特許第6879970号(P6879970)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6879970
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】エレベーター
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/02 20060101AFI20210524BHJP
   B66B 1/32 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   B66B5/02 W
   B66B1/32
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-57293(P2018-57293)
(22)【出願日】2018年3月23日
(65)【公開番号】特開2019-167215(P2019-167215A)
(43)【公開日】2019年10月3日
【審査請求日】2020年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 陽介
(72)【発明者】
【氏名】川崎 勝
【審査官】 須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−180205(JP,A)
【文献】 特開2012−140235(JP,A)
【文献】 特開2012−115081(JP,A)
【文献】 特開2013−023357(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02457861(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/02
B66B 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごを停止するためのブレーキおよび前記ブレーキの状態を検出する検出装置を有するブレーキユニットを複数と、前記検出装置からの情報に基づいて前記ブレーキの故障を監視する監視装置と、前記乗りかごの運転を制御する制御装置と、を備えるエレベーターであって
前記乗りかごを昇降させるための巻上機の回転を検出する回転検出装置を備え、
前記制御装置は
記複数のブレーキユニットの何れかに故障があると前記監視装置により判定されたとき、前記監視装置により故障がないと判定されているブレーキユニットの数に基づいて、前記乗りかごの縮退運転を実施し、
ブレーキが開放状態にあることを示す情報が前記監視装置により継続して検出されたとき、前記ブレーキを制動状態とする指令を前記ブレーキに出力して前記巻上機を稼働させ、
前記監視装置は、前記巻上機から所定のトルク値以上であることを示す情報と、前記回転検出装置から前記巻上機の回転がないことを示す情報とを受け取ったとき、前記ブレーキに対応する検出装置の故障であると判定し、前記検出装置を含むブレーキユニットが故障していると判定する、
ことを特徴とするエレベーター。
【請求項2】
乗りかごを停止するためのブレーキおよび前記ブレーキの状態を検出する検出装置を有するブレーキユニットを複数と、前記検出装置からの情報に基づいて前記ブレーキの故障を監視する監視装置と、前記乗りかごの運転を制御する制御装置と、を備えるエレベーターであって、
前記乗りかごを昇降させるための巻上機の回転を検出する回転検出装置を備え、
前記制御装置は、
前記複数のブレーキユニットの何れかに故障があると前記監視装置により判定されたとき、前記監視装置により故障がないと判定されているブレーキユニットの数に基づいて、前記乗りかごの縮退運転を実施し、
ブレーキが開放状態にあることを示す情報が前記監視装置により継続して検出されたとき、前記ブレーキを制動状態とする指令を前記ブレーキに出力して前記巻上機を稼働させ、
前記監視装置は、前記巻上機から所定のトルク値以上であることを示す情報と、前記回転検出装置から前記巻上機の回転がないことを示す情報との少なくとも一方を受け取らなかったとき、前記ブレーキの故障であると判定し、前記ブレーキを含むブレーキユニットが故障していると判定する、
ことを特徴とするエレベーター。
【請求項3】
乗りかごを停止するためのブレーキおよび前記ブレーキの状態を検出する検出装置を有するブレーキユニットを複数と、前記検出装置からの情報に基づいて前記ブレーキの故障を監視する監視装置と、前記乗りかごの運転を制御する制御装置と、を備えるエレベーターであって、
前記乗りかごを昇降させるための巻上機の回転を検出する回転検出装置を備え、
前記制御装置は、
前記複数のブレーキユニットの何れかに故障があると前記監視装置により判定されたとき、前記監視装置により故障がないと判定されているブレーキユニットの数に基づいて、前記乗りかごの縮退運転を実施し、
ブレーキが制動状態にあることを示す情報が前記監視装置により継続して検出されたとき、前記ブレーキを開放状態とする指令を前記ブレーキに出力して前記巻上機を稼働させ、
前記監視装置は、前記巻上機から前記巻上機の回転時に所定のトルク値未満であることを示す情報を受け取ったとき、前記ブレーキに対応する検出装置の故障であると判定し、前記検出装置を含むブレーキユニットが故障していると判定する、
ことを特徴とするエレベーター。
【請求項4】
前記制御装置は、前記乗りかごの最大積載量を制限する縮退運転と、前記乗りかごの上限速度を制限する縮退運転との少なくとも一方の縮退運転を行う、
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のエレベーター。
【請求項5】
乗りかごを停止するためのブレーキおよび前記ブレーキの状態を検出する検出装置を有するブレーキユニットを複数と、前記検出装置からの情報に基づいて前記ブレーキの故障を監視する監視装置と、前記乗りかごの運転を制御する制御装置と、を備えるエレベーターであって、
前記制御装置は、
前記複数のブレーキユニットの何れかに故障があると前記監視装置により判定されたとき、前記監視装置により故障がないと判定されているブレーキユニットの数に基づいて、前記乗りかごの縮退運転を実施し、
故障がないと判定しているブレーキユニットが予め定められた数に満たなかったと前記監視装置により判定された場合、前記乗りかごの運転を中止する、
ことを特徴とするエレベーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレベーターに関し、例えばブレーキの故障を監視するエレベーターに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
エレベーターの乗りかごを動作させるための巻上機には、乗りかごを停止させるためのブレーキが備えられる。ブレーキは、停電などの非常時に乗りかごを停止させることができるが、ブレーキが故障すると、エレベーターの乗りかごを停止させることが不可能となるため、ブレーキにはブレーキの状態を検出することができる検出装置が備えられている。
【0003】
ここで、巻上機に2基のブレーキを有するエレベーターに関して、ブレーキ異常検出手段が異常を検出した場合に、ブレーキを制動側に制御した状態で巻上機にトルクをかけ、一定以上の制動力があることを確認できればブレーキ異常検出手段の故障とすることで、ブレーキ本体の故障とブレーキ異常検出手段の故障とを判別する手法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−180205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、ブレーキ異常検出手段の故障であっても、エレベーターを停止させることとなっており、ブレーキ本体の故障でもブレーキ異常検出手段の故障であっても、利用者の利便性を損なうこととなる。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、利用者の利便性を高めることができるエレベーターを提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明においては、乗りかごを停止するためのブレーキおよび前記ブレーキの状態を検出する検出装置を有するブレーキユニットを複数と、前記検出装置からの情報に基づいて前記ブレーキの故障を監視する監視装置と、前記乗りかごの運転を制御する制御装置と、を備えるエレベーターであって、前記乗りかごを昇降させるための巻上機の回転を検出する回転検出装置を備え、前記制御装置は、前記複数のブレーキユニットの何れかに故障があると前記監視装置により判定されたとき、前記監視装置により故障がないと判定されているブレーキユニットの数に基づいて、前記乗りかごの縮退運転を実施し、ブレーキが開放状態にあることを示す情報が前記監視装置により継続して検出されたとき、前記ブレーキを制動状態とする指令を前記ブレーキに出力して前記巻上機を稼働させ、前記監視装置は、前記巻上機から所定のトルク値以上であることを示す情報と、前記回転検出装置から前記巻上機の回転がないことを示す情報とを受け取ったとき、前記ブレーキに対応する検出装置の故障であると判定し、前記検出装置を含むブレーキユニットが故障していると判定するようにした。
【0008】
上記構成によれば、例えば、検出装置からの情報に基づいて、ブレーキユニットに故障があると判定された場合に、当該ブレーキユニットのブレーキが正常であることを確認したとき、当該ブレーキユニットの検出装置の故障であるので、安全性を確保した上で乗りかごを動作させる縮退運転を行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、可用性の高いエレベーターを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施の形態によるエレベーターに係る構成の一例を示す図である。
図2】第1の実施の形態によるブレーキユニットに係る構成の一例を示す図である。
図3】第1の実施の形態による運転監視処理に係る処理手順の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0012】
(1)第1の実施の形態
図1において、1は全体として第1の実施の形態によるエレベーターを示す。エレベーター1は、巻上機101、主ロープ102、乗りかご103、カウンターウェート104、ブレーキ105と検出装置106とを有する複数のブレーキユニット107、回転検出装置108、制御装置109、および監視装置110を含んで構成される。エレベーター1では、巻上機101が回転することで主ロープ102を巻上げ、乗りかご103とカウンターウェート104とを釣瓶式に昇降させる。
【0013】
ブレーキ105は、巻上機101の制動を行う装置(乗りかご103を停止するための装置)である。ブレーキ105を制動状態とすることで乗りかご103を停止させ、ブレーキ105を開放状態とすることで乗りかご103を昇降させることができるようになる。本実施の形態では、ブレーキ105としては、巻上機101において、ブレーキ105A,105B,105Cの3基が設けられている場合を例に挙げて説明する。なお、1つの巻上機101に設けられるブレーキ105の数は、2基であってもよいし、4基以上であってもよい。
【0014】
検出装置106は、ブレーキ105の状態(制動状態および開放状態)を検出(例えば、検出信号として出力)する。検出装置106としては、複数のブレーキ105の各々に対応して検出装置106A,106B,106Cが設けられる。本実施の形態では、検出装置106については、機械式の接点スイッチである場合を例に挙げて説明する。
【0015】
ブレーキユニット107は、ブレーキ105と検出装置106とを1組として有する。ブレーキユニット107としては、ブレーキ105Aと検出装置106Aとを有するブレーキユニット107A、ブレーキ105Bと検出装置106Bとを有するブレーキユニット107B、ブレーキ105Cと検出装置106Cとを有するブレーキユニット107Cが設けられる。
【0016】
回転検出装置108は、例えばロータリーエンコーダであり、巻上機101の回転を検出する。より具体的には、回転検出装置108は、巻上機101(後述のブレーキディスク201)の回転状態および回転速度を検出する。
【0017】
制御装置109は、巻上機101、ブレーキ105、検出装置106、回転検出装置108と電気的に接続される。制御装置109は、例えば、回転検出装置108より受信した巻上機101の回転に基づいた巻上機101の運転制御を行い、巻上機101からの回転トルクのフィードバックを受信し、ブレーキ105の動作制御(制動の制御および開放の制御)を行い、検出装置106からの情報(例えば、検出信号がデジタル変換されたデータ)を受信する。なお、デジタル変換は、任意の装置で行われる。デジタル変換は、例えば、検出装置106で行われてもよいし、制御装置109で行われてもよいし、その他の装置で行われてもよい。
【0018】
監視装置110は、例えばコンピュータ(計算機)であり、検出装置106からの情報に基づいてブレーキ105の故障を監視する。監視装置110は、通信線111を介して制御装置109からエレベーター1の稼働情報(検出装置106からの情報など)を受信し、受信した情報に基づいてブレーキ105の故障の有無に関して判断を行う。また、監視装置110は、公衆インターネット回線112を介して管制センタ113と通信可能に接続される。
【0019】
例えば、監視装置110は、ノートパソコン、サーバ装置等であり、図示は省略するCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、通信装置などを含んで構成される。
【0020】
監視装置110の機能は、例えば、CPUがROMに格納されたプログラムをRAMに読み出して実行すること(ソフトウェア)により実現されてもよいし、専用の回路などのハードウェアにより実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとが組み合わされて実現されてもよい。また、監視装置110の機能の一部は、監視装置110と通信可能な他のコンピュータにより実現されてもよい。通信装置は、例えば、NIC(Network Interface Card)から構成され、管制センタ113との通信時におけるプロトコル制御を行う。監視装置110の機能(処理)については、図3を用いて後述する。
【0021】
管制センタ113は、監視装置110がブレーキ105等の故障を検出した場合に、監視装置110から公衆インターネット回線112を介して故障を検出した旨の信号を受信し、当該エレベーター1の担当保守員に連絡する機能を有する。なお、管制センタ113は、一または複数のコンピュータ(計算機)を含んで構成されている。
【0022】
図2は、ブレーキユニット107Aに係る構成の一例を示す図である。
【0023】
ブレーキ105Aは、回転体のブレーキディスク201の円周上に2つ以上の可動部202,203を備え、ブレーキパッド(ライニングなど)204,205でブレーキディスク201を挟み込み停止させる構造を有する。可動部202,203は、制動ばね206の反発力、並びに、剛性の高いプレート等のアマチュア207およびマグネットコイル(コア)208の吸引力により可動する。可動部202は、マグネットコイル208およびフレーム209と一体構造となっている。フレーム209は、固定台等のペデスタル210により摺動可能に支持されている。また、可動部203は、アマチュア207と一体構造となっている。
【0024】
かかる構成によれば、マグネットコイル208に電圧をかける(通電させる)ことにより、制動ばね206により押されているアマチュア207およびブレーキパッド205が吸引され、ブレーキパッド205とブレーキディスク201との間に隙間が発生し、アマチュア207が規制部材211により移動できなくなると、フレーム209がアマチュア207に引き寄せられ、ブレーキパッド204とブレーキディスク201との間に隙間が発生し、巻上機101が回転できる状態(ブレーキ105Aの開放状態)になる。
【0025】
マグネットコイル208の電圧を切る(通電させない)ことにより、アマチュア207の吸引が無くなり、制動ばね206により、ブレーキパッド205がブレーキディスク201に押し付けられ、ブレーキパッド204がブレーキディスク201に押し付けられ、制動力が発生し、巻上機101の回転が停止する状態(ブレーキ105Aの制動状態)になる。
【0026】
また、アマチュア207とフレーム209との間には、検出装置106Aが設置(本例では、フレーム209に固定)されている。なお、検出装置106Aを設置する場所および態様は、限定されるものではなく、任意の場所および態様で設置可能である。
【0027】
検出装置106Aの検出部301(スイッチ)は、アマチュア207とフレーム209との距離が所定の距離になった場合、検出信号「ON」を出力し、所定の距離になっていない場合、検出信号「OFF」を出力する。例えば、検出装置106Aの検出信号が「ON」の場合は、ブレーキ105Aが開放状態であることを示し、検出装置106Aの検出信号が「OFF」の場合は、ブレーキ105Aが制動状態であることを示す。
【0028】
ここで、ブレーキ105の故障には、ブレーキ105が制動状態にならない故障(ブレーキオープン故障と称す。)と、ブレーキ105が開放状態にならない故障(ブレーキクローズ故障と称す。)と、が存在する。検出装置106での検出信号「ON」が異常に継続(例えば、乗りかご103が停止、減速等しているにもかかわらず、所定の時間を超えて検出信号「ON」が継続)している場合、ブレーキオープン故障である可能性がある。また、検出装置106での検出信号「OFF」が異常に継続(例えば、乗りかご103が加速しているにもかかわらず、所定の時間を超えて検出信号「OFF」が継続)している場合、ブレーキクローズ故障の可能性がある。
【0029】
付言するならば、図示は省略するが、ブレーキディスク201の軸と、ブレーキディスク201を回転させるための電動機とは、ギヤを介して接続されていてもよいし、ギヤを介さずに接続されていてもよい。
【0030】
なお、ブレーキユニット107Bについても同様の構成を有し、ブレーキユニット107Cについても同様の構成を有するので、その説明は省略する。
【0031】
図3は、運転監視処理に係る処理手順の一例を示す図である。運転監視処理は、所定のタイミング(例えば、検出装置106からの情報を受信したタイミング)で実施される。
【0032】
まず、監視装置110は、制御装置109から受信した検出装置106からの情報に基づいて、ブレーキユニット107の故障を新規に検出したか否かを判定する(ステップS10)。監視装置110は、ブレーキユニット107の故障を新規に検出したと判定した場合、ステップS20に処理を移し、ブレーキユニット107の故障を新規に検出していないと判定した場合、ステップS100に処理を移す。
【0033】
ステップS20では、監視装置110は、検出装置106での検出信号「ON」が異常に継続しているか否かを判定する。監視装置110は、検出信号「ON」が異常に継続していると判定した場合、ステップS30に処理を移し、検出信号「ON」が異常に継続していないと判定した場合、ステップS120に処理を移す。
【0034】
ステップS30では、監視装置110は、故障を検出していないブレーキユニット107が残っているか否か(本例では、故障を検出したブレーキユニット107の数が2基以下であるか否か)を判定する。監視装置110は、故障を検出していないブレーキユニット107が残っていると判定した場合、ステップS40に処理を移し、故障を検出していないブレーキユニット107が残っていないと判定した場合、ステップS220に処理を移す。
【0035】
ステップS40では、監視装置110は、制御装置109に対して制動力診断の実施を指示する。当該指示により、制御装置109は、ブレーキ105を制動側とする指令を出した状態で巻上機101へ段階的に回転トルクをかけていく制動力診断を実施する。
【0036】
続いて、監視装置110は、正常な制動状態が保たれるか否か(検出装置106に故障があるか否か)を判定する(ステップS50)。例えば、監視装置110は、制動力診断において、エレベーター1の仕様毎に定める判定値以上の回転トルクが巻上機101にかかっていると、巻上機101より受信した回転トルクのフィードバックに基づいて制御装置109が判断し、かつ、回転検出装置108によって巻上機101の回転が検出されない場合、ブレーキ105によって正常な制動状態が保たれると判定する。監視装置110は、正常な制動状態が保たれる(検出装置106に故障がある)と判定した場合、ステップS60に処理を移し、正常な制動状態が保たれない(検出装置106に故障がない)と判定した場合、ブレーキオープン故障であると推定し、ステップS210に処理を移す。
【0037】
なお、より詳細には、制動状態が保たれない原因は、ブレーキ105を構成する部品(ブレーキディスク201、可動部202,203、ブレーキパッド204,205、制動ばね206、アマチュア207、マグネットコイル208、フレーム209、ペデスタル210等)によるもの、ブレーキ105に係る構成(電動機、ブレーキディスク201と電動機との間に設けられるギヤ等)によるもの等、様々である。この点、ステップS50では、監視装置110は、少なくとも検出装置106の故障であるか否かを判定できる場合、ブレーキ105を構成する部品とブレーキ105に係る構成とを識別しなくてもよく、説明の便宜上、これらを識別することなくブレーキ105の故障と表記している。
【0038】
ステップS60では、監視装置110は、検出信号「ON」を異常に検知した検出装置106について、当該検出装置106の接点が溶着する等の原因により、検出信号「ON」が継続する故障(ON故障)であると判定し、当該検出装置106を含むブレーキユニット107が故障していると判定する。
【0039】
ステップS70では、監視装置110は、公衆インターネット回線112を介して管制センタ113に検出装置106の故障である旨を通知する。当該通知により、管制センタ113は、保守員への作業指示を発行する。
【0040】
監視装置110は、故障を検出していないブレーキユニット107が所定の数(例えば、1基)以下であるか否かを判定する(ステップS80)。監視装置110は、故障を検出していないブレーキユニット107が所定の数以下であると判定した場合、ステップS220に処理を移し、故障を検出していないブレーキユニット107が所定の数を超えていると判定した場合、ステップS90に処理を移す。
【0041】
ステップS90では、監視装置110は、縮退運転を実行する。本実施の形態の縮退運転では、監視装置110は、安全を確保可能な範囲内で縮退運転を行うように制御装置109に指示を行う。例えば、監視装置110は、故障を検出していないブレーキユニット107の数に応じて縮退運転を行うように制御装置109に指示を行う。かかる構成によれば、故障を検出していないブレーキユニット107の数に応じて縮退運電が行われるので、利用者の利便性をエレベーター1の状況に応じて向上することが可能となる。
【0042】
より具体的には、監視装置110は、故障を検出していないブレーキユニット107のブレーキ105(健全なブレーキ105)の数が2基であり、故障を検出したブレーキユニット107のブレーキ105(健全でないブレーキ105)の数が1基である場合、乗りかご103の最大積載量を健全なブレーキ105の数に応じて規定された所定の値(例えば、本来の2/3)に制限した縮退運転を実施するように制御装置109に指示する。
【0043】
ここで、エレベーター1では、ブレーキ105が3基であり、乗りかご103の最大積載量の約2倍の積載量が乗りかご103に乗っている場合でも、乗りかご103を安全に制止可能に設計されているため、健全なブレーキ105が2基となったとしても、縮退運転を実施せずとも利用者の安全は確保可能である。しかしながら、エレベーター1では、ブレーキ105が全て健全な場合と同様な安全性の確保を目的として、乗りかご103の最大積載量の制限を伴う縮退運転を実施する。
【0044】
なお、縮退運転としては、乗りかご103の最大積載量を、故障を検出していないブレーキユニット107の数に応じて規定された所定の値に制限する運転に限られるものではない。例えば、乗りかご103の最大積載量を予め規定された所定の値(例えば、一律に1/3)に制限する運転であってもよい。また、例えば、乗りかご103の上限速度(上昇の上限速度であってもよいし、下降の上限速度であってもよいし、両方であってもよい。)を予め規定された所定の値に制限する縮退運転としてもよい。また、例えば、乗りかご103の上限速度を、故障を検出していないブレーキユニット107の数に応じて規定された所定の値に制限する縮退運転としてもよい。また、例えば、乗りかご103の最大積載量を所定の値に制限し、かつ、乗りかご103の上限速度を所定の値に制限する縮退運転としてもよい。また、乗りかご103の昇降行程を制限するなどのその他の縮退運転としてもよい。
【0045】
ステップS100では、監視装置110は、検出装置106の交換または調整が実施されたか否かを判定する。換言するならば、監視装置110は、故障と判定した検出装置106の交換または調整が実施され、ブレーキ105に対応して設けられる検出装置106の全てに故障がなくなるまでは縮退運転を継続する。監視装置110は、検出装置106の交換または調整が実施されたと判定した場合、ステップS110に処理を移し、検出装置106の交換または調整が実施されていないと判定した場合、運転監視処理を終了する。
【0046】
ステップS110では、監視装置110は、平常運転に復帰(平常運転を再開)するように制御装置109に指示する。
【0047】
ステップS120では、監視装置110は、検出装置106での検出信号「OFF」が異常に継続しているか否かを判定する。監視装置110は、検出信号「OFF」が異常に継続していると判定した場合、ステップS130に処理を移し、検出信号「OFF」が異常に継続していないと判定した場合、ステップS100に処理を移す。
【0048】
ステップS130では、監視装置110は、故障を検出していないブレーキユニット107が残っているか否かを判定する。監視装置110は、故障を検出していないブレーキユニット107が残っていると判定した場合、ステップS140に処理を移し、故障を検出していないブレーキユニット107が残っていないと判定した場合、ステップS220に処理を移す。
【0049】
ステップS140では、監視装置110は、制御装置109に対してトルク診断の実施を指示する。当該指示により、制御装置109は、ブレーキ105を開放状態にする指令を出し、巻上機101回転時の回転トルクを確認するトルク診断を実施する。
【0050】
続いて、監視装置110は、正常な開放状態が保たれる否か(検出装置106に故障があるか否か)を判定する(ステップS150)。例えば、監視装置110は、巻上機101からの回転トルクのフィードバックが、エレベーター1の仕様毎に定める判定値未満の回転トルクであった場合、ブレーキ105によって正常な開放状態が保たれると判定する。監視装置110は、正常な開放状態が保たれると判定した場合、ステップS160に処理を移し、正常な開放状態が保たれない判定した場合、ブレーキクローズ故障であると推定し、ステップS210に処理を移す。
【0051】
ステップS160では、監視装置110は、検出信号「OFF」を異常に検知した検出装置106について、当該検出装置106の回路が断線する等により、検出信号「OFF」が継続する故障(OFF故障)であると判定し、当該検出装置106を含むブレーキユニット107が故障していると判定する。
【0052】
続いて、ステップS170〜ステップS190の処理が行われるが、ステップS70〜ステップS90の処理と同じであるので、その説明を省略する。
【0053】
ステップS210では、監視装置110は、ブレーキ105の故障であると判定し、当該ブレーキ105を含むブレーキユニット107が故障していると判定する。
【0054】
ステップS220では、監視装置110は、公衆インターネット回線112を介して管制センタ113にブレーキ105の故障である旨を通知する。当該通知により、管制センタ113は、保守員への作業指示を発行する。
【0055】
ステップS230、監視装置110は、安全のために乗りかご103を中止するように制御装置109に指示する。
【0056】
続いて、監視装置110は、故障したブレーキ105等の交換または調整が実施されたか否かを判定する(ステップS240)。換言するならば、監視装置110は、故障と判定したブレーキ105等の交換または調整が実施され、検出装置106によって正常であることが確認されるまでは乗りかご103の運転を運転(停止状態を継続)する。監視装置110は、故障したブレーキ105等の交換または調整が実施されたと判定した場合、ステップS110に処理を移し、故障したブレーキ105等の交換または調整が実施されていないと判定した場合、ステップS230に処理を移す。
【0057】
上述したように、故障を検出していないブレーキユニット107が残っていない場合(全てのブレーキ105について故障の可能性がある場合)、診断を実施することなく(制動力診断もトルク診断も実施することなく)、乗りかご103の運転を中止することで、診断において、乗りかご103の制御ができなくなり、乗りかご103の破損などが生じてしまう事態を防ぐことができる。
【0058】
また、上述したように、故障を検出していないブレーキユニット107が所定の数以下である場合に、乗りかご103の運転を停止することで、健全なブレーキ105に負荷が集中して直ぐに消耗、故障などしてしまう事態を回避できるようになる。
【0059】
以上のように、監視装置110は、検出装置106からの情報に基づいてブレーキユニット107に故障があると判断した場合、ブレーキ105の診断を行い、ブレーキ105が正常であることを確認したとき、検出装置106の故障であると判定する。より具体的には、監視装置110は、検出装置106を用いてブレーキ105のブレーキオープン故障またはブレーキクローズ故障の可能性があると判断した後に、ブレーキオープン故障の場合はブレーキ105の制動力診断、ブレーキクローズ故障の場合は巻上機101のトルク診断を実施することで、検出装置106の故障とブレーキ105の故障とを判別する。なお、特許文献1に記載の技術では、ブレーキオープン故障の場合でしか有効とは言えず、ブレーキクローズ故障の場合にブレーキ105の故障と検出装置106との故障を判別することができない。この点、本実施の形態のエレベーター1によれば、ブレーキクローズ故障の場合に検出装置106の故障とブレーキ105の故障とを判別することができる。
【0060】
また、検出装置106の故障の場合には、利用者の安全を確保した上で、乗りかご103の運転を停止させずに縮退運転を実施することで、利用者の利便性を向上することが可能となる。
【0061】
また、検出装置106の故障の場合には、利用者の安全を確保した上で、乗りかご103の運転を停止させずに、乗りかご103の最大積載量または上限速度を制限した縮退運転を実施することで、利用者の利便性をエレベーター1の利用状況に合わせて向上することが可能となる。
【0062】
このように、複数のブレーキユニット107の何れかに故障があると監視装置110により判定されたとき、制御装置109が、監視装置110により故障がないと判定されているブレーキユニット107の数に基づいて、乗りかご103の縮退運転を実施するので、安全性を確保した上で乗りかご103を動作させる縮退運転を行うことができるようになる。
【0063】
本実施の形態によれば、エレベーターの可用性を高めることができる。
【0064】
(2)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、本発明をエレベーター1に適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、この他種々のエレベーターに広く適用することができる。
【0065】
また上述の実施の形態においては、全てのブレーキ105において故障の可能性がある場合(故障を検出していないブレーキユニット107が残っていない場合)、安全確を保するために保守員への作業指示を発行したが、本発明はこれに限らず、制動力診断またはトルク診断において正常な状態であることが確認できれば、縮退運転を実施しない構成としてもよい。この場合でも、検出装置106の故障とブレーキ105の故障とを判別することができるので、故障の個所を迅速に把握して交換、調整などを行うことで、乗りかご103の運転が停止する期間を短縮できるようになり、エレベーター1の可用性を高めることができる。
【0066】
また上述の実施の形態においては、検出装置106として機械式の接点スイッチとする場合について述べたが、本発明はこれに限らず、検出装置106としては、ブレーキ105の故障を検出可能なあらゆる構成を採用することができる。例えば、検出装置106として、ブレーキパッド204とブレーキディスク201とを撮影可能なカメラを設けてもよいし、ブレーキパッド204とブレーキディスク201との距離を検知可能な距離計測センサを設けてもよいし、その他のセンサを設けてもよい。
【0067】
また上述の実施の形態においては、健全なブレーキ105が1基である場合、エレベーター1の運転を停止する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、健全なブレーキ105が1基である場合、監視装置110は、例えば、乗りかご103の最大積載量を本来の1/3に制限した縮退運転を実施するように制御装置109に指示するようにしてもよい。
【0068】
また、上記の説明において各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0069】
また上述した構成については、本発明の要旨を超えない範囲において、適宜に、変更したり、組み替えたり、組み合わせたり、省略したりしてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1……エレベーター、101……巻上機、102……主ロープ、103……乗りかご、104……カウンターウェート、105……ブレーキ、106……検出装置、107……ブレーキユニット、108……回転検出装置、109……制御装置、110……監視装置。
図1
図2
図3