、この一対の突起52に対しX方向に離間してY方向において対向する一対の突起52が金属板80の幅方向の端部に位置する。各突起52は図6(c)に示すようにZ方向に延びている。図5(a),(b),(c)に示すように、4つの突起52により巻線70,71が分けられている。
【0045】
壁53はコア60の内周面側において、巻線70と巻線71との間にZ方向に延びるように設けられる。壁53により巻線70と巻線71とが隔てられる。
図5(a),(b),(c)に示すように、第1の巻線70は、ケース50の外面に巻回されている。第2の巻線71は、ケース50の外面に巻回されている。詳しくは、図6(a),(b),(c)に示すように、ケース50は、第1直線部55と第2直線部56を備え、第1直線部55と第2直線部56とは、互いに平行となるよう直線に延びている。図5(a),(b),(c)に示すように、第1直線部55に第1の巻線70の少なくとも一部が巻回される。第2直線部56に第2の巻線71の少なくとも一部が巻回される。両巻線70,71の巻き方向は、互いに反対方向となっている。また、第1の巻線70と第2の巻線71は離れつつ対向している。
【0046】
図3(a),(b),(c)及び図4に示すように、導電体よりなる帯板としての金属板80は、帯状かつ無端状をなしている。金属板80として、例えば銅板を用いることができる。金属板80は、第1の巻線70及び第2の巻線71を跨ぎつつコア60及びケース50を覆っている。金属板80は、第1の巻線70と第2の巻線71の間において対向する部位同士が離れている。
【0047】
図6(a),(b),(c)に示すように、ケース50の各突起52は、先端部に、本体部51の外面から突出する一対の突部90を備えている。一対の突部90は断面コ字状をなしている。図3(a),(b),(c)及び図4に示すように、金属板80は、第1の巻線70及び第2の巻線71から離間されるように一対の突部90によって挟持される。製造の際には、一対の突部(コ字状部)90に金属板80を通しながら金属板80が巻かれる。巻線70,71を位置決めするための突起52に設けた一対の突部(コ字状部)90により、金属板80の上下(Z方向)、左右(X方向)のずれを無くし、巻線70,71と金属板80との間のギャップ(空隙)を安定させることができる。具体的には、図3(c)において、Z方向での空隙の間隔をGa1とし、X方向での空隙の間隔をGa2とした場合、ギャップ(空隙の間隔Ga1,Ga2)が狭いほどシールド特性(位相特性)が良い。シールド特性を一定に保つべくギャップを安定させた構造となっている。
【0048】
ケース50の壁53には図6(b),(c)に示すように、貫通孔91が形成されている。貫通孔91に、図3(b),(c)に示すように金属板80が挿通され、貫通孔91により金属板80が位置決めされている。つまり、第1の巻線70と第2の巻線71の絶縁をとるための絶縁用の壁53に上部及び下部(Z方向の一端側及び他端側)に貫通孔(スリット)91を設け、貫通孔(スリット)91に金属板80を通すことでギャップを安定させている。
【0049】
図5(a),(b),(c)に示すように、巻線70,71の外周面にはスペーサ92が固定されている。スペーサ92により図3(b),(c)に示すように金属板80が位置決めされている。即ち、巻線70,71の外周面にスペーサ92を設けることで金属板80のX方向のずれを無くし、ギャップを安定させている。
【0050】
図5(a),(b),(c)に示すように、巻線70,71の外周面には丸ピン93が外径側(X方向)に延びるように固定されている。丸ピン93に、図3(b),(c)に示すように金属板80が貫通している。丸ピン93により金属板80が位置決めされている。このように、巻線70,71の外周面に嵌め込み用丸ピン93を設け、金属板80の位置決め用の貫通孔に嵌め込むことでギャップを安定させている。即ち、ずれ防止用の丸ピン93は金属板80を貫通しているので、金属板80の位置ずれが防止される。
【0051】
次に、作用について説明する。
まず、図7(a),(b)を用いてノーマルモード(ディファレンシャルモード)について説明する。
【0052】
図7(a)に示すように、第1の巻線70及び第2の巻線71の通電により電流i1,i2が流れる。これに伴いコア60に磁束φ1,φ2が発生するとともに漏れ磁束φ3,φ4が発生する。ここで、図7(b)に示すように、発生する漏れ磁束φ3,φ4に抗う方向に磁束を発生させるべく金属板80の内部において誘導電流i10が周方向に流れる。
【0053】
このようにして、金属板80において、第1の巻線70及び第2の巻線71の通電に伴い発生する漏れ磁束に抗う方向に磁束を発生させるべく誘導電流(渦電流)i10が内部において周方向に流れる。誘導電流が周方向に流れるとは、コア60を周回するように流れることである。
【0054】
コモンモードにおいては、第1の巻線70及び第2の巻線71の通電により同じ方向に電流が流れる。これに伴いコア60に同じ向きの磁束が発生する。このようにして、コモンモード電流通電時は、コア60内部に磁束が発生し漏れ磁束はほとんど発生しないため、コモンインピーダンスは保持できる。
【0055】
次に、ローパスフィルタ回路36の周波数特性について説明する。
コモンモードチョークコイル34に導電体よりなる金属板80が存在しない場合には、ローパスフィルタ回路36(詳細にはコモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35とを含むLC共振回路)のQ値が高くなる。このため、ローパスフィルタ回路36の共振周波数に近い周波数のノーマルモードノイズは低減されにくくなる。
【0056】
一方、本実施形態では、コモンモードチョークコイル34にて発生する磁力線(漏れ磁束φ3,φ4)によって渦電流が発生する位置に導電体よりなる金属板80が設けられている。導電体よりなる金属板80は、漏れ磁束φ3,φ4が貫く位置に設けられており、漏れ磁束φ3,φ4が貫くことによって当該漏れ磁束φ3,φ4を打ち消す方向の磁束が生じるような誘導電流(渦電流)を発生させるように構成されている。これにより、導電体よりなる金属板80がローパスフィルタ回路36のQ値を下げるものとして機能する。従って、ローパスフィルタ回路36のQ値が低くなる。よって、ローパスフィルタ回路36の共振周波数付近の周波数を有するノーマルモードノイズも、ローパスフィルタ回路36によって低減される。
【0057】
以上のごとく、コモンモードチョークコイルにおいて帯状かつ無端状をなす金属板80による金属シールド構造を採用することにより、コモンモードチョークコイルとしてローパスフィルタ回路に利用し、コモンモードノイズを低減する。また、ノーマルモード電流(ディファレンシャルモード電流)に対して発生する漏れ磁束を積極的に活用し、ノーマルモードノイズ(ディファレンシャルモードノイズ)の低減を兼ね備えた適切なフィルタ特性を得ることができる。つまり、帯状かつ無端状をなす金属板80を用いることで、ノーマルモード電流(ディファレンシャルモード電流)通電時に発生した漏れ磁束に抗う磁束が発生し、電磁誘導によって金属板80に電流が流れ熱として消費される。金属板80は磁気抵抗として働くためダンピング効果を得ることができ、ローパスフィルタ回路によって発生した共振ピークを抑制できる。また、コモンモード電流通電時は、コア内部に磁束が発生し漏れ磁束はほとんど発生しないため、コモンインピーダンスは保持できる。
【0058】
また、金属板80によるシールド構造において巻線70,71とのギャップ(空隙)がシールド特性(位相特性)に影響するため、空隙の間隔Ga1,Ga2を一定に保つようにケース50に一対の突部90、貫通孔(スリット)91を設けたり、スペーサ92、丸ピン93を設置することで、製造バラつきを低減できる。
【0059】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)車載用電動圧縮機11の構成として、電動モータ19を駆動するインバータ装置30を備え、インバータ装置30は、インバータ回路31とノイズ低減部32とを備え、ノイズ低減部32は、コモンモードチョークコイル34と、コモンモードチョークコイル34と共にローパスフィルタ回路36を構成する平滑コンデンサとしてのXコンデンサ35と、を備える。コモンモードチョークコイル34は、環状の樹脂製のケース50と、ケース50の内部に収容される環状のコア60と、ケース50の外面に巻回された第1の巻線70と、ケース50の外面に巻回されるとともに第1の巻線70から離れつつ対向する第2の巻線71と、第1の巻線70及び第2の巻線71を跨ぎつつコア60及びケース50を覆う環状の導電体としての金属板80と、を備える。金属板80は、第1の巻線70と第2の巻線71の間において対向する部位同士が離れており、ケース50は、外面から突出する一対の突部90を備え、金属板80は、第1の巻線70及び第2の巻線71から離間されるように一対の突部90によって挟持される。
【0060】
よって、コモンチョークコイルにおける第1の巻線70と第2の巻線71を跨ぎつつコア60及びケース50を覆う金属板80が形成されるとともに、ケース50の外面から突出する一対の突部90によって金属板80が第1の巻線70及び第2の巻線71から離間される。よって、フィルタ回路の特性を安定化させることができる。
【0061】
(2)ケース50は、互いに平行となるよう直線に延び第1の巻線70の少なくとも一部が巻回される第1直線部55と第2の巻線71の少なくとも一部が巻回される第2直線部56を備える。よって、導電体よりなる帯板としての金属板80を容易に配置することができ、実用的である。
【0062】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○金属板80は、銅板の他にも、アルミ板、真鍮板、ステンレス鋼材の板等で構成されていてもよい。また、銅などの非磁性金属に限らず磁性金属でもよい。ここで、金属板80は鉄のような磁性金属を用いた場合には誘導電流が流れることに伴いさらに磁束が生じるので悪影響を及ぼす可能性があるので、非磁性金属が好ましい。
【符号の説明】
【0063】
11…車載用電動圧縮機、18…圧縮部、19…電動モータ、30…インバータ装置、31…インバータ回路、32…ノイズ低減部、34…コモンモードチョークコイル、35…Xコンデンサ、36…ローパスフィルタ回路、50…ケース、55…第1直線部、56…第2直線部、60…コア、70…第1の巻線、71…第2の巻線、80…金属板、90…一対の突部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7