特許第6879581号(P6879581)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6879581タング折り取り工具及びタング折り取り方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6879581
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】タング折り取り工具及びタング折り取り方法
(51)【国際特許分類】
   B25B 27/30 20060101AFI20210524BHJP
【FI】
   B25B27/30
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-104356(P2019-104356)
(22)【出願日】2019年6月4日
(65)【公開番号】特開2020-196099(P2020-196099A)
(43)【公開日】2020年12月10日
【審査請求日】2020年9月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519028597
【氏名又は名称】株式会社三友精機
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】110000866
【氏名又は名称】特許業務法人三澤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五島 環
【審査官】 山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−156751(JP,A)
【文献】 国際公開第01/014105(WO,A1)
【文献】 特開2007−326162(JP,A)
【文献】 特開2005−238376(JP,A)
【文献】 特開平07−108429(JP,A)
【文献】 特開2001−150363(JP,A)
【文献】 特許第5639443(JP,B2)
【文献】 特開2008−038937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タップ穴に挿入されたタング付きインサートのタングに引っかかるフックを有するフック部材と、
前記タング付きインサートから前記タングを折り取るよう、前記タップ穴の奥側から手前側へ前記タップ穴の延伸方向に対して斜めに交差する斜め方向に前記フック部材を移動させる移動部材と、
前記タング付きインサートから折り取られ、前記フックに引っかけられた前記タングを保持する保持部材と、
を備えることを特徴とするタング折り取り工具。
【請求項2】
前記移動部材は、前記フックが前記タングに引っかかって前記斜め方向に前記タングを引き上げ、前記タング付きインサートから前記タングを折り取るよう、前記フック部材を移動させることを特徴とする請求項1に記載のタング折り取り工具。
【請求項3】
前記フックは、前記タングに引っかかる引っかかり面を有しており、前記引っかかり面の長手方向が前記タングの延伸方向に沿う状態で前記タングに引っかかるように形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のタング折り取り工具。
【請求項4】
前記保持部材は、前記フックが前記タングに引っかかった状態で、前記タングに接触するように設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のタング折り取り工具。
【請求項5】
前記フックが前記タングに引っかかるよう、前記フックを前記タングに導く案内部材を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のタング折り取り工具。
【請求項6】
前記案内部材は、前記フック部材に設けられ、前記タングが入り込む収容空間を前記フック部材と協力して形成することを特徴とする請求項5に記載のタング折り取り工具。
【請求項7】
前記案内部材は、弾性変形可能な板バネであり、
前記板バネは、前記収容空間に入り込む前記タングに接触して弾性変形することを特徴とする請求項6に記載のタング折り取り工具。
【請求項8】
前記移動部材は、
前記フック部材を移動させるプライヤと、
前記プライヤと前記タップ穴との離間距離を定める規定部材と、
を有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のタング折り取り工具。
【請求項9】
前記プライヤは、第1のステー及び第2のステーを有し、
前記フック部材は、
前記第1のステーにより前記斜め方向に移動し、
前記第1のステーが通過する貫通孔であって、前記フック部材が前記第1のステーに沿って移動することを可能にするサイズの第1の貫通孔と、
前記第2のステーが通過する貫通孔であって、前記フック部材が前記第2のステーに妨げられずに移動することを可能にするサイズの第2の貫通孔と、
を有することを特徴とする請求項8に記載のタング折り取り工具。
【請求項10】
タップ穴に挿入されたタング付きインサートのタングに、タング折り取り工具が備えるフック部材のフックを引っかける工程と、
前記タング付きインサートから前記タングを折り取るよう、前記タップ穴の奥側から手前側へ前記タップ穴の延伸方向に対して斜めに交差する斜め方向に前記フック部材を、前記タング折り取り工具が備える移動部材により移動させる工程と、
前記タング付きインサートから折り取られ、前記フックに引っかけられた前記タングを、前記タング折り取り工具が備える保持部材により保持する工程と、
を有することを特徴とするタング折り取り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タング折り取り工具及びタング折り取り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、雌ネジの耐久性が要求される場合や強い締め付けが必要となる場合など、強硬な雌ネジが求められる場合には、例えばコイルインサートやネジインサートなどと呼ばれるインサートが用いられる。インサートは、ステンレスなどの線材がコイル状に巻かれて形成されており、インサート挿入工具により樹脂やアルミ合金などの被加工物のタップ穴(ネジ穴)にねじ込まれて挿入される(埋め込まれる)。インサートの端部には、コイルの直径方向に折り曲げられたタングが形成されている。このタング付きインサートをタップ穴に挿入する場合には、ユーザがインサート挿入工具を用い、インサート挿入工具の先端部でタングを挟み、あるいは、インサート挿入工具の先端部をタングに引っかけ、タングを介してインサートを回転させてタップ穴にねじ込む。
【0003】
タングは、タップ穴へのインサート挿入時に用いられるものであり、インサート挿入後には不要となる。このため、タングの根元周辺には、タング折り取り用のノッチが形成されている。ユーザは、タップ穴へのインサート挿入後、鋼棒などのピンをタングに当て、ピンの頭部をハンマーで叩いてタングを折り取る(折り取り作業)。インサートから折り取られたタングはタップ穴に残るため、ユーザは、ピンセットなどの工具を用いて、タップ穴からタングを回収する(回収作業)。このように折り取り作業及び回収作業の両方を行う必要があり、また、作業途中での工具交換により作業が中断されるため、作業効率は低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−156751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、作業効率を向上させることができるタング折り取り工具及びタング折り取り方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係るタング折り取り工具は、タップ穴に挿入されたタング付きインサートのタングに引っかかるフックを有するフック部材と、前記タング付きインサートから前記タングを折り取るよう、前記タップ穴の奥側から手前側へ前記タップ穴の延伸方向に対して斜めに交差する斜め方向に前記フック部材を移動させる移動部材と、前記タング付きインサートから折り取られ、前記フックに引っかけられた前記タングを保持する保持部材とを備えることを特徴とする。
【0007】
上記タング折り取り工具について、前記移動部材は、前記フックが前記タングに引っかかって前記斜め方向に前記タングを引き上げ、前記タング付きインサートから前記タングを折り取るよう、前記フック部材を移動させるようにしてもよい。
【0008】
上記タング折り取り工具について、前記フックは、前記タングに引っかかる引っかかり面を有しており、前記引っかかり面の長手方向が前記タングの延伸方向に沿う状態で前記タングに引っかかるように形成されているようにしてもよい。
【0009】
上記タング折り取り工具について、前記保持部材は、前記フックが前記タングに引っかかった状態で、前記タングに接触するように設けられているようにしてもよい。
【0010】
上記タング折り取り工具について、前記フックが前記タングに引っかかるよう、前記フックを前記タングに導く案内部材を備えるようにしてもよい。
【0011】
上記タング折り取り工具について、前記案内部材は、前記フック部材に設けられ、前記タングが入り込む収容空間を前記フック部材と協力して形成するようにしてもよい。
【0012】
上記タング折り取り工具について、前記案内部材は、弾性変形可能な板バネであり、前記板バネは、前記収容空間に入り込む前記タングに接触して弾性変形するようにしてもよい。
【0013】
上記タング折り取り工具について、前記移動部材は、前記フック部材を移動させるプライヤと、前記プライヤと前記タップ穴との離間距離を定める規定部材とを有するようにしてもよい。
【0014】
上記タング折り取り工具について、前記プライヤは、第1のステー及び第2のステーを有し、前記フック部材は、前記第1のステーにより前記斜め方向に移動し、前記第1のステーが通過する貫通孔であって、前記フック部材が前記第1のステーに沿って移動することを可能にするサイズの第1の貫通孔と、前記第2のステーが通過する貫通孔であって、前記フック部材が前記第2のステーに妨げられずに移動することを可能にするサイズの第2の貫通孔とを有するようにしてもよい。
【0015】
本発明の実施形態に係るタング折り取り方法は、タップ穴に挿入されたタング付きインサートのタングに、タング折り取り工具が備えるフック部材のフックを引っかける工程と、前記タング付きインサートから前記タングを折り取るよう、前記タップ穴の奥側から手前側へ前記タップ穴の延伸方向に対して斜めに交差する斜め方向に前記フック部材を、前記タング折り取り工具が備える移動部材により移動させる工程と、前記タング付きインサートから折り取られ、前記フックに引っかけられた前記タングを、前記タング折り取り工具が備える保持部材により保持する工程とを有することを特徴とする。

【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態によれば、作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施の一形態に係るタング折り取り工具を示す斜視図である。
図2】実施の一形態に係るタング折り取り工具を示す正面図である。
図3】実施の一形態に係るタング折り取り工具を示す左側面図である。
図4】実施の一形態に係るタング折り取り動作を説明するための第1の図である。
図5】実施の一形態に係るタング折り取り動作を説明するための第2の図である。
図6】実施の一形態に係るタング折り取り動作を説明するための第3の図である。
図7】実施の一形態に係るタング折り取り動作を説明するための第4の図である。
図8】実施の一形態に係るタング折り取り動作を説明するための第5の図である。
図9】実施の一形態に係るインサートのノッチを説明するための図である。
図10】実施の一形態に係る挿入部材の変形例1を示す図である。
図11】実施の一形態に係る挿入部材の変形例2を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施の一形態>
実施の一形態について図面を参照して説明する。なお、実施形態中の上下左右の方向は図面に基づくものである。
【0019】
(基本構成)
図1から図3に示すように、実施の一形態に係るタング折り取り工具10は、挿入部材20と、移動部材30とを備えている。このタング折り取り工具10は、図4に示すような被加工物A1のタップ穴A2に挿入された(埋め込まれた)タング付きインサートB1(以下、インサートB1という)からタングB2を折り取って回収するために用いられる。
【0020】
挿入部材20は、フック部材21と、案内部材22(図1及び図3参照)と、保持部材23とを有している。この挿入部材20は、被加工物A1のタップ穴A2に挿入されたインサートB1内に挿入される。
【0021】
フック部材21は、円柱状に形成されており、このフック部材21の下端側の端部には、フック(引っかかり部)21aが形成されている。フック21aは、タップ穴A2に挿入されたインサートB1のタングB2に引っかかるようにL字形状に形成されている。このフック21aは、図3に示すように、引っかかり面M1及び傾斜面M2を有している。引っかかり面M1は、フック部材21の延伸方向に対して直交する略矩形状の平面である。傾斜面M2は、引っかかり面M1に対して鋭角で傾斜する略矩形状の平面である。また、フック部材21は、図3に示すように、当接面M3を有している。当接面M3は、フック部材21の延伸方向に対して直交する略矩形状の平面であり、引っかかり面M1に対向している。フック部材21は、図1及び図2に示すように、移動部材30の一部に連結されており、移動部材30により上方へ移動可能に構成されている(詳しくは後述する)。
【0022】
案内部材22は、図1及び図3に示すように、板形状に形成されており、その下端側の端部がフック21aと対向し、タングB2が入り込む収容空間をフック部材21と協力して形成するようにフック部材21に設けられている。この案内部材22は、図2及び図3に示すように、例えば二個の固定部材24によりフック部材21に固定されている。案内部材22としては、例えば、弾性変形可能な板バネが用いられる。また、固定部材24としては、例えば、ボルトやネジが用いられる。案内部材22の先端部は、図3に示すように、フック21a側に突出して屈曲するV字形状に形成されており、二つの傾斜面M4、M5を有している。これらの傾斜面M4、M5は、V字形状の屈曲部分から互いに遠ざかるように傾斜する平面である。屈曲部分の高さ位置は、フック21aの引っかかり面M1と同じ高さ位置になっている。案内部材22は、フック部材21の上方への移動に応じ、タップ穴A2に挿入されたインサートB1のタングB2に接触し、フック21aの引っかかり面M1をタングB2の直下に導く(詳しくは後述する)。
【0023】
ここで、挿入部材20は、フック21a側からタップ穴A2に挿入され、そのタップ穴A2の奥に移動していく。このとき、案内部材22がタングB2に当接してもそのタングB2を折り取ることはなく、収容空間に入り込むタングB2に接触して弾性変形するよう、例えば1mm程度の所定厚さの板形状に形成されている。このため、案内部材22は、タングB2に当接しても、タングB2を折り取らずに回避し、タングB2は、案内部材22とフック部材21との間の空間である収容空間に入り込む。なお、案内部材22の屈曲部分とフック部材21のフック21aの先端部分とは接触しており、この部分が収容空間への入口になっている。
【0024】
保持部材23は、図1及び図3に示すように、フック21aにおいてタングB2が当接する箇所の近傍、例えば、フック21aの引っかかり面M1の近傍に位置付けられ、フック21aの延伸部分の内部に設けられている。この保持部材23は、両端面がフック21aの表面から露出しており、タップ穴A2に挿入されたインサートB1から折り取られたタングB2を保持する。保持部材23としては、例えば、タングB2を吸着する磁石(一例として、永久磁石)が用いられる。
【0025】
移動部材30は、図1及び図2に示すように、プライヤ31と、規定部材32とを有している。この移動部材30は、タップ穴A2に挿入されたインサートB1からタングB2を折り取るとき、プライヤ31によりフック部材21をタップ穴A2の奥側から手前側(下側から上側)へタップ穴A2の延伸方向に対して斜めに交差する方向、すなわち斜め方向に移動させる(詳しくは後述する)。
【0026】
プライヤ31は、第1のステー31aと、第2のステー31bとを有している。これらの第1のステー31a及び第2のステー31bは、それらの端部同士が近づいたり離れたりするようにピボット(回転軸)31cで結合されており、端部同士を自由に開閉できるペンチ構造になっている。第1のステー31a及び第2のステー31bの個々の一端部(先端部51、52)は棒状に形成されており、それらの個々の他端部(後端部53、54)はユーザが持つグリップ部となるように形成されている。第1のステー31a及び第2のステー31bは、互いの先端部51、52が近づく方向(閉じる方向)に付勢部材31dにより付勢されている。付勢部材31dとしては、例えば、コイルスプリングなどのバネが用いられる。
【0027】
規定部材32は、円筒状(スリーブ状)に形成されており、貫通孔である収容孔32aを有している。収容孔32aは、フック部材21の移動及び収容を可能にするサイズに形成されている。また、規定部材32は、ガード32bを有している。ガード32bは円環状に形成されており、規定部材32の下端に設けられている。このガード32bは、規定部材32が被加工物A1の表面に当接するときの衝撃を和らげる緩衝材として機能する。ガード32bとしては、例えば、樹脂材が用いられる。規定部材32は、タップ穴A2に挿入されたインサートB1からタングB2を折り取るとき、ガード32bを介して被加工物A1の表面に当接し、タップ穴A2とプライヤ31との離間距離、すなわち被加工物A1の表面とプライヤ31との離間距離(例えば、垂直離間距離)を定める(詳しくは後述する)。
【0028】
この規定部材32は、第2のステー31bの先端部52の延伸方向に沿って移動可能に先端部52に設けられている。規定部材32は、図2に示すように、第1の貫通孔H1と、第2の貫通孔H2とを有している。第1の貫通孔H1及び第2の貫通孔H2は、規定部材32の上端側であって互いに対向する位置に位置付けられ、規定部材32の周面(周壁)に形成されている。これらの第1の貫通孔H1及び第2の貫通孔H2は、第2のステー31bの先端部52が通る貫通孔であり、規定部材32が先端部52に沿って移動することを可能にするサイズに形成されている。
【0029】
また、前述のフック部材21は、規定部材32の収容孔32aに通され、第1のステー31aの先端部51の延伸方向に沿って移動可能に先端部51に設けられている。フック部材21は、第1の貫通孔H3と、第2の貫通孔H4とを有している。第1の貫通孔H3は、フック部材21の上端側に形成されている。この第1の貫通孔H3は、第1のステー31aの先端部51が通る貫通孔であり、フック部材21が先端部51に沿って移動することを可能にするサイズに形成されている。第2の貫通孔H4は、フック部材21の中央付近に形成されている。この第2の貫通孔H4は、第2のステー31bの先端部52が通る貫通孔であり、フック部材21が先端部52に妨げられずに移動することを可能にするサイズ(フック部材21と第2のステー31bの先端部52が当接しないサイズ)に形成されている。
【0030】
ここで、第1のステー31aの先端部51は、フック部材21の第1の貫通孔H3を通過している。フック部材21は、第1のステー31aの先端部51の延伸方向に沿って移動可能になっており、また、先端部51の上方への移動によって上方(詳しくは斜め方向)へ移動する。また、第2のステー31bの先端部52は、規定部材32の第1の貫通孔H1、フック部材21の第2の貫通孔H4、規定部材32の第2の貫通孔H2を通過している。規定部材32は、第2のステー31bの先端部52の延伸方向に沿って移動可能になっており、また、先端部52の下方への移動によって下方へ移動する。
【0031】
なお、第2のステー31bの先端部52の先端には、規定部材32が先端部52から抜けないように返し部55が設けられている。この返し部55は、第2のステー31bの先端部52に対して着脱可能に形成されている。同様に、第1のステー31aの先端部51にも返し部56が設けられており、この返し部56は先端部51に対して着脱可能に形成されている。ただし、返し部55があれば、返し部56は無くてもよい。
【0032】
(タング折り取り動作)
次に、前述のタング折り取り工具10を用いたタング折り取り動作について図4から図9を参照して説明する。なお、図4から図8においては、被加工物A1やタップ穴A2、インサートB1を断面で示す。図7においては、図6と異なる方向から、図6と同様の状態を示す。また、図9では、インサートB1の下端側の端面(インサートB1においてタップ穴A2に先に挿入される側の端面)が示されている。
【0033】
図4から図8に示すように、インサートB1は、断面が菱形形状の線材(例えば、ステンレスなどの金属)がコイル状に巻かれて形成されている。インサートB1の外周面が外側ネジとして機能し、インサートB1の内周面が内側ネジとして機能する。このインサートB1の一端部には、図4から図9に示すように、コイルの直径方向に折り曲げられたタングB2が形成されている。インサートB1におけるタングB2の根元周辺には、図9に示すように、タング折り取り用のノッチB3が形成されている。ノッチB3は、インサートB1から折り取られたタングB2の小片が「レ」の字(V字)形状になるようにインサートB1に形成されている。ノッチB3は、コイルの軸を中心とする回転角度が、タングB2の根元からそのタングB2につながるコイルの円周方向に、例えば10度から90度の範囲内(タングB2の延伸方向を0度とする)に形成されている。インサートB1がインサート挿入工具によりタップ穴A2に挿入されると、タングB2はタップ穴A2の奥側に位置する。
【0034】
このタングB2を折り取るタング折り取り動作では、まず、プライヤ31の後端部であるグリップ部がユーザにより持たれ、挿入部材20、すなわちフック部材21がタップ穴A2の上方からタップ穴A2内に挿入されていく。挿入されたフック部材21は徐々に下降し、図4に示すように、タングB2がフック部材21と案内部材22との間の収容空間(フック部材21及び案内部材22により形成される空間)に入り込む。このとき、タングB2は、フック部材21の傾斜面M2や案内部材22の傾斜面M5に当接し(図3参照)、それらの傾斜面M2、M5に沿って収容空間に入り込む。また、タングB2が収容空間に入り込むとき、案内部材22は、収容空間に入り込むタングB2に接触して弾性変形する。
【0035】
プライヤ31のグリップ部を持つユーザは、タングB2がフック部材21と案内部材22との間(収容空間への入口)を通過する際に抵抗を感じるが、タングB2がその入口を通過すると抵抗を感じなくなる。このため、ユーザはタングB2が収容空間に入り込んだことを認識し、プライヤ31のグリップ部を握っても良いことを把握する。一方、ユーザが前述のようにタングB2が収容空間に入り込んだことを認識せず、挿入部材20の挿入を継続したとしても、収容空間に入り込んだタングB2はフック部材21の当接面M3に当接する。このため、ユーザは、抵抗を感じてタングB2が収容空間に入り込んだことを認識し、プライヤ31のグリップ部を握っても良いことを把握する。
【0036】
次に、図4に示すように、タングB2がフック部材21と案内部材22との間の収容空間に存在する状態で、プライヤ31のグリップ部がユーザにより握られる。これに応じて、プライヤ31の各ステー31a、31bは、それらの先端部51、52が離れる方向(開く方向)に移動する。第2のステー31bの先端部52の下方への移動により規定部材32は下降し、図5に示すように、規定部材32のガード32bが被加工物A1の表面に当接する。これにより、被加工物A1の表面とプライヤ31との垂直離間距離が固定され、第2のステー31bの先端部52の下方への移動が制限される。このため、第2のステー31bの先端部52が下方に移動しなくなるが、第1のステー31aの先端部51は上方に移動し続ける。この先端部51の上方への移動によりフック部材21が上昇し、図6及び図7に示すように、フック部材21のフック21aがタングB2に引っかかりつつ、引き上げられる。フック21aは、引っかかり面M1の長手方向がタングB2の延伸方向に沿う状態でタングB2に引っかかる。
【0037】
なお、前述のフック21aがタングB2に引っかかるまでのフック部材21の上昇時において、案内部材22の傾斜面M4がタングB2に当接すると(図3参照)、その傾斜面M4がタングB2に接触しながらフック部材21が動くため、フック21aの引っかかり面M1が自動的にタングB2の下に導かれ、タングB2に当接する。これにより、フック21aは確実にタングB2に引っかかる。なお、フック部材21は、第1のステー31aの先端部51の軸を回転軸として回転可能になっており、第2のステー31bの先端部52と貫通孔H4の内面との離間距離(遊び)の分だけ揺動可能になっている。
【0038】
次いで、図6及び図7に示すように、フック21aがタングB2に引っかかった状態のフック部材21は、タップ穴A2の延伸方向に対して鋭角の所定角度(例えば、7度から8度の角度範囲の所定角度)だけ傾けた斜め方向に上昇していき、プライヤ31のグリップ部である各後端部53、54(図1及び図2参照)が閉じると、第1のステー31aの先端部51の上方への移動が停止し、フック部材21の移動も停止する。このフック部材21の上昇途中で、インサートB1からタングB2が折り取られ、折り取られたタングB2は保持部材23によって保持される。この保持部材23は、フック21aがタングB2に引っかかった状態で、タングB2に接触するように設けられている。その後、タング折り取り工具10がユーザにより上方に上げられ、図8に示すように、フック部材21がタップ穴A2から取り出される。最後に、保持部材23により保持されたタングB2は、ユーザにより保持部材23から取り除かれる。
【0039】
このようなタング折り取り動作によれば、ユーザがプライヤ31のグリップを持って挿入部材20をフック21a側からタップ穴A2内のインサートB1に挿入し、プライヤ31のグリップを握ることで、インサートB1からタングB2が折り取られる。その際、折り取られたタングB2は保持部材23により保持される。これにより、折り取られたタングB2はタング折り取り工具10によって回収されることになる。したがって、従来のように、ピンセットなどの工具を用いて、折り取られたタングB2をタップ穴A2から回収する作業を不要とすることが可能になるので、作業効率を向上させることができる。また、タング折り取り工具10によりタングB2を折り取って保持するため、工具交換も不要となり、工具の交換により作業が中断することも無くなるので、作業効率を向上させることができる。
【0040】
また、フック21aがタングB2に引っかかってタップ穴A2の奥側から手前側へタップ穴A2の延伸方向に対して斜めに交差する斜め方向に引き上げられるため、フック21aがタングB2に引っかかってタップ穴A2の奥側から手前側へタップ穴A2の延伸方向に平行に引き上げられる場合に比べ、タングB2を確実に折り取ることができる。なお、フック21aをタップ穴A2の延伸方向に平行に引き上げても折り取ることができなかったタングB2を、フック21aを斜め方向に引き上げることで折り取ることができることは、実験的に多数のタングB2において確認されている。
【0041】
前述の斜め方向の傾斜角度は、例えば、タップ穴A2の延伸方向に対して7度から8度の角度範囲内の鋭角の所定角度である。フック21aがタングB2に引っかかると、その所定角度の方向にタングB2に力がかかることになる。なお、所定角度は、インサートB1の直径や高さ(タップ穴A2の延伸方向に平行な長さ)などに応じて設定されるが、例えば、タングB2の折り取りを容易にするためには、20度以内であることが好ましく、また、タングB2の折り取りを容易にすることに加え、規定部材32を小型化するためには、10度以内であることがより好ましい。
【0042】
ここで、フック部材21が、タップ穴A2に挿入されたタングB2内に挿入されていない状態(フック21aがタングB2に引っかかっていない状態)において、プライヤ31がユーザにより操作されると、フック部材21は、ピボット31cを中心とする円、すなわち曲線に沿うように移動するが、フック21aも曲線に沿うように移動する。移動部材30は、フック部材21をタップ穴A2に挿入していない状態で、フック21aがタップ穴A2の延伸方向及びタングB2の延伸方向に平行な面に交差する(例えば、直交する)ピボット31cを回転軸として回転するようにフック部材21を移動させる。
【0043】
また、挿入部材20及び規定部材32は、プライヤ31に対して着脱可能に形成されている。これにより、挿入部材20及び規定部材32の取り外しが可能になるので、数種の規定部材又は数種の挿入部材を用意しておき、例えばインサートB1の直径や高さなどに応じて、規定部材32又は挿入部材20を種類が異なる他の規定部材又は他の挿入部材に交換することができる。
【0044】
以上説明したように、実施の一形態によれば、タップ穴A2に挿入されたインサートB1のタングB2に引っかかるフック21aを有するフック部材21が、タップ穴A2の奥側から手前側へタップ穴A2の延伸方向に対して斜めに交差する斜め方向に移動部材30により移動し、タップ穴A2に挿入されたインサートB1からタングB2が折り取られる。そして、インサートB1から折り取れられたタングB2が保持部材23により保持される。このため、折り取られたタングB2をタング折り取り工具10によって回収することができ、従来のように、ピンセットなどの工具を用いて、折り取られたタングB2をタップ穴A2から回収する回収作業を不要とすることが可能になるので、作業効率を向上させることができる。また、工具の交換も不要とすることが可能になり、工具の交換により作業が中断されることも無くなるので、作業効率を向上させることができる。
【0045】
(挿入部材の変形例)
挿入部材20の変形例1及び変形例2について図10及び図11を参照して説明する。
【0046】
変形例1では、図10に示すように、案内部材22の先端部がフック部材21側に折り曲げられ、この折り曲げられた先端部がフック部材21側に突出して屈曲するV字形状に形成されている。案内部材22は、前述と同様、二つの傾斜面M4、M5を有している。これらの傾斜面M4、M5は、屈曲部分から互いに遠ざかるように傾斜する平面である。屈曲部分の高さ位置は、フック21aの引っかかり面M1と同じ高さ位置になっている。なお、タング折り取り動作は前述と同様である。
【0047】
変形例2では、図11に示すように、フック部材21が二つのフック21aを有しており、また、案内部材22が無く、保持部材23である磁石がフック部材21の下端側の内部に設けられている。磁石の下面はフック部材21から露出している。各フック21aは、それらの間にタングB2が進入することが可能に離間しており、それらの先端が互いに反対方向を向くように形成されている。この離間している空間にタングB2が入り込み、フック部材21が中心軸(フック部材21の延伸方向に平行な中心軸)を回転軸として回転し、各フック21aの個々の引っかかり面M1がタングB2に対向する。この状態で、フック部材21が斜め方向に移動すると、各フック21aがタングB2に引っかかる。さらに、フック部材21が斜め方向に移動すると、インサートB1からタングB2が折り取られ、保持部材23である磁石に吸着されて保持される。
【0048】
したがって、変形例2でのタング折り取り動作においては、タングB2が各フック21aの間で各引っかかり面M1より上方(プライヤ31側)に位置する状態で、ユーザがプライヤ31を平面内で90度回し、フック部材21をその中心軸を回転軸として回転させ、その後、プライヤ31のグリップを握る。このプライヤ31を平面内で回転させる動作以外の動作は前述と同様である。
【0049】
ここで、例えば、プライヤ31に取り付けられている挿入部材20が他の挿入部材と交換される場合がある。この挿入部材20の交換作業では、各返し部55、56がプライヤ31から取り外され、規定部材32及び挿入部材20がプライヤ31から取り外される。その後、例えば、変形例1又は変形例2の挿入部材20が規定部材32と共にプライヤ31に取り付けられ、さらに、各返し部55、56がプライヤ31に取り付けられる。これにより、挿入部材20の交換が完了する。
【0050】
<他の実施形態>
前述の説明においては、フック部材21として円柱状の部材を用いることを例示したが、これに限るものではなく、例えば、四角柱状の部材など各種形状の部材を用いることが可能である。また、フック21aの引っかかり面M1の長手方向が第1のステー31aの延伸方向に対して平行となるようにフック部材21を形成することを例示したが、これに限るものではなく、例えば、フック21aの引っかかり面M1の長手方向が第1のステー31aの延伸方向に対してフック部材21の軸方向(延伸方向)に所定角度(例えば、数度)傾くようにフック部材21を形成するようにしてもよい。また、フック21aの引っかかり面M1の長手方向が第1のステー31aの延伸方向に対してフック部材21の軸周りに所定角度(例えば、90度や45度)傾くようにフック部材21を形成するようにしてもよい。
【0051】
また、前述の説明においては、案内部材22として板バネを用いることを例示したが、これに限るものではなく、他の部材を用いることが可能である。また、案内部材22の形状として、フック21aの引っかかり面M1をタングB2に導く形状、例えば、V字形状に形成することを例示したが、これに限るものではなく、各種形状を用いることが可能である。また、案内部材22を設けることを例示したが、これに限るものではなく、案内部材22を設けないようにしてもよい。ただし、タップ穴A2に挿入されたインサートB1のタングB2にフック21aを確実に引っかけるためには、案内部材22を設けることが好ましい。
【0052】
また、前述の説明においては、保持部材23として、インサートB1から折り取れられたタングB2を吸着する磁石を用いることを例示したが、これに限るものではなく、例えば、粘着材を用いるようにしてもよく、あるいは、タングB2を折り取る前から案内部材22によりフック21aに押し付けて保持し(案内部材22及びフック21aにより挟み込んで保持し)、折り取り後もタングB2をそのままフック21aに押し付けて保持するようにしてもよい。この場合には、案内部材22が保持部材として機能するため、保持部材23である磁石を不要とすることが可能であり、構成を簡略化することができる。
【0053】
また、前述の説明においては、保持部材23である磁石をフック21aの引っかかり面M1の近傍(フック21aの延伸部分における引っかかり面M1側)に位置付けてフック21aに設けることを例示したが、これに限るものではなく、磁石の磁力範囲に応じて、例えば、フック21aの延伸部分における当接面M3側に位置付けてフック21aに設けるようにしてもよく、あるいは、当接面M3に埋め込むようにフック部材21の下端側の端部に設けるようにしてもよい。
【0054】
また、前述の説明においては、規定部材32としてスリーブを用いることを例示したが、これに限るものではなく、他の部材や各種形状を用いることも可能である。また、タング折り取り工具10以外の工具や部材などにより、被加工物A1の表面とプライヤ31との離間距離(例えば、垂直離間距離)を定めることが可能であれば、規定部材32を不要とすることも可能である。
【0055】
以上、本発明に係る前述の実施形態を説明したが、前述の実施形態は例示であり、発明の範囲を限定するものではない。前述の実施形態は種々変更可能であり、例えば、前述の実施形態に示される構成要素を省略、置き換え、変更しても良く、さらに、異なる実施形態に係る構成要素を適宜組み合わせても良い。前述の実施形態やその変形は、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0056】
10 タング折り取り工具
20 挿入部材
21 フック部材
21a フック
22 案内部材
23 保持部材
24 固定部材
30 移動部材
31 プライヤ
31a 第1のステー
31b 第2のステー
31c ピボット
31d 付勢部材
32 規定部材
32a 収容孔
32b ガード
51 先端部
52 先端部
53 後端部
54 後端部
55 返し部
56 返し部
A1 被加工物
A2 タップ穴
B1 インサート
B2 タング
B3 ノッチ
H1 貫通孔
H2 貫通孔
H3 貫通孔
H4 貫通孔
M1 引っかかり面
M2 傾斜面
M3 当接面
M4 傾斜面
M5 傾斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11