(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6879941
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】脳病変治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20210524BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20210524BHJP
A61K 31/795 20060101ALI20210524BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20210524BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20210524BHJP
A61K 47/30 20060101ALI20210524BHJP
A61K 9/08 20060101ALN20210524BHJP
A61K 9/12 20060101ALN20210524BHJP
A61K 47/42 20170101ALN20210524BHJP
A61K 47/34 20170101ALN20210524BHJP
A61K 35/35 20150101ALN20210524BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P9/10
A61K31/795
A61P43/00 121
A61K47/36
A61K47/30
!A61K9/08
!A61K9/12
!A61K47/42
!A61K47/34
!A61K35/35
【請求項の数】8
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2017-561800(P2017-561800)
(86)(22)【出願日】2016年5月26日
(65)【公表番号】特表2018-516258(P2018-516258A)
(43)【公表日】2018年6月21日
(86)【国際出願番号】EP2016061905
(87)【国際公開番号】WO2016189087
(87)【国際公開日】20161201
【審査請求日】2019年3月7日
(31)【優先権主張番号】15305806.0
(32)【優先日】2015年5月28日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517407279
【氏名又は名称】オルガンズ ティシューズ リジェネレーション リパレーション レムプレースメント − オーティーアール3
(73)【特許権者】
【識別番号】517408209
【氏名又は名称】バリトー デニス
(73)【特許権者】
【識別番号】505351201
【氏名又は名称】セントレ ナシオナル デ ラ ルシェルシェ シエンティフィーク
(73)【特許権者】
【識別番号】513238213
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ カーン バス−ノルマンディ
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】バリトー デニス
(72)【発明者】
【氏名】ベルナウディン ミリアム
(72)【発明者】
【氏名】トウザニ オマール
(72)【発明者】
【氏名】トゥタン ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】キテット マリー−ソフィ
【審査官】
長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−521503(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2001/0023246(US,A1)
【文献】
MARIE-SOPHIE QUITTET,EFFECTS OF MESENCHYMAL STEM CELL THERAPY, IN ASSOCIATION WITH PHARMACOLOGICALLY ACTIVE 以下備考,ACTA BIOMATERIALIA,NL,2014年12月31日,VOL:15,PAGE(S):77 - 88,MICROCARRIERS RELEASING VEGF, IN AN ISCHAEMIC STROKE MODEL IN THE RAT,URL,http://dx.doi.org/10.1016/j.actbio.2014.12.017
【文献】
LEI HAO,STEM CELL-BASED THERAPIES FOR ISCHEMIC STROKE,BIOMED RESEARCH INTERNATIONAL,米国,2014年,VOL:7, NR:10,PAGE(S):1 - 17,URL,http://dx.doi.org/10.1155/2014/468748
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/
A61K 31/795
A61P 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低酸素大脳病態に起因する中枢神経系の組織病変の予防及び/又は治療用医薬組成物であって、前記組成物が、
下記一般式(II)
AaXxYyZz(II)
(式中、Aはグルコースであるモノマーであり、
Xは−R1COOR2で表される基であり、
Yは、−R7SO3R8で表される基であり、
Zは酢酸基であり、
ここで、R1は、−CH2−基であり、
R2及びR8は、独立に、水素原子、又は、アルカリ金属の群から選択されるカチオンM+であり、
R7は、結合であり、
aはモノマーの数であり、aは、前記式(I)のポリマーの質量が2000ダルトンを超えるようなものであり、
xは、基Xによる前記モノマーAの置換度であり、20〜150%であり、
yは、基Yによる前記モノマーAの置換度であり、30%〜150%であり、
zは、基Zによる前記モノマーAの置換度であり、0%〜50%である。)
の生体適合性ポリマーと、
間葉系幹細胞と
を含む、医薬組成物。
【請求項2】
モノマーの数「a」が、前記式(I)のポリマーの質量が2000000ダルトン未満であるようなものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記生体適合性ポリマーが、脳血管虚血に起因する中枢神経系の組織病変の治療において、
静脈内に0.1〜5mg/kg体重の用量で投与され、
前記間葉系幹細胞が、前記生体適合性ポリマーの最初の投与後5分〜1か月の期間内に注射による治療に使用される、
請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
脳血管虚血に起因する中枢神経系の組織病変の予防及び/又は治療用医薬キットであって、
i.下記一般式(II)
AaXxYyZz(II)
(式中、Aはグルコースであるモノマーであり、
Xは−R1COOR2で表される基であり、
Yは、−R7SO3R8で表される基であり、
Zは酢酸基であり、
ここで、R1は、−CH2−基であり、
R2及びR8は、独立に、水素原子、又は、アルカリ金属の群から選択されるカチオンM+であり、
R7は、結合であり、
aはモノマーの数であり、aは、前記式(I)のポリマーの質量が2000ダルトンを超えるようなものであり、
xは、基Xによる前記モノマーAの置換度であり、20〜150%であり、
yは、基Yによる前記モノマーAの置換度であり、30%〜150%であり、
zは、基Zによる前記モノマーAの置換度であり、0%〜50%である。)
の生体適合性ポリマーと、
ii.間葉系幹細胞と
を含む、医薬キット。
【請求項5】
前記生体適合性ポリマーが、
静脈内に0.1〜5mg/kg体重の用量で投与され、
前記間葉系幹細胞を前記生体適合性ポリマーの最初の投与後5分〜1か月の期間内に注射に使用することができる、
請求項4に記載の医薬キット。
【請求項6】
前記生体適合性ポリマー及び/又は前記細胞が1日〜3か月の期間投与される、請求項4又は5に記載の医薬キット。
【請求項7】
前記生体適合性ポリマー及び/又は前記細胞が、毎日、毎日2回又は毎週投与される、請求項4から6のいずれか一項に記載の医薬キット。
【請求項8】
大脳低酸素病態に起因する中枢神経系の組織病変の治療用医薬品の製造のための医薬組成物の使用であって、
下記一般式(II)
AaXxYyZz(II)
(式中、Aはグルコースであるモノマーであり、
Xは−R1COOR2で表される基であり、
Yは、−R7SO3R8で表される基であり、
Zは酢酸基であり、
ここで、R1は、−CH2−基であり、
R2及びR8は、独立に、水素原子、又は、アルカリ金属の群から選択されるカチオンM+であり、
R7は、結合であり、
aはモノマーの数であり、aは、前記式(I)のポリマーの質量が2000ダルトンを超えるようなものであり、
xは、基Xによる前記モノマーAの置換度であり、20〜150%であり、
yは、基Yによる前記モノマーAの置換度であり、30%〜150%であり、
zは、基Zによる前記モノマーAの置換度であり、0%〜50%である。)
の生体適合性ポリマーと、
間葉系幹細胞と
を含む、医薬組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳血管虚血に起因する中枢神経系の組織病変の予防及び/又は治療用医薬品としてのその適用のための医薬組成物に関する。
【0002】
本発明は、脳血管虚血に起因する中枢神経系の組織病変の予防及び/又は治療用医薬キットにも関する。
【0003】
本発明は、特にヒトと動物の医薬品分野において使用することができる。
【0004】
以下の記述において、括弧( )内の参考文献は、明細書の最後に示した参考文献のリストを指す。
【背景技術】
【0005】
脳卒中(CVA)は、依然として、先進国の人々における主要な病因であり、第3位の死亡原因である。この病態は、依然として、極めて重大な犠牲を伴い、65歳以降の全死亡の10%〜12%であり、犠牲者の半数以上は身体的、知的又は心理学的後遺症も伴う。WHOによれば、1500万人が世界中で毎年脳卒中になる。これらのうち、5百万人が死亡し、5百万人が一生障害を負う。ヨーロッパでは、脳卒中による死亡数は、毎年約650,000人と推定される。その結果、脳卒中の社会経済的影響は極めて大きい(2007年のフランスで53億ユーロ(非特許文献1)。
【0006】
脳卒中は、脳の特定の領域における血液供給の減少と定義される。2つのタイプの脳卒中が存在する、すなわち、血管の破裂の結果として血管区画から細胞内区画への血液漏出に該当する出血事象、及び脳卒中患者の80%が犠牲になる虚血タイプである。後者は、末梢から剥離したと考えられ、脳動脈に運ばれたと考えられる血餅に対応した塞栓形成に起因する、又は最終的に血管の内腔を完全に閉塞させるアテローム性動脈硬化プラークに起因する、血流の減少によるものである。この閉塞に最も一般的に関与する動脈は、シルヴィウス動脈又は中大脳動脈(MCA:middle cerebral artery)である。これは、大脳半球の大部分を潤す動脈であり、その閉塞は、重大な感覚運動的又は知的ハンディキャップ(半身不随、半身麻痺、失認、記憶障害など)を生じる(非特許文献2、3)。
【0007】
虚血性脳卒中の治療
脳虚血は、代謝要求に対して不十分な血液供給と定義することができる。これは、一過性又は持続性であり得る脳血流の減少に起因する。局所虚血に伴う大脳病変は、一般に、生存が危うい重症の中央及び周辺区域からなり、この区域は、ペナンブラと呼ばれ、治療的介入を時間内に開始しないと壊死プロセスによって漸加する可能性がある(非特許文献4)。したがって、虚血性ペナンブラは、脳虚血の急性期中のあらゆる治療的介入の標的である。
【0008】
虚血性脳卒中によって代表される考慮すべき公衆衛生問題にもかかわらず、後者と戦うための治療の蓄積は少ない。現在、組織プラスミノゲン活性化因子(t−PA:tissue plasminogen activator)を用いた血栓溶解しか保健機関に認可されていない。しかし、t−PAの使用は、その狭い治療窓、すなわち、脳卒中発生後3〜4.5時間、及び脳出血のリスクに関連づけられる、それに付随する多数の禁忌(抗凝血治療を受けていないこと、過去3か月に(大脳又は心臓の)虚血事象がないこと、ここ21日間で消化管出血や血尿がないこと、出血がないこと、動脈圧<185/110mmHg収縮期/拡張期など)によって制限される。Leesと共同研究者(2010)によれば、4時間30分を超えた後のrt−PAの投与は、無治療患者よりもかなり高い脳出血のリスクがあり、好ましくない損益バランスを伴う(非特許文献5)。したがって、患者の3%〜5%しかこの治療に頼ることができないと推定され(非特許文献6)、患者の厳格な選択にもかかわらず、その13%がrt−PA投与後に脳出血を起こすとされている。
【0009】
したがって、これらの欠陥、欠点及び障壁を克服する新しい組成物/医薬品を見つけることが真に必要であり、とりわけ、特に脳卒中の治療/阻止を可能にし、特に治療窓が広く、及び/又は治療による副作用が少ない/ない、組成物が真に必要である。
【0010】
t−PAを用いた血栓溶解とは別に、幾つかの治療方針の可能性のある有効性が示された動物における多数の研究は、虚血に対してニューロンを保護することを目標とした(非特許文献7)。これらの戦略としては、カルシウムチャネル閉塞、酸化ストレスの阻止、GABA A受容体刺激、NMDA及びAMPA受容体の阻害が挙げられる。しかし、ヒトの臨床実務においては、これらの治療的介入の成功は見いだされていない(非特許文献7)。
【0011】
したがって、脳卒中及びその組織的結果の治療を可能にする新しい組成物/医薬品を見つけることが真に必要である。
【0012】
ヒトにおける脳卒中後の神経保護のための治療的介入を試験した幾つかの臨床試験の劇的な失敗を考慮して、多くの著者は、病態の亜急性又は慢性期中に適用可能な脳修復戦略の開発に向かっている。これらの戦略は、神経栄養因子の供給、又は機能回復を促進するための幹細胞の移植からなる。
【0013】
幹細胞及び脳虚血
幾つかのタイプの幹細胞が脳虚血動物で試験された。これには、胚性幹細胞(ESC:embryonic stem cells)、人工多能性幹細胞(iPSC:induced pluripotent stem cells)、神経幹細胞(NSC:neural stem cells)及び間葉幹細胞(MSC:mesenchymal stem cells)が挙げられる(総説としては、非特許文献8を参照されたい)。ESC及びiPSCは虚血後の動物に有益な効果を示したが、それらの入手性(ESC)及び腫瘍に転換するその能力の問題のため、差し当たり、ヒトにおけるそれらの使用が制限されている。実際、これらの細胞は、注射後に腫瘍を生成する原因になり得ることが示された。
【0014】
神経幹細胞(NSC)は、若い個体だけでなく成体でも、胎児組織、新生児組織に見られる。ヒト及び動物における神経芽細胞幹細胞微小環境は、脳室下領域(SVZ)及び歯状回の顆粒細胞下層である(非特許文献9)。これらの細胞は、その分化に関して既に方向づけされているが、特別な分化プロトコルに関連して、海馬ニューロンに、皮質ニューロンに、又は運動ニューロン若しくは介在ニューロンに分化する能力があるので、幹細胞と称される。脳虚血後のNSC移植の有益な効果を示す多数の研究が文献にあり、例えば、文献Haoと共同研究者、2014に記載されている。例えば、虚血性皮質病変又はその周辺におけるNSCの投与は、SVZにおける神経芽細胞の産生を促進する。機能回復の増加と相関する樹状突起分枝及び軸索伸長の刺激が、ラットにおいてそれらの投与後に認められた(非特許文献10)。しかし、幾つかの制約が臨床実務におけるこれらの細胞の使用を制限している。これは、これらの細胞を胎児から単離することが、倫理的制約によって困難であるからである。別のNSC源は、SVZの大脳生検であろう。これは、虚血の場合には死後にのみ行うことができ、資源量を大きく制限し、患者における自家移植に頼ることができない。
【0015】
探究された別の手法は、間葉幹細胞(MSC)などのより入手しやすい別の幹細胞の使用である。これらの細胞は、これらの細胞がプラスチックに付着し、希少であると特徴づけたFriedensteinと共同研究者によって1970年に初めて特定された(非特許文献11)。主に骨髄を含めて、歯髄(非特許文献12、13)、毛包(非特許文献14)、胎盤(非特許文献15)又は臍帯(非特許文献16、17)を含めた幾つかの供給源が確認され、使用されている。
【0016】
すべての幹細胞同様、MSCは、特殊な細胞に分化することができ、自己再生することができる。MSCは、インビトロで幾つかの細胞型に分化することができ、適切な環境及び適切な条件下では、ニューロン又は心筋細胞表現型などの非間葉表現型に分化することができる(非特許文献18、19)。これらの細胞に接近し、骨髄から抽出することが容易であり、それらの増殖が容易で迅速であることから、患者にとって我慢し難い免疫抑制剤治療の使用を制限することができる自家移植を行うことができる。さらに、間葉幹細胞は、II型(HLA−DR又はHLAII型)主要組織適合複合体(MHC:major histocompatibility complex)を発現せず、少量のI型(HLA−ABC又はHLAI型)MHCのみを膜上で発現する。さらに、Di Nicolaと共同研究者は、2002年に、MSCとの共培養の条件下でTリンパ球増殖が減少し、これが用量依存的で可逆的であることを示した(非特許文献20)。Tリンパ球に加えて、MSCは、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、マクロファージなどの炎症の別の細胞に対して抗炎症作用を有し得る(非特許文献21、22)。心臓、神経又は他の免疫疾患に関連して行われた臨床試験は、MSC投与後の重篤な有害作用を演繹的に示さなかった(非特許文献23)。
【0017】
脳虚血においては、MSC投与後に得られる虚血後の機能的利点が、非特許文献8及び24に要約されるように、前臨床試験及び幾つかの臨床試験によって示された。
【0018】
臨床試験に関しては、Bangと共同研究者(非特許文献25)は、初めてMSCを脳虚血患者に投与した。この最初の研究は、数名の患者(25名の対照と比較された5名)に対して行われたが、腫瘍形成がなく、脳卒中患者におけるMSCの自己投与の実現が可能であることを示した。治療患者の虚血後機能回復の改善が、治療後3〜6か月で著者によって観察された。これらの結果は、2010年にMSCのIV投与によって16名の脳卒中患者で確認された。特に、治療患者の死亡率の相対的減少が認められた。機能回復に対する治療の有益な効果は、5年の観察期間にわたってmRSによって示された(非特許文献26)。それ以来、他の研究によって、この新しい治療方針の実現性及び安全性の概念を強化することができた(非特許文献27、28)。幾つかの現象は、神経原性又は血管新生増殖因子(FGF2、NGFb、EGF、VEGF−A、IGF1、BDNF)に関するそのパラクリン性などのMSCの有効性を説明するものである。
【0019】
しかし、MSCが提供する多数の利点にもかかわらず、MSCは、虚血域に投与後の生存が極めて限定的である。実際、細胞の99%が最初の24時間で死滅し、Tomaと共同研究者(2002)によれば、虚血性環境に移植されたMSCの0.5%しか移植後4日間で生存しない。幾つかの現象がこの細胞消失を説明する(非特許文献19)。実際、炎症、低酸素、アノイキス(支持体の欠如)、又は周囲の媒体中に存在するアポトーシス促進因子は、アポトーシスを誘発する。さらに、脳虚血は脳血流の減少を特徴とするので、移植細胞は、したがって、その生存に不可欠なエネルギー基質を欠く。虚血域に補充された好中球及びマクロファージは、さらに、酸化ラジカルを生成し、酸化ラジカルについては、Songと共同研究者(非特許文献29)が心虚血の場合に間葉幹細胞の付着に対する有害作用を実証した。それが起こると、周囲媒体の細胞外基質へのインテグリンタンパク質を介した細胞の接着は、細胞におけるポジティブなシグナルとアポトーシスの抑制を誘導し、一方で、支持体がない場合には、逆の現象が起こる(非特許文献30)。さらに、虚血後、細胞外基質がメタロプロテアーゼによって破壊され、これらのメタロプロテアーゼが残留するとECMの再構築が制限される。Tomaと共同研究者によれば、注射された細胞の死における主因の1つは、アノイキスを含めた増殖支持体の欠如であると考えられる。この現象は、宿主組織への移植片の取り込みを更に制限する遊離基の存在と並置される。さらに、虚血の場合の組織再生は、治癒域の血管新生に大きく依存する。
【0020】
先行技術の欠陥、欠点及び障壁を克服する新しい組成物を見つけることも真に必要であり、とりわけ、特に脳卒中の治療/阻止、脳卒中の結果/作用の治療、費用の削減、及び脳卒中治療の治療/投与計画の改善を可能にする、組成物も真に必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Chevreulら、2013
【非特許文献2】Cramer,S.C.(2008).「Repairing the human brain after stroke:I.Mechanisms of spontaneous recovery」Annals of Neurology、63(3)、272−287.
【非特許文献3】Jaillard,A.、Naegele,B.、Trabucco−Miguel,S.、LeBas,J.F.、&Hommel,M.(2009).「Hidden dysfunctioning in subacute stroke」Stroke、40(7)、2473−9.
【非特許文献4】Touzaniら、2001
【非特許文献5】Lees,K.R.、Bluhmki,E.、von Kummer,R.、Brott,T.G.、Toni,D.、Grotta,J.C.、Hacke,W.(2010).「Time to treatment with intravenous alteplase and outcome in stroke:an updated pooled analysis of ECASS,ATLANTIS,NINDS,and EPITHET trials」The Lancet、375(9727)、1695−1703.
【非特許文献6】Adeoye,O.、Hornung,R.、Khatri,P.、&Kleindorfer,D.(2011).「Recombinant tissue−type plasminogen activator use for ischemic stroke in the United States:a doubling of treatment rates over the course of 5 years」Stroke;a Journal of Cerebral Circulation、42(7)、1952−5.
【非特許文献7】Kaurら、2013
【非特許文献8】Haoら、2014
【非特許文献9】Seri,B.、Herrera,D.G.、Gritti,A.、Ferron,S.、Collado,L.、Vescovi,A.、...Alvarez−Buylla,A.(2006).「Composition and organization of the SCZ:a large germinal layer containing neural stem cells in the adult mammalian brain」Cerebral Cortex、16 Suppl 1、i103−i111.
【非特許文献10】Andres,R.H.、Horie,N.、Slikker,W.、Keren−Gill,H.、Zhan,K.、Sun,G.、Steinberg,G.K.(2011).「Human neural stem cells enhance structural plasticity and axonal transport in the ischaemic brain」Brain、134(6)、1777−1789.
【非特許文献11】Friedenstein,A.、Chailakhjan,R.、&Lalykina,K.(1970).「The development of fibroblast colonies in monolayer cultures of guinea」Cell Proliferation、3(4)、393−403.
【非特許文献12】Yalvac,M.E.、Rizvanov,A.A.、Kilic,E.、Sahin,F.、Mukhamedyarov,M.A.、Islamov,R.R.、&Palotas,A.(2009).「Potential role of dental stem cells in the cellular therapy of cerebral ischemia」Current Pharmaceutical Design、15(33)、3908−16.
【非特許文献13】Yamagata,M.、Yamamoto,A.、Kako,E.、Kaneko,N.、Matsubara,K.、Sakai,K.、Ueda,M.(2013).「Human dental pulp−derived stem cells protect against hypoxic−ischemic brain injury in neonatal mice」Stroke;a Journal of Cerebral Circulation、44(2)、551−4.
【非特許文献14】Wang,Y.、Liu,J.、Tan,X.、Li,G.、Gao,Y.、Liu,X.、Li,Y.(2013).「Induced pluripotent stem cells from human hair follicle mesenchymal stem cells」Stem Cell Reviews、9(4)、451−60.
【非特許文献15】In’t Anker,P.S.、Scherjon,S.A.、Kleijburg−van der Keur,C.、de Groot−Swings,G.M.J.S.、Claas,F.H.J.、Fibbe,W.E.、&Kanhai,H.H.H.(2004).「Isolation of mesenchymal stem cells of fetal or maternal origin from human placenta」Stem Cells、22(7)、1338−45.
【非特許文献16】Erices,A.、Conget,P.、&Minguell,J.J.(2000).「Mesenchymal progenitor cells in human umbilical cord blood」British Journal of Haematology、109(1)、235−42.
【非特許文献17】Kranz,A.、Wagner,D.C.、Kamprad,M.、Scholz,M.、Schmidt,U.R.、Nitzsche,F.、Boltze,J.(2010).「Transplantation of placenta−derived mesenchymal stromal cells upon experimental stroke in rats」Brain Research、1315、128−136.
【非特許文献18】Esneault,E.、Pacary,E.、Eddi,D.、Freret,T.、Tixier,E.、Toutain,J.、...Bernaudin,M.(2008).「Combined therapeutic strategy using erythropoietin and mesenchymal stem cells potentiates neurogenesis after transient focal cerebral ischemia in rats」Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism 28(9)、1552−63.
【非特許文献19】Toma,C.、Pittenger,M.F.、Cahill,K.S.、Byrne,B.J.、&Kessler,P.D.(2002).「Human mesenchymal stem cells differentiate to a cardiomyocyte phenotype in the adult murine heart」Circulation、105(1)、93−98.
【非特許文献20】Di Nicola,M.(2002).「Human bone marrow stromal cells suppress T−lymphocyte proliferation induced by cellular or nonspecific mitogenic stimuli」Blood、99(10)、3838−3843.
【非特許文献21】Aggarwal,S.、&Pittenger,M.F.(2005).「Human mesenchymal stem cells modulate allogeneic immune cell responses」Blood、105(4)、1815−22.
【非特許文献22】Eckert,M.a、Vu,Q.、Xie,K.、Yu,J.、Liao,W.、Cramer,S.C.、&Zhao,W.(2013).「Evidence for high translational potential of mesenchymal stromal cell therapy to improve recovery from ischemic stroke」Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism、33(9)、1322−34.
【非特許文献23】Malgieri,A.、Kantzari,E.、Patrizi,M.P.、&Gambardella,S.(2010).「Bone marrow and umbilical cord blood human mesenchymal stem cells:state of the art」 International Journal of Clinical and Experimental Medicine、3(4)、248−69.
【非特許文献24】Kaladka及びMuir、2014
【非特許文献25】Bang,O.Y.、Lee,J.S.、Lee,P.H.、&Lee,G.(2005).「Autologous mesenchymal stem cell transplantation in stroke patients」Annals of Neurology、57(6)、874−82.
【非特許文献26】Lee,J.S.、Hong,J.M.、Moon,G.J.、Lee,P.H.、Ahn,Y.H.、&Bang,O.Y.(2010).「A long−term follow−up study of intravenous autologous mesenchymal stem cell transplantation in patients with ischemic stroke」Stem Cells、28(6)、1099−1106.
【非特許文献27】Bhasin,A.、Srivastava,M.、Kumaran,S.、Mohanty,S.、Bhatia,R.、Bose,S.、Airan,B.(2011).「Autologous mesenchymal stem cells in chronic stroke」Cerebrovascular Diseases Extra、1(1)、93−104.
【非特許文献28】Suarez−Monteagudo,C.、Hernandez−Ramirez,P.、Alvarez−Gonzalez,L.、Garcia−Maeso,I.、de la Cuetara−Bernal,K.、Castillo−Diaz,L.、...Bergado,J.(2009).「Autologous bone marrow stem cell neurotransplantation in stroke patients.An open study」Restorative Neurology 27(3)、151−161.
【非特許文献29】Song,H.、Cha,M.−J.、Song,B.−W.、Kim,I.−K.、Chang,W.、Lim,S.、...Hwang,K.−C.(2010).「Reactive oxygen species inhibit adhesion of mesenchymal stem cells implanted into ischemic myocardium via interference of focal adhesion complex」Stem Cells、28(3)、555−63.
【非特許文献30】Song,H.、Song,B.−W.、Cha,M.−J.、Choi,I.−G.、&Hwang,K.−C.(2010).「Modification of mesenchymal stem cells for cardiac regeneration」Expert Opinion on Biological Therapy、10(3)、309−19.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の一目的は、大脳低酸素病態に起因する中枢神経系の組織病変の予防及び/又は治療用医薬品としてのその適用のための医薬組成物を提供することによって、これらの要求を的確に満たすことであり、前記組成物は、
下記一般式(I)
AaXxYy(I)
(式中、
Aはモノマーであり、
Xは−R
1COOR
2又は−R
9(C=O)R
10基であり、
Yは、次式−R
3OSO
3R
4、−R
5NSO
3R
6、−R
7SO
3R
8の1つに対応するO−又はN−スルホン酸基であり、ここで、
R
1、R
3、R
5及びR
9は、独立に、分枝状及び/又は不飽和であってもよく、1個以上の芳香環を含んでもよい、脂肪族炭化水素鎖であり、
R
2、R
4、R
6及びR
8は、独立に水素原子又はカチオンであり、
R
7及びR
10は、独立に、結合、又は分枝状及び/又は不飽和であってもよい脂肪族炭化水素鎖であり、
「a」はモノマーの数であり、
「x」は、基XによるモノマーAの置換度であり、
「y」は、基Yによる前記モノマーAの置換度である)
の生体適合性ポリマーと、
真核細胞と
を含む。
【0023】
本明細書では「中枢神経系の組織病変」という用語は、中枢神経系に出現し得る任意の組織病変を意味するものとする。例えば、それは、例えば外傷に関連する、物理的衝撃による組織病変、虚血性ショックによる、例えば血管閉塞、血管出血又は低酸素ショックに関連する、脳血流の一過性及び/又は持続性の減少による、組織病変であり得る。
【0024】
本明細書では「大脳低酸素病態」という用語は、酸素供給の減少を脳にもたらし得る任意の病態及び/又は事象を意味するものとする。
【0025】
例えば、それは、血管事象、心停止、低血圧、治療中の麻酔に関連した1つ以上の合併症、窒息、一酸化炭素中毒、溺水、一酸化炭素又は煙の吸入、脳病変、絞扼、喘息発作、外傷、虚血性ショックによる組織病変、周生期低酸素症などであり得る。
【0026】
本明細書では「モノマー」という用語は、例えば、糖、エステル、アルコール、アミノ酸又はヌクレオチドを含む群から選択されるモノマーを意味するものとする。
【0027】
本明細書においては、式Iのポリマーの基本的要素を構成するモノマーAは、同じでも、異なってもよい。
【0028】
本明細書においては、モノマーの連結によって、ポリマー骨格、例えば、ポリエステル、多価アルコール若しくは多糖の種類の、又は核酸若しくはタンパク質タイプの、ポリマー骨格を形成することが可能になる。
【0029】
本明細書においては、ポリエステルとしては、例えば、生合成又は化学合成からのコポリマー、例えば、脂肪族ポリエステル、又は天然起源のコポリマー、例えば、ポリヒドロキシアルカノアートが挙げられる。
【0030】
本明細書においては、多糖及びその誘導体は、細菌、動物、真菌及び/又は植物起源とすることができる。例えば、それらは、単鎖多糖、例えば、ポリグルコース、例えば、デキストラン、セルロース、ベータ−グルカン、又はより複雑な単位を含む別のモノマー、例えば、キサンタンガム、例えば、グルコース、マンノース及びグルクロン酸、又はグルクロナン及びグルコグルクロナンとすることができる。
【0031】
本明細書においては、植物起源の多糖は、単鎖、例えば、セルロース(グルコース)、ペクチン(ガラクツロン酸)、フカン若しくはデンプン、又はより複雑な、例えば、アルギナート(グルロン(galuronic)及びマンヌロン酸)とすることができる。
【0032】
本明細書においては、真菌起源の多糖は、例えば、ステログルカン(steroglucan)とすることができる。
【0033】
本明細書においては、動物起源の多糖は、例えば、キチン又はキトサン(グルコサミン)とすることができる。
【0034】
式(I)において「a」で定義されるモノマーAの数は、前記式(I)のポリマーの重量が(10グルコースモノマーに相当する)約2000ダルトンを超えるようなものとすることができる。式(I)において「a」で定義されるモノマーAの数は、前記式(I)のポリマーの重量が(10000グルコースモノマーに相当する)約2000000ダルトン未満であるようなものとすることができる。有利には、前記式(I)のポリマーの重量を2〜100kダルトンとすることができる。
【0035】
本明細書においては、Xである−R
1COOR
2基においては、R
1をC
1〜C
6アルキル、例えば、メチル、エチル、ブチル、プロピル又はペンチル、好ましくはメチル基とすることができ、R
2を結合、C
1〜C
6アルキル、例えば、メチル、エチル、ブチル、プロピル若しくはペンチル、又はR
21R
22基とすることができ、式中、R
21はアニオンであり、R
22はアルカリ金属の群から選択されるカチオンである。
【0036】
好ましくは、基Xは式−R
1COOR
2の基であり、式中、R
1はメチル基−CH
2−であり、R
2はR
21R
22基であり、R
21はアニオンであり、R
22はアルカリ金属の群から選択されるカチオンであり、好ましくは、基Xは式−CH
2−COO
−の基である。
【0037】
本明細書においては、Xである−R
9(C=O)R
10基においては、R
9をC
1〜C
6アルキル、例えば、メチル、エチル、ブチル、プロピル又はペンチル、好ましくはメチル基とすることができ、R
10を結合、又はC
1〜C
6アルキル、例えば、メチル、エチル、ブチル、プロピル、ペンチル又はヘキシルとすることができる。
【0038】
本明細書においては、次式−R
3OSO
3R
4、−R
5NSO
3R
6及び−R
7SO
3R
8の1つに対応し、基Yである基においては、R
3を結合、C
1〜C
6アルキル、例えば、メチル、エチル、ブチル、プロピル又はペンチル、好ましくはメチル基とすることができ、R
5を結合、C
1〜C
6アルキル、例えば、メチル、エチル、ブチル、プロピル又はペンチル、好ましくはメチル基とすることができ、R
7を結合、C
1〜C
6アルキル、例えば、メチル、エチル、ブチル、プロピル又はペンチル、好ましくはメチル基とすることができ、R
4、R
6及びR
8を独立に水素原子又はカチオンM
+とすることができ、例えば、M
+をアルカリ金属とすることができる。
【0039】
好ましくは、基Yは式R
7SO
3R
8の基であり、式中、R
7は結合であり、R
8は、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムを含む群から選択されるアルカリ金属である。好ましくは、基Yは−SO
3−Na
+基である。
【0040】
一般式(I)において「y」で定義された基YによるモノマーAのすべての置換度は、30%〜150%、好ましくは約100%とすることができる。
【0041】
本明細書においては、上記置換度の定義においては、「100%の置換度「x」」という用語は、本発明のポリマーの各モノマーAが基Xを統計的に含むことを意味するものとする。同様に、「100%の置換度「y」」という用語は、本発明のポリマーの各モノマーが基Yを統計的に含むことを意味するものとする。100%を超える置換度は、各モノマーが、当該タイプの1個を超える基を統計的に有することを示し、逆に、100%未満の置換度は、各モノマーが、当該タイプの1個未満の基を統計的に有することを示す。
【0042】
ポリマーは、X及びYとは異なるZで表わされる官能化学基を含むこともできる。
【0043】
本明細書においては、基Zは、同じでも異なってもよく、アミノ酸、脂肪酸、脂肪アルコール、セラミド若しくはそれらの混合物又は標的ヌクレオチド配列を含む群から独立に選択することができる。
【0044】
基Zは、同じでも異なってもよい活性剤を表すこともできる。それらは、例えば、治療薬、診断薬、抗炎症薬、抗菌剤、抗生物質、増殖因子、酵素とすることができる。
【0045】
本明細書においては、基Zは、有利には、飽和又は不飽和脂肪酸とすることができる。それは、例えば、酢酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、トランス−バクセン酸、リノール酸、リノールエライジン酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、クルパノドン酸又はドコサヘキサエン酸を含む群から選択される脂肪酸とすることができる。好ましくは、脂肪酸は酢酸である。
【0046】
本明細書においては、基Zは、有利には、アラニン、アスパラギン、芳香族鎖、例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロキシン又はヒスチジンを含む群から選択されるL又はD系列のアミノ酸とすることができる。
【0047】
有利には、基Zは、更なる生物学的又は生理化学的性質をポリマーに付与することができる。例えば、基Zは、前記ポリマーの溶解性又は親油性を高め、例えば、組織拡散又は浸透を改善することができ、例えば、両親媒性の増加によって、血液脳関門の横断を容易にすることができる。
【0048】
Zが存在するポリマーは、下式IIに該当する。
AaXxYyZz
式中、A、X、Y、a、x及びyは上で定義した通りであり、zは基Zによる置換度である。
【0049】
本明細書においては、「z」で表される基Zによる置換度は、0%〜50%とすることができ、好ましくは30%に等しい。
【0050】
基X、Y及びZは、独立にモノマーAに結合することができ、及び/又は独立に互いに結合することができる。基X、Y及びZの少なくとも1個が独立に最初の物とは異なる基X、Y及びZに結合するときには、前記基X、Y又はZの1個はモノマーAに結合する。
【0051】
したがって、基Zは、モノマーAに直接共有結合することができ、又は基X及び/又はYに共有結合することができる。
【0052】
本明細書においては、組成物は、組成物の総重量に対して0.01マイクログラム〜100mg重量の濃度の生体適合性ポリマーを含むことができる。例えば、組成物は、組成物の総重量に対して10マイクログラム〜10ミリグラム重量を含むことができる。
【0053】
本明細書においては、組成物中の生体適合性ポリマーの濃度、及び/又は組成物の投与計画は、本発明に係る組成物に予見される投与経路に依存し得る。
【0054】
例えば、頭蓋内投与の場合、それは、1〜5mlの単回投与とすることができ、又はミニポンプによって例えば数日間投与することができる。例えば、組成物は、濃度0.001〜1mg.ml
−1の生体適合性ポリマーを含むことができる。
【0055】
本明細書では「真核細胞」という用語は、当業者に知られている任意の真核細胞を意味するものとする。それは、例えば、哺乳動物の真核細胞、例えば、動物又はヒト真核細胞とすることができる。それは、例えば、その分化段階にかかわらず、任意の真核細胞、例えば、成体又は胎児の真核細胞、胚性幹細胞及び成体幹細胞を含む群から選択される細胞とすることができる。それは、例えば、臍帯血、骨髄細胞、脂肪組織細胞、間葉細胞からの真核細胞とすることができる。
【0056】
それは、多能性若しくは全能性幹細胞、又は分化経路に託された細胞、例えば、間葉幹細胞とすることもできる。それは、胚性幹細胞を除く多能性又は全能性幹細胞とすることもできる。
【0057】
それは、例えば、個体に対して異種、同種又は自己の細胞とすることができる。好ましくは、細胞は自己細胞である。
【0058】
有利なことに、細胞が自己のものであるときには、本発明に係る組成物が調節性、安全性、実現性、効率及び経済性の理由で好ましいこともある。
【0059】
有利には、細胞が自己のものであるときには、それらは、好ましくは、個体から単離され、他の追加なしに除去及び単離後24時間以内に、本発明に係る組成物に使用され、及び/又は治療に使用される。有利なことに、この単回投与によって、規制要件/制約を乗り越え、それに従うことが可能になる。
【0060】
本明細書においては、組成物に含まれる細胞の量を1〜5×10
7細胞とすることができる。
【0061】
本明細書では「医薬組成物」という用語は、当業者に知られている任意の形の医薬組成物を意味するものとする。本明細書においては、医薬組成物は、例えば、注射液とすることができる。それは、例えば局所又は全身注射用の、例えば生理食塩水中の、注射用グルコース溶液中の、賦形剤、例えばデキストランの存在下の、例えば当業者に既知の濃度の、例えば1ミリグラム〜数ミリグラム/mlの、注射液とすることができる。医薬組成物は、例えば、液剤、経口発泡性投薬計画剤形、経口散剤、多成分系及び口腔内崩壊ガレヌス剤形を含む群から選択される、経口投与用医薬品とすることができる。
【0062】
例えば、医薬組成物が経口投与用であるときには、それは、溶液、シロップ、懸濁液及び乳濁液を含む群から選択される液剤の形とすることができる。医薬組成物が経口発泡性投薬計画剤形の形であるときには、それは、錠剤、顆粒剤及び散剤を含む群から選択される剤形とすることができる。医薬組成物が経口散剤又は多粒子系の形であるときには、それは、ビーズ剤、顆粒剤、小型錠剤及び微粒剤を含む群から選択される剤形とすることができる。医薬組成物が口腔内崩壊投薬計画剤形の形であるときには、それは、口腔内崩壊錠剤、凍結乾燥ウエハ剤、薄膜剤、咀嚼錠剤、錠剤、カプセル剤又は医用チューインガム剤を含む群から選択される剤形とすることができる。
【0063】
本発明によれば、医薬組成物は、例えばバッカル錠又は舌下錠、ロゼンジ、ドロップ及び噴霧液剤を含む群から選択される、経口投与、例えば頬及び/又は舌下投与用医薬組成物とすることができる。
【0064】
本発明によれば、医薬組成物は、例えば軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、ローション剤、貼剤及び泡剤を含む群から選択される、局所、経皮投与用医薬組成物とすることができる。
【0065】
本発明によれば、医薬組成物は、例えば点鼻薬、経鼻噴霧剤及び経鼻散剤を含む群から選択される、経鼻投与用医薬組成物とすることができる。
【0066】
本発明によれば、医薬組成物は、非経口投与、例えば、皮下、筋肉内、静脈内又は髄腔内投与用医薬組成物とすることができる。
【0067】
本明細書においては、組成物は、その投与に応じて処方及び/又は調節することができる。例えば、静脈内又は筋肉内投与の場合、組成物は、0.1〜5mg/キログラム体重の用量の生体適合性ポリマーを送達するために投与することができ、又は経口投与の場合、組成物は、例えば、1日当たり2〜5回の均等な摂取量で1日の総量で、例えば15〜500mgの生体適合性ポリマーを投与することができ、又は頭蓋内投与の場合、組成物は、濃度0.001〜1mg.ml
−1の生体適合性ポリマーを含むことができ、又は舌下投与の場合、組成物は、濃度1〜100mg/mlの生体適合性ポリマーを含むことができ、又は空気中投与の場合、組成物は、前記ポリマーの、用量0.1〜5mg/キログラム体重の生体適合性ポリマーを送達するために投与することができる。
【0068】
本発明の組成物は、例えば、用いるガレヌス製剤に応じて、同時の、別々の、又はある期間にわたる逐次的な使用のために、少なくとも1種の別の活性成分、特に1種の別の治療有効成分も含むことができる。この別の成分は、例えば中枢神経系の組織病変を有する患者で発症し得る日和見疾患の治療において、使用される活性成分とすることができる。それは、当業者に既知の医薬品、例えば、抗生物質、抗炎症薬、抗凝固薬、増殖因子、血小板抽出物、神経保護薬又は抗うつ薬、スタチンなどの抗コレステロール薬などとすることもできる。
【0069】
本明細書においては、生体適合性ポリマーと細胞の投与は、同時、連続又は付随することができる。
【0070】
本発明によれば、少なくとも1回の投与を経口的に又は注射によって行うことができる。2回の投与を同様に又は異なって行うことができる。例えば、少なくとも1回の投与を経口的に又は注射によって行うことができる。例えば、生体適合性ポリマーと細胞の投与を注射によって行うことができ、生体適合性ポリマーの投与を経口的に行うことができ、細胞を全身注射又は局所注射によって行うことができる。投与は、病変の部位にも左右され得る。
【0071】
本発明によれば、真核細胞の使用、特にそれらの投与は、前記生体適合性ポリマーの最初の投与後、5分〜3か月、例えば5分〜1週間、好ましくは5分〜24時間の期間内に行うことができる。
【0072】
本発明によれば、組成物は、例えば、毎日、毎日2回又は毎週投与することができる。それは、例えば、1日1回、1日2回以上投与することができる。
【0073】
本発明によれば、組成物は、例えば、1日〜3か月、例えば2か月の期間投与することができる。例えば、組成物は、15日間ごとの投与頻度で3か月間投与することができる。
【0074】
本発明によれば、生体高分子は、例えば、1日〜3か月、例えば2か月の期間、例えば1日1回の頻度で、投与することができ、真核細胞は、同じ又は異なる期間、例えば1日〜3か月の期間、週1回の頻度で投与することができる。
【0075】
本発明によれば、ポリマーの投与と細胞の投与が連続するときには、各投与の投与計画は、ポリマーの投与に続いて細胞の投与とすることができる。例えば、細胞は、ポリマーの投与後1分〜24時間、ポリマーの投与後30分〜12時間、ポリマーの投与後45分〜6時間、ポリマーの投与後1時間で投与することができる。
【0076】
本発明は、以下のステップを任意の順序で含む、脳虚血患者を治療する方法にも関する。
i.少なくとも1種の生体適合性ポリマーの投与、及び
ii.少なくとも1種の真核細胞の投与。
【0077】
ここで、投与は、付随して、連続して、又は交互している。
【0078】
生体適合性ポリマーは、上で定義した通りである。
【0079】
真核細胞は、上で定義した通りである。
【0080】
本発明によれば、患者は、任意の哺乳動物とすることができる。患者は、例えば、動物又はヒトとすることができる。
【0081】
本発明によれば、投与する真核細胞は、前記患者に対して異種又は同種である細胞とすることができる。
【0082】
本発明によれば、生体適合性ポリマーの投与の方法及び/又は経路は、上で定義した通りとすることができる。
【0083】
本発明によれば、細胞の投与の方法及び/又は経路は、上で定義した通りとすることができる。
【0084】
本発明によれば、生体適合性ポリマーの投与頻度は、上で定義した通りとすることができる。
【0085】
本発明によれば、真核細胞の投与頻度は、上で定義した通りとすることができる。
【0086】
本発明によれば、生体適合性ポリマーと細胞の投与が連続するときには、各投与の投与計画は、生体適合性ポリマーの投与に続いて細胞の投与とすることができる。例えば、細胞は、生体適合性ポリマーの投与後1分〜48時間、ポリマーの投与後30分〜12時間、ポリマーの投与後45分〜6時間、ポリマーの投与後1時間で投与することができる。
【0087】
有利には、真核細胞は間葉成体幹細胞である。
【0088】
換言すれば、本明細書では組成物に言及するものの、組成物の化合物の各々は、(例えば、単一組成物又は2種の組成物として)別の化合物と同時に投与することができ(これらの組成物の各々は上記成分の1種以上を含み、化合物又は組成物(単数又は複数)の各々の投与の方法は、同じでも異なってもよい)、又は互いに無関係に、例えば連続的に、例えば生体適合性ポリマーの独立した投与と真核細胞の独立した投与で、投与することができ、これらの投与は、1人の同じ患者に、同時に、連続的に又は交互に、上記順序又は別の順序で、行われることが明瞭に理解される。これらの個々の投与は、互いに無関係に、又は関連して(組成物又は同時投与)、同じ又は異なる投与方法(注射、摂取、局所適用など)によって、1日1回以上、連続でも不連続でもよい1日以上、行うことができる。
【0089】
本発明の一主題は、
i.生体適合性ポリマー、及び
ii.少なくとも1種の真核細胞
を含む、脳血管虚血に起因する中枢神経系の組織病変の予防及び/又は治療用医薬キットでもある。
【0090】
生体適合性ポリマーは、上で定義した通りである。
【0091】
真核細胞は、上で定義した通りである。
【0092】
本発明の一主題は、脳血管虚血に起因する中枢神経系の組織病変の治療用医薬品の製造のための、
i.生体適合性ポリマー、及び
ii.少なくとも1種の真核細胞
を含む医薬組成物の使用でもある。
【0093】
生体適合性ポリマーは、上で定義した通りである。
【0094】
真核細胞は、上で定義した通りである。
【0095】
この実施形態においては「医薬品」という用語は、上で定義した医薬組成物を意味するものとする。
【0096】
本発明者らは、驚くべきことに、予想外に、本発明に係る組成物が有利なことに虚血性病変のかなりの減少を可能にすることを示した。
【0097】
さらに、本発明者らは、本発明に係る組成物が有利なことに早期の持続性の虚血後機能回復を可能にすることも示した。
【0098】
本発明者らは、本発明に係る組成物が、有利なことに、本発明に係る組成物の投与後に神経機能及び感覚運動能力の早期の改善を可能にすることも示した。
【0099】
さらに、本発明者らは、本発明に係る組成物が、有利なことに、例えば脳卒中に、付随する組織病変に起因する梗塞の体積を制限/削減するのを可能にすることも示した。
【0100】
さらに、本発明者らは、本発明に係る組成物が、有利なことに、例えば脳卒中治療及び/又は放射線治療に付随する病変を示す大脳組織の再生を保護及び/又は刺激するのを可能にすることも示した。
【0101】
別の利点は、添付図によって示され、例として示された、下記実施例を読むことによって、当業者に更に想起されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【
図1】脳損傷及び神経障害に対する生体適合性ポリマーの効果を研究することを目的とした実験手順の図である。この図では、MCAoは中大脳動脈閉塞を意味し、LPは四肢配置テストを意味し、NSは神経学的スコアを意味し、OFはオープンフィールドを意味し、MRIは磁気共鳴画像法を意味する。
【
図2】
図2Aは、病変を誘発する虚血事象に続く2日(D2)又は14日(D14)後の生体適合性ポリマーを適用しない(1)又は適用した後(2)の梗塞(破線内の領域)を示す中枢神経系(脳)の写真である。
図2Bは、生体適合性ポリマーを適用しない(白色バー)又は適用した(黒色バー)、病変の体積(y軸)を日数(x軸)の関数として示した図である。
【
図3】
図3Aは、生体適合性ポリマーの投与(黒塗りの三角)又は非投与(白抜きの三角)後の四肢配置テストの結果(*反復測定ANOVA p<0.05)を時間の関数として示した図である。
図3Bは、生体適合性ポリマーの投与(黒塗りバー)又は非投与(白抜きバー)後ほぼ3日でコーナーテストによって評価された左右分化結果の棒グラフである(*平均値と基準値0の比較p<0.05)。
図3Cは、生体適合性ポリマーの投与後2若しくは4週間後(黒塗りバー)又は非投与後(白抜きバー)の接着引き戻しテスト(*p<0.05、一元配置ANOVA)による精細な感覚運動回復の評価の棒グラフであり、y軸は、秒単位の時間である。
【
図4】行動試験、すなわち梁歩行試験(BWT:beam walking test)、四肢配置テスト(LP:limb placing test)、神経学的スコア(NS:neurological score)及び受動的回避(Pa:passive avoidance)と組み合わせたMRI研究によって、生体適合性ポリマーと成体幹細胞(間葉幹細胞)の同時投与の効果を研究することを目的とした実験手順の図である。
【
図5】
図5Aは、病変を誘発する虚血事象に続く2日(D2)又は14日(D14)目の生体適合性ポリマーを適用しない(1)又は適用した後(2)、間葉幹細胞の適用後(3)、及び生体適合性ポリマーと間葉幹細胞の適用後(4)の梗塞(破線内の領域)を示す中枢神経系(脳)の写真である。
図5Bは、生体適合性ポリマーを適用しない(白色バー)若しくは適用した(黒色バー)、間葉幹細胞を適用した(水平方向にハッシュされたバー)、又は生体適合性ポリマーと間葉幹細胞の適用後の(斜めにハッシュされたバー)病変の体積(y軸)を日数(x軸)の関数として示した図である。
【
図6】
図6Aは、生体適合性ポリマーの投与(黒塗りの四角)又は非投与(白抜きの三角)後、間葉細胞(黒塗りの円)及び生体適合性ポリマーと間葉細胞(ハッシュされた四角)の投与後の四肢配置テストの結果(*反復測定ANOVA p<0.05)を時間の関数として示した図である。
図6Bは、生体適合性ポリマーの投与(黒塗りバー)又は非投与(白抜きバー)、間葉幹細胞の投与及び間葉幹細胞と生体適合性ポリマーの投与後ほぼ3日でコーナーテストによって評価された左右分化の結果の棒グラフである(*平均値と基準値0の比較p<0.05)。
図6Cは、生体適合性ポリマーの投与(黒塗りバー)若しくは非投与(白抜きバー)後、間葉幹細胞の適用(水平方向にハッシュされたバー)、又は生体適合性ポリマーと間葉幹細胞の適用後(斜めにハッシュされたバー)の2又は4週間後の接着引き戻しテストによる精細な感覚運動回復の評価(*p<0.05、一元配置ANOVA)の棒グラフであり、y軸は秒単位の時間である。
【
図7】担体/担体(A)、担体/間葉幹細胞(B)、生体適合性ポリマー/担体(C)及び生体適合性ポリマー/間葉幹細胞(D)群における中大脳動脈の閉塞後35日目の虚血領域における血管新生の光学顕微鏡写真である。スケールは500μmである。
【実施例】
【0103】
実施例1:脳虚血に起因する脳損傷及び機能障害に対する本発明に係る生体適合性ポリマーの効果の評価
この実施例においては、生体適合性ポリマーは、市販されている、Frescaline G.ら、Tissue Eng Part A.2013 Jul;19(13〜14):1641〜53.doi:10.1089/ten.TEA.2012.0377に記載の信用照会OTR4131の下でOTR3社によって販売されているポリマーであった。
【0104】
ラットは、Sprague Dawley系の雄性ラットであった。
【0105】
脳損傷及び機能障害に対するOTR4131生体適合性ポリマーの効果を定義するために、中大脳動脈の閉塞によって一過性脳虚血を起こしたラットにおいて
図1に示した実験手順を行った。
【0106】
特に、それぞれの割合が1/3のO
2/N
2O混合物中の5%イソフルランの吸入によって動物に3分間麻酔をかけ、次いで手術時にマスクによって送られる2〜2.5%イソフルランによって維持した。ラットを仰向けに置いた。首の高さで切開した。総頚動脈、外頚動脈及び内頚動脈を分離し、次いで閉塞ワイヤーを外頚動脈に導入し、中大脳動脈の近位部まで進めた。1時間後、例えば、Letourneurら、2011「Impact of genetic and renovascular chronic arterial hypertension on the acute spatiotemporal evolution of the ischemic penumbra:a sequential study with MRI in the rat」J Cereb Blood Flow Metab.2011 Feb;31(2):504〜13、又はQuittetら、「Effects of mesenchymal stem cell therapy,in association with pharmacologically active microcarriers releasing VEGF,in an ischaemic stroke model in the rat」Acta Biomater.2015 Mar;15:77〜88に記載のように、再潅流可能なようにワイヤーを除去した。
【0107】
虚血の誘導から1時間後、1.5mg/kgのOTR4131を静脈内投与し、次いで動物を起こした。
【0108】
虚血体積に対する治療の効果を評価するために、磁気共鳴画像法(MRI:magnetic resonance imaging(7T、PharmaScan、Bruker BioSpin、Ettlingen、ドイツ))検査を、脳虚血の誘導後48時間及び14日目に行った。このために、1/3 O
2/N
2O混合物中の5%イソフルランの吸入によって動物に3分間麻酔をかけ、次いで2〜2.5%イソフルランで麻酔を維持した。反復時間5000ミリ秒、エコー時間16.25ミリ秒のリフォーカスエコー、平均(NEX実験数)=2、256×256ピクセルのマトリックス及び3.84×3.84cmの画像サイズ又は視野(FOV:field of view)、すなわち名目分解能0.15×0.15×0.75mm
3のRARE8急速取得モードに従って解剖学的T2配列を使用した。動物1匹当たり20隣接切断を総取得時間4分間で行った。
【0109】
図2Aは、一過性脳虚血後2又は14日間後に得られたMRI画像である。この図で示されるように、生体適合性ポリマーを投与しなかったラットと比較して、虚血の開始から1時間後に生体適合性ポリマーを注射した後、梗塞の減少が認められた(破線で囲まれた領域)。治療を閉塞後1時間で投与すると、梗塞体積の有意な減少がD2及びD14で認められる(
図2)。
【0110】
この実験を注射時間を変えても行い、すなわち、脳虚血の誘導後2時間30分又は6時間で注射したが、有意な結果を示さなかった(結果示さず)。換言すれば、虚血誘導後2時間30分又は6時間の生体適合性ポリマーの単回投与は、虚血に起因する梗塞に対して何ら効果を示さない。
【0111】
機能回復に対する生体適合性ポリマーの効果の評価も行った。このために、Quittetら、「Effects of mesenchymal stem cell therapy,in association with pharmacologically active microcarriers releasing VEGF,in an ischaemic stroke model in the rat」Acta Biomater.2015 Mar;15:77〜88、又はFreretら、2006「Long−term functional outcome following transient middle cerebral artery occlusion in the rat:correlation between brain damage and behavioral impairment」Behav Neurosci.2006 Dec;120(6):1285〜98に記載の方法に従って一連の感覚運動及び認知テストを行った。
【0112】
得られた結果を
図3に示す。この図で示されるように、虚血の誘導から1時間後に生体適合性ポリマーを注射すると、例えば、注射をしなかったラットと比較して知覚能力を評価する四肢配置テスト(反復測定ANOVA p<0.05)(
図3A黒塗りの三角)だけでなく、注射をしなかったラットと比較して、平均値と基準値の比較、p>0.05によって動物の左右分化を評価するコーナーテスト(
図3B黒塗りバー)でも示されるように、機能回復を改善することができる。
【0113】
さらに、感覚運動能力の後期の精細な評価を接着引き戻しテストによって行った。得られた結果を
図3Cに示す。この図で示されるように、閉塞後1時間で生体適合性ポリマーの投与を受けた動物(黒塗りバー)は、2週目において、虚血の影響を受けた傷害反対側の接着剤の存在を、生体適合性ポリマーを受けなかった他の群よりも速く検出する傾向がある(一元配置ANOVA、p=0.1)。4週目における試験の繰り返しは、傷害反対側の部位の接着剤の検出に関する傾向の持続性を示した(一元配置ANOVA、p=0.1)。後者に加えて、生体適合性ポリマーで治療した動物では傷害反対側の接着剤の引き戻しが有意に速くなり、生体適合性ポリマーによって誘導される感覚運動能力のより急速な改善を証明している。
【0114】
実施例2:虚血性ショックに起因する脳損傷及び機能障害に対する生体適合性ポリマーと間葉幹細胞の同時投与の効果の評価
この実施例では、ラット及び生体適合性ポリマーは、実施例1と同じであった。
【0115】
文献Quittetら、「Effects of mesenchymal stem cell therapy,in association with pharmacologically active microcarriers releasing VEGF,in an ischaemic stroke model in the rat」Acta Biomater.2015 Mar;15:77〜88に記載の方法に従って、間葉幹細胞をSprague Dawleyラットの大腿骨及び脛骨から抽出した。
【0116】
脳損傷及び機能障害に対するOTR4131生体適合性ポリマーと間葉幹細胞の同時投与の効果を定義するために、中大脳動脈の閉塞によって一過性脳虚血を起こしたラットにおいて、上記実施例1に記載の腔内手法に従って、
図4に示した実験手順を行った。
【0117】
梗塞体積及び虚血後機能回復に対する同時投与の効果の評価を行った。
【0118】
虚血体積に対する治療の効果を評価するために、磁気共鳴画像法(MRI)検査を、上記実施例1に記載のように、脳虚血の誘導後48時間及び14日目に行った。
【0119】
48時間後のMRI分析によれば、
図5A(破線内の領域)に示したように、RGTAとRGTA−MSCの同時投与で治療した動物では、対照群に比べて梗塞体積が減少した(一元配置ANOVA、p<0.05)。特に、同時投与が、有利なことに、注射を受けなかった対象と比較して、48時間における病変の体積の減少を可能にするだけでなく、驚くべきことに、14日間後に、特に生体適合性ポリマー単独又はMSC単独で治療した動物と比較して、病変の体積を有意に減少可能にすることも明瞭に示された(
図5A及びB)。したがって、この実験は、本発明に係る組成物、及び/又は生体適合性ポリマーと細胞の投与が、それらが存在しないとき及び/又はそれらが単独で投与されたときには認められない新しい技術的効果を得られるようにすることを明瞭に示している。
【0120】
機能回復に対する生体適合性ポリマーと幹細胞の同時投与の効果の評価も行った。このために、一連の感覚運動及び認知テストを行った。
【0121】
得られた結果を
図6に示す。この図で示されるように、感覚運動及び認知能力に対する治療の効果、四肢配置テストによる早期の知覚回復の評価(
図6A)によれば、生体適合性ポリマー−間葉幹細胞群の動物(ハッシュされた四角)は、他の3群と比較して、回復が良好であった(反復測定ANOVA p<0.05)。
【0122】
コーナーテストによって評価された左右分化に関しては、機能回復の増強も現れ、前記増強は、生体適合性ポリマー−間葉幹細胞群の動物の場合のみ、0に設定された基準値(非左右分化値)と異ならない左右分化指数で示された(
図6B)。最後に、接着引き戻しテストに関しては、前記接着引き戻しが、生体適合性ポリマー−間葉幹細胞群の動物の場合のみ、虚血の影響を受けた傷害反対側において閉塞後第2週から加速されることが示された(一元配置ANOVA p<0.05)(
図6Cハッシュされたバー)。
【0123】
したがって、これらの結果は、生体適合性ポリマーと真核細胞、特に間葉幹細胞(MSC)との組合せによって、中枢神経系の組織病変を得て、治療することが可能になることを明瞭に示している。特に、それは、さらに、驚くべきことに、無治療動物よりもはるかに大きい機能回復を可能にするだけでなく、生体適合性ポリマー又はMSC単独のみで治療した動物よりもはるかに大きい機能回復も可能にする。
【0124】
生体外評価も行った。このために、脳の切片を0.1M PBSで3回5分間リンスし、次いで非特異的結合部位を飽和させるために、0.1M PBS/3%BSA(ウシ血清アルブミン、Sigma(登録商標))/0.1%triton(Sigma(登録商標))の混合物中で少なくとも1時間インキュベートした。続いて、切片を一次抗体(RECA−1;AbDSerotec、0.1M PBS/1%BSA/0.1%tritonで1:100に希釈)と終夜4℃で軽く撹拌しながら接触させた。続いて、切片を0.1M PBSで3回リンスし、次いで0.1M PBS/1%BSA/0.1%triton溶液で希釈された二次抗体と一緒に2時間インキュベートした。切片をスライドとカバーガラスの間に載置する前にPBSで3回リンスした。カメラ及びMetaVueソフトウェアを備えた正立顕微鏡で写真を撮った。こうして得られた画像をImageJソフトウェア(http://ImageJ.nih.gov/ij/)によって分析した。
【0125】
すなわち、虚血状態にされた組織の血管新生を、RECA−1抗体(ラット内皮細胞抗体1)による内皮細胞の標識化を利用した免疫蛍光によって評価した。標識化によって、適切な場合は、斜線領域において白線で表される組織の血管構造を同定し、表出させることができた。
【0126】
得られた電子顕微鏡写真を表した
図7に示したように、標識化によって、生体適合性ポリマー又は生体適合性ポリマーと間葉幹細胞の組合せの非存在下では、梗塞域における血管新生の構築の保存が認められないことが明らかになった(
図7A及びC)。生体適合性ポリマー(
図7B)又は生体適合性ポリマーと間葉幹細胞の組合せ(
図7D)の存在下でのみ、血管構造の保存を認めることができた。さらに、
図7Dは、生体適合性ポリマーと間葉幹細胞の組合せによって、この血管構造の保存に対して驚くべき予想外の効果が得られることを明瞭に示している。
【0127】
したがって、この実施例は、本発明に係る組成物が、有利なことに、脳血管虚血に起因する中枢神経系の組織病変を予防及び/又は治療するのを可能にすることを明瞭に示している。さらに、この実施例は、本発明に係る組成物が、中枢神経系の組織病変に起因して起こり得る機能障害の治療を可能にすることを明瞭に示している。さらに、この実施例は、本発明に係る組成物が、有利なことに、回復時間を短縮することができ、及び/又は組織病変に起因して起こり得る機能障害からの回復を可能にすることを明瞭に示している。
【0128】
したがって、この実施例は、本発明に係る組成物が、上で示したように、例えば梗塞体積を制限することによる、組織保護の点だけでなく、機能回復の点でも、虚血においてかなりの有益な効果を有することを明瞭に示している。これらの有益な効果に加えて、梗塞域における血管系の構造の保存も向上する。
【0129】
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