【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、本発明により、略環状に構成された摩擦面を備える第1摩擦要素または第2摩擦要素、各他方の摩擦要素、および摩擦面要素が、一体的に構成され、ならびに、第1摩擦要素または第2摩擦要素、および各他方の摩擦要素の略環状の基体が、径方向で互いに間隔を空けていることにより、解決される。
【0012】
従来技術の欠点は、統合的に構成された実施形態においては、摩擦面要素および略環状の基体が、必然的に同一の材料製なことである。磨耗、強度、摩擦係数プロファイル、およびドラグトルク特性に関する材料要件を満たすことを望むならば、必然的に、プレート全体を高品質材料で製造しなければならないであろう。プレートは、摩擦面に比べて非常に広い面を有するため、高品質材料を大量に消費することが必要であった。摩擦要素および摩擦面要素を「複数部分」構成にして、各摩擦面要素を略歯型形状で、摩擦要素の環状の基体に形成することで、異なる素材、または材料を使用することができる。特に摩擦要素用には、摩擦を受ける摩擦面要素用の材料よりも、材料品質が低く、また実質的に安価な材料を使用可能である。
【0013】
さらに本発明の解決によれば、例えばインナプレートを、アウタプレートの「打抜き屑」から製造可能であることが判明した。部品が径方向に重ならない、つまり、一方のプレートの略環状の基体と、環状の摩擦面を備える摩擦プレートの間に、径方向で重なる部分が存在しないためである。摩擦接触は、専ら、環状体に配置された摩擦面要素を介して実現される。従って、打抜き屑を著しく低減可能であり、これは大幅な費用節約につながる。
【0014】
径方向で重なり領域に突出する摩擦面要素の利点は、このようにして、摩擦要素のうちの一方、つまり第1摩擦要素または第2摩擦要素のいずれかに、独立した摩擦突起または摩擦歯を設けることで、摩擦面が周方向に繰り返し中断されることになり、両摩擦要素の間にある接触面または対応する摩擦面が低減されることである。例えば、装備された摩擦面要素、つまり摩擦突起または摩擦歯の間にリセスを施すことによっても、周方向に中断可能である。従って、互いに摩擦結合が可能な第1および第2摩擦要素は、突出する各摩擦面要素を除いて、重なり領域を径方向に低減するか、または重なり合う摩擦面を低減するために、径方向に互いに間隔を空ける。これにより、例えば油等である冷却剤および/または潤滑剤が、ほぼ妨げられることなく径方向に流出可能である。さらに、ドラグトルクは接触面において冷却剤および潤滑剤がせん断されることで発生するが、その接触面が最小にまで低減される。
【0015】
例えば従来技術によるクラッチにおいて既知であるように、摩擦ライニングまたは摩擦体は、接着、リベット留め、または他の方法で摩擦面要素に固定される必要がある。本発明による摩擦型シフト要素の更なる利点は、一体的に構成されているため、その必要がないことである。
【0016】
いわゆる径方向内側または径方向外側に突出する摩擦ライニングキャリアは、例えば接着可能な摩擦ライニング、またはセラミック小プレートを受容する打抜き穴を装備することが既知である。こうした摩擦ライニングキャリアは、本発明による摩擦型シフト要素の摩擦面要素のように、摩擦要素に類似のジオメトリおよび配置を有することが可能であろう。しかしながらこの場合、専ら摩擦ライニングまたはセラミック小プレートが、カウンタプレートを備える摩擦相手材として作用した。そのため、従来技術から既知である径方向内側または径方向外側に突出する摩擦面要素は、常に複数部分で構成された。なぜなら常に、摩擦ライニングキャリアおよび少なくとも1つの摩擦ライニングが装備されたためである。
【0017】
一体的の概念は、摩擦面要素が摩擦ライニングを備えない、ということのみを意味するのではない。この概念は、摩擦面要素がワンピースで構成されていることを、追加的に意味する。従って、摩擦面要素を備える本発明による摩擦要素は、常に複数部分であり、また統合的には構成されていない。これは、例えばドイツ特許出願第102014200854号において開示されているケースであり、摩擦要素が各摩擦面要素とワンピースで構成されている。
【0018】
好適には、本発明の有利な発展形態において、摩擦型シフト要素は湿式摩擦型シフト要素として構成され、好適には油である流体が、潤滑および冷却のために、摩擦要素パッケージまたはプレートパッケージを通って、摩擦面の領域に導かれる。
【0019】
こうしたシフト要素によっては、これらの摩擦型シフト要素に熱的負荷を与えずに、有益なパワーシフトが可能であるため、好適にも、提案する摩擦型シフト要素を、自動変速機において連結解除されるシフト要素として使用可能である。連結解除されるシフト要素は、摩擦型シフト要素が、最低ギヤで締結、最高ギヤで開放され、および全てのギヤ段の連続するスルーシフト操作において、シフト状態が一度だけ変更されることを特徴とする。
【0020】
従って、提案するシフト要素においてはドラグトルクが特に僅かであるため、車両の燃料消費が著しく低減される。さらに、摩擦面が低減されているため、小型化されて必要とする構造スペースが低減され、製造費用も抑えられる。さらに質量慣性モーメントが低減され、それにより本発明による摩擦型シフト要素を変速機に装備した車両において、良好な運転動特性を実現可能である。
【0021】
さらに、各他方の摩擦要素が切り欠きを備え、摩擦面要素が各切り欠き内に受容されている摩擦型シフト要素が好適である。
【0022】
結合位置とも称する切り欠きは、後鉤部または後部カットを備える。これにより、摩擦面要素が、実質的に形状結合的に保持される。このために必要な後鉤部または後部カットは、例えばパズルピースまたは従来技術から既知のように形成可能である。各切り欠きは、好適には締りばめとして構成される。さらに好適には、各他方の摩擦要素の切り欠きは、略環状の基体を、内周または外周に沿って部分的に中断する。
【0023】
さらに好適には、摩擦面要素は、相前後して位置する異なる半径のR部に亘って、環状の摩擦要素に形成されている。特に好適には、切り欠き、および切り欠き直近の周辺部が、摩擦面要素ゾーンを画定する。また、周方向に隣接する摩擦面要素ゾーンの間に、各中間ゾーンが配置されている。各中間ゾーンは、中央ゾーン、および中央ゾーンを囲む2つの移行ゾーンを備える。中央ゾーンは、第1半径R3のR部を備えて構成されている。また各移行ゾーンは、半径R4のR部を備えて構成されている。そして、各移行ゾーンは、1つの中央ゾーンおよび1つの摩擦面要素ゾーンに接する。
【0024】
R部は、例えば摩擦要素の環状の基体の外周領域において、摩擦面要素の歯型形状の摩擦面の端部より大きい。このようにして、突出する摩擦面要素において、基体に対する移行部を、その応力図の点で最適化する。環断面が摩擦面要素の方向に拡大するため、プレートパッケージが全体としては、径方向によりコンパクトな構成となる。従って摩擦面要素は、動力伝達の際に、曲げモーメントを環状ジオメトリへと伝達する。この結果として生じる応力図を、摩擦要素において良好に形成するために、環ジオメトリからのカーブをまず大きな半径のR部から開始し、そして小さな半径のR部で摩擦面要素の方向へ更に導くことが有用である。摩擦面要素におけるジオメトリまたはR部の半径の変化は、摩擦歯または摩擦面要素5の両側で異なるよう形成可能である(好適な回転方向において)。
【0025】
さらに好適には、摩擦面要素は固定手段により、各他方の摩擦要素に固定されている。特に好適には、摩擦面要素は変形により、各他方の摩擦要素に固定される。従って摩擦面要素を、特に側方に、特に軸方向に外れないよう、プレートに固定することができる。
【0026】
さらに好適には、摩擦面要素は、少なくともポイント的に結合ラインに沿って、対応する摩擦要素に固定されている。結合ラインは、軸線方向から見て、周方向および/または径方向に、切り欠きの拡がりを制限する線である。摩擦面要素は、変形により、略環状の基体に固定される。結合工程は、個々の領域において、つまりポイント的に結合ラインにおいて、または結合ライン全体に沿っても、実行可能である。例えば、いわゆる、かしめ、によって、摩擦要素と摩擦面要素の間の摩擦結合および形状結合を、部品のうちの少なくとも1つの部品のエッジ領域を塑性変形させて、発生させることができる。溶接とは異なり、異なる材料を互いに結合可能である。さらに、かしめ接続を介しては、より高いトルクを伝達可能である。
【0027】
さらに好適には、摩擦面要素は、結合ラインに沿って面取り部を備える。結合ラインの領域に角をそいだ部分を備えると、より薄い部分において、固定を更に容易とすることができる。
【0028】
さらに好適には、摩擦面要素は各他方の摩擦要素に溶接されている。溶接の利点は、形状結合された摩擦面要素において、変形による固定を不要とすることが可能なことである。この場合、後鉤部または後部カットを省略可能である。
【0029】
さらに好適には、各他方の摩擦要素が軸方向に少なくとも1つの第1の厚さを有し、また各摩擦面要素は軸方向に少なくとも1つの第2の厚さを有する。少なくとも1つの第1の厚さと、少なくとも1つの第2の厚さは、非同一である。特に好適には、第2の厚さは第1の厚さよりも薄い。これにより、部品の各々が、特に各々の要件に関して最適化される。例えばこれにより、幾分薄い摩擦面要素は、変形工程により容易に固定される。
【0030】
好適には、摩擦面要素が周方向の流入領域および/または流出領域に、面取り部を備える。面取り部または角をそいだ部分を、カウンタプレートが摩擦ゾーンに入る位置および/または出る位置に施すと、ドラグトルクを更に低減可能である。
【0031】
さらに好適には、摩擦面要素は溝を備える。適切な溝加工によって、ドラグトルクは更に著しく低減され、かつ同時に負荷容量が増加される。
【0032】
さらに好適には、摩擦面要素はスチール製とする。さらに好適には、摩擦面要素は焼結される。さらに好適には、摩擦面要素はセラミックス製とする。
【0033】
本発明の別の態様によれば、方法が提供される。つまり、車両の変速機用の、第1摩擦要素および第2摩擦要素を備える摩擦型シフト要素を製造する方法である。第1摩擦要素または第2摩擦要素は略環状に構成された摩擦面を備える。各他方の摩擦要素は略環状の基体を備える。方法は、以下のステップを含む:
第1ステップにおいて、第2摩擦要素を第1材料製の半製品から製造する。半製品において実質的に円筒形の刳り部が発生する。
続く第2ステップにおいて、第1摩擦要素の略環状の基体を第1ステップからの半製品から、円筒形の刳り部に対して実質的に同軸に製造する。
または、以下のステップを含む:
第1ステップにおいて、第2摩擦要素の略環状の基体を第1材料製の半製品から製造する。半製品において実質的に円筒形の刳り部が発生する。
続く第2ステップにおいて、第1摩擦要素を第1ステップからの半製品から、円筒形の刳り部に対して実質的に同軸に製造する。
【0034】
本発明による方法の利点は、例えばアウタプレートである第1の摩擦要素を、例えばインナプレートである第2の摩擦要素に対して同軸に製造可能なことである。プレートにおいては、略環状の基体のみが製造される。これにより、従来技術とは異なり、対応するプレートが「互いに」製造される。つまり、従来のプレート製造の際に発生していた内側部分を2倍廃棄することがない。この順序においては、いわば、インナプレートはアウタプレートの廃棄材料から製造されるのである。
【0035】
さらに好適には、方法において、第2摩擦要素を板金ストリップから打抜く。これにより打抜き屑が発生する。第1摩擦要素は、打抜き屑から打抜く。
【0036】
特に好適には、方法において、複数の摩擦面要素を、第1材料または第2材料から製造する。
【0037】
摩擦要素および摩擦面要素には、異なる素材、つまり材料を使用可能であることが判明している。これは、著しい費用低減につながる可能性がある。なぜなら、摩擦要素と比較してより小さい摩擦面要素のみを、高品質かつより高価な材料から製造するだけで十分なためである。
【0038】
さらに好適には、方法において、摩擦面要素を受容する複数の切り欠きを、第1摩擦要素または第2摩擦要素に製造する。
【0039】
さらに好適には、方法において、摩擦面要素を第1摩擦要素または第2摩擦要素と結合させる。
【0040】
特に好適には、方法において、摩擦面要素を切り欠きに挿入する。
【0041】
さらに好適には、方法において、摩擦面要素を第1摩擦要素または第2摩擦要素に固定するために、例えば、かしめ、等の変形工程を、摩擦面要素に対して、および/または第1摩擦要素もしくは第2摩擦要素に対して実行する。さらに好適には、方法において、摩擦面要素を第1摩擦要素または第2摩擦要素に溶接する。
【0042】
さらに好適には、方法において、つまり、車両の変速機用の、第1摩擦要素および第2摩擦要素を備える摩擦型シフト要素を製造する方法において、第1摩擦要素または第2摩擦要素は略環状に構成された摩擦面を備える。各他方の摩擦要素は略環状の基体を備える。方法は、以下のステップを含む:
第1ステップにおいて、第1摩擦要素を、第1材料製の半製品から製造し、廃棄材料が発生する。
続く第2ステップにおいて、第2摩擦要素の略環状の基体を、この廃棄材料から製造する。
または、以下のステップを含む:
第1ステップにおいて、第1摩擦要素の略環状の基体を、第1材料製の半製品から製造し、廃棄材料が発生する。
続く第2ステップにおいて、第2摩擦要素を、この廃棄材料から製造する。
【0043】
この方法は、逆の順序での製造、つまり、特にインナプレートの廃棄材料からアウタプレートを打抜く製造を考慮している。両プレートのうちの1つのプレートにおいて、完全なプレートを製造するのではなく、略環状の基体のみを製造する。続く第2ステップにおいて、上述の方法のステップは、全範囲で実行可能である。
【0044】
本発明の更なる態様に従い、少なくとも1つの摩擦要素は、隣接する第1および第2摩擦要素の各々から、互いに相対する摩擦面に対して、断面において、または軸方向に、傾斜が付けられている、円錐状、または軸方向に先細りに構成されている。これにより、例えば内側および/または外側の摩擦要素は平坦な形状等に構成され、軸方向で構造スペースが節約される。さらに、プレートまたは摩擦要素が、負荷の高い領域でより厚く、つまりより強く構成されるため、同時に強度が更に高まる。負荷の高い領域とは、特に、摩擦要素においてスプラインが装備される領域である。さらに、摩擦面要素が、各摩擦要素の環断面に対して広い面で結合するため、良好に放熱される。従って、熱的な耐久性が高まる。平坦または円錐状としたことにより、好適にも、摩擦型シフト要素を締結するために必要な軸方向の圧接力も、更に低減される。さらには、摩擦型シフト要素の製造時に、より低い変形度が要求される。
【0045】
本発明の次の態様に従い、提案する摩擦型シフト要素において、強制的に間隔が与えられる。これにより、隣接する摩擦要素は開放された状態でも間隔を保つ。また負荷を受ける状態、つまり締結された状態においては、摩擦型シフト要素は作用を受けない。例えば、周方向の少なくとも1つの摩擦面要素に対して、摩擦要素の軸方向に弾性を有する、少なくとも1つのばねフラップ要素等を備えることにより、強制的に間隔を与えることが可能である。プレートパッケージにおける摩擦要素に、このようにして強制的に間隔を与えることにより、冷却剤および/または潤滑剤は、流動抵抗を僅かに抑えて径方向に流出可能である。従って、間で発生するせん断力が低減され、およびドラグトルクが低減する。
【0046】
摩擦型シフト要素は、油圧的、空気圧的、電気機械的または機械的に作動可能である。既存の冷却剤および潤滑剤を油圧媒体として使用可能であるため、湿式摩擦型シフト要素を油圧的に作動することが好適である。提案する摩擦型シフト要素の摩擦要素は、金属板、スチール等で製造可能である。スチールは、例えばC15、C60、C75等のカーボン素材を含有可能である。摩擦要素は、例えば浸炭窒化またはガス窒化等により、硬化させて構成可能である。摩擦要素のコーティングとして、例えば焼結材、モリブデン、カーボン等を同期装置と共に備えることが可能である。さらに、摩擦要素のうちの少なくとも1つの摩擦要素に、例えば平行溝、ワッフル溝、ボトルネック溝である溝等を、紙製ライニングと共に装備可能である。
【0047】
提案する摩擦型シフト要素は、パワーシフトトランスミッションにおいて使用可能である。この摩擦型シフト要素を、無段マルチレンジ変速機または車両の電気駆動装置において適用することも考慮可能である。更なる可能性として、四輪駆動の連結解除、リターダの連結解除、方向転換グループとして、およびレンジグループとしても適用可能である。
【0048】
本発明は、上述の摩擦型シフト要素に加えて、このように形成された摩擦型シフト要素を備える車両用の自動変速機も同様に請求する。
【0049】
以下に、図面を参照して本発明を更に詳述する。