【文献】
Tingting Yue,The Prevalence and Nature of Glycan Alterations on Specific Proteins in Pancreatic Cancer Patients Revealed Using Antibody-Lectin Sandwich Arrays,Molecular & Cellular Proteomics,2009年,Vol.8 No.7,Page.1697-1707
【文献】
Ana Lucia R,Antigen, antibody and immune complex detection in serum samples from rats experimentally infected with Strongyloides venezuelensis,Experimental Parasitology,2012年,Vol.130 No.3,Page.205-208
【文献】
Marko I. Vuskovic,Processing and analysis of serum antibody binding signals from Printed Glycan Arrays for diagnostic and prognostic applications,Int. J. Bioinformatics Research and Applications,2011年,Vol.7 No.4,Page.402-426
【文献】
Taisuke Yoshida,Decreased Serum Levels of Mature Brain-Derived Neurotrophic Factro (BDNF), but Not Its Precursor proBDNF, in Patients with Major Depressive Disorder,PLoS ONE,2012年,Vol.7 No.8,Page.e42476
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(b)および(c)が、アッセイ基質における単一の離散試験領域に対して遂行されるか、あるいは物理的に分離された反応領域に対して遂行される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
たんぱく質の多くは、翻訳後にグリコシル化される。この翻訳後修飾は、グリコシド結合によって糖をたんぱく質に化学的に結合させ、糖たんぱく質を生成することを含む。たんぱく質のグリコシル化は、幾つかの形態をとる場合があり、発生するグリコシド結合の種類に応じて規定される。
【0003】
N結合型グリコシル化は、コンセンサス配列Asn−Xaa−Ser/Thr(ここで、Xaaはプロリンではない)の内部において、アスパラギン残基の側鎖中の窒素(N4)原子に糖分子を結合させることを含む。この修飾が生じるのは、真核生物ならびに古細菌の分泌たんぱく質および膜たんぱく質においてであって、細菌中にはこの修飾が存在しない。このプロセスは、小胞体において共翻訳的に開始され、14個の糖(2つのN−アセチルグルコサミン、9つのマンノースおよび3つのグルコースを含む)の予め組立られたブロックを、新生ポリペプチド鎖に追加する。3つのグルコース残基および1つのマンノース残基が開裂した後、たんぱく質がゴルジ複合体に移動し、このゴルジ複合体において、グリカンが可変数のマンノース残基を失い、「末端グリコシル化」と呼ばれるプロセスにおいてより複雑な構造が獲得される。このプロセスでは、3種類の成熟N−グリカンが産生される。それは、高マンノース(末端グリコシル化されていないもの)、ハイブリッドならびに複合体(マンノース残基、N−アセチルグルコサミン残基、N−アセチルガラクトサミン残基、フコース残基およびシアル酸残基の異なる組み合わせを有するもの)である。
【0004】
O結合型グリコシル化は、セリン残基およびスレオニン残基の側鎖中の酸素原子に、グリカンが結合していることを指す。この修飾は、真核生物の分泌たんぱく質および膜たんぱく質において生じ、結果として得られるO結合型グリカンは、たんぱく質の局在化およびトラフィッキング、たんぱく質溶解性、抗原性、ならびに細胞間相互作用において重要な役割を果たす。本プロセスは、たんぱく質のN−グリコシル化および折り畳みの後に、シス−ゴルジコンパートメントにおいて起こる翻訳後の事象である。O結合型グリカンは、糖類が漸増的に追加されることで、段階的に構築される。分泌型および膜結合型哺乳類たんぱく質における最も一般的なタイプのO−グリコシル化は、還元末端のN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)の付加によって「ムチン型」O結合型グリカンを生ずることである。この残基は、ガラクトース(Gal)、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)またはGlcNAcおよびGalで更に拡張可能であり、その結果、8つの共通コア構造を生じ、多くの場合、最高3つまでのシアル酸残基の付加によって更に装飾される。様々な哺乳動物のたんぱく質は、「ムチン型」グリカン以外にも、還元末端結合としてマンノース(Man)、フコース(Fuc)、グルコース(Glc)、ガラクトース(Gal)またはキシロース(Xyl)を有することが知られている。
【0005】
真核生物の細胞質および核たんぱく質によっては、単一のN−アセチルグルコサミンがセリン残基またはスレオニン残基に連結されている、単純なO結合グリカンを有するものもある。この種のグリコシル化は、細胞内たんぱく質の生物学的活性の調節において重要な役割を果たし、たんぱく質によっては、同じ残基が競合的に(competing)リン酸化お
よびO結合型グリコシル化に供される場合もある。
【0006】
C結合型グリコシル化は、細胞外たんぱく質の内部におけるマンノース残基からトリプトファン残基への共有結合を指す。C−マンノシル化に関しては、2通りの認識シグナルが提示されてきた。それが、W−X−X−W(第1または両方のトリプトファン残基がマンノシル化されているもの)、およびW−S/T−X−Cである。
【0007】
糖化(glycation)とは、「メイラード(Maillard)」反応として知られているプロセスにおいて、たんぱく質(N末端、ならびにリジン側鎖およびヒスチジン側鎖)の窒素原子に還元糖が非酵素的に結合することを指す。糖化たんぱく質に結合された糖は、漸次に修飾されて高度糖化最終産物(AGE)となり、II型真性糖尿病、がん、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病およびパーキンソン病をはじめとする様々な疾患において関与している。
【0008】
たんぱく質のグリコシル化は、多様なヒト疾患と関連してきた。例えば、がんの発生および進行において、たんぱく質のグリコシル化の異常が起こることが証明されている(Hakomori S (1989), Advances in Cancer Research 52:257-331; Hakomori SI and Cummings RD (2012), Glycoconjugate Journal 29(8-9):565-566)。加えて、たんぱく質グリコシル化における欠陥は、ゴーシェ病、ニーマン・ピック病C型、サンドホフ病およびテイ・サックス病等、数種の細胞性貯蔵障害において関与してきた(Ohtsubo KおよびMarth JD(2007), Cell 126:855-867)。さらに、最近になって、たんぱく質のグリコシル化は心血管疾患の発症と関連することがわかってきた(Akinkoulie AO et al (2014), Journal of the American Heart Association 3(5):e001221)。アルツハイマー病の病理学および疫学におけるたんぱく質のグリコシル化の役割を支持する信憑性ある仮説も、最近になって提案されるようになってきた(Schedin-Weiss S et al(2014), FEBS Journal 281: 46-62)。
【0009】
たんぱく質に共有結合する糖類は、レクチン、すなわち、特異的グリカンを認識してこれに結合するたんぱく質を使用することで、同定可能である。レクチンは、植物において発見されたのが発端で、現在では自然において遍在していることが知られている。各レクチンのグリカン特異性はそれぞれ独特なものであることから、あらゆる所与のたんぱく質に対するグリコシル化プロファイルを生成するには、個々のレクチンに関する試験を、幾度にもわたって実施する必要がある。このアプローチを使用してたんぱく質のグリコシル化プロファイルを生成するための既存の技術は、1つ以上のレポータータグを使用すること、あるいは表面上に不動化されているもしくは表面に結合されている糖たんぱく質に対する個々のレクチンおよび/または抗体の結合を検出し識別するのを可能にするための間接的な方法を使用することを要する(例えば、Chen S et al (2007) Nature Methods 4(5):437-444;およびMeany DL et al (2009) Journal of Proteome Research 8(2): 613-619を参照のこと)。代わりに、少数のレポータータグが利用可能である場合、たんぱく質グリコシル化プロファイルの生成は、表面上に不動化されているかあるいは表面に結合されている糖たんぱく質を、少数のレクチンに連続して曝露させ、そのプロファイルを生成するのに必要なデータ点の数を増やすことを要するという、実質的に困難なタスクとなる(Goodarzi MTおよびTurner GA (1997), Glycoconjugate Journal 14(4):493-496)。しかしながら、質量分光測光法は、たんぱく質グリコシル化の包括的な一段階分析のゴールドスタンダードであり続けている(Wada Y et al (2007), Glycobiology 17(4):411-422)。
【0010】
これまで、たんぱく質のグリコシル化が、非グリコシル化状態のたんぱく質を特異的に認識する抗体の、たんぱく質への結合を、干渉し得ること、あるいは実際にそのたんぱく質に結合するのを阻止し得ることが、報告されてきた(De Groot ASおよびScott DW (200
7), Trends Immunol 28: 482-490)。これは、試料中のたんぱく質レベルの過小評価及び診断試験における偽の結果につながる可能性がある。
【0011】
グリコシル化たんぱく質の検出および測定方法;そのようなたんぱく質用のグリコシル化プロファイルの生成方法;ならびにヒト疾患のスクリーニング、診断、予後判定および治療におけるたんぱく質グリコシル化の使用方法;に関して、改良が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、反応基質上の離散領域において、標的生体分子、好ましくはたんぱく質を、その標的を特異的に認識する抗体、およびその標的上の糖を認識する1つ以上のグリカン結合剤に接触させることによって、標的のグリコシル化シグネチャまたはプロファイルの決定が可能となる、という理解に基づくものである。反応どうしの識別が可能な検出分子
、すなわち、異なるグリカンの検出を識別する検出分子を使用する場合、あるいは、各標的が基質の離散試験領域(DTR)に不動化されている異なる標的を検査する場合には、異なるグリカンの存在を決定するための反応を、同じ離散試験領域に対して実行してもよい。代わりに、異なる種、すなわち、たんぱく質、ペプチドまたは炭水化物抗原およびグリカン等を含む反応に対して同じ検出分子を使用する場合は、特徴評価の対象となる標的をユーザーが決定できるように、標的ごとに異なった標的反応部位が物理的に分離することを必須とするのが好ましい。例えば、同じ検出分子を使用する場合には、同じ標的種上に存在する異種グリカンを決定するための反応を、例えばバイオチップといった、物理的に別々の反応基質に対して、またはマイクロタイタープレートのような離散試験領域を組み込んだ単一の基質に対して、遂行する場合がある。本発明は、患者から採取された試料からの標的分子用のグリコシル化プロファイルを、効率的に且つ経済的に生成することを実現する。これは、患者試料中のたんぱく質グリコシル化の特徴評価において、有意なブレイクスルーである。
【0019】
本明細書全体を通して使用されている用語に対して、および本明細書中に記載されている本発明のいずれかの態様に関連して使用されている用語に対して適用される定義は、以下のとおりである。
【0020】
「患者」および「被験者」という用語は、本明細書中で同義に用いられ、限定されるものではないが、診断において受容者となりうるヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、齧歯動物などを含む任意の動物(例えば、哺乳動物)を指す。被験者または患者は、ヒトであることが好ましい。
【0021】
「標的生体分子」という用語は、グリコシル化に供される可能性のある任意の生体分子を指し、これには、たんぱく質、ペプチド、グリカンもしくはグリコサミノグリカン含有分子または微生物検体、および炭水化物抗原が包含される。
【0022】
たんぱく質の「レベル(level)」とは、試料中のたんぱく質の量、発現レベルまたは濃度を指す。抗体または自己抗体の「レベル」とは、試料中の抗体または自己抗体の量、発現レベルもしくは濃度を指す。また、たんぱく質のレベル、抗体のレベルまたは自己抗体のレベルとは、たんぱく質、抗体もしくは自己抗体の測定値を、他の1つ以上の検体のレベルの比率または百分率として表した値のことを指す場合もある。そのような他の1つ以上の検体のレベルは、試料または条件の大部分において終始一貫した状態に保つことが可能である。例えば、総たんぱく質対グリコシル化たんぱく質の比率は、計算可能である。「検体(analyte)」という用語は、検出および測定の対象となる種を指す。
【0023】
また、たんぱく質のレベルとは、たんぱく質の測定値を、他の1つ以上の検体のレベルの比率または百分率として表した値のことを指す場合もある。ここで、他の1つ以上の検体のレベルは、関心の対象となる臨床状態に対して何らかの生化学的意義を保持するものであることが提示される。同様に、抗体または自己抗体のレベルとは、抗体または自己抗体の測定値を、他の1つ以上の検体のレベルの比率または百分率として表した値のことを指す場合もある。ここで、他の1つ以上の検体のレベルは、関心の対象となる臨床状態に対して何らかの生化学的意義を保持するものであることが提示される。
【0024】
本明細書において、「試料(sample)」という用語には、血液、血漿、血清、尿、唾液または喀痰を含みうる、患者または被験者から採取された生体試料が包含される。
【0025】
「がん(cancer)」という用語は、細胞の母集団が無制御な細胞増殖により特徴付けられる哺乳動物における生理学的状態を、指すあるいは説明する用語である。
【0026】
「がん細胞(cancer cell)」および「腫瘍細胞(tumour cell)」という用語は、腫瘍または前がん性病変に由来する細胞の総母集団を指す、文法上の等価物である。「腫瘍(tumour)」および「新生物(neoplasm)」という用語は、本明細書中で同義に使用されており、前がん病変を含む良性(非がん性)または悪性(がん性)のいずれかの過剰な細胞増殖、繁殖および/または生存に起因する任意の組織塊を指す。
【0027】
本明細書において記載されている本発明の方法は、エクスビボで遂行される。誤解を避けるため念の為に記すと、「エクスビボで(ex vivo)」という用語は、当該技術分野において、その通常の意味を有し、被験者の体外の人工環境内で、被験者から採取された試料においてまたは試料に対して遂行される方法を指す。
【0028】
「転移(metastasis)」ならびに関連する用語「転移(metastases)」および「転移性(metastatic)」という用語は、その発現元の原発部位から拡がり、他の組織中に侵入し且つ/あるいは増殖して新たな腫瘍増殖および閉塞を形成する、がんまたは腫瘍を指す。
【0029】
「イムノアッセイ(immunoassay)」、「免疫検出(immuno-detection)」および「免疫学的検定(immunological assay)」という用語は、本明細書中で同義に使用されており、試料中の標的分子(例えば、たんぱく質)の存在またはレベルを同定するための抗体ベースの技術を指す。そのようなアッセイおよび方法の実施例は、当業者に周知である。
【0030】
「グリコシル化プロファイル(glycosylation profile)」または「グリコシル化シグネチャ(glycosylation signature)」という用語は、標的または定義済標的群に関して言う場合、1つまたは複数の標的に結合されたグリカンのタイプを指す。そのプロファイルは、結合の対象となるのは、どのようなグリカン結合剤かという観点から定性的に表現される場合もあれば、あるいは結合の対象となる特定のグリカン結合剤は、例えば濃度または比率として、どのくらいの量かという観点から定量的に表現される場合もある。例えば、グリコシル化たんぱく質のレベルは、総たんぱく質のレベル対グリコシル化たんぱく質のレベルの比率として表すことができる。「プロファイル」および「シグネチャ」という用語は、同義に用いられる。
【0031】
「レポーター分子」という用語は、抗体またはグリカン結合剤に共有結合することによってその抗体またはグリカン結合剤の検出を可能にする標識を指す。そのようなレポーターとしては、限定されないが、放射性核種、フルオロフォア、染料、または例えばセイヨウワサビペルオキシダーゼおよびアルカリホスファターゼ等の酵素が挙げられる。
【0032】
「プローブ」という用語は、標的分子に特異的に結合できる分子であり、前記特異的な結合を行うことによって、結果として、その標的分子を検出できるようになる分子を指す。表面上にプローブを不動化することによって、そのプローブが特異的に結合する標的分子をプローブに捕捉させることも可能であるし、あるいは不動化されたたんぱく質、抗体または自己抗体に対しプローブを曝露させることによって、そのプローブが特異的に結合する分子をプローブに検出させることも可能である。本発明において使用できるプローブとしては、例えば、抗体、グリカン結合剤、分子刷込ポリマー、アプタマーおよびオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0033】
「抗体」という用語は、重鎖および軽鎖の免疫グロブリン可変ドメイン(V
HSおよびV
LS)、より具体的には相補性決定領域(CDR)の結合特性に基づいて決定された標的上のエピトープを特異的に認識する免疫グロブリンを指す。当該技術分野において考えうる抗体形態の多くは公知であり、複数のインタクトなモノクローナル抗体またはインタクトなモノクローナル抗体を含んでなるポリクローナル混合物、抗体断片(例えば、F
ab断片、F
ab’断片、F
v断片、直鎖抗体、一本鎖抗体、および抗体断片を含む多重特
異性抗体)、一本鎖可変断片(scF
vS)、多重特異性抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ならびに標的上の所与のエピトープが認識するのに必要なドメインを含む融合たんぱく質を挙げることができるが、これらに限定されない。本発明との関連において言及されている抗体は、モノクローナル抗体のことを指すのが好ましい。また、検出を可能にするための種々の検出可能標識に抗体が抱合される場合がある。これらの検出可能標識には、限定されないが、放射性核種、フルオロフォア、染料、または例えばセイヨウワサビペルオキシダーゼおよびアルカリホスファターゼ等の酵素が挙げられる。
【0034】
「自己抗体」という用語は、患者から採取された試料中に存在する抗体を指し、患者自身のたんぱく質のうちの1つ以上に対する自己抗体もあれば、または患者自身のたんぱく質のうちの1つ以上の翻訳後修飾に対する自己抗体もある。そのような翻訳後修飾で、患者から採取された試料中の自己抗体によって認識されるものとしては、グリコシル化が包含される。自己免疫疾患の多く(とりわけ、紅斑性狼瘡)は、そのような自己抗体によって引き起こされる。
【0035】
「捕捉抗体」という用語は、基質の表面上に不動化された抗体であって、試料中の標的を特異的に認識し、標的に特異的に結合して、この標的を基質の表面に不動化させる抗体を指す。捕捉抗体としては、たんぱく質等の標的のエピトープのうちコンセンサスグリコシル化部位を有しないエピトープまたはコンセンサスグリコシル化部位から十分に離れたエピトープを、特異的に認識するような捕捉抗体を選択してもよい。それにより、抗体による特異的な結合に対し、標的上のグリコシル化の影響が及ぶのを確実に回避できる。これにより、非グリコシル化標的が捕捉抗体によって効率的に結合されることが保証され、また、グリカンからグリカン結合剤への結合中に起こる可能性のある干渉を防ぐことも可能となる。
【0036】
「検出抗体」という用語は、特異的に標的を認識する抗体を指す。この抗体は、レポーター分子に共有結合しているものであることが、好ましい。検出抗体は、捕捉抗体を介して結合され且つ不動化された標的に、特異的に結合する。この結合は、(通常、その標的に共有結合している)レポーター分子の存在によって検出される。検出抗体としては、標的たんぱく質において、コンセンサスグリコシル化部位を有しないエピトープ、またはコンセンサスグリコシル化部位から十分に離れたエピトープを、特異的に認識するような捕捉抗体を選択できる。そうすることで、抗体による特異的な結合に対し、標的たんぱく質のグリコシル化の影響が及ばないようにできる。これにより、非グリコシル化標的たんぱく質が検出抗体によって効率的に結合されることが保証され、また、グリカンとグリカン結合剤とを結合している最中に起こる可能性のある干渉を防ぐことも可能となる。
【0037】
「アプタマー(aptamer)」という用語は、標的分子に特異的に結合する、オリゴヌクレオチド分子またはポリペプチド分子を指す。オリゴヌクレオチドアプタマーは、リボヌクレオチド(RNA)またはデオキシリボヌクレオチド(DNA)である場合があり、典型的にはオリゴヌクレオチドの短鎖からなる。ポリペプチドアプタマーは典型的に、その一端または両端が、たんぱく質足場に結合可能な短鎖ペプチドドメインからなる。
【0038】
「グリカン」という用語は、糖たんぱく質およびプロテオグリカンの場合のように、たんぱく質への結合が見出される糖残基を指す。「グリカン」は典型的に、グリコシド結合した多数の単糖からなり、オリゴ糖のみの炭水化物であったとしても、糖たんぱく質、糖脂質、またはプロテオグリカンなどの任意の糖抱合体(glycoconjugate)の炭水化物部分が含まれる。
【0039】
「グリカン結合剤」という用語は、グリカンに特異的に結合する薬剤を指す。グリカン結合剤としては、限定されないが、植物源から単離されたレクチン、微生物から同定され
た組換えレクチン分子、または、例えばモノクローナル抗体といった、グリカン免疫原標的に対して産生された抗体、抗原結合(Fab)断片、一本鎖可変断片(scFvs)、一本鎖抗体を含む、誘導体組換え抗体断片を挙げることができる。また、精製グリカンもしくは組換えグリカン、またはグリコサミノグリカン結合型のたんぱく質およびペプチドも、R型、C型、P型、C型およびI型のレクチン;哺乳動物、微生物もしくは植物源由来のガレクチン;アプタマー;ならびに分子刷込ポリマーを含む、グリカン特異的検出において使用できる。グリカン結合剤は、レクチンであることが好ましい。
【0040】
「エピトープ」という用語は、所与の抗体を介して特異的に認識される標的の一部分を指す。抗原がたんぱく質である場合、エピトープは連続番号または非連続番号のアミノ酸(それぞれ「直鎖状」もしくは「立体配座」エピトープ)から形成される可能性があり、それによって後者のエピトープから形成された場合には、そのエピトープを含む残基がポリペプチドの3次元折り畳みと一体化される。エピトープは典型的に、限定されるものではないが、互いに特異的な位置および配向にある3〜10個のアミノ酸を含む。抗体によって認識されるエピトープを決定するための(具体的には、エピトープが所与の残基を含むかどうかを決定するための)当該技術分野において公知の技法としては、限定されないが、部位特異的突然変異誘発、または例えばたんぱく質といった標的生体分子に対する好適な相同たんぱく質の使用が挙げられる。これらの技法は、以下に例示するような、特異的認識またはその認識の欠如を決定するための技法と組み合わせて使用される。例えば、それに限定されるものではないが、天然(非置換)の標的たんぱく質を前記抗体に特異的に認識させることを含む対照との比較分析によって、エピトープを、所与の残基を含むものとして決定できる。前記対照と比較した場合に、前記抗体を介した結合の低減および/または特異的認識の欠如が認められた場合には、所与の残基が、エピトープの一部を形成するものとして同定される。のみならず、X線結晶構造分析(crystallography)および/または核磁気共鳴(NMR)分光法、あるいはそれらの好適な派生物を介した抗体−標的たんぱく質の複合体に関する構造分析を利用して、エピトープを構成する残基を決定することも可能である。
【0041】
「特異的に結合する」という用語は、抗体とエピトープとの間の相互作用という観点から、抗体およびエピトープが、抗体またはエピトープのいずれかが、例えば、無関係なたんぱく質といった代替物質で置換される場合に比べて頻度の増加もしくは速度の迅速化を伴って、または持続時間の延長もしくは親和性の増大を伴って、または上記の任意の組み合わせを伴って関連する相互作用を指す。結合に関して言及した場合、必ずしもそうとは限らないが、概して、特異的認識を意味する。しかも、周知されているように、抗体は、2つ以上の抗原を特異的に認識できる。例えば、非グリコシル化形態のたんぱく質に特異的に結合する抗体は、そのたんぱく質がグリコシル化形態のときも同様に、特異的に結合する可能性がある。加えて、非グリコシル化形態のたんぱく質に特異的に結合する抗体は、そのたんぱく質がグリコシル化形態のときには、特異的に結合できない可能性もある。モノクローナル抗体による標的の特異的結合またはその欠如を決定するための当該技術分野において公知の技法としては、限定されないが、FACS分析、免疫細胞化学染色、免疫組織化学、ウェスタンブロッティング/ドットブロッティング、ELISA、アフィニティクロマトグラフィが挙げられる。例としては、限定されるものではないが、特異的結合またはその欠如を決定する手段としては、当該技術分野において公知の、前記標的を特異的に認識する抗体を使用することを含む対照;および/または前記標的を特異的に認識することの不在を含むか、もしくは特異的に認識することを最小限に抑えることを含む対照(例えば、非特異的抗体を使用することを含む対照)に関して、比較分析を行うことを挙げることができる。前記比較分析は、定性分析または定量分析のいずれかとすることができる。しかしながら、理解されるように、排他的に所与の標的を特異的に認識することを実証する抗体または結合部分は、例えば、標的たんぱく質および相同たんぱく質の両方を特異的に認識する抗体と比較した場合に、前記標的に対する特異性が高いと言える。
【0042】
或る疾患に罹患した患者から単離された試料中に存在するたんぱく質のレベルが、対照のレベルとは異なる場合もある一方、対照と比較して異なる一部のたんぱく質のレベルが、許容可能な精度で疾患を診断するのに使えるほどには疾患との相関性が十分強くないことを示す場合もある。診断方法の精度は、多くの場合、その受信者動作特性(ROC)によって記述される(Zweig, M. H.およびCampbell, G., Clin.Chem.39(1993)561-577を参照のこと)。ROCグラフは、観察されたデータの範囲全体にわたって決定閾値が連続的に変動したことに起因する全ての感度/特異性対のプロットである。
【0043】
決定閾値の全範囲に対する感度対1−特異性をプロットすることによって、ROCプロットに、2つの分布間の重なりが図示される。y軸にある感度、または真陽性率は、[(真陽性試験結果の数)/(真陽性の数+偽陰性試験結果の数)]として定義されている。この真陽性率は、疾患または病態の存在下で陽性であるとも呼ばれており、影響を受けた亜群からのみ計算される。x軸上にある偽陽性率、または1−特異性は、[(偽陽性結果の数)/(真陰性の数+偽陽性結果の数)]として定義されている。この偽陽性率は特異性の指標であり、その全部が、影響を受けていない亜群から計算される。真陽性率および偽陽性率は、2つの異なる亜群からの試験結果を使用して完全に別々に計算されるので、ROCプロットは、その試料における疾患の有病率から独立したものとなる。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に対応する感度/特異性の対を表す。(2つの結果分布に重なりがない)完全な弁別を有する試験は、左上隅を通過するROCプロットを有し、この場合、真陽性率は1.0、または100%(完全感受性)で、偽陽性率は0(完全特異性)である。(2つの群に対する結果分布が同一な)弁別のない試験の理論的プロットは、左下隅から右上隅に45°の対角線を成している。ほとんどのプロットは、これら両極端の間に位置する。定性的には、プロットが左上隅に近づくほど、試験の全般的な精度が高くなる。
【0044】
臨床試験の診断精度を数値化するための1つの好都合な目標は、その性能を単一の数値で表すことにある。最も一般的な世界的尺度は、ROCプロットの曲線下面積(AUC)である。ROC曲線下の領域は、知覚された測定値が病態を正しく同定するのを可能にする尤度を測る尺度となる。この面積は、慣例により、常に0.5以上とされる。値は1.0(2つの試験値群が完全に分離している)から、0.5(2つの試験値群間には明白な分布差がない)までの範囲にわたる。この領域は、プロットの特定の部分、例えば、対角線に最も近い点、または90%の特異性における感度だけに依存するものではなく、寧ろプロット全体に依存する。これは、ROCプロットが完全なプロット(領域=1.0)にどれくらい近似しているかを定量的に説明する表現である。本発明との関連において2つの異なる病態は、患者ががんに罹患しているかどうか、あるいは、がんに罹患している患者が原発腫瘍のみを有するかそれとも転移性疾患を有するかである。将来の診断試験の適用に使用される閾値または「カットオフ」値を計算する際に、ROCプロットデータおよび試験の臨床要件が、共に考慮の対象とされる場合がある。検体の測定値がこのカットオフ値を上回った(または下回った)場合、試験は「陽性」と考えられ、臨床的病態に対して好適な処置が更に講じられる場合もある。カットオフ値を設定する際に重要となる特徴は、試験において必要とされる特異性(すなわち、真陰性率)である。慣例により、多くの診断試験に必要とされる特異性は、実際には90%、95%、または100%に近似する値として予め記載されており、がんバイオマーカー試験では、炎症性疾患を有する患者と比較して一般母集団における方が(または標的母集団の場合でさえも)がんの有病率が比較的低いこと、また、患者の偽陰性の結果が重大であることからも、試験が有効とされるためには、特異性が100%に近似していることが必要とされる可能性が高い。これらの特異性を達成するのに必要な検体カットオフ値を、ROCプロットから読み取ることができる。また、試験感度(真陽性率)の値は、プロット上のこの点で示される。代わりに、至適カットオフ値を、グラフの左上隅に最も近いROC曲線上の点を選択することによ
って得ることもできる。本発明において、好ましい実施形態では、バイオマーカーたんぱく質の総たんぱく質レベル、および同じバイオマーカーたんぱく質のグリコシル化たんぱく質レベルに基づいて比率を計算することによって、AUC測定値を良好化することが可能である。更なる実施形態において、AUC測定値を良好化するため、総たんぱく質レベル、非グリコシル化たんぱく質レベル、グリコシル化たんぱく質レベル、たんぱく質に対する自己抗体のレベル、グリカンに対する自己抗体のレベル、および個々のグリカンのレベル、例えば総たんぱく質Aのレベル対グリコシル化たんぱく質Aのレベル、総たんぱく質Aのレベル対非グリコシル化たんぱく質Aのレベル、非グリコシル化たんぱく質Aのレベル対たんぱく質Aに対する自己抗体レベルなど;といった種のうちの1つ以上を対象とした種内比較および種間比較から導き出された測定値に基づいて比率が計算される場合もあれば、加えてまたは代わりに、異なる検体、例えば、たんぱく質Aおよびたんぱく質Bにおけるこれらのレベル間の比較または比率計算が行われる場合もある。
【0045】
標的たんぱく質を精製した変種を、不動化の対象となるたんぱく質とすることもできる。たんぱく質標的を産生する際には、細菌発現系:大腸菌(E coli)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)種および蛍光菌(Pseudomonas fluorescens);真核生物発現系である、酵母、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)およびピキア・パストリス(Pichia Pastoris)等、糸状菌(Filamentous fungi)、例えばアスペルギルス(Aspergillus)種、トリコデルマ(Trichoderma)およびミセリオフィソーラ・サーモフィラC1(Myceliophthora thermophila C1);昆虫由来細胞株、例えばスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞由来のSf9、Sf21;キンウワバ(Trichoplusia ni)細胞由来のHi−5;ショウジョウバエ(Drosophila)メラノガスター細胞由来のSchneider 2細胞およびSchneider 3細胞;細胞系における哺乳動物由来の発現系、例えばチャイニーズハムスター卵巣、ヒト胎児腎臓細胞等への遺伝子導入が用いられる場合もある。また、完全長または特異的なたんぱく質断片を産生するための、無細胞合成または有機化学に基づく方法をはじめとする方法を用い、たんぱく質を合成的に産生することもできる。また、標的としては、誘導体合成ペプチド、糖ペプチド、または他のたんぱく質断片で、関連する標的エピトープを含んだものを挙げることができる。ヒト試料、例えば、ヒト組織またはヒト血漿からたんぱく質を精製することもできる。代替物は当業者にとって明らかとなるであろう。
【0046】
診断バイオマーカー(標的たんぱく質)試験が効を奏するためには、100%の特異性に近似している必要がある。診断試験は、特異度100%および感度100%である、すなわち、偽陽性または偽陰性結果を生じないことが、理想的と考えられる。しかしながら、偽結果でも低レベルのものなら許容範囲内でありうるので、95%に近似するかまたはそれを上回る特異性を実証するバイオマーカーは、多くの場合、許容可能とされる。
【0047】
本発明は、患者試料中の1つまたは複数の標的分子のグリコシル化シグネチャを決定することを目的に使用される場合もある一方、疾患状態を示す可能性のある特異的な標的上のグリコシル化のレベルが異常なことを決定することを、目的とする場合もある。グリコシル化の欠陥もまた決定される場合があり、更にまた、障害の可能性または実際の障害に関する指標も得られる。従来のバイオマーカー分析は、グリコシル化の存在が干渉されるせいでバイオマーカーの検出下にて妨げられていたことから、診断アッセイを改善することを目的に、本発明が使用される場合もある。本発明は、グリコシル化の程度の決定を可能にし、それにより、バイオマーカー結果の再較正を行えるようにしている。
【0048】
標的生体分子、例えばたんぱく質を、反応基質における同じDTR上で、その標的を特異的に認識する抗体、およびその標的上の糖を認識する特異的グリカン結合剤と接触させることによって、標的に対するグリコシル化プロファイルの決定が可能となる(例えば、
図5参照)ことが、本発明によって同定された。
【0049】
一実施形態では、異なるディテクター分子を使用して、それぞれ異なるグリカン結合剤および/または標的分子への抗体結合の結合が同定される。そのため、生成されたシグナルに基づいて、反応が弁別される。代替の実施形態では、DTAに複数の反応部位が含まれており、これらの反応部位はそれぞれ、異なる標的分子を不動化するための部位として意図されている。本実施形態において、この弁別は、DTA上のどの部位にどの標的分子が局在化されているかの知識によるものであるため、同じ検出分子を使用することが可能である。実験の設計に応じて、反応を並列にまたは実質的に同時に、すなわち同じプロセスで、実行できることが明白となるであろう。
【0050】
加えて、当該の基質上または別々の基質上で、グリカン結合剤と抗体結合反応を物理的に分離させることで、グリコシル化シグネチャ決定のためのこのプロセスを、抗体およびグリカン結合剤に対して同じ検出分子を用いて、効果的に行うことが可能となる(例えば、
図1および
図2)点も、本発明によって同定された。これにより、患者から採取された単一の試料から標的グリコシル化プロファイルを効率的且つ経済的に生成することが可能となる。これは、例えば、たんぱく質グリコシル化シグネチャといった患者試料中のグリコシル化シグネチャの特徴評価における有意なブレイクスルーであり、疾患に罹患するリスクに曝されている患者または罹患している疑いのある患者から採取された試料におけるグリコシル化プロファイルを効率的且つ経済的に作成することを可能にし、患者の診断および治療を改善する。これに関連して、異なるグリカン結合剤に対する結合を、同じ検出分子を使用して同定する場合、反応を物理的に分離させることが必要であることが理解される。そうすることで、検出されたシグナルを、研究の対象とされている適正なグリカンと正しく関連付けることができる。同じ基質上の空間的に分離した離散試験領域において、同じ検出分子を用いて複数の異なる標的を検出することが可能である。例えば、
図1のチップ1上では、複数の標的たんぱく質(たんぱく質A、B、Cなど)が検出される可能性がある。空間的な分離によって、検出シグナルに対する結果の弁別が可能になる。
【0051】
本発明の第1の態様は、患者から採取された試料中の標的生体分子のグリコシル化シグネチャを決定する方法を提供するものである。本方法は、(a)基質上に不動化され標的に特異的に結合する捕捉抗体に対し、試料を接触させる工程と;(b)不動化された捕捉抗体に結合された標的を、標的と特異的に結合する検出抗体に接触させる工程と;(c)不動化された捕捉抗体に結合された標的を、それぞれ異なるグリカン特異性を有する1つ以上の別個のグリカン結合剤に接触させる工程と;(d)(b)において検出抗体を介して結合された標的のレベルを測定する工程と;(e)(c)において標的に結合された剤のレベルを測定する工程と;を含む。
【0052】
特定の実施形態において、工程(b)および(c)は、同時に遂行される。本発明において、反応工程を「同時に」遂行することは、複数の反応が同じDTRに対して実行される(異なる検出分子を利用する必要がある)状況において、反応を同時に実行することを意味する場合もあれば、あるいは、反応どうしが物理的に分離されていてDTRあたり1回の反応が実行される(同じ検出分子を利用できる)状況において、反応を並列に実行することを意味する場合もある。
【0053】
更なる特定の実施形態では、(b)において標的と特異的に結合する抗体、および(c)において複数あるグリカン結合剤のうちの1つ以上が、同じタイプのレポーター分子を使用して検出され、且つ反応(b)および(c)が、物理的に分離された反応部位にて遂行される。レポーター分子(すなわち、検出可能シグナルを生じる分子)は、それぞれ異なる反応に対して同じであるので、検出可能シグナルを適宜に範疇化できるように、反応を分離する必要がある。
【0054】
更なる特定の実施形態において、本方法は、(f)試料を、基質上に不動化された捕捉たんぱく質に接触させる工程であって、前記捕捉たんぱく質が標的と同じタイプである、接触工程と;(g)捕捉たんぱく質に結合する試料中の抗体(自己抗体)レベルを測定する工程と;を更に含む。「同じ型(same type)」とは、標的の精製バージョンまたは合成バージョンまたは組換えバージョンが使用可能であることと理解される。本実施形態において意図されているのは、患者の試料中に存在する標的分子を標的とする自己抗体のレベルをモニターする、別々の反応を存在させることである。自己抗体は、スクリーニングの対象となる標的のうちの1つ以上に対して特異的でありうる。この情報は、診断の目的に使用される場合があるだけでなく、また、研究の対象とされている標的に自己抗体が結合したのが原因で工程(a)または(b)でアッセイの信頼性が損なわれた度合いを測定することを目的に、使用される場合もある。
【0055】
自己抗体レベルの決定は、他の反応の基質から物理的に離れた基質に対して遂行できる。標的のうちの1つ以上に対する自己抗体の決定は、別々の離散試験領域(DTR)を含んだ単一の基質上で、または別々の基質上で行われる場合がある。
【0056】
更なる特定の実施形態において、工程(a)および(f)は、それぞれ物理的に分離された部位にて遂行され、しかも実質的に同時に実行される。また、更なる特定の実施形態では、工程(b)および(c)が、同時に遂行される。
【0057】
更なる特定の実施形態において、本方法は、(h)試料を基質上に不動化された捕捉グリカンに接触させる工程と;(i)捕捉グリカンに結合する試料中の抗体(自己抗体)のレベルを測定する工程と;を更に含む。本実施形態では、試料中に存在するグリコシル化分子に対し特異的な自己抗体のレベルをモニターする特異的反応を存在させることを、意図している。研究の対象とされている標的上に存在する1つ以上のグリカンに対して、自己抗体が特異的な場合がある。このことから得られた情報、および診断目的に使用される情報を用いることで、グリカンに結合する自己抗体が原因で工程(c)におけるアッセイの信頼性を損なう恐れのあることが、示唆される場合がある。
【0058】
自己抗体レベルの決定は、他の反応の離散試験領域とは物理的に別々の離散試験領域に対して遂行することが好ましい。
【0059】
特定の実施形態において、工程(a)および(h)(ならびに任意選択的に(f))は、同時に、すなわち並列に遂行される。一方、更なる特定の実施形態において、工程(b)、(c)および(i)(ならびに任意選択的に(g))もまた同じプロセスにて、すなわち並列に遂行される。
【0060】
特定の実施形態では、その方法工程が、多重化配列に対して遂行される。これは、図面において実証されている。図面中、
図1には多重化配列が図示してあり、別々の(別個の)反応基質(本明細書において離散試験領域(DTA)とも呼ばれる)上には、別々の標的の特徴が描写されている(グリコシル化シグネチャの特性が示されている)。異なる反応の物理的な分離が利用される場合もあれば、あるいは、特定の状況において、添付の図面に図示するように、別々の標的ごとに同じ離散試験領域(DTA)における同じ基質上で、反応の多くが生ずる場合もある。このような反応では、結果の弁別が許容される(例:
図5および
図6)。
【0061】
本発明の第2の態様は、患者から採取された試料中の標的生体分子のレベルを決定する方法を提供するものである。本方法は、
(a)標的に特異的に結合する、不動化された捕捉抗体に対し、試料を接触させる工程と;
(b)不動化された捕捉抗体に結合された標的を、標的と特異的に結合する検出抗体に接触させる工程と;
(c)不動化された捕捉抗体に結合された標的を、グリカン結合剤に接触させる工程と;
(d)(b)において検出抗体を介して結合された標的のレベルを測定する工程と;
(e)(c)においてグリカン結合剤を介して結合された標的のレベルを測定する工程と;を含む。
【0062】
本発明の第3の態様は、標的生体分子に特異的に結合する捕捉抗体が不動化されているアッセイチップと、その捕捉抗体を介して、または標的たんぱく質における別のエピトープに結合する代替の捕捉抗体を介して特異的に結合されるたんぱく質が不動化されている更なるアッセイチップと、を備える基質を提供する。
【0063】
特定の実施形態では、患者から採取された試料中の、グリカン自己抗体を介して特異的に認識されるグリカンが、基質に含まれるアッセイチップ上に不動化されている。
【0064】
特定の実施形態では、その基質が、本発明の方法において用いられる。
【0065】
本発明の第4の態様は、患者における疾患の存在または不在を同定する方法を提供するものであり、本方法は、
(a)上述されている第1の態様の方法を遂行することによって、患者から採取された試料中の標的のグリコシル化シグネチャを決定する工程と;
(b)上述した第2の態様の方法によって患者から採取された試料中の標的のレベルを決定する工程と;
(c)試料中の標的に対する自己抗体のレベルを測定する工程と;(d)試料中のグリカン自己抗体シグネチャを測定する工程と;
(e)工程(a)〜(d)のうちのいずれか1つ以上で得られた結果に基づいて患者プロファイルを編纂する工程であって(e)の患者プロファイルが疾患の存在または不在を示す編纂工程;のうちの少なくとも1つを含む。
【0066】
特定の実施形態では、標的(工程(b))のレベルを、特異的検出抗体を介した結合を測定することによって決定し、その標的のグリカンシグネチャを、特異的グリカン結合剤による結合を測定することによって決定し、標的に対する自己抗体のレベルを、標的に対する特異的自己抗体の結合を測定することによって決定し、グリカン自己抗体プロファイルを、標的グリカンに対する特異的自己抗体の結合を測定することによって決定する。
【0067】
更なる特定の実施形態では、2つ以上の標的を同時にまたはほぼ同時に検査する工程を、多重化配列に対して遂行する。したがって、単一の離散試験領域は、複数の反応を遂行する場合に使用できる。
【0068】
本発明の態様のいずれかに係る好ましい実施形態において、患者から採取された試料中の標的は、モノアミンオキシダーゼB(MAO−B)、トロポミオシン、凝固第XIII因子、アポリポたんぱく質E(APOE)、グルタチオンS−トランスフェラーゼオメガ1(GSTO−1)、P−セレクチン、L−セレクチン、E−セレクチン、単球走化性たんぱく質1(MCP−1)、インターロイキン−1α(IL−1α)、インターロイキン−1β(IL−1β)、インターロイキン−8(IL−8)、インターフェロン−α(INF−α)、血管内皮増殖因子(VEGF)、内皮増殖因子(EGF)、アファミン、α1−抗キモトリプシン、α2−マクログロブリン、アポリポたんぱく質B100(APOB100)、補体C3、補体C5、TANK結合キナーゼ1(TBK−1)、ビタミンD結合たんぱく質、α1−B糖たんぱく質、ヘモペキシン、血清アルブミン、セルロプラスミン、α2抗プラスミン、アポリポたんぱく質A1、補因子H、免疫グロブリンG(IgG)、免疫グロブリンGのFc結合たんぱく質、ホルネリン、フィブリノゲン、がん胎児性抗原(CEA)、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、インターロイキン−2(IL−2)、トロンボモジュリン(TM)、Dダイマー、マトリックスメタロペプチダーゼ9(MMP9)、MMP9/NGAL複合体、Fasリガンド、C反応性たんぱく質(CRP)、核マトリックスたんぱく質22(NMP22)、膀胱腫瘍抗原(BTA)、サイトケラチン18(CK−18)、インターロイキン−1(IL−1)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、可溶性腫瘍壊死因子受容体1(sTNFr1)、可溶性腫瘍壊死因子受容体2(sTNFr
2)、遊離型の前立腺特異抗原(FPSA)、全前立腺特異抗原(TPSA)、ヒアルロニダーゼ(HA)、インターロイキン−10(IL−10)、ヴォン・ヴィレブランド因子(vWF)、第VII因子、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)、細胞間接着分子1(ICAM−1)、血管細胞接着分子1(VCAM−1)、脂肪酸結合たんぱく質1(FABP1)、脂肪酸結合たんぱく質2(FABP2)、脂肪酸結合たんぱく質3(FABP3)、脂肪酸結合たんぱく質4(FABP4)、脂肪酸結合たんぱく質5(FABP5)、脂肪酸結合たんぱく質6(FABP6)、脂肪酸結合たんぱく質7(FABP7)、脂肪酸結合たんぱく質8(FABP8)、脂肪酸結合たんぱく質9(FABP9)、グリア線維性酸性たんぱく質(GFAP)、S100カルシウム結合たんぱく質A10(S100A10)、S100カルシウム結合たんぱく質A11(S100A11)、インターロイキン−18(IL−18)、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL1−ra)、α−グルタミルトランスペプチダーゼ(α−GT)、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)、シスタチンC(CysC)、C3aDesArg、トロポニンT(TnT)、トロポニンI(TnI)、マクロファージ炎症たんぱく質1α(MIP−1α)、アディポネクチン、分化抗原群26(CD26)、GMCSF、インターロイキン−15(IL−15)、インターロイキン−5(IL−5)、可溶性インターロイキン2α(sIL−2α)、可溶性インターロイキン6受容体(sIL−6r)、ピルビン
酸キナーゼアイソザイム型M2(M2−PK)、分泌性白血球プロテイナーゼ阻害剤(SLPI)、炭水化物抗原125(CA−125)、炭水化物抗原19−9(CA−19−9)、前立腺特異抗原(PSA)、BRCA1、BRCA2、分化抗原群15(CD15)、分化抗原群20(CD20)、分化抗原群30(CD30)、分化抗原群45(CD45)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER−2)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(Pro−BNP)、グリコーゲンホスホリラーゼBB(GPBB)、ミオグロビン、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)、乳酸脱水素酵素(LDH)、クレアチンキナーゼ(CK)からなる群から選択される。また、これらのたんぱく質の変種、断片またはドメインは、好適な標的となることが理解されるであろう。
【0069】
本発明の態様のいずれかに係る好ましい実施形態において、特異的グリカン結合剤は、ドリコスマメレクチン(DBA, Dolichos Biflorus Agglutinin)、コンカナバリンA(ConA, Concanavalin A)Con A、ムラサキモクワンジュレクチン(BPA, Bauhinia Purpurea )、ナンキンマメ凝集素(PNA, Peanut agglutinin)、ダイズレクチン(ダイズ)(SBA, Glycine max)、ハリエニシダ凝集素(Ulex europaeus agglutinin(UEA))、バンデリアマメレクチン1イソレクチンB4(GS1 B4, Griffonia simplicifolia 1 isolectin B4)、バンデリアマメレクチン11(Gs-11, Griffonia simplicifolia)、コムギ胚芽凝集素(WGA)、アメリカハリグワレクチン(Osage Orange)(MPA, Maclura pomifera Lectin)、ニワトコ(エルダーベリー)レクチン(SNA I, Sambucus nigra Lectin)、エンドウマメレクチン(PSA, Pisum sativum Lectin)、サクシニルコムギ胚芽凝集素(Suc-WGA, Succinylated Wheat germ agglutinin)、フィトヘマグルチニン(PHA-L, phytohaemagglutinin)、レンズマメ凝集素(LCA, Lens culinaris agglutinin)、レンズマメレクチンE(PHA-E, Phaseolus vulgaris Lectin)、エンジュ凝集素(SJA, Sophora japonica agglutinin)、ヒママメ凝集素(RCA, Ricinus communis Agglutinin)、ヒイロチ
ャワンタケレクチン(AAL, Aleuria Aurantia Lectin)、植物または微生物源由来の組換えレクチン等のレクチンである。
【0070】
更に好ましい実施形態において、疾患は、心血管疾患、アルツハイマー病等の神経障害、がん、炎症性疾患、または代謝症候群からなる群から選択される。最も好ましい実施形態において、疾患は、膵臓がん等のがんである。
【0071】
試料は、尿試料、血液試料、血清試料、血漿試料、唾液試料または喀痰試料とすることができる。
【0072】
試料中の標的、例えば、たんぱく質、抗体または自己抗体のレベルは、ELISAベースのアッセイのような免疫学的方法で決定できる。本発明の方法では、患者から単離された試料中のたんぱく質、抗体または自己抗体のレベルを決定するためのソリッドステートデバイスを使用することが好ましい。ソリッドステートデバイスは、標的、例えば、たんぱく質、抗体または自己抗体に特異的に結合するプローブが不動化されている基質を備える。そのようなプローブは、基質の活性化表面の離散領域に不動化されている場合がある。ソリッドステートデバイスでは、多検体アッセイを実行できる。例えば、患者から単離された試料中のたんぱく質、抗体または自己抗体等の標的のレベルの決定を、試料中の更なる関心対象のバイオマーカーのレベルと並列に行うことができる。これに関連して、基質を、多検体マイクロアレイ技術において従来から使用されている基質とすることができる。例えば、基質を、バイオチップ、ガラス製スライド、または他の従来の平面支持材料としても差し支えない。基質は離散試験エリア(DTA)として画定される場合があり、この場合に、基質全体が、例えば単一バイオチップであるDTAとして画定される。
図2にはDTA9個、
図3にはDTA4個が、それぞれ図示されている。離散試験領域は、液体または試料の流れが不可能な、物理的に別個の領域である。各DTAの内部には、複数の離散試験領域(DTR)が存在する場合がある。これらDTRによって、基質上の離散場所が画定され、結合剤が支持されている。
図6および
図7にはそれぞれ、DTA2個およびDTA4個が含まれている単一のバイオチップが図示されている。各DTRは他のDTRから空間的に分離されていて、反応をどのように実行すべきかに応じて、それぞれ同じ反応に使用される場合もあれば、あるいは異なる反応に使用される場合もある。DTRは「バイオチップ」内に存在するのが通例であり、そのデバイス上に複数のバイオチップが存在し、各バイオチップが他のバイオチップから物理的に分離されている場合もある。本実施形態において、ソリッドステートデバイスは、基質に共有結合された所望の抗体をそれぞれ有する多数のDTRを有し、このソリッドステートデバイスにおいて、DTR間の基質の表面は、研究の対象とされている標的に対して不活性である。したがって、ソリッドステートの多検体デバイスは、非特異的な結合をほとんどまたは全く呈さない場合がある。異なる生体分子が、空間的に離れた位置、すなわち、DTAまたはバイオチップ上のDTR内に位置する場合もある。特定の実施例において、DTAはおよそ1cm
2である。各DTAの内部には、4×4DTRが存在する場合がある。各DTAの内部に存在するDTRは、5×5DTR、7×7DTR、8×8DTR、9×9DTR、10×10DTR、12×12DTR、15×15DTR、20×20DTR、30×30Dまたはそれを上回ることが好ましい。
【0073】
好適な基質の表面を活性化し、その表面上の離散部位にプローブの配列を適用することによって、本発明において使用できるデバイスを調製できる。望ましい場合には、他の活性領域を遮断してもよい。リガンドを、リンカーを介して基質に結合させてもよい。特に、オルガノシランまたはポリマーコーティングを用いて活性化表面を活性化してから、結合剤と反応させることが好ましい。本発明の方法において用いられるソリッドステートデバイスは、例えば、英国特許第2324866(A)号に開示された方法に従って製造することができる。本特許はその全容が参照により本願明細書に援用されている。本発明の
方法において用いられるソリッドステートデバイスは、Biochip Array Technology system(BAT)(Randox Laboratories Limitedから入手可能)であることが好ましく、Evidence Evolution、Evidence InvestigatorおよびMultistat装置(Randox Laboratoriesから入手可能)を使用して、試料中のバイオマーカーのレベルを決定できれば、より好ましい。
【0074】
本方法の捕捉抗体および/または検出抗体としては、グリコシル化能を有しない標的であってグリコシル化能を有する標的内部の部位から十分離れている可能性もある標的のエピトープに結合する抗体を、選択できる。こうすることで、非グリコシル化標的の捕捉抗体および検出抗体を介した効率的な結合が保証されると共に、レクチン−グリカン結合の最中に起こる可能性のある干渉を防止することもできる。
【0075】
免疫グロブリン分子は、亜種および宿主種によって異なるFc部分に、特異的なグリコシル化修飾を有することが知られている。そのようなグリコシル化は、イムノアッセイ捕捉分子として用いられた場合に、非特異的バックグラウンドシグナルに寄与することによって、レクチンなどの糖結合試薬を介した検出を干渉する可能性がある。例えば、フコシル化は、一般的に見られ且つ広く知られている免疫グロブリングリコシル化形態であり、フコース修飾バイオマーカーの検出に照準を定めたAALレクチンを用いたアッセイを、干渉する可能性がある。それに応じて、捕捉抗体のグリコシル化から生じる干渉を回避するための戦略が策定されてきた。第1に、抗体断片、例えば、Fab断片、組換え一本鎖可変断片(scFv)、またはグリコシル化部位が含まれていない一本鎖抗体の使用を、グリコシル化全捕捉分子の代用として用いても差し支えない。代わりに、グリカンの除去に照準を当てた捕捉分子の前処理において用いることができる戦略としては、例えば、PNGase F、ノイラミニダーゼ、マンノシダーゼ、o−グリコシダーゼといったデグリコシラーゼ酵素類;あるいは例えば、多くの糖構造の特異的な特徴であるがたんぱく質中では生じないジオール類に反応する過ヨウ素酸ナトリウム処理またはフェニルボロン酸処理といった化学的方法が挙げられる。そのような脱グリコシル化方法を使用することで、捕捉抗体グリカンからの干渉を排除できる。
【0076】
したがって、好ましい実施形態では、患者試料の一部を処理して、患者試料中の分子からグリコールを取り除く。次いで、処理された(脱グリコシル化された)試料を標的(例えば、たんぱく質)含量について検定し、他の反応結果を較正する一助とする。
以下の非限定例を参照しながら、本発明について更に説明する。
【実施例】
【0077】
実施例1
グリコシル化によるレクチン/抗体エピトープのマスキングを用いたバイオマーカーの検出の向上
レクチンおよび抗体を用いた、フェチュインAの検出
フェチュインAは、肝臓を介して循環系に分泌される急性期の抗炎症性糖たんぱく質であり、乳がん細胞における成長シグナル伝達の媒介物質として同定されてきた。フェチュインA上には、6つのグリコシル化部位が存在し、たんぱく質のC末端に向かって4つのO結合型n−アセチルガラクトサミン部位が位置していることが、報告されている。健常者または乳がん患者から採取された血清中において捕捉されたフェチュインAの検出が、これらのグリコシル化修飾によってマスキングされる可能性が評価された。
図10に、VVAレクチンを用いたことにより、n−アセチルガラクトサミン含有フェチュインAたんぱく質が検出可能であったと共に、健常対照よりも乳がん患者の方が実に高値であったことが、図示されている。一方、フェチュインA総たんぱく質の検出は、或る特定のディテクター抗体(
図10BにおいてAb1と呼ばれる)を使用して阻害されたのに対し、代替のディテクター(
図10CのAb2)では、この検出が阻害されず、試料群にわたって同様なレベルのたんぱく質が検出された。したがって、或る検出試薬の結合が、たんぱく質
のグリコシル化によって阻害される可能性がある、と仮定して差し支えない。イムノアッセイとの関連においてだけでなく、プロテオミクスベースのバイオマーカーの同定においても、多様なグリコシル化状態を介してたんぱく質の検出が阻害された場合、結果が誤差を生じた値で返される可能性がある。
【0078】
実施例2
糖たんぱく質マーカーの多重化分析によって導き出された付加的利益の原理
早期疾患患者の同定精度が低いことから、膵臓がんに対する単一の循環疾患バイオマーカーによる検出では不十分であることが立証されてきた。したがって、複数の疾患マーカーの同時検出において多面的病理が反映される可能性があるという考えが浮上してきた。多重糖たんぱく質腫瘍マーカーの同時評価による、膵臓がんに対する診断力改善の原理の証明を、膵臓がん血清試料と対照とを比較して、
図11に示す。この図中、3つの検体を併用したロジスティック回帰では、CA19−9、CEAまたはA1AGのいずれかを別々に分析した場合よりもROC AUC値が高値であったことが、図示されている。
【0079】
実施例3
グリコシル化による臨床上の付加的利益の例
グリコシル化を用いての、患者の血清試料中の膵臓がんバイオマーカーの検出の向上
従来の免疫比濁(immunoturbimetric)総たんぱく質とバイオチップベースのグリコシル化α−1酸性糖たんぱく質(A1AG)の検出の比較を実行した。引き続いての分析を用い、ディベロップメント患者試料コホート(development patient sample cohort)における膵臓がんの同定に際して、各アッセイプラットフォームの診断力を決定した。総たんぱく質検出法では、ROC AUC値として0.648が返された。この値は、統計的有意性に到達していなかった(
図12A中、p=0.2155)。加えて、膵臓がん群と健常対照群との間では、総たんぱく質全般において統計的な差は見られなかった(
図12B中、p=0.1614)。一方、フコシル化A1AGのAAL媒介検出を用いたことで、ROC出力値が顕著に上昇したことが観察された(0.919)。この値は、統計学的有意性に到達していた(
図12C中、p<0.0001)。また、フコシル化A1AGの典型であるRLU出力値からも、膵臓がん群と健常群との間の差が有意であることが判明し、がんの識別におけるバイオチップベースの糖たんぱく質検出法が、感度に優れること、および臨床的利益が認められることが強調された。A1AGグリコシル化シグナルを、総たんぱく質との比として表した場合(
図12のE、F)、ROC AUCの上昇(0.951)が明らかであり、診断力が更に増強されたことが観察される。
【0080】
実施例4
転移病巣の指標としてのがんマーカーの特定のグリコシル化
腫瘍細胞は、糖代謝をたんぱく質のグリコシル化からより高代謝的に活性な状態および消化性の高い状態に向かわせるため、たんぱく質のグリコシル化が異常な場合、がんの状態を呈する可能性がある。このようにして、CA19−9およびCEAについてバイオマーカーの特定のグリコシル化が評価されたという仮説を立てた。
図13に、測定された総たんぱく質に対しAALレクチン結合を突き合わせた、フコシル化のプロッティングを示す。(AおよびBにおいて右下の楕円で強調されている)低グリコシル化たんぱく質の母集団が同定された。この母集団において、グリコシル化シグナルと総たんぱく質濃度との間の相関はさほど見られないことが観察された。低グリコシル化バイオマーカーを有する患者において、転移病巣の増大が観察された。これは、たんぱく質の特定のグリコシル化の分析から、疾患進行に関する情報を得ることが可能なことを提示するものである。