特許第6879445号(P6879445)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6879445
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】脱酸素剤組成物
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20210524BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20210524BHJP
   A23L 3/3436 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   B01D53/14 311
   B01J20/22 A
   A23L3/3436
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-68613(P2016-68613)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-177013(P2017-177013A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】杉本 顕
(72)【発明者】
【氏名】鍵本 康太
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−199054(JP,A)
【文献】 特開平08−024554(JP,A)
【文献】 特開2003−038143(JP,A)
【文献】 特開2000−354477(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0022812(US,A1)
【文献】 特開平09−038486(JP,A)
【文献】 特開2009−227306(JP,A)
【文献】 特開2011−084682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14
A23L 3/3436
B01J 20/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン類、金属塩、水と、シリカ類を含む多孔性担体と、を含むα層と、
アルカリ性物質を含む、β層と、
を有する、粉粒体を含み、
前記β層の総量に対する前記α層の総量の質量比が、1.0以上3.0以下であり、
前記α層は、該α層の総量に対して、前記グリセリン類を、20質量%以上50質量%以下含み、かつ、前記多孔性担体を、10質量%以上30質量%以下含み、
前記粉粒体は、該粉粒体の内側から外側に向かって、前記α層、前記β層の順に層構造を形成している、
脱酸素剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱酸素剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来使用されている例えば小袋状の脱酸素剤は、酸素と化学反応する物質として、鉄を用いた鉄系脱酸素剤と、有機物質を用いた、主にグリセリン、アスコルビン酸、エルソルビン酸、没食子酸等を用いた有機系脱酸素剤に大きく分けられる。有機系脱酸素剤は、金属探知器に反応しないため、金属探知機を用いて食品中の金属異物を検査するハムやソーセージ等の鉄系脱酸素剤が使用できない食品に対して、主に用いられる。
【0003】
有機系脱酸素剤に用いられる有機物質は、アルカリ性水溶液で酸素と化学的に反応する場合が多い。そのため、通常、有機系脱酸素剤は、酸素と反応する有機物質をアルカリ性物質と共に水に溶かしたアルカリ性水溶液を、活性炭等の多孔性の担体(多孔性担体)に含浸させた粉粒体が用いられる。
【0004】
一方、鉄系脱酸素剤は、担体を使用せず鉄粉を用いているため、該脱酸素剤中に占める酸素と化学的に反応する物質として、鉄の割合が多い。しかし、有機系脱酸素剤は、担体を用いるため、該脱酸素剤中に占める酸素と化学的に反応する有機物質の割合が上記鉄系脱酸素剤中に占める上記鉄の割合に比べて低い。また、多孔性担体は、通常、かさ密度が小さいため、有機系脱酸素剤の体積当たりの酸素吸収量は、鉄系脱酸素剤の該酸素吸収量に比べて数分の1程度になる。よって、有機系脱酸素剤の性能を、鉄系脱酸素剤性能と同程度にするためには、有機系脱酸素剤の体積の絶対値を大きくする必要があり、小袋状にした有機系脱酸素剤の体積が大きくなってしまう。そのため、有機系脱酸素剤の体積当たりの酸素吸収量を増やすための方法が、これまで検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、酸素吸収物質、水及び膨潤剤を含み加圧成形した粉粒体からなる脱酸素剤組成物が開示されている。特許文献1で提案される方法は、加圧成形により脱酸素剤組成物の体積を小さくすることで、脱酸素剤組成物体積当たりの酸素吸収量を多くするという方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/046449号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載するような脱酸素剤組成物は、加圧成形した際に、酸素の通気性を損なう。また、通気性を確保するために、水分を吸収して膨潤する膨潤剤を脱酸素剤組成物に含ませることもできるが、膨潤剤の体積の分、該脱酸素剤組成物の体積が増大し、小袋としたときの該脱酸素剤組成物の体積が大きくなってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、単位体積当たりの酸素吸収量が高い有機系脱酸素剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記従来技術の課題を解決すべく研究を行った結果、グリセリン類、金属塩、水、及び多孔性担体を含むα層と、アルカリ性物質を含むβ層とを有する粉粒体を含み、その粉粒体は該粉粒体の内側から外側に向かってα層、β層の順に層構造を形成している脱酸素剤組成物が、単位体積当たりの酸素吸収量が高いことを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0010】
[1]
グリセリン類、金属塩、水、及び多孔性担体を含む、α層と、アルカリ性物質を含む、β層と、を有する、粉粒体を含み、
前記粉粒体は、該粉粒体の内側から外側に向かって、前記α層、前記β層の順に層構造を形成している、
脱酸素剤組成物。
[2]
前記β層の総量に対する前記α層の総量の質量比が、1.0以上3.0以下である、
[1]に記載の脱酸素剤組成物。
[3]
前記α層は、該α層の総量に対して、前記グリセリン類を、20質量%以上50質量%以下含み、かつ、前記多孔性担体を、10質量%以上30質量%以下含む、
[1]又は[2]に記載の脱酸素剤組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る脱酸素剤組成物によれば、単位体積当たりの酸素吸収量を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の脱酸素剤組成物の粒子径分布を示す図である。
図2】実施例1の脱酸素剤組成物の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明はその要旨の範囲内で、適宜に変形して実施できる。
【0014】
〔脱酸素剤組成物〕
本実施形態の脱酸素剤組成物は、グリセリン類、金属塩、水、及び多孔性担体を含むα層(以下、単に「α層」ともいう。)と、アルカリ性物質、及び必要に応じて多孔性担体を含むβ層(以下、単に「β層」ともいう。)を有する粉粒体を含む。また、当該粉粒体は、該粉粒体の内側から外側に向かって、α層、β層の順に層構造を形成している。本実施形態の脱酸素剤組成物は、単位体積当たりの酸素吸収量が高い。この要因は、次のように推察される(ただし、要因はこれに限定されない。)。本実施形態の脱酸素剤組成物は、主として、粉粒体が、グリセリン類を含むα層、β層の順に層構造を形成していることにより、従来のグリセリン類を含む粉粒体と比較して、粉粒体の形状や平均粒子径のバラツキが抑制されることに起因して、かさ密度が高くなり、単位体積当たりの酸素吸収量が高くなる。また、本実施形態の脱酸素剤組成物は、加圧成形することや膨張剤を実質的に含むことを必要とせずに、上記酸素吸収量を高くすることができ、さらに、流動性にも優れる。ここで、「実質的に含む」とは、脱酸素剤組成物の総量(100質量%)に対して、膨張剤の含有量が、0.1質量%以上であることを意味する。
【0015】
ここで、「α層、β層の順に層構造」とは、β層の空隙内部にα層が形成されている構造をいう。よって、α層の表面をβ層が覆う構造のみならず、β層による3次元網目構造の空隙内部の一部にα層が充填されている構造も含まれる。したがって、本明細書における「α層、β層の順に層構造」とは、α層とβ層との境界が厳密に明確でない粉粒体も含まれる。また、本実施形態の粉粒体は、α層及びβ層以外の層をさらに有するものであってもよい。さらに、本実施形態の脱酸素剤組成物は、「α層、β層の順に層構造」を形成している粉粒体を含んでいればよく、「α層、β層の順に層構造」を形成しない粉粒体をさらに含んでいてもよい。もちろん、本実施形態の脱酸素剤組成物は、「α層、β層の順に層構造」を形成している粉粒体のみからなる脱酸素剤組成物であってもよい。
【0016】
本実施形態の粉粒体の形状は、特に限定されないが、例えば、球形、楕円形、及び円柱が挙げられ、充填性により優れ、かさ密度がより高くなる傾向にあることから、球形が好ましい。
【0017】
脱酸素剤組成物の平均粒子径は、好ましくは10μm以上5000μm以下であり、包装機で小袋に充填する際に脱酸素剤組成物の流動性を保つ観点から、より好ましくは100μm以上2000μm以下である。平均粒子径が上記範囲にある脱酸素剤組成物を得るためには、例えば、目開き100μmと2000μmの篩を用いて篩分けすればよい。平均粒子径は、例えば市販のレーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製LA−960)等により測定することができる。
【0018】
β層の総質量に対するα層の総質量の質量比(α層/β層)は、好ましくは0.5以上5.0以下であり、単位体積当たりの酸素吸収量をより高くするために、より好ましくは1.0以上3.0以下である。α層/β層の質量比がこのような範囲にあることにより、α層に含まれるグリセリン類と接触するβ層に含まれるアルカリ性物質の量を所定以上確保することができ、グリセリン類とアルカリ性物質との作用を阻害しないことに起因して、酸素吸収量がより向上する傾向にある。
【0019】
脱酸素剤組成物のかさ密度は、特に限定されないが、好ましくは0.5g/cm3以上であり、より好ましくは0.6g/cm3以上であり、さらに好ましくは0.7g/cm3以上である。かさ密度が0.5g/cm3以上であることにより、体積当たりの酸素吸収量により優れる傾向にある。かさ密度が上記範囲にある脱酸素剤組成物を得るためには、例えば、比重分級機器(株式会社東京製粉機製作所製ハイスピードアスピレータ等)により目的とするかさ密度のものを選別すればよい。かさ密度は、後述する実施例に記載の方法により測定する。
【0020】
[α層]
本実施形態のα層は、グリセリン類、金属塩、水、及び多孔性担体を含む層である。内側から外側に向かって、α層、β層の順に層構造を形成している粉粒体を得るためには、特に限定されないが、例えば、粘性を有するα層の原料からなる液滴に対して、β層の原料からなる粉粒体をその液滴の表面に付着すればよい。その結果、α層とα層の外側にβ層とを有する粉粒体が形成される。
【0021】
<グリセリン類>
本実施形態のグリセリン類は、グリセリン骨格(−O−CH2CH(O−)−CH2−O−)を有する化合物を意味する。グリセリン類は、グリセリン等の一般的に入手できるものを、特に限定されず用いることができ、グリセリンが好ましい。グリセリン類は、1種を単独で、又は、必要に応じて2種以上を併用して用いることができる。
【0022】
α層は、該α層の総量(100質量%)に対して、グリセリン類を、好ましくは10質量%以上60質量%以下含み、より好ましくは20質量%以上50質量%以下含む。グリセリン類の含有量がこのような範囲にあることにより、α層の原料の適度な粘度や流動性が保たれると共に、得られる脱酸素剤組成物の酸素吸収量が高くなる傾向にある。
【0023】
<金属塩>
本実施形態の金属塩は、グリセリン類の酸化反応を触媒する機能を有する。
【0024】
金属塩としては、特に限定されないが、例えば、遷移金属のハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酸化物、水酸化物、有機酸塩、その他の複塩、及びキレート化合物が挙げられる。上記遷移金属の種類は、特に限定されないが、好ましくは、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、及びマンガンである。その中でもより好ましくは、鉄、銅、及びマンガンであり、さらに好ましくは、反応速度の速さから、マンガンである。
【0025】
金属塩の好ましい具体例としては、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第一銅、塩化第二銅、硫酸第二銅、水酸化第二銅、クエン酸銅、酒石酸銅、塩化マンガン、臭化マンガン、酢酸マンガン、及び水酸化マンガンが挙げられ、塩化マンガンがより好ましく、塩化マンガン四水和物がさらに好ましい。
【0026】
上述した金属塩は、1種を単独で、又は、必要に応じて2種以上を併用して用いることができる。また、これらの金属塩は、市販品としても容易に入手することができる。
【0027】
金属塩の含有量は、α層に含まれるグリセリン類の質量(100質量部)に対して、好ましくは1.0質量部以上30質量部以下であり、より好ましくは1.0質量部以上5.0質量部以下である。金属塩の含有量がこのような範囲にあることにより、グリセリン類の酸化反応が促進される傾向にある。
【0028】
<多孔性担体>
本実施形態の多孔性担体は、多孔質の形状を有している担体であれば特に限定されない。ここで、多孔質とは、電子顕微鏡にて確認できる程度の多数の細孔を表面及び内部に有している状態をいう。
【0029】
多孔性担体は、シリカ類であることが好ましい。シリカ類は、二酸化珪素(SiO2)を主成分とするものを意味する。シリカ類を用いることにより、α層の原料の粘度を維持し、α層の流動性をコントロールすることができる。
【0030】
本実施形態に用いられるシリカ類としては、特に限定されないが、例えば、疎水性シリカ、湿式シリカ、乾式シリカ、シリカゲル、珪藻土、酸性白土、活性白土、パーライト、カオリン、タルク、及びベントナイトが挙げられる。
【0031】
上述した多孔性担体は、1種を単独で、又は、必要に応じて2種以上を併用して用いることができる。また、これらの多孔性担体は、市販品としても容易に入手することができる。
【0032】
α層は、該α層の総量(100質量%)に対して、多孔性担体を、好ましくは5.0質量%以上50質量%以下含み、より好ましくは10質量%以上30質量%以下含む。多孔性担体の含有量がこのような範囲にあることにより、α層の原料の粘度や流動性が確保される傾向にある。
【0033】
<水>
本実施形態の水は、純水等の公知の水を限定されずに用いることができる。
【0034】
α層に含まれるグリセリン類、金属塩、及び水の合計質量と、シリカ類の質量との質量比(グリセリン類、金属塩、及び水:シリカ類の質量比)は、好ましくは1:9〜1:3の範囲であり、より好ましくは1:7〜1:4の範囲である。上記質量比がこのような範囲にあることで、α層の原料の粘度や流動性が適度に維持され、例えばβ層の原料である粉粒体がα層の原料の液滴の表面に付着しやすく、α層の外側に粉粒体のβ層が形成されやすく、より確実に本発明の作用効果を発現する傾向にある。
【0035】
[β層]
β層は、アルカリ性物質、及び必要に応じて多孔性担体を含む層である。β層は、α層よりも外側に形成されている。
【0036】
<アルカリ性物質>
本実施形態のアルカリ性物質は、水と作用して、または水に溶解してアルカリ性を呈する物質であれば、特に限定されない。
【0037】
アルカリ性物質としては、経口毒性における安全性の理由から、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、第三リン酸塩、並びに第二リン酸塩が好ましく、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属の水酸化物がより好ましい。また、これらの中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、及び水酸化マグネシウムがさらに好ましい。
【0038】
上述したアルカリ性物質は、1種を単独で、又は、必要に応じて2種以上を併用して用いることができる。また、これらのアルカリ性物質は、市販品としても容易に入手することができる。
【0039】
β層は、該β層の総質量(100質量%)に対して、アルカリ性物質を、好ましくは90質量%以上100質量%以下含み、グリセリン類との接触面積を高める観点から、より好ましくは95質量%以上100質量%以下含む。
【0040】
<多孔性担体>
本実施形態の多孔性担体の種類は、上述したα層に用いられる多孔性担体と同様のものを用いることができ、シリカ類であることが好ましい。
【0041】
β層は、該β層の総質量(100質量%)に対して、多孔性担体を、好ましくは0質量%以上10質量%以下含み、適度な流動性を保つために、より好ましくは0.1質量%以上5.0質量%以下含む。多孔性担体を含むことにより、粉粒体の流動性を向上させることができる傾向にあり、また、多孔性担体の含有量が10質量%以下であることにより、粉粒体から多孔性担体が粉塵として発生することを抑制する傾向にある。
【0042】
〔脱酸素剤組成物の製造方法〕
本実施形態の脱酸素剤組成物の製造方法の一例を次に示す。まず、上述した金属塩を水に溶かし、金属塩水溶液を調製する。調製した金属塩水溶液、グリセリン類、及び多孔性担体を混合し、α層の原料である液体を調製する。次に、混合装置に、アルカリ性物質及びシリカ類のβ層の原料を投入し、α層の原料である液体をアルカリ性物質(及び多孔性担体)のβ層の原料上に混合しながら滴下し、α層の外側にβ層を形成した粉粒体を調製する。ここで、α層の原料である液体の滴下時間は、好ましくは数秒から数分程度である。用いる混合装置としては、特に限定されないが、例えば、バーチカルグラニュレーター(株式会社パウレック社製)、ハイスピードミキサ(株式会社アーステクニカ社製)、及びアキラ機工社製造粒機が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を用いて本実施形態をさらに詳しく説明するが、本実施形態は本発明の作用効果を奏する限りにおいて適宜変更することができる。なお、実施例及び比較例中の「部」及び「%」は、特に明記しない場合は質量部及び質量%を意味する。
【0044】
[平均粒子径]
脱酸素剤組成物の平均粒子径は、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製LA−960)により測定した。図1は、実施例1の脱酸素剤組成物の粒子径分布を示す図である。
【0045】
[断面写真]
脱酸素剤組成物の断面写真は、カッターで切断することによって断面を作製し、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス社製VHX−2000)により撮影した。図2は、実施例1の脱酸素剤組成物の断面写真である。
【0046】
(実施例1)
塩化マンガン四水和物56部(和光純薬工業株式会社製)を水643部に溶かし、塩化マンガン水溶液を得た。得られた塩化マンガン水溶液699部、85%グリセリン2087部(和光純薬工業株式会社製)及びシリカ900部(DSL.ジャパン製のカープレックス#)を混合し、α層の原料である粘性のある液体を得た。
【0047】
次に、水酸化カルシウム1900部(秩父工業株式会社製、粉末消石灰)をハイスピードミキサ(株式会社アーステクニカ社製SPG20L)に投入した。その後、得られたα層の原料である液体を上記粉末消石灰上に投入し、200rpmで混合した。さらに、疎水性シリカ27部(東ソー・シリカ株式会社製SS−30P)を添加し、60rpmで混合し、α層の外側がβ層で覆われた球状の粉粒体を含む脱酸素剤組成物を得た。得られた脱酸素剤組成物の平均粒子径は、1.0mmであった(図1)。また、得られた粉粒体は、中心部にα層を有し、その外側にβ層を有する構造であった(図2)。
【0048】
[かさ密度]
得られた脱酸素剤組成物のかさ密度(g/cm3)は、JIS Z 8901に準拠して測定した。得られた結果を表1に示す。
【0049】
[酸素吸収量]
得られた脱酸素剤組成物の酸素吸収量は、次のように測定した。得られた脱酸素剤組成物1.0gを、ナイロン/ポリエチレンラミネートフィルムのガスバリア性袋(寸法250×400mm)に入れ、空気3000mLを充填して密封した。この袋を、25℃下で7日間保持した後に、袋内の酸素濃度を測定し、酸素吸収量(mL)を算出した。得られた酸素吸収量を脱酸素剤組成物の体積(mL)で除して、単位体積当たりの酸素吸収量(mL/mL)を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0050】
[流動性]
得られた脱酸素剤組成物の流動性(秒)は、JIS Z 8901に用いる漏斗に100mlの脱酸素剤組成物を入れ、全量が漏斗から落下するまでの時間を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0051】
(比較例1)
実施例1で用いたシリカ900部を用いなかった以外は実施例1と同様にして脱酸素剤組成物を製造した。得られた脱酸素剤組成物は、α層と該α層の外側にβ層とを形成した構造を有する粉粒体を含むものではなく、β層の原料である粉粒体にα層の原料である液体が染み込んだ、流動性に優れない粉粒体を含むものであった。得られた脱酸素剤組成物を、実施例1と同様に、酸素吸収量、かさ密度及び流動性を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1から明らかなように、実施例1の脱酸素剤組成物は、比較例1の脱酸素剤組成物に比べて、かさ密度が高く、単位体積当たりの酸素吸収量(mL/mL)が高く、流動性にも優れていることが少なくとも確認された。
【0054】
(実施例2〜4)
実施例1で、α層に用いた塩化マンガン四水和物56部、85%グリセリン2087部、水643部、及びシリカ900部、β層に用いた水酸化カルシウム1900部の質量から、実施例2では水酸化カルシウム1330部、実施例3では85%グリセリα層に用いた塩化マンガン四水和物56部及び85%グリセリン2505部、実施例4では塩化マンガン四水和物52部、85%グリセリン1927部、水594部、及びシリカ1115部の質量に変更した以外は、実施例1と同様にして脱酸素剤組成物を製造した。また、得られた脱酸素剤組成物を、実施例1と同様に、かさ密度及び酸素吸収量を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2及び表1から明らかなように、実施例2〜4の脱酸素剤組成物は、何れも比較例1の脱酸素剤組成物に比べて、かさ密度が高く、単位体積当たりの酸素吸収量(mL/mL)が高いことが少なくとも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る脱酸素剤組成物を用いれば、加圧成形することや、膨潤剤を実質的に含ませることなく、単位体積当たりの酸素吸収量が高い、グリセリン類を用いた脱酸素剤組成物を製造できる。また、その脱酸素剤組成物を用いれば、従来の脱酸素剤組成物よりも、より小さな寸法の小袋で、同性能以上の脱酸素剤を製造できる。
図1
図2