【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療実用化研究事業」「同種血小板輸血製剤の上市に向けた開発」委託研究開発、「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」「再生医療の実現化ハイウェイ」「iPS細胞技術を基盤とする血小板製剤の開発と臨床試験」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Cytokine & Growth Factor Reviews,1998年,Vol.9, No.1,p.37-48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
(血小板産生促進剤)
本発明に係る血小板産生促進剤は、有効成分として、Wnt阻害剤及びFLT阻害剤から成る群より選択される1又は複数の物質を含む。Wntは分子量約4万の分泌型の糖タンパク質である。本明細書で使用する場合、「Wnt阻害剤」とは、Wntタンパク質が細胞に作用することにより活性化されるシグナル伝達(以下、単に「Wntシグナル伝達」という)を阻害する任意の物質、例えばWntタンパク質の発現又は機能(活性)を阻害する任意の物質を意味する。WNT阻害剤のターゲットとしてはβカテニン、PORCN、カゼインキナーゼ1、タンキラーゼ、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3等が挙げられ、限定することを意図するものではないが、以下の化合物がWNT阻害剤として使用され得る。
βカテニン:
・Calphostin C
・Cardionogen 1
・CCT 031374 hydrobromide
・FH 535
・ICG 001
・iCRT 14
・IWP 4
・endo-IWR 1
・exo-IWR 1
・JW 67
・JW 74 New product
・PNU 74654
・TAK 715
・WAY 316606 hydrochloride
・XAV 939
【0014】
PORCN:
・IWP 12
・IWP 2
・IWP L6
・Wnt-C59
【0015】
カゼインキナーゼ1:
・CKI 7 dihydrochloride
・(R)-CR8
・D 4476
・(R)-DRF053 dihydrochloride
・LH 846
・PF 4800567 hydrochloride
・PF 670462
・TA 01
・TA 02
・TAK 715
【0016】
タンキラーゼ
・JW 55
・MN 64
・TC-E 5001
・WIKI4
・XAV 939
【0017】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3:
・3F8
・A 1070722
・AR-A 014418
・BIO
・BIO-acetoxime
・CHIR 99021
・10Z-Hymenialdisine
・Indirubin-3'-oxime
・Kenpaullone
・L803
・L803-mts
・MeBIO
・NSC 693868
・SB 216763
・SB 415286
・TC-G 24
・TCS 2002
・TCS 21311
・TWS 119
【0018】
Wnt阻害剤の非限定的な例として、Wntシグナル伝達経路のいずれかを阻害する化合物、例えばC59((4-(2-Methyl-4-pyridinyl)-N-[4-(3-pyridinyl)phenyl]benzeneacetamide)又はその類縁体、例えばIWP 12、IWP 2、IWP L6等、あるいはそれらの塩又は誘導体や、抗Wnt抗体及びその抗体断片、アンチセンスオリヌクレオチド、リボザイム、RNA干渉(以下「RNAi」という。)をひき起す分子等が挙げられる。好ましい態様において、FLT阻害剤はTCS−359である。
【0019】
FMS様チロシンキナーゼであるFLTは、そのメンバーとしてFLT1〜4が知られている。本明細書で使用する場合、「FLT阻害剤」とは、FMS様チロシンキナーゼ(FLT)、特に好ましくはFLT3の発現又は機能(活性)を阻害する任意の物質を意味する。FLT阻害剤の非限定的な例として、TCS−359(2-[(3,4-Dimethoxybenzoyl)amino]-4,5,6,7-tetrahydrobenzo[b]thiophene-3-carboxamide)又はその類縁体、あるいはそれらの塩又は誘導体や、抗FLT抗体及びその抗体断片、アンチセンスオリヌクレオチド、リボザイム、RNA干渉(RNAi)をひき起す分子等が挙げられる。FLT阻害剤はFLT3阻害剤、特にTCS−359が好ましい。
【0020】
血小板産生促進剤は、所望の効果を奏する限り、有効成分としての上記阻害剤を1又は複数種類含んでもよい。また、血小板産生促進剤における阻害剤の濃度は特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。例えば、Wnt阻害剤としてC59を用いる場合、 1.0nM〜1.0mM、10nM〜0.1mM、100nM〜0.01mM、FLT3阻害剤としてTCS−359を用いる場合、1.0nM〜1.0mM、10nM〜0.1mM、100nM〜0.01mMとすることができるが、所望の効果を奏する限り、この範囲外の量であってもよい。
【0021】
本明細書において「タンパク質の発現」との用語は、転写及び翻訳を含む概念で用いられ、「発現を阻害する」という場合、転写レベル又は翻訳レベルで発現の全部又は一部を抑制することを意味する。
【0022】
Wnt又はFLTの発現又は機能を阻害する工程は、公知の方法又はそれに準ずる方法を用いて行うことができる。
【0023】
また、Wnt又はFLTの機能を阻害する方法として、ドミナントネガティブ法を用いてもよい。ドミナントネガティブ法は、変異を導入して活性を低下又は喪失させたWntタンパク質及び/又はFLTタンパク質を細胞内で大量に発現させ、細胞内の正常Wntタンパク質及び/又はFLTタンパク質に対する相当の不活性なタンパク質の比率を圧倒的に高くして、結果的にWntタンパク質及び/又はFLTタンパク質の機能が得られなくなった挙動を示す細胞を得る方法である。
【0024】
Wntタンパク質及び/又はFLTタンパク質の機能を阻害する方法としては、抗Wnt抗体又は抗FLT抗体を用いてもよい。抗Wnt抗体又は抗FLT抗体としては、公知の方法で製造した、又は市販の抗体を用いることができ、Wntタンパク質及び/又はFLTタンパク質の機能を抑制することを通じて本発明の効果が得られる限り、どのような抗体であってもよい。
【0025】
Wntタンパク質及び/又はFLTタンパク質の発現を抑制する方法としては、例えば、Wnt遺伝子又はFLT遺伝子の発現を抑制するmiRNAを用いる方法が挙げられる。miRNAは、Wnt遺伝子又はFLT遺伝子に直接作用するものであっても、間接的に作用するものであってもよい。
【0026】
「miRNA」とは、mRNAからタンパク質への翻訳の阻害やmRNAの分解を通して、遺伝子の発現調節に関与する、細胞内に存在する短鎖(20-25塩基)のノンコーディングRNAである。このmiRNAは、miRNAとその相補鎖を含むヘアピンループ構造を取ることが可能な一本差のpri-miRNAとして転写され、核内にあるDroshaと呼ばれる酵素により一部が切断されpre-miRNAとなって核外に輸送された後、さらにDicerによって切断されて機能する。従って、本発明において用いられるlet-7又はmiR181aは、一本鎖のpri-miRNAであってもよく、二本鎖のpre-miRNAの形態であっても良い。
【0027】
Wnt遺伝子又はFLT遺伝子の発現を抑制する方法として、アンチセンス法、リボザイム法、RNAi法などを用いてもよい。
【0028】
アンチセンス法は、標的遺伝子(基本的には転写産物であるmRNA)に相補的な塩基配列を有し、一般的には10塩基長〜100塩基長、好ましくは15塩基長〜30塩基長の一本鎖核酸を用いて遺伝子の発現を抑制する方法である。アンチセンス核酸を細胞内に導入し、標的遺伝子にハイブリダイズさせることによって遺伝子の発現が阻害される。アンチセンス核酸は、標的遺伝子の発現阻害効果が得られる限り、標的遺伝子と完全に相補的でなくてもよい。アンチセンス核酸は、公知のソフトウエア等を用いて当業者が適宜設計することができる。アンチセンス核酸は、DNA、RNA、DNA−RNAキメラのいずれであっても良く、また修飾されていてもよい。
【0029】
リボザイムは、標的RNAを触媒的に加水分解する核酸分子であり、標的RNAと相補的な配列を有するアンチセンス領域と、切断反応を担う触媒中心領域から構成されている。リボザイムは当業者が公知の方法に従って適宜設計することができる。リボザイムは一般的にはRNA分子であるが、DNA−RNAキメラ型分子を用いることもできる。
【0030】
RNAi法は、二本鎖核酸によって誘導される配列特異的な遺伝子発現抑制機構である。標的特異性が非常に高く、生体内にもともと存在する遺伝子発現抑制メカニズムを利用する方法なので安全性が高い。
【0031】
RNAi効果を有する二本鎖核酸としては、例えば、siRNAが挙げられる。siRNAは、哺乳動物細胞に用いられる場合、通常19〜30塩基程度、好ましくは21塩基〜25塩基程度の二本鎖RNAである。RNAi効果を有する二本鎖核酸は、一般に、その一方が標的核酸の一部と相補的な塩基配列を有し、他方がこれに相補的な配列を有する。Wnt又はFLTの発現を抑制するsiRNAは、公知のソフトウエア等を用いて当業者が適宜設計することができ、二本鎖核酸配列の一方として、後述する実施例で用いた標的配列が例示される。Wnt又はFLTの発現を抑制するsiRNAは、Wnt遺伝子又はFLT遺伝子に直接作用するもの(Wnt遺伝子又はFLT遺伝子の一部に相補的な配列を含むもの)であっても、間接的に作用するもの(Wnt遺伝子又はFLT遺伝子以外の遺伝子の発現を抑制し、結果的にWnt遺伝子又はFLT遺伝子の発現を抑制するもの)であってもよい。
【0032】
siRNA、アンチセンス核酸、リボザイムは、それぞれをコードする核酸を含むベクター(例えば、レンチウイルスベクター)を細胞内に導入することによって、細胞内で発現させることができ、この他にも、RNAの形態で細胞に導入することもできる。RNAの形態で導入する場合、例えばリポフェクション、マイクロインジェクションなどの公知手法によって細胞内に導入しても良く、RNAの分解を抑制するため、5-メチルシチジン及びpseudouridine (TriLink Biotechnologies)を取り込ませたRNA(Warren L, (2010) Cell Stem Cell.7:618-630)、又はDNAを取り込ませたDNA−RNAキメラ型を用いても良い。修飾塩基の位置は、ウリジン、シチジンいずれの場合も、独立に、全てあるいは一部とすることができ、一部である場合には、任意の割合でランダムな位置とすることができる。siRNAをコードする核酸を含むベクターは、二本鎖のそれぞれをコードするDNAを含むベクターを用いてもよいし、二本鎖核酸がループを介して連結されてできる一本鎖核酸をコードするDNAを含むベクターを用いてもよい。siRNAの場合、細胞内で転写により得られる一本鎖RNAは、その相補的な部分が分子内でハイブリダイズし、ヘアピン型の構造を取るように設計されてもよい。このようなRNAはshRNA(short hairpin RNA)と呼ばれる。shRNAは細胞質に移行すると酵素(Dicer)によってループ部分が切断され、siRNAとなってRNAi効果を発揮する。
【0033】
本明細書において、タンパク質の発現の抑制を「siRNAによって行う」又は「miRNAによって行う」という場合、最終的にsiRNA又はmiRNAが発現を抑制することを意味し、細胞にsiRNA、shRNA又はmiRNAをRNAの形態で投与してもよく、siRNA、shRNA又はmiRNAをコードする核酸を含むベクターを投与してもよい。
【0034】
Wnt遺伝子又はFLT遺伝子に対するsiRNA又はshRNAをベクター等で導入する場合、当該RNAの発現は、薬剤応答性プロモーターによって制御されても良い。このようなRNAを薬剤応答性に制御できるベクターは、例えば、タカラバイオ社から入手することができる。この場合、当該RNAを導入するとは、対応する薬剤を接触させ、細胞内でRNAを発現させることを意味する。
【0035】
本発明の血小板産生促進剤は、巨核球細胞からの血小板産生量を増大させることができる。限定することを意図するものではないが、ネガティブコントロールとの比較で有意に、例えば、10%以上、20%以上、50%以上、100%、又は200%以上血小板数を増大させる阻害剤が本発明の血小板産生促進剤の有効成分として好ましい。本発明の血小板産生促進剤は、単独で又は他の既知の血小板産生促進剤物質と組み合わせて使用してもよい。血小板産生促進剤を添加するタイミングは、所望の効果を奏する限り特に限定されない。例えば、血小板産生促進剤を多核化前又は多核化後の巨核球細胞、特に血小板産生中の巨核球細胞に対し添加することが考えられる。
【0036】
別の態様において、本発明の血小板産生促進剤は有効成分として更に芳香族炭化水素受容体(AhR)アンタゴニストを含んでもよい。本明細書で使用する場合、「芳香族炭化水素受容体(AhR)」とは、Per/ARNT/SIM(PAS)ファミリーに属する転写因子である。AhRはリガンドが結合していない状態では不活性であり、芳香族炭化水素化合物がリガンドとして結合すると核内へ移行する。核内でARNT(AhR Nuclear Translocator)と呼ばれる分子とヘテロ二量体を形成し、DNA上の異物応答配列(Xenobiotic response element; XRE)に結合することにより、転写を活性化する。
【0037】
本発明で用いられるAhRアンタゴニストの非限定的な例は以下を含む。
・4-(2-(2-(benzo[b]thiophen-3-yl)-9-isopropyl-9H-purin-6-ylamino)ethyl)phenol(SR1);
・αナフトフラボン
・1,4-ジヒドロキシアントラキノン
・1,5-ジヒドロキシアントラキノン
・1,8-ジヒドロキシアントラキノン
・galangin
・レスベラトロール
・2-methyl-2H-pyrazole-3-carboxylic acid(2-methyl-4-o-tolylazo-phenyl)-amide(CH-223191);
・N-[2-(3H-indol-3-yl)ethyl]-9-isopropyl-2-(5-methyl-3-pyridyl)purin-6-amine(GNF351);
・2-(29-amino-39-methoxyphenyl)-oxanaphthalen-4-one(PD98059);
・(Z)-3-[(2,4-dimethylpyrrol-5-yl)methylidenyl]-2-indolinone(TSU-16);
・2-(29-amino-39-methoxyphenyl)-oxanaphthalen-4-one(PD98059);及び
・6,2’,4’-trimethoxyflavone(TMF)
・3’,4’-dimethoxyflavone(DMF)
他に、国際公開第2012/015914号にAhRアンタゴニストとして記載されている化合物を用いることもできる。
【0038】
血小板産生促進剤中のAhRアンタゴニストの濃度は特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。例えば、SR1を用いる場合、200nM以上1000mM未満、CH223191の場合、0.2μM以上4μM未満、GNF351を用いる場合、20nM以上300nM未満、TMFを用いる場合、2.5μM以上40μM未満、DMFを用いる場合、2.5μM以上40μM未満の範囲とすると得られる血小板の機能をより高くすることができるが、所望の効果を奏する限り、この範囲外の量であってもよい。
【0039】
別の態様において、本発明の血小板産生促進剤は更にROCK阻害剤を含んでもよい。Wnt阻害剤及び/又はFLT阻害剤とROCK阻害剤とを組み合わせることで、血小板産生数が増大し、得られた血小板の機能も相乗的に増大する。Wnt阻害剤及び/又はFLT阻害剤とROCK阻害剤は、本発明の血小板産生促進剤に含めてもよいし、いずれか又はその両方を血小板産生促進剤とは別に使用してもよい。本明細書において「ROCK阻害剤」とは、Rho結合キナーゼ(Rho-associated coiled-coil forming kinase;ROCK)のアンタゴニストを意味する。ROCK阻害剤としては、例えばY27632、Y39983、ファスジル塩酸塩、リパスジル、SLX-2119、RKI-1447、azaindole1、SR-3677、Staurosporine、H1152 Dihydrochloride、AR-12286、INS-117548などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
巨核球より未分化な細胞において、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子を強制発現させて不死化巨核球細胞を作製し、その後強制発現を解除して不死化巨核球細胞の多核化を進める場合には、強制発現の解除後、培地にROCK阻害剤を加えることが好ましい。
【0041】
(血小板の製造方法)
本発明に係る血小板の製造方法は、血小板産生促進剤と巨核球細胞及び/又はその前駆細胞とを接触させる工程を含む。血小板産生促進剤と細胞との接触は培地中で行うことができる。本明細書において「巨核球細胞」とは、生体内においては骨髄中に存在する最大の細胞であり、血小板を放出することを特徴とする。また、細胞表面マーカーCD41a、CD42a、及びCD42b陽性で特徴づけられ、他に、CD9、CD61、CD62p、CD42c、CD42d、CD49f、CD51、CD110、CD123、CD131、及びCD203cからなる群より選択されるマーカーをさらに発現していることもある。「巨核球細胞」は、多核化(多倍体化)すると、通常の細胞の16〜32倍のゲノムを有するが、本明細書において、単に「巨核球細胞」という場合、上記の特徴を備えている限り、多核化した巨核球細胞と多核化前の巨核球細胞の双方を含む。「多核化前の巨核球細胞」は、「未熟な巨核球細胞」、又は「増殖期の巨核球細胞」とも同義である。
【0042】
巨核球細胞は、公知の様々な方法で得ることができる。巨核球細胞の製造方法の非限定的な例として、国際公開第2011/034073号に記載された方法が挙げられる。同方法では、「巨核球細胞より未分化な細胞」において、癌遺伝子とポリコーム遺伝子を強制発現させることにより、無限に増殖する不死化巨核球細胞株を得ることができる。また、国際公開第2012/157586号に記載された方法に従って、「巨核球細胞より未分化な細胞」、すなわち巨核球前駆細胞(本件明細書においては単に「前駆細胞」ともいう)において、アポトーシス抑制遺伝子を強制発現させることによっても、不死化巨核球細胞を得ることができる。これらの不死化巨核球細胞は、遺伝子の強制発現を解除することにより、多核化が進み、血小板を放出するようになる。
【0043】
巨核球細胞を得るために、上記の文献に記載された方法を組み合わせてもよい。その場合、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子の強制発現は、同時に行ってもよく、順次行ってもよい。例えば、癌遺伝子とポリコーム遺伝子を強制発現させ、当該強制発現を抑制し、次にアポトーシス抑制遺伝子を強制発現させ、当該強制発現を抑制して、多核化巨核球細胞を得てもよい。また、癌遺伝子とポリコーム遺伝子とアポトーシス抑制遺伝子を同時に強制発現させ、当該強制発現を同時に抑制して、多核化巨核球細胞を得ることもできる。まず、癌遺伝子とポリコーム遺伝子を強制発現させ、続いてアポトーシス抑制遺伝子を強制発現させ、当該強制発現を同時に抑制して、多核化巨核球細胞を得ることもできる。
【0044】
本明細書において「巨核球細胞より未分化な細胞」又は「巨核球前駆細胞」とは、巨核球への分化能を有する細胞であって、造血幹細胞系から巨核球細胞に至る様々な分化段階の細胞を意味する。巨核球より未分化な細胞の非限定的な例としては、造血幹細胞、造血前駆細胞、CD34陽性細胞、巨核球・赤芽球系前駆細胞(MEP)が挙げられる。これらの細胞は、例えば、骨髄、臍帯血、末梢血から単離して得ることもできるし、さらにより未分化な細胞であるES細胞、iPS細胞等の多能性幹細胞から分化誘導して得ることもできる。
【0045】
本明細書において「癌遺伝子」とは、生体内において細胞の癌化を誘導する遺伝子のことをいい、例えば、MYCファミリー遺伝子(例えば、c-MYC、N-MYC、L-MYC)、SRCファミリー遺伝子、RASファミリー遺伝子、RAFファミリー遺伝子、c-Kit、PDGFR、Ablなどのプロテインキナーゼファミリー遺伝子が挙げられる。
【0046】
本明細書において「ポリコーム遺伝子」とは、CDKN2a(INK4a/ARF)遺伝子を負に制御し、細胞老化を回避するために機能する遺伝子として知られている(小倉ら, 再生医療 vol.6, No.4, pp26-32;Jseus et al., Jseus et al., Nature Reviews Molecular Cell Biology vol.7, pp667-677, 2006;Proc. Natl. Acad. Sci. USA vol.100, pp211-216, 2003)。ポリコーム遺伝子の非限定的な例として、BMI1、Mel18、Ring1a/b、Phc1/2/3、Cbx2/4/6/7/8、Ezh2、Eed、Suz12、HADC、Dnmt1/3a/3bが挙げられる。
【0047】
本明細書において「アポトーシス抑制遺伝子」とは、細胞のアポトーシスを抑制する機能を有する遺伝子をいい、例えば、BCL2遺伝子、BCL−xL遺伝子、Survivin遺伝子、MCL1遺伝子などが挙げられる。
【0048】
遺伝子の強制発現及び強制発現の解除は、国際公開第2011/034073号、国際公開第2012/157586号、国際公開第2014/123242又はNakamura S et al, Cell Stem Cell. 14, 535-548, 2014に記載された方法、その他の公知の方法又はそれに準ずる方法で行うことができる。
【0049】
実施例から理解されるとおり、巨核球細胞の多核化及び肥大化という成熟化過程に有効であるという観点から、Wntタンパク質及び/又はFLTタンパク質Wntタンパク質及び/又はFLTタンパク質の発現又は機能の抑制は、多核化前の巨核球細胞において行われてもよく、多核化した巨核球細胞においてさらなる多核化を行うという観点から、多核化した巨核球細胞においてWntタンパク質及び/又はFLTタンパク質Wntタンパク質及び/又はFLTタンパク質の発現又は機能の抑制が行われても良い。巨核球細胞の多核化及び肥大化が促進され、1細胞あたりの血小板産生数が飛躍的に増加することから、巨核球細胞から血小板を製造する工程においてもWntタンパク質及び/又はFLTタンパク質Wntタンパク質及び/又はFLTタンパク質の発現又は機能の抑制を行うことが好ましい。
【0050】
なお、巨核球細胞より未分化な細胞において、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子を強制発現させて不死化巨核球細胞を作製し、その後強制発現を解除して不死化巨核球細胞の多核化を進める場合、上記のWntタンパク質及び/又はFLTタンパク質Wntタンパク質及び/又はFLTタンパク質の発現又は機能の抑制の開始は、当該遺伝子の強制発現解除前であっても解除後であっても特に限定されないが、少なくとも強制発現解除後において、Wntタンパク質及び/又はFLTタンパク質の発現又は機能が抑制されていることが好ましい。当該遺伝子の強制発現解除前にWntタンパク質及び/又はFLTタンパク質の発現又は機能を抑制することで、CD41a陽性細胞の数、すなわち多核化前の巨核球細胞の数が減少する傾向があることから、多核化前の巨核球細胞数を保持するという観点から、より好ましくは、Wntタンパク質及び/又はFLTタンパク質の発現又は機能の抑制の開始は、当該遺伝子の強制発現解除後である。
【0051】
別の態様において、本発明に係る血小板の製造方法は、巨核球細胞と芳香族炭化水素受容体(AhR)アンタゴニストとを接触させる工程を含む。AhRアンタゴニストと細胞との接触は培地中で行うことができる。
【0052】
「巨核球細胞より未分化な細胞において、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子からなる群より選択される遺伝子の少なくとも1つを強制発現した後、当該強制発現を解除した細胞」を用いる場合、強制発現の期間も特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。なお、強制発現後に、細胞を継代培養してもよく、最後の継代から強制発現を解除する日までの期間も特に限定されないが、例えば、1日間、2日間又は3日間以上としてもよい。
【0053】
AhRアンタゴニストとの接触は、少なくとも多核化した巨核球細胞について行われる。巨核球より未分化な細胞において、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子を強制発現させて不死化巨核球細胞を作製し、その後強制発現を解除して不死化巨核球細胞の多核化を進める場合には、強制発現の解除後、培地にAhRアンタゴニストを加えることが好ましい。
【0054】
AhRアンタゴニスト存在下で巨核球細胞を培養する期間も特に限定されない。上記強制発現の解除後にAhRアンタゴニストを培地に加える場合、AhRアンタゴニストを培地に添加して3日目頃から徐々に機能的な血小板が放出されるようになり、数は培養日数に伴って増えていく。AhRアンタゴニストとしてSR1を加えた場合、5日間培養すると特に機能の高い血小板を得られる傾向があったが、機能的な血小板が得られる限り培養日数はそれより短くても長くてもよい。
【0055】
巨核球細胞における上記遺伝子の強制発現解除後、AhRアンタゴニストを培地に加えるまでの期間も特に限定されないが、例えば、1日、2日、又は3日以内にAhRアンタゴニスト存在下での培養を開始してもよい。AhRアンタゴニストは、培養期間中、1回以上追加で培地に添加してもよい。
【0056】
本発明の血小板の製造方法では、AhRアンタゴニストをROCK阻害剤と併用して巨核球細胞と接触させてもよい。AhRアンタゴニストをROCK阻害剤と組み合わせて巨核球細胞を接触させると、相乗的に機能が高められた血小板を得ることができる。AhRアンタゴニストとROCK阻害剤は、同時に添加してもよいし、いずれかを先に添加してもよい。
【0057】
巨核球より未分化な細胞において、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子を強制発現させて不死化巨核球細胞を作製し、その後強制発現を解除して不死化巨核球細胞の多核化を進める場合には、強制発現の解除後、培地にROCK阻害剤を加えることが好ましい。
【0058】
更に別の態様において、本発明に係る血小板の製造方法は、Wntタンパク質及び/又はFLTタンパク質の発現又は機能を抑制した巨核球細胞を培養する工程を含み、当該培養工程は、AhRアンタゴニストの存在下で行ってもよい。当該培養工程は、さらに、ROCK阻害剤の存在下で行ってもよい。また、培養工程は、フィーダー細胞なしで行ってもよい。
【0059】
本発明のいずれの態様においても、巨核球細胞の培養条件は、通常の条件とすることができる。例えば、温度は約35℃〜約42℃、約36℃〜約40℃、又は約37℃〜約39℃とすることができ、5%CO
2及び/又は20%O
2としてもよい。静置培養であっても、振とう培養であってもよい。振とう培養の場合の振とう速度も特に限定されず、例えば、10rpm〜200rpm、30rpm〜150rpm等とすることができる。
【0060】
本発明に係る血小板の製造方法では、上述のように巨核球細胞を培養することにより、巨核球細胞が成熟し、その細胞質から血小板が産生される。ここで、巨核球細胞が成熟するとは、巨核球細胞が多核化し、血小板を放出できるようになることをいう。
【0061】
ここで血小板の機能は、公知の方法により測定し評価することができる。例えば、活性化した血小板膜上に存在する活性化マーカーIntegrin αIIBβ3(glycoprotein IIb/IIIa; CD41aとCD61の複合体)に特異的に結合する抗体であるPAC-1抗体を用いて、活性化した血小板量を測定することができる。また、同様に血小板の活性化マーカーであるCD62b(P-selectin)を抗体で検出して活性化した血小板量を測定してもよい。血小板量の測定は、例えば、フローサイトメトリーを用い、活性化非依存性の血小板マーカーCD61又はCD41に対する抗体でゲーティングを行い、その後、血小板に対するPAC-1抗体や抗CD62P抗体の結合を検出することにより行うことができる。これらの工程は、アデノシン二リン酸(ADP)存在下で行ってもよい。
【0062】
また、血小板の機能の評価は、ADP存在下でフィブリノーゲンと結合するか否かを見て行うこともできる。血小板がフィブリノーゲンの結合することにより、血栓形成の初期に必要なインテグリンの活性化が生じる。さらに、血小板の機能の評価は、国際公開第2011/034073号の
図6に示されるように、in vivoでの血栓形成能を可視化して観察する方法で行うこともできる。
【0063】
本明細書において「機能性が高い血小板」、「血小板の機能が高い」、「機能性血小板である」との表現は、従来の方法で得られた血小板に比較して、上記の方法の少なくとも一つで測定した血小板の機能が有意に高いか、有意には高くなくても高い傾向があるか、又は、生体から単離された血小板と機能が同等であると当業者が判断できる状態を意味する。あるいは、本明細書において「機能性が高い血小板」又は「血小板の機能が高い」との表現は、上記の方法の少なくとも一つで測定した血小板の機能が、天然の血小板の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上であることを意味する。
【0064】
巨核球細胞を培養する際の培地は特に限定されず、巨核球細胞から血小板が産生されるのに好適な公知の培地やそれに準ずる培地を適宜使用することができる。例えば、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)及びこれらの混合培地が挙げられる。
【0065】
培地には、血清又は血漿が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、モノチオグリセロール(MTG)、脂質、アミノ酸(例えばL-グルタミン)、アスコルビン酸、ヘパリン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含有し得る。サイトカインとは、血球系分化を促進するタンパク質であり、例えば、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、トロンボポエチン(TPO)、各種TPO様作用物質、Stem Cell Factor(SCF)、ITS(インスリン−トランスフェリン−セレナイト)サプリメント、ADAM阻害剤、などが例示される。本発明において好ましい培地は、血清、インスリン、トランスフェリン、セリン、チオールグリセロール、アスコルビン酸、TPOを含むIMDM培地である。さらにSCFを含んでいてもよく、さらにヘパリンを含んでいてもよい。TPOとSCFは併用することが好ましい。それぞれの濃度も特に限定されないが、例えば、TPOは、約10ng/mL〜約200ng/mL、又は約50ng/mL〜約100ng/mLとすることができ、SCFは、約10ng/mL〜約200ng/mL、又は約50ng/mLとすることができ、ヘパリンは、約10U/mL〜約100U/mL、又は約25U/mLとすることができる。ホルボールエステル(例えば、ホルボール-12-ミリスタート-13-アセタート;PMA)を加えてもよい。
【0066】
血清を用いる場合はヒト血清が望ましい。また、血清に代えて、ヒト血漿等を用いてもよい。本発明に係る方法によれば、これらの成分を用いても、血清を用いたときと同等の血小板が得られうる。
【0067】
遺伝子の強制発現及びその解除のためにTet-on(登録商標)又はTet-off(登録商標)システムのような薬剤応答性の遺伝子発現誘導システムを用いる場合、強制発現する工程においては、対応する薬剤、例えば、テトラサイクリン又はドキシサイクリンを培地に含有させ、これらを培地から除くことによって強制発現を抑制してもよい。
【0068】
本発明における巨核球細胞の培養工程は、フィーダー細胞なしで実施することができる。後述する実施例に示されるとおり、本発明に係る方法によれば、フィーダー細胞なしで培養しても、機能的な血小板を得ることができる。
【0069】
本明細書において、「フィーダー細胞」とは、増殖又は分化させようとしている細胞(目的細胞)の培養に必要な環境を整えるために、目的細胞と共培養される細胞をいう。フィーダー細胞は、目的細胞と識別できる細胞である限り、同種由来の細胞も異種由来の細胞も含む。フィーダー細胞は、抗生物質やガンマ線により増殖しないよう処理した細胞であっても、処理されていない細胞であってもよい。
【0070】
本発明は、本発明に係る方法で製造した血小板も包含する。本発明に係る方法で製造された血小板は、後述する実施例に示すとおり、従来法によりin vitroで製造された血小板に比較して開放小管系の発達が進んでおり、ミトコンドリアも確認できる点で、形態学的に天然の血小板に近いと認められる。
【0071】
本発明に係る血小板製剤の製造方法は、本発明に係る方法により巨核球細胞を培養して血小板を産生させ、培養物から血小板が豊富に存在する画分を回収する工程と、当該血小板画分から血小板以外の血球系細胞成分を除去する工程と、を含む。血球系細胞成分を除去する工程は、白血球除去フィルター(例えば、テルモ社製、旭化成メディカル社製)などを使用して、巨核球細胞を含む血小板以外の血球系細胞成分を除去することによって行うことができる。血小板製剤のより具体的な製造方法は、例えば、国際公開第2011/034073号に記載されている。
【0072】
本発明に係る血液製剤の製造方法は、本発明に係る方法で血小板製剤を製造する工程と、当該血小板製剤を他の成分と混合する工程と、を含む。他の成分としては、例えば赤血球細胞が挙げられる。
【0073】
血小板製剤及び血液製剤には、その他、細胞の安定化に資する他の成分を加えてもよい。
【0074】
また、本発明は、多核化した巨核球細胞と、AhRアンタゴニストと、培地とを含む組成物も包含する。本組成物は、そのまま培養することにより機能性の高い血小板を得ることができるし、凍結保存することもできる。特に凍結保存する場合、当該組成物には、凍結の際に細胞を保護するDMSO、グリセロール、市販の細胞凍結用試薬等が含まれていてもよい。凍結した組成物を解凍して培養することにより、機能性の高い血小板を得ることができる。
【0075】
本明細書において引用されるすべての特許文献及び非特許文献の開示は、全体として本明細書に参照により組み込まれる。
【実施例1】
【0076】
iPS細胞
不死化巨核球株(MKCL SeV2)は、Nakamura, et al. Cell Stem Cell,2014に記載の方法に従い、iPS細胞(SeV2: neonate human fibroblastへWO2010/134526の方法に従って、センダイウィルスベクターによりc-MYC, OCT3/4, SOX2およびKLF4を導入することによって作製した細胞) にBcl-xL、c?MycおよびBmi1を導入することで調製した。Okita K, et al, Stem Cells. 31(3):458-466, 2013に記載の方法に従って、不死化巨核球株(MKCL SeV2)からiPS細胞(MK iPS #12)を製造した。得られたiPS細胞(MK iPS #12)は、Nakagawa M, et al, Sci Rep. 8;4:3594, 2014に記載の方法に従って、StemFit(登録商標)AK03(Ajinomoto)及びlaminin 511(iMatrix 511(Nippi))を用いて培養した。
【0077】
相同組換え
iPS細胞(MK iPS #12)をTrypLE(登録商標) Select にて剥離し、0.8 x10
6個を1.7μg template vector(
図1A)、1.7μg guide vector(
図1B)及び1.7μg cas9 vector(pHL-EF1a-SphcCas9-iC-A、京都大学iPS細胞研究所 堀田博士より受領)と混和し、Human Stem Cell Nucleofector(登録商標) Kit 2(Lonza)及びNucleofectorを用いてelectroporationにより細胞にベクターを導入した。electroporation後、StemFit(登録商標) AK03で懸濁、laminin 511をコーティングした10cm dishに播種し、37℃ 5%CO
2 条件下で培養した。3日後、puromycineを1ng/mlとなるように培地に添加し培養を継続した。7日後、形成したコロニーをピックアップし、得られた各コロニーからQIAamp DNA Mini Kit (QIAGEN)を用いてDNAを抽出し、プライマー(TUBB1 insert check Fw及びRv、5-1 insert check Fw及び5-1.2 insert check Rv、ならびに3-1.2 insert check Fw及び3-2 insert check Rv、配列は表1に示す)を用いてGenotyping PCRにより相同組換えを確認した。ホモで相同組換えができたiPS細胞株を拡大培養し、MK iPS#12-23として樹立した。
【0078】
【表1】
【0079】
続いて、得られたMK iPS#12-23を5μg cre 発現ベクター(pCXW-Cre-Puro、京都大学iPS細胞研究所 堀田博士より受領)と混和し、Human Stem Cell Nucleofector(登録商標) Kit 2(Lonza)及びNucleofectorを用いてelectroporationにより細胞にベクターを導入した。electroporation後、StemFit(登録商標) AK03で懸濁、laminin 511をコーティングした10cm dishに播種し、37℃ 5%CO
2 条件下で培養した。9日後、コロニーを複数個ピックアップし、2つに分け、一方にはpuromycineを1ng/mlとなるように培地に添加し培養し、もう一方は保管した。細胞が死滅した株を確認し、同じコロニー由来の保管した細胞において、プライマー(TUBB1 insert check Fw及びRv)を用いてGenotyping PCRによりpuromycine耐性カセットが除去されていることを確認した、当該iPS細胞株を拡大培養し、MK iPS#12-23 cre2として樹立した。
【0080】
不死化巨核球細胞株の誘導
iPS細胞(MK iPS #12-23 cre2)より、iPS-sacを介して造血前駆細胞(HPC)の誘導を行った。詳細には、iPS細胞をセルスクレーパーを用いて培養皿から細胞を剥離させ、1/20程度の細胞を、コロニーの塊として、マイトマイシンC(MMC)処理したC3H10T1/2(理研から入手可能)上へ播種した。なお、MMC処理したC3H10T1/2は、iPS細胞を播種する前日に8x10
5cells / dishで10cm dishへ播種して用意した。播種後、20 ng / ml VEGFを添加したEagel’s Basal Medium (EBM)中で5% O
2、5% CO
2、37℃環境下で培養を開始した(day0)。2回/1週間の頻度で同じ培地にて培地交換を行った。
【0081】
Day14にセルスクレーパーまたはピペット先端を用いて物理的に細胞を剥離し、40マイクロメートルのセルストレーナーを通して均一の大きさの細胞を回収した。
【0082】
Day14において、細胞を回収し、MMC処理したC3H10T1/2上に1x10
5 cells / well を6well dishに播種した。培地はSCF 50 ng / ml, TPO 50 ng / ml, ドキシサイクリン0.5 μg / mlを添加したEBMを用いた。Day17も同様に細胞を回収し、MMC処理したC3H10T1/2上に1x10
6cells / dish を10cm dishに播種した。Day23に細胞を回収し、1x10
6cells / dish を10cm dishに播種し、レポーター不死化巨核球細胞株(MKCL#12-23 cre2)を作製した。
【0083】
血小板の産生
上述の方法で得られた不死化巨核球株を0.75 μM StemRegenin1(SR1)(Selleckchem)、10 μM Y-27632(wako)、50 ng/ml TPO(R&D)及び50 ng/ml SCF(R&D)を添加した分化培地中で7日間培養し、細胞を懸濁後、培養上清より細胞を回収し、抗CD41抗体及び抗CD42b抗体で染色しFACSにて解析した。同様に、誘導途中の細胞もFACS解析を行なった。その結果、培養7日目に、CD41及びCD42b両陽性の巨核球が誘導され、当該巨核球から血小板が産生されていることを確認した(
図2)。
【0084】
Wnt阻害剤及びFLT3阻害剤による血小板産生促進効果の検討
続いて、Wnt阻害剤及びFLT3阻害剤の血小板産生促進効果を検討した。上記レポーター不死化巨核球細胞株(MKCL#12-23 cre2)を96well dishにて、所定の濃度の各種阻害剤、10 μM Y-27632、50 ng/ml TPO及び50 ng/ml SCFを添加した分化培地中、又は0.75 μM SR1、10 μM Y-27632、50 ng/ml TPO及び50 ng/ml SCFを添加した分化培地中(陽性コントロール)、又は0.1% DMSO、10 μM Y-27632、50 ng/ml TPO及び50 ng/ml SCFを添加した分化培地中(陰性コントロール)で培養し、培養7日目に細胞のVENUSの蛍光強度を測定したところ、Wnt阻害剤およびFLT3阻害薬を添加した培地では蛍光強度が増加した。各阻害剤を用いた場合の血小板数を、陽性コントールでの血小板数(100%とする)及び陰性コントロールでの血小板数(0%とする)で補正して、相対蛍光強度を算出した結果を
図3に示す。
【0085】
続いて、Wnt阻害剤及びFLT3阻害剤の血小板産生促進効果を検討した。上記レポーター不死化巨核球細胞株(MKCL#12-23 cre2)のもととなったMKCL SeV2を6well dishにて、WNTまたはFLT3阻害剤、10 μM Y-27632、50 ng/ml TPO及び50 ng/ml SCFを添加した分化培地中、又は0.75 μM SR1、10 μM Y-27632、50 ng/ml TPO及び50 ng/ml SCFを添加した分化培地中(陽性コントロール)、又は0.1% DMSO、10 μM Y-27632、50 ng/ml TPO及び50 ng/ml SCFを添加した分化培地中(陰性コントロール)で培養し、培養7日目に培養液を懸濁して上清を採取し、抗CD41抗体及び抗CD42b抗体で染色しFACSにて解析した。各阻害剤を用いた場合の血小板数を、陽性コントールでの血小板数(100%とする)及び陰性コントロールでの血小板数(0%とする)で補正して、相対血小板数を算出した(
図4)。
【0086】
以上の結果より、Wnt阻害剤及びFLT3阻害剤は、強力な血小板誘導剤であることが示唆された。
【0087】
フィーダー細胞を用いない条件での血小板産生に与えるWnt阻害剤及びFLT3阻害剤の効果 iPS細胞(TkDA3-4)を培養後、セルスクレイパーにてコロニーを剥離し、20μg/ml VEGFを添加した分化培地中で培養した。14日後、セルスクレイパーを用いて細胞を回収し、25 U/mL heparin、10 μM Y-27632、100 ng/ml TPO、50 ng/ml SCFを添加した.さらに、当該培地へ、0.1% DMSO、0.75uM SR1、1uM C59(albiochem )又は3.3uM FLT3 inhibitor(santacruz biotechnology)を添加し、10日間培養した。上述のとおり、フィーダー細胞を用いた条件でも行った。得られた細胞を懸濁し上清を採取し、抗CD41抗体及び抗CD42b抗体で染色しFACSにて解析した(
図4)。その結果、化合物はフィーダーがない状態を代替できる、またフィーダーを用いない条件においてWnt阻害剤及びFLT3阻害剤は、SR1と同等もしくはそれ以上の血小板産生能を有することが確認された。