特許第6879378号(P6879378)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特許6879378-熱延鋼板及びその製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6879378
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】熱延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20210524BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20210524BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20210524BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   C22C38/00 301W
   C22C38/06
   C22C38/38
   C21D9/46 T
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-550417(P2019-550417)
(86)(22)【出願日】2018年10月30日
(86)【国際出願番号】JP2018040344
(87)【国際公開番号】WO2019088104
(87)【国際公開日】20190509
【審査請求日】2019年12月16日
(31)【優先権主張番号】特願2017-208948(P2017-208948)
(32)【優先日】2017年10月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】豊田 武
(72)【発明者】
【氏名】平島 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】岡本 力
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−086415(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/085841(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/181911(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 − 38/60
C21D 8/02
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.02%以上、0.50%以下、
Si:2.0%以下、
Mn:0.5%以上、3.0%以下、
P :0.1%以下、
S :0.01%以下、
Al:0.01%以上、1.0%以下、及び
N :0.01%以下
を含有し、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
面積分率で、マルテンサイト相の組織分率10%以上、40%以下、フェライト相の組織分率60%以上の二相組織を含み、
フェライト粒の平均粒径が5.0μm以下であり、
フェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率が60%超であることを特徴とする、熱延鋼板。
ここで、フェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率とは、全マルテンサイト粒界長さを100としたとき、フェライト粒によって占有されているマルテンサイト粒界部分の長さ比率を百分率で表示したものである。
【請求項2】
さらに、質量%で、
Nb:0.001%以上、0.10%以下、
Ti:0.01%以上、0.20%以下、
Ca:0.0005%以上、0.0030%以下、
Mo:0.02%以上、0.5%以下、及び
Cr:0.02%以上、1.0%以下
のうち1種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項3】
前記フェライト粒の平均粒径が4.5μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱延鋼板。
【請求項4】
前記被覆率が65%以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱延鋼板。
【請求項5】
前記マルテンサイト相の組織分率が10%以上、20%未満であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱延鋼板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成を有するスラブを鋳造する工程、
鋳造されたスラブを熱間圧延する工程であって、前記スラブを少なくとも4つの連続する圧延スタンドを備えた圧延機を用いて仕上げ圧延することを含み、前記仕上げ圧延における最終の3つの圧延スタンドのそれぞれの圧延荷重が1つ前の圧延スタンドの圧延荷重の80%以上であり、かつ前記最終の3つの圧延スタンドにおける仕上圧延温度の平均値が800℃以上、950℃以下である工程、並びに
仕上げ圧延された鋼板を強制冷却し、次いで巻き取る工程であって、前記強制冷却が、前記仕上げ圧延終了後1.5秒以内に開始され、前記鋼板を30℃/秒以上の平均冷却速度で600℃以上、750℃以下まで冷却する一次冷却、前記一次冷却後の鋼板を3秒以上、10秒以下自然放冷する中間空冷、及び前記中間空冷後の鋼板を30℃/秒以上の平均冷却速度で200℃以下まで冷却する二次冷却を含む工程
を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靭性と穴拡げ性のバランスに優れた引張強度980MPa以上の熱延鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費及び衝突安全性の向上を目的に、高強度鋼板の適用による車体軽量化が盛んに取り組まれている。高強度鋼板の適用に際してはプレス成型性を確保することが重要となる。複合組織(Dual Phase)鋼板(以下DP鋼板)は、軟質なフェライト相と硬質なマルテンサイト相の複合組織で構成されており、良好なプレス成型性を有することが一般的に知られている。しかしながら、DP鋼板は、著しく硬度の異なる両相の界面からボイドが発生して割れを生じることがあるため、穴拡げ性に劣るという問題があり、足廻り部品等の高い穴拡げ性が要求される用途には不向きであった。
【0003】
特許文献1では、フェライトとそれ以外にマルテンサイトやベイナイト等を含み得る熱延鋼板であって、限界穴拡げ率によって評価される伸びフランジ加工性の改善された熱延鋼板が提案されている。また、特許文献2では、伸びと穴拡げ性を両立するために、フェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率並びにフェライト粒のアスペクト比及び平均粒径を制御した高強度熱延鋼板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3945367号公報
【特許文献2】特開2015−86415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車のさらなる軽量化指向、部品の複雑化等を背景に更に高い穴拡げ性と靭性を有する高強度熱延鋼板が要求されている。
【0006】
特許文献1では、Ar3点〜「Ar3点+100℃」の温度域の温度で仕上げ圧延を行い、当該仕上げ圧延を終了した後0.5秒以内に冷却を開始して、仕上げ温度から「Ar3点−100℃」までを400℃/秒以上の平均冷却速度で冷却することが記載されている。また、特許文献1では、このように仕上げ圧延を終了した後、空冷の時間をほとんど与えることなく強冷却を行うことにより、フェライト粒が極めて細粒化するとともに、所望の集合組織が形成され、面内異方性が小さく加工性に優れた熱延鋼板が得られることが記載されている。しかしながら、特許文献1では、靱性の向上、特には靱性及び穴拡げ性の向上という観点からは必ずしも十分な検討がなされておらず、それゆえ当該特許文献1に記載の熱延鋼板では、その材料特性に関して依然として改善の余地があった。
【0007】
特許文献2では、仕上げ圧延における最終段の1つ前の圧延スタンドでオーステナイト組織を再結晶させ、その後軽圧下による微量のひずみをオーステナイトの粒界に導入することなどにより、マルテンサイト粒を被覆するフェライト粒の平均粒径とアスペクト比を制御することが記載され、最終的に伸びと穴拡げ性のバランスに優れた高強度熱延鋼板が得られることが記載されている。しかしながら、特許文献2では、靱性の向上、特には靱性及び穴拡げ性の向上という観点からは必ずしも十分な検討がなされておらず、それゆえ当該特許文献2に記載の高強度熱延鋼板では、その材料特性に関して依然として改善の余地があった。
【0008】
本発明は、上記の要求に対して高強度鋼に不可欠な靭性を確保しつつ、加工性を満足することが可能な穴拡げ性に優れた引張強度980MPa以上の熱延鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これまでもDP鋼板の材質改善に向けてマルテンサイトとフェライトの界面に生じるボイドの発生を抑制するために様々な取り組みがなされている。また、靭性を向上させるために粒径を細かくして亀裂伝播経路を増やすことが一般的に知られているが、DP鋼のような複合組織において粒径の効果やマルテンサイト及びフェライトの各組織に関する効果は明確にはなっていない。本発明者らは、熱間仕上げ圧延後の冷却中に生成するフェライトの核生成サイトや粒成長挙動に着目し、鋭意検討した結果、マルテンサイト粒を被覆するフェライト粒の平均粒径が材質改善、特に靱性と穴拡げ性の両特性の改善に重要であることを見出した。また、マルテンサイト及びフェライトの各組織に関する効果として、マルテンサイト粒を被覆することで穴拡げ性を向上させ、さらにその被覆するフェライト粒の平均粒径を細かくすることで靭性の向上に必要な亀裂伝播の抑制を達成できることがわかった。しかしながら、特許文献2において記載されるような方法、すなわちオーステナイト組織を再結晶させ、その後軽圧下による微量のひずみをオーステナイトの粒界に導入する方法では、フェライトの形状や被覆率を制御できてもオーステナイト粒が粗大なため、フェライト粒も粗大になる傾向があり、結果としてフェライト粒の平均粒径を微細なレベルまで低減することが困難な場合があった。そこで、本発明者らはさらに検討し、熱間圧延でオーステナイトの動的再結晶を発現させることで、オーステナイトの結晶粒を微細にしかつオーステナイト粒界に高い転位密度を導入できることを見出した。具体的には、オーステナイトの動的再結晶を発現させるためには大きなひずみを加える必要がある。そこで、仕上げ圧延の際の圧延スタンドによる圧延においてオーステナイトの動的再結晶を確実に発現させるため、最終の複数の連続する圧延スタンドのそれぞれの圧延荷重をそれより1つ前の圧延スタンドの圧延荷重の80%以上に保持することが重要となる。そうすることでオーステナイトの結晶粒を微細にしかつオーステナイト粒界に高い転位密度を導入することができるため、以降の冷却の際にオーステナイト粒界から核生成するフェライトの生成頻度を高めて微細なフェライト粒の生成を増加させることができ、一方で、当該冷却の際にオーステナイト粒から変態したマルテンサイト粒も微細化することができる。また、このような微細なマルテンサイト粒が同様に冷却の際に生成した上記の多くの微細フェライト粒によって被覆されることになるため、フェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率をも顕著に高めることが可能となる。これにより、特許文献1及び2において必ずしも十分な検討がされていなかった靭性の劣化を確実に防ぐことができるだけでなく、靭性と穴拡げ性を高いレベルで両立させることも可能となる。
【0010】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
(1)質量%で、
C :0.02%以上、0.50%以下、
Si:2.0%以下、
Mn:0.5%以上、3.0%以下、
P :0.1%以下、
S :0.01%以下、
Al:0.01%以上、1.0%以下、及び
N :0.01%以下
を含有し、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
面積分率で、マルテンサイト相の組織分率10%以上、40%以下、フェライト相の組織分率60%以上の二相組織を含み、
フェライト粒の平均粒径が5.0μm以下であり、
フェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率が60%超であることを特徴とする、熱延鋼板。
ここで、フェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率とは、全マルテンサイト粒界長さを100としたとき、フェライト粒によって占有されているマルテンサイト粒界部分の長さ比率を百分率で表示したものである。
(2)さらに、質量%で、
Nb:0.001%以上、0.10%以下、
Ti:0.01%以上、0.20%以下、
Ca:0.0005%以上、0.0030%以下、
Mo:0.02%以上、0.5%以下、及び
Cr:0.02%以上、1.0%以下
のうち1種以上を含有することを特徴とする、上記(1)に記載の熱延鋼板。
(3)前記フェライト粒の平均粒径が4.5μm以下であることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の熱延鋼板。
(4)前記被覆率が65%以上であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の熱延鋼板。
(5)前記マルテンサイト相の組織分率が10%以上、20%未満であることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の熱延鋼板。
(6)上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の組成を有するスラブを鋳造する工程、
鋳造されたスラブを熱間圧延する工程であって、前記スラブを少なくとも4つの連続する圧延スタンドを備えた圧延機を用いて仕上げ圧延することを含み、前記仕上げ圧延における最終の3つの圧延スタンドのそれぞれの圧延荷重が1つ前の圧延スタンドの圧延荷重の80%以上であり、かつ前記最終の3つの圧延スタンドにおける仕上圧延温度の平均値が800℃以上、950℃以下である工程、並びに
仕上げ圧延された鋼板を強制冷却し、次いで巻き取る工程であって、前記強制冷却が、前記仕上げ圧延終了後1.5秒以内に開始され、前記鋼板を30℃/秒以上の平均冷却速度で600℃以上、750℃以下まで冷却する一次冷却、前記一次冷却後の鋼板を3秒以上、10秒以下自然放冷する中間空冷、及び前記中間空冷後の鋼板を30℃/秒以上の平均冷却速度で200℃以下まで冷却する二次冷却を含む工程
を含むことを特徴とする、熱延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、靭性と穴拡げ性のバランスに優れた熱延鋼板を提供することができるため、高い加工を要するプレス部品に適した熱延鋼板を提供することができる。また、本発明の熱延鋼板は、980MPa以上の引張強度を有し、靭性と穴拡げ性のバランスが高いレベルで優れるものであるため、自動車などの車体材料の薄肉化による車体の軽量化、部品の一体成型化、加工工程の短縮が可能であり、燃費の向上、製造コストの低減を図ることができ、工業的価値が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】フェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率を説明するイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<熱延鋼板>
本発明は、熱間仕上げ圧延後の冷却中に生成するフェライトの核生成サイトや粒成長挙動に着目し、フェライト粒の平均粒径とマルテンサイト粒を被覆するフェライト粒の割合を制御することで靭性と穴拡げ性のバランスに優れた高強度の熱延鋼板を提供するものである。本発明の熱延鋼板は、所定の組成を有し、面積分率で、マルテンサイト相の組織分率10%以上、40%以下、フェライト相の組織分率60%以上の二相組織を含み、フェライト粒の平均粒径が5.0μm以下であり、フェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率が60%超であることを特徴としている。
【0014】
以下に本発明の個々の構成要件について詳細に説明する。まず、本発明の成分(組成)の限定理由について述べる。成分含有量についての%は質量%を意味する。
【0015】
[C:0.02%以上、0.50%以下]
Cは鋼板の強度を決める重要な元素である。目的の強度を得るためには0.02%以上含有する必要がある。好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.04%以上とする。しかし、0.50%超含有していると靭性を劣化させるため、上限を0.50%とする。C含有量は0.45%以下又は0.40%以下であってもよい。
【0016】
[Si:2.0%以下]
Siは固溶強化元素として強度上昇に有効であるが、靭性劣化を引き起こすため、2.0%以下とする。好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.2%以下又は1.0%以下である。Siは含有しなくてもよく、すなわちSi含有量は0%であってもよい。例えば、Si含有量は0.05%以上、0.10%以上又は0.20%以上であってもよい。
【0017】
[Mn:0.5%以上、3.0%以下]
Mnは焼入れ性及び固溶強化元素として強度上昇に有効である。目的の強度を得るためには0.5%以上必要である。好ましくは0.6%以上である。過度に添加すると穴拡げ性に有害なMnSを生成するため、その上限を3.0%以下とする。Mn含有量は2.5%以下又は2.0%以下であってもよい。
【0018】
[P:0.1%以下]
Pは低いほど望ましく、0.1%超含有すると加工性や溶接性に悪影響を及ぼすとともに、疲労特性も低下させるので、0.1%以下とする。好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.03%以下である。P含有量は0%であってもよいが、過剰な低減はコスト上昇を招くので、好ましくは0.0001%以上とする。
【0019】
[S:0.01%以下]
Sは低いほど望ましく、多すぎると靭性の等方性に有害なMnS等の介在物を生成させるため、0.01%以下とする必要がある。厳しい低温靭性が要求される場合には、0.006%以下とすることが好ましい。S含有量は0%であってもよいが、過剰な低減はコスト上昇を招くので、好ましくは0.0001%以上とする。
【0020】
[Al:0.01%以上、1.0%以下]
Alは脱酸に必要な元素であり、通常0.01%以上添加される。例えば、Al含有量は0.02%以上又は0.03%以上であってもよい。しかし、過剰に添加すると、クラスタ状に析出したアルミナを生成し、靭性を劣化させるため、その上限は1.0%とする。例えば、Al含有量は0.8%以下又は0.6%以下であってもよい。
【0021】
[N:0.01%以下]
Nは高温にて粗大なTi窒化物を形成し、靭性を劣化させる。したがって0.01%以下とする。例えば、N含有量は0.008%以下又は0.005%以下であってもよい。N含有量は0%であってもよいが、過剰な低減はコスト上昇を招くので、好ましくは0.0001%以上とする。
【0022】
要求特性を満たすために必須ではないが、製造ばらつきを低減させたり、強度をより向上させるために、さらには靱性及び/又は穴拡げ性をより向上させるために下記の元素のうち1種以上を添加してもよい。
【0023】
[Nb:0.001%以上、0.10%以下]
Nbは熱延鋼板の結晶粒径を小さくすることと、NbCにより強度を高めることができる。Nbの含有量が0.001%以上でその効果が得られる。例えば、Nb含有量は0.01%以上又は0.02%以上であってもよい。一方、0.10%超ではその効果は飽和するため、その上限を0.10%とする。例えば、Nb含有量は0.08%以下又は0.06%以下であってもよい。
【0024】
[Ti:0.01%以上、0.20%以下]
Tiはフェライトを析出強化させるとともに、変態速度を遅延させ、制御性が高まるため、狙いのフェライト分率を得るのに有効な元素である。優れた靱性と穴拡げ性のバランスを得るためには0.01%以上添加することが必要である。しかしながら、0.20%超添加するとTiNを起因とした介在物が生成し、穴拡げ性が劣化するため、Tiの含有量は0.01%以上、0.20%以下とする。例えば、Ti含有量は0.02%以上又は0.03%以上であってもよく、0.15%以下又は0.10%以下であってもよい。
【0025】
[Ca:0.0005%以上、0.0030%以下]
Caは溶鋼の脱酸において微細な酸化物を多数分散させ、組織を微細化するのに好適な元素であるとともに、溶鋼の脱硫において鋼中のSを球形のCaSとして固定し、MnSなどの延伸介在物の生成を抑制して穴拡げ性を向上させる元素である。これらの効果は添加量が0.0005%から得られるが、0.0030%で飽和するため、Caの含有量は0.0005%以上、0.0030%以下とする。例えば、Ca含有量は0.0010%以上又は0.0015%以上であってもよく、0.0025%以下であってもよい。
【0026】
[Mo:0.02%以上、0.5%以下]
Moはフェライトの析出強化として有効な元素である。この効果を得るためには0.02%以上の添加が望ましい。例えば、Mo含有量は0.05%以上又は0.10%以上であってもよい。ただし、多量の添加はスラブの割れ感受性が高まりスラブの取り扱いが困難になるため、その上限を0.5%とする。例えば、Mo含有量は0.4%以下又は0.3%以下であってもよい。
【0027】
[Cr:0.02%以上、1.0%以下]
Crは鋼板強度を向上させるのに有効な元素である。この効果を得るためには0.02%以上の添加が必要である。例えば、Cr含有量は0.05%以上又は0.10%以上であってもよい。ただし、多量の添加は延性が低下するため上限を1.0%とする。例えば、Cr含有量は0.8%以下又は0.5%以下であってもよい。
【0028】
本発明の熱延鋼板において、上記成分以外の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、熱延鋼板を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明の熱延鋼板に対して意図的に添加した成分ではないものを包含するものである。また、不純物とは、上で説明した成分以外の元素であって、当該元素特有の作用効果が本発明に係る熱延鋼板の特性に影響しないレベルで当該熱延鋼板中に含まれる元素をも包含するものである。
【0029】
次に、本発明の熱延鋼板の結晶組織について説明する。
【0030】
[マルテンサイト相の組織分率10%以上、40%以下、フェライト相の組織分率60%以上の二相組織]
本発明の熱延鋼板は、マルテンサイト相とフェライト相の二相組織を含む。ここで、本発明において「二相組織」とは、マルテンサイト相とフェライト相の合計が面積率で90%以上である組織を言うものである。残部については、パーライトやベイナイトを含有していてもよい。
【0031】
上記の二相組織を含む鋼板では、軟質で伸びに優れたフェライト中にマルテンサイトの硬質組織が分散されており、それによって高強度でありながら高い伸びを実現している。しかしながら、このような鋼板では、硬質組織近傍に高いひずみが集中し、亀裂伝播速度が速くなるため穴拡げ性が低くなるという欠点がある。そのため、フェライトとマルテンサイトの相分率やマルテンサイト粒のサイズに関する検討は多くされているが、フェライト粒のサイズやマルテンサイト粒を被覆するフェライト粒の配列を積極的に制御して鋼板の材質改善の可能性を検討した例はほとんどない。本発明は、マルテンサイト相とフェライト相からなる二相組織においてフェライト粒の平均粒径とマルテンサイト粒を被覆するフェライト粒の配列を適切に制御することで、靭性と穴拡げ性のバランスに優れた高強度の熱延鋼板を提供するものである。本発明によれば、当該熱延鋼板は、鋼板組織の面積分率でマルテンサイト相を10%以上、40%以下含有し、フェライト相を60%以上含有する必要がある。例えば、マルテンサイト相は、面積分率で12%以上又は14%以上であってもよく、35%以下又は30%以下であってもよい。また、フェライト相は、面積分率で70%以上又は80%超であってもよく、その上限は90%以下であり、又は85%以下であってもよい。特に靭性と穴拡げ性のバランスが優れるマルテンサイト相の分率は10%以上、20%未満又は18%以下である。マルテンサイト相の分率が10%未満になると、フェライト粒の平均粒径が必然的に大きくなり、靭性が低下する。マルテンサイト相の分率が40%超となると延性の乏しいマルテンサイト相が主体となるため穴拡げ性が低下する。フェライト相の分率が60%未満ではフェライト粒による歪みの緩和が十分でなく、また加工性が確保できないため、靭性と穴拡げ性を高いレベルで両立させることができなくなる。
【0032】
本発明において、フェライト相及びマルテンサイト相の組織分率は以下のようにして決定される。まず、熱延鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を観察面として試料を採取し、当該観察面を研磨してナイタール及びレペラ等の試薬で腐食後、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)等の光学顕微鏡を用いて画像解析し、より具体的には板厚の1/4位置の組織を1000倍の倍率で光学顕微鏡にて観察し、それを100×100μmの視野で画像解析する。10視野以上におけるこれらの測定値の平均がそれぞれフェライト相及びマルテンサイト相の組織分率として決定される。
【0033】
[フェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率が60%超]
本発明において、最も重要な特徴の1つがフェライト粒の配列である。本発明においてフェライト粒はマルテンサイト粒を取り囲む形に配列する。図1は、フェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率を説明するイメージ図である。図1に示すように、マルテンサイト粒界のうち、フェライト粒によって占有されている部分の全マルテンサイト粒界長さに対する比率を被覆率と定義する。本発明において、全マルテンサイト粒界長さとフェライト粒によって占有されている部分の長さは光学顕微鏡を用いて決定され、例えば後方散乱電子回折像解析(Electro BackScattering Diffraction:EBSD)を用いて定量的に求めることができる。本発明において、フェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率は、板厚の1/4位置の組織についてランダムに100×100μmの視野を選択し、10視野以上における500個以上のマルテンサイト粒についてEBSD等の光学顕微鏡を用いて全マルテンサイト粒界長さ(「フェライト粒によって占有されているマルテンサイト粒界部分に対応する当該フェライト粒の外周長さの合計」と「フェライト粒によって占有されていないマルテンサイト粒界部分の長さ」の合計)とフェライト粒によって占有されている部分の長さ(「フェライト粒によって占有されているマルテンサイト粒界部分に対応する当該フェライト粒の外周長さの合計」)を求めることによって算出される。フェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率が60%を超えるとフェライトの連結性が高まり、加工時に生じるボイドの発生を抑制することができ、靭性と穴拡げ性が向上する。被覆率が低いと、フェライトの連結性が低くなり、すなわちマルテンサイト粒を被覆するフェライト粒間での隙間が多くなり、加工時にこのような隙間に応力が集中して割れを生じる場合があるため、当該被覆率はより高い値であることが好ましく、例えば65%以上、68%以上、又は70%以上であってもよい。より厳しい加工を受ける成形においては70%以上とすることが望ましい。また、当該被覆率は100%であってもよく、例えば、98%以下又は95%以下であってもよい。
【0034】
[フェライト粒の平均粒径が5.0μm以下]
一方で、被覆率を高くするためにフェライト相の分率を増加させる際、フェライト粒の平均粒径が大きくなると靭性が劣位となる。そのため、フェライト粒の平均粒径は5.0μm以下とすることが必要である。例えば、フェライト粒の平均粒径は、0.5μm以上若しくは1.0μm以上であってもよく、及び/又は4.5μm以下、4.0μm以下、3.5μm以下若しくは3.0μm以下であってもよく、好ましくは、0.5μm以上、3.0μm以下である。したがって、フェライト変態の核生成サイトを増加させることによるフェライト粒の微細化が重要となる。なお、本発明において、フェライト粒の平均粒径はEBSDを用いて以下のようにして測定される。EBSDとしては、例えば、FE−SEMとEBSD検出器で構成された装置を用い、板厚の1/4位置の組織を1000倍の倍率で観察し、それを100×100μmの視野で画像解析する。次いで、結晶粒界の角度差が5°以上となる境界を粒界とし、この粒界によって囲まれる領域を結晶粒としてフェライト粒の粒径を相当円直径にて測定し、10視野以上におけるこれらの測定値の平均をフェライト粒の平均粒径とする。
【0035】
本発明の熱延鋼板においては、上記のとおり、フェライト粒だけでなくマルテンサイト粒も微細化することができる。マルテンサイト粒の平均粒径は、特に限定されないが、例えば、1.0μm以上、3.0μm以上若しくは6.0μm以上であってもよく、及び/又は20.0μm以下、18.0μm以下、15.0μm以下若しくは10.0μm以下であってもよい。図1では、マルテンサイト粒がフェライト粒よりも大きい態様について例示されているが、本発明の熱延鋼板は、このような態様には限定されず、フェライト粒の平均粒径がマルテンサイト粒の平均粒径よりも大きい場合も包含するものである。
【0036】
<熱延鋼板の製造方法>
次に、本発明の熱延鋼板の製造方法について説明する。
【0037】
本発明の熱延鋼板は、当該熱延鋼板と同じ組成を有するスラブを鋳造する工程、鋳造されたスラブを熱間圧延する工程であって、前記スラブを少なくとも4つの連続する圧延スタンドを備えた圧延機を用いて仕上げ圧延することを含み、前記仕上げ圧延における最終の3つの圧延スタンドのそれぞれの圧延荷重が1つ前の圧延スタンドの圧延荷重の80%以上であり、かつ前記最終の3つの圧延スタンドにおける仕上圧延温度の平均値が800℃以上、950℃以下である工程、並びに仕上げ圧延された鋼板を強制冷却し、次いで巻き取る工程であって、前記強制冷却が、前記仕上げ圧延終了後1.5秒以内に開始され、前記鋼板を30℃/秒以上の平均冷却速度で600℃以上、750℃以下まで冷却する一次冷却、前記一次冷却後の鋼板を3秒以上、10秒以下自然放冷する中間空冷、及び前記中間空冷後の鋼板を30℃/秒以上の平均冷却速度で200℃以下まで冷却する二次冷却を含む工程を含む方法によって製造することができる。
【0038】
このような製造方法は、当業者に公知の種々の圧延技術を用いて実施することができ、特に限定するものではないが、例えば、鋳造から圧延までが連結するエンドレス圧延等によって実施することが好ましい。エンドレス圧延を行うことで仕上げ圧延において以下に記述する高負荷の圧延が可能となる。
【0039】
[スラブの鋳造]
スラブの鋳造は、特定の方法には限定されない。本発明の熱延鋼板について上で説明したのと同じ組成を有するスラブが得られるように、高炉や電炉等による溶製に続き、各種の二次精錬を行い、化学組成を調整し、次いで通常の連続鋳造やインゴット法により鋳造すればよい。また、薄スラブ鋳造などの方法で鋳造してもよい。なお、鋳造スラブの原料としてスクラップを使用してもよいが、化学組成の調整が必要である。
【0040】
[熱間圧延]
本発明によれば、鋳造されたスラブは次に熱間圧延を施され、当該熱間圧延は、鋳造されたスラブを少なくとも4つの連続する圧延スタンドを備えたタンデム圧延機等の圧延機を用いて、最終の3つの圧延スタンドのそれぞれの圧延荷重が1つ前の圧延スタンドの圧延荷重の80%以上となるように仕上げ圧延することを含む。スラブに対し、仕上げ圧延において最終の3つの圧延スタンドで連続して高負荷をかけることにより、鋼板中にオーステナイトの動的再結晶を発現させることができる。オーステナイトの動的再結晶を発現させることで、オーステナイトの結晶粒を細かくしかつオーステナイト粒界に高い転位密度を導入することができる。その結果として、以降の強制冷却の際にオーステナイト粒界から核生成するフェライトの生成頻度を高めて微細なフェライト粒の生成を増加させることができ、一方で、当該強制冷却の際にオーステナイト粒から変態したマルテンサイト粒も微細化することができる。また、このようなマルテンサイト粒が同様に強制冷却の際に生成した上記の多くの微細フェライト粒で被覆されるため、フェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率をも顕著に高めることが可能となる。
【0041】
最終の3つの圧延スタンドのそれぞれの圧延荷重が1つ前の圧延スタンドの圧延荷重に対して80%未満の場合には、圧延スタンドの圧延パス間で静的再結晶や回復が促進され、動的再結晶に必要なひずみを蓄積することができない。より詳しく説明すると、例えば各圧延スタンドにおいてより高い圧下率で熱間圧延を施したとしても、各圧延パス間の時間が長くなると、各圧延パスにおいて導入したひずみが次の圧延パスまでの間に回復してしまう。その結果として、動的再結晶に必要なひずみを蓄積することができなくなる。したがって、熱間圧延を圧下率で制御する場合には、パス間時間を特定の短い時間に厳しく制御することが必要となる。また、仮にパス間時間を特定の短い時間に厳しく制御したとしても、最終の3つの圧延スタンドのいずれか1つの圧下率が低い場合には、当然ながら80%以上の圧延荷重を満足することはできないため、同様に動的再結晶に必要なひずみを蓄積することができなくなる。これとは対照的に、本発明の熱延鋼板の製造方法では、熱間圧延を圧下率ではなく圧延荷重で制御することにより、ひずみを確実に蓄積させることが可能となる。より詳しくは、ひずみの蓄積に伴い、圧延に要する荷重は高くなる。したがって、熱間圧延を特定の圧延荷重の範囲内に制御することにより、動的再結晶に必要なひずみを確実に蓄積させ、かつその蓄積量を制御することが可能となる。圧延荷重の上限は特に規定しないが、1つ前の圧延スタンドの圧延荷重に対して120%を超えると板形状の作りこみが困難となること、圧延パス間での板破断が増加すること等、製造上の課題が多くなる。したがって、圧延荷重は80%以上、好ましくは85%以上であり、及び/又は120%以下、好ましくは100%以下である。一般的には、より後段の圧延スタンドほど、ひずみの蓄積に及ぼす影響が大きい。したがって、最終の3つの圧延スタンドのうちより後段の圧延スタンドにおいて80%以上の圧延荷重を達成できない場合に、フェライト粒の平均粒径がより大きくなり、当該フェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率がより小さくなる傾向がある。また、圧下率の観点でいえば、特に限定されないが、本発明の方法に係る熱間圧延は、最終の圧延スタンドによる圧下率が一般的には25%以上、好ましくは25〜40%の範囲内になるように実施される。
【0042】
加えて、仕上げ圧延時の温度(仕上圧延温度)も本発明の方法において重要であり、具体的には最終の3つの圧延スタンドにおける仕上圧延温度の平均値が低いほど、上記強制冷却の際にマルテンサイト粒径をより細かくしかつ粒界により高い転位密度を導入することができる。しかしながら、これらの仕上圧延温度の平均値が低すぎるとフェライト変態が急速に進み、マルテンサイト相の組織分率10%以上を確保できなくなる。一方で、この平均値が高いと、オーステナイト粒界の転位密度が減少し、被覆率が低下する。以上のことから、最終の3つの圧延スタンドにおける仕上圧延温度の平均値は800℃以上、950℃以下とする。本発明における最終の3つの圧延スタンドによる熱間圧延では、圧延荷重が高いために加工発熱等により温度が上昇することがあり、このような高い温度は動的再結晶の発現にとっては有利である。一方で、後段で高温になるとひずみ累積には不利となるため、最終の圧延スタンドによる圧延後の温度(仕上圧延終了温度)は、特に限定されないが、例えば850℃以上であることが好ましい。また、仕上圧延終了温度は、例えば1000℃以下であってもよい。
【0043】
(粗圧延)
本発明の方法では、例えば、板厚調整等のために、鋳造されたスラブに対し、仕上げ圧延の前に粗圧延を施してもよい。このような粗圧延は、特に限定されないが、例えば、鋳造されたスラブを直接又は一旦冷却した後、必要に応じて均質化やTi炭窒化物等の溶解のために再加熱して実施することができる。再加熱を行う場合、その温度が1200℃未満では均質化、溶解とも不十分となり、強度の低下や加工性の低下を引き起こす場合がある。一方で、再加熱の温度が1350℃を超えると、製造コスト、生産性が低下すること、また、初期のオーステナイト粒径が大きくなることで最終的に混粒になりやすくなる。そこで、均質化及び/又はTi炭窒化物等の溶解のための再加熱の温度は1200℃以上とすることが好ましく、1350℃未満とすることが好ましい。
【0044】
[強制冷却・巻き取り]
仕上げ圧延終了後は速やかに強制冷却を行った方がよい。仕上げ圧延終了から強制冷却開始までの間はひずみが回復し、粒成長が起こることでその後の強制冷却の際の変態によって生成するフェライト粒、オーステナイト粒とも粗大になりやすい。さらに、仕上げ圧延の際の動的再結晶によって導入したオーステナイト粒界の転位密度が減少するため、その後の強制冷却の際にフェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率が低下する場合がある。強制冷却開始までのひずみの回復量は圧延温度や圧延率によって変化し得るが、仕上げ圧延終了から強制冷却開始までの時間が1.5秒以内であれば完全に回復することを防ぐことができる。圧延によるひずみを効率的に利用するには1秒以内であることが好ましい。仕上げ圧延終了後、一次冷却として平均冷却速度30℃/秒以上にて600℃以上、750℃以下に冷却し、3秒以上、10秒以下の自然放冷(以下「中間空冷」と言う)を行う。この間にフェライト生成が起こり、Cの拡散により、オーステナイトへのC濃化が起こる。このフェライトの生成により延性が向上する上、オーステナイトへ濃化したCはその後の強制冷却によりマルテンサイトの強度に寄与するため重要である。平均冷却速度が30℃/秒未満では、オーステナイト粒の粗大化を引き起こし、中間空冷時のフェライト変態が遅延され、目的のフェライト相の組織分率が得られなくなる。中間空冷開始温度が750℃を超えると、フェライト相の組織分率が十分に取れなくなる上、粒が大きくなりすぎ、最終的なマルテンサイト粒も大きくなりやすい。中間空冷開始温度が600℃未満又は中間空冷時間が3秒未満では、所定のフェライト相の組織分率が得られず、マルテンサイト相の組織分率も高くなる。一方で中間空冷時間が10秒を超えるとマルテンサイト相の組織分率が低くなる。マルテンサイト相の組織分率を確保する観点では8秒以下とすることが望ましい。
【0045】
Cの濃化したオーステナイトをマルテンサイト変態させるためには、中間空冷後に二次冷却として200℃以下まで冷却した後、巻き取ることが重要である。このときの平均冷却速度は30℃/秒以上とすることが必要である。巻取温度が200℃を超えると、巻き取り中にベイナイト相及び/又はパーライト相が生成し伸びが低下するとともに、フェライト相とマルテンサイト相の二相組織が得られなくなる場合がある。平均冷却速度が30℃/秒未満のときは冷却中にベイナイト相及び/又はパーライト相が生成し、フェライト相とマルテンサイト相の二相組織が得られなくなる。
【0046】
本発明の熱延鋼板について説明したのと同じ組成を有するスラブを鋳造した後、必要に応じて粗圧延を施し、次いで上で説明したように仕上げ圧延、その後の強制冷却及び巻き取り操作を実施することで、面積分率で、マルテンサイト相の組織分率10%以上、40%以下、フェライト相の組織分率60%以上の二相組織を含み、フェライト粒の平均粒径が5.0μm以下であり、フェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率が60%超である熱延鋼板を確実に製造することができる。それゆえ、上記の製造方法によれば、靭性と穴拡げ性のバランスに優れた引張強度980MPa以上の高強度の熱延鋼板を提供することが可能である。
【0047】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
表1に示す成分組成を含有する鋼を鋳造から圧延まで連続している設備を用いて、スラブを鋳造後、粗圧延及び仕上げ圧延を行い、次いで一次冷却、中間空冷及び二次冷却した後に巻き取りを行い、熱延鋼板を製造した。表1に示す成分以外の残部はFe及び不純物である。また、製造した熱延鋼板から採取した試料を分析した成分組成は、表1に示す鋼の成分組成と同等であった。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
表2には、用いた鋼種記号と仕上げ圧延条件、鋼板の板厚を示す。表2において、「F3負荷率」、「F4負荷率」及び「F5負荷率」は、5つの連続する仕上げ圧延スタンドを備えた圧延機における最終の3つの圧延スタンドのそれぞれの圧延荷重の、1つ前の圧延スタンドの圧延荷重に対する比率を意味し、それぞれ3番目、4番目及び最後の圧延スタンドに関する値を示している。また、表2において、「平均仕上圧延温度」は最終の3つの圧延スタンドにおける仕上圧延温度の平均値、「冷却開始」は仕上げ圧延を終了してから一次冷却開始までの時間、「一次冷却」は仕上げ圧延を終了してから中間空冷開始温度までの平均冷却速度、「中間温度」は一次冷却後の中間空冷開始温度、「中間時間」は一次冷却後の中間空冷時間、「二次冷却」は中間空冷後から巻き取りを開始するまでの平均冷却速度、「巻取温度」は二次冷却終了後の温度である。表2中には示していないが、本発明に係る全ての実施例(比較例を除く)において仕上圧延終了温度は850℃以上であった。また、本発明に係る全ての実施例(比較例を除く)において最終の圧延スタンドによる圧下率は25%以上であった。
【0052】
このようにして得られた熱延鋼板について光学顕微鏡を用いてフェライト相及びマルテンサイト相の組織分率、フェライト粒の平均粒径、並びにフェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率を調査した。
【0053】
被覆率は、板厚の1/4位置の組織についてランダムに100×100μmの視野を選択し、10視野における500個のマルテンサイト粒についてEBSDを用いて全マルテンサイト粒界長さとフェライト粒によって占有されているマルテンサイト粒界部分の長さを求め、全マルテンサイト粒界長さを100としたときのフェライト粒によって占有されているマルテンサイト粒界部分の長さ比率を算出した。
【0054】
熱延鋼板のフェライト相の組織分率及びフェライト粒の平均粒径は、熱延鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を観察面として試料を採取し、当該観察面を研磨してナイタールで腐食後、FE−SEMを用いて100×100μmの視野で画像解析することにより求めた。また、マルテンサイト相の組織分率は、同様に熱延鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を観察面として試料を採取し、当該観察面を研磨してレペラで腐食後、FE−SEMを用いて100×100μmの視野で画像解析することにより求めた。より具体的には、フェライト粒の平均粒径及びフェライト相とマルテンサイト相の組織分率は、板厚の1/4位置の組織を1000倍の倍率でFE−SEMで観察し、それを100×100μmの視野で画像解析してフェライト粒の平均粒径及びフェライト相とマルテンサイト相の面積分率を測定し、10視野におけるこれらの測定値の平均をそれぞれフェライト粒の平均粒径及びフェライト相とマルテンサイト相の組織分率とした。なお、フェライト粒の平均粒径は円相当直径にて算出した。
【0055】
熱延鋼板の引張試験において、当該熱延鋼板の圧延幅方向(C方向)にJIS5号試験片を採取し、降伏強度:YP(MPa)、引張強度:TS(MPa)、及び伸び:EL(%)を評価し、引張強度TSが980MPa以上の場合を合格とした。
【0056】
穴拡げ性は、ISO16630で規定する方法に従って穴拡げ率:λ(%)を測定することにより評価した。
【0057】
靱性は、JISZ2242で規定する2.5mmサブサイズのVノッチ試験片で、シャルピー衝撃試験を行い、延性脆性遷移温度を測定することによって評価した。具体的には、脆性破面率が50%となる温度を延性脆性遷移温度とした。また、鋼板の最終板厚が2.5mm未満のものについては全厚で測定した。延性脆性遷移温度が低いほど靱性が向上し、本発明においては、延性脆性遷移温度が−40℃以下である場合を靱性に優れると評価することができる。
【0058】
表3に得られた熱延鋼板の組織と材質の評価結果を示す。表3において、「各組織の面積率」はフェライト相、マルテンサイト相及びその他の相(主としてベイナイト相)の面積分率(組織分率)、「α粒径」はフェライト粒の平均粒径、「被覆率」は全マルテンサイト粒界長さを100としたとき、フェライト粒によって占有されているマルテンサイト粒界部分の長さ比率を百分率で表示したものである。
【0059】
【表3】
【0060】
本発明において靭性と穴拡げ性には相関があり、穴拡げ率λが高いほど、延性脆性遷移温度が低くなる傾向があることがわかった。また、どちらも引張強度TSに依存するため、本発明においては、下記式1を満たす熱延鋼板を靭性と穴拡げ性のバランスに優れているものとして評価した。
λ×(延性脆性遷移温度)/TS ≦ −3.0 (式1)
【0061】
表3に示すように、実施例の熱延鋼板は、引張強度が980MPa以上であり、(式1)を満たしていることから、高強度でかつ靭性と穴拡げ性のバランスに優れていることがわかる。
【0062】
これとは対照的に、比較例2では、仕上圧延温度の平均値が低かったために、マルテンサイト相の組織分率が10%未満となり、これに関連してフェライト粒の平均粒径が大きくなり、結果として靭性が低下し、(式1)による評価が不良であった。また、比較例2では、マルテンサイト相の組織分率が低いことに加えて、強度上昇に有効なC等の元素の含有量が比較的少なかったために引張強度が980MPa未満であった。比較例3では、中間空冷時間が短かったために、フェライト相の組織分率が60%未満そしてマルテンサイト相の組織分率が40%超となり、結果として穴拡げ性が低下し、(式1)による評価も不良であった。比較例5では、仕上圧延温度の平均値が高かったために、フェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率が60%以下となり、結果として(式1)による評価が不良であった。比較例8では、中間空冷の開始温度が高かったために、フェライト相の組織分率が60%未満となり、結果として(式1)による評価が不良であった。比較例12では、仕上げ圧延終了から強制冷却開始までの時間が長かったために、フェライト粒の平均粒径が5.0μm超となり、結果として靭性が低下し、(式1)による評価も不良であった。比較例14では、中間空冷時間が長かったために、マルテンサイト相の組織分率が10%未満となり、これに関連してフェライト粒の平均粒径が大きくなり、結果として靭性が低下し、(式1)による評価も不良であった。比較例17では、中間空冷の開始温度が低かったために、フェライト相の組織分率が60%未満そしてマルテンサイト相の組織分率が40%超となり、結果として穴拡げ性が低下し、(式1)による評価が不良であった。
【0063】
比較例20では、仕上げ圧延終了後の強制冷却の平均冷却速度が遅かったために、フェライト相の組織分率が60%未満となり、結果として(式1)による評価が不良であった。比較例23では、中間空冷後の二次冷却の平均冷却速度が遅かったために、ベイナイト相が多く生成してフェライト相とマルテンサイト相の二相組織とはならず、結果として(式1)による評価が不良であった。比較例24、27、29及び32では、最終の3つの圧延スタンドのうちいずれか1つの圧延荷重がそれより1つ前の圧延スタンドの圧延荷重の80%未満であったために、動的再結晶に必要なひずみを十分に蓄積することができなかった。このため、これらの比較例では、オーステナイト結晶粒の微細化、さらにはオーステナイト粒界から核生成するフェライトの生成頻度の増加に伴う微細フェライト粒の生成を十分に達成することができず、結果としてフェライト粒によるマルテンサイト粒の被覆率が低下し、(式1)による評価が不良であった。比較例30では、C含有量が高すぎたために、靭性が低下し、(式1)による評価も不良であった。比較例31では、Mn含有量が高すぎたために、穴拡げ性が低下し、(式1)による評価が不良であった。
図1