(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6879863
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】サーボ機構の診断装置及び診断方法並びに診断プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4062 20060101AFI20210524BHJP
G05B 19/19 20060101ALI20210524BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
G05B19/4062
G05B19/19 L
G05B23/02 302S
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-159330(P2017-159330)
(22)【出願日】2017年8月22日
(65)【公開番号】特開2019-40241(P2019-40241A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2019年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】粟屋 伊智郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 義樹
【審査官】
尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−088219(JP,A)
【文献】
特許第5369246(JP,B1)
【文献】
特開2012−058890(JP,A)
【文献】
特開平06−187030(JP,A)
【文献】
特開2011−145846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/4062
G05B 19/19
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正常時のサーボ機構に所定の目標値を与えたときに得られるm個(m≧1)の操作量に関する入力信号及びk個(k≧1)の制御量に関する出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を一つのデータ集合体とし、前記データ集合体の全部又は一部を用いて生成されたm+k次元以下の正常状態軌跡を格納する正常データ記憶部と、
観測時において、前記サーボ機構に前記所定の目標値を与えたときの前記m個の操作量に関する入力信号及び前記k個の制御量に関する出力信号を取得するデータ取得部と、
前記データ取得部によって取得された前記入力信号及び前記出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を一つのデータ集合体とし、前記データ集合体の全部又は一部を用いて、m+k次元以下の観測状態軌跡を生成する観測状態軌跡生成部と、
互いに同期する前記正常状態軌跡と前記観測状態軌跡とを比較することにより、異常を検知する異常検知部と
を具備するサーボ機構の診断装置。
【請求項2】
正常時のサーボ機構に所定の目標値を与えたときに得られるm個(m≧1)の操作量に関する入力信号及びk個(k≧1)の制御量に関する出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を一つのデータ集合体とし、前記データ集合体の全部又は一部を用いて生成されたm+k次元以下の正常状態軌跡を格納する正常データ記憶部と、
(i)観測時において取得された、前記サーボ機構に前記所定の目標値を与えたときの前記m個の操作量に関する入力信号及び前記k個の制御量に関する出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を一つのデータ集合体とし、前記データ集合体の全部又は一部を用いて生成されたm+k次元以下の観測状態軌跡と、(ii)前記観測状態軌跡と同期する前記正常状態軌跡とを比較することにより、異常を検知する異常検知部と
を具備するサーボ機構の診断装置。
【請求項3】
正常時のサーボ機構に所定の目標値を与えたときに得られるm個(m≧1)の操作量に関する入力信号及びk個(k≧1)の制御量に関する出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を一つのデータ集合体とし、前記データ集合体の全部又は一部を用いて生成されたm+k次元以下の正常状態軌跡を格納する正常データ記憶部と、
(i)観測時における前記サーボ機構に前記所定の目標値を与えたときの前記m個の操作量に関する入力信号及び前記k個の制御量に関する出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を一つのデータ集合体とし、前記データ集合体の全部又は一部に基づくm+k次元以下の観測状態軌跡と、(ii)前記観測状態軌跡と同期する前記正常状態軌跡とを比較することにより、異常を検知する異常検知部と
を具備するサーボ機構の診断装置。
【請求項4】
前記正常状態軌跡は、前記データ集合体毎に該データ集合体に含まれる前記信号値を各前記操作量及び各前記制御量に対応した座標軸上にそれぞれプロットすることにより生成され、
前記観測状態軌跡は、前記データ集合体毎に該データ集合体に含まれる前記信号値を各前記操作量及び各前記制御量に対応した座標軸上にそれぞれプロットすることにより生成される請求項1から3のいずれかに記載のサーボ機構の診断装置。
【請求項5】
前記異常検知部は、互いに同期する前記正常状態軌跡と前記観測状態軌跡との差分に関する評価値に基づいて異常を検知する請求項1から請求項4のいずれかに記載のサーボ機構の診断装置。
【請求項6】
前記異常検知部は、座標軸毎に、互いに同期する前記正常状態軌跡と前記観測状態軌跡との差分ベクトルを算出し、前記差分ベクトルと予め設定されている閾値とを用いて異常を検知する請求項5に記載のサーボ機構の診断装置。
【請求項7】
前記異常検知部は、座標軸毎に決定された重み付け情報を用いて、互いに同期する前記正常状態軌跡と前記観測状態軌跡との差分に関する評価値を算出し、前記評価値と予め設定されている閾値とを用いて異常を検知し、
前記重み付け情報は、各前記信号値のばらつき度合に応じて設定されている請求項5に記載のサーボ機構の診断装置。
【請求項8】
前記正常状態軌跡は、正常時における前記サーボ機構をモデル化した数値モデルに前記所定の目標値を与えた時に得られる前記入力信号と前記出力信号とを用いて作成される請求項1から請求項7のいずれかに記載のサーボ機構の診断装置。
【請求項9】
互いに同期する前記正常状態軌跡と前記観測状態軌跡とを比較して表示する表示部を備える請求項1から請求項8のいずれかに記載のサーボ機構の診断装置。
【請求項10】
複数の異なる異常要因毎にそれぞれ作成された前記サーボ機構の各数値モデルに、前記所定の目標値を与えた時の前記m個の操作量に関する入力信号及び前記k個の制御量に関する出力信号とを用いて前記異常要因毎に異常状態軌跡を生成し、生成した前記異常状態軌跡と前記異常要因とを関連付けてそれぞれ格納する異常データ記憶部と、
各前記異常状態軌跡と前記正常状態軌跡との差分に関する評価値と、前記異常検知部によって算出された前記差分に関する評価値との類似度から前記サーボ機構の異常の要因を特定する異常要因特定部と
を具備する請求項5から請求項9のいずれかに記載のサーボ機構の診断装置。
【請求項11】
複数の異なる異常要因毎にそれぞれ作成された前記サーボ機構の各数値モデルに、前記所定の目標値を与えたときの前記m個の操作量に関する入力信号及び前記k個の制御量に関する出力信号とに基づいて生成された前記異常要因毎の異常状態軌跡と、前記正常状態軌跡との差分に関する評価値を前記異常要因と関連付けて格納する異常データ記憶部と、
前記異常データ記憶部に格納された各前記異常要因毎の前記差分に関する評価値と、前記異常検知部によって算出された前記差分に関する評価値との類似度から前記サーボ機構の異常の要因を特定する異常要因特定部と
を具備する請求項5から請求項9のいずれかに記載のサーボ機構の診断装置。
【請求項12】
正常時のサーボ機構に所定の目標値を与えたときに得られるm個(m≧1)の操作量に関する入力信号及びk個(k≧1)の制御量に関する出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を一つのデータ集合体とし、前記データ集合体の全部又は一部を用いて生成されたm+k次元以下の正常状態軌跡を所定の記憶部から読みだす工程と、
観測時において、前記サーボ機構に前記所定の目標値を与えたときの前記m個の操作量に関する入力信号及び前記k個の制御量に関する出力信号を取得する工程と、
観測時の前記入力信号及び前記出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を一つのデータ集合体とし、前記データ集合体の全部又は一部を用いて、m+k次元以下の観測状態軌跡を生成する工程と、
互いに同期する前記正常状態軌跡と前記観測状態軌跡とを比較することにより、異常を検知する工程と
を有するサーボ機構の診断方法。
【請求項13】
正常時のサーボ機構に所定の目標値を与えたときに得られるm個(m≧1)の操作量に関する入力信号及びk個(k≧1)の制御量に関する出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を一つのデータ集合体とし、前記データ集合体の全部又は一部を用いて生成されたm+k次元以下の正常状態軌跡を所定の記憶部から読みだす工程と、
(i)観測時において、取得された前記サーボ機構に前記所定の目標値を与えたときの前記m個の操作量に関する入力信号及び前記k個の制御量に関する出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を一つのデータ集合体とし、前記データ集合体の全部又は一部を用いて生成されたm+k次元以下の観測状態軌跡と、(ii)前記観測状態軌跡と同期する前記正常状態軌跡とを比較することにより、異常を検知する工程と
を有するサーボ機構の診断方法。
【請求項14】
正常時のサーボ機構に所定の目標値を与えたときに得られるm個(m≧1)の操作量に関する入力信号及びk個(k≧1)の制御量に関する出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を一つのデータ集合体とし、前記データ集合体の全部又は一部に基づくm+k次元以下の正常状態軌跡を所定の記憶部から読みだす工程と、
(i)観測時における前記サーボ機構に前記所定の目標値を与えたときの前記m個の操作量に関する入力信号及び前記k個の制御量に関する出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を一つのデータ集合体とし、前記データ集合体の全部又は一部に基づくm+k次元以下の観測状態軌跡と、(ii)前記観測状態軌跡と同期する前記正常状態軌跡とを比較することにより、異常を検知する工程と
を有するサーボ機構の診断方法。
【請求項15】
正常時のサーボ機構に所定の目標値を与えたときに得られるm個(m≧1)の操作量に関する入力信号及びk個(k≧1)の制御量に関する出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を一つのデータ集合体とし、前記データ集合体の全部又は一部を用いて生成されたm+k次元以下の正常状態軌跡を所定の記憶部から読みだす処理と、
観測時において、前記サーボ機構に前記所定の目標値を与えたときの前記m個の操作量に関する入力信号及び前記k個の制御量に関する出力信号を取得する処理と、
観測時の前記入力信号及び前記出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を一つのデータ集合体とし、前記データ集合体の全部又は一部を用いて、m+k次元以下の観測状態軌跡を生成する処理と、
互いに同期する前記正常状態軌跡と前記観測状態軌跡とを比較することにより、異常を検知する処理と
をコンピュータに実行させるためのサーボ機構の診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボ機構の診断装置及び診断方法並びに診断プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
NC工作機械等のサーボ機構の異常を検知する方法として、サーボ系の数値モデルを予め求めておき、この数値モデルを利用して異常を診断する方法が知られている。例えば、特許文献1には、油圧サーボ系の数値モデルを用意し、数値モデルに用いられる一次遅れ系の時定数及び定常ゲイン並びに二次遅れ系の共振周波数、減衰係数、及び定常ゲイン等のパラメータを同定し、これらパラメータの組み合わせに基づいてサーボ機構の診断や管理を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−212239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、数値モデルを利用する特許文献1の方法では、数値モデルの正確性が求められるため、装置の診断を行うのに煩雑な処理を行う必要があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、高い精度の数値モデルを利用する必要がなく、サーボ機構の診断を容易に行うことのできるサーボ機構の診断装置及び診断方法並びに診断プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様は、正常時のサーボ機構に所定の目標値を与えたときに得られるm個(m≧1)の操作量に関する入力信号及びk個(k≧1)の制御量に関する出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を用いて生成されたm+k次元以下の正常状態軌跡を格納する正常データ記憶部と、観測時において、前記サーボ機構に前記所定の目標値を与えたときの前記m個の操作量に関する入力信号及び前記k個の制御量に関する出力信号を取得するデータ取得部と、前記データ取得部によって取得された前記入力信号及び前記出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を用いて、m+k次元以下の観測状態軌跡を生成する観測状態軌跡生成部と、前記正常状態軌跡と前記観測状態軌跡とを用いて異常を検知する異常検知部とを具備するサーボ機構の診断装置である。
【0007】
上記構成によれば、正常時のサーボ機構に所定の目標値を与えたときに得られるm個(m≧1)の操作量に関する入力信号及びk個(k≧1)の制御量に関する出力信号のうち、互いに同期する(例えば、同じサンプリングタイムに取得された)入力信号の信号値及び出力信号の信号値が1つのデータ集合体とされ、これらのデータを用いてm+k次元以下の正常状態軌跡が生成される。この正常状態軌跡は正常データ記憶部に格納され、サーボ機構の診断に利用される。また、観測時において、サーボ機構に所定の目標値を与えたときのm個の操作量に関する入力信号及びk個の制御量に関する出力信号がデータ取得部によって取得され、データ取得部によって取得された入力信号及び出力信号のうち、互いに同期する(例えば、同じサンプリングタイムに取得された)入力信号の信号値及び出力信号の信号値が1つのデータ集合体とされ、これらのデータを用いてm+k次元以下の観測状態軌跡が観測状態軌跡生成部によって生成される。換言すると、上述した正常状態軌跡と同様の方法によって、観測状態軌跡が生成される。そして、正常状態軌跡と観測状態軌跡とを用いて異常検知部による異常検知が行われる。
このように、時系列で取得される入力信号及び出力信号を比較するのではなく、時系列の信号のうち、互いに同期する信号値を一つのデータ集合体とし、これらのデータ集合体を用いて状態軌跡を作成し、正常時における状態軌跡と観測時における状態軌跡とを比較することにより異常を検知するので、高い精度の数値モデルを必要とせずに、異常を検知することができる。
【0008】
上記サーボ機構の診断装置において、前記正常状態軌跡は、正常時における前記入力信号及び前記出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を各前記操作量及び各前記制御量に対応した座標軸上にそれぞれプロットすることにより生成され、前記観測状態軌跡は、前記データ取得部によって取得された前記入力信号及び前記出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を各前記操作量及び各前記制御量に対応した座標軸上にそれぞれプロットすることにより生成されてもよい。
【0009】
上記構成によれば、正常時のサーボ機構に所定の目標値を与えたときに得られるm個(m≧1)の操作量に関する入力信号及びk個(k≧1)の制御量に関する出力信号のうち、互いに同期する(例えば、同じサンプリングタイムに取得された)入力信号の信号値及び出力信号の信号値が1つのデータ集合体とされ、各操作量及び各制御量に対応した座標軸上にそれぞれの信号値をプロットすることによりm+k次元以下の正常状態軌跡が生成される。同様に、データ取得部によって取得された入力信号及び出力信号のうち、互いに同期する(例えば、同じサンプリングタイムに取得された)入力信号の信号値及び出力信号の信号値が1つのデータ集合体とされ、各操作量及び各制御量に対応した座標軸上にそれぞれの信号値をプロットすることによりm+k次元以下の観測状態軌跡が生成される。そして、このようにして生成された正常状態軌跡と観測状態軌跡とを用いて異常検知部による異常検知が行われる。
【0010】
上記サーボ機構の診断装置において、前記異常検知部は、前記正常状態軌跡と前記観測状態軌跡との差分に関する評価値に基づいて異常を検知することとしてもよい。
より具体的には、前記異常検知部は、前記座標軸毎に、前記正常状態軌跡と前記観測状態軌跡との差分ベクトルを算出し、前記差分ベクトルと予め設定されている閾値とを用いて異常を検知することとしてもよい。
【0011】
観測状態軌跡が正常状態軌跡に近いほど正常に近い状態であると判断することができる。したがって、正常状態軌跡と観測状態軌跡との差分に関する評価値を用いることで、容易に異常を検知することが可能となる。なお、閾値は、操作量毎及び制御量毎に設けられていてもよい。
【0012】
上記サーボ機構の診断装置において、前記異常検知部は、前記座標軸毎に決定された重み付け情報を用いて、前記正常状態軌跡と前記観測状態軌跡との差分に関する評価値を算出し、前記評価値と予め設定されている閾値とを用いて異常を検知し、前記重み付け情報は、各前記信号値のばらつき度合に応じて設定されていることとしてもよい。
【0013】
操作量や制御量によって、信号値のばらつきが大きいものと信号値のばらつきが小さいものとがある。この場合、ばらつきが大きい操作量や制御量については、正常状態軌跡と観測状態軌跡との差分が大きくなり、誤った異常検知をしてしまう可能性がある。したがって、信号値のばらつきを考慮した重み付け情報(例えば、重み付け係数)を用いて評価値を算出することにより、ばらつきが大きな信号値による影響度を低くすることができ、異常の誤検知を抑制することが可能となる。
【0014】
上記サーボ機構の診断装置において、前記正常状態軌跡は、正常時における前記サーボ機構をモデル化した数値モデルに前記所定の目標値を与えた時に得られる前記入力信号と前記出力信号とを用いて作成されることとしてもよい。
【0015】
上記構成によれば、正常時におけるサーボ機構の数値モデルを用いるので、入力信号及び出力信号を容易に取得することができる。
【0016】
上記サーボ機構の診断装置は、前記正常状態軌跡と前記観測状態軌跡とを比較して表示する表示部を更に備えていてもよい。
【0017】
上記構成によれば、表示部には正常状態軌跡と観測状態軌跡とが比較して表示されるので、正常時に対する現在の状態の変化をユーザに対して視覚的に通知することが可能となる。
【0018】
上記サーボ機構の診断装置は、複数の異なる異常要因毎にそれぞれ作成された前記サーボ機構の各数値モデルに、前記所定の目標値を与えた時の前記m個の操作量に関する入力信号及び前記k個の制御量に関する出力信号とを用いて前記異常要因毎に異常状態軌跡を生成し、生成した前記異常状態軌跡と前記異常要因とを関連付けてそれぞれ格納する異常データ記憶部と、各前記異常状態軌跡と前記正常状態軌跡との差分に関する評価値と、前記異常検知部によって算出された前記差分に関する評価値との類似度から前記サーボ機構の異常の要因を特定する異常要因特定部とを更に具備することとしてもよい。
【0019】
上記構成によれば、異なる複数の異常要因を想定し、想定した異常要因毎にサーボ機構の数値モデルを用意し、この数値モデルに所定の目標値を与えた時の入力信号及び出力信号を取得し、取得したこれらのデータから正常状態軌跡と同様の手法によって異常状態軌跡を生成する。これにより、異常要因毎に異常状態軌跡が生成される。そして、各異常要因における異常状態軌跡と正常状態軌跡との差分に関する評価値が算出され、この評価値と、異常検知部によって算出された評価値(すなわち、正常状態軌跡と観測状態軌跡との差分に関する評価値)との類似度に基づいてサーボ機構の異常の要因が特定される。
【0020】
上記サーボ機構の診断装置において、複数の異なる異常要因毎にそれぞれ作成された前記サーボ機構の各数値モデルに、前記所定の目標値を与えたときの前記m個の操作量に関する入力信号及び前記k個の制御量に関する出力信号とに基づいて生成された前記異常要因毎の異常状態軌跡と、前記正常状態軌跡との差分に関する評価値を前記異常要因と関連付けて格納する異常データ記憶部と、前記異常データ記憶部に格納された各前記異常要因毎の前記差分に関する評価値と、前記異常検知部によって算出された前記差分に関する評価値との類似度から前記サーボ機構の異常の要因を特定する異常要因特定部とを更に具備することとしてもよい。
【0021】
上記構成によれば、異常要因毎に、異常状態軌跡と正常状態軌跡との差分による評価値が予め演算され、この演算結果が異常データ記憶部に予め格納されているので、異常データ記憶部に異常状態軌跡が格納されている場合に比べて、差分に関する評価値の演算処理の負担を軽減することが可能となる。
【0022】
本発明の第2態様は、正常時のサーボ機構に所定の目標値を与えたときに得られるm個(m≧1)の操作量に関する入力信号及びk個(k≧1)の制御量に関する出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を用いて生成されたm+k次元以下の正常状態軌跡を所定の記憶部から読みだす工程と、観測時において、前記サーボ機構に前記所定の目標値を与えたときの前記m個の操作量に関する入力信号及び前記k個の制御量に関する出力信号を取得する工程と、観測時の前記入力信号及び前記出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を用いて、m+k次元以下の観測状態軌跡を生成する工程と、前記正常状態軌跡と前記観測状態軌跡とを用いて異常を検知する工程とを有するサーボ機構の診断方法である。
【0023】
本発明の第3態様は、正常時のサーボ機構に所定の目標値を与えたときに得られるm個(m≧1)の操作量に関する入力信号及びk個(k≧1)の制御量に関する出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を用いて生成されたm+k次元以下の正常状態軌跡を所定の記憶部から読みだす処理と、観測時において、前記サーボ機構に前記所定の目標値を与えたときの前記m個の操作量に関する入力信号及び前記k個の制御量に関する出力信号を取得する処理と、観測時の前記入力信号及び前記出力信号のうち、互いに同期する前記入力信号の信号値及び前記出力信号の信号値を用いて、m+k次元以下の観測状態軌跡を生成する処理と、前記正常状態軌跡と前記観測状態軌跡とを用いて異常を検知する処理とをコンピュータに実行させるためのサーボ機構の診断プログラムである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高い精度の数値モデルを利用する必要がなく、サーボ機構の診断を容易に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係るサーボ機構の診断装置のハードウェア構成を示した図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るサーボ機構の診断装置が備える機能の一例を示した機能ブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る正常状態軌跡について説明するための図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る正常状態軌跡について説明するための図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る正常状態軌跡について説明するための図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る正常状態軌跡と観測状態軌跡との差分ベクトルについて説明するための図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るサーボ機構の診断装置によって実行される処理の手順を示したフローチャートである。
【
図8】本発明の一実施形態に係る異常要因特定部によって実行される処理の内容を説明するための図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る異常要因特定部によって実行される処理の内容を説明するための図である。
【
図10】ギアを有するサーボ機構において、ギアの間隔を調整したときの調整前後における負荷位置、モータ速度、及びトルクの時系列信号を比較して示した図である。
【
図11】
図10に示した負荷位置、モータ速度、及びトルクに関する時系列信号を用いて生成された調整前と調整後における状態軌跡をそれぞれ比較して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係るサーボ機構の診断装置及び診断方法並びに診断プログラムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るサーボ機構の診断装置のハードウェア構成を示した図である。
図1に示すように、サーボ機構の診断装置1は、いわゆるコンピュータシステムであり、CPU(Central Processing Unit)11、CPU11が実行するプログラム等を記憶するためのROM(Read Only Memory)12、各プログラム実行時のワーク領域として機能するRAM(Random Access Memory)13、大容量記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)14、ネットワークに接続するための通信インターフェース15、キーボードやマウス等からなる入力部16、及びデータを表示する液晶表示装置等からなる表示部17等をそれぞれ備えている。これら各部は、バス18を介して接続されている。
上記ROM12には、各種プログラム(例えば、サーボ機構の診断プログラム)が格納されており、CPU11がROM12からRAM13にプログラムを読み出し、実行することにより種々の機能を実現させる。なお、CPU11が実行するプログラム等を記憶するための記憶媒体は、ROM12に限られず、磁気ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等で構成される他の記録媒体であってもよい。
【0027】
図2は、本実施形態に係るサーボ機構の診断装置1が備える機能の一例を示した機能ブロック図である。
図2に示すように、サーボ機構の診断装置1(以下、単に「診断装置1」という。)は、例えば、正常データ記憶部21、異常データ記憶部22、データ取得部23、観測状態軌跡生成部24、異常検知部25、異常要因特定部26、及び表示部27を備えている。
【0028】
サーボ機構は、所定の目標値が与えられたときに、制御量を目標値に一致させるための少なくとも1つの入力信号が入力され、その応答として制御量が変化する機構である。制御量としては、例えば、位置、方位、姿勢等が挙げられる。サーボ機構の一例として、ロボット、NC工作機械等が挙げられる。
【0029】
正常データ記憶部21には、正常状態軌跡が予め格納されている。例えば、正常状態軌跡は、以下の手順によって生成される。
例えば、
図3に示すように、正常時におけるサーボ機構をモデル化した数値モデルを用意する。本実施形態では、この数値モデルに対して所定の目標値を与えたときに、m個(m≧1)の時系列の入力信号[U1
*(t)、U2
*(t)、・・・Um
*(t)]が制御対象であるサーボ機構の機械システム10に与えられ、その応答信号(制御量)としてk個(k≧1)の時系列の出力信号[Y1
*(t)、Y2
*(t)、・・・Yk
*(t)]が得られるものとする。
【0030】
次に、
図4に示すように、正常時におけるサーボ機構の数値モデルに対し所定の目標値を与えた時の時系列の入力信号[U1
*(t)、U2
*(t)、・・・Um
*(t)]と時系列の出力信号[Y1
*(t)、Y2
*(t)、・・・Yk
*(t)]において、互いに同期する信号値、例えば、同じサンプリングタイムtiに取得された入力信号の信号値[U1
*(ti)、U2
*(ti)、・・・Um
*(ti)]及び出力信号の信号値[Y1
*(ti)、Y2
*(ti)、・・・Yk
*(ti)]を1つのデータ集合体とし、
図5に示すように、各操作量及び各制御量に対応した座標軸上にそれぞれ信号値をプロットする。そして、プロットした信号値をそれぞれつなぐことにより、m+k次元の状態軌跡を生成する。そして、この作業をサンプリングタイム毎に行うことで、サンプリング数N+1に対応する数の状態軌跡が描かれることとなる。
状態軌跡は例えば、以下の(1)式で表される。
【0032】
このようにして生成された各サンプリングタイムに対応する複数の状態軌跡は、正常状態軌跡として正常データ記憶部21に格納される。
ここで、上述した正常時におけるサーボ機構の数値モデルは、高精度なものである必要はなく、基本的な物理現象の定性的な性質がモデルに組み込まれていればよい。また、本実施形態では、正常時におけるサーボ機構の数値モデルを用いて入力信号及び出力信号を得たが、これに代えて、正常状態のサーボ機構、例えば、出荷時におけるサーボ機構に対して所定の目標値を与え、このときの入力信号と出力信号とを得ることにより、上記正常状態軌跡を生成することとしてもよい。
また、上記例では、m+k次元の状態軌跡としたが、入力信号及び出力信号の全ての信号値を用いる必要はなく、例えば、所定の操作量および所定の制御量を省略し、m+k次元未満の状態軌跡を生成することとしてもよい。
【0033】
異常データ記憶部22には、予め取得された複数の異常状態軌跡が格納されている。例えば、異常状態軌跡は、以下の手順によって生成される。
まず、複数の異なる異常要因a〜nを想定し、その異常要因a〜nに対応するサーボ機構の数値モデルを生成する。異常要因の一例として、サーボ機構に作用する各種摩擦パラメータの変化や不感帯(ガタ、バックラッシュ等)の変化等が挙げられる。なお、異常要因の種類や想定数については特に限定されない。ここで作成される各異常要因a〜nのサーボ機構の数値モデルは、例えば、上述した正常時のサーボ機構の数値モデルに対してそれぞれの異常要因に関する所定のパラメータを変化させた数値モデルであってもよい。
【0034】
続いて、異常要因毎に作成したサーボ機構の数値モデルに対して、正常状態軌跡を作成したときと同じ目標値を与え、上述した正常時と同様に、そのときの時系列の入力信号及び時系列の出力信号を得る。そして、この入力信号及び出力信号を用いて、上述した正常状態軌跡と同様の処理を行うことにより、各異常要因に対する異常状態軌跡(第1異常状態軌跡〜第n異常状態軌跡)を生成する。このように生成された異常状態軌跡は、異常要因と関連付けられて異常データ記憶部22に格納される。
各異常要因における異常状態軌跡は、例えば、以下の(2)式で表される。
【0036】
データ取得部23は、サーボ機構の作動時(観測時)における時系列の入力信号及び時系列の出力信号を取得する。例えば、データ取得部23は、サーボ機構の起動時やメンテナンス直後等の所定のタイミングで、観測対象であるサーボ機構に対して、正常状態軌跡を作成したときと同じ目標値を与えたときの時系列の入力信号と時系列の出力信号とを取得する。
【0037】
観測状態軌跡生成部24は、データ取得部23によって取得された時系列の入力信号及び時系列の出力信号を用いて、上述した正常状態軌跡と同様の処理を行うことにより、観測状態軌跡を生成する。具体的には、データ取得部23によって取得された時系列の入力信号及び時系列の出力信号のうち、同じサンプリングタイムi(i=0〜N)に取得された入力信号の信号値及び出力信号の信号値を1つのデータ集合体とし、各操作量及び各制御量に対応した座標軸上にそれぞれ信号値をプロットする。そして、プロットした信号値をそれぞれつなぐことにより、m+k次元の観測状態軌跡を生成する。
観測状態軌跡は例えば、以下の(3)式で表される。
【0039】
異常検知部25は、観測状態軌跡生成部24によって生成された観測状態軌跡と、正常データ記憶部21に格納されている正常状態軌跡とを比較することにより異常を検知する。ここで、観測状態軌跡と正常状態軌跡との比較は、互いに同期が取れている軌跡、換言すると、同じサンプリングタイム(i=0〜N)に取得された状態軌跡同士を比較することで行われる。
【0040】
具体的には、異常検知部25は、互いに同期する正常状態軌跡と観測状態軌跡とを用い、差分に関する評価値を演算する。ここでは、互いに同期する正常状態軌跡と観測状態軌跡との差分ベクトルを演算し、演算した差分ベクトルの絶対値の平均値を差分に関する評価値として算出する。差分ベクトルは、
図6に示すように、操作量及び制御量毎に算出される。例えば、差分ベクトルは、以下の(4)式で表される。異常検知部25は、このようにして算出した各サンプリングタイムiにおける差分ベクトルの集合体を全てのサンプリングタイムで絶対値を取って積分し、平均した値を差分に関する評価値Xとして算出する。差分に関する評価値Xは以下の(5)式で表される。
【0042】
異常検知部25は、上記差分に関する評価値Xと予め設定されている閾値とを比較し、評価値Xが閾値異常である場合に、異常を検知する。すなわち、差分ベクトルが生じる原因は機械の特性変化が原因であると考えられるから、その特性変化がある一定の範囲を超えた場合には異常が発生しているとみなすことができる。したがって、異常検知部25は、差分ベクトルが所定の閾値を超えた場合に、異常が発生していると判定する。
【0043】
なお、操作量及び制御量によっては、ばらつきが多いものもあればばらつきの小さいものもある。そこで、値のばらつきが大きい操作量及び制御量については、比較的小さな重み付け係数を設定し、これにより、ばらつきの影響度を小さくしてもよい。このように、ばらつきの大きな操作量及び制御量に関しては重み付け係数の値を小さくすることにより、ばらつきによる異常の誤検知を抑制することが可能となる。
【0044】
なお、上述のように差分ベクトルを平均化した値を評価値Xとするのに代えて、一部の区間のサンプリングタイムにおける正常状態軌跡と観測状態軌跡との差分ベクトルを用いて異常を判定することとしてもよい。
【0045】
異常検知部25によって異常が検知された場合には、続いて、異常要因特定部26による異常の要因特定が行われる。
異常要因特定部26は、異常データ記憶部22に格納されている第1異常状態軌跡〜第n異常状態軌跡を用いて異常特定を行う。
具体的には、各異常状態軌跡と正常状態軌跡とから上述と同様に差分に関する評価値をそれぞれ演算する。具体的には、各異常状態軌跡と正常状態軌跡とを用いて、差分ベクトルを演算する。このとき、異常検知部25において重み付け係数が用いられる場合には、同一の重み付け係数を用いて各操作量及び制御量における差分ベクトルを演算する。なお、本実施形態では、異常状態軌跡を異常データ記憶部22に予め格納することとしたが、これに代えて、正常状態軌跡に対する各異常要因の異常状態軌跡の差分に関する評価値、具体的には、差分ベクトルを異常データ記憶部22に格納することとしてもよい。
【0046】
各異常要因a〜nについての差分ベクトルは、以下の(6)式で表される。
【数5】
【0047】
次に、各異常要因における差分に関する評価値(本実施形態では差分ベクトル)と、異常検知部25によって算出された差分に関する評価値とを比較し、両者の類似度を評価する。このとき、それぞれ同期するサンプリングタイムの差分ベクトルを比較して類似度Va〜Vnを評価する。異常要因特定部26は、最も類似度が高い異常要因を今回の異常の要因であると特定する。
【0048】
例えば、類似度の評価は、以下の(7)式で表すようにベクトルの内積を利用して演算することができる。内積を用いることで計算を簡素化し、処理の高速化を図ることができる。
【0050】
表示部17は、正常状態軌跡及び観測状態軌跡を比較して示したグラフを表示したり、異常検知部25の検知結果を表示したり、異常要因特定部26によって特定された異常要因等を表示する。
【0051】
次に、上記構成を備える診断装置1の演算処理の流れについて
図7を参照して説明する。
図7は、診断装置1によって実行される処理の手順を示したフローチャートである。
【0052】
まず、上述したように、正常データ記憶部21には正常状態軌跡が予め格納されており、異常データ記憶部22には複数の異常状態軌跡(第1異常状態軌跡〜第n異常状態軌跡)が異常要因と関連付けられて予め格納されている。
この状態において、データ取得部23は観測時において、サーボ機構に所定の目標値を与えた時の時系列の入力信号と出力信号(観測データ)とを取得する(SA1)。続いて、観測状態軌跡生成部24は、データ取得部23によって取得された観測時の入力信号と出力信号とを用いて観測状態軌跡を生成する(SA2)。続いて、異常検知部25は、観測状態軌跡と正常データ記憶部21に格納されている正常状態軌跡とから差分に関する評価値を算出し(SA3)、差分に関する評価値を用いて異常を検知する(SA4)。具体的には、同じサンプリングタイムにおける正常状態軌跡と観測状態軌跡との差分ベクトルを演算し、この差分ベクトルと予め設定されている閾値とを比較することにより異常を検知する。なお、このとき予め設定されている操作量毎及び制御量毎の重み付け係数を用いることとしてもよい。
【0053】
そして、異常検知部25によって異常が検知されなかった場合には当該処理を終了する(SA5において「NO」)。一方、異常検知部25によって異常が検知された場合には(SA5において「YES」)、異常要因特定部26による異常要因の特定が行われる。具体的には、
図8に示すように、異常データ記憶部22に格納されている第1異常状態軌跡〜第n異常状態軌跡と正常状態軌跡とから差分に関する評価値をそれぞれ算出する(SA6)。そして、算出したこれら差分に関する評価値と、ステップSA3で算出された差分に関する評価値とに基づいて異常要因を特定する(SA7)。具体的には、ステップSA6において、第1異常状態軌跡〜第n異常状態軌跡と正常状態軌跡とを用いて、正常状態軌跡に対する各異常状態軌跡の差分ベクトルを算出し、各差分ベクトルとステップSA3で算出した差分ベクトルとの内積を演算することにより、各異常要因における類似度Va〜Vnを算出する。この演算式は、上記(7)式に示した通りである。そして、類似度が最も高い異常要因a〜nを今回の異常の要因として特定する。例えば、
図9に示すように、各異常要因a〜d(n=4)に対する類似度Va〜Vdが算出された場合、最も類似度の高い異常要因aが今回の異常要因であると特定される。
このようにして特定された異常要因等は表示部27に適宜表示され、ユーザに通知される。
【0054】
以上説明してきたように、本実施形態に係るサーボ機構の診断装置及び診断方法並びに診断プログラムによれば、正常時のサーボ機構に所定の目標値を与えたときに得られるm個(m≧1)の操作量に関する入力信号及びk個(k≧1)の制御量に関する出力信号のうち、同じサンプリングタイムに取得された入力信号の信号値及び出力信号の信号値が1つのデータ集合体とされ、各操作量及び各制御量に対応した座標軸上にそれぞれの信号値をプロットすることにより作成されたm+k次元の正常状態軌跡と、観測時における入力信号及び出力信号から同様の手法によって生成された観測状態軌跡とを比較することにより差分に関する評価値を演算し、この差分に関する評価値に基づいて異常が検知される。
【0055】
これにより、時系列で取得された入力信号及び出力信号を比較する場合と比べて容易に異常を検知することが可能となる。例えば、
図10は、ギアを有するサーボ機構において、ギアの間隔を調整したときの調整前後における負荷位置、モータ速度、及びトルクの時系列信号を比較して示した図である。
図10に示すように、時系列信号では、ギア間隔の調整前後における変化は顕著に表れていない。しかしながら、
図11に示すように、これらの2つの信号から状態軌跡を生成した場合、ギアの調整前における状態軌跡とギアの調整後における状態軌跡とは全く異なる軌跡を描くこととなり、その調整の効果が視認できる。このように、状態軌跡を用いて異常を判定することにより、正常時に対して現在のサーボ機構の状態がどの程度変化しているのかを直感的に把握することが可能となる。
【0056】
更に、本実施形態に係るサーボ機構の診断装置及び診断方法並びに診断プログラムによれば、各異常要因に対する異常状態軌跡を作成し、各異常状態軌跡と正常状態軌跡との差分に関する評価値を算出し、算出したこの評価値と、正常状態軌跡と観測状態軌跡とから得た評価値との類似度から異常要因を判定する。異常状態軌跡と正常状態軌跡との差分を用いることで、モデル誤差を排除することができ、サーボ機構を高い精度でモデル化した数値モデルを用いなくても、異常要因を特定することができる。このように、本実施形態に係るサーボ機構の診断装置及び診断方法並びに診断プログラムによれば、高い精度で生成された数値モデルを必要としないため、処理の煩雑化を回避することができ、処理負担の軽減及び処理の短縮化を図ることが可能となる。
【符号の説明】
【0057】
1 :診断装置
10 :機械システム
21 :正常データ記憶部
22 :異常データ記憶部
23 :データ取得部
24 :観測状態軌跡生成部
25 :異常検知部
26 :異常要因特定部
27 :表示部