(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂組成物の示差走査熱量計によって測定したガラス転移温度または複数のガラス転移温度の少なくとも1つが150℃以上を示す、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムとの間で測定される、スレッド100mm/分、ロードセル10Nの条件で測定した動摩擦係数が、2.00以下である、請求項8に記載のフィルム。
二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムとの間で測定される、スレッド100mm/分、ロードセル10Nの条件で測定した動摩擦係数が、2.00以下である、請求項12に記載のアンチブロッキングフィルム。
請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を、溶融状態でシート状に押し出し、一対のロールで圧着して作製するフィルムの製造方法であって、前記一対のロールの少なくとも1つのロール表面のタイプA型のデュロメーター硬度が10〜99である、フィルムの製造方法。
前記フィルムが、請求項8〜11のいずれか1項に記載のフィルム、または、請求項12〜15のいずれか1項に記載のアンチブロッキングフィルムである、請求項17に記載のフィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
【0010】
本発明の樹脂組成物は、極限粘度が0.37dL/g以下の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と、極限粘度が0.50dL/g以下の芳香族ポリアリレート樹脂(B)と、極限粘度が0.60dL/g以上の芳香族ポリアリレート樹脂(C)を含み、前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリアリレート樹脂(C)の合計30〜90質量部に対し、前記芳香族ポリアリレート樹脂(B)を10〜70質量部含むことを特徴とする。
【0011】
このような構成とすることにより、上記樹脂組成物から形成されるフィルム(以下、「本発明のフィルム」ということがある)は、良好な摺動性を有し、かつ、濁りが抑制された(低ヘイズの)透明なフィルムとなる。さらに、本発明のフィルムは、全光線透過率も高くできる。すなわち、透明導電性フィルム等のロールトゥロールで製造されるフィルムの保護フィルムには、フィルムの搬送性の向上や巻きジワ防止の観点から、フィルム同士の密着の抑制(アンチブロッキング性)が求められる。つまり、保護フィルムには、フィルム同士がスタックしない程度の摺動性が求められる。
以下、フィルムの摺動性について、
図2を参照しつつ説明する。
図2(a)は、平滑なポリカーボネートフィルムの上で、平滑なポリカーボネートフィルムを滑らせる状態を示す模式図である。このように平滑なポリカーボネートフィルムの上に、平滑なポリカーボネートフィルムを載せた場合、摺動性がない。このようなポリカーボネートフィルムに摺動性を付与するには、
図2(b)に模式図を示すように、フィルムの表面に微細な凹凸を設けることが考えられる。すなわち、フィルムの表面に微細な凹凸を設けると、フィルム同士の接触面積が減り、十分な摺動性が達成される。なお、
図2において、21は表面が平滑なポリカーボネートフィルムであり、22は表面に微細な凹凸を設けたポリカーボネートフィルムである。
このようにフィルムの表面に微細な凹凸を設ける手段としては、既に公知の方法がある。例えば、表面に微細な凹凸を有するロールを用いて、フィルムの表面に微細な凹凸を形成する方法が挙げられる。この方法では、表面に微細な凹凸を有するロールの間に、溶融したフィルムを通過させ、微細な凹凸を形成する。しかしながら、表面に微細な凹凸を有するロールを用いる方法では、長期間の使用によるロールの摩耗によって、フィルム表面に転写された微細な凹凸形状が変化してしまう場合がある。また、別の方法として、フィルムに微粒子を添加して、微粒子によって、フィルムの表面に微細な凹凸を形成する方法もある。しかしながら、微粒子を添加する方法では、微粒子と樹脂の屈折率の違いにより、フィルムの透明性が損なわれる場合がある。
そこで、本発明では、新たな方法として、ポリマーブレンドによって、フィルムの表面に微細な凹凸を形成することとした。具体的には、以下のメカニズムによると推定される。
すなわち、
図3は、本発明のフィルム30の断面方向からみた模式図であって、Xは、主に、極限粘度が0.60dL/g以上の芳香族ポリアリレート樹脂(C)からなる領域を、Yは、主に、極限粘度が0.37dL/g以下の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)および極限粘度が0.50dL/g以下の芳香族ポリアリレート樹脂(B)の混合物からなる領域を示している。すなわち、本発明のフィルムでは、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリアリレート樹脂(B)は共に極限粘度が小さく、分子量が小さいため、互いに混ざりやすい。一方、芳香族ポリアリレート樹脂(B)と芳香族ポリアリレート樹脂(C)は共にポリアリレート樹脂であるため、これらも混ざりやすい。そして、前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリアリレート樹脂(C)の合計30〜90質量部に対し、芳香族ポリアリレート樹脂(B)を10〜70質量部含むように調整することにより、芳香族ポリアリレート樹脂(B)がほどよく相溶化剤として働き、ヘイズが問題となる程度にまで高くなることなく樹脂成分が混合し、かつ、海島構造を形成でき、摺動性が達成されると推測される。
さらに、本発明では、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリアリレート樹脂(C)の合計30〜90質量部に対し、芳香族ポリアリレート樹脂(B)を10〜70質量部含む組成とすることにより、フィルムの耐熱性も向上させることが可能になる。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
<極限粘度が0.37dL/g以下の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)>
本発明の組成物は、極限粘度が0.37dL/g以下の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を含む。このように極限粘度が小さい芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることにより、芳香族ポリアリレート樹脂(B)と混ざりやすくすることができる。
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の極限粘度は、0.35dL/g以下であることが好ましく、0.34dL/g以下であることがより好ましい。上記上限値以下とすることにより、フィルムを作製した際に摺動性がより効果的に発揮される。芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の極限粘度の下限値としては、特に定めるものではないが、例えば、0.10dL/g以上であり、さらには0.20dL/g以上、特には0.25dL/g以上であってもよい。
本発明の樹脂組成物が、極限粘度が異なる2種以上の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を含む場合、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の極限粘度とは、前記2種以上の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を混合した芳香族ポリカーボネート樹脂についての極限粘度の値を意味する(以下、重量平均分子量、ガラス転移温度についても同様に考える。また、他の樹脂成分の極限粘度等についても同様に考える。)。
【0013】
前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の重量平均分子量は、10,000以上であることが好ましく、15,000以上であることがより好ましく、20,000以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、フィルムの耐熱性が向上し、フィルムの成形性、曲げ耐久性がより向上する傾向にある。また、前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の重量平均分子量は、40,000以下であることが好ましく、35,000以下であることがより好ましく、30,000以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、芳香族ポリアリレート樹脂(B)との相溶性がより向上する傾向にある。
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の重量平均分子量は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0014】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは130℃以上であり、より好ましくは135℃以上であり、さらに好ましくは140℃以上である。上記下限値以上とすることにより、保護フィルムを熱成形する際にもフィルムの形態をより効果的に維持できる傾向にある。
上限値としては、特に定めるものではないが、例えば、170℃以下であり、さらには、160℃以下であってもよい。
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0015】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とは、ビスフェノールAおよびその誘導体由来のカーボネート構成単位を有する樹脂をいい、下記式(A−1)で表される構成単位を有していることが好ましい。式中の*は結合位置を表す。
【化1】
式(A−1)中、X
1は下記構造を表す。
【化2】
R
15およびR
16は、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基であり、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
式(A−1)は下記式(A−2)で表されることが好ましい。
【化3】
【0016】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)における、式(A−1)で表される構成単位の含有量は、両末端を除く全構成単位中、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。上限値は特に限定されず、100モル%が式(A−1)で表される構成単位であってもよい。ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂として特に好ましくは実質的に両末端を除く全量が式(A−1)の構成単位で構成された樹脂である。ここでの実質的に全量とは、具体的には、全構成単位の99.0モル%以上であることを意味し、99.5モル%以上が好ましく、99.9モル%以上がより好ましい。
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、ビスフェノールAおよびその誘導体由来のカーボネート構成単位以外の他の構成単位を有していてもよい。このような他の構成単位を構成するジヒドロキシ化合物としては、例えば、特開2018−154819号公報の段落0014に記載の芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0017】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を樹脂組成物中に、20質量%以上の割合で含むことが好ましく、40質量%以上であってもよく、50質量%超であってもよい。また、本発明の樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を樹脂組成物中に、80質量%以下の割合で含むことが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、65質量%以下であってもよい。
また、本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分中に芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を20質量%以上の割合で含むことが好ましく、40質量%以上であってもよく、50質量%超であってもよい。また、本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分中に芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を80質量%以下の割合で含むことが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、65質量%以下であってもよい。
前記範囲とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
本発明の樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0019】
<極限粘度が0.50dL/g以下の芳香族ポリアリレート樹脂(B)>
本発明の樹脂組成物は、極限粘度が0.50dL/g以下の芳香族ポリアリレート樹脂(B)を含む。このような芳香族ポリアリレート樹脂(B)は、上記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と相溶する傾向にあるため、得られるフィルムの透明性を高くしつつ、耐熱性を向上させることができる。
芳香族ポリアリレート樹脂(B)の極限粘度は、0.49dL/g以下であることが好ましい。芳香族ポリアリレート樹脂(B)の極限粘度の下限値としては、特に定めるものではないが、例えば、0.10dL/g以上であり、0.20dL/g以上であってもよい。
芳香族ポリアリレート樹脂(B)の極限粘度は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0020】
芳香族ポリアリレート樹脂(B)の重量平均分子量は、10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましく、30,000以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、フィルムの耐熱性が向上し、フィルムの成形性、曲げ耐久性がより向上する傾向にある。また、前記芳香族ポリアリレート樹脂(B)の重量平均分子量は、100,000以下であることが好ましく、60,000以下であることがより好ましく、50,000以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、ポリカーボネート樹脂(A)との相溶性がより向上する傾向にある。 芳香族ポリアリレート樹脂(B)の重量平均分子量は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0021】
芳香族ポリアリレート樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは170℃以上であり、より好ましくは180℃以上であり、さらに好ましくは185℃以上であり、一層好ましくは190℃以上である。前記下限値以上とすることにより、得られる樹脂組成物の耐熱性がより向上する傾向にある。上限値としては、例えば、250℃以下であり、さらには、230℃以下、210℃以下であってもよい。
芳香族ポリアリレート樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0022】
本発明で用いる芳香族ポリアリレート樹脂(B)は、芳香族ジカルボン酸(好ましくは、イソフタル酸および/またはテレフタル酸を主成分とする芳香族ジカルボン酸)由来の構成単位とビスフェノール(好ましくはビスフェノールAを主成分とするビスフェノール)由来の構成単位とから構成される芳香族ポリエステルであることが好ましい。主成分とは、最も含有割合の多い成分を意味し、好ましくは90モル%以上のことをいう(以下、主成分について同じ)。
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、3,3’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられる。
ビスフェノールとしては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、4,4’ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等が挙げられ、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましい。これらの化合物は単独で使用してもよいし、あるいは、2種以上混合して使用してもよい。
【0023】
芳香族ポリアリレート樹脂(B)の製造方法は、特に限定はされず、公知の方法により得られたものを使用することができる。界面重合法や溶融重合法で得られた芳香族ポリアリレート樹脂(B)は好適に用いることができる。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、芳香族ポリアリレート樹脂(B)を樹脂組成物中に、8質量%以上の割合で含むことが好ましく、10質量%以上であってもよく、18質量%以上であってもよい。特に、18質量%以上とすることにより、フィルムの透明性がより向上する傾向にある。また、本発明の樹脂組成物は、芳香族ポリアリレート樹脂(B)を樹脂組成物中に、60質量%以下の割合で含むことが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、47質量%以下であることがさらに好ましい。
また、本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分中に芳香族ポリアリレート樹脂(B)を8質量%以上の割合で含むことが好ましく、10質量%以上であってもよく、18質量%以上であってもよい。また、本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分中に芳香族ポリアリレート樹脂(B)を60質量%以下の割合で含むことが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、47質量%以下であることがさらに好ましい。
本発明の樹脂組成物は、芳香族ポリアリレート樹脂(B)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0025】
<極限粘度が0.60dL/g以上の芳香族ポリアリレート樹脂(C)>
本発明の樹脂組成物は、極限粘度が0.60dL/g以上の芳香族ポリアリレート樹脂(C)を含む。このような芳香族ポリアリレート樹脂は、上記芳香族ポリアリレート樹脂(B)と相溶しやすい傾向にあるため、得られるフィルムの透明性を高くしつつ、耐熱性を向上させることができる。また、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と混ざりにくいため、適切に海島構造を形成しやすくなると推測される。
芳香族ポリアリレート樹脂(C)の極限粘度は、0.62dL/g以上であることが好ましい。芳香族ポリアリレート樹脂(C)の極限粘度の上限値としては、特に定めるものではないが、例えば、0.90dL/g以下であり、0.80dL/g以下であってもよい。
芳香族ポリアリレート樹脂(C)の極限粘度は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0026】
また、本発明では、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリアリレート(C)の極限粘度の差が0.28dL/g以上であることが好ましく、0.30dL/g以上であることがさらに好ましく、0.33dL/g以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、作製したフィルムにおいて、摺動性がより効果的に発揮される。前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリアリレート(C)の極限粘度の差の上限値は、例えば、0.50dL/g以下であり、さらには、0.40dL/g以下とすることができる。
【0027】
前記芳香族ポリアリレート樹脂(C)の重量平均分子量は、10,000以上であることが好ましく、30,000以上であることがより好ましく、50,000以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、海島構造が形成されやすくなり、摺動性がより付与されやすくなる傾向にある。また、前記芳香族ポリアリレート樹脂(C)の重量平均分子量は、150,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、80,000以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、フィルムの透明性・成形性がより向上する傾向にある。
芳香族ポリアリレート樹脂(C)の重量平均分子量は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0028】
芳香族ポリアリレート樹脂(C)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは185℃超であり、より好ましくは190℃以上であり、さらに好ましくは195℃以上である。Tgを185℃超とすることにより、得られる樹脂組成物やフィルムの耐熱性をより向上させることができる。上限値としては、例えば、270℃以下であり、さらには、250℃以下、230℃以下であってもよい。
芳香族ポリアリレート樹脂(C)のガラス転移温度(Tg)は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0029】
本発明で用いる芳香族ポリアリレート樹脂(C)は、芳香族ジカルボン酸(好ましくは、イソフタル酸および/またはテレフタル酸を主成分とする芳香族ジカルボン酸)由来の構成単位とビスフェノール(好ましくはビスフェノールAを主成分とするビスフェノール)由来の構成単位とから構成される芳香族ポリエステルであることが好ましい。
芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、3,3’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられる。
ビスフェノールとしては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、4,4‘−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4‘−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等が挙げられ、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンが好ましい。これらの化合物は単独で使用してもよいし、あるいは、2種以上混合して使用してもよい。
【0030】
芳香族ポリアリレート樹脂(C)の製造方法は、特に限定はされず、公知の方法により得られたものを使用することができる。界面重合法や溶融重合法で得られた芳香族ポリアリレート樹脂(C)は好適に用いることができる。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、芳香族ポリアリレート樹脂(C)を樹脂組成物中に、10質量%以上の割合で含むことが好ましく、12質量%以上であってもよい。また、本発明の樹脂組成物は、芳香族ポリアリレート樹脂(C)を樹脂組成物中に、40質量%以下の割合で含むことが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、28質量%以下であってもよい。
また、本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分中に芳香族ポリアリレート樹脂(C)を10質量%以上の割合で含むことが好ましく、12質量%以上であってもよい。また、本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分中に芳香族ポリアリレート樹脂(C)を40質量%以下の割合で含むことが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、28質量%以下であってもよい。
本発明の樹脂組成物は、芳香族ポリアリレート樹脂(C)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0032】
<樹脂のブレンド比>
本発明の樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリアリレート樹脂(C)の合計30〜90質量部に対し、芳香族ポリアリレート樹脂(B)を10〜70質量部含み、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリアリレート樹脂(C)の合計40〜90質量部に対し、芳香族ポリアリレート樹脂(B)を10〜60質量部含むことが好ましく、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリアリレート樹脂(C)の合計50〜90質量部に対し、芳香族ポリアリレート樹脂(B)を10〜50質量部含むことがさらに好ましく、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリアリレート樹脂(C)の合計60〜90質量部に対し、芳香族ポリアリレート樹脂(B)を10〜40質量部含むことが一層好ましく、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリアリレート樹脂(C)の合計65〜90質量部に対し、芳香族ポリアリレート樹脂(B)を10〜35質量部含むことがより一層好ましい。特に、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリアリレート樹脂(B)と芳香族ポリアリレート樹脂(C)の合計を100質量部としたときに、上記ブレンド割合を満たすことが好ましい。
また、本発明の樹脂組成物において、芳香族ポリアリレート樹脂(B)と芳香族ポリアリレート樹脂(C)の質量比は、3:1〜1:3であることが好ましく、2.5:1〜1:2.5であることがより好ましい。このような構成とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
さらに、本発明の樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリアリレート樹脂(B)と芳香族ポリアリレート樹脂(C)の合計が樹脂組成物の95質量%以上を占めることが好ましく、98質量%以上を占めることがより好ましい。
【0033】
<他の成分>
本発明の樹脂組成物は、上記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、芳香族ポリアリレート樹脂(B)および芳香族ポリアリレート樹脂(C)に加え、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、酸化防止剤(E)、エステル交換防止剤(F)、離型剤(G)等の他の成分を含んでいてもよい。
【0034】
<<酸化防止剤(E)>>
本発明の樹脂組成物は、酸化防止剤を含有することが好ましい。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられ、リン系酸化防止剤およびフェノール系酸化防止剤(より好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤)の少なくとも1種が好ましく、特にリン系酸化防止剤が好ましい。
リン系酸化防止剤としては、以下の式(1)または(2)で表されるホスファイト化合物が好ましい。
【化4】
(式(1)中、R
1およびR
2はそれぞれ独立に、炭素原子数1〜30のアルキル基または炭素原子数6〜30のアリール基を表す。)
【化5】
(式(2)中、R
3〜R
7は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数6〜20のアリール基または炭素原子数1〜20のアルキル基を表す。)
【0035】
上記式(1)中、R
1、R
2で表されるアルキル基は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜10の直鎖または分岐のアルキル基であることが好ましい。R
1、R
2がアリール基である場合、以下の一般式(1−a)、(1−b)、または(1−c)のいずれかで表されるアリール基が好ましい。
【0036】
【化6】
(式(1−a)中、R
Aは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基を表す。式(1−b)中、R
Bは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基を表す。)
【0037】
フェノール系酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、特開2019−002023号公報の段落0041に記載のフェノール系酸化防止剤および特開2019−056035号公報の段落0033〜0034に記載のフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
その他、酸化防止剤の詳細は、特開2017−031313号公報の段落0057〜0061の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0038】
樹脂組成物中の酸化防止剤の含有量は、含有する場合、樹脂組成物に含まれる樹脂成分の100質量部に対して、好ましくは0.005質量部以上であり、より好ましくは0.007質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上である。また、酸化防止剤の含有量の上限値は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量部に対して、好ましくは4質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下、一層好ましくは0.1質量部以下である。
酸化防止剤の含有量を0.005質量部以上とすることにより、フィルムの透明性がより向上する傾向にある。また、酸化防止剤の含有量を4質量部以下とすることにより、フィルムの湿熱安定性が向上する傾向にある。
酸化防止剤は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0039】
<<エステル交換防止剤(F)>>
本発明の樹脂組成物は、エステル交換防止剤を含有することが好ましい。
エステル交換防止剤としては、リン系エステル交換防止剤および硫黄系エステル交換防止剤が挙げられる。
エステル交換防止剤としては、国際公開第2015/190162号の段落0035〜0039、特開2019−002023号公報の段落0037、特開2018−199745号公報の段落0041の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0040】
樹脂組成物中のエステル交換防止剤(F)の含有量は、含有する場合、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上であり、より好ましくは0.005質量部以上、さらに好ましくは0.007質量部以上である。また、エステル交換防止剤の含有量の上限値は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以下、一層好ましくは0.1質量部以下である。
エステル交換防止剤は、1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0041】
<<離型剤(G)>>
本発明の樹脂組成物は、離型剤を含有することが好ましい。
離型剤としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物、およびポリシロキサン系シリコーンオイルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を挙げることができ、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルが好ましい。
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例として、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等を挙げることができる。
その他、離型剤としては、特開2017−226848号公報の段落0032、特開2018−199745号公報の段落0056に記載の離型剤を用いることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0042】
樹脂組成物中の離型剤の含有量は、含有する場合、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上であり、また、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。
離型剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0043】
<<その他の成分>>
本発明の樹脂組成物は、上記(A)〜(G)の成分の他、他の熱可塑性樹脂、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。これらの成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記(A)〜(G)以外の他の成分の合計量は、含有する場合、樹脂組成物の0.001〜5質量%であることが好ましく、0.001〜2質量%であることがより好ましく、0.01〜1質量%であることがさらに好ましい。
【0044】
<樹脂組成物の特性>
本発明の樹脂組成物は、示差走査熱量計によって測定したガラス転移温度または複数のガラス転移温度の少なくとも1つが150℃以上を示すことが好ましく、少なくとも1つが160℃以上を示すことがより好ましい。また、示差走査熱量計によって測定したガラス転移温度または複数のガラス転移温度のいずれもが、140℃以上であることが好ましい。前記ガラス転移温度の上限値は特に定めるものではないが、例えば、ガラス転移温度または複数のガラス転移温度のいずれもが、200℃以下、さらには180℃以下を示すことが実際的である。
ガラス転移温度は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0045】
<フィルムの製造方法>
本発明のフィルムの製造方法は、本発明の樹脂組成物を、溶融状態でシート状に押し出し、一対のロールで圧着して作製するフィルムの製造方法であって、前記一対のロールの少なくとも1つのロール表面のタイプA型のデュロメーター硬度が10〜99であることを特徴とする。
このような構成とすることにより、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)およびポリアリレート樹脂(C)に対し、芳香族ポリアリレート樹脂(B)がほどよく相溶化剤として働き、ヘイズが問題となる程度にまで高くなることなく樹脂成分が混合し、かつ、海島構造を形成でき、フィルムの摺動性が達成されると推測される。
以下、本発明の製造方法の詳細について説明する。
図4は、本発明のフィルムの製造方法を示す一部概略図の一例である。本発明の製造方法では、例えば、
図4に示すように、上記本発明の組成物41を、ダイス42から溶融状態で、シート状に押し出す。溶融状態かつシート状の組成物41は、一対のロール(第一のロール43aと第二のロール43b)の間を通過させる際に、前記一対のロールで圧着される。このとき、第一ロール43aおよび第二ロール43bの少なくとも1つについて、そのロール表面のタイプA型のデュロメーター硬度が10〜99のロールを用いることが好ましい。
図4では、第一ロール43aが表面のデュロメーター硬度が10〜99のロールである。すなわち、第一ロール43aとして、表面が柔らかいロールを用いる。表面のデュロメーター硬度が10〜99のロールを用いることにより、芳香族ポリアリレート樹脂(B)と相溶していない芳香族ポリアリレート樹脂(C)および芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の部分がフィルムの表面に出てきて、フィルムの表面に微細な凹凸を形成すると推測される。結果として、摺動性を達成することができる。ロール表面のデュロメーター硬度は、30以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、また、80以下であることが好ましく、75以下であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、適度な柔らかさのロールとなる。表面のデュロメーター硬度が10〜99であるロールとしては、例えば、鏡面ゴムロールが例示される。
表面のデュロメーター硬度が10〜99のロールの温度は、30〜90℃であることが好ましく、40〜70℃であることがより好ましい。
【0046】
図4では、組成物41は上記一対のロール(第一ロール43aと第二ロール43b)の間を通過した後、さらに搬送ロール44の上を通過する。
表面のデュロメーター硬度が10〜99であるロール以外のロール、例えば、
図4では、第二ロール43bと搬送ロール44としては、金属製のロールが挙げられる。金属製のロールは、デュロメーター硬度が測定限界である100に達する。金属製のロールとしては、鏡面剛体ロールや金属弾性ロールが例示される。また、表面のデュロメーター硬度が10〜99のロール以外のロールの表面温度は、70〜170℃であることが好ましく、100〜160℃であることがより好ましい。
【0047】
本発明では、第一ロールおよび第二ロールの少なくとも1つのロール表面のデュロメーター硬度が上記範囲であればよいが、第一ロールおよび第二ロールの両方の表面が上記デュロメーター硬度を満たしていてもよい。この場合、フィルムの両方の表面に所望の微細な凹凸が形成される。
【0048】
上記一対のロール(第一ロール43aと第二ロール43b)の間を通過した後のフィルムは、搬送ロール44を通過する間、あるいは、冷却ゾーンや、冷却ロールを通過することによって、冷却される。冷却後、さらに、芯材に、巻き取ってもよい。すなわち、本発明では、芯材と、芯材に巻き取られた本発明のフィルムとを有する巻取体とすることができる。
上記フィルムの製造方法で得られるフィルムは、フィルムの厚みが10μm以上300μm以下であることが好ましい。その他、本発明のフィルムの製造方法で得られるフィルムの詳細は、上述の本発明のフィルムと同様である。
また、上記で得られた本発明のフィルムと、粘着剤層と、フィルム基材と、電極層とを積層することにより、透明導電性フィルムを製造することもできる。
【0049】
<フィルムの特性>
本発明のフィルムの厚みは10μm以上300μm以下であることが好ましい。厚みを上記範囲とすることにより、より透明なフィルムとすることができる。
本発明のフィルムの厚みは、20μm以上であることが好ましく、25μm以上であってもよい。また、250μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましい。
【0050】
本発明のフィルムは、また、二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムとの間の動摩擦係数が、2.00以下であることが好ましく、1.80以下であることがより好ましく、1.50以下であることがさらに好ましく、1.33以下であってもよい。下限値は、例えば、0.86以上であり、0.90以上であってもよい。
動摩擦係数は、スレッド100mm/分、ロードセル10Nの条件で測定した値であり、より具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0051】
本発明のフィルムは、D65光源10°視野の条件における全光線透過率が、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、88%以上であることがさらに好ましい。全光線透過率の上限は100%が理想であるが、94%以下であっても十分に要求性能を満たすものである。
全光線透過率は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0052】
本発明のフィルムのヘイズは10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、6%以下であることがさらに好ましく、さらには5%以下、4%以下であってもよい。下限値については、0%が理想であるが、0.1%以上であっても実用レベルである。
ヘイズは、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0053】
<用途>
本発明のフィルムは、マスキングフィルムとして好ましく用いられる。より好ましくは、アンチブロッキングフィルムとして用いられる。また、透明導電性フィルムの保護フィルムとしても好ましく用いられる。特に、本発明のフィルムと、粘着剤層、基材および電極層をこの順で有する多層体は、透明導電性フィルムとして好ましく用いられる。
また、上記透明導電性フィルムは、タッチパネルのフィルムセンサー、電子ペーパーや色素増感型太陽電池、タッチセンサー等に用いる透明導電性フィルムとして好ましく用いられる。
また、本発明のフィルムは、上記以外でも、摺動性と透明性が求められる用途のフィルムに好ましく用いられる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0055】
<原料>
・ポリカーボネート樹脂(A)
(A1)ビスフェノールAを出発原料とする界面重合法により得られた芳香族ポリカーボネート、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、H−7000F、重量平均分子量:24,900、極限粘度0.30dL/g、Tg:141℃
(A2)ビスフェノールAを出発原料とする界面重合法により得られた芳香族ポリカーボネート、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、H−4000F、重量平均分子量:29,200、極限粘度0.35dL/g、Tg:143℃
・ポリカーボネート樹脂(A’)(比較用)
(A3)ビスフェノールAを出発原料とする界面重合法により得られた芳香族ポリカーボネート、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、S−3000F、重量平均分子量:41,300、極限粘度0.43dL/g、Tg:148℃
【0056】
・極限粘度が0.50dL/g以下のポリアリレート樹脂(B)
(B)ユニチカ社製、U−パウダー Lタイプ、重量平均分子量40,800、極限粘度0.48dL/g、Tg:195℃
【0057】
・極限粘度が0.60dL/g以上のポリアリレート樹脂(C)
(C)ユニチカ社製、U−パウダー Dタイプ、重量平均分子量63,000、極限粘度0.65dL/g、Tg:201℃
【0058】
・ポリアリレート樹脂(B)とポリアリレート樹脂(C)のアロイ(D)
(D)ユニチカ社製、U−100、重量平均分子量46,000、極限粘度0.55dL/g、Tg:195℃、U−パウダー LタイプとU−パウダー Dタイプの質量比率が2:1のペレット
【0059】
・酸化防止剤(E)
(E)ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、リン系酸化防止剤、ADEKA社製、アデカスタブPEP−36
【0060】
・エステル交換防止剤(F)
(F)オクタデシルホスフェート、ADEKA社製、AX−71
【0061】
・離型剤(G)
(G)グリセリンモノステアレート、理研ビタミン社製、リケマールS−100A
【0062】
<重量平均分子量の測定方法>
各種樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定した。
具体的には、ゲル浸透クロマトグラフィー装置には、LC−20AD system(島津製作所社製)を用い、カラムとして、LF−804(Shodex社製)を接続して用いた。カラム温度は40℃とした。検出器はRID−10A(島津製作所社製)のRI検出器を用いた。溶離液として、クロロホルムを用い、検量線は、東ソー社製の標準ポリスチレンを使用して作成した。
上記ゲル浸透クロマトグラフィー装置、カラム、検出器が入手困難な場合、同等の性能を有する他の装置等を用いて測定する。
【0063】
<極限粘度の測定方法>
樹脂の極限粘度[η](単位dL/g)は、溶媒としてメチレンクロライドを使用して測定した。測定温度は25℃とした。ウベローデ粘度計にて、各溶液濃度[C](g/dL)での比粘度[η
sp]を測定した。得られた比粘度の値と濃度から下記式により極限粘度を算出した。
【数1】
【0064】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
各種樹脂ならびに樹脂組成物(ペレット)のガラス転移温度(Tg)は、下記の示差走査熱量計(DSC)の測定条件のとおりに、昇温、降温を2サイクル行い、2サイクル目の昇温時のガラス転移温度を測定した。
低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点を開始ガラス転移温度とし、高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点を終了ガラス転移温度とし、開始ガラス転移温度と終了ガラス転移温度の中間地点をガラス転移温度(Tg)とした。測定開始温度:30℃、昇温速度:10℃/分、到達温度:250℃、降温速度:20℃/分とした。
測定装置は、示差走査熱量計(DSC、日立ハイテクサイエンス社製、「DSC7020」)を使用した。
【0065】
実施例1〜8、比較例1〜7
<樹脂組成物(ペレット)の製造>
上記各成分A〜Gを、それぞれ表1または表2に記載の含有量(各成分の含有量は質量部である)となるように計量した。その後、タンブラーにて15分間混合した後、スクリュー径32mmのベント付二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30α」)により、シリンダー温度300℃として溶融混練し、ストランドカットによりペレットを得た。
【0066】
<フィルムの製造>
得られたペレットを用いて、以下の方法でフィルムを製造した。
上記で得られたペレットを、バレル直径32mm、スクリューのL/D=31.5のベント付き二軸押出機(日本製鋼所社製、「TEX30α」)からなるTダイ溶融押出機を用いて、吐出量10Kg/h、スクリュー回転数63rpmの条件で、溶融状に押し出し、第一ロールと第二ロールで圧着した後、冷却固化し、フィルムを作製した。シリンダー・ダイヘッド温度は280℃とした。
最終的に得られるフィルム厚みの調整は、表1または表2に記載の値となるように、第一ロールおよび第二ロールのロール速度を変更して行った。
【0067】
用いた第一ロールおよび第二ロールの詳細は以下の通りである。
・第一ロール:持田商工社製、シリコーンゴムロール(IT68S−MCG)
寸法径:外径260mm×幅600mm
ロール表面のデュロメーター硬度(タイプA型):70
ロール温度:50℃
・第二ロール:JSW社製、金属剛体ロール(表面:ハードクロム処理)
芯金径:外径250mm×幅600mm
ロール表面のデュロメーター硬度(タイプA型):測定限界である100に達した。
ロール温度:130℃
【0068】
<全光線透過率、ヘイズの測定>
ヘイズメーターを用いて、D65光源10°視野の条件にて、得られたフィルムの全光線透過率(%)およびヘイズ(%)を測定した。
ヘイズメーターは、村上色彩技術研究所社製「HM−150」を用いた。
【0069】
<動摩擦係数の測定>
得られたフィルムの動摩擦係数の測定は摩擦係数測定機を用いて測定した。具体的には、二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムと上記で得られたフィルムが重なるように設置し、スレッドを100mm/分、ロードセル10Nの条件で、前記二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルム上を、得られたフィルムを滑らせて、動摩擦係数を測定した。
摩擦係数測定機は、東洋精機製作所社製(「フリクションテスター」)を用いた。
二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムは、片面マスキングフィルム付きビスフェノールA型ポリカーボネートフィルム(三菱ガス化学社製、FE−2000、厚み100μm品)を用いた。本実施例では、片面マスキングフィルム付きビスフェノールA型ポリカーボネートフィルムのマスキングを剥がした面を上面にし、長軸が試験テーブルの長軸に一致するように、テープで試験テーブルの右端に固定し、63mm×63mm、200gのスレッドの下側に、得られたフィルムを貼り付け、ポリカーボネートフィルムと得られたフィルムが重なるように設置し、上述の通り、得られたフィルムを滑らせて動摩擦係数を測定した。
表1または2において、「×」は測定不可を意味する。
【0070】
<二乗平均平方根粗さRqの測定>
動摩擦係数の測定に用いた二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムの表面粗さの測定は表面粗さ測定機を用いて具体的に以下の方法で行った。装置の検出器を「一体型」にして、検出器の駆動部には「標準駆動ユニット」を装着した。ガラス板上にテープでフィルムを固定し、その上で表面粗さ測定機が動かないように設置した。その後、測定条件を規格「JIS B 0601−2001」、測定速度0.5mm/s、カットオフ値0.8、区間数3で測定を行い、二乗平均平方根粗さRqを測定した。二乗平均平方根粗さRqはフィルムの場所を変えて、3回測定して、その平均値とした。
測定機は、ミツトヨ社製、「SJ−210」を用いた。
【0071】
結果を下記表1および表2に示す。
【表1】
【表2】
摺動性を有し、かつ、濁りが抑制された透明なフィルムおよびフィルムの製造方法の提供。極限粘度が0.37dL/g以下の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と、極限粘度が0.50dL/g以下の芳香族ポリアリレート樹脂(B)と、極限粘度が0.60dL/g以上の芳香族ポリアリレート樹脂(C)を含み、前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリアリレート樹脂(C)の合計30〜90質量部に対し、前記芳香族ポリアリレート樹脂(B)を10〜70質量部含む、樹脂組成物。