(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6879786
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレースの製造方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20210524BHJP
【FI】
E04B1/58 D
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-43659(P2017-43659)
(22)【出願日】2017年3月8日
(65)【公開番号】特開2018-145733(P2018-145733A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】特許業務法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】傳野 悟史
(72)【発明者】
【氏名】中原 理揮
(72)【発明者】
【氏名】菊田 繁美
(72)【発明者】
【氏名】竹中 啓之
(72)【発明者】
【氏名】川又 哲也
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】本多 仁
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−253675(JP,A)
【文献】
特開2016−198909(JP,A)
【文献】
特開平11−200379(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0221389(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04H 9/02
B28B 7/00 − 7/46
B28B 23/02
E02D 27/00 − 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向における両端に接合用の接合部を有した芯材をアンボンド材で囲繞し、
その後、床面に寝かせた座屈拘束ブレース用型枠の内部に前記芯材をスペーサーで所望の位置に位置決めして設置し、
前記座屈拘束ブレース用型枠の中に高強度繊維補強コンクリートを打設し、
前記高強度繊維補強コンクリートの打設仕上げ面を鏝均し、
該打設した高強度繊維補強コンクリートの所要強度発現後に前記型枠から脱型させて製造し、
前記スペーサーは、前記芯材に対して水平方向に2段、垂直方向に1箇所設けること、
を特徴とする座屈拘束ブレースの製造方法。
【請求項2】
芯材は、材軸を床面に沿って寝かせるとともに、その弱軸を鉛直方向に沿って平行にして設置されること、
を特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレースの製造方法。
【請求項3】
座屈拘束ブレース用型枠が、転用可能な金属製型枠であること、
を特徴とする請求項1または2に記載の座屈拘束ブレースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の耐震、制振ブレース、火打ち材、土木構造物である橋や鉄橋などに使用される
座屈拘束ブレースの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、座屈拘束ブレース11は、
図3乃至
図5に示すように、芯材12となる鋼材を拘束枠材13および該拘束枠材13の凹部に充填された拘束充填材(例えば、モルタル)14とでなる拘束材20a,20bによって挟み込み、前記拘束枠材13の短手方向の端部を隅肉溶接部aで固着して、一体化してなるものである。
【0003】
この座屈拘束ブレース11の形成方法を説明すると、
図4に示すように、前記芯材12に縁切り用のアンボンド材17,18を貼着する。前記芯材12の長手方向の両端部は、接合用のボルト孔を設けたリブプレート19に形成されている。
【0004】
前記拘束枠材13には、その長手方向の両端部に塞ぎ材16が溶接して固着されている。この拘束枠材13の凹部に拘束充填材14であるモルタルが打設され充填される。前記芯材12の両側側面にスペース調整用のスペーサー15が配設されて、それらが前記拘束材20bの上に載せられ、更に、もう一方の拘束材20aが互い違いになるように被せられ、
図5に示すように、拘束枠材13の短手方向の端部を溶接手段で隅肉溶接し、隅肉溶接部aで芯材12と拘束枠材13とモルタルとでなる拘束材20a,20bとを一体化して、座屈拘束ブレース11を形成するものである。
【0005】
このような座屈拘束ブレース11は、特許文献1に記載されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−293461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の座屈拘束ブレースでは、拘束枠材13を製造するため、鋼管の加工業者を経てから製造するので、製造の歩掛が悪い。また、前記拘束枠材13の溶接の手間が増える。更に、前記芯材12の座屈を抑え込む補剛力の計算において充填材の効果を加味することが難しい。
【0008】
また、上記の先行打設型の座屈拘束ブレースであると、充填材(モルタル)表面の不陸の施工精度がブレース性能に影響してしまうことになる。更に、筒状の拘束部材に芯材を通して、モルタルを長手方向の端部から充填するという、充填打ち型の座屈拘束ブレースであると、内部の充填材の充填状況が把握できない、長物を製作する際には材軸を立てて充填材を打設する必要があり、鉛直方向に大きな施設が必要になり、芯材の反りを修正しにくいという課題がある。本発明に係る座屈拘束ブレースとその製造方法は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る座屈拘束ブレースの製造方法の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、長手方向における両端に接合用の接合部を有した
芯材をアンボンド材で囲繞し、その後、床面に寝かせた座屈拘束ブレース用型枠の内部に前記芯材をスペーサーで所望の位置に位置決めして設置し、前記座屈拘束ブレース用型枠の中に高強度繊維補強コンクリートを打設し、前記高強度繊維補強コンクリートの打設仕上げ面を鏝均し、該打設した高強度繊維補強コンクリートの所要強度発現後に前記型枠から脱型させて
製造し、前記スペーサーは、前記芯材に対して水平方向に2段、垂直方向に1箇所設けることである。
【0011】
、
前記芯材は、材軸を床面に沿って寝かせるとともに、その弱軸を鉛直方向に沿って平行にして設置されることである。
【0012】
前記座屈拘束ブレース用型枠が、転用可能な金属製型枠であることを含むものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の座屈拘束ブレースとその製造方法によれば、従来の先行打設型の形式において拘束材コンクリートの不陸調整に手間が掛かるとともに、嵌合の溶接に手間が掛かったが、本発明ではいずれも不要となる。また、従来の後打設型の形式において長物の製作時に高さ方向に大きな施設が必要であったが、本発明では横に寝かせて製造することができるようになる。
【0014】
更に、拘束材としての型枠として、鋼管を用いないので拘束材の製造業者が一社で済み製造の歩掛が良くなる。金属製型枠を転用するので製造歩掛が向上する。従来の最終仕上げであった拘束材表面の錆止め塗装も不要となり、製造工期の短縮となり、製造コストの低減となる。また、作業所での製造が可能なので、運搬費が削減できる。拘束材としての性能を高強度繊維補強コンクリート全体で評価することが可能となると言う優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る座屈拘束ブレース1の製造方法を示すコンクリート打設時の型枠断面図(A)、座屈拘束ブレース1の芯材2で、弱軸yを上下方向(鉛直方向)にした状態の断面図(B)である。
【
図2】同本発明の座屈拘束ブレース1の全体斜視図である。
【
図3】従来例に係る座屈拘束ブレース11の斜視図である。
【
図4】同座屈拘束ブレース11の構成を示す分解斜視図である。
【
図5】同座屈拘束ブレース11の、
図3に示すX−X線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る座屈拘束ブレース1とその製造方法は、
図1に示すように、高強度繊維補強コンクリート(UFC:Ultra High Strength Fiber Reinforced Concrete)7を使って形成するものである。
【実施例1】
【0017】
本発明に係る座屈拘束ブレース1は、
図1乃至
図2に示すように、長手方向における両端に接合用の接合部3を有する芯材2と、該芯材2を被覆するアンボンド材4と、前記芯材2および前記アンボンド材4の前記接合部を除く部分とを埋設する高強度繊維補強コンクリート7とでなる。
【0018】
前記高強度繊維補強コンクリート7は、その圧縮強度が60N/mm
2以上を有し、また、鋼繊維の補強効果で高い靱性が確保され、緻密な構造で極めて高い耐久性を有したものである。
【0019】
前記芯材2は、例えば、断面矩形状の鋼部材であり、その長手方向の端部に接合部3があり、貫通孔3aが複数穿孔されている。この芯材2が、前記高強度繊維補強コンクリート7に埋設されているので、従来の座屈拘束ブレース11のような金属製の枠材や凹部を有する鋼管のたぐいは、この座屈拘束ブレース1には必要無い。
【0020】
本発明に係る座屈拘束ブレース11の製造方法について説明する。
図1に示すように、 長手方向における両端に接合用の接合部3を有した座屈拘束ブレース用の芯材2をアンボンド材4で囲繞する。このアンボンド材4は、例えば、ブチルゴムなどのシート材である。
【0021】
このブチルゴムは、耐オゾン性、耐老化性、電気絶縁、衝撃吸収性に優れた合成ゴムである。アンボンド材4は、前記芯材2とコンクリートとの付着を防ぐもので、縁切り材であり、前記芯材2の全周に渡って巻くものである。これにより、従来例の座屈拘束ブレース11では、アンボンド材17,18以外に角棒、丸棒等のスペーサが2つ使用されたが、本発明に係る座屈拘束ブレース1ではそれが不要になる。
【0022】
その後、床面に寝かせた座屈拘束ブレース用型枠6を設置する。床面のベット5の上に、転用が可能な金属製の型枠6として、例えば、鋼製の型枠6を横長に配設する。この鋼製型枠6の内部に前記芯材2をスペーサー8で所望の位置に位置決めして設置する。
【0023】
図1(A),(B)に示すように、前記芯材2は、材軸(長手方向の図心を通る軸)を床面に沿って寝かせるとともに、断面二次モーメントの大きい強軸xを水平にして、その強軸xに直交する弱軸yを鉛直方向(図中では上下方向と記載)に沿って平行にして設置される。
【0024】
このように芯材2を配置するのは、コンクリート打設面を芯材2の狭い幅bの面にすることで、空気だまりができるのを防ぎ、密実にコンクリートを打設するためである。
【0025】
前記座屈拘束ブレース用型枠6の中に高強度繊維補強コンクリート7を打設し、前記高強度繊維補強コンクリート7の打設仕上げ面9を鏝均しする。その後、前記打設した高強度繊維補強コンクリート7の所要強度発現後に前記鋼製型枠6から脱型させて製造する。
【0026】
このようにして製造された座屈拘束ブレース1は、高耐力のブレース材として建物の制振ブレース等に使用されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る座屈拘束ブレース1とその製造方法によれば、長物の耐震、制振ブレースとして、建築物、土木構造物である橋や鉄橋などに広く適用されるものである。
【符号の説明】
【0028】
1 座屈拘束ブレース、
2 芯材、
3 接合部、 3a 貫通孔、
4 アンボンド材、
5 ベッド、
6 鋼製型枠、
7 高強度繊維補強コンクリート、
8 スペーサー、
9 打設仕上げ面、
11 座屈拘束ブレース、
12 芯材、
13 拘束枠材、
14 拘束充填材(モルタル)、
15 スペーサー、
16 塞ぎ板、
17、18 アンボンド材、
19 リブプレート、
20a 拘束材、
20b 拘束材、
a 隅肉溶接部。