(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のナフタザリン二リチウム塩の充放電特性が低い理由としては、充放電中の活物質の電解液中への溶解が挙げられる。また、酸化還元部位を縮環することでサイクル特性が向上するものの、共役系で縮環を行うと電圧が低下する。
【0011】
このような観点から、本発明は、充放電中に電解液に溶解しにくく、放電容量及び充放電サイクル特性に優れた非水二次電池用電極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、ナフタザリン骨格がジチイン環等の非共役系の環で縮合した化合物が、上記課題を解決し、充放電中に電解液に溶解しにくく、放電容量及び充放電サイクル特性に優れた非水二次電池用電極活物質が得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて更に研究を重ねた結果、完成されたものである。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0013】
項1.一般式(1):
【0014】
【化3】
【0015】
[式中、Y
1及びY
2は同一又は異なって、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を示す。R
1〜R
8は同一又は異なって、酸素原子又は−OLiで表される基を示す。R
9〜R
12は同一又は異なって、水素原子又は有機基を示す。実線と破線で表される結合は単結合又は二重結合を示す。]
で表される化合物からなる非水二次電池用電極活物質。
【0016】
項2.前記一般式(1)において、Y
1及びY
2がいずれも硫黄原子である、項1に記載の非水二次電池用電極活物質。
【0017】
項3.前記一般式(1)において、R
1〜R
4が同一であり、且つ、R
5〜R
8が同一である、項1又は2に記載の非水二次電池用電極活物質。
【0018】
項4.前記一般式(1)において、R
9〜R
12は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はカルボキシ基を示す、項1〜3のいずれか1項に記載の非水二次電池用電極活物質。
【0019】
項5.一般式(1A):
【0020】
【化4】
【0021】
[式中、Y
1、Y
2、R
1〜R
4及びR
9〜R
12は前記に同じである。実線と破線で表される結合は単結合又は二重結合を示す。]
で表される化合物からなる非水二次電池用正極活物質である、項1〜4のいずれか1項に記載の非水二次電池用電極活物質。
【0022】
項6.一般式(1B):
【0023】
【化5】
【0024】
[式中、Y
1、Y
2、R
5〜R
12は前記に同じである。実線と破線で表される結合は単結合又は二重結合を示す。]
で表される化合物からなる非水二次電池用負極活物質である、項1〜4のいずれか1項に記載の非水二次電池用電極活物質。
【0025】
項7.項1〜6のいずれか1項に記載の非水二次電池用電極活物質を含有する、非水二次電池用電極。
【0026】
項8.項7に記載の非水二次電池用電極を備える、非水二次電池。
【0027】
項9.ロッキングチェア型である、項8に記載の非水二次電池。
【発明の効果】
【0028】
本発明の非水二次電池用電極活物質は、分子平面が広く、分子間に働くπ−π相互作用が強いため、充放電に伴う電解液への溶解が抑えられ、サイクル特性を向上させることができる。
【0029】
本発明の非水二次電池用電極活物質は、sp
3構造の酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を含むため共役系が切断されており、縮環による電圧の低下が起こりにくい。また、本発明の非水二次電池用電極活物質は、放電時には1分子あたり8個のLiイオンが挿入されることになり、分子の価数は-8価から0価の間を推移する。このため、1分子あたり8電子反応に由来する400mAh/g以上の放電容量を示す。この値は、既存のリチウム二次電池用正極材料であるコバルト酸リチウムの140mAh/gに比べて3倍に近い値である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
1.非水二次電池用電極活物質
本発明の非水二次電池用電極活物質は、一般式(1):
【0033】
[式中、Y
1及びY
2は同一又は異なって、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を示す。R
1〜R
8は同一又は異なって、酸素原子又は−OLiで表される基を示す。R
9〜R
12は同一又は異なって、水素原子又は有機基を示す。実線と破線で表される結合は単結合又は二重結合を示す。]
で表される化合物からなる。
【0034】
一般式(1)において、Y
1及びY
2は酸素原子、硫黄原子又はセレン原子である。本発明の非水二次電池用電極活物質は、sp
3構造の酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を含むため共役系が切断されており、縮環による電圧の低下が起こりにくい。なかでも、電圧降下をより抑制でき容量(特に放電容量)を特に向上させることができる観点から硫黄原子が好ましい。なお、Y
1及びY
2は同一でも異なっていてもよいが、合成の容易さの観点から同一であることが好ましい。
【0035】
一般式(1)において、R
9〜R
12で示される有機基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、カルボキシ基等が挙げられる。
【0036】
一般式(1)において、R
9〜R
12で示される有機基としてのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1〜6(特に1〜4)のアルキル基が好ましい。また、アルキル基としては、直鎖状アルキル基及び分岐鎖状アルキル基のいずれも採用できる。このアルキル基は、置換基を有することもできる。このような置換基としては、特に制限されず、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)等が挙げられる。アルキル基が置換基を有している場合、置換基の数は、特に制限されず、例えば、1〜3個である。
【0037】
一般式(1)において、R
9〜R
12で示される有機基としてのアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基等の炭素数1〜6(特に1〜4)のアルコキシ基が好ましい。また、アルコキシ基としては、直鎖状アルコキシ基及び分岐鎖状アルコキシ基のいずれも採用できる。このアルコキシ基は、置換基を有することもできる。このような置換基としては、特に制限されず、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)等が挙げられる。アルコキシ基が置換基を有している場合、置換基の数は、特に制限されず、例えば、1〜3個である。
【0038】
一般式(1)において、R
9〜R
12で示される有機基としてのアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナントリル基、ビフェニル基、ピリジル基等が挙げられる。このアリール基は、置換基を有することもできる。このような置換基としては、特に制限されず、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)等が挙げられる。アリール基が置換基を有している場合、置換基の数は、特に制限されず、例えば、1〜3個である。
【0039】
一般式(1)において、R
9〜R
12としては、合成の容易さ、容量及び充放電サイクル特性の観点から水素原子が好ましい。
【0040】
一般式(1)において、R
1〜R
8は酸素原子又は−OLiで表される基である。R
1〜R
8は同一でも異なっていてもよいが、合成の容易さ、容量及び充放電サイクル特性の観点からR
1〜R
4が同一であり、且つ、R
5〜R
8が同一であることが好ましい。
【0041】
なお、本発明の非水二次電池用電極活物質は、完全に充電した際には、R
1〜R
8がいずれも酸素原子となり、一般式(1-1):
【0043】
[式中、Y
1、Y
2及びR
9〜R
12は前記に同じである。]
で表される化合物が形成されやすい。
【0044】
その後、放電するに従い、酸素原子の一部にリチウム原子が挿入し、一般式(1-2):
【0046】
[式中、Y
1、Y
2及びR
9〜R
12は前記に同じである。]
で表される化合物を経由して、完全に放電した際には、R
1〜R
8がいずれも−OLiで表される基となり、一般式(1-3):
【0048】
[式中、Y
1、Y
2及びR
9〜R
12は前記に同じである。]
で表される化合物が形成されやすい。
【0049】
これらの一般式(1-1)〜(1-3)で表される化合物のうち、一般式(1-1)及び(1-2)で表される化合物は、酸素原子にリチウム原子が挿入して−OLiで表される基となることができることから、リチウム原子を挿入する反応、つまり、非水二次電池用正極活物質として使用することができる。このため、一般式(1A):
【0051】
[式中、Y
1、Y
2、R
1〜R
4及びR
9〜R
12は前記に同じである。実線と破線で表される結合は単結合又は二重結合を示す。]
で表される化合物は非水二次電池用正極活物質として使用することができる。
【0052】
一方、これらの一般式(1-1)〜(1-3)で表される化合物のうち、一般式(1-2)及び(1-3)で表される化合物は、−OLiで表される基からリチウム原子が脱離して酸素原子となることができることから、リチウム原子を脱離する反応、つまり、非水二次電池用負極活物質として使用することができる。このため、一般式(1B):
【0054】
[式中、Y
1、Y
2、R
5〜R
12は前記に同じである。実線と破線で表される結合は単結合又は二重結合を示す。]
で表される化合物は非水二次電池用負極活物質として使用することができる。
【0055】
以上の点から、一般式(1-2)で表される化合物は、非水二次電池用正極活物質としても使用できるし、非水二次電池用負極活物質としても使用できる。つまり、一般式(1-2)で表される化合物を正極活物質及び負極活物質として使用することで、同じ材料を両極活物質として使用した非水二次電池を作製することも可能である。
【0056】
以上のような条件を満たす本発明の非水二次電池用電極活物質としては、例えば、
【0059】
このような条件を満たす本発明の非水二次電池用電極活物質は、充放電中に電解液中への溶出が少なく、優れた充放電サイクル特性を有する化合物である。本発明の非水二次電池用電極活物質は、分子平面が広く,分子間に働くπ−π相互作用が強いため,充放電に伴う有機電解液への溶出が抑えられ、充放電サイクル特性が向上する。
【0060】
上記した本発明の非水二次電池用電極活物質は、公知の化合物であるか、又は公知の反応を採用して合成することができる。
【0061】
例えば、一般式(1-2)で表される化合物は、以下の反応式1により合成することが可能である。
【0063】
[式中、Y
1、Y
2、R
9〜R
12は前記に同じである。X
1及びX
2は同一又は異なって、ハロゲン原子を示す。]
反応式1において、X
1及びX
2で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0064】
まず、ジハロジヒドロキシナフトキノン化合物(2)を出発物質として、公知の方法(例えば酢酸に溶解させること)により、ジアセトキシジハロナフトキノン化合物(3)を得る。その後、塩基(トリエチルアミン等のアミン化合物等)の存在下に、溶媒(ジメチルホルムアミド等)中でジアセトキシジハロナフトキノン化合物(3)とルベアン酸とを反応させることでテトラアセトキシジベンゾチアントレンテトロン化合物(4)を得る。さらに、テトラアセトキシジベンゾチアントレンテトロン化合物をリチウム化合物(水酸化リチウム等)と反応させることにより一般式(1-2)で表される化合物を得ることができる。反応条件は特に制限はなく、通常使用される程度とすることができる。なお、Y
1及びY
2として、硫黄原子ではなく、酸素原子又はセレン原子を採用する場合は、ルベアン酸の代わりに適切な酸素化合物又はセレン化合物を使用することで、一般式(1-2)で表される化合物を得ることができる。また、一般式(1-2)で表される化合物以外の本発明の非水二次電池用電極活物質を得ようとする場合も、同様に公知の反応を採用して合成することができる。
【0065】
2.非水二次電池
本発明の非水二次電池用電極活物質を含有する非水二次電池は、公知の手法により製造することができ、本発明の非水二次電池用電極活物質を正極活物質及び/又は負極活物質として使用する他は従来から知られている非水二次電池で採用されている構成及び構造を適用し得る。通常は、本発明の非水二次電池は、正極、負極、非水電解液及びセパレータを備え得る。
【0066】
本発明によれば、後述するように、正極活物質として本発明の非水二次電池用電極活物質である一般式(1A)で表される化合物を使用し、負極活物質として本発明の非水二次電池用電極活物質である一般式(1B)で表される化合物を使用することも可能である。
【0067】
例えば、正極活物質及び負極活物質をいずれも上記一般式(1-2)で表される化合物を用いた場合について例示すると、充電時には正極側ではリチウムが脱離して一般式(1-1)で表される化合物となり、一方の負極ではリチウムが挿入して一般式(1-3)で表される化合物となる。また、放電時にはそれぞれの極で逆の反応が起こる。
【0069】
つまり、本発明の非水二次電池用電極活物質を使用した場合、充放電時にリチウムの挿入脱離反応が起こる。したがって、正極活物質及び負極活物質のいずれも本発明の非水二次電池用電極活物質を使用した場合には、正極及び負極の双方にて出入りするイオンはリチウムイオンとなるため、充放電時に電解液の濃度が変化しないロッキングチェア型非水二次電池(特にロッキングチェア型リチウムイオン二次電池)とすることも可能である。
【0070】
なお、本発明において、非水二次電池の一態様である「リチウムイオン二次電池」とは、負極材料として金属リチウムを用いた「リチウム二次電池」も包含する概念である。また、本発明において、非水二次電池の一態様である「リチウムイオン二次電池」とは、非水電解液を使用した「非水リチウムイオン二次電池」と固体電解質を使用した「全固体リチウムイオン二次電池」のいずれも包含する概念である。
【0071】
(2-1)正極
正極としては、正極活物質、結着剤等を含有する正極合剤層を、正極集電体の片面又は両面に形成した構成を採用し得る。
【0072】
この正極合剤層は、正極活物質と必要に応じて添加される導電助剤に結着剤を加え、これを混合してシート状に成形し、金属箔等からなる正極集電体に圧着することで得ることができる。また、正極活物質と必要に応じて添加される導電助剤に結着剤を加え、有機溶剤に分散させて正極合剤層形成用ペーストを調製し(この場合、結着剤はあらかじめ有機溶剤に溶解又は分散させておいてもよい)、金属箔等からなる正極集電体の表面(片面又は両面)に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成し、必要に応じて加工する工程を経て製造してもよい。
【0073】
正極活物質としては、本発明の非水二次電池用電極活物質を使用する場合、上記一般式(1A)で表される化合物を使用することができる。また、本発明の非水二次電池用電極活物質を正極活物質として使用しない場合、使用する正極活物質としては、特に制限されず、高電位で充放電が行われる材料を採用することができる。例えば、LiMnO
2、LiNiO
2、LiCoO
2、Li(Mn
xNi
1-x)O
2、Li(Mn
xCo
1-x)O
2、Li(Ni
yCo
1-y)O
2、Li(Mn
xNi
yCo
1-x-y)O
2等の層状酸化物;Li
2MnO
3−LiNiO
2、Li
2MnO
3−LiCoO
2、Li
2MnO
3−Li(Ni
yCo
1-y)O
2等の固溶体;Li
2MnSiO
4、Li
2NiSiO
4、Li
2CoSiO
4、Li
2(Mn
xNi
1-x)SiO
4、Li
2(Mn
xCo
1-x)SiO
4、Li
2(Ni
yCo
1-y)SiO
4、Li
2(Mn
xNi
yCo
1-x-y)SiO
4等のケイ酸塩;LiMnBO
3、LiNiBO
3、LiCoBO
3、Li(Mn
xNi
1-x)BO
3、Li(Mn
xCo
1-x)BO
3、Li(Ni
yCo
1-y)BO
3、Li(Mn
xNi
yCo
1-x-y)BO
3等のホウ酸塩;V
2O
5;LiV
3O
6;MnO等が挙げられる。上記式において、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1である。これら正極活物質は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0074】
導電助剤としては、通常の非水二次電池と同様に、黒鉛;カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等);表面に非晶質炭素を生成させた炭素材料等の非晶質炭素材料;繊維状炭素(気相成長炭素繊維、ピッチを紡糸した後に炭化処理して得られる炭素繊維等);カーボンナノチューブ(各種の多層又は単層のカーボンナノチューブ)等を用いることができる。正極の導電助剤としては、前記例示のものを1種単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0075】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム等が挙げられる。
【0076】
正極合剤を製造する際に使用する有機溶媒としては、特に制限はなく、N-メチルピロリドン(NMP)等が挙げられ、これと正極活物質、結着剤等を用いてペースト状とすることができる。
【0077】
正極合剤層の組成については、例えば、上記の正極活物質が40〜80質量%、結着剤が20〜60質量%であることが好ましい。また、導電助剤を使用する場合には、上記の正極活物質が20〜60質量%、結着剤が5〜20質量%、導電助剤が30〜70質量%であることが好ましい。さらに、正極合剤層の厚みは、集電体の片面あたり、1〜200μmであることが好ましい。
【0078】
正極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレススチール、ニッケル、チタン又はこれらの合金からなる箔、メッシュ、パンチドメタル、エキスパンドメタル等を用いることができ、通常、厚みが10〜200μmのステンレススチールメッシュが好適に用いられる。
【0079】
(2-2)負極
負極としては、負極活物質、結着剤等を含有する負極合剤層を、負極集電体の片面又は両面に形成した構成を採用し得る。また、本発明の非水二次電池を金属リチウム二次電池とする場合には、金属リチウムをそのまま負極として使用することもできる。
【0080】
この負極合剤層は、負極活物質と必要に応じて添加される導電助剤に結着剤を加え、これを混合してシート状に成形し、金属箔等からなる負極集電体に圧着することで得ることができる。また、負極活物質と必要に応じて添加される導電助剤に結着剤を加え、有機溶剤に分散させて負極合剤層形成用ペーストを調製し(この場合、結着剤はあらかじめ有機溶剤に溶解又は分散させておいてもよい)、金属箔等からなる負極集電体の表面(片面又は両面)に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成し、必要に応じて加工する工程を経て製造してもよい。
【0081】
負極活物質としては、本発明の非水二次電池用電極活物質を使用する場合、上記一般式(1B)で表される化合物を使用することができる。また、本発明の非水二次電池用電極活物質を負極活物質として使用しない場合、使用する負極活物質としては、特に制限されず、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛等)、難焼結性炭素、リチウム金属、スズやシリコン及びこれらを含む合金、SiO等を用いることができる。好ましくは、金属リチウム一次電池及び金属リチウム二次電池ではリチウム金属、リチウム合金等を用いることができ、リチウムイオン二次電池では、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料(黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛等)、難焼結性炭素等)等を活物質として用いることができる。これら負極活物質は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0082】
導電助剤としては、通常の非水二次電池と同様に、黒鉛;カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等);表面に非晶質炭素を生成させた炭素材料等の非晶質炭素材料;繊維状炭素(気相成長炭素繊維、ピッチを紡糸した後に炭化処理して得られる炭素繊維等);カーボンナノチューブ(各種の多層又は単層のカーボンナノチューブ)等を用いることができる。正極の導電助剤としては、前記例示のものを1種単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0083】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム等が挙げられる。
【0084】
負極合剤を製造する際に使用する有機溶媒としては、特に制限はなく、N-メチルピロリドン(NMP)等が挙げられ、これと負極活物質、結着剤等を用いてペースト状とすることができる。
【0085】
負極合剤層の組成については、例えば、上記の負極活物質が40〜80質量%、結着剤が20〜60質量%であることが好ましい。また、導電助剤を使用する場合には、上記の負極活物質が20〜60質量%、結着剤が5〜20質量%、導電助剤が30〜70質量%であることが好ましい。さらに、負極合剤層の厚みは、集電体の片面あたり、1〜200μmであることが好ましい。
【0086】
負極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレススチール、ニッケル、チタン又はこれらの合金からなる箔、メッシュ、パンチドメタル、エキスパンドメタル等を用いることができ、通常、厚みが10〜200μmのステンレススチールメッシュが好適に用いられる。
【0087】
(2-3)非水電解液
非水電解液としては、公知のエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の1種以上からなる溶媒に過塩素酸リチウム、LiPF
6等のリチウム塩を溶解させた溶液(有機電解液)を使用することができる。また、固体電解質として、無機固体電解質(Li
2S−P
2S
5系、Li
2S−GeS
2−P
2S
5系等)を使用することもできる。
【0088】
(2-4)セパレータ
上記した正極と負極は、例えば、セパレータを介在させつつ積層した積層電極体や、さらにこれを渦巻状に巻回した巻回電極体の形で用いられる。
【0089】
セパレータとしては、強度が十分で且つ電解液を多く保持できるものがよく、そのような観点から、厚さが10〜50μmで開口率が30〜70%の、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ガラス等の1種又は複数を含む微多孔フィルムや不織布、フィルター等が好ましい。
【実施例】
【0090】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0091】
実施例1
1,4,8,11-テトラヒドロキシジベンゾ[b,i]チアントレン-5,7,12,14-テトロン四リチウム塩(1)は、以下に示したルートで合成した。まず、2,3-ジクロロ-5,8-ジヒドロキシ-1,4-ナフトキノン0.93gを無水酢酸24mLに溶解させ、8時間還流した。放冷後、析出物を濾取し、0.92gの5,8-ジアセトキシ-2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノンを得た。合成した5,8-ジアセトキシ-2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノン0.85g及びルベアン酸0.17gをジメチルホルムアミド13mLに溶解させ、その後、トリエチルアミンを1mL添加、50℃で10時間攪拌した。放冷後、析出物を濾取し、水で洗浄することで、1,4,8,11-テトラアセトキシジベンゾ[b,i]チアントレン-5,7,12,14-テトロンを0.72g得た。その後、得られた固形物を0.64g、水酸化リチウム溶液に溶解させ、室温で2時間撹拌した。溶媒を留去後、残渣をエタノールで洗浄し、1,4,8,11-テトラヒドロキシジベンゾ[b,i]チアントレン-5,7,12,14-テトロン四リチウム塩を0.39g得た。融点:>400℃。
1H-NMR (400MHz, DMSO-d
6):δ 6.54 (s, 4H)。
【0092】
【化15】
【0093】
比較例1
公知の正極活物質であるナフタザリン二リチウム塩を比較例1の正極活物質とした。
【0094】
【化16】
【0095】
試験例1:電極評価(半電池)
正極活物質として実施例1で合成した化合物を用い、これに導電助剤としてのアセチレンブラックと結着剤としてのPTFEを、活物質:導電助剤:結着剤(質量比)= 4: 5: 1の割合で混合して、厚さ90μmのシートを作製し、ステンレススチールメッシュ(厚さ:100μm)に圧着することによって正極を作製した。これを正極材料として用い、負極材料としてリチウム箔、電解液としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド/テトラヒドロピラン(3mol/L)、セパレータとしてガラスフィルターを用いて試験用コイン型電池を作製した。この電池について、30℃の雰囲気下、20mA/gの電流密度で、1.5-4.2V(vs. Li
+/Li)の電位範囲で充放電試験を行った。
【0096】
図1に初期放電曲線を示す。放電曲線は3.5V(vs. Li
+/Li)付近に二段、2V(vs. Li
+/Li)付近に一段の電位平坦部位を有しており、多電子反応であることを反映している。また、初期放電容量は413mAh/gと高く、1分子あたり8電子が移動する反応を想定した理論容量の462mAh/gに近い。通常のリチウムイオン二次電池の正極材料のコバルト酸リチウムの140mAh/gと比べると3倍近く高い放電容量を有していた。
【0097】
図2には、実施例1の化合物(1)を正極活物質として用いて作製した電極の放電容量のサイクル変化とナフタザリン二リチウム塩(比較例1の化合物)を正極活物質とした電極のサイクル特性の比較を示す。実施例1の化合物を正極活物質とする電池は、充放電を繰り返した場合であっても容量低下は小さく、20サイクル後でも353mAh/g程度の容量を維持し、優れたサイクル特性を有していた。これに対して、ナフタザリン二リチウム塩を正極活物質とする電池は、初回の容量も理論値(530mAh/g)の半分程度の259mAh/gであり、さらには、サイクルを重ねることで放電容量が徐々に低下し、20サイクル後の容量は67mAh/gであった。実施例1の化合物はナフタザリン二リチウム塩に比べて、分子平面が広く、分子間に働くπ−π相互作用が強い。そのため、充放電に伴う有機電解液への溶出が抑えられ、サイクル特性が向上したと考えられる。
【0098】
試験例2:電極評価(ロッキングチェア型全電池)
上述の通り実施例1の化合物(1)を活物質として用いて作製した電極を二枚用意し、それぞれ正極及び負極とした全電池を作製した。電解液としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド/スルホラン(1mol/L)、セパレータとしてガラスフィルターを用いた。作製した全電池について、30℃の雰囲気下、20mA/gの電流密度で、0.0-2.5Vの電圧(電位差)範囲で充放電試験を行った。
【0099】
図3に充放電曲線を示す。この放電曲線もまた二段の電圧平坦部位があり、多電子反応であることを反映している。この図で得られた放電容量は、173mAh/gであり、1分子あたり4電子反応を想定した理論値の231mAh/gに近い。この結果は、実施例1の化合物(1)が正極活物質と負極活物質の両方の機能を有していることを示している。また、
図4に示すようにサイクル特性も比較的優れたものであった。