【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、再生医療実用化研究事業、「難治性疾患創薬シーズの探索と薬剤安全性評価法開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2015年 1月23日,VOL. 290, NO. 4,pp. 1966-1978
【文献】
Geriatrics Gerontology International,2013年,Vol. 13,pp. 90-97
【文献】
篠原 充 ほか,アルツハイマー病根本治療を目指したフルバスタチンの新規抗Aβ作用の解明,日本老年医学会雑誌,2009年,46巻臨時増刊号(学術集会講演抄録集),第52頁,56
【文献】
Neuroscience,2015年,Vol. 284,pp. 590-600,Available online 22 October 2014
【文献】
METFORMIN AND TOPIRAMATE IMPROVE LEARNING AND MEMORY IN DIABETIC MICE AND SAMP8 MICE MODEL OF ALZHEIMER'S DISEASE,Alzheimer's & Dementia,2014年,Volume 10, Issue 4S, Part 12,P477-P478,P2-021
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)ブロモクリプチン又はその薬理学的に許容される塩と、(B)シロスタゾール、クロモリン、プロブコール及びトピラメート並びにそれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選択される1以上の化合物とを組み合わせてなる、アルツハイマー病の予防又は治療剤であって、Aβ42レベルの低減又はAβ42/40比の低減に作用することを特徴とする、剤。
(A)ブロモクリプチン又はその薬理学的に許容される塩と、(B)少なくともトピラメート又はその薬理学的に許容される塩とを組み合わせてなる、請求項1に記載の剤。
ブロモクリプチン又はその薬理学的に許容される塩、クロモリン又はその薬理学的に許容される塩及びトピラメート又はその薬理学的に許容される塩を組み合わせてなる、請求項2に記載の剤。
ブロモクリプチン又はその薬理学的に許容される塩、シロスタゾール又はその薬理学的に許容される塩及びプロブコール又はその薬理学的に許容される塩を組み合わせてなる、請求項1に記載の剤。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、認知機能低下、人格の変化を主な症状とする認知症の一種である。AD脳病変の特徴としては、神経細胞の変性消失とそれに伴う大脳萎縮、老人斑の多発、神経原線維変化(NFT)の多発があげられる。このうち、老人斑は、アミロイドβ(Aβ)ペプチドの凝集蓄積であることが知られている。Aβは、アミロイド前駆タンパク質(APP)のβ-及びγセクレターゼによる切断の結果産生する38 - 43アミノ酸からなるペプチドである。このうち、Aβ42は凝集能および神経細胞毒性が高いことが知られており、家族性アルツハイマー病(FAD)の原因変異を有する細胞において、Aβ42/40比の上昇が認められることが報告されている。
【0003】
従来より、Aβ42量を減少させることが、ADの発症を抑制するためのキーポイントになることが広く認識されている。このことは、β-またはγ-セクレターゼの調節薬のいくつかが、プレセニリン1(PSEN1)又は変異APPを過剰発現したマウスモデルにおいて、AD発症を改善することが示されていることからも明らかである。
しかし、これらの調節薬は、ADモデルマウスを用いた前臨床試験において大きな成功を得たにもかかわらず、ヒトへ転用した場合、多くの臨床試験において失敗に終わっている。
【0004】
これまでに、抗体療法の結果から、老人斑をはじめとするAβ蓄積に起因する病変は可逆的であることが示されている。しかし、残念ながらAβの蓄積を解消したとしても、臨床的な有効性は得られておらず、軽度認知障害(Mild cognitive impairment, MCI)に至るよりも前の段階での介入が必要と考えられている。MCIに至る前段階でもすでにAβの病理的変化は先行していることがアミロイドPET(ポジトロン・エミッション・トモグラフィー)で示されており、非常に多く存在すると予測されるAD予備群に対する、発症前段階での介入が必要である。特に優性遺伝病ネットワーク(DIAN)研究をはじめとした予防治療の重要性が強調されている。しかし、このような対象に非常に高価な抗体医薬の積極的な適用は現実的でない。また、多くのAβを標的とした化合物を用いた内服治療も試みられてきたが、副作用の問題もあり発売に至ったものはない。
従って、薬物の安全性の解決と先制治療(早期治療)がAβを標的とする薬剤を有効とするためには必須であると考えらえる。
【0005】
また一方で、高齢化社会の進展に伴うAD患者の急増は医療経済を圧迫している。2010年時点でAD患者3500万人にかかる医療費は年間6040億ドルであり、2050年にはAD患者が1億1400万人に増加し、さらに医療費が高騰することが予測される。このような状況の下、AD治療に対する、ドラッグ・リポジショニング(DR)、すなわち、既存薬の転用が重要視されている(非特許文献1)。既存薬は、すでに膨大な安全性や体内動態に関する臨床情報が蓄積されており(Chembl databaseなど)、安全性が確立されている。そのため、臨床症状はないがアミロイド検査で陽性と判定されたAD予備群に対する先制治療としての介入が期待できる。実際に、Valsartan(降圧薬)、Liraglutide(抗糖尿病薬)が臨床治験に進んでいる。このように、AD治療におけるDRの重要性は今後さらに増すものと予測される。
【0006】
ところで、患者由来のiPS細胞(疾患iPS細胞)から分化誘導された病因となる細胞は、in vitroで患者の病態を再現していると予測されることから、有力な薬効評価系として期待されている。ヒトiPS細胞由来神経細胞に関する最近の報告では、薬物応答性を評価するツールとしてのヒト神経細胞の重要性が強調されている(非特許文献2−4)。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1aは、iPS細胞から皮質神経への誘導方法の模式図を示す。
図1bは、FAD1患者から作成したiPS細胞のTra-1-80及びNanogでの染色結果を示す。
図1cは、FAD1患者から作成したiPS細胞から誘導したニューロンのMAP2及びCTIP2の染色像を示す。右図は、左図の拡大図である。
図1dは、1次スクリーニングにおいて各指標(Aβ40、Aβ42、Aβ42/Aβ40比及び生存細胞数)についてプロットした結果を示す。
図1eは、1次スクリーニングの選別方法及び129個の候補薬の分類を示す。
【
図2-1】
図2aは、既知の薬効によらない化合物構造に基づく再分類ストラテジと検討項目を示す。
図2bは、129個の候補薬と既知のAβ調節化合物を、構造式に基づいてクラスタリング分類した結果と、分類された候補薬がもたらしたAβ42に対する薬効プロットを示す。
【
図2-2】
図2cは、Bromocriptine、Cilostazol、Cromolyn、Fluvastatin、Probucol及びTopiramateのAβ40、Aβ42、Aβ42/Aβ40比を指標とした用量依存性を示す。
【
図3-1】
図3aは、Bromocriptine、Cromolyn及びTopiramate(BCroT)またはBromocriptine、Cilostazol及びProbucol(BCiP)のAβ40、Aβ42、Aβ42/Aβ40比を指標とした用量依存性を示す。
図3bはDonepezilとBCroTまたはBCiPを併用した場合のAβ40、Aβ42、Aβ42/Aβ40比を指標とした用量依存性を示す。
図3cは、Bromocriptine、Cilostazol、Cromolyn、Fluvastatin、Probucol、Topiramate、BCroT、BCiP、DonepezilとBCroT併用及びDonepezilとBCiP併用のAβ40、Aβ42、Aβ42/Aβ40比のEC50とEmaxの結果を示す。
図3dは、ヒトiPS細胞に基づいた既存薬の薬効再評価過程と、多人数由来のヒトiPS細胞由来神経細胞を用いた「in vitro臨床試験」の概念図を示す。
図3eは、in vitro臨床試験に用いた患者及び健常人のリストを示す。
【
図3-2】
図3fは、
図3eに示した各iPS細胞由来のニューロンに対するBromocriptine、Cilostazol、Cromolyn、Fluvastatin、Probucol、Topiramate、BCroT、BCiPのAβ40、Aβ42、Aβ42/Aβ40比に対する効果を示す。
【
図3-3】
図3gおよびhは、ICRマウスにBCroT及びBCiPの経口投与が与える脳内Aβに対する効果を示す。
【
図4】
図4aは、各iPS細胞のTra-1-80及びNanogでの染色結果を示す。
図4bは、各iPS細胞から誘導したニューロンのMAP2及びCTIP2の染色像を示す。
図4cは、各iPS細胞から誘導したニューロンにおける神経マーカー(MAP2及びCTIP2)の陽性率を示す。
図4dは、iPS細胞(FAD1)の分化誘導プロトコールと内因性の神経マーカー遺伝子と外来性遺伝子の発現の、経時的変化を調べた結果を示す。
図4eは、iPS細胞(FAD1)由来のニューロンにおける電気生理学的検査結果を示す。
図4fは、各iPS細胞由来のニューロンから産生されるAβ40、Aβ42及び当該Aβ42/Aβ40比の、経時的変化を測定した結果を示す。
【
図5】
図5aは既知のAβ量調整作用を持つ化合物、bは既報のγ-セクレターゼ調整薬、cは市販済みAD治療薬が、それぞれFAD1患者のiPS細胞由来のニューロンにもたらす薬効を測定した結果を示す。
【
図6】
図6aは、陽性コントロールとして用いたBSI IV及びJNJ-40418677をiPS細胞(FAD1)由来のニューロンに投与した際のAβ40、Aβ42、Aβ42/ Aβ40比を指標とした用量依存性を示す。
図6bは、1次スクリーニング方法におけるAβ40、Aβ42、Aβ42/Aβ40比を指標とした場合のZ’factorを示す。
図6cは、1次スクリーニングで選択された129個の薬剤のうち、Aβ40、Aβ42またはAβ42/Aβ40比に対して効果があった薬剤のベン図を示す。
【
図7】
図7a、b、c、d、e、fまたはgは、それぞれ、各クラスターのAβ40、Aβ42、ratio Aβ42/40、Aβ38、sAPPbeta、sAPPalphaまたはAβ43に対する効果を示す。
【
図8】
図8は、Meticrane、Nifumic acid、Bifonazole、Belamipron、Chiropyramine、Tioxolone、Cetrimonum、Pinacidil、Dapsom及びVerapamilのiPS細胞(FAD1)由来のニューロンにおけるAβ40、Aβ42またはAβ42/Aβ40に対する効果を検討した結果を示す。
【
図9】
図9は、Topiramate、Bromocriptine、Cromolyn、Fluvastatin、Cilostazol及びProbucolを単剤、2剤、3剤、及び全ての組み合わせによるAβ40、Aβ42またはAβ42/Aβ40比に対する効果を示す。
【
図10】
図10aは、Dopamin、DA agonist(SKF38393、Bromocriptine及びPD168077)のiPS細胞(FAD1)由来のニューロンにおけるAβ40、Aβ42またはAβ42/Aβ40に対する効果を検討した結果を示す。
図10bは、Talipexole、Pramipexole、Ropinirole及びCabergolineのiPS細胞(FAD1)由来のニューロンにおけるAβ40、Aβ42またはAβ42/Aβ40に対する効果を検討した結果を示す。
【
図11】
図11は、BACE inhibitor IV、JNJ-40418677、semagacestat、Bromocriptine、Cilostazol、Cromolyn、Fluvastatin、Probucol、Topiramateをそれぞれを添加した際の、sAPPα、sAPPβ、sAPPβ/α比の用量依存的な変化グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常に用いられる意味を有する。
【0014】
本発明は、アルツハイマー病の病態を示すヒト神経細胞(以下、「AD神経細胞」ともいう)におけるAβ病態を、それぞれ単独で改善し得る2以上の化合物であって、それらを組み合わせた場合に、単剤で使用した場合と比較して相加的なAβ病態改善効果を奏する化合物を組み合わせることを特徴とする、アルツハイマー病の予防及び/又は治療剤(以下、「本発明の医薬」ともいう)を提供する。
【0015】
具体的には、本発明の医薬は、下記表1−1〜1−19に記載の化合物番号1〜130からなる群より選択される2以上の化合物を有効成分とする。
【0035】
本発明の化合物は、市販品を用いるか、あるいは各化合物についてそれぞれ自体公知の方法により製造することができる。例えば、米国における各化合物の販売元は、Drugs@FDA(http://www.accessdata.fda.gov/scripts/cder/drugsatfda/index.cfm)等により知ることができる。
【0036】
表1に記載の各化合物は、フリー体だけでなく、その薬理学的に許容される塩も包含されるものとする。薬理学的に許容される塩は化合物の種類によって異なるが、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アルミニウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩、並びにトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン等の有機塩基塩などの塩基付加塩、あるいは塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩などの酸付加塩が挙げられる。
また、表1に記載の各化合物は、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物等)であってもよい。
【0037】
表1に記載のいずれかの化合物が、光学異性体、立体異性体、位置異性体、回転異性体等の異性体を有する場合には、いずれか一方の異性体も混合物も当該化合物に包含される。例えば、表1に記載のいずれかの化合物に光学異性体が存在する場合には、ラセミ体から分割された光学異性体も当該化合物に包含される。これらの異性体は、自体公知の合成手法、分離手法(例、濃縮、溶媒抽出、カラムクロマトグラフィー、再結晶等)、光学分割手法(例、分別再結晶法、キラルカラム法、ジアステレオマー法等)等によりそれぞれを単品として得ることができる。
表1に記載の各化合物は、結晶であってもよく、結晶形が単一であっても結晶形混合物であっても本発明の化合物に包含される。結晶は、自体公知の結晶化法を適用して、結晶化することによって製造することができる。
表1に記載の各化合物は、溶媒和物(例、水和物等)であっても、無溶媒和物(例、非水和物等)であってもよく、いずれも本発明の化合物に包含される。
また、同位元素(例、
3H、
14C、
35S、
125I等)等で標識された化合物も、表1に記載の化合物に包含される。
【0038】
表1に記載の各化合物は、いずれもAD以外の適応(
図1e参照)でFDAから承認を受けている医薬品化合物である(化合物番号14と124は併用薬(DIMENHYDRINATE)として承認を受けている)。これらの化合物は、AD神経細胞におけるAβの病理的変化の改善(即ち、(1)Aβ42レベルの低減、(2)Aβ40レベルの低減、(3)Aβ42/40比の低減)のうちの1以上の作用を有することが、後述の実施例において実証されている(表2、
図1e、
図6c)。これらの化合物は、さらに他のAβペプチド種(Aβ38、Aβ43)のレベル、α-もしくはβ-セクレターゼ切断により得られる可溶性APP(sAPP-α、sAPP-β)のレベルの1以上に対してAD病態を改善する方向へ変化させる作用を有し得る。
【0039】
表1に記載の各化合物は、Extended Connectivity Fingerprint(ECFP)法(Rogers D et al. J Chem Inf Model. 2010 24;50(5):742-54.)を用い、それらの分子構造をフィンガープリンティング情報に変換し、距離行列に基づいたクラスタリング解析を行うことにより(
図2a)、10のクラスターに分類される(表1、
図2b)。すなわち、同じクラスターに属する化合物は、既知の薬効によるバイアスがかかっていない、構造式に依存した類似性を有する化合物群である。
【0040】
異なる薬剤構造を有する2以上の化合物を組み合せて用いることで、複数の治療標的に同時に作用することが可能となり、その結果、個々の化合物の単独投与の場合と比較して優れた治療効果(例えば、相加効果、好ましくは相乗効果)が発揮される。「化合物の単独での投与と比較して優れた効果を発揮する」とは、上記(1)〜(3)のAβの病理的変化改善作用の1以上について、最大効果値(Emax)もしくは50%効果濃度(EC50)が単独投与時のものよりも優れていること、あるいは単独投与時と比較して改善される病理的変化の種類が増すことを意味する。
従って、本発明の医薬において、好ましくは異なるクラスターに属する表1に記載の2以上の化合物が組み合わされる。異なるクラスターに分類される化合物を組み合わせる場合、クラスターの組合せは、化合物の単独での投与と比較して優れた効果を有する限り特に制限されないが、例えば、クラスター1、2、4及び5からなる群より選択される2以上のクラスターに属する2種以上の化合物の組合せであることが好ましい。3種以上の化合物を組み合わせる場合、いずれか1種の化合物が異なるクラスターに属していれば、他の2種以上の化合物は同一のクラスターに属していてもよい。
好ましい一実施態様において、本発明の医薬は、クラスター1、2、4及び5からなる群より選択される(1)2種のクラスター(例、クラスター1と2、クラスター1と4、クラスター1と5、クラスター2と4、クラスター2と5、クラスター4と5)に属する2種以上の化合物、(2)3種のクラスター(例、クラスター1、2及び4、クラスター1、2及び5、クラスター1、4及び5、クラスター2、4及び5)に属する3種以上の化合物、又は(3)4種のクラスター(クラスター1、2、4及び5)に属する4種以上の化合物を組み合わせたものであり得る。より好ましい実施態様において、本発明の医薬は、3種のクラスターに属する3種以上の化合物であり、特に好ましくは、クラスター1、2及び5に属する3種以上の化合物、又はクラスター2、4及び5に属する3種以上の化合物を組み合わせたものであり得る。
別の実施態様において、本発明の医薬は、クラスター1、2、4及び5からなる群より選択される2以上のクラスターに属する2種以上の化合物に加えて、他のクラスター(クラスター3及び6〜10)に属する1種以上の化合物をさらに組み合わせることができる。
【0041】
クラスター1、2、4及び5に属する化合物として、好ましくは以下の化合物を挙げることができる。
(a)クラスター1:Cromolyn及びNiflumic acid、好ましくはCromolyn
(b)クラスター2:Bromocriptine及びFluvastatin
(c)クラスター4:Probucol及びTioxolone、好ましくはProbucol
(d)クラスター5:Cilostazol及びTopiramate
従って、好ましい実施態様において、本発明の医薬は、上記(a)から選ばれる1以上の化合物(Cromolyn及び/又はNiflumic acid、好ましくはCromolyn)、上記(b)から選ばれる1以上の化合物(Bromocriptine及び/又はFluvastatin)、上記(c)から選ばれる1以上の化合物(Probucol及び/又はTioxolone、好ましくはProbucol)、並びに上記(d)から選ばれる1以上の化合物(Cilostazol及び/又はTopiramate)から選択される2種((a)と(b)、(a)と(c)、(a)と(d)、(b)と(c)、(b)と(d)、(c)と(d))の化合物、3種((a)、(b)及び(c)、(a)、(b)及び(d)、(a)、(c)及び(d)、並びに(b)、(c)及び(d))の化合物、あるいは4種((a)、(b)、(c)及び(d))の化合物を組み合わせたものである。
さらに好ましくは、本発明の医薬は、Bromocriptine、Cilostazol、Cromolyn、Fluvastatin、Probucol及びTopiramateからなる群より選択される2以上の化合物、好ましくは3以上の化合物を組み合わせてなるものである(但し、BromocriptineとFluvastatin、あるいはCilostazolとTopiramateとを組み合わせる場合は、さらに別の1以上の化合物を組み合わせることが望ましい)。
特に好ましくは、本発明の医薬は、Bromocriptine、Cromolyn及びTopiramateを組み合わせたもの(「BCroT」と略記する場合がある)、あるいはBromocriptine、Cilostazol及びProbucolを組み合わせたもの(「BciP」と略記する場合がある)であり、最も好ましくはBCroTである。
【0042】
一方、クラスター3及び6〜9に属する化合物として、好ましくは以下の化合物を挙げることができる。
(e)クラスター3:Pinacidil及びVerapamil
(f)クラスター6:Cetrimonium
(g)クラスター7:Metricrane
(h)クラスター8:Dapsone
(i)クラスター9:Chloropyramine
【0043】
本発明の医薬において、有効成分である表1に記載の2以上の化合物は、それぞれ単独で製剤化してもよいし、合剤としてもよい。前者の場合、各製剤を同一対象に対して同時にまたは時間差をおいて投与することができる。
【0044】
本発明の医薬は、有効成分である表1に記載の化合物をそのまま単独で、または薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤等と混合し、適当な剤型の医薬組成物として経口的又は非経口的に投与することができる。
【0045】
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。一方、非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。これらの製剤は、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、葡萄糖、マンニトール、ソルビトールのような糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α澱粉、デキストリンのような澱粉誘導体;結晶セルロースのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルランのような有機系賦形剤;及び、軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩誘導体;燐酸水素カルシウムのような燐酸塩;炭酸カルシウムのような炭酸塩;硫酸カルシウムのような硫酸塩等の無機系賦形剤である)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;タルク;コロイドシリカ;ビーズワックス、ゲイ蝋のようなワックス類;硼酸;アジピン酸;硫酸ナトリウムのような硫酸塩;グリコール;フマル酸;安息香酸ナトリウム;DLロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;及び、上記澱粉誘導体である)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、及び、前記賦形剤と同様の化合物である)、崩壊剤(例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾されたデンプン・セルロース類である)、乳化剤(例えば、ベントナイト、ビーガムのようなコロイド性粘土;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムのような金属水酸化物;ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウムのような陰イオン界面活性剤;塩化ベンザルコニウムのような陽イオン界面活性剤;及び、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルのような非イオン界面活性剤である)、安定剤(メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;及び、ソルビン酸である)、矯味矯臭剤(例えば、通常使用される、甘味料、酸味料、香料等である)、希釈剤等の添加剤を用いて周知の方法で製造される。
【0046】
本発明の医薬の投与形態は、その剤形に合わせて適宜選択することができる。例えば、(1)表1に記載の2以上の化合物を単一の製剤(合剤)として製剤化する場合、該合剤を所望の投与経路で投与することができる。一方、(2)表1に記載の2以上の化合物を別々に製剤化して2種以上の製剤からなる併用剤とする場合、(2a)これら2以上の製剤を同一投与経路で同時に投与してもよいし、(2b)これら2以上の製剤を同一投与経路で時間差をおいて投与してもよいし、(2c)これら2以上の製剤を異なる投与経路で同時に投与してもよいし、(2d)これら2以上の製剤を異なる投与経路で時間差をおいて投与してもよい。
【0047】
本発明の医薬の有効成分である表1に記載の各化合物の投与量は、化合物の種類、投与経路、投与対象の症状、齢、体重、薬物受容性等の種々の条件により変化し得るが、経口投与の場合には、1回当たり下限0.1mg(好適には0.5mg)、上限1000mg(好適には500mg)を、非経口的投与の場合には、1回当たり下限0.01mg(好適には0.05mg)、上限100mg(好適には50mg)を、成人に対して1日当たり1乃至6回投与することができる。症状に応じて増量もしくは減量してもよい。表1に記載のいずれの化合物も、AD以外の疾患に対する医薬品として既に上市されているので、各化合物について、安全性が確認されている範囲で、適宜投与量を選択することができる。
例えば、表1に記載される化合物の安全性に関する情報は、アメリカ国立医学図書館が運営するDailyMed(http://dailymed.nlm.nih.gov/dailymed/index.cfm)より入手することができる。
【0048】
さらに、本発明の医薬は、他の薬剤、例えば、
図5aに記載されるAβ病態改善作用が既知である化合物、
図5b及び5cに記載される既存のAD治療薬、好ましくはDonepezil等と併用してもよい。本発明の医薬及びこれらの他の薬剤は、同時に、順次又は別個に投与することができる。
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
早期に再現性高くiPS細胞から大脳皮質神経への誘導するため、PiggyBacを用いてドキシサイクリン誘導性プロモーターに連結したヒトNeurogenin 2遺伝子(NGN2)を導入したiPS細胞を用いた(
図1a、
図1b、
図4a及び
図4b)。なお、4人の家族性アルツハイマー病(FAD)患者、2人の孤発性アルツハイマー病(SAD)患者及び4人の健常人(HC)から作製したiPS細胞を用いた。iPS細胞は、Okita K et al., Nature. 2007, vol 448, pp 313-317に記載の方法で樹立した。これらのiPS細胞にNGN2遺伝子を導入し、ドキシサイクリンを添加して5日間一過的に発現させることにより、外来性のNGN2の残存なく、ヒトiPS細胞を大脳皮質神経へと変換できることが確認された(
図1c、
図4b、
図4c及び
図4d)。変換された大脳皮質神経は、自発的な活動電位及び電位依存性に電流を生じることも確認された(
図4e)。Aβアッセイのために適した時期を決定するため、培地中の経時的なAβ量の変化を分析し、8日目のニューロンがAβの分泌が安定し十分に成熟したことを確認した(
図4f)。さらに、PSEN1またはAPP遺伝子に変異を有するFAD患者由来の大脳皮質ニューロンにおいて、毒性のあるAβであるAβ42量及びAβ42/40比が、SAD患者または健常人由来の神経細胞よりも1.5から3倍高いことがしめされた(
図4f)。
【0051】
以上の結果より、ハイスループットスクリーニング(HTS)を行うために用いるiPS細胞として、Aβ42/40比が最も高かったPSEN1のG384A変異を有するFAD患者(FAD1)由来のiPS細胞を選択した。続いて、当該iPS細胞から神経細胞への分化誘導後8日目にBACE inhibitor IV、JNJ-40418677、semagacestat及びacitretinなどAβ産生及びAβ42/40比を低下させることが既知の化合物を添加し、2日後にAβ量を確認したところ、全ての化合物において、Aβ病変を改善することが確認された(
図5a)。しかし、低用量のsemagacestatではAβ42が増加し(
図5a)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)であるスリンダク・フルビプロフェンおよび、Bcr-AblおよびC-kitの阻害作用を持つ抗癌剤のイマニチブは、AD関連遺伝子を過剰発現した細胞を用いてγ-セクレターゼ調整作用を証明した既報に反して、低用量ではAβ病態の改善が見られなかった(
図5b)。さらに、コリンエステラーゼ阻害薬及びNMDAブロッカーを含む、すでに上市され広く用いられているAD治療薬を評価したところ、これらの対症療法薬はAβ病態の改善には効果がないことが示された(
図5c)。以上の結果より、FAD1神経細胞はスクリーニングに用いることができることが確認された。
【0052】
続いて、FDAにて承認済みの1280個からなる既存薬ライブラリーを用いてスクリーニングを行い、Aβ病態の改善薬の探索を試みた。陰性対照として、0.1% DMSOを用い、Aβ40に対する陽性対照として、2μM BACE inhibitor IVを用い、Aβ42及びAβ42/40比の陽性対照として、2μM JNJ-40418677を用いた。HTSの実用性と再現性を意味するZ’ factorは、0.5以上であり、適切なHTSであることが示された(
図6a及び
図6b)。1次スクリーニングの結果、130の候補化合物(化合物番号14と124とは併用薬として上市されているため、129個の候補薬)を見出した(
図6c)。候補化合物の構造式(塩、ハロゲン化物の形態のものもフリー体として記載する)と一般名を表1に示す。
【0053】
さらに1次スクリーニングの候補薬の再現性を検討するため2次スクリーニングを行った。Aβ40、Aβ42、Aβ42/40比に加えて、Aβ38、Aβ43、sAPPα、sAPPβについても検討し、それぞれの数値を得た。以上の結果を表2及び
図7に示す。
【0054】
【表2-1】
【0055】
【表2-2】
【0056】
【表2-3】
【0057】
【表2-4】
【0058】
【表2-5】
【0059】
【表2-6】
【0060】
近年Combination therapyの重要性が様々な分野で検討されている。相乗的な効果を得るために、類似した化合物の組み合わせではなく、より相違性の高い薬剤の組み合わせを検討した。薬剤構造をコンピューター処理に適したECFP4 method(Rogers D et al. J Chem Inf Model. 2010 24;50(5):742-54.)を用いた“Finger printing”情報に変換し、距離行列に基づいたクラスタリング解析を通して構造式に依存した類似性を検討することで、既知の薬効によらないNon biasの分類を試みた。結果として、129の候補薬は10個のClusterに分類された。当該結果を表2及び
図2bに示す。
【0061】
二次スクリーニングで得られた数値に基づくAβ変化率の大きい薬剤と、異なるクラスターに分類された薬剤を選出し、さらに、異なるサプライヤーから得た同一構造化合物を用いても用量依存的な反応性が見られ(
図2c)、特に低いEC
50と高いE
maxが得られた6種類の既存薬をエリートとして選抜した。さらに中枢移行性、先制医療としての投与するべき年代への相応しさから、Bromocriptine、Cromolyn及びTopiramate(BCroT)と、Bromocriptine、Cilostazol及びProbucol(BCiP)の二種の、既存薬カクテルを見出した(
図3a、
図9)。これらは単剤と比べて、Chemical clusteringで異なるクラスターを用いた結果(
図2b)、相加的に作用することがわかった(
図3a、
図9)。さらに、もっとも汎用されているAD治療薬であるDonepezilとの併用で、野生型もしくはProtective Aβとして認識されているAβ40のEC
50を上げることがわかった(
図3b、c)。
【0062】
さらに、FAD・SAD患者・体細胞生検時点における健常人を含む合計11名の別々の個人(
図3d、e、表3)から樹立したiPS細胞(
図4a)から、同様にNGN2強制発現で大脳皮質神経細胞を作製し(
図4b、c)、6種類の選抜エリート既存薬、もしくはBCroT、BCiPのカクテルを投与したところ、それぞれでAβ治療効果が見られた(
図3f)。
【0063】
【表3】
【0064】
最後に野生型ICRマウスに、BCroT及びBCiPを経口投与し、16時間後の脳内Aβ量の変化を検討した(
図3g)。投与量は体重あたり換算が臨床使用用量と、その5倍、25倍量でそれぞれ検討した。臨床使用用量のBCroTカクテルは、十分なAβ42及びAβ42/40比の低下を示した。一方でBCiPカクテルでは逆に、臨床使用用量の5倍もしくは25倍でAβ42及びAβ42/40比の低下を示した(
図3h)。
【0065】
6種類の選抜エリート既存薬は、安全性、使用に適する濃度、副作用などの情報が明確であり、中枢神経移行性が示されている。本発明により、これらエリート既存薬のAD神経細胞への直接的な効果があきらかになった。Bromocriptineはfingerprintが、βセクレターゼ阻害剤(BSI)グループ1に分類され(
図2b)、sAPPの代謝からもBSI様の作用を有することが示唆された(表2、
図11)。一方、Bromocriptineとともに、アンフェタミン、ドパミン、麦角系ドパミンアゴニストに効果があることからドパミン系によるAβ抑制効果が期待できることがわかった。
【0066】
本実施例においても示したように、AD原因遺伝子を非生理的な発現量で強制発現させたマウス及び細胞株を用いた実験結果と、生理的な遺伝子発現量であるヒトiPS細胞由来大脳皮質神経細胞を用いた薬効検討結果は異なることがわかった。すなわち、より適切な薬効評価を行うためにはヒトiPS細胞由来大脳皮質神経細胞を用いた検討が有用である。 今後最終段階での薬効評価に用いるヒトiPS細胞の例数をより増やすことでヒト神経細胞をもちいた有効性確認をより精緻に行うことができる。これは現在臨床治験の第1相試験(少数例の健常人における安全性評価)及び第2相試験(少数例の患者における安全性・薬効評価)に至る前の、ヒトiPS細胞由来神経細胞を用いた薬効評価を行うことができるin vitro clinical trialとして創薬開発における重要なステップとなる可能性を持っている。
【0067】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。したがって、本発明は添付の「請求の範囲」の精神および範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0068】
本出願は、2015年12月29日付で日本国に出願された特願2015-257706を基礎としており、ここで言及することによりその内容は全て本明細書に包含される。