(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6879363
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】分光検出器
(51)【国際特許分類】
G01J 3/02 20060101AFI20210524BHJP
G01N 21/01 20060101ALI20210524BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20210524BHJP
G01J 3/18 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
G01J3/02 Z
G01N21/01 D
G01N21/27 Z
G01J3/18
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-513197(P2019-513197)
(86)(22)【出願日】2017年4月21日
(86)【国際出願番号】JP2017016055
(87)【国際公開番号】WO2018193620
(87)【国際公開日】20181025
【審査請求日】2019年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 真人
(72)【発明者】
【氏名】東郷 寛之
【審査官】
立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/145112(WO,A1)
【文献】
特開平08−233659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00− 3/52
G01N 21/00−21/01
G01N 21/17−21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
内部で試料を流通させる試料セルと、
光センサと、
前記光源からの光を前記試料セルへ導くとともに前記試料セルからの光を前記光センサに導く光学系であって、前記光源と前記試料セルとの間又は前記試料セルと前記光センサとの間に光を分光する分光器を有する光学系と、
前記光源を収容するためのランプハウス部と、少なくとも前記試料セル及び前記光学系を収容するための光学系収容部とを有し、前記ランプハウス部と前記光学系収容部とが一体化されている1つのみのハウジングと、を備え、
前記ランプハウス部と前記光学系収容部とが1つのみのハウジングを構成することにより、前記ランプハウス部のハウジングと前記光学系収容部のハウジングとが別体である構成と比較して、前記ランプハウス部に対する室温変動の影響を小さくしたことを特徴とする、分光検出器。
【請求項2】
前記ハウジングは熱伝導性材料からなるものである請求項1に記載の分光検出器。
【請求項3】
前記ハウジングの前記ランプハウス部を冷却するための冷却機構をさらに備えている請求項1又は2に記載の分光検出器。
【請求項4】
前記冷却機構は、前記ハウジングの前記ランプハウス部の熱を吸熱して前記ハウジングから離れた位置へ輸送するヒートパイプを有するものである請求項3に記載の分光検出器。
【請求項5】
前記ハウジングに取り付けられ、前記ハウジングの前記ランプハウス部の熱を前記光学系収容部へ輸送する熱輸送機構をさらに備えている請求項1から4のいずれか一項に記載の分光検出器。
【請求項6】
前記熱輸送機構はヒートパイプである請求項5に記載の分光検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば分光光度計や示差屈折率検出器など、光源からの光を試料セルへ導くとともに試料セルからの光を光センサに導く光学系に分光器を含む検出器(以下、このような検出器を「分光検出器」と称する。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紫外可視分光光度計や分光蛍光光度計、示差屈折率検出器などの分光検出器は、光源として重水素ランプやハロゲンランプなどの発熱を伴って発光するランプを利用する。分光検出器において、光源はランプハウスと呼ばれる光源格納部品に格納されているが、光を試料セルや光センサへ導く分光器を含む光学系はランプハウスとは別の格納部品(以下、光学系収容部)内に収容されている(特許文献1参照。)。
【0003】
光源から発せられた光は光学系収容部内に導入され、分光器によって分光されて光センサにより検出される。光学系収容部内に導入された光の光路上に試料セルを配置され、試料セル内を流れる試料成分を透過した光や試料成分から発せられる蛍光が光センサによって検出されることで、試料成分の吸光度や蛍光強度が測定され、それによって試料成分の同定や定量が行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−048176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分光検出器の光源の発光強度や光学系を構成する分光器などの各光学部品の光学特性には温度依存性があることが知られている。そのため、検出器を立ち上げてから検出器信号が安定するまでに、ある程度の時間を要する。特に、回折格子のような分光器の温度が変動すると、分光器に搭載されている光学素子の相対的な位置関係が変化し、それによって波長分散角が変動し、分光性能が変化してしまう。
【0006】
上述したように、従来では、特に分光器などの光学系が光源からの熱の影響を受けないように、光学系収容部とランプハウスとを熱的に分離している。しかし、検出器の構成上、光学系収容部とランプハウスとを隣接させて配置しているため、光源からの輻射熱の影響等によって光学系収容部とランプハウスとが完全には熱的に分離されていない。そのため、ランプハウスの熱が緩やかに光学系収容部側へ伝達され、ランプハウスと光学系収容部の全体が熱平衡に達するまでに長時間を要し、それによって検出器信号が安定するまでの時間が長くなる原因となっていることがわかった。
【0007】
そこで、本発明は、検出器信号が安定するまでの時間を短縮することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これまでの分光検出器では、光学系に対する光源からの熱の影響を抑制するという観点から、光源と光学系との間を熱的に分離するということが技術常識となっている。これに対し、本発明は、あえて光源から光学系へ熱が伝わりやすくすることによって、検出器全体が熱平衡に達するまでの時間の短縮化するという発想に基づいている。
【0009】
すなわち、本発明に係る分光検出器は、光源と、内部で試料を流通させる試料セルと、光センサと、前記光源からの光を前記試料セルへ導くとともに前記試料セルからの光を前記光センサに導く光学系であって、前記光源と前記試料セルとの間又は前記試料セルと前記光センサとの間に光を分光する分光器を有する光学系と、前記光源を収容するためのランプハウス部と少なくとも前記試料セル及び前記光学系を収容するための光学系収容部とを一体的に有するハウジングと、を備えている。ランプハウス部と光学系収容部が一体となってハウジングを構成することで、ランプハウス部から光学系収容部へ熱が伝わりやすくなり、検出器全体が熱平衡に達するまでの時間が短縮される。
【0010】
ハウジングは熱伝導性材料からなるものであることが好ましい。そうすれば、光源で発生した熱が高効率にハウジング全体へ伝達し、検出器全体が熱平衡に達するまでの時間が短くなる。
【0011】
また、ハウジングのランプハウス部を冷却するための冷却機構をさらに備えていることが好ましい。光源からの熱を直接的に受けるランプハウス部を積極的に冷却すれば、ランプハウス部と光学系収容部との間の温度差が小さくなるので、検出器全体が熱平衡に達するまでの時間がさらに短くなる。
【0012】
上記の場合、ハウジングのランプハウス部を冷却する冷却機構の構成として種々のものが考えられる。例えば、ランプハウス部に冷却用のフィンを設け、そのフィンに対してファンからの冷却風を吹き付けるようにすることも考えられる。しかし、ランプハウスに冷却風が直接的に吹き付けられると、ランプハウス部が振動し、それに伴って光源が振動して検出器信号のノイズの原因となることも考えられる。また、ランプハウス部に冷却用のフィンをもつようにするとハウジングの構造が複雑化し、ハウジングの製造コストが増加するという問題もある。
【0013】
そこで、上記の冷却機構は、ハウジングのランプハウス部の熱を吸熱してハウジングから離れた位置へ輸送するヒートパイプを有するものであってもよい。そうすれば、ハウジングのランプハウス部に冷却風が直接的に吹き付けられることがなくなり、光源の振動によるノイズの発生を防止することができる。また、ハウジングに冷却用のフィンを設ける必要がないので、ハウジングの製造コストの増加を抑制することができる。
【0014】
ここで、ヒートパイプとは、真空排気された金属パイプの内側に作動液体が封入されたものである。ヒートパイプは、一端側と他端側で温度差が生じたときに、高温側で作動液体が蒸発して蒸気となり、その蒸気が低温側で凝縮して液体となるという潜熱移動により高効率に熱輸送を行なうことができる。
【0015】
また、本発明の分光検出器では、ハウジングに取り付けられ、当該ハウジングのランプハウス部の熱を光学系収容部へ輸送する熱輸送機構をさらに備えていてもよい。そうすれば、ランプハウス部から光学系収容部へ高効率に熱輸送が行われ、検出器全体の熱平衡化に要する時間がさらに短縮される。
【0016】
上記の熱伝達機構の一例は、ヒートパイプである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る分光検出器では、ランプハウス部と光学系収容部が一体となってハウジングを構成しているので、検出器全体が熱平衡に達するまでの時間が短縮され、それによって検出器信号が安定するまでに要する時間が短縮される。
【0018】
また、従来のようにランプハウス部と光学系収容部が別体として構成されて熱的に分離されている場合、ランプハウス部の熱容量が小さいために光源が室温変動の影響を受けやすい。これに対し、本発明では、ランプハウス部と光学系収容部が一体となって1つのハウジングを構成することで、ランプハウス部と光学系収容部のそれぞれの熱容量が大きくなり、光源や光学系に対する室温変動の影響が小さくなる。
【0019】
室温変動の影響をさらに抑制するためにヒータやセンサ等の温度調節機構を設ける場合があるが、ランプハウス部と光学系収容部が熱的に分離されていると、それぞれに対する室温変動の影響を抑制するためにそれぞれにヒータやセンサ等を設ける必要がある。それに対し、ランプハウス部と光学系収容部が一体となっている場合はランプハウス部と光学系収容部のそれぞれに温度調節機構を設ける必要は必ずしもなく、1つの温度調節機構でランプハウス部と光学系収容部の温度調節を行なうことが可能になる。また、ランプハウス部と光学系収容部が1つのハウジングを構成することによって、検出器を構成する部品点数が少なくなり、コストの低減が図られる。さらに、従来2セット必要であった温度調節機構を1セットにした場合には、検出器を構成する部品点数がさらに少なくなり、コストのさらなる抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】分光検出器(分光光度計)の一実施例を示す平面概略構成図である。
【
図3】従来構造と同実施例の構造における室温変動による分光器温度への影響の検証結果を示すグラフである。
【
図4A】従来構造におけるランプハウス温度と分光器温度の時間変化を示すグラフである。
【
図4B】同実施例におけるランプハウス温度と分光器温度の時間変化を示すグラフである。
【
図5】ハウジングに冷却機構を装着する実施例を示す斜視図である。
【
図6】分光検出器(分光光度計)の他の実施例を示す平面概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の分光検出器の一実施例としての分光光度計について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1に示されているように、この実施例の分光光度計は、例えばアルミニウムなどの熱伝導性材料により構成されたハウジング2内に、光源8、試料セル12、光センサ14、ミラー16、18及び回折格子20が収容されて構成されている。
【0023】
ハウジング2は光学系収容部4とランプハウス部6を備えている。ランプハウス部6は光学系収容部4の上方の位置に設けられており、そのランプハウス部6内に光源8が収容されている。光源8は重水素ランプやハロゲンランプなどである。光源8は下方向(図において紙面に垂直な方向)へ向けて光を発するように配置されている。
【0024】
ハウジング2の光学系収容部4内には、試料セル設置部10が設けられており、その試料セル設置部10に試料セル12が設置されている。光学系収容部4内のランプハウス部6の直下の位置にミラー16が設けられており、光源8からの光を反射させて試料セル12へ導くようになっている。試料セル12を通過した光の光路上にミラー18が配置されており、ミラー18で反射した光の光路上に分光器としての回折格子20が配置されている。回折格子20に入射した光は波長域ごとに分光される。回折格子20で分光された各波長域の光を受光する位置にフォトダイオードアレイからなる光センサ14が配置されている。ミラー16は光源8からの光を試料セル12へ導くための光学系をなし、ミラー18及び回折格子20は試料セル12からの光を光センサ14へ導くための光学系をなしている。
【0025】
光源8により発せられた光はミラー16で反射して試料セル12に照射される。試料セル12を透過した光はミラー18で反射して回折格子20へ導かれ、回折格子20により分光された各波長域の光の強度が光センサ14によって検出される。光センサ14で得られた各波長域の光の強度を検出することにより、試料セル12を流れる試料成分の吸収波長及び吸光度が測定され、試料成分の同定や定量が行われる。
【0026】
図2に示されているように、この実施例では、光学系収容部4とランプハウス部6が一体化されて1つのハウジング2を構成している。従来構造では、ランプハウスが単体として存在するが、ランプハウス自体は熱容量が小さいものであるために室温変動の影響を受けやすい。これに対し、この実施例のように、光学系収容部4とランプハウス部6とを一体化して1つのハウジング2とすれば、ハウジング2全体としての熱容量が大きくなり、光学系収容部とランプハウスが熱的に分離している従来構造に比べて室温変動の影響を受けにくくなる。
【0027】
図3は従来構造とこの実施例の構造における室温変動によるランプハウス部6の温度への影響の検証結果を示している。このグラフからわかるように、従来構造、すなわち光学系収容部とランプハウスが熱的に分離されている場合、室温変動の影響を受けてランプハウスの温度が大きく変動しているが、光学系収容部4とランプハウス部6を一体化した実施例の構造では、ランプハウス部6の温度変動が従来構造よりも小さくなっている。この検証結果から、光学系収容部4とランプハウス部6を一体化すれば、ランプハウス部6に対する室温変動の影響が小さくなることがわかる。
【0028】
また、ランプハウス部6に収容された光源8は熱を伴って発光するものであるが、光源8で発生した熱はランプハウス部6を介して光学系収容部4へ高効率に伝達され、ハウジング2の全体の熱平衡化が迅速に行なわれる。熱平衡化に関する検証結果を
図4A及び
図4Bに示す。
【0029】
図4A及び
図4Bは、光源を点灯させてからのランプハウス温度及び分光器温度の時間変化を測定したものである。
図4Aに示されているように、光学系収容部とランプハウスとが熱的に分離されている従来構造では、ランプハウス温度と分光器(光学系)温度との差が大きく、光源を点灯させてから両者の温度が安定するまでに60分程度の時間を要している。これに対し、光学系収容部4とランプハウス部6を一体化した実施例の構造では、
図4Bに示されているように、ランプハウス温度と分光器(光学系)温度との差が小さくなり、さらに光源を点灯させてから両者の温度が安定するまでに要する時間が30分に短縮された。
【0030】
この検証結果から、光学系収容部4とランプハウス部6を一体化させて1つのハウジング2を構成することにより、検出器全体の熱平衡化に要する時間が短縮されることがわかる。これにより、この実施例の構造によって従来構造よりも検出器信号が安定するまでに要する時間(安定待ち時間)が短縮される。
【0031】
図4Bの検証結果からもわかるように、光源8を点灯させると、ランプハウス部6の温度は光学系収容部4の温度よりも高くなるが、光学系収容部4とランプハウス部6との温度差がより小さくなれば、検出器全体の熱平衡化に要する時間をさらに短縮することができる。光学系収容部4とランプハウス部6との温度差をさらに小さくする方法として、ランプハウス部6を冷却するための冷却機構を設けることが考えられる。
【0032】
図5にハウジング2のランプハウス部6を冷却するための冷却機構の一例を示す。この例の冷却機構24はヒートパイプ26を利用するものである。ヒートパイプ26の一端側に伝熱板28が取り付けられ、他端側に放熱フィン30が取り付けられている。伝熱板28はハウジング2のランプハウス部6近傍に設けられた平面部22に密着するように取り付けられ、ヒートパイプ26の他端側に取り付けられた放熱フィン30に対してファン32から冷却風が吹き付けられる。これにより、ランプハウス部6の熱が効率よくヒートパイプ26の他端側へ輸送される。なお、ヒートパイプ26内に封入される作動液として純水が挙げられる。
【0033】
ランプハウス部6を冷却する冷却機構の構成としては種々のものが考えられるが、
図5のようにヒートパイプ26を利用することによって、ランプハウス部6に対して冷却風を直接的に吹き付ける必要がなくなり、ランプハウス部6の振動によるノイズの発生を防止することができる。なお、
図5では示されていないが、ヒートパイプ26の他端側に取り付けられた放熱フィン30は、ハウジング2が配置されている空間とは熱的に隔離された空間に配置されることが好ましい。
【0034】
また、検出器全体の熱平衡化の迅速化を図るために、
図6に示されているように、ヒートパイプ34(熱輸送機構)を利用してランプハウス部6の熱を光学系収容部4のランプハウス部6から離れた位置へ積極的に輸送するようにしてもよい。
【0035】
以上において説明した実施例では、分光検出器として後分光方式の分光光度計について説明したが、本発明の分光検出器はこれに限定されず、前分光方式の分光光度計や示差屈折率検出器など、光学系に分光器を含む検出器であればいかなる検出器にも適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
2 ハウジング
4 光学系収容部
6 ランプハウス部
8 光源
10 試料セル設置部
12 試料セル
14 光センサ
16,18 ミラー
20 回折格子(分光器)
22 平面部
24 冷却機構
26,34 ヒートパイプ
28 伝熱板
30 放熱フィン
32 ファン