(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
中心軸に沿ってそれぞれ延びた複数の導光構造体と、前記複数の導光構造体を取り囲む単一の共通クラッドと、を備えた、シリカガラスを主成分とするマルチコア光ファイバであって、
前記複数の導光構造体それぞれは、前記中心軸に沿って延びたコアと、前記コアの外周上に設けられるとともに前記コアの屈折率よりも低い屈折率を有する第1クラッドと、前記第1クラッドの外周上に設けられるとともに前記第1クラッドの屈折率よりも高く、かつ、前記コアおよび前記共通クラッドそれぞれの屈折率よりも低い屈折率を有する第2クラッドと、を含み、
前記第1クラッドおよび前記第2クラッドにより構成された内側クラッド領域の少なくとも一部に、添加されたガラス領域の屈折率を特定波長の光の照射により変化させる感光性を有する感光性材料を含み、
前記共通クラッドは、前記コアの屈折率以上の屈折率を有する、
マルチコア光ファイバ。
前記中心軸に直交する当該マルチコア光ファイバの断面において、前記断面の中心を含み、かつ、前記添加物として、前記特定波長の光を吸収する吸収材を含む第1吸収領域が、前記共通クラッド内に設けられている、
請求項2に記載のマルチコア光ファイバ。
前記第1吸収領域は、前記添加物として、前記特定波長の光を吸収して蛍光を発する蛍光材を含み、かつ、前記第1吸収領域において前記特定波長の光のうち前記蛍光に変換される光量の割合が50%以上100%以下である、
請求項3または4に記載のマルチコア光ファイバ。
【背景技術】
【0002】
CバンドまたはLバンドの信号光を伝送する長距離光ファイバ通信システムでは、信号光を増幅する光増幅器として、エルビウム(Er)等の稀土類元素が添加された光ファイバ増幅器が使用される。エルビウムが添加された光ファイバ(Erbium-Doped Fiber、以下、「EDF」と記す)を光増幅媒体として備える増幅器(Erbium-Doped Fiber Amplifier、以下、「EDFA」と記す)の利得スペクトルは、波長1.53μm帯にピークを有する。この利得スペクトルの非平坦性によりビット誤り率が増加して伝送システムの性能が劣化する。このような性能劣化を回避するための部品として、利得等化器であるファイバ・ブラッグ・グレーティング(Fiber Bragg Grating、以下、「FBG」と記す)、特にスラント・ファイバ・グレーティング(Slanted Fiber Grating、以下、「SFG」と記す)が開発されている。
【0003】
一方、近年では、光ファイバ1本当たりの伝送容量を大幅に増大させる手法として、それぞれがコアを有する複数の導光構造体と、これら複数の導光構造体を包囲する単一の共通クラッドとで構成されるマルチコア光ファイバ(Multi-Core Fiber、以下、「MCF」と記す)を光伝送路として、空間多重方式の信号光伝送を行う長距離光ファイバ通信システム(long-haul optical fiber communication system)が提案されている。このことから、マルチコア型EDF(MC-EDF)やマルチコア型SFG(MC-SFG)の重要性が増している。
【0004】
シングルコア光ファイバ(single-core optical fiber)を利用して利得等化器を製造する技術は、特許文献1,2に記載されている。感光性材料(例えばGeO
2やB
2O
3)が添加された石英ガラスからなるコアまたはクラッドを有する光ファイバに対して、コアの軸方向に空間的に強度変調された紫外光を照射することで、該紫外光の強度分布に応じた屈折率分布をコアの軸方向に有するグレーティングを書き込むことができる。紫外光としては、アルゴンイオンレーザ光の2倍波(244nm)、KrFエキシマレーザ光(248nm)、YAGレーザ光の4倍波(265nm)、銅蒸気レーザ光の2倍波(255nm)などが用いられる。
【0005】
コアの軸方向に沿って空間的に強度変調された紫外光を光ファイバに照射する方法としては、チャープ型グレーティング位相マスクを用いて発生させた±1次回折光を互いに干渉させる位相マスク法、レーザ光で直接に露光する方法、および、レーザ光を2分岐した後に2つの分岐光を互いに干渉させる2光束干渉露光法がある。これらのうちでも位相マスク法は、他の方法と比べると、グレーティングを再現性よく且つ容易に製造することができる。
【0006】
MC-SFGを製造する技術は特許文献3に記載されている。この文献に記載された製造技術は、MCFの周囲をマッチングオイルで満たした上で、空間的に強度変調された紫外光をMCFの複数の導光構造体に対して同時に照射することで、複数の導光構造体に同時にグレーティングを形成する。MCFの周囲をマッチングオイルで満たすのは、MCFが円柱形状を有することによる集光効果を補償するためである。この製造技術は、MCFの複数の導光構造体に同時にグレーティングを形成することから、製造時間の短縮化が可能である。加えて、複数の導光構造体それぞれに形成されるグレーティングの特性の均一化が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0016】
(1) 本実施形態に係るMCF(マルチコア光ファイバ)は、その一態様として、シリカガラスを主成分とし、中心軸(当該MCFの長手方向に沿って延びるファイバ軸)に沿ってそれぞれ延びた複数の導光構造体と、該複数の導光構造体を取り囲む単一の共通クラッドと、を備える。複数の導光構造体それぞれは、中心軸に沿って延びたコアと、コアの外周上に設けられるとともに該コアの屈折率よりも低い屈折率を有する第1クラッドと、第1クラッドの外周上に設けられるとともに該第1クラッドの屈折率よりも高く、かつ、コアおよび共通クラッドそれぞれの屈折率よりも低い屈折率を有する第2クラッドと、を含む。また、当該MCFは、第1クラッドおよび第2クラッドにより構成された内側クラッド領域の少なくとも一部(感光領域)に、添加されたガラス領域の屈折率を特定波長の光の照射により変化させる感光性を有する感光性材料を含む。なお、感光性材料を含む感光領域は、第1クラッドのみの全体または一部、第2クラッドのみの全体または一部、第1および第2クラッドの双方の一部、第1クラッドの一部と第2クラッドの全体、および、第1クラッドの全体と第2クラッドの何れかであればよい。
【0017】
(2)本実施形態の一態様として、複数の導光構造体を除く共通クラッド内には、特定波長の光のうち不要成分を除去するための添加物(dopant)が含まれるのが好ましい。
【0018】
(3)本実施形態の一態様として、中心軸に直交する当該MCFの断面において、該断面の中心を含み、かつ、添加物として、特定波長の光を吸収する吸収材を含む第1吸収領域が、共通クラッド内に設けられるのが好ましい。また、本実施形態の一態様として、第1吸収領域における波長244nmでの吸光度は、0.1以上4以下であるのが好ましい。
【0019】
(4)本実施形態の一態様として、第1吸収領域は、添加物として、特定波長の光を吸収して蛍光を発する蛍光材を含んでもよい。この場合、第1吸収領域において特定波長の光のうち蛍光に変換される光量の割合が50%以上100%以下であるのが好ましい。また、本実施形態の一態様として、第1吸収領域の直径は、5μm以上100μm以下であるのが好ましい。
【0020】
(5)本実施形態の一態様として、共通クラッド内には、添加物として、特定波長の光を吸収する吸収材を含む第2吸収領域が設けられてもよい。
【0021】
(6)本実施形態の一態様として、吸収材または蛍光材として機能し得る上述の添加物は、金属原子または半導体原子であるのが好ましい。本実施形態の一態様として、添加物は、Geであってもよい。更に、本実施形態の一態様として、添加物のドープ量は、0.1wt%以上であるのが好ましい。
【0022】
(7)本実施形態に係るFBG(ファイバ・ブラッグ・グレーティング)は、その一態様として、上述のような構造を有するMCF(本実施形態に係るMCF)と、該MCFの複数の導光構造体それぞれに空間的な屈折率変調により設けられたグレーティングと、を備える。
【0023】
(8)本実施形態に係るFBGの製造方法は、その一態様として、集光レンズおよび回折格子の配置、上述のような構造を有するMCF(本実施形態に係るMCF)の配置、およびグレーティングの書き込みにより構成される。集光レンズは、300mm〜1600mmの焦点距離を有し、該集光レンズと回折格子が、照射される紫外光の伝搬経路上に配置される。用意されたMCFは、当該MCFの中心軸と回折格子の光出射面との距離(Gap)が250μm以下になるように配置される。このような設置状態において、集光レンズを介して回折格子に紫外光が照射される。紫外光が回折格子を通過すると周期的な干渉縞が形成され、この干渉縞がMCFの複数の導光構造体の何れかに照射されることにより、該干渉縞が照射された導光構造体にグレーティングが形成される。以上の工程を経て、本実施形態に係るFBGが得られる。
【0024】
(9)本実施形態の一態様として、複数の導光構造体それぞれへの干渉縞の照射は、中心軸を中心にMCFを回転させながら行われるのが好ましい。
【0025】
以上、この[本願発明の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0026】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本実施形態に係るMCF、FBGおよびFBGの製造方法の具体的な構造を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0027】
図1は、MCF1(マルチコア光ファイバ)の断面構造を示す図である。当該MCF1は、シリカガラスを主成分とし、複数(
図1では4個)の導光構造体11〜14と、単一の共通クラッド20とを備える。ファイバ断面において、共通クラッド20の外形は中心軸(当該MCF1の長手方向に沿って延びるファイバ軸)AXを中心とする円形であり、導光構造体11〜14それぞれは、中心軸AXを中心とする円の周上に等間隔に配置されている。導光構造体11〜14は、等しい構造を有していてもよい。
図1の例では、導光構造体11〜14それぞれは、中心軸AXに沿って延びたコアaと、コアaの外周上に設けられた第1クラッドbと、第1クラッドbの外周上に設けられた第2クラッドcにより構成されている。
【0028】
図2は、MCF1の導光構造体11〜14それぞれの屈折率プロファイルである。この屈折率プロファイルは、
図1に示された断面内で導光構造体11〜14それぞれの中心位置(中心軸AX1に一致した位置)を通る線R1(
図1中の破線)上の各位置での屈折率の分布を示す。なお、
図2中、AX1は、MCF1の中心軸AX(ファイバ軸)に平行な、導光構造体11〜14それぞれの中心軸である。
【0029】
第2クラッドcの屈折率は、第1クラッドbの屈折率より高く、かつ、コアaおよび共通クラッドそれぞれの屈折率より低い。なお、第2クラッドcの屈折率は、第1クラッドbの屈折率と同程度であってもよい。共通クラッドの屈折率は、コアaの屈折率と同程度であってもよいし、コアaの屈折率より高くてもよい。
【0030】
第1クラッドbおよび第2クラッドcにより構成される内側クラッド領域の少なくとも一部には、感光性材料が添加された感光領域が設けられる。したがって、感光性材料を含む感光領域は、第1クラッドbのみの全体または一部、第2クラッドcのみの全体または一部、第1クラッドbおよび第2クラッドcの双方の一部、第1クラッドの一部と第2クラッドの全体、および、第1クラッドの全体と第2クラッドの何れかであればよい。感光性材料は、特定波長の光(紫外光)の照射により添加されたガラス領域の屈折率を変化させる観光性を有し、例えば、GeO
2、B
2O
3などである。MCF1の導光構造体11〜14それぞれにおいて、感光性材料が添加されている領域にグレーティングが形成されることで、MC-SFGが得られる。
【0031】
MCF1から作製されるMC-SFGでは、第2クラッドcの屈折率が共通クラッドの屈折率より低いので、導光構造体それぞれのグレーティングから共通クラッド20へ放出されたクラッドモード光は、自他のグレーティングにおいてコアモード光に再結合されることがない。MCF1を用いることで、リップル特性が改善されたMC-SFGを作製することができる。
【0032】
図3は、グレーティング製造装置100の構成を示す図である。グレーティング製造装置100は、MCF1の導光構造体11〜14それぞれの感光領域(感光性材料が添加された領域)にグレーティングを形成(MC-SFGの作製)する装置である。
図3には、説明の便宜の為にxyz直交座標系が示されている。x軸は、MCF1の中心軸AXに平行な軸である。z軸は、MCF1へのレーザ光照射方向に平行な軸である。y軸は、x軸およびz軸の双方に垂直な軸である。
【0033】
グレーティング製造装置100は、レーザ光源111、ビーム径調整部112、走査ミラー121、走査ミラー位置調整部122、シリンドリカルレンズ131、シリンドリカルレンズ位置調整部132、位相マスク141、位相マスク位置調整部142、ステージ151、固定治具152および同期制御部160を備える。
【0034】
レーザ光源111は、MCF1における感光領域の屈折率を変化させ得る波長(例えば244nm帯)の紫外レーザ光を出力する。ビーム径調整部112は、レーザ光源111から出力されたレーザ光のビーム径および波面を調整して、その調整後のレーザ光を出力する。
【0035】
走査ミラー121は、MCF1の中心軸AXに沿った方向(x方向)に移動可能であって、ビーム径調整部112から出力されたレーザ光をMCF1へ向けてz方向に偏向させる。走査ミラー位置調整部122は、走査ミラー121の位置を調整することで、MCF1におけるグレーティング書込み位置を調整する。
【0036】
シリンドリカルレンズ131は、走査ミラー121により偏向されたレーザ光を入力して該レーザ光を収斂させる集光レンズとして機能する。シリンドリカルレンズ位置調整部132は、シリンドリカルレンズ131とMCF1との間の間隔を調整する。なお、シリンドリカルレンズ131の焦点距離は、300mm〜1600mmが好ましい。
【0037】
位相マスク141は、シリンドリカルレンズ131とMCF1との間に配置されている。位相マスク141は、MCF1に対向する面(光出射面)に波長オーダーの周期の凹凸グレーティング(回折格子)が形成されている。位相マスク141は、シリンドリカルレンズ131から出力されたレーザ光を入力し、±1次回折光を発生させる。±1次回折光は、MCF1の感光領域において干渉し、光強度分布を形成する。これにより、MCF1の感光領域にグレーティングが形成される。位相マスク位置調整部142は、位相マスク141の位置(MCF1に対する光出射面の位置)を調整することで、位相マスク141とMCF1との間の間隔(Gap)を調整する。なお、Gapは、250μm以下が好ましい。
【0038】
MCF1は、ステージ151上に固定治具152により固定されている。MCF1は、ステージ151上において、中心軸AXを中心とする回転が自在であり、また、ファイバ軸に一致する中心軸AXの方向(x方向)に移動が自在である。なお、固定治具152が、中心軸AXを中心としてMCF1を回転させてもよい。
【0039】
同期制御部160は、走査ミラー位置調整部122による走査ミラー121の位置調整と、位相マスク位置調整部142による位相マスク141の位置調整と、を互いに関連付けて制御する。同期制御部160は、ビーム径調整部112によるレーザ光のビーム径調整をも関連付けて制御するのが好適であり、また、シリンドリカルレンズ位置調整部132によるシリンドリカルレンズ131の位置調整をも関連付けて制御するのが好適である。
【0040】
好適には以下のとおりである。シリンドリカルレンズ131の焦点距離は300mm〜1600mmである。位相マスク141へ照射されるレーザ光の波面の曲率半径は20mm以上である。位相マスク141へ照射されるレーザ光のビーム幅を500μmから3000μmまで変動させながら、走査ミラー121をMCF1の軸方向に移動させる。シリンドリカルレンズ131へ入射するレーザ光のビーム幅は500μmから3000μmである。また、走査ミラー位置調整部122、シリンドリカルレンズ位置調整部132および位相マスク位置調整部142それぞれは、リニアモーター、ステッピングモーター、圧電素子等を含んで構成される。
【0041】
次に、MC−SFGの製造方法について、
図4〜6を用いて詳細に説明する。なお、
図4は、Gapと干渉光変化の関係を説明するための図である。
図5は、Gap=150μmにおける遠視野像の±1次回折光に成長する前段階における干渉光領域とバイアス光領域の状態を説明するためのグラフである。また、
図6は、バイアス光領域と干渉光領域の関係を示すグラフである。
【0042】
当該製造方法は、MCF1の導光構造体11〜14内の感光領域それぞれにグレーティングを書き込むため、
図3のグレーティング製造装置100を利用する。グレーティング製造装置100では、位相マスク141(周期的な凹凸グレーティングを構成する回折格子含む)とシリンドリカルレンズ131の位置調節等により、選択的なグレーティングの書込みが可能になる。なお、
図4のタイプAは、
図3中の領域Aの拡大図であり、MCF1に書き込まれるグレーティングは、断面(中心軸AXに直交する面)に対して0度よりも大きく10度よりも小さい角度θで書き込まれる。
【0043】
なお、
図3のグレーティング製造装置100において、レーザ光(紫外光)は、シリンドリカルレンズ131、位相マスク141を介してMCF1に照射される。重要なパラメータは、位相マスク141とMCF1の距離(Gap)である。具体的に、「Gap」は、
図4のタイプAに示されたように、回折光が放出される位相マスク141の光出射面(回折格子の光出射面)と、MCF1の中心軸AXとの距離で規定される。
図4のタイプBは、Gapに対する干渉光の振る舞いの計算結果の一例を示すグラフである。
図4のタイプBから判るように、Gapが小さい程、回折格子により生成された干渉縞の明瞭度(光強度の明暗)は高くなり、干渉縞の明暗(明:I
i、暗:I
n)の光強度比はI
i /I
n=∞となる。一方で、Gapが大きくなる程、その明瞭度は小さくなり、いずれも回折格子から遠方の遠視野像では、I
i /I
n≒0の±1次回折光となる。グレーティング書込みには、I
i /I
nが大きい方が有利である。すなわち、Gapが小さい方が、設計通りのロスを形成することができる。なお、
図5のタイプAは、
図4のタイプB中に示された領域Bの干渉光領域(干渉縞)とバイアス光領域の関係を示すグラフである。また、
図5のタイプBは、
図4のタイプB中に示された領域Cの干渉光領域(干渉縞)とバイアス光領域の関係を示すグラフである。これらのグラフからも、Gapが大きくなる程、バイアス光の比率が増大してくることが判る。なお、「バイアス光」とは、
図5のタイプBに示されたように、干渉縞が崩れた状態で干渉縞に重畳した光成分であり、グレーティングの書込み寄与度は、極めて小さい。
【0044】
なお、
図5のタイプCには、遠視野像の±1次の回折光に成長する前段階の干渉光領域とバイアス光とが混在している、Gap=150μmの場合の計算例(グラフ)である。入射されるレーザ光の波長は244nmである。また、
図5のタイプCには、入射ビームの中心位置からの距離と、各位置における規格化された光強度の関係が示されている。AR1はバイアス光領域、AR2は干渉光領域、破線R2は干渉光領域AR2の包絡線である。Gapに対する干渉光領域の面積(包絡線で仕切られた干渉縞面積)とバイアス光面積(領域)の比の関係を
図6のタイプA〜Cに示す。回折光への入射ビーム径はタイプAが100μm、タイプBが150μm、タイプCは200μmである。これらタイプA〜Cのグラフには、ビーム径100μmの入射ビームに対するGapと面積比(=バイアス光領域AR1の面積/(バイアス光領域AR1の面積+干渉光領域AR2の面積))の関係を示す。また、各グラフの破線は、グラフの上限および下限をそれじれ示す包絡線である。Gapは、MCF1の断面の直径方向に相当する。タイプA〜Cの何れにおいても、Gapの増大に伴い、面積比は大きくなり、干渉光領域AR2の面積(干渉縞面積)が低減していることが判る。入射ビーム径を増大させれば、グラフの傾きは小さくなる。MCF1への書込みにおいては、タイプAのように、Gapに対する面積比を示すグラフの傾きが大きい方が有利である。すなわち、グラフの傾きが大きい程、短い距離の中で書込み易さと書込み難さのコントラストを付けられることを意味する。この場合、入射ビームの光軸上に複数の導光構造体(特に、感光領域)が存在していても、回折格子に近い導光構造体では干渉縞が支配的となり、優先的にグレーティングが書き込まれる。一方、遠方の導光構造体にはグレーティングが書き込み難い光が支配的となり、グレーティングの書き込みは困難となる。したがって、入射ビーム径が100μmに設定された
図6のタイプA〜Cから判るように、グラフの傾きを急峻にするためには、Gapは250μm以下が特に有効である。
【0045】
ここで、入射ビームの波長(グレーティングの書き込み波長)λ、集光レンズ(シリンドリカルレンズ131)の焦点距離f、集光レンズへ入射されるビームの直径D、集光スポット径すなわち回折格子(位相マスク141)へ入射されるビームの直径D
0の関係は、以下の式(1)のように表される。すなわち、4λfをπDで割った値がD
0となる。
D
0=4λf/(πD) …(1)
例えば、書込み波長λが244nm、ビーム直径Dが1mmのレーザ光が集光レンズに入射する場合において、回折格子への入射ビームの直径を100μmにするためには上記式(1)から集光レンズの焦点距離f
100μmは323mmとなる。同様に、回折格子への入射ビームの直径を150μmにするためには集光レンズの焦点距離f
150μmは485mmとなる。更に、回折格子への入射ビームの直径を200μmにするためには集光レンズの焦点距離f
200μmは645mmとなる。すなわち、回折格子に入射する前段階の集光レンズの焦点距離fは小さくすることが有効である。
【0046】
当然のことながら、グレーティング書き込み波長λ、集光レンズへの入射されるビームの直径DによってもD
0は調整されるが、入射ビーム直径Dは1〜5mmの範囲、グレーティング書き込み波長λは244nm〜265nmの範囲が有効である。このようなグレーティング書き込み用のレーザ光には、アルゴンイオンレーザ光の2倍波(244nm)、KrFエキシマレーザ光(248nm)、銅蒸気レーザ光の2倍波(255nm)、YAGレーザ光の4倍波(265nm)等が適用可能である。
【0047】
具体的には、上記式(1)から、波長λが244nmの入射ビームに対する集光レンズの焦点距離fは、323mm〜1615mmが有効である。また、波長λが265nmの入射ビームに対する集光レンズの焦点距離fは、297mm〜1485mmが有効である。
【0048】
図7は、MCF1の断面における紫外光の照射を説明する図である。シリンドリカルレンズ131により収斂された後、位相マスク141で生成された紫外レーザ光の±1次回折光Lを、MCF1の導光構造体11〜14のうちの導光構造体11の位置で集光させることで、導光構造体11の感光領域にグレーティングを効率よく形成することができる。中心軸AX(ファイバ軸)を中心にMCF1を90度ずつ回転させることで、MCF1の導光構造体11〜14それぞれの感光領域にグレーティングを順次に形成することができ、これによりMC-SFGが得られる。
【0049】
紫外レーザ光の±1次回折光Lを導光構造体11の位置で集光させ、該導光構造体11にグレーティングを形成しているときに、他の導光構造体13の感光領域にも僅かにグレーティングが形成される。このような事態を回避するには、
図8に示されたタイプAに示されるような断面構造を有するMCFを用いればよい。
【0050】
図8に示されたタイプAは、MCF1Aの断面構造を示す図である。
図1および
図7に示されたMCF1の断面構造と比較すると、タイプAのMCF1Aは、第1吸収領域30が設けられている点で相違する。
【0051】
第1吸収領域30は、当該MCF1Aの断面(中心軸AXに直交する面)において、共通クラッド20のうち、中心軸AXに一致した断面中心を含む領域である。第1吸収領域30は、導光構造体11〜14ぞれぞれの感光領域の屈折率を変化させ得る特定波長の光(紫外光)を吸収する添加物(吸収材)を含む領域である。第1吸収領域30は、特定波長の光を励起光として、該励起光を吸収して蛍光を発する添加物(蛍光材)を含む領域であってもよい。
【0052】
第1吸収領域30における波長244nmでの吸光度は、0.1以上4以下であるのが好適である。第1吸収領域30が蛍光材を含む場合、第1吸収領域30において特定波長の光のうち蛍光に変換される光量の割合は50%以上100%以下であるのが好適である。第1吸収領域30の直径は、5μm以上100μm以下であるのが好適である。
【0053】
添加物は、金属原子または半導体原子であるのが好適である。吸収材としては、例えばGe、TeO
2、ZnO、Er、Yb、MgOなどが用いられる。蛍光材としては、例えばGe、B、Cu、Fe、Ce、Snなどが用いられる。添加物のドープ量は、0.1wt%以上であるのが好適である。
【0054】
このMCF1Aを用いてMC-SFGを作製する場合、紫外レーザ光の±1次回折光Lが導光構造体11の位置で集光されることで、導光構造体11内の感光領域にグレーティングが形成される。このとき、導光構造体11を通過した紫外レーザ光は、第1吸収領域30において吸収されるので、導光構造体13への入射が抑制される。したがって、導光構造体13の感光領域におけるグレーティング形成が抑制される。第1吸収領域30の添加物が蛍光材である場合、第1吸収領域30において蛍光が発生する。しかしながら、この蛍光に対しては感光性材料が感光性を有しないので、蛍光による感光領域の屈折率が変化することはない。
【0055】
また、第1吸収領域30の添加物が蛍光材である場合、グレーティング形成時の蛍光強度は光検出器により検出されてもよい。この場合、MCF1Aへの紫外レーザ光の±1次回折光Lの照射の状態を把握することができるため、照射光学系のアライメント状態の確認や調整が可能になる。
【0056】
図8に示されたタイプBは、MCF1Bの断面構造を示す図である。タイプAのMCF1Aの断面構造と比較すると、タイプBのMCF1Bは、断面において第1吸収領域30の径が大きい点で相違する。
【0057】
グレーティング形成に要する時間の短縮しようとした場合、MCFに照射される紫外レーザ光のパワーを大きくすることが考えられる。しかしながら、導光構造体11から第1吸収領域30を透過して導光構造体13へ照射される紫外レーザ光のパワーが大きくなり、導光構造体13の感光領域においてもグレーティングが形成されることになる。このような場合、MCF1Bのように第1吸収領域30の径を大きくしたり、第1吸収領域30における添加物(吸収材、蛍光材)の濃度を高くしたりすることで、第1吸収領域30を透過して導光構造体13へ照射される紫外レーザ光のパワーを小さくすることができる。
【0058】
図8に示されたタイプCは、MCF1Cの断面構造を示す図である。タイプBのMCF1Bの断面構造と比較すると、タイプCのMCF1Cは、断面において第2吸収領域31〜34が共通クラッド20内に更に設けられている点で相違する。
【0059】
第2吸収領域31は、導光構造体11と導光構造体12との間に設けられている。第2吸収領域32は、導光構造体12と導光構造体13との間に設けられている。第2吸収領域33は、導光構造体13と導光構造体14との間に設けられている。また、第2吸収領域34は、導光構造体14と導光構造体11との間に設けられている。
【0060】
第2吸収領域31〜34は、導光構造体11〜14ぞれぞれの感光領域の屈折率を変化させ得る特定波長の光(紫外光)を吸収する添加物(吸収材)を含む領域である。第2吸収領域31〜34は、特定波長の光を励起光として吸収して蛍光を発する添加物(蛍光材)を含む領域であってもよい。第2吸収領域31〜34に添加される吸収材および添加材については、第1吸収領域30に添加されるものと同様であってよい。
【0061】
このMCF1Cを用いてMC-SFGを作製する場合、導光構造体11の感光領域におけるグレーティングの形成に寄与しなかった紫外レーザ光によって他の導光構造体12〜14ぞれぞれの感光領域の屈折率が変化することを抑制することができる。
【0062】
図9は、MCF1B(
図8に示されたタイプB)を用いて製造されたMC-SFGの断面構造を示す図である。
図9に示されたタイプAは、中心軸AX(ファイバ軸に垂直なMCF1Bの断面を示す。また、
図9に示されたタイプBは、タイプA中に示された矢印ABで示された方向から見たときの、中心軸AXに沿ったMCF1Bの導光構造体11〜14を示す。タイプBに示されたように、導光構造体11におけるグレーティング形成領域41、導光構造体12におけるグレーティング形成領域42、導光構造体13におけるグレーティング形成領域43、および、導光構造体14におけるグレーティング形成領域44は、中心軸AX(MCF1Bの長手方向)に沿って互いに異なる位置に設けられている。
【0063】
上述のように、MCF1Bを、中心軸AXを中心に90度ずつ回転させることで、MCF1Bの導光構造体11〜14それぞれの感光領域にグレーティングを順次に形成させることができる。導光構造体11〜14それぞれにおけるグレーティング形成領域が中心軸AXに沿って互いに同じ領域であると、第1吸収領域30の蛍光材が損傷する場合がある。このような問題を回避するため、
図9のタイプBに示されるように、導光構造体11〜14それぞれにおけるグレーティング形成領域41〜44は、中心軸AXに沿って互いに異なる位置に設けられるのが好適である。このような構成により、第1吸収領域30の蛍光材の損傷を抑制することができる。
【0064】
共通クラッド20内の導光構造体の個数は、4に限られるものではなく、2、3または5以上であってもよい。
図10は、MCF1Dの断面構造を示す図である。
図10に示されたMCF1Dは、8個の導光構造体11〜18を共通クラッド20内に含む。8個の導光構造体11〜18は中心軸AXを中心とする円の周上に等間隔に配置されている。また、共通クラッド20内には、当該MCF1Dの断面中心を含む第1吸収領域30が設けられている。なお、導光構造体11〜18の各構造体間に第2吸収領域が設けられてもよい。
【0065】
本実施形態に係るMCFを用いれば、リップル特性が改善されたファイバ・ブラッグ・グレーティング(その中でもMC-SFG)を容易に作製することができる。
【0066】
また、本実施形態によれば、MCFの各導光構造体に含まれる感光領域に個別にグレーティングを形成することができるので、複数の導光構造体に書き込まれたグレーティングの透過スペクトルを個別に最適化することができる。例えば、MC-EDFの各導光構造体の製造ばらつきにより、各導光構造体の利得スペクトルもばらつく場合がある。このような場合であっても、MC-EDFの各導光構造体の利得スペクトルに適合するように、MC-SFGの各導光構造体の透過スペクトルを個別に最適化することができる。