(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記潤滑油基油が、1種以上のAPIグループII鉱油系基油もしくは1種以上のAPIグループIII鉱油系基油もしくは1種以上のAPIグループIV合成系基油もしくは1種以上のAPIグループV合成系基油またはそれらの組み合わせからなり、
前記潤滑油基油の100℃における動粘度が2.5〜4.5mm2/sである、
請求項1に記載の潤滑油組成物。
さらに(F)炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基と、アミド結合、イミド結合、およびアミノ基から選ばれる1種以上の官能基とを有する化合物を、組成物全量基準で0.1〜10.0質量%含有する、
請求項1〜6のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳述する。なお、特に断らない限り、数値A及びBについて「A〜B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。また「又は」及び「若しくは」の語は、特に断りのない限り論理和を意味するものとする。
【0016】
<潤滑油基油>
潤滑油基油としては、鉱油系基油および合成系基油から選ばれる1種以上からなる基油を特に制限なく用いることができる。
【0017】
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、水素化異性化、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等の精製処理を1つ以上行うことにより得られるパラフィン系またはナフテン系の鉱油系基油、および、ワックス異性化鉱油、GTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油等を例示できる。
【0018】
鉱油系基油としては、水素化分解鉱油系基油、および/または、石油系ワックスもしくはGTLワックス(例えばフィッシャートロプシュ合成油等。)を50質量%以上含む原料を異性化して得られるワックス異性化イソパラフィン系基油を好ましく用いることができる。
【0019】
合成系基油としては、例えば、ポリα−オレフィン(例えばエチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等。)又はその水素化物;モノエステル(例えばブチルステアレート、オクチルラウレート等。);ジエステル(例えばジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセパケート等);ポリエステル(例えばトリメリット酸エステル等。);ポリオールエステル(例えばトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等。);芳香族系合成油(例えばアルキルベンゼン、アルキルナフタレン、芳香族エステル等。);及びこれらの混合物等を例示できる。
【0020】
鉱油系基油の%C
Pは、好ましくは60以上、より好ましくは65以上であり、また通常99以下、好ましくは95以下である。鉱油系基油の%C
Pが上記下限値以上であることにより、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性を向上させることが可能になる。また、潤滑油基油の%C
pが上記上限値以下であることにより、添加剤の溶解性を高めることが可能になる。
【0021】
鉱油系基油の%C
Aは、好ましくは2以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下であり、0であってもよい。鉱油系基油の%C
Aが上記上限値以下であることにより、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および省燃費性を高めることが可能になる。
【0022】
鉱油系基油の%C
Nは、好ましくは40以下、より好ましくは35以下であり、また好ましくは1以上、より好ましくは4以上である。鉱油系基油の%C
Nが上記上限値以下であることにより、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性を高めることが可能になる。また、%C
Nが上記下限値以上であることにより、添加剤の溶解性を高めることが可能になる。
【0023】
本明細書において%C
P、%C
Nおよび%C
Aとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、および芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%C
P、%C
Nおよび%C
Aの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まない鉱油系基油であっても、上記方法により求められる%C
Nは0を超える値を示し得る。
【0024】
一の好ましい実施形態において、潤滑油基油は、1種以上のAPIグループII鉱油系基油もしくは1種以上のAPIグループIII鉱油系基油もしくは1種以上のAPIグループIV合成系基油もしくは1種以上のAPIグループV合成系基油またはそれらの組み合わせからなる。グループII基油は、硫黄分0.03質量%以下、飽和分90質量%以上、かつ粘度指数80以上120未満の鉱油系基油である。グループIII基油は、硫黄分0.03質量%以下、飽和分90質量%以上、かつ粘度指数120以上の鉱油系基油である。グループIV基油はポリα−オレフィンである。グループV基油はエステル基油である。
【0025】
潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは6.0mm
2/s以下、特に好ましくは4.5mm
2/s以下であり、また好ましくは2.0mm
2/s以上、特に好ましくは2.5mm
2/s以上である。基油の100℃における動粘度が上記上限値以下であることにより、潤滑油組成物の低温粘度特性を良好にし、また省燃費性を高めることが可能になる。基油の100℃における動粘度が上記下限値以上であることにより、流体潤滑から境界潤滑への移行域(混合潤滑域)における油膜厚さを増大させ、疲労寿命および耐焼き付き性を高めることが可能になる。なお本明細書において、「100℃における動粘度」とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を意味する。
【0026】
潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは40mm
2/s以下、より好ましくは30mm
2/s以下、さらに好ましくは25mm
2/s以下、特に好ましくは21mm
2/s以下であり、また好ましくは8.0mm
2/s以上、より好ましくは8.5mm
2/s以上、特に好ましくは9.0mm
2/s以上である。潤滑油基油の40℃における動粘度が上記上限値以下であることにより、潤滑油組成物の低温粘度特性を良好にし、また省燃費性を高めることが可能になる。また基油の40℃における動粘度が上記下限値以上であることにより、潤滑箇所での油膜形成を十分にして潤滑性を高めることが可能になる。なお本明細書において「40℃における動粘度」とは、ASTM D−445に規定される40℃での動粘度を意味する。
【0027】
潤滑油基油の粘度指数は、好ましくは95以上、特に好ましくは100以上である。基油の粘度指数が上記下限値以上であることにより、潤滑油組成物の粘度−温度特性および熱・酸化安定性を向上させるだけでなく、摩耗防止性を高めることが可能になる。なお、本明細書において粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0028】
潤滑油基油の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下、特に好ましくは−17.5℃以下、最も好ましくは−20.0℃以下である。流動点が上記上限値を超えると、潤滑油組成物全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本明細書において流動点とは、JIS K 2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0029】
潤滑油基油中の硫黄分の含有量は、酸化安定性の観点から好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0030】
一の実施形態において、潤滑油基油としては、1種以上のAPIグループIII鉱油系基油もしくは1種以上のAPIグループIV合成系基油もしくは1種以上のAPIグループV合成系基油またはそれらの組み合わせからなり、
(O1)100℃における動粘度が1.7〜2.7mm
2/s、粘度指数が85以上の、APIグループII基油もしくはグループIII基油もしくはグループIV基油またはそれらの混合基油を、潤滑油基油全量基準で30〜95質量%含有し、
(O2)100℃における動粘度が3.0〜10.0mm
2/s、粘度指数が110以上の、APIグループII基油もしくはグループIII基油もしくはグループIV基油またはそれらの混合基油を、潤滑油基油全量基準で5〜70質量%含有し、
(O3)100℃における動粘度が2.5〜4.5mm
2/s、粘度指数が120以上のAPIグループV基油を、潤滑油基油全量基準で15質量%以下含有するか又は含有せず、
基油(O1)(O2)及び(O3)以外の基油を、潤滑油基油全量基準で5質量%未満含有するか又は含有せず、
100℃における動粘度が2.5〜4.5mm
2/sである潤滑油基油(以下において「本実施形態に係る潤滑油基油」ということがある。)を好ましく用いることができる。潤滑油基油として本実施形態に係る潤滑油基油を用いることにより、流体潤滑域から境界潤滑域への移行域(混合潤滑域)における油膜厚さを増加させ、耐摩耗性、耐焼き付き性、および疲労寿命をさらに高めることが可能になる。
【0031】
基油(O1)の100℃における動粘度は1.7〜2.7mm
2/sであり、好ましくは2.3mm
2/s以下であり、また好ましくは2.0mm
2/s以上、特に好ましくは2.2mm
2/s以上である。基油(O1)の100℃における動粘度が上記上限値以下であることにより、省燃費性を高めることが可能になる。また基油(O1)の100℃における動粘度が上記下限値以上であることにより、潤滑箇所での油膜形成を十分にして潤滑性を高めることが可能になる。
【0032】
基油(O1)の粘度指数は85以上であり、好ましくは90以上、より好ましくは100以上である。基油(O1)の粘度指数が上記下限値以上であることにより、省燃費性を高めることが可能になる。上限は特に制限されるものではないが、例えば140以下であり得る。
【0033】
基油(O1)の流動点は好ましくは−20℃以下、より好ましくは−30℃以下であり、通常−40℃以上である。基油(O1)の流動点が上記上限値以下であることにより、低温粘度特性が良好になる。
【0034】
基油(O1)の%C
Pは好ましくは60以上、より好ましくは70以上であり、100であってもよい。基油(O1)の%C
Pが上記下限値以上であることにより、熱・酸化安定性が良好となる。
【0035】
基油(O1)の%C
Nは、好ましくは40以下、特に好ましくは30以下であり、0であってもよい。基油(O1)の%C
Nが上記上限値以下であることにより、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および省燃費性を高めることが可能になる。
【0036】
一の好ましい実施形態において、基油(O1)は100℃における動粘度が2.2〜2.7mm
2/s、粘度指数が90〜130、流動点が−20〜−40℃、%C
Pが60〜100、%C
Nが0〜40のAPIグループII又はIII基油(以下において「基油(O1a)」ということがある。)である。より好ましくは、基油(O1)は、100℃における動粘度が2.2〜2.3mm
2/s、粘度指数が100〜130、流動点が−30〜−40℃、%C
Pが70〜100、%C
Nが0〜30のAPIグループII又はIII基油(以下において「基油(O1b)」ということがある。)である。これらの基油を基油(O1)として用いることにより、省燃費性を高めることが可能となる。
【0037】
基油(O2)の100℃における動粘度は3.0〜10.0mm
2/sであり、好ましくは8.0mm
2/s以下、特に好ましくは6.5mm
2/s以下であり、また好ましくは3.5mm
2/s以上である。基油(O2)の100℃における動粘度が上記上限値以下であることにより、省燃費性を高めることが可能になる。また基油(O2)の100℃における動粘度が上記下限値以上であることにより、潤滑箇所での油膜形成を十分にして潤滑性を高めることが可能になる。
【0038】
基油(O2)の粘度指数は110以上であり、好ましくは120以上である。基油(O2)の粘度指数が上記下限値以上であることにより、省燃費性を高めることが可能になる。上限は特に制限されるものではないが、例えば140以下であり得る。
【0039】
基油(O3)の100℃における動粘度は、2.5〜4.5mm
2/sであり、好ましくは3.5mm
2/s以下、より好ましくは3.0mm
2/s以下である。基油(O3)の100℃における動粘度が上記上限値以下であることにより、省燃費性を高めることが可能になる。また基油(O3)の100℃における動粘度が上記下限値以上であることにより、潤滑箇所での油膜形成を十分にして潤滑性を高めることが可能になる。
【0040】
基油(O3)の粘度指数は120以上であり、好ましくは130以上である。基油(O3)の粘度指数が上記下限値以上であることにより、省燃費性を高めることが可能になる。上限は特に制限されるものではないが、例えば190以下であり得る。
【0041】
本実施形態に係る潤滑油基油における基油(O1)の含有量は、潤滑油基油全量基準で30〜95質量%であり、好ましくは35〜90質量%である。
本実施形態に係る潤滑油基油における基油(O2)の含有量は、潤滑油基油全量基準で5〜70質量%であり、好ましくは10〜65質量%である。
本実施形態に係る潤滑油基油における基油(O3)の含有量は、潤滑油基油全量基準で15質量%以下であり、好ましくは10質量%以下であり、0質量%であってもよい。本明細書において、基油(O3)の含有量が0質量%であるとは、潤滑油基油が基油(O3)を含まないことを意味する。
本実施形態に係る潤滑油基油における基油(O1)(O2)及び(O3)以外の基油の含有量は、潤滑油基油全量基準で5質量%未満であり、好ましくは1質量%未満であり、0質量%であってもよい。本明細書において、基油(O1)(O2)及び(O3)以外の基油の含有量が0質量%であるとは、潤滑油基油が基油(O1)及び(O2)並びに(任意的に)基油(O3)からなることを意味する。
【0042】
潤滑油組成物中の潤滑油基油の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常60〜95質量%であり、好ましくは65〜90質量%である。
【0043】
<(A)、(B):ポリ(メタ)アクリレート化合物>
本発明の潤滑油組成物は、(A)重量平均分子量が30,000〜200,000である分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物(以下において「(A)成分」ということがある。)を、組成物全量基準で1〜10質量%と、(B)重量平均分子量が15,000〜100,000である非分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物(以下において「(B)成分」ということがある。)を、組成物全量基準で15質量%以下と、を含有し、(A)成分の含有量MAと(B)成分の含有量MBとの比(MA/MB)が0.05〜1であり、(A)成分の重量平均分子量MwAに対する(B)成分の重量平均分子量MwBの比(MwB/MwA)が0.05〜2である。(A)成分と(B)成分とを組み合わせて用いることにより、(A)成分または(B)成分を単独で用いた場合に比較して、流体潤滑域から境界潤滑域への移行域(混合潤滑域)における油膜厚さを増加させ、疲労寿命および耐焼き付き性をさらに高めることが可能になる。
【0044】
(A)成分の重量平均分子量は30,000〜200,000である。(A)成分の重量平均分子量が上記範囲内であることにより、油膜厚さを増加させ、疲労寿命および耐焼き付き性を高めることが容易になる。同一の観点から、(A)成分の重量平均分子量は好ましくは170,000以下であり、例えば150,000以下であり得る。
【0045】
(B)成分の重量平均分子量は15,000〜100,000である。(B)成分の重量平均分子量が15,000以上であることにより、(B)成分が油膜中に留まりやすくなるので、油膜厚さを増大させることが可能になる。また(B)成分の重量平均分子量が100,000以下であることにより、低温粘度特性が良好になるほか、流体潤滑から境界潤滑への移行域(混合潤滑域)における油膜厚さを増大させ、摩擦係数を低減できる結果、耐焼付き性および疲労寿命を高めることが可能になる。同一の観点から、(B)成分の重量平均分子量は好ましくは90,000以下であり、例えば80,000以下であり得る。
【0046】
(A)成分の含有量は組成物全量基準で1〜10質量%である。(A)成分の含有量が1質量%以上であることにより、流体潤滑から境界潤滑への移行域(混合潤滑域)における油膜厚さを増大させ、摩擦係数を低減し、疲労寿命、耐焼き付き性を高めることが可能になる。また(A)成分の含有量が10質量%以下であることにより、剪断による粘度低下を抑制できるので、油膜厚さを厚く保ち、耐焼き付き性および疲労寿命をさらに高めることが可能になる。
【0047】
(B)成分の含有量は組成物全量基準で15質量%以下である。(B)成分の含有量が15質量%以下であることにより、剪断による粘度低下を抑制できるので、油膜厚さを厚く保ち、耐焼き付き性および疲労寿命をさらに高めることが可能になる。
【0048】
(A)成分の含有量MAと(B)成分の含有量MBとの比MA/MBは0.05〜1である。比MA/MBが0.05以上であることにより、流体潤滑から境界潤滑への移行域(混合潤滑域)における油膜厚さを増大させ、疲労寿命および耐焼き付き性を高めることが可能になる。また比MA/MBが1以下であることにより、低温粘度特性を良好にすることが可能になるほか、流体潤滑から境界潤滑への移行域(混合潤滑域)における油膜厚さを増大させ、摩擦係数を低減することが可能になる。
【0049】
(A)成分の重量平均分子量MwAに対する(B)成分の重量平均分子量MwBの比MwB/MwAは0.05〜2である。比MwB/MwAが0.05以上であることにより、油膜中に(B)成分が留まりやすくなるので、油膜厚さを増加させることが可能になる。また比MwB/MwAが2以下であることにより、低温粘度特性を良好にすることが可能になるほか、流体潤滑から境界潤滑への移行域(混合潤滑域)における油膜厚さを増大させ、トラクション係数を低減し、疲労寿命防止性および耐摩耗性を高めることが可能になる。
【0050】
(A)成分または(B)成分を構成するポリ(メタ)アクリレート化合物としては、上記の重量平均分子量を有する分散型((A)成分)または非分散型((B)成分)ポリ(メタ)アクリレート化合物を特に制限なく用いることができる。分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物が窒素原子を含む官能基を有するのに対し、非分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物は窒素原子を含む官能基を有しない。(A)成分中の窒素含有量は、(A)成分の全量を基準(100質量%)として、好ましくは200〜400質量ppmであり、一の実施形態において100〜350質量ppmであり得る。
【0051】
(A)成分または(B)成分を構成するポリ(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、ポリマー中の全単量体単位に占める下記一般式(1)で表される(メタ)アクリレート構造単位の割合が10〜90モル%であるポリ(メタ)アクリレート化合物(以下において「本実施形態に係るポリ(メタ)アクリレート化合物」ということがある。)を好ましく採用できる。
【0052】
【化1】
[式(1)中、R
1は水素又はメチル基を表し、R
2は炭素数1〜5の直鎖状又は分枝状の炭化水素基を表す。]
【0053】
本実施形態に係るポリ(メタ)アクリレート化合物において、ポリマー中の一般式(1)で表される(メタ)アクリレート構造単位の割合は、好ましくは10〜90モル%であり、より好ましくは80モル%以下であり、さらに好ましくは70モル%以下である。また、より好ましくは20モル%以上であり、さらに好ましくは30モル%以上であり、特に好ましくは40モル%以上である。ポリマー中の全単量体単位に占める一般式(1)で表される(メタ)アクリレート構造単位の割合が90モル%を超える場合は、基油への溶解性や粘度温度特性の向上効果や低温粘度特性に劣るおそれがあり、10モル%を下回る場合は粘度温度特性の向上効果に劣るおそれがある。
【0054】
本実施形態に係るポリ(メタ)アクリレート化合物は、一般式(1)で表される(メタ)アクリレート構造単位に加えて、他の(メタ)アクリレート構造単位を有する共重合体であってもよい。このような共重合体は、下記一般式(2)で表されるモノマー(以下、「モノマー(M−1)」という。)の1種または2種以上と、モノマー(M−1)以外のモノマーとを共重合させることによって得ることができる。
【0055】
【化2】
[式(2)中、R
3は水素原子又はメチル基を表し、R
4は炭素数6〜18の直鎖状又は分枝状の炭化水素基を表す。]
【0056】
モノマー(M−1)と組み合わせるモノマーは任意であるが、例えば下記一般式(3)で表されるモノマー(以下、「モノマー(M−2)」という。)が好適である。モノマー(M−1)とモノマー(M−2)との共重合体は、非分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤である。
【0057】
【化3】
[式(3)中、R
5は水素原子又はメチル基を表し、R
6は炭素数19以上の直鎖状又は分枝状の炭化水素基を表す。]
【0058】
式(3)で示すモノマー(M−2)中のR
6は、上述の通り炭素数19以上の直鎖状又は分枝状の炭化水素基であり、好ましくは炭素数20以上の直鎖状又は分枝状の炭化水素であり、さらに好ましくは炭素数22以上の直鎖状又は分枝状の炭化水素であり、より好ましくは炭素数24以上の分枝状炭化水素基である。また、R
6の炭素数の上限は特に制限されないが、R
6は好ましくは炭素数50,000以下の直鎖状又は分枝状の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数500以下の直鎖状又は分枝状の炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素数100以下の直鎖状又は分枝状の炭化水素基であり、特に好ましくは炭素数50以下の分枝状の炭化水素基であり、最も好ましくは炭素数25以下の分枝状の炭化水素基である。
【0059】
本実施形態に係るポリ(メタ)アクリレート化合物の好ましい一例として、櫛形ポリ(メタ)アクリレートを挙げることができる。ここでいう櫛形ポリ(メタ)アクリレートとは、上記モノマー(M−1)と上記モノマー(M−2)との共重合体であって、モノマー(M−2)が式(3)においてR
6の数平均分子量(Mn)が1,000〜50,000(好ましくは1,500〜20,000、より好ましくは2,000〜10,000)であるマクロモノマーである、共重合体を意味する。そのようなマクロモノマーとしては例えば、ブタジエン及びイソプレンを共重合させることにより得られるポリオレフィンの水素化物から誘導されるマクロモノマーを採用できる。
【0060】
本実施形態に係るポリ(メタ)アクリレート化合物において、ポリマー中の一般式(3)で表されるモノマー(M−2)に対応する(メタ)アクリレート構造単位は1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであっても良い。ポリマー中の全単量体単位に占める一般式(3)で表されるモノマー(M−2)に対応する構造単位の割合は、0.5〜70モル%であることが好ましく、より好ましくは60モル%以下であり、さらに好ましくは50モル%以下であり、特に好ましくは40モル%以下であり、最も好ましくは30モル%以下である。また、好ましくは1モル%以上であり、より好ましくは3モル%以上であり、さらに好ましくは5モル%以上であり、特に好ましくは10モル%以上である。ポリマー中の全単量体単位に占める一般式(3)で表されるモノマー(M−2)に対応する構造単位の割合が70モル%を超える場合は粘度温度特性の向上効果や低温粘度特性に劣るおそれがあり、0.5モル%を下回る場合は粘度温度特性の向上効果に劣るおそれがある。
【0061】
モノマー(M−1)と組み合わせるその他のモノマーとしては、下記一般式(4)で表されるモノマー(以下、「モノマー(M−3)」という。)及び下記一般式(5)で表されるモノマー(以下、「モノマー(M−4)」という)から選ばれる1種又は2種以上が好適である。モノマー(M−1)とモノマー(M−3)及び/又は(M−4)との共重合体は、分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物である。なお、当該分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物は、構成モノマーとしてモノマー(M−2)をさらに含んでいてもよい。
【0062】
【化4】
[式(4)中、R
7は水素原子又はメチル基を表し、R
8は炭素数1〜18のアルキレン基を表し、E
1は窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を表し、xは0又は1を表す。]
【0063】
R
8で表される炭素数1〜18のアルキレン基としては、具体的には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、及びオクタデシレン基(これらアルキレン基は直鎖状でも分枝状でもよい。)等を例示できる。
【0064】
E
1で表される基としては、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、及びピラジノ基等を例示できる。
【0065】
【化5】
[式(5)中、R
9は水素原子又はメチル基を表し、E
2は炭化水素基または窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基または複素環残基を表す。]
【0066】
E
2で表される基としては、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、及びピラジノ基等を例示できる。
【0067】
モノマー(M−3)および(M−4)の好ましい例としては、具体的には、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン及びこれらの混合物等を例示できる。
【0068】
モノマー(M−1)とモノマー(M−2)〜(M−4)との共重合体の共重合モル比については特に制限はないが、モノマー(M−1):モノマー(M−2)〜(M−4)=20:80〜90:10程度が好ましく、より好ましくは30:70〜80:20、さらに好ましくは40:60〜70:30である。
【0069】
本実施形態に係るポリ(メタ)アクリレート化合物の製造法は特に制限されない。例えば、重合開始剤(例えばベンゾイルパーオキシド等。)の存在下で、モノマー(M−1)と(M−2)とをラジカル溶液重合させることにより、非分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物を容易に得ることができる。また例えば、重合開始剤の存在下で、モノマー(M−1)と、モノマー(M−3)及び(M−4)から選ばれる1種以上の含窒素モノマーと、任意的にモノマー(M−2)とをラジカル溶液重合させることにより、分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物を容易に得ることができる。
【0070】
<(C)リン含有摩耗防止剤>
本発明の潤滑油組成物は、(C)リン含有摩耗防止剤(以下において「(C)成分」ということがある。)を、組成物全量基準でリン量として200〜1110質量ppm含有することが好ましい。
【0071】
(C)成分としては、潤滑油に用いられるリン含有摩耗防止剤を特に制限なく用いることができる。そのようなリン含有摩耗防止剤としては、例えば、リン酸、下記一般式(6)で表される化合物、下記一般式(7)で表される化合物、それらの金属塩およびアンモニウム塩を挙げることができ、これらの中から選ばれる1種以上を用いることができる。なお本明細書において、リン及び硫黄の両方を含有する化合物は、(C)成分に該当せず、全て後述する(E)硫黄系添加剤に該当するものとする。
【0072】
【化6】
(一般式(6)中、R
10は炭素数1〜30の炭化水素基を表し;R
11及びR
12はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜30の炭化水素基を表し;R
11、R
12、及びR
13は同一でも相互に異なっていてもよい。)
【0073】
【化7】
(一般式(7)中、R
13は炭素数1〜30の炭化水素基を表し;R
14及びR
15はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜30の炭化水素基を表し;R
13、R
14、及びR
15は同一でも相互に異なっていてもよい。)
【0074】
一般式(6)及び(7)における炭素数1〜30の炭化水素基の例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基等を挙げることができる。炭化水素基は好ましくは、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であり、より好ましくは炭素数3〜18、さらに好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。
【0075】
一般式(6)又は(7)で表されるリン化合物の塩としては、リン化合物に金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基、アンモニア、炭素数1〜30の炭化水素基又はヒドロキシル基含有炭化水素基のみを分子中に有するアミン化合物等の窒素化合物を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和した塩を挙げることができる。
【0076】
一般式(6)又は(7)で表されるリン化合物と金属塩を形成する金属の例としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン等の重金属等が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属または亜鉛が好ましい。なお本明細書において、「アルカリ土類金属」にはマグネシウムも包含されるものとする。
【0077】
一般式(6)又は(7)で表されるリン化合物とアンモニウム塩を形成する窒素化合物としては、第1級アミン、第2級アミン及びアルカノールアミンが好ましく、デシルアミン、ドデシルアミン、ジメチルドデシルアミン、トリデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン及びステアリルアミン等の、炭素数10〜20の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル又はアルケニル基を有する脂肪族アミンが特に好ましい。
【0078】
一の好ましい実施形態において、(C)成分としては、上記した中でも、上記一般式(6)においてR
10及びR
11がそれぞれ独立に炭素数1〜30の炭化水素基であり、R
12が水素または炭素数1〜30の炭化水素基である1種以上の化合物、若しくはリン酸、またはそれらの組み合わせを好ましく用いることができる。当該実施形態において、炭素数1〜30の炭化水素基は好ましくは、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基である。アリール基は1つ以上のアルキル置換基を有していてもよい。アルキル基の炭素数はより好ましくは3〜18、さらに好ましくは4〜12である。アリール基の炭素数はより好ましくは6〜12、さらに好ましくは6〜10である。
【0079】
潤滑油組成物中の(C)成分の含有量は、組成物全量基準でリン量として好ましくは200〜1110質量ppmである。(C)成分の含有量が上記下限値以上であることにより、耐摩耗性、耐焼き付き性、疲労寿命、および湿式クラッチのジャダー防止寿命を向上させることが可能になる。(C)成分の含有量が上記上限値以下であることにより、耐焼付き性、耐摩耗性および疲労寿命をさらに向上させることが可能になり、また湿式クラッチのジャダー防止性をさらに向上させることが可能になる。
【0080】
<(D)過塩基性カルシウム系清浄剤>
本発明の潤滑油組成物は、過塩基性カルシウム系清浄剤(以下において「(D)成分」ということがある。)を、組成物全量基準でカルシウム量として50〜300質量ppm含有することが好ましい。
【0081】
(D)成分としては、過塩基性カルシウムスルホネート系清浄剤、過塩基性カルシウムフェネート系清浄剤、過塩基性カルシウムサリシレート系清浄剤等の公知の過塩基性カルシウム系清浄剤を用いることができ、過塩基性カルシウムサリシレート清浄剤を特に好ましく用いることができる。潤滑油組成物が(D)成分として過塩基性カルシウムサリシレート清浄剤を含有することにより、疲労寿命、耐摩耗性、耐焼き付き性、湿式クラッチのジャダー防止性、及びジャダー防止寿命をさらに向上させることが可能になる。
【0082】
過塩基性カルシウムスルホネート系清浄剤の好ましい例としては、アルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩の過塩基性塩を挙げることができる。アルキル芳香族化合物の重量平均分子量は好ましくは400〜1500であり、より好ましくは700〜1300である。
アルキル芳香族スルホン酸としては、例えば、いわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸が挙げられる。ここでいう石油スルホン酸としては、鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が挙げられる。また、合成スルホン酸の一例としては、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントにおける副生成物を回収すること、もしくは、ベンゼンをポリオレフィンでアルキル化することにより得られる、直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したものを挙げることができる。合成スルホン酸の他の一例としては、ジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したものを挙げることができる。また、これらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては、特に制限はなく、例えば発煙硫酸や無水硫酸を用いることができる。
【0083】
過塩基性カルシウムフェネート系清浄剤の好ましい例としては、下記一般式(8)で表される構造を有する化合物のカルシウム塩の過塩基性塩を挙げることができる。
【0085】
式(8)中、R
16は炭素数6〜21の直鎖もしくは分岐鎖、飽和もしくは不飽和のアルキル基又はアルケニル基を表し、mは重合度であって1〜10の整数を表し、Aはスルフィド(−S−)基またはメチレン(−CH
2−)基を表し、yは1〜3の整数を表す。なおR
16は2種以上の異なる基の組み合わせであってもよい。
【0086】
式(8)におけるR
16の炭素数は、好ましくは9〜18、より好ましくは9〜15である。R
16の炭素数が6未満では基油に対する溶解性が劣るおそれがあり、一方、R
16の炭素数が21を超える場合は製造が難しく、また耐熱性が劣るおそれがある。
【0087】
式(8)における重合度mは、好ましくは1〜3である。重合度mがこの範囲内であることにより、耐熱性を高めることができる。
【0088】
過塩基性カルシウムサリシレート清浄剤の好ましい例としては、カルシウムサリシレートの過塩基性塩を挙げることができる。カルシウムサリシレートの好ましい例としては、下記一般式(9)で表される化合物を挙げることができる。
【0090】
式(9)中、R
17はそれぞれ独立に炭素数14〜30のアルキル基またはアルケニル基を表す。nは1又は2を表し、好ましくは1である。なおn=2である場合、R
17は異なる基の組み合わせであってもよい。
【0091】
カルシウムサリシレートの製造方法は特に制限されるものではなく、公知のモノアルキルサリシレートの製造方法等を用いることができる。例えば、フェノールを出発原料として、オレフィンを用いてアルキレーションし、次いで炭酸ガス等でカルボキシレーションして得たモノアルキルサリチル酸、あるいは、サリチル酸を出発原料として、当量の上記オレフィンを用いてアルキレーションして得られたモノアルキルサリチル酸等に、カルシウムの酸化物や水酸化物等のカルシウム塩基を反応させること、又は、これらのモノアルキルサリチル酸等を一旦ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからカルシウム塩と金属交換させること等により、カルシウムサリシレートを得ることができる。
【0092】
過塩基化されたカルシウムスルホネート、フェネート、又はサリシレートを得る方法は特に限定されるものではないが、例えば、炭酸ガスの存在下でカルシウムスルホネート、フェネート、又はサリシレートを、水酸化カルシウム等のカルシウム塩基と反応させることにより得ることができる。
【0093】
(D)成分の塩基価は、好ましくは150〜500mgKOH/gであり、より好ましくは200〜450mgKOH/gである。なお本明細書において塩基価とは、JIS K2501に準拠して過塩素酸法により測定される塩基価を意味する。また金属系清浄剤は一般に、溶剤や潤滑油基油等の希釈剤中での反応により得られる。そのため金属系清浄剤は、潤滑油基油等の希釈剤によって希釈された状態で商業的に流通している。本明細書において、金属系清浄剤の塩基価は、希釈剤を含む状態での塩基価を意味するものとする。
【0094】
(D)成分の金属比は、好ましくは3.0〜15.0であり、より好ましくは5.0以上である。(D)成分の金属比は次の式に従って計算される。
(D)成分の金属比=2×(D)成分のCa含有量(mol)/(D)成分のせっけん基含有量(mol)
なお(D)成分が2種以上のせっけん基を含む場合には、「(D)成分のせっけん基含有量(mol)」は(D)成分に含まれる各せっけん基のmol量の合計である。
【0095】
潤滑油組成物中の(D)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、カルシウム量として好ましくは50〜300質量ppmである。(D)成分の含有量が上記下限値以上であることにより、疲労寿命および耐焼き付き性をさらに向上させることが可能になる。また(D)成分の含有量が上記上限値以下であることにより、耐摩耗性および耐焼き付き性をさらに向上させることが可能になる。
【0096】
<(E)硫黄系添加剤>
本発明の潤滑油組成物は、(E)硫黄系添加剤(以下において「(E)成分」ということがある。)を、組成物全量基準で硫黄量として800〜1300質量ppm含有することが好ましい。
【0097】
(E)成分としては、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビル(ポリ)サルファイド、チアジアゾール化合物、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物、硫化鉱油、ジチオカルバミン酸亜鉛化合物、ジチオカルバミン酸モリブデン化合物、ジチオリン酸モリブデン化合物、アルキルオキシ又はアルケニルオキシ基置換環状スルホン化合物等の公知の硫黄含有化合物を用いることができる。これらの硫黄含有化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
硫化油脂は、硫黄や硫黄含有化合物と油脂(ラード油、鯨油、植物油、魚油等)とを反応させて得られる生成物である。硫化油脂中の硫黄含有量は特に制限はないが、通常5〜30重量%である。
【0099】
硫化脂肪酸としては、不飽和脂肪酸を任意の方法で硫化することにより得られる生成物を用いることができ、具体的には硫化オレイン酸などを例示できる。
硫化エステルとしては、不飽和脂肪酸エステル(例えば、不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、又は上記の動植物油脂から抽出された脂肪酸など)と各種アルコールとを反応させて得られる生成物。)を任意の方法で硫化することにより得られる生成物を用いることができ、具体的には硫化オレイン酸メチル、硫化米ぬか脂肪酸オクチル等を例示できる。
【0100】
硫化オレフィンとしては、下記一般式(10)で表される化合物を例示できる。この化合物は、炭素数2〜15のオレフィンまたはその二〜四量体を、硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得ることができる。該オレフィンとしては、プロピレン、イソブテン、ジイソブテン等を好ましく用いることができる。
【0101】
【化10】
(一般式(10)中、R
18は炭素数2〜15のアルケニル基を表し、R
19は炭素数2〜15のアルキル基又はアルケニル基を表し、aは1〜8の整数を示す。)
【0102】
ジヒドロカルビル(ポリ)サルファイドは、下記一般式(10)で表される化合物である。式(10)においてR
20及びR
21がアルキル基の場合、該化合物は硫化アルキルと称されることがある。
【0103】
【化11】
(一般式(11)中、R
20及びR
21は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基(直鎖でも分岐鎖でもよく、環状構造を有していてもよい。)、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアルキルアリール基、又は炭素数7〜20のアリールアルキル基を表し、bは1〜8の整数を表す。)
【0104】
チアジアゾール化合物としては、下記一般式(12)で表される1,3,4−チアジアゾール、下記一般式(13)で表される1,2,4−チアジアゾール化合物、及び下記一般式(14)で表される1,4,5−チアジアゾール化合物を例示できる。
【0107】
【化14】
(一般式(12)〜(14)中、R
22及びR
23は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に水素又は炭素数1〜20のヒドロカルビル基を表し;c及びdは同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に0〜8の整数を表す。)
【0108】
アルキルチオカルバモイル化合物としては、下記一般式(15)で表される化合物を例示できる。
【0109】
【化15】
(一般式(15)中、R
24〜R
27は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基を表し、eは1〜8の整数を表す。)
【0110】
アルキルチオカーバメート化合物としては、下記一般式(16)で示される化合物を例示できる。
【0111】
【化16】
(一般式(16)中、R
28〜R
31は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基を示し、R
32は炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
【0112】
チオテルペン化合物としては、例えば、五硫化リンとピネンの反応物を挙げることができる。
ジアルキルチオジプロピオネート化合物としては、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート等を挙げることができる。
【0113】
硫化鉱油は、鉱油に単体硫黄を溶解させることにより得られる物質である。硫化鉱油に用いられる鉱油としては特に制限されないが、具体的には、原油に常圧蒸留及び減圧蒸留を施して得られる潤滑油留分に対して、公知の精製処理を適宜組み合わせて施すことにより精製されたパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などが挙げられる。また、単体硫黄としては、塊状、粉末状、溶融液体状等いずれの形態のものを用いてもよい。硫化鉱油中の硫黄含有量は特に制限されるものではないが、硫化鉱油全量を基準として通常0.05〜1.0重量%である。
【0114】
ジチオカルバミン酸亜鉛化合物としては下記一般式(17)で表される化合物を用いることができ、ジチオカルバミン酸モリブデン化合物としては下記一般式(18)で表される化合物を用いることができる。
【0115】
【化17】
(一般式(17)中、R
33〜R
36は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数1以上のヒドロカルビル基を表す。)
【0116】
【化18】
(一般式(18)中、R
37〜R
40は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数1以上のヒドロカルビル基を表し、X
1〜X
4はそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【0117】
ジチオリン酸モリブデン化合物としては下記一般式(19)で表される化合物を用いることができる。なお上記した通り、本明細書において、ジチオリン酸モリブデン等のリンと硫黄の両方を含む化合物は、(C)成分の含有量に寄与せず、(E)成分の含有量にのみ寄与するものとする。
【0118】
【化19】
(一般式(19)中、R
41〜R
44は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数1以上のヒドロカルビル基を表し、X
5〜X
8はそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【0119】
アルキルオキシ又はアルケニルオキシ基置換環状スルホン化合物としては、下記一般式(20)で表される化合物を例示できる。
【0120】
【化20】
(一般式(20)中、R
45O−基の置換位置は任意であり;R
45は炭素数4〜30のアルキル若しくはアルケニル基を表し;fは1又は2の整数を表し、好ましくは1である。)
R
45は単一の基であってもよく、2種以上の基の組み合わせであってもよい。R
45の平均炭素数は好ましくは4〜22、より好ましくは7〜13である。一の好ましい実施形態において、R
45O−基の置換位置は3−位である。
【0121】
潤滑油組成物中の(E)成分の含有量は、組成物全量基準で、硫黄量として好ましくは800〜1300質量ppmであり、より好ましくは1200質量ppm以下である。(E)成分の含有量が上記下限値以上であることにより、摩耗防止性および耐焼き付き性をさらに高めることが可能になる。また(E)成分の含有量が上記上限値以下であることにより、酸化安定性および湿式クラッチのジャダー防止寿命をさらに向上させることが可能になる。
【0122】
<(F)無灰摩擦調整剤>
本発明の潤滑油組成物は、(F)炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基と、アミド結合、イミド結合、およびアミノ基から選ばれる1種以上の官能基とを有する化合物(以下において「(F)成分」ということがある。)を、組成物全量基準で0.1〜10.0質量%含有することが好ましい。そのような化合物は、無灰摩擦調整剤として作用する。(F)成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。(F)成分において、炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基は、1分子中に1つのみ存在していてもよく、2つ以上存在していてもよい。またアミド結合、イミド結合、およびアミノ基から選ばれる1種以上の官能基は、1分子中に1つのみ存在していてもよく、2つ以上存在していてもよい。
【0123】
(F)成分における炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基は、好ましくはアルキル又はアルケニル基であり、一の典型的な実施形態において直鎖のアルキル又はアルケニル基であり、他の一の典型的な実施形態において直鎖のアルキル又はアルケニル基の末端(ω−位)以外の炭素原子に結合した水素原子のうち1〜5個(好ましくは1〜3個)をメチル基に置き換えることによって得られる基である。一の実施形態において、ヒドロカルビル基の炭素数は12〜18である。
【0124】
(F)成分の典型的な例としては、下記一般式(21)〜(24)で表される化合物、及び、炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基を有するアシル化剤で窒素原子数3〜11のポリアミンの一部の窒素原子をアシル化することにより得られる化合物(以下において「アシル化ポリアミン」ということがある。)を挙げることができる。
【0126】
【化22】
(一般式(21)及び(22)中、R
46は炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基であり;R
47及びR
48はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基、又は炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基である。)
【0127】
一般式(21)及び(22)において、「炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基」の好ましい形態は上述の通りである。一の実施形態において、上記一般式(21)及び(22)の化合物のうち、上記一般式(22)の化合物であって、R
47が炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基であり、R
48が炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基である化合物を好ましく用いることができる。
【0128】
【化23】
(一般式(23)及び(24)中、R
49及びR
50はそれぞれ独立に炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基であり;g及びhはそれぞれ独立に1〜5の整数であり、好ましくは1〜3であり、一の実施形態において1である。)
【0129】
一般式(23)及び(24)において、「炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基」の好ましい形態は上述の通りである。一般式(23)又は(24)で表される化合物は、炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基を有する置換コハク酸無水物と、ポリアミン(例えばジエチレントリアミン等。)とを反応させることにより得られる。通常、式(23)で表される化合物と式(24)で表される化合物との混合物が得られ、該混合物を(F)成分として用いることができる。該混合物において、式(24)で表される化合物のモル量が式(23)で表される化合物のモル量より多いことが好ましい。例えばカラムクロマトグラフィー等の精製手段により式(24)で表される化合物のみを得て(F)成分として用いてもよい。
【0130】
アシル化ポリアミンについて、上記窒素原子数3〜11のポリアミンの好ましい例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等の、直鎖または分岐鎖のポリアミンを挙げることができる。分岐鎖ポリアミンは、直鎖ポリアミンの構造異性体であって、1つ以上の第3級アミノ基を有する。ポリアミンは1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物を用いてもよい。ポリアミンの窒素原子数は好ましくは3〜6、特に好ましくは4〜6である。
【0131】
アシル化ポリアミンについて、炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基を有するアシル化剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基を有するアシル化剤の好ましい例としては、下記一般式(25)で表されるアシル化剤を挙げることができる。
【0132】
【化24】
(一般式(25)中、R
51は炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基であり;Lはポリアミンのアミノ基と反応して脱離する脱離基である。)
【0133】
一般式(25)において、「炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基」の好ましい形態は上述の通りである。このようなアシル化剤は、カルボン酸R
51−CO
2Hから公知の手法によって誘導できる。アシル化剤は酸ハロゲン化物(式(25)においてLがCl、Br、又はI)であってもよく、活性エステル(例えばカルボン酸R
51−CO
2HとN−ヒドロキシコハク酸イミドとのエステル等。)であってもよい。アシル化反応の進行に伴って系中で酸が発生する場合には、適当な塩基を系中に共存させてもよい。アシル化ポリアミンにおいて、ポリアミンの全窒素原子のうちアシル化された窒素原子の占める割合は好ましくは30〜90%、より好ましくは40〜90%、さらに好ましくは40〜85%である。
【0134】
アシル化ポリアミンの好ましい一形態としては、下記一般式(26)で表される化合物を挙げることができる。下記一般式(26)〜(28)において、「炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基」の好ましい形態は上述の通りである。
【0135】
【化25】
(一般式(26)中、繰り返し単位の配列順序は任意であり;R
52及びR
53はそれぞれ独立に炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基であり;Z
1は下記一般式(27)で表される基であり;Z
2は下記一般式(28)で表される基であり;iは1〜4、好ましくは1〜3の整数であり;j及びkはそれぞれ独立に0〜5、好ましくは0〜3の整数であり;j+kは1〜5、好ましくは1〜3の整数であり;i+j+2kは1〜9、好ましくは1〜5、特に好ましくは2〜4の整数である。)
【0136】
【化26】
(一般式(27)中、R
54は炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基である。)
【0137】
【化27】
(一般式(28)中、R
55は炭素数10〜24の鎖式脂肪族ヒドロカルビル基であり;pは1〜3の整数、好ましくは2である。)
【0138】
潤滑油組成物中の(F)成分の含有量は、組成物全量基準で好ましくは0.1〜10.0質量%、より好ましくは0.5〜5.0質量%、特に好ましくは0.8〜4.0質量%である。(F)成分の含有量が上記下限値以上であることにより、湿式クラッチのジャダー防止性およびジャダー防止寿命、ならびに疲労寿命をさらに向上させることが可能になる。(F)成分の含有量が上記上限値以下であることにより、低温粘度特性および酸化安定性の悪化を抑制することが可能になる。
【0139】
<(G)無灰分散剤>
本発明の潤滑油組成物は、(G)無灰分散剤(以下において「(G)成分」ということがある。)を含有することが好ましい。
【0140】
(G)成分としては、例えば、以下の(G−1)〜(G−3)から選ばれる1種以上の化合物を用いることができる。
(G−1)炭素数40〜400のアルキル若しくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドまたはその誘導体(以下において「(G−1)成分」ということがある。)、
(G−2)炭素数40〜400のアルキル若しくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミンまたはその誘導体(以下において「(G−2)成分」ということがある。)、
(G−3)炭素数40〜400のアルキル若しくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミンまたはその誘導体(以下において「(G−3)成分」ということがある。)。
【0141】
(G)成分としては、(G−1)成分を特に好ましく用いることができる。
(G−1)成分のうち、炭素数40〜400のアルキル又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドとしては、下記一般式(29)又は(30)で表される化合物を例示できる。
【0143】
式(29)中、R
56は炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を示し、qは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。R
56の炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0144】
式(30)中、R
57及びR
58は、それぞれ独立に炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を示し、異なる基の組み合わせであってもよい。R
57及びR
58は特に好ましくはポリブテニル基である。また、rは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。R
57及びR
58の炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0145】
式(29)及び式(30)におけるR
56〜R
58の炭素数が上記下限値以上であることにより、潤滑油基油に対する良好な溶解性を得ることができる。一方、R
56〜R
58の炭素数が上記上限値以下であることにより、潤滑油組成物の低温流動性を高めることができる。
【0146】
式(29)及び式(30)におけるアルキル基またはアルケニル基(R
56〜R
58)は直鎖状でも分枝状でもよく、好ましくは、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィンのオリゴマーや、エチレンとプロピレンとのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基を挙げることができる。なかでも慣用的にポリイソブチレンと呼ばれるイソブテンのオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基またはアルケニル基や、ポリブテニル基が最も好ましい。
式(29)及び式(30)におけるアルキル基またはアルケニル基(R
56〜R
58)の好適な数平均分子量は800〜3500である。
【0147】
アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドには、ポリアミン鎖の一方の末端のみに無水コハク酸が付加した、式(29)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミン鎖の両末端に無水コハク酸が付加した、式(30)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが包含される。潤滑油組成物には、モノタイプのコハク酸イミド及びビスタイプのコハク酸イミドのいずれが含まれていてもよく、それらの両方が混合物として含まれていてもよい。
【0148】
アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドの製法は、特に制限されるものではなく、例えば、炭素数40〜400のアルキル又はアルケニル基を有する化合物を無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸を、ポリアミンと反応させることにより得ることができる。ここで、ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミンを例示できる。
【0149】
(G−2)成分のうち、炭素数40〜400のアルキル又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミンとしては、下記一般式(31)で表される化合物を例示できる。
【0151】
式(31)中、R
59は炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を表し、sは1〜5、好ましくは2〜4の整数を表す。R
59の炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0152】
(G−2)成分の製法は特に制限されるものではない。例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、又はエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを、フェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドと、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンとをマンニッヒ反応により反応させる方法が挙げられる。
【0153】
(G−3)成分のうち炭素数40〜400のアルキル又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミンとしては、下記式(32)で表される化合物を例示できる。
【0155】
式(32)中、R
60は炭素数40〜400のアルキル又はアルケニル基を表し、tは1〜5、好ましくは2〜4の整数を表す。R
60の炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0156】
(G−3)成分の製法は特に制限されるものではない。例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテンまたはエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させる方法が挙げられる。
【0157】
(G−1)成分〜(G−3)成分における誘導体としては、例えば、(i)上述のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、ベンジルアミンまたはポリアミン(以下「上述の含窒素化合物」という。)に、脂肪酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸、炭素数2〜30のポリカルボン酸(例えばシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等。)、これらの無水物もしくはエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、又はヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを作用させたことにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている、含酸素有機化合物による変性化合物;(ii)上述の含窒素化合物にホウ酸を作用させることにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている、ホウ素変性化合物;(iii)上述の含窒素化合物にリン酸を作用させることにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている、リン酸変性化合物;(iv)上述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させることにより得られる、硫黄変性化合物;及び、(v)上述の含窒素化合物に含酸素有機化合物による変性、ホウ素変性、リン酸変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせて施すことにより得られる変性化合物が挙げられる。これら(i)〜(v)の誘導体の中でも、潤滑油組成物の耐熱性を更に向上させることができる点で、(G−1)成分のホウ素変性化合物を用いることが好ましい。
【0158】
(G)成分の分子量には特に制限は無いが、好適な重量平均分子量は1000〜20000である。
【0159】
潤滑油組成物が(G)成分を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、窒素分として好ましくは30〜300質量ppmであり、より好ましくは50質量ppm以上、またより好ましくは100質量ppm以下である。(G)成分の含有量が上記下限値以上であることにより、潤滑油組成物の耐熱性を高めることが可能になる。また(G)成分の含有量が上記上限値以下であることにより、省燃費性をさらに高めることが可能になる。
【0160】
(G)成分としてホウ素変性化合物を用いる場合、潤滑油組成物中の(G)成分に由来するホウ素量は、潤滑油組成物全量基準で好ましくは50〜500質量ppmであり、より好ましくは100質量ppm以上、またより好ましくは300質量ppm以下である。(G)成分に由来するホウ素含有量が上記上限値以下であることにより、省燃費性をさらに高めることが可能になる。
【0161】
<その他の添加剤>
本発明の潤滑油組成物は、酸化防止剤、(E)成分以外の腐食防止剤、防錆剤、(E)成分以外の金属不活性化剤、消泡剤、抗乳化剤、および着色剤から選ばれる1種以上をさらに含み得る。
【0162】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。具体的には例えば、フェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)等が挙げられ、アミン系無灰酸化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等が挙げられる。潤滑油組成物が酸化防止剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%である。
【0163】
(E)成分以外の腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、及びイミダゾール系化合物等の公知の腐食防止剤を用いることができる。潤滑油組成物が(E)成分以外の腐食防止剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005〜5質量%である。
【0164】
防錆剤としては、例えば石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等の公知の防錆剤を用いることができる。潤滑油組成物が防錆剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005〜5質量%である。
【0165】
(E)成分以外の金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、並びにβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等の公知の金属不活性化剤を用いることができる。潤滑油組成物が(E)成分以外の金属不活性化剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005〜5質量%である。
【0166】
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコーン、及びフルオロアルキルエーテル等の公知の消泡剤を用いることができる。潤滑油組成物が消泡剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.0005〜0.01質量%である。
【0167】
抗乳化剤としては、例えばポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等の公知の抗乳化剤を用いることができる。潤滑油組成物が抗乳化剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005〜5質量%である。
【0168】
着色剤としては、例えばアゾ化合物等の公知の着色剤を用いることができる。
【0169】
<潤滑油組成物>
潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは4.5〜7.5mm
2/sである。また潤滑油組成物の100℃における動粘度が7.5mm
2/s以下であることにより、潤滑油組成物の低温粘度特性および省燃費性を高めることが容易になる。潤滑油組成物の100℃における動粘度が4.5mm
2/s以上であることにより、高温条件下での油膜保持性を高めることができるので、耐焼付き性、耐摩耗性および、疲労寿命を高めることが容易になる。
【0170】
潤滑油組成物の40℃における動粘度は好ましくは18〜24mm
2/sである。潤滑油組成物の40℃における動粘度が24mm
2/s以下であることにより、省燃費性を高めることが容易になる。また潤滑油組成物の40℃における動粘度が18mm
2/s以上であることにより、潤滑箇所における油膜の形成を十分にして耐摩耗性を高めることが容易になる。
【0171】
潤滑油組成物の粘度指数は好ましくは160以上である。潤滑油組成物の粘度指数の上限は特に制限されるものではないが、通常300以下である。潤滑油組成物の粘度指数が160以上であることにより、省燃費性を高めることが容易になる。
【0172】
潤滑油組成物の−40℃におけるブルックフィールド粘度(以下において「BF粘度」ということがある。)は、好ましくは7500mPa・s未満である。潤滑油組成物の−40℃におけるBF粘度が7500mPa・s未満であることにより、低温始動性を高めることが可能になる。
【0173】
(用途)
本発明の潤滑油組成物は、湿式クラッチを備える装置の潤滑油として好ましく用いることができ、またハイポイドギヤを備える歯車装置のギヤ油としても好ましく用いることができる。本発明の潤滑油組成物は、湿式クラッチとハイポイドギヤとの共通潤滑油として特に好ましく用いることができる。そのような潤滑油が湿式クラッチとハイポイドギヤとの共通潤滑油として用いられる具体的な用途としては、自動車における自動変速機とデファレンシャルギヤとの共通潤滑油を挙げることができる。
【実施例】
【0174】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0175】
<実施例1〜27及び比較例1〜7>
表1〜5に示されるように、本発明の潤滑油組成物(実施例1〜27)、及び比較用の潤滑油組成物(比較例1〜7)をそれぞれ調製した。表中、基油の含有量は基油全量を基準としており、各添加剤の含有量は組成物全量を基準としている。成分の詳細は次の通りである。
【0176】
(潤滑油基油)
O1−1:APIグループII基油(SKルブリカンツ社製Yubase(登録商標)2)、動粘度(40℃):8.73mm
2/s、動粘度(100℃):2.435mm
2/s、粘度指数:97、流動点:−40℃
O1−2:APIグループIV基油(INEOS Oligmers USA LLC製Durasyn(登録商標)162)、動粘度(40℃):5.361mm
2/s、動粘度(100℃):1.776mm
2/s、粘度指数:89、硫黄分<10質量ppm
O1−3:APIグループII基油(S−OIL製ULTRA(登録商標)S−2)、動粘度(40℃):7.6mm
2/s、動粘度(100℃):2.259mm
2/s、粘度指数:106、流動点:−35℃
O2−1:APIグループIII基油(SKルブリカンツ社製Yubase(登録商標)4)、動粘度(40℃):19.42mm
2/s、動粘度(100℃):4.234mm
2/s、粘度指数:125、流動点:−17.5℃
O2−2:APIグループIV基油(INEOS Oligmers USA LLC製Durasyn(登録商標)164)、動粘度(40℃):17.60mm
2/s、動粘度(100℃):3.90mm
2/s、粘度指数:122
O3−1:APIグループV基油(日油株式会社製ユニスター(登録商標)MB881)、オレイン酸2−エチルヘキシル、動粘度(40℃):8.4mm
2/s、動粘度(100℃):2.7mm
2/s、粘度指数:179
O3−2:APIグループV基油(BASF社製Synative(登録商標)ES2958)、ジエステル、動粘度(40℃):10.3mm
2/s、動粘度(100℃):2.9mm
2/s、粘度指数:138
【0177】
((A)分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物)
A−1:分散型ポリメタクリレート、重量平均分子量:40,000
A−2:分散型ポリメタクリレート、重量平均分子量:150,000
【0178】
((B)非分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物)
B−1:非分散型ポリメタクリレート、重量平均分子量:20,000
B−2:非分散型ポリメタクリレート、重量平均分子量:30,000
B−3:非分散型ポリメタクリレート、重量平均分子量:50,000
B−4:非分散型ポリメタクリレート、重量平均分子量:80,000
B−5:非分散型ポリメタクリレート、重量平均分子量:120,000
B−6:非分散型ポリメタクリレート、重量平均分子量:400,000
【0179】
((C)リン含有摩耗防止剤)
C−1:トリクレジルホスファイト、P:8.4質量%
C−2:ジブチルホスファイト、P:15.5質量%
C−3:リン酸、P:30.0質量%
C−4:ジフェニルハイドロジェンホスファイト、P:13.2質量%
【0180】
((D)過塩基性カルシウム系清浄剤)
D−1:過塩基性Caサリシレート、塩基価:220、Ca:8.1質量%、アルキル基の平均炭素数:22、金属比:6.42
D−2:過塩基性Caサリシレート、塩基価:320、Ca:11.40質量%、アルキル基の平均炭素数:22、金属比:13.31
【0181】
((E)硫黄系添加剤)
E−1:一般式(12)〜(14)で表される、ヒドロカルビルジチオ基を有するチアジアゾール化合物、S:36質量%
E−2:上記一般式(20)で表される、アルキルオキシ又はアルケニルオキシ基置換環状スルホン化合物、f=1、R
45の数平均炭素数:10、R
45O−基の置換位置:3−位、S:11.6質量%
E−3:ポリサルファイド、S:30.5質量%
【0182】
((F)無灰摩擦調整剤)
F−1:N,N−ジラウリル−2−ヒドロキシアセトアミド
F−2:一般式(24)においてR
49〜R
50=C18アルケニル基、h=1であるコハク酸イミド化合物
F−3:一般式(26)においてR
52〜R
53=C17アルキル基、i:1〜2の整数、j:0〜2の整数、k:0〜1の整数、j+k:1〜2の整数、i+j+2k=3であるアシル化ポリアミンの混合物
【0183】
(その他の添加剤)
無灰分散剤:数平均分子量1300のポリブテニル基を有するホウ素含有コハク酸イミド、ビスタイプ、N:0.322質量%、B:0.5質量%
酸化防止剤:アミン系酸化防止剤
消泡剤:ジメチルシリコーン消泡剤、動粘度(25℃):60,000mm
2/s
【0184】
【表1】
【0185】
【表2】
【0186】
【表3】
【0187】
【表4】
【0188】
【表5】
【0189】
(MTM試験)
潤滑油組成物のそれぞれについて、MTMトラクション計測器(PCS Instruments社製)を用いて、ボールオンディスク摩擦試験を行い、トラクション係数を測定した。測定条件は次の通りである。
ボール及びディスク:標準試験片(AISI52100規格)
油温:120℃
荷重:50N
周速:1m/s
すべり率:50%
結果を表1〜5に示している。本試験において測定されたトラクション係数は、流体潤滑条件下ではなく、油膜厚さが薄い、流体潤滑から境界潤滑への移行域(混合潤滑域)におけるトラクション係数である。本試験で測定されたトラクション係数が0.04以下であれば、混合潤滑域においても摩擦が十分に低減されていることを意味する。
【0190】
(EHL試験)
潤滑油組成物のそれぞれについて、EHL試験機(PCS社製EHD2油膜厚さ計測器)を用いて、光干渉法により、弾性流体潤滑状態での油膜厚さを測定した。測定条件は次の通りである。
鋼球:PCS製Standard Ball(材質:SUJ−2)、直径19.05mm
ディスク:ガラス基板と、ガラス基板の表面にコーティングされたクロム層と、クロム層の表面にコーティングされたシリカ層とを有するガラスディスク
油温:120℃
荷重:20N
平均ヘルツ圧:0.5GPa
周速:0.1m/s
滑り率:10%
結果を表1〜5に示している。本試験で測定された油膜厚さが10nm以上であれば、油膜厚さが十分に厚いと判断できる。
【0191】
(低温粘度特性)
潤滑油組成物のそれぞれについて、ブルックフィールド粘度計を用いて、油温−40℃における粘度(BF粘度)を測定した。結果を表1〜5に示している。−40℃におけるBF粘度が7500mPa・s未満であれば、低温粘度特性が良好であると判断できる。
【0192】
(ISOT酸化安定性試験)
潤滑油組成物のそれぞれについて、JIS K2514に準拠したISOT試験により酸化安定性を評価した。油温150℃で120時間試験を行い、試験後の酸価の増加(mgKOH/g)を測定した。結果を表1〜5に示している。本試験における酸価増加が1mgKOH/g未満であれば、酸化安定性が良好であると判断できる。
【0193】
(ユニスチール試験)
潤滑油組成物のそれぞれについて、ユニスチール転がり疲労試験機(3連式高温転がり疲れ試験機(TRF−1000/3−01H)、株式会社東京試験機製)を用いて、ユニスチール試験(イギリス石油学会法:IP305/79)によりスラストベアリングの転がり疲労寿命を測定した。スラストニードルベアリング(NSK製FNTA−2542C)の片側の軌道輪を平坦な試験片(レース)(材質:SUJ2)で置き換えてなる試験軸受について、荷重700N、面圧2.0GPa、回転数1410rpm、油温110℃の条件下で、ころ又はレースのいずれかの試験片が疲労損傷するまでの軸受の回転数を測定した。なお、ユニスチール転がり疲労試験機に備えられた振動加速度計により測定される試験部の振動加速度が1.5m/s
2に達したとき、疲労損傷が発生したと判断した。10回の繰り返し試験における疲労損傷までの時間から、ワイブルプロットにより疲労寿命を10%寿命(F10:疲労損傷の累積確率が10%になる回転数)として算出した。結果を表1〜5に示している。本試験で測定された10%寿命が2.0×10
6回転以上であれば、疲労寿命が良好であると判断できる。
【0194】
(高速四球試験)
潤滑油組成物のそれぞれについて、JPI−5S−40−93に準拠した高速四球試験により、潤滑油組成物の耐摩耗性を評価した。回転数1500rpm、荷重392N、油温100℃で30分運転した後の摩耗痕径を測定した。結果を表1〜5に示している。本試験において摩耗痕径が0.70mm以下であれば、耐摩耗性が良好であると判断できる。
【0195】
(FALEX焼付き試験)
潤滑油組成物のそれぞれについて、ASTM D3233 A法に準拠したFALEX焼付き試験により、耐焼付き性を評価した。油温110℃の条件下、2個の静止した鋼製のVブロックで挟まれた鋼製のピンを290rpmで回転させ、焼付きが生じた荷重を測定した。結果を表1〜5に示している。本試験において焼き付きが生じた荷重が1500lbf以上であれば、耐焼き付き性が良好であると判断できる。
【0196】
(ジャダー防止性試験)
JASO M349:2010に規定の低速滑り試験機を用いて、潤滑油組成物のジャダー防止性およびジャダー防止寿命を評価した。試験方法はJASO M349:2010に準拠し、油温80℃でμ−Vカーブを測定した。ジャダー防止寿命の判定はJASO M315:2004に準拠して、測定したμ−Vカーブを5次関数で最小二乗近似し、近似関数を滑り速度(V)が0.9m/sの点で微分して勾配の値を求めた。該勾配値が負になった時点をもって寿命と判断した。結果を表1〜5中に示している。本試験において48時間耐久後の勾配値が正であれば、初期のジャダー防止性に優れていると判断できる。また本試験におけるジャダー防止寿命が200時間以上であれば、ジャダー防止寿命が良好であると判断できる。
【0197】
(評価結果)
実施例1〜27の潤滑油組成物は、MTM試験(混合潤滑域におけるトラクション係数)、EHL試験(油膜厚さ)、低温粘度特性、酸化安定性、疲労寿命、耐摩耗性、耐焼付き性(耐荷重能)、及び湿式クラッチのジャダー防止性において良好な結果を示した。
(B)成分を含有しなかった比較例1の潤滑油組成物は、混合潤滑域におけるトラクション係数において劣った結果を示した。
(B)成分を含有しなかった比較例2の潤滑油組成物は、混合潤滑域におけるトラクション係数、低温粘度特性、及び疲労寿命において劣った結果を示した。
(B)成分の重量平均分子量が過大であり、(A)成分と(B)成分との重量平均分子量の比MwB/MwAが過大であった比較例3の潤滑油組成物は、混合潤滑域におけるトラクション係数、および低温粘度特性において劣った結果を示した。
(A)成分と(B)成分との含有量の比MA/MBが過大であった比較例4の潤滑油組成物は、混合潤滑域におけるトラクション係数、油膜厚さ、及び低温粘度特性において劣った結果を示した。
(B)成分の重量平均分子量が過大であり、(A)成分と(B)成分との重量平均分子量の比MwB/MwAが過大であった比較例5の潤滑油組成物は、混合潤滑域におけるトラクション係数、油膜厚さ、及び低温粘度特性において劣った結果を示した。
(A)成分を含有せず、(B)成分の含有量が過大であった比較例6の潤滑油組成物は、混合潤滑域におけるトラクション係数、疲労寿命、耐摩耗性、及び耐焼付き性において劣った結果を示した。
(A)成分を含有せず、(B)成分の含有量が過大であった比較例7の潤滑油組成物は、混合潤滑域におけるトラクション係数、油膜厚さ、疲労寿命、及び耐摩耗性において劣った結果を示した。